JP2005007274A - 複層塗膜形成方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明により、未硬化電着塗膜上に水性中塗り塗料を塗布して両者を一度に加熱硬化する2ウェット塗装方法を利用して、両層が混層することなく、防錆性に優れた複層塗膜が得られる塗膜形成方法を提供し、更に、得られた複層硬化塗膜上に上塗りベース塗料およびクリヤー塗料をウェットにて重ね塗りした後、2度目の焼付けを行い、耐チッピング性、外観および耐黄変性に優れた多層塗膜を得ることができる多層塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】本発明は、導電性基材上に電着塗装し、未硬化の電着塗膜を形成する工程(I)、および前記電着塗膜の上に、水性中塗り塗料を塗布した後、前記未硬化の電着塗膜および中塗り塗膜を同時に加熱硬化させる工程(II)を含み、上記電着/中塗り複層塗膜において、両層の構成成分であるバインダー樹脂および硬化剤の溶解性パラメーターを特定の関係式を満足する範囲内に制御することを特徴とする複層塗膜形成方法に関する。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明は、導電性基材上に電着塗装し、未硬化の電着塗膜を形成する工程(I)、および前記電着塗膜の上に、水性中塗り塗料を塗布した後、前記未硬化の電着塗膜および中塗り塗膜を同時に加熱硬化させる工程(II)を含み、上記電着/中塗り複層塗膜において、両層の構成成分であるバインダー樹脂および硬化剤の溶解性パラメーターを特定の関係式を満足する範囲内に制御することを特徴とする複層塗膜形成方法に関する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、未硬化の電着塗膜が形成された被塗装物上に、主に水性中塗り塗料をウェットオンウェットで塗布した後、両者を一度に加熱して硬化を行う2ウェット塗装方法を利用し、電着/中塗り両層が混層することなく、防錆性に優れた複層塗膜を得ることができる塗膜形成方法に関する。更に本発明は、得られた複層硬化塗膜上に、上塗りベース塗料およびクリヤー塗料をウェットにて重ね塗りした後、2度目の焼付けを行う多層塗膜形成方法に関するものであり、更に詳細には、優れた耐チッピング性と優れた外観を有し、かつ黄変のない多層塗膜を得ることができる多層塗膜形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、塗料分野、特に自動車塗装分野において、省資源、省コストおよび環境負荷(VOCおよびHAPs等)削減の課題を解決するため、塗装工程の短縮化が強く求められている。即ち、従来の自動車塗装仕上げにおいては、電着塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜がそれぞれの塗装後に順次焼き付けされる3コート3ベーク塗装方法によって行われていた。しかしながら近年、電着塗装後に得られた未硬化電着塗膜の上に、水性中塗り塗装を行った後に、両者を同時に焼付けて硬化複層塗膜を得る、いわゆる2ウェット塗装系を利用し、得られた硬化塗膜上に、更に水性上塗りベース塗料およびクリヤー塗料をウェットにて重ね塗りした後、2度目の焼付けを行う多層塗膜形成方法(以後、2ウェット塗装システムと称する)が行われている。上記塗装システムの適用によって、焼付け工程を削減し、しかも、従来の3コート3ベーク塗装方法により得られる3コート膜と同等の塗膜性能を保持することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1〜3には、水性中塗り塗装を含む基本的な2ウェット塗装システムが示されており、現在より20年以前から、すでに一般に公知化されている技術である。
【0004】
しかしながら、現在の技術水準を持ってしても2ウェット塗装によって得られた多層塗膜には、自動車用塗膜としての性能上、解決しなければならない幾つかの問題点が残されている。
【0005】
例えば、上記塗膜性能の中でも、耐衝撃性、特に走行中に自動車車体への小石等の障害物の衝突によるいわゆる耐チッピング性に関しては、従来の3コート3ベーク塗装方法では、耐チッピング性を有する特有の中塗り塗膜を設けること等により、同性能を確保することができたが、上記の2ウェット塗装システムにおいて従来の中塗り塗料を使用すると、ウェット状態による塗り重ねによって得られる塗膜層界面になじみ、反転等の不具合が発生するために、2ウェット塗装システムにより得られる多層塗膜は、従来塗装方法によって得られる塗膜と比較して、防錆性、耐チッピング性および塗膜外観が劣るという欠点があった。
【0006】
そのために、特許文献4〜9には、2ウェット塗装システムにおいて、塗膜に対する衝撃吸収能を有する樹脂層(いわゆる耐チッピングプライマー層)を多層塗膜形成の途中、とりわけ電着塗膜と中塗り塗膜の中間に施すことが開示されている。しかしながら、そのような工程を自動車車体の塗装工程中に更に組み入れることは、逆に塗装工程を増やしてしまうことになり、上記の省工程および省コストを求める市場ニーズにはそぐわない。
【0007】
また、2ウェット塗装システムには電着塗膜の表面粗度による3コート膜の総合外観への影響が大きいという、いわゆる電着塗膜表面下地のムジ感やクレーター、ハジキ等の塗膜欠陥を拾い易いという欠点がある。そのため、下地となる電着塗膜表面の平滑性の高いこと、塗膜欠陥の無いことが、従来塗装システムよりも強く要求される。
【0008】
一方、近年、塗料分野、特に自動車塗装分野においては、環境負荷(VOC等)削減のため、水性塗料が注目されている。水性塗料は、親水性官能基等を持つ塗膜形成性樹脂を親水性溶媒中に水溶化、水分散化またはエマルジョン化したものであり、塗膜形成樹脂にアミン等の中和剤および水性媒体を添加し、分散することによって調製されている。例えば、特許文献10には、2ウェット塗装システムにおいて、水性中塗り塗料を構成する塗膜形成性樹脂として、ポリエステル樹脂を直接にアミン等塩基性物質で中和し、自己乳化することで水性塗料化している。この場合の問題点としてポリエステル樹脂のようにアミン等の塩基性物質に直接触れると、加水分解が起こりやすい結果、水性中塗り塗料の貯蔵安定性が著しく損なわれるという欠点があった。また同時に、上記樹脂の変質は、得られる多層塗膜の黄変を招きやすいという欠点もあった。
【0009】
更に、自動車塗装分野においては、多層化された塗膜全体としての総合塗膜外観において、光線透過率の高い上塗り塗膜と共に、その下地にある多色化された中塗り塗膜による複合された高意匠性が、とりわけ高級車種を中心に求められている。そのために上記2ウェット塗装システムにおいても、変色の無い、かつ平滑性の高い表面を有するカラー中塗り塗膜層を形成することが求められている。
【0010】
【特許文献1】
特公昭56‐20073号公報
【特許文献2】
特公昭56‐33992号公報
【特許文献3】
特公昭58‐43155号公報
【特許文献4】
特開平6‐10189号公報
【特許文献5】
特開平6‐10190号公報
【特許文献6】
特開平6‐17294号公報
【特許文献7】
特開平6‐41787号公報
【特許文献8】
特開平6‐41788号公報
【特許文献9】
特開平6‐65791号公報
【特許文献10】
特許第2989643号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、塗装工程短縮、コスト削減および環境負荷低減を目指す2ウェット塗装システムにおいて、電着塗膜による基本的な防錆性を確保できる電着/中塗り複層塗膜を形成する方法を提供し、更に従来塗装工程によって得られた3コート膜に匹敵する優れた耐衝撃性、特に耐チッピング性を有すると共に、優れた水性塗料の貯蔵安定性を確保した上で、塗膜の黄変がなく、ニーズによっては高意匠性に優れた外観を有する多層塗膜を形成することができる多層塗膜形成方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、2ウェット塗装システムにより形成される電着/中塗り複層塗膜において、両層の構成成分であるバインダー樹脂および硬化剤の溶解性パラメーターを特定の関係式を満足する範囲内に制御することによって、両層の混層を防止して優れた防錆性を有する複層塗膜を形成することができる複層塗膜形成方法を提供し、更に上記複層塗膜上に上塗りベース塗料およびクリヤー塗料をウェットオンウェットにて塗装した後に二度目の同時焼付けをして、優れた耐衝撃性(特に耐チッピング性)、優れた水性塗料の貯蔵安定性により優れた耐黄変性、高意匠性に優れた外観を有する多層塗膜を形成することができる多層塗膜形成方法を提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、導電性基材上に電着塗装し、未硬化の電着塗膜を形成する工程(I)、および
前記電着塗膜の上に、水性中塗り塗料を塗布した後、前記未硬化の電着塗膜および中塗り塗膜を同時に加熱硬化させる工程(II)
を含む複層塗膜形成方法であって、
前記電着塗料が溶解性パラメーターδaを有するバインダー樹脂(a)および溶解性パラメーターδbiを有する少なくとも一種類の硬化剤(bi)を必須成分として含み、かつ前記中塗り塗料が溶解性パラメーターδciを有する少なくとも一種類のバインダー樹脂(ci)および溶解性パラメーターδdiを有する少なくとも一種類の硬化剤(di)を必須成分として含み、かつ前記成分の溶解性パラメーターが以下の3式:
(1)(δa−δci)≧1
(2)(δa−δdi)≧1
(3)(δbi−δdi)≧1.5
で表される関係を満足することを特徴とする複層塗膜形成方法である。
【0014】
本発明の複層塗膜形成方法の一つの態様として、前記工程(I)および工程(II)の間に、
前記電着塗膜の硬化に必要な焼付け温度よりも低い温度で前記電着塗膜をプレヒートし、未硬化の電着塗膜を形成する工程(I’)
を行なう複層塗膜形成方法、即ち、
導電性基材上に電着塗装する工程(I)、
前記電着塗膜の硬化に必要な焼付け温度よりも低い温度で前記電着塗膜をプレヒートし、未硬化の電着塗膜を形成する工程(I’)、および
前記電着塗膜の上に、水性中塗り塗料を塗布した後、前記未硬化の電着塗膜および中塗り塗膜を同時に加熱硬化させる工程(II)
を含む複層塗膜形成方法であって、
前記電着塗料が溶解性パラメーターδaを有するバインダー樹脂(a)および溶解性パラメーターδbiを有する少なくとも一種類の硬化剤(bi)を必須成分として含み、かつ前記中塗り塗料が溶解性パラメーターδciを有する少なくとも一種類のバインダー樹脂(ci)および溶解性パラメーターδdiを有する少なくとも一種類の硬化剤(di)を必須成分として含み、かつ前記成分の溶解性パラメーターが以下の3式:
(1)(δa−δci)≧1
(2)(δa−δdi)≧1
(3)(δbi−δdi)≧1.5
で表される関係を満足することを特徴とする複層塗膜形成方法がある。
【0015】
本発明の別の態様として、前記の方法で得られた複層塗膜における前記中塗り塗膜の上に、上塗りベース塗料を塗布して、未硬化のベース塗膜を形成する工程(III)、および
前記ベース塗膜の上に、上塗りクリヤー塗料を塗布した後、未硬化のベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に加熱硬化する工程(IV)
を含む多層塗膜形成方法がある。
【0016】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
[工程(I)]
本発明の多層塗膜形成方法において、上記工程(I)は、導電性基材上に電着塗料を塗装した後、必要に応じて当該業者公知の後処置方法(水洗浄、および常温における空気乾燥)を施すことによって未硬化の電着塗膜を得る工程である。
【0017】
(電着塗料および電着塗装方法)
上記電着塗料は、溶解性パラメーターδaを有するバインダー樹脂(a)および溶解性パラメーターδbiを有する少なくとも一種類の硬化剤(bi)を必須成分として含むものである。更に上記電着塗料は、上記必須成分に必要に応じて顔料を含む塗料成分を使用することによって、未硬化電着塗膜を形成するものである。
【0018】
本発明の複層塗膜において、上記電着塗料から形成される電着塗膜は、その主な構成成分としての、上記樹脂(a)が、カチオン変性エポキシ樹脂であり、電着塗膜の硬化剤(bi)が少なくとも一種類のブロックドイソシアネートである。
【0019】
次に本発明における電着塗料組成物に関して詳細に述べる。アミン価を有する上記樹脂成分(a)は、樹脂中のアミノ基を適当量の塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸、または蟻酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシン酸等の有機酸で中和処理し、カチオン化エマルジョンとして水中に乳化分散させる。この乳化分散の工程では、樹脂エマルジョンに少なくとも一種類の硬化剤(bi)をコアとして内包させることが望ましい。
【0020】
上記樹脂(a)は、前述のごとくカチオン変性エポキシ樹脂である。一般にカチオン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のエポキシ環を1級アミン、2級アミンあるいは3級アミン酸塩等のアミン類との反応によって開環して製造される。上記出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノール
F、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5‐306327号公報に記載されたオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。このエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のNCO基をメタノール、エタノール等の低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって得られるものである。
【0021】
上記出発原料樹脂は、アミン類によるエポキシ環の開環反応の前に、2官能のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸等により鎖延長して用いることができる。また同じくアミン類によるエポキシ環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良等を目的として、一部のエポキシ環に対して2‐エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ‐2‐エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノ‐2‐エチルヘキシルエーテルのようなモノヒドロキシ化合物を付加して用いることもできる。
【0022】
上記アミン類の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N‐メチルエタノールアミン、トリエチルアミン酸塩、N,N‐ジメチルエタノールアミン酸塩などの1級、2級または3級アミン酸塩を挙げることができる。また、アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンの様なケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミンも使用することができる。これらのアミン類は、全てのエポキシ環を開環させるために、エポキシ環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
【0023】
上記カチオン変性エポキシ樹脂は、数平均分子量1,500〜5,000、好ましくは1,600〜3,000を有することが望ましい。数平均分子量が1,500未満の場合、耐溶剤性および耐食性等の得られる硬化塗膜の物性が劣ることがある。反対に5,000を超える場合は、樹脂溶液の粘度制御が難しく合成が困難なばかりか、得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となることがある。更に樹脂溶液が高粘度であるがゆえに加熱硬化時のフロー性が悪くて、塗膜外観を著しく損ねる場合がある。
【0024】
上記カチオン変性エポキシ樹脂は、ヒドロキシル価が50〜250の範囲となるように分子設計することが好ましい。上記ヒドロキシル価が50未満では塗膜の硬化不良を招き、反対に250を超えると硬化後塗膜中に過剰の水酸基が残存する結果、耐水性が低下することがある。
【0025】
また上記カチオン変性エポキシ樹脂は、アミン価が40〜150の範囲となるように分子設計することが好ましい。上記アミン価が40未満では上記酸中和による水媒体中での乳化分散不良を招き、反対に150を超えると硬化後塗膜中に過剰のアミノ基が残存する結果、耐水性が低下することがある。
【0026】
更に上記樹脂(a)の軟化点は、80℃以上、更に好ましくは100℃以上のものを用いることが、本発明の目的である硬化形成塗膜の耐溶剤性、耐食性あるいは塗膜外観の高レベルでの両立化を達成する上で望ましい。
【0027】
上記硬化剤(bi)としては、加熱時に各樹脂成分を硬化させることが可能であれば、どのような種類のものでも良いが、本発明においては電着樹脂の硬化剤として好適なブロックドイソシアネートが推奨される。上記ブロックドイソシアネートの原料であるポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’‐メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環族ポリイソシアネート、4,4’‐ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。これらを適当な封止剤でブロック化することにより、上記ブロックドイソシアネートを得ることができる。
【0028】
上記封止剤の例としては、n‐ブタノール、n‐ヘキシルアルコール、2‐エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2‐エチルヘキシルエーテル等のセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノール等のポリエーテル型両末端ジオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4‐ブタンジオール等のジオール類とシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等のジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール;パラ‐t‐ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;およびε‐カプロラクタム、γ‐ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。とくにオキシム類およびラクタム類の封止剤は低温で解離するため、後工程にて中塗り塗膜と同時焼付けを行う際に、樹脂硬化性の観点からみて好適である。
【0029】
上記ブロックドイソシアネートは封止剤の単独あるいは複数種の使用によってあらかじめブロック化しておくことが望まれる。ブロック化率については、上記の各樹脂成分と変性反応する目的がなければ、塗料の貯蔵安定性確保のためにも100%にしておくことが好ましい。
【0030】
上記ブロックドイソシアネートの上記樹脂成分(a)量に対する配合比は、硬化塗膜の利用目的などで必要とされる架橋度に応じて異なるが、塗膜物性や中塗り塗装適合性を考慮すると15〜40重量%の範囲が好ましい。この配合比が15重量%未満では塗膜硬化不良を招く結果、機械的強度などの塗膜物性が低くなることがあり、また、中塗り塗装時に塗料シンナーによって塗膜が侵されるなど外観不良を招く場合がある。一方、40重量%を超えると、逆に硬化過剰となって、耐衝撃性等の塗膜物性不良などを招くことがある。なお、ブロックドポリイソシアネートは、塗膜物性、硬化度および硬化温度の調節等の都合により、複数種を組み合わせて使用しても良い。
【0031】
アミン価を有する上記樹脂成分(a)は、前述のように樹脂中のアミノ基を適当量の無機酸または有機酸で中和処理し、カチオン化エマルジョンとして水中に乳化分散させるが、この乳化分散の工程では、樹脂エマルジョンに少なくとも一種類の硬化剤(bi)をコアとして内包させることが望ましい。その際に、エマルジョンの平均粒子径は、それぞれ0.01〜0.5μm、好ましくは0.02〜0.3μm、より好ましくは0.05〜0.2μmである。平均粒子径が0.01μm未満であると、樹脂成分を水分散するのに必要な中和剤が過剰量となり、一定電気量あたりの電着塗着効率が低下する。また平均粒子径が0.5μmを超えると、粒子の分散性が低下するために、電着塗料の貯蔵安定性が低くなる。
【0032】
本発明の方法で使用する電着塗料に配合する顔料は、通常、塗料に使用されるものであれば特に制限なく使用することができる。その例としては、カーボンブラック、二酸化チタン、グラファイト等の着色顔料、カオリン、珪酸アルミニウム(クレー)、タルク等の体質顔料、リンモリブデン酸アルミニウム等の防錆顔料が挙げられる。これらの中でも、電着塗装後の塗膜中で分散を担う顔料として特に好ましいのは、二酸化チタン、カーボンブラック、珪酸アルミニウム(クレー)およびリンモリブデン酸アルミニウムである。特に二酸化チタン、カーボンブラックは着色顔料として隠蔽性が高く、しかも安価であることから、電着塗膜用に最適である。なお、上記顔料は単独で使用することもできるが、目的に合わせて複数種を使用するのが一般的である。
【0033】
上記電着塗料中に含有される上記顔料(P)および樹脂固形分(V)の合計重量(P+V)に対する上記顔料の重量比{P/(P+V)}(以後、PWCと称する)が、10〜30重量%の範囲にあることが好ましい。上記重量比が10重量%未満では、顔料不足により塗膜に対する水分などの腐食要因の遮断性が大きく低下し、実用レベルでの耐候性や耐食性を発現できないことがある。また、上記重量比が30重量%を超えると、顔料が過多となり硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が著しく悪くなることがある。ここで、上記樹脂固形分(V)とは、電着塗料の主樹脂である上記樹脂(a)および硬化剤(bi)の他、顔料分散樹脂をも含めた電着塗膜を構成する全樹脂バインダーの合計固形分量を示す。
【0034】
電着塗料の顔料は、分散樹脂による顔料ペーストを調製した上で塗料中に配合する。顔料分散樹脂の種類および組成に関しては、上記樹脂成分(a)と同一のものか、あるいはそれと近似組成で、かつ上記溶解性パラメーターの条件を満足するものが好適である。また、顔料に対する分散樹脂の適性配合量は、5〜40固形分重量%(対顔料重量)である。分散樹脂の配合量が5重量%未満の場合は、顔料分散安定性を確保することが困難となり、また40重量%を超える場合は塗膜の硬化性の制御が困難になる場合がある。
【0035】
上記電着塗料組成物は、全固形分濃度が15〜25重量%の範囲となるように調整することが好ましい。全固形分濃度の調節には水性媒体(水単独かまたは水と親水性有機溶剤との混合物)を使用して行う。また、上記塗料組成物中には少量の添加剤を導入しても良い。添加剤の例としては紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、塗膜表面平滑剤、硬化促進剤(有機スズ化合物など)などを挙げることができる。
【0036】
本発明の電着塗膜を形成するためには、被塗装物である導電性基材に陰極(カソード極)端子を接続し、上記水性塗料組成物の浴温15〜35℃、負荷電圧100〜400Vの条件下で、乾燥膜厚10〜30μmとなる量の塗膜を電着塗装する。電着塗装後のウェット電着塗膜は、当該業者にとって公知の方法に従って、水洗(工業用水および脱イオン水洗浄を含む)、および乾燥(室温における自然乾燥もしくはエアーブロー乾燥)による後処置を行うことが望ましい。
【0037】
[工程(I’)]
本発明の複層塗膜形成方法において、上記工程(I’)は、必要に応じて電着塗膜の硬化に必要な焼付け温度よりも低い温度でプレヒートを施し、未硬化状態の電着塗膜を形成する工程である。
【0038】
(プレヒート方法)
上記2ウェット塗装方法において、次の中塗り塗装工程に入る前に、未硬化の電着塗膜に対して、必要に応じてプレヒート工程を実施することがあってもよい。特公昭58‐43155号公報には、すでに2ウェット塗装方法における基本的なプレヒート工程についてその詳細が記されている。電着塗膜のプレヒートは、本焼付け前に、ウェット塗膜内部の揮発分を除去し、かつ塗膜の平滑性を高めることによって、硬化塗膜の仕上がりを改良するために行なうのが通常の目的である。しかしながら、本発明における2ウェット塗装方法におけるプレヒート工程には、それ以外に特別の目的がある。それは電着塗膜の焼付温度未満である60〜120℃、加熱時間にして1〜15分間の範囲においてウェット塗膜を予備加熱することで、特に自動車ボディ用鋼板の車体構造における合わせ目部分からの未洗浄電着液の2次タレあるいは次の焼き付け工程における突沸を防止し、該当部分の塗膜欠陥に基づく防錆性不良や外観不良を解消することにある。
【0039】
[工程(II)]
本発明の複層塗膜形成方法において、工程(I)、更に必要に応じて次の工程(I’)終了後の未硬化電着塗膜の上に、水性中塗り塗料を塗布した後、上記未硬化の電着塗膜および中塗り塗膜を同時に加熱硬化させる工程である。
【0040】
(水性中塗り塗料および塗装方法)
上記工程(II)に用いる水性中塗り塗料は、電着塗膜下地を隠蔽し、上塗り塗装後の表面平滑性を確保し、耐衝撃性、耐チッピング性等の塗膜物性を付与するために塗布されるものである。更に、自動車塗装分野においては、多層塗膜全体としての総合塗膜外観において、光線透過率の高い上塗り塗膜と共に、その下地にある多色化された中塗り塗膜による複合された高意匠性が、とりわけ高級車種を中心に求められている。そのために上記2ウェット塗装システムにおいても、変色の無い、かつ平滑性の高い表面を有するカラー中塗り層を形成することが求められている。
【0041】
上記水性中塗り塗料は、被塗装物上に形成された上記未硬化電着塗膜上に塗布され、かつ焼き付けられることによって、両塗膜が同時に硬化塗膜として形成される。上記中塗り塗料は、溶解性パラメーターδciを有する少なくとも一種類のバインダー樹脂(ci)および溶解性パラメーターδdiを有する少なくとも一種類の硬化剤(di)を必須成分として含むものである。更に上記水性中塗り塗料は、上記必須成分に加えて、必要に応じて顔料を含む塗料成分を使用することによって、中塗り塗膜を形成するものである。
【0042】
また前述のように、上記電着塗料は、溶解性パラメーターδaを有するバインダー樹脂(a)および溶解性パラメーターδbiを有する少なくとも一種類の硬化剤(bi)を必須成分として含むものである。本発明において、これら電着/中塗り塗料の構成成分の全ての溶解性パラメーターが以下の3式:
(1)(δa−δci)≧1
(2)(δa−δdi)≧1
(3)(δbi−δdi)≧1.5
で表される関係を満足することが中塗り塗料の設計上必要である。
【0043】
ここで、上記溶解性パラメーターδとは、当該業者等の間で一般にSP(ソルビリティ・パラメーター;solubility parameter)とも呼ばれるものであって、樹脂の親水性または疎水性の度合いを示す尺度であり、また樹脂間の相溶性を判断する上でも重要な尺度である。また、上記溶解性パラメーターは、例えば濁度測定法により数値定量化されるものであることも当該業者等の間で公知である。
参考文献:K.W.Suh,D.H.Clarke J.Polymer.Sci.,A−1,5,1671(1967)
【0044】
上記式(1)の関係は、ウェット状態での中塗り層および電着層との界面を確保し、かつ塗膜物性の一体化を計る上で重要である。つまり上記式(1)において、上記電着塗料のバインダー樹脂(a)の溶解性パラメーターδaと、上記中塗り塗料のバインダー樹脂(ci)の溶解性パラメーターδciとの差異が1以上であることが必要である。
【0045】
一般に、樹脂間の溶解性パラメーターの差異が0.2以下であれば、ほぼ完全に相溶しており、0.2を超えると、相溶性を失い、塗膜が分離構造を呈し始めると考えられている。上記複層塗膜においては、明瞭に層分離した塗膜構造を形成することが必要であるため、電着塗膜層を構成するバインダー樹脂(a)の溶解性パラメーター値(δa)と中塗り塗膜層を構成するバインダー樹脂(ci)の溶解性パラメーター値(δci)の差異(δa−δci)が、少なくとも1以上であることが必要になる。上記差異が1未満であると、電着/中塗り複層塗膜において明瞭に層分離した塗膜構造が形成されず、耐チッピング性、耐黄変性および耐食性の高レベルでの両立化が困難になる。
【0046】
上記溶解性パラメーター値(δa)は、10.5〜12.0、好ましくは10.8〜11.7であることが望ましい。上記δaが10.5未満であると、電着層の基材への接着性が不足するために防錆性が低下する恐れがある。一方12.0を超えると、樹脂自体の親水性が過度に高いために電着硬化膜の耐水性が低下する恐れがある。
【0047】
上記樹脂層の分離状態を確認する方法として、電着塗膜の断面をビデオマイクロスコープによって目視観察するか、走査型電子顕微鏡(SEM観察)によって観察する方法が挙げられる。また透過型電子顕微鏡(TEM)、IRイメージング装置により、複層膜界面の混層状態を観察及び分析することができる。さらに各樹脂層を構成する樹脂成分を同定するには、例えば全反射型フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR‐ATR)を使用することができる。
【0048】
上記式(2)および(3)については両方が同時に成立することが、中塗り層を構成する硬化剤(di)と電着塗料のバインダー樹脂(a)およびその硬化剤(bi)との不相溶性を確保し、硬化剤(di)の電着塗膜層への移行を防止する上で重要である。上記式(2)および(3)が同時に成立することにより、焼き付け時に硬化剤(di)による中塗り塗膜の硬化性が確保される結果、優れた塗膜外観を有する中塗り塗膜を得ることができる。また同時に電着塗膜層の硬化性も確保されるために、防錆性に優れた複層塗膜を得ることができる。
【0049】
上記式(2)および(3)の内、少なくとも一方の式が不成立の場合は、中塗り塗膜の硬化剤(di)が電着塗膜成分と完全あるいは部分的に相溶してしまう結果、たとえ電着塗膜層と中塗り塗膜層の界面を維持し得たとしても、両塗膜の硬化が不十分となり、中塗り塗膜の表面外観も成立しない場合がある。ここで、上記式(2)が不成立の場合とは、電着塗料のバインダー樹脂(a)と中塗り塗膜の硬化剤(di)との溶解性パラメーターの差異(δa−δdi)が1未満となる場合であり、上記式(3)が不成立の場合とは、電着塗料の硬化剤(bi)と中塗り塗料の硬化剤(di)との溶解性パラメーターの差異(δbi−δdi)が1.5未満となる場合である。
【0050】
特に式(3)に示すように、電着塗料の硬化剤(bi)と中塗り塗料の硬化剤(di)との溶解性パラメーターの差異(δbi−δdi)が1.5以上と、上記式(1)の電着/中塗り塗料樹脂間および上記式(2)の電着塗料樹脂と中塗り硬化剤間の溶解性パラメーターの差異よりも更に大きな値であることが、不相溶性を確保する上で是非必要であることが判った。
【0051】
上記溶解性パラメーター値(δbi)は、10.5〜12.5、好ましくは11.0〜12.0であることが望ましい。上記δbiが10.5未満であると電着樹脂(a)との相溶性が不足するか、あるいは中塗り層への硬化剤(bi)移行による電着/中塗り複層系の硬化性低下を招く恐れがある。一方12.5を超えると、電着樹脂(a)との相溶性が不足するために電着層の硬化阻害を招く恐れがある。
【0052】
次いで、本発明の水性中塗り塗料組成物に関して詳細に述べる。
上記水性中塗り塗料は、熱可塑性樹脂(バインダー樹脂)、硬化剤および顔料分散ペースト等を含む固形分を、必要に応じてアルコール等の親水性媒体を含む水中に分散させて調製されるものである。
【0053】
本発明においては、バインダーとなる上記熱可塑性樹脂(ci)は好ましくは酸価10〜100のアニオン変性アクリル樹脂であり、従って、上記中塗り塗料は、アニオン変性アクリル樹脂による水性ディスパージョンを含む水性塗料である。
【0054】
上記樹脂(ci)は、上述のごとく少なくとも一種類のアニオン変性アクリル樹脂である。アニオン変性アクリル樹脂は、酸性基を有するモノマーを含むアクリル系および/または非アクリル系モノマーをもとに、当該業者にとって公知の溶液重合法あるいは塊状重合法で合成することができる。
【0055】
上記酸性基を有するモノマーの例には、例えばカルボン酸基を有するモノマーとして(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられ、リン酸基を有するモノマーとしてモノ(メタ)アクリロイルアシッドホスフェート(城北化学工業社製「JAMP‐514」)、モノ(2‐(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート(共栄化学社製「ライトエステルPM」および「ライトエステルPA」)等が挙げられる。
【0056】
目的のアクリル共重合体は、上記酸性基を有するモノマーの少なくとも1種類と、ヒドロキシル基含有アクリルモノマーと、その他のアクリル系および/または非アクリル系モノマーとを共重合することによって得られる。
【0057】
上記ヒドロキシル基含有アクリルモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、あるいは2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのような水酸基含有(メタ)アクリルエステルと、ε−カプロラクトンとの付加生成物等が挙げられる。
【0058】
その他のアクリル系モノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n‐プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n‐ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t‐ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2‐エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、非アクリル系モノマーの例としては、スチレン、ビニルトルエン、α‐メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドおよび酢酸ビニルを挙げることができる。
【0059】
上記樹脂(ci)は、ヒドロキシル価が50〜150の範囲となるように分子設計することが好ましい。ヒドロキシル価が50未満では塗膜の硬化不良を招き、反対に150を超えると得られる硬化塗膜中に過剰の水酸基が残存する結果、耐水性が低下することがある。また上記樹脂(ci)の水酸基は、1級水酸基に対して、2級水酸基を併用し硬化反応速度を調整することで、塗膜の表面平滑性を高めることができ、同時に層間密着性の向上にも効果がある。
【0060】
また上記式(1)を成立させるために、上記樹脂(ci)の溶解性パラメーターδciは、9.5〜10.5、好ましくは9.7〜10.3の範囲に制御しなければならない場合がほとんどであり、そのために樹脂合成に用いる共重合モノマーとして炭素数6以上を有するアルキル基置換(メタ)アクリレート系モノマーを少なくとも10重量%以上用いることによって、アクリル樹脂の溶解性パラメーターを調整することが好ましい。上記溶解性パラメーターδciが、9.5未満であると、中塗り層の極度の疎水化を招くために、上塗り層との密着不良を招く恐れがある。また、10.5を超えると、電着樹脂層へ混層による電着/中塗り界面制御不能を招く。その結果、複層系の硬化不良を起こす可能性がある。
【0061】
上記樹脂(ci)の数平均分子量は1,500〜20,000、好ましくは2,000〜10,000の範囲であれば好適である。上記数平均分子量が1,500未満では樹脂粘度が低くなり過ぎるために下層の未硬化電着塗膜との混合、あるいは層反転等の不良が生じる恐れがある。また硬化塗膜の耐溶剤性等の物性が劣る場合がある。反対に上記数平均分子量が20,000を超えると、樹脂溶液の粘度が高いために得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となるばかりか、フロー性が劣るために得られた中塗り塗膜の外観が著しく低下してしまうことがある。なお、上記樹脂(ci)は1種のみ使用することもできるが、塗膜性能のバランス化を計るために、2種あるいはそれ以上の種類を使用することもできる。
【0062】
また上記アニオン変性アクリル樹脂(ci)は、酸価が10〜100、好ましくは20〜50の範囲となるように分子設計することが望ましい。酸価が10未満では酸基の中和による水媒体中での乳化分散不良を招き、反対に100を超えると得られる硬化塗膜中に過剰の酸基が残存する結果、耐水性が低下することがある。
【0063】
上記硬化剤(di)としては、加熱時に上記バインダー樹脂成分を硬化させることが可能であれば、どのような種類のものでも良いが、その中でも中塗り樹脂の硬化剤として好適な疎水性メラミン樹脂が推奨される。本発明において好ましく用いられるメラミン樹脂としては、とくに炭素数4以上の一価アルコールによるアルキルエーテル化メラミン(例えば、ブチル化メラミン)が挙げられる。また、上記硬化剤(di)の溶解性パラメーターδdiは、9.5〜10.5、好ましくは9.7〜10.3であり、かつ上記式(2)および式(3)を成立するように溶解性パラメーターを調整しなければならない。上記溶解性パラメーターδdiが、9.5未満であると、中塗り層の極度の疎水化を招くために、上塗り層との密着不良を招く恐れがある。一方10.5を超えると電着層へ混層による界面制御不能を招く恐れがある。その結果、電着/中塗り複層系の硬化不良を起こす可能性がある。
【0064】
上記硬化剤(di)の上記中塗りバインダー樹脂成分(ci)との合計量に対する配合比率{di/(ci+di)}は、硬化塗膜の利用目的などで必要とされる架橋度に応じて異なるが、塗膜物性や上塗り塗装適合性を考慮すると15〜40重量%の範囲が好ましい。この配合比が15重量%未満では塗膜の硬化不良を招く結果、機械的強度などの塗膜物性が低下することがあり、また、上塗り塗装時に塗料シンナーによって塗膜が侵されるなど外観不良を招く場合がある。一方、40重量%を超えると、逆に硬化過剰となって、耐衝撃性等の塗膜物性不良などを招くことがある。なお、硬化剤(di)は、塗膜物性や硬化度の調節等の都合により、複数種を組み合わせて使用しても良い。
【0065】
水性中塗り塗料用途の樹脂ディスパージョンは、上記樹脂成分(ci)に対して樹脂中の酸性基を適当量のアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、もしくはメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジメチルドデシルアミン等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基含有1〜3級アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、2‐アミノ‐2‐メチルプロパノール等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状アルキル基および炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のヒドロキシアルキル基を含有する1〜3級アミン;トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリドデシルアルコールアミン等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のヒドロキシアルキル基のみを含有する3級アミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の炭素数1〜20の置換又は非置換鎖状ポリアミン;モルホリン、N‐メチルモルホリン、N‐エチルモルホリン等の炭素数1〜20の置換又は非置換環状モノアミン;ピペラジン、N‐メチルピペラジン、N,N‐ジメチルピペラジン等の炭素数1〜20の置換又は非置換環状ポリアミン等の有機塩基で中和処理した後、上記樹脂(ci)および上記硬化剤(di)と共に混合し、アニオン性樹脂ディスパージョンとして水中に乳化分散させることによって調製される。
【0066】
上記水性中塗り塗料は、少なくとも上記樹脂(ci)および上記硬化剤(di)を含む粒子および必要に応じて顔料分散体から成り、かつ粒子中に上記樹脂(ci)はシェルとして、硬化剤(di)はコアとして含有される。上記粒子の平均粒子径は、それぞれ0.01〜0.5μm、好ましくは0.02〜0.3μm、より好ましくは0.05〜0.2μmである。平均粒子径が0.01μm未満であると、樹脂成分を水分散するのに必要な中和剤、あるいは乳化剤が過剰量となり、塗膜の耐水性が低下する。また平均粒子径が0.5μmを超えると、粒子の分散性が低下するために、中塗り塗料の貯蔵安定性が低下する。
【0067】
上記水性中塗り塗料としては、上記電着塗料を塗布した後、未硬化の状態で重ねて塗布するために、層混合や層反転、またはタレ等の不良事象が発生し易い。本発明においては不良事象防止のために、更に必要に応じて公知の粘性制御剤を水性中塗り塗料中に含有する。
【0068】
本発明にて用いられる粘性制御剤としては、例えば、セルロース系のものとして、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、市販されているものとして「チローゼ(Zirrhose)MH」および「チローゼH」(いずれもヘキスト社(Hoechst AG)製);アルカリ増粘型のものとして、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、市販されているものとしては、「プライマル(Primal)ASE‐60」、「プライマルTT‐615」、「プライマルRM‐5」(いずれもローム&ハース社(Rohm and Haas Co.)製)、「ユーカーポリフォーブ(Ucar Polyphobe)」(ユニオンカーバイド社(Union Carbide Corporation)製)等;ノニオン性のものとして、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、市販されているものとしては、「アデカノールUH‐420」、「アデカノールUH‐462」、「アデカノールUH‐472」(いずれも旭電化工業社製)、「プライマルRH‐1020」(ローム&ハース社製)、「クラレポバール」(クラレ社製)等;両親媒性分子内部にウレタン結合を含むウレタン会合型増粘剤として市販されているものとしては、「アデカノールSDX‐1014」(旭電化工業社製)を挙げることができる。
【0069】
上記粘性制御剤の中でも、分子内部にウレタン結合を含むウレタン会合型増粘剤が水性塗料中において粘性制御効果が高く、本発明においてもより好ましく用いることができる。
【0070】
上記アクリル樹脂粒子をも含めた粘性制御剤は、何れか単独の使用でも良く、また複数種を組み合わせて使用しても良い。
【0071】
上記粘性制御剤の添加量は、水性中塗り塗料の樹脂固形分100重量部に対して、0.01〜40重量部、好ましくは0.05〜30重量部、より好ましくは0.1〜20重量部である。0.01重量部未満であると、充分な粘性制御効果が得られず、また40重量部を超えるとフロー性が極度に損なわれる結果、得られる焼付け塗膜の外観が低下する。
【0072】
また上記水性中塗り塗料は、エラストマーを含んでいてもよい。上記エラストマーを含むことによって、得られる中塗り塗膜に柔軟性を付与し、耐衝撃性、耐チッピング性を向上することができる。上記エラストマーは、その設計ガラス転移温度が、−110〜10℃であることが好ましい。上記エラストマーの設計ガラス転移温度が10℃を超えると、得られる塗膜の柔軟性や耐衝撃性の効果が低くなり、−110℃未満のものはエラストマーの実際上の設計が困難である。上記設計ガラス転移温度は、上記エラストマーを製造する際の原料(単量体もしくはホモポリマー)に基づく既知のガラス転移温度および配合量比から、公知の方法により予想値を計算しても良い。
【0073】
本発明の中塗り塗料に使用可能な上記エラストマーの数平均分子量は、1,000〜300,000、好ましくは5,000〜200,000の範囲である。1,000未満であると、分子量が低いために充分な耐衝撃性(耐チッピング性)が発現されない。また300,000を超えると、樹脂粘度が高くなり過ぎて、乳化分散操作を行うことが困難になる。
【0074】
上記エラストマーとしては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン系単量体のホモポリマー、又は、共役ジエン系単量体とエチレン、プロピレン、エチリデン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4‐ヘキサジエン、酢酸ビニル、スチレン、アクリルニトリル、イソブチレン、(メタ)アクリル酸(エステル)等の単量体とのランダムもしくはブロックコポリマー;ジイソシアネートとジオールとの重付加反応によって合成されるポリウレタン系熱可塑性エラストマー;テレフタル酸ジメチル、1,4‐ブタンジオール、ポリ(テトラメチレン)グリコール等を原料とし、エステル交換反応および重縮合反応によって合成されるポリエステル系熱可塑性エラストマー;ラクタム、ジカルボン酸、ポリエーテルジオールを原料とし、エステル交換および重縮合反応によって合成されるポリアミド系エラストマーを挙げることができる。
【0075】
上記エラストマーは、水分散化されたものか、または水溶性のものを使用することによって、上記水性中塗り塗料中に安定に存在せしめることができる。上記水分散化の方法としては、例えば、別途、分散樹脂、界面活性剤等の分散剤を適用して水性媒体中にエマルジョンとして導入することができる。上記エラストマー分散樹脂としては、水性中塗り塗料の構成樹脂である上記樹脂(ci)をそのままか、あるいは適当量の中和剤にて、エラストマーと共に水性媒体中分散することが、塗膜中のエラストマー粒子の分散性と塗膜耐水性の確保のためには好ましい。また別法として、2分子末端に水酸基等の反応性基を有するテレケリックオリゴマー(例としてポリブタジエンジオール、テトラメチレングリコールジオールあるいはε‐ポリカプロラクトンジオール等)にたとえばウレタン化反応等にて、酸性基、ノニオン性基等の極性官能基を導入し、そのままか、あるいは適当量の塩基性中和剤にてアニオン化した上で水性媒体中に分散し、自己乳化エマルジョンをなすことによって目的を達成することができる。
【0076】
更に乳化重合法によって得られたポリブタジエン、ポリイソプレン等の共役ジエン系ゴムエマルジョンあるいはアクリル系ゴムエマルジョンをそのまま塗料に配合しても良い。
【0077】
中塗り塗膜の断面構造としては、エラストマー粒子が分散相となり、上記樹脂(ci)が連続相となるミクロドメイン構造を構成するように設計する必要がある。そのためには、これらのエラストマー分散体の平均粒子径は、サブミクロン領域、特に0.01〜0.2μmの範囲であることが中塗り塗膜表面の外観を良好に維持するためにも望ましい。エラストマー粒子の平均粒子径が、0.01μm未満であると、樹脂成分を水分散するのに必要な中和剤、あるいは乳化剤が過剰量となり、塗膜の耐水性が低下する恐れがある。また平均粒子径が0.2μmを超えると、中塗り塗膜の外観が低下する。
【0078】
上記水性中塗り塗料中の樹脂固形分に対する上記エラストマーの含有量は、固形分基準で5〜40重量%、好ましくは10〜20重量%である。5重量%未満であると、得られる塗膜の耐チッピング性に充分な改良効果が期待できない。また40重量%を超えると中塗り外観の低下が著しくなる。
【0079】
ここで、上記樹脂固形分とは、これらエラストマー、主樹脂である上記樹脂(ci)、および硬化剤(di)の他、顔料分散剤をも含めた中塗り塗膜を構成する全樹脂バインダーの合計固形分量を示す。
【0080】
更に上記水性中塗り塗料は、通常、顔料を含むものである。上記水性中塗り塗料において用いることができる顔料は、まず上記電着塗料において例示したものを挙げることができる。また特に耐候性の向上、隠蔽性の確保、および安価である点から、無機系着色顔料を中心に利用することが好ましい。特に二酸化チタンは、白色の着色隠蔽性に優れ、しかも安価であることから、より好ましい。
【0081】
また有機系着色顔料を併用することができる。上記有機系着色顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン顔料、インジゴ顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料等が挙げられる。
【0082】
上記顔料として主にカーボンブラックと二酸化チタンを用いることにより標準的なグレー系水性中塗り塗料とすることができるし、近年、特に高級車両を対象とした中塗り設計である上塗り塗料と明度又は色相等を合わせたセットグレーや各種の着色顔料を組み合わせた、いわゆるカラー水性中塗り塗料とすることもできる。
【0083】
上記中塗り塗料中に含有される顔料および樹脂固形分の合計重量に対する顔料の重量比(PWC)は、10〜60重量%の範囲にあることが好ましい。上記PWCが10重量%未満では、顔料不足の為に隠蔽性が低下する恐れがある。60重量%を超えると、顔料過多により硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が低下する。ここで、上記樹脂固形分とは、主樹脂、硬化剤の他、顔料分散樹脂をも含めたベース塗膜を構成する全樹脂バインダーの合計固形分量を示す。
【0084】
上記顔料は、一般的に用いられている顔料分散樹脂に予め分散させて顔料分散ペーストを調製した後、水性中塗り塗料の調製に際して適量を配合する。上記顔料分散樹脂は、顔料親和部分および親水部分を含む構造を有する樹脂であり、樹脂種は特に限定されないが、当該業者により公知の方法に従って製造することができるものである。
【0085】
上記顔料分散剤の数平均分子量は、1,000〜100,000、好ましくは2,000〜70,000、より好ましくは、4,000〜50,000であることが望ましい。1,000未満となると、分散安定性が充分でない場合があり、100,000を超えると、粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難となる場合がある。
【0086】
好ましく用いられる顔料分散剤の市販品として、例えば「ディスパー(Disper)byk190」、「ディスパーbyk182」、「ディスパーbyk184」(いずれもBYKケミー社(BYK‐Chemie GmbH)製)、「EFKAポリマー4550」(EFKA社製)、「ソルスパース(Solsperse)27000」、「ソルスパース41000」、「ソルスパース53095」(いずれもアビシア(Avecia)社製)等を挙げることができる。
【0087】
上記顔料分散剤は、顔料と共に公知の方法にしたがって、混合分散して顔料分散ペーストを得ることができる。上記顔料分散ペースト中の上記顔料分散樹脂の配合割合は、顔料分散ペーストの固形分に対して1〜20重量%、好ましくは、5〜15重量%である。1重量%未満であると、顔料を安定に分散することができない、20重量%を超えると、塗膜物性が劣る場合がある。
【0088】
上記水性中塗り塗料は、少なくとも上記バインダー樹脂の水性ディスパージョンと上記顔料分散ペーストを必須成分とし、更に必要に応じて、上記粘性制御剤および/または上記エラストマー、その他の塗料添加剤を混合して調製されるものである。この際、その他の塗料添加剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ワキ防止剤等を挙げることができる。
【0089】
上記中塗り塗料の塗装方法としては、特に限定されず、例えば、通称「リアクトガン」と呼ばれるエアー静電スプレー;通称「マイクロ・マイクロ(μμ)ベル」、「マイクロ(μ)ベル」、「メタベル」等と呼ばれる回転噴霧式の静電塗装機等を用いることができる。好ましくは、回転噴霧式の静電塗装機を用いる塗装方法である。
【0090】
上記中塗り塗膜の乾燥膜厚は、用途により変化するが、10〜50μm、好ましくは20〜40μmである。10μm未満であると、下地が隠蔽できず、塗膜切れが発生することがあり、50μmを超えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、タレ等の不具合が起こることがある。
【0091】
上記工程(II)においては、上記電着塗膜および中塗り塗膜を同時に加熱硬化させる。上記加熱硬化させる温度としては、140〜190℃、好ましくは150〜180℃にて行うことによって、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。190℃を超えると、塗膜が過度に堅く、脆くなり、140℃未満では硬化が充分でなく、耐溶剤性や塗膜強度等の塗膜物性が低くなる。
【0092】
上記加熱硬化(焼き付け)の結果、電着層/中塗り層からなる複層硬化塗膜が得られるが、その内で上記電着塗料から形成される硬化塗膜の動的ガラス転移温度Tgは、110〜150℃、好ましくは120〜140℃の範囲にあることが望ましい。上記動的ガラス転移温度が150℃を超えると、樹脂層が脆くなる結果、耐衝撃性に劣ることになり、100℃未満では、防食性に劣ることになる。
【0093】
また、上記中塗り塗膜の動的ガラス転移温度Tgは60〜100℃、好ましくは70〜90℃の範囲に設計すれば、従来塗装方法による3コート膜と同等の耐チッピング性を付与することができる。上記動的ガラス転移温度が100℃を超過する領域または60℃未満の領域では、共に耐チッピング性が劣る結果を招く。
【0094】
上記動的ガラス転移温度の測定は、上記電着塗料を用いてブリキ板基材上に電着塗装後、硬化させて形成した電着塗膜を水銀を用いて剥離し、レオバイブロン(オリエンテック社製)やレオメトリックスダイナミックアナライザー(レオメトリックス社製)等の動的粘弾性測定装置による測定にて行うことができる。
【0095】
[工程(III)]
本発明の多層塗膜形成方法において、工程(III)は、上記中塗り塗膜の上に、上塗り水性ベース塗料を塗布して、未硬化のベース塗膜を形成するものである。
【0096】
(水性ベース塗料および塗装方法)
上記水性ベース塗料は、主として塗膜や色彩に光輝性等の美観性および意匠性を付与し維持するために塗布されるものであり、例えば、水性カラーベース塗料、水性メタリック塗料、水性ソリッドベース塗料を挙げることができる。
【0097】
本工程で用いることのできる水性ベース塗料は、必要に応じてアルコール等の水と可溶しうる媒体を含む水中に、バインダー樹脂を溶解もしくは分散したものであれば、いかなるものでも適用できる。
【0098】
上記ベース塗膜形成樹脂としては、特に限定されず、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらはアミノ樹脂および/またはブロックドイソシアネート等の硬化剤と組み合わせて用いられる。顔料分散性や作業性の点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とメラミン樹脂の組み合わせが好ましい。
【0099】
上記水性ベース塗料としては、光輝性顔料を配合して、メタリックベース塗料として用いることができるし、光輝性顔料を配合せずにレッド、ブルーあるいはブラック等の着色顔料および/または体質顔料を配合してソリッドベース塗料として用いることもできる。
【0100】
上記光輝性顔料としては、特に限定されず、例えば、金属又は合金等の無着色もしくは着色された金属製光輝材およびその混合物、干渉マイカ粉、着色マイカ粉、ホワイトマイカ粉、グラファイト又は無色、有色の扁平顔料等を挙げることができる。それらの中でも、金属又は合金等の無着色もしくは着色された金属製光輝材およびその混合物が好ましい。その金属の具体例としては、アルミニウム、酸化アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ等を挙げることができる。上記光輝性顔料の形状は、特に限定されず、例えば平均粒子径(D50)が2〜50μmであり、厚さが0.1〜5μmである鱗片上のものが好ましい。
【0101】
上記光輝性顔料と水性ベース塗料中に含有される樹脂固形分の合計重量に対する顔料の重量比(PWC)が、0.01〜20重量%の範囲にあることが好ましい。0.01未満では、顔料による下地の隠蔽性が不足し、また20重量%を超えると、顔料過多のために外観不良を招く恐れがある。ここで、上記樹脂固形分とは、主樹脂、硬化剤の他、顔料分散剤をも含めたベース塗膜を構成する全樹脂バインダーの合計固形分量を示す。
【0102】
また上記光輝性顔料以外の顔料としては、基本的には上記電着あるいは中塗り塗料の説明において記載した着色顔料、体質顔料を用いることができ、それらの中から1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0103】
上記光輝性顔料、およびその他の全ての顔料を含めた水性ベース塗料中の顔料濃度(PWC)は、一般的には0.1〜50重量%であり、好ましくは0.5〜40重量%であり、より好ましくは1〜30重量%である。0.1重量%未満では、下地隠蔽性に乏しく、また50重量%を超えると顔料過多によって塗膜外観がかえって低下する。
【0104】
上記顔料は、公知の方法により、予め顔料分散樹脂を用いて分散ペーストを調製した後、上記塗料に配合する。この場合の顔料分散樹脂は、上記水性中塗り塗料の場合と同様のものを用いることができる。
【0105】
上記水性ベース塗料に用いられるその他の添加剤、および上記水性ベース塗料の調製方法としては、上記中塗り塗料において開示したものを挙げることができる。即ち、通常、上記溶剤型熱硬化性樹脂をバインダーとして含む成分を、必要に応じて適当量の酸または塩基による中和を行った後、硬化剤と共に、自己乳化分散か、もしくは適当な分散剤により水性媒体中に分散することによって調製される。
【0106】
また、顔料は予め適当な分散剤によって分散ペーストを形成した後、上記樹脂粒子と共に、上記配合比に基づいて配合される。
【0107】
上記水性ベース塗料に関する具体的な公知技術としては、特開平6‐145565号公報および特開平8‐311396号公報記載のものがあり、本発明に適する。また、特開2001‐311043号公報記載の、ポリエーテルポリオール、光輝性顔料を分散したメタリック顔料ペーストに、更に乳化重合法により得られるエマルジョン樹脂をバインダーとして添加した水性メタリック塗料組成物が光輝感に優れており、本発明に好ましく用いることができる。具体例として、日本ペイント(株)製の水性メタリックベース塗料である商品名「アクアレックス AR‐2000」が好適である。
【0108】
上記水性ベース塗料は、上記工程(II)において形成された中塗り硬化塗膜の上に塗布され、未硬化のベース塗膜が形成される。上記水性ベース塗料の塗装方法としては、基本的に上記工程(II)において水性中塗り塗料を塗布する際に例示した方法を挙げることができる。更に上記ベース塗料を自動車車体に対して塗布する際には、意匠性を高めるために、エア静電スプレーと上記回転噴霧式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法により行うことが好ましい。
【0109】
上記水性ベース塗料を塗布した後、次工程(IV)において、上塗りクリヤー塗料を塗装する前に、塗膜の仕上がり性を向上させるために、必要に応じて硬化温度未満の加熱条件、好ましくは温度:60〜120℃、時間:1〜15分間の範囲内においてプレヒートを行ってもよい。
【0110】
上記ベース塗膜の乾燥膜厚は、用途により変化するが、5〜30μm、好ましくは10〜20μmである。5μm未満であると、色ムラが発生することがあり、30μmを超えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、タレ等の不具合が起こることがあるばかりか、塗装に要するコスト、経済性から見ても成立しない。
【0111】
[工程(IV)]
上記未硬化ベース塗膜の上に、上塗りクリヤー塗料を塗布して、工程(III)にて調製された未硬化のベース塗膜、および本工程にて調製されたクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させるものである。
【0112】
(クリヤー塗料および塗装方法)
クリヤー塗料は、水性ベース塗料として光輝性顔料を含むメタリックベース塗料を用いた場合に光輝性顔料に起因するベース塗膜の凹凸、チカチカ感等を平滑化して極力低減したり、またベース塗膜を保護する目的において塗布されるものである。
【0113】
本工程で用いることのできるクリヤー塗料は、従来から自動車車体塗装に用いられている、いかなるものでも適用できるが、塗膜形成性樹脂(バインダー)、硬化剤およびその他の添加剤からなるものを挙げることができる。
【0114】
上記塗膜形成性樹脂としては特に限定されず、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられ、これらはアミノ樹脂および/またはブロックドイソシアネート等の硬化剤と組み合わせて用いられる。これらの内、透明性または酸性雨による耐エッチング性等の観点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、またはカルボン酸、エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂等を用いることが好ましい。
【0115】
通常、これらを樹脂バインダー、硬化剤として含む成分をもって溶剤型塗料とするか、または脱溶剤し、粉体化することによって調製される。
【0116】
上記クリヤー塗料としては、上記水性ベース塗料を塗布した後、未硬化の状態で重ねて塗布するために、層間のなじみや反転、またはタレ等の防止のため、当該業者間で公知の粘性制御剤を添加剤として含有することが好ましい。具体例としては、上記中塗り塗料の項で説明したものが好ましい。
【0117】
上記粘性制御剤の添加量は、クリヤー塗料の樹脂固形分に対して、0.01〜10重量部であり、好ましくは0.02〜8重量部、より好ましくは0.03〜6重量部である。0.01重量部未満であると、充分な粘性制御効果が得られず、また10重量部を超えるとフロー性が損なわれる結果、外観が低下する。
【0118】
上記水性クリヤー塗料に関する具体的な公知技術としては、特開平6‐128446号公報;特開平6‐166741号公報;特開平7‐224146号公報;特開平8‐259667号公報;特開平9‐71706号公報および特開平9‐104803号公報記載の耐酸性雨、耐擦り傷性、耐黄変性のハイソリッドクリヤー塗料組成物があり、本発明に適する。また、特開2001‐6457号公報および特開2001‐139874号公報記載の、パウダークリヤー塗料組成物は、塗装環境負荷低減に最も優れており、本発明に適する。クリヤー塗料の具体例としては、日本ペイント(株)社製のハイソリッドクリヤー塗料である商品名「MAC‐O‐1800W」が好適である。
【0119】
上記塗装方法としては、基本的には上記工程(II)において水性中塗り塗料を塗布する際に例示した方法を挙げることができる。
【0120】
上記クリヤー塗膜の乾燥膜厚は、用途により変化するが、20〜70μm、好ましくは30〜50μmである。20μm未満であると、総合塗膜外観が低下することがあり、70μmを超えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、タレ等の不具合が起こることがあるばかりか、塗装に要するコスト、経済性から見ても成立しない。
【0121】
上記工程(IV)においては、上記上塗りベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させる。加熱硬化させる温度としては、110〜180℃、好ましくは120〜160℃にて行うことによって、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。180℃を超えると、塗膜が過度に堅く、脆くなり、110℃未満では硬化が充分でなく、耐酸性雨性、耐溶剤性もしくは塗膜強度等の塗膜物性が低下する。硬化に必要な時間は、硬化温度によって変化するが、120〜160℃で10〜60分間が適当である。
【0122】
本発明の多層塗膜形成方法によって得られる多層塗膜の総合膜厚は、通常40〜200μm、好ましくは60〜150μm程度である。同膜厚が、40μm未満では自動車車体用塗膜としての目的では塗膜強度、塗膜外観が不足し、200μmを超えることは塗装コストが割高になるだけでなく、塗装環境の低VOC化に対しても不利である。
【0123】
【実施例】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、部および%(パーセント)は、重量部および重量%を意味する。
【0124】
(電着塗料の製造)
製造例1(ブロックドイソシアネート[硬化剤(b1)]の製造例)
撹拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備え付けた反応容器にイソホロンジイソシアネート222部を入れ、メチルイソブチルケトン56部で希釈した後ブチル錫ラウレート0.2部を加え、50℃まで昇温の後、メチルエチルケトオキシム17部を内容物温度が70℃を超えないように加えた。そして赤外吸収スペクトルによりイソシアネート残基の吸収が実質上消滅するまで70℃で1時間保温し、その後n‐ブタノール43部で希釈することによって目的のブロックドイソシアネート[硬化剤(b1)](溶解性パラメーターδb1=11.8)の溶液(固形分70%)を得た。
【0125】
製造例2(ブロックドイソシアネート[硬化剤(b2)]の製造例)
撹拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備え付けた反応容器にヘキサメチレンジイソシアネートの3量体199部を入れ、メチルイソブチルケトン42部で希釈した後ブチル錫ラウレート0.2部を加え、50℃まで昇温の後、メチルエチルケトオキシム88部を内容物温度が70℃を超えないように加えた。そして赤外吸収スペクトルによりイソシアネート残基の吸収が実質上消滅するまで70℃で1時間保温し、その後n‐ブタノール30部で希釈することによって目的のブロックドイソシアネート[硬化剤(b2)](溶解性パラメーターδb2=12.0)の溶液(固形分80%)を得た。
【0126】
製造例3(カチオン変性エポキシ樹脂[樹脂a]および水性エマルジョン[A]の製造例)
撹拌機、デカンター、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER‐331J、ダウケミカル社製)2400部とメタノール141部、メチルイソブチルケトン168部、ジラウリン酸ジブチル錫0.5部を仕込み、40℃で撹拌し均一に溶解させた後、2,4‐/2,6‐トリレンジイソシアネート(80/20重量比混合物)320部を30分間かけて滴下したところ発熱し、70℃まで上昇した。これにN,N‐ジメチルベンジルアミン5部を加え、系内の温度を120℃まで昇温し、メタノールを留去しながらエポキシ当量が500になるまで120℃で3時間反応を続けた。更に、メチルイソブチルケトン644部、ビスフェノールA341部、2‐エチルヘキサン酸413部を加え、系内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が1040になるまで反応させた後、系内の温度が110℃になるまで冷却した。ついでジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)250部とN‐メチルエタノールアミン185部の混合物を添加し110℃で1時間反応させることによりカチオン変性エポキシ樹脂[樹脂a]を得た。この樹脂の数平均分子量は2150、アミン価=77、水酸基価は155であり、樹脂軟化点はJIS‐K‐5665に基づいて測定したところ135℃であった。赤外吸収スペクトル等の測定から、樹脂中にオキサゾリドン環(吸収波数;1750cm−1)を有していることが確認された。また溶解性パラメーターδa=11.5であった。また樹脂溶液の固形分は73%であった。
【0127】
こうして得られたカチオン変性エポキシ樹脂溶液中へ、上記製造例1で製造したブロックドイソシアネート[硬化剤(b1)]溶液826部、上記製造例2で製造したブロックドイソシアネート[硬化剤(b2)]414部および酢酸90部を加えた後、イオン交換水で不揮発分32%まで希釈した後、減圧下で不揮発分36%まで濃縮し、カチオン変性エポキシ樹脂を主体とする水性エマルジョン[A](レーザー光散乱法による平均粒子径=0.14μm)を得た。
【0128】
製造例4(電着塗料用顔料分散樹脂の製造)
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応容器にエポキシ当量198のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名エポン829、シェル化学社製)710部、ビスフェノールA289.6部を仕込んで、窒素雰囲気下150〜160℃で1時間反応させ、ついで120℃まで冷却後、2‐エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのメチルイソブチルケトン溶液(固形分95%)406.4部を加えた。反応混合物を110〜120℃で1時間保持した後、エチレングリコールモノn‐ブチルエーテル1584.1部を加えた。そして85〜95℃に冷却して均一化させた。
【0129】
上記反応物の製造と平行して、別の反応容器に2‐エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのメチルイソブチルケトン溶液(固形分95%)384部にジメチルエタノールアミン104.6部を加えたものを80℃で1時間撹拌し、ついで75%乳酸水141.1部を仕込み、更にエチレングリコールモノn‐ブチルエーテル47.0部を混合、30分撹拌し、4級化剤(固形分85%)を製造しておいた。そしてこの4級化剤620.46部を先の反応物に加え酸価1になるまで混合物を85から95℃に保持し、顔料分散樹脂(平均分子量2200)の樹脂溶液(樹脂固形分56%)を得た。
【0130】
製造例5(電着塗料用顔料分散ペースト[P1]の製造)
サンドミルを用いて、製造例4で得られた顔料分散樹脂を含む以下の表1に示される配合を有する顔料ペースト[P1](固形分51%)を40℃において、粒度5μm以下となるまで分散し調製した。
【0131】
【表1】
【0132】
製造例6(電着塗料の製造例)
製造例3で得られた水性樹脂エマルジョン[A]100部および製造例5で得られた顔料分散ペースト[P1]33部を配合して電着塗料を調製した。更に塗料中の顔料濃度(PWC)=18%、固形分濃度=20%および硬化促進剤としてジブチル錫オキシドの分散ペーストを錫金属含有量にして塗料固形分の1.5%になるように配合した。ただし塗料の所定固形分への希釈には、イオン交換水を用いた。
【0133】
(水性中塗り塗料の製造)
製造例7(アニオン変性アクリル樹脂[樹脂c1]および水性ディスパージョン[D1]の製造例)
撹拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、ジプロピレングリコールメチルエーテル25.0部およびプロピレングリコールメチルエーテル18.0部を仕込み、窒素雰囲気下110℃に加熱保持した。更に2‐ヒドロキシプロピルアクリレート20.9部、2‐エチルヘキシルアクリレート45.8部、メタクリル酸3.8部、n‐ブチルアクリレート5.6部、スチレン18.0部、イソブチルアクリレート5.9部およびt‐ブチルパーオクトエート6部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後更にt‐ブチルパーオクトエート6部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたアニオン変性アクリル樹脂[樹脂c1]は、固形分70%、数平均分子量4,000、ヒドロキシル価=90および酸価=25であり、溶解性パラメーターδc1=10.1であった。
【0134】
この樹脂溶液に対してブチル化メラミン樹脂[硬化剤(d1)]、溶解性パラメーターδe=9.9「ユーバン20N‐60」(三井サイテック社(Mitsui Scitech Co., Ltd.)製、固形分60%溶液)42部およびジメチルエタノールアミン4部を加えて30分間撹拌した後、更にイオン交換水で不揮発分50%まで希釈し、アニオン変性アクリル樹脂を主体とする水性ディスパージョン[D1](レーザー光散乱法による平均粒子径=0.16μm)を得た。
【0135】
製造例8(アニオン変性アクリル樹脂[樹脂c2]および水性ディスパージョン[D2]の製造例)
撹拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、ジプロピレングリコールメチルエーテル25.0部およびプロピレングリコールメチルエーテル18.0部を仕込み、窒素雰囲気下110℃に加熱保持した。更に2‐ヒドロキシプロピルアクリレート18.9部、2‐エチルヘキシルアクリレート16.9部、メタクリル酸5.9部、n‐ブチルアクリレート5.9部、スチレン12.7部、イソブチルアクリレート39.7部およびt‐ブチルパーオクトエート6部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後更にt‐ブチルパーオクトエート0.3部を滴下して110℃で1.5時間保持した。得られたアニオン変性アクリル樹脂[樹脂c2]は、固形分70%、数平均分子量4,000、ヒドロキシル価=80および酸価=25であり、溶解性パラメーターδc2=10.3であった。
【0136】
この樹脂溶液に対して、製造例7で調製されたアニオン変性アクリル樹脂[樹脂c1]143部、ブチル化メラミン樹脂[硬化剤(d2)]、溶解性パラメーターδd2=10.3「ユーバン128」(三井サイテック社製、固形分60%溶液)84部およびジメチルエタノールアミン4部を加えて30分間撹拌した後、更にイオン交換水で不揮発分50%まで希釈し、アニオン変性アクリル樹脂を主体とする水性ディスパージョン[D2](レーザー光散乱法による平均粒子径=0.13μm)を得た。
【0137】
比較製造例1(アニオン変性アクリル樹脂[樹脂c3]および水性ディスパージョン[D3]の製造例)
撹拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、ジプロピレングリコールメチルエーテル25.0部およびプロピレングリコールメチルエーテル18.0部を仕込み、窒素雰囲気下110℃に加熱保持した。更に2‐ヒドロキシプロピルアクリレート20.9部、メタクリル酸3.8部、n‐ブチルアクリレート5.5部、イソブチルアクリレート69.8部およびt‐ブチルパーオクトエート6部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後更にt‐ブチルパーオクトエート6部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたアニオン変性アクリル樹脂[樹脂c3]は、固形分70%、数平均分子量4,000、ヒドロキシル価=90および酸価=25であり、溶解性パラメーターδc3=10.7であった。
【0138】
この樹脂溶液に対してブチル化メラミン樹脂[硬化剤(d1)]、溶解性パラメーターδe=9.9「ユーバン20N‐60」(三井サイテック社製、固形分60%溶液)42部およびジメチルエタノールアミン4部を加えて30分間撹拌した後、更にイオン交換水で不揮発分50%まで希釈し、アニオン変性アクリル樹脂を主体とする水性ディスパージョン[D3](レーザー光散乱法による平均粒子径=0.12μm)を得た。
【0139】
比較製造例2(水性ディスパージョン[D4]の製造例)
製造例8で得られたアニオン変性アクリル樹脂[樹脂c2](固形分70%、数平均分子量4,000、ヒドロキシル価=80、酸価=25および溶解性パラメーターδc3=10.3)の溶液に対して、メラミン樹脂[硬化剤(d3)]、溶解性パラメーターδd2=10.4「ユーバン2020」(三井サイテック社製、固形分60%溶液)42部およびジメチルエタノールアミン4部を加えて30分間撹拌した後、更にイオン交換水で不揮発分50%まで希釈し、アニオン変性アクリル樹脂を主体とする水性ディスパージョン[D4](レーザー光散乱法による平均粒子径=0.14μm)を得た。
【0140】
比較製造例3(水性ディスパージョン[D5]の製造例)
製造例8で得られたアニオン変性アクリル樹脂[樹脂c2](固形分70%、数平均分子量4,000、ヒドロキシル価=80、酸価=25および溶解性パラメーターδc2=10.3)の溶液に対して、メラミン樹脂[硬化剤(d4)]、溶解性パラメーターδd4=10.6「コロネート1133」(日本ポリウレタン工業社製、固形分98%溶液)26部およびジメチルエタノールアミン4部を加えて30分間撹拌した後、更にイオン交換水で不揮発分50%まで希釈し、アニオン変性アクリル樹脂を主体とする水性ディスパージョン[D5] (レーザー光散乱法による平均粒子径=0.18μm)を得た。
【0141】
製造例9(水性中塗り塗料用顔料分散ペースト[P2]の製造例)
以下の表2に示した配合物に対して予備混合を行った後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下となるまで分散し、着色顔料ペースト[P2]を得た。
【0142】
【表2】
【0143】
製造例10〜11(水性中塗り塗料の製造例)
製造例7〜8で得られた水性ディスパージョン[D1〜D2]、製造例9で得られた顔料分散ペースト[P2]の他、市販の粘性制御剤およびエラストマー粒子を表3の様に、組み合わせて水性中塗り塗料を調製した。
【0144】
なお、何れの塗料においても、塗料中の顔料濃度(PWC)=30%になるように配合した。ただし中塗り塗料の塗装時の希釈は、以下の実施例に示す指定のシンナー(イオン交換水)を用いて、目標塗料粘度になる様に希釈した。
各水性中塗り塗料製造例における構成成分の組み合わせおよび配合量比(ただし水性ディスパージョン、粘性制御剤、およびエラストマー樹脂粒子は、水性分散体の重量に基づいて配合する)を以下の表3に示す。
【0145】
比較製造例4〜6(水性中塗り塗料の比較製造例)
比較製造例1〜3で得られた水性ディスパージョン[D3〜D5]、製造例9で得られた顔料分散ペースト[P2]の他、市販の粘性制御剤およびエラストマー粒子を表3の様に、組み合わせて水性中塗り塗料を調製した。
なお、何れの塗料においても、塗料中の顔料濃度(PWC)=30%になるように配合した。ただし中塗り塗料の塗装時の希釈は、以下の実施例に示す指定のシンナー(イオン交換水)を用いて、目標塗料粘度になる様に希釈した。
各水性中塗り塗料比較製造例における構成成分の組み合わせおよび配合量比(ただし水性ディスパージョン、粘性制御剤、およびエラストマー樹脂粒子は、水性分散体の重量に基づいて配合する)を以下の表3に示す。
【0146】
【表3】
【0147】
(注)表中のSDX:アデカノールSDX‐1014(旭電化工業社製のウレタン会合型粘性制御剤、有効成分30%)の略記
EE:ラックスター3622A(大日本インキ社製エラストマーエマルジョン、アクリロニトリル‐ブタジエン樹脂、平均分子量約20万、平均粒子径0.1μm、固形分52.5%、設計ガラス温度−30℃)
【0148】
(実施例1〜4)
製造例6で得られた電着塗料を用いて、リン酸亜鉛処理したダル鋼鈑に対して、電圧200Vで乾燥膜厚が15μmになるように電着塗装した。その後、以下の表5に示すように必要に応じて100℃で5分間プレヒートした。その後、上記プレヒート工程の有無にかかわらず、得られた未硬化の電着塗膜に対して製造例10〜11で得られた水性中塗り塗料をエアースプレー塗装にて25μm(乾燥塗膜厚)になる様にウェットオンウェット塗装した後、60℃で3分間乾燥し、更に160℃で15分間加熱硬化を行った。電着層および中塗り層のバインダー樹脂および硬化剤の溶解性パラメーターを以下の表4に示し、電着/中塗り複層硬化塗膜の性能評価結果(SDT、表面粗さ(Ra値)、各層の動的Tgおよび中塗り塗膜の黄変性評価)を以下の表5に示す。
【0149】
次いで、上塗り塗料(ベース塗料/クリア塗料)をそれぞれ13μm(乾燥塗膜厚)、35μm(乾燥塗膜厚)になる様に、エアースプレー塗装法にてウェットオンウェット塗装した上で、140℃で30分間加熱硬化を行った。ベース塗料としては、水性シルバーメタリックベース塗料「AR2000/199Bシルバー」(日本ペイント社製)を用い、クリア塗料としては、溶剤型ハイソリッドクリア塗料「MAC‐O‐1800W」(同社製)を用いた。
【0150】
中塗り塗料および上塗り塗料のエアスプレー塗装を行う際の、塗料粘度と希釈に用いるシンナー種を以下に示す。
(水性中塗り塗料)
シンナー:イオン交換水
40秒/No.4フォードカップ/20℃
(水性ベース塗料)
シンナー:イオン交換水
45秒/No.4フォードカップ/20℃
(クリヤー塗料)
シンナー:EEP(エトキシエチルプロピオネート)/S‐150(エクソン社製芳香族系炭化水素溶剤)
30秒/No.4フォードカップ/20℃
【0151】
更に上塗り塗装まで施して完成した多層塗膜に関しては、総合外観(ウエーブ・スキャン値:W1/W3)および耐チッピング性の評価結果を同じく以下の表5に示す。
【0152】
(比較例1〜5)
製造例6で得られた電着塗料を用いて、リン酸亜鉛処理したダル鋼鈑に対して、電圧200Vで乾燥膜厚が15μmになるように電着塗装した。その後、以下の表6に示すように必要に応じて100℃で5分間プレヒートした。その後、上記プレヒート工程の有無にかかわらず、得られた未硬化の電着塗膜に対して比較製造例4〜6で得られた水性中塗り塗料をエアースプレー塗装にて25μm(乾燥塗膜厚)になる様にウェットオンウェット塗装した上で、60℃で3分間乾燥し、更に160℃で15分間加熱硬化を行った。電着層および中塗り層のバインダー樹脂および硬化剤の溶解性パラメーターを以下の表4に示し、電着/中塗り複層硬化塗膜の性能評価結果(SDT、表面粗さ(Ra値)、各層の動的Tgおよび中塗り塗膜の黄変性評価)を以下の表6に示す。尚、本発明の塗膜形成方法において、バインダー樹脂または硬化剤を複数種使用している場合は、それらの内、いずれの組み合わせにおいても、全て上記式(1)〜(3)を満足する必要がある。したがって、δbiの内での最小値を選択し、またδciおよびδdiの内での最大値を選択した上で、式(1)〜(3)が成立しているかを検証することが必要となる。以上の事から表4にはδbiは最小値、δciおよびδdiは最大値を示した。
【0153】
【表4】
【0154】
次いで、実施例1〜4と同様にして上塗り塗料(ベース塗料/クリア塗料)をそれぞれ13μm(乾燥塗膜厚)、35μm(乾燥塗膜厚)になる様に、エアースプレー塗装法にてウェットオンウェット塗装した上で、140℃で30分間加熱硬化を行った。
【0155】
ベース塗料としては、水性シルバーメタリックベース塗料「AR2000/199Bシルバー」(日本ペイント社製)を用い、クリア塗料としては、および溶剤型ハイソリッドクリア塗料は、「MAC‐O‐1800W」(同社製)を用いた。
【0156】
中塗り塗料および上塗り塗料のエアスプレー塗装を行う際の、塗料粘度と希釈に用いるシンナー種に関しても実施例1〜4と同じであった。上記比較例に関しても、実施例と同様に塗膜の各性能評価を行って、その結果を以下の表6にまとめて示した。
【0157】
(塗料および塗膜の試験方法)
(1)各粒子の平均粒子径
マイクロトラックUPA‐150(日機装社製)を用いて、動的光散乱法に基づく平均粒子径を測定した。
【0158】
(2)電着塗膜/中塗り塗膜間の層分離状態
電着/中塗り塗膜を調製した段階で、ビデオマイクロスコープ(キーエンス社製VH‐Z450)で塗膜断面の観察を行った。
【0159】
(3)動的ガラス転移温度
ブリキ板上に施した電着単膜および電着/中塗り複層塗膜を焼付けた後、水銀を用いて剥離、裁断して測定用サンプルを調製した。レオメトリックスダイナミックアナライザーRDA‐II試験機(レオメトリックス社製)を用いて、液体窒素によりサンプル膜を一旦凍結した後、1分間に2℃の昇温速度かつ周波数10HZにおいて振動を与えて粘弾性を測定した。貯蔵弾性率(E’)に対する損失弾性率(E”)の比(tanδ)を算出し、その変極点を求めることによって、それぞれサンプルの動的Tgを求めた。その際に電着単膜および電着/中塗り複層塗膜のデータ比較から、中塗り塗膜に基づく動的Tgを見出した。
【0160】
(4)電着/中塗り塗膜の表面粗さ
得られた電着/中塗り塗膜の表面粗さをハンディサーフE‐30A(東京精密社製)を用いて、JIS B 0601に従って、表面粗度Ra値を測定した(カットオフ2.5mm)。
【0161】
(5)SDT
得られた電着/中塗り塗膜にナイフで素地に達するカットを入れて、塩水浸漬(5%食塩水、55℃)を240時間行い、粘着テープによってカット部両側から剥離した剥離部の最大幅(単位:mm)で示した。
【0162】
(6)SST
得られた電着/中塗り塗膜にナイフで素地に達するクロスカットを入れて、塩水噴霧(5%食塩水、35℃)を240時間行い、カット部からの発生錆の最大幅(単位:mm)で示した。
【0163】
(7)中塗り塗膜耐黄変性
実施例および比較例記載の各水性中塗り塗料を40℃に保持した状態で一ヶ月貯蔵した後にスプレー塗装し、160℃で15分間焼付け塗膜の耐黄変性を調べた。耐黄変性は目視観察で以下の評価基準により判断した。
評価基準
○:良好・・・黄変無し
×:不良・・・黄変有り
【0164】
(8)総合塗膜の外観評価
上塗り塗装後の総合塗膜に関しては、「Wave scan‐T」(ビック・ガードナー社(BYK‐Gardner GmbH)製を用いて総合外観を測定し、W1値およびW3値で評価した。W1値およびW3値は、いずれも小さな数値ほど外観がより良好であることを示す。
【0165】
(9)総合塗膜の耐チッピング性評価
上塗り塗装後の総合塗膜の耐チッピング性評価は、得られた塗板を−30℃に冷却した後、これを飛石試験機(スガ試験機社製)の試料ホルダーに石の侵入角度が90°になるように取り付け、100gの7号砕石を3kg/cm2の空気圧で噴射し、砕石を塗板に衝突させた。その時のハガレ傷の程度(数、大きさ、破壊場所)を5段階評価した。評価基準を以下に示す。
評価基準
レベル1(点):全面に大きなハガレ傷、素地からの剥離有り
レベル2(点):全面にある程度のハガレ傷、素地からの剥離有り
レベル3(点):一部にある程度のハガレ傷、素地からの剥離無し
レベル4(点):一部に小さなハガレ傷、素地からの剥離無し
レベル5(点):ほとんど破壊無し
【0166】
(試験結果)
【表5】
【0167】
【表6】
【0168】
(上記結果の補足説明)
上記表5および6の結果から明らかなように、本発明の複層塗膜形成方法を用いて得られた実施例1〜4の電着/中塗り複層塗膜は、比較例1〜5の複層塗膜に比べて、従来の3コート3ベーク塗装法によって得られた塗膜に匹敵する優れた中塗り塗膜外観(表面粗さRaおよび耐黄変性の比較)を有することが判った。また、特に電着塗膜の硬化に必要な焼付け温度よりも低い温度でプレヒートして、未硬化状態の電着塗膜を形成する工程(I’)を施した実施例2および4は、他の実施例より中塗り塗膜外観に優れていた。
更に実施例と比較例の結果比較により、本発明の複層塗膜形成方法を用いて得られた実施例1〜4の多層塗膜は、総合外観(ウェーブ・スキャン値)および耐チッピング性における物性面においても、比較例1〜5の多層塗膜に比べて、非常に優れていることが判った。
【0169】
【発明の効果】
上記工程(I)で得られる未硬化の電着塗膜を、必要に応じて上記工程(I’)にてプレヒートし、上記工程(II)により水性中塗り塗料をウェットオンウェットにて塗装した上で電着塗膜と同時に加熱硬化(焼付け)される複層塗膜は、電着層と中塗り層の混層をほぼ完全に防止できることによって、電着塗膜に必要な防錆性、中塗り塗膜の優れた表面外観(塗膜黄変性の防止を含む)および耐チッピング性を付与できる。
【0170】
特に上記式(1)の関係が成立することによって、ウェット状態での中塗り層および電着層との界面を確保し、かつ塗膜物性の一体化を計ることが可能である。更に上記式(2)および(3)については両方が同時に成立することが、中塗り層を構成する硬化剤(di)と電着塗料のバインダー樹脂(a)およびその硬化剤(bi)との不相溶性を確保し、硬化剤(di)の電着塗膜層への移行を防止する上で重要である。その結果、焼き付け時に硬化剤(di)による中塗り塗膜の硬化性が確保される結果、塗膜外観に優れた中塗り塗膜を得ることができる。また同時に電着層の硬化性も確保されるために、防錆性に優れた複層塗膜を得ることができる。
【0171】
更に上記工程(III)〜(IV)により上塗りベース塗料およびクリヤー塗料をウェットオンウェットにて塗装した上で、二度目の同時焼付けをして形成される多層塗膜は、従来の3コート3ベーク法により得られる総合塗膜に匹敵する優れた耐衝撃性(耐チッピング性)、耐食性、耐候性および(黄変のない)塗膜外観を有する塗膜を得ることができる。特に、本発明の2ウェットオン塗装法を用いることにより、従来一般的であった3コート3ベーク法から電着塗料の焼付け工程を省くことができるので、工程短縮、コスト削減、エネルギー消費量削減および環境負荷低減を目指す新規塗装システムを構築することを可能とする。
【発明の属する技術分野】
本発明は、未硬化の電着塗膜が形成された被塗装物上に、主に水性中塗り塗料をウェットオンウェットで塗布した後、両者を一度に加熱して硬化を行う2ウェット塗装方法を利用し、電着/中塗り両層が混層することなく、防錆性に優れた複層塗膜を得ることができる塗膜形成方法に関する。更に本発明は、得られた複層硬化塗膜上に、上塗りベース塗料およびクリヤー塗料をウェットにて重ね塗りした後、2度目の焼付けを行う多層塗膜形成方法に関するものであり、更に詳細には、優れた耐チッピング性と優れた外観を有し、かつ黄変のない多層塗膜を得ることができる多層塗膜形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、塗料分野、特に自動車塗装分野において、省資源、省コストおよび環境負荷(VOCおよびHAPs等)削減の課題を解決するため、塗装工程の短縮化が強く求められている。即ち、従来の自動車塗装仕上げにおいては、電着塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜がそれぞれの塗装後に順次焼き付けされる3コート3ベーク塗装方法によって行われていた。しかしながら近年、電着塗装後に得られた未硬化電着塗膜の上に、水性中塗り塗装を行った後に、両者を同時に焼付けて硬化複層塗膜を得る、いわゆる2ウェット塗装系を利用し、得られた硬化塗膜上に、更に水性上塗りベース塗料およびクリヤー塗料をウェットにて重ね塗りした後、2度目の焼付けを行う多層塗膜形成方法(以後、2ウェット塗装システムと称する)が行われている。上記塗装システムの適用によって、焼付け工程を削減し、しかも、従来の3コート3ベーク塗装方法により得られる3コート膜と同等の塗膜性能を保持することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1〜3には、水性中塗り塗装を含む基本的な2ウェット塗装システムが示されており、現在より20年以前から、すでに一般に公知化されている技術である。
【0004】
しかしながら、現在の技術水準を持ってしても2ウェット塗装によって得られた多層塗膜には、自動車用塗膜としての性能上、解決しなければならない幾つかの問題点が残されている。
【0005】
例えば、上記塗膜性能の中でも、耐衝撃性、特に走行中に自動車車体への小石等の障害物の衝突によるいわゆる耐チッピング性に関しては、従来の3コート3ベーク塗装方法では、耐チッピング性を有する特有の中塗り塗膜を設けること等により、同性能を確保することができたが、上記の2ウェット塗装システムにおいて従来の中塗り塗料を使用すると、ウェット状態による塗り重ねによって得られる塗膜層界面になじみ、反転等の不具合が発生するために、2ウェット塗装システムにより得られる多層塗膜は、従来塗装方法によって得られる塗膜と比較して、防錆性、耐チッピング性および塗膜外観が劣るという欠点があった。
【0006】
そのために、特許文献4〜9には、2ウェット塗装システムにおいて、塗膜に対する衝撃吸収能を有する樹脂層(いわゆる耐チッピングプライマー層)を多層塗膜形成の途中、とりわけ電着塗膜と中塗り塗膜の中間に施すことが開示されている。しかしながら、そのような工程を自動車車体の塗装工程中に更に組み入れることは、逆に塗装工程を増やしてしまうことになり、上記の省工程および省コストを求める市場ニーズにはそぐわない。
【0007】
また、2ウェット塗装システムには電着塗膜の表面粗度による3コート膜の総合外観への影響が大きいという、いわゆる電着塗膜表面下地のムジ感やクレーター、ハジキ等の塗膜欠陥を拾い易いという欠点がある。そのため、下地となる電着塗膜表面の平滑性の高いこと、塗膜欠陥の無いことが、従来塗装システムよりも強く要求される。
【0008】
一方、近年、塗料分野、特に自動車塗装分野においては、環境負荷(VOC等)削減のため、水性塗料が注目されている。水性塗料は、親水性官能基等を持つ塗膜形成性樹脂を親水性溶媒中に水溶化、水分散化またはエマルジョン化したものであり、塗膜形成樹脂にアミン等の中和剤および水性媒体を添加し、分散することによって調製されている。例えば、特許文献10には、2ウェット塗装システムにおいて、水性中塗り塗料を構成する塗膜形成性樹脂として、ポリエステル樹脂を直接にアミン等塩基性物質で中和し、自己乳化することで水性塗料化している。この場合の問題点としてポリエステル樹脂のようにアミン等の塩基性物質に直接触れると、加水分解が起こりやすい結果、水性中塗り塗料の貯蔵安定性が著しく損なわれるという欠点があった。また同時に、上記樹脂の変質は、得られる多層塗膜の黄変を招きやすいという欠点もあった。
【0009】
更に、自動車塗装分野においては、多層化された塗膜全体としての総合塗膜外観において、光線透過率の高い上塗り塗膜と共に、その下地にある多色化された中塗り塗膜による複合された高意匠性が、とりわけ高級車種を中心に求められている。そのために上記2ウェット塗装システムにおいても、変色の無い、かつ平滑性の高い表面を有するカラー中塗り塗膜層を形成することが求められている。
【0010】
【特許文献1】
特公昭56‐20073号公報
【特許文献2】
特公昭56‐33992号公報
【特許文献3】
特公昭58‐43155号公報
【特許文献4】
特開平6‐10189号公報
【特許文献5】
特開平6‐10190号公報
【特許文献6】
特開平6‐17294号公報
【特許文献7】
特開平6‐41787号公報
【特許文献8】
特開平6‐41788号公報
【特許文献9】
特開平6‐65791号公報
【特許文献10】
特許第2989643号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、塗装工程短縮、コスト削減および環境負荷低減を目指す2ウェット塗装システムにおいて、電着塗膜による基本的な防錆性を確保できる電着/中塗り複層塗膜を形成する方法を提供し、更に従来塗装工程によって得られた3コート膜に匹敵する優れた耐衝撃性、特に耐チッピング性を有すると共に、優れた水性塗料の貯蔵安定性を確保した上で、塗膜の黄変がなく、ニーズによっては高意匠性に優れた外観を有する多層塗膜を形成することができる多層塗膜形成方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、2ウェット塗装システムにより形成される電着/中塗り複層塗膜において、両層の構成成分であるバインダー樹脂および硬化剤の溶解性パラメーターを特定の関係式を満足する範囲内に制御することによって、両層の混層を防止して優れた防錆性を有する複層塗膜を形成することができる複層塗膜形成方法を提供し、更に上記複層塗膜上に上塗りベース塗料およびクリヤー塗料をウェットオンウェットにて塗装した後に二度目の同時焼付けをして、優れた耐衝撃性(特に耐チッピング性)、優れた水性塗料の貯蔵安定性により優れた耐黄変性、高意匠性に優れた外観を有する多層塗膜を形成することができる多層塗膜形成方法を提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、導電性基材上に電着塗装し、未硬化の電着塗膜を形成する工程(I)、および
前記電着塗膜の上に、水性中塗り塗料を塗布した後、前記未硬化の電着塗膜および中塗り塗膜を同時に加熱硬化させる工程(II)
を含む複層塗膜形成方法であって、
前記電着塗料が溶解性パラメーターδaを有するバインダー樹脂(a)および溶解性パラメーターδbiを有する少なくとも一種類の硬化剤(bi)を必須成分として含み、かつ前記中塗り塗料が溶解性パラメーターδciを有する少なくとも一種類のバインダー樹脂(ci)および溶解性パラメーターδdiを有する少なくとも一種類の硬化剤(di)を必須成分として含み、かつ前記成分の溶解性パラメーターが以下の3式:
(1)(δa−δci)≧1
(2)(δa−δdi)≧1
(3)(δbi−δdi)≧1.5
で表される関係を満足することを特徴とする複層塗膜形成方法である。
【0014】
本発明の複層塗膜形成方法の一つの態様として、前記工程(I)および工程(II)の間に、
前記電着塗膜の硬化に必要な焼付け温度よりも低い温度で前記電着塗膜をプレヒートし、未硬化の電着塗膜を形成する工程(I’)
を行なう複層塗膜形成方法、即ち、
導電性基材上に電着塗装する工程(I)、
前記電着塗膜の硬化に必要な焼付け温度よりも低い温度で前記電着塗膜をプレヒートし、未硬化の電着塗膜を形成する工程(I’)、および
前記電着塗膜の上に、水性中塗り塗料を塗布した後、前記未硬化の電着塗膜および中塗り塗膜を同時に加熱硬化させる工程(II)
を含む複層塗膜形成方法であって、
前記電着塗料が溶解性パラメーターδaを有するバインダー樹脂(a)および溶解性パラメーターδbiを有する少なくとも一種類の硬化剤(bi)を必須成分として含み、かつ前記中塗り塗料が溶解性パラメーターδciを有する少なくとも一種類のバインダー樹脂(ci)および溶解性パラメーターδdiを有する少なくとも一種類の硬化剤(di)を必須成分として含み、かつ前記成分の溶解性パラメーターが以下の3式:
(1)(δa−δci)≧1
(2)(δa−δdi)≧1
(3)(δbi−δdi)≧1.5
で表される関係を満足することを特徴とする複層塗膜形成方法がある。
【0015】
本発明の別の態様として、前記の方法で得られた複層塗膜における前記中塗り塗膜の上に、上塗りベース塗料を塗布して、未硬化のベース塗膜を形成する工程(III)、および
前記ベース塗膜の上に、上塗りクリヤー塗料を塗布した後、未硬化のベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に加熱硬化する工程(IV)
を含む多層塗膜形成方法がある。
【0016】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
[工程(I)]
本発明の多層塗膜形成方法において、上記工程(I)は、導電性基材上に電着塗料を塗装した後、必要に応じて当該業者公知の後処置方法(水洗浄、および常温における空気乾燥)を施すことによって未硬化の電着塗膜を得る工程である。
【0017】
(電着塗料および電着塗装方法)
上記電着塗料は、溶解性パラメーターδaを有するバインダー樹脂(a)および溶解性パラメーターδbiを有する少なくとも一種類の硬化剤(bi)を必須成分として含むものである。更に上記電着塗料は、上記必須成分に必要に応じて顔料を含む塗料成分を使用することによって、未硬化電着塗膜を形成するものである。
【0018】
本発明の複層塗膜において、上記電着塗料から形成される電着塗膜は、その主な構成成分としての、上記樹脂(a)が、カチオン変性エポキシ樹脂であり、電着塗膜の硬化剤(bi)が少なくとも一種類のブロックドイソシアネートである。
【0019】
次に本発明における電着塗料組成物に関して詳細に述べる。アミン価を有する上記樹脂成分(a)は、樹脂中のアミノ基を適当量の塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸、または蟻酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシン酸等の有機酸で中和処理し、カチオン化エマルジョンとして水中に乳化分散させる。この乳化分散の工程では、樹脂エマルジョンに少なくとも一種類の硬化剤(bi)をコアとして内包させることが望ましい。
【0020】
上記樹脂(a)は、前述のごとくカチオン変性エポキシ樹脂である。一般にカチオン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のエポキシ環を1級アミン、2級アミンあるいは3級アミン酸塩等のアミン類との反応によって開環して製造される。上記出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノール
F、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5‐306327号公報に記載されたオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。このエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のNCO基をメタノール、エタノール等の低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって得られるものである。
【0021】
上記出発原料樹脂は、アミン類によるエポキシ環の開環反応の前に、2官能のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸等により鎖延長して用いることができる。また同じくアミン類によるエポキシ環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良等を目的として、一部のエポキシ環に対して2‐エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ‐2‐エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノ‐2‐エチルヘキシルエーテルのようなモノヒドロキシ化合物を付加して用いることもできる。
【0022】
上記アミン類の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N‐メチルエタノールアミン、トリエチルアミン酸塩、N,N‐ジメチルエタノールアミン酸塩などの1級、2級または3級アミン酸塩を挙げることができる。また、アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンの様なケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミンも使用することができる。これらのアミン類は、全てのエポキシ環を開環させるために、エポキシ環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
【0023】
上記カチオン変性エポキシ樹脂は、数平均分子量1,500〜5,000、好ましくは1,600〜3,000を有することが望ましい。数平均分子量が1,500未満の場合、耐溶剤性および耐食性等の得られる硬化塗膜の物性が劣ることがある。反対に5,000を超える場合は、樹脂溶液の粘度制御が難しく合成が困難なばかりか、得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となることがある。更に樹脂溶液が高粘度であるがゆえに加熱硬化時のフロー性が悪くて、塗膜外観を著しく損ねる場合がある。
【0024】
上記カチオン変性エポキシ樹脂は、ヒドロキシル価が50〜250の範囲となるように分子設計することが好ましい。上記ヒドロキシル価が50未満では塗膜の硬化不良を招き、反対に250を超えると硬化後塗膜中に過剰の水酸基が残存する結果、耐水性が低下することがある。
【0025】
また上記カチオン変性エポキシ樹脂は、アミン価が40〜150の範囲となるように分子設計することが好ましい。上記アミン価が40未満では上記酸中和による水媒体中での乳化分散不良を招き、反対に150を超えると硬化後塗膜中に過剰のアミノ基が残存する結果、耐水性が低下することがある。
【0026】
更に上記樹脂(a)の軟化点は、80℃以上、更に好ましくは100℃以上のものを用いることが、本発明の目的である硬化形成塗膜の耐溶剤性、耐食性あるいは塗膜外観の高レベルでの両立化を達成する上で望ましい。
【0027】
上記硬化剤(bi)としては、加熱時に各樹脂成分を硬化させることが可能であれば、どのような種類のものでも良いが、本発明においては電着樹脂の硬化剤として好適なブロックドイソシアネートが推奨される。上記ブロックドイソシアネートの原料であるポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’‐メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環族ポリイソシアネート、4,4’‐ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。これらを適当な封止剤でブロック化することにより、上記ブロックドイソシアネートを得ることができる。
【0028】
上記封止剤の例としては、n‐ブタノール、n‐ヘキシルアルコール、2‐エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2‐エチルヘキシルエーテル等のセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノール等のポリエーテル型両末端ジオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4‐ブタンジオール等のジオール類とシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等のジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール;パラ‐t‐ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;およびε‐カプロラクタム、γ‐ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。とくにオキシム類およびラクタム類の封止剤は低温で解離するため、後工程にて中塗り塗膜と同時焼付けを行う際に、樹脂硬化性の観点からみて好適である。
【0029】
上記ブロックドイソシアネートは封止剤の単独あるいは複数種の使用によってあらかじめブロック化しておくことが望まれる。ブロック化率については、上記の各樹脂成分と変性反応する目的がなければ、塗料の貯蔵安定性確保のためにも100%にしておくことが好ましい。
【0030】
上記ブロックドイソシアネートの上記樹脂成分(a)量に対する配合比は、硬化塗膜の利用目的などで必要とされる架橋度に応じて異なるが、塗膜物性や中塗り塗装適合性を考慮すると15〜40重量%の範囲が好ましい。この配合比が15重量%未満では塗膜硬化不良を招く結果、機械的強度などの塗膜物性が低くなることがあり、また、中塗り塗装時に塗料シンナーによって塗膜が侵されるなど外観不良を招く場合がある。一方、40重量%を超えると、逆に硬化過剰となって、耐衝撃性等の塗膜物性不良などを招くことがある。なお、ブロックドポリイソシアネートは、塗膜物性、硬化度および硬化温度の調節等の都合により、複数種を組み合わせて使用しても良い。
【0031】
アミン価を有する上記樹脂成分(a)は、前述のように樹脂中のアミノ基を適当量の無機酸または有機酸で中和処理し、カチオン化エマルジョンとして水中に乳化分散させるが、この乳化分散の工程では、樹脂エマルジョンに少なくとも一種類の硬化剤(bi)をコアとして内包させることが望ましい。その際に、エマルジョンの平均粒子径は、それぞれ0.01〜0.5μm、好ましくは0.02〜0.3μm、より好ましくは0.05〜0.2μmである。平均粒子径が0.01μm未満であると、樹脂成分を水分散するのに必要な中和剤が過剰量となり、一定電気量あたりの電着塗着効率が低下する。また平均粒子径が0.5μmを超えると、粒子の分散性が低下するために、電着塗料の貯蔵安定性が低くなる。
【0032】
本発明の方法で使用する電着塗料に配合する顔料は、通常、塗料に使用されるものであれば特に制限なく使用することができる。その例としては、カーボンブラック、二酸化チタン、グラファイト等の着色顔料、カオリン、珪酸アルミニウム(クレー)、タルク等の体質顔料、リンモリブデン酸アルミニウム等の防錆顔料が挙げられる。これらの中でも、電着塗装後の塗膜中で分散を担う顔料として特に好ましいのは、二酸化チタン、カーボンブラック、珪酸アルミニウム(クレー)およびリンモリブデン酸アルミニウムである。特に二酸化チタン、カーボンブラックは着色顔料として隠蔽性が高く、しかも安価であることから、電着塗膜用に最適である。なお、上記顔料は単独で使用することもできるが、目的に合わせて複数種を使用するのが一般的である。
【0033】
上記電着塗料中に含有される上記顔料(P)および樹脂固形分(V)の合計重量(P+V)に対する上記顔料の重量比{P/(P+V)}(以後、PWCと称する)が、10〜30重量%の範囲にあることが好ましい。上記重量比が10重量%未満では、顔料不足により塗膜に対する水分などの腐食要因の遮断性が大きく低下し、実用レベルでの耐候性や耐食性を発現できないことがある。また、上記重量比が30重量%を超えると、顔料が過多となり硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が著しく悪くなることがある。ここで、上記樹脂固形分(V)とは、電着塗料の主樹脂である上記樹脂(a)および硬化剤(bi)の他、顔料分散樹脂をも含めた電着塗膜を構成する全樹脂バインダーの合計固形分量を示す。
【0034】
電着塗料の顔料は、分散樹脂による顔料ペーストを調製した上で塗料中に配合する。顔料分散樹脂の種類および組成に関しては、上記樹脂成分(a)と同一のものか、あるいはそれと近似組成で、かつ上記溶解性パラメーターの条件を満足するものが好適である。また、顔料に対する分散樹脂の適性配合量は、5〜40固形分重量%(対顔料重量)である。分散樹脂の配合量が5重量%未満の場合は、顔料分散安定性を確保することが困難となり、また40重量%を超える場合は塗膜の硬化性の制御が困難になる場合がある。
【0035】
上記電着塗料組成物は、全固形分濃度が15〜25重量%の範囲となるように調整することが好ましい。全固形分濃度の調節には水性媒体(水単独かまたは水と親水性有機溶剤との混合物)を使用して行う。また、上記塗料組成物中には少量の添加剤を導入しても良い。添加剤の例としては紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、塗膜表面平滑剤、硬化促進剤(有機スズ化合物など)などを挙げることができる。
【0036】
本発明の電着塗膜を形成するためには、被塗装物である導電性基材に陰極(カソード極)端子を接続し、上記水性塗料組成物の浴温15〜35℃、負荷電圧100〜400Vの条件下で、乾燥膜厚10〜30μmとなる量の塗膜を電着塗装する。電着塗装後のウェット電着塗膜は、当該業者にとって公知の方法に従って、水洗(工業用水および脱イオン水洗浄を含む)、および乾燥(室温における自然乾燥もしくはエアーブロー乾燥)による後処置を行うことが望ましい。
【0037】
[工程(I’)]
本発明の複層塗膜形成方法において、上記工程(I’)は、必要に応じて電着塗膜の硬化に必要な焼付け温度よりも低い温度でプレヒートを施し、未硬化状態の電着塗膜を形成する工程である。
【0038】
(プレヒート方法)
上記2ウェット塗装方法において、次の中塗り塗装工程に入る前に、未硬化の電着塗膜に対して、必要に応じてプレヒート工程を実施することがあってもよい。特公昭58‐43155号公報には、すでに2ウェット塗装方法における基本的なプレヒート工程についてその詳細が記されている。電着塗膜のプレヒートは、本焼付け前に、ウェット塗膜内部の揮発分を除去し、かつ塗膜の平滑性を高めることによって、硬化塗膜の仕上がりを改良するために行なうのが通常の目的である。しかしながら、本発明における2ウェット塗装方法におけるプレヒート工程には、それ以外に特別の目的がある。それは電着塗膜の焼付温度未満である60〜120℃、加熱時間にして1〜15分間の範囲においてウェット塗膜を予備加熱することで、特に自動車ボディ用鋼板の車体構造における合わせ目部分からの未洗浄電着液の2次タレあるいは次の焼き付け工程における突沸を防止し、該当部分の塗膜欠陥に基づく防錆性不良や外観不良を解消することにある。
【0039】
[工程(II)]
本発明の複層塗膜形成方法において、工程(I)、更に必要に応じて次の工程(I’)終了後の未硬化電着塗膜の上に、水性中塗り塗料を塗布した後、上記未硬化の電着塗膜および中塗り塗膜を同時に加熱硬化させる工程である。
【0040】
(水性中塗り塗料および塗装方法)
上記工程(II)に用いる水性中塗り塗料は、電着塗膜下地を隠蔽し、上塗り塗装後の表面平滑性を確保し、耐衝撃性、耐チッピング性等の塗膜物性を付与するために塗布されるものである。更に、自動車塗装分野においては、多層塗膜全体としての総合塗膜外観において、光線透過率の高い上塗り塗膜と共に、その下地にある多色化された中塗り塗膜による複合された高意匠性が、とりわけ高級車種を中心に求められている。そのために上記2ウェット塗装システムにおいても、変色の無い、かつ平滑性の高い表面を有するカラー中塗り層を形成することが求められている。
【0041】
上記水性中塗り塗料は、被塗装物上に形成された上記未硬化電着塗膜上に塗布され、かつ焼き付けられることによって、両塗膜が同時に硬化塗膜として形成される。上記中塗り塗料は、溶解性パラメーターδciを有する少なくとも一種類のバインダー樹脂(ci)および溶解性パラメーターδdiを有する少なくとも一種類の硬化剤(di)を必須成分として含むものである。更に上記水性中塗り塗料は、上記必須成分に加えて、必要に応じて顔料を含む塗料成分を使用することによって、中塗り塗膜を形成するものである。
【0042】
また前述のように、上記電着塗料は、溶解性パラメーターδaを有するバインダー樹脂(a)および溶解性パラメーターδbiを有する少なくとも一種類の硬化剤(bi)を必須成分として含むものである。本発明において、これら電着/中塗り塗料の構成成分の全ての溶解性パラメーターが以下の3式:
(1)(δa−δci)≧1
(2)(δa−δdi)≧1
(3)(δbi−δdi)≧1.5
で表される関係を満足することが中塗り塗料の設計上必要である。
【0043】
ここで、上記溶解性パラメーターδとは、当該業者等の間で一般にSP(ソルビリティ・パラメーター;solubility parameter)とも呼ばれるものであって、樹脂の親水性または疎水性の度合いを示す尺度であり、また樹脂間の相溶性を判断する上でも重要な尺度である。また、上記溶解性パラメーターは、例えば濁度測定法により数値定量化されるものであることも当該業者等の間で公知である。
参考文献:K.W.Suh,D.H.Clarke J.Polymer.Sci.,A−1,5,1671(1967)
【0044】
上記式(1)の関係は、ウェット状態での中塗り層および電着層との界面を確保し、かつ塗膜物性の一体化を計る上で重要である。つまり上記式(1)において、上記電着塗料のバインダー樹脂(a)の溶解性パラメーターδaと、上記中塗り塗料のバインダー樹脂(ci)の溶解性パラメーターδciとの差異が1以上であることが必要である。
【0045】
一般に、樹脂間の溶解性パラメーターの差異が0.2以下であれば、ほぼ完全に相溶しており、0.2を超えると、相溶性を失い、塗膜が分離構造を呈し始めると考えられている。上記複層塗膜においては、明瞭に層分離した塗膜構造を形成することが必要であるため、電着塗膜層を構成するバインダー樹脂(a)の溶解性パラメーター値(δa)と中塗り塗膜層を構成するバインダー樹脂(ci)の溶解性パラメーター値(δci)の差異(δa−δci)が、少なくとも1以上であることが必要になる。上記差異が1未満であると、電着/中塗り複層塗膜において明瞭に層分離した塗膜構造が形成されず、耐チッピング性、耐黄変性および耐食性の高レベルでの両立化が困難になる。
【0046】
上記溶解性パラメーター値(δa)は、10.5〜12.0、好ましくは10.8〜11.7であることが望ましい。上記δaが10.5未満であると、電着層の基材への接着性が不足するために防錆性が低下する恐れがある。一方12.0を超えると、樹脂自体の親水性が過度に高いために電着硬化膜の耐水性が低下する恐れがある。
【0047】
上記樹脂層の分離状態を確認する方法として、電着塗膜の断面をビデオマイクロスコープによって目視観察するか、走査型電子顕微鏡(SEM観察)によって観察する方法が挙げられる。また透過型電子顕微鏡(TEM)、IRイメージング装置により、複層膜界面の混層状態を観察及び分析することができる。さらに各樹脂層を構成する樹脂成分を同定するには、例えば全反射型フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR‐ATR)を使用することができる。
【0048】
上記式(2)および(3)については両方が同時に成立することが、中塗り層を構成する硬化剤(di)と電着塗料のバインダー樹脂(a)およびその硬化剤(bi)との不相溶性を確保し、硬化剤(di)の電着塗膜層への移行を防止する上で重要である。上記式(2)および(3)が同時に成立することにより、焼き付け時に硬化剤(di)による中塗り塗膜の硬化性が確保される結果、優れた塗膜外観を有する中塗り塗膜を得ることができる。また同時に電着塗膜層の硬化性も確保されるために、防錆性に優れた複層塗膜を得ることができる。
【0049】
上記式(2)および(3)の内、少なくとも一方の式が不成立の場合は、中塗り塗膜の硬化剤(di)が電着塗膜成分と完全あるいは部分的に相溶してしまう結果、たとえ電着塗膜層と中塗り塗膜層の界面を維持し得たとしても、両塗膜の硬化が不十分となり、中塗り塗膜の表面外観も成立しない場合がある。ここで、上記式(2)が不成立の場合とは、電着塗料のバインダー樹脂(a)と中塗り塗膜の硬化剤(di)との溶解性パラメーターの差異(δa−δdi)が1未満となる場合であり、上記式(3)が不成立の場合とは、電着塗料の硬化剤(bi)と中塗り塗料の硬化剤(di)との溶解性パラメーターの差異(δbi−δdi)が1.5未満となる場合である。
【0050】
特に式(3)に示すように、電着塗料の硬化剤(bi)と中塗り塗料の硬化剤(di)との溶解性パラメーターの差異(δbi−δdi)が1.5以上と、上記式(1)の電着/中塗り塗料樹脂間および上記式(2)の電着塗料樹脂と中塗り硬化剤間の溶解性パラメーターの差異よりも更に大きな値であることが、不相溶性を確保する上で是非必要であることが判った。
【0051】
上記溶解性パラメーター値(δbi)は、10.5〜12.5、好ましくは11.0〜12.0であることが望ましい。上記δbiが10.5未満であると電着樹脂(a)との相溶性が不足するか、あるいは中塗り層への硬化剤(bi)移行による電着/中塗り複層系の硬化性低下を招く恐れがある。一方12.5を超えると、電着樹脂(a)との相溶性が不足するために電着層の硬化阻害を招く恐れがある。
【0052】
次いで、本発明の水性中塗り塗料組成物に関して詳細に述べる。
上記水性中塗り塗料は、熱可塑性樹脂(バインダー樹脂)、硬化剤および顔料分散ペースト等を含む固形分を、必要に応じてアルコール等の親水性媒体を含む水中に分散させて調製されるものである。
【0053】
本発明においては、バインダーとなる上記熱可塑性樹脂(ci)は好ましくは酸価10〜100のアニオン変性アクリル樹脂であり、従って、上記中塗り塗料は、アニオン変性アクリル樹脂による水性ディスパージョンを含む水性塗料である。
【0054】
上記樹脂(ci)は、上述のごとく少なくとも一種類のアニオン変性アクリル樹脂である。アニオン変性アクリル樹脂は、酸性基を有するモノマーを含むアクリル系および/または非アクリル系モノマーをもとに、当該業者にとって公知の溶液重合法あるいは塊状重合法で合成することができる。
【0055】
上記酸性基を有するモノマーの例には、例えばカルボン酸基を有するモノマーとして(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられ、リン酸基を有するモノマーとしてモノ(メタ)アクリロイルアシッドホスフェート(城北化学工業社製「JAMP‐514」)、モノ(2‐(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート(共栄化学社製「ライトエステルPM」および「ライトエステルPA」)等が挙げられる。
【0056】
目的のアクリル共重合体は、上記酸性基を有するモノマーの少なくとも1種類と、ヒドロキシル基含有アクリルモノマーと、その他のアクリル系および/または非アクリル系モノマーとを共重合することによって得られる。
【0057】
上記ヒドロキシル基含有アクリルモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、あるいは2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのような水酸基含有(メタ)アクリルエステルと、ε−カプロラクトンとの付加生成物等が挙げられる。
【0058】
その他のアクリル系モノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n‐プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n‐ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t‐ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2‐エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、非アクリル系モノマーの例としては、スチレン、ビニルトルエン、α‐メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドおよび酢酸ビニルを挙げることができる。
【0059】
上記樹脂(ci)は、ヒドロキシル価が50〜150の範囲となるように分子設計することが好ましい。ヒドロキシル価が50未満では塗膜の硬化不良を招き、反対に150を超えると得られる硬化塗膜中に過剰の水酸基が残存する結果、耐水性が低下することがある。また上記樹脂(ci)の水酸基は、1級水酸基に対して、2級水酸基を併用し硬化反応速度を調整することで、塗膜の表面平滑性を高めることができ、同時に層間密着性の向上にも効果がある。
【0060】
また上記式(1)を成立させるために、上記樹脂(ci)の溶解性パラメーターδciは、9.5〜10.5、好ましくは9.7〜10.3の範囲に制御しなければならない場合がほとんどであり、そのために樹脂合成に用いる共重合モノマーとして炭素数6以上を有するアルキル基置換(メタ)アクリレート系モノマーを少なくとも10重量%以上用いることによって、アクリル樹脂の溶解性パラメーターを調整することが好ましい。上記溶解性パラメーターδciが、9.5未満であると、中塗り層の極度の疎水化を招くために、上塗り層との密着不良を招く恐れがある。また、10.5を超えると、電着樹脂層へ混層による電着/中塗り界面制御不能を招く。その結果、複層系の硬化不良を起こす可能性がある。
【0061】
上記樹脂(ci)の数平均分子量は1,500〜20,000、好ましくは2,000〜10,000の範囲であれば好適である。上記数平均分子量が1,500未満では樹脂粘度が低くなり過ぎるために下層の未硬化電着塗膜との混合、あるいは層反転等の不良が生じる恐れがある。また硬化塗膜の耐溶剤性等の物性が劣る場合がある。反対に上記数平均分子量が20,000を超えると、樹脂溶液の粘度が高いために得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となるばかりか、フロー性が劣るために得られた中塗り塗膜の外観が著しく低下してしまうことがある。なお、上記樹脂(ci)は1種のみ使用することもできるが、塗膜性能のバランス化を計るために、2種あるいはそれ以上の種類を使用することもできる。
【0062】
また上記アニオン変性アクリル樹脂(ci)は、酸価が10〜100、好ましくは20〜50の範囲となるように分子設計することが望ましい。酸価が10未満では酸基の中和による水媒体中での乳化分散不良を招き、反対に100を超えると得られる硬化塗膜中に過剰の酸基が残存する結果、耐水性が低下することがある。
【0063】
上記硬化剤(di)としては、加熱時に上記バインダー樹脂成分を硬化させることが可能であれば、どのような種類のものでも良いが、その中でも中塗り樹脂の硬化剤として好適な疎水性メラミン樹脂が推奨される。本発明において好ましく用いられるメラミン樹脂としては、とくに炭素数4以上の一価アルコールによるアルキルエーテル化メラミン(例えば、ブチル化メラミン)が挙げられる。また、上記硬化剤(di)の溶解性パラメーターδdiは、9.5〜10.5、好ましくは9.7〜10.3であり、かつ上記式(2)および式(3)を成立するように溶解性パラメーターを調整しなければならない。上記溶解性パラメーターδdiが、9.5未満であると、中塗り層の極度の疎水化を招くために、上塗り層との密着不良を招く恐れがある。一方10.5を超えると電着層へ混層による界面制御不能を招く恐れがある。その結果、電着/中塗り複層系の硬化不良を起こす可能性がある。
【0064】
上記硬化剤(di)の上記中塗りバインダー樹脂成分(ci)との合計量に対する配合比率{di/(ci+di)}は、硬化塗膜の利用目的などで必要とされる架橋度に応じて異なるが、塗膜物性や上塗り塗装適合性を考慮すると15〜40重量%の範囲が好ましい。この配合比が15重量%未満では塗膜の硬化不良を招く結果、機械的強度などの塗膜物性が低下することがあり、また、上塗り塗装時に塗料シンナーによって塗膜が侵されるなど外観不良を招く場合がある。一方、40重量%を超えると、逆に硬化過剰となって、耐衝撃性等の塗膜物性不良などを招くことがある。なお、硬化剤(di)は、塗膜物性や硬化度の調節等の都合により、複数種を組み合わせて使用しても良い。
【0065】
水性中塗り塗料用途の樹脂ディスパージョンは、上記樹脂成分(ci)に対して樹脂中の酸性基を適当量のアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、もしくはメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジメチルドデシルアミン等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基含有1〜3級アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、2‐アミノ‐2‐メチルプロパノール等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状アルキル基および炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のヒドロキシアルキル基を含有する1〜3級アミン;トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリドデシルアルコールアミン等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のヒドロキシアルキル基のみを含有する3級アミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の炭素数1〜20の置換又は非置換鎖状ポリアミン;モルホリン、N‐メチルモルホリン、N‐エチルモルホリン等の炭素数1〜20の置換又は非置換環状モノアミン;ピペラジン、N‐メチルピペラジン、N,N‐ジメチルピペラジン等の炭素数1〜20の置換又は非置換環状ポリアミン等の有機塩基で中和処理した後、上記樹脂(ci)および上記硬化剤(di)と共に混合し、アニオン性樹脂ディスパージョンとして水中に乳化分散させることによって調製される。
【0066】
上記水性中塗り塗料は、少なくとも上記樹脂(ci)および上記硬化剤(di)を含む粒子および必要に応じて顔料分散体から成り、かつ粒子中に上記樹脂(ci)はシェルとして、硬化剤(di)はコアとして含有される。上記粒子の平均粒子径は、それぞれ0.01〜0.5μm、好ましくは0.02〜0.3μm、より好ましくは0.05〜0.2μmである。平均粒子径が0.01μm未満であると、樹脂成分を水分散するのに必要な中和剤、あるいは乳化剤が過剰量となり、塗膜の耐水性が低下する。また平均粒子径が0.5μmを超えると、粒子の分散性が低下するために、中塗り塗料の貯蔵安定性が低下する。
【0067】
上記水性中塗り塗料としては、上記電着塗料を塗布した後、未硬化の状態で重ねて塗布するために、層混合や層反転、またはタレ等の不良事象が発生し易い。本発明においては不良事象防止のために、更に必要に応じて公知の粘性制御剤を水性中塗り塗料中に含有する。
【0068】
本発明にて用いられる粘性制御剤としては、例えば、セルロース系のものとして、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、市販されているものとして「チローゼ(Zirrhose)MH」および「チローゼH」(いずれもヘキスト社(Hoechst AG)製);アルカリ増粘型のものとして、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、市販されているものとしては、「プライマル(Primal)ASE‐60」、「プライマルTT‐615」、「プライマルRM‐5」(いずれもローム&ハース社(Rohm and Haas Co.)製)、「ユーカーポリフォーブ(Ucar Polyphobe)」(ユニオンカーバイド社(Union Carbide Corporation)製)等;ノニオン性のものとして、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、市販されているものとしては、「アデカノールUH‐420」、「アデカノールUH‐462」、「アデカノールUH‐472」(いずれも旭電化工業社製)、「プライマルRH‐1020」(ローム&ハース社製)、「クラレポバール」(クラレ社製)等;両親媒性分子内部にウレタン結合を含むウレタン会合型増粘剤として市販されているものとしては、「アデカノールSDX‐1014」(旭電化工業社製)を挙げることができる。
【0069】
上記粘性制御剤の中でも、分子内部にウレタン結合を含むウレタン会合型増粘剤が水性塗料中において粘性制御効果が高く、本発明においてもより好ましく用いることができる。
【0070】
上記アクリル樹脂粒子をも含めた粘性制御剤は、何れか単独の使用でも良く、また複数種を組み合わせて使用しても良い。
【0071】
上記粘性制御剤の添加量は、水性中塗り塗料の樹脂固形分100重量部に対して、0.01〜40重量部、好ましくは0.05〜30重量部、より好ましくは0.1〜20重量部である。0.01重量部未満であると、充分な粘性制御効果が得られず、また40重量部を超えるとフロー性が極度に損なわれる結果、得られる焼付け塗膜の外観が低下する。
【0072】
また上記水性中塗り塗料は、エラストマーを含んでいてもよい。上記エラストマーを含むことによって、得られる中塗り塗膜に柔軟性を付与し、耐衝撃性、耐チッピング性を向上することができる。上記エラストマーは、その設計ガラス転移温度が、−110〜10℃であることが好ましい。上記エラストマーの設計ガラス転移温度が10℃を超えると、得られる塗膜の柔軟性や耐衝撃性の効果が低くなり、−110℃未満のものはエラストマーの実際上の設計が困難である。上記設計ガラス転移温度は、上記エラストマーを製造する際の原料(単量体もしくはホモポリマー)に基づく既知のガラス転移温度および配合量比から、公知の方法により予想値を計算しても良い。
【0073】
本発明の中塗り塗料に使用可能な上記エラストマーの数平均分子量は、1,000〜300,000、好ましくは5,000〜200,000の範囲である。1,000未満であると、分子量が低いために充分な耐衝撃性(耐チッピング性)が発現されない。また300,000を超えると、樹脂粘度が高くなり過ぎて、乳化分散操作を行うことが困難になる。
【0074】
上記エラストマーとしては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン系単量体のホモポリマー、又は、共役ジエン系単量体とエチレン、プロピレン、エチリデン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4‐ヘキサジエン、酢酸ビニル、スチレン、アクリルニトリル、イソブチレン、(メタ)アクリル酸(エステル)等の単量体とのランダムもしくはブロックコポリマー;ジイソシアネートとジオールとの重付加反応によって合成されるポリウレタン系熱可塑性エラストマー;テレフタル酸ジメチル、1,4‐ブタンジオール、ポリ(テトラメチレン)グリコール等を原料とし、エステル交換反応および重縮合反応によって合成されるポリエステル系熱可塑性エラストマー;ラクタム、ジカルボン酸、ポリエーテルジオールを原料とし、エステル交換および重縮合反応によって合成されるポリアミド系エラストマーを挙げることができる。
【0075】
上記エラストマーは、水分散化されたものか、または水溶性のものを使用することによって、上記水性中塗り塗料中に安定に存在せしめることができる。上記水分散化の方法としては、例えば、別途、分散樹脂、界面活性剤等の分散剤を適用して水性媒体中にエマルジョンとして導入することができる。上記エラストマー分散樹脂としては、水性中塗り塗料の構成樹脂である上記樹脂(ci)をそのままか、あるいは適当量の中和剤にて、エラストマーと共に水性媒体中分散することが、塗膜中のエラストマー粒子の分散性と塗膜耐水性の確保のためには好ましい。また別法として、2分子末端に水酸基等の反応性基を有するテレケリックオリゴマー(例としてポリブタジエンジオール、テトラメチレングリコールジオールあるいはε‐ポリカプロラクトンジオール等)にたとえばウレタン化反応等にて、酸性基、ノニオン性基等の極性官能基を導入し、そのままか、あるいは適当量の塩基性中和剤にてアニオン化した上で水性媒体中に分散し、自己乳化エマルジョンをなすことによって目的を達成することができる。
【0076】
更に乳化重合法によって得られたポリブタジエン、ポリイソプレン等の共役ジエン系ゴムエマルジョンあるいはアクリル系ゴムエマルジョンをそのまま塗料に配合しても良い。
【0077】
中塗り塗膜の断面構造としては、エラストマー粒子が分散相となり、上記樹脂(ci)が連続相となるミクロドメイン構造を構成するように設計する必要がある。そのためには、これらのエラストマー分散体の平均粒子径は、サブミクロン領域、特に0.01〜0.2μmの範囲であることが中塗り塗膜表面の外観を良好に維持するためにも望ましい。エラストマー粒子の平均粒子径が、0.01μm未満であると、樹脂成分を水分散するのに必要な中和剤、あるいは乳化剤が過剰量となり、塗膜の耐水性が低下する恐れがある。また平均粒子径が0.2μmを超えると、中塗り塗膜の外観が低下する。
【0078】
上記水性中塗り塗料中の樹脂固形分に対する上記エラストマーの含有量は、固形分基準で5〜40重量%、好ましくは10〜20重量%である。5重量%未満であると、得られる塗膜の耐チッピング性に充分な改良効果が期待できない。また40重量%を超えると中塗り外観の低下が著しくなる。
【0079】
ここで、上記樹脂固形分とは、これらエラストマー、主樹脂である上記樹脂(ci)、および硬化剤(di)の他、顔料分散剤をも含めた中塗り塗膜を構成する全樹脂バインダーの合計固形分量を示す。
【0080】
更に上記水性中塗り塗料は、通常、顔料を含むものである。上記水性中塗り塗料において用いることができる顔料は、まず上記電着塗料において例示したものを挙げることができる。また特に耐候性の向上、隠蔽性の確保、および安価である点から、無機系着色顔料を中心に利用することが好ましい。特に二酸化チタンは、白色の着色隠蔽性に優れ、しかも安価であることから、より好ましい。
【0081】
また有機系着色顔料を併用することができる。上記有機系着色顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン顔料、インジゴ顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料等が挙げられる。
【0082】
上記顔料として主にカーボンブラックと二酸化チタンを用いることにより標準的なグレー系水性中塗り塗料とすることができるし、近年、特に高級車両を対象とした中塗り設計である上塗り塗料と明度又は色相等を合わせたセットグレーや各種の着色顔料を組み合わせた、いわゆるカラー水性中塗り塗料とすることもできる。
【0083】
上記中塗り塗料中に含有される顔料および樹脂固形分の合計重量に対する顔料の重量比(PWC)は、10〜60重量%の範囲にあることが好ましい。上記PWCが10重量%未満では、顔料不足の為に隠蔽性が低下する恐れがある。60重量%を超えると、顔料過多により硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が低下する。ここで、上記樹脂固形分とは、主樹脂、硬化剤の他、顔料分散樹脂をも含めたベース塗膜を構成する全樹脂バインダーの合計固形分量を示す。
【0084】
上記顔料は、一般的に用いられている顔料分散樹脂に予め分散させて顔料分散ペーストを調製した後、水性中塗り塗料の調製に際して適量を配合する。上記顔料分散樹脂は、顔料親和部分および親水部分を含む構造を有する樹脂であり、樹脂種は特に限定されないが、当該業者により公知の方法に従って製造することができるものである。
【0085】
上記顔料分散剤の数平均分子量は、1,000〜100,000、好ましくは2,000〜70,000、より好ましくは、4,000〜50,000であることが望ましい。1,000未満となると、分散安定性が充分でない場合があり、100,000を超えると、粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難となる場合がある。
【0086】
好ましく用いられる顔料分散剤の市販品として、例えば「ディスパー(Disper)byk190」、「ディスパーbyk182」、「ディスパーbyk184」(いずれもBYKケミー社(BYK‐Chemie GmbH)製)、「EFKAポリマー4550」(EFKA社製)、「ソルスパース(Solsperse)27000」、「ソルスパース41000」、「ソルスパース53095」(いずれもアビシア(Avecia)社製)等を挙げることができる。
【0087】
上記顔料分散剤は、顔料と共に公知の方法にしたがって、混合分散して顔料分散ペーストを得ることができる。上記顔料分散ペースト中の上記顔料分散樹脂の配合割合は、顔料分散ペーストの固形分に対して1〜20重量%、好ましくは、5〜15重量%である。1重量%未満であると、顔料を安定に分散することができない、20重量%を超えると、塗膜物性が劣る場合がある。
【0088】
上記水性中塗り塗料は、少なくとも上記バインダー樹脂の水性ディスパージョンと上記顔料分散ペーストを必須成分とし、更に必要に応じて、上記粘性制御剤および/または上記エラストマー、その他の塗料添加剤を混合して調製されるものである。この際、その他の塗料添加剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ワキ防止剤等を挙げることができる。
【0089】
上記中塗り塗料の塗装方法としては、特に限定されず、例えば、通称「リアクトガン」と呼ばれるエアー静電スプレー;通称「マイクロ・マイクロ(μμ)ベル」、「マイクロ(μ)ベル」、「メタベル」等と呼ばれる回転噴霧式の静電塗装機等を用いることができる。好ましくは、回転噴霧式の静電塗装機を用いる塗装方法である。
【0090】
上記中塗り塗膜の乾燥膜厚は、用途により変化するが、10〜50μm、好ましくは20〜40μmである。10μm未満であると、下地が隠蔽できず、塗膜切れが発生することがあり、50μmを超えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、タレ等の不具合が起こることがある。
【0091】
上記工程(II)においては、上記電着塗膜および中塗り塗膜を同時に加熱硬化させる。上記加熱硬化させる温度としては、140〜190℃、好ましくは150〜180℃にて行うことによって、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。190℃を超えると、塗膜が過度に堅く、脆くなり、140℃未満では硬化が充分でなく、耐溶剤性や塗膜強度等の塗膜物性が低くなる。
【0092】
上記加熱硬化(焼き付け)の結果、電着層/中塗り層からなる複層硬化塗膜が得られるが、その内で上記電着塗料から形成される硬化塗膜の動的ガラス転移温度Tgは、110〜150℃、好ましくは120〜140℃の範囲にあることが望ましい。上記動的ガラス転移温度が150℃を超えると、樹脂層が脆くなる結果、耐衝撃性に劣ることになり、100℃未満では、防食性に劣ることになる。
【0093】
また、上記中塗り塗膜の動的ガラス転移温度Tgは60〜100℃、好ましくは70〜90℃の範囲に設計すれば、従来塗装方法による3コート膜と同等の耐チッピング性を付与することができる。上記動的ガラス転移温度が100℃を超過する領域または60℃未満の領域では、共に耐チッピング性が劣る結果を招く。
【0094】
上記動的ガラス転移温度の測定は、上記電着塗料を用いてブリキ板基材上に電着塗装後、硬化させて形成した電着塗膜を水銀を用いて剥離し、レオバイブロン(オリエンテック社製)やレオメトリックスダイナミックアナライザー(レオメトリックス社製)等の動的粘弾性測定装置による測定にて行うことができる。
【0095】
[工程(III)]
本発明の多層塗膜形成方法において、工程(III)は、上記中塗り塗膜の上に、上塗り水性ベース塗料を塗布して、未硬化のベース塗膜を形成するものである。
【0096】
(水性ベース塗料および塗装方法)
上記水性ベース塗料は、主として塗膜や色彩に光輝性等の美観性および意匠性を付与し維持するために塗布されるものであり、例えば、水性カラーベース塗料、水性メタリック塗料、水性ソリッドベース塗料を挙げることができる。
【0097】
本工程で用いることのできる水性ベース塗料は、必要に応じてアルコール等の水と可溶しうる媒体を含む水中に、バインダー樹脂を溶解もしくは分散したものであれば、いかなるものでも適用できる。
【0098】
上記ベース塗膜形成樹脂としては、特に限定されず、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらはアミノ樹脂および/またはブロックドイソシアネート等の硬化剤と組み合わせて用いられる。顔料分散性や作業性の点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とメラミン樹脂の組み合わせが好ましい。
【0099】
上記水性ベース塗料としては、光輝性顔料を配合して、メタリックベース塗料として用いることができるし、光輝性顔料を配合せずにレッド、ブルーあるいはブラック等の着色顔料および/または体質顔料を配合してソリッドベース塗料として用いることもできる。
【0100】
上記光輝性顔料としては、特に限定されず、例えば、金属又は合金等の無着色もしくは着色された金属製光輝材およびその混合物、干渉マイカ粉、着色マイカ粉、ホワイトマイカ粉、グラファイト又は無色、有色の扁平顔料等を挙げることができる。それらの中でも、金属又は合金等の無着色もしくは着色された金属製光輝材およびその混合物が好ましい。その金属の具体例としては、アルミニウム、酸化アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ等を挙げることができる。上記光輝性顔料の形状は、特に限定されず、例えば平均粒子径(D50)が2〜50μmであり、厚さが0.1〜5μmである鱗片上のものが好ましい。
【0101】
上記光輝性顔料と水性ベース塗料中に含有される樹脂固形分の合計重量に対する顔料の重量比(PWC)が、0.01〜20重量%の範囲にあることが好ましい。0.01未満では、顔料による下地の隠蔽性が不足し、また20重量%を超えると、顔料過多のために外観不良を招く恐れがある。ここで、上記樹脂固形分とは、主樹脂、硬化剤の他、顔料分散剤をも含めたベース塗膜を構成する全樹脂バインダーの合計固形分量を示す。
【0102】
また上記光輝性顔料以外の顔料としては、基本的には上記電着あるいは中塗り塗料の説明において記載した着色顔料、体質顔料を用いることができ、それらの中から1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0103】
上記光輝性顔料、およびその他の全ての顔料を含めた水性ベース塗料中の顔料濃度(PWC)は、一般的には0.1〜50重量%であり、好ましくは0.5〜40重量%であり、より好ましくは1〜30重量%である。0.1重量%未満では、下地隠蔽性に乏しく、また50重量%を超えると顔料過多によって塗膜外観がかえって低下する。
【0104】
上記顔料は、公知の方法により、予め顔料分散樹脂を用いて分散ペーストを調製した後、上記塗料に配合する。この場合の顔料分散樹脂は、上記水性中塗り塗料の場合と同様のものを用いることができる。
【0105】
上記水性ベース塗料に用いられるその他の添加剤、および上記水性ベース塗料の調製方法としては、上記中塗り塗料において開示したものを挙げることができる。即ち、通常、上記溶剤型熱硬化性樹脂をバインダーとして含む成分を、必要に応じて適当量の酸または塩基による中和を行った後、硬化剤と共に、自己乳化分散か、もしくは適当な分散剤により水性媒体中に分散することによって調製される。
【0106】
また、顔料は予め適当な分散剤によって分散ペーストを形成した後、上記樹脂粒子と共に、上記配合比に基づいて配合される。
【0107】
上記水性ベース塗料に関する具体的な公知技術としては、特開平6‐145565号公報および特開平8‐311396号公報記載のものがあり、本発明に適する。また、特開2001‐311043号公報記載の、ポリエーテルポリオール、光輝性顔料を分散したメタリック顔料ペーストに、更に乳化重合法により得られるエマルジョン樹脂をバインダーとして添加した水性メタリック塗料組成物が光輝感に優れており、本発明に好ましく用いることができる。具体例として、日本ペイント(株)製の水性メタリックベース塗料である商品名「アクアレックス AR‐2000」が好適である。
【0108】
上記水性ベース塗料は、上記工程(II)において形成された中塗り硬化塗膜の上に塗布され、未硬化のベース塗膜が形成される。上記水性ベース塗料の塗装方法としては、基本的に上記工程(II)において水性中塗り塗料を塗布する際に例示した方法を挙げることができる。更に上記ベース塗料を自動車車体に対して塗布する際には、意匠性を高めるために、エア静電スプレーと上記回転噴霧式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法により行うことが好ましい。
【0109】
上記水性ベース塗料を塗布した後、次工程(IV)において、上塗りクリヤー塗料を塗装する前に、塗膜の仕上がり性を向上させるために、必要に応じて硬化温度未満の加熱条件、好ましくは温度:60〜120℃、時間:1〜15分間の範囲内においてプレヒートを行ってもよい。
【0110】
上記ベース塗膜の乾燥膜厚は、用途により変化するが、5〜30μm、好ましくは10〜20μmである。5μm未満であると、色ムラが発生することがあり、30μmを超えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、タレ等の不具合が起こることがあるばかりか、塗装に要するコスト、経済性から見ても成立しない。
【0111】
[工程(IV)]
上記未硬化ベース塗膜の上に、上塗りクリヤー塗料を塗布して、工程(III)にて調製された未硬化のベース塗膜、および本工程にて調製されたクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させるものである。
【0112】
(クリヤー塗料および塗装方法)
クリヤー塗料は、水性ベース塗料として光輝性顔料を含むメタリックベース塗料を用いた場合に光輝性顔料に起因するベース塗膜の凹凸、チカチカ感等を平滑化して極力低減したり、またベース塗膜を保護する目的において塗布されるものである。
【0113】
本工程で用いることのできるクリヤー塗料は、従来から自動車車体塗装に用いられている、いかなるものでも適用できるが、塗膜形成性樹脂(バインダー)、硬化剤およびその他の添加剤からなるものを挙げることができる。
【0114】
上記塗膜形成性樹脂としては特に限定されず、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられ、これらはアミノ樹脂および/またはブロックドイソシアネート等の硬化剤と組み合わせて用いられる。これらの内、透明性または酸性雨による耐エッチング性等の観点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、またはカルボン酸、エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂等を用いることが好ましい。
【0115】
通常、これらを樹脂バインダー、硬化剤として含む成分をもって溶剤型塗料とするか、または脱溶剤し、粉体化することによって調製される。
【0116】
上記クリヤー塗料としては、上記水性ベース塗料を塗布した後、未硬化の状態で重ねて塗布するために、層間のなじみや反転、またはタレ等の防止のため、当該業者間で公知の粘性制御剤を添加剤として含有することが好ましい。具体例としては、上記中塗り塗料の項で説明したものが好ましい。
【0117】
上記粘性制御剤の添加量は、クリヤー塗料の樹脂固形分に対して、0.01〜10重量部であり、好ましくは0.02〜8重量部、より好ましくは0.03〜6重量部である。0.01重量部未満であると、充分な粘性制御効果が得られず、また10重量部を超えるとフロー性が損なわれる結果、外観が低下する。
【0118】
上記水性クリヤー塗料に関する具体的な公知技術としては、特開平6‐128446号公報;特開平6‐166741号公報;特開平7‐224146号公報;特開平8‐259667号公報;特開平9‐71706号公報および特開平9‐104803号公報記載の耐酸性雨、耐擦り傷性、耐黄変性のハイソリッドクリヤー塗料組成物があり、本発明に適する。また、特開2001‐6457号公報および特開2001‐139874号公報記載の、パウダークリヤー塗料組成物は、塗装環境負荷低減に最も優れており、本発明に適する。クリヤー塗料の具体例としては、日本ペイント(株)社製のハイソリッドクリヤー塗料である商品名「MAC‐O‐1800W」が好適である。
【0119】
上記塗装方法としては、基本的には上記工程(II)において水性中塗り塗料を塗布する際に例示した方法を挙げることができる。
【0120】
上記クリヤー塗膜の乾燥膜厚は、用途により変化するが、20〜70μm、好ましくは30〜50μmである。20μm未満であると、総合塗膜外観が低下することがあり、70μmを超えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、タレ等の不具合が起こることがあるばかりか、塗装に要するコスト、経済性から見ても成立しない。
【0121】
上記工程(IV)においては、上記上塗りベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させる。加熱硬化させる温度としては、110〜180℃、好ましくは120〜160℃にて行うことによって、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。180℃を超えると、塗膜が過度に堅く、脆くなり、110℃未満では硬化が充分でなく、耐酸性雨性、耐溶剤性もしくは塗膜強度等の塗膜物性が低下する。硬化に必要な時間は、硬化温度によって変化するが、120〜160℃で10〜60分間が適当である。
【0122】
本発明の多層塗膜形成方法によって得られる多層塗膜の総合膜厚は、通常40〜200μm、好ましくは60〜150μm程度である。同膜厚が、40μm未満では自動車車体用塗膜としての目的では塗膜強度、塗膜外観が不足し、200μmを超えることは塗装コストが割高になるだけでなく、塗装環境の低VOC化に対しても不利である。
【0123】
【実施例】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、部および%(パーセント)は、重量部および重量%を意味する。
【0124】
(電着塗料の製造)
製造例1(ブロックドイソシアネート[硬化剤(b1)]の製造例)
撹拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備え付けた反応容器にイソホロンジイソシアネート222部を入れ、メチルイソブチルケトン56部で希釈した後ブチル錫ラウレート0.2部を加え、50℃まで昇温の後、メチルエチルケトオキシム17部を内容物温度が70℃を超えないように加えた。そして赤外吸収スペクトルによりイソシアネート残基の吸収が実質上消滅するまで70℃で1時間保温し、その後n‐ブタノール43部で希釈することによって目的のブロックドイソシアネート[硬化剤(b1)](溶解性パラメーターδb1=11.8)の溶液(固形分70%)を得た。
【0125】
製造例2(ブロックドイソシアネート[硬化剤(b2)]の製造例)
撹拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備え付けた反応容器にヘキサメチレンジイソシアネートの3量体199部を入れ、メチルイソブチルケトン42部で希釈した後ブチル錫ラウレート0.2部を加え、50℃まで昇温の後、メチルエチルケトオキシム88部を内容物温度が70℃を超えないように加えた。そして赤外吸収スペクトルによりイソシアネート残基の吸収が実質上消滅するまで70℃で1時間保温し、その後n‐ブタノール30部で希釈することによって目的のブロックドイソシアネート[硬化剤(b2)](溶解性パラメーターδb2=12.0)の溶液(固形分80%)を得た。
【0126】
製造例3(カチオン変性エポキシ樹脂[樹脂a]および水性エマルジョン[A]の製造例)
撹拌機、デカンター、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER‐331J、ダウケミカル社製)2400部とメタノール141部、メチルイソブチルケトン168部、ジラウリン酸ジブチル錫0.5部を仕込み、40℃で撹拌し均一に溶解させた後、2,4‐/2,6‐トリレンジイソシアネート(80/20重量比混合物)320部を30分間かけて滴下したところ発熱し、70℃まで上昇した。これにN,N‐ジメチルベンジルアミン5部を加え、系内の温度を120℃まで昇温し、メタノールを留去しながらエポキシ当量が500になるまで120℃で3時間反応を続けた。更に、メチルイソブチルケトン644部、ビスフェノールA341部、2‐エチルヘキサン酸413部を加え、系内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が1040になるまで反応させた後、系内の温度が110℃になるまで冷却した。ついでジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)250部とN‐メチルエタノールアミン185部の混合物を添加し110℃で1時間反応させることによりカチオン変性エポキシ樹脂[樹脂a]を得た。この樹脂の数平均分子量は2150、アミン価=77、水酸基価は155であり、樹脂軟化点はJIS‐K‐5665に基づいて測定したところ135℃であった。赤外吸収スペクトル等の測定から、樹脂中にオキサゾリドン環(吸収波数;1750cm−1)を有していることが確認された。また溶解性パラメーターδa=11.5であった。また樹脂溶液の固形分は73%であった。
【0127】
こうして得られたカチオン変性エポキシ樹脂溶液中へ、上記製造例1で製造したブロックドイソシアネート[硬化剤(b1)]溶液826部、上記製造例2で製造したブロックドイソシアネート[硬化剤(b2)]414部および酢酸90部を加えた後、イオン交換水で不揮発分32%まで希釈した後、減圧下で不揮発分36%まで濃縮し、カチオン変性エポキシ樹脂を主体とする水性エマルジョン[A](レーザー光散乱法による平均粒子径=0.14μm)を得た。
【0128】
製造例4(電着塗料用顔料分散樹脂の製造)
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応容器にエポキシ当量198のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名エポン829、シェル化学社製)710部、ビスフェノールA289.6部を仕込んで、窒素雰囲気下150〜160℃で1時間反応させ、ついで120℃まで冷却後、2‐エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのメチルイソブチルケトン溶液(固形分95%)406.4部を加えた。反応混合物を110〜120℃で1時間保持した後、エチレングリコールモノn‐ブチルエーテル1584.1部を加えた。そして85〜95℃に冷却して均一化させた。
【0129】
上記反応物の製造と平行して、別の反応容器に2‐エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのメチルイソブチルケトン溶液(固形分95%)384部にジメチルエタノールアミン104.6部を加えたものを80℃で1時間撹拌し、ついで75%乳酸水141.1部を仕込み、更にエチレングリコールモノn‐ブチルエーテル47.0部を混合、30分撹拌し、4級化剤(固形分85%)を製造しておいた。そしてこの4級化剤620.46部を先の反応物に加え酸価1になるまで混合物を85から95℃に保持し、顔料分散樹脂(平均分子量2200)の樹脂溶液(樹脂固形分56%)を得た。
【0130】
製造例5(電着塗料用顔料分散ペースト[P1]の製造)
サンドミルを用いて、製造例4で得られた顔料分散樹脂を含む以下の表1に示される配合を有する顔料ペースト[P1](固形分51%)を40℃において、粒度5μm以下となるまで分散し調製した。
【0131】
【表1】
【0132】
製造例6(電着塗料の製造例)
製造例3で得られた水性樹脂エマルジョン[A]100部および製造例5で得られた顔料分散ペースト[P1]33部を配合して電着塗料を調製した。更に塗料中の顔料濃度(PWC)=18%、固形分濃度=20%および硬化促進剤としてジブチル錫オキシドの分散ペーストを錫金属含有量にして塗料固形分の1.5%になるように配合した。ただし塗料の所定固形分への希釈には、イオン交換水を用いた。
【0133】
(水性中塗り塗料の製造)
製造例7(アニオン変性アクリル樹脂[樹脂c1]および水性ディスパージョン[D1]の製造例)
撹拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、ジプロピレングリコールメチルエーテル25.0部およびプロピレングリコールメチルエーテル18.0部を仕込み、窒素雰囲気下110℃に加熱保持した。更に2‐ヒドロキシプロピルアクリレート20.9部、2‐エチルヘキシルアクリレート45.8部、メタクリル酸3.8部、n‐ブチルアクリレート5.6部、スチレン18.0部、イソブチルアクリレート5.9部およびt‐ブチルパーオクトエート6部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後更にt‐ブチルパーオクトエート6部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたアニオン変性アクリル樹脂[樹脂c1]は、固形分70%、数平均分子量4,000、ヒドロキシル価=90および酸価=25であり、溶解性パラメーターδc1=10.1であった。
【0134】
この樹脂溶液に対してブチル化メラミン樹脂[硬化剤(d1)]、溶解性パラメーターδe=9.9「ユーバン20N‐60」(三井サイテック社(Mitsui Scitech Co., Ltd.)製、固形分60%溶液)42部およびジメチルエタノールアミン4部を加えて30分間撹拌した後、更にイオン交換水で不揮発分50%まで希釈し、アニオン変性アクリル樹脂を主体とする水性ディスパージョン[D1](レーザー光散乱法による平均粒子径=0.16μm)を得た。
【0135】
製造例8(アニオン変性アクリル樹脂[樹脂c2]および水性ディスパージョン[D2]の製造例)
撹拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、ジプロピレングリコールメチルエーテル25.0部およびプロピレングリコールメチルエーテル18.0部を仕込み、窒素雰囲気下110℃に加熱保持した。更に2‐ヒドロキシプロピルアクリレート18.9部、2‐エチルヘキシルアクリレート16.9部、メタクリル酸5.9部、n‐ブチルアクリレート5.9部、スチレン12.7部、イソブチルアクリレート39.7部およびt‐ブチルパーオクトエート6部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後更にt‐ブチルパーオクトエート0.3部を滴下して110℃で1.5時間保持した。得られたアニオン変性アクリル樹脂[樹脂c2]は、固形分70%、数平均分子量4,000、ヒドロキシル価=80および酸価=25であり、溶解性パラメーターδc2=10.3であった。
【0136】
この樹脂溶液に対して、製造例7で調製されたアニオン変性アクリル樹脂[樹脂c1]143部、ブチル化メラミン樹脂[硬化剤(d2)]、溶解性パラメーターδd2=10.3「ユーバン128」(三井サイテック社製、固形分60%溶液)84部およびジメチルエタノールアミン4部を加えて30分間撹拌した後、更にイオン交換水で不揮発分50%まで希釈し、アニオン変性アクリル樹脂を主体とする水性ディスパージョン[D2](レーザー光散乱法による平均粒子径=0.13μm)を得た。
【0137】
比較製造例1(アニオン変性アクリル樹脂[樹脂c3]および水性ディスパージョン[D3]の製造例)
撹拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、ジプロピレングリコールメチルエーテル25.0部およびプロピレングリコールメチルエーテル18.0部を仕込み、窒素雰囲気下110℃に加熱保持した。更に2‐ヒドロキシプロピルアクリレート20.9部、メタクリル酸3.8部、n‐ブチルアクリレート5.5部、イソブチルアクリレート69.8部およびt‐ブチルパーオクトエート6部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後更にt‐ブチルパーオクトエート6部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたアニオン変性アクリル樹脂[樹脂c3]は、固形分70%、数平均分子量4,000、ヒドロキシル価=90および酸価=25であり、溶解性パラメーターδc3=10.7であった。
【0138】
この樹脂溶液に対してブチル化メラミン樹脂[硬化剤(d1)]、溶解性パラメーターδe=9.9「ユーバン20N‐60」(三井サイテック社製、固形分60%溶液)42部およびジメチルエタノールアミン4部を加えて30分間撹拌した後、更にイオン交換水で不揮発分50%まで希釈し、アニオン変性アクリル樹脂を主体とする水性ディスパージョン[D3](レーザー光散乱法による平均粒子径=0.12μm)を得た。
【0139】
比較製造例2(水性ディスパージョン[D4]の製造例)
製造例8で得られたアニオン変性アクリル樹脂[樹脂c2](固形分70%、数平均分子量4,000、ヒドロキシル価=80、酸価=25および溶解性パラメーターδc3=10.3)の溶液に対して、メラミン樹脂[硬化剤(d3)]、溶解性パラメーターδd2=10.4「ユーバン2020」(三井サイテック社製、固形分60%溶液)42部およびジメチルエタノールアミン4部を加えて30分間撹拌した後、更にイオン交換水で不揮発分50%まで希釈し、アニオン変性アクリル樹脂を主体とする水性ディスパージョン[D4](レーザー光散乱法による平均粒子径=0.14μm)を得た。
【0140】
比較製造例3(水性ディスパージョン[D5]の製造例)
製造例8で得られたアニオン変性アクリル樹脂[樹脂c2](固形分70%、数平均分子量4,000、ヒドロキシル価=80、酸価=25および溶解性パラメーターδc2=10.3)の溶液に対して、メラミン樹脂[硬化剤(d4)]、溶解性パラメーターδd4=10.6「コロネート1133」(日本ポリウレタン工業社製、固形分98%溶液)26部およびジメチルエタノールアミン4部を加えて30分間撹拌した後、更にイオン交換水で不揮発分50%まで希釈し、アニオン変性アクリル樹脂を主体とする水性ディスパージョン[D5] (レーザー光散乱法による平均粒子径=0.18μm)を得た。
【0141】
製造例9(水性中塗り塗料用顔料分散ペースト[P2]の製造例)
以下の表2に示した配合物に対して予備混合を行った後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下となるまで分散し、着色顔料ペースト[P2]を得た。
【0142】
【表2】
【0143】
製造例10〜11(水性中塗り塗料の製造例)
製造例7〜8で得られた水性ディスパージョン[D1〜D2]、製造例9で得られた顔料分散ペースト[P2]の他、市販の粘性制御剤およびエラストマー粒子を表3の様に、組み合わせて水性中塗り塗料を調製した。
【0144】
なお、何れの塗料においても、塗料中の顔料濃度(PWC)=30%になるように配合した。ただし中塗り塗料の塗装時の希釈は、以下の実施例に示す指定のシンナー(イオン交換水)を用いて、目標塗料粘度になる様に希釈した。
各水性中塗り塗料製造例における構成成分の組み合わせおよび配合量比(ただし水性ディスパージョン、粘性制御剤、およびエラストマー樹脂粒子は、水性分散体の重量に基づいて配合する)を以下の表3に示す。
【0145】
比較製造例4〜6(水性中塗り塗料の比較製造例)
比較製造例1〜3で得られた水性ディスパージョン[D3〜D5]、製造例9で得られた顔料分散ペースト[P2]の他、市販の粘性制御剤およびエラストマー粒子を表3の様に、組み合わせて水性中塗り塗料を調製した。
なお、何れの塗料においても、塗料中の顔料濃度(PWC)=30%になるように配合した。ただし中塗り塗料の塗装時の希釈は、以下の実施例に示す指定のシンナー(イオン交換水)を用いて、目標塗料粘度になる様に希釈した。
各水性中塗り塗料比較製造例における構成成分の組み合わせおよび配合量比(ただし水性ディスパージョン、粘性制御剤、およびエラストマー樹脂粒子は、水性分散体の重量に基づいて配合する)を以下の表3に示す。
【0146】
【表3】
【0147】
(注)表中のSDX:アデカノールSDX‐1014(旭電化工業社製のウレタン会合型粘性制御剤、有効成分30%)の略記
EE:ラックスター3622A(大日本インキ社製エラストマーエマルジョン、アクリロニトリル‐ブタジエン樹脂、平均分子量約20万、平均粒子径0.1μm、固形分52.5%、設計ガラス温度−30℃)
【0148】
(実施例1〜4)
製造例6で得られた電着塗料を用いて、リン酸亜鉛処理したダル鋼鈑に対して、電圧200Vで乾燥膜厚が15μmになるように電着塗装した。その後、以下の表5に示すように必要に応じて100℃で5分間プレヒートした。その後、上記プレヒート工程の有無にかかわらず、得られた未硬化の電着塗膜に対して製造例10〜11で得られた水性中塗り塗料をエアースプレー塗装にて25μm(乾燥塗膜厚)になる様にウェットオンウェット塗装した後、60℃で3分間乾燥し、更に160℃で15分間加熱硬化を行った。電着層および中塗り層のバインダー樹脂および硬化剤の溶解性パラメーターを以下の表4に示し、電着/中塗り複層硬化塗膜の性能評価結果(SDT、表面粗さ(Ra値)、各層の動的Tgおよび中塗り塗膜の黄変性評価)を以下の表5に示す。
【0149】
次いで、上塗り塗料(ベース塗料/クリア塗料)をそれぞれ13μm(乾燥塗膜厚)、35μm(乾燥塗膜厚)になる様に、エアースプレー塗装法にてウェットオンウェット塗装した上で、140℃で30分間加熱硬化を行った。ベース塗料としては、水性シルバーメタリックベース塗料「AR2000/199Bシルバー」(日本ペイント社製)を用い、クリア塗料としては、溶剤型ハイソリッドクリア塗料「MAC‐O‐1800W」(同社製)を用いた。
【0150】
中塗り塗料および上塗り塗料のエアスプレー塗装を行う際の、塗料粘度と希釈に用いるシンナー種を以下に示す。
(水性中塗り塗料)
シンナー:イオン交換水
40秒/No.4フォードカップ/20℃
(水性ベース塗料)
シンナー:イオン交換水
45秒/No.4フォードカップ/20℃
(クリヤー塗料)
シンナー:EEP(エトキシエチルプロピオネート)/S‐150(エクソン社製芳香族系炭化水素溶剤)
30秒/No.4フォードカップ/20℃
【0151】
更に上塗り塗装まで施して完成した多層塗膜に関しては、総合外観(ウエーブ・スキャン値:W1/W3)および耐チッピング性の評価結果を同じく以下の表5に示す。
【0152】
(比較例1〜5)
製造例6で得られた電着塗料を用いて、リン酸亜鉛処理したダル鋼鈑に対して、電圧200Vで乾燥膜厚が15μmになるように電着塗装した。その後、以下の表6に示すように必要に応じて100℃で5分間プレヒートした。その後、上記プレヒート工程の有無にかかわらず、得られた未硬化の電着塗膜に対して比較製造例4〜6で得られた水性中塗り塗料をエアースプレー塗装にて25μm(乾燥塗膜厚)になる様にウェットオンウェット塗装した上で、60℃で3分間乾燥し、更に160℃で15分間加熱硬化を行った。電着層および中塗り層のバインダー樹脂および硬化剤の溶解性パラメーターを以下の表4に示し、電着/中塗り複層硬化塗膜の性能評価結果(SDT、表面粗さ(Ra値)、各層の動的Tgおよび中塗り塗膜の黄変性評価)を以下の表6に示す。尚、本発明の塗膜形成方法において、バインダー樹脂または硬化剤を複数種使用している場合は、それらの内、いずれの組み合わせにおいても、全て上記式(1)〜(3)を満足する必要がある。したがって、δbiの内での最小値を選択し、またδciおよびδdiの内での最大値を選択した上で、式(1)〜(3)が成立しているかを検証することが必要となる。以上の事から表4にはδbiは最小値、δciおよびδdiは最大値を示した。
【0153】
【表4】
【0154】
次いで、実施例1〜4と同様にして上塗り塗料(ベース塗料/クリア塗料)をそれぞれ13μm(乾燥塗膜厚)、35μm(乾燥塗膜厚)になる様に、エアースプレー塗装法にてウェットオンウェット塗装した上で、140℃で30分間加熱硬化を行った。
【0155】
ベース塗料としては、水性シルバーメタリックベース塗料「AR2000/199Bシルバー」(日本ペイント社製)を用い、クリア塗料としては、および溶剤型ハイソリッドクリア塗料は、「MAC‐O‐1800W」(同社製)を用いた。
【0156】
中塗り塗料および上塗り塗料のエアスプレー塗装を行う際の、塗料粘度と希釈に用いるシンナー種に関しても実施例1〜4と同じであった。上記比較例に関しても、実施例と同様に塗膜の各性能評価を行って、その結果を以下の表6にまとめて示した。
【0157】
(塗料および塗膜の試験方法)
(1)各粒子の平均粒子径
マイクロトラックUPA‐150(日機装社製)を用いて、動的光散乱法に基づく平均粒子径を測定した。
【0158】
(2)電着塗膜/中塗り塗膜間の層分離状態
電着/中塗り塗膜を調製した段階で、ビデオマイクロスコープ(キーエンス社製VH‐Z450)で塗膜断面の観察を行った。
【0159】
(3)動的ガラス転移温度
ブリキ板上に施した電着単膜および電着/中塗り複層塗膜を焼付けた後、水銀を用いて剥離、裁断して測定用サンプルを調製した。レオメトリックスダイナミックアナライザーRDA‐II試験機(レオメトリックス社製)を用いて、液体窒素によりサンプル膜を一旦凍結した後、1分間に2℃の昇温速度かつ周波数10HZにおいて振動を与えて粘弾性を測定した。貯蔵弾性率(E’)に対する損失弾性率(E”)の比(tanδ)を算出し、その変極点を求めることによって、それぞれサンプルの動的Tgを求めた。その際に電着単膜および電着/中塗り複層塗膜のデータ比較から、中塗り塗膜に基づく動的Tgを見出した。
【0160】
(4)電着/中塗り塗膜の表面粗さ
得られた電着/中塗り塗膜の表面粗さをハンディサーフE‐30A(東京精密社製)を用いて、JIS B 0601に従って、表面粗度Ra値を測定した(カットオフ2.5mm)。
【0161】
(5)SDT
得られた電着/中塗り塗膜にナイフで素地に達するカットを入れて、塩水浸漬(5%食塩水、55℃)を240時間行い、粘着テープによってカット部両側から剥離した剥離部の最大幅(単位:mm)で示した。
【0162】
(6)SST
得られた電着/中塗り塗膜にナイフで素地に達するクロスカットを入れて、塩水噴霧(5%食塩水、35℃)を240時間行い、カット部からの発生錆の最大幅(単位:mm)で示した。
【0163】
(7)中塗り塗膜耐黄変性
実施例および比較例記載の各水性中塗り塗料を40℃に保持した状態で一ヶ月貯蔵した後にスプレー塗装し、160℃で15分間焼付け塗膜の耐黄変性を調べた。耐黄変性は目視観察で以下の評価基準により判断した。
評価基準
○:良好・・・黄変無し
×:不良・・・黄変有り
【0164】
(8)総合塗膜の外観評価
上塗り塗装後の総合塗膜に関しては、「Wave scan‐T」(ビック・ガードナー社(BYK‐Gardner GmbH)製を用いて総合外観を測定し、W1値およびW3値で評価した。W1値およびW3値は、いずれも小さな数値ほど外観がより良好であることを示す。
【0165】
(9)総合塗膜の耐チッピング性評価
上塗り塗装後の総合塗膜の耐チッピング性評価は、得られた塗板を−30℃に冷却した後、これを飛石試験機(スガ試験機社製)の試料ホルダーに石の侵入角度が90°になるように取り付け、100gの7号砕石を3kg/cm2の空気圧で噴射し、砕石を塗板に衝突させた。その時のハガレ傷の程度(数、大きさ、破壊場所)を5段階評価した。評価基準を以下に示す。
評価基準
レベル1(点):全面に大きなハガレ傷、素地からの剥離有り
レベル2(点):全面にある程度のハガレ傷、素地からの剥離有り
レベル3(点):一部にある程度のハガレ傷、素地からの剥離無し
レベル4(点):一部に小さなハガレ傷、素地からの剥離無し
レベル5(点):ほとんど破壊無し
【0166】
(試験結果)
【表5】
【0167】
【表6】
【0168】
(上記結果の補足説明)
上記表5および6の結果から明らかなように、本発明の複層塗膜形成方法を用いて得られた実施例1〜4の電着/中塗り複層塗膜は、比較例1〜5の複層塗膜に比べて、従来の3コート3ベーク塗装法によって得られた塗膜に匹敵する優れた中塗り塗膜外観(表面粗さRaおよび耐黄変性の比較)を有することが判った。また、特に電着塗膜の硬化に必要な焼付け温度よりも低い温度でプレヒートして、未硬化状態の電着塗膜を形成する工程(I’)を施した実施例2および4は、他の実施例より中塗り塗膜外観に優れていた。
更に実施例と比較例の結果比較により、本発明の複層塗膜形成方法を用いて得られた実施例1〜4の多層塗膜は、総合外観(ウェーブ・スキャン値)および耐チッピング性における物性面においても、比較例1〜5の多層塗膜に比べて、非常に優れていることが判った。
【0169】
【発明の効果】
上記工程(I)で得られる未硬化の電着塗膜を、必要に応じて上記工程(I’)にてプレヒートし、上記工程(II)により水性中塗り塗料をウェットオンウェットにて塗装した上で電着塗膜と同時に加熱硬化(焼付け)される複層塗膜は、電着層と中塗り層の混層をほぼ完全に防止できることによって、電着塗膜に必要な防錆性、中塗り塗膜の優れた表面外観(塗膜黄変性の防止を含む)および耐チッピング性を付与できる。
【0170】
特に上記式(1)の関係が成立することによって、ウェット状態での中塗り層および電着層との界面を確保し、かつ塗膜物性の一体化を計ることが可能である。更に上記式(2)および(3)については両方が同時に成立することが、中塗り層を構成する硬化剤(di)と電着塗料のバインダー樹脂(a)およびその硬化剤(bi)との不相溶性を確保し、硬化剤(di)の電着塗膜層への移行を防止する上で重要である。その結果、焼き付け時に硬化剤(di)による中塗り塗膜の硬化性が確保される結果、塗膜外観に優れた中塗り塗膜を得ることができる。また同時に電着層の硬化性も確保されるために、防錆性に優れた複層塗膜を得ることができる。
【0171】
更に上記工程(III)〜(IV)により上塗りベース塗料およびクリヤー塗料をウェットオンウェットにて塗装した上で、二度目の同時焼付けをして形成される多層塗膜は、従来の3コート3ベーク法により得られる総合塗膜に匹敵する優れた耐衝撃性(耐チッピング性)、耐食性、耐候性および(黄変のない)塗膜外観を有する塗膜を得ることができる。特に、本発明の2ウェットオン塗装法を用いることにより、従来一般的であった3コート3ベーク法から電着塗料の焼付け工程を省くことができるので、工程短縮、コスト削減、エネルギー消費量削減および環境負荷低減を目指す新規塗装システムを構築することを可能とする。
Claims (7)
- 導電性基材上に電着塗装し、未硬化の電着塗膜を形成する工程(I)、および
前記電着塗膜の上に、水性中塗り塗料を塗布した後、前記未硬化の電着塗膜および中塗り塗膜を同時に加熱硬化させる工程(II)
を含む複層塗膜形成方法であって、
前記電着塗料が溶解性パラメーターδaを有するバインダー樹脂(a)および溶解性パラメーターδbiを有する少なくとも一種類の硬化剤(bi)を必須成分として含み、かつ前記中塗り塗料が溶解性パラメーターδciを有する少なくとも一種類のバインダー樹脂(ci)および溶解性パラメーターδdiを有する少なくとも一種類の硬化剤(di)を必須成分として含み、かつ前記成分の溶解性パラメーターが以下の3式:
(1)(δa−δci)≧1
(2)(δa−δdi)≧1
(3)(δbi−δdi)≧1.5
で表される関係を満足することを特徴とする複層塗膜形成方法。 - 前記工程(I)および工程(II)の間に、
前記電着塗膜の硬化に必要な焼付け温度よりも低い温度で前記電着塗膜をプレヒートし、未硬化の電着塗膜を形成する工程(I’)を行なう請求項1記載の複層塗膜形成方法。 - 前記バインダー樹脂(a)が、アミン価40〜150を有する少なくとも一種類のカチオン変性エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複層塗膜形成方法。
- 前記硬化剤(bi)が、少なくとも一種類のブロックドイソシアネートであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複層塗膜形成方法。
- 前記バインダー樹脂(ci)が、酸価10〜100を有する少なくとも一種類のアニオン変性アクリル樹脂であることを特徴とする請求項1記載の複層塗膜形成方法。
- 前記硬化剤(di)が、少なくとも一種類のメラミン樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複層塗膜形成方法。
- 請求項1または請求項2記載の方法で得られた複層塗膜における前記中塗り塗膜の上に、上塗りベース塗料を塗布して、未硬化のベース塗膜を形成する工程(III)、および
前記ベース塗膜の上に、上塗りクリヤー塗料を塗布した後、未硬化のベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に加熱硬化する工程(IV)
を含む多層塗膜形成方法。
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WO2011010538A1 (ja) * | 2009-07-24 | 2011-01-27 | 関西ペイント株式会社 | 水性プライマー塗料組成物及び複層塗膜形成方法 |
-
2003
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