JP2005005377A - 光ファイバレーザ、2.8μm帯のレーザ光の出射方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、励起光の光強度が変化しても、出射されるレーザ光のピーク波長がシフトすることがなく、安定して一定の波長のレーザ光が得られる光ファイバレーザ及び2.8μm帯のレーザ光の出射方法を提供する。
【解決手段】本発明は、エルビウム添加ガラスファイバ3を利得媒質とした2.8μm帯の光ファイバレーザ1であって、980nm帯の励起光41を出射する励起光源21と800nm帯の励起光42を出射する励起光源22を備えた構成とする。前記励起光41,42の波長は、960〜1020nmと780〜792nmであることが好ましい。また本発明の2.8μm帯のレーザ光9の出射方法は、エルビウム添加ガラスファイバ3に励起光41,42を入射させて2.8μm帯のレーザ光9を出射する方法であって、980nm帯と800nm帯の励起光41,42を同時に用いる構成とする。
【選択図】 図1
【解決手段】本発明は、エルビウム添加ガラスファイバ3を利得媒質とした2.8μm帯の光ファイバレーザ1であって、980nm帯の励起光41を出射する励起光源21と800nm帯の励起光42を出射する励起光源22を備えた構成とする。前記励起光41,42の波長は、960〜1020nmと780〜792nmであることが好ましい。また本発明の2.8μm帯のレーザ光9の出射方法は、エルビウム添加ガラスファイバ3に励起光41,42を入射させて2.8μm帯のレーザ光9を出射する方法であって、980nm帯と800nm帯の励起光41,42を同時に用いる構成とする。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エルビウム添加ガラスファイバを利得媒質とした光ファイバレーザに関し、特に2.8μm帯のレーザ光を出射する光ファイバレーザに関する。
【0002】
【従来の技術】
医療用途を中心として、波長が水の吸収帯域である2.8〜2.9μmのレーザが利用されている。この2.8〜2.9μmのレーザとして、エルビウム添加ガラスファイバ(以下、EDFと言う場合がある。)を利得媒質とした光ファイバレーザが提案されている(非特許文献1参照。)。一般に光ファイバレーザでは、980nm帯の1つの波長の励起光を用いて2.8μm帯のレーザ光を出射する。
図5は、従来の光ファイバレーザから出射された2.8μm帯のレーザ光のピーク波長と励起光の光強度との関係を示す。この従来の光ファイバレーザは、励起光源として980nm帯の1つの波長の励起光を用いたものである。励起光の光強度が高くなると、出射されるレーザ光のピーク波長が長波長側にシフトすることが分かる。このため、従来の光ファイバレーザでは、レーザ光の出力を所望の値とするために励起光の光強度を調整する際、励起光の光強度の変化と共にレーザ光のピーク波長が変化してしまう問題がある。例えば、光ファイバレーザを医療用途として使用した場合、レーザ光のピーク波長が変化すると、生体組織の切断、研削能力が低下してしまう等の問題が生じる。
【0003】
【非特許文献1】
M.ポールナウ(M.Pollnau)等,アプライド・フィジックス B(Applied Physics B),1998年,第67巻,p.23−28
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものである。すなわち励起光の光強度が変化しても、出射されるレーザ光のピーク波長がシフトすることがなく、安定して一定の波長のレーザ光が得られる光ファイバレーザ及び2.8μm帯のレーザ光の出射方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、エルビウム添加ガラスファイバを利得媒質とした2.8μm帯の光ファイバレーザであって、980nm帯の励起光を出射する励起光源と800nm帯の励起光を出射する励起光源を備えたことを特徴とする光ファイバレーザである。
請求項2に係る発明は、前記励起光の波長が960〜1020nmと780〜792nmであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバレーザである。
請求項3に係る発明は、利得媒質のエルビウム添加ガラスファイバに励起光を入射させて2.8μm帯のレーザ光を出射する方法であって、980nm帯と800nm帯の励起光を同時に用いることを特徴とする2.8μm帯のレーザ光の出射方法である。
請求項4に係る発明は、960〜1020nmと780〜792nmの励起光を同時に用いることを特徴とする請求項3に記載の2.8μm帯のレーザ光の出射方法である。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
図1は、本実施形態の光ファイバレーザ1の一例を示す概略図である。この光ファイバレーザ1は、980nm帯励起光源21と、800nm帯励起光源22と、利得媒質のエルビウム添加ガラスファイバ(以下、EDFとも言う。)3を有する。
前記励起光源21,22として、半導体レーザ、チタンサファイヤレーザ等が挙げられる。
【0007】
一例として図1に示された光ファイバレーザ1では、980nm帯励起光源21として、960〜1020nmの励起用レーザ光(以下、980nm帯の励起光とも言う。)41が出射できる半導体レーザモジュールが用いられている。また、800nm帯励起光源22として、780〜792nmの励起用レーザ光(以下、800nm帯の励起光とも言う。)42が出射できる半導体レーザモジュールが用いられている。
励起光源21,22の各レーザ出射口と対向するように、コリメートレンズ5が設置されている。コリメートレンズ5を透過した励起用レーザ光41,42の経路上には、光を合波する機能をもった多層膜フィルタ6が設置されており、励起用レーザ光41,42を合波できるようになっている。
また、集光レンズ7は、多層膜フィルタ6にて合波された励起用レーザ光41,42を集光し、後述するリアミラー81が蒸着されたEDF3の入射端面31に励起用レーザ光41,42を結合するように機能するものである。
【0008】
EDF3は、フッ化物ガラスや石英ガラス等にエルビウム(Er)が添加されたガラス材料から構成され、利得媒質として利用できるものであり、2.8μm帯のレーザ光9を出射できるようにEr等の構成元素の組成比が調整されている。
例えばEDF3としては、Erが添加されたフッ化物ガラスから構成され、ダブルクラッド構造を有するクラッドポンプ方式を採用したシングルモードファイバ等が挙げられる。ダブルクラッド構造とは、コアの周囲に2重クラッドが設けられたものであり、励起用レーザ光41,42がコアを取り囲む第1クラッドを伝搬し、得られたレーザ光9がコアを伝搬できるようになっている。
【0009】
図1に一例として示した光ファイバレーザ1では、EDF3は、その一方の端面(以下、入射端面とも言う。)31が集光レンズ7に対向するように配置されている。
EDF3の入射端面31にはリアミラー81が蒸着され、また他方の端面(以下、出射端面とも言う。)32には、アウトプットカプラ82が設けられている。このアウトプットカプラ82は、フレネル反射を利用して反射鏡として機能するものや、多層膜ミラーからなるもの等が挙げられる。アウトプットカプラ82は、EDF3の出射端面32上に蒸着法等によって形成しても構わない。
前記リアミラー81とアウトプットカプラ82は反射鏡であり、EDF3を介して対向配置し、共振器8として機能する。
また、EDF3の出射端面32側に屈折率の異なる複数の酸化物が積層されて構成された長波域透過フィルタ(long wave pass filter)10が設けられ、EDF3から出射された発振レーザ光9のうち、例えば2.56μm以上の長波域の光のみが透過されて出力されるようになっている。
【0010】
980nm帯励起光源21から980nm帯の励起用レーザ光41を出射し、これと同時に800nm帯励起光源22から800nm帯の励起用レーザ光42を出射すると、これら励起用レーザ光41,42は多層膜フィルタ6にて合波され、更に集光レンズ7にて集光されて、リアミラー81が蒸着されたEDF3の入射端面31に結合される。そして、EDF3は、入射した励起用レーザ光41,42によって励起され、2.8μm帯のレーザ光9が出射端面32から出射される。
【0011】
次に本発明の要旨となる励起光41,42についてレーザの出射原理をもとに、以下に詳細に説明する。
EDF3に980nm帯の励起光41が入射すると、基底準位吸収(以下、GSAとも言う。)が生じて基底状態(4I15/2)のErイオンがレーザ上準位(4I11/2)に励起される。そして、Erイオンがレーザ上準位(4I11/2)からレーザ下準位(4I13/2)に遷移するときに2.8〜2.9μmのレーザ光9が出射される。
前記980nm帯の励起光41としては、EDF3を励起し2.8〜2.9μmのレーザ光9が出射できる波長の光である。特に960〜1020nmが好ましく、これにより効率良く高出力の2.8〜2.9μmのレーザ光9が出射できる。
【0012】
図2は、EDF3のErイオンのエネルギー準位のうち、前記レーザ上準位(4I11/2)と前記レーザ下準位(4I13/2)を示す図である。周知のようにレーザ上準位(4I11/2)とレーザ下準位(4I13/2)は、複数の近接したシュタルク準位から構成されている。
従来のように励起光として980nm帯の光のみを用いた場合、励起光の光強度を高くすると、励起されるErイオンが増加し、励起準位のレーザ上準位(4I11/2)とレーザ下準位(4I13/2)を占めるErイオンが多くなる。Erイオンは、各準位において、シュタルク準位のうち低いエネルギーレベルから占有していくため、低いエネルギーレベルの準位はErイオンによって占有された状態となる。
このため、レーザ上準位(4I11/2)からレーザ下準位(4I13/2)へ遷移するErイオンは、レーザ下準位(4I13/2)のシュタルク準位のうち、高いエネルギーレベルの準位に収容されることとなり、この高いエネルギーレベルの準位が発光に寄与することになる。これにより、Erイオンが遷移するレーザ上準位(4I11/2)とレーザ下準位(4I13/2)とのエネルギ間隔が狭くなり、発光波長が長波長側にシフトすることになる。
【0013】
ところで、Erイオンの励起には、前記したGSAによる基底状態(4I15/2)からの励起だけでなく、励起準位吸収(以下、ESAと言う。)によるレーザ上準位(4I11/2)又はレーザ下準位(4I13/2)から4F7/2準位等への励起もある。
本発明では、980nm帯の励起光41と共に800nm帯の励起光42を用いることによって、レーザ下準位(4I13/2)のErイオンにESAを生じさせて他のエネルギー準位へ励起させる。これにより、レーザ下準位(4I13/2)を占めるErイオン数を低減し、レーザ下準位(4I13/2)のシュタルク準位のうち、低いエネルギーレベルの準位が発光に寄与できるようにする。以上により、励起光の光強度が高い場合であっても、出射されるレーザ光9のピーク波長がシフトすることがなく、安定して一定の波長のレーザ光9が得られるようにする。
【0014】
図3は、基底状態(4I15/2)のErイオンにおけるGSAと、レーザ上準位(4I11/2)のErイオンにおけるESAと、レーザ下準位(4I13/2)のErイオンにおけるESAを示す図である。ここで、図3は、各吸収量を励起光の波長でプロットしたものであり、Applied Physics B,1998年,67巻,p.23−28から引用したものである。
励起光の波長が780〜812nmのとき、レーザ下準位(4I13/2)のESAが生じることが分かる。また、励起光の波長が780〜792nmのとき、レーザ下準位(4I13/2)のESAが生じるが、レーザ上準位(4I11/2)のESAは生じないことが分かる。
【0015】
800nm帯の励起光42としては、レーザ下準位(4I13/2)のErイオンにESAを生じさせることができる波長の光(図3より780〜812nm)を用いる。特に780〜792nmが好ましく、これによりレーザ上準位(4I11/2)のErイオンにESAを生じさせずに、レーザ下準位(4I13/2)のErイオンにESAを生じさせることができる。
このため、レーザ下準位(4I13/2)を占めるErイオン数を低減でき、レーザ下準位(4I13/2)のシュタルク準位のうち、低いエネルギーレベルの準位が発光に寄与できるようにすることができる。更にこのとき2.8〜2.9μmのレーザ光9の発光に寄与するレーザ上準位(4I11/2)のErイオンにはESAが生じないため、レーザ上準位(4I11/2)のErイオン数が低減することがない。
以上により、980nm帯の励起光41と800nm帯の励起光42を同時に用いることによって、励起光41,42の光強度が高い場合であっても、出射されるレーザ光9のピーク波長がシフトすることがなく、安定して一定の波長のレーザ光9が効率良く得られる。
【0016】
なお、本発明の技術範囲は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、励起光源21,22として、出射口に口出し用ファイバが設けられ、この口出し用ファイバから980nm帯の励起光41と800nm帯の励起光42がそれぞれ出射されるものを用いても構わない。この場合、口出し用ファイバを2入力1出力型WDMカプラに接続することによって、980nm帯の励起光41と800nm帯の励起光42を合波して1本の光ファイバから出射できるようにすることができる。
また、励起光源としては、1つの光源で2つの波長の光を発光するものでも構わない。
また、EDF3のコア半径、屈折率分布形状、Erの濃度分布等は特に限定されず、例えばEDF3は、マルチモードファイバや、EDF3の断面において第1クラッドの外周が正方形又は円状であるものであっても構わない。
【0017】
次に本実施形態の具体例を以下に示す。
本実施形態と同様の構成の光ファイバレーザ1を用いる。EDF3として、Erが添加されたフッ化物ガラスから構成され、コア径が10μmであり、また第1クラッドの断面形状が100μm×200μmの長方形状のダブルクラッド構造を有するシングルモードファイバを用いる。EDF3に入射する980nm帯励起用レーザ光41の波長は980nmであり、800nm帯励起用レーザ光42の波長は790nmである。
図4は、本実施形態の光ファイバレーザ1から出射された2.8μm帯のレーザ光9のピーク波長と励起用レーザ光41,42の光強度との関係の一例を示す図である。
光励起用レーザ光41,42の光強度が1.5W以上の高い場合であっても、出射されるレーザ光9のピーク波長は約2760nmであり、ほぼ一定であることがわかる。このように、励起光41,42の光強度が変化しても、出射されるレーザ光9のピーク波長がシフトすることがなく、安定して一定の波長のレーザ光9が得られる。
【0018】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明によると、980nm帯及び800nm帯の励起光を出射する励起光を用いることによって、励起の光強度が変化しても、出射されるレーザ光のピーク波長がシフトすることがなく、安定して一定の波長のレーザ光が効率良く得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態の光ファイバレーザの一例を示す概略図である。
【図2】EDFのErイオンのエネルギー準位を示す図である。
【図3】ErイオンのGSAとESAの吸収スペクトルを示す図である。
【図4】光ファイバレーザから出射された2.8μm帯のレーザ光のピーク波長と励起光の光強度との関係の一例を示す図である。
【図5】従来の光ファイバレーザから出射された2.8μm帯のレーザ光のピーク波長と励起光の光強度との関係を示す。
【符号の説明】
1‥‥光ファイバレーザ、21,22‥‥励起光源、3‥‥エルビウム添加ガラスファイバ、41‥‥980nm帯の励起光(励起用レーザ光)、42‥‥800nm帯の励起光(励起用レーザ光)
【発明の属する技術分野】
本発明は、エルビウム添加ガラスファイバを利得媒質とした光ファイバレーザに関し、特に2.8μm帯のレーザ光を出射する光ファイバレーザに関する。
【0002】
【従来の技術】
医療用途を中心として、波長が水の吸収帯域である2.8〜2.9μmのレーザが利用されている。この2.8〜2.9μmのレーザとして、エルビウム添加ガラスファイバ(以下、EDFと言う場合がある。)を利得媒質とした光ファイバレーザが提案されている(非特許文献1参照。)。一般に光ファイバレーザでは、980nm帯の1つの波長の励起光を用いて2.8μm帯のレーザ光を出射する。
図5は、従来の光ファイバレーザから出射された2.8μm帯のレーザ光のピーク波長と励起光の光強度との関係を示す。この従来の光ファイバレーザは、励起光源として980nm帯の1つの波長の励起光を用いたものである。励起光の光強度が高くなると、出射されるレーザ光のピーク波長が長波長側にシフトすることが分かる。このため、従来の光ファイバレーザでは、レーザ光の出力を所望の値とするために励起光の光強度を調整する際、励起光の光強度の変化と共にレーザ光のピーク波長が変化してしまう問題がある。例えば、光ファイバレーザを医療用途として使用した場合、レーザ光のピーク波長が変化すると、生体組織の切断、研削能力が低下してしまう等の問題が生じる。
【0003】
【非特許文献1】
M.ポールナウ(M.Pollnau)等,アプライド・フィジックス B(Applied Physics B),1998年,第67巻,p.23−28
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものである。すなわち励起光の光強度が変化しても、出射されるレーザ光のピーク波長がシフトすることがなく、安定して一定の波長のレーザ光が得られる光ファイバレーザ及び2.8μm帯のレーザ光の出射方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、エルビウム添加ガラスファイバを利得媒質とした2.8μm帯の光ファイバレーザであって、980nm帯の励起光を出射する励起光源と800nm帯の励起光を出射する励起光源を備えたことを特徴とする光ファイバレーザである。
請求項2に係る発明は、前記励起光の波長が960〜1020nmと780〜792nmであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバレーザである。
請求項3に係る発明は、利得媒質のエルビウム添加ガラスファイバに励起光を入射させて2.8μm帯のレーザ光を出射する方法であって、980nm帯と800nm帯の励起光を同時に用いることを特徴とする2.8μm帯のレーザ光の出射方法である。
請求項4に係る発明は、960〜1020nmと780〜792nmの励起光を同時に用いることを特徴とする請求項3に記載の2.8μm帯のレーザ光の出射方法である。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
図1は、本実施形態の光ファイバレーザ1の一例を示す概略図である。この光ファイバレーザ1は、980nm帯励起光源21と、800nm帯励起光源22と、利得媒質のエルビウム添加ガラスファイバ(以下、EDFとも言う。)3を有する。
前記励起光源21,22として、半導体レーザ、チタンサファイヤレーザ等が挙げられる。
【0007】
一例として図1に示された光ファイバレーザ1では、980nm帯励起光源21として、960〜1020nmの励起用レーザ光(以下、980nm帯の励起光とも言う。)41が出射できる半導体レーザモジュールが用いられている。また、800nm帯励起光源22として、780〜792nmの励起用レーザ光(以下、800nm帯の励起光とも言う。)42が出射できる半導体レーザモジュールが用いられている。
励起光源21,22の各レーザ出射口と対向するように、コリメートレンズ5が設置されている。コリメートレンズ5を透過した励起用レーザ光41,42の経路上には、光を合波する機能をもった多層膜フィルタ6が設置されており、励起用レーザ光41,42を合波できるようになっている。
また、集光レンズ7は、多層膜フィルタ6にて合波された励起用レーザ光41,42を集光し、後述するリアミラー81が蒸着されたEDF3の入射端面31に励起用レーザ光41,42を結合するように機能するものである。
【0008】
EDF3は、フッ化物ガラスや石英ガラス等にエルビウム(Er)が添加されたガラス材料から構成され、利得媒質として利用できるものであり、2.8μm帯のレーザ光9を出射できるようにEr等の構成元素の組成比が調整されている。
例えばEDF3としては、Erが添加されたフッ化物ガラスから構成され、ダブルクラッド構造を有するクラッドポンプ方式を採用したシングルモードファイバ等が挙げられる。ダブルクラッド構造とは、コアの周囲に2重クラッドが設けられたものであり、励起用レーザ光41,42がコアを取り囲む第1クラッドを伝搬し、得られたレーザ光9がコアを伝搬できるようになっている。
【0009】
図1に一例として示した光ファイバレーザ1では、EDF3は、その一方の端面(以下、入射端面とも言う。)31が集光レンズ7に対向するように配置されている。
EDF3の入射端面31にはリアミラー81が蒸着され、また他方の端面(以下、出射端面とも言う。)32には、アウトプットカプラ82が設けられている。このアウトプットカプラ82は、フレネル反射を利用して反射鏡として機能するものや、多層膜ミラーからなるもの等が挙げられる。アウトプットカプラ82は、EDF3の出射端面32上に蒸着法等によって形成しても構わない。
前記リアミラー81とアウトプットカプラ82は反射鏡であり、EDF3を介して対向配置し、共振器8として機能する。
また、EDF3の出射端面32側に屈折率の異なる複数の酸化物が積層されて構成された長波域透過フィルタ(long wave pass filter)10が設けられ、EDF3から出射された発振レーザ光9のうち、例えば2.56μm以上の長波域の光のみが透過されて出力されるようになっている。
【0010】
980nm帯励起光源21から980nm帯の励起用レーザ光41を出射し、これと同時に800nm帯励起光源22から800nm帯の励起用レーザ光42を出射すると、これら励起用レーザ光41,42は多層膜フィルタ6にて合波され、更に集光レンズ7にて集光されて、リアミラー81が蒸着されたEDF3の入射端面31に結合される。そして、EDF3は、入射した励起用レーザ光41,42によって励起され、2.8μm帯のレーザ光9が出射端面32から出射される。
【0011】
次に本発明の要旨となる励起光41,42についてレーザの出射原理をもとに、以下に詳細に説明する。
EDF3に980nm帯の励起光41が入射すると、基底準位吸収(以下、GSAとも言う。)が生じて基底状態(4I15/2)のErイオンがレーザ上準位(4I11/2)に励起される。そして、Erイオンがレーザ上準位(4I11/2)からレーザ下準位(4I13/2)に遷移するときに2.8〜2.9μmのレーザ光9が出射される。
前記980nm帯の励起光41としては、EDF3を励起し2.8〜2.9μmのレーザ光9が出射できる波長の光である。特に960〜1020nmが好ましく、これにより効率良く高出力の2.8〜2.9μmのレーザ光9が出射できる。
【0012】
図2は、EDF3のErイオンのエネルギー準位のうち、前記レーザ上準位(4I11/2)と前記レーザ下準位(4I13/2)を示す図である。周知のようにレーザ上準位(4I11/2)とレーザ下準位(4I13/2)は、複数の近接したシュタルク準位から構成されている。
従来のように励起光として980nm帯の光のみを用いた場合、励起光の光強度を高くすると、励起されるErイオンが増加し、励起準位のレーザ上準位(4I11/2)とレーザ下準位(4I13/2)を占めるErイオンが多くなる。Erイオンは、各準位において、シュタルク準位のうち低いエネルギーレベルから占有していくため、低いエネルギーレベルの準位はErイオンによって占有された状態となる。
このため、レーザ上準位(4I11/2)からレーザ下準位(4I13/2)へ遷移するErイオンは、レーザ下準位(4I13/2)のシュタルク準位のうち、高いエネルギーレベルの準位に収容されることとなり、この高いエネルギーレベルの準位が発光に寄与することになる。これにより、Erイオンが遷移するレーザ上準位(4I11/2)とレーザ下準位(4I13/2)とのエネルギ間隔が狭くなり、発光波長が長波長側にシフトすることになる。
【0013】
ところで、Erイオンの励起には、前記したGSAによる基底状態(4I15/2)からの励起だけでなく、励起準位吸収(以下、ESAと言う。)によるレーザ上準位(4I11/2)又はレーザ下準位(4I13/2)から4F7/2準位等への励起もある。
本発明では、980nm帯の励起光41と共に800nm帯の励起光42を用いることによって、レーザ下準位(4I13/2)のErイオンにESAを生じさせて他のエネルギー準位へ励起させる。これにより、レーザ下準位(4I13/2)を占めるErイオン数を低減し、レーザ下準位(4I13/2)のシュタルク準位のうち、低いエネルギーレベルの準位が発光に寄与できるようにする。以上により、励起光の光強度が高い場合であっても、出射されるレーザ光9のピーク波長がシフトすることがなく、安定して一定の波長のレーザ光9が得られるようにする。
【0014】
図3は、基底状態(4I15/2)のErイオンにおけるGSAと、レーザ上準位(4I11/2)のErイオンにおけるESAと、レーザ下準位(4I13/2)のErイオンにおけるESAを示す図である。ここで、図3は、各吸収量を励起光の波長でプロットしたものであり、Applied Physics B,1998年,67巻,p.23−28から引用したものである。
励起光の波長が780〜812nmのとき、レーザ下準位(4I13/2)のESAが生じることが分かる。また、励起光の波長が780〜792nmのとき、レーザ下準位(4I13/2)のESAが生じるが、レーザ上準位(4I11/2)のESAは生じないことが分かる。
【0015】
800nm帯の励起光42としては、レーザ下準位(4I13/2)のErイオンにESAを生じさせることができる波長の光(図3より780〜812nm)を用いる。特に780〜792nmが好ましく、これによりレーザ上準位(4I11/2)のErイオンにESAを生じさせずに、レーザ下準位(4I13/2)のErイオンにESAを生じさせることができる。
このため、レーザ下準位(4I13/2)を占めるErイオン数を低減でき、レーザ下準位(4I13/2)のシュタルク準位のうち、低いエネルギーレベルの準位が発光に寄与できるようにすることができる。更にこのとき2.8〜2.9μmのレーザ光9の発光に寄与するレーザ上準位(4I11/2)のErイオンにはESAが生じないため、レーザ上準位(4I11/2)のErイオン数が低減することがない。
以上により、980nm帯の励起光41と800nm帯の励起光42を同時に用いることによって、励起光41,42の光強度が高い場合であっても、出射されるレーザ光9のピーク波長がシフトすることがなく、安定して一定の波長のレーザ光9が効率良く得られる。
【0016】
なお、本発明の技術範囲は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、励起光源21,22として、出射口に口出し用ファイバが設けられ、この口出し用ファイバから980nm帯の励起光41と800nm帯の励起光42がそれぞれ出射されるものを用いても構わない。この場合、口出し用ファイバを2入力1出力型WDMカプラに接続することによって、980nm帯の励起光41と800nm帯の励起光42を合波して1本の光ファイバから出射できるようにすることができる。
また、励起光源としては、1つの光源で2つの波長の光を発光するものでも構わない。
また、EDF3のコア半径、屈折率分布形状、Erの濃度分布等は特に限定されず、例えばEDF3は、マルチモードファイバや、EDF3の断面において第1クラッドの外周が正方形又は円状であるものであっても構わない。
【0017】
次に本実施形態の具体例を以下に示す。
本実施形態と同様の構成の光ファイバレーザ1を用いる。EDF3として、Erが添加されたフッ化物ガラスから構成され、コア径が10μmであり、また第1クラッドの断面形状が100μm×200μmの長方形状のダブルクラッド構造を有するシングルモードファイバを用いる。EDF3に入射する980nm帯励起用レーザ光41の波長は980nmであり、800nm帯励起用レーザ光42の波長は790nmである。
図4は、本実施形態の光ファイバレーザ1から出射された2.8μm帯のレーザ光9のピーク波長と励起用レーザ光41,42の光強度との関係の一例を示す図である。
光励起用レーザ光41,42の光強度が1.5W以上の高い場合であっても、出射されるレーザ光9のピーク波長は約2760nmであり、ほぼ一定であることがわかる。このように、励起光41,42の光強度が変化しても、出射されるレーザ光9のピーク波長がシフトすることがなく、安定して一定の波長のレーザ光9が得られる。
【0018】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明によると、980nm帯及び800nm帯の励起光を出射する励起光を用いることによって、励起の光強度が変化しても、出射されるレーザ光のピーク波長がシフトすることがなく、安定して一定の波長のレーザ光が効率良く得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態の光ファイバレーザの一例を示す概略図である。
【図2】EDFのErイオンのエネルギー準位を示す図である。
【図3】ErイオンのGSAとESAの吸収スペクトルを示す図である。
【図4】光ファイバレーザから出射された2.8μm帯のレーザ光のピーク波長と励起光の光強度との関係の一例を示す図である。
【図5】従来の光ファイバレーザから出射された2.8μm帯のレーザ光のピーク波長と励起光の光強度との関係を示す。
【符号の説明】
1‥‥光ファイバレーザ、21,22‥‥励起光源、3‥‥エルビウム添加ガラスファイバ、41‥‥980nm帯の励起光(励起用レーザ光)、42‥‥800nm帯の励起光(励起用レーザ光)
Claims (4)
- エルビウム添加ガラスファイバを利得媒質とした2.8μm帯の光ファイバレーザであって、
980nm帯の励起光を出射する励起光源と800nm帯の励起光を出射する励起光源を備えたことを特徴とする光ファイバレーザ。 - 前記励起光の波長が960〜1020nmと780〜792nmであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバレーザ。
- 利得媒質のエルビウム添加ガラスファイバに励起光を入射させて2.8μm帯のレーザ光を出射する方法であって、
980nm帯と800nm帯の励起光を同時に用いることを特徴とする2.8μm帯のレーザ光の出射方法。 - 960〜1020nmと780〜792nmの励起光を同時に用いることを特徴とする請求項3に記載の2.8μm帯のレーザ光の出射方法。
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- 2003-06-10 JP JP2003165075A patent/JP2005005377A/ja not_active Withdrawn
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