JP4168681B2 - 印刷版材料及び印刷版 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は印刷版材料及び印刷版に関する。
【0002】
【従来の技術】
印刷データのデジタル化に伴い安価で取り扱いが容易でPS版と同等の印刷適性を有したCTPが求められている。特に近年、特別な薬剤による現像処理が不要であって、ダイレクトイメージング(DI)機能を備えた印刷機にも適用可能な、いわゆるプロセスレスプレートへの期待が高まっている。
【0003】
プロセスレスプレートの構成としては、PS版と同じアルミ砂目を用いる場合も考えられるが、層構成の自由度やコストダウンの観点から、塗布形成された親水性層を用いた種々の方式のプロセスレスプレートが提案されている。
【0004】
プロセスレスプレートの画像形成方式の一つとして有力であるのが赤外線レーザー記録であり、大きくわけて、後述するアブレーションタイプと熱融着画像機上現像タイプ及び熱溶融転写タイプの三種の記録方式が存在する。
【0005】
赤外レーザー記録では高解像度画像を短時間で記録することが可能となるが露光家の装置価格が高いという問題もある。
【0006】
アブレーションタイプとしては、例えば、特開平8−507727号、同6−186750号、同6−199064号、同7−314934号、同10−58636号、同10−244773号に記載されているものである。
これらは例えば基材上に親水性層と親油性層とをいずれかの層を表層として積層したものである。表層が親水性層であれば画像様に露光し、親水性層をアブレートさせて画像様に除去して親油性層を露出することで画像部を形成することが出来る。但し、アブレートした表層の飛散物による露光装置内部の汚染が問題となるため、親水性層上にさらに水溶性の保護層を設けてアブレートした表層の飛散を防止し、印刷機上で保護層とともにアブレーとした表層を除去する方式も提案されている。
【0007】
熱融着画像層機上現像タイプとしては、特許2938397号に開示されているような、親水性層もしくはアルミ砂目上に画像形成層に熱可塑性微粒子と水溶性の結合剤とを用いたものが挙げられる。
が、親水性基材としてアルミ砂目を用いた場合には光熱変換素材(一般的には可視光にも着色している)を画像形成層に添加する必要が有り、機上現像した際に印刷機を汚染する懸念があるため、走行静的には基材上に光熱変換素材を含有した親水性層を形成したものを使用して、画像形成層からは光熱変換素材を除いたものの方が有利である。
【0008】
また、熱溶融転写方式としては、マンローランド社のDICOwebのような熱転写リボンを用いて、アルミ砂目ではなく、繰り返し使用可能な親水性表面を有する金属スリーブに熱溶融素材を画像様に転写した後、加熱して画像を定着させるものが上げられる。
【0009】
このように、赤外線レーザー記録様のプロセスレスプレートとしては、どのようなタイプの記録原理ではあっても、印刷版非画像部の水受容表面として塗布形成された親水性層を用いる場合がほとんどであり、アルミ砂目を用いた印刷材料よりも、塗布形成した親水性層を有する印刷材料が適していると言える。
【0010】
しかし、印刷適性においては、アルミ砂目は長年にわたる種々の検討がなされた結果、今日の非常に優れた性能を有するまでに至っており、親水性層に関しても多くの検討がなされているものの、未だにアルミ砂目に匹敵するような十分な性能を有したものは提供されていない。
【0011】
アルミ砂目はサブミクロンレベルから数十ミクロンにわたる多重粗さ構造を有しており、この構造が印刷の水インクバランスのラチチュードを広げ、且つ画像層を印刷時の摩耗から保護して耐刷性を向上させている。
【0012】
これに対して特定の形状を付与する提案もなされている。例えば、特許第3019366号には特定の表面粗さとうねり指数とを有する水溶性樹脂とから形成され、空隙率が30%〜80%を示すような三次元網目構造の親水性層が開示されている。
【0013】
しかし、これらの親水性層の表面形態は単純な構造であり、アルミ砂目の印刷適性には及ばないものであった。このように、従来技術では塗布形成された親水性層の表面構造を制御することは非常に困難であった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、アルミ砂目に匹敵する印刷適性を有し、優れた耐刷性を有する印刷版材料及び印刷版を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、下記の構成1〜4により達成された。
【0016】
1.支持体上に、少なくとも画像形成層を有する印刷版材料において、
該支持体がポリエチレンテレフタレートであり、露光部と未露光部の表面光沢が共に1%〜50%であり、支持体と画像形成層との間に親水性層を有し、且つ、該親水性層の少なくとも1層が、JIS B 0601で規定される平均粗さ(Ra)が100nm以上1000nm未満であり、該親水性層の少なくとも1層が多孔質材料を含有し、該多孔質材料が少なくとも粒径2μm以上の多孔質金属酸化物粒子を含み、且つ、該画像形成層が熱溶融性微粒子または熱融着性微粒子を含むことを特徴とする印刷版材料。
【0017】
2.熱溶融性微粒子または熱融着性微粒子が脂肪酸アミドを含むことを特徴とする前記1に記載の印刷版材料。
【0018】
3.支持体上の少なくとも1層が光熱変換剤を含有することを特徴とする前記1または2に記載の印刷版材料。
【0019】
4.前記1〜3のいずれか1項に記載の印刷版材料に露光を付与する工程を経て作製されたことを特徴とする印刷版。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者等は上記の問題点を種々検討した結果、支持体上に、少なくとも画像形成層を有する印刷版材料において、露光部と未露光部の表面光沢(光沢度ともいう)がともに1%〜50%であるように調整された印刷版材料が、前記印刷版材料を用いて印刷板を作製した時に、耐刷性向上に顕著な効果を示すことを見出した。
【0024】
また、本発明の印刷版材料は、簡易な水現像処理操作による製版、或いは、現像処理を必要とせず、直接印刷機に装填して製版することも出来、印刷開始時の印刷損紙が少なく、優れた耐刷性を示すことが判った。
【0025】
《光沢度:露光部と未露光部の光沢度》
本発明の印刷版材料は、本発明に記載の効果、即ち、印刷版材料から作製した印刷版が優れた耐刷性向上を得るためには、前記印刷版材料に露光処理を行ったとき、露光部及び未露光部の表面光沢(単に光沢度ともいう)が共に1%〜50%の範囲内の数値であることが必須要件であるが、好ましくは、5%〜45%の範囲であり、特に好ましくは、10%〜40%の範囲である。
【0026】
前記印刷版材料から作製された印刷版の耐刷性が向上する理由は現在検討中であるが、本発明者等は、ある特定の範囲の表面光沢度を有する印刷版材料から作製された印刷版の表面は、印刷機を用いて印刷を行うに当たり印刷版表面層に付与される剥離のエネルギーを緩和する機能を有するためと考えている。
【0027】
ここで、本発明に係る表面光沢(光沢度)は、変角度鏡面光沢計VGS−SENSOR(日本電飾工業社製)を用いて、入射角15°で測定したものである。
【0028】
《親水性層》
本発明に係る親水層について説明する。ここで、親水性層とは、本発明の印刷版材料を印刷版として用いる際に、インクに対する親和性が低く、且つ、水に対する親和性の高い層として定義される。
【0029】
本発明の印刷版の耐刷性向上の観点から、請求項2に記載のように、本発明の印刷版材料は、支持体と画像形成層との間に親水性層を有し、且つ、該親水性層の少なくとも1層が、JIS B 0601で規定される平均粗さ(Ra)が100nm以上1000nm未満であることが好ましい。ここで、前記平均粗さ(Ra)は、更に好ましくは、150nm〜900nmの範囲であり、特に好ましくは、200nm〜850nmの範囲である。
【0030】
(親水性層の平均粗さRaの測定):JIS B 0601規定に準ずる。
本発明に係る親水性層の平均粗さ(Ra)の測定は、支持体上に親水性層を塗設後のサンプルについて、WYKO社の非接触表粗さ計RST Plusを用いて測定した。測定に先立ってサンプル表面は白金ロジウムの蒸着層を1.0nmの厚みで設けた。
【0031】
測定条件としては20倍の倍率(測定の1画素が約0.8μm×0.8μmとなる解像度)で、約220μm×300μmの測定範囲を同一サンプルで5個所測定した。データ解析時には傾き補正、およびMedian Smoothingのフィルター処理をかけた。
【0032】
請求項3に記載のように、本発明の印刷版材料は、支持体上に設けられた親水性層の少なくとも1層が、多孔質構造を有することが好ましい。前記多孔質構造を有する親水性層を形成するためには、下記に記載の親水性マトリクスを形成する素材が好ましく用いられる。
【0033】
(金属酸化物)
親水性層マトリクスを形成する素材としては、金属酸化物が好ましい。金属酸化物としては、金属酸化物微粒子を含むことが好ましく、例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物のゾルが挙げられる。該金属酸化物微粒子の形態としては、球状、針状、羽毛状、その他の何れの形態でも良く、平均粒径としては、3nm〜100nmの範囲が好ましく、平均粒径が異なる数種の金属酸化物微粒子を併用することもできる。また、粒子表面に表面処理がなされていても良い。
【0034】
上記金属酸化物微粒子は、その造膜性を利用して結合剤としての使用が可能である。有機の結合剤を用いるよりも親水性の低下が少なく、親水性層への使用に適している。
【0035】
(コロイダルシリカ)
中でも、コロイダルシリカが特に好ましく使用できる。コロイダルシリカは、比較的低温の乾燥条件であっても造膜性が高いという利点があり、良好な強度を得ることができる。コロイダルシリカとしては、後述するネックレス状コロイダルシリカ、平均粒径20nm以下の微粒子コロイダルシリカを含むことが好ましく、更に、コロイダルシリカはコロイド溶液としてアルカリ性を呈することが好ましい。
【0036】
ネックレス状コロイダルシリカとは、一次粒子径がnmのオーダーである球状シリカの水分散系の総称であり、一次粒粒子径が10nm〜50nmの球状コロイダルシリカが50nm〜400nmの長さに結合した「パールネックレス状」のコロイダルシリカを意味する。
【0037】
パールネックレス状(即ち真珠ネックレス状)とは、コロイダルシリカのシリカ粒子が連なって結合した状態のイメージが、真珠ネックレスの様な形状をしていることを意味している。
【0038】
ネックレス状コロイダルシリカを構成するシリカ粒子同士の結合は、シリカ粒子表面に存在する−SiOH基が脱水結合した−Si−O−Si−と推定される。ネックレス状のコロイダルシリカとしては、具体的には日産化学工業(株)製の「スノーテックス−PS」シリーズなどが挙げられ、製品名としては「スノーテックス−PS−S(連結した状態の平均粒子径は110nm程度)」、「スノーテックス−PS−M(連結した状態の平均粒子径は120nm程度)」及び「スノーテックス−PS−L(連結した状態の平均粒子径は170nm程度)」があり、これらに各々対応する酸性の製品が「スノーテックス−PS−S−O」、「スノーテックス−PS−M−O」及び「スノーテックス−PS−L−O」である。
【0039】
ネックレス状コロイダルシリカを添加することにより、層の多孔性を確保しつつ、強度を維持することが可能となり、親水性層マトリクスの多孔質化材として好ましく使用できる。これらの中でも、アルカリ性である「スノーテックスPS−S」、「スノーテックスPS−M」、「スノーテックスPS−L」を用いると、親水性層の強度が向上し、また、印刷枚数が多い場合でも地汚れの発生が抑制され、特に好ましい。
【0040】
また、コロイダルシリカは、粒子径が小さいほど結合力が強くなることが知られており、本発明では平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカを用いることが好ましく、更に好ましくは、3nm〜15nmのものである。
【0041】
前述のようにコロイダルシリカの中ではアルカリ性のものが、地汚れ発生を抑制する効果が高く特に好ましい。平均粒径がこの範囲にあるアルカリ性のコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学社製の「スノーテックス−20(粒子径10nm〜20nm)」、「スノーテックス−30(粒子径10nm〜20nm)」、「スノーテックス−40(粒子径10nm〜20nm)」、「スノーテックス−N(粒子径10nm〜20nm)」、「スノーテックス−S(粒子径8nm〜11nm)」、「スノーテックス−XS(粒子径4nm〜6nm)」が挙げられる。
【0042】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカは、前述のネックレス状コロイダルシリカと併用することで、形成する層の多孔質性を維持しながら、強度をさらに向上させることが可能となり、特に好ましい。
【0043】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカ/ネックレス状コロイダルシリカの比率は95/5〜5/95の範囲が好ましく、更に好ましくは、70/30〜20/80の範囲がより好ましく、60/40〜30/70の範囲が更に好ましい。
【0044】
(多孔質金属酸化物粒子)
本発明において、親水性層マトリクス構造の多孔質化材として、粒径が1μm未満の多孔質金属酸化物粒子を含有することができる。多孔質金属酸化物粒子としては、以下に記載の多孔質シリカ、多孔質アルミノシリケート粒子または、ゼオライト粒子を好ましく用いることができる。
【0045】
(多孔質シリカ多孔質シリカ、多孔質アルミノシリケート粒子)
多孔質シリカ粒子は、一般に湿式法または、乾式法により製造される。湿式法では、ケイ酸塩水溶液を中和して得られるゲルを乾燥、粉砕するか、もしくは中和して析出した沈降物を粉砕することで得ることができる。乾式法では、四塩化珪素を水素と酸素と共に燃焼し、シリカを析出することで得られる。これらの粒子は製造条件の調整により、多孔性や粒径を制御することが可能である。多孔質シリカ粒子としては、湿式法のゲルから得られるものが特に好ましい。
【0046】
多孔質アルミノシリケート粒子は、例えば、特開平10−71764号に記載されている方法により製造される。即ち、アルミニウムアルコキシドと珪素アルコキシドを主成分として加水分解法により合成された非晶質な複合体粒子である。粒子中のアルミナとシリカの比率は1:4〜4:1の範囲で合成することが可能である。また、製造時にその他の金属のアルコキシドを添加して3成分以上の複合体粒子として製造したものも本発明に使用できる。これらの複合体粒子も製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0047】
粒子の多孔性としては、細孔容積で0.5ml/g以上であることが好ましく、0.8ml/g以上であることがより好ましく、1.0〜2.5ml/gであることが更に好ましい。細孔容積は、塗膜の保水性と密接に関連しており、細孔容積が大きいほど保水性が良好となって印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなるが、2.5ml/gよりも大きくなると粒子自体が非常に脆くなるため塗膜の耐久性が低下する。逆に、細孔容積が0.5ml/g未満の場合には、印刷性能がやや不十分となる場合がある。
【0048】
(細孔容積の測定方法)
ここで、上記の細孔容積の測定は、オートソーブ−1(カンタクローム社製)を使用し、定容法を用いた窒素吸着測定により、粉体の空隙が窒素により、充填されていると仮定して相対圧力が0.998における窒素吸着量から算出されるものである。
【0049】
(ゼオライト粒子)
ゼオライトは、結晶性のアルミノケイ酸塩であり、細孔径が0.3nm〜1nmの規則正しい三次元網目構造の空隙を有する多孔質体である。天然及び合成ゼオライトを合わせた一般式は、次のように表される。
【0050】
(M1、(M2)0.5)m(AlmSinO2)(m+n)・xH2O
ここで、M1、M2は交換性のカチオンであって、M1はLi+、Na+、K+、Tl+、Me4N+(TMA)、Et4N+(TEA)、Pr4N+(TPA)、C7H15N2+、C8H16N+等であり、M2はCa2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+、C8H18N2 2+等である。また、n≧mであり、m/nの値つまりはAl/Si比率は1以下となる。Al/Si比率が高いほど交換性カチオンの量が多く含まれるため極性が高く、従って親水性も高い。好ましいAl/Si比率は0.4〜1.0であり、更に好ましくは0.8〜1.0である。xは整数を表す。
【0051】
本発明で使用するゼオライト粒子としては、Al/Si比率が安定しており、又粒径分布も比較的シャープである合成ゼオライトが好ましく、例えばゼオライトA:Na12(Al12Si12O48)・27H2O;Al/Si比率1.0、ゼオライトX:Na86(Al86Si106O384)・264H2O;Al/Si比率0.811、ゼオライトY:Na56(Al56Si136O384)・250H2O;Al/Si比率0.412等が挙げられる。
【0052】
Al/Si比率が0.4〜1.0である親水性の高い多孔質粒子を含有することで、親水性層自体の親水性も大きく向上し、印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなる。また、指紋跡の汚れも大きく改善される。Al/Si比率が0.4未満では親水性が不充分であり、上記性能の改善効果が小さくなる。
【0053】
また、親水層を構成する親水性層マトリクス構造は、層状粘土鉱物粒子を含有することができる。該層状鉱物粒子としては、例えば、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サボナイト等)、バーミキュライト、マイカ(雲母)、クロライトといった粘土鉱物及び、ハイドロタルサイト、層状ポリケイ酸塩(カネマイト、マカタイト、アイアライト、マガディアイト、ケニヤアイト等)等が挙げられる。特に、単位層(ユニットレイヤー)の電荷密度が高いほど極性が高く、親水性も高いと考えられる。好ましい電荷密度としては0.25以上、更に好ましくは0.6以上である。このような電荷密度を有する層状鉱物としては、スメクタイト(電荷密度0.25〜0.6;陰電荷)、バーミキュライト(電荷密度0.6〜0.9;陰電荷)等が挙げられる。特に、合成フッ素雲母は粒径等安定した品質のものを入手することができ好ましい。また、合成フッ素雲母の中でも、膨潤性であるものが好ましく、自由膨潤であるものが更に好ましい。
【0054】
また、上記の層状鉱物のインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、イオン交換処理を施したもの、表面処理(シランカップリング処理、有機バインダとの複合化処理等)を施したものも使用することができる。
【0055】
平板状層状鉱物粒子のサイズとしては、層中に含有されている状態で(膨潤工程、分散剥離工程を経た場合も含めて)、平均粒径(粒子の最大長)が1μm未満であり、平均アスペクト比が50以上であることが好ましい。粒子サイズが上記範囲にある場合、薄層状粒子の特徴である平面方向の連続性及び柔軟性が塗膜に付与され、クラックが入りにくく乾燥状態で強靭な塗膜とすることができる。また、粒子物を多く含有する塗布液においては、層状粘土鉱物の増粘効果によって、粒子物の沈降を抑制することができる。粒子径が上記範囲より大きくなると、塗膜に不均一性が生じて、局所的に強度が弱くなる場合がある。また、アスペクト比が上記範囲以下である場合、添加量に対する平板状の粒子数が少なくなり、増粘性が不充分となり、粒子物の沈降を抑制する効果が低減する。
【0056】
層状鉱物粒子の含有量としては、層全体の0.1質量%〜30質量%であることが好ましく、1質量%〜10質量%であることがより好ましい。特に膨潤性合成フッ素雲母やスメクタイトは少量の添加でも効果が見られるため好ましい。層状鉱物粒子は、塗布液に粉体で添加してもよいが、簡便な調液方法(メディア分散等の分散工程を必要としない)でも良好な分散度を得るために、層状鉱物粒子を単独で水に膨潤させたゲルを調製した後、塗布液に添加することが好ましい。
【0057】
親水層を構成する親水性層マトリクスにはその他の添加素材として、ケイ酸塩水溶液も使用することができる。ケイ酸Na、ケイ酸K、ケイ酸Liといったアルカリ金属ケイ酸塩が好ましく、そのSiO2/M2O比率はケイ酸塩を添加した際の塗布液全体のpHが13を超えない範囲となるように選択することが無機粒子の溶解を防止する上で好ましい。
【0058】
また、金属アルコキシドを用いた、いわゆるゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーも使用することができる。ゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーの形成については、例えば、「ゾル−ゲル法の応用」(作花済夫著/アグネ承風社発行)に記載されているか、又は本書に引用されている文献に記載されている公知の方法を使用することができる。
【0059】
また、本発明では、水溶性樹脂を含有してもよい。水溶性樹脂としては、例えば、多糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられるが、本発明に用いられる水溶性樹脂としては、多糖類を用いることが好ましい。
【0060】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。これは、親水性層に多糖類を含有させることにより、親水性層の表面形状を好ましい状態形成する効果が得られるためである。
【0061】
親水性層の表面は、PS版のアルミ砂目のように0.1μm〜20μmピッチの凹凸構造を有することが好ましく、この凹凸により保水性や画像部の保持性が向上する。このような凹凸構造は、親水性層マトリクスに適切な粒径のフィラーを適切な量含有させて形成することも可能であるが、親水性層の塗布液に前述のアルカリ性コロイダルシリカと前述の水溶性多糖類とを含有させ、親水性層を塗布、乾燥させる際に相分離を生じさせて形成することがより良好な印刷適性を有する構造を得ることができ、好ましい。
【0062】
凹凸構造の形態(ピッチ及び表面粗さなど)は、アルカリ性コロイダルシリカの種類及び添加量、水溶性多糖類の種類及び添加量、その他添加材の種類及び添加量、塗布液の固形分濃度、ウエット膜厚、乾燥条件等で適宜コントロールすることが可能である。
【0063】
本発明において、親水性マトリクス構造部に添加される水溶性樹脂は、少なくともその一部が水溶性の状態のまま、水に溶出可能な状態で存在することが好ましい。水溶性の素材であっても、架橋剤等によって架橋し、水に不溶の状態になると、その親水性は低下して印刷適性を劣化させる懸念があるためである。また、さらにカチオン性樹脂を含有しても良く、カチオン性樹脂としては、例えば、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン等のようなポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。カチオン性樹脂は、微粒子状の形態で添加しても良く、例えば、特開平6−161101号に記載のカチオン性マイクロゲルが挙げられる。
【0064】
また、本発明に係る親水性層を塗設する為に用いられる塗布液には、塗布性改善等の目的で水溶性の界面活性剤を含有させることができ、Si系または、F系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は、親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01質量%〜3質量%が好ましく、0.03質量%〜1質量%が更に好ましい。
【0065】
また、親水性層には、リン酸塩を含むことができる。本発明では、親水性層の塗布液がアルカリ性であることが好ましいため、リン酸塩としてはリン酸三ナトリウムやリン酸水素二ナトリウムとして添加することが好ましい。リン酸塩を添加することで、印刷時の網の目開きを改善する効果が得られる。リン酸塩の添加量としては、水和物を除いた有効量として、0.1質量%〜5質量%が好ましく、0.5質量%〜2質量%が更に好ましい。
【0066】
また、後述する光熱変換素材を含有することもできる。光熱変換素材としては、粒子状素材の場合は粒径が1μm未満であることが好ましい。
【0067】
(粒径が1μm以上の無機粒子もしくは無機素材で被覆された粒子)
本発明で用いることのできる無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなど、公知の金属酸化物粒子を用いることができるが、塗布液中での沈降を抑制するために、多孔質な金属酸化物粒子を用いることが好ましい。多孔質な金属酸化物粒子としては、前述の多孔質シリカ粒子や多孔質アルミノシリケート粒子を好ましく用いることができる。
【0068】
また、無機素材で被覆された粒子としては、例えば、ポリメチルメタアクリレートやポリスチレンといった有機粒子を芯材とし、芯材粒子よりも粒径の小さな無機粒子で被覆した粒子が挙げられる。無機粒子の粒径としては、芯材粒子の1/10〜1/100程度であることが好ましい。また、無機粒子としては、同様にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなど、公知の金属酸化物粒子を用いることができる。被覆方法としては、種々の公知の方法を用いることができるが、ハイブリダイザのような空気中で芯材粒子と被覆材粒子とを高速に衝突させて芯材粒子表面に被覆材粒子を食い込ませて固定、被覆する乾式の被覆方法を好ましく用いることができる。
【0069】
また、有機粒子の芯材を金属メッキした粒子も用いることができる。このような粒子としては、例えば、樹脂粒子に金メッキを施した積水化学工業社製の「ミクロパールAU」等が挙げられる。
【0070】
粒径は、1μm〜10μmが好ましく、更に好ましくは、1.5μm〜8μmであり、特に好ましくは、2μm〜6μmである。
【0071】
本発明では、粒径が1μm以上の粒子の添加量としては、親水性層全体の1質量%〜50質量%であることが好ましく、5質量%〜40質量%であることがより好ましい。親水性層全体としては、有機樹脂やカーボンブラック等の炭素を含有する素材の含有比率が低いことが親水性を向上させるために好ましく、これらの素材の合計が9質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましい。
【0072】
(親水性層の構成、親水性層作製時の付量(g/m2)について)
本発明に係る親水性層には、印刷版材料に1%〜50%の範囲にわたる特定の範囲の表面光沢を付与する観点から、前記記載の親水性マトリクスを形成するための素材が好ましく用いられる。
【0073】
また、前記親水性層は、上記素材を含む塗布液を用いて支持体上に塗設されることが好ましく、また、支持体と画像形成層との接着性を向上させ、本発明に印刷版材料に1%〜50%の範囲にわたる特定の表面光沢を付与する観点から、上記に記載のように、少なくとも1層の親水性性の、JIS B 0601で規定される平均粗さ(Ra)が100nm以上1000nm未満の範囲であることが好ましいが、前記親水性層は、支持体に近いほうから、親水性層A、親水性層Bのような2層構成から形成されていることが好ましい。
【0074】
ここで、親水性層Aの付量としては、0.05g/m2〜5.0g/m2の範囲が好ましく、更に好ましくは、0.5g/m2〜4.0g/m2であり、特に好ましくは、0.5g/m2〜3.5g/m2である。
【0075】
また、親水性層Bの付量としては、0.02g/m2〜4.0g/m2の範囲が好ましく、更に好ましくは、0.05g/m2〜3.0g/m2であり、特に好ましくは、0.1g/m2〜2g/m2である。
【0076】
また、付量とは、支持体上に形成された、親水性層A、B、各々の印刷版材料1m2当たりの固形分量(但し、溶剤等の液体成分を含む場合は、前記液体成分の分量も付量に加えることとする)を表す。
【0077】
本発明では、画像形成層が熱溶融性微粒子または熱融着性微粒子を含有する構成が好ましい態様としてあげられる。また、本発明の印刷版材料の好ましい態様の1つとして、支持体上のいずれか1層が、光熱変換素材を含有する構成が好ましい。
【0078】
《熱溶融性及びまたは熱融着性微粒子を含有する画像形成層》
本発明に係る画像形成層は、熱溶融性微粒子または、熱融着性微粒子を含有する構成が好ましく用いられる。
【0079】
《熱溶融性微粒子》
本発明に係る熱溶融性微粒子とは、熱可塑性素材の中でも特に溶融した際の粘度が低く、一般的にワックスとして分類される素材で形成された微粒子である。
【0080】
保存性、インク着肉感度向上の観点から、物性としては、軟化点40℃〜120℃、融点60℃〜150℃であることが好ましく、軟化点40℃〜100℃、融点60℃〜120℃であることが更に好ましい。
【0081】
使用可能な素材としては、例えば、パラフィン、ポリオレフィン、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸系ワックス等が挙げられる。これらは分子量800〜10000程度のものであり、また乳化しやすくするためにこれらのワックスを酸化し、水酸基、エステル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ペルオキシド基などの極性基を導入することもできる。
【0082】
更には、軟化点を下げたり作業性を向上させるためにこれらのワックスに、例えば、ステアリン酸アミド、リノレン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、オレイン酸アミド、マレイン酸アミド、メサコン酸アミド、シトラコン酸アミド、マロン酸アミド、アジピン酸アミド、アゼライン酸アミド、セバシン酸アミド、ピメリン酸アミド、シュウ酸アミド、こはく酸アミド、グルタル酸アミド、スベリン酸アミド、ピバル酸アミド、酪酸アミド、プロピオン酸アミド、硬化牛脂肪酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミド等の脂肪酸アミド化合物、または、これらの脂肪酸アミドのメチロール化物、メチレンビスステラロアミド、エチレンビスステラロアミドなどを添加することも可能である。また、クマロン−インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー、これらの樹脂の共重合体も使用することができる。
【0083】
中でも、ポリエチレン、マイクロクリスタリン、脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪酸アミド化合物の何れかを含有することが好ましく、特に好ましく用いられるのは、上記の脂肪酸アミド化合物である。
【0084】
これらの素材は融点が比較的低く、溶融粘度も低いため、高感度の画像形成を行うことができる。また、これらの素材は潤滑性を有するため、印刷版材料の表面に剪断力が加えられた際のダメージが低減し、擦りキズ等による印刷汚れ耐性が向上する。
【0085】
(熱溶融性微粒子の平均粒径)
熱溶融性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、また、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中及び/または、親水性層表面の微細な凹凸の隙間への侵入をなくし、十分な機上現像を実施可能にして地汚れを防止する、且つ、本発明の印刷版材料の解像度向上の観点から、平均粒径が、0.01μm〜10μmに調整されることが好ましく、更に好ましくは、0.1μm〜3μmである。
【0086】
また、熱溶融性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。被覆方法は、公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法等が使用できる。
【0087】
構成層中での熱溶融性微粒子の含有量としては、層全体の1質量%〜90質量%が好ましく、更に好ましくは、5質量%〜80質量%である。
【0088】
《熱融着性微粒子》
本発明に係る熱融着性微粒子としては、熱可塑性微粒子が挙げられ、該熱可塑性微粒子の軟化温度に特定の上限はないが、温度は熱可塑性微粒子の分解温度より低いことが好ましい。また、熱可塑性微粒子が高分子から構成される場合は、重量平均分子量(Mw)は10、000〜1、000、000の範囲であることが好ましい。
【0089】
熱可塑性微粒子を構成する高分子の具体例としては、例えば、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−ブタジエン共重合体等のジエン(共)重合体類、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の合成ゴム類、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート−(N−メチロールアクリルアミド)共重合体、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル(共)重合体、酢酸ビニル−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等及びそれらの共重合体が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ビニルエステル(共)重合体、ポリスチレン、合成ゴム類等が好ましく用いられる。
【0090】
熱可塑性微粒子の作製方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、気相重合法等、公知の重合法で作製された高分子を用いることが出来る。
【0091】
溶液重合法または、気相重合法等の重合法により作製された高分子を微粒子化する方法としては、高分子を有機溶媒に溶解して調製した溶解液を不活性ガス中に噴霧、乾燥して微粒子化する方法、高分子を水に非混和性の有機溶媒に溶解し、得られた溶液を水または、水性媒体に分散、有機溶媒を留去して微粒子化する方法等が挙げられる。
【0092】
また、熱可塑性微粒子(熱融着性微粒子ともいう)は、何れの方法においても、必要に応じ重合あるいは微粒子化の際に分散剤、安定剤として、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等の界面活性剤やポリビニルアルコール等の水溶性樹脂を用いてもよい。また、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等を含有させても良い。
【0093】
(熱可塑性微粒子の平均粒径)
熱可塑性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、また、上記の熱溶融性微粒子と同様な理由から、その平均粒径は0.01μm〜10μmの範囲に調整されることが好ましく、更に好ましくは、0.1μm〜3μmである。
【0094】
また、熱可塑性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法等が使用できる。
【0095】
構成層中の熱可塑性微粒子の含有量としては、層全体の1質量%〜90質量%が好ましく、5質量%〜80質量%がさらに好ましい。
【0096】
(水溶性素材)
本発明に係る熱溶融性微粒子及び/または熱融着性微粒子(熱可塑性微粒子ともいう)を含有する画像形成層には、更に水溶性素材を含有することが好ましい。水溶性素材を含有することにより、印刷機上で湿し水やインクを用いて未露光部の画像形成層を除去する際に、その除去性が向上する。
【0097】
水溶性素材としては、親水性層に含有可能な素材として挙げた水溶性樹脂を用いることもできるが、本発明の画像形成層としては、糖類を用いることが好ましく、特にオリゴ糖を用いることが好ましい。オリゴ糖は水に速やかに溶解するため、印刷装置上での未露光部の画像形成層の除去も非常に速やかとなり、特別な除去操作を意識することなく、通常のPS版の刷出し操作と同様の操作で刷出すことで除去可能であり、刷出しの損紙が増加することもない。
【0098】
また、オリゴ糖は親水性層の親水性を低下させる懸念もなく、親水性層の良好な印刷適性を維持することができる。オリゴ糖は水に可溶な、一般に甘みを有する結晶性物質で、数個の単糖がグリコシド結合を形成し、脱水縮合したものである。オリゴ糖は糖をアグリコンとする一種のo−グリコシドであるから、酸で容易に加水分解されて単糖を生じ、生成する単糖の分子数によって二糖、三糖、四糖、五糖などに分類される。本発明におけるオリゴ糖とは、二糖〜十糖までのものをいう。
【0099】
これらのオリゴ糖は、還元基の有無によって、還元性オリゴ糖と非還元性オリゴ糖とに大別され、また、単一の単糖から構成されているホモオリゴ糖と、2種類以上の単糖から構成されているヘテロオリゴ糖にも分類される。オリゴ糖は、遊離状または、配糖類として天然に存在し、また、多糖の酸または、酵素による部分加水分解によっても得られる。この他酵素によるグリコシル転移によっても種々のオリゴ糖が生成する。
【0100】
オリゴ糖は通常雰囲気中では水和物として存在することが多い。また、水和物と無水物とでは融点が異なり、下記に具体例を示す。
【0101】
オリゴ糖の種類 水和物(融点℃) 無水物(融点℃)
ラフィノース(三糖) 80℃(5水和物) 118℃
トレハロース(二糖) 97℃(2水和物) 215℃
マルトース(二糖) 103℃(1水和物) 108℃
ガラクトース(二糖) 119℃(1水和物) 167℃
スクロース(二糖) 水和物無し 182℃
本発明では、糖類を含有する層を水溶液で塗布形成することが好ましいため、水溶液から形成された場合は、層中に存在するオリゴ糖が水和物を形成するオリゴ糖である場合は、その融点は水和物の融点であると考えられる。このように、比較的低融点を有しているため、熱溶融微粒子が溶融する温度範囲や熱融着微粒子が融着する温度範囲でオリゴ糖も溶融し、熱溶融微粒子の多孔質親水性層への溶融浸透や熱融着微粒子の融着といった画像形成を妨げることがない。
【0102】
オリゴ糖の中でもトレハロースは、比較的純度の高い状態のものが工業的に安価に入手可能可能であり、水への溶解度が高いにもかかわらず、吸湿性は非常に低く、機上現像性及び保存性共に非常に良好である。
【0103】
また、オリゴ糖水和物を熱溶融させて水和水を除去した後に凝固させると(凝固後短時間のうちは)無水物の結晶となるが、トレハロースは水和物よりも無水物の融点が100℃以上も高いことが特徴的である。これは赤外線露光で熱溶融し、再凝固した直後は露光済部は高融点で溶融しにくい状態となることを意味し、バンディング等の露光時の画像欠陥を起こしにくくする効果がある。本発明の目的を達成するには、オリゴ糖の中でも特にトレハロースが好ましい。
【0104】
構成層中のオリゴ糖の含有量としては、層全体の1質量%〜90質量%が好ましく、10質量%〜80質量%がさらに好ましい。
【0105】
《画像形成》
本発明の印刷版材料の一態様においては、画像形成は、熱により行うことができるが、特に赤外線レーザによる露光によって画像形成を行うことが好ましい。
【0106】
本発明に関する露光に関し、より具体的には、赤外及び/または近赤外領域で発光する、すなわち700nm〜1500nmの波長範囲で発光するレーザを使用した走査露光が好ましい。レーザとしてはガスレーザを用いてもよいが、近赤外領域で発光する半導体レーザを使用することが特に好ましい。
【0107】
走査露光に好適な装置としては、半導体レーザを用いてコンピュータからの画像信号に応じて印刷版材料表面に画像を形成可能な装置であればどのような方式の装置であってもよい。
【0108】
一般的には、
(1)平板状保持機構に保持された印刷版材料に一本もしくは複数本のレーザビームを用いて2次元的な走査を行って印刷版材料全面を露光する方式、
(2)固定された円筒状の保持機構の内側に、円筒面に沿って保持された印刷版材料に、円筒内部から一本もしくは複数本のレーザビームを用いて円筒の周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて印刷版材料全面を露光する方式、
(3)回転体としての軸を中心に回転する円筒状ドラム表面に保持された印刷版材料に、円筒外部から一本もしくは複数本のレーザビームを用いてドラムの回転によって周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて印刷版材料全面を露光する方式があげられる。
【0109】
本発明に関しては、特に(3)項記載の走査露光方式が好ましく、特に印刷装置上で露光を行う装置においては、(3)項記載の露光方式が用いられる。
【0110】
《光熱変換素材》
請求項6に記載のような、本発明の印刷版材料の一態様においては、支持体上の少なくとも1層、例えば、本発明に係る親水性層、下層及びその他に設けられる層が光熱変換素材を含有することが好ましい。
【0111】
光熱変換素材としては下記のような素材を添加することができる。
(赤外吸収色素)
一般的な赤外吸収色素であるシアニン系色素、クロコニウム系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの有機化合物、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系、ジチオール系、インドアニリン系の有機金属錯体などが挙げられる。具体的には、特開昭63−139191号、同64−33547号、特開平1−160683号、同1−280750号、同1−293342号、同2−2074号、同3−26593号、同3−30991号、同3−34891号、同3−36093号、同3−36094号、同3−36095号、同3−42281号、同3−97589号、同3−103476号等に記載の化合物が挙げられる。これらは一種または、二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0112】
(顔料)
顔料としては、カーボン、グラファイト、金属、金属酸化物等が挙げられる。カーボンとしては、特にファーネスブラックやアセチレンブラックの使用が好ましい。粒度(d50)は100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。
【0113】
(グラファイト)
グラファイトとしては、粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子を使用することができる。
【0114】
(金属)
金属としては、粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子であれば何れの金属であっても使用することができる。形状としては球状、片状、針状等何れの形状でも良い。特にコロイド状金属微粒子(Ag、Au等)が好ましい。
【0115】
(金属酸化物)
金属酸化物としては、可視光域で黒色を呈している素材、または素材自体が導電性を有するか、半導体であるような素材を使用することができる。前者としては、黒色酸化鉄(Fe3O4)や、前述の二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物が挙げられる。後者とては、例えば、SbをドープしたSnO2(ATO)、Snを添加したIn2O3(ITO)、TiO2、TiO2を還元したTiO(酸化窒化チタン、一般的にはチタンブラック)などが挙げられる。また、これらの金属酸化物で芯材(BaSO4、TiO2、9Al2O3・2B2O、K2O・nTiO2等)を被覆したものも使用することができる。これらの粒径は、0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。
【0116】
これらの光熱変換素材のうち、二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物がより好ましい素材として挙げられ、具体的には、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Baから選ばれる二種以上の金属からなる複合金属酸化物である。これらは、特開平8−27393号、同9−25126号、同9−237570号、同9−241529号、同10−231441号等に開示されている方法により製造することができる。
【0117】
本発明に用いる複合金属酸化物としては、特にCu−Cr−Mn系またはCu−Fe−Mn系の複合金属酸化物であることが好ましい。Cu−Cr−Mn系の場合には、6価クロムの溶出を低減させるために、特開平8−27393号に開示されている処理を施すことが好ましい。これらの複合金属酸化物は添加量に対する着色、つまり、光熱変換効率が良好である。
【0118】
これらの複合金属酸化物は、平均一次粒子径が1μm以下であることが好ましく、平均一次粒子径が0.01μm〜0.5μmの範囲にあることがより好ましい。平均一次粒子径が1μm以下とすることで、添加量に対する光熱変換能がより良好となり、平均一次粒子径が0.01μm〜0.5μmの範囲とすることで添加量に対する光熱変換能がより良好となる。ただし、添加量に対する光熱変換能は、粒子の分散度にも大きく影響を受け、分散が良好であるほど良好となる。したがって、これらの複合金属酸化物粒子は、層の塗布液に添加する前に、別途公知の方法により分散して、分散液(ペースト)としておくことが好ましい。平均一次粒子径が0.01未満となると分散が困難となるため好ましくない。分散には適宜分散剤を使用することができる。分散剤の添加量は複合金属酸化物粒子に対して0.01質量%〜5質量%が好ましく、0.1質量%〜2質量%がより好ましい。
【0119】
これらの複合金属酸化物の添加量としては、親水性層や下層に対して0.1質量%〜50質量%の範囲が好ましく、更に好ましくは、1質量%〜30質量%であり、特に好ましくは、3質量%〜25質量%である。
【0120】
《支持体》
本発明に係る支持体について説明する。
【0121】
支持体(基材、基板などともいう)としては、印刷版の基板として使用される公知の材料を使用することができる。例えば、金属板、プラスチックフィルム、ポリオレフィン等で処理された紙、上記材料を適宜貼り合わせた複合基材等が挙げられる。基材の厚さとしては、印刷機に取り付け可能であれば特に制限されるものではないが、50μm〜500μmのものが一般的に取り扱いやすい。
【0122】
金属板としては、鉄、ステンレス、アルミニウム等が挙げられるが、比重と剛性との関係から特にアルミニウムが好ましい。アルミニウム板は、通常その表面に存在する圧延・巻取り時に使用されたオイルを除去するためにアルカリ、酸、溶剤等で脱脂した後に使用される。脱脂処理としては特にアルカリ水溶液による脱脂が好ましい。また、塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。例えば、ケイ酸塩やシランカップリング剤等のカップリング剤を含有する液に浸漬するか、液を塗布した後、十分な乾燥を行う方法が挙げられる。陽極酸化処理も易接着処理の一種と考えられ、使用することができる。また、陽極酸化処理と上記浸漬または塗布処理を組合わせて使用することもできる。また、公知の方法で粗面化されたアルミニウム板を使用することもできる。
【0123】
プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、セルロースエステル類等を挙げることができる。特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。これらプラスチックフィルムは塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。易接着処理としては、コロナ放電処理や火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。また、下塗り層としては、ゼラチンやラテックスを含む層等が挙げられる。
【0124】
また、複合基材としては、上記材料を適宜貼り合わせて使用するが、塗布層を形成する前に貼り合わせても良く、また、塗布層を形成した後に貼り合わせても良く、印刷機に取り付ける直前に貼り合わせても良い。
【0125】
《印刷版材料の製造方法》
本発明の印刷版材料の製造方法について説明する。
【0126】
本発明の印刷版は公知の塗布方法を用いて、上記記載のような支持体に、本発明に係る下層、親水性層、次いで、画像形成層等を逐次塗布乾燥することにより作製することが出来る。また、必要に応じて、支持体上に下引き層等を設けてもよい。本発明の印刷版材料の製造に利用可能な塗布方法としては押し出しコーター、カーテンコーター、ワイヤーバー塗布、グラビア塗布、スライドコーター塗布等を適用することが出来る。
【0127】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0128】
実施例1
《支持体の作製》
(PET(ポリエチレンテレフタレート)製支持体)
PET製支持体としては、水系塗布用の下引き層が設けられた厚さ188μmのPETフィルム(HS74:帝人社製)を用いた。
【0129】
(アルミ支持体)
アルミ支持体としては、まず厚さ0.24mmのアルミ板:AA1050を水酸化ナトリウム水溶液を用いて脱脂した。アルミの溶解量としては2g/m2であった。純水で十分に洗浄した後、70℃の1質量%リン酸水素ニナトリウム水溶液に30秒間浸漬し、次いで純水で十分に洗浄した後に乾燥してアルミ支持体を得た。
【0130】
《親水性層A塗布液1〜4の調製》
表1に記載の組成をホモジナイザを用いて十分に攪拌、混合後、濾過処理して、親水性層A塗布液1〜4を各々調製した。
【0131】
【表1】
【0132】
《親水性層B塗布液1〜5の調製》
表2に記載の組成をホモジナイザを用いて十分に攪拌、混合後、濾過処理して、親水性層B塗布液1〜5を各々調製した。
【0133】
【表2】
【0134】
《親水性層A、親水性層Bを有する支持体1〜9の作製》
表3に記載の親水性層A、親水性層Bの組み合わせで、親水性層A、親水性層Bを有する支持体1〜9を各々作製した。尚、親水性層Aの塗布については、各親水性層A塗布液を各支持体上にワイヤーバー#4を用いて塗布し、15m長の100℃に温度設定された乾燥ゾーン内を搬送スピード15m/分の速度で通過させ、各親水性層Aを塗設した。
【0135】
次いで、親水性層Bの塗布については、各親水層B塗布液を各親水性層Aを有する各支持体上にワイヤーバー#3を用いて塗布し、30m長の100℃に温度設定された乾燥ゾーン内を搬送スピード15m/分の速度で通過させ、各親水性層Bを塗設した。塗布後は、60℃で1日間のエイジングを行なった。
【0136】
《印刷版材料1〜9の作製》
上記で作製した、親水性層A、親水性層Bを各々有する支持体1〜9に対して、下記に記載の画像形成層塗布液を、ワイヤーバー#5を用いて乾燥付量が0.6g/m2となるように塗布し、30mの長さの60℃に設定された乾燥ゾーンを搬送スピード15m/分の速度で通過させ、更に、50℃で3分間乾燥して赤外線レーザ露光用である印刷版材料1〜9を各々作製した。
【0137】
《画像層塗布液》
二糖類トレハロース粉体(林原商事社製商品名トレハオース、融点97℃)の水溶液固形分5質量% 30質量部
カルナバワックスエマルジョンA118(岐阜セラック社製、平均粒子径0.3μm、軟化点65℃、融点80℃、140℃での溶融粘度8cps、固形分40質量%)を固形分5質量%に純水で希釈した分散液 70質量部
《印刷版試料1〜9の評価》
(a)赤外線レーザ方式による画像形成
上記の印刷版材料1〜9を各々露光ドラムに巻付け固定した。露光には、波長830nm、スポット径約18μmのレーザビームを用い、露光エネルギーを300mJ/cm2とした条件で、2400dpi(dpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。)、175線で画像を形成し、印刷版試料1〜9を各々作製した。
【0138】
(b)上記の印刷版試料1〜9について、下記の印刷方法により、印刷版としての諸特性を評価した。
【0139】
《印刷方法》
印刷装置として、三菱重工業社製のDAIYA1F−1を用いて、コート紙と、湿し水としてアストロマーク3(日研化学研究所製)の2質量%溶液、インクとして、東洋インク社製のトーヨーキングハイエコーM紅を使用して印刷を行った。
【0140】
《耐刷性の評価》
印刷した画像の3%の小点の欠落、またはベタ部の濃度低下のいずれかが確認された段階で耐刷終点とし、その枚数を求めた。
【0141】
以上により得られた結果を表3に示す。
【0142】
【表3】
【0143】
表3から、比較の試料と比べて、本発明の印刷版試料は、インク着肉性、寸法性が良好であり、且つ、耐刷性にも優れていることが明らかである。
【0144】
【発明の効果】
本発明により、アルミ砂目に匹敵する印刷適性を有し、優れた耐刷性を有する印刷版材料及び印刷版を提供することことが出来た。
Claims (4)
- 支持体上に、少なくとも画像形成層を有する印刷版材料において、
該支持体がポリエチレンテレフタレートであり、露光部と未露光部の表面光沢が共に1%〜50%であり、支持体と画像形成層との間に親水性層を有し、且つ、該親水性層の少なくとも1層が、JIS B 0601で規定される平均粗さ(Ra)が100nm以上1000nm未満であり、該親水性層の少なくとも1層が多孔質材料を含有し、該多孔質材料が少なくとも粒径2μm以上の多孔質金属酸化物粒子を含み、且つ、該画像形成層が熱溶融性微粒子または熱融着性微粒子を含むことを特徴とする印刷版材料。 - 熱溶融性微粒子または熱融着性微粒子が脂肪酸アミドを含むことを特徴とする請求項1に記載の印刷版材料。
- 支持体上の少なくとも1層が光熱変換剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の印刷版材料。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷版材料に露光を付与する工程を経て作製されたことを特徴とする印刷版。
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