JP2005001298A - 印刷版材料 - Google Patents
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Abstract
【課題】基材上への親水性表面形成を安価な塗布により行うことができ、かつ、印刷版としての性能(水量ラチチュード、非画像部の汚れにくさ、ブランケット汚れのしにくさ等)がアルミ砂目と同等以上であり、かつ、十分な耐刷性を有する印刷版材料を提供する。
【解決手段】基材上にキトサン微粒子を含有する層を有することを特徴とする印刷版材料。
【選択図】 なし
【解決手段】基材上にキトサン微粒子を含有する層を有することを特徴とする印刷版材料。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷版材料に関し、詳しくは、アルミニウム板の表面を砂目立てした親水性表面を有する従来の印刷版材料に代わる、塗設によって形成し得る親水性層を基体上に設けた印刷版材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、平版印刷版用PS版のアルミニウム基材親水性表面、いわゆるアルミ砂目は、保水性及び耐刷性を付与するために粗面加工され、さらに親水性及び耐摩耗性を付与するために陽極酸化による酸化物皮膜層形成処理が行われてきた。
【0003】
粗面加工の方法としては、一般的には化学的(アルカリ・酸溶解等)、機械的(研磨剤を用いたブラシ研磨、サンドブラスト、液体ホーニング、粗さ転写ロールでの圧延等)、電気化学的(酸性溶液中での交流又は直流の電解処理)な粗面化が知られており、支持体表面の加工にはこれらの方法のいくつかを適宜組み合わせて、波長の異なる粗さを複数重畳させた多重的な表面粗さ構造の形成が行われている。
【0004】
特に保水性を良好にする0.1〜数μm径のピットを形成するには電気化学的粗面化が必須であるが、均一な粗面を安定して形成するためには電解液温度等を厳密にコントロールする必要があり、また、使用可能なアルミ原反の組成範囲も狭く、組織の均一性も良好であることを必要とする等、制約が多い。また、陽極酸化には、一般に20〜40%の高濃度の硫酸水溶液が使用され、安全性の問題や、廃液処理等の環境面の問題も有している。
【0005】
一方、電気化学的粗面化や陽極酸化を必ずしも必要としない印刷版材料用の親水性表面を有する支持体として、基材上に無機粒子を分散させたシリケート水溶液を塗布して親水性層を形成することを特徴とする支持体の製造方法が提案されているが(例えば、特許文献1参照。)、この方法ではコスト低減を達成することは可能であるが、表面に多重的な粗さ構造を付与することができず印刷時の水量ラチチュードが不十分であり、また、結合剤は単なる水ガラスであるため柔軟性に欠け、クラックが入りやすく剥離しやすい欠点があり、耐刷性も満足のいくものではない。
【0006】
また、支持体上に設けられた親水性を有する画像受像層が空隙率30〜80%を有する三次元網目構造を有し、該層の構造が平均一次粒子径が100nm以下の無機微粒子と水溶性樹脂から形成されていることを特徴とするオフセット印刷版用基板が提案されているが(例えば、特許文献2参照。)、やはり、表面に多重的な粗さ構造を付与することができず、現行のPS版のアルミ砂目に比較して、印刷時の非画像部汚れや水量ラチチュード及び耐刷性ともに大きく劣った性能しか得ることができていない。
【0007】
親水性表面に多重的な粗さ構造を付与する方法のひとつとして、コア粒子表面に小粒子を固着させてなる表面に凹凸を有する粒子を含有させた親水性層を有する印刷版材料が開示されて(例えば、特許文献3参照。)いる。これは、コア粒子としては、0.2〜2μmの無機または有機粒子を用い、子粒子としては0.01〜0.02μmのシリカ、アルミナ、チタニア等の無機粒子を用いているものである。この方法によれば、部分的に例えば数μm波長の粗さに0.01μm波長の粗さが重畳した多重粗さ構造を形成することができるが、このようにして形成した多重粗さ構造は凸構造にさらに凸構造を重畳させたものであり、PS版のアルミ砂目の凹構造にさらに凹構造を重畳させた多重粗さ構造とは根本的に異なるため、印刷性能はアルミ砂目よりも劣ったものとなる。
【0008】
また、表面に凹凸を有する粒子のコア粒子として多孔質なアルミナ粒子を用いたもの(例えば、特許文献4参照。)、コア粒子として針状の酸化チタン粒子を用いたものが(例えば、特許文献5参照。)挙げられているが、根本的に凹凸構造が変わるものではなく、やはり、印刷性能はアルミ砂目よりも劣ったものとなる。
【0009】
このように、塗布で形成する親水性層に無機粒子を用いて粗さを付与する方法では、たとえ多重な粗さ構造を形成したとしても、アルミ砂目に匹敵するような満足のいく印刷性能は得られていなかった。
【0010】
【特許文献1】
国際公開第97/1987号パンフレット (特許請求の範囲)
【0011】
【特許文献2】
特開平9−99662号公報 (特許請求の範囲)
【0012】
【特許文献3】
特開2002−362047号公報 (特許請求の範囲)
【0013】
【特許文献4】
特開2003−19870号公報 (特許請求の範囲)
【0014】
【特許文献5】
特開2003−19871号公報 (特許請求の範囲)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、基材上への親水性表面形成を安価な塗布により行うことができ、かつ、印刷版としての性能(水量ラチチュード、非画像部の汚れにくさ、ブランケット汚れのしにくさ等)がアルミ砂目と同等以上であり、かつ、十分な耐刷性を有する印刷版材料を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成された。
【0017】
1.基材上にキトサン微粒子を含有する層を有することを特徴とする印刷版材料。
【0018】
2.キトサン微粒子を含有する層が印刷時に非画像部となる親水性層であることを特徴とする前記1記載の印刷版材料。
【0019】
3.キトサン微粒子の粒径が0.1μm以上、10μm以下であることを特徴とする前記1又は2記載の印刷版材料。
【0020】
本発明を更に詳しく説明する。本発明は、基材上にキトサン微粒子を含有する層を有する印刷版材料である。
【0021】
キトサンは、主にカニ等の甲殻類の外皮に含まれるキチンを脱アセチル化して得られるD−グルコサミンを基本骨格とする塩基性多糖類である。
【0022】
キトサンの微粒子化は、キトサンを酸性水溶液に溶解させた後に後述するような方法で凝固させることにより行われる。このような方法で得られるキトサン微粒子は、概略は球状ではあるが実質的に不定形であり、かつ多孔質であるため、その外形はミクロ的に複雑な凹凸形状を有していると言える。
【0023】
キトサンは骨格中に極性基を有するため親水性を有しており、キトサン微粒子は、上記のような多孔質性との相乗効果で非常に親水性の高い微粒子である。また、反応性に富むアミノ基を有しており、アミノ基を層中のその他の素材が有する官能基と結合させることで、層の塗膜中にキトサン微粒子を強固に固定することが可能になる。
【0024】
さらに、キトサン微粒子は一般的な無機微粒子よりも比重が低いために、塗布液に添加した場合に塗布液中での沈降の懸念が少ないという利点があり、また、塗布液の増粘効果もあるため、塗布性改善にも寄与するという利点もある。
【0025】
このような特徴から、基材上に塗布層を有する印刷版材料において、粗さ付与や、塗膜強度改善、塗布性改善等の目的で特に限定することなくいずれの層へもキトサン微粒子を添加することができる。
【0026】
塗布層中のキトサン微粒子の含有量としては、特に制限はないが、0.1〜70質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましい。
【0027】
本発明の印刷版材料においては、上記のようなキトサン微粒子の高親水性である点、および複雑な凹凸形状を有している点を有効に活用するため、キトサン微粒子を含有する層が印刷時に非画像部となる親水性層であることがもっとも好ましい態様である。
【0028】
キトサン微粒子を含有させることで、無機微粒子では得られなかった表面の親水性および複雑な多重粗さ構造を親水性層に付与することが可能となり、アルミ砂目同等以上の印刷性能を得ることができる。
【0029】
親水性層中のキトサン微粒子の含有量としては、特に制限はないが、0.1〜70質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましい。親水性層を構成するその他の素材としては、特に制限されないが、後述する親水性層に用いられる素材を用いることが好ましい。
【0030】
本発明に用いるキトサン微粒子の粒径は0.1μm以上、10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上、7μm未満であることがより好ましい。
【0031】
0.1μm未満では、粒子として用いる効果、例えば粗さ付与といった効果が発揮できない懸念がある。また、10μmより大きい場合には、印刷版として用いる際の解像度や細線再現性が劣化する懸念がある。
【0032】
本発明に用いるキトサンの脱アセチル化度は特に制限されないが、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0033】
また、キトサンの分子量も特に制限されない。官能基の一部が化学修飾された誘導体を用いることもできる。
【0034】
キトサンを微粒子化する具体的な方法としては、特開昭61−40337号に開示されているような、キトサンを溶解した酸性水溶液を塩基性溶液中に滴下して凝固させる方法や、特開昭62−210101号に開示されているような、キトサンを溶解した酸性水溶液をスプレー噴霧で乾燥させて粒子化した後に塩基性溶液で中和する方法、特開平7−330807号や特開平9−143203号に開示されているような、キトサンを加熱した硫酸水溶液で溶解させた後に水溶液を冷却して、キトサン微粒子を析出させる方法等を挙げることができる。
【0035】
また、特開平7−188303号に開示されている、キトサンを溶解させた酸性水溶液のW/Oエマルションをアミンとアルコールとの混合溶液中に注入して、キトサン微粒子を凝固析出させる方法も好ましく用いることができる。この方法によると、複雑な凹凸形状を有した非球状で形の揃ったキトサン微粒子を得ることができる。特にこの方法によって得られる、粒子の表面が多方向から収縮して多数の凹部が形成されたゴルフボール状のキトサン微粒子は本発明に好ましく使用することができる。
【0036】
上記の方法では、キトサン微粒子は最終的に洗浄、乾燥して粉体として得られるが、塗布液に添加する際には微粒子の凝集体を一次粒子にまでほぐすために分散加工を行うことが好ましい。分散方法としては特に制限はなく、キトサン微粒子を水やその他の溶媒に添加し、公知のホモジナイザ分散やサンドグラインダ分散等で適宜分散すればよい。このようにして作製したキトサン分散液を分散液の状態で保管する必要がある場合には、公知の防腐剤を添加することが好ましい。
【0037】
本発明に用いられる印刷版材料としては、画像形成方式は特定されるものではない。公知の電子写真方式による画像形成、インクジェット方式による画像形成、溶融熱転写方式による画像形成、赤外線レーザーアブレーション方式による画像形成、赤外線レーザー熱溶融・熱融着方式による画像形成等の、種々の方式の印刷版材料に適用することができる。
【0038】
特に好ましい態様としては、基材上に後述する親水性層を設け、さらにその上に疎水化前駆体粒子を含有する画像形成層を設けた、赤外線レーザー熱溶融・熱融着方式の印刷版材料が挙げられる。
【0039】
[基材]
基材としては、印刷版の基板として使用される公知の材料を使用することができる。例えば、金属板、プラスチックフィルム、ポリオレフィン等で処理された紙、上記材料を適宜貼り合わせた複合基材等が挙げられる。基材の厚さとしては、印刷機に取り付け可能であれば特に制限されるものではないが、50〜500μmのものが一般的に取り扱いやすい。
【0040】
金属板としては、鉄、ステンレス、アルミニウム等が挙げられるが、比重と剛性との関係から特にアルミニウムが好ましい。アルミニウム板は、通常その表面に存在する圧延・巻取り時に使用されたオイルを除去するためにアルカリ、酸、溶剤等で脱脂した後に使用される。脱脂処理としては特にアルカリ水溶液による脱脂が好ましい。また、塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。例えば、ケイ酸塩やシランカップリング剤等のカップリング剤を含有する液に浸漬するか、液を塗布した後、十分な乾燥を行う方法が挙げられる。陽極酸化処理も易接着処理の一種と考えられ、使用することができる。また、陽極酸化処理と上記浸漬または塗布処理を組み合わせて使用することもできる。また、公知の方法で粗面化されたアルミニウム基材、いわゆるアルミ砂目を、親水性表面を有する基材として使用することもできる。
【0041】
プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、セルロースエステル類等を挙げることができる。
【0042】
本発明に用いる基材としては、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。これらプラスチックフィルムは塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。易接着処理としては、コロナ放電処理や火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。また、下塗り層としては、ゼラチンやラテックスを含む層等が挙げられる。下塗り層に、有機または無機の公知の導電性素材を含有させることもできる。
【0043】
また、裏面のすべり性を制御する(例えば版胴表面との摩擦係数を低減させる)目的で、裏面コート層を設けた基材も好ましく使用することができる。裏面コート層のマット剤としても、本発明に用いられるキトサン微粒子を用いることができる。
【0044】
[親水性層]
本発明に用いられるの印刷版材料の態様のひとつとして、基材上に親水性層を有する態様が挙げられる。親水性層は一層であっても良いし、複数の層から形成されていても良い。
【0045】
親水性層に用いられる素材としては、金属酸化物が好ましい。金属酸化物としては、金属酸化物微粒子を含むことが好ましい。例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物のゾルが挙げられる。該金属酸化物微粒子の形態としては、球状、針状、羽毛状、その他の何れの形態でも良い。平均粒径としては、3〜100nmであることが好ましく、平均粒径が異なる数種の金属酸化物微粒子を併用することもできる。又、粒子表面に表面処理がなされていても良い。
【0046】
上記金属酸化物微粒子はその造膜性を利用して結合剤としての使用が可能である。有機の結合剤を用いるよりも親水性の低下が少なく、親水性層への使用に適している。
【0047】
本発明には、上記の中でも特にコロイダルシリカが好ましく使用できる。コロイダルシリカは比較的低温の乾燥条件であっても造膜性が高いという利点があり、炭素原子を含まない素材が91質量%以上というような層においても良好な強度を得ることができる。
【0048】
上記コロイダルシリカとしては、後述するネックレス状コロイダルシリカ、平均粒径20nm以下の微粒子コロイダルシリカを含むことが好ましく、さらに、コロイダルシリカはコロイド溶液としてアルカリ性を呈することが好ましい。
【0049】
本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは1次粒子径がnmのオーダーである球状シリカの水分散系の総称である。本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは1次粒粒子径が10〜50nmの球状コロイダルシリカが50〜400nmの長さに結合した「パールネックレス状」のコロイダルシリカを意味する。パールネックレス状(即ち真珠ネックレス状)とは、コロイダルシリカのシリカ粒子が連なって結合した状態のイメージが真珠ネックレスの様な形状をしていることを意味している。ネックレス状コロイダルシリカを構成するシリカ粒子同士の結合は、シリカ粒子表面に存在する−SiOH基が脱水結合した−Si−O−Si−と推定される。ネックレス状のコロイダルシリカとしては、具体的には日産化学工業(株)製の「スノーテックス−PS」シリーズなどが挙げられる。
【0050】
製品名としては「スノーテックス−PS−S(連結した状態の平均粒子径は110nm程度)」、「スノーテックス−PS−M(連結した状態の平均粒子径は120nm程度)」及び「スノーテックス−PS−L(連結した状態の平均粒子径は170nm程度)」があり、これらにそれぞれ対応する酸性の製品が「スノーテックス−PS−S−O」、「スノーテックス−PS−M−O」及び「スノーテックス−PS−L−O」である。
【0051】
ネックレス状コロイダルシリカを添加することにより、層の多孔性を確保しつつ、強度を維持することが可能となり、層の多孔質化材として好ましく使用できる。
【0052】
これらの中でも、アルカリ性である「スノーテックスPS−S」、「スノーテックスPS−M」、「スノーテックスPS−L」を用いると、親水性層の強度が向上し、また、印刷枚数が多い場合でも地汚れの発生が抑制され、特に好ましい。
【0053】
また、コロイダルシリカは粒子径が小さいほど結合力が強くなることが知られており、本発明には平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカを用いることが好ましく、3〜15nmであることが更に好ましい。又、前述のようにコロイダルシリカの中ではアルカリ性のものが地汚れ発生を抑制する効果が高いため、アルカリ性のコロイダルシリカを使用することが特に好ましい。
【0054】
平均粒径がこの範囲にあるアルカリ性のコロイダルシリカとしては日産化学社製の「スノーテックス−20(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−30(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−40(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−N(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−S(粒子径8〜11nm)」、「スノーテックス−XS(粒子径4〜6nm)」が挙げられる。
【0055】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカは前述のネックレス状コロイダルシリカと併用することで、層の多孔質性を維持しながら、強度をさらに向上させることが可能となり、特に好ましい。
【0056】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカ/ネックレス状コロイダルシリカの比率は95/5〜5/95が好ましく、70/30〜20/80がより好ましく、60/40〜30/70が更に好ましい。
【0057】
本発明の印刷版材料の親水性層は金属酸化物として多孔質金属酸化物粒子を含むことが好ましい。多孔質金属酸化物粒子としては、後述する多孔質シリカ又は多孔質アルミノシリケート粒子もしくはゼオライト粒子を好ましく用いることができる。
【0058】
多孔質シリカ粒子は一般に湿式法又は乾式法により製造される。湿式法ではケイ酸塩水溶液を中和して得られるゲルを乾燥、粉砕するか、中和して析出した沈降物を粉砕することで得ることができる。乾式法では四塩化珪素を水素と酸素と共に燃焼し、シリカを析出することで得られる。これらの粒子は製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0059】
多孔質シリカ粒子としては、湿式法のゲルから得られるものが特に好ましい。多孔質アルミノシリケート粒子は例えば特開平10−71764号に記載されている方法により製造される。即ち、アルミニウムアルコキシドと珪素アルコキシドを主成分として加水分解法により合成された非晶質な複合体粒子である。粒子中のアルミナとシリカの比率は1:4〜4:1の範囲で合成することが可能である。又、製造時にその他の金属のアルコキシドを添加して3成分以上の複合体粒子として製造したものも本発明に使用できる。これらの複合体粒子も製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0060】
粒子の多孔性としては、分散前の状態で細孔容積で1.0ml/g以上であることが好ましく、1.2ml/g以上であることがより好ましく、1.8〜2.5ml/g以下であることが更に好ましい。
【0061】
細孔容積は塗膜の保水性と密接に関連しており、細孔容積が大きいほど保水性が良好となって印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなるが、2.5ml/gよりも大きくなると粒子自体が非常に脆くなるため塗膜の耐久性が低下する。細孔容積が1.0ml/g未満の場合には、印刷時の汚れにくさ、水量ラチチュードの広さが不充分となる。
【0062】
粒径としては、親水性層に含有されている状態で(例えば分散時に破砕された場合も含めて)、実質的に1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることが更に好ましい。不必要に粗大な粒子が存在すると親水性層表面に多孔質で急峻な突起が形成され、突起周囲にインクが残りやすくなって非画線部汚れやブランケット汚れが劣化する場合がある。
【0063】
ゼオライトは結晶性のアルミノケイ酸塩であり、細孔径が0.3〜1nmの規則正しい三次元網目構造の空隙を有する多孔質体である。天然及び合成ゼオライトを合わせた一般式は、次のように表される。
【0064】
(M1、M2 1/2)m(AlmSinO2(m+n))・xH2O
ここで、M1、M1は交換性のカチオンであって、M1はLi+、Na+、K+、Tl+、Me4N+(TMA)、Et4N+(TEA)、Pr4N+(TPA)等であり、M1はCa2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+等である。又、n≧mであり、m/nの値つまりはAl/Si比率は1以下となる。Al/Si比率が高いほど交換性カチオンの量が多く含まれるため極性が高く、従って親水性も高い。好ましいAl/Si比率は0.4〜1.0であり、更に好ましくは0.8〜1.0である。xは整数を表す。
【0065】
本発明で使用するゼオライト粒子としては、Al/Si比率が安定しており、又粒径分布も比較的シャープである合成ゼオライトが好ましく、例えばゼオライトA:Na12(Al12Si12O48)・27H2O;Al/Si比率1.0、ゼオライトX:Na86(Al86Si106O384)・264H2O;Al/Si比率0.811、ゼオライトY:Na56(Al56Si136O384)・250H2O;Al/Si比率0.412等が挙げられる。
【0066】
Al/Si比率が0.4〜1.0である親水性の高い多孔質粒子を含有することで親水性層自体の親水性も大きく向上し、印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなる。又、指紋跡の汚れも大きく改善される。Al/Si比率が0.4未満では親水性が不充分であり、上記性能の改善効果が小さくなる。
【0067】
また、本発明の印刷版材料の親水性層マトリクスは層状粘土鉱物粒子を含有することができる。該層状鉱物粒子としては、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サボナイト等)、バーミキュライト、マイカ(雲母)、クロライトといった粘土鉱物及び、ハイドロタルサイト、層状ポリケイ酸塩(カネマイト、マカタイト、アイアライト、マガディアイト、ケニヤアイト等)等が挙げられる。中でも、単位層(ユニットレイヤー)の電荷密度が高いほど極性が高く、親水性も高いと考えられる。好ましい電荷密度としては0.25以上、更に好ましくは0.6以上である。このような電荷密度を有する層状鉱物としては、スメクタイト(電荷密度0.25〜0.6;陰電荷)、バーミキュライト(電荷密度0.6〜0.9;陰電荷)等が挙げられる。特に、合成フッ素雲母は粒径等安定した品質のものを入手することができ好ましい。又、合成フッ素雲母の中でも、膨潤性であるものが好ましく、自由膨潤であるものが更に好ましい。
【0068】
又、上記の層状鉱物のインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、イオン交換処理を施したもの、表面処理(シランカップリング処理、有機バインダとの複合化処理等)を施したものも使用することができる。
【0069】
平板状層状鉱物粒子のサイズとしては、層中に含有されている状態で(膨潤工程、分散剥離工程を経た場合も含めて)、平均粒径(粒子の最大長)が20μm以下であり、又平均アスペクト比(粒子の最大長/粒子の厚さ)が20以上の薄層状であることが好ましく、平均粒径が5μm以下であり、平均アスペクト比が50以上であることが更に好ましく、平均粒径が1μm以下であり、平均アスペクト比が50以上であることが更に好ましい。粒子サイズが上記範囲にある場合、薄層状粒子の特徴である平面方向の連続性及び柔軟性が塗膜に付与され、クラックが入りにくく乾燥状態で強靭な塗膜とすることができる。また、粒子物を多く含有する塗布液においては、層状粘土鉱物の増粘効果によって、粒子物の沈降を抑制することができる。粒子径が上記範囲をはずれると、引っかきによるキズ抑制効果が低下する場合がある。又、アスペクト比が上記範囲以下である場合、柔軟性が不充分となり、同様に引っかきによるキズ抑制効果が低下する場合がある。
【0070】
層状鉱物粒子の含有量としては、層全体の0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。特に膨潤性合成フッ素雲母やスメクタイトは少量の添加でも効果が見られるため好ましい。層状鉱物粒子は、塗布液に粉体で添加してもよいが、簡便な調液方法(メディア分散等の分散工程を必要としない)でも良好な分散度を得るために、層状鉱物粒子を単独で水に膨潤させたゲルを作製した後、塗布液に添加することが好ましい。
【0071】
本発明に係る親水性層の親水性層マトリクスにはその他の添加素材として、ケイ酸塩水溶液も使用することができる。ケイ酸Na、ケイ酸K、ケイ酸Liといったアルカリ金属ケイ酸塩が好ましく、そのSiO2/M2O比率はケイ酸塩を添加した際の塗布液全体のpHが13を超えない範囲となるように選択することが無機粒子の溶解を防止する上で好ましい。
【0072】
また、金属アルコキシドを用いた、いわゆるゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーも使用することができる。ゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーの形成については、例えば「ゾル−ゲル法の応用」(作花済夫著/アグネ承風社発行)に記載されているか、又は本書に引用されている文献に記載されている公知の方法を使用することができる。
【0073】
本発明は、親水性層中には親水性有機樹脂を含有させてもよい。親水性有機樹脂としては、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられる。
【0074】
又、カチオン性樹脂を含有しても良く、カチオン性樹脂としては、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン等のようなポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。カチオン性樹脂は微粒子状の形態で添加しても良い。これは、例えば特開平6−161101号に記載のカチオン性マイクロゲルが挙げられる。
【0075】
本発明のより好ましい態様としては、親水性層中に含有される親水性有機樹脂は水溶性であり、かつ、少なくともその一部が水溶性の状態のまま、水に溶出可能な状態で存在することが挙げられる。水溶性の素材であっても、架橋剤等によって架橋し、水に不溶の状態になると、その親水性は低下して印刷性能を劣化させる懸念がある。
【0076】
本発明の親水性層に含有される炭素原子を含む水溶性素材としては、糖類が好ましい。親水性層に糖類を含有させることにより、後述する画像形成能を有する機能層との組み合わせにおいて、画像形成の解像度を向上させたり、耐刷性を向上させたりする効果が得られる。
【0077】
糖類としては、後に詳細に説明するオリゴ糖を用いることもできるが、特に多糖類を用いることが好ましい。
【0078】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。
【0079】
これは、親水性層に多糖類を含有させることにより、親水性層の表面形状を好ましい状態形成する効果が得られるためである。
【0080】
親水性層の表面は、PS版のアルミ砂目のように0.1〜50μmピッチの凹凸構造を有することが好ましく、この凹凸により保水性や画像部の保持性が向上する。
【0081】
このような凹凸構造は、親水性層に適切な粒径のフィラーを適切な量含有させて形成することも可能であるが、親水性層の塗布液に前述のアルカリ性コロイダルシリカと前述の水溶性多糖類とを含有させ、親水性層を塗布、乾燥させる際に相分離を生じさせて形成することがより良好な印刷性能を有する構造を得ることができ、好ましい。
【0082】
凹凸構造の形態(ピッチ及び表面粗さなど)はアルカリ性コロイダルシリカの種類及び添加量、水溶性多糖類の種類及び添加量、その他添加材の種類及び添加量、塗布液の固形分濃度、ウエット膜厚、乾燥条件等で適宜コントロールすることが可能である。
【0083】
凹凸構造のピッチとしては0.2〜30μmであることがより好ましく、0.5〜20μmであることが更に好ましい。又、ピッチの大きな凹凸構造の上に、それよりもピッチの小さい凹凸構造が形成されているような多重構造の凹凸構造が形成されていてもよい。
【0084】
表面粗さとしては、Raで100〜1000nmが好ましく、150〜600nmがより好ましい。
【0085】
また、親水性層の膜厚としては、0.01〜50μmであり、好ましくは0.2〜10μmであり、更に好ましくは0.5〜3μmである。
【0086】
また、本発明の親水性層(の塗布液)には、塗布性改善等の目的で水溶性の界面活性剤を含有させることができる。Si系、又はF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0087】
また、本発明の親水性層はリン酸塩を含むことができる。本発明では親水性層の塗布液がアルカリ性であることが好ましいため、リン酸塩としてはリン酸三ナトリウムやリン酸水素二ナトリウムとして添加することが好ましい。リン酸塩を添加することで、印刷時の網の目開きを改善する効果が得られる。リン酸塩の添加量としては、水和物を除いた有効量として、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%が更に好ましい。
【0088】
[光熱変換素材]
本発明において、赤外線レーザーを用いた画像形成を行う場合には光熱変換素材を含有していることが好ましい。好ましい光熱変換素材としては下記のような素材を挙げることができる。
【0089】
一般的な赤外吸収色素であるシアニン系色素、クロコニウム系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの有機化合物、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系、ジチオール系、インドアニリン系の有機金属錯体などが挙げられる。具体的には、特開昭63−139191号、特開昭64−33547号、特開平1−160683号、特開平1−280750号、特開平1−293342号、特開平2−2074号、特開平3−26593号、特開平3−30991号、特開平3−34891号、特開平3−36093号、特開平3−36094号、特開平3−36095号、特開平3−42281号、特開平3−97589号、特開平3−103476号等に記載の化合物が挙げられる。これらは一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
また、特開平11−240270号、特開平11−265062号、特開2000−309174号、特開2002−49147号、特開2001−162965号、特開2002−144750号、特開2001−219667号に記載の化合物も好ましく用いることができる。
【0091】
顔料としては、カーボン、グラファイト、金属、金属酸化物等が挙げられる。カーボンとしては特にファーネスブラックやアセチレンブラックの使用が好ましい。粒度(d50)は100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。
【0092】
グラファイトとしては粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子を使用することができる。
【0093】
金属としては粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子であれば何れの金属であっても使用することができる。形状としては球状、片状、針状等何れの形状でも良い。特にコロイド状金属微粒子(Ag、Au等)が好ましい。
【0094】
金属酸化物としては、可視光域で黒色を呈している素材、または素材自体が導電性を有するか、半導体であるような素材を使用することができる。
【0095】
前者としては、黒色酸化鉄や二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物が挙げられる。
【0096】
後者とては、例えばSbをドープしたSnO2(ATO)、Snを添加したIn2O3(ITO)、TiO2、TiO2を還元したTiO(酸化窒化チタン、一般的にはチタンブラック)などが挙げられる。又、これらの金属酸化物で芯材(BaSO4、TiO2、9Al2O3・2B2O、K2O・nTiO2等)を被覆したものも使用することができる。これらの粒径は、0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。
【0097】
これらの光熱変換素材のうち黒色酸化鉄や二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物がより好ましい素材として挙げられる。
【0098】
黒色酸化鉄(Fe3O4)としては、平均粒子径0.01〜1μmであり、針状比(長軸径/短軸径)が1〜1.5の範囲の粒子であることが好ましく、実質的に球状(針状比1)であるか、もしくは、八面体形状(針状比約1.4)を有していることが好ましい。
【0099】
このような黒色酸化鉄粒子としては、例えば、チタン工業社製のTAROXシリーズが挙げられる。球状粒子としては、BL−100(粒径0.2〜0.6μm)、BL−500(粒径0.3〜1.0μm)等を好ましく用いることができる。また、八面体形状粒子としては、ABL−203(粒径0.4〜0.5μm)、ABL−204(粒径0.3〜0.4μm)、ABL−205(粒径0.2〜0.3μm)、ABL−207(粒径0.2μm)等を好ましく用いることができる。
【0100】
さらに、これらの粒子表面をSiO2等の無機物でコーティングした粒子も好ましく用いることができ、そのような粒子としては、SiO2でコーティングされた球状粒子:BL−200(粒径0.2〜0.3μm)、八面体形状粒子:ABL−207A(粒径0.2μm)が挙げられる。
【0101】
黒色複合金属酸化物としては、具体的には、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Baから選ばれる二種以上の金属からなる複合金属酸化物である。これらは、特開平8−27393号公報、特開平9−25126号公報、特開平9−237570号公報、特開平9−241529号公報、特開平10−231441号公報等に開示されている方法により製造することができる。
【0102】
本発明に用いる複合金属酸化物としては、特にCu−Cr−Mn系またはCu−Fe−Mn系の複合金属酸化物であることが好ましい。Cu−Cr−Mn系の場合には、6価クロムの溶出を低減させるために、特開平8−27393号公報に開示されている処理を施すことが好ましい。これらの複合金属酸化物は添加量に対する着色、つまり、光熱変換効率が良好である。
【0103】
これらの複合金属酸化物は平均1次粒子径が1μm以下であることが好ましく、平均1次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲にあることがより好ましい。平均1次粒子径が1μm以下とすることで、添加量に対する光熱変換能がより良好となり、平均1次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲とすることで添加量に対する光熱変換能がより良好となる。ただし、添加量に対する光熱変換能は、粒子の分散度にも大きく影響を受け、分散が良好であるほど良好となる。したがって、これらの複合金属酸化物粒子は、層の塗布液に添加する前に、別途公知の方法により分散して、分散液(ペースト)としておくことが好ましい。平均1次粒子径が0.01未満となると分散が困難となるため好ましくない。分散には適宜分散剤を使用することができる。分散剤の添加量は複合金属酸化物粒子に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。
【0104】
[画像形成層]
本発明に用いられる印刷版材料の好ましい態様として、親水性表面基材もしくは親水性層上に機上現像可能な画像形成層を有する態様が挙げられる。画像形成層は、赤外線レーザーによる露光によって発生する熱によって画像形成するものであることが好ましい。
【0105】
本発明の画像形成層の好ましい態様のひとつとして、画像形成層が疎水化前駆体を含有する態様が挙げられる。
【0106】
疎水化前駆体としては、熱によって親水性(水溶性または水膨潤性)から疎水性へと変化するポリマーを用いることができる。具体的には、例えば、特開2000−56449号に開示されている、アリールジアゾスルホネート単位を含有するポリマーを挙げることができる。本発明においては、疎水化前駆体としては、熱可塑性疎水性粒子、もしくは、疎水性物質を内包するマイクロカプセルを用いることが好ましい。熱可塑性微粒子としては、後述する熱溶融性微粒子および熱融着性微粒子を挙げることができる。
【0107】
本発明に用いられる熱溶融性微粒子とは、熱可塑性素材の中でも特に溶融した際の粘度が低く、一般的にワックスとして分類される素材で形成された微粒子である。物性としては、軟化点40℃以上120℃以下、融点60℃以上150℃以下であることが好ましく、軟化点40℃以上100℃以下、融点60℃以上120℃以下であることが更に好ましい。融点が60℃未満では保存性が問題であり、融点が300℃よりも高い場合はインク着肉感度が低下する。
【0108】
使用可能な素材としては、パラフィン、ポリオレフィン、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸系ワックス等が挙げられる。これらは分子量800から10000程度のものである。又、乳化しやすくするためにこれらのワックスを酸化し、水酸基、エステル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ペルオキシド基などの極性基を導入することもできる。更には、軟化点を下げたり作業性を向上させるためにこれらのワックスにステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリステルアミド、硬化牛脂肪酸アミド、パルミトアミド、オレイン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミド又はこれらの脂肪酸アミドのメチロール化物、メチレンビスステラロアミド、エチレンビスステラロアミドなどを添加することも可能である。又、クマロン−インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー、これらの樹脂の共重合体も使用することができる。
【0109】
これらの中でもポリエチレン、マイクロクリスタリン、脂肪酸エステル、脂肪酸の何れかを含有することが好ましい。これらの素材は融点が比較的低く、溶融粘度も低いため、高感度の画像形成を行うことができる。又、これらの素材は潤滑性を有するため、印刷版材料の表面に剪断力が加えられた際のダメージが低減し、擦りキズ等による印刷汚れ耐性が向上する。
【0110】
又、熱溶融性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱溶融性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0111】
又、熱溶融性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。
【0112】
被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾル−ゲル法等が使用できる。層中の熱溶融性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。
【0113】
本発明の熱融着性微粒子としては、熱可塑性疎水性高分子重合体微粒子が挙げられ、高分子重合体微粒子の軟化温度に特定の上限はないが、温度は高分子重合体微粒子の分解温度より低いことが好ましい。高分子重合体の質量平均分子量(Mw)は10,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。
【0114】
高分子重合体微粒子を構成する高分子重合体の具体例としては、例えば、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−ブタジエン共重合体等のジエン(共)重合体類、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の合成ゴム類、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート−(N−メチロールアクリルアミド)共重合体、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル(共)重合体、酢酸ビニル−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等及びそれらの共重合体が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ビニルエステル(共)重合体、ポリスチレン、合成ゴム類が好ましく用いられる。
【0115】
高分子重合体微粒子は乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、気相重合法等、公知の何れの方法で重合された高分子重合体からなるものでもよい。溶液重合法又は気相重合法で重合された高分子重合体を微粒子化する方法としては、高分子重合体の有機溶媒に溶解液を不活性ガス中に噴霧、乾燥して微粒子化する方法、高分子重合体を水に非混和性の有機溶媒に溶解し、この溶液を水又は水性媒体に分散、有機溶媒を留去して微粒子化する方法等が挙げられる。又、何れの方法においても、必要に応じ重合あるいは微粒子化の際に分散剤、安定剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等の界面活性剤やポリビニルアルコール等の水溶性樹脂を用いてもよい。
【0116】
又、熱融着性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱融着性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱融着性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱融着性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0117】
又、熱融着性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。
【0118】
被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾル−ゲル法等が使用できる。層中の熱可塑性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。
【0119】
[マイクロカプセル]
本発明の印刷版材料に用いられるマイクロカプセルとしては、例えば特開2002−2135号や特開2002−19317号に記載されている疎水性素材を内包するマイクロカプセルを挙げることができる。
【0120】
マイクロカプセルは平均径で0.1〜10μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることがより好ましく、0.5〜3μmであることがさらに好ましい。
【0121】
マイクロカプセルの壁の厚さは径の1/100〜1/5であることが好ましく、1/50〜1/10であることがより好ましい。
【0122】
マイクロカプセルの含有量は画像形成層全体の5〜100質量%であり、20〜95質量%であることが好ましく、40〜90質量%であることがさらに好ましい。
【0123】
マイクロカプセルの壁材となる素材、およびマイクロカプセルの製造方法は公知の素材および方法を用いることができる。たとえば、「新版マイクロカプセルその製法・性質・応用」(近藤保、小石真純著/三共出版株式会社発行)に記載されているか、引用されている文献に記載されている公知の素材および方法を用いることができる。
【0124】
[画像形成層に含有可能なその他の素材]
本発明に用いられる画像形成層にはさらに以下のような素材を含有させることができる。
【0125】
画像形成層には上述の光熱変換素材を含有させることができる。画像形成層は一部が機上現像されるため、可視光での着色の少ない素材を用いることが好ましく、色素を用いることが好ましい。
【0126】
画像形成層には水溶性樹脂、水分散性樹脂を含有させることができる。水溶性樹脂、水分散性樹脂としては、オリゴ糖、多糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられる。
【0127】
これらのなかでは、オリゴ糖、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩(Na塩等)、ポリアクリルアミドが好ましい。
【0128】
オリゴ糖としては、ラフィノース、トレハロース、マルトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースといったものが挙げられるが、特にトレハロースが好ましい。
【0129】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。
【0130】
ポリアクリル酸、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩(Na塩等)、ポリアクリルアミドとしては、分子量3000〜100万であることが好ましく、5000〜50万であることがより好ましい。
【0131】
また、画像形成層には、水溶性の界面活性剤を含有させることができる。Si系、又はF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0132】
さらに、pH調整のための酸(リン酸、酢酸等)またはアルカリ(水酸化ナトリウム、ケイ酸塩、リン酸塩等)を含有していても良い。
【0133】
画像形成層に本発明のキトサン微粒子をマット剤として含有させることができる。
【0134】
画像形成層の付き量としては、0.01〜10g/m2であり、好ましくは0.1〜3g/m2であり、さらに好ましくは0.2〜2g/m2である。
【0135】
[保護層]
画像形成層の上層として保護層を設けることもできる。保護層に用いる素材としては、上述の水溶性樹脂、水分散性樹脂を好ましく用いることができる。また、特開2002−19318号や特開2002−86948号に記載されている親水性オーバーコート層も好ましく用いることができる。
【0136】
保護層にも本発明のキトサン微粒子をマット剤として含有させることができる。また、キトサン微粒子は単独の塗膜としても乾燥時には耐久性のある塗膜であって、かつ、水を付与することで速やかに除去可能となるような、印刷機上で除去する目的の保護層に適した性質を有している。
【0137】
保護層の付き量としては、0.01〜10g/m2であり、好ましくは0.1〜3g/m2であり、さらに好ましくは0.2〜2g/m2である。
【0138】
[機上現像方法]
本発明の印刷版材料の好ましい態様である、赤外線レーザー熱溶融・熱融着方式の印刷版材料の画像形成層は、赤外線レーザー露光部が親油性の画像部となり、未露光部の層が除去されて非画像部となる。未露光部の除去は、水洗によっても可能であるが、印刷機上で湿し水およびまたはインクを用いて除去する、いわゆる機上現像することも十分に可能である。
【0139】
印刷機上での画像形成層の未露光部の除去は、版胴を回転させながら水付けローラーやインクローラーを接触させて行うことができるが、下記に挙げる例のような、もしくは、それ以外の種々のシークエンスによって行うことができる。また、その際には、印刷時に必要な湿し水水量に対して、水量を増加させたり、減少させたりといった水量調整を行ってもよく、水量調整を多段階に分けて、もしくは、無段階に変化させて行ってもよい。
【0140】
(1)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0141】
(2)印刷開始のシークエンスとして、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0142】
(3)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーとインクローラーとを実質的に同時に接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0143】
【実施例】
基材
厚さ175μmの二軸延伸ポリエステルフィルムの両面に、8W/m2・分のコロナ放電処理を施し、次いで、一方の面に下記下引き塗布液aを乾燥膜厚0.8μmになるように塗設後にコロナ放電処理(8W/m2・分)を行いながら下引き塗布液bを乾燥膜厚0.1μmになるように塗布し、各々180℃、4分間乾燥させた(下引き面A)。また反対側の面に下記下引き塗布液cを乾燥膜厚0.8μmになるように塗設後にコロナ放電処理(8W/m2・分)を行いながら下引き塗布液dを乾燥膜厚1.0μmになるように塗布し、それぞれ180℃、4分間乾燥させた(下引き面B)。塗布後の25℃、25%RHでの表面電気抵抗は108Ωであった。このようにして、両面に下引き層を形成した基材を得た。
【0144】
【0145】
【化1】
【0146】
【0147】
【化2】
【0148】
実施例1
キトサン微粒子水分散物の調製
[キトサン微粒子1]
キトサン微粒子水分散物(大日精化社製、脱アセチル化度90%以上、平均粒径2μmで表面に凹凸を有する不定形粒子、固形分6質量%)を用いた。
【0149】
[キトサン微粒子2]
キトサン微粒子(大日精化社製、脱アセチル化度90%以上、粒径5〜10μmで表面に凹凸を有する不定形粒子)粉体をサンドグラインダとジルコニアビーズとを用いて、純水中に分散した後、ビーズを除去し、濾過して、固形分10質量%の水分散物を得た。
【0150】
[キトサン微粒子3]
キトサンフレーク(ダイキトサンM、大日精化社製、脱アセチル化度80%以上)7.5質量部、酒石酸5.0質量部、純水87.5質量部を混合攪拌しながら60℃まで昇温させ、キトサン水溶液とした。
【0151】
ソルビタンモノラウレートの1質量%シクロヘキサノン溶液を用意し、この溶液50質量部とキトサン水溶液50質量部とを混合し、ホモジナイザを用いて15000rpmで攪拌することでエマルションとした。
【0152】
次いで、アミノ変性シリコーン:X−22−161A(信越シリコーン社製)25質量部とブタノール75質量部との混合溶液を作製し、20℃に保ったこのシリコーン溶液80質量部を攪拌しながら、得られたエマルション20質量部をこの中に滴下してキトサンを凝固させた。
【0153】
凝固物を濾過して回収し、純水で洗浄した後、真空乾燥させてキトサン微粒子を得た。
【0154】
得られたキトサン微粒子は平均粒径が3μmであり、SEMを用いて形状を観察したところ、概略球状の形状を有していたが、表面にゴルフボール状の凹部を多数有していた。
【0155】
得られたキトサン微粒子をキトサン微粒子2と同様にして分散し、固形分10質量%の水分散物を得た。
【0156】
[キトサン微粒子4]
キトサンフレーク(ダイキトサンVL、大日精化社製、脱アセチル化度80%以上)を用い、特開平7−25905号の実施例4に記載の方法にしたがって微粒子とした。得られた微粒子はさらに純水で洗浄した後、真空乾燥した。
【0157】
得られたキトサン微粒子は平均粒径が0.6μmであり、SEMを用いて形状を観察したところ、概略球状で表面にわずかに凹凸を有する微粒子であった。
【0158】
得られたキトサン微粒子をキトサン微粒子2と同様にして分散し、固形分10質量%の水分散物を得た。
【0159】
表面凹凸粒子(比較)の作製
[表面凹凸粒子1]
コア粒子として平均粒径5μmの架橋アクリル粒子:MX−500(綜研化学社製)70質量部と、子粒子として平均粒径0.04μmの酸化チタン粒子:TTO−55(A)30質量部とを用い、ハイブリダイザを用いた16000rpmで5分間の乾式処理で複合化し、コア粒子のまわりに子粒子が付着した表面凹凸粒子1を得た。
【0160】
[表面凹凸粒子2]
コア粒子として平均粒径2μmのシリカ粒子:サイリシア(富士シリシア社製)、子粒子として平均粒径0.01μmのシリカ粒子:AEROSIL MOX170(日本アエロジル社製)を用いた以外は表面凹凸粒子1と同様にして、表面凹凸粒子2を得た。
【0161】
[表面凹凸粒子3]
コア粒子として平均粒径0.4μmのPMMA粒子:MP−1000(綜研化学社製)を用いた以外は表面凹凸粒子2と同様にして、表面凹凸粒子3を得た。
【0162】
塗布液の作製
下記の組成の顔料分散ペースト(A)を作製した。純水中に各素材を攪拌しながら添加し、次いで、ホモジナイザで10000rpm、5分間の条件で混合し、固形分30質量%のペーストとした。
【0163】
【表1】
【0164】
下記の各素材を混合攪拌後、濾過して、固形分20質量%の下層1塗布液を作製した。
【0165】
【表2】
【0166】
同様に、下記の各素材を混合攪拌後、濾過して、固形分20質量%の下層2塗布液を作製した。
【0167】
【表3】
【0168】
次に、下記組成の素材をホモジナイザを用いて、10000rpmで10分間攪拌混合し、濾過して、固形分15質量%の親水性層1塗布液を作製した。
【0169】
【表4】
【0170】
同様にして、下記組成の親水性層2〜4塗布液を作製した。
【0171】
【表5】
【0172】
【表6】
【0173】
【表7】
【0174】
次に下記組成の素材を十分に攪拌混合し、濾過して、固形分6質量%の画像形成層塗布液を作製した。
【0175】
【表8】
【0176】
印刷版材料の作製
基材の下引きA面上に、表9に示した下層、親水性層の組み合わせで表9に示した乾燥付量となるように順にワイヤーバーを用いて塗布を行った。
【0177】
下層の塗布乾燥条件は100℃で3分間、親水性層の塗布乾燥条件も100℃で3分間とした。
【0178】
親水性層まで形成した段階で、60℃、24時間の第1エイジング処理を行った。
【0179】
次いで、画像形成層を乾燥付量が0.6g/m2となるようにワイヤーバーを用いて塗布した。塗布乾燥条件は55℃、3分とした。
【0180】
画像形成層までを形成した後、さらに、55℃、24時間のエイジングを行い、各印刷版材料の試料No.1〜7を得た。
【0181】
画像形成
印刷版材料を露光ドラムに巻付け固定した。露光には波長830nm、スポット径約18μmのレーザービームを用い、露光エネルギーを100mJ/cm2から50mJ刻みで400mJ/cm2まで変化させ、各露光エネルギーの条件で、2400dpi(dpiとは1インチ、即ち2.54cm当たりのドット数を表す)、175線で画像を形成した。露光した画像はベタ画像と1〜99%の網点画像と2400dpiのラインアンドスペース細線画像とを含むものである。
【0182】
印刷方法
印刷機:三菱重工業(株)製DAIYA1F−1を用いて、コート紙、湿し水:アストロマーク3(日研化学研究所製)2質量%、インク(東洋インク社製TKハイユニティ紅)を使用して印刷を行った。印刷条件の設定には市販のPS版を用い、印刷機の水量設定値が40の状態で最適な水インクバランスとなるように設定した。印刷版材料は露光後そのままの状態で版胴に取り付け、水量設定値を50として、PS版と同じ刷り出しシークエンスを用いて印刷した。
【0183】
印刷評価
[感度評価]
各印刷版材料について、刷り出しから100枚目の印刷物で、1%網点画像が欠けなく再現されている、最低露光エネルギー量を求め、適性感度とした。結果を表9に示した。
【0184】
[水インクバランス評価]
刷り出しから400枚印刷した時点で、水量設定値を20まで下げてさらに100枚印刷して、印刷版全面にインクがついた状態とした。次いで、さらに50枚印刷して50枚目の印刷物を評価用試料としてサンプリングし、すぐに水量設定値を2上げるという作業を、印刷機を止めずに水量設定値が60になるまで繰り返した。
【0185】
各印刷版材料において、適性感度とした露光エネルギーの画像で95%網点画像の網が開く(つぶれがなくなる)最低水量設定値を求めた。値が小さいほど水インクバランスは良好である。結果を表9に示した。
【0186】
[汚し回復性評価]
水インクバランス評価の後、各印刷版材料において水インクバランス評価で求めた95%網点画像が開く最低水量に対して4プラスした水量設定値とし、さらに500枚印刷した。次いで、印刷しながら水供給ローラーを版面から離し、全面にインクがついた状態となってから20枚印刷し、次いで、水供給ローラーを版面に接触させて水供給を再開した。各印刷版材料の適性感度とした露光エネルギーの画像で95%網点画像の網が開く(つぶれがなくなる)ようになるまでの水供給再開からの印刷枚数を求めた。枚数が少ないほど印刷条件変動に対する応答が速く良好である。結果を表9に示した。
【0187】
【表9】
【0188】
表9より、本発明であるキトサン微粒子を用いた印刷版材料は非常に良好な印刷性能を有していることがわかる。
【0189】
実施例2
印刷版材料の作製
実施例1で用いた印刷版材料試料No.5に、さらにキトサン微粒子1の分散液を3質量%に純水で希釈した分散液を、乾燥付量が1.0g/m2となるように塗布し、55℃で3分間乾燥して、キトサン微粒子の保護層が形成された印刷版材料No.8を得た。
【0190】
次に、印刷版材料No.7を用い、保護層の塗布液として3質量%のPVA(PVA117、クラレ社製)水溶液を用い、乾燥付量を0.5g/m2とした以外は、印刷版材料No.8と同様にして、印刷版材料No.9を得た。
【0191】
印刷版材料No.8、No.9および保護層のない実施例1で用いた印刷版材料試料No.7に、実施例1と同様にして露光エネルギーを350mJ/cm2とした条件で画像形成を行った。
【0192】
次いで、各印刷版材料の画像記録のなされていない非画像部となる領域に、HEIDONスクラッチ試験機を用いてスクラッチ傷を形成した。スクラッチには先端形状が0.3mmφのサファイア触針を用い、50gから荷重を50gずつ増加させて350gまでのスクラッチ傷を付けた。
【0193】
実施例1と同様にして印刷を行い、画像形成の程度、良好なコントラストが得られるまでの刷り出しからの枚数、刷り出しから100枚の時点の印刷物でのスクラッチ傷が汚れとして確認できない最大スクラッチ荷重とを求めた。結果を表10に示した。
【0194】
【表10】
【0195】
表10からわかるように、キトサン微粒子から形成した保護層は、画像形成能や刷り出し性を損なうことなくスクラッチ耐性を向上可能である。実施例で用いたような態様の印刷版材料においては、PVAのような水溶性樹脂は画像形成能を著しく劣化させるため用いることは困難である。
【0196】
【発明の効果】
本発明により、基材上への親水性表面形成を安価な塗布により行うことができ、かつ、印刷版としての性能(水量ラチチュード、非画像部の汚れにくさ、ブランケット汚れのしにくさ等)がアルミ砂目と同等以上であり、かつ、十分な耐刷性を有する印刷版材料を提供することができた。
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷版材料に関し、詳しくは、アルミニウム板の表面を砂目立てした親水性表面を有する従来の印刷版材料に代わる、塗設によって形成し得る親水性層を基体上に設けた印刷版材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、平版印刷版用PS版のアルミニウム基材親水性表面、いわゆるアルミ砂目は、保水性及び耐刷性を付与するために粗面加工され、さらに親水性及び耐摩耗性を付与するために陽極酸化による酸化物皮膜層形成処理が行われてきた。
【0003】
粗面加工の方法としては、一般的には化学的(アルカリ・酸溶解等)、機械的(研磨剤を用いたブラシ研磨、サンドブラスト、液体ホーニング、粗さ転写ロールでの圧延等)、電気化学的(酸性溶液中での交流又は直流の電解処理)な粗面化が知られており、支持体表面の加工にはこれらの方法のいくつかを適宜組み合わせて、波長の異なる粗さを複数重畳させた多重的な表面粗さ構造の形成が行われている。
【0004】
特に保水性を良好にする0.1〜数μm径のピットを形成するには電気化学的粗面化が必須であるが、均一な粗面を安定して形成するためには電解液温度等を厳密にコントロールする必要があり、また、使用可能なアルミ原反の組成範囲も狭く、組織の均一性も良好であることを必要とする等、制約が多い。また、陽極酸化には、一般に20〜40%の高濃度の硫酸水溶液が使用され、安全性の問題や、廃液処理等の環境面の問題も有している。
【0005】
一方、電気化学的粗面化や陽極酸化を必ずしも必要としない印刷版材料用の親水性表面を有する支持体として、基材上に無機粒子を分散させたシリケート水溶液を塗布して親水性層を形成することを特徴とする支持体の製造方法が提案されているが(例えば、特許文献1参照。)、この方法ではコスト低減を達成することは可能であるが、表面に多重的な粗さ構造を付与することができず印刷時の水量ラチチュードが不十分であり、また、結合剤は単なる水ガラスであるため柔軟性に欠け、クラックが入りやすく剥離しやすい欠点があり、耐刷性も満足のいくものではない。
【0006】
また、支持体上に設けられた親水性を有する画像受像層が空隙率30〜80%を有する三次元網目構造を有し、該層の構造が平均一次粒子径が100nm以下の無機微粒子と水溶性樹脂から形成されていることを特徴とするオフセット印刷版用基板が提案されているが(例えば、特許文献2参照。)、やはり、表面に多重的な粗さ構造を付与することができず、現行のPS版のアルミ砂目に比較して、印刷時の非画像部汚れや水量ラチチュード及び耐刷性ともに大きく劣った性能しか得ることができていない。
【0007】
親水性表面に多重的な粗さ構造を付与する方法のひとつとして、コア粒子表面に小粒子を固着させてなる表面に凹凸を有する粒子を含有させた親水性層を有する印刷版材料が開示されて(例えば、特許文献3参照。)いる。これは、コア粒子としては、0.2〜2μmの無機または有機粒子を用い、子粒子としては0.01〜0.02μmのシリカ、アルミナ、チタニア等の無機粒子を用いているものである。この方法によれば、部分的に例えば数μm波長の粗さに0.01μm波長の粗さが重畳した多重粗さ構造を形成することができるが、このようにして形成した多重粗さ構造は凸構造にさらに凸構造を重畳させたものであり、PS版のアルミ砂目の凹構造にさらに凹構造を重畳させた多重粗さ構造とは根本的に異なるため、印刷性能はアルミ砂目よりも劣ったものとなる。
【0008】
また、表面に凹凸を有する粒子のコア粒子として多孔質なアルミナ粒子を用いたもの(例えば、特許文献4参照。)、コア粒子として針状の酸化チタン粒子を用いたものが(例えば、特許文献5参照。)挙げられているが、根本的に凹凸構造が変わるものではなく、やはり、印刷性能はアルミ砂目よりも劣ったものとなる。
【0009】
このように、塗布で形成する親水性層に無機粒子を用いて粗さを付与する方法では、たとえ多重な粗さ構造を形成したとしても、アルミ砂目に匹敵するような満足のいく印刷性能は得られていなかった。
【0010】
【特許文献1】
国際公開第97/1987号パンフレット (特許請求の範囲)
【0011】
【特許文献2】
特開平9−99662号公報 (特許請求の範囲)
【0012】
【特許文献3】
特開2002−362047号公報 (特許請求の範囲)
【0013】
【特許文献4】
特開2003−19870号公報 (特許請求の範囲)
【0014】
【特許文献5】
特開2003−19871号公報 (特許請求の範囲)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、基材上への親水性表面形成を安価な塗布により行うことができ、かつ、印刷版としての性能(水量ラチチュード、非画像部の汚れにくさ、ブランケット汚れのしにくさ等)がアルミ砂目と同等以上であり、かつ、十分な耐刷性を有する印刷版材料を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成された。
【0017】
1.基材上にキトサン微粒子を含有する層を有することを特徴とする印刷版材料。
【0018】
2.キトサン微粒子を含有する層が印刷時に非画像部となる親水性層であることを特徴とする前記1記載の印刷版材料。
【0019】
3.キトサン微粒子の粒径が0.1μm以上、10μm以下であることを特徴とする前記1又は2記載の印刷版材料。
【0020】
本発明を更に詳しく説明する。本発明は、基材上にキトサン微粒子を含有する層を有する印刷版材料である。
【0021】
キトサンは、主にカニ等の甲殻類の外皮に含まれるキチンを脱アセチル化して得られるD−グルコサミンを基本骨格とする塩基性多糖類である。
【0022】
キトサンの微粒子化は、キトサンを酸性水溶液に溶解させた後に後述するような方法で凝固させることにより行われる。このような方法で得られるキトサン微粒子は、概略は球状ではあるが実質的に不定形であり、かつ多孔質であるため、その外形はミクロ的に複雑な凹凸形状を有していると言える。
【0023】
キトサンは骨格中に極性基を有するため親水性を有しており、キトサン微粒子は、上記のような多孔質性との相乗効果で非常に親水性の高い微粒子である。また、反応性に富むアミノ基を有しており、アミノ基を層中のその他の素材が有する官能基と結合させることで、層の塗膜中にキトサン微粒子を強固に固定することが可能になる。
【0024】
さらに、キトサン微粒子は一般的な無機微粒子よりも比重が低いために、塗布液に添加した場合に塗布液中での沈降の懸念が少ないという利点があり、また、塗布液の増粘効果もあるため、塗布性改善にも寄与するという利点もある。
【0025】
このような特徴から、基材上に塗布層を有する印刷版材料において、粗さ付与や、塗膜強度改善、塗布性改善等の目的で特に限定することなくいずれの層へもキトサン微粒子を添加することができる。
【0026】
塗布層中のキトサン微粒子の含有量としては、特に制限はないが、0.1〜70質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましい。
【0027】
本発明の印刷版材料においては、上記のようなキトサン微粒子の高親水性である点、および複雑な凹凸形状を有している点を有効に活用するため、キトサン微粒子を含有する層が印刷時に非画像部となる親水性層であることがもっとも好ましい態様である。
【0028】
キトサン微粒子を含有させることで、無機微粒子では得られなかった表面の親水性および複雑な多重粗さ構造を親水性層に付与することが可能となり、アルミ砂目同等以上の印刷性能を得ることができる。
【0029】
親水性層中のキトサン微粒子の含有量としては、特に制限はないが、0.1〜70質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましい。親水性層を構成するその他の素材としては、特に制限されないが、後述する親水性層に用いられる素材を用いることが好ましい。
【0030】
本発明に用いるキトサン微粒子の粒径は0.1μm以上、10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上、7μm未満であることがより好ましい。
【0031】
0.1μm未満では、粒子として用いる効果、例えば粗さ付与といった効果が発揮できない懸念がある。また、10μmより大きい場合には、印刷版として用いる際の解像度や細線再現性が劣化する懸念がある。
【0032】
本発明に用いるキトサンの脱アセチル化度は特に制限されないが、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0033】
また、キトサンの分子量も特に制限されない。官能基の一部が化学修飾された誘導体を用いることもできる。
【0034】
キトサンを微粒子化する具体的な方法としては、特開昭61−40337号に開示されているような、キトサンを溶解した酸性水溶液を塩基性溶液中に滴下して凝固させる方法や、特開昭62−210101号に開示されているような、キトサンを溶解した酸性水溶液をスプレー噴霧で乾燥させて粒子化した後に塩基性溶液で中和する方法、特開平7−330807号や特開平9−143203号に開示されているような、キトサンを加熱した硫酸水溶液で溶解させた後に水溶液を冷却して、キトサン微粒子を析出させる方法等を挙げることができる。
【0035】
また、特開平7−188303号に開示されている、キトサンを溶解させた酸性水溶液のW/Oエマルションをアミンとアルコールとの混合溶液中に注入して、キトサン微粒子を凝固析出させる方法も好ましく用いることができる。この方法によると、複雑な凹凸形状を有した非球状で形の揃ったキトサン微粒子を得ることができる。特にこの方法によって得られる、粒子の表面が多方向から収縮して多数の凹部が形成されたゴルフボール状のキトサン微粒子は本発明に好ましく使用することができる。
【0036】
上記の方法では、キトサン微粒子は最終的に洗浄、乾燥して粉体として得られるが、塗布液に添加する際には微粒子の凝集体を一次粒子にまでほぐすために分散加工を行うことが好ましい。分散方法としては特に制限はなく、キトサン微粒子を水やその他の溶媒に添加し、公知のホモジナイザ分散やサンドグラインダ分散等で適宜分散すればよい。このようにして作製したキトサン分散液を分散液の状態で保管する必要がある場合には、公知の防腐剤を添加することが好ましい。
【0037】
本発明に用いられる印刷版材料としては、画像形成方式は特定されるものではない。公知の電子写真方式による画像形成、インクジェット方式による画像形成、溶融熱転写方式による画像形成、赤外線レーザーアブレーション方式による画像形成、赤外線レーザー熱溶融・熱融着方式による画像形成等の、種々の方式の印刷版材料に適用することができる。
【0038】
特に好ましい態様としては、基材上に後述する親水性層を設け、さらにその上に疎水化前駆体粒子を含有する画像形成層を設けた、赤外線レーザー熱溶融・熱融着方式の印刷版材料が挙げられる。
【0039】
[基材]
基材としては、印刷版の基板として使用される公知の材料を使用することができる。例えば、金属板、プラスチックフィルム、ポリオレフィン等で処理された紙、上記材料を適宜貼り合わせた複合基材等が挙げられる。基材の厚さとしては、印刷機に取り付け可能であれば特に制限されるものではないが、50〜500μmのものが一般的に取り扱いやすい。
【0040】
金属板としては、鉄、ステンレス、アルミニウム等が挙げられるが、比重と剛性との関係から特にアルミニウムが好ましい。アルミニウム板は、通常その表面に存在する圧延・巻取り時に使用されたオイルを除去するためにアルカリ、酸、溶剤等で脱脂した後に使用される。脱脂処理としては特にアルカリ水溶液による脱脂が好ましい。また、塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。例えば、ケイ酸塩やシランカップリング剤等のカップリング剤を含有する液に浸漬するか、液を塗布した後、十分な乾燥を行う方法が挙げられる。陽極酸化処理も易接着処理の一種と考えられ、使用することができる。また、陽極酸化処理と上記浸漬または塗布処理を組み合わせて使用することもできる。また、公知の方法で粗面化されたアルミニウム基材、いわゆるアルミ砂目を、親水性表面を有する基材として使用することもできる。
【0041】
プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、セルロースエステル類等を挙げることができる。
【0042】
本発明に用いる基材としては、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。これらプラスチックフィルムは塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。易接着処理としては、コロナ放電処理や火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。また、下塗り層としては、ゼラチンやラテックスを含む層等が挙げられる。下塗り層に、有機または無機の公知の導電性素材を含有させることもできる。
【0043】
また、裏面のすべり性を制御する(例えば版胴表面との摩擦係数を低減させる)目的で、裏面コート層を設けた基材も好ましく使用することができる。裏面コート層のマット剤としても、本発明に用いられるキトサン微粒子を用いることができる。
【0044】
[親水性層]
本発明に用いられるの印刷版材料の態様のひとつとして、基材上に親水性層を有する態様が挙げられる。親水性層は一層であっても良いし、複数の層から形成されていても良い。
【0045】
親水性層に用いられる素材としては、金属酸化物が好ましい。金属酸化物としては、金属酸化物微粒子を含むことが好ましい。例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物のゾルが挙げられる。該金属酸化物微粒子の形態としては、球状、針状、羽毛状、その他の何れの形態でも良い。平均粒径としては、3〜100nmであることが好ましく、平均粒径が異なる数種の金属酸化物微粒子を併用することもできる。又、粒子表面に表面処理がなされていても良い。
【0046】
上記金属酸化物微粒子はその造膜性を利用して結合剤としての使用が可能である。有機の結合剤を用いるよりも親水性の低下が少なく、親水性層への使用に適している。
【0047】
本発明には、上記の中でも特にコロイダルシリカが好ましく使用できる。コロイダルシリカは比較的低温の乾燥条件であっても造膜性が高いという利点があり、炭素原子を含まない素材が91質量%以上というような層においても良好な強度を得ることができる。
【0048】
上記コロイダルシリカとしては、後述するネックレス状コロイダルシリカ、平均粒径20nm以下の微粒子コロイダルシリカを含むことが好ましく、さらに、コロイダルシリカはコロイド溶液としてアルカリ性を呈することが好ましい。
【0049】
本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは1次粒子径がnmのオーダーである球状シリカの水分散系の総称である。本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは1次粒粒子径が10〜50nmの球状コロイダルシリカが50〜400nmの長さに結合した「パールネックレス状」のコロイダルシリカを意味する。パールネックレス状(即ち真珠ネックレス状)とは、コロイダルシリカのシリカ粒子が連なって結合した状態のイメージが真珠ネックレスの様な形状をしていることを意味している。ネックレス状コロイダルシリカを構成するシリカ粒子同士の結合は、シリカ粒子表面に存在する−SiOH基が脱水結合した−Si−O−Si−と推定される。ネックレス状のコロイダルシリカとしては、具体的には日産化学工業(株)製の「スノーテックス−PS」シリーズなどが挙げられる。
【0050】
製品名としては「スノーテックス−PS−S(連結した状態の平均粒子径は110nm程度)」、「スノーテックス−PS−M(連結した状態の平均粒子径は120nm程度)」及び「スノーテックス−PS−L(連結した状態の平均粒子径は170nm程度)」があり、これらにそれぞれ対応する酸性の製品が「スノーテックス−PS−S−O」、「スノーテックス−PS−M−O」及び「スノーテックス−PS−L−O」である。
【0051】
ネックレス状コロイダルシリカを添加することにより、層の多孔性を確保しつつ、強度を維持することが可能となり、層の多孔質化材として好ましく使用できる。
【0052】
これらの中でも、アルカリ性である「スノーテックスPS−S」、「スノーテックスPS−M」、「スノーテックスPS−L」を用いると、親水性層の強度が向上し、また、印刷枚数が多い場合でも地汚れの発生が抑制され、特に好ましい。
【0053】
また、コロイダルシリカは粒子径が小さいほど結合力が強くなることが知られており、本発明には平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカを用いることが好ましく、3〜15nmであることが更に好ましい。又、前述のようにコロイダルシリカの中ではアルカリ性のものが地汚れ発生を抑制する効果が高いため、アルカリ性のコロイダルシリカを使用することが特に好ましい。
【0054】
平均粒径がこの範囲にあるアルカリ性のコロイダルシリカとしては日産化学社製の「スノーテックス−20(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−30(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−40(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−N(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−S(粒子径8〜11nm)」、「スノーテックス−XS(粒子径4〜6nm)」が挙げられる。
【0055】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカは前述のネックレス状コロイダルシリカと併用することで、層の多孔質性を維持しながら、強度をさらに向上させることが可能となり、特に好ましい。
【0056】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカ/ネックレス状コロイダルシリカの比率は95/5〜5/95が好ましく、70/30〜20/80がより好ましく、60/40〜30/70が更に好ましい。
【0057】
本発明の印刷版材料の親水性層は金属酸化物として多孔質金属酸化物粒子を含むことが好ましい。多孔質金属酸化物粒子としては、後述する多孔質シリカ又は多孔質アルミノシリケート粒子もしくはゼオライト粒子を好ましく用いることができる。
【0058】
多孔質シリカ粒子は一般に湿式法又は乾式法により製造される。湿式法ではケイ酸塩水溶液を中和して得られるゲルを乾燥、粉砕するか、中和して析出した沈降物を粉砕することで得ることができる。乾式法では四塩化珪素を水素と酸素と共に燃焼し、シリカを析出することで得られる。これらの粒子は製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0059】
多孔質シリカ粒子としては、湿式法のゲルから得られるものが特に好ましい。多孔質アルミノシリケート粒子は例えば特開平10−71764号に記載されている方法により製造される。即ち、アルミニウムアルコキシドと珪素アルコキシドを主成分として加水分解法により合成された非晶質な複合体粒子である。粒子中のアルミナとシリカの比率は1:4〜4:1の範囲で合成することが可能である。又、製造時にその他の金属のアルコキシドを添加して3成分以上の複合体粒子として製造したものも本発明に使用できる。これらの複合体粒子も製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0060】
粒子の多孔性としては、分散前の状態で細孔容積で1.0ml/g以上であることが好ましく、1.2ml/g以上であることがより好ましく、1.8〜2.5ml/g以下であることが更に好ましい。
【0061】
細孔容積は塗膜の保水性と密接に関連しており、細孔容積が大きいほど保水性が良好となって印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなるが、2.5ml/gよりも大きくなると粒子自体が非常に脆くなるため塗膜の耐久性が低下する。細孔容積が1.0ml/g未満の場合には、印刷時の汚れにくさ、水量ラチチュードの広さが不充分となる。
【0062】
粒径としては、親水性層に含有されている状態で(例えば分散時に破砕された場合も含めて)、実質的に1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることが更に好ましい。不必要に粗大な粒子が存在すると親水性層表面に多孔質で急峻な突起が形成され、突起周囲にインクが残りやすくなって非画線部汚れやブランケット汚れが劣化する場合がある。
【0063】
ゼオライトは結晶性のアルミノケイ酸塩であり、細孔径が0.3〜1nmの規則正しい三次元網目構造の空隙を有する多孔質体である。天然及び合成ゼオライトを合わせた一般式は、次のように表される。
【0064】
(M1、M2 1/2)m(AlmSinO2(m+n))・xH2O
ここで、M1、M1は交換性のカチオンであって、M1はLi+、Na+、K+、Tl+、Me4N+(TMA)、Et4N+(TEA)、Pr4N+(TPA)等であり、M1はCa2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+等である。又、n≧mであり、m/nの値つまりはAl/Si比率は1以下となる。Al/Si比率が高いほど交換性カチオンの量が多く含まれるため極性が高く、従って親水性も高い。好ましいAl/Si比率は0.4〜1.0であり、更に好ましくは0.8〜1.0である。xは整数を表す。
【0065】
本発明で使用するゼオライト粒子としては、Al/Si比率が安定しており、又粒径分布も比較的シャープである合成ゼオライトが好ましく、例えばゼオライトA:Na12(Al12Si12O48)・27H2O;Al/Si比率1.0、ゼオライトX:Na86(Al86Si106O384)・264H2O;Al/Si比率0.811、ゼオライトY:Na56(Al56Si136O384)・250H2O;Al/Si比率0.412等が挙げられる。
【0066】
Al/Si比率が0.4〜1.0である親水性の高い多孔質粒子を含有することで親水性層自体の親水性も大きく向上し、印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなる。又、指紋跡の汚れも大きく改善される。Al/Si比率が0.4未満では親水性が不充分であり、上記性能の改善効果が小さくなる。
【0067】
また、本発明の印刷版材料の親水性層マトリクスは層状粘土鉱物粒子を含有することができる。該層状鉱物粒子としては、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サボナイト等)、バーミキュライト、マイカ(雲母)、クロライトといった粘土鉱物及び、ハイドロタルサイト、層状ポリケイ酸塩(カネマイト、マカタイト、アイアライト、マガディアイト、ケニヤアイト等)等が挙げられる。中でも、単位層(ユニットレイヤー)の電荷密度が高いほど極性が高く、親水性も高いと考えられる。好ましい電荷密度としては0.25以上、更に好ましくは0.6以上である。このような電荷密度を有する層状鉱物としては、スメクタイト(電荷密度0.25〜0.6;陰電荷)、バーミキュライト(電荷密度0.6〜0.9;陰電荷)等が挙げられる。特に、合成フッ素雲母は粒径等安定した品質のものを入手することができ好ましい。又、合成フッ素雲母の中でも、膨潤性であるものが好ましく、自由膨潤であるものが更に好ましい。
【0068】
又、上記の層状鉱物のインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、イオン交換処理を施したもの、表面処理(シランカップリング処理、有機バインダとの複合化処理等)を施したものも使用することができる。
【0069】
平板状層状鉱物粒子のサイズとしては、層中に含有されている状態で(膨潤工程、分散剥離工程を経た場合も含めて)、平均粒径(粒子の最大長)が20μm以下であり、又平均アスペクト比(粒子の最大長/粒子の厚さ)が20以上の薄層状であることが好ましく、平均粒径が5μm以下であり、平均アスペクト比が50以上であることが更に好ましく、平均粒径が1μm以下であり、平均アスペクト比が50以上であることが更に好ましい。粒子サイズが上記範囲にある場合、薄層状粒子の特徴である平面方向の連続性及び柔軟性が塗膜に付与され、クラックが入りにくく乾燥状態で強靭な塗膜とすることができる。また、粒子物を多く含有する塗布液においては、層状粘土鉱物の増粘効果によって、粒子物の沈降を抑制することができる。粒子径が上記範囲をはずれると、引っかきによるキズ抑制効果が低下する場合がある。又、アスペクト比が上記範囲以下である場合、柔軟性が不充分となり、同様に引っかきによるキズ抑制効果が低下する場合がある。
【0070】
層状鉱物粒子の含有量としては、層全体の0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。特に膨潤性合成フッ素雲母やスメクタイトは少量の添加でも効果が見られるため好ましい。層状鉱物粒子は、塗布液に粉体で添加してもよいが、簡便な調液方法(メディア分散等の分散工程を必要としない)でも良好な分散度を得るために、層状鉱物粒子を単独で水に膨潤させたゲルを作製した後、塗布液に添加することが好ましい。
【0071】
本発明に係る親水性層の親水性層マトリクスにはその他の添加素材として、ケイ酸塩水溶液も使用することができる。ケイ酸Na、ケイ酸K、ケイ酸Liといったアルカリ金属ケイ酸塩が好ましく、そのSiO2/M2O比率はケイ酸塩を添加した際の塗布液全体のpHが13を超えない範囲となるように選択することが無機粒子の溶解を防止する上で好ましい。
【0072】
また、金属アルコキシドを用いた、いわゆるゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーも使用することができる。ゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーの形成については、例えば「ゾル−ゲル法の応用」(作花済夫著/アグネ承風社発行)に記載されているか、又は本書に引用されている文献に記載されている公知の方法を使用することができる。
【0073】
本発明は、親水性層中には親水性有機樹脂を含有させてもよい。親水性有機樹脂としては、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられる。
【0074】
又、カチオン性樹脂を含有しても良く、カチオン性樹脂としては、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン等のようなポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。カチオン性樹脂は微粒子状の形態で添加しても良い。これは、例えば特開平6−161101号に記載のカチオン性マイクロゲルが挙げられる。
【0075】
本発明のより好ましい態様としては、親水性層中に含有される親水性有機樹脂は水溶性であり、かつ、少なくともその一部が水溶性の状態のまま、水に溶出可能な状態で存在することが挙げられる。水溶性の素材であっても、架橋剤等によって架橋し、水に不溶の状態になると、その親水性は低下して印刷性能を劣化させる懸念がある。
【0076】
本発明の親水性層に含有される炭素原子を含む水溶性素材としては、糖類が好ましい。親水性層に糖類を含有させることにより、後述する画像形成能を有する機能層との組み合わせにおいて、画像形成の解像度を向上させたり、耐刷性を向上させたりする効果が得られる。
【0077】
糖類としては、後に詳細に説明するオリゴ糖を用いることもできるが、特に多糖類を用いることが好ましい。
【0078】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。
【0079】
これは、親水性層に多糖類を含有させることにより、親水性層の表面形状を好ましい状態形成する効果が得られるためである。
【0080】
親水性層の表面は、PS版のアルミ砂目のように0.1〜50μmピッチの凹凸構造を有することが好ましく、この凹凸により保水性や画像部の保持性が向上する。
【0081】
このような凹凸構造は、親水性層に適切な粒径のフィラーを適切な量含有させて形成することも可能であるが、親水性層の塗布液に前述のアルカリ性コロイダルシリカと前述の水溶性多糖類とを含有させ、親水性層を塗布、乾燥させる際に相分離を生じさせて形成することがより良好な印刷性能を有する構造を得ることができ、好ましい。
【0082】
凹凸構造の形態(ピッチ及び表面粗さなど)はアルカリ性コロイダルシリカの種類及び添加量、水溶性多糖類の種類及び添加量、その他添加材の種類及び添加量、塗布液の固形分濃度、ウエット膜厚、乾燥条件等で適宜コントロールすることが可能である。
【0083】
凹凸構造のピッチとしては0.2〜30μmであることがより好ましく、0.5〜20μmであることが更に好ましい。又、ピッチの大きな凹凸構造の上に、それよりもピッチの小さい凹凸構造が形成されているような多重構造の凹凸構造が形成されていてもよい。
【0084】
表面粗さとしては、Raで100〜1000nmが好ましく、150〜600nmがより好ましい。
【0085】
また、親水性層の膜厚としては、0.01〜50μmであり、好ましくは0.2〜10μmであり、更に好ましくは0.5〜3μmである。
【0086】
また、本発明の親水性層(の塗布液)には、塗布性改善等の目的で水溶性の界面活性剤を含有させることができる。Si系、又はF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0087】
また、本発明の親水性層はリン酸塩を含むことができる。本発明では親水性層の塗布液がアルカリ性であることが好ましいため、リン酸塩としてはリン酸三ナトリウムやリン酸水素二ナトリウムとして添加することが好ましい。リン酸塩を添加することで、印刷時の網の目開きを改善する効果が得られる。リン酸塩の添加量としては、水和物を除いた有効量として、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%が更に好ましい。
【0088】
[光熱変換素材]
本発明において、赤外線レーザーを用いた画像形成を行う場合には光熱変換素材を含有していることが好ましい。好ましい光熱変換素材としては下記のような素材を挙げることができる。
【0089】
一般的な赤外吸収色素であるシアニン系色素、クロコニウム系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの有機化合物、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系、ジチオール系、インドアニリン系の有機金属錯体などが挙げられる。具体的には、特開昭63−139191号、特開昭64−33547号、特開平1−160683号、特開平1−280750号、特開平1−293342号、特開平2−2074号、特開平3−26593号、特開平3−30991号、特開平3−34891号、特開平3−36093号、特開平3−36094号、特開平3−36095号、特開平3−42281号、特開平3−97589号、特開平3−103476号等に記載の化合物が挙げられる。これらは一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
また、特開平11−240270号、特開平11−265062号、特開2000−309174号、特開2002−49147号、特開2001−162965号、特開2002−144750号、特開2001−219667号に記載の化合物も好ましく用いることができる。
【0091】
顔料としては、カーボン、グラファイト、金属、金属酸化物等が挙げられる。カーボンとしては特にファーネスブラックやアセチレンブラックの使用が好ましい。粒度(d50)は100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。
【0092】
グラファイトとしては粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子を使用することができる。
【0093】
金属としては粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子であれば何れの金属であっても使用することができる。形状としては球状、片状、針状等何れの形状でも良い。特にコロイド状金属微粒子(Ag、Au等)が好ましい。
【0094】
金属酸化物としては、可視光域で黒色を呈している素材、または素材自体が導電性を有するか、半導体であるような素材を使用することができる。
【0095】
前者としては、黒色酸化鉄や二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物が挙げられる。
【0096】
後者とては、例えばSbをドープしたSnO2(ATO)、Snを添加したIn2O3(ITO)、TiO2、TiO2を還元したTiO(酸化窒化チタン、一般的にはチタンブラック)などが挙げられる。又、これらの金属酸化物で芯材(BaSO4、TiO2、9Al2O3・2B2O、K2O・nTiO2等)を被覆したものも使用することができる。これらの粒径は、0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。
【0097】
これらの光熱変換素材のうち黒色酸化鉄や二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物がより好ましい素材として挙げられる。
【0098】
黒色酸化鉄(Fe3O4)としては、平均粒子径0.01〜1μmであり、針状比(長軸径/短軸径)が1〜1.5の範囲の粒子であることが好ましく、実質的に球状(針状比1)であるか、もしくは、八面体形状(針状比約1.4)を有していることが好ましい。
【0099】
このような黒色酸化鉄粒子としては、例えば、チタン工業社製のTAROXシリーズが挙げられる。球状粒子としては、BL−100(粒径0.2〜0.6μm)、BL−500(粒径0.3〜1.0μm)等を好ましく用いることができる。また、八面体形状粒子としては、ABL−203(粒径0.4〜0.5μm)、ABL−204(粒径0.3〜0.4μm)、ABL−205(粒径0.2〜0.3μm)、ABL−207(粒径0.2μm)等を好ましく用いることができる。
【0100】
さらに、これらの粒子表面をSiO2等の無機物でコーティングした粒子も好ましく用いることができ、そのような粒子としては、SiO2でコーティングされた球状粒子:BL−200(粒径0.2〜0.3μm)、八面体形状粒子:ABL−207A(粒径0.2μm)が挙げられる。
【0101】
黒色複合金属酸化物としては、具体的には、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Baから選ばれる二種以上の金属からなる複合金属酸化物である。これらは、特開平8−27393号公報、特開平9−25126号公報、特開平9−237570号公報、特開平9−241529号公報、特開平10−231441号公報等に開示されている方法により製造することができる。
【0102】
本発明に用いる複合金属酸化物としては、特にCu−Cr−Mn系またはCu−Fe−Mn系の複合金属酸化物であることが好ましい。Cu−Cr−Mn系の場合には、6価クロムの溶出を低減させるために、特開平8−27393号公報に開示されている処理を施すことが好ましい。これらの複合金属酸化物は添加量に対する着色、つまり、光熱変換効率が良好である。
【0103】
これらの複合金属酸化物は平均1次粒子径が1μm以下であることが好ましく、平均1次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲にあることがより好ましい。平均1次粒子径が1μm以下とすることで、添加量に対する光熱変換能がより良好となり、平均1次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲とすることで添加量に対する光熱変換能がより良好となる。ただし、添加量に対する光熱変換能は、粒子の分散度にも大きく影響を受け、分散が良好であるほど良好となる。したがって、これらの複合金属酸化物粒子は、層の塗布液に添加する前に、別途公知の方法により分散して、分散液(ペースト)としておくことが好ましい。平均1次粒子径が0.01未満となると分散が困難となるため好ましくない。分散には適宜分散剤を使用することができる。分散剤の添加量は複合金属酸化物粒子に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。
【0104】
[画像形成層]
本発明に用いられる印刷版材料の好ましい態様として、親水性表面基材もしくは親水性層上に機上現像可能な画像形成層を有する態様が挙げられる。画像形成層は、赤外線レーザーによる露光によって発生する熱によって画像形成するものであることが好ましい。
【0105】
本発明の画像形成層の好ましい態様のひとつとして、画像形成層が疎水化前駆体を含有する態様が挙げられる。
【0106】
疎水化前駆体としては、熱によって親水性(水溶性または水膨潤性)から疎水性へと変化するポリマーを用いることができる。具体的には、例えば、特開2000−56449号に開示されている、アリールジアゾスルホネート単位を含有するポリマーを挙げることができる。本発明においては、疎水化前駆体としては、熱可塑性疎水性粒子、もしくは、疎水性物質を内包するマイクロカプセルを用いることが好ましい。熱可塑性微粒子としては、後述する熱溶融性微粒子および熱融着性微粒子を挙げることができる。
【0107】
本発明に用いられる熱溶融性微粒子とは、熱可塑性素材の中でも特に溶融した際の粘度が低く、一般的にワックスとして分類される素材で形成された微粒子である。物性としては、軟化点40℃以上120℃以下、融点60℃以上150℃以下であることが好ましく、軟化点40℃以上100℃以下、融点60℃以上120℃以下であることが更に好ましい。融点が60℃未満では保存性が問題であり、融点が300℃よりも高い場合はインク着肉感度が低下する。
【0108】
使用可能な素材としては、パラフィン、ポリオレフィン、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸系ワックス等が挙げられる。これらは分子量800から10000程度のものである。又、乳化しやすくするためにこれらのワックスを酸化し、水酸基、エステル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ペルオキシド基などの極性基を導入することもできる。更には、軟化点を下げたり作業性を向上させるためにこれらのワックスにステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリステルアミド、硬化牛脂肪酸アミド、パルミトアミド、オレイン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミド又はこれらの脂肪酸アミドのメチロール化物、メチレンビスステラロアミド、エチレンビスステラロアミドなどを添加することも可能である。又、クマロン−インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー、これらの樹脂の共重合体も使用することができる。
【0109】
これらの中でもポリエチレン、マイクロクリスタリン、脂肪酸エステル、脂肪酸の何れかを含有することが好ましい。これらの素材は融点が比較的低く、溶融粘度も低いため、高感度の画像形成を行うことができる。又、これらの素材は潤滑性を有するため、印刷版材料の表面に剪断力が加えられた際のダメージが低減し、擦りキズ等による印刷汚れ耐性が向上する。
【0110】
又、熱溶融性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱溶融性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0111】
又、熱溶融性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。
【0112】
被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾル−ゲル法等が使用できる。層中の熱溶融性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。
【0113】
本発明の熱融着性微粒子としては、熱可塑性疎水性高分子重合体微粒子が挙げられ、高分子重合体微粒子の軟化温度に特定の上限はないが、温度は高分子重合体微粒子の分解温度より低いことが好ましい。高分子重合体の質量平均分子量(Mw)は10,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。
【0114】
高分子重合体微粒子を構成する高分子重合体の具体例としては、例えば、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−ブタジエン共重合体等のジエン(共)重合体類、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の合成ゴム類、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート−(N−メチロールアクリルアミド)共重合体、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル(共)重合体、酢酸ビニル−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等及びそれらの共重合体が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ビニルエステル(共)重合体、ポリスチレン、合成ゴム類が好ましく用いられる。
【0115】
高分子重合体微粒子は乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、気相重合法等、公知の何れの方法で重合された高分子重合体からなるものでもよい。溶液重合法又は気相重合法で重合された高分子重合体を微粒子化する方法としては、高分子重合体の有機溶媒に溶解液を不活性ガス中に噴霧、乾燥して微粒子化する方法、高分子重合体を水に非混和性の有機溶媒に溶解し、この溶液を水又は水性媒体に分散、有機溶媒を留去して微粒子化する方法等が挙げられる。又、何れの方法においても、必要に応じ重合あるいは微粒子化の際に分散剤、安定剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等の界面活性剤やポリビニルアルコール等の水溶性樹脂を用いてもよい。
【0116】
又、熱融着性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱融着性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱融着性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱融着性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0117】
又、熱融着性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。
【0118】
被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾル−ゲル法等が使用できる。層中の熱可塑性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。
【0119】
[マイクロカプセル]
本発明の印刷版材料に用いられるマイクロカプセルとしては、例えば特開2002−2135号や特開2002−19317号に記載されている疎水性素材を内包するマイクロカプセルを挙げることができる。
【0120】
マイクロカプセルは平均径で0.1〜10μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることがより好ましく、0.5〜3μmであることがさらに好ましい。
【0121】
マイクロカプセルの壁の厚さは径の1/100〜1/5であることが好ましく、1/50〜1/10であることがより好ましい。
【0122】
マイクロカプセルの含有量は画像形成層全体の5〜100質量%であり、20〜95質量%であることが好ましく、40〜90質量%であることがさらに好ましい。
【0123】
マイクロカプセルの壁材となる素材、およびマイクロカプセルの製造方法は公知の素材および方法を用いることができる。たとえば、「新版マイクロカプセルその製法・性質・応用」(近藤保、小石真純著/三共出版株式会社発行)に記載されているか、引用されている文献に記載されている公知の素材および方法を用いることができる。
【0124】
[画像形成層に含有可能なその他の素材]
本発明に用いられる画像形成層にはさらに以下のような素材を含有させることができる。
【0125】
画像形成層には上述の光熱変換素材を含有させることができる。画像形成層は一部が機上現像されるため、可視光での着色の少ない素材を用いることが好ましく、色素を用いることが好ましい。
【0126】
画像形成層には水溶性樹脂、水分散性樹脂を含有させることができる。水溶性樹脂、水分散性樹脂としては、オリゴ糖、多糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられる。
【0127】
これらのなかでは、オリゴ糖、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩(Na塩等)、ポリアクリルアミドが好ましい。
【0128】
オリゴ糖としては、ラフィノース、トレハロース、マルトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースといったものが挙げられるが、特にトレハロースが好ましい。
【0129】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。
【0130】
ポリアクリル酸、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩(Na塩等)、ポリアクリルアミドとしては、分子量3000〜100万であることが好ましく、5000〜50万であることがより好ましい。
【0131】
また、画像形成層には、水溶性の界面活性剤を含有させることができる。Si系、又はF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0132】
さらに、pH調整のための酸(リン酸、酢酸等)またはアルカリ(水酸化ナトリウム、ケイ酸塩、リン酸塩等)を含有していても良い。
【0133】
画像形成層に本発明のキトサン微粒子をマット剤として含有させることができる。
【0134】
画像形成層の付き量としては、0.01〜10g/m2であり、好ましくは0.1〜3g/m2であり、さらに好ましくは0.2〜2g/m2である。
【0135】
[保護層]
画像形成層の上層として保護層を設けることもできる。保護層に用いる素材としては、上述の水溶性樹脂、水分散性樹脂を好ましく用いることができる。また、特開2002−19318号や特開2002−86948号に記載されている親水性オーバーコート層も好ましく用いることができる。
【0136】
保護層にも本発明のキトサン微粒子をマット剤として含有させることができる。また、キトサン微粒子は単独の塗膜としても乾燥時には耐久性のある塗膜であって、かつ、水を付与することで速やかに除去可能となるような、印刷機上で除去する目的の保護層に適した性質を有している。
【0137】
保護層の付き量としては、0.01〜10g/m2であり、好ましくは0.1〜3g/m2であり、さらに好ましくは0.2〜2g/m2である。
【0138】
[機上現像方法]
本発明の印刷版材料の好ましい態様である、赤外線レーザー熱溶融・熱融着方式の印刷版材料の画像形成層は、赤外線レーザー露光部が親油性の画像部となり、未露光部の層が除去されて非画像部となる。未露光部の除去は、水洗によっても可能であるが、印刷機上で湿し水およびまたはインクを用いて除去する、いわゆる機上現像することも十分に可能である。
【0139】
印刷機上での画像形成層の未露光部の除去は、版胴を回転させながら水付けローラーやインクローラーを接触させて行うことができるが、下記に挙げる例のような、もしくは、それ以外の種々のシークエンスによって行うことができる。また、その際には、印刷時に必要な湿し水水量に対して、水量を増加させたり、減少させたりといった水量調整を行ってもよく、水量調整を多段階に分けて、もしくは、無段階に変化させて行ってもよい。
【0140】
(1)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0141】
(2)印刷開始のシークエンスとして、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0142】
(3)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーとインクローラーとを実質的に同時に接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0143】
【実施例】
基材
厚さ175μmの二軸延伸ポリエステルフィルムの両面に、8W/m2・分のコロナ放電処理を施し、次いで、一方の面に下記下引き塗布液aを乾燥膜厚0.8μmになるように塗設後にコロナ放電処理(8W/m2・分)を行いながら下引き塗布液bを乾燥膜厚0.1μmになるように塗布し、各々180℃、4分間乾燥させた(下引き面A)。また反対側の面に下記下引き塗布液cを乾燥膜厚0.8μmになるように塗設後にコロナ放電処理(8W/m2・分)を行いながら下引き塗布液dを乾燥膜厚1.0μmになるように塗布し、それぞれ180℃、4分間乾燥させた(下引き面B)。塗布後の25℃、25%RHでの表面電気抵抗は108Ωであった。このようにして、両面に下引き層を形成した基材を得た。
【0144】
【0145】
【化1】
【0146】
【0147】
【化2】
【0148】
実施例1
キトサン微粒子水分散物の調製
[キトサン微粒子1]
キトサン微粒子水分散物(大日精化社製、脱アセチル化度90%以上、平均粒径2μmで表面に凹凸を有する不定形粒子、固形分6質量%)を用いた。
【0149】
[キトサン微粒子2]
キトサン微粒子(大日精化社製、脱アセチル化度90%以上、粒径5〜10μmで表面に凹凸を有する不定形粒子)粉体をサンドグラインダとジルコニアビーズとを用いて、純水中に分散した後、ビーズを除去し、濾過して、固形分10質量%の水分散物を得た。
【0150】
[キトサン微粒子3]
キトサンフレーク(ダイキトサンM、大日精化社製、脱アセチル化度80%以上)7.5質量部、酒石酸5.0質量部、純水87.5質量部を混合攪拌しながら60℃まで昇温させ、キトサン水溶液とした。
【0151】
ソルビタンモノラウレートの1質量%シクロヘキサノン溶液を用意し、この溶液50質量部とキトサン水溶液50質量部とを混合し、ホモジナイザを用いて15000rpmで攪拌することでエマルションとした。
【0152】
次いで、アミノ変性シリコーン:X−22−161A(信越シリコーン社製)25質量部とブタノール75質量部との混合溶液を作製し、20℃に保ったこのシリコーン溶液80質量部を攪拌しながら、得られたエマルション20質量部をこの中に滴下してキトサンを凝固させた。
【0153】
凝固物を濾過して回収し、純水で洗浄した後、真空乾燥させてキトサン微粒子を得た。
【0154】
得られたキトサン微粒子は平均粒径が3μmであり、SEMを用いて形状を観察したところ、概略球状の形状を有していたが、表面にゴルフボール状の凹部を多数有していた。
【0155】
得られたキトサン微粒子をキトサン微粒子2と同様にして分散し、固形分10質量%の水分散物を得た。
【0156】
[キトサン微粒子4]
キトサンフレーク(ダイキトサンVL、大日精化社製、脱アセチル化度80%以上)を用い、特開平7−25905号の実施例4に記載の方法にしたがって微粒子とした。得られた微粒子はさらに純水で洗浄した後、真空乾燥した。
【0157】
得られたキトサン微粒子は平均粒径が0.6μmであり、SEMを用いて形状を観察したところ、概略球状で表面にわずかに凹凸を有する微粒子であった。
【0158】
得られたキトサン微粒子をキトサン微粒子2と同様にして分散し、固形分10質量%の水分散物を得た。
【0159】
表面凹凸粒子(比較)の作製
[表面凹凸粒子1]
コア粒子として平均粒径5μmの架橋アクリル粒子:MX−500(綜研化学社製)70質量部と、子粒子として平均粒径0.04μmの酸化チタン粒子:TTO−55(A)30質量部とを用い、ハイブリダイザを用いた16000rpmで5分間の乾式処理で複合化し、コア粒子のまわりに子粒子が付着した表面凹凸粒子1を得た。
【0160】
[表面凹凸粒子2]
コア粒子として平均粒径2μmのシリカ粒子:サイリシア(富士シリシア社製)、子粒子として平均粒径0.01μmのシリカ粒子:AEROSIL MOX170(日本アエロジル社製)を用いた以外は表面凹凸粒子1と同様にして、表面凹凸粒子2を得た。
【0161】
[表面凹凸粒子3]
コア粒子として平均粒径0.4μmのPMMA粒子:MP−1000(綜研化学社製)を用いた以外は表面凹凸粒子2と同様にして、表面凹凸粒子3を得た。
【0162】
塗布液の作製
下記の組成の顔料分散ペースト(A)を作製した。純水中に各素材を攪拌しながら添加し、次いで、ホモジナイザで10000rpm、5分間の条件で混合し、固形分30質量%のペーストとした。
【0163】
【表1】
【0164】
下記の各素材を混合攪拌後、濾過して、固形分20質量%の下層1塗布液を作製した。
【0165】
【表2】
【0166】
同様に、下記の各素材を混合攪拌後、濾過して、固形分20質量%の下層2塗布液を作製した。
【0167】
【表3】
【0168】
次に、下記組成の素材をホモジナイザを用いて、10000rpmで10分間攪拌混合し、濾過して、固形分15質量%の親水性層1塗布液を作製した。
【0169】
【表4】
【0170】
同様にして、下記組成の親水性層2〜4塗布液を作製した。
【0171】
【表5】
【0172】
【表6】
【0173】
【表7】
【0174】
次に下記組成の素材を十分に攪拌混合し、濾過して、固形分6質量%の画像形成層塗布液を作製した。
【0175】
【表8】
【0176】
印刷版材料の作製
基材の下引きA面上に、表9に示した下層、親水性層の組み合わせで表9に示した乾燥付量となるように順にワイヤーバーを用いて塗布を行った。
【0177】
下層の塗布乾燥条件は100℃で3分間、親水性層の塗布乾燥条件も100℃で3分間とした。
【0178】
親水性層まで形成した段階で、60℃、24時間の第1エイジング処理を行った。
【0179】
次いで、画像形成層を乾燥付量が0.6g/m2となるようにワイヤーバーを用いて塗布した。塗布乾燥条件は55℃、3分とした。
【0180】
画像形成層までを形成した後、さらに、55℃、24時間のエイジングを行い、各印刷版材料の試料No.1〜7を得た。
【0181】
画像形成
印刷版材料を露光ドラムに巻付け固定した。露光には波長830nm、スポット径約18μmのレーザービームを用い、露光エネルギーを100mJ/cm2から50mJ刻みで400mJ/cm2まで変化させ、各露光エネルギーの条件で、2400dpi(dpiとは1インチ、即ち2.54cm当たりのドット数を表す)、175線で画像を形成した。露光した画像はベタ画像と1〜99%の網点画像と2400dpiのラインアンドスペース細線画像とを含むものである。
【0182】
印刷方法
印刷機:三菱重工業(株)製DAIYA1F−1を用いて、コート紙、湿し水:アストロマーク3(日研化学研究所製)2質量%、インク(東洋インク社製TKハイユニティ紅)を使用して印刷を行った。印刷条件の設定には市販のPS版を用い、印刷機の水量設定値が40の状態で最適な水インクバランスとなるように設定した。印刷版材料は露光後そのままの状態で版胴に取り付け、水量設定値を50として、PS版と同じ刷り出しシークエンスを用いて印刷した。
【0183】
印刷評価
[感度評価]
各印刷版材料について、刷り出しから100枚目の印刷物で、1%網点画像が欠けなく再現されている、最低露光エネルギー量を求め、適性感度とした。結果を表9に示した。
【0184】
[水インクバランス評価]
刷り出しから400枚印刷した時点で、水量設定値を20まで下げてさらに100枚印刷して、印刷版全面にインクがついた状態とした。次いで、さらに50枚印刷して50枚目の印刷物を評価用試料としてサンプリングし、すぐに水量設定値を2上げるという作業を、印刷機を止めずに水量設定値が60になるまで繰り返した。
【0185】
各印刷版材料において、適性感度とした露光エネルギーの画像で95%網点画像の網が開く(つぶれがなくなる)最低水量設定値を求めた。値が小さいほど水インクバランスは良好である。結果を表9に示した。
【0186】
[汚し回復性評価]
水インクバランス評価の後、各印刷版材料において水インクバランス評価で求めた95%網点画像が開く最低水量に対して4プラスした水量設定値とし、さらに500枚印刷した。次いで、印刷しながら水供給ローラーを版面から離し、全面にインクがついた状態となってから20枚印刷し、次いで、水供給ローラーを版面に接触させて水供給を再開した。各印刷版材料の適性感度とした露光エネルギーの画像で95%網点画像の網が開く(つぶれがなくなる)ようになるまでの水供給再開からの印刷枚数を求めた。枚数が少ないほど印刷条件変動に対する応答が速く良好である。結果を表9に示した。
【0187】
【表9】
【0188】
表9より、本発明であるキトサン微粒子を用いた印刷版材料は非常に良好な印刷性能を有していることがわかる。
【0189】
実施例2
印刷版材料の作製
実施例1で用いた印刷版材料試料No.5に、さらにキトサン微粒子1の分散液を3質量%に純水で希釈した分散液を、乾燥付量が1.0g/m2となるように塗布し、55℃で3分間乾燥して、キトサン微粒子の保護層が形成された印刷版材料No.8を得た。
【0190】
次に、印刷版材料No.7を用い、保護層の塗布液として3質量%のPVA(PVA117、クラレ社製)水溶液を用い、乾燥付量を0.5g/m2とした以外は、印刷版材料No.8と同様にして、印刷版材料No.9を得た。
【0191】
印刷版材料No.8、No.9および保護層のない実施例1で用いた印刷版材料試料No.7に、実施例1と同様にして露光エネルギーを350mJ/cm2とした条件で画像形成を行った。
【0192】
次いで、各印刷版材料の画像記録のなされていない非画像部となる領域に、HEIDONスクラッチ試験機を用いてスクラッチ傷を形成した。スクラッチには先端形状が0.3mmφのサファイア触針を用い、50gから荷重を50gずつ増加させて350gまでのスクラッチ傷を付けた。
【0193】
実施例1と同様にして印刷を行い、画像形成の程度、良好なコントラストが得られるまでの刷り出しからの枚数、刷り出しから100枚の時点の印刷物でのスクラッチ傷が汚れとして確認できない最大スクラッチ荷重とを求めた。結果を表10に示した。
【0194】
【表10】
【0195】
表10からわかるように、キトサン微粒子から形成した保護層は、画像形成能や刷り出し性を損なうことなくスクラッチ耐性を向上可能である。実施例で用いたような態様の印刷版材料においては、PVAのような水溶性樹脂は画像形成能を著しく劣化させるため用いることは困難である。
【0196】
【発明の効果】
本発明により、基材上への親水性表面形成を安価な塗布により行うことができ、かつ、印刷版としての性能(水量ラチチュード、非画像部の汚れにくさ、ブランケット汚れのしにくさ等)がアルミ砂目と同等以上であり、かつ、十分な耐刷性を有する印刷版材料を提供することができた。
Claims (3)
- 基材上にキトサン微粒子を含有する層を有することを特徴とする印刷版材料。
- キトサン微粒子を含有する層が印刷時に非画像部となる親水性層であることを特徴とする請求項1記載の印刷版材料。
- キトサン微粒子の粒径が0.1μm以上、10μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の印刷版材料。
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Citations (3)
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