JP2005000510A - 洗濯機およびインバータ装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】モータ駆動による振動、騒音の低減とスイッチング損失の低減を図る。
【解決手段】信号波生成手段43は、選択信号Svに基づいて2相変調方式または3相変調方式による信号波Vu、Vv、Vwを生成する。洗濯工程制御手段29は、脱水運転の加速中において共振回転速度範囲を通過する時には3相変調方式を選択し、共振回転速度範囲外では2相変調方式を選択する。
【選択図】 図1
【解決手段】信号波生成手段43は、選択信号Svに基づいて2相変調方式または3相変調方式による信号波Vu、Vv、Vwを生成する。洗濯工程制御手段29は、脱水運転の加速中において共振回転速度範囲を通過する時には3相変調方式を選択し、共振回転速度範囲外では2相変調方式を選択する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転槽をダイレクトドライブ方式で回転駆動するブラシレスモータとこのブラシレスモータを駆動するインバータ装置とを備えた洗濯機およびインバータ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
特許文献1には、ブラシレスモータにより回転槽をダイレクトドライブ方式で回転駆動する構成を備え、運転振動および運転騒音を低減した洗濯機が示されている。この洗濯機は、洗い運転時には、ブラシレスモータによって撹拌体を低速高トルクで回転駆動し、脱水運転時には、ブラシレスモータによって回転槽および撹拌体を一体に高速低トルクで回転駆動するように構成されている。
【0003】
この洗濯機は、機構部をダイレクトドライブ構造とすることによりギアの動作音やベルトのすべり音をなくすとともに、センター重心による脱水振動を低減している。また、ブラシレスモータを採用することにより、従来用いられていたインダクションモータのうなり音をなくし、さらに、このブラシレスモータの電流波形を正弦波状にすることによりモータのトルク変動を最小化して、運転振動および運転騒音を低減している。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−15278号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記洗濯機が具備する三相のインバータ装置は、ブラシレスモータの電流波形を正弦波状にするために、ROMデータ読み出し方式により出力電圧を生成するようになっている。ROMには2相変調方式による信号波データが予め記憶されている。この2相変調方式は、何れか2相について信号波を生成し、残る1相については120度幅の休止期間を設ける方式である。2相変調方式は、3相全てについて信号波を生成する3相変調方式に比べると、インバータ主回路のスイッチング損失が少ない利点がある。
【0006】
しかし、2相変調方式を採用すると、各相について1周期の間にスイッチング期間と非スイッチング期間とが交互に現れるため、これら両期間における還流ダイオードの順方向電圧の影響やデッドタイムの影響によって電圧差が生じ、波形に若干の歪みが現れる。洗濯機や洗濯乾燥機は、深夜でも運転可能となるように更なる静音化の要求があり、振動、騒音の原因となる波形歪みを低減する必要がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、モータ駆動による振動、騒音の低減とスイッチング損失の低減を図った洗濯機およびインバータ装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に記載した洗濯機は、外槽と、この外槽の内部に回転可能に設けられた回転槽と、永久磁石を有するロータおよび三相の巻線が巻回されたステータを有し前記回転槽をダイレクトドライブ方式で回転駆動するブラシレスモータと、このブラシレスモータを駆動するインバータ装置とを備えた洗濯機において、前記インバータ装置は、前記巻線に正弦波状の電流を流すための複数種類の変調方式による電圧を出力可能に構成されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ブラシレスモータの巻線に対して、正弦波状の電流を流すための複数種類の変調方式による電圧を選択的に印加できる。各変調方式は、それぞれ波形歪みの大小またはスイッチング損失の大小について異なっているため、インバータ装置がこれらの変調方式を適宜選択して運転することにより、モータ駆動による振動、騒音の低減とスイッチング損失の低減とが図られる。特に、ダイレクトドライブ方式による静音化が図られた洗濯機に採用しているので、変調方式の違いによる静音化の効果がよりはっきりと現れる。
【0010】
この場合、複数種類の変調方式を2相変調方式と3相変調方式とし、インバータ装置は、運転状態に基づいてこれら2つの変調方式の何れか一方を選択するように構成することが好ましい。運転状態とは、例えばブラシレスモータの回転速度、回転速度の変化率、巻線電流、洗濯機の運転モード、洗濯物の量などを意味している。
【0011】
また、インバータ装置は、脱水運転の加速中において共振回転速度範囲を通過する時に3相変調方式を選択し、脱水運転の加速が終了した後の脱水定常運転時に2相変調方式を選択するように構成することが好ましい。この構成によれば、共振回転速度範囲において波形歪みが生じにくい3相変調方式が選択されるため、共振振動を抑制することができる。また、脱水運転の加速中において上記共振回転速度範囲を通過する時間は比較的短く、加速が終了した脱水定常運転時においては2相変調方式が選択されるので、スイッチング損失も低減できる。
【0012】
インバータ装置は、複数種類の変調方式による電圧を出力可能であって、ブラシレスモータの回転速度に応じて当該複数の変調方式の何れかを選択するように構成してもよい。この構成によれば、インバータ装置が、ブラシレスモータの回転速度に応じて現れる機械的、電気的な特性に適した変調方式を適宜選択して運転することにより、モータ駆動による振動、騒音の低減とスイッチング損失の低減とが図られる。この場合、脱水運転中において、ブラシレスモータの回転速度が共振回転速度範囲にある時に、波形歪みが小さい特定の変調方式を選択するように構成すれば、共振振動を低減することができる。なお、変調方式は、巻線に正弦波状の電流を流すことができるものが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を全自動洗濯機に適用した一実施形態について図面を参照しながら説明する。
まず、全自動洗濯機(以下、洗濯機と称す)の機械的構成についてその概略を説明する。洗濯機の全体構成を示す図2において、外箱1内には、外槽である水受槽2が弾性吊持機構3を介して弾性支持されている。この水受槽2の内部には、洗い槽と脱水バスケットとを兼用する回転槽4が回転可能に配設されている。この回転槽4の内底部には、撹拌体(パルセータ)5が回転可能に配設されている。
【0014】
上記回転槽4は、槽本体4aと、この槽本体4aの内側に設けられた内筒4bと、槽本体4aの上端部に設けられたバランスリング4cとから構成されている。この回転槽4が回転駆動されると、内部の水は遠心力により槽本体4aの上部に形成された脱水孔部(図示せず)を通って水受槽2内へ放出される構成となっている。
【0015】
水受槽2の底部には排水口6が形成されている。この排水口6には排水弁7を介して排水ホース8が接続されている。上記排水弁7は、例えばギアドモータからなる排水弁モータ9(図1参照)により開閉駆動される弁であり、いわゆるモータ式排水弁である。さらに、水受槽2の底部には、補助排水口6aが形成されており、この補助排水口6aは図示しない連結ホースを介して排水ホース8に接続されている。
【0016】
また、水受槽2の内底部における中心部と排水口6との間の部分には、排水カバー10が装着されている。この排水カバー10により、回転槽4の底部に設けられた貫通孔4dから排水口6まで連通する排水通路11が形成されている。この構成の場合、排水弁7を閉鎖した状態で回転槽4内へ給水すると、回転槽4内と上記排水通路11内に水が貯留されるようになる。そして、排水弁7を開放すると、回転槽4内の水が貫通孔4d、排水通路11、排水口6、排水弁7、排水ホース8を通って排水されるように構成されている。
【0017】
一方、水受槽2の外底部に取り付けられた機構部ベース12には、例えばアウタロータ形のブラシレスモータ13が設けられている。このブラシレスモータ13は、回転槽4および撹拌体5をダイレクトドライブ方式で回転駆動するモータであり、具体的には図示しないが永久磁石が配設されたロータと複数相例えば三相の巻線13u、13v、13w(図1参照)が巻回されたステータとを備えて構成されている。
【0018】
この構成において、洗い運転時には、ブラシレスモータ13により撹拌体5だけがダイレクトに回転駆動され、脱水運転時には、ブラシレスモータ13により回転槽4および撹拌体5が一体にダイレクトに回転駆動されるように構成されている。ブラシレスモータ13により撹拌体5だけを回転駆動する運転と、ブラシレスモータ13により回転槽4および撹拌体5を一体に回転駆動する運転との切り替えは、図示しないクラッチによって実行されるようになっている。
【0019】
次に、上記洗濯機の電気的構成について図1を参照しながら説明する。この図1において、交流電源14の両端子は、一方にリアクトル15を介して全波整流回路16の交流入力端子に接続されている。全波整流回路16の出力端子間には、平滑コンデンサ17a、17bが接続されており、この平滑コンデンサ17a、17bと全波整流回路16とから直流電源回路18が構成されている。
【0020】
この直流電源回路18の出力端子から直流母線19a、19bが導出されており、これら直流母線19a、19b間にはインバータ主回路20が接続されている。このインバータ主回路20は、三相ブリッジ接続された例えばIGBTからなるスイッチング素子21a〜21fと、これらスイッチング素子21a〜21fに対しそれぞれ並列接続された還流ダイオード22a〜22fとから構成されている。そして、上記インバータ主回路20の出力端子23u、23v、23wは、それぞれブラシレスモータ13の巻線13u、13v、13wに接続されている。このうち出力端子23uから巻線13uに至る配線および出力端子23wから巻線13wに至る配線には、それぞれ電流センサ24、25が設けられている。
【0021】
インバータ主回路20の各スイッチング素子21a〜21fの制御端子(ゲート)には、例えばフォトカプラからなる駆動回路26からゲート駆動信号が与えられるようになっている。ここで、インバータ主回路20と駆動回路26とから通電手段27が構成されている。
【0022】
洗濯機の運転全般の制御およびブラシレスモータ13の制御は、DSP(Digital Signal Processor)などの高速演算可能なプロセッサ28により行われるようになっている。このプロセッサ28は、CPU、制御プログラムが格納された不揮発性メモリ、一時的なデータが格納される揮発性メモリ、入出力ポート、A/D変換器などを備えている。図1では、プロセッサ28は機能ブロックにより示されている。すなわち、プロセッサ28は、制御プログラムに従って実行する機能として、洗濯工程制御手段29、電流変換手段30、回転位置推定手段31、電流制御手段32および正弦波電圧形成手段33を備えている。
【0023】
洗濯工程制御手段29は、洗濯機の運転全般を制御するものである。この洗濯工程制御手段29には、操作パネル(図示せず)に設けられた各種の操作スイッチ34からスイッチ信号が入力され、外箱1の上部に設けられた蓋35(図2参照)の開閉状態を検知する蓋スイッチ36から開閉検知信号が入力され、回転槽4内の水位を検知する水位センサ37から水位検知信号が入力され、交流電源14の電圧に基づいて停電を検知する停電検出回路38から停電検出信号が入力されるようになっている。また、洗濯工程制御手段29は、前記排水弁7を開閉駆動する排水弁モータ9および回転槽4内に給水する給水弁39を通電制御するように構成されている。
【0024】
さらに、洗濯工程制御手段29は、入力した信号および現在の運転モードに基づいて、ブラシレスモータ13をベクトル制御するために必要な指令信号を出力するようになっている。この場合、回転位置推定手段31に対して指令回転速度ω0を出力し、電流制御手段32に対してd軸、q軸の指令電流Idr、Iqrを出力し、正弦波電圧形成手段33に対して選択信号Svを出力するようになっている。
【0025】
電流変換手段30は、電流センサ24、25からA/D変換器を介して電流検出信号を入力し、その検出したU相電流IuとW相電流Iwに対し3相/2相変換および回転座標変換を行って、ロータの永久磁石による磁界と平行なd軸電流Idとこれに直行するq軸電流Iqとを演算するものである。この変換に際しては後述する回転位置θが用いられる。具体的な演算は、以下に示す(1)式〜(5)式に従って行われる。
【0026】
【数1】
【0027】
回転位置推定手段31は、回転速度推定手段40と積分器41とから構成されている。回転速度推定手段40は、検出したd軸電流Idとq軸電流Iq、プロセッサ28がパラメータとして有するモータ定数R(抵抗)とL(インダクタンス)、ゲイン定数K、前回推定した回転速度ωおよび指令回転速度ω0に基づいて、以下の(6)式および(7)式により、回転速度ωを推定するものである。積分器41は、この回転速度ωを積分演算してロータの回転位置θを出力するようになっている。
【0028】
【数2】
【0029】
電流制御手段32は、指令d軸電流Idrと検出したd軸電流Idおよび指令q軸電流Iqrと検出したq軸電流Iqがそれぞれ一致するように電流追従制御を行い、d軸電圧Vdおよびq軸電圧Vqを出力するものである。具体的な演算は、以下に示す(8)式および(9)式に従って行われる。ここで、Gは、比例・積分演算におけるゲイン定数である。
【0030】
【数3】
【0031】
正弦波電圧形成手段33は、このd軸電圧Vdとq軸電圧Vqおよび洗濯工程制御手段29から与えられる選択信号Svに基づいて、上記通電手段27に与えるPWM信号Vup、Vvp、Vwp、Vun、Vvn、Vwnを生成する機能を有するものである。この正弦波電圧形成手段33は、電圧変換手段42、信号波生成手段43およびPWM信号形成手段44から構成されている。
【0032】
このうち電圧変換手段42は、回転座標変換(逆クラーク変換)を行い、回転座標上のd軸電圧Vd、q軸電圧Vqから静止座標上のα軸電圧Vα、β軸電圧Vβに変換するものである。この変換に際しては、推定した回転位置θが必要となる。具体的な演算は、以下に示す(10)式および(11)式に従って行われる。
【0033】
【数4】
【0034】
信号波生成手段43は、2相変調信号波形成手段45と、3相変調信号波形成手段46と、これら信号波形成手段45、46を制御する選択手段47とから構成されている。2相変調信号波形成手段45は、α軸電圧Vα、β軸電圧Vβに基づいて2相変調方式による信号波Vu、Vv、Vwを生成し、3相変調信号波形成手段46は、α軸電圧Vα、β軸電圧Vβに基づいて3相変調方式による信号波Vu、Vv、Vwを生成するようになっている。何れの変調方式の場合も、インバータ主回路20から出力される線間電圧が正弦波状となるような信号波となっている。選択手段47は、選択信号Svに従って信号波形成手段45、46の何れか一方を選択(有効化)し、信号波Vu、Vv、Vwを生成させるものである。選択手段47は、洗濯工程制御手段29とともに本発明でいう信号波選択手段を構成している。
【0035】
PWM信号形成手段44は、信号波生成手段43から信号波Vu、Vv、Vwを入力し、例えば三角波比較法によりPWM変調されたPWM信号Vup、Vvp、Vwp、Vun、Vvn、Vwnを出力するものである。これらの信号は、上述した駆動回路26を通してゲート駆動信号としてスイッチング素子21a〜21fに与えられる。なお、以上説明した直流電源回路18、通電手段27、電流センサ24、25およびプロセッサ28によりインバータ装置が構成されている。
【0036】
次に、本実施形態の作用、特には脱水運転時の制御動作について図3ないし図8も参照しながら説明する。
洗濯工程制御手段29は、クラッチの制御により、洗い運転時においては回転槽4を固定して撹拌体5のみを回転させ、脱水運転時においては回転槽4と撹拌体5とを回転させる。洗い運転から脱水運転に移行すると、洗濯工程制御手段29は、指令d軸電流Idrをゼロに設定し、指令回転速度ω0および指令q軸電流Iqrをゼロから徐々に増加させる。回転位置推定手段31は、停止時および始動直後においては回転速度ωおよび回転位置θの推定をすることが難しいため、指令回転速度ω0をそのまま回転速度ωとして出力する。そして、推定可能な回転速度に達した後は、上述した(6)式と(7)式により回転速度ωを演算する。この場合、洗濯工程制御手段29は、推定された回転速度ωと指令回転速度ω0とに基づいて指令q軸電流Iqrを生成するとともに、高速回転が可能となるように回転速度ωの上昇とともに指令d軸電流Idrを負の方向に高めて弱め界磁制御を行う。
【0037】
洗濯工程制御手段29は、脱水運転の開始とともに選択信号Svにより2相変調方式を選択し、後述する共振回転速度よりも若干低い回転速度(650rpm)に達するまでの期間2相変調方式で運転する。この場合、上述したように2相変調信号波形成手段45は、α軸電圧Vα、β軸電圧Vβに基づいて2相変調方式による信号波Vu、Vv、Vwを生成する。図3は、2相変調方式を用いた場合の波形であり、(a)は信号波VuとPWM信号Vup、(b)は信号波VvとPWM信号Vvp、(c)は線間電圧Vuvを示している。
【0038】
この図から分かるように、2相変調方式では3相のうちの2相の信号波によって正弦波状の電圧が形成されるため、各相について120度(電気角)の非スイッチング期間が存在する。その結果、3相変調方式と比較して、インバータ主回路20のスイッチング損失が少ないという利点がある。
【0039】
図4は、電圧ベクトルV0〜V7のベクトル図である。電圧ベクトルには、図中に矢印で示す6つの電圧ベクトルV1〜V6と原点で示す2つの零ベクトルV0、V7とが存在する。各電圧ベクトルV0〜V7について示された括弧付きの数字は、インバータ主回路20を構成するスイッチング素子21a〜21fのオンオフ状態を示している。
【0040】
例えばV1(1,0,0)は、U相上アームのスイッチング素子21aがオン、V相上アームのスイッチング素子21bがオフ、W相上アームのスイッチング素子21cがオフである状態を示しており、V2(1,1,0)は、U相上アームのスイッチング素子21aがオン、V相上アームのスイッチング素子21bがオン、W相上アームのスイッチング素子21cがオフである状態を示している。また、零ベクトルV0(0,0,0)は、全相について上アームのスイッチング素子21a、21b、21cがオフ、零ベクトルV7(1,1,1)は、全相について上アームのスイッチング素子21a、21b、21cがオンの状態を示している。
【0041】
電圧ベクトルV(Vα、Vβ)は、図4に示す6つのセクタの何れかに属している。2相変調信号波形成手段45は、α軸電圧Vαとβ軸電圧Vβとからなる電圧ベクトルV(Vα、Vβ)が属するセクタを決定し、当該電圧ベクトルVを挟み込むように隣接する2つの電圧ベクトル(V1ないしV6の何れか)の発生時間と零ベクトル(V0またはV7)の発生時間を求め、その発生時間に基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する(空間ベクトル法)。なお、以下の演算式において、D1、D2は、V1ないしV6の何れかの電圧ベクトルに係るデューティ比を表す変数を示しており、Fはデューティに換算するための定数を示している。
【0042】
▲1▼ 電圧ベクトルVがセクタ1に属する場合
電圧ベクトルV(Vα、Vβ)を、電圧ベクトルV1(1,0,0)の成分と電圧ベクトルV2(1,1,0)の成分とに分離して変数D1、D2を演算し、これに基づいて信号波Vu、Vvを決定する。セクタ1はW相の非スイッチング期間にあたるため、信号波Vwはゼロとなる。2相変調信号波形成手段45は、以下の(12)式を用いて演算を行う。
【0043】
【数5】
【0044】
▲2▼電圧ベクトルVがセクタ2に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV2、V3の成分に分離して変数D1、D2を求め、これに基づいて信号波Vu、Vvを決定する。信号波Vwはゼロとなる。演算は、以下の(13)式により行われる。
【0045】
【数6】
【0046】
▲3▼電圧ベクトルVがセクタ3に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV3、V4の成分に分離して変数D1、D2を求め、これに基づいて信号波Vv、Vwを決定する。信号波Vuはゼロとなる。演算は、以下の(14)式により行われる。
【0047】
【数7】
【0048】
▲4▼電圧ベクトルVがセクタ4に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV4、V5の成分に分離して変数D1、D2を求め、これに基づいて信号波Vv、Vwを決定する。信号波Vuはゼロとなる。演算は、以下の(15)式により行われる。
【0049】
【数8】
【0050】
▲5▼電圧ベクトルVがセクタ5に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV5、V6の成分に分離して変数D1、D2を求め、これに基づいて信号波Vw、Vuを決定する。信号波Vvはゼロとなる。演算は、以下の(16)式により行われる。
【0051】
【数9】
【0052】
▲6▼電圧ベクトルVがセクタ6に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV6、V1の成分に分離して変数D1、D2を求め、これに基づいて信号波Vw、Vuを決定する。信号波Vvはゼロとなる。演算は、以下の(17)式により行われる。
【0053】
【数10】
【0054】
2相変調信号波形成手段45により形成された信号波Vu、Vv、Vwは、PWM信号形成手段44でPWM信号Vup〜Vwnに変換され、駆動回路26を通してスイッチング素子21a〜21fをオンオフ駆動する。このインバータ主回路20が出力する正弦波状の電圧により、ブラシレスモータ13の巻線13u、13v、13wに正弦波電流が流れ、回転槽4と撹拌体5の回転速度が指令回転速度ω0に従って上昇する。
【0055】
一般に、洗濯機では、脱水運転の定格回転速度(例えば900rpm)では共振が起こらないように設計されており、共振回転速度は、定格回転速度よりも低い回転速度(例えば700rpm)に存在する。2相変調方式を採用すると、各相について1周期の間にスイッチング期間と非スイッチング期間とが交互に現れるため、電圧波形ひいては電流波形に若干の歪みが現れる。しかし、共振回転速度付近の回転速度範囲を除けば、水受槽2の振動は発生しにくく、上記歪みによる振動、騒音の発生は小さく抑えられる。むしろ、2相変調方式を採用すると、インバータ主回路20のスイッチング損失が2アーム分に減少するため、消費電力について大きな低減効果が得られるという利点がある。
【0056】
さて、洗濯工程制御手段29は、指令回転速度ω0が共振回転速度よりも若干低い回転速度である650rpmに達すると、選択信号Svにより3相変調方式を選択し、共振回転速度よりも若干高い回転速度である750rpmに達するまでの期間3相変調方式での運転を行う。この場合、上述したように3相変調信号波形成手段46は、α軸電圧Vα、β軸電圧Vβに基づいて3相変調方式による信号波Vu、Vv、Vwを生成する。図5は、3相変調方式での波形を示している。
【0057】
この3相変調方式では3相全ての信号波Vu、Vv、Vwを用いて正弦波状の電圧が形成されるため、波形歪みが生じにくい利点がある。ただし、インバータ主回路20の全アームが常にスイッチングしているため、その分スイッチング損失は増加する。
【0058】
3相変調信号波形成手段46は、上述した2相変調方式と同様に、電圧ベクトルVが属するセクタを決定し、当該電圧ベクトルVを挟み込むように隣接する2つの電圧ベクトルの発生時間に対応した変数D1、D2を求める。さらに、1からD1とD2を減算することにより、零ベクトルの発生時間に対応した変数D0を求める。そして、これらの変数D0、D1、D2に基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。各セクタでの演算は以下のように行う。
【0059】
▲1▼ 電圧ベクトルVがセクタ1に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV1、V2の成分に分離して変数D1、D2を求め、さらに零ベクトルに対応した変数D0を求め、これらに基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。零ベクトルの発生時間に相当するD0は2分割され、PWM周期における電圧ベクトルは、例えばV0(0,0,0)、V1(1,0,0)、V2(1,1,0)、V7(1,1,1)の順に切り替えられる。演算は、以下の(18)式により行われる。
【0060】
【数11】
【0061】
▲2▼電圧ベクトルVがセクタ2に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV2、V3の成分に分離して変数D1、D2、D0を求め、これらに基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。演算は、以下の(19)式により行われる。
【0062】
【数12】
【0063】
▲3▼電圧ベクトルVがセクタ3に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV3、V4の成分に分離して変数D1、D2、D0を求め、これらに基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。演算は、以下の(20)式により行われる。
【0064】
【数13】
【0065】
▲4▼電圧ベクトルVがセクタ4に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV4、V5の成分に分離して変数D1、D2、D0を求め、これらに基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。演算は、以下の(21)式により行われる。
【0066】
【数14】
【0067】
▲5▼電圧ベクトルVがセクタ5に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV5、V6の成分に分離して変数D1、D2、D0を求め、これらに基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。演算は、以下の(22)式により行われる。
【0068】
【数15】
【0069】
▲6▼電圧ベクトルVがセクタ6に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV6、V1の成分に分離して変数D1、D2、D0を求め、これらに基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。演算は、以下の(23)式により行われる。
【0070】
【数16】
【0071】
洗濯工程制御手段29は、回転速度が共振回転速度(700rpm)を超えて750rpmに達すると、選択信号Svにより再び2相変調方式を選択し、最終的に定格回転速度(900rpm)に到達する。上記3相変調方式に切り替えて運転する時間は数秒程度であり、洗濯工程全体の時間からすれば非常に短いため、インバータ主回路20における一時的なスイッチング損失の増大による洗濯機全体の消費電力への影響は小さい。
【0072】
回転速度が共振回転速度(700rpm)を通過する際には、一時的に共振振動が発生し易くなる。この期間では、ブラシレスモータ13が発生するトルク変動の一部の成分が共振振動を助長させるように作用するからである。しかし、本実施形態では、共振回転速度付近を通過する期間、波形歪みが小さい3相変調方式に切り替えて運転しているため、2相変調方式のまま運転した場合に比べ、振動、騒音の発生を抑制することができる。
【0073】
この変調方式の切り替え制御の採用による振動、騒音の低減効果を検証するため、実際の洗濯機を用いて測定を行った。図6、図7は、それぞれ脱水運転中に回転速度が共振回転速度(700rpm)に等しくなった時のインバータ主回路20の出力電圧、出力電流の周波数成分(実測値)を示したものである。両図ともに(a)は3相変調方式に切り替えて運転した場合であって、(b)は2相変調方式のまま運転した場合(従来構成)を示している。これら図6、図7によれば、共振回転速度において3相変調方式に切り替えて運転すると、特に2次の高調波成分が大きく低減していることが分かる。
【0074】
図8は、上述した運転条件の下での騒音レベルの測定結果を示している。(a)は3相変調方式に切り替えて運転した場合であり、(b)は2相変調方式のまま運転した場合(従来構成)である。共振回転速度において3相変調方式に切り替えて運転すると、2相変調方式の場合に生じていた図中A、Bに示す騒音成分が消えていることが分かる。この騒音の低減効果は、実験者(使用者)が聞いても明確に認識できるものであった。
【0075】
以上説明したように、本実施形態の洗濯機は、2相変調方式と3相変調方式による電圧を出力可能であって、脱水運転の加速中において共振回転速度範囲を通過する時には3相変調方式を選択し、共振回転速度範囲外では2相変調方式を選択してブラシレスモータ13を駆動するように構成されている。
【0076】
この構成によれば、共振回転速度範囲における振動、騒音を低減することができる。特に、本実施形態の洗濯機は、ダイレクトドライブ方式により静音化が図られているため、この変調方式の違いによる静音化の効果がよりはっきりと現れる。また、脱水運転の加速中において共振回転速度範囲を通過する時間は比較的短く、共振回転速度範囲以外では2相変調方式で運転されるので、2相変調方式のみで運転していた従来のものと比較してスイッチング損失の増加が殆どない。その結果、インバータ主回路20で用いる放熱板の体積増加がなく、コスト上昇や装置の大型化を防止することができる。
【0077】
また、何れの変調方式を選択した場合でも、インバータ主回路20は、巻線13u、13v、13wに対し正弦波電流を流すための正弦波状の電圧を出力するので、トルクの変動が抑えられて振動、騒音を低減できる。さらに、図5に示す3相変調方式は、信号波Vu、Vv、Vwに正弦波を使用した場合と比べて最大電圧を約1.17倍に高めることができるので、高速回転を必要とする脱水運転に適したものとなっている。
【0078】
なお、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように変形または拡張が可能である。
上記実施形態では脱水加速途中の共振回転数通過時の1回のみ3相変調方式に切り換えているが、電流の歪みに起因するトルク変動が洗濯機の騒音に影響する運転モードの際に、いつでも切り換えることができる。例えば、急加速や急減速で電流が大きい時には騒音への影響が発生し易く、変調方式を切り換えることが望ましい。また、例えば1000rpm以上の高速回転を短時間行う場合にも、変調方式を切り換えることが有効である。一例としては、ブラシレスモータ13に流れる電流が所定のしきい値を超えた場合に3相変調方式を選択するように構成してもよい。また、ブラシレスモータ13の回転速度の変化率が所定のしきい値を超えた場合に3相変調方式を選択するように構成してもよい。
【0079】
複数種類の変調方式による電圧を出力可能なものであれば、2相変調方式と3相変調方式の組み合わせに限られない。また、3種類以上の変調方式による電圧を出力可能に構成してもよい。また、振動検出手段を設け、所定値を超える振動が検出された時に3相変調方式を選択する構成にしてもよい。
【0080】
上記実施形態では洗濯機への適用について説明したが、ブラシレスモータが搭載された他の機器に対しても同様にして適用可能である。また、汎用のインバータ装置としても構成し、ブラシレスモータが取り付けられる機器の共振回転速度範囲にある場合には3相変調方式による信号波を選択し、その他の回転速度範囲にある場合には2相変調方式による信号波を選択するようにしてもよい。なお、洗濯機は乾燥機能を備えたものであってもよい。
【0081】
上記実施形態では、ベクトル制御によりブラシレスモータ13を制御したが、他の制御方法を用いてもよい。また、センサレスで回転位置θを検出することに替えて、ブラシレスモータ13の内部に、回転位置θを検出するための回転位置検出手段例えばホールICを配してもよい。
【0082】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の洗濯機は、ブラシレスモータの巻線に正弦波状の電流を流すための複数種類の変調方式による電圧を出力可能に構成されているので、これらの変調方式を適宜選択して運転することにより、モータ駆動による振動、騒音の低減とスイッチング損失の低減とが図られる。特に、ダイレクトドライブ方式による静音化が図られているので、変調方式の違いによる静音化の効果がよりはっきりと現れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す全自動洗濯機の電気的構成図
【図2】全自動洗濯機全体の概略的な縦断側面図
【図3】2相変調方式を用いた場合の波形図
【図4】電圧ベクトルのベクトル図
【図5】3相変調方式を用いた場合の波形図
【図6】共振回転速度における出力電圧の周波数成分の測定結果を示す図
【図7】共振回転速度における出力電流の周波数成分の測定結果を示す図
【図8】共振回転速度における騒音レベルの測定結果を示す図
【符号の説明】
2は水受槽(外槽)、4は回転槽、13はブラシレスモータ、13u、13v、13wは巻線、45は2相変調信号波形成手段、46は3相変調信号波形成手段、47は選択手段(信号波選択手段)である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転槽をダイレクトドライブ方式で回転駆動するブラシレスモータとこのブラシレスモータを駆動するインバータ装置とを備えた洗濯機およびインバータ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
特許文献1には、ブラシレスモータにより回転槽をダイレクトドライブ方式で回転駆動する構成を備え、運転振動および運転騒音を低減した洗濯機が示されている。この洗濯機は、洗い運転時には、ブラシレスモータによって撹拌体を低速高トルクで回転駆動し、脱水運転時には、ブラシレスモータによって回転槽および撹拌体を一体に高速低トルクで回転駆動するように構成されている。
【0003】
この洗濯機は、機構部をダイレクトドライブ構造とすることによりギアの動作音やベルトのすべり音をなくすとともに、センター重心による脱水振動を低減している。また、ブラシレスモータを採用することにより、従来用いられていたインダクションモータのうなり音をなくし、さらに、このブラシレスモータの電流波形を正弦波状にすることによりモータのトルク変動を最小化して、運転振動および運転騒音を低減している。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−15278号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記洗濯機が具備する三相のインバータ装置は、ブラシレスモータの電流波形を正弦波状にするために、ROMデータ読み出し方式により出力電圧を生成するようになっている。ROMには2相変調方式による信号波データが予め記憶されている。この2相変調方式は、何れか2相について信号波を生成し、残る1相については120度幅の休止期間を設ける方式である。2相変調方式は、3相全てについて信号波を生成する3相変調方式に比べると、インバータ主回路のスイッチング損失が少ない利点がある。
【0006】
しかし、2相変調方式を採用すると、各相について1周期の間にスイッチング期間と非スイッチング期間とが交互に現れるため、これら両期間における還流ダイオードの順方向電圧の影響やデッドタイムの影響によって電圧差が生じ、波形に若干の歪みが現れる。洗濯機や洗濯乾燥機は、深夜でも運転可能となるように更なる静音化の要求があり、振動、騒音の原因となる波形歪みを低減する必要がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、モータ駆動による振動、騒音の低減とスイッチング損失の低減を図った洗濯機およびインバータ装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に記載した洗濯機は、外槽と、この外槽の内部に回転可能に設けられた回転槽と、永久磁石を有するロータおよび三相の巻線が巻回されたステータを有し前記回転槽をダイレクトドライブ方式で回転駆動するブラシレスモータと、このブラシレスモータを駆動するインバータ装置とを備えた洗濯機において、前記インバータ装置は、前記巻線に正弦波状の電流を流すための複数種類の変調方式による電圧を出力可能に構成されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ブラシレスモータの巻線に対して、正弦波状の電流を流すための複数種類の変調方式による電圧を選択的に印加できる。各変調方式は、それぞれ波形歪みの大小またはスイッチング損失の大小について異なっているため、インバータ装置がこれらの変調方式を適宜選択して運転することにより、モータ駆動による振動、騒音の低減とスイッチング損失の低減とが図られる。特に、ダイレクトドライブ方式による静音化が図られた洗濯機に採用しているので、変調方式の違いによる静音化の効果がよりはっきりと現れる。
【0010】
この場合、複数種類の変調方式を2相変調方式と3相変調方式とし、インバータ装置は、運転状態に基づいてこれら2つの変調方式の何れか一方を選択するように構成することが好ましい。運転状態とは、例えばブラシレスモータの回転速度、回転速度の変化率、巻線電流、洗濯機の運転モード、洗濯物の量などを意味している。
【0011】
また、インバータ装置は、脱水運転の加速中において共振回転速度範囲を通過する時に3相変調方式を選択し、脱水運転の加速が終了した後の脱水定常運転時に2相変調方式を選択するように構成することが好ましい。この構成によれば、共振回転速度範囲において波形歪みが生じにくい3相変調方式が選択されるため、共振振動を抑制することができる。また、脱水運転の加速中において上記共振回転速度範囲を通過する時間は比較的短く、加速が終了した脱水定常運転時においては2相変調方式が選択されるので、スイッチング損失も低減できる。
【0012】
インバータ装置は、複数種類の変調方式による電圧を出力可能であって、ブラシレスモータの回転速度に応じて当該複数の変調方式の何れかを選択するように構成してもよい。この構成によれば、インバータ装置が、ブラシレスモータの回転速度に応じて現れる機械的、電気的な特性に適した変調方式を適宜選択して運転することにより、モータ駆動による振動、騒音の低減とスイッチング損失の低減とが図られる。この場合、脱水運転中において、ブラシレスモータの回転速度が共振回転速度範囲にある時に、波形歪みが小さい特定の変調方式を選択するように構成すれば、共振振動を低減することができる。なお、変調方式は、巻線に正弦波状の電流を流すことができるものが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を全自動洗濯機に適用した一実施形態について図面を参照しながら説明する。
まず、全自動洗濯機(以下、洗濯機と称す)の機械的構成についてその概略を説明する。洗濯機の全体構成を示す図2において、外箱1内には、外槽である水受槽2が弾性吊持機構3を介して弾性支持されている。この水受槽2の内部には、洗い槽と脱水バスケットとを兼用する回転槽4が回転可能に配設されている。この回転槽4の内底部には、撹拌体(パルセータ)5が回転可能に配設されている。
【0014】
上記回転槽4は、槽本体4aと、この槽本体4aの内側に設けられた内筒4bと、槽本体4aの上端部に設けられたバランスリング4cとから構成されている。この回転槽4が回転駆動されると、内部の水は遠心力により槽本体4aの上部に形成された脱水孔部(図示せず)を通って水受槽2内へ放出される構成となっている。
【0015】
水受槽2の底部には排水口6が形成されている。この排水口6には排水弁7を介して排水ホース8が接続されている。上記排水弁7は、例えばギアドモータからなる排水弁モータ9(図1参照)により開閉駆動される弁であり、いわゆるモータ式排水弁である。さらに、水受槽2の底部には、補助排水口6aが形成されており、この補助排水口6aは図示しない連結ホースを介して排水ホース8に接続されている。
【0016】
また、水受槽2の内底部における中心部と排水口6との間の部分には、排水カバー10が装着されている。この排水カバー10により、回転槽4の底部に設けられた貫通孔4dから排水口6まで連通する排水通路11が形成されている。この構成の場合、排水弁7を閉鎖した状態で回転槽4内へ給水すると、回転槽4内と上記排水通路11内に水が貯留されるようになる。そして、排水弁7を開放すると、回転槽4内の水が貫通孔4d、排水通路11、排水口6、排水弁7、排水ホース8を通って排水されるように構成されている。
【0017】
一方、水受槽2の外底部に取り付けられた機構部ベース12には、例えばアウタロータ形のブラシレスモータ13が設けられている。このブラシレスモータ13は、回転槽4および撹拌体5をダイレクトドライブ方式で回転駆動するモータであり、具体的には図示しないが永久磁石が配設されたロータと複数相例えば三相の巻線13u、13v、13w(図1参照)が巻回されたステータとを備えて構成されている。
【0018】
この構成において、洗い運転時には、ブラシレスモータ13により撹拌体5だけがダイレクトに回転駆動され、脱水運転時には、ブラシレスモータ13により回転槽4および撹拌体5が一体にダイレクトに回転駆動されるように構成されている。ブラシレスモータ13により撹拌体5だけを回転駆動する運転と、ブラシレスモータ13により回転槽4および撹拌体5を一体に回転駆動する運転との切り替えは、図示しないクラッチによって実行されるようになっている。
【0019】
次に、上記洗濯機の電気的構成について図1を参照しながら説明する。この図1において、交流電源14の両端子は、一方にリアクトル15を介して全波整流回路16の交流入力端子に接続されている。全波整流回路16の出力端子間には、平滑コンデンサ17a、17bが接続されており、この平滑コンデンサ17a、17bと全波整流回路16とから直流電源回路18が構成されている。
【0020】
この直流電源回路18の出力端子から直流母線19a、19bが導出されており、これら直流母線19a、19b間にはインバータ主回路20が接続されている。このインバータ主回路20は、三相ブリッジ接続された例えばIGBTからなるスイッチング素子21a〜21fと、これらスイッチング素子21a〜21fに対しそれぞれ並列接続された還流ダイオード22a〜22fとから構成されている。そして、上記インバータ主回路20の出力端子23u、23v、23wは、それぞれブラシレスモータ13の巻線13u、13v、13wに接続されている。このうち出力端子23uから巻線13uに至る配線および出力端子23wから巻線13wに至る配線には、それぞれ電流センサ24、25が設けられている。
【0021】
インバータ主回路20の各スイッチング素子21a〜21fの制御端子(ゲート)には、例えばフォトカプラからなる駆動回路26からゲート駆動信号が与えられるようになっている。ここで、インバータ主回路20と駆動回路26とから通電手段27が構成されている。
【0022】
洗濯機の運転全般の制御およびブラシレスモータ13の制御は、DSP(Digital Signal Processor)などの高速演算可能なプロセッサ28により行われるようになっている。このプロセッサ28は、CPU、制御プログラムが格納された不揮発性メモリ、一時的なデータが格納される揮発性メモリ、入出力ポート、A/D変換器などを備えている。図1では、プロセッサ28は機能ブロックにより示されている。すなわち、プロセッサ28は、制御プログラムに従って実行する機能として、洗濯工程制御手段29、電流変換手段30、回転位置推定手段31、電流制御手段32および正弦波電圧形成手段33を備えている。
【0023】
洗濯工程制御手段29は、洗濯機の運転全般を制御するものである。この洗濯工程制御手段29には、操作パネル(図示せず)に設けられた各種の操作スイッチ34からスイッチ信号が入力され、外箱1の上部に設けられた蓋35(図2参照)の開閉状態を検知する蓋スイッチ36から開閉検知信号が入力され、回転槽4内の水位を検知する水位センサ37から水位検知信号が入力され、交流電源14の電圧に基づいて停電を検知する停電検出回路38から停電検出信号が入力されるようになっている。また、洗濯工程制御手段29は、前記排水弁7を開閉駆動する排水弁モータ9および回転槽4内に給水する給水弁39を通電制御するように構成されている。
【0024】
さらに、洗濯工程制御手段29は、入力した信号および現在の運転モードに基づいて、ブラシレスモータ13をベクトル制御するために必要な指令信号を出力するようになっている。この場合、回転位置推定手段31に対して指令回転速度ω0を出力し、電流制御手段32に対してd軸、q軸の指令電流Idr、Iqrを出力し、正弦波電圧形成手段33に対して選択信号Svを出力するようになっている。
【0025】
電流変換手段30は、電流センサ24、25からA/D変換器を介して電流検出信号を入力し、その検出したU相電流IuとW相電流Iwに対し3相/2相変換および回転座標変換を行って、ロータの永久磁石による磁界と平行なd軸電流Idとこれに直行するq軸電流Iqとを演算するものである。この変換に際しては後述する回転位置θが用いられる。具体的な演算は、以下に示す(1)式〜(5)式に従って行われる。
【0026】
【数1】
【0027】
回転位置推定手段31は、回転速度推定手段40と積分器41とから構成されている。回転速度推定手段40は、検出したd軸電流Idとq軸電流Iq、プロセッサ28がパラメータとして有するモータ定数R(抵抗)とL(インダクタンス)、ゲイン定数K、前回推定した回転速度ωおよび指令回転速度ω0に基づいて、以下の(6)式および(7)式により、回転速度ωを推定するものである。積分器41は、この回転速度ωを積分演算してロータの回転位置θを出力するようになっている。
【0028】
【数2】
【0029】
電流制御手段32は、指令d軸電流Idrと検出したd軸電流Idおよび指令q軸電流Iqrと検出したq軸電流Iqがそれぞれ一致するように電流追従制御を行い、d軸電圧Vdおよびq軸電圧Vqを出力するものである。具体的な演算は、以下に示す(8)式および(9)式に従って行われる。ここで、Gは、比例・積分演算におけるゲイン定数である。
【0030】
【数3】
【0031】
正弦波電圧形成手段33は、このd軸電圧Vdとq軸電圧Vqおよび洗濯工程制御手段29から与えられる選択信号Svに基づいて、上記通電手段27に与えるPWM信号Vup、Vvp、Vwp、Vun、Vvn、Vwnを生成する機能を有するものである。この正弦波電圧形成手段33は、電圧変換手段42、信号波生成手段43およびPWM信号形成手段44から構成されている。
【0032】
このうち電圧変換手段42は、回転座標変換(逆クラーク変換)を行い、回転座標上のd軸電圧Vd、q軸電圧Vqから静止座標上のα軸電圧Vα、β軸電圧Vβに変換するものである。この変換に際しては、推定した回転位置θが必要となる。具体的な演算は、以下に示す(10)式および(11)式に従って行われる。
【0033】
【数4】
【0034】
信号波生成手段43は、2相変調信号波形成手段45と、3相変調信号波形成手段46と、これら信号波形成手段45、46を制御する選択手段47とから構成されている。2相変調信号波形成手段45は、α軸電圧Vα、β軸電圧Vβに基づいて2相変調方式による信号波Vu、Vv、Vwを生成し、3相変調信号波形成手段46は、α軸電圧Vα、β軸電圧Vβに基づいて3相変調方式による信号波Vu、Vv、Vwを生成するようになっている。何れの変調方式の場合も、インバータ主回路20から出力される線間電圧が正弦波状となるような信号波となっている。選択手段47は、選択信号Svに従って信号波形成手段45、46の何れか一方を選択(有効化)し、信号波Vu、Vv、Vwを生成させるものである。選択手段47は、洗濯工程制御手段29とともに本発明でいう信号波選択手段を構成している。
【0035】
PWM信号形成手段44は、信号波生成手段43から信号波Vu、Vv、Vwを入力し、例えば三角波比較法によりPWM変調されたPWM信号Vup、Vvp、Vwp、Vun、Vvn、Vwnを出力するものである。これらの信号は、上述した駆動回路26を通してゲート駆動信号としてスイッチング素子21a〜21fに与えられる。なお、以上説明した直流電源回路18、通電手段27、電流センサ24、25およびプロセッサ28によりインバータ装置が構成されている。
【0036】
次に、本実施形態の作用、特には脱水運転時の制御動作について図3ないし図8も参照しながら説明する。
洗濯工程制御手段29は、クラッチの制御により、洗い運転時においては回転槽4を固定して撹拌体5のみを回転させ、脱水運転時においては回転槽4と撹拌体5とを回転させる。洗い運転から脱水運転に移行すると、洗濯工程制御手段29は、指令d軸電流Idrをゼロに設定し、指令回転速度ω0および指令q軸電流Iqrをゼロから徐々に増加させる。回転位置推定手段31は、停止時および始動直後においては回転速度ωおよび回転位置θの推定をすることが難しいため、指令回転速度ω0をそのまま回転速度ωとして出力する。そして、推定可能な回転速度に達した後は、上述した(6)式と(7)式により回転速度ωを演算する。この場合、洗濯工程制御手段29は、推定された回転速度ωと指令回転速度ω0とに基づいて指令q軸電流Iqrを生成するとともに、高速回転が可能となるように回転速度ωの上昇とともに指令d軸電流Idrを負の方向に高めて弱め界磁制御を行う。
【0037】
洗濯工程制御手段29は、脱水運転の開始とともに選択信号Svにより2相変調方式を選択し、後述する共振回転速度よりも若干低い回転速度(650rpm)に達するまでの期間2相変調方式で運転する。この場合、上述したように2相変調信号波形成手段45は、α軸電圧Vα、β軸電圧Vβに基づいて2相変調方式による信号波Vu、Vv、Vwを生成する。図3は、2相変調方式を用いた場合の波形であり、(a)は信号波VuとPWM信号Vup、(b)は信号波VvとPWM信号Vvp、(c)は線間電圧Vuvを示している。
【0038】
この図から分かるように、2相変調方式では3相のうちの2相の信号波によって正弦波状の電圧が形成されるため、各相について120度(電気角)の非スイッチング期間が存在する。その結果、3相変調方式と比較して、インバータ主回路20のスイッチング損失が少ないという利点がある。
【0039】
図4は、電圧ベクトルV0〜V7のベクトル図である。電圧ベクトルには、図中に矢印で示す6つの電圧ベクトルV1〜V6と原点で示す2つの零ベクトルV0、V7とが存在する。各電圧ベクトルV0〜V7について示された括弧付きの数字は、インバータ主回路20を構成するスイッチング素子21a〜21fのオンオフ状態を示している。
【0040】
例えばV1(1,0,0)は、U相上アームのスイッチング素子21aがオン、V相上アームのスイッチング素子21bがオフ、W相上アームのスイッチング素子21cがオフである状態を示しており、V2(1,1,0)は、U相上アームのスイッチング素子21aがオン、V相上アームのスイッチング素子21bがオン、W相上アームのスイッチング素子21cがオフである状態を示している。また、零ベクトルV0(0,0,0)は、全相について上アームのスイッチング素子21a、21b、21cがオフ、零ベクトルV7(1,1,1)は、全相について上アームのスイッチング素子21a、21b、21cがオンの状態を示している。
【0041】
電圧ベクトルV(Vα、Vβ)は、図4に示す6つのセクタの何れかに属している。2相変調信号波形成手段45は、α軸電圧Vαとβ軸電圧Vβとからなる電圧ベクトルV(Vα、Vβ)が属するセクタを決定し、当該電圧ベクトルVを挟み込むように隣接する2つの電圧ベクトル(V1ないしV6の何れか)の発生時間と零ベクトル(V0またはV7)の発生時間を求め、その発生時間に基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する(空間ベクトル法)。なお、以下の演算式において、D1、D2は、V1ないしV6の何れかの電圧ベクトルに係るデューティ比を表す変数を示しており、Fはデューティに換算するための定数を示している。
【0042】
▲1▼ 電圧ベクトルVがセクタ1に属する場合
電圧ベクトルV(Vα、Vβ)を、電圧ベクトルV1(1,0,0)の成分と電圧ベクトルV2(1,1,0)の成分とに分離して変数D1、D2を演算し、これに基づいて信号波Vu、Vvを決定する。セクタ1はW相の非スイッチング期間にあたるため、信号波Vwはゼロとなる。2相変調信号波形成手段45は、以下の(12)式を用いて演算を行う。
【0043】
【数5】
【0044】
▲2▼電圧ベクトルVがセクタ2に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV2、V3の成分に分離して変数D1、D2を求め、これに基づいて信号波Vu、Vvを決定する。信号波Vwはゼロとなる。演算は、以下の(13)式により行われる。
【0045】
【数6】
【0046】
▲3▼電圧ベクトルVがセクタ3に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV3、V4の成分に分離して変数D1、D2を求め、これに基づいて信号波Vv、Vwを決定する。信号波Vuはゼロとなる。演算は、以下の(14)式により行われる。
【0047】
【数7】
【0048】
▲4▼電圧ベクトルVがセクタ4に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV4、V5の成分に分離して変数D1、D2を求め、これに基づいて信号波Vv、Vwを決定する。信号波Vuはゼロとなる。演算は、以下の(15)式により行われる。
【0049】
【数8】
【0050】
▲5▼電圧ベクトルVがセクタ5に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV5、V6の成分に分離して変数D1、D2を求め、これに基づいて信号波Vw、Vuを決定する。信号波Vvはゼロとなる。演算は、以下の(16)式により行われる。
【0051】
【数9】
【0052】
▲6▼電圧ベクトルVがセクタ6に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV6、V1の成分に分離して変数D1、D2を求め、これに基づいて信号波Vw、Vuを決定する。信号波Vvはゼロとなる。演算は、以下の(17)式により行われる。
【0053】
【数10】
【0054】
2相変調信号波形成手段45により形成された信号波Vu、Vv、Vwは、PWM信号形成手段44でPWM信号Vup〜Vwnに変換され、駆動回路26を通してスイッチング素子21a〜21fをオンオフ駆動する。このインバータ主回路20が出力する正弦波状の電圧により、ブラシレスモータ13の巻線13u、13v、13wに正弦波電流が流れ、回転槽4と撹拌体5の回転速度が指令回転速度ω0に従って上昇する。
【0055】
一般に、洗濯機では、脱水運転の定格回転速度(例えば900rpm)では共振が起こらないように設計されており、共振回転速度は、定格回転速度よりも低い回転速度(例えば700rpm)に存在する。2相変調方式を採用すると、各相について1周期の間にスイッチング期間と非スイッチング期間とが交互に現れるため、電圧波形ひいては電流波形に若干の歪みが現れる。しかし、共振回転速度付近の回転速度範囲を除けば、水受槽2の振動は発生しにくく、上記歪みによる振動、騒音の発生は小さく抑えられる。むしろ、2相変調方式を採用すると、インバータ主回路20のスイッチング損失が2アーム分に減少するため、消費電力について大きな低減効果が得られるという利点がある。
【0056】
さて、洗濯工程制御手段29は、指令回転速度ω0が共振回転速度よりも若干低い回転速度である650rpmに達すると、選択信号Svにより3相変調方式を選択し、共振回転速度よりも若干高い回転速度である750rpmに達するまでの期間3相変調方式での運転を行う。この場合、上述したように3相変調信号波形成手段46は、α軸電圧Vα、β軸電圧Vβに基づいて3相変調方式による信号波Vu、Vv、Vwを生成する。図5は、3相変調方式での波形を示している。
【0057】
この3相変調方式では3相全ての信号波Vu、Vv、Vwを用いて正弦波状の電圧が形成されるため、波形歪みが生じにくい利点がある。ただし、インバータ主回路20の全アームが常にスイッチングしているため、その分スイッチング損失は増加する。
【0058】
3相変調信号波形成手段46は、上述した2相変調方式と同様に、電圧ベクトルVが属するセクタを決定し、当該電圧ベクトルVを挟み込むように隣接する2つの電圧ベクトルの発生時間に対応した変数D1、D2を求める。さらに、1からD1とD2を減算することにより、零ベクトルの発生時間に対応した変数D0を求める。そして、これらの変数D0、D1、D2に基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。各セクタでの演算は以下のように行う。
【0059】
▲1▼ 電圧ベクトルVがセクタ1に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV1、V2の成分に分離して変数D1、D2を求め、さらに零ベクトルに対応した変数D0を求め、これらに基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。零ベクトルの発生時間に相当するD0は2分割され、PWM周期における電圧ベクトルは、例えばV0(0,0,0)、V1(1,0,0)、V2(1,1,0)、V7(1,1,1)の順に切り替えられる。演算は、以下の(18)式により行われる。
【0060】
【数11】
【0061】
▲2▼電圧ベクトルVがセクタ2に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV2、V3の成分に分離して変数D1、D2、D0を求め、これらに基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。演算は、以下の(19)式により行われる。
【0062】
【数12】
【0063】
▲3▼電圧ベクトルVがセクタ3に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV3、V4の成分に分離して変数D1、D2、D0を求め、これらに基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。演算は、以下の(20)式により行われる。
【0064】
【数13】
【0065】
▲4▼電圧ベクトルVがセクタ4に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV4、V5の成分に分離して変数D1、D2、D0を求め、これらに基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。演算は、以下の(21)式により行われる。
【0066】
【数14】
【0067】
▲5▼電圧ベクトルVがセクタ5に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV5、V6の成分に分離して変数D1、D2、D0を求め、これらに基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。演算は、以下の(22)式により行われる。
【0068】
【数15】
【0069】
▲6▼電圧ベクトルVがセクタ6に属する場合
電圧ベクトルVを、電圧ベクトルV6、V1の成分に分離して変数D1、D2、D0を求め、これらに基づいて信号波Vu、Vv、Vwを決定する。演算は、以下の(23)式により行われる。
【0070】
【数16】
【0071】
洗濯工程制御手段29は、回転速度が共振回転速度(700rpm)を超えて750rpmに達すると、選択信号Svにより再び2相変調方式を選択し、最終的に定格回転速度(900rpm)に到達する。上記3相変調方式に切り替えて運転する時間は数秒程度であり、洗濯工程全体の時間からすれば非常に短いため、インバータ主回路20における一時的なスイッチング損失の増大による洗濯機全体の消費電力への影響は小さい。
【0072】
回転速度が共振回転速度(700rpm)を通過する際には、一時的に共振振動が発生し易くなる。この期間では、ブラシレスモータ13が発生するトルク変動の一部の成分が共振振動を助長させるように作用するからである。しかし、本実施形態では、共振回転速度付近を通過する期間、波形歪みが小さい3相変調方式に切り替えて運転しているため、2相変調方式のまま運転した場合に比べ、振動、騒音の発生を抑制することができる。
【0073】
この変調方式の切り替え制御の採用による振動、騒音の低減効果を検証するため、実際の洗濯機を用いて測定を行った。図6、図7は、それぞれ脱水運転中に回転速度が共振回転速度(700rpm)に等しくなった時のインバータ主回路20の出力電圧、出力電流の周波数成分(実測値)を示したものである。両図ともに(a)は3相変調方式に切り替えて運転した場合であって、(b)は2相変調方式のまま運転した場合(従来構成)を示している。これら図6、図7によれば、共振回転速度において3相変調方式に切り替えて運転すると、特に2次の高調波成分が大きく低減していることが分かる。
【0074】
図8は、上述した運転条件の下での騒音レベルの測定結果を示している。(a)は3相変調方式に切り替えて運転した場合であり、(b)は2相変調方式のまま運転した場合(従来構成)である。共振回転速度において3相変調方式に切り替えて運転すると、2相変調方式の場合に生じていた図中A、Bに示す騒音成分が消えていることが分かる。この騒音の低減効果は、実験者(使用者)が聞いても明確に認識できるものであった。
【0075】
以上説明したように、本実施形態の洗濯機は、2相変調方式と3相変調方式による電圧を出力可能であって、脱水運転の加速中において共振回転速度範囲を通過する時には3相変調方式を選択し、共振回転速度範囲外では2相変調方式を選択してブラシレスモータ13を駆動するように構成されている。
【0076】
この構成によれば、共振回転速度範囲における振動、騒音を低減することができる。特に、本実施形態の洗濯機は、ダイレクトドライブ方式により静音化が図られているため、この変調方式の違いによる静音化の効果がよりはっきりと現れる。また、脱水運転の加速中において共振回転速度範囲を通過する時間は比較的短く、共振回転速度範囲以外では2相変調方式で運転されるので、2相変調方式のみで運転していた従来のものと比較してスイッチング損失の増加が殆どない。その結果、インバータ主回路20で用いる放熱板の体積増加がなく、コスト上昇や装置の大型化を防止することができる。
【0077】
また、何れの変調方式を選択した場合でも、インバータ主回路20は、巻線13u、13v、13wに対し正弦波電流を流すための正弦波状の電圧を出力するので、トルクの変動が抑えられて振動、騒音を低減できる。さらに、図5に示す3相変調方式は、信号波Vu、Vv、Vwに正弦波を使用した場合と比べて最大電圧を約1.17倍に高めることができるので、高速回転を必要とする脱水運転に適したものとなっている。
【0078】
なお、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように変形または拡張が可能である。
上記実施形態では脱水加速途中の共振回転数通過時の1回のみ3相変調方式に切り換えているが、電流の歪みに起因するトルク変動が洗濯機の騒音に影響する運転モードの際に、いつでも切り換えることができる。例えば、急加速や急減速で電流が大きい時には騒音への影響が発生し易く、変調方式を切り換えることが望ましい。また、例えば1000rpm以上の高速回転を短時間行う場合にも、変調方式を切り換えることが有効である。一例としては、ブラシレスモータ13に流れる電流が所定のしきい値を超えた場合に3相変調方式を選択するように構成してもよい。また、ブラシレスモータ13の回転速度の変化率が所定のしきい値を超えた場合に3相変調方式を選択するように構成してもよい。
【0079】
複数種類の変調方式による電圧を出力可能なものであれば、2相変調方式と3相変調方式の組み合わせに限られない。また、3種類以上の変調方式による電圧を出力可能に構成してもよい。また、振動検出手段を設け、所定値を超える振動が検出された時に3相変調方式を選択する構成にしてもよい。
【0080】
上記実施形態では洗濯機への適用について説明したが、ブラシレスモータが搭載された他の機器に対しても同様にして適用可能である。また、汎用のインバータ装置としても構成し、ブラシレスモータが取り付けられる機器の共振回転速度範囲にある場合には3相変調方式による信号波を選択し、その他の回転速度範囲にある場合には2相変調方式による信号波を選択するようにしてもよい。なお、洗濯機は乾燥機能を備えたものであってもよい。
【0081】
上記実施形態では、ベクトル制御によりブラシレスモータ13を制御したが、他の制御方法を用いてもよい。また、センサレスで回転位置θを検出することに替えて、ブラシレスモータ13の内部に、回転位置θを検出するための回転位置検出手段例えばホールICを配してもよい。
【0082】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の洗濯機は、ブラシレスモータの巻線に正弦波状の電流を流すための複数種類の変調方式による電圧を出力可能に構成されているので、これらの変調方式を適宜選択して運転することにより、モータ駆動による振動、騒音の低減とスイッチング損失の低減とが図られる。特に、ダイレクトドライブ方式による静音化が図られているので、変調方式の違いによる静音化の効果がよりはっきりと現れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す全自動洗濯機の電気的構成図
【図2】全自動洗濯機全体の概略的な縦断側面図
【図3】2相変調方式を用いた場合の波形図
【図4】電圧ベクトルのベクトル図
【図5】3相変調方式を用いた場合の波形図
【図6】共振回転速度における出力電圧の周波数成分の測定結果を示す図
【図7】共振回転速度における出力電流の周波数成分の測定結果を示す図
【図8】共振回転速度における騒音レベルの測定結果を示す図
【符号の説明】
2は水受槽(外槽)、4は回転槽、13はブラシレスモータ、13u、13v、13wは巻線、45は2相変調信号波形成手段、46は3相変調信号波形成手段、47は選択手段(信号波選択手段)である。
Claims (7)
- 外槽と、この外槽の内部に回転可能に設けられた回転槽と、永久磁石を有するロータおよび三相の巻線が巻回されたステータを有し前記回転槽をダイレクトドライブ方式で回転駆動するブラシレスモータと、このブラシレスモータを駆動するインバータ装置とを備えた洗濯機において、
前記インバータ装置は、前記巻線に正弦波状の電流を流すための複数種類の変調方式による電圧を出力可能に構成されていることを特徴とする洗濯機。 - 前記複数種類の変調方式は、2相変調方式と3相変調方式であり、
前記インバータ装置は、運転状態に応じて前記2つの変調方式の何れか一方を選択するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の洗濯機。 - 前記インバータ装置は、脱水運転の加速中において共振回転速度範囲を通過する時に3相変調方式を選択し、脱水運転の加速が終了した後の脱水定常運転時に2相変調方式を選択するように構成されていることを特徴とする請求項2記載の洗濯機。
- 外槽と、この外槽の内部に回転可能に設けられた回転槽と、永久磁石を有するロータおよび三相の巻線が巻回されたステータを有し前記回転槽をダイレクトドライブ方式で回転駆動するブラシレスモータと、このブラシレスモータを駆動するインバータ装置とを備えた洗濯機において、
前記インバータ装置は、複数種類の変調方式による電圧を出力可能であって、前記ブラシレスモータの回転速度に応じて当該複数の変調方式の何れかを選択するように構成されていることを特徴とする洗濯機。 - 前記インバータ装置は、脱水運転中において前記ブラシレスモータの回転速度が共振回転速度範囲にある時に特定の変調方式を選択するように構成されていることを特徴とする請求項4記載の洗濯機。
- 前記インバータ装置は、前記巻線に正弦波状の電流を流すことができる変調方式による電圧を出力可能に構成されていることを特徴とする請求項4または5記載の洗濯機。
- 永久磁石を有するロータおよび三相の巻線が巻回されたステータを有するブラシレスモータを駆動するインバータ装置において、
前記巻線に正弦波状の電流を流すための2相変調方式および3相変調方式による信号波を生成可能な信号波形成手段と、
前記ブラシレスモータの回転速度が当該ブラシレスモータが取り付けられる機器の共振回転速度範囲にある場合には3相変調方式による信号波を選択し、その他の回転速度範囲にある場合には2相変調方式による信号波を選択する信号波選択手段とを備えて構成されていることを特徴とするインバータ装置。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2007068994A (ja) * | 2005-09-05 | 2007-03-22 | Lg Electronics Inc | 洗濯機の駆動装置及び駆動方法 |
CN104009692A (zh) * | 2013-02-27 | 2014-08-27 | 日立空调·家用电器株式会社 | 马达控制装置以及使用了该马达控制装置的空调机 |
JP2014528229A (ja) * | 2011-07-08 | 2014-10-23 | ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング | 多相機械を制御する方法 |
JP2015134472A (ja) * | 2014-01-17 | 2015-07-27 | 住友重機械工業株式会社 | 射出成形機 |
DE112008002482B4 (de) | 2008-01-31 | 2023-06-15 | Aisin Corporation | Steuerungsvorrichtung für eine elektrische Drehmaschine |
-
2003
- 2003-06-13 JP JP2003169280A patent/JP2005000510A/ja active Pending
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