JP2004530798A - 電解セル内での金属酸化物の還元 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
本発明は電解セル内での金属酸化物の還元に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、本出願人が実施しているチタニア(TiO2)の電解還元に関する現在進行中の研究プロジェクトの過程でなされた。
【0003】
この研究プロジェクトの過程で、本出願人は、電解セルの陽極を形成するグラファイト製るつぼ、該るつぼ内に保持された溶融液状のCaCl2系電解質および固体状チタニアを含む陰極から成る電解セルに関する実験を実施した。
【0004】
上記実験の目的のひとつは、Cambridge University Technical Services Limited社による国際出願PCT/GB99/01781(公開番号WO99/64638)および本願発明者等による複数の技術文献に記載された研究結果を再現することであった。
【0005】
上記Cambridge University Technical Services Limited社による出願は、冶金電気化学の分野における「発見」が有する2種類の潜在的な適用例を開示している。
【0006】
この適用例のひとつは金属酸化物からの直接的な金属の製造である。
【0007】
本出願との関連において、上記「発見」とは、金属酸化物中の酸素をイオン化してそれを電解質中に溶解するために電解セルが使用できることの実証である。上記Cambridge University Technical Services Limited社による出願は、金属酸化物を陰極とする電解セルに適切な電位をかければ、酸素がイオン化し次いで電解セル中の電解質に溶解可能となるための反応が起こることを開示している。
【0008】
上記Cambridge University Technical Services Limited社は、上記出願発明から派生した欧州特許出願番号9995507.1について欧州特許庁から特許を取得した。
【0009】
上記欧州特許での特許請求の範囲は、なかんずく、金属酸化物(例えばチタニア)の電解還元方法を規定しており、同方法においては、電解セルは電解質への陽イオンの沈着電位よりも低電位で運転される。
【0010】
上記Cambridge University Technical Services Limited社による欧州出願は、沈着電位の意味を規定しておらず、また特定の陽イオンの沈着電位の値を述べた具体的な実施例も記載していない。
【0011】
しかしながら、Cambridge University Technical Services Limited社の弁理士が欧州特許庁に提出した2001年10月2日付け(同日付は最終的には特許化された特許請求の範囲の提出日以前である)の書類において、同出願人は電解質の分解電位は陽イオンの沈着電位であると考えていたことが示されている。
【0012】
具体的には、上記書類の5ページに以下の記載がある:
「上記第二の利点は、部分的には、特許請求の範囲記載の発明が電解質の分解電位よりも低い電位で実施されることにより得られる。もしそれよりも高い電位で実施されれば、D1およびD2で述べているように、電解質中の陽イオンは金属化合物あるいは半金属化合物上に沈着する。D1に記載される例では、このことはカルシウムの沈着を意味し、従ってこの反応性の金属の消費を意味する。この方法の実施されている間、電解用の陽イオンは陰極上に沈着しないことになる。」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
Cambridge University Technical Services Limited社の研究成果とは逆に、本出願人が実施した実験では、電解質中の陽イオンCa++が陰極上にCa金属として沈着する電位よりも高い電位で電解セルを運転することが必須であるとの知見が得られた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
具体的には、上記実験の結果として、本出願人は、陽極と、少なくとも部分的に金属酸化物で構成される陰極と、陰極の金属酸化物を化学的に還元可能な金属陽イオンを含有する溶融電解質と、を有する電解セル内において、固体状態で存在する酸化チタンのような金属酸化物を還元する方法を発明した。上記方法は、陰極の金属酸化物を化学的に還元可能な金属陽イオンが陰極上に金属として沈着する電位よりは高い電位で電解セルを運転する工程を包含し、これにより上記金属は陰極の金属酸化物を化学的に還元する。
【0015】
上記方法は本出願人が2002年6月20日に出願したオーストラリア仮出願番号PS3049に記載されており、また上記出願を包含する特許明細書の内容は本出願内に相互参照されている。
【0016】
本出願人が実施した上記とは別の実験(および関連する理論的分析作業)により、実際の還元過程に関係する多くの重要な因子が明らかになった。
【0017】
関連する実験の結果により(i)Cl2ガスは電解セルの陽極で電解質のCaCl2の理論的分解電位を優に下回る電位で除去され、(ii)CaxTiyOzは電解と同一段階で陰極に存在し、そして(iii)溶融電解質浴内にCaOが生成することが見出された。
【0018】
上記の結果に基づき、本出願人は、酸化チタンの還元方法には多くの工程が関与し、これら工程の一部は下式(1)〜(8)の反応によって表されると結論した。式(1)〜(8)の反応は、CaCl2(酸素陰イオンを含有)を電解質としグラファイトを陽極とする電解セル内での酸化チタンの還元に関し、950℃での標準電位を付記している。
【0019】
【0020】
反応(1)〜(8)は起こり得る反応の全てを網羅しているのではなく、これら以外の反応も起こり得る。具体的には、本出願人は、式TinO2n-1で表されるチタンの亜酸化物類や式CaTinO3n+1で表されるカルシウムのチタン酸塩類が関与するその他の反応も起こり得ると考えている。
【0021】
特に反応(8)の電位はチタン中の酸素濃度によって変化する。950℃で運転されている電解セル内でのチタン中の酸素濃度によって変化する電位を下図に示している。同図は、出版されているデータに基づき本出願人が作成したものである。
【0022】
【0023】
同図に示しているように、反応(8)が必要とする電位は酸素濃度が低下するに従い高くなり、それ故、酸素濃度の低下に従い酸素除去に対する抵抗は増加する。
【0024】
異なった種類の酸化チタンのCaCl2への溶解度は式(1)〜(8)の反応の電位計算には考慮されていない。このことは、式(1)〜(8)の反応のいくつかは上記温度950℃での上記電位よりも高いあるいは低い電位で進行し得ることを意味している。
【0025】
例えば、TiOの活性が低下すれば、式(2)、(4)および(6)の反応の電位値は低下するであろうし(すなわち、同反応の電位はより高い正の値となろう)、また同時に式(7)の反応の電位値を上昇させることになろう(すなわち、同反応の電位はより高い負の値となろう)。
【0026】
この観点から、本出願人は、一段の電解セルの運転により酸化チタンを還元して高純度(すなわち、酸素濃度が100ppm以下)のチタン(αTi)を得ることは極めて困難であろうと認識している。
【0027】
具体的には、本出願人は、電解セルにより酸化チタンを還元して高純度(すなわち、低酸素濃度)のチタン(αTi)を得るためには、その後の一段あるいは複数段の電解セル運転において電解質を再生すること、および/あるいはセル電位を変更することが必要であろうと認識している。
【0028】
本発明は、陽極、少なくとも部分的に酸化チタンで構成される陰極および陰極の酸化チタンを化学的に還元可能な金属陽イオンを含有する溶融電解質を有する電解セル内において固体状態で存在する酸化チタンを還元する方法を提供しており、同方法は、陰極の酸化チタンを化学的に還元可能な金属陽イオンが陰極上に金属として沈着する電位よりは高い電位で電解セルを運転する工程を包含し、これにより同金属は陰極の酸化チタンを化学的に還元し、更に同方法は、高純度のチタン(αTi)を得るために、同セル内での反応およびセル内酸化チタン中の酸素濃度の点から適宜にセル運転の後半の複数の段階で電解質を再生すること、および/あるいはセル電位を変更することを特徴としている。
【0029】
ここで、「高純度」という言葉は、チタン中の酸素濃度が100ppm以下であることを意味している。
【0030】
実際上、本発明は、セル内で進行する反応の観点から、同セル運転の異なった段階でのセル電位および/あるいは電解質組成といったセル運転条件を選択することに関する。本出願人は、現時点では、商業運転は一定の電流で実施されるであろうと考えており、また電解質内の組成が変動するので酸素を極めて低い濃度まで除去するのに必要とされる電圧を確保することは可能ではないかもしれないとも考えている。このような状況下では、高純度のチタン(αTi)を得るためには、電解質を再生すること、および/あるいはセル電位を変更することが重要である。
【0031】
上記方法は、電解セル内での酸素濃度が極めて低いという意味での、電解セル外での精製あるいはそうでなければ処理を必要とはしない高純度チタンの製造を可能にしている。
【0032】
上記方法は、作動中の電解質に新電解質を追加する、あるいはそうでなければそれの組成を調整することにより電解質を再生する工程を包含してよい。
【0033】
更に、上記方法は、一連の電解セルを連結し部分的に還元された酸化チタンをそこでの各々のセルに連続的に移送することによって実施してもよい。
【0034】
各々のセルでの電解質組成は、同セル内での反応およびセル内酸化チタン中の酸素濃度の点から選択してよい。
【0035】
セル電位は、上記方法での異なった段階で、連続的あるいは段階的に変更してよい。
【0036】
陰極上に沈着した金属は、電解質内に溶解性でありまたそれに溶解することにより陰極の酸化チタンの近傍まで移動できることが好ましい。
【0037】
電解質は、電解質成分のひとつとしてCaOを含むCaCl2系であることが好ましい。
【0038】
このような状況下では、セル電位は金属Caが陰極上に沈着できる電位(すなわちCaO分解電位)よりは高いことが好ましい。
【0039】
CaO分解電位は、陽極組成、電解質の温度や組成といった因子によってかなり広い範囲内で変動し得る。
【0040】
1373K(1100℃)の温度下でCaOで飽和したCaCl2とグラファイト陽極を含むセルでは、最低1.34Vの電位が必要であろう。
【0041】
更に、セル電位は、CaCl2分解電位よりは低いことが好ましい。
【0042】
1373K(1100℃)の温度下でCaOで飽和したCaCl2とグラファイト陽極を含むセルでは、3.5V未満の電位が必要であろう。
【0043】
CaCl2分解電位は、陽極組成、電解質の温度や組成といった因子によってかなり広い範囲内で変動し得る。
【0044】
例えば、CaCl2を80%、KClを20%含む塩は900K(657℃)の温度では3.4V超の電位でCa(金属)とCl2(ガス)に分解し、CaCl2が100%の場合は1374K(1100℃)の温度では3.0Vの電位で分解する。
【0045】
一般的に言えば、600〜1100℃の温度範囲で作動する未飽和のCaO−CaCl2塩およびグラファイト陽極を含むセルではセル電位は1.3〜3.5Vが好ましい。
【0046】
CaCl2系電解質は、加熱により部分的に分解してCaOを生成したりあるいはCaOを元々含む商業的に入手可能なCaCl2の原料(例えば塩化カルシウムの二水和物)から製造されてもよい。
【0047】
それとは別に、あるいはそれに加えて、CaCl2系電解質は別々に追加されるかあるいは事前に混合されて電解質を構成するCaCl2とCaOを含んでもよい。
【0048】
陽極はグラファイトで構成されるか不活性陽極であることが好ましい。
【0049】
上記セルは、オーストラリア仮出願番号PS3049の明細書に記載された図面に示されるものであってもよい。
Claims (9)
- 陽極と、少なくとも部分的に酸化チタンで構成される陰極と、陰極の酸化チタンを化学的に還元可能な金属陽イオンを含有する溶融電解質と、を有する電解セル内において、固体状態で存在する酸化チタンを還元する方法であって;
陰極の酸化チタンを化学的に還元可能な金属陽イオンが陰極上に金属として沈着する電位よりは高い電位で電解セルを運転する工程を包含し、これにより同金属は陰極の酸化チタンを化学的に還元し;
更に高純度のチタン(αTi)を得るために、同セル内での反応およびセル内酸化チタン中の酸素濃度の点から適宜にセル運転の後半の段階で電解質を再生すること、および/あるいはセル電位を変更することを特徴とする酸化チタンを還元する方法。 - 陰極上に沈着した前記金属は、電解質内に溶解性でありまたそれに溶解することにより陰極の酸化チタンの近傍まで移動できることを特徴とする請求項1の方法。
- 前記電解質は、それの成分のひとつとしてCaOを含むCaCl2系であることを特徴とする請求項1あるいは2の方法。
- 前記セル電位は金属Caが陰極上に沈着できる電位(すなわちCaO分解電位)よりは高いことを特徴とする請求項3の方法。
- 前記セル電位はCaCl2分解電位よりは低いことを特徴とする請求項3あるいは4の方法。
- 前記セル電位は、600〜1100℃の温度範囲でかつグラファイト陽極の場合には1.3〜3.5Vであることを特徴とする請求項3〜5のいずれかの方法。
- 前記CaCl2系電解質は、加熱により部分的に分解してCaOを生成したりあるいはCaOを元々含む商業的に入手可能なCaCl2の原料(例えば塩化カルシウムの二水和物)から製造されることを特徴とする請求項3〜6のいずれかの方法。
- 前記CaCl2系電解質は、別々に追加されるかあるいは事前に混合されて電解質を構成するCaCl2とCaOを含むことを特徴とする請求項3〜7のいずれかの方法。
- 前記陽極はグラファイトで構成されるか不活性陽極であることを特徴とする上記請求項1〜8のいずれかの方法。
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