JP2005013535A - ゴルフクラブ用スチールシャフト - Google Patents

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Hiroyuki Jufuku
博之 壽福
Koji Omosako
浩次 面迫
Shoichi Kadani
昇一 甲谷
Terushi Hiramatsu
昭史 平松
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Nippon Shaft Co Ltd
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Nisshin Steel Co Ltd
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Abstract

【目的】焼入れ・焼戻し処理で残留オーステナイト量が適正管理された金属組織に調質することにより、強度,靱性,弾性,反発力等の特性が優れた軽量スチールシャフトを提供する。
【構成】C:0.40〜0.70質量%,Si:0.60質量%以下,Mn:0.60〜1.20質量%,P:0.020質量%以下,S:0.015質量%以下,Al:0.050質量%以下,Cr:0.30〜1.00質量%,Ni:0.30〜1.20質量%を含む溶接鋼管から作製され、シャフト形状の成形加工した後の焼入れ・焼戻し処理により面積比率で3〜8%の残留オーステナイトを含む金属組織に調質されたスチールシャフトである。Mo:0.10〜0.50質量%,V:0.05〜0.40質量%,Nb:0.03〜0.15質量%,Ti:0.05〜0.50質量%,Cu:0.30質量%以下,Ca:0.01質量%以下の1種又は2種以上を含む鋼材も使用できる。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、飛距離アップやボールの直進性に適した強靭で軽量なゴルフクラブ用スチールシャフトに関する。
【0002】
【従来の技術】
ゴルフクラブは、ゴルフボールの飛距離,直進性を向上させるため種々の改良が形状や構造に加えられており、飛距離アップにシャフトの軽量化が重視されている。シャフトの軽量化に薄肉化が採用されているが、単に薄肉化しただけではシャフトが変形,折損する危険が高くなるので、シャフト材質の高強度化,強靭化が重要となる。たとえば、シャフト用鋼材の成分に加えて成形加工後の熱処理条件を調整するとき、強度,靭性を向上させたスチールシャフトが得られる(特公平3−44126号公報)。
最近の傾向として、シャフトの軽量化が一層強く求められており、従来の高強度化,強靭化では十分に応えることができない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
薄肉化に伴うシャフトの変形を防止する上では、シャフトが塑性変形するまでの応力を高める(換言すれば、高弾性化)ことが必要である。シャフトの折損防止には、シャフトが破断するまでの応力を高める高強度化や破壊に至るまでの吸収エネルギーを高める強靭化が必要である。また、鋼材から溶接鋼管を経てシャフト形状に成形加工されるスチールシャフトでは、溶接性,成型加工性は勿論、疵,欠陥のない美麗な表面性状も重要な要件である。
本発明は、スチールシャフトの要求特性に応えるべく案出されたものであり、高強度化,強靭化に適した合金設計を採用し、残留オーステナイトによって靭性を一層高めたスチールシャフトを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明のゴルフクラブ用スチールシャフトは、C:0.40〜0.70質量%,Si:0.60質量%以下,Mn:0.60〜1.20質量%,P:0.020質量%以下,S:0.015質量%以下,Al:0.050質量%以下,Cr:0.30〜1.00質量%,Ni:0.30〜1.20質量%を含む溶接鋼管から作製され、成形加工後の焼入れ・焼戻し処理により面積比率で3〜8%の残留オーステナイトを含む金属組織に調質されている。
シャフト用素材としての鋼材は、更にMo:0.10〜0.50質量%,V:0.05〜0.40質量%,Nb:0.03〜0.15質量%,Ti:0.05〜0.50質量%,Cu:0.30質量%以下,Ca:0.01質量%以下の1種又は2種以上を含むことができる。
【0005】
【作用】
ゴルフクラブ用スチールシャフトの靭性は、シャフトに使用される鋼材自体の靱性に大きく影響される。そこで、中炭素鋼をべースに種々の合金元素を添加し、焼入れ・焼戻し処理条件を変化させて材料特性を調査した。一般に、焼戻し温度の低下が耐力,強度の向上に有効であるが、低い温度に焼き戻された鋼材は靭性に劣る。そこで、本発明においては、耐力,強度の向上を狙って焼戻し温度を低く設定することを前提とし、焼入れ・焼戻し処理後に残留オーステナイトのある金属組織に調質することにより焼戻し温度の低下に起因する靭性劣化を防止している。
【0006】
組織の調質で靭性の向上が図られる理由は、衝撃を受けたシャフトが変形しようとするとき残留オーステナイトの加工誘起変態によって衝撃エネルギーが吸収されることに起因すると考えられる。靭性向上に及ぼす残留オーステナイトの効果は、後述の実施例からも明らかなように3%以上の面積比率でみられる。しかし、残留オーステナイトが過剰になると、強度,耐力が低下し、シャフトに必要な弾性,反発力,強度を維持できなくなる。
【0007】
以下、本発明で規定した要件を個別に説明する。
〔C:0.40〜0.70質量%〕
熱処理された鋼材の強度,耐力,弾性に影響を及ぼす合金成分であり、C含有量に応じ焼入れ硬さ,残留オーステナイト量が大きく変動する。十分な焼入れ硬さを得る上で0.40質量%以上のCが必要であり、C含有量の調整によって焼入れ・焼戻し処理後の残留オーステナイト量も確保できる。しかし、0.70質量%を超える過剰量のCが含まれると、靭性,溶接性が低下しやすい。
〔Si:0.60質量%以下〕
製鋼段階で脱酸剤として添加される合金成分であるが、0.60質量%を超えるSiが含まれると鋼板製造過程でスケール疵が鋼板表面に発生しやすくなり、シャフトの表面品質を低下させる。
【0008】
〔Mn:0.60〜1.20質量%〕
焼入れ性を向上させると共に、残留オーステナイトの生成にも有効な合金成分である。十分な焼入れ性,残留オーステナイト量を得るため、Mn含有量を0.60質量%以上に設定する。しかし、1.20質量%を超える過剰量のMnを含ませると、パーライトバンド組織の成長や偏析が促進される結果として靭性が却って低下しやすい。
〔P:0.020質量%以下〕
低温焼戻し脆化の原因となる成分であるが、0.020質量%以下に規制することによりP起因の悪影響を抑制できる。
【0009】
〔S:0.015質量%以下〕
介在物となって鋼中に存在し、靱性を劣化させる成分である。0.015質量%を超える量のSを含む鋼材では、造管溶接時に溶接部のメタルフローに沿って介在物起因の割れが発生しやすくなる。
〔Al:0.050質量%以下〕
Siと同様に製鋼段階で脱酸剤として添加される成分であるが、鋼中の全Al量が多くなると鋼材の清浄度が損なわれて表面疵が発生しやすくなるので、Al含有量の上限を0.050質量%に規制した。
【0010】
〔Cr:0.30〜1.00質量%〕
焼入れ性の向上に有効で、特に焼入れ・焼戻し処理後の強度,靱性を確保する上で必要な合金成分である。このような効果は、0.30質量%以上のCr添加でみられる。しかし、過剰量のCrを添加すると、増量に見合った強度の上昇が熱処理後に得られず、却って造管時の溶接性が低下するので、Cr含有量の上限を1.00質量%に規制した。
〔Ni:0.30〜1.20質量%〕
焼入れ性の改善に有効な合金成分であり、残留オーステナイトの生成を促進させる作用も呈する。十分な残留オーステナイト量を生成させる上で、0.30質量%以上のNiが必要である。しかし、高価な合金元素であるので、1.20質量%以下にNi含有量を規制して鋼材コストの上昇を抑える。
【0011】
〔Mo:0.10〜0.50質量%〕
必要に応じて添加される合金成分であり、Crと同様に焼入れ性を改善し、焼入れ・焼戻し処理後の強度,靭性を向上させる。このような効果は0.10質量%以上のMo添加でみられるが、0.50質量%を超えるMoの過剰添加は素材の成形性,造管性に悪影響を及ぼす。
〔V,Nb,Ti〕
何れも必要に応じて添加される合金成分であり、焼入れ・焼戻し時にオーステナイト結晶粒を細粒化し、焼戻し後の耐力,靭性を向上させる作用を呈する。細粒化の効果は、V:0.05質量%以上,Nb:0.03質量%以上,Ti:0.05質量%以上でみられるが、V:0.40質量%,Nb:0.15質量%,Ti:0.50質量%で飽和する。
【0012】
〔Cu:0.30質量%以下〕
必要に応じて添加される合金成分であり、熱間圧延中に生成する酸化スケールの剥離性を向上させ、鋼材,ひいてはシャフトの表面性状を改善する作用を呈する。しかし、過剰に含まれると溶融金属脆化に起因する微細クラックが鋼板表面に生じやすくなるので、Cuを添加する場合には上限を0.30質量%に規制する。
〔Ca:0.01質量%以下〕
必要に応じて添加される合金成分であり、MnS系介在物の形態制御に有効である。通常のMnS系介在物は細長い形状の粒子としてマトリックスに分散し、造管後の成形加工時にミクロボイドの起点となり造管性を劣化させ、シャフトの靭性にも悪影響を及ぼす。Ca添加は、MnS系介在物を球状のMn,S,Ca複合介在物に変えてミクロボイドの発生を抑え、造管性,靭性を向上させる。しかし、過剰添加すると介在物が粗大化して成型加工性が低下するので、Caを添加する場合には上限を0.01質量%に規制する。
【0013】
所定組成に調整された鋼材を常法に従ってみがき帯鋼とした後、TIG溶接,電縫溶接等で造管し、得られた溶接鋼管を引抜き加工等でシャフト形状に成形加工する。
〔焼入れ・焼戻し処理後の金属組織:面積比率3〜8%の残留オーステナイト〕
シャフト形状に成形した後、面積比率3〜8%で残留オーステナイトが存在する条件下で焼入れ・焼戻し処理する。所定量の残留オーステナイトを確保することにより、高い強度,弾性等を維持したまま靭性が向上される。3%以上の残留オーステナイトで靭性の向上がみられるが、8%を超える多量の残留オーステナイト量では強度,耐力が低下する傾向を示す。残留オーステナイト量の調整により高靭性を活用した薄肉化が可能となり、軽量で高強度のスチールシャフトが得られる。作製されたスチールシャフトは、強度,靭性のバランスが良く、反発力が高いため飛距離アップにつながり、ボールの直進性も向上する。
【0014】
800〜900℃の温度域に鋼材を3〜30分保持すると、組織が十分にオーステナイト化する。次いで、油中焼入れにより残留オーステナイトを含むマルテンサイト組織に改質される。焼戻し温度が低いほど残留オーステナイトが多くなって強度,耐力低下の原因になる。逆に高すぎる焼戻し温度では、残留オーステナイトが少なくなり靭性が低下する。一般に鋼材成分に応じて焼戻し後の残留オーステナイト量が異なるが、面積比率3〜8%の残留オーステナイトを得るため、焼戻し温度を150〜300℃の範囲で設定することが好ましい。
【0015】
【実施例】
表1の組成をもつ熱延鋼帯を酸洗した後、焼鈍,冷間圧延を繰り返し板厚0.7mmの冷延鋼帯を製造した。
【0016】
Figure 2005013535
【0017】
各冷延鋼帯を幅60mmの鋼片に裁断し、ロール成形法でオープンパイプに成形した後、幅方向両端部を電縫溶接することにより直径19mmの溶接鋼管を製造した。得られた溶接鋼管をシャフト形状(一定間隔で段付けされ、両端で径,肉厚が異なる形状)に引抜き加工した後、830〜900℃×5分の加熱保持→60℃の油中焼入れ→100〜400℃×70分加熱保持→空冷の焼入れ・焼戻し処理を施した。なお、過剰量のCを含む鋼材B2を用いた試験No.2では、造管時の溶接部に割れが発生したため、ゴルフクラブ用シャフトとして使用できなかった。
【0018】
焼入れ・焼戻し処理で調質された鋼板から切り出された試験片の残留オーステナイト量を測定すると共に、引張試験,シャルピー衝撃試験で機械的強度,靭性を調査した。引張試験では、JIS5号試験片を引っ張り、耐力,引張強さを測定した。耐力に関しては、塑性変形するまでの応力が重視されるシャフトの特性を考慮し、歪み0.03%での応力値(0.03%耐力)を指標にとった。シャルピー衝撃試験では、JIS4号サブサイズ試験片を用い衝撃吸収エネルギーを測定した。併せて、シャフト製造時の造管性や表面性状も調査した。
【0019】
表2の調査結果にみられるように、本発明に従った合金設計で残留オーステナイト量を面積比率3〜8%の範囲に維持した試験片は、何れも強度,靭性共に優れた特性を示し、造管性,表面性状も良好であった。なかでも、Cuを添加した鋼材A9を用いた試験No.15は,表面欠陥皆無の美麗な表面であった。
他方、C含有量が不足する鋼材B1を用いた試験No.1では、引張強さが目標値1900N/mmに達しなかった。成分・組成が本発明で規定する条件を満足する鋼材A3,A4を用いた場合でも、残留オーステナイト量が不足する試験No.7,9では、衝撃値が低く目標値35J/cmに達しなかった。逆に残留オーステナイト量が過剰な試験No.4,13では、目標値以上の衝撃値が得られたが、引張強さに劣っていた。
【0020】
Figure 2005013535
【0021】
次いで、ゴルフクラブ用シャフトとしての適正を評価するため、表2に掲げたNos.4〜7,12,13のシャフトの耐変形性,靭性,耐久性を次の試験で調査した。
変形試験では、シャフトのヘッド側50mmを固定し、支点から500mmの位置に11kgの荷重を加え、1分後に荷重を取り除き、シャフトの変形量(永久歪)を測定した。この試験条件下では、変形量4.0mm以下のシャフトが合格と評価できる。
【0022】
靭性試験では、アイゾット衝撃テストを採用し、シャフトから切り出した長さ100mmの試験片をハンマーの激突により衝撃破壊した。試験片が破壊したときの衝撃エネルギーを算出し、12Ft−Lbs以上を合格と評価した。
耐久試験では、両端を固定したシャフトの中心部に3kgの荷重をストローク50mmで繰返し加え、シャフトが破断するまでのサイクル数で疲労強度を調査した。この試験条件下では、10万回以上のサイクル数で荷重を繰返し加えても破断しないシャフトが合格と評価される。
【0023】
表3の試験結果にみられるように、本発明に従ったNos.5,6,12のシャフトは、永久歪み,靭性,耐久性の何れにおいても満足する特性をもっていた。他方、残留オーステナイトが多いNos.4,13のシャフトは永久歪み,耐久性に劣り、残留オーステナイトが少ないNo.7のシャフトは靭性に劣っていた。
【0024】
Figure 2005013535
【0025】
【発明の効果】
以上に説明したように、高強度化,強靭化に適した合金設計の鋼材から製造された溶接鋼管をシャフトに成形加工した後で焼入れ・焼戻し処理によって面積比率3〜8%の残留オーステナイトを含む金属組織に調質するとき、強度,靭性のバランスがとれ、薄肉化しても十分な強度,耐久性をもつゴルフクラブ用シャフトが得られる。反発力,弾性にも優れているため、飛距離アップにつながり、ボールの直進性も良い軽量スチールシャフトとして重宝される。

Claims (3)

  1. C:0.40〜0.70質量%,Si:0.60質量%以下,Mn:0.60〜1.20質量%,P:0.020質量%以下,S:0.015質量%以下,Al:0.050質量%以下,Cr:0.30〜1.00質量%,Ni:0.30〜1.20質量%を含む溶接鋼管から作製され、成形加工後の焼入れ・焼戻し処理により面積比率で3〜8%の残留オーステナイトを含む金属組織に調質されていることを特徴とするゴルフクラブ用スチールシャフト。
  2. 更にMo:0.10〜0.50質量%,V:0.05〜0.40質量%,Nb:0.03〜0.15質量%,Ti:0.05〜0.50質量%の1種又は2種以上を含む溶接鋼管から作製された請求項1記載のゴルフクラブ用スチールシャフト。
  3. 更にCu:0.30質量%以下,Ca:0.01質量%以下の1種又は2種を含む溶接鋼管から作製された請求項1又は2記載のゴルフクラブ用スチールシャフト。
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