JP2005002271A - 黒色水性インク組成物、それを用いたインクジェット記録方法および記録物 - Google Patents
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Abstract
【課題】光及びオゾンにさらされても高品質な画像を保つことができ、さらに耐アルバム保存性及び耐湿性に優れた印刷物を作成することが可能な黒色水性インク組成物、それを用いたインクジェット記録方法、及びそのインクジェット記録方法によって記録された記録物を提供する。
【解決手段】黒色染料として、以下の式(1):
【化21】
(前記式(1)中、R1は置換基を有するフェニル基または置換基を有するナフチル基を表し、R2は置換基を有するフェニレン基または置換基を有するナフチレン基を表し、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。)
で表される化合物および式(1)で表される化合物の塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有させて黒色水性インク組成物を調製する。
【選択図】 なし
【解決手段】黒色染料として、以下の式(1):
【化21】
(前記式(1)中、R1は置換基を有するフェニル基または置換基を有するナフチル基を表し、R2は置換基を有するフェニレン基または置換基を有するナフチレン基を表し、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。)
で表される化合物および式(1)で表される化合物の塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有させて黒色水性インク組成物を調製する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録に好適に用いることができる黒色水性インク組成物、この組成物を用いたインクジェット記録方法、及びこの記録方法によって記録された記録物に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方法は、細いノズルからインク組成物を小滴として吐出し、文字や画像を記録媒体表面に付着させて記録する公知の方法である。実用化されているインクジェット記録方法としては、(i) 電歪素子を用いて電気信号を機械信号に変換し、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物をこの機械信号によって断続的にノズルヘッドから吐出して記録媒体表面にインク組成物を付着させて文字や画像を記録する方法、(ii) ノズルヘッドの吐出部にごく近い一部分を急速に加熱し、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物中に泡を発生させ、その泡の体積膨張によってインク組成物をノズルヘッドから断続的に吐出して記録媒体表面にインク組成物を付着させて文字や画像を記録する方法等がある。
【0003】
インクジェット記録方法に用られるインク組成物は、各種染料を水または有機溶剤、あるいはそれらの混合液に溶解させた溶液が一般的であり、しかもこのインク組成物には、万年筆及びボールペン等の筆記具用のインクに比べて高い安全性及び良好な印字特性が要求される。
【0004】
さらに近年、広告用の印刷物の作成にインクジェットプリンタが採用されるようになってきており、水性インク組成物を用いたインクジェット記録方法によって作成された印刷物は、室内のほかに室外にも設置される。したがって、太陽光及び/または種々の光源からの光、並びに大気中に含まれるオゾン、窒素酸化物、及び硫黄酸化物等の化学物質に晒されることにより、印刷物の画質が経時に劣化しないことが必要となっている。この要求に対し、イエロー、マゼンタ、シアン等のカラーインクに対する検討が種々行われてきている。ブラックインクに関しては、画像の中における使用率の低さやその染料濃度の高さにより、インク自身の堅牢度がカラーインクに比べて高いこと等から開発が遅れていた。しかし、ブラックインクは、画像中において画像のコントラストを得るといった観点から重要であり、カラーインクの特性向上と相まって、近年開発が加速されている。
【0005】
このような状況の下、染料を着色剤として用いたインク組成物の耐ガス性、特に耐オゾン性を改善可能な染料として、例えば、下記構造のジスアゾ系の染料が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)
【0006】
【化3】
【0007】
【化4】
【0008】
しかしながら、上記染料を用いたインク組成物でも耐光性及び耐オゾン性等が不十分であり、印刷物が光及びオゾン等にさらされることによって印刷物の画質が経時的に劣化、たとえば退色するという問題があった。
【0009】
【特許文献1】
特開平3−229770号公報
【特許文献2】
特開平3−91576号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐光性、耐オゾン性、耐アルバム保存性、及び耐湿性に優れ、長期間にわたって高品質な画像を保つことができる印刷物を作成することが可能な黒色水性インク組成物、それを用いたインクジェット記録方法、及びそのインクジェット記録方法によって記録された記録物を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の黒色水性インク組成物は、1種以上の黒色染料を含む黒色インク組成物であって、この黒色染料が以下の式(1):
【化5】
(前記式(1)中、R1は置換基を有するフェニル基または置換基を有するナフチル基を表し、R2は置換基を有するフェニレン基または置換基を有するナフチレン基を表し、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。さらに前記R1〜R3における前記置換基は独立して、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、NO2、NH2、C1〜4のアルキル基、置換基を有するアルキル基、C1〜4のアルコキシ基、置換基を有するアルコキシ基、アミノ基、置換基を有するアミノ基、及び置換基を有するフェニル基からなる群から選ばれる。)
で表される化合物及び式(1)で表される化合物の塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とするものである。
【0012】
さらに本発明の黒色水性インク組成物は、上記式(1)で表される化合物が以下の式(2):
【化6】
(前記式(2)中、R1〜R9は独立して、H、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、NO2、及びNH2からなる群から選ばれる基を表す。)
で表される化合物であることを特徴とするものである。
【0013】
さらに本発明の黒色水性インク組成物は、上記黒色水性インク組成物中に上記黒色染料が0.5〜12重量%含まれることを特徴とするものである。
【0014】
さらに本発明の黒色水性インク組成物は、上記黒色水性インク組成物中にグリコールエーテル系水溶性有機溶剤が含まれることを特徴とするものである。
【0015】
さらに本発明の黒色水性インク組成物は、上記黒色水性インク組成物中にアセチレングリコール系界面活性剤が含まれることを特徴とするものである。
【0016】
さらに本発明の黒色水性インク組成物は、上記黒色水性インク組成物の20℃におけるpHが7.0〜10.5であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明のインクジェット記録方法は、上記いずれかの黒色水性インク組成物を細いノズルより液滴として吐出させ、その液滴を記録媒体に付着させることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の記録物は、上記インクジェット記録方法によって印刷されたことを特徴とするものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、本明細書中に示す特定の化学構造を有する黒色染料を含むインク組成物を用いて記録された文字・画像等の記録物が、耐光性、耐オゾン性、耐アルバム保存性、耐湿性等に優れることを見いだし、本発明を完成したものである。
【0020】
本発明の黒色水性インク組成物(以下、単に「インク組成物」とも記す。)は、水、または水と水溶性有機溶剤からなる水性媒体中に、下記の式(1):
【化7】
で表される化合物及び式(1)で表される化合物の塩からなる群から選ばれる一種以上を含有する。
【0021】
上記式(1)中、R1は置換基を有するフェニル基または置換基を有するナフチル基を表す。さらに式(1)中、R2は置換基を有するフェニレン基または置換基を有するナフチレン基を表す。さらに式(1)中、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。さらにR1〜R3における前記置換基は独立して、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、NO2、NH2、C1〜4のアルキル基、置換されたアルキル基、C1〜4のアルコキシ基、置換されたアルコキシ基、アミノ基、置換されたアミノ基、及び置換されたフェニル基からなる群から選ばれる基を表す。
【0022】
さらに上記の置換されたアルキル基は、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、及びNH2基からなる群から選ばれた1種以上の基で置換されたC1〜4のアルキル基から選ばれることが好ましい。また、上記の置換されたアルコキシ基は、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、及びNH2基からなる群から選ばれる1種以上の基で置換されたC1〜4のアルコキシ基から選ばれることが好ましい。また、上記の置換されたアミノ基は、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、及びNH2基からなる群から選ばれた1種以上の基で置換されたC1〜4のアルキル基を1つまたは2つ有するアミノ基からなる群から選ばれることが好ましい。また、上記の置換基されたフェニル基は、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、NH2、C1〜4のアルキル基、及び置換されたC1〜4のアルキル基からなる群から選ばれる置換基を1つまたは2つ有するフェニル基からなる群から選ばれることが好ましい。
【0023】
さらに本発明に用いる上記式(1)で表される化合物としては、以下の式(2):
【化8】
(式(2)中、R1〜R9は独立して、H、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、NO2、及びNH2からなる群から選ばれる基を表す。)
で表される化合物であることが特に好ましい。
【0024】
本発明の黒色水性インク組成物は、少なくとも1種以上の黒色染料を含む組成物であって、この黒色染料として上記式(1)で表される化合物(以下、単に化合物(1)ともいう。)及び化合物(1)の塩からなる群から選ばれる少なくとも一種がインク組成物中に含まれているものである。
【0025】
本発明のインク組成物に用いる化合物(1)としては、以下の式(3)〜式(10)で表される化合物が特に好ましい。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【0026】
本発明のインク組成物に用いる上記式(1)または式(2)で表される化合物は、好ましい方法を用いて適宜合成することができるが、例えば各化合物において3つのアゾ基によって結合されている4つの対応する各構造を有するビルディングブロックをアゾカップリングによって結合することによって合成することができる。すなわち、たとえば式(1)で表されるジヒドロキシナフタレン骨格部分をQで表すと、式(1)の化合物は、R3−N=N−R2−N=N−Q−N=N−R1で表すことができる。この化合物を合成する一つの具体的な方法を模式的に示すと、まずR1−NH2をジアゾ化して得られたジアゾニウム塩をQHと反応させてR1−N=N−QHとする。次にCH3CON−R2−NH2をジアゾ化して得られる化合物とR1−N=N−QHをカップリングさせてR1−N=N−Q−N=N−R2NCOCH3を合成する。この化合物のアセチル基を除去してアミノ基としてからジアゾ化し、続いてR3HとカップリングさせてR1−N=N−Q−N=N−R2−N=N−R3が合成できる。
【0027】
さらに合成の具体例として前記式(3)で表される化合物の合成例を以下に説明する。
5−アセチルアミノ−2−アミノベンゼンスルホン酸(23.0g、0.10モル)を濃硝酸(30ml)を含む水(300ml)に添加した。亜硝酸ナトリウム(6.9g)を0〜5℃の温度で10分かけて加えた。60分後、過剰の亜硝酸を分解し、得られたジアゾニウム塩溶液を、5〜10℃、pH8〜9を維持しながらゆっくりと、水(500g)に溶解しておいた1,8−ジヒドロキシナフタレン−3,6−ジスルホン酸(32.0g、0.10モル)の溶液に添加した。この反応が定量的に進行したことは、HPLCにより確認できた。これによってカップリング生成物を含む溶液(染料ベースという)が得られた。
【0028】
次に5−ニトロ−2−アミノベンゼンスルホン酸(43.6g、0.20モル)を、濃塩酸(60g)を含む水(500g)に添加した。亜硝酸ナトリウム(13.8g)を0〜5℃の温度で15分かけて加えた。60分後、得られたジアゾニウム塩溶液を、5〜10℃、pH6〜7を維持しながら120分かけて、あらかじめテトラヒドロフラン(1000g)を添加しておいた上記染料ベースに添加した。5時間後、生成した沈殿物を集め、乾燥器で乾燥させると、暗赤色の固形物が得られた(55.3g)。この暗赤色の固形物を水(1000ml)に溶解させて、80℃まで加熱した。水酸化ナトリウム(10g)を加え、さらに8時間温度を80℃に保った。8時間後、濃塩酸を用いてpH7〜8に調節し、溶液を放冷して室温にまで下げた。この溶液をVisking(商標)チュービングを用いて透析(50μScm−1未満)してから、フィルタを用いて濾過し、乾燥器で乾燥させると47.2gの黒色固形物が得られた。
【0029】
上記で得られた黒色固形物をpH7〜9で水に再溶解させたが、pHの調整には水酸化リチウムを用いた。次いで亜硝酸ナトリウム(8.3g)を加え、10分間攪拌した。それから、この染料/亜硝酸塩の溶液を、濃塩酸(30g)を含む氷水(100ml)中に移した。放置すると温度は15〜25℃に上昇したが、そのまま3時間おいた。得られたジアゾジウム塩溶液を、15〜20℃、pH6〜7を維持しながら120分かけて、1−(4−スルホフェニル)−3−カルボキシ−5−ピラゾロン(17.9g、0.06モル)の溶液に加えた。このpHは水酸化リチウムを添加することによって維持した。次いでこの溶液をVisking(商標)チュービングを用いて透析(50μScm−1未満)し、さらにフィルタを用いて濾過し、乾燥器で乾燥させると60.0gの前記式(3)で表される化合物が黒色固形物として得られた。
【0030】
本明細書でいう前記式(1)で表される化合物の塩には、前記式(1)で表される化合物の塩及び前記式(1)で表される化合物の部分塩が含まれ、さらに前記塩及び前記部分塩には複合塩も含まれる。化合物(1)の部分塩とは、化合物(1)が有するプロトン酸基の当量よりも少ない当量のイオンと化合物(1)とからなる塩をいう。また前記複合塩とは、一分子の化合物(1)が2種類以上のイオンと塩を形成している場合をいう。上記の化合物(1)の塩としては、化合物(1)がOH、SO3H、PO3H2基等のプロトン酸基を有する場合にその化合物(1)のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、及び有機アンモニウム塩、並びにこれらの各種金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムからなる群から選ばれる2種以上を含む複合塩からなる群から選ばれる1種以上が例示できるが、これらに限定されるものではない。上記アルカリ金属塩としては、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、及びこれらの2種以上の金属を含む塩をあげることができ、特にリチウム塩及びナトリウム塩が好ましい。
【0031】
本発明のインク組成物においては、上記化合物(1)及び化合物(1)の塩として、1種のみを用いることも、また2種以上を併用することもできる。2種以上を併用する場合は、化合物(1)または化合物(1)の塩の各カテゴリーそれぞれの中から2種以上の化合物を用いることも、2種のカテゴリーにわたって選ばれる2種以上の化合物を用いることもできる。
【0032】
上記化合物(1)及び化合物(1)の塩からなる群から選ばれる1種以上の化合物(以下、単に「黒色染料(1)」という。)は、本発明の黒色水性インク組成物中に0.5〜12重量%含まれることが好ましく、1.0〜9.0重量%含まれることがさらに好ましい。インク組成物中の黒色染料(1)の含有量が0.5重量%以上の場合、そのインク組成物を用いて記録媒体に画像等を記録したときに、充分良好な発色や高い画像濃度を得ることができる。また、インク組成物中の黒色染料(1)の含有量を12重量%以下にすることにより、そのインク組成物の粘度を好ましい値に調節することができ、またインクジェットヘッドからのインク組成物の吐出量を安定化することができ、さらにインクジェットヘッドの目詰まりを防止することができる。
【0033】
本発明のインク組成物は黒色染料(1)を、水を含む溶媒中に溶解して製造することができる。本発明のインク組成物に用いる溶剤としては、水、または水と水溶性有機溶剤との混合物が好ましい。本発明に用いる水溶性有機溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレングリコール類;グリセリン;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルキルアルコール類;尿素;及び、2−ピロリドン、スルフォラン、ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の極性有機溶媒からなる群から選ばれる一種以上が例示できる。本発明に用いる水溶性有機溶剤は、常温において水より蒸気圧が小さいものが好ましい。
【0034】
インク組成物の記録媒体への浸透性を高めることができること、及びカラー印刷を行う場合に本発明の黒色インクとそれに隣接するカラーインクとが接する境界においてインクがにじみにくくなることによって非常に鮮明な画像が得られることから、グリコールエーテル系水溶性有機溶剤を本発明のインク組成物に含有させることが特に好ましい。本発明のインク組成物に含有されるグリコールエーテル系水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が好ましい。
【0035】
本発明のインク組成物にグリコールエーテル系水溶性有機溶剤を含有させる場合、インク組成物中に含まれるグリコールエーテル系水溶性有機溶剤の割合は特に限定されるものではなく、当業者は本発明の効果を損なわないように適宜その割合を定めることができる。ただし、本発明のインク組成物においては、インク組成物中にグリコールエーテル系水溶性有機溶剤が3〜30重量%含有されることが好ましく、5〜20重量%含有されることがさらに好ましい。インク組成物に含まれるグリコールエーテル系水溶性有機溶剤の量を3重量%以上にすることによって記録媒体へのインクの浸透性を高めることができ、さらにカラー印刷においては、本発明の黒色インクによって形成された画像とカラーインクによって形成された画像との境界で、インクのにじみ(ブリーディング)を生じにくくすることができる。また、インク組成物に含まれるグリコールエーテル系水溶性有機溶剤の量を30重量%以下にすることによって、そのインク組成物を用いて記録媒体上に形成された画像がにじみにくくできること加え、インク組成物が分離せずに均一な状態を保つことができる。インク組成物が分離する場合は、用いたグリコール系水溶性有機溶剤を水に溶解してインク組成物を均一にするための溶解助剤を添加することが必要になり、溶解助剤の添加によってインク組成物の粘度が高くなるため、インクジェットヘッドではインク組成物の吐出が困難になる場合がある。なお、上記グリコールエーテル系水溶性有機溶剤は1種のみを用いること、及び2種以上を併用することができる。
【0036】
本発明のインク組成物には、さらに界面活性剤を添加することができる。本発明に用いる界面活性剤としてはノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤を本発明のインク組成物に添加すると、インク組成物が記録媒体に速やかに浸透かつ定着されやすくなり、しかもインクジェット方法により記録媒体上に吐出された一滴のインクによって形成される像の形状を真円に近いものにすることができるため、得られる画像の画質を高めることができる。
【0037】
本発明に用いるノニオン界面活性剤としては、例えばアセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。本発明のインク組成物に用いるアセチレングリコール系界面活性剤としては、特に以下の式(11):
【化17】
(式(11)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立して、C1〜C6の直鎖、環式又は分枝アルキル鎖を表し、さらにA1O及びA2Oはそれぞれ独立してC2〜C3のオキシアルキレン鎖、例えばオキシエチレンまたはオキシプロピレン、またはC2〜C3のアルキレンオキサイドが重合または共重合して得られるポリオキシアルキレン鎖、例えばポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、もしくはポリオキシエチレンプロピレン鎖を表す。また式中、n及びmはA1OまたはA2O単位、すなわちオキシアルキレンの繰り返し数を表し、0≦n<30、0≦m<30、及び0≦n+m<50を満たす数である。)
で表される化合物を用いることが好ましい。このアセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、サーフィノール465(商標)、サーフィノール104(商標)、オルフィンSTG(商標)、オルフィンE1010(商標)(以上商品名、日信化学工業株式会社製)を例示することができ、これらから選ばれる一種以上を本発明のインク組成物に添加することが好ましい。
【0038】
本発明においては、インク組成物中に界面活性剤が、好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.5〜2重量%含まれるように、インク組成物に界面活性剤を添加するのがよい。インク組成物に対して界面活性剤を0.1重量%以上含有させることによって、記録媒体に対するインク組成物の浸透性を高くすることができる。またインク組成物に対して界面活性剤を5重量%以下にすることにより、記録媒体上にインク組成物によって形成された画像がにじみにくいという効果が得られる。
【0039】
本発明の黒色水性インク組成物には、さらに所望により、保湿剤、粘度調整剤、pH調整剤、及び黒色水性インク組成物に用いることができる他の添加剤を添加することができる。具体的には、アルギン酸ナトリウム等の水溶性オリゴマー及び水溶性ポリマー、水溶性樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防かび剤、防錆剤などを本発明のインク組成物に添加することができる。当業者は本発明の効果を損なわない範囲で、選択された好ましい添加剤を好ましい量で用いることができる。
【0040】
本発明のインク組成物は、そのpHが20℃において7.0〜10.5であることが好ましく、7.5〜10.0であることがさらに好ましい。20℃におけるインク組成物のpHを7.0以上にすることによってインクジェットヘッドの共析メッキが剥離することを防止することができ、かつインクジェットヘッドからのインク組成物の吐出特性を安定化することができる。また、インク組成物のpHを20℃において10.5以下にすることによって、インク組成物が接触する各種の部材、たとえばインクカートリッジやインクジェットヘッドを構成する部材が劣化されることを防ぐことができる。
【0041】
本発明においては、インク組成物にpH調整剤を添加することによって、20℃におけるインク組成物のpHを好ましい値に調節することが好ましい。本発明において用いることができるpH調整剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリプロパノールアミンなどのアミン類を用いることが好ましい。インク組成物へのpH調整剤の添加量は、インク組成物のpHを上述の好ましい範囲に入れることができる量であり、その量はインク組成物ごとに適宜定めることができる。なお、本発明におけるインク組成物のpH値は、市販のpHメーターを用い、インク組成物にpH電極を直接挿入することによって測定された値である。
【0042】
本発明のインク組成物を調製するためには、たとえば、インク組成物に含有されるべき各成分を充分に混合して均一な溶液にした後、平均目開き0. 8μm のメンブランフィルターを用いて加圧濾過したのち、減圧下で脱泡する方法を用いることができる。
【0043】
本発明の黒色水性インク組成物は一般の筆記具用、記録計用、ペンプロッター用等に使用することができるが、インクジェット記録方法に用いることが特に好ましい。本発明の黒色インク組成物を用いることができるインクジェット記録方法は、インク組成物を細いノズルから液滴として吐出させ、その液適を記録媒体に付着させるいかなる記録方法も含む。本発明のインク組成物を用いることができるインクジェット記録方法の具体例を以下に説明する。
【0044】
第一の方法は静電吸引方式とよばれる方法である。静電吸引方式は、ノズルとノズルの前方に配置された加速電極との間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に噴射させ、そのインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えることによって、インク滴を記録媒体上に向けて飛ばしてインクを記録媒体上に定着させて画像を記録する方法、または、インク滴を偏向させずに、印刷情報信号に従ってインク滴をノズルから記録媒体上にむけて噴射させることにより画像を記録媒体上に定着させて記録する方法である。本発明のインク組成物はこの静電吸引方式による記録方法に用いることが好ましい。
【0045】
第二の方法は、小型ポンプによってインク液に圧力を加えるとともに、インクジェットノズルを水晶振動子等によって機械的に振動させることによって、強制的にノズルからインク滴を噴射させる方法である。ノズルから噴射されたインク滴は、噴射されると同時に帯電され、このインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えてインク滴を記録媒体に向かって飛ばすことにより、記録媒体上に画像を記録する方法である。本発明のインク組成物はこの記録方法に用いることが好ましい。
【0046】
第三の方法は、インク液に圧電素子によって圧力と印刷情報信号を同時に加え、ノズルからインク滴を記録媒体に向けて噴射させ、記録媒体上に画像を記録する方法である。本発明のインク組成物はこの記録方法に用いることが好ましい。
【0047】
第四の方法は、印刷信号情報に従って微小電極を用いてインク液を加熱して発泡させ、この泡を膨張させることによってインク液をノズルから記録媒体に向けて噴射させて記録媒体上に画像を記録する方法である。本発明のインク組成物はこの記録方法に用いることが好ましい。
【0048】
本発明の黒色水性インク組成物は、上述した4つの方法を含むインクジェット記録方式による画像記録方法を用いて記録媒体上に画像を記録する場合に用いるインク組成物として特に好ましい。本発明の黒色水性インク組成物を用いて記録された記録物は優れた画質を有し、さらに耐光性、耐オゾン性、耐アルバム保存性、及び耐湿性にも優れている。
【0049】
【実施例】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
〔黒色水性インク組成物の調製〕
以下の表1に示した組成に基づき、各成分を混合して均一な溶液とした後、得られた溶液を平均開口径0.8μmのメンブランフィルターを用いて加圧濾過してインク組成物を得た。また、表1中に示したインク組成物のpHは、pHメーター(横川電気社製MODEL PH82)を使用して20℃で測定した値である。なお表1中において、各成分の数値はインク組成物の質量を100%とした場合の各成分の重量%を示す。
【0051】
実施例1〜3及び比較例1〜2として用いたインク組成物の組成
【表1】
【0052】
なお、本実施例1〜3に用いた染料は、以下の式(3):
【化18】
で表される化合物のリチウム塩である。
【0053】
また比較例1または2においては以下の染料を用いた。
比較例1の染料:
【化19】
【0054】
比較例2の染料:
【化20】
【0055】
〔耐光性試験〕
インクジェットプリンタ Stylus Color 880(商標)(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて印刷試験を行った。このプリンタ用のブラックインク専用カートリッジに実施例1〜3及び比較例1〜2のインク組成物をそれぞれ充填し、PM写真用紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PSK)及びPMマット紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PM)に対してモノクロ画像の印刷を行って記録物を得た。印刷は、得られた画像のOD(Optical Density)が0.9〜1.1の範囲に入るようにDutyを調整して行った。得られた記録物を室温下で暗所に1日静置した後、記録された画像の耐光性の試験をおこなった。
【0056】
耐光性の試験は、蛍光灯耐光性試験機SFT−II(商品名、スガ試験機株式会社製)を使用し、温度が24℃、湿度が60RH%、照度70000luxの条件下で、上記記録物に21日間、光照射を行った。反射濃度計Spectrolino(商標)(商品名、GRETAG社製)を使用して、光照射前及び光照射後の記録物の画像のOD値を測定した。OD値の測定は、光源がD50、光源フィルタなし、絶対白を白色標準とし、視野角は2°で行った。下記計算式(1):
ROD(%)=(Dn/Do)×100(式中、Dnは光照射試験終了後の画像のOD値、Doは光照射試験開始前の画像のOD値)(計算式1)
を用いて、得られた測定値(OD値)から、光照射後の各記録物の画像の光学濃度残存率(Relict Optical Density:ROD)を計算によって求めた。
【0057】
得られたRODに基づき、以下の判定基準を用いて試験結果をA〜Dにランク付けすることによって記録物の耐光性を評価した。
A:RODが80%以上
B:RODが60%以上80%未満
C:RODが40%以上60%未満
D:RODが40%未満
RODの値が高いほうが光照射による画像の劣化が少なく好ましい。得られた結果を表2に示す。
【0058】
〔耐オゾン試験〕
インクジェットプリンタ Stylus Color 880(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて印刷試験を行った。このプリンタ用のブラックインク専用カートリッジに実施例1〜3及び比較例1〜2のインク組成物をそれぞれ充填し、PM写真用紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PSK)及びPMマット紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PM)に対して画像の印刷を行って記録物を得た。印刷は、得られた画像のOD(Optical Density)が0.9〜1.1の範囲に入るようにDutyを調整して行った。得られた記録物を室温下で暗所に1日静置した後、記録された画像の耐オゾン性の試験をおこなった。
【0059】
オゾンウェザーメーターOMS−H型(商品名、スガ試験機株式会社製)を使用し、温度が24℃、湿度が60%RH、及びオゾン濃度が10ppmの条件下で、上記記録物を24時間オゾンに曝露した。反射濃度計Spectrolino(商標)(商品名、GRETAG社製)を使用して、オゾン曝露前後の記録物のOD値(Optical Density)を測定した。その測定は、光源がD50、光源フィルタなしで、絶対白を白色標準とし、視野角は2°という条件で行った。上記耐光性試験における計算方法と同じ計算方法、及び上記耐光性試験における判定基準と同じ判定基準を用いて、得られた結果をA〜Dのランク付けすることによって記録物の耐オゾン性を評価した。得られた評価結果を表2に示した。RODの値が高いほうがオゾン曝露による画像の劣化が少ない。
【0060】
〔アルバム保存性試験〕
インクジェットプリンタ Stylus Color 880(商標)(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて印刷試験を行った。このプリンタ用のブラックインク専用カートリッジに実施例1〜3及び比較例1〜2のインク組成物をそれぞれ充填し、PM写真用紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PSK)及び専用光沢フィルム(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:MJA4SP6)に画像の印刷を行って記録物を得た。画像の印刷は、黒色以外の色で形成されるベタパターンの上に黒色の文字が配置された画像を記録媒体上に印刷させることによって行った。得られた記録物を印刷後1分以内にシルバー台紙コクヨアルバム(商品名、コクヨ株式会社製、型番:ア−LS002)に貼り付け、さらに温度60℃の条件下で恒温槽中に30日間静置して保存性試験を行った。保存性試験の前及び後における記録物の黒色文字の滲み具合を、以下の判断基準を用いて目視により評価した。
判定基準
A:黒色文字はシャープで、周囲への滲み出しがない。
B:黒色文字は滲み出しを生じているが、文字は認識可能である。
C:黒色文字は滲み出しを生じており、文字を認識することができない。
得られた結果を表2に示した。Aが最も優れる。
【0061】
〔耐湿性試験〕
インクジェットプリンタ Stylus Color 880(商標)(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて印刷試験を行った。このプリンタ用のブラックインク専用カートリッジに実施例1〜3及び比較例1〜2のインク組成物をそれぞれ充填し、PM写真用紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PSK)及び専用光沢フィルム(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:MJA4SP6)に対して画像の印刷を行って記録物を得た。画像の印刷は、黒色で形成されるベタパターンの中に白色の文字(以下、白抜き文字という。)が配置された画像を記録媒体上に印刷させることによって行った。得られた記録物を室温下で暗所に1日静置した後、記録物の耐湿性の試験を以下に示す方法を用いておこなった。
【0062】
得られた記録物を温度40℃、湿度85%RHの条件下、恒温恒湿槽PL−3GM(商品名、タバイエスペック株式会社製)中に7日間静置した。その後、記録物を取り出し、記録物上の白抜き文字の滲みの程度を以下の判定基準を用いて評価した。
判定基準
A:白抜き文字の輪郭はシャープで滲みがない。
B:白抜き文字の輪郭は滲んでいるが、文字は認識可能である。
C:白抜き文字の輪郭が滲んで、文字の認識ができない。
得られた結果を表2に示した。Aが最も優れる。
【0063】
実施例1〜3及び比較例1〜2のインク組成物を用いて作成した画像の耐光性試験等の結果
【表2】
【0064】
表2に示した結果から、本発明の黒色水性インク組成物を用いてインクジェット記録方法によって記録された記録物の画像は、耐光性、耐オゾン性、耐アルバム性、及び耐湿性に優れることがわかる。
【0065】
【発明の効果】
本発明の黒色水性インク組成物を用い、インクジェット記録方法によって記録媒体上に画像が記録された記録物は、光及びオゾンに晒されてもその黒色があせにくく、さらに高湿度条件下においても黒色画像の滲みが少ない。また、本発明の記録物は、市販のアルバムに貼り付けた状態においてもその黒色画像の滲みがない。
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録に好適に用いることができる黒色水性インク組成物、この組成物を用いたインクジェット記録方法、及びこの記録方法によって記録された記録物に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方法は、細いノズルからインク組成物を小滴として吐出し、文字や画像を記録媒体表面に付着させて記録する公知の方法である。実用化されているインクジェット記録方法としては、(i) 電歪素子を用いて電気信号を機械信号に変換し、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物をこの機械信号によって断続的にノズルヘッドから吐出して記録媒体表面にインク組成物を付着させて文字や画像を記録する方法、(ii) ノズルヘッドの吐出部にごく近い一部分を急速に加熱し、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物中に泡を発生させ、その泡の体積膨張によってインク組成物をノズルヘッドから断続的に吐出して記録媒体表面にインク組成物を付着させて文字や画像を記録する方法等がある。
【0003】
インクジェット記録方法に用られるインク組成物は、各種染料を水または有機溶剤、あるいはそれらの混合液に溶解させた溶液が一般的であり、しかもこのインク組成物には、万年筆及びボールペン等の筆記具用のインクに比べて高い安全性及び良好な印字特性が要求される。
【0004】
さらに近年、広告用の印刷物の作成にインクジェットプリンタが採用されるようになってきており、水性インク組成物を用いたインクジェット記録方法によって作成された印刷物は、室内のほかに室外にも設置される。したがって、太陽光及び/または種々の光源からの光、並びに大気中に含まれるオゾン、窒素酸化物、及び硫黄酸化物等の化学物質に晒されることにより、印刷物の画質が経時に劣化しないことが必要となっている。この要求に対し、イエロー、マゼンタ、シアン等のカラーインクに対する検討が種々行われてきている。ブラックインクに関しては、画像の中における使用率の低さやその染料濃度の高さにより、インク自身の堅牢度がカラーインクに比べて高いこと等から開発が遅れていた。しかし、ブラックインクは、画像中において画像のコントラストを得るといった観点から重要であり、カラーインクの特性向上と相まって、近年開発が加速されている。
【0005】
このような状況の下、染料を着色剤として用いたインク組成物の耐ガス性、特に耐オゾン性を改善可能な染料として、例えば、下記構造のジスアゾ系の染料が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)
【0006】
【化3】
【0007】
【化4】
【0008】
しかしながら、上記染料を用いたインク組成物でも耐光性及び耐オゾン性等が不十分であり、印刷物が光及びオゾン等にさらされることによって印刷物の画質が経時的に劣化、たとえば退色するという問題があった。
【0009】
【特許文献1】
特開平3−229770号公報
【特許文献2】
特開平3−91576号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐光性、耐オゾン性、耐アルバム保存性、及び耐湿性に優れ、長期間にわたって高品質な画像を保つことができる印刷物を作成することが可能な黒色水性インク組成物、それを用いたインクジェット記録方法、及びそのインクジェット記録方法によって記録された記録物を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の黒色水性インク組成物は、1種以上の黒色染料を含む黒色インク組成物であって、この黒色染料が以下の式(1):
【化5】
(前記式(1)中、R1は置換基を有するフェニル基または置換基を有するナフチル基を表し、R2は置換基を有するフェニレン基または置換基を有するナフチレン基を表し、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。さらに前記R1〜R3における前記置換基は独立して、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、NO2、NH2、C1〜4のアルキル基、置換基を有するアルキル基、C1〜4のアルコキシ基、置換基を有するアルコキシ基、アミノ基、置換基を有するアミノ基、及び置換基を有するフェニル基からなる群から選ばれる。)
で表される化合物及び式(1)で表される化合物の塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とするものである。
【0012】
さらに本発明の黒色水性インク組成物は、上記式(1)で表される化合物が以下の式(2):
【化6】
(前記式(2)中、R1〜R9は独立して、H、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、NO2、及びNH2からなる群から選ばれる基を表す。)
で表される化合物であることを特徴とするものである。
【0013】
さらに本発明の黒色水性インク組成物は、上記黒色水性インク組成物中に上記黒色染料が0.5〜12重量%含まれることを特徴とするものである。
【0014】
さらに本発明の黒色水性インク組成物は、上記黒色水性インク組成物中にグリコールエーテル系水溶性有機溶剤が含まれることを特徴とするものである。
【0015】
さらに本発明の黒色水性インク組成物は、上記黒色水性インク組成物中にアセチレングリコール系界面活性剤が含まれることを特徴とするものである。
【0016】
さらに本発明の黒色水性インク組成物は、上記黒色水性インク組成物の20℃におけるpHが7.0〜10.5であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明のインクジェット記録方法は、上記いずれかの黒色水性インク組成物を細いノズルより液滴として吐出させ、その液滴を記録媒体に付着させることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の記録物は、上記インクジェット記録方法によって印刷されたことを特徴とするものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、本明細書中に示す特定の化学構造を有する黒色染料を含むインク組成物を用いて記録された文字・画像等の記録物が、耐光性、耐オゾン性、耐アルバム保存性、耐湿性等に優れることを見いだし、本発明を完成したものである。
【0020】
本発明の黒色水性インク組成物(以下、単に「インク組成物」とも記す。)は、水、または水と水溶性有機溶剤からなる水性媒体中に、下記の式(1):
【化7】
で表される化合物及び式(1)で表される化合物の塩からなる群から選ばれる一種以上を含有する。
【0021】
上記式(1)中、R1は置換基を有するフェニル基または置換基を有するナフチル基を表す。さらに式(1)中、R2は置換基を有するフェニレン基または置換基を有するナフチレン基を表す。さらに式(1)中、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。さらにR1〜R3における前記置換基は独立して、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、NO2、NH2、C1〜4のアルキル基、置換されたアルキル基、C1〜4のアルコキシ基、置換されたアルコキシ基、アミノ基、置換されたアミノ基、及び置換されたフェニル基からなる群から選ばれる基を表す。
【0022】
さらに上記の置換されたアルキル基は、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、及びNH2基からなる群から選ばれた1種以上の基で置換されたC1〜4のアルキル基から選ばれることが好ましい。また、上記の置換されたアルコキシ基は、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、及びNH2基からなる群から選ばれる1種以上の基で置換されたC1〜4のアルコキシ基から選ばれることが好ましい。また、上記の置換されたアミノ基は、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、及びNH2基からなる群から選ばれた1種以上の基で置換されたC1〜4のアルキル基を1つまたは2つ有するアミノ基からなる群から選ばれることが好ましい。また、上記の置換基されたフェニル基は、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、NH2、C1〜4のアルキル基、及び置換されたC1〜4のアルキル基からなる群から選ばれる置換基を1つまたは2つ有するフェニル基からなる群から選ばれることが好ましい。
【0023】
さらに本発明に用いる上記式(1)で表される化合物としては、以下の式(2):
【化8】
(式(2)中、R1〜R9は独立して、H、OH、SO3H、PO3H2、CO2H、NO2、及びNH2からなる群から選ばれる基を表す。)
で表される化合物であることが特に好ましい。
【0024】
本発明の黒色水性インク組成物は、少なくとも1種以上の黒色染料を含む組成物であって、この黒色染料として上記式(1)で表される化合物(以下、単に化合物(1)ともいう。)及び化合物(1)の塩からなる群から選ばれる少なくとも一種がインク組成物中に含まれているものである。
【0025】
本発明のインク組成物に用いる化合物(1)としては、以下の式(3)〜式(10)で表される化合物が特に好ましい。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【0026】
本発明のインク組成物に用いる上記式(1)または式(2)で表される化合物は、好ましい方法を用いて適宜合成することができるが、例えば各化合物において3つのアゾ基によって結合されている4つの対応する各構造を有するビルディングブロックをアゾカップリングによって結合することによって合成することができる。すなわち、たとえば式(1)で表されるジヒドロキシナフタレン骨格部分をQで表すと、式(1)の化合物は、R3−N=N−R2−N=N−Q−N=N−R1で表すことができる。この化合物を合成する一つの具体的な方法を模式的に示すと、まずR1−NH2をジアゾ化して得られたジアゾニウム塩をQHと反応させてR1−N=N−QHとする。次にCH3CON−R2−NH2をジアゾ化して得られる化合物とR1−N=N−QHをカップリングさせてR1−N=N−Q−N=N−R2NCOCH3を合成する。この化合物のアセチル基を除去してアミノ基としてからジアゾ化し、続いてR3HとカップリングさせてR1−N=N−Q−N=N−R2−N=N−R3が合成できる。
【0027】
さらに合成の具体例として前記式(3)で表される化合物の合成例を以下に説明する。
5−アセチルアミノ−2−アミノベンゼンスルホン酸(23.0g、0.10モル)を濃硝酸(30ml)を含む水(300ml)に添加した。亜硝酸ナトリウム(6.9g)を0〜5℃の温度で10分かけて加えた。60分後、過剰の亜硝酸を分解し、得られたジアゾニウム塩溶液を、5〜10℃、pH8〜9を維持しながらゆっくりと、水(500g)に溶解しておいた1,8−ジヒドロキシナフタレン−3,6−ジスルホン酸(32.0g、0.10モル)の溶液に添加した。この反応が定量的に進行したことは、HPLCにより確認できた。これによってカップリング生成物を含む溶液(染料ベースという)が得られた。
【0028】
次に5−ニトロ−2−アミノベンゼンスルホン酸(43.6g、0.20モル)を、濃塩酸(60g)を含む水(500g)に添加した。亜硝酸ナトリウム(13.8g)を0〜5℃の温度で15分かけて加えた。60分後、得られたジアゾニウム塩溶液を、5〜10℃、pH6〜7を維持しながら120分かけて、あらかじめテトラヒドロフラン(1000g)を添加しておいた上記染料ベースに添加した。5時間後、生成した沈殿物を集め、乾燥器で乾燥させると、暗赤色の固形物が得られた(55.3g)。この暗赤色の固形物を水(1000ml)に溶解させて、80℃まで加熱した。水酸化ナトリウム(10g)を加え、さらに8時間温度を80℃に保った。8時間後、濃塩酸を用いてpH7〜8に調節し、溶液を放冷して室温にまで下げた。この溶液をVisking(商標)チュービングを用いて透析(50μScm−1未満)してから、フィルタを用いて濾過し、乾燥器で乾燥させると47.2gの黒色固形物が得られた。
【0029】
上記で得られた黒色固形物をpH7〜9で水に再溶解させたが、pHの調整には水酸化リチウムを用いた。次いで亜硝酸ナトリウム(8.3g)を加え、10分間攪拌した。それから、この染料/亜硝酸塩の溶液を、濃塩酸(30g)を含む氷水(100ml)中に移した。放置すると温度は15〜25℃に上昇したが、そのまま3時間おいた。得られたジアゾジウム塩溶液を、15〜20℃、pH6〜7を維持しながら120分かけて、1−(4−スルホフェニル)−3−カルボキシ−5−ピラゾロン(17.9g、0.06モル)の溶液に加えた。このpHは水酸化リチウムを添加することによって維持した。次いでこの溶液をVisking(商標)チュービングを用いて透析(50μScm−1未満)し、さらにフィルタを用いて濾過し、乾燥器で乾燥させると60.0gの前記式(3)で表される化合物が黒色固形物として得られた。
【0030】
本明細書でいう前記式(1)で表される化合物の塩には、前記式(1)で表される化合物の塩及び前記式(1)で表される化合物の部分塩が含まれ、さらに前記塩及び前記部分塩には複合塩も含まれる。化合物(1)の部分塩とは、化合物(1)が有するプロトン酸基の当量よりも少ない当量のイオンと化合物(1)とからなる塩をいう。また前記複合塩とは、一分子の化合物(1)が2種類以上のイオンと塩を形成している場合をいう。上記の化合物(1)の塩としては、化合物(1)がOH、SO3H、PO3H2基等のプロトン酸基を有する場合にその化合物(1)のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、及び有機アンモニウム塩、並びにこれらの各種金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムからなる群から選ばれる2種以上を含む複合塩からなる群から選ばれる1種以上が例示できるが、これらに限定されるものではない。上記アルカリ金属塩としては、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、及びこれらの2種以上の金属を含む塩をあげることができ、特にリチウム塩及びナトリウム塩が好ましい。
【0031】
本発明のインク組成物においては、上記化合物(1)及び化合物(1)の塩として、1種のみを用いることも、また2種以上を併用することもできる。2種以上を併用する場合は、化合物(1)または化合物(1)の塩の各カテゴリーそれぞれの中から2種以上の化合物を用いることも、2種のカテゴリーにわたって選ばれる2種以上の化合物を用いることもできる。
【0032】
上記化合物(1)及び化合物(1)の塩からなる群から選ばれる1種以上の化合物(以下、単に「黒色染料(1)」という。)は、本発明の黒色水性インク組成物中に0.5〜12重量%含まれることが好ましく、1.0〜9.0重量%含まれることがさらに好ましい。インク組成物中の黒色染料(1)の含有量が0.5重量%以上の場合、そのインク組成物を用いて記録媒体に画像等を記録したときに、充分良好な発色や高い画像濃度を得ることができる。また、インク組成物中の黒色染料(1)の含有量を12重量%以下にすることにより、そのインク組成物の粘度を好ましい値に調節することができ、またインクジェットヘッドからのインク組成物の吐出量を安定化することができ、さらにインクジェットヘッドの目詰まりを防止することができる。
【0033】
本発明のインク組成物は黒色染料(1)を、水を含む溶媒中に溶解して製造することができる。本発明のインク組成物に用いる溶剤としては、水、または水と水溶性有機溶剤との混合物が好ましい。本発明に用いる水溶性有機溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレングリコール類;グリセリン;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルキルアルコール類;尿素;及び、2−ピロリドン、スルフォラン、ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の極性有機溶媒からなる群から選ばれる一種以上が例示できる。本発明に用いる水溶性有機溶剤は、常温において水より蒸気圧が小さいものが好ましい。
【0034】
インク組成物の記録媒体への浸透性を高めることができること、及びカラー印刷を行う場合に本発明の黒色インクとそれに隣接するカラーインクとが接する境界においてインクがにじみにくくなることによって非常に鮮明な画像が得られることから、グリコールエーテル系水溶性有機溶剤を本発明のインク組成物に含有させることが特に好ましい。本発明のインク組成物に含有されるグリコールエーテル系水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が好ましい。
【0035】
本発明のインク組成物にグリコールエーテル系水溶性有機溶剤を含有させる場合、インク組成物中に含まれるグリコールエーテル系水溶性有機溶剤の割合は特に限定されるものではなく、当業者は本発明の効果を損なわないように適宜その割合を定めることができる。ただし、本発明のインク組成物においては、インク組成物中にグリコールエーテル系水溶性有機溶剤が3〜30重量%含有されることが好ましく、5〜20重量%含有されることがさらに好ましい。インク組成物に含まれるグリコールエーテル系水溶性有機溶剤の量を3重量%以上にすることによって記録媒体へのインクの浸透性を高めることができ、さらにカラー印刷においては、本発明の黒色インクによって形成された画像とカラーインクによって形成された画像との境界で、インクのにじみ(ブリーディング)を生じにくくすることができる。また、インク組成物に含まれるグリコールエーテル系水溶性有機溶剤の量を30重量%以下にすることによって、そのインク組成物を用いて記録媒体上に形成された画像がにじみにくくできること加え、インク組成物が分離せずに均一な状態を保つことができる。インク組成物が分離する場合は、用いたグリコール系水溶性有機溶剤を水に溶解してインク組成物を均一にするための溶解助剤を添加することが必要になり、溶解助剤の添加によってインク組成物の粘度が高くなるため、インクジェットヘッドではインク組成物の吐出が困難になる場合がある。なお、上記グリコールエーテル系水溶性有機溶剤は1種のみを用いること、及び2種以上を併用することができる。
【0036】
本発明のインク組成物には、さらに界面活性剤を添加することができる。本発明に用いる界面活性剤としてはノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤を本発明のインク組成物に添加すると、インク組成物が記録媒体に速やかに浸透かつ定着されやすくなり、しかもインクジェット方法により記録媒体上に吐出された一滴のインクによって形成される像の形状を真円に近いものにすることができるため、得られる画像の画質を高めることができる。
【0037】
本発明に用いるノニオン界面活性剤としては、例えばアセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。本発明のインク組成物に用いるアセチレングリコール系界面活性剤としては、特に以下の式(11):
【化17】
(式(11)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立して、C1〜C6の直鎖、環式又は分枝アルキル鎖を表し、さらにA1O及びA2Oはそれぞれ独立してC2〜C3のオキシアルキレン鎖、例えばオキシエチレンまたはオキシプロピレン、またはC2〜C3のアルキレンオキサイドが重合または共重合して得られるポリオキシアルキレン鎖、例えばポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、もしくはポリオキシエチレンプロピレン鎖を表す。また式中、n及びmはA1OまたはA2O単位、すなわちオキシアルキレンの繰り返し数を表し、0≦n<30、0≦m<30、及び0≦n+m<50を満たす数である。)
で表される化合物を用いることが好ましい。このアセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、サーフィノール465(商標)、サーフィノール104(商標)、オルフィンSTG(商標)、オルフィンE1010(商標)(以上商品名、日信化学工業株式会社製)を例示することができ、これらから選ばれる一種以上を本発明のインク組成物に添加することが好ましい。
【0038】
本発明においては、インク組成物中に界面活性剤が、好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.5〜2重量%含まれるように、インク組成物に界面活性剤を添加するのがよい。インク組成物に対して界面活性剤を0.1重量%以上含有させることによって、記録媒体に対するインク組成物の浸透性を高くすることができる。またインク組成物に対して界面活性剤を5重量%以下にすることにより、記録媒体上にインク組成物によって形成された画像がにじみにくいという効果が得られる。
【0039】
本発明の黒色水性インク組成物には、さらに所望により、保湿剤、粘度調整剤、pH調整剤、及び黒色水性インク組成物に用いることができる他の添加剤を添加することができる。具体的には、アルギン酸ナトリウム等の水溶性オリゴマー及び水溶性ポリマー、水溶性樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防かび剤、防錆剤などを本発明のインク組成物に添加することができる。当業者は本発明の効果を損なわない範囲で、選択された好ましい添加剤を好ましい量で用いることができる。
【0040】
本発明のインク組成物は、そのpHが20℃において7.0〜10.5であることが好ましく、7.5〜10.0であることがさらに好ましい。20℃におけるインク組成物のpHを7.0以上にすることによってインクジェットヘッドの共析メッキが剥離することを防止することができ、かつインクジェットヘッドからのインク組成物の吐出特性を安定化することができる。また、インク組成物のpHを20℃において10.5以下にすることによって、インク組成物が接触する各種の部材、たとえばインクカートリッジやインクジェットヘッドを構成する部材が劣化されることを防ぐことができる。
【0041】
本発明においては、インク組成物にpH調整剤を添加することによって、20℃におけるインク組成物のpHを好ましい値に調節することが好ましい。本発明において用いることができるpH調整剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリプロパノールアミンなどのアミン類を用いることが好ましい。インク組成物へのpH調整剤の添加量は、インク組成物のpHを上述の好ましい範囲に入れることができる量であり、その量はインク組成物ごとに適宜定めることができる。なお、本発明におけるインク組成物のpH値は、市販のpHメーターを用い、インク組成物にpH電極を直接挿入することによって測定された値である。
【0042】
本発明のインク組成物を調製するためには、たとえば、インク組成物に含有されるべき各成分を充分に混合して均一な溶液にした後、平均目開き0. 8μm のメンブランフィルターを用いて加圧濾過したのち、減圧下で脱泡する方法を用いることができる。
【0043】
本発明の黒色水性インク組成物は一般の筆記具用、記録計用、ペンプロッター用等に使用することができるが、インクジェット記録方法に用いることが特に好ましい。本発明の黒色インク組成物を用いることができるインクジェット記録方法は、インク組成物を細いノズルから液滴として吐出させ、その液適を記録媒体に付着させるいかなる記録方法も含む。本発明のインク組成物を用いることができるインクジェット記録方法の具体例を以下に説明する。
【0044】
第一の方法は静電吸引方式とよばれる方法である。静電吸引方式は、ノズルとノズルの前方に配置された加速電極との間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に噴射させ、そのインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えることによって、インク滴を記録媒体上に向けて飛ばしてインクを記録媒体上に定着させて画像を記録する方法、または、インク滴を偏向させずに、印刷情報信号に従ってインク滴をノズルから記録媒体上にむけて噴射させることにより画像を記録媒体上に定着させて記録する方法である。本発明のインク組成物はこの静電吸引方式による記録方法に用いることが好ましい。
【0045】
第二の方法は、小型ポンプによってインク液に圧力を加えるとともに、インクジェットノズルを水晶振動子等によって機械的に振動させることによって、強制的にノズルからインク滴を噴射させる方法である。ノズルから噴射されたインク滴は、噴射されると同時に帯電され、このインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えてインク滴を記録媒体に向かって飛ばすことにより、記録媒体上に画像を記録する方法である。本発明のインク組成物はこの記録方法に用いることが好ましい。
【0046】
第三の方法は、インク液に圧電素子によって圧力と印刷情報信号を同時に加え、ノズルからインク滴を記録媒体に向けて噴射させ、記録媒体上に画像を記録する方法である。本発明のインク組成物はこの記録方法に用いることが好ましい。
【0047】
第四の方法は、印刷信号情報に従って微小電極を用いてインク液を加熱して発泡させ、この泡を膨張させることによってインク液をノズルから記録媒体に向けて噴射させて記録媒体上に画像を記録する方法である。本発明のインク組成物はこの記録方法に用いることが好ましい。
【0048】
本発明の黒色水性インク組成物は、上述した4つの方法を含むインクジェット記録方式による画像記録方法を用いて記録媒体上に画像を記録する場合に用いるインク組成物として特に好ましい。本発明の黒色水性インク組成物を用いて記録された記録物は優れた画質を有し、さらに耐光性、耐オゾン性、耐アルバム保存性、及び耐湿性にも優れている。
【0049】
【実施例】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
〔黒色水性インク組成物の調製〕
以下の表1に示した組成に基づき、各成分を混合して均一な溶液とした後、得られた溶液を平均開口径0.8μmのメンブランフィルターを用いて加圧濾過してインク組成物を得た。また、表1中に示したインク組成物のpHは、pHメーター(横川電気社製MODEL PH82)を使用して20℃で測定した値である。なお表1中において、各成分の数値はインク組成物の質量を100%とした場合の各成分の重量%を示す。
【0051】
実施例1〜3及び比較例1〜2として用いたインク組成物の組成
【表1】
【0052】
なお、本実施例1〜3に用いた染料は、以下の式(3):
【化18】
で表される化合物のリチウム塩である。
【0053】
また比較例1または2においては以下の染料を用いた。
比較例1の染料:
【化19】
【0054】
比較例2の染料:
【化20】
【0055】
〔耐光性試験〕
インクジェットプリンタ Stylus Color 880(商標)(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて印刷試験を行った。このプリンタ用のブラックインク専用カートリッジに実施例1〜3及び比較例1〜2のインク組成物をそれぞれ充填し、PM写真用紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PSK)及びPMマット紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PM)に対してモノクロ画像の印刷を行って記録物を得た。印刷は、得られた画像のOD(Optical Density)が0.9〜1.1の範囲に入るようにDutyを調整して行った。得られた記録物を室温下で暗所に1日静置した後、記録された画像の耐光性の試験をおこなった。
【0056】
耐光性の試験は、蛍光灯耐光性試験機SFT−II(商品名、スガ試験機株式会社製)を使用し、温度が24℃、湿度が60RH%、照度70000luxの条件下で、上記記録物に21日間、光照射を行った。反射濃度計Spectrolino(商標)(商品名、GRETAG社製)を使用して、光照射前及び光照射後の記録物の画像のOD値を測定した。OD値の測定は、光源がD50、光源フィルタなし、絶対白を白色標準とし、視野角は2°で行った。下記計算式(1):
ROD(%)=(Dn/Do)×100(式中、Dnは光照射試験終了後の画像のOD値、Doは光照射試験開始前の画像のOD値)(計算式1)
を用いて、得られた測定値(OD値)から、光照射後の各記録物の画像の光学濃度残存率(Relict Optical Density:ROD)を計算によって求めた。
【0057】
得られたRODに基づき、以下の判定基準を用いて試験結果をA〜Dにランク付けすることによって記録物の耐光性を評価した。
A:RODが80%以上
B:RODが60%以上80%未満
C:RODが40%以上60%未満
D:RODが40%未満
RODの値が高いほうが光照射による画像の劣化が少なく好ましい。得られた結果を表2に示す。
【0058】
〔耐オゾン試験〕
インクジェットプリンタ Stylus Color 880(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて印刷試験を行った。このプリンタ用のブラックインク専用カートリッジに実施例1〜3及び比較例1〜2のインク組成物をそれぞれ充填し、PM写真用紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PSK)及びPMマット紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PM)に対して画像の印刷を行って記録物を得た。印刷は、得られた画像のOD(Optical Density)が0.9〜1.1の範囲に入るようにDutyを調整して行った。得られた記録物を室温下で暗所に1日静置した後、記録された画像の耐オゾン性の試験をおこなった。
【0059】
オゾンウェザーメーターOMS−H型(商品名、スガ試験機株式会社製)を使用し、温度が24℃、湿度が60%RH、及びオゾン濃度が10ppmの条件下で、上記記録物を24時間オゾンに曝露した。反射濃度計Spectrolino(商標)(商品名、GRETAG社製)を使用して、オゾン曝露前後の記録物のOD値(Optical Density)を測定した。その測定は、光源がD50、光源フィルタなしで、絶対白を白色標準とし、視野角は2°という条件で行った。上記耐光性試験における計算方法と同じ計算方法、及び上記耐光性試験における判定基準と同じ判定基準を用いて、得られた結果をA〜Dのランク付けすることによって記録物の耐オゾン性を評価した。得られた評価結果を表2に示した。RODの値が高いほうがオゾン曝露による画像の劣化が少ない。
【0060】
〔アルバム保存性試験〕
インクジェットプリンタ Stylus Color 880(商標)(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて印刷試験を行った。このプリンタ用のブラックインク専用カートリッジに実施例1〜3及び比較例1〜2のインク組成物をそれぞれ充填し、PM写真用紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PSK)及び専用光沢フィルム(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:MJA4SP6)に画像の印刷を行って記録物を得た。画像の印刷は、黒色以外の色で形成されるベタパターンの上に黒色の文字が配置された画像を記録媒体上に印刷させることによって行った。得られた記録物を印刷後1分以内にシルバー台紙コクヨアルバム(商品名、コクヨ株式会社製、型番:ア−LS002)に貼り付け、さらに温度60℃の条件下で恒温槽中に30日間静置して保存性試験を行った。保存性試験の前及び後における記録物の黒色文字の滲み具合を、以下の判断基準を用いて目視により評価した。
判定基準
A:黒色文字はシャープで、周囲への滲み出しがない。
B:黒色文字は滲み出しを生じているが、文字は認識可能である。
C:黒色文字は滲み出しを生じており、文字を認識することができない。
得られた結果を表2に示した。Aが最も優れる。
【0061】
〔耐湿性試験〕
インクジェットプリンタ Stylus Color 880(商標)(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて印刷試験を行った。このプリンタ用のブラックインク専用カートリッジに実施例1〜3及び比較例1〜2のインク組成物をそれぞれ充填し、PM写真用紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PSK)及び専用光沢フィルム(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:MJA4SP6)に対して画像の印刷を行って記録物を得た。画像の印刷は、黒色で形成されるベタパターンの中に白色の文字(以下、白抜き文字という。)が配置された画像を記録媒体上に印刷させることによって行った。得られた記録物を室温下で暗所に1日静置した後、記録物の耐湿性の試験を以下に示す方法を用いておこなった。
【0062】
得られた記録物を温度40℃、湿度85%RHの条件下、恒温恒湿槽PL−3GM(商品名、タバイエスペック株式会社製)中に7日間静置した。その後、記録物を取り出し、記録物上の白抜き文字の滲みの程度を以下の判定基準を用いて評価した。
判定基準
A:白抜き文字の輪郭はシャープで滲みがない。
B:白抜き文字の輪郭は滲んでいるが、文字は認識可能である。
C:白抜き文字の輪郭が滲んで、文字の認識ができない。
得られた結果を表2に示した。Aが最も優れる。
【0063】
実施例1〜3及び比較例1〜2のインク組成物を用いて作成した画像の耐光性試験等の結果
【表2】
【0064】
表2に示した結果から、本発明の黒色水性インク組成物を用いてインクジェット記録方法によって記録された記録物の画像は、耐光性、耐オゾン性、耐アルバム性、及び耐湿性に優れることがわかる。
【0065】
【発明の効果】
本発明の黒色水性インク組成物を用い、インクジェット記録方法によって記録媒体上に画像が記録された記録物は、光及びオゾンに晒されてもその黒色があせにくく、さらに高湿度条件下においても黒色画像の滲みが少ない。また、本発明の記録物は、市販のアルバムに貼り付けた状態においてもその黒色画像の滲みがない。
Claims (8)
- 1種以上の黒色染料を含む黒色インク組成物であって、前記黒色染料が以下の式(1):
で表される化合物及び前記式(1)で表される化合物の塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする黒色水性インク組成物。 - 前記黒色水性インク組成物中に前記黒色染料が0.5〜12重量%含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の黒色水性インク組成物。
- 前記黒色水性インク組成物が、グリコールエーテル系水溶性有機溶剤を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の黒色水性インク組成物。
- 前記黒色水性インク組成物が、アセチレングリコール系界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の黒色水性インク組成物。
- 20℃における前記黒色インク組成物のpHが7.0〜10.5であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の黒色水性インク組成物。
- 請求項1〜6のいずれか一項に記載の黒色水性インク組成物を細いノズルより液滴として吐出させ、前記液滴を記録媒体に付着させることを特徴とするインクジェット記録方法。
- 請求項7に記載のインクジェット記録方法によって印刷されたことを特徴とする記録物。
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WO2012127758A1 (ja) | 2011-03-18 | 2012-09-27 | 富士フイルム株式会社 | インク組成物、インクジェット記録用インク及びインクジェット記録方法 |
-
2003
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