JP2005007575A - 印刷版材料および印刷方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】版胴取り付け適性に優れ、自動もしくは半自動版換え装置にも適用可能であり、かつ、吸引ドラムを用いた露光装置への適性も改善された印刷版材料を提供し、特に樹脂基材を用いた印刷版もしくは印刷版材料を用いた見当精度を向上させた印刷方法の提供する。
【解決手段】裏面コート層を有する印刷版材料において、該裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値を有していることを特徴とする印刷版材料および印刷方法。
【選択図】 なし
【解決手段】裏面コート層を有する印刷版材料において、該裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値を有していることを特徴とする印刷版材料および印刷方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷版材料に関し、特に吸引ドラム上に固定して露光されるコンピューター・トゥー・プレート(CTP)方式により画像形成が可能な印刷版材料に関し、更に、多色印刷における見当精度が向上した印刷方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
多色印刷に用いられる印刷版としては、主としてアルミニウム基材の印刷版が用いられてきた。一方で、CTP化の流れの中で、エントリーレベルのCTPとして樹脂基材の印刷版を用いたシステムの導入も進んでいる。
【0003】
樹脂基材の印刷版は、印刷機版胴上で版ずれや版伸びを生じることによりアルミニウム機材の印刷版よりも見当精度が低いということが問題であり、多色印刷に適用可能なレベルにまで検討精度を向上させるための種々の検討がなされている。
【0004】
印刷版材料の改良としては、例えば、裏面のRa値を1.5以上とした印刷版が開示されて(例えば、特許文献1参照。)いる。また、裏面のベック平滑度を500秒以下とした印刷版が開示されて(例えば、特許文献2参照。)いる。
【0005】
上記のような印刷版は裏面の表面粗さを粗くすることで版胴表面との摩擦を低減し、印刷版材料の片伸び防止や版胴上での印刷版位置の微調整を可能としたものである。
【0006】
しかし、CTP印刷版材料としては、吸引機構を有するドラム外面に固定して露光される場合があり、このような裏面粗さを有する印刷版材料では、エア抜けを生じて吸引固定力が弱まるという問題点を有している。これは、露光生産性を向上させた場合、つまりはドラム回転数を向上させた場合には印刷版材料が脱落していまう懸念を有している。
【0007】
また、版胴表面と印刷版裏面との摩擦を低減させることで、印刷時の版ずれの懸念は増大し、多色印刷に必要とされる見当精度には不十分である。
【0008】
一方、表面凹凸構造を有する版下シートを印刷版と版胴表面との間に介在させ、版下シートの凸部を印刷版裏面に圧接させて、印刷版裏面を凹ませて固定する印刷版の位置ずれ防止方法が開示されて(例えば、特許文献3参照。)いる。しかし、実施例のように平均粒径30μmのガラス粒子を点在させた版下シートを用いて印刷を行った場合には、版下シートに粒子が存在する部分の印圧がその周囲よりも高くなって、印圧の高い部分の画像がより早く摩滅し、耐刷むらを生じる懸念がある。
【0009】
また、裏面に凹凸形状を有する印刷版と凹凸を有する版下シートとを、凹凸同士が向き合うように版胴上に設置して印刷を行う方法が開示されて(例えば、特許文献4参照。)いる。しかし、実施例のように版下シートと印刷版裏面とに平均粒径30μmのガラス粒子を点在させたものを向かい合わせて設置した場合でも、上記のように粒子が存在する部分の印圧がその周囲よりも高くなる問題に加えて、部分的に版下上の粒子と印刷版裏面状の粒子とが重なった場合にはさらにその部分の印圧が高くなって、より顕著な耐刷むらが生じる懸念がある。
【0010】
このように、非金属基材を用いた印刷版もしくは印刷版材料の版胴取り付け適性改良で提案されてきた裏面形状は、吸引ドラムを用いた露光装置への適性に関して全く考慮されていないものである。
【0011】
また、樹脂基材を用いた印刷版もしくは印刷版材料を多色印刷に適用可能なレベルで検討精度よく、かつ、画質の劣化の懸念無しに版胴上に固定する方法は得られていない。
【0012】
【特許文献1】
特開平11−105446号公報 (特許請求の範囲)
【0013】
【特許文献2】
特開2002−347365号公報 (特許請求の範囲)
【0014】
【特許文献3】
特開2000−318341号公報 (特許請求の範囲)
【0015】
【特許文献4】
特開2002−19322号公報 (特許請求の範囲)
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、版胴取り付け適性に優れ、自動もしくは半自動版換え装置にも適用可能であり、かつ、吸引ドラムを用いた露光装置への適性も改善された印刷版材料を提供することにある。さらに、特に樹脂基材を用いた印刷版もしくは印刷版材料を用いた見当精度を向上させた印刷方法の提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成された。
【0018】
1.裏面コート層を有する印刷版材料において、該裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値を有していることを特徴とする印刷版材料。
【0019】
2.裏面コート層を有する印刷版材料において、該裏面コート層の表面凹凸形態が、凸部が連続相であり、凹部が不連続相となっていることを特徴とする印刷版材料。
【0020】
3.裏面コート層を有する印刷版材料もしくは印刷版を印刷機の版胴上に設置して行う印刷方法において、該裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値であり、かつ、該版胴表面の表面粗さパラメータ:Rskが正の値であることを特徴とする印刷方法。
【0021】
4.裏面コート層を有する印刷版材料もしくは印刷版を印刷機の版胴上に設置して行う印刷方法において、該裏面コート層の表面凹凸形態が、凸部が連続相であり、凹部が不連続相となっている表面凹凸形態であり、かつ、該版胴表面の表面凹凸形態が、凸部が不連続相であり、凹部が連続相となっている表面凹凸形態であることを特徴とする印刷方法。
【0022】
5.版胴表面が、所定の表面形態を形成したシート部材を該版胴上に固定してなるものであることを特徴とする前記3又は4記載の印刷方法。
【0023】
本発明を更に詳しく説明する。本発明は、裏面コート層を有する印刷版材料において、裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値を有していることを特徴とする印刷版材料である。
【0024】
表面粗さパラメータのRsk(スキューネス)とは、表面の高さ分布が正規分布からどの程度ずれているかの指標であり、Rskの値が0の場合に正規分布に近い分布となる。モデル的な表面としては、平坦な面に突起を形成した場合には、Rskの値は正となり、平坦な面に凹みを形成した場合には、Rskの値は負となる。
【0025】
表面粗さ曲線から下記の式を用いて計算することでRskの値を求めることができる。式(1)はアナログ的な粗さ測定から得られた表面粗さプロファイルに対して適用する計算式であり、式(2)はディジタル的な粗さ測定から得られた表面粗さプロファイルに対して適用する計算式である。また、式(3)、(4)は、それぞれ式(1)、(2)に含まれているRqを算出する計算式である。
【0026】
【数1】
【0027】
上式において、Lは測定長、Nは測定点数を示すものである。また、rは表面粗さプロファイルにおける各測定部位もしくは測定点の粗さ中心線からの差異を示すものである。
【0028】
表面粗さプロファイルの高さ分布が粗さ中心線を中心とした正規分布となっているときに、Rsk値はほぼ0となる。
【0029】
特開平11−105446号や特開2002−347365号に開示されている裏面形状は、粗大粒子を点在させて形成されたものであり、これらのRsk値は正となる。
【0030】
Rsk値が負の値を有するということは、表面粗さプロファイルとしては、主に凹みにより粗さを形成したものであるといえる。
【0031】
一般に、粗さ付与による摩擦係数の低減は、真実接触面積の低減によるものであると考えられているが、摩擦係数の軽減に関しては、真実接触面積が同等であれば、Rsk値によらず同等の軽減効果が得られると考えられる。裏面に粗さを付与することにより、印刷版材料と版胴との低荷重時、つまりは、印刷版材料取り付け時のすべり性が良好となって、印刷版材料のゆがみや片伸び等の不具合なしに印刷版材料を版胴に取り付けることが可能になる。また、自動もしくは半自動の版交換装置にも好ましく対応できるようになる。
【0032】
これに対して、吸引ドラム上での保持効果に関しては、Rsk値が正であるよりも負である方が保持効果が高くなる。これは、点状の突起によって粗さを付与したRsk値が正である面では、吸引ドラム上に密着させても点状突起間に幅広い連続した空気の抜け道が生じ、印刷版材料端部からのエア抜けが生じるためである。
【0033】
このように、裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値を有していることにより、吸引ドラムによる固定方式の露光装置への適性を有し、かつ、印刷機版胴上への取り付け性も良好となる。
【0034】
本発明はまた、裏面コート層を有する印刷版材料において、裏面コート層の表面凹凸形態が、凸部が連続相であり、凹部が不連続相となっていることを特徴とする印刷版材料である。
【0035】
Rsk値が負である場合と同様の理由で、裏面コート層の表面凹凸形態を、凸部を連続相とし、凹部を不連続相とすることで、吸引ドラム上での保持効果を低減させずに、摩擦係数を低減させることが可能となる。
【0036】
上記のような凹凸形態を有し、かつ、Rsk値が負の値であることがより好ましい態様である。
【0037】
凹部の存在する間隔としては、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましい。
【0038】
裏面コート層にこのような表面形態を付与する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、平坦な表面に形成した裏面コート層を、規則的な凸部を有するように加工した(突起粒子を適度な密度で固着させる等)ロールで押し付け加工して、規則的な凹部を形成するといった方法が挙げられる。
【0039】
また、裏面コート層を形成する塗布液に、相分離を生じる素材を含有させ、塗布乾燥過程での相分離構造形成によって、規則的な凹部を形成させることもできる。
【0040】
また、裏面コート層には、常温で液体もしくは固体の公知の潤滑剤を含有させてもよい。さらに、有機もしくは無機の公知の導電性素材を含有させてもよい。
【0041】
また、本発明は、裏面コート層を有する印刷版材料もしくは印刷版を印刷機の版胴上に設置して行う印刷方法において、裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値であり、かつ、版胴表面の表面粗さパラメータのRskが正の値であることを特徴とする印刷方法である。
【0042】
印刷版材料もしくは印刷版(以下印刷版とする)を版胴上に取り付ける際には、印刷版裏面が、版胴表面に対して適度なすべり性を有することが好ましいが、版胴のくわえ部により適度な張力を付与されて(つまりは、印刷版裏面が版胴表面に適度な荷重で押し付けられて)版胴上に固定された後は、版ずれや版伸びが生じないように、印刷版裏面と版胴表面とは高い摩擦係数を生じることが好ましい。
【0043】
本発明によれば、裏面コート層の凹部と版胴表面の凸部とが、適度な荷重をかけることによってかみ合い、印刷中の版ずれや版伸びを抑制することが可能となる。
【0044】
さらに、本発明は、裏面コート層を有する印刷版材料もしくは印刷版を印刷機の版胴上に設置して行う印刷方法において、裏面コート層の表面凹凸形態が、凸部が連続相であり、凹部が不連続相となっている表面凹凸形態であり、かつ、版胴表面の表面凹凸形態が、凸部が不連続相であり、凹部が連続相となっている表面凹凸形態であることを特徴とする印刷方法である。
【0045】
この態様においても、上記と同様に、裏面コート層の凹部と版胴表面の凸部とが、適度な荷重をかけることによってかみ合い、印刷中の版ずれや版伸びを抑制することが可能となる。
【0046】
また、この態様においても、裏面コート層のRsk値が負の値であることがより好ましく、また、版胴表面のRsk値が正の値であることがより好ましい。
【0047】
また、本発明に用いられる版胴表面は、直接所定の表面形態に加工されたものであっても良いが、所定の表面形態を形成したシート部材を版胴上に固定してなるものでもよい。
【0048】
本発明に用いられる印刷版材料としては、画像形成方式は特定されるものではない。公知の電子写真方式による画像形成、インクジェット方式による画像形成、溶融熱転写方式による画像形成、銀錯塩拡散転写方式による画像形成、サーマルレーザー熱溶融・熱融着方式による画像形成等の、種々の方式の印刷版材料に適用することができる。
【0049】
特に好ましい態様としては、基材上に後述する親水性層を設け、さらにその上に疎水化前駆体粒子を含有する画像形成層を設けた、サーマルレーザー熱溶融・熱融着方式の印刷版材料が挙げられる。
【0050】
[基材]
基材としては、印刷版の基板として使用される公知の材料を使用することができる。例えば、金属板、プラスチックフィルム、ポリオレフィン等で処理された紙、上記材料を適宜貼り合わせた複合基材等が挙げられる。基材の厚さとしては、印刷機に取り付け可能であれば特に制限されるものではないが、50〜500μmのものが一般的に取り扱いやすい。
【0051】
金属板としては、鉄、ステンレス、アルミニウム等が挙げられるが、比重と剛性との関係から特にアルミニウムが好ましい。アルミニウム板は、通常その表面に存在する圧延・巻取り時に使用されたオイルを除去するためにアルカリ、酸、溶剤等で脱脂した後に使用される。脱脂処理としては特にアルカリ水溶液による脱脂が好ましい。また、塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。例えば、ケイ酸塩やシランカップリング剤等のカップリング剤を含有する液に浸漬するか、液を塗布した後、十分な乾燥を行う方法が挙げられる。陽極酸化処理も易接着処理の一種と考えられ、使用することができる。また、陽極酸化処理と上記浸漬または塗布処理を組み合わせて使用することもできる。また、公知の方法で粗面化されたアルミニウム基材、いわゆるアルミ砂目を、親水性表面を有する基材として使用することもできる。
【0052】
プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、セルロースエステル類等を挙げることができる。
本発明に用いる基材としては、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。これらプラスチックフィルムは塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。易接着処理としては、コロナ放電処理や火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。また、下塗り層としては、ゼラチンやラテックスを含む層等が挙げられる。下塗り層に、有機または無機の公知の導電性素材を含有させることもできる。
【0053】
[親水性層]
本発明に用いられるの印刷版材料の態様のひとつとして、基材上に親水性層を有する態様が挙げられる。親水性層は一層であっても良いし、複数の層から形成されていても良い。
【0054】
親水性層に用いられる素材としては、金属酸化物が好ましい。金属酸化物としては、金属酸化物微粒子を含むことが好ましい。例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物のゾルが挙げられる。該金属酸化物微粒子の形態としては、球状、針状、羽毛状、その他の何れの形態でも良い。平均粒径としては、3〜100nmであることが好ましく、平均粒径が異なる数種の金属酸化物微粒子を併用することもできる。又、粒子表面に表面処理がなされていても良い。
【0055】
上記金属酸化物微粒子はその造膜性を利用して結合剤としての使用が可能である。有機の結合剤を用いるよりも親水性の低下が少なく、親水性層への使用に適している。
【0056】
本発明には、上記の中でも特にコロイダルシリカが好ましく使用できる。コロイダルシリカは比較的低温の乾燥条件であっても造膜性が高いという利点があり、炭素原子を含まない素材が91質量%以上というような層においても良好な強度を得ることができる。
【0057】
上記コロイダルシリカとしては、後述するネックレス状コロイダルシリカ、平均粒径20nm以下の微粒子コロイダルシリカを含むことが好ましく、さらに、コロイダルシリカはコロイド溶液としてアルカリ性を呈することが好ましい。
【0058】
本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは1次粒子径がnmのオーダーである球状シリカの水分散系の総称である。本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは1次粒粒子径が10〜50nmの球状コロイダルシリカが50〜400nmの長さに結合した「パールネックレス状」のコロイダルシリカを意味する。パールネックレス状(即ち真珠ネックレス状)とは、コロイダルシリカのシリカ粒子が連なって結合した状態のイメージが真珠ネックレスの様な形状をしていることを意味している。ネックレス状コロイダルシリカを構成するシリカ粒子同士の結合は、シリカ粒子表面に存在する−SiOH基が脱水結合した−Si−O−Si−と推定される。ネックレス状のコロイダルシリカとしては、具体的には日産化学工業(株)製の「スノーテックス−PS」シリーズなどが挙げられる。
【0059】
製品名としては「スノーテックス−PS−S(連結した状態の平均粒子径は110nm程度)」、「スノーテックス−PS−M(連結した状態の平均粒子径は120nm程度)」及び「スノーテックス−PS−L(連結した状態の平均粒子径は170nm程度)」があり、これらにそれぞれ対応する酸性の製品が「スノーテックス−PS−S−O」、「スノーテックス−PS−M−O」及び「スノーテックス−PS−L−O」である。
【0060】
ネックレス状コロイダルシリカを添加することにより、層の多孔性を確保しつつ、強度を維持することが可能となり、層の多孔質化材として好ましく使用できる。
【0061】
これらの中でも、アルカリ性である「スノーテックスPS−S」、「スノーテックスPS−M」、「スノーテックスPS−L」を用いると、親水性層の強度が向上し、また、印刷枚数が多い場合でも地汚れの発生が抑制され、特に好ましい。
【0062】
また、コロイダルシリカは粒子径が小さいほど結合力が強くなることが知られており、本発明には平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカを用いることが好ましく、3〜15nmであることが更に好ましい。又、前述のようにコロイダルシリカの中ではアルカリ性のものが地汚れ発生を抑制する効果が高いため、アルカリ性のコロイダルシリカを使用することが特に好ましい。
【0063】
平均粒径がこの範囲にあるアルカリ性のコロイダルシリカとしては日産化学社製の「スノーテックス−20(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−30(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−40(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−N(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−S(粒子径8〜11nm)」、「スノーテックス−XS(粒子径4〜6nm)」が挙げられる。
【0064】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカは前述のネックレス状コロイダルシリカと併用することで、層の多孔質性を維持しながら、強度をさらに向上させることが可能となり、特に好ましい。
【0065】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカ/ネックレス状コロイダルシリカの比率は95/5〜5/95が好ましく、70/30〜20/80がより好ましく、60/40〜30/70が更に好ましい。
【0066】
本発明の印刷版材料の親水性層は金属酸化物として多孔質金属酸化物粒子を含むことが好ましい。多孔質金属酸化物粒子としては、後述する多孔質シリカ又は多孔質アルミノシリケート粒子もしくはゼオライト粒子を好ましく用いることができる。
【0067】
多孔質シリカ粒子は一般に湿式法又は乾式法により製造される。湿式法ではケイ酸塩水溶液を中和して得られるゲルを乾燥、粉砕するか、中和して析出した沈降物を粉砕することで得ることができる。乾式法では四塩化珪素を水素と酸素と共に燃焼し、シリカを析出することで得られる。これらの粒子は製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0068】
多孔質シリカ粒子としては、湿式法のゲルから得られるものが特に好ましい。多孔質アルミノシリケート粒子は例えば特開平10−71764号に記載されている方法により製造される。即ち、アルミニウムアルコキシドと珪素アルコキシドを主成分として加水分解法により合成された非晶質な複合体粒子である。粒子中のアルミナとシリカの比率は1:4〜4:1の範囲で合成することが可能である。又、製造時にその他の金属のアルコキシドを添加して3成分以上の複合体粒子として製造したものも本発明に使用できる。これらの複合体粒子も製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0069】
粒子の多孔性としては、分散前の状態で細孔容積で1.0ml/g以上であることが好ましく、1.2ml/g以上であることがより好ましく、1.8〜2.5ml/g以下であることが更に好ましい。
【0070】
細孔容積は塗膜の保水性と密接に関連しており、細孔容積が大きいほど保水性が良好となって印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなるが、2.5ml/gよりも大きくなると粒子自体が非常に脆くなるため塗膜の耐久性が低下する。細孔容積が1.0ml/g未満の場合には、印刷時の汚れにくさ、水量ラチチュードの広さが不充分となる。
【0071】
粒径としては、親水性層に含有されている状態で(例えば分散時に破砕された場合も含めて)、実質的に1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることが更に好ましい。不必要に粗大な粒子が存在すると親水性層表面に多孔質で急峻な突起が形成され、突起周囲にインクが残りやすくなって非画線部汚れやブランケット汚れが劣化する場合がある。
【0072】
ゼオライトは結晶性のアルミノケイ酸塩であり、細孔径が0.3〜1nmの規則正しい三次元網目構造の空隙を有する多孔質体である。天然及び合成ゼオライトを合わせた一般式は、次のように表される。
【0073】
(M1、M2 1/2)m(AlmSinO2(m+n))・xH2O
ここで、M1、M1は交換性のカチオンであって、M1はLi+、Na+、K+、Tl+、Me4N+(TMA)、Et4N+(TEA)、Pr4N+(TPA)等であり、M1はCa2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+等である。又、n≧mであり、m/nの値つまりはAl/Si比率は1以下となる。Al/Si比率が高いほど交換性カチオンの量が多く含まれるため極性が高く、従って親水性も高い。好ましいAl/Si比率は0.4〜1.0であり、更に好ましくは0.8〜1.0である。xは整数を表す。
【0074】
本発明で使用するゼオライト粒子としては、Al/Si比率が安定しており、又粒径分布も比較的シャープである合成ゼオライトが好ましく、例えばゼオライトA:Na12(Al12Si12O48)・27H2O;Al/Si比率1.0、ゼオライトX:Na86(Al86Si106O384)・264H2O;Al/Si比率0.811、ゼオライトY:Na56(Al56Si136O384)・250H2O;Al/Si比率0.412等が挙げられる。
【0075】
Al/Si比率が0.4〜1.0である親水性の高い多孔質粒子を含有することで親水性層自体の親水性も大きく向上し、印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなる。又、指紋跡の汚れも大きく改善される。Al/Si比率が0.4未満では親水性が不充分であり、上記性能の改善効果が小さくなる。
【0076】
また、本発明の感熱性平版印刷版材料の親水性層マトリクスは層状粘土鉱物粒子を含有することができる。該層状鉱物粒子としては、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サボナイト等)、バーミキュライト、マイカ(雲母)、クロライトといった粘土鉱物及び、ハイドロタルサイト、層状ポリケイ酸塩(カネマイト、マカタイト、アイアライト、マガディアイト、ケニヤアイト等)等が挙げられる。中でも、単位層(ユニットレイヤー)の電荷密度が高いほど極性が高く、親水性も高いと考えられる。好ましい電荷密度としては0.25以上、更に好ましくは0.6以上である。このような電荷密度を有する層状鉱物としては、スメクタイト(電荷密度0.25〜0.6;陰電荷)、バーミキュライト(電荷密度0.6〜0.9;陰電荷)等が挙げられる。特に、合成フッ素雲母は粒径等安定した品質のものを入手することができ好ましい。又、合成フッ素雲母の中でも、膨潤性であるものが好ましく、自由膨潤であるものが更に好ましい。
【0077】
又、上記の層状鉱物のインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、イオン交換処理を施したもの、表面処理(シランカップリング処理、有機バインダとの複合化処理等)を施したものも使用することができる。
【0078】
平板状層状鉱物粒子のサイズとしては、層中に含有されている状態で(膨潤工程、分散剥離工程を経た場合も含めて)、平均粒径(粒子の最大長)が20μm以下であり、又平均アスペクト比(粒子の最大長/粒子の厚さ)が20以上の薄層状であることが好ましく、平均粒径が5μm以下であり、平均アスペクト比が50以上であることが更に好ましく、平均粒径が1μm以下であり、平均アスペクト比が50以上であることが更に好ましい。粒子サイズが上記範囲にある場合、薄層状粒子の特徴である平面方向の連続性及び柔軟性が塗膜に付与され、クラックが入りにくく乾燥状態で強靭な塗膜とすることができる。また、粒子物を多く含有する塗布液においては、層状粘土鉱物の増粘効果によって、粒子物の沈降を抑制することができる。粒子径が上記範囲をはずれると、引っかきによるキズ抑制効果が低下する場合がある。又、アスペクト比が上記範囲以下である場合、柔軟性が不充分となり、同様に引っかきによるキズ抑制効果が低下する場合がある。
【0079】
層状鉱物粒子の含有量としては、層全体の0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。特に膨潤性合成フッ素雲母やスメクタイトは少量の添加でも効果が見られるため好ましい。層状鉱物粒子は、塗布液に粉体で添加してもよいが、簡便な調液方法(メディア分散等の分散工程を必要としない)でも良好な分散度を得るために、層状鉱物粒子を単独で水に膨潤させたゲルを作製した後、塗布液に添加することが好ましい。
【0080】
本発明に係る親水性層の親水性層マトリクスにはその他の添加素材として、ケイ酸塩水溶液も使用することができる。ケイ酸Na、ケイ酸K、ケイ酸Liといったアルカリ金属ケイ酸塩が好ましく、そのSiO2/M2O比率はケイ酸塩を添加した際の塗布液全体のpHが13を超えない範囲となるように選択することが無機粒子の溶解を防止する上で好ましい。
【0081】
また、金属アルコキシドを用いた、いわゆるゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーも使用することができる。ゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーの形成については、例えば「ゾル−ゲル法の応用」(作花済夫著/アグネ承風社発行)に記載されているか、又は本書に引用されている文献に記載されている公知の方法を使用することができる。
【0082】
本発明は、親水性層中には親水性有機樹脂を含有させてもよい。親水性有機樹脂としては、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられる。
【0083】
又、カチオン性樹脂を含有しても良く、カチオン性樹脂としては、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン等のようなポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。カチオン性樹脂は微粒子状の形態で添加しても良い。これは、例えば特開平6−161101号に記載のカチオン性マイクロゲルが挙げられる。
【0084】
本発明のより好ましい態様としては、親水性層中に含有される親水性有機樹脂は水溶性であり、かつ、少なくともその一部が水溶性の状態のまま、水に溶出可能な状態で存在することが挙げられる。水溶性の素材であっても、架橋剤等によって架橋し、水に不溶の状態になると、その親水性は低下して印刷性能を劣化させる懸念がある。
【0085】
本発明の親水性層に含有される炭素原子を含む水溶性素材としては、糖類が好ましい。親水性層に糖類を含有させることにより、後述する画像形成能を有する機能層との組み合わせにおいて、画像形成の解像度を向上させたり、耐刷性を向上させたりする効果が得られる。
【0086】
糖類としては、後に詳細に説明するオリゴ糖を用いることもできるが、特に多糖類を用いることが好ましい。
【0087】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。
【0088】
これは、親水性層に多糖類を含有させることにより、親水性層の表面形状を好ましい状態形成する効果が得られるためである。
【0089】
親水性層の表面は、PS版のアルミ砂目のように0.1〜50μmピッチの凹凸構造を有することが好ましく、この凹凸により保水性や画像部の保持性が向上する。
【0090】
このような凹凸構造は、親水性層に適切な粒径のフィラーを適切な量含有させて形成することも可能であるが、親水性層の塗布液に前述のアルカリ性コロイダルシリカと前述の水溶性多糖類とを含有させ、親水性層を塗布、乾燥させる際に相分離を生じさせて形成することがより良好な印刷性能を有する構造を得ることができ、好ましい。
【0091】
凹凸構造の形態(ピッチ及び表面粗さなど)はアルカリ性コロイダルシリカの種類及び添加量、水溶性多糖類の種類及び添加量、その他添加材の種類及び添加量、塗布液の固形分濃度、ウエット膜厚、乾燥条件等で適宜コントロールすることが可能である。
【0092】
凹凸構造のピッチとしては0.2〜30μmであることがより好ましく、0.5〜20μmであることが更に好ましい。又、ピッチの大きな凹凸構造の上に、それよりもピッチの小さい凹凸構造が形成されているような多重構造の凹凸構造が形成されていてもよい。
【0093】
表面粗さとしては、Raで100〜1000nmが好ましく、150〜600nmがより好ましい。
【0094】
また、親水性層の膜厚としては、0.01〜50μmであり、好ましくは0.2〜10μmであり、更に好ましくは0.5〜3μmである。
【0095】
また、本発明の親水性層(の塗布液)には、塗布性改善等の目的で水溶性の界面活性剤を含有させることができる。Si系、又はF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0096】
また、本発明の親水性層はリン酸塩を含むことができる。本発明では親水性層の塗布液がアルカリ性であることが好ましいため、リン酸塩としてはリン酸三ナトリウムやリン酸水素二ナトリウムとして添加することが好ましい。リン酸塩を添加することで、印刷時の網の目開きを改善する効果が得られる。リン酸塩の添加量としては、水和物を除いた有効量として、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%が更に好ましい。
【0097】
[光熱変換素材]
本発明において、赤外線レーザーを用いた画像形成を行う場合には光熱変換素材を含有していることが好ましい。好ましい光熱変換素材としては下記のような素材を挙げることができる。
【0098】
一般的な赤外吸収色素であるシアニン系色素、クロコニウム系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの有機化合物、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系、ジチオール系、インドアニリン系の有機金属錯体などが挙げられる。具体的には、特開昭63−139191号、特開昭64−33547号、特開平1−160683号、特開平1−280750号、特開平1−293342号、特開平2−2074号、特開平3−26593号、特開平3−30991号、特開平3−34891号、特開平3−36093号、特開平3−36094号、特開平3−36095号、特開平3−42281号、特開平3−97589号、特開平3−103476号等に記載の化合物が挙げられる。これらは一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0099】
また、特開平11−240270号、特開平11−265062号、特開2000−309174号、特開2002−49147号、特開2001−162965号、特開2002−144750号、特開2001−219667号に記載の化合物も好ましく用いることができる。
【0100】
顔料としては、カーボン、グラファイト、金属、金属酸化物等が挙げられる。カーボンとしては特にファーネスブラックやアセチレンブラックの使用が好ましい。粒度(d50)は100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。
【0101】
グラファイトとしては粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子を使用することができる。
【0102】
金属としては粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子であれば何れの金属であっても使用することができる。形状としては球状、片状、針状等何れの形状でも良い。特にコロイド状金属微粒子(Ag、Au等)が好ましい。
【0103】
金属酸化物としては、可視光域で黒色を呈している素材、または素材自体が導電性を有するか、半導体であるような素材を使用することができる。
【0104】
前者としては、黒色酸化鉄や二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物が挙げられる。
【0105】
後者とては、例えばSbをドープしたSnO2(ATO)、Snを添加したIn2O3(ITO)、TiO2、TiO2を還元したTiO(酸化窒化チタン、一般的にはチタンブラック)などが挙げられる。又、これらの金属酸化物で芯材(BaSO4、TiO2、9Al2O3・2B2O、K2O・nTiO2等)を被覆したものも使用することができる。これらの粒径は、0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。
【0106】
これらの光熱変換素材のうち黒色酸化鉄や二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物がより好ましい素材として挙げられる。
【0107】
黒色酸化鉄(Fe3O4)としては、平均粒子径0.01〜1μmであり、針状比(長軸径/短軸径)が1〜1.5の範囲の粒子であることが好ましく、実質的に球状(針状比1)であるか、もしくは、八面体形状(針状比約1.4)を有していることが好ましい。
【0108】
このような黒色酸化鉄粒子としては、例えば、チタン工業社製のTAROXシリーズが挙げられる。球状粒子としては、BL−100(粒径0.2〜0.6μm)、BL−500(粒径0.3〜1.0μm)等を好ましく用いることができる。また、八面体形状粒子としては、ABL−203(粒径0.4〜0.5μm)、ABL−204(粒径0.3〜0.4μm)、ABL−205(粒径0.2〜0.3μm)、ABL−207(粒径0.2μm)等を好ましく用いることができる。
【0109】
さらに、これらの粒子表面をSiO2等の無機物でコーティングした粒子も好ましく用いることができ、そのような粒子としては、SiO2でコーティングされた球状粒子:BL−200(粒径0.2〜0.3μm)、八面体形状粒子:ABL−207A(粒径0.2μm)が挙げられる。
【0110】
黒色複合金属酸化物としては、具体的には、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Baから選ばれる二種以上の金属からなる複合金属酸化物である。これらは、特開平8−27393号公報、特開平9−25126号公報、特開平9−237570号公報、特開平9−241529号公報、特開平10−231441号公報等に開示されている方法により製造することができる。
【0111】
本発明に用いる複合金属酸化物としては、特にCu−Cr−Mn系またはCu−Fe−Mn系の複合金属酸化物であることが好ましい。Cu−Cr−Mn系の場合には、6価クロムの溶出を低減させるために、特開平8−27393号公報に開示されている処理を施すことが好ましい。これらの複合金属酸化物は添加量に対する着色、つまり、光熱変換効率が良好である。
【0112】
これらの複合金属酸化物は平均1次粒子径が1μm以下であることが好ましく、平均1次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲にあることがより好ましい。平均1次粒子径が1μm以下とすることで、添加量に対する光熱変換能がより良好となり、平均1次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲とすることで添加量に対する光熱変換能がより良好となる。ただし、添加量に対する光熱変換能は、粒子の分散度にも大きく影響を受け、分散が良好であるほど良好となる。したがって、これらの複合金属酸化物粒子は、層の塗布液に添加する前に、別途公知の方法により分散して、分散液(ペースト)としておくことが好ましい。平均1次粒子径が0.01未満となると分散が困難となるため好ましくない。分散には適宜分散剤を使用することができる。分散剤の添加量は複合金属酸化物粒子に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。
【0113】
[画像形成層]
本発明に用いられる印刷版材料の好ましい態様として、親水性表面基材もしくは親水性層上に機上現像可能な画像形成層を有する態様が挙げられる。画像形成層は、赤外線レーザーによる露光によって発生する熱によって画像形成するものであることが好ましい。
【0114】
本発明の画像形成層の好ましい態様のひとつとして、画像形成層が疎水化前駆体を含有する態様が挙げられる。
【0115】
疎水化前駆体としては、熱によって親水性(水溶性または水膨潤性)から疎水性へと変化するポリマーを用いることができる。具体的には、例えば、特開2000−56449号に開示されている、アリールジアゾスルホネート単位を含有するポリマーを挙げることができる。本発明においては、疎水化前駆体としては、熱可塑性疎水性粒子、もしくは、疎水性物質を内包するマイクロカプセルを用いることが好ましい。熱可塑性微粒子としては、後述する熱溶融性微粒子および熱融着性微粒子を挙げることができる。
【0116】
本発明に用いられる熱溶融性微粒子とは、熱可塑性素材の中でも特に溶融した際の粘度が低く、一般的にワックスとして分類される素材で形成された微粒子である。物性としては、軟化点40℃以上120℃以下、融点60℃以上150℃以下であることが好ましく、軟化点40℃以上100℃以下、融点60℃以上120℃以下であることが更に好ましい。融点が60℃未満では保存性が問題であり、融点が300℃よりも高い場合はインク着肉感度が低下する。
【0117】
使用可能な素材としては、パラフィン、ポリオレフィン、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸系ワックス等が挙げられる。これらは分子量800から10000程度のものである。又、乳化しやすくするためにこれらのワックスを酸化し、水酸基、エステル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ペルオキシド基などの極性基を導入することもできる。更には、軟化点を下げたり作業性を向上させるためにこれらのワックスにステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリステルアミド、硬化牛脂肪酸アミド、パルミトアミド、オレイン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミド又はこれらの脂肪酸アミドのメチロール化物、メチレンビスステラロアミド、エチレンビスステラロアミドなどを添加することも可能である。又、クマロン−インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー、これらの樹脂の共重合体も使用することができる。
【0118】
これらの中でもポリエチレン、マイクロクリスタリン、脂肪酸エステル、脂肪酸の何れかを含有することが好ましい。これらの素材は融点が比較的低く、溶融粘度も低いため、高感度の画像形成を行うことができる。又、これらの素材は潤滑性を有するため、印刷版材料の表面に剪断力が加えられた際のダメージが低減し、擦りキズ等による印刷汚れ耐性が向上する。
【0119】
又、熱溶融性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱溶融性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0120】
又、熱溶融性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。
【0121】
被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾル−ゲル法等が使用できる。層中の熱溶融性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。
【0122】
本発明の熱融着性微粒子としては、熱可塑性疎水性高分子重合体微粒子が挙げられ、高分子重合体微粒子の軟化温度に特定の上限はないが、温度は高分子重合体微粒子の分解温度より低いことが好ましい。高分子重合体の質量平均分子量(Mw)は10,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。
【0123】
高分子重合体微粒子を構成する高分子重合体の具体例としては、例えば、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−ブタジエン共重合体等のジエン(共)重合体類、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の合成ゴム類、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート−(N−メチロールアクリルアミド)共重合体、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル(共)重合体、酢酸ビニル−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等及びそれらの共重合体が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ビニルエステル(共)重合体、ポリスチレン、合成ゴム類が好ましく用いられる。
【0124】
高分子重合体微粒子は乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、気相重合法等、公知の何れの方法で重合された高分子重合体からなるものでもよい。溶液重合法又は気相重合法で重合された高分子重合体を微粒子化する方法としては、高分子重合体の有機溶媒に溶解液を不活性ガス中に噴霧、乾燥して微粒子化する方法、高分子重合体を水に非混和性の有機溶媒に溶解し、この溶液を水又は水性媒体に分散、有機溶媒を留去して微粒子化する方法等が挙げられる。又、何れの方法においても、必要に応じ重合あるいは微粒子化の際に分散剤、安定剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等の界面活性剤やポリビニルアルコール等の水溶性樹脂を用いてもよい。
【0125】
又、熱融着性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱融着性微粒子を含有する層の塗布液を多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱融着性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱融着性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0126】
又、熱融着性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。
【0127】
被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾル−ゲル法等が使用できる。層中の熱可塑性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。
【0128】
[マイクロカプセル]
本発明の印刷版材料に用いられるマイクロカプセルとしては、例えば特開2002−2135号や特開2002−19317号に記載されている疎水性素材を内包するマイクロカプセルを挙げることができる。
【0129】
マイクロカプセルは平均径で0.1〜10μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることがより好ましく、0.5〜3μmであることがさらに好ましい。
【0130】
マイクロカプセルの壁の厚さは径の1/100〜1/5であることが好ましく、1/50〜1/10であることがより好ましい。
【0131】
マイクロカプセルの含有量は画像形成層全体の5〜100質量%であり、20〜95質量%であることが好ましく、40〜90質量%であることがさらに好ましい。
【0132】
マイクロカプセルの壁材となる素材、およびマイクロカプセルの製造方法は公知の素材および方法を用いることができる。たとえば、「新版マイクロカプセルその製法・性質・応用」(近藤保、小石真純著/三共出版株式会社発行)に記載されているか、引用されている文献に記載されている公知の素材および方法を用いることができる。
【0133】
[画像形成層に含有可能なその他の素材]
本発明に用いられる画像形成層にはさらに以下のような素材を含有させることができる。
【0134】
画像形成層には上述の光熱変換素材を含有させることができる。画像形成層は一部が機上現像されるため、可視光での着色の少ない素材を用いることが好ましく、色素を用いることが好ましい。
【0135】
画像形成層には水溶性樹脂、水分散性樹脂を含有させることができる。水溶性樹脂、水分散性樹脂としては、オリゴ糖、多糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられる。これらのなかでは、オリゴ糖、多糖類、ポリアクリル酸が好ましい。
【0136】
オリゴ糖としては、ラフィノース、トレハロース、マルトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースといったものが挙げられるが、特にトレハロースが好ましい。
【0137】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。
【0138】
ポリアクリル酸としては、分子量3000〜100万であることが好ましく、5000〜50万であることがより好ましい。
【0139】
また、画像形成層には、水溶性の界面活性剤を含有させることができる。Si系、又はF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0140】
さらに、pH調整のための酸(リン酸、酢酸等)またはアルカリ(水酸化ナトリウム、ケイ酸塩、リン酸塩等)を含有していても良い。
【0141】
画像形成層の付き量としては、0.01〜10g/m2であり、好ましくは0.1〜3g/m2であり、さらに好ましくは0.2〜2g/m2である。
【0142】
[保護層]
画像形成層の上層として保護層を設けることもできる。保護層に用いる素材としては、上述の水溶性樹脂、水分散性樹脂を好ましく用いることができる。
【0143】
また、特開2002−019318号や特開2002−086948号に記載されている親水性オーバーコート層も好ましく用いることができる。
【0144】
保護層の付き量としては、0.01〜10g/m2であり、好ましくは0.1〜3g/m2であり、さらに好ましくは0.2〜2g/m2である。
【0145】
[機上現像方法]
本発明の画像形成層は、赤外線レーザー露光部が親油性の画像部となり、未露光部の層が除去されて非画像部となる。未露光部の除去は、水洗によっても可能であるが、印刷機上で湿し水およびまたはインクを用いて除去する、いわゆる機上現像することも十分に可能である。
【0146】
印刷機上での画像形成層の未露光部の除去は、版胴を回転させながら水付けローラーやインクローラーを接触させて行うことができるが、下記に挙げる例のような、もしくは、それ以外の種々のシークエンスによって行うことができる。また、その際には、印刷時に必要な湿し水水量に対して、水量を増加させたり、減少させたりといった水量調整を行ってもよく、水量調整を多段階に分けて、もしくは、無段階に変化させて行ってもよい。
【0147】
(1)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0148】
(2)印刷開始のシークエンスとして、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0149】
(3)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーとインクローラーとを実質的に同時に接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0150】
【実施例】
基材
厚さ175μmの二軸延伸ポリエステルフィルムフィルムの両面に、8W/m2・分のコロナ放電処理を施し、次いで、一方の面に下記下引き塗布液aを乾燥膜厚0.8μmになるように塗設後にコロナ放電処理(8W/m2・分)を行いながら下引き塗布液bを乾燥膜厚0.1μmになるように塗布し、各々180℃、4分間乾燥させた(下引き面A)。また反対側の面に下記下引き塗布液cを乾燥膜厚0.8μmになるように塗設後にコロナ放電処理(8W/m2・分)を行いながら下引き塗布液dを乾燥膜厚1.0μmになるように塗布し、それぞれ180℃、4分間乾燥させた(下引き面B)。塗布後の25℃、25%RHでの表面電気抵抗は108Ωであった。このようにして、両面に下引き層を形成した基材を得た。
【0151】
【0152】
【化1】
【0153】
【0154】
【化2】
【0155】
実施例1
裏面コート層付き基材の作製
[裏面コート層付き基材1]
基材の下引きB面に下記の組成の裏面コート層1の塗布液を、ワイヤーバーを用いて乾燥付量が3g/m2となるように塗布し、100℃で3分間乾燥させ、裏面コート層付き基材1を得た。
【0156】
【表1】
【0157】
[裏面コート層付き基材2]
下記の組成の裏面コート層2の塗布液を用いた以外は、裏面コート層付き基材1と同様にして、裏面コート層付き基材2を得た。
【0158】
【表2】
【0159】
[裏面コート層付き基材3]
下記の組成の裏面コート層3の塗布液を用いた以外は、裏面コート層付き基材1と同様にして、裏面コート層付き基材3を得た。
【0160】
【表3】
【0161】
印刷版材料の作製
下記の組成の顔料分散ペースト(A)を作製した。純水中に各素材を攪拌しながら添加し、次いで、ホモジナイザで10000rpm、5分間の条件で混合し、固形分30質量%のペーストとした。
【0162】
【表4】
【0163】
下記の各素材を混合攪拌後、濾過して、固形分20質量%の下層塗布液を作製した。
【0164】
【表5】
【0165】
次に、下記素材をホモジナイザを用いて、10000rpmで10分間攪拌混合し、濾過して、固形分10質量%の親水性層塗布液を作製した。
【0166】
【表6】
【0167】
次に下記組成の素材を十分に攪拌混合し、濾過して、固形分6質量%の画像形成層塗布液を作製した。
【0168】
【表7】
【0169】
印刷版材料1の作製
裏面コート層付き基材1の下引きA面上に、下層塗布液を、乾燥質量が2.5g/m2となるようにワイヤーバーを用いて塗布し、100℃で3分間乾燥した。
【0170】
次いで、下層の上に、親水性層塗布液を、乾燥質量が0.6g/m2となるようにワイヤーバーを用いて塗布し、100℃で3分間乾燥した。親水性層までを形成した段階で、60℃24時間のエイジングを行った。
【0171】
次に、親水性層上に画像形成層塗布液をワイヤーバーを用いて乾燥付量が0.6g/m2となるように塗布し、55℃で3分間乾燥した。さらに、55℃24時間のエイジングを行い、印刷版材料1を得た。
【0172】
印刷版材料2の作製
裏面コート層付き基材2を用いた以外は、印刷版材料1と同様にして印刷版材料2を得た。
【0173】
印刷版材料3の作製(比較例)
裏面コート層付き基材3を用いた以外は、印刷版材料1と同様にして印刷版材料3を得た。
【0174】
印刷版材料4の作製(比較例)
裏面コートを形成しなかった基材を用いた以外は、印刷版材料1と同様にして印刷版材料4を得た。
【0175】
裏面表面形態およびRsk値の測定
各印刷版材料の裏面側に白金ロジウムの蒸着膜を2nmの厚さで形成し、測定サンプルとした。測定にはWYKO社製の非接触三次元粗さ測定装置RSTplusを用いて、20倍の倍率で一サンプルにつき5点測定した。
【0176】
測定結果の画像から、裏面表面形態を評価し、また、測定データを用いてRsk値を計算した。結果を表8に示した。
【0177】
吸引による保持性の評価
吸引ドラム上での保持性の代用評価として、裏面コート層のスムースター平滑度を測定した。値が小さいほど吸引による保持性は良好である。結果を表8に示した。
【0178】
裏面コート層のすべり性の評価
裏面コート層のクロムメッキピンに対する動摩擦係数を測定した。値が小さいほど版胴上へ取り付けた際のゆがみや片伸びの懸念が少ない。結果を表8に示した。
【0179】
【表8】
【0180】
表8のように、本発明の印刷版材料はスムースター平滑度が低いにもかかわらず、摩擦係数は低く、吸引ドラム上での保持性と版胴への取り付け性とを両立していることがわかる。
【0181】
実施例2
版胴表面形態の調製
[版胴1]
印刷機の二つの版胴表面の表面粗さ測定用樹脂レプリカを常法により作製した。このレプリカ表面に上述の蒸着を行って粗さ測定用サンプルとした。
【0182】
上述の方法で表面粗さを測定し、Rsk値を計算したところ、−1.5と−1.6であった。これはレプリカの反転した表面形態であるため、版胴表面のRsk値は正負を変えた、1.5と1.6となり、どちらも正の値であった。
このため、そのままの版胴を用いた場合を版胴1とした。
【0183】
[版胴2]
50μm厚のポリエステルフィルム(帝人デュポン社製:HS74、片面に水系塗布用下引き有り)の下記組成の版胴表面層A塗布液を、ワイヤーバーを用いて乾燥付量が2g/m2となるように塗布し、100℃で3分間乾燥して、版胴表面シートAを得た。
【0184】
上述の方法で求めた版胴表面シートAのRsk値は3.0であった。また、平坦面に粒子による突起が点在する(凸部が不連続、凹部が連続)表面形態であった。
【0185】
得られた版胴表面シートAを印刷機の版胴表面(二つとも)に50μm厚の両面接着シートを用いて、印刷面全面に渡って接着して版胴2とした。
【0186】
【表9】
【0187】
[版胴3]
版胴表面層A塗布液に換えて、下記組成の版胴表面層B塗布液を用いた以外は同様にして、版胴表面シートBを得た。
【0188】
上述の方法で求めた版胴表面シートBのRsk値は−1.1であった。また、窪みが規則的に密に点在する(凸部が連続、凹部が不連続)表面形態であった。得られた版胴表面シートBを用いて、版胴2と同様にして版胴3とした。
【0189】
【表10】
【0190】
画像形成
トンボ画像を有する墨と紅からなる二色画像を用意した。墨版としては、市販のポジPS版(0.24mm厚のアルミ版)を用い、墨画像から作成したフィルムを用いて定法により露光、現像して印刷版を得た。次に、紅版用として表11に示した各印刷版材料を用意した。
【0191】
用意した各印刷版材料を吸引式の露光ドラムに巻付け固定した。この際、吸引保持性の差で露光に不具合が生じないよう、印刷版材料の4端部のへりを粘着テープで隙間なく固定し、エア抜けが生じないようにした。
【0192】
墨、紅画像ともに、露光には波長830nm、スポット径約18μmのレーザービームを用い、露光エネルギーを250mJ/cm2とした条件で、2400dpi(dpiとは1インチ、即ち2.54cm当たりのドット数を表す)、175線で画像を形成した。
【0193】
印刷方法
印刷機:三菱重工業(株)製DAIYA2色印刷機を用いて、コート紙、湿し水:アストロマーク3(日研化学研究所製)2質量%、インク(東洋インク社製TKハイユニティ墨、紅)を使用して印刷を行った。
【0194】
墨版の版胴は、版下シートを用いない版胴1とし(Rsk値は1.5)PS版の墨版を取り付けた。紅版の印刷版材料及び版胴表面形態の組み合わせは表11に示したような組み合わせ(この場合の版胴1のRsk値は1.6)で行った。尚、版胴上にシートを貼り付けて表面形態を変更した際には、印刷機の仕立てを変更して印圧を一定に保つようにした。
【0195】
紅版の版胴印刷版材料は露光後そのままの状態で版胴に取り付け、墨版、紅版ともにPS版と同じ刷り出しシークエンスを用いて印刷し、刷り出しから100枚で墨版と紅版とのトンボが極力合っている状態となるよう見当調整した。
【0196】
印刷評価
[版ずれの評価]
印刷開始から5000枚、10000枚、15000枚、20000枚の各時点で墨版と紅版とのトンボのずれ量を測定した。尚、トンボのずれ量は、100枚時点での印刷物を基準とし、基準からの変化量とした。各トンボのうち、もっともずれが大きかったもので評価し、ずれが50μm以下であれば○、50μmより大きく100μm以下であれば△、100μmよりも大きければ×とした。結果を表11に示した。
【0197】
【表11】
【0198】
表11から、本発明の印刷方法によって、フィルム基材の印刷版を用いた場合でも、多色印刷に適用可能なレベルの版ずれのない印刷が可能となることがわかる。
【0199】
【発明の効果】
本発明により、版胴取り付け適性に優れ、自動もしくは半自動版換え装置にも適用可能であり、かつ、吸引ドラムを用いた露光装置への適性も改善された印刷版材料を提供し、特に樹脂基材を用いた印刷版もしくは印刷版材料を用いた見当精度を向上させた印刷方法の提供することができた。
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷版材料に関し、特に吸引ドラム上に固定して露光されるコンピューター・トゥー・プレート(CTP)方式により画像形成が可能な印刷版材料に関し、更に、多色印刷における見当精度が向上した印刷方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
多色印刷に用いられる印刷版としては、主としてアルミニウム基材の印刷版が用いられてきた。一方で、CTP化の流れの中で、エントリーレベルのCTPとして樹脂基材の印刷版を用いたシステムの導入も進んでいる。
【0003】
樹脂基材の印刷版は、印刷機版胴上で版ずれや版伸びを生じることによりアルミニウム機材の印刷版よりも見当精度が低いということが問題であり、多色印刷に適用可能なレベルにまで検討精度を向上させるための種々の検討がなされている。
【0004】
印刷版材料の改良としては、例えば、裏面のRa値を1.5以上とした印刷版が開示されて(例えば、特許文献1参照。)いる。また、裏面のベック平滑度を500秒以下とした印刷版が開示されて(例えば、特許文献2参照。)いる。
【0005】
上記のような印刷版は裏面の表面粗さを粗くすることで版胴表面との摩擦を低減し、印刷版材料の片伸び防止や版胴上での印刷版位置の微調整を可能としたものである。
【0006】
しかし、CTP印刷版材料としては、吸引機構を有するドラム外面に固定して露光される場合があり、このような裏面粗さを有する印刷版材料では、エア抜けを生じて吸引固定力が弱まるという問題点を有している。これは、露光生産性を向上させた場合、つまりはドラム回転数を向上させた場合には印刷版材料が脱落していまう懸念を有している。
【0007】
また、版胴表面と印刷版裏面との摩擦を低減させることで、印刷時の版ずれの懸念は増大し、多色印刷に必要とされる見当精度には不十分である。
【0008】
一方、表面凹凸構造を有する版下シートを印刷版と版胴表面との間に介在させ、版下シートの凸部を印刷版裏面に圧接させて、印刷版裏面を凹ませて固定する印刷版の位置ずれ防止方法が開示されて(例えば、特許文献3参照。)いる。しかし、実施例のように平均粒径30μmのガラス粒子を点在させた版下シートを用いて印刷を行った場合には、版下シートに粒子が存在する部分の印圧がその周囲よりも高くなって、印圧の高い部分の画像がより早く摩滅し、耐刷むらを生じる懸念がある。
【0009】
また、裏面に凹凸形状を有する印刷版と凹凸を有する版下シートとを、凹凸同士が向き合うように版胴上に設置して印刷を行う方法が開示されて(例えば、特許文献4参照。)いる。しかし、実施例のように版下シートと印刷版裏面とに平均粒径30μmのガラス粒子を点在させたものを向かい合わせて設置した場合でも、上記のように粒子が存在する部分の印圧がその周囲よりも高くなる問題に加えて、部分的に版下上の粒子と印刷版裏面状の粒子とが重なった場合にはさらにその部分の印圧が高くなって、より顕著な耐刷むらが生じる懸念がある。
【0010】
このように、非金属基材を用いた印刷版もしくは印刷版材料の版胴取り付け適性改良で提案されてきた裏面形状は、吸引ドラムを用いた露光装置への適性に関して全く考慮されていないものである。
【0011】
また、樹脂基材を用いた印刷版もしくは印刷版材料を多色印刷に適用可能なレベルで検討精度よく、かつ、画質の劣化の懸念無しに版胴上に固定する方法は得られていない。
【0012】
【特許文献1】
特開平11−105446号公報 (特許請求の範囲)
【0013】
【特許文献2】
特開2002−347365号公報 (特許請求の範囲)
【0014】
【特許文献3】
特開2000−318341号公報 (特許請求の範囲)
【0015】
【特許文献4】
特開2002−19322号公報 (特許請求の範囲)
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、版胴取り付け適性に優れ、自動もしくは半自動版換え装置にも適用可能であり、かつ、吸引ドラムを用いた露光装置への適性も改善された印刷版材料を提供することにある。さらに、特に樹脂基材を用いた印刷版もしくは印刷版材料を用いた見当精度を向上させた印刷方法の提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成された。
【0018】
1.裏面コート層を有する印刷版材料において、該裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値を有していることを特徴とする印刷版材料。
【0019】
2.裏面コート層を有する印刷版材料において、該裏面コート層の表面凹凸形態が、凸部が連続相であり、凹部が不連続相となっていることを特徴とする印刷版材料。
【0020】
3.裏面コート層を有する印刷版材料もしくは印刷版を印刷機の版胴上に設置して行う印刷方法において、該裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値であり、かつ、該版胴表面の表面粗さパラメータ:Rskが正の値であることを特徴とする印刷方法。
【0021】
4.裏面コート層を有する印刷版材料もしくは印刷版を印刷機の版胴上に設置して行う印刷方法において、該裏面コート層の表面凹凸形態が、凸部が連続相であり、凹部が不連続相となっている表面凹凸形態であり、かつ、該版胴表面の表面凹凸形態が、凸部が不連続相であり、凹部が連続相となっている表面凹凸形態であることを特徴とする印刷方法。
【0022】
5.版胴表面が、所定の表面形態を形成したシート部材を該版胴上に固定してなるものであることを特徴とする前記3又は4記載の印刷方法。
【0023】
本発明を更に詳しく説明する。本発明は、裏面コート層を有する印刷版材料において、裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値を有していることを特徴とする印刷版材料である。
【0024】
表面粗さパラメータのRsk(スキューネス)とは、表面の高さ分布が正規分布からどの程度ずれているかの指標であり、Rskの値が0の場合に正規分布に近い分布となる。モデル的な表面としては、平坦な面に突起を形成した場合には、Rskの値は正となり、平坦な面に凹みを形成した場合には、Rskの値は負となる。
【0025】
表面粗さ曲線から下記の式を用いて計算することでRskの値を求めることができる。式(1)はアナログ的な粗さ測定から得られた表面粗さプロファイルに対して適用する計算式であり、式(2)はディジタル的な粗さ測定から得られた表面粗さプロファイルに対して適用する計算式である。また、式(3)、(4)は、それぞれ式(1)、(2)に含まれているRqを算出する計算式である。
【0026】
【数1】
【0027】
上式において、Lは測定長、Nは測定点数を示すものである。また、rは表面粗さプロファイルにおける各測定部位もしくは測定点の粗さ中心線からの差異を示すものである。
【0028】
表面粗さプロファイルの高さ分布が粗さ中心線を中心とした正規分布となっているときに、Rsk値はほぼ0となる。
【0029】
特開平11−105446号や特開2002−347365号に開示されている裏面形状は、粗大粒子を点在させて形成されたものであり、これらのRsk値は正となる。
【0030】
Rsk値が負の値を有するということは、表面粗さプロファイルとしては、主に凹みにより粗さを形成したものであるといえる。
【0031】
一般に、粗さ付与による摩擦係数の低減は、真実接触面積の低減によるものであると考えられているが、摩擦係数の軽減に関しては、真実接触面積が同等であれば、Rsk値によらず同等の軽減効果が得られると考えられる。裏面に粗さを付与することにより、印刷版材料と版胴との低荷重時、つまりは、印刷版材料取り付け時のすべり性が良好となって、印刷版材料のゆがみや片伸び等の不具合なしに印刷版材料を版胴に取り付けることが可能になる。また、自動もしくは半自動の版交換装置にも好ましく対応できるようになる。
【0032】
これに対して、吸引ドラム上での保持効果に関しては、Rsk値が正であるよりも負である方が保持効果が高くなる。これは、点状の突起によって粗さを付与したRsk値が正である面では、吸引ドラム上に密着させても点状突起間に幅広い連続した空気の抜け道が生じ、印刷版材料端部からのエア抜けが生じるためである。
【0033】
このように、裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値を有していることにより、吸引ドラムによる固定方式の露光装置への適性を有し、かつ、印刷機版胴上への取り付け性も良好となる。
【0034】
本発明はまた、裏面コート層を有する印刷版材料において、裏面コート層の表面凹凸形態が、凸部が連続相であり、凹部が不連続相となっていることを特徴とする印刷版材料である。
【0035】
Rsk値が負である場合と同様の理由で、裏面コート層の表面凹凸形態を、凸部を連続相とし、凹部を不連続相とすることで、吸引ドラム上での保持効果を低減させずに、摩擦係数を低減させることが可能となる。
【0036】
上記のような凹凸形態を有し、かつ、Rsk値が負の値であることがより好ましい態様である。
【0037】
凹部の存在する間隔としては、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましい。
【0038】
裏面コート層にこのような表面形態を付与する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、平坦な表面に形成した裏面コート層を、規則的な凸部を有するように加工した(突起粒子を適度な密度で固着させる等)ロールで押し付け加工して、規則的な凹部を形成するといった方法が挙げられる。
【0039】
また、裏面コート層を形成する塗布液に、相分離を生じる素材を含有させ、塗布乾燥過程での相分離構造形成によって、規則的な凹部を形成させることもできる。
【0040】
また、裏面コート層には、常温で液体もしくは固体の公知の潤滑剤を含有させてもよい。さらに、有機もしくは無機の公知の導電性素材を含有させてもよい。
【0041】
また、本発明は、裏面コート層を有する印刷版材料もしくは印刷版を印刷機の版胴上に設置して行う印刷方法において、裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値であり、かつ、版胴表面の表面粗さパラメータのRskが正の値であることを特徴とする印刷方法である。
【0042】
印刷版材料もしくは印刷版(以下印刷版とする)を版胴上に取り付ける際には、印刷版裏面が、版胴表面に対して適度なすべり性を有することが好ましいが、版胴のくわえ部により適度な張力を付与されて(つまりは、印刷版裏面が版胴表面に適度な荷重で押し付けられて)版胴上に固定された後は、版ずれや版伸びが生じないように、印刷版裏面と版胴表面とは高い摩擦係数を生じることが好ましい。
【0043】
本発明によれば、裏面コート層の凹部と版胴表面の凸部とが、適度な荷重をかけることによってかみ合い、印刷中の版ずれや版伸びを抑制することが可能となる。
【0044】
さらに、本発明は、裏面コート層を有する印刷版材料もしくは印刷版を印刷機の版胴上に設置して行う印刷方法において、裏面コート層の表面凹凸形態が、凸部が連続相であり、凹部が不連続相となっている表面凹凸形態であり、かつ、版胴表面の表面凹凸形態が、凸部が不連続相であり、凹部が連続相となっている表面凹凸形態であることを特徴とする印刷方法である。
【0045】
この態様においても、上記と同様に、裏面コート層の凹部と版胴表面の凸部とが、適度な荷重をかけることによってかみ合い、印刷中の版ずれや版伸びを抑制することが可能となる。
【0046】
また、この態様においても、裏面コート層のRsk値が負の値であることがより好ましく、また、版胴表面のRsk値が正の値であることがより好ましい。
【0047】
また、本発明に用いられる版胴表面は、直接所定の表面形態に加工されたものであっても良いが、所定の表面形態を形成したシート部材を版胴上に固定してなるものでもよい。
【0048】
本発明に用いられる印刷版材料としては、画像形成方式は特定されるものではない。公知の電子写真方式による画像形成、インクジェット方式による画像形成、溶融熱転写方式による画像形成、銀錯塩拡散転写方式による画像形成、サーマルレーザー熱溶融・熱融着方式による画像形成等の、種々の方式の印刷版材料に適用することができる。
【0049】
特に好ましい態様としては、基材上に後述する親水性層を設け、さらにその上に疎水化前駆体粒子を含有する画像形成層を設けた、サーマルレーザー熱溶融・熱融着方式の印刷版材料が挙げられる。
【0050】
[基材]
基材としては、印刷版の基板として使用される公知の材料を使用することができる。例えば、金属板、プラスチックフィルム、ポリオレフィン等で処理された紙、上記材料を適宜貼り合わせた複合基材等が挙げられる。基材の厚さとしては、印刷機に取り付け可能であれば特に制限されるものではないが、50〜500μmのものが一般的に取り扱いやすい。
【0051】
金属板としては、鉄、ステンレス、アルミニウム等が挙げられるが、比重と剛性との関係から特にアルミニウムが好ましい。アルミニウム板は、通常その表面に存在する圧延・巻取り時に使用されたオイルを除去するためにアルカリ、酸、溶剤等で脱脂した後に使用される。脱脂処理としては特にアルカリ水溶液による脱脂が好ましい。また、塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。例えば、ケイ酸塩やシランカップリング剤等のカップリング剤を含有する液に浸漬するか、液を塗布した後、十分な乾燥を行う方法が挙げられる。陽極酸化処理も易接着処理の一種と考えられ、使用することができる。また、陽極酸化処理と上記浸漬または塗布処理を組み合わせて使用することもできる。また、公知の方法で粗面化されたアルミニウム基材、いわゆるアルミ砂目を、親水性表面を有する基材として使用することもできる。
【0052】
プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、セルロースエステル類等を挙げることができる。
本発明に用いる基材としては、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。これらプラスチックフィルムは塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。易接着処理としては、コロナ放電処理や火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。また、下塗り層としては、ゼラチンやラテックスを含む層等が挙げられる。下塗り層に、有機または無機の公知の導電性素材を含有させることもできる。
【0053】
[親水性層]
本発明に用いられるの印刷版材料の態様のひとつとして、基材上に親水性層を有する態様が挙げられる。親水性層は一層であっても良いし、複数の層から形成されていても良い。
【0054】
親水性層に用いられる素材としては、金属酸化物が好ましい。金属酸化物としては、金属酸化物微粒子を含むことが好ましい。例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物のゾルが挙げられる。該金属酸化物微粒子の形態としては、球状、針状、羽毛状、その他の何れの形態でも良い。平均粒径としては、3〜100nmであることが好ましく、平均粒径が異なる数種の金属酸化物微粒子を併用することもできる。又、粒子表面に表面処理がなされていても良い。
【0055】
上記金属酸化物微粒子はその造膜性を利用して結合剤としての使用が可能である。有機の結合剤を用いるよりも親水性の低下が少なく、親水性層への使用に適している。
【0056】
本発明には、上記の中でも特にコロイダルシリカが好ましく使用できる。コロイダルシリカは比較的低温の乾燥条件であっても造膜性が高いという利点があり、炭素原子を含まない素材が91質量%以上というような層においても良好な強度を得ることができる。
【0057】
上記コロイダルシリカとしては、後述するネックレス状コロイダルシリカ、平均粒径20nm以下の微粒子コロイダルシリカを含むことが好ましく、さらに、コロイダルシリカはコロイド溶液としてアルカリ性を呈することが好ましい。
【0058】
本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは1次粒子径がnmのオーダーである球状シリカの水分散系の総称である。本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは1次粒粒子径が10〜50nmの球状コロイダルシリカが50〜400nmの長さに結合した「パールネックレス状」のコロイダルシリカを意味する。パールネックレス状(即ち真珠ネックレス状)とは、コロイダルシリカのシリカ粒子が連なって結合した状態のイメージが真珠ネックレスの様な形状をしていることを意味している。ネックレス状コロイダルシリカを構成するシリカ粒子同士の結合は、シリカ粒子表面に存在する−SiOH基が脱水結合した−Si−O−Si−と推定される。ネックレス状のコロイダルシリカとしては、具体的には日産化学工業(株)製の「スノーテックス−PS」シリーズなどが挙げられる。
【0059】
製品名としては「スノーテックス−PS−S(連結した状態の平均粒子径は110nm程度)」、「スノーテックス−PS−M(連結した状態の平均粒子径は120nm程度)」及び「スノーテックス−PS−L(連結した状態の平均粒子径は170nm程度)」があり、これらにそれぞれ対応する酸性の製品が「スノーテックス−PS−S−O」、「スノーテックス−PS−M−O」及び「スノーテックス−PS−L−O」である。
【0060】
ネックレス状コロイダルシリカを添加することにより、層の多孔性を確保しつつ、強度を維持することが可能となり、層の多孔質化材として好ましく使用できる。
【0061】
これらの中でも、アルカリ性である「スノーテックスPS−S」、「スノーテックスPS−M」、「スノーテックスPS−L」を用いると、親水性層の強度が向上し、また、印刷枚数が多い場合でも地汚れの発生が抑制され、特に好ましい。
【0062】
また、コロイダルシリカは粒子径が小さいほど結合力が強くなることが知られており、本発明には平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカを用いることが好ましく、3〜15nmであることが更に好ましい。又、前述のようにコロイダルシリカの中ではアルカリ性のものが地汚れ発生を抑制する効果が高いため、アルカリ性のコロイダルシリカを使用することが特に好ましい。
【0063】
平均粒径がこの範囲にあるアルカリ性のコロイダルシリカとしては日産化学社製の「スノーテックス−20(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−30(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−40(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−N(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−S(粒子径8〜11nm)」、「スノーテックス−XS(粒子径4〜6nm)」が挙げられる。
【0064】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカは前述のネックレス状コロイダルシリカと併用することで、層の多孔質性を維持しながら、強度をさらに向上させることが可能となり、特に好ましい。
【0065】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカ/ネックレス状コロイダルシリカの比率は95/5〜5/95が好ましく、70/30〜20/80がより好ましく、60/40〜30/70が更に好ましい。
【0066】
本発明の印刷版材料の親水性層は金属酸化物として多孔質金属酸化物粒子を含むことが好ましい。多孔質金属酸化物粒子としては、後述する多孔質シリカ又は多孔質アルミノシリケート粒子もしくはゼオライト粒子を好ましく用いることができる。
【0067】
多孔質シリカ粒子は一般に湿式法又は乾式法により製造される。湿式法ではケイ酸塩水溶液を中和して得られるゲルを乾燥、粉砕するか、中和して析出した沈降物を粉砕することで得ることができる。乾式法では四塩化珪素を水素と酸素と共に燃焼し、シリカを析出することで得られる。これらの粒子は製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0068】
多孔質シリカ粒子としては、湿式法のゲルから得られるものが特に好ましい。多孔質アルミノシリケート粒子は例えば特開平10−71764号に記載されている方法により製造される。即ち、アルミニウムアルコキシドと珪素アルコキシドを主成分として加水分解法により合成された非晶質な複合体粒子である。粒子中のアルミナとシリカの比率は1:4〜4:1の範囲で合成することが可能である。又、製造時にその他の金属のアルコキシドを添加して3成分以上の複合体粒子として製造したものも本発明に使用できる。これらの複合体粒子も製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0069】
粒子の多孔性としては、分散前の状態で細孔容積で1.0ml/g以上であることが好ましく、1.2ml/g以上であることがより好ましく、1.8〜2.5ml/g以下であることが更に好ましい。
【0070】
細孔容積は塗膜の保水性と密接に関連しており、細孔容積が大きいほど保水性が良好となって印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなるが、2.5ml/gよりも大きくなると粒子自体が非常に脆くなるため塗膜の耐久性が低下する。細孔容積が1.0ml/g未満の場合には、印刷時の汚れにくさ、水量ラチチュードの広さが不充分となる。
【0071】
粒径としては、親水性層に含有されている状態で(例えば分散時に破砕された場合も含めて)、実質的に1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることが更に好ましい。不必要に粗大な粒子が存在すると親水性層表面に多孔質で急峻な突起が形成され、突起周囲にインクが残りやすくなって非画線部汚れやブランケット汚れが劣化する場合がある。
【0072】
ゼオライトは結晶性のアルミノケイ酸塩であり、細孔径が0.3〜1nmの規則正しい三次元網目構造の空隙を有する多孔質体である。天然及び合成ゼオライトを合わせた一般式は、次のように表される。
【0073】
(M1、M2 1/2)m(AlmSinO2(m+n))・xH2O
ここで、M1、M1は交換性のカチオンであって、M1はLi+、Na+、K+、Tl+、Me4N+(TMA)、Et4N+(TEA)、Pr4N+(TPA)等であり、M1はCa2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+等である。又、n≧mであり、m/nの値つまりはAl/Si比率は1以下となる。Al/Si比率が高いほど交換性カチオンの量が多く含まれるため極性が高く、従って親水性も高い。好ましいAl/Si比率は0.4〜1.0であり、更に好ましくは0.8〜1.0である。xは整数を表す。
【0074】
本発明で使用するゼオライト粒子としては、Al/Si比率が安定しており、又粒径分布も比較的シャープである合成ゼオライトが好ましく、例えばゼオライトA:Na12(Al12Si12O48)・27H2O;Al/Si比率1.0、ゼオライトX:Na86(Al86Si106O384)・264H2O;Al/Si比率0.811、ゼオライトY:Na56(Al56Si136O384)・250H2O;Al/Si比率0.412等が挙げられる。
【0075】
Al/Si比率が0.4〜1.0である親水性の高い多孔質粒子を含有することで親水性層自体の親水性も大きく向上し、印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなる。又、指紋跡の汚れも大きく改善される。Al/Si比率が0.4未満では親水性が不充分であり、上記性能の改善効果が小さくなる。
【0076】
また、本発明の感熱性平版印刷版材料の親水性層マトリクスは層状粘土鉱物粒子を含有することができる。該層状鉱物粒子としては、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サボナイト等)、バーミキュライト、マイカ(雲母)、クロライトといった粘土鉱物及び、ハイドロタルサイト、層状ポリケイ酸塩(カネマイト、マカタイト、アイアライト、マガディアイト、ケニヤアイト等)等が挙げられる。中でも、単位層(ユニットレイヤー)の電荷密度が高いほど極性が高く、親水性も高いと考えられる。好ましい電荷密度としては0.25以上、更に好ましくは0.6以上である。このような電荷密度を有する層状鉱物としては、スメクタイト(電荷密度0.25〜0.6;陰電荷)、バーミキュライト(電荷密度0.6〜0.9;陰電荷)等が挙げられる。特に、合成フッ素雲母は粒径等安定した品質のものを入手することができ好ましい。又、合成フッ素雲母の中でも、膨潤性であるものが好ましく、自由膨潤であるものが更に好ましい。
【0077】
又、上記の層状鉱物のインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、イオン交換処理を施したもの、表面処理(シランカップリング処理、有機バインダとの複合化処理等)を施したものも使用することができる。
【0078】
平板状層状鉱物粒子のサイズとしては、層中に含有されている状態で(膨潤工程、分散剥離工程を経た場合も含めて)、平均粒径(粒子の最大長)が20μm以下であり、又平均アスペクト比(粒子の最大長/粒子の厚さ)が20以上の薄層状であることが好ましく、平均粒径が5μm以下であり、平均アスペクト比が50以上であることが更に好ましく、平均粒径が1μm以下であり、平均アスペクト比が50以上であることが更に好ましい。粒子サイズが上記範囲にある場合、薄層状粒子の特徴である平面方向の連続性及び柔軟性が塗膜に付与され、クラックが入りにくく乾燥状態で強靭な塗膜とすることができる。また、粒子物を多く含有する塗布液においては、層状粘土鉱物の増粘効果によって、粒子物の沈降を抑制することができる。粒子径が上記範囲をはずれると、引っかきによるキズ抑制効果が低下する場合がある。又、アスペクト比が上記範囲以下である場合、柔軟性が不充分となり、同様に引っかきによるキズ抑制効果が低下する場合がある。
【0079】
層状鉱物粒子の含有量としては、層全体の0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。特に膨潤性合成フッ素雲母やスメクタイトは少量の添加でも効果が見られるため好ましい。層状鉱物粒子は、塗布液に粉体で添加してもよいが、簡便な調液方法(メディア分散等の分散工程を必要としない)でも良好な分散度を得るために、層状鉱物粒子を単独で水に膨潤させたゲルを作製した後、塗布液に添加することが好ましい。
【0080】
本発明に係る親水性層の親水性層マトリクスにはその他の添加素材として、ケイ酸塩水溶液も使用することができる。ケイ酸Na、ケイ酸K、ケイ酸Liといったアルカリ金属ケイ酸塩が好ましく、そのSiO2/M2O比率はケイ酸塩を添加した際の塗布液全体のpHが13を超えない範囲となるように選択することが無機粒子の溶解を防止する上で好ましい。
【0081】
また、金属アルコキシドを用いた、いわゆるゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーも使用することができる。ゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーの形成については、例えば「ゾル−ゲル法の応用」(作花済夫著/アグネ承風社発行)に記載されているか、又は本書に引用されている文献に記載されている公知の方法を使用することができる。
【0082】
本発明は、親水性層中には親水性有機樹脂を含有させてもよい。親水性有機樹脂としては、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられる。
【0083】
又、カチオン性樹脂を含有しても良く、カチオン性樹脂としては、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン等のようなポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。カチオン性樹脂は微粒子状の形態で添加しても良い。これは、例えば特開平6−161101号に記載のカチオン性マイクロゲルが挙げられる。
【0084】
本発明のより好ましい態様としては、親水性層中に含有される親水性有機樹脂は水溶性であり、かつ、少なくともその一部が水溶性の状態のまま、水に溶出可能な状態で存在することが挙げられる。水溶性の素材であっても、架橋剤等によって架橋し、水に不溶の状態になると、その親水性は低下して印刷性能を劣化させる懸念がある。
【0085】
本発明の親水性層に含有される炭素原子を含む水溶性素材としては、糖類が好ましい。親水性層に糖類を含有させることにより、後述する画像形成能を有する機能層との組み合わせにおいて、画像形成の解像度を向上させたり、耐刷性を向上させたりする効果が得られる。
【0086】
糖類としては、後に詳細に説明するオリゴ糖を用いることもできるが、特に多糖類を用いることが好ましい。
【0087】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。
【0088】
これは、親水性層に多糖類を含有させることにより、親水性層の表面形状を好ましい状態形成する効果が得られるためである。
【0089】
親水性層の表面は、PS版のアルミ砂目のように0.1〜50μmピッチの凹凸構造を有することが好ましく、この凹凸により保水性や画像部の保持性が向上する。
【0090】
このような凹凸構造は、親水性層に適切な粒径のフィラーを適切な量含有させて形成することも可能であるが、親水性層の塗布液に前述のアルカリ性コロイダルシリカと前述の水溶性多糖類とを含有させ、親水性層を塗布、乾燥させる際に相分離を生じさせて形成することがより良好な印刷性能を有する構造を得ることができ、好ましい。
【0091】
凹凸構造の形態(ピッチ及び表面粗さなど)はアルカリ性コロイダルシリカの種類及び添加量、水溶性多糖類の種類及び添加量、その他添加材の種類及び添加量、塗布液の固形分濃度、ウエット膜厚、乾燥条件等で適宜コントロールすることが可能である。
【0092】
凹凸構造のピッチとしては0.2〜30μmであることがより好ましく、0.5〜20μmであることが更に好ましい。又、ピッチの大きな凹凸構造の上に、それよりもピッチの小さい凹凸構造が形成されているような多重構造の凹凸構造が形成されていてもよい。
【0093】
表面粗さとしては、Raで100〜1000nmが好ましく、150〜600nmがより好ましい。
【0094】
また、親水性層の膜厚としては、0.01〜50μmであり、好ましくは0.2〜10μmであり、更に好ましくは0.5〜3μmである。
【0095】
また、本発明の親水性層(の塗布液)には、塗布性改善等の目的で水溶性の界面活性剤を含有させることができる。Si系、又はF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0096】
また、本発明の親水性層はリン酸塩を含むことができる。本発明では親水性層の塗布液がアルカリ性であることが好ましいため、リン酸塩としてはリン酸三ナトリウムやリン酸水素二ナトリウムとして添加することが好ましい。リン酸塩を添加することで、印刷時の網の目開きを改善する効果が得られる。リン酸塩の添加量としては、水和物を除いた有効量として、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%が更に好ましい。
【0097】
[光熱変換素材]
本発明において、赤外線レーザーを用いた画像形成を行う場合には光熱変換素材を含有していることが好ましい。好ましい光熱変換素材としては下記のような素材を挙げることができる。
【0098】
一般的な赤外吸収色素であるシアニン系色素、クロコニウム系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの有機化合物、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系、ジチオール系、インドアニリン系の有機金属錯体などが挙げられる。具体的には、特開昭63−139191号、特開昭64−33547号、特開平1−160683号、特開平1−280750号、特開平1−293342号、特開平2−2074号、特開平3−26593号、特開平3−30991号、特開平3−34891号、特開平3−36093号、特開平3−36094号、特開平3−36095号、特開平3−42281号、特開平3−97589号、特開平3−103476号等に記載の化合物が挙げられる。これらは一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0099】
また、特開平11−240270号、特開平11−265062号、特開2000−309174号、特開2002−49147号、特開2001−162965号、特開2002−144750号、特開2001−219667号に記載の化合物も好ましく用いることができる。
【0100】
顔料としては、カーボン、グラファイト、金属、金属酸化物等が挙げられる。カーボンとしては特にファーネスブラックやアセチレンブラックの使用が好ましい。粒度(d50)は100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。
【0101】
グラファイトとしては粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子を使用することができる。
【0102】
金属としては粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子であれば何れの金属であっても使用することができる。形状としては球状、片状、針状等何れの形状でも良い。特にコロイド状金属微粒子(Ag、Au等)が好ましい。
【0103】
金属酸化物としては、可視光域で黒色を呈している素材、または素材自体が導電性を有するか、半導体であるような素材を使用することができる。
【0104】
前者としては、黒色酸化鉄や二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物が挙げられる。
【0105】
後者とては、例えばSbをドープしたSnO2(ATO)、Snを添加したIn2O3(ITO)、TiO2、TiO2を還元したTiO(酸化窒化チタン、一般的にはチタンブラック)などが挙げられる。又、これらの金属酸化物で芯材(BaSO4、TiO2、9Al2O3・2B2O、K2O・nTiO2等)を被覆したものも使用することができる。これらの粒径は、0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。
【0106】
これらの光熱変換素材のうち黒色酸化鉄や二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物がより好ましい素材として挙げられる。
【0107】
黒色酸化鉄(Fe3O4)としては、平均粒子径0.01〜1μmであり、針状比(長軸径/短軸径)が1〜1.5の範囲の粒子であることが好ましく、実質的に球状(針状比1)であるか、もしくは、八面体形状(針状比約1.4)を有していることが好ましい。
【0108】
このような黒色酸化鉄粒子としては、例えば、チタン工業社製のTAROXシリーズが挙げられる。球状粒子としては、BL−100(粒径0.2〜0.6μm)、BL−500(粒径0.3〜1.0μm)等を好ましく用いることができる。また、八面体形状粒子としては、ABL−203(粒径0.4〜0.5μm)、ABL−204(粒径0.3〜0.4μm)、ABL−205(粒径0.2〜0.3μm)、ABL−207(粒径0.2μm)等を好ましく用いることができる。
【0109】
さらに、これらの粒子表面をSiO2等の無機物でコーティングした粒子も好ましく用いることができ、そのような粒子としては、SiO2でコーティングされた球状粒子:BL−200(粒径0.2〜0.3μm)、八面体形状粒子:ABL−207A(粒径0.2μm)が挙げられる。
【0110】
黒色複合金属酸化物としては、具体的には、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Baから選ばれる二種以上の金属からなる複合金属酸化物である。これらは、特開平8−27393号公報、特開平9−25126号公報、特開平9−237570号公報、特開平9−241529号公報、特開平10−231441号公報等に開示されている方法により製造することができる。
【0111】
本発明に用いる複合金属酸化物としては、特にCu−Cr−Mn系またはCu−Fe−Mn系の複合金属酸化物であることが好ましい。Cu−Cr−Mn系の場合には、6価クロムの溶出を低減させるために、特開平8−27393号公報に開示されている処理を施すことが好ましい。これらの複合金属酸化物は添加量に対する着色、つまり、光熱変換効率が良好である。
【0112】
これらの複合金属酸化物は平均1次粒子径が1μm以下であることが好ましく、平均1次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲にあることがより好ましい。平均1次粒子径が1μm以下とすることで、添加量に対する光熱変換能がより良好となり、平均1次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲とすることで添加量に対する光熱変換能がより良好となる。ただし、添加量に対する光熱変換能は、粒子の分散度にも大きく影響を受け、分散が良好であるほど良好となる。したがって、これらの複合金属酸化物粒子は、層の塗布液に添加する前に、別途公知の方法により分散して、分散液(ペースト)としておくことが好ましい。平均1次粒子径が0.01未満となると分散が困難となるため好ましくない。分散には適宜分散剤を使用することができる。分散剤の添加量は複合金属酸化物粒子に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。
【0113】
[画像形成層]
本発明に用いられる印刷版材料の好ましい態様として、親水性表面基材もしくは親水性層上に機上現像可能な画像形成層を有する態様が挙げられる。画像形成層は、赤外線レーザーによる露光によって発生する熱によって画像形成するものであることが好ましい。
【0114】
本発明の画像形成層の好ましい態様のひとつとして、画像形成層が疎水化前駆体を含有する態様が挙げられる。
【0115】
疎水化前駆体としては、熱によって親水性(水溶性または水膨潤性)から疎水性へと変化するポリマーを用いることができる。具体的には、例えば、特開2000−56449号に開示されている、アリールジアゾスルホネート単位を含有するポリマーを挙げることができる。本発明においては、疎水化前駆体としては、熱可塑性疎水性粒子、もしくは、疎水性物質を内包するマイクロカプセルを用いることが好ましい。熱可塑性微粒子としては、後述する熱溶融性微粒子および熱融着性微粒子を挙げることができる。
【0116】
本発明に用いられる熱溶融性微粒子とは、熱可塑性素材の中でも特に溶融した際の粘度が低く、一般的にワックスとして分類される素材で形成された微粒子である。物性としては、軟化点40℃以上120℃以下、融点60℃以上150℃以下であることが好ましく、軟化点40℃以上100℃以下、融点60℃以上120℃以下であることが更に好ましい。融点が60℃未満では保存性が問題であり、融点が300℃よりも高い場合はインク着肉感度が低下する。
【0117】
使用可能な素材としては、パラフィン、ポリオレフィン、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸系ワックス等が挙げられる。これらは分子量800から10000程度のものである。又、乳化しやすくするためにこれらのワックスを酸化し、水酸基、エステル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ペルオキシド基などの極性基を導入することもできる。更には、軟化点を下げたり作業性を向上させるためにこれらのワックスにステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリステルアミド、硬化牛脂肪酸アミド、パルミトアミド、オレイン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミド又はこれらの脂肪酸アミドのメチロール化物、メチレンビスステラロアミド、エチレンビスステラロアミドなどを添加することも可能である。又、クマロン−インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー、これらの樹脂の共重合体も使用することができる。
【0118】
これらの中でもポリエチレン、マイクロクリスタリン、脂肪酸エステル、脂肪酸の何れかを含有することが好ましい。これらの素材は融点が比較的低く、溶融粘度も低いため、高感度の画像形成を行うことができる。又、これらの素材は潤滑性を有するため、印刷版材料の表面に剪断力が加えられた際のダメージが低減し、擦りキズ等による印刷汚れ耐性が向上する。
【0119】
又、熱溶融性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱溶融性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0120】
又、熱溶融性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。
【0121】
被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾル−ゲル法等が使用できる。層中の熱溶融性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。
【0122】
本発明の熱融着性微粒子としては、熱可塑性疎水性高分子重合体微粒子が挙げられ、高分子重合体微粒子の軟化温度に特定の上限はないが、温度は高分子重合体微粒子の分解温度より低いことが好ましい。高分子重合体の質量平均分子量(Mw)は10,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。
【0123】
高分子重合体微粒子を構成する高分子重合体の具体例としては、例えば、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−ブタジエン共重合体等のジエン(共)重合体類、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の合成ゴム類、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート−(N−メチロールアクリルアミド)共重合体、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル(共)重合体、酢酸ビニル−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等及びそれらの共重合体が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ビニルエステル(共)重合体、ポリスチレン、合成ゴム類が好ましく用いられる。
【0124】
高分子重合体微粒子は乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、気相重合法等、公知の何れの方法で重合された高分子重合体からなるものでもよい。溶液重合法又は気相重合法で重合された高分子重合体を微粒子化する方法としては、高分子重合体の有機溶媒に溶解液を不活性ガス中に噴霧、乾燥して微粒子化する方法、高分子重合体を水に非混和性の有機溶媒に溶解し、この溶液を水又は水性媒体に分散、有機溶媒を留去して微粒子化する方法等が挙げられる。又、何れの方法においても、必要に応じ重合あるいは微粒子化の際に分散剤、安定剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等の界面活性剤やポリビニルアルコール等の水溶性樹脂を用いてもよい。
【0125】
又、熱融着性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱融着性微粒子を含有する層の塗布液を多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱融着性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱融着性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0126】
又、熱融着性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。
【0127】
被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾル−ゲル法等が使用できる。層中の熱可塑性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。
【0128】
[マイクロカプセル]
本発明の印刷版材料に用いられるマイクロカプセルとしては、例えば特開2002−2135号や特開2002−19317号に記載されている疎水性素材を内包するマイクロカプセルを挙げることができる。
【0129】
マイクロカプセルは平均径で0.1〜10μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることがより好ましく、0.5〜3μmであることがさらに好ましい。
【0130】
マイクロカプセルの壁の厚さは径の1/100〜1/5であることが好ましく、1/50〜1/10であることがより好ましい。
【0131】
マイクロカプセルの含有量は画像形成層全体の5〜100質量%であり、20〜95質量%であることが好ましく、40〜90質量%であることがさらに好ましい。
【0132】
マイクロカプセルの壁材となる素材、およびマイクロカプセルの製造方法は公知の素材および方法を用いることができる。たとえば、「新版マイクロカプセルその製法・性質・応用」(近藤保、小石真純著/三共出版株式会社発行)に記載されているか、引用されている文献に記載されている公知の素材および方法を用いることができる。
【0133】
[画像形成層に含有可能なその他の素材]
本発明に用いられる画像形成層にはさらに以下のような素材を含有させることができる。
【0134】
画像形成層には上述の光熱変換素材を含有させることができる。画像形成層は一部が機上現像されるため、可視光での着色の少ない素材を用いることが好ましく、色素を用いることが好ましい。
【0135】
画像形成層には水溶性樹脂、水分散性樹脂を含有させることができる。水溶性樹脂、水分散性樹脂としては、オリゴ糖、多糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられる。これらのなかでは、オリゴ糖、多糖類、ポリアクリル酸が好ましい。
【0136】
オリゴ糖としては、ラフィノース、トレハロース、マルトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースといったものが挙げられるが、特にトレハロースが好ましい。
【0137】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。
【0138】
ポリアクリル酸としては、分子量3000〜100万であることが好ましく、5000〜50万であることがより好ましい。
【0139】
また、画像形成層には、水溶性の界面活性剤を含有させることができる。Si系、又はF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0140】
さらに、pH調整のための酸(リン酸、酢酸等)またはアルカリ(水酸化ナトリウム、ケイ酸塩、リン酸塩等)を含有していても良い。
【0141】
画像形成層の付き量としては、0.01〜10g/m2であり、好ましくは0.1〜3g/m2であり、さらに好ましくは0.2〜2g/m2である。
【0142】
[保護層]
画像形成層の上層として保護層を設けることもできる。保護層に用いる素材としては、上述の水溶性樹脂、水分散性樹脂を好ましく用いることができる。
【0143】
また、特開2002−019318号や特開2002−086948号に記載されている親水性オーバーコート層も好ましく用いることができる。
【0144】
保護層の付き量としては、0.01〜10g/m2であり、好ましくは0.1〜3g/m2であり、さらに好ましくは0.2〜2g/m2である。
【0145】
[機上現像方法]
本発明の画像形成層は、赤外線レーザー露光部が親油性の画像部となり、未露光部の層が除去されて非画像部となる。未露光部の除去は、水洗によっても可能であるが、印刷機上で湿し水およびまたはインクを用いて除去する、いわゆる機上現像することも十分に可能である。
【0146】
印刷機上での画像形成層の未露光部の除去は、版胴を回転させながら水付けローラーやインクローラーを接触させて行うことができるが、下記に挙げる例のような、もしくは、それ以外の種々のシークエンスによって行うことができる。また、その際には、印刷時に必要な湿し水水量に対して、水量を増加させたり、減少させたりといった水量調整を行ってもよく、水量調整を多段階に分けて、もしくは、無段階に変化させて行ってもよい。
【0147】
(1)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0148】
(2)印刷開始のシークエンスとして、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0149】
(3)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーとインクローラーとを実質的に同時に接触させて版胴を1回転〜数十回転回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0150】
【実施例】
基材
厚さ175μmの二軸延伸ポリエステルフィルムフィルムの両面に、8W/m2・分のコロナ放電処理を施し、次いで、一方の面に下記下引き塗布液aを乾燥膜厚0.8μmになるように塗設後にコロナ放電処理(8W/m2・分)を行いながら下引き塗布液bを乾燥膜厚0.1μmになるように塗布し、各々180℃、4分間乾燥させた(下引き面A)。また反対側の面に下記下引き塗布液cを乾燥膜厚0.8μmになるように塗設後にコロナ放電処理(8W/m2・分)を行いながら下引き塗布液dを乾燥膜厚1.0μmになるように塗布し、それぞれ180℃、4分間乾燥させた(下引き面B)。塗布後の25℃、25%RHでの表面電気抵抗は108Ωであった。このようにして、両面に下引き層を形成した基材を得た。
【0151】
【0152】
【化1】
【0153】
【0154】
【化2】
【0155】
実施例1
裏面コート層付き基材の作製
[裏面コート層付き基材1]
基材の下引きB面に下記の組成の裏面コート層1の塗布液を、ワイヤーバーを用いて乾燥付量が3g/m2となるように塗布し、100℃で3分間乾燥させ、裏面コート層付き基材1を得た。
【0156】
【表1】
【0157】
[裏面コート層付き基材2]
下記の組成の裏面コート層2の塗布液を用いた以外は、裏面コート層付き基材1と同様にして、裏面コート層付き基材2を得た。
【0158】
【表2】
【0159】
[裏面コート層付き基材3]
下記の組成の裏面コート層3の塗布液を用いた以外は、裏面コート層付き基材1と同様にして、裏面コート層付き基材3を得た。
【0160】
【表3】
【0161】
印刷版材料の作製
下記の組成の顔料分散ペースト(A)を作製した。純水中に各素材を攪拌しながら添加し、次いで、ホモジナイザで10000rpm、5分間の条件で混合し、固形分30質量%のペーストとした。
【0162】
【表4】
【0163】
下記の各素材を混合攪拌後、濾過して、固形分20質量%の下層塗布液を作製した。
【0164】
【表5】
【0165】
次に、下記素材をホモジナイザを用いて、10000rpmで10分間攪拌混合し、濾過して、固形分10質量%の親水性層塗布液を作製した。
【0166】
【表6】
【0167】
次に下記組成の素材を十分に攪拌混合し、濾過して、固形分6質量%の画像形成層塗布液を作製した。
【0168】
【表7】
【0169】
印刷版材料1の作製
裏面コート層付き基材1の下引きA面上に、下層塗布液を、乾燥質量が2.5g/m2となるようにワイヤーバーを用いて塗布し、100℃で3分間乾燥した。
【0170】
次いで、下層の上に、親水性層塗布液を、乾燥質量が0.6g/m2となるようにワイヤーバーを用いて塗布し、100℃で3分間乾燥した。親水性層までを形成した段階で、60℃24時間のエイジングを行った。
【0171】
次に、親水性層上に画像形成層塗布液をワイヤーバーを用いて乾燥付量が0.6g/m2となるように塗布し、55℃で3分間乾燥した。さらに、55℃24時間のエイジングを行い、印刷版材料1を得た。
【0172】
印刷版材料2の作製
裏面コート層付き基材2を用いた以外は、印刷版材料1と同様にして印刷版材料2を得た。
【0173】
印刷版材料3の作製(比較例)
裏面コート層付き基材3を用いた以外は、印刷版材料1と同様にして印刷版材料3を得た。
【0174】
印刷版材料4の作製(比較例)
裏面コートを形成しなかった基材を用いた以外は、印刷版材料1と同様にして印刷版材料4を得た。
【0175】
裏面表面形態およびRsk値の測定
各印刷版材料の裏面側に白金ロジウムの蒸着膜を2nmの厚さで形成し、測定サンプルとした。測定にはWYKO社製の非接触三次元粗さ測定装置RSTplusを用いて、20倍の倍率で一サンプルにつき5点測定した。
【0176】
測定結果の画像から、裏面表面形態を評価し、また、測定データを用いてRsk値を計算した。結果を表8に示した。
【0177】
吸引による保持性の評価
吸引ドラム上での保持性の代用評価として、裏面コート層のスムースター平滑度を測定した。値が小さいほど吸引による保持性は良好である。結果を表8に示した。
【0178】
裏面コート層のすべり性の評価
裏面コート層のクロムメッキピンに対する動摩擦係数を測定した。値が小さいほど版胴上へ取り付けた際のゆがみや片伸びの懸念が少ない。結果を表8に示した。
【0179】
【表8】
【0180】
表8のように、本発明の印刷版材料はスムースター平滑度が低いにもかかわらず、摩擦係数は低く、吸引ドラム上での保持性と版胴への取り付け性とを両立していることがわかる。
【0181】
実施例2
版胴表面形態の調製
[版胴1]
印刷機の二つの版胴表面の表面粗さ測定用樹脂レプリカを常法により作製した。このレプリカ表面に上述の蒸着を行って粗さ測定用サンプルとした。
【0182】
上述の方法で表面粗さを測定し、Rsk値を計算したところ、−1.5と−1.6であった。これはレプリカの反転した表面形態であるため、版胴表面のRsk値は正負を変えた、1.5と1.6となり、どちらも正の値であった。
このため、そのままの版胴を用いた場合を版胴1とした。
【0183】
[版胴2]
50μm厚のポリエステルフィルム(帝人デュポン社製:HS74、片面に水系塗布用下引き有り)の下記組成の版胴表面層A塗布液を、ワイヤーバーを用いて乾燥付量が2g/m2となるように塗布し、100℃で3分間乾燥して、版胴表面シートAを得た。
【0184】
上述の方法で求めた版胴表面シートAのRsk値は3.0であった。また、平坦面に粒子による突起が点在する(凸部が不連続、凹部が連続)表面形態であった。
【0185】
得られた版胴表面シートAを印刷機の版胴表面(二つとも)に50μm厚の両面接着シートを用いて、印刷面全面に渡って接着して版胴2とした。
【0186】
【表9】
【0187】
[版胴3]
版胴表面層A塗布液に換えて、下記組成の版胴表面層B塗布液を用いた以外は同様にして、版胴表面シートBを得た。
【0188】
上述の方法で求めた版胴表面シートBのRsk値は−1.1であった。また、窪みが規則的に密に点在する(凸部が連続、凹部が不連続)表面形態であった。得られた版胴表面シートBを用いて、版胴2と同様にして版胴3とした。
【0189】
【表10】
【0190】
画像形成
トンボ画像を有する墨と紅からなる二色画像を用意した。墨版としては、市販のポジPS版(0.24mm厚のアルミ版)を用い、墨画像から作成したフィルムを用いて定法により露光、現像して印刷版を得た。次に、紅版用として表11に示した各印刷版材料を用意した。
【0191】
用意した各印刷版材料を吸引式の露光ドラムに巻付け固定した。この際、吸引保持性の差で露光に不具合が生じないよう、印刷版材料の4端部のへりを粘着テープで隙間なく固定し、エア抜けが生じないようにした。
【0192】
墨、紅画像ともに、露光には波長830nm、スポット径約18μmのレーザービームを用い、露光エネルギーを250mJ/cm2とした条件で、2400dpi(dpiとは1インチ、即ち2.54cm当たりのドット数を表す)、175線で画像を形成した。
【0193】
印刷方法
印刷機:三菱重工業(株)製DAIYA2色印刷機を用いて、コート紙、湿し水:アストロマーク3(日研化学研究所製)2質量%、インク(東洋インク社製TKハイユニティ墨、紅)を使用して印刷を行った。
【0194】
墨版の版胴は、版下シートを用いない版胴1とし(Rsk値は1.5)PS版の墨版を取り付けた。紅版の印刷版材料及び版胴表面形態の組み合わせは表11に示したような組み合わせ(この場合の版胴1のRsk値は1.6)で行った。尚、版胴上にシートを貼り付けて表面形態を変更した際には、印刷機の仕立てを変更して印圧を一定に保つようにした。
【0195】
紅版の版胴印刷版材料は露光後そのままの状態で版胴に取り付け、墨版、紅版ともにPS版と同じ刷り出しシークエンスを用いて印刷し、刷り出しから100枚で墨版と紅版とのトンボが極力合っている状態となるよう見当調整した。
【0196】
印刷評価
[版ずれの評価]
印刷開始から5000枚、10000枚、15000枚、20000枚の各時点で墨版と紅版とのトンボのずれ量を測定した。尚、トンボのずれ量は、100枚時点での印刷物を基準とし、基準からの変化量とした。各トンボのうち、もっともずれが大きかったもので評価し、ずれが50μm以下であれば○、50μmより大きく100μm以下であれば△、100μmよりも大きければ×とした。結果を表11に示した。
【0197】
【表11】
【0198】
表11から、本発明の印刷方法によって、フィルム基材の印刷版を用いた場合でも、多色印刷に適用可能なレベルの版ずれのない印刷が可能となることがわかる。
【0199】
【発明の効果】
本発明により、版胴取り付け適性に優れ、自動もしくは半自動版換え装置にも適用可能であり、かつ、吸引ドラムを用いた露光装置への適性も改善された印刷版材料を提供し、特に樹脂基材を用いた印刷版もしくは印刷版材料を用いた見当精度を向上させた印刷方法の提供することができた。
Claims (5)
- 裏面コート層を有する印刷版材料において、該裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値を有していることを特徴とする印刷版材料。
- 裏面コート層を有する印刷版材料において、該裏面コート層の表面凹凸形態が、凸部が連続相であり、凹部が不連続相となっていることを特徴とする印刷版材料。
- 裏面コート層を有する印刷版材料もしくは印刷版を印刷機の版胴上に設置して行う印刷方法において、該裏面コート層の表面粗さパラメータ:Rskが負の値であり、かつ、該版胴表面の表面粗さパラメータ:Rskが正の値であることを特徴とする印刷方法。
- 裏面コート層を有する印刷版材料もしくは印刷版を印刷機の版胴上に設置して行う印刷方法において、該裏面コート層の表面凹凸形態が、凸部が連続相であり、凹部が不連続相となっている表面凹凸形態であり、かつ、該版胴表面の表面凹凸形態が、凸部が不連続相であり、凹部が連続相となっている表面凹凸形態であることを特徴とする印刷方法。
- 版胴表面が、所定の表面形態を形成したシート部材を該版胴上に固定してなるものであることを特徴とする請求項3又は4記載の印刷方法。
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JP2007175927A (ja) * | 2005-12-27 | 2007-07-12 | Dainippon Screen Mfg Co Ltd | 現像処理方法および印刷機 |
JP2020040669A (ja) * | 2018-09-06 | 2020-03-19 | 王子ホールディングス株式会社 | 収納箱 |
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