JP2004527246A - エンベロープウイルスからの酵素活性の回収 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
発明の分野
本発明はエンベロープウイルスから酵素活性を回収する方法、すなわちエンベロープウイルスにパッケージングされている酵素の測定法に関する。この方法は詳しくはエンベロープウイルスの他に、非保護酵素を含む生体サンプル用に開発されている。
【0002】
背景技術
従来からのこの分野の問題の一例は細胞抽出液または細胞培養液においてレトロウイルス逆転写酵素(RT)を同定する際に直面するものである。逆転写の際、RTはウイルスRNAのDNAコピーを作る。従来のRNA活性アッセイは人工的な鋳型−プライマー構築とヌクレオチド基質としてのトリチウム化デオキシヌクレオチド三リン酸を用いることで行われる。この鋳型/プライマー対でポリ(rA)/オリゴ(dT)は最も効果的で、HIVならびにその他のレトロウイルスRT(ボルティモア−71、Lee et al−87)の同定に最もよく用いられている組合せである。早くから、いくつかの細胞DNA重合酵素が測定可能な産生量で生じることでこの種のアッセイ系の結果を不明瞭にすることが分かっている。
【0003】
真核細胞では少なくとも9種の異なるDNAポリメラーゼが確認されている。ポリメラーゼαは細胞分裂の際のDNA複製をつかさどっていると考えられ、βはDNA修復に関与する主要なポリメラーゼであると考えられ、λはミトコンドリアのDNA剛性をつかさどっている。これらの細胞内ポリメラーゼの各々は異なる形態で、種々の会合タンパク質とともに存在している。これらの酵素特性はその分子形態と細胞種起源の双方において異なる(総説としてはHubscher et al 2000を参照)。さらに、細胞は感染ウイルスまたはウイルスDNAポリメラーゼをコードする内在ウイルス遺伝子に由来する酵素を含み得る。細胞内DNAポリメラーゼのうちDNAポリメラーゼαは鋳型としてprAを用いる傾向が最も小さいが、効率的にprAをコピーできるこの酵素のある分子種が存在する(Goulian & Grimm 1990, Yoshida et al 1981)。
【0004】
事実上、種々のポリメラーゼがレトロウイルスRTの定量の際に特有の問題を呈する。この問題を回避するための多くの方法が文献に見出せる。最も明解なアプローチは細胞タンパク質からウイルスを分離することである。この点で、遠心分離または特異的受容体もしくは抗体へのビリオンの吸着など様々な方法が用いられている。多量の細胞成分と微量のウイルスを含有する材料を精製する場合に起こる一般的な問題は、少量の細胞内ポリメラーゼが同時に精製されるということが避けられないということである。さらにまた、実施上の観点から、比較的煩雑な分離手順で多量のサンプルを処理するというのは魅力的なことではない。
【0005】
もう一つのアプローチとして、検出から多少なりとも細胞内ポリメラーゼ、すなわちλポリメラーゼを排除するアイソザイム特異的酵素アッセイ条件を設計するものがある。これは組成物、選択的金属イオンまたは鋳型/プライマー対を用いることにより達成できる。例えばポリ(2’−O−メチル−rC)nオリゴ(dG)12−18はレトロウイルスRTの極めて特異的な基質であることが知られている。しかしながらこの種の方法によって達成される高い特異性も通常、それに応じて反応速度が低下すること、また、その後測定をしようとする酵素に対しての検出感度が低下することが障害となる。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは最近、感染者から採取した血漿においてHIV RTを定量する方法を開発した。この方法は固定化したイオン交換樹脂を用いてウイルスをゲルに結合させることに基づくものである。抗体および妨害物質は洗浄によって除去し、酵素活性のあるRTを非イオン界面活性剤を用い固定化したウイルスを溶解させることで回収する(Gatu et al 2000)。最後に回収したRTの量は、odTでプライミングした固定化prAの使用に基づく高感度RTアッセイで定量する。健康な血液ドナーからの血漿をこの系で処理したところ、精製画分中に少量のRT活性が見られた。
さらに検討したところ、健康な人からの粗EDTA血漿は比較的多量のこの活性を含んでおり、同種のサンプルのリンパ球画分からの抽出物でも豊富であることが明らかとなった。まだ分類されていないこの酵素のいくつかの特性を表1に示す。本発明者らの分離系から「ウイルス固定化」の後に回収された活性の量は血漿中の前活性の千分の1未満であったが、少量のHIV RTの検出を著しく不明瞭にするには十分なものであった。
【発明の具体的説明】
【0007】
本発明は上記に開示した特定の問題を解決するだけでなく、エンベロープウイルスに含まれる総ての酵素の検出全般に適用できる。エンベロープウイルス科およびその科のうちのいくつかのヒト種の例としては、ポックスウイルス科、例えば、ワクシニアまたはスモールポックス;イリドウイルス科;ヘルペスウイルス科、例えば、単純ヘルペス、水痘ウイルス、サイトメガロウイルスおよびエプスタイン・バーウイルス;トガウイルス科、例えば、黄熱病ウイルス(Yellow fewer virus)、thick-borne 脳炎ウイルス、風疹ウイルスおよび熱帯脳炎ウイルス;コロナウイルス科、例えば、ヒトコロナウイルス(Human coronovirus);パラミクソウイルス、例えば、パラインフルエンザ、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルスおよびRSウイルス(respiratory syncytial virus);ラブドウイルス科、例えば、水疱性口内炎ウイルスおよび狂犬病ウイルス;フィロウイルス科、例えば、マールブルグウイルスおよびエボラウイルス;オルトミクソウイルス科、例えば、A型およびB型インフルエンザウイルス;ブウンヤウイルス科、例えば、Bwambaウイルス、カリフォルニア脳炎ウイルス、サショウバエ熱ウイルスおよびリフトバレー熱ウイルス;アレナウイルス科、例えば、LCMウイルス、ラッサウイルスおよびジャニーウイルス(Juni virus);ヘプナドナウイルス科、例えば、B型肝炎ウイルス;ならびにレトロウイルス科、例えばHTLVおよびHIVが挙げられる。
【0008】
本発明の方法は非保護可溶性酵素、すなわち遊離酵素や、例えばタンパク質、細胞成分またはオルガネラと会合しているがウイルスエンベロープによって保護されていない酵素の活性を破壊するためにタンパク質修飾化学物質を用いることに基づくものである。化学物質がウイルスエンベロープを透過する能力はその疎水性に関連している。ウイルスエンベロープが選択された化学物質の作用に対する保護を与えているとすれば、反応性化学物質を除去するか、あるいは不活性化し、ビリオンを溶解し、放出されたウイルス酵素の活性を定量することができる。タンパク質修飾に適用できる多少なりとも部位特異的な試薬の宿主が存在する(総説としてはMeans & Feeney 1990参照)。
【0009】
本発明の方法では、システイン修飾物質が非保護酵素活性を破壊するタンパク質修飾化学物質として選択された。N−エチルマレイミドに対する感受性は細胞内DNAポリメラーゼの分類に広く用いられてきた。この薬剤は通常反応混合物に直接加え、DNAポリメラーゼβ以外の総ての哺乳類DNAポリメラーゼを有効に「阻害」する。種々のレトロウイルスRTの共通アミノ酸配列におけるシステインの量は著しく異なり、すなわちHIV1 RTではわずか2、HIV2では3、マウス白血病ウイルス(MULV)では8であり、一方、鳥類骨髄芽球症/肉腫ウイルスではβサブユニットに12のシステインを有する。従ってウイルスRTのシステイン修飾に対する感受性は著しく異なると考えられる。HIV RTにおけるシステイン残基の修飾の作用が研究されており、少なくともHIV1およびHIV2双方のRTのDNAポリメラーゼ活性がまさに耐性であった(Hizi et al 1992)。しかしながら、種々のHIV系統で大きなバリエーションが報告されていることを考慮すれば、これは総てのHIV単離物についてそうであるとは考えにくい。
【0010】
より詳しくは、本発明は、非保護酵素を含む生体サンプル中のエンベロープウイルスから酵素活性を回収する方法であって、
a) 生体サンプルをシステイン修飾物質とともにインキュベートして、ウイルスエンベロープ内のウイルス酵素活性を保持しながら非保護酵素の活性を破壊し、
b1) インキュベーション混合液からエンベロープウイルス粒子を取り出すか、または
b2) システイン修飾物質を細胞溶解からのウイルスエンベロープを保持する不活性物質で不活性化し、
c) ウイルスエンベロープを細胞溶解バッファーを用いて溶解してウイルス酵素を遊離させ、さらに
d) 遊離したウイルス酵素を細胞溶解バッファーから回収する
工程を含んでなる方法に向けられる。
本発明の方法のある具体例では、エンベロープウイルスはレトロウイルス科から選択され、詳しくはレンチウイルス、HTLV/BLVウイルス、哺乳類D型レトロウイルス、および哺乳類C型レトロウイルスから選択される。
【0011】
現在のところ好ましいレンチウイルスの具体例では、レンチウイルスはヒト免疫不全ウイルス(HIV)である。
【0012】
もう一つの具体例では、回収される酵素活性は逆転写酵素(RT)活性である。
【0013】
本発明の方法のさらにもう一つの具体例では、生体サンプルは体液サンプルである。体液の例としては尿、唾液、脳骨髄液、滑液、胸膜液、腹水、特には血液、血漿および血清がある。
【0014】
本発明の方法のさらなる具体例では、システイン修飾物質はN−エチルマレミド(ethylmalemide)、チメロサール、p−ヒドロキシマーキュリベンゾエート、5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)、2’−アミノエタンチオールスルホン酸2−アミノエチル、2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸、およびチオスルホン酸メチルメタンなどの水溶性非親油性物質である。
【0015】
さらにもう一つの具体例では、不活性化物質はシステイン、システアミン、メルカプトコハク酸、およびグルタチオンなどの低分子量の弱還元剤である。
【0016】
本発明はまた、生体サンプル中に存在するエンベロープウイルスから酵素活性を回収する実験工程を実施するための文書および/またはデータを記録した説明書(carrier instruction)、ならびにN−エチルマレイミド、酢酸フェニル水銀、チメロサール、p−ヒドロキシマーキュリベンゾエート、または5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)などのシステイン修飾物質を含む市販パッケージに向けられる。必要に応じてこのパッケージはまた、陰イオン交換マトリックスなどのウイルス結合マトリックス、またはシステイン、システアミン、メルカプトコハク酸、およびグルタチオンなど、溶解からのウイルスエンベロープを保持しつつシステイン修飾物質を不活性化する物質、ならびに界面活性剤を含む酵素アッセイ適合バッファーなどに細胞溶解バッファーを含んでもよい。
【0017】
以下、実験の概説、実施例および図面により本発明を説明するが、本発明は開示される具体例に限定されるものではないと理解すべきである。
【0018】
実験の概説
以下の手順は本発明の説明を意図するものであって、その使用を限定するものではない。本発明の異なる2つの具体例は異なる目的のために用いられる。プロトコールI)は主としてウイルス酵素活性の測定前に除去しなければならない酵素活性遮断抗体を含むサンプル(すなわち、血清変換後のHIV患者の血漿)に対して用いられる。以下のプロトコール中のポリメラーゼ不活性化工程は個別のインキュベーションで行う。あるいはまた、ビリオンがゲルに結合する場合には同じ工程の中で行うこともできる。これは、システイン修飾物質を直接血漿/ゲルスラリー混合物に加えるか、またはまず上記物質をゲルに結合した後に血漿サンプルを加えるかのいずれかで行う。必要な物質濃度は手法によって異なる。プロトコールII)は酵素遮断抗体などの妨害因子を実質的に含まないサンプル、例えばHIV急性期の血清に使用できる。
【0019】
I) 可溶性細胞酵素の破壊、その後のミニカラムからのウイルスRTの単離に基づく、RT遮断抗体を含む材料からレトロウイルスRTを測定するプロトコール
1) 用いる5ml容のプラスチック試験管にラベルを付け、ナルゲンボックスに入れる。ラベルを付けた各試験管にサンプル(例えば、HIV感染者からのEDTA血漿)1mlを加える。バッファー液中66mMの5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)100μlを加え、ボルテックスにかけ、それらのサンプルを室温で1時間インキュベートする。
【0020】
この手順でビリオン内に含まれる酵素を完全な形に留めたまま、遊離した血漿酵素の活性を破壊する。次にこれらのビリオンを5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)、酵素活性遮断抗体およびその他ウイルスRTの定量を妨害する可能性のある物質からいくつかの分離法により精製する。以下のプロトコールはFractogel(商標)EMD TMAE Hicapゲルの使用をもとにしたものである。
【0021】
2) 分離ゲルを注意深く懸濁させ、1500μlのゲルスラリーを各サンプル前処理試験管に移す。
【0022】
3) これらのサンプルをゲルスラリーとともに室温で1時間、オービタルシェーカーに試験管を寝かせてインキュベートする。
【0023】
4) 必要な数の15mlプラスチックミニカラムにラベルを付け、分析するサンプルを識別する。カラム洗浄装置、例えばSupelco Visiprep固相抽出バキュームマニホールドにカラムを設置する。結合試験管中の内容物を対応するカラムに移す。ゲルを均一に分布させるため、移行前に試験管を軽くボルテックスにかける。
【0024】
5) 総てのカラムが充填されたところで、減圧をかけ、ゲルを吸引乾燥させる。バキュームを止め、各カラムに9mlのバッファーAを満たすことで洗浄を開始する。総てのカラムが充填されたところで、減圧をかけ、ゲルを吸引乾燥させる。
【0025】
6) 工程5をさらに3回繰り返し、計4回洗浄する。各洗浄の後にゲルを吸引乾燥させる。4回洗浄した後ゲルを吸引乾燥させた後、バキュームを止め、工程7に進む。
この洗浄工程で、この系から結合していないRT遮断抗体と5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)を除去する。
【0026】
7) 総ての乾燥ゲルに9mlのコンディショニングバッファー(B)を加える。減圧をかけ、ゲルを吸引乾燥させる。
【0027】
8) 工程7を繰り返す。バキュームは停止前に総てのゲルから総てのコンディショニングバッファー(B)が除去されているように調節する。
【0028】
9) カラム洗浄装置の上部を持ち上げ、清浄な容器にラベルを付けた試験管とともに試験管ホルダーを設置し、装置の上部を再び閉じる。細い管が各カラムから対応する試験管中へ降りるように調節する。
【0029】
10) 各カラムに300μl細胞溶解バッファー(C)を加える。このバッファーは5分間カラム内で静置させる。その後、減圧をゆっくりかけ、ゲルを吸引乾燥させる。これにより各試験管につきおよそ300μlのウイルス溶解液が得られる。
工程10からの細胞溶解液において回収されるRT活性はRT遮断抗体および細胞内ポリメラーゼ活性を実質的に含まず、高感度RT活性アッセイ、例えばEkstrand et al 1996が記載した方法に基づくCavidi HS-kit Lenti RTにより定量することができる。
注: システイン修飾物質、例えば野生型HIV1 RTに感受性のないRT酵素は必要に応じて5mMまでの5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)の存在下でアッセイすることができる。
【0030】
一方、MuLV RTおよびある種の治療耐性HIV1系統由来のRTなどの感受性酵素では、溶解バッファーにメルカプト還元剤、例えばシステインまたはシステアミンを添加する必要がある。
【0031】
II) 可溶性細胞内酵素の不活性化、その後の5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)の不活性化に基づく、酵素遮断抗体からを実施的に含まないサンプル、例えば、HIV急性期血漿またはウイルス培養上清においてRT活性を測定するプロトコール
1) 200μlのサンプル(例えば、HIV急性期血漿)にバッファー液中33mMの5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)20μlを混合する。これらのサンプルをオービタルシェーカーにて室温で1時間インキュベートする。
【0032】
2) メルカプト還元剤、例えば水中33mMのシステアミン20μlを加え、これらのサンプルをオービタルシェーカーにて室温でさらに30分間インキュベートする。
【0033】
3) 界面活性剤、例えばトリトンX−100を含有するRTアッセイ適合バッファーでサンプルの4倍希釈シリーズを作製する。ここでビリオンを溶解し、各希釈率におけるRT活性を高感度RTアッセイ、例えばCavidi HS-kit Lenti RTを用いて測定することができる。
【0034】
4) もとのサンプル中のRT活性の量をその希釈範囲の値から算出する。なお、サンプル希釈率と生じた生成物の量の間には直線的関係が存在する。
【実施例】
【0035】
材料
分離ゲル: 例えば、200mM(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)(MES)pH5.4,275mMヨウ化カリウムおよびヘパリン80IU/ml中のFractogel(商標)EMD TMAEまたは Fractogel(商標)EMD TMAE Hicap。
ミニカラム: 例えば、Biorad Poly-Prep(商標)(7311553)。
ミニカラム洗浄装置: 例えば、Supelco Visiprep固相抽出バキュームマニホールド。
プラスチック試験管: 例えば、Nunc 4.5ml低温チューブ。
システイン修飾剤: 例えば、0.4Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(pH6.8)で緩衝させた水中66mMの5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)。
弱メルカプト還元剤: 例えば、水中33mMのシステアミン。
洗浄バッファー(A): 20mM MES pH6.0、500mM酢酸カリウム(KAc)。
コンディショニングバッファー(B): RTアッセイ適合バッファー、例えば、10mM (N−(2−ヒドロキシエチル−ピペラジン−N’−(2−エタンスルホン酸)(Hepes)pH7.6、25mM KAc、20mM塩化マグネシウム(MgCl2)、0.2mメチレングリコール−ビス(β−アミノエチルエーテル)N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA)、2mMスペルミンおよび0.5mg/ml熱不活性化ウシ血清アルブミン。
細胞溶解バッファー(C): 界面活性剤、例えば1%t−オクトフェノキシポリエトキシエタノール(トリトンX−100)、酵素安定剤、例えば13ng/mlオリゴ(dT22)、0.025mg/ml硫酸デキストランおよびコンディショニングバッファー(B)と同様の成分を含有するRTアッセイ適合バッファー。
メルカプト還元剤: 例えば、SF酸化/修飾に感受性があるRTでウイルスを処理する場合には必要に応じて0.2mMシステアミンを加えてもよい。
【0036】
例1: ヒト血漿由来DNAポリメラーゼのいくつかの特性
プライマーを含まないRT反応混合物に対する示された成分の添加の作用(Cavidi HS kit Lenti RT)を検討した。2人の健康な血液ドナーからのEDTA血漿(1μl/アッセイ)、細胞培養起源の組換えHIV1 RTまたはFIV RTを酵素として用いた。結果は表1に示す。
【0037】
ヒト血漿ポリメラーゼ活性はプライマーに依存し、鋳型に相補的なddNTPによる阻害に感受性があるが、ピロリン酸類似体には感受性がなかった。
【0038】
例2: 種々のシステイン修飾剤のヒト血漿ポリメラーゼ活性破壊能
ヒトEDTA血漿サンプル50μlに各物質の一連の希釈液からの50μlサンプルを混合した。これらのサンプルをオービタルシェーカーにて1時間インキュベートした。次に各サンプルを20倍希釈し、残留するポリメラーゼ活性をCavidi(商標) HS-kit Lenti RTで測定した。各物質濃度におけるポリメラーゼ活性を、修飾物質の不在下でインキュベートした血漿からなる対照に対するパーセンテージとして換算し、物質濃度に対してプロットし、そのプロットから50%活性低下に要される物質濃度を求めた。
【0039】
内在性RT活性を含まないヒト血漿中のHIVウイルスを、「RT遮断抗体を含む材料からレトロウイルスRTを測定するプロトコール」に従い、示された物質5mMで処理した。HIV RTの回収量はCavidi(商標) HS kit Lenti RTで測定した。結果は表2に示す。
【0040】
例3: 血清/血漿中の種々のポリメラーゼに対するチメロサールとのインキュベーションの作用
細胞培養に由来する組換え野生型HIV1 RT(黒ぬり四角形)、ネビラピン耐性HIV1変異体(Y181C)(白ぬき菱形)、ヒツジ肺癌由来Jaagsiekteウイルス(JSV)RT(黒ぬり三角形)、ネコ白血病ウイルス(FIV)RT(白ぬき丸形)、ウシ白血病ウイルス(BLV)RT(黒ぬり菱形)およびブタ内在性レトロウイルス(PERV)RT(黒ぬり丸形)を熱不活性化ウシ胎児血清で希釈した。これら種々のウイルス酵素調製物および健康な血液ドナーからのEDTA血漿サンプル(白ぬき四角形)を示されたチメロサール濃度で室温(22℃)にて60分間インキュベートした。これらのサンプルを総てRTアッセイ適合バッファーで100倍希釈した後、各サンプルに残留するRT活性を測定した。各々測定したRTの種類に適した3種のRTアッセイを用いた:HIV1、JSV、およびFIV RTはCavidi(商標) HS kit Lenti RTで測定した、BLV RTはCavidi(商標) HS kit HTLV RTで測定し、PERVおよびヒト血漿RTはCavidi(商標) HS kit Mn2+RTで測定した。結果は図1のグラフで示す。
【0041】
検討した7種の酵素はチメロサール処理に対して著しく異なる感受性を示した。HIV1 Y181C変異体RTおよびFIV RTは最も感受性の高い酵素であった。有意な酵素破壊に要されるチメロサール濃度はヒト血漿RT、BLV RTおよびPERV RTでは上昇した。二種の酵素、野生型HIV1 RTとJSV RTは完全に耐性であった。
【0042】
例4: FIV添加血漿からのウイルスRT活性の回収および内在性RT活性の選択的破壊
リンパ球が破壊された健康な血液ドナーからのEDTA血漿不活性化したウシ胎児血清で希釈したFIV(血漿RT活性が総て排除)を室温で1時間、示された濃度のA)5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)、B)チメロサールとともにインキュベートした。これらのサンプルを「RT遮断抗体を含む材料からレトロウイルスRTを測定するプロトコール」に従って分離した。回収されたRT活性はRTアッセイ(Cavidi HS-kit Lenti RT)で測定した。各活性を、メルカプト還元剤を用いずにインキュベートした同様の調製物からなる対照を同様に処理したものに対するパーセンテージとして換算した。この対照からのFIV RTの回収率はもとのサンプルの活性の74%であり、ヒト血漿RTに対する相当値は0.015%であった。図2を参照。なおここで、左の棒は血液ドナーの血漿であり、右の棒はウシ胎児血清中のFIVウイルスである。
【0043】
0.4mMを超える濃度の5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)でインキュベートすると、FIVビリオンと会合したrtの回収率を低下させることなくヒト血漿RT活性が完全に排除された。
【0044】
血漿RTに対して同等の効果を達成するにはより高い濃度のチメロサール(>3mM)を要した。この濃度範囲のチメロサールはFIV RTの回収率を著しく低下させた。
【0045】
例5: 健康な血液ドナーからの血漿サンプル中のポリメラーゼ活性の除去
21人の健康な血液ドナーからのEDTA血漿サンプル1mlの2セットを「RT遮断抗体を含む材料からレトロウイルスRTを測定するプロトコール」に従って処理した。一方のサンプルセットでは5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)処理(工程A)を行わず、他方には含めた。各サンプルから回収されたRT活性の量はCavidi(商標) HS kit Lenti RTを用いた一晩のRTアッセイで測定した。図3を参照。なおここで、左側の群は本プロトコールを経た非処理サンプルを示し、右側の群は処理後にプロトコールを経た同様のサンプルである。分離対照、例えばサンプル適用バッファーの分離では、262〜1100rfu/時の間の値が得られた。蛍光計の検出範囲はおよそ1800000rfuまでであった。
【0046】
例6: 本発明に従ってヒト血漿から回収されたHIV RTとRNA PCRで測定されたウイルスRNAの間の相関
HIV感染者からのEDTA血漿サンプル1mlを「RT遮断抗体を含む材料からレトロウイルスRTを測定するプロトコール」に従って処理し、各サンプルから回収されたRT活性の量をCavidi(商標) HS kit Lenti RTを用いた一晩のRTアッセイで測定した。得られたRT活性は標準曲線に従い、pg HIV1 RTとして換算した。各サンプルのHIV1 RNAの量は標準的なHIV1 RNA PCR(Roche, Amplicore)によって測定した。プロットは図4に示すが、PCR値>500コピー/mlのサンプルに限定されている。
【0047】
本発明に従って回収された血漿RTの量とPCRで測定されたHIV RNAの量の間には強い相関が見られた(r=0.93、n=33、p<<0.001)。
【0048】
例7: HIV感染患者からの血漿サンプルを処理する別のプロトコール
「RT遮断抗体を含む材料からレトロウイルスRTを測定するプロトコール」のポリメラーゼ不活性化工程を次の4種類の方法で行った:A)血漿および物質の個別インキュベーション、B)ビリオンがゲルに結合するのと同時のインキュベーション、C)保存中にゲルスラリーに物質を含め、この前処理ゲルをRT単離に用いる、D)まず物質をゲルに結合させ、結合していない物質を洗浄によって除去し、このようにして処理したゲルをプロトコールに従って用いる。結果は図5に示す。血漿RT活性(黒ぬり菱形)、HIV RT活性(黒ぬり丸形)。
【0049】
4種類の別法は総て有用である、すなわち、HIV RT活性に影響を及ぼさずに血漿RT活性が不活性化されることが分かったが、ヒト血漿ポリメラーゼ活性の定量的排除に要される物質の量は様々であった。
【0050】
例8: 種々のシステイン修飾剤による処理後の血漿ポリメラーゼ活性の復活
1セットのヒト血漿サンプル(水中60%の血漿)をまず3mMの示されたシステイン修飾物質または水(対照)とともに室温で1時間インキュベートした。次に反応性がある可能性のある物質を5段階の一連の希釈液として加え、サンプルをさらに1時間インキュベートした。最後に各サンプルを1:20希釈し、残留するRT活性をCavidi(商標) HS kit Lenti RTで測定した。サンプルインキュベーションとRTアッセイの間の物質濃度の総低下は200倍であった。回収されたRT活性は、両インキュベーション工程において添加を行わずにインキュベートした血漿からなる対照の活性に対するパーセンテージとして換算した。結果は表3に示す。
【0051】
試験した3種のシステイン修飾剤は総て血漿RT活性を完全に不活性化する能力を有していた。しかし、種々の薬剤で処理したポリメラーゼ活性の再活性化に要する条件には明らかな違いがあった。チメロサールで処理した酵素は極めて容易に再活性化したが、5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)またはクロラミンTで処理した酵素は活性化に強い還元性の低分子量チオールを要した。
【0052】
表3からまた、ポリメラーゼ修飾剤を不活性化するのにあまり強力なアンタゴニスト物質を用いる必要はないことも明らかである。血漿ポリメラーゼを再活性化させるリスクがある。
【0053】
例9: 精製を行わず高い内在性RT活性を有するサンプルにおけるウイルスRTの定量
A)健康な血液ドナーからのEDTA血漿、B)不活性化したFCS(RT活性を除去)で希釈したFIVウイルス、またはC)5% FCSを含むダルベッコの最小必須培地を1:1希釈し、示された濃度の5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)とともに室温(20℃)で1時間インキュベートした。次に各サンプルに対してコンディショニングバッファー(B)で4段階の一連の希釈を行った。その後総てのサンプルにシステアミンを最終濃度20mMまで加え、このセットを室温でさらに1時間インキュベートした。次に各サンプルのRT活性をCavidi(商標) HS kit Lenti RTで測定した。反応混合物135μlに各サンプル15μlを加え、アッセイにおけるシステアミンの最終濃度を2mMとした。RTアッセイ当たり7.5、1.9および0.5μlサンプルに相当する最初の3つの希釈液において回収されたRT活性を物質の不在下でインキュベートした対照に対するパーセンテージとして換算し、その物質濃度に対してプロットした。図6を参照。
【0054】
ヒト血漿ポリメラーゼ活性は0.47mMを超える濃度の5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)とともにインキュベートした後に排除された。FIVウイルスRTの回収率は1.88mMより低い物質濃度でのインキュベーションによっては悪影響を受けなかった。このように2mM前後の濃度範囲の5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)とともにインキュベーションした後の粗サンプルにおいてFIV RTを選択的に測定することができる。
【0055】
【表1】
【表2】
【表3】
参照文献
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】血清/血漿中の種々のポリメラーゼの活性に対するチメロサールとのプレインキュベーションの作用を示す。組換え野生型HIV1 RT(黒ぬり四角形)、HIV1変異体(Y181C)由来の組換えRT(白ぬき菱形)、JaagsiekteウイルスRT(黒ぬり三角形)、FIV RT(白ぬき丸形)、ウシ白血病ウイルス(BLV)RT(黒ぬり菱形)、ブタ内在性レセプタートトウイルス(PERV)RT(黒ぬり丸形)および健康な血液ドナーからの血漿サンプル(白ぬき四角形)。
【図2】FIV添加血漿由来のウイルスRT活性の回収および内在性RT活性の選択的破壊を表すグラフAおよびBを示す。リンパ球が破壊された健康な血液ドナーからのEDTA血漿(左の棒)および不活性化したウシ胎児血清で希釈したFIVの(右の棒)、A)5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)、およびB)チメロサールで不活性化したもの。物質濃度に対して回収されたRT活性をプロットした。
【図3】健康なヒトドナーからの血漿サンプルにおけるポリメラーゼ活性の排除を示すグラフである。
【図4】本発明に従ってヒト血漿から回収されたHIV RTとRNA PCRで測定されたウイルスRNAの間の相関を示すグラフである。
【図5】HIV感染患者からの血漿サンプル処理の別のプロトコールを示すグラフである。プロトコールIのポリメラーゼ不活性化工程を、A)個別のインキュベーションで行った;B)ビリオンがゲルに結合するのと同じ工程中に行った;C)ゲルを物質とともに保存したこと以外はBと同様にして行った;D)使用前にゲルを洗浄したこと以外はCと同様にして行った。血漿RT活性(黒ぬり菱形)、HIV RT活性(黒ぬり丸形)。
【図6】精製を行わず高い内在性RT活性を有するサンプルにおけるウイルスRTの定量を示す図である。健康な血液ドナーからのEDTA血漿(A)、不活性化FCS中(B)および細胞培養培地中(C)のFIVウイルス。
Claims (13)
- 非保護酵素を含む生体サンプル中のエンベロープウイルスから酵素活性を回収する方法であって、
a) 生体サンプルをシステイン修飾物質とともにインキュベートして、ウイルスエンベロープ内のウイルス酵素活性を保持しながら非保護酵素の活性を破壊し、
b1) インキュベーション混合液からエンベロープウイルス粒子を取り出すか、または
b2) システイン修飾物質を細胞溶解からのウイルスエンベロープを保持する不活性物質で不活性化し、
c) ウイルスエンベロープを細胞溶解バッファーを用いて溶解してウイルス酵素を遊離させ、さらに
d) 遊離したウイルス酵素を細胞溶解バッファーから回収する
工程を含んでなる、方法。 - エンベロープウイルスがレトロウイルス科から選択される、請求項1に記載の方法。
- ウイルスが、レンチウイルス、HTLV/BLVウイルス、哺乳類D型レトロウイルス、および哺乳類C型レトロウイルスから選択される、請求項2に記載の方法。
- レンチウイルスがヒト免疫不全ウイルス(HIV)である、請求項3に記載の方法。
- 回収されるウイルス酵素活性が逆転写酵素(RT)活性である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
- 生体サンプルが体液サンプルである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
- 体液サンプルが、血液、血漿または血清サンプルである、請求項6に記載の方法。
- システイン修飾物質が水溶性非親油性物質である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
- 水溶性非親油性物質が、N−エチルマレイミド、チメロサール、p−ヒドロキシマーキュリベンゾエート、5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)、2’−アミノエタンチオールスルホン酸2−アミノエチル、2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸、およびチオスルホン酸メチルメタンからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
- 不活性化物質が弱還元剤である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
- 弱還元剤が、システイン、システアミン、メルカプトコハク酸、およびグルタチオンからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
- 生体サンプル中に存在するエンベロープウイルスから酵素活性を回収する実験工程を実施するための文書および/またはデータを記録したの説明書、ならびに
システイン修飾物質、および
必要に応じて、ウイルス結合マトリックス、または
細胞溶解からのウイルスエンベロープを保持しつつ、システイン修飾物質を不活性化する物質、および
細胞溶解バッファー
を含む、市販パッケージ。 - システイン修飾物質が、N−エチルマレイミド、チメロサール、p−ヒドロキシマーキュリベンゾエート、5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)、2’−アミノエタンチオールスルホン酸2−アミノエチル、2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸、およびチオスルホン酸メチルメタンから選択され、
ウイルス結合マトリックスが陰イオン交換マトリックスであり、
不活性化する物質がシステイン、システアミン、メルカプトコハク酸、およびグルタチオンからなる群から選択され、かつ、
細胞溶解バッファーが界面活性剤を含む酵素アッセイ適合バッファーである、請求項12に記載の市販パッケージ。
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