JP2005011702A - 超電導テープ線材及びその製造装置並びにその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】50Nを越える高い張力を加えて巻線を行っても、超電導導体に亀裂や歪みが生じにくく、断線することのない安定性を備えた超電導テープ線材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る第一の超電導テープ線材10は、テープ状の超電導導体11、前記超電導導体11の上面に配されるテープ状の支持体A12、並びに、前記超電導導体11及び前記支持体A12からなる積層体15を包み込むように設けられる樹脂被膜13からなることを特徴としている。
【選択図】 図1
【解決手段】本発明に係る第一の超電導テープ線材10は、テープ状の超電導導体11、前記超電導導体11の上面に配されるテープ状の支持体A12、並びに、前記超電導導体11及び前記支持体A12からなる積層体15を包み込むように設けられる樹脂被膜13からなることを特徴としている。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、テープ状の超電導導体を用いた超電導テープ線材の改良に係り、より詳細には、高い張力で巻線する際に好適な、超電導テープ線材及びその製造装置並びにその製造方法に関する。本発明に係る超電導テープ線材は、例えば超電導コイルや超電導変圧器、超電導ケーブル、超電導マグネット、超電導限流器などの超電導応用機器に用いられる。
【0002】
【従来の技術】
従来、超電導導体と絶縁部材を一体化して利用した事例としては、以下に説明するものが挙げられる。
(1)Bi2223銀被覆61芯線からなる超電導導体3本を、絶縁用ポリイミドテープおよび補強用ステンレステープと共に、リアクトアンドワインド法でダブルパンケーキコイル巻してなる冷凍機冷却マグネットが、小原らにより報告されている(非特許文献1)。
【0003】
(2)カプトン絶縁被覆Bi2223からなる平角状の超電導導体を用い、直径100mm級のコイルを製作し、GM冷凍機による伝導冷却にて通電試験を行った結果が、富岡らにより報告されている(非特許文献2)。
【0004】
上記(1)の例はBi2223銀シーステープ3枚とカプトンテープそしてSUSテープを重ねてコイル状に巻き付ける方法である。これに対して、上記(2)の例はBi2223テープ線にカプトンテープ(ポリイミドテープ)を直接巻き付けた導体を用い、この導体をコイル状に巻き付ける方法である。
【0005】
しかしながら、上記(1)や(2)で提案されている構造からなる導体、すなわちAgシースBi系超電導テープ線材からなる導体を用いてマグネットを製作する場合、AgシースBi系超電導テープ線材はその機械的特性が脆いため、従来は、超電導導体を巻回する場合、例えば5〜15N程度の張力で巻線を行いマグネットなどが製作されていた。例えば50N程度の張力を加えて巻線すると、導体に亀裂や歪みが生じやすく、さらには断線する恐れも高いので、安定して使用することは極めて難しい状況にあった。
【0006】
このように張力が弱いと転位セグメントが緩んだ状態となり、転位セグメントのサイズが大きめになる。これに対し、50N程度もしくは50Nを越える高い張力で巻線を行うことができれば、転位セグメントのサイズ安定性が改善されるので、マグネットの巻線精度が向上し、これは所定の空間内に発生する磁場の均一性に優れるマグネットなどをもたらすものと期待されていた。
【0007】
また、上記転位セグメントのサイズ安定性の改善は、巻線を構成する転位セグメント内の各テープ線に均一な張力が負荷される状態をもたらす。したがって、マグネット通電時に巻線に加わる電磁力(フープ力)も各テープ線には均等に負荷されるので、フープ力の局所的な集中が防止される。結果として、破断に至る通電電流が向上することから、高い耐電磁力性能を有する高磁場応用マグネットへの適用が可能になると期待されていた。
【0008】
さらに、上記導体を用いて作製したマグネットに通電を行うと、導体からなる巻線には電磁力により引張応力が加わるが、通電電流や磁場が大きいと引張応力が増加してBi系テープ線材の超電導特性に影響を及ぼして、本来の超電導特性を発揮できないことがあった。この対策として、非特許文献1の例にあるように、SUSテープ線を一緒に巻き付ける等の対策が採られてきた。他に、巻線後コイルの上からSUS等の補強テープを巻き付ける方法も採用されることがある。
【0009】
【非特許文献1】
第62回2000年度春季低温工学・超電導学会予稿集P248
【非特許文献2】
第64回2001年度春季低温工学・超電導学会予稿集P97
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、50Nを越える高い張力を加えて巻線を行っても、超電導導体に亀裂や歪みが生じにくく、断線することのない安定性を備えた超電導テープ線材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る第一の超電導テープ線材は、テープ状の超電導導体、前記超電導導体の上面に配されるテープ状の支持体A、並びに、前記超電導導体及び前記支持体Aからなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜からなることを特徴としている。
【0012】
本発明に係る第二の超電導テープ線材は、テープ状の超電導導体、前記超電導導体の上面に配されるテープ状の支持体B、前記超電導導体の下面に沿わせて配されるテープ状の支持体C、並びに、前記超電導導体、前記支持体B及び前記支持体Cからなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜からなることを特徴としている。
【0013】
本発明に係る第三の超電導テープ線材は、テープ状の超電導導体、前記超電導導体の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体D、前記超電導導体の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体、並びに、前記超電導導体、前記支持体D及び前記安定化体からなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜からなることを特徴としている。
【0014】
上記3種類の構成からなる超電導テープ線材では、何れのテープ状の超電導導体も、その上下に配されるテープ状の支持体又は安定化体を設けてなる積層体が樹脂被膜により包み込まれた構造をなしている。これにより、各超電導テープ線材においては、超電導導体と支持体又は安定化体からなる積層体が一体化するように、その外周側から樹脂被膜によって固定された状態となる。
【0015】
その際、樹脂被膜は、支持体又は安定化体を介して超電導導体の上下面を押さえつけるように覆うとともに、支持体又は安定化体の側面と超電導導体の側面も全て覆うように設けられる。
【0016】
本願発明に係る第一から第三の超電導テープ線材は何れも、巻線作業において例え50Nを越えるような高い張力がその長手方向に加わっても、上記のとおり配置した樹脂被膜の存在により、超電導導体とその上下に配されるテープ状の支持体又は安定化体からなる積層体は、一体化してなる積層構造がより強固に維持されるので、超電導導体はおろかその上下に設けた支持体又は安定化体も、その長手方向の如何なる箇所においても上下の位置関係が崩れたり、もしくはその間隙に空間などが生じたりする恐れはない。
【0017】
したがって、超電導導体は局所的に外力を殆ど受けることがないので、その長手方向に高い張力を加えて巻線を行っても、超電導導体に亀裂や歪みが生じにくく、断線することのない安定性を備えた超電導テープ線材が得られる。
【0018】
本発明に係る第一から第三の超電導テープ線材は、超電導導体の上側に支持体を配している。超電導導体に電磁力によりフープ力が加わった場合、この支持体は超電導導体をフープ力に抗する方向に支える手段として機能する。したがって、第一から第三の超電導テープ線材は何れも、フープ力に対して高い耐久性を有する。
【0019】
また、本発明に係る第二の超電導テープ線材は、超電導導体の下側にも支持体を配している。このような配置を採用することにより、超電導テープ線材を曲げたときにテープ線材に加わる圧縮歪と引張歪がゼロになる位置すなわち中立軸が、超電導テープ線材の厚み方向の中央付近にくるように設計することが可能となる。これは、超電導特性が低下し始める曲げ半径をできるだけ小さくできるという利点をもたらす。実際には、補強に要する補強材体積を割り出し、これを上下の2枚(同じ厚み)に分割し、超電導導体の上側と下側に配される支持体として設けることにより実施される。
【0020】
さらに、本発明に係る第三の超電導テープ線材は、超電導導体の下側に安定化体を配している。超電導導体に定常電流(超電導状態)を通電しているとき、何らかの理由により超電導状態が壊れて常電導状態になった場合でも、低抵抗材料からなる安定化体を備えているので、超電導導体から安定化体側へ電流をバイパスして流すことができる。したがって、第三の超電導テープ線材によれば、超電導状態から常電導状態へ移行したとしても、超電導導体が熱的に損傷するのを防ぐことができる。
【0021】
本発明に係る超電導テープ線材の製造装置は、テープ状の超電導導体、及び、前記超電導導体の上面若しくは上面と下面に沿わせて配されるテープ状の支持体、又は、前記超電導導体の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体と前記超電導導体の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体、からなる積層体を包み込むように樹脂被膜を設ける超電導テープ線材の製造装置であって、
前記支持体又は前記安定化体を沿わせてなる前記超電導導体をその長手方向に、前記樹脂被膜の母液内で移動させて、前記積層体の外周面に前記母液を被着させ付着物を形成する第一手段と、
前記付着物の表面に規制板をあてて、その厚みを制御する第二手段と、
前記付着物に光を照射する又は熱を加えることにより、該付着物を固化させる第三手段とを、
少なくとも具備したことを特徴としている。
【0022】
第一手段では、予め支持体又は安定化体を上面又は下面に沿わせて配してなるテープ状の超電導導体からなる積層体を用い、樹脂被膜の母液内において、この積層体をその長手方向に移動させる。これにより、積層体の外周面に前記母液を被着させて、超電導導体と支持体又は安定化体からなる積層体の外周面全域を覆うように付着物を形成することができる。
【0023】
第二手段では、前段において積層体の外周面に被着させた付着物の表面に、例えば鋭角状の接触部を有する規制板を当てることによって、付着物の表面平坦化を図り、結果的に、超電導テープ線材の長手方向から見て均一な厚みを有するように付着物の膜厚を整えることができる。
【0024】
第三手段では、前段において表面平坦化と膜厚の均一化が図れた付着物に対して、例えば光を照射する又は熱を加えることにより、付着物を固化させる。これにより、超電導導体とその上下に配されるテープ状の支持体又は安定化体からなる構造体は、これらの外周側から締めるように強固に一体化され、超電導導体、支持体及び安定化体の三者が分離しないように固定することができる。
【0025】
したがって、本発明に係る製造装置は、上述した特徴を有する超電導テープ線材、すなわち、50Nを越える高い張力を加えて巻線を行っても、超電導導体に亀裂や歪みが生じにくく、断線することのない高い安定性を備えた超電導テープ線材を、その長さに依存せず安定して作製できる。
【0026】
本発明に係る超電導テープ線材の製造方法は、テープ状の超電導導体、及び、前記超電導導体の上面若しくは上面と下面に沿わせて配されるテープ状の支持体、又は、前記超電導導体の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体と前記超電導導体の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体、からなる積層体を包み込むように樹脂被膜を設ける超電導テープ線材の製造方法であって、
前記支持体又は前記安定化体を沿わせてなる前記超電導導体をその長手方向に、前記樹脂被膜の母液内で移動させて、前記積層体の外周面に前記母液を被着させ付着物を形成する第一工程と、
前記付着物の表面に規制板をあてて、その厚みを制御する第二工程と、
前記付着物に光を照射するか、または熱を加えることにより、該付着物を固化させる第三工程とを、
少なくとも具備したことを特徴としている。
【0027】
本発明に係る製造方法における第一工程、第二工程及び第三工程はそれぞれ、上述した第一手段、第二手段及び第三手段において行う操作内容に相当するものである。したがって、少なくとも第一工程、第二工程及び第三工程を順次行う製造方法は、上述した超電導テープ線材、すなわち、50Nを越える高い張力を加えて巻線を作製する際に、超電導導体に亀裂や歪みが生じにくく、断線することのない超電導テープ線材を、長距離にわたって同品質となるように安定して作製することに寄与する。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る超電導テープ線材とその製造方法及びその製造装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
図1は、本発明に係る超電導テープ線材の一例を示す模式的断面図であり、第一の超電導テープ線材を表している。図2及び図3は、本発明に係る超電導テープ線材の他の一例を示す模式的断面図であり、第二の超電導テープ線材と第三の超電導テープ線材をそれぞれ表している。
【0030】
図1に示した第一の超電導テープ線材10は、テープ状の超電導導体11と、超電導導体11の上面に配されるテープ状の支持体A12、並びに、超電導導体11及び支持体A12からなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜13から構成される。。
【0031】
図2に示した第二の超電導テープ線材20は、テープ状の超電導導体21と、超電導導体21の上面に配されるテープ状の支持体B22a、超電導導体21の下面に沿わせて配されるテープ状の支持体C22b、並びに、超電導導体21、支持体B22a及び支持体C22bからなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜23から構成されている。
【0032】
図3に示した第三の超電導テープ線材30は、テープ状の超電導導体31と、超電導導体31の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体D32、超電導導体31の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体34、並びに、超電導導体31、支持体D32及び安定化体34からなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜33から構成されている。
【0033】
超電導導体11、21、31の材料としては、例えば、高温超電導材料(Bi2223、Bi2212、Y123等の酸化物系材料)や低温超電導材料(Nb3Sn、Nb3Al等のA15型材料)等の単体では機械的に脆い性質を有する材料を挙げることができる。
【0034】
支持体A12、支持体B22a、支持体C22b及び支持体D32の材料としては、SUS304、SUS316等の非磁性のオーステナイト系金属材料やハステロイ等の非磁性金属材料、あるいは銅ニッケルや燐青銅、銅ベリリウム合金、銅ニオブ複合材、銅銀合金等の高強度を有する銅合金が挙げられる。
【0035】
安定化体34の材料としては、例えば純銅、純銀およびアルミニウム等の抵抗が低い材料や、銅ニッケル、燐青銅、銅ベリリウム合金、銅ニオブ複合材、銀合金および銅銀合金等の機械的強度が比較的高く、しかも抵抗が比較的低い材料が好適に用いられる。
【0036】
樹脂被膜の材料として、例えばUV硬化樹脂、エナメル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。
【0037】
超電導導体と支持体又は安定化体としては、同等の幅を有するテープ状のものが用いられ、図4の下方に示すように、例えばリール状の回転体109と110に各々巻き付けられて用意された超電導導体119と支持体又は安定化体120を、2枚1組あるいは3枚1組となるように重ねた状態として、樹脂被膜の形成装置を構成する成膜室125の中に導入する。
【0038】
図4は、本発明に係る超電導テープ線材を構成する樹脂被膜の形成装置の一例を示す概略構成図である。この形成装置は、テープ状の超電導導体119にテープ状の支持体又は安定化体120を重ねてなる構造体の表面に樹脂被膜121を形成するために用いられ、図1〜3に示すような超電導テープ線材118(10、20、30)が得られる。
【0039】
換言すると、本発明に係る超電導テープ線材の製造装置は、図1や図2に示すようにテープ状の超電導導体11、21、及び、超電導導体11、21の上面若しくは上面と下面に沿わせて配されるテープ状の支持体12、22a、22bからなる構造体15、25、又は、図3に示すように超電導導体31の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体32と超電導導体31の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体34、からなる構造体35、を包み込むように樹脂被膜13、23、33を設けてなる超電導テープ線材10、20、30を製造する装置である。
【0040】
以下、この製造装置を図4に基づき詳述するが、図4では簡単のため第一の超電導テープ線材10を作製する例を取り上げて述べる。その際、超電導導体は119、支持体(又は安定化体)は120、樹脂被膜は121という番号で表す。
【0041】
図4の製造装置は、支持体120を沿わせてなる超電導導体119をその長手方向に、樹脂被膜の母液(紫外線硬化型樹脂液)126b内で移動させて、超電導導体119と支持体120からなる構造体の外周面に前記母液を被着させ付着物126cを形成する第一手段と、
前記付着物126cの表面に規制板128をあてて、その厚みを制御する第二手段と、
厚みが整えられた前記付着物121に光を照射する又は熱を加えることにより、該付着物121を固化させる第三手段とを、
少なくとも具備するものである。
【0042】
以下では、図1に示す構造体、すなわちテープ状の超電導導体11(119)とその上に配されたテープ状の支持体A12(120)からなる構造体を例とし、その外側に樹脂被膜13(121)を設けてなる超電導テープ線材10の場合について詳細に述べる。ただし、図2や図3に示す超電導テープ線材20、30の場合も、同様の手順により樹脂被膜23、33を形成できることは言うまでもない。
【0043】
図4に示した絶縁被膜121の形成に用いる装置は、成膜室125と、この成膜室125内に支持体120を上面に配した超電導導体119からなる構造体を送り出す送出ドラム(図示略)と、上記成膜室125内に配置された貯液部126、樹脂供給部127及びダイスからなる規制板128と、紫外線硬化型樹脂からなりその厚さが整えられた付着物121が表面に付着した超電導導体119に紫外線を照射して、この付着物121を硬化させる紫外線照射装置(図示略)と、この硬化してなる絶縁被膜が形成された超電導導体119を巻き取る巻取ドラム(図示略)とから概略構成されている。
【0044】
成膜室125には、不図示の送出ドラムから送り出された超電導導体119と支持体120を成膜室125内に導入するための導入口125aが設けられている。この導入口125aの上方(超電導テープ線材119の進行方向下流側)には貯液部126が設けられている。なお、導入口125aの手前側には、超電導導体119と支持体120が重なった状態を整えるとともに保持させるために、両者をその重なり方向に抑えるローラ状の保持部材130a、130bと、両者をその幅方向に抑えるローラ状の保持部材131a、131bとを配置することが望ましい。
【0045】
貯液部126には、樹脂供給部127から絶縁被膜形成用の母液(紫外線硬化型樹脂液)126bがオーバーフロー状態(溢れ出る状態)で供給されるようになっている。この貯液部126には、導入口125aから導入された超電導導体119と支持体120を挿通するための挿通孔126aが設けられている。
【0046】
貯液部126の上方にはダイスからなる規制板128が設けられている。この規制板128には、貯液部126において超電導導体119や支持体120の外表面に付着した紫外線硬化型樹脂液からなる付着物126cのうち、余分な部分を取り除き、その厚さを整えるために機能する孔128aが設けられている。
【0047】
この孔128aの上方に位置する成膜室125の部分には、付着物126cによってその周囲が包まれるように被覆された超電導導体119及び支持体120からなる構造体を、成膜室125から導出するための導出口(図示略)が配されている。そして、この導出口の上方には紫外線照射装置(図示略)が設けられ、さらにこれの上方には上記巻取ドラム(図示略)が配置されている。
【0048】
ここでは、紫外線硬化型樹脂液を用いて付着物126cを形成する場合について述べたが、樹脂液が熱硬化型の場合には、上記紫外線照射装置に代えて熱を加える手段、例えばヒーター等が使用される。
【0049】
このような絶縁被膜の形成装置を用い、支持体120を上面に配してなる超電導導体119を包み込むように絶縁被膜121を形成方法は、樹脂供給部127から樹脂被膜121の母液(紫外線硬化型樹脂液)226bを常圧でオーバーフローするように貯液部126に供給する一方、上記送出ドラムから支持体120が形成された超電導導体119を導入口125aから成膜室125内に送り出すとともに上記導出口から導出した後に紫外線照射装置を通過させ、絶縁被膜121を有する超電導導体119を上記巻取ドラムで巻き取ることにより行われる。
【0050】
以下では、本発明に係る製造方法について各工程ごとに詳述する。
(1)まず、成膜室125内に送り出された支持体120を上面に配した超電導導体119は、挿通孔126aを通った後、貯液部126においてその表面に母液(紫外線硬化型樹脂液)126bが付着した状態となる。
【0051】
すなわち、上記(1)は、支持体又は安定化体を沿わせてなる超電導導体をその長手方向に、樹脂被膜の母液内で移動させて、支持体又は安定化体と超電導導体からなる積層体の外周面に前記母液を被着させ付着物を形成する第一工程を意味する。
【0052】
(2)次に、母液(紫外線硬化型樹脂液)126bの付着した超電導導体119は、ダイスからなる規制板128に設けた孔128aを通過する際に、余分に付着した母液(紫外線硬化型樹脂液)126bが除去され、均一な厚みの紫外線硬化型樹脂膜121が形成される。
【0053】
すなわち、上記(2)は、第一工程で形成された付着物の表面に規制板をあてて、その厚みを制御する第二工程を意味する。
【0054】
(3)次いで、厚みの整った紫外線硬化型樹脂膜121に包むように覆われた、支持体120を上面に配してなる超電導導体119は、上記導出口から導出される。そして、不図示の紫外線照射装置内を通過する際に、紫外線硬化型樹脂膜121で被覆された支持体120を上面に配してなる超電導導体119に対して紫外線が照射される。これにより、表面に設けられた紫外線硬化型樹脂膜121は、硬化して絶縁被膜となる。
【0055】
すなわち、上記(3)は、第二工程で形成された付着物に光を照射するか、または熱を加えることにより、該付着物を固化させる第三工程を意味する。
【0056】
少なくとも上記の第一工程〜第三工程を経ることにより、本発明に係る超電導テープ線材118(第一の超電導テープ線材10)が得られる。その際、支持体120を上面に配した超電導導体119からなる構造体を母液(紫外線硬化型樹脂液)126bから引き上げて、その長手方向(図4において上方)に移動させる速度は、0.1〜2.0m/s程度が好ましい。
【0057】
ここでは、第一の超電導テープ線材10を例として詳述したが、他の超電導テープ線材、すなわち第二の超電導テープ線材20や第三の超電導テープ線材30についても、同様の手順により作製できることは言うまでもない。つまり、第一の超電導テープ線材10を作製する際に用いた構造体15の代わりに、構造体25あるいは構造体35を使用するだけでよい。
【0058】
また、図1〜3においては各構造体15、25、35の外側にのみ絶縁被膜を設けた例を示したが、これに加えて構造体の間にも絶縁被膜と同じ絶縁材料からなる薄膜が挟まれるように配置してもよい。例えば、構造体15の場合で説明すると、超電導導体11とその上面に配されるテープ状の支持体A12との間に上記薄膜が挟まれ、かつ、この3層からなる積層体を包み込むように樹脂被膜13を設けても構わない。この超電導導体11と支持体A12との間に挿入された薄膜は、上下2層を接着する作用を発揮するので、上下2層がずれにくくなり、巻線の際にずれに起因して生じる樹脂被膜の剥がれを防止するので好ましい。
【0059】
上述した工程により作製してなる超電導テープ線材を巻回してコイルなどに適用する場合は、巻回された状態において、超電導導体が内側に配置され支持体が外側となるように超電導テープ線材を設ける必要がある。この構成により、以下に述べる作用・効果が得られるので好ましい。なお、このような超電導テープ線材を複数本用い、転位撚線構造としても構わない。
【0060】
(a)電磁力対策(補強効果)
超電導テープ線材をコイルに用いる場合には、各超電導テープ線材を構成する超電導導体に対して電磁力(フープ力)が加わるが、このとき支持体が超電導導体に加わるフープ力を支える方向に位置していないと、超電導導体の超電導特性が劣化してしまう。支持体付きの超電導導体からなる超電導テープ線材を採用することで、常に超電導導体に加わるフープ力を支えることが可能になる(以下では、補強効果とも呼ぶ)。
【0061】
(b)絶縁特性の付与
従来、超電導テープ線材を用いて巻線する際は、超電導テープ線材間の電気的な絶縁性を確保するため、超電導テープ線材間にカプトンテープを巻き付けることが必要であった。しかしながら、本発明に係る超電導テープ線材は、その外周を絶縁樹脂で被覆した線材構造をなしているので、超電導テープ線材間の絶縁性が確実に確保される。したがって、本発明に係る超電導テープ線材を採用すれば、従来要した絶縁テープを巻き付ける工程が省略できるので、大幅なコスト削減が図れる。
【0062】
(c)電流バイパス効果
超電導テープ線材に定常電流(超電導状態)を通電している際に、外部擾乱あるいは導体内部における擾乱等により、超電導状態が壊れて常電導状態になることがある。このとき、場合によっては超電導導体の焼損にもつながることから、通常、超電導マグネットには保護を目的とした回路を組み込んだり、超電導導体自身に安定化を目的とした低抵抗材料を組み込む対策が有効である。
【0063】
本発明に係る第三の超電導テープ線材では、超電導導体31の上側に支持体32を設けることにより上述した補強効果を持たせることができる。これに加えて、第三の超電導テープ線材は、超電導導体31の下側に安定化体34として例えば比較的低抵抗な銅合金を組み込まれている。この安定化体34は、超電導状態が壊れて常電導状態に移行し、導体温度が上昇して超電導導体31が焼き切れる前に、銅合金側に電流をバイパスさせることにより、超電導導体31の温度上昇を防止する役割を果たす。
【0064】
【実施例】
(実施例1)
本例では、図1に示した第一の超電導テープ線材10の機械的特性について調べた結果について述べる。その際、超電導テープ線材10の各構成物、すなわち超電導導体11、支持体12および樹脂被膜13は、表1に示すものとした。
【0065】
【表1】
【0066】
図5は、本発明に係る超電導テープ線材の機械特性を示すグラフであり、横軸は引張歪、縦軸は引張応力を表す。図5において、点線が本発明に係る超電導テープ線材(図中では補強テープ線材と表記)の結果であり、実線は支持体(図中ではSUSテープと表記)、二点鎖線は超電導導体(図中ではBi系テープ線と表記)のそれぞれ結果を、比較のために掲載した。
【0067】
図5より、超電導導体10(二点鎖線)とSUS材からなる支持体12(実線)を複合化したことにより、本発明に係る超電導テープ線材(点線)は剛性が高くなるとともに、破断強度も向上したことが分かった。なお、本発明に係る超電導テープ線材の剛性は110GPaであり、この値は複合則により求めた数値と同等であった。
【0068】
(実施例2)
本例では、図1に示した第一の超電導テープ線材10の電気的特性について調べた結果について述べる。超電導テープ線材10の各構成物、すなわち超電導導体11、支持体12および樹脂被膜13は、実施例1と同様に表1に示すものを用いた。
【0069】
図6は、本発明に係る超電導テープ線材における臨界電流特性の引張応力依存性を示すグラフである。図6において、○印は本発明に係る超電導テープ線材(図中では補強テープ線材と表記)の結果であり、■印は超電導導体(図中ではBi系テープ単線と表記)の結果を比較のために掲載した。
【0070】
図6より、以下の点が明らかとなった。
(1)Bi系テープ単線からなる超電導導体(■印)の場合は、60MPaの引張応力で線材が破綻し、臨界電流が急激に低下した(図中では、”fracture”と記載した点を指す)。
(2)これに対し、支持体により補強された超電導テープ線材(○印)は、195MPaの引張応力まで臨界電流が安定に保たれる。
(3)支持体の特性低下が始まる引張応力は200MPa(図5参照)であることから判断すると、上記(2)の195MPaという数値は、0.2%を越える歪が加わる領域に対応することから、超電導導体の伸びに起因して特性が低下したものと本発明者らは推定した。
【0071】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る第一乃至第三の超電導テープ線材は何れも、少なくともテープ状の超電導導体と、前記超電導導体の上面に配されるテープ状の支持体と、前記超電導導体及び前記支持体Aからなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜を備えている。つまり、本発明に係る超電導テープ線材は、高い剛性を有する支持体を超電導導体に沿わせてなる構造体を、さらに樹脂被膜で覆った構成をなしているので、支持体と殆ど同程度の高い引張応力をもつことが可能となる。
【0072】
張力巻線を行う場合には、コイルの巻線精度を確保するために50N以上の張力を加えて巻線を行うことが望ましいが、この値はBi系の超電導導体の破断張力(40N)と同等であることから、これまでは張力を20N以下に抑えて巻線をしていた。これに対して、本発明に係る超電導テープ線材は、50N以上の張力を加えても破断することがなく、極めて安定した状態が維持できる。
【0073】
したがって、本発明に係る超電導テープ線材は、例えばコイル巻線工程などにおいて張力巻線を行う際に、従来より高い張力で巻き付け作業を行うことができるので、例えば巻線精度の高い高強度マグネットの製作に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る超電導テープ線材の一例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明に係る超電導テープ線材の他の一例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明に係る超電導テープ線材の他の一例を示す模式的断面図である。
【図4】本発明に係る超電導テープ線材を構成する樹脂被膜の形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図5】本発明に係る超電導テープ線材の機械特性を示すグラフである。
【図6】本発明に係る超電導テープ線材における臨界電流特性の引張応力依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
10、20、30 超電導テープ線材、
11、21、31 超電導導体、
12、22a、22b、32 支持体A〜D、
13、23、33 樹脂被膜、
15、25、35 構造体、
34 安定化体。
【発明の属する技術分野】
本発明は、テープ状の超電導導体を用いた超電導テープ線材の改良に係り、より詳細には、高い張力で巻線する際に好適な、超電導テープ線材及びその製造装置並びにその製造方法に関する。本発明に係る超電導テープ線材は、例えば超電導コイルや超電導変圧器、超電導ケーブル、超電導マグネット、超電導限流器などの超電導応用機器に用いられる。
【0002】
【従来の技術】
従来、超電導導体と絶縁部材を一体化して利用した事例としては、以下に説明するものが挙げられる。
(1)Bi2223銀被覆61芯線からなる超電導導体3本を、絶縁用ポリイミドテープおよび補強用ステンレステープと共に、リアクトアンドワインド法でダブルパンケーキコイル巻してなる冷凍機冷却マグネットが、小原らにより報告されている(非特許文献1)。
【0003】
(2)カプトン絶縁被覆Bi2223からなる平角状の超電導導体を用い、直径100mm級のコイルを製作し、GM冷凍機による伝導冷却にて通電試験を行った結果が、富岡らにより報告されている(非特許文献2)。
【0004】
上記(1)の例はBi2223銀シーステープ3枚とカプトンテープそしてSUSテープを重ねてコイル状に巻き付ける方法である。これに対して、上記(2)の例はBi2223テープ線にカプトンテープ(ポリイミドテープ)を直接巻き付けた導体を用い、この導体をコイル状に巻き付ける方法である。
【0005】
しかしながら、上記(1)や(2)で提案されている構造からなる導体、すなわちAgシースBi系超電導テープ線材からなる導体を用いてマグネットを製作する場合、AgシースBi系超電導テープ線材はその機械的特性が脆いため、従来は、超電導導体を巻回する場合、例えば5〜15N程度の張力で巻線を行いマグネットなどが製作されていた。例えば50N程度の張力を加えて巻線すると、導体に亀裂や歪みが生じやすく、さらには断線する恐れも高いので、安定して使用することは極めて難しい状況にあった。
【0006】
このように張力が弱いと転位セグメントが緩んだ状態となり、転位セグメントのサイズが大きめになる。これに対し、50N程度もしくは50Nを越える高い張力で巻線を行うことができれば、転位セグメントのサイズ安定性が改善されるので、マグネットの巻線精度が向上し、これは所定の空間内に発生する磁場の均一性に優れるマグネットなどをもたらすものと期待されていた。
【0007】
また、上記転位セグメントのサイズ安定性の改善は、巻線を構成する転位セグメント内の各テープ線に均一な張力が負荷される状態をもたらす。したがって、マグネット通電時に巻線に加わる電磁力(フープ力)も各テープ線には均等に負荷されるので、フープ力の局所的な集中が防止される。結果として、破断に至る通電電流が向上することから、高い耐電磁力性能を有する高磁場応用マグネットへの適用が可能になると期待されていた。
【0008】
さらに、上記導体を用いて作製したマグネットに通電を行うと、導体からなる巻線には電磁力により引張応力が加わるが、通電電流や磁場が大きいと引張応力が増加してBi系テープ線材の超電導特性に影響を及ぼして、本来の超電導特性を発揮できないことがあった。この対策として、非特許文献1の例にあるように、SUSテープ線を一緒に巻き付ける等の対策が採られてきた。他に、巻線後コイルの上からSUS等の補強テープを巻き付ける方法も採用されることがある。
【0009】
【非特許文献1】
第62回2000年度春季低温工学・超電導学会予稿集P248
【非特許文献2】
第64回2001年度春季低温工学・超電導学会予稿集P97
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、50Nを越える高い張力を加えて巻線を行っても、超電導導体に亀裂や歪みが生じにくく、断線することのない安定性を備えた超電導テープ線材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る第一の超電導テープ線材は、テープ状の超電導導体、前記超電導導体の上面に配されるテープ状の支持体A、並びに、前記超電導導体及び前記支持体Aからなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜からなることを特徴としている。
【0012】
本発明に係る第二の超電導テープ線材は、テープ状の超電導導体、前記超電導導体の上面に配されるテープ状の支持体B、前記超電導導体の下面に沿わせて配されるテープ状の支持体C、並びに、前記超電導導体、前記支持体B及び前記支持体Cからなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜からなることを特徴としている。
【0013】
本発明に係る第三の超電導テープ線材は、テープ状の超電導導体、前記超電導導体の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体D、前記超電導導体の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体、並びに、前記超電導導体、前記支持体D及び前記安定化体からなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜からなることを特徴としている。
【0014】
上記3種類の構成からなる超電導テープ線材では、何れのテープ状の超電導導体も、その上下に配されるテープ状の支持体又は安定化体を設けてなる積層体が樹脂被膜により包み込まれた構造をなしている。これにより、各超電導テープ線材においては、超電導導体と支持体又は安定化体からなる積層体が一体化するように、その外周側から樹脂被膜によって固定された状態となる。
【0015】
その際、樹脂被膜は、支持体又は安定化体を介して超電導導体の上下面を押さえつけるように覆うとともに、支持体又は安定化体の側面と超電導導体の側面も全て覆うように設けられる。
【0016】
本願発明に係る第一から第三の超電導テープ線材は何れも、巻線作業において例え50Nを越えるような高い張力がその長手方向に加わっても、上記のとおり配置した樹脂被膜の存在により、超電導導体とその上下に配されるテープ状の支持体又は安定化体からなる積層体は、一体化してなる積層構造がより強固に維持されるので、超電導導体はおろかその上下に設けた支持体又は安定化体も、その長手方向の如何なる箇所においても上下の位置関係が崩れたり、もしくはその間隙に空間などが生じたりする恐れはない。
【0017】
したがって、超電導導体は局所的に外力を殆ど受けることがないので、その長手方向に高い張力を加えて巻線を行っても、超電導導体に亀裂や歪みが生じにくく、断線することのない安定性を備えた超電導テープ線材が得られる。
【0018】
本発明に係る第一から第三の超電導テープ線材は、超電導導体の上側に支持体を配している。超電導導体に電磁力によりフープ力が加わった場合、この支持体は超電導導体をフープ力に抗する方向に支える手段として機能する。したがって、第一から第三の超電導テープ線材は何れも、フープ力に対して高い耐久性を有する。
【0019】
また、本発明に係る第二の超電導テープ線材は、超電導導体の下側にも支持体を配している。このような配置を採用することにより、超電導テープ線材を曲げたときにテープ線材に加わる圧縮歪と引張歪がゼロになる位置すなわち中立軸が、超電導テープ線材の厚み方向の中央付近にくるように設計することが可能となる。これは、超電導特性が低下し始める曲げ半径をできるだけ小さくできるという利点をもたらす。実際には、補強に要する補強材体積を割り出し、これを上下の2枚(同じ厚み)に分割し、超電導導体の上側と下側に配される支持体として設けることにより実施される。
【0020】
さらに、本発明に係る第三の超電導テープ線材は、超電導導体の下側に安定化体を配している。超電導導体に定常電流(超電導状態)を通電しているとき、何らかの理由により超電導状態が壊れて常電導状態になった場合でも、低抵抗材料からなる安定化体を備えているので、超電導導体から安定化体側へ電流をバイパスして流すことができる。したがって、第三の超電導テープ線材によれば、超電導状態から常電導状態へ移行したとしても、超電導導体が熱的に損傷するのを防ぐことができる。
【0021】
本発明に係る超電導テープ線材の製造装置は、テープ状の超電導導体、及び、前記超電導導体の上面若しくは上面と下面に沿わせて配されるテープ状の支持体、又は、前記超電導導体の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体と前記超電導導体の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体、からなる積層体を包み込むように樹脂被膜を設ける超電導テープ線材の製造装置であって、
前記支持体又は前記安定化体を沿わせてなる前記超電導導体をその長手方向に、前記樹脂被膜の母液内で移動させて、前記積層体の外周面に前記母液を被着させ付着物を形成する第一手段と、
前記付着物の表面に規制板をあてて、その厚みを制御する第二手段と、
前記付着物に光を照射する又は熱を加えることにより、該付着物を固化させる第三手段とを、
少なくとも具備したことを特徴としている。
【0022】
第一手段では、予め支持体又は安定化体を上面又は下面に沿わせて配してなるテープ状の超電導導体からなる積層体を用い、樹脂被膜の母液内において、この積層体をその長手方向に移動させる。これにより、積層体の外周面に前記母液を被着させて、超電導導体と支持体又は安定化体からなる積層体の外周面全域を覆うように付着物を形成することができる。
【0023】
第二手段では、前段において積層体の外周面に被着させた付着物の表面に、例えば鋭角状の接触部を有する規制板を当てることによって、付着物の表面平坦化を図り、結果的に、超電導テープ線材の長手方向から見て均一な厚みを有するように付着物の膜厚を整えることができる。
【0024】
第三手段では、前段において表面平坦化と膜厚の均一化が図れた付着物に対して、例えば光を照射する又は熱を加えることにより、付着物を固化させる。これにより、超電導導体とその上下に配されるテープ状の支持体又は安定化体からなる構造体は、これらの外周側から締めるように強固に一体化され、超電導導体、支持体及び安定化体の三者が分離しないように固定することができる。
【0025】
したがって、本発明に係る製造装置は、上述した特徴を有する超電導テープ線材、すなわち、50Nを越える高い張力を加えて巻線を行っても、超電導導体に亀裂や歪みが生じにくく、断線することのない高い安定性を備えた超電導テープ線材を、その長さに依存せず安定して作製できる。
【0026】
本発明に係る超電導テープ線材の製造方法は、テープ状の超電導導体、及び、前記超電導導体の上面若しくは上面と下面に沿わせて配されるテープ状の支持体、又は、前記超電導導体の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体と前記超電導導体の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体、からなる積層体を包み込むように樹脂被膜を設ける超電導テープ線材の製造方法であって、
前記支持体又は前記安定化体を沿わせてなる前記超電導導体をその長手方向に、前記樹脂被膜の母液内で移動させて、前記積層体の外周面に前記母液を被着させ付着物を形成する第一工程と、
前記付着物の表面に規制板をあてて、その厚みを制御する第二工程と、
前記付着物に光を照射するか、または熱を加えることにより、該付着物を固化させる第三工程とを、
少なくとも具備したことを特徴としている。
【0027】
本発明に係る製造方法における第一工程、第二工程及び第三工程はそれぞれ、上述した第一手段、第二手段及び第三手段において行う操作内容に相当するものである。したがって、少なくとも第一工程、第二工程及び第三工程を順次行う製造方法は、上述した超電導テープ線材、すなわち、50Nを越える高い張力を加えて巻線を作製する際に、超電導導体に亀裂や歪みが生じにくく、断線することのない超電導テープ線材を、長距離にわたって同品質となるように安定して作製することに寄与する。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る超電導テープ線材とその製造方法及びその製造装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
図1は、本発明に係る超電導テープ線材の一例を示す模式的断面図であり、第一の超電導テープ線材を表している。図2及び図3は、本発明に係る超電導テープ線材の他の一例を示す模式的断面図であり、第二の超電導テープ線材と第三の超電導テープ線材をそれぞれ表している。
【0030】
図1に示した第一の超電導テープ線材10は、テープ状の超電導導体11と、超電導導体11の上面に配されるテープ状の支持体A12、並びに、超電導導体11及び支持体A12からなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜13から構成される。。
【0031】
図2に示した第二の超電導テープ線材20は、テープ状の超電導導体21と、超電導導体21の上面に配されるテープ状の支持体B22a、超電導導体21の下面に沿わせて配されるテープ状の支持体C22b、並びに、超電導導体21、支持体B22a及び支持体C22bからなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜23から構成されている。
【0032】
図3に示した第三の超電導テープ線材30は、テープ状の超電導導体31と、超電導導体31の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体D32、超電導導体31の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体34、並びに、超電導導体31、支持体D32及び安定化体34からなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜33から構成されている。
【0033】
超電導導体11、21、31の材料としては、例えば、高温超電導材料(Bi2223、Bi2212、Y123等の酸化物系材料)や低温超電導材料(Nb3Sn、Nb3Al等のA15型材料)等の単体では機械的に脆い性質を有する材料を挙げることができる。
【0034】
支持体A12、支持体B22a、支持体C22b及び支持体D32の材料としては、SUS304、SUS316等の非磁性のオーステナイト系金属材料やハステロイ等の非磁性金属材料、あるいは銅ニッケルや燐青銅、銅ベリリウム合金、銅ニオブ複合材、銅銀合金等の高強度を有する銅合金が挙げられる。
【0035】
安定化体34の材料としては、例えば純銅、純銀およびアルミニウム等の抵抗が低い材料や、銅ニッケル、燐青銅、銅ベリリウム合金、銅ニオブ複合材、銀合金および銅銀合金等の機械的強度が比較的高く、しかも抵抗が比較的低い材料が好適に用いられる。
【0036】
樹脂被膜の材料として、例えばUV硬化樹脂、エナメル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。
【0037】
超電導導体と支持体又は安定化体としては、同等の幅を有するテープ状のものが用いられ、図4の下方に示すように、例えばリール状の回転体109と110に各々巻き付けられて用意された超電導導体119と支持体又は安定化体120を、2枚1組あるいは3枚1組となるように重ねた状態として、樹脂被膜の形成装置を構成する成膜室125の中に導入する。
【0038】
図4は、本発明に係る超電導テープ線材を構成する樹脂被膜の形成装置の一例を示す概略構成図である。この形成装置は、テープ状の超電導導体119にテープ状の支持体又は安定化体120を重ねてなる構造体の表面に樹脂被膜121を形成するために用いられ、図1〜3に示すような超電導テープ線材118(10、20、30)が得られる。
【0039】
換言すると、本発明に係る超電導テープ線材の製造装置は、図1や図2に示すようにテープ状の超電導導体11、21、及び、超電導導体11、21の上面若しくは上面と下面に沿わせて配されるテープ状の支持体12、22a、22bからなる構造体15、25、又は、図3に示すように超電導導体31の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体32と超電導導体31の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体34、からなる構造体35、を包み込むように樹脂被膜13、23、33を設けてなる超電導テープ線材10、20、30を製造する装置である。
【0040】
以下、この製造装置を図4に基づき詳述するが、図4では簡単のため第一の超電導テープ線材10を作製する例を取り上げて述べる。その際、超電導導体は119、支持体(又は安定化体)は120、樹脂被膜は121という番号で表す。
【0041】
図4の製造装置は、支持体120を沿わせてなる超電導導体119をその長手方向に、樹脂被膜の母液(紫外線硬化型樹脂液)126b内で移動させて、超電導導体119と支持体120からなる構造体の外周面に前記母液を被着させ付着物126cを形成する第一手段と、
前記付着物126cの表面に規制板128をあてて、その厚みを制御する第二手段と、
厚みが整えられた前記付着物121に光を照射する又は熱を加えることにより、該付着物121を固化させる第三手段とを、
少なくとも具備するものである。
【0042】
以下では、図1に示す構造体、すなわちテープ状の超電導導体11(119)とその上に配されたテープ状の支持体A12(120)からなる構造体を例とし、その外側に樹脂被膜13(121)を設けてなる超電導テープ線材10の場合について詳細に述べる。ただし、図2や図3に示す超電導テープ線材20、30の場合も、同様の手順により樹脂被膜23、33を形成できることは言うまでもない。
【0043】
図4に示した絶縁被膜121の形成に用いる装置は、成膜室125と、この成膜室125内に支持体120を上面に配した超電導導体119からなる構造体を送り出す送出ドラム(図示略)と、上記成膜室125内に配置された貯液部126、樹脂供給部127及びダイスからなる規制板128と、紫外線硬化型樹脂からなりその厚さが整えられた付着物121が表面に付着した超電導導体119に紫外線を照射して、この付着物121を硬化させる紫外線照射装置(図示略)と、この硬化してなる絶縁被膜が形成された超電導導体119を巻き取る巻取ドラム(図示略)とから概略構成されている。
【0044】
成膜室125には、不図示の送出ドラムから送り出された超電導導体119と支持体120を成膜室125内に導入するための導入口125aが設けられている。この導入口125aの上方(超電導テープ線材119の進行方向下流側)には貯液部126が設けられている。なお、導入口125aの手前側には、超電導導体119と支持体120が重なった状態を整えるとともに保持させるために、両者をその重なり方向に抑えるローラ状の保持部材130a、130bと、両者をその幅方向に抑えるローラ状の保持部材131a、131bとを配置することが望ましい。
【0045】
貯液部126には、樹脂供給部127から絶縁被膜形成用の母液(紫外線硬化型樹脂液)126bがオーバーフロー状態(溢れ出る状態)で供給されるようになっている。この貯液部126には、導入口125aから導入された超電導導体119と支持体120を挿通するための挿通孔126aが設けられている。
【0046】
貯液部126の上方にはダイスからなる規制板128が設けられている。この規制板128には、貯液部126において超電導導体119や支持体120の外表面に付着した紫外線硬化型樹脂液からなる付着物126cのうち、余分な部分を取り除き、その厚さを整えるために機能する孔128aが設けられている。
【0047】
この孔128aの上方に位置する成膜室125の部分には、付着物126cによってその周囲が包まれるように被覆された超電導導体119及び支持体120からなる構造体を、成膜室125から導出するための導出口(図示略)が配されている。そして、この導出口の上方には紫外線照射装置(図示略)が設けられ、さらにこれの上方には上記巻取ドラム(図示略)が配置されている。
【0048】
ここでは、紫外線硬化型樹脂液を用いて付着物126cを形成する場合について述べたが、樹脂液が熱硬化型の場合には、上記紫外線照射装置に代えて熱を加える手段、例えばヒーター等が使用される。
【0049】
このような絶縁被膜の形成装置を用い、支持体120を上面に配してなる超電導導体119を包み込むように絶縁被膜121を形成方法は、樹脂供給部127から樹脂被膜121の母液(紫外線硬化型樹脂液)226bを常圧でオーバーフローするように貯液部126に供給する一方、上記送出ドラムから支持体120が形成された超電導導体119を導入口125aから成膜室125内に送り出すとともに上記導出口から導出した後に紫外線照射装置を通過させ、絶縁被膜121を有する超電導導体119を上記巻取ドラムで巻き取ることにより行われる。
【0050】
以下では、本発明に係る製造方法について各工程ごとに詳述する。
(1)まず、成膜室125内に送り出された支持体120を上面に配した超電導導体119は、挿通孔126aを通った後、貯液部126においてその表面に母液(紫外線硬化型樹脂液)126bが付着した状態となる。
【0051】
すなわち、上記(1)は、支持体又は安定化体を沿わせてなる超電導導体をその長手方向に、樹脂被膜の母液内で移動させて、支持体又は安定化体と超電導導体からなる積層体の外周面に前記母液を被着させ付着物を形成する第一工程を意味する。
【0052】
(2)次に、母液(紫外線硬化型樹脂液)126bの付着した超電導導体119は、ダイスからなる規制板128に設けた孔128aを通過する際に、余分に付着した母液(紫外線硬化型樹脂液)126bが除去され、均一な厚みの紫外線硬化型樹脂膜121が形成される。
【0053】
すなわち、上記(2)は、第一工程で形成された付着物の表面に規制板をあてて、その厚みを制御する第二工程を意味する。
【0054】
(3)次いで、厚みの整った紫外線硬化型樹脂膜121に包むように覆われた、支持体120を上面に配してなる超電導導体119は、上記導出口から導出される。そして、不図示の紫外線照射装置内を通過する際に、紫外線硬化型樹脂膜121で被覆された支持体120を上面に配してなる超電導導体119に対して紫外線が照射される。これにより、表面に設けられた紫外線硬化型樹脂膜121は、硬化して絶縁被膜となる。
【0055】
すなわち、上記(3)は、第二工程で形成された付着物に光を照射するか、または熱を加えることにより、該付着物を固化させる第三工程を意味する。
【0056】
少なくとも上記の第一工程〜第三工程を経ることにより、本発明に係る超電導テープ線材118(第一の超電導テープ線材10)が得られる。その際、支持体120を上面に配した超電導導体119からなる構造体を母液(紫外線硬化型樹脂液)126bから引き上げて、その長手方向(図4において上方)に移動させる速度は、0.1〜2.0m/s程度が好ましい。
【0057】
ここでは、第一の超電導テープ線材10を例として詳述したが、他の超電導テープ線材、すなわち第二の超電導テープ線材20や第三の超電導テープ線材30についても、同様の手順により作製できることは言うまでもない。つまり、第一の超電導テープ線材10を作製する際に用いた構造体15の代わりに、構造体25あるいは構造体35を使用するだけでよい。
【0058】
また、図1〜3においては各構造体15、25、35の外側にのみ絶縁被膜を設けた例を示したが、これに加えて構造体の間にも絶縁被膜と同じ絶縁材料からなる薄膜が挟まれるように配置してもよい。例えば、構造体15の場合で説明すると、超電導導体11とその上面に配されるテープ状の支持体A12との間に上記薄膜が挟まれ、かつ、この3層からなる積層体を包み込むように樹脂被膜13を設けても構わない。この超電導導体11と支持体A12との間に挿入された薄膜は、上下2層を接着する作用を発揮するので、上下2層がずれにくくなり、巻線の際にずれに起因して生じる樹脂被膜の剥がれを防止するので好ましい。
【0059】
上述した工程により作製してなる超電導テープ線材を巻回してコイルなどに適用する場合は、巻回された状態において、超電導導体が内側に配置され支持体が外側となるように超電導テープ線材を設ける必要がある。この構成により、以下に述べる作用・効果が得られるので好ましい。なお、このような超電導テープ線材を複数本用い、転位撚線構造としても構わない。
【0060】
(a)電磁力対策(補強効果)
超電導テープ線材をコイルに用いる場合には、各超電導テープ線材を構成する超電導導体に対して電磁力(フープ力)が加わるが、このとき支持体が超電導導体に加わるフープ力を支える方向に位置していないと、超電導導体の超電導特性が劣化してしまう。支持体付きの超電導導体からなる超電導テープ線材を採用することで、常に超電導導体に加わるフープ力を支えることが可能になる(以下では、補強効果とも呼ぶ)。
【0061】
(b)絶縁特性の付与
従来、超電導テープ線材を用いて巻線する際は、超電導テープ線材間の電気的な絶縁性を確保するため、超電導テープ線材間にカプトンテープを巻き付けることが必要であった。しかしながら、本発明に係る超電導テープ線材は、その外周を絶縁樹脂で被覆した線材構造をなしているので、超電導テープ線材間の絶縁性が確実に確保される。したがって、本発明に係る超電導テープ線材を採用すれば、従来要した絶縁テープを巻き付ける工程が省略できるので、大幅なコスト削減が図れる。
【0062】
(c)電流バイパス効果
超電導テープ線材に定常電流(超電導状態)を通電している際に、外部擾乱あるいは導体内部における擾乱等により、超電導状態が壊れて常電導状態になることがある。このとき、場合によっては超電導導体の焼損にもつながることから、通常、超電導マグネットには保護を目的とした回路を組み込んだり、超電導導体自身に安定化を目的とした低抵抗材料を組み込む対策が有効である。
【0063】
本発明に係る第三の超電導テープ線材では、超電導導体31の上側に支持体32を設けることにより上述した補強効果を持たせることができる。これに加えて、第三の超電導テープ線材は、超電導導体31の下側に安定化体34として例えば比較的低抵抗な銅合金を組み込まれている。この安定化体34は、超電導状態が壊れて常電導状態に移行し、導体温度が上昇して超電導導体31が焼き切れる前に、銅合金側に電流をバイパスさせることにより、超電導導体31の温度上昇を防止する役割を果たす。
【0064】
【実施例】
(実施例1)
本例では、図1に示した第一の超電導テープ線材10の機械的特性について調べた結果について述べる。その際、超電導テープ線材10の各構成物、すなわち超電導導体11、支持体12および樹脂被膜13は、表1に示すものとした。
【0065】
【表1】
【0066】
図5は、本発明に係る超電導テープ線材の機械特性を示すグラフであり、横軸は引張歪、縦軸は引張応力を表す。図5において、点線が本発明に係る超電導テープ線材(図中では補強テープ線材と表記)の結果であり、実線は支持体(図中ではSUSテープと表記)、二点鎖線は超電導導体(図中ではBi系テープ線と表記)のそれぞれ結果を、比較のために掲載した。
【0067】
図5より、超電導導体10(二点鎖線)とSUS材からなる支持体12(実線)を複合化したことにより、本発明に係る超電導テープ線材(点線)は剛性が高くなるとともに、破断強度も向上したことが分かった。なお、本発明に係る超電導テープ線材の剛性は110GPaであり、この値は複合則により求めた数値と同等であった。
【0068】
(実施例2)
本例では、図1に示した第一の超電導テープ線材10の電気的特性について調べた結果について述べる。超電導テープ線材10の各構成物、すなわち超電導導体11、支持体12および樹脂被膜13は、実施例1と同様に表1に示すものを用いた。
【0069】
図6は、本発明に係る超電導テープ線材における臨界電流特性の引張応力依存性を示すグラフである。図6において、○印は本発明に係る超電導テープ線材(図中では補強テープ線材と表記)の結果であり、■印は超電導導体(図中ではBi系テープ単線と表記)の結果を比較のために掲載した。
【0070】
図6より、以下の点が明らかとなった。
(1)Bi系テープ単線からなる超電導導体(■印)の場合は、60MPaの引張応力で線材が破綻し、臨界電流が急激に低下した(図中では、”fracture”と記載した点を指す)。
(2)これに対し、支持体により補強された超電導テープ線材(○印)は、195MPaの引張応力まで臨界電流が安定に保たれる。
(3)支持体の特性低下が始まる引張応力は200MPa(図5参照)であることから判断すると、上記(2)の195MPaという数値は、0.2%を越える歪が加わる領域に対応することから、超電導導体の伸びに起因して特性が低下したものと本発明者らは推定した。
【0071】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る第一乃至第三の超電導テープ線材は何れも、少なくともテープ状の超電導導体と、前記超電導導体の上面に配されるテープ状の支持体と、前記超電導導体及び前記支持体Aからなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜を備えている。つまり、本発明に係る超電導テープ線材は、高い剛性を有する支持体を超電導導体に沿わせてなる構造体を、さらに樹脂被膜で覆った構成をなしているので、支持体と殆ど同程度の高い引張応力をもつことが可能となる。
【0072】
張力巻線を行う場合には、コイルの巻線精度を確保するために50N以上の張力を加えて巻線を行うことが望ましいが、この値はBi系の超電導導体の破断張力(40N)と同等であることから、これまでは張力を20N以下に抑えて巻線をしていた。これに対して、本発明に係る超電導テープ線材は、50N以上の張力を加えても破断することがなく、極めて安定した状態が維持できる。
【0073】
したがって、本発明に係る超電導テープ線材は、例えばコイル巻線工程などにおいて張力巻線を行う際に、従来より高い張力で巻き付け作業を行うことができるので、例えば巻線精度の高い高強度マグネットの製作に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る超電導テープ線材の一例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明に係る超電導テープ線材の他の一例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明に係る超電導テープ線材の他の一例を示す模式的断面図である。
【図4】本発明に係る超電導テープ線材を構成する樹脂被膜の形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図5】本発明に係る超電導テープ線材の機械特性を示すグラフである。
【図6】本発明に係る超電導テープ線材における臨界電流特性の引張応力依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
10、20、30 超電導テープ線材、
11、21、31 超電導導体、
12、22a、22b、32 支持体A〜D、
13、23、33 樹脂被膜、
15、25、35 構造体、
34 安定化体。
Claims (5)
- テープ状の超電導導体、前記超電導導体の上面に配されるテープ状の支持体A、並びに、前記超電導導体及び前記支持体Aからなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜からなることを特徴とする超電導テープ線材。
- テープ状の超電導導体、前記超電導導体の上面に配されるテープ状の支持体B、前記超電導導体の下面に沿わせて配されるテープ状の支持体C、並びに、前記超電導導体、前記支持体B及び前記支持体Cからなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜からなることを特徴とする超電導テープ線材。
- テープ状の超電導導体、前記超電導導体の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体D、前記超電導導体の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体、並びに、前記超電導導体、前記支持体D及び前記安定化体からなる積層体を包み込むように設けられる樹脂被膜からなることを特徴とする超電導テープ線材。
- テープ状の超電導導体、及び、前記超電導導体の上面若しくは上面と下面に沿わせて配されるテープ状の支持体、又は、前記超電導導体の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体と前記超電導導体の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体、からなる積層体を包み込むように樹脂被膜を設ける超電導テープ線材の製造装置であって、
前記支持体又は前記安定化体を沿わせてなる前記超電導導体をその長手方向に、前記樹脂被膜の母液内で移動させて、前記積層体の外周面に前記母液を被着させ付着物を形成する第一手段と、
前記付着物の表面に規制板をあてて、その厚みを制御する第二手段と、
前記付着物に光を照射する又は熱を加えることにより、該付着物を固化させる第三手段とを、
少なくとも具備したことを特徴とする超電導テープ線材の製造装置。 - テープ状の超電導導体、及び、前記超電導導体の上面若しくは上面と下面に沿わせて配されるテープ状の支持体、又は、前記超電導導体の上面に沿わせて配されるテープ状の支持体と前記超電導導体の下面に沿わせて配されるテープ状の安定化体、からなる積層体を包み込むように樹脂被膜を設ける超電導テープ線材の製造方法であって、
前記支持体又は前記安定化体を沿わせてなる前記超電導導体をその長手方向に、前記樹脂被膜の母液内で移動させて、前記積層体の外周面に前記母液を被着させ付着物を形成する第一工程と、
前記付着物の表面に規制板をあてて、その厚みを制御する第二工程と、
前記付着物に光を照射するか、または熱を加えることにより、該付着物を固化させる第三工程とを、
少なくとも具備したことを特徴とする超電導テープ線材の製造方法。
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JP2011113933A (ja) * | 2009-11-30 | 2011-06-09 | Toshiba Corp | 超電導線およびそれを用いた超電導コイル |
WO2011129325A1 (ja) * | 2010-04-16 | 2011-10-20 | 株式会社フジクラ | 超電導コイル及びその製造方法 |
JP2020055711A (ja) * | 2018-10-02 | 2020-04-09 | 日本製鉄株式会社 | 酸化物超電導バルク導体 |
-
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- 2003-06-19 JP JP2003175090A patent/JP2005011702A/ja active Pending
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