JP2004520315A - エリスロマイシン誘導体の合成におけるアリールチオイミン類の利用方法 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
本発明は、アリールチオイミン中間体が関与する、エリスロマイシン誘導体の合成における使用に有効な脱オキシム化法に関する。アリールチオイミン中間体は、ケトン含有エリスロマイシン誘導体のケトンをチオイミンとして保護する方法;オキシム含有エリスロマイシン誘導体を脱オキシム化する方法;あるいは6−O−アルキルエリスロマイシン誘導体を調製する方法において利用することができる。現在好ましいエリスロマイシン誘導体は、C−9オキシムまたはC−9ケトンを有する。
【背景技術】
【0002】
下記の式Iおよび下記の表1によって表されるエリスロマイシンA〜Dは公知であり、細菌感染の治療および予防に広く使用される強力な抗菌剤である。
【0003】
【化1】
【0004】
【表1】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、他の抗菌剤と同様、エリスロマイシンに対する耐性または不十分な感受性を有する菌株が確認されている。さらに、エリスロマイシンAはグラム陰性菌に対して弱い活性しか持たない。従って、改善された抗菌活性を有し;耐性発達の可能性が比較的低く;所望のグラム陰性活性を有し;あるいは標的微生物に対する予想以上の選択性を有する新たなエリスロマイシン誘導体化合物を確認および合成することが、現在もなお必要とされている。
【0006】
一般にエリスロマイシンの6−O−アルキル誘導体が、抗菌剤として知られている。6−O−メチルエリスロマイシンA(米国特許第4331803号に開示のクラリスロマイシンA)および6−O−メチルエリスロマイシンB(米国特許第4496717号に開示のクラリスロマイシンB)は強力なマクロライド系抗生物質である。
【0007】
さらに最近では、改善された抗菌活性を有するエリスロマイシンの6−O−置換誘導体が、特に米国特許第5866549号;同5872229号;同5919916号;同5932710号;同6040440号;同6075011号および同6124269号に開示されている。
【0008】
6−O−置換エリスロマイシン誘導体の合成方法では一般に、C−9ケトンのオキシムとしての保護を行い、次に2′−および4′−水酸基を保護してから、6−O−アルキル化を行う。6−O−アルキル化後、保護基を脱離させる。
【0009】
脱オキシム化反応は、グリーンらの著作(Greene and Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, 2nd Ed., John Wiley & Son, Inc, 1991)および他の文献に記載の方法に従って行われている。脱オキシム化剤の例としては、特に硫酸水素ナトリウム、ピロ硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、ジチオン酸ナトリウム、チオ硫酸カリウムおよびメタ重亜硫酸カリウムなどの無機酸化硫黄化合物がある。脱オキシム化は、酸存在下に亜硝酸ナトリウムまたは亜硝酸カリウムなどの無機亜硝酸塩で処理することで行うこともできる。使用される溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トリメチルシラノールまたはそれら溶媒の1以上の混合物などのプロトン性溶媒がある。脱オキシム化反応は、ギ酸、酢酸またはトリフルオロ酢酸などの有機酸存在下に行われているが、塩酸を用いて行うこともできる。
【0010】
しかしながら上記従来の方法には、ある一定の欠点がある。例えば、重亜硫酸ナトリウムを用いるエリスロマイシンオキシムでの代表的な脱オキシム化では、反応条件が比較的過酷であるために、生成物の約30〜40%が分解の結果失われる可能性がある。従って、より有効な脱オキシム化のためのより温和な方法が有利であると考えられ、そのようなより有効な脱オキシム化方法は、ケトン含有エリスロマイシン誘導体でのケトン保護方法または6−O−アルキル置換エリスロマイシン誘導体の製造方法において有利に利用可能であると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ケトン含有エリスロマイシン誘導体のケトンをチオイミンとして保護する方法であって、
ケトン含有エリスロマイシン誘導体のケトンを、ヒドロキサメート化剤と反応させてオキシムを形成する段階;ならびに次に
前記オキシムをトリアルキルホスフィンおよびアリールジスルフィドと反応させて、アリールチオイミンを形成する段階
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0012】
この方法において、前記ケトンはC−9ケトンであることができ、前記アリールチオイミンはC−9アリールチオイミンであることができる。この方法はまた、水系酸性溶液中で前記アリールチオイミンを脱保護してケトン含有エリスロマイシン誘導体を形成する段階を含むこともできる。前記C−9ケトン含有エリスロマイシン誘導体は、C−6に水酸基を有することができる。さらに、C−9ケトンをアルキル化剤でC−6をアルキル化することにより保護する。現在好ましいケトン含有エリスロマイシン誘導体はエリスロマイシンAであり、現在好ましいアリールチオイミンは9−フェニルチオイミノエリスロマイシンである。さらに前記アリールチオイミンは、加水分解剤で加水分解してイミンとすることができる。
【0013】
本発明はまた、6−O−置換オキシム含有エリスロマイシン誘導体の脱オキシム化方法であって、
6−O−置換オキシム含有エリスロマイシン誘導体のオキシムをトリアルキルホスフィンおよびアリールジスルフィドと反応させてアリールチオイミンを形成する段階;ならびに次に、
前記アリールチオイミンを水系酸性溶液中で加水分解してケトン含有6−O−置換エリスロマイシン誘導体を形成する段階
を含むことを特徴とする方法に関するものでもある。
【0014】
前記6−O−置換オキシム含有エリスロマイシン誘導体は、C−9オキシム含有、2′−水酸基含有、4″−水酸基含有、C−6−水酸基含有エリスロマイシン誘導体であることができる。この方法を行う場合、アリールチオイミン形成後に、C−9オキシム含有、2′−水酸基含有、4″−水酸基含有、C−6−水酸基含有エリスロマイシン誘導体の前記2′−水酸基および4″−水酸基を、少なくとも1種類の水酸基保護剤で保護して、2′−および4″−水酸基保護アリールチオイミンを形成することができる。さらにそのような保護後、前記2′−および4″−水酸基保護アリールチオイミンをアルキル化剤でアルキル化して、2′−および4″−水酸基保護、C−6−O−アルキル化アリールチオイミンを形成することができる。現在好ましい2′−および4″−水酸基保護、C−6−O−アルキル化アリールチオイミンは9−フェニルチオイミノ−6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートであり、現在好ましいケトン含有6−O−置換エリスロマイシン誘導体は6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートである。
【0015】
本発明は、C−9ケトン含有、C−6水酸基含有、2′−水酸基含有、4″−水酸基含有エリスロマイシン誘導体の6−O−アルキル誘導体の製造方法であって、
C−9ケトン含有、C−6水酸基含有、2′−水酸基含有、4″−水酸基含有エリスロマイシン誘導体の前記C−9ケトンをヒドロキサメート化剤と反応させて、C−9オキシムを形成する段階;
前記C−9オキシムをトリアルキルホスフィンおよびアリールジスルフィドで誘導体化してC−9アリールチオイミンを形成する段階;
前記C−9アリールチオイミンの前記2′−水酸基および前記4″−水酸基を少なくとも1種類の水酸基保護剤で保護して、2′および4″−水酸基保護C−9アリールチオイミンを形成する段階;
前記2′および4″−水酸基保護C−9アリールチオイミンの前記C−6−水酸基をアルキル化剤でアルキル化することで、C−6−O−アルキル化2′および4″−水酸基保護C−9アリールチオイミンを形成する段階;
前記2′および4″−水酸基保護C−6−O−アルキル化C−9アリールチオイミンを水系酸性溶液中で脱オキシム化することで、2′および4″−水酸基保護C−6−O−アルキル化C−9ケト−エリスロマイシン誘導体を形成する段階;ならびに次に、
前記所望の生成物を単離する段階
を含むことを特徴とする方法に関するものでもある。
【0016】
この方法の実施においては、前記2′および4″−水酸基保護C−6−O−アルキル化C−9ケト−エリスロマイシン誘導体を脱保護して、2′および4″−水酸基、C−6−O−アルキル化C−9ケト−エリスロマイシン誘導体を形成することができる。現在好ましい2′および4″−水酸基保護C−6−O−アルキル化C−9ケト−エリスロマイシン誘導体は6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートである。
【0017】
本発明の方法の実施においては、前記トリアルキルホスフィンはトリブチルホスフィンであることができ、前記アリールジスルフィドはジフェニルジスルフィドであることができ、前記ヒドロキサメート化剤はヒドロキシルアミンであることができ、前記水酸基保護剤は無水安息香酸であることができ、前記アルキル化剤はアルケニルアルキル化剤であることができる。現在好ましいアルケニルアルキル化剤はプロペニルキノリンt−ブチルカーボネートおよびパラジウム触媒である。
【0018】
本発明はまた、エリスロマイシンAのケトンをチオイミンとして保護する方法であって、
エリスロマイシンAの前記ケトンをヒドロキシルアミンと反応させてオキシムを形成する段階;ならびに次に、
前記オキシムをトリブチルホスフィンおよびフェニルジスルフィドと反応させて9−フェニルチオイミノエリスロマイシンを形成する段階
を含むことを特徴とする方法に関するものでもある。
【0019】
本発明はさらに、6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートの製造方法であって、
エリスロマイシンAのC−9ケトンをヒドロキシルアミンと反応させてエリスロマイシンオキシムを形成する段階;
前記オキシムをトリブチルホスフィンおよびフェニルジスルフィドで誘導体化して9−フェニルチオイミノエリスロマイシンを形成する段階;
9−フェニルチオイミノエリスロマイシンの前記2′−水酸基および前記4″−水酸基を無水安息香酸で保護して9−フェニルチオイミノエリスロマイシン2′,4″ジベンゾエートを形成する段階;
9−フェニルチオイミノエリスロマイシン2′,4″ジベンゾエートの前記C−6−水酸基をプロペニルキノリンt−ブチルカーボネートおよびパラジウム触媒でアルキル化して、6−O−プロペニルキノリニル−9−フェニルチオイミノエリスロマイシン2′,4″ジベンゾエートを形成する段階;
6−O−プロペニルキノリニル−9−フェニルチオイミノエリスロマイシン2′,4″ジベンゾエートをHCl水溶液中で6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン2′,4″ジベンゾエートに変換する段階;ならびに次に、
前記所望の生成物を単離する段階
を含むことを特徴とする方法に関するものでもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
用語の定義
本明細書で使用される「アルキル」という用語は単独または組み合わせて、そのアルキルという用語がCx〜Cyの名称の前にある場合を除き、1個の水素原子の脱離によって飽和炭化水素から誘導されるC1〜C12の直鎖もしくは分岐鎖で置換もしくは未置換の飽和鎖基を指す。アルキル基の代表例には、特にはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチルおよびtert−ブチルなどがある。
【0021】
本明細書で使用される「アルケニル」という用語は単独または組み合わせて、炭素原子数2〜10個の置換もしくは未置換で直鎖の、または置換もしくは未置換で分岐鎖のアルケニル基を指す。そのような基の例には、エテニル、E−およびZ−ペンテニル、デセニルなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」または「アルコキシ」を修飾する「低級」という用語は、特定の官能基におけるC1〜C6単位を指す。例えば低級アルキルは、C1〜C6アルキルを意味する。
【0023】
本明細書で使用される「アルコキシ」という用語は単独または組み合わせて、「アルキル」という用語が上記で定義の通りであるアルキルエーテル基を指す。好適なアルキルエーテル基の例には、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本明細書で使用される「アリール」または「芳香族」という用語は単独または組み合わせて、フェニル、ナフチル、インデニル、インダニル、アズレニル、フルオレニルおよびアントラセニルなどの炭素原子数約6〜12個の置換もしくは未置換の炭素環系芳香族基;あるいはフリル、チエニル、ピリジル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、2−ピラゾリニル、ピラゾリジニル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,2,3−トリアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、1,3,5−トリアジニル、1,3,5−トリチアニル、インドリジニル、インドリル、イソインドリル、3H−インドリル、インドリニル、ベンゾ[b]フラニル、2,3−ジヒドロベンゾフラニル、ベンゾ[b]チオフェニル、1H−インダゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、プリニル、4H−キノリジニル、イソキノリニル、シンノリニル、フタラジニル、キナゾリニル、キノキザリニル、1,8−ナフチリジニル、プテリジニル(pteridinyl)、カルバゾリル、アクリジニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキシアジニル、ピラゾロ[1,5−c]トリアジニルなどの少なくとも1個の環内N、OまたはS原子を有する芳香環である複素環系芳香族基を指す。「アリールアルキル」および「アルキルアリール」は、上記で定義の「アルキル」という用語を用いる。環は複数置換されていても良い。
【0025】
本明細書で使用される「ハロゲン」という用語は、I、Br、ClまたはFを指す。
【0026】
本明細書で使用される「複素環」という用語は単独または組み合わせて、少なくとも1個の環内N、OまたはS原子を有する非芳香族3〜10員環を指す。複素環はアリール縮合していても良い。複素環はまた、特に水素、ハロゲン、水酸基、アミノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、シアノ、カルボキシ、カルボアルコキシ、カルボキシアルキル、オキソ、アリールスルホニルおよびアラルキルアミノカルボニルからなる群から独立に選択される少なくとも1個の置換基で置換されていても良い。
【0027】
本明細書で使用される「水酸基」という用語は、−OHを指す。
【0028】
上記用語の使用は、置換部分および未置換部分を包含するものとする。置換は、アルコール類、エーテル類、エステル類、アミド類、スルホン類、スルフィド類、水酸基、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アミン類、ヘテロ原子、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルコキシカルボニル、アルコキシアルコキシ、アシルオキシ、ハロゲン類、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチル、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、シアノ、カルボキシ、カルボアルコキシ、カルボキシアルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、複素環、アルキル複素環、複素環アルキル、オキソ、アリールスルホニルおよびアラルキルアミノカルボニルあるいは前述の置換基のいずれか、または直接結合しているか、もしくは好適な連結基によって結合した前記置換基のいずれか1以上の基で行われていても良い。連結基は代表的には、−C−、−C(O)−、−NH−、−S−、−S(O)−、−O−、−C(O)O−または−S(O)O−のいずれかの組み合わせを含む原子1〜3個の短い鎖である。環は複数箇所で置換されていても良い。
【0029】
「エリスロマイシン誘導体」または「エリスロマイシン誘導体類」という用語は、エリスロマイシンA〜D(式Iおよび表1に示したもの)およびそれの誘導体を指す。誘導体は、エリスロマイシンA〜DのC−2〜C−13の水素、水酸基、アルキルまたはアルコキシ置換基が、異なる水素、水酸基、アルキルまたはアルコキシ置換基で置き換わったものを含む。有用なエリスロマイシン誘導体の他の例は、米国特許第5866549号;同5872229号;同5919916号;同5932710号;同6040440号;同6075011号;および同6124269号に開示されており、それらの開示内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0030】
略称
以下の図式および実施例で使用されている略称は以下の通りである。すなわち、THF=テトラヒドロフラン;HPLC=高速液体クロマトグラフィー;IPA=イソプロピルアルコール;Bz=ベンゾイル;Me=メチル;conc.=濃;dba=ジベンジリデンアセトン;IPAC=酢酸イソプロピル;PQC=プロペニルキノリンt−ブチルカーボネート;DMAP=4−N,N−ジメチルアミノピリジン;DPPB=1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン;およびMTBE=メチル−tert−ブチルエーテルである。
【0031】
本発明の方法の態様を、以下の図式に示してある。図式1には、本発明の方法による6−O−アルキル化エリスロマイシン誘導体の高収率の脱オキシム化を示してある。
【0032】
【化2】
【0033】
以下の図式2は、本発明の方法による、水酸基保護およびC−6アルキル化後の脱オキシム化を説明するものである。
【0034】
【化3】
【0035】
以下の図式3は、実施例1の手順、すなわちオキシムのチオイミンへの変換を説明するものである。
【0036】
【化4】
【0037】
以下の図式4は、実施例3の手順、すなわち脱オキシム化によるケトン形成を説明するものである。
【0038】
【化5】
【0039】
以下の図式5は、実施例5の手順、すなわちチオイミンのイミンへの変換を説明するものである。
【0040】
【化6】
【0041】
本発明の代表的な方法の詳細な説明を実施例に示してある。本発明の方法で使用することができる各種段階(水酸基の保護/脱保護、6−O−アルキル化、ヒドロキサメート化およびアリールチオイミンの形成/加水分解)の説明は、以下の通りである。
【0042】
2′−および4″−水酸基保護/脱保護
エリスロマイシン誘導体の2′および4″水酸基は、非プロトン性溶媒中での好適な水酸基保護剤との反応によって保護することができる。代表的な水酸基保護基には、特にはアセチル化剤、シリル化剤および酸無水物などがあるが、これらに限定されるものではない。例えば、無水酢酸、無水安息香酸、クロルギ酸ベンジルまたはトリアルキルシリルクロライドが、好適な水酸基保護剤である。
【0043】
非プロトン性溶媒の例には、特には塩化メチレン、クロロホルム、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリジノンおよびジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、それらの混合物または上記溶媒のいずれか一種とエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチルおよびアセトンとの混合物がある。
【0044】
エリスロマイシン誘導体の2′−および4″−水酸基の保護は、同一または2種類の異なる試薬で順次または同時に行うことができる。水酸基を保護する上で特に好ましい基は、ベンゾエート保護基である。水酸基のベンゾイル化は代表的には、ベンゾイルハライドまたはベンゾイル無水物などのベンゾイル化剤でエリスロマイシン誘導体を処理することで行う。
【0045】
2′−および4″−水酸基の脱保護は、文献に記載の方法、例えばグリーンらの著作(Greene and Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, John Wiley & Son, Inc, 1991)に記載の方法に従って行う。保護基がアセトートまたはベンゾエートなどのエステルである場合、その化合物はエタノールまたはメタノールで処理することで脱保護することができる。脱離させる基がトリアルキルシリル基である場合、その化合物はテトラヒドロフランまたはアセトニトリル中にてフッ素源で処理することで脱保護することができる。
【0046】
本明細書に記載の「水酸基保護基」とは、合成手順時に望ましくない反応に対して水酸基を保護する当業界で公知の容易に脱離可能な基を指し、それはその後選択的に脱離させることができる。水酸基保護基の使用は当業界で公知であり、グリーンらの著作(Protective Groups in Organic Synthesis, T. Greene and P. Wuts, John Wiley & Sons, New York, 1991)に詳細に記載されている。水酸基保護基の例には、特にメチルチオメチル、tert−ジメチルシリルおよびtert−ブチルジフェニルシリルなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0047】
「保護水酸基」という用語は、特にベンゾイル基、アセチル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基またはメトキシメチル基などの上記で定義の水酸基保護基で保護された水酸基を指す。
【0048】
C−6−O−アルキル化
C−6−水酸基含有エリスロマイシン誘導体のアルキル化は、約−15℃〜約50℃の温度で、塩基存在下、溶媒中にてアルキル化剤で行うことができる。アルキル化剤には、塩化アルキル類、臭化アルキル類、ヨウ化アルキル類またはスルホン酸アルキル類などがある。アルキル化剤の具体例には、特には臭化アリル、臭化プロパルギル、臭化ベンジル、2−フルオロエチルブロマイド、4−ニトロベンジルブロマイド、4−クロロベンジルブロマイド、4−メトキシベンジルブロマイド、α−ブロモ−p−トルニトリル、臭化シンナミル、4−ブロモクロトン酸メチル、クロチルブロマイド、1−ブロモ−2−ペンテン、3−ブロモ−1−プロペニルフェニルスルホン、3−ブロモ−1−トリメチルシリル−1−プロピン、3−ブロモ−2−オクチン、1−ブロモ−2−ブチン、2−ピコリルクロライド、3−ピコリルクロライド、4−ピコリルクロライド、4−ブロモメチルキノリン、ブロモアセトニトリル、エピクロロヒドリン、ブロモフルオロメタン、ブロモニトロメタン、ブロモ酢酸メチル、メトキシメチルクロライド、ブロモアセトアミド、2−ブロモアセトフェノン、1−ブロモ−2−ブタノン、ブロモクロロメタン、ブロモメチルフェニルスルホンおよび1,3−ジブロモ−1−プロペンなどがある。
【0049】
スルホン酸アルキル類の例には、特にはアリル−O−トシレート、3−フェニルプロピル−O−トリフルオロメタンスルホネートおよびn−ブチル−O−メタンスルホネートがある。
【0050】
アルキル化されるエリスロマイシン誘導体に対して1〜4モル当量のアルキル化剤を用いれば足りる。
【0051】
水酸基保護について前述した非プロトン性溶媒が、アルキル化にも有用である。
【0052】
アルキル化で利用することができる塩基の例には、特には水酸化カリウム、水酸化セシウム、テトラアルキルアンモニウムハイドロキシド、水素化ナトリウム、水素化カリウム、カリウムイソプロポキシド、カリウムtert−ブトキシドおよびカリウムイソブトキシドなどがある。塩基の量は通常、アルキル化対象化合物に対して1〜4当量である。
【0053】
別法において前記エリスロマイシン誘導体は、パラジウム触媒およびホスフィン促進剤の存在下にアルケニルアルキル化剤でアルキル化することができる。ほとんどのパラジウム(0)触媒が、この方法で使える。ホスフィンとのin situ反応によってパラジウム(0)化学種に変換される酢酸パラジウム(II)などの一部のパラジウム(II)触媒も同様に使える。パラジウム触媒は、特に酢酸パラジウム(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムおよび(テトラジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(これらに限定されるものではない)から選択することができる。パラジウム触媒のホスフィンに対する比は通常、約2:1〜1:8の範囲である。好適なホスフィンには、特にはトリフェニルホスフィン、ビス(ジフェニルホスフィン)メタン、ビス(ジフェニルホスフィン)エタン、ビス(ジフェニルホスフィン)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィン)ブタン、ビス(ジフェニルホスフィン)ペンタンおよびトリ(o−トリル)ホスフィンなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
この反応は、非プロトン性溶媒中、好ましくは高温で、好ましくは50℃または50℃以上で行う。有用な非プロトン性溶媒には、特にはN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、メチル−t−ブチルエーテル、ヘプタン、アセトニトリル、酢酸イソプロピルおよび酢酸エチルなどがあるが、これらに限定されるものではない。最も好ましい溶媒はテトラヒドロフランまたはトルエンである。
【0055】
有用なアルケニルアルキル化剤は、炭酸アリル類およびアリルカーバメート類などのアリル系炭化水素の炭酸エステル類およびカーバメート類である。現在好ましい有用なアルケニルアルキル化剤は、下記に示した式IIの構造を有する。
【0056】
【化7】
式中、
XはOまたはNR5であり;R5はアルキルまたはアリールであり;あるいはR3がR4と一体となって芳香環または非芳香環を形成することができ:
R4は各場合において独立に、水素、アルキル、ハロゲン、アリールまたはヘテロアリールであり;R3はアルキルである。現在好ましいアルケニルアルキル化剤には、R3基がt−ブチル、イソプロピルまたはN,N−ジイソプロピルであるものなどがある。アルケニルアルキル化剤には、炭酸アリルイソプロピル、炭酸アリル−t−ブチル、カルバミン酸アリルN,N−ジイソプロピル、炭酸3−(3−キノリル)−2−プロペン−1−オールt−ブチルおよび炭酸1−(3−キノリル)−2−プロペン−1−オールt−ブチルなどがある。アルケニルアルキル化剤は、アルコールを非常に多様な化合物と反応させて炭酸エステル部分またはカーバメート部分を組み込むことで得ることができる。その化合物には、クロルギ酸t−ブチル、2−(t−ブトキシカルボニル−オキシイミノ)−2−フェニルアセトニトリル、−t−ブトキシカルボニルオキシコハク酸イミド、ジ−t−ブチル−ジカーボネートおよび1−(t−ブトキシ−カルボニル)イミダゾールなどがあり(これらに限定されるものではない)、その反応は有機塩基もしくは無機塩基の存在下で行う。反応温度は約−30℃〜約30℃で変動する。
【0057】
ヒドロキサメート化
オキシムは、米国特許第5274085号に記載の方法に従って、塩基存在下でのヒドロキシルアミン塩酸塩または酸存在下でのヒドロキシルアミンなどのヒドロキサメート化剤で誘導体化を行う反応によって、ケトン含有エリスロマイシン誘導体から製造することができる。有用なヒドロキサメート化剤には、ヒドロキシルアミン塩酸塩またはそれの塩、例えば塩酸塩または酢酸塩などがある。合成手順の代表例は以下の通りである。エリスロマイシン、塩基、イソプロパノール、50%ヒドロキシルアミン水溶液(5〜10当量)および酢酸(pHを7未満に調節するため)を混合する。混合物を撹拌しながら、反応が完結するまで20時間以内にわたり50℃で加熱する。混合物を冷却して40℃以下とし、水酸化ナトリウム水溶液でpHを9より高い値に調節し、生成物を酢酸イソプロピルで抽出し、濃縮し、濾過し、脱水する。
【0058】
アリールチオイミン類:形成および加水分解
C−9オキシムエリスロマイシン誘導体のアリールチオイミンは、約0℃〜約30℃の温度で有機溶媒中、オキシムをトリアルキルホスフィンおよびジアリールジスルフィドと反応させることで得ることができる。その反応は、約15分〜約48時間の期間で行うことができる。好ましくは反応は、10〜20℃で2〜4時間行う。現在好ましい有機溶媒には、テトラヒドロフラン、トルエン、ピリジン、酢酸エチルおよびN,N−ジメチルホルムアミドなどがある。有用なトリアルキルホスフィン類には、特にトリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィンおよびトリシクロヘキシルホスフィンなどがある。現在好ましいアリールジスルフィドはフェニルジスルフィドであり、現在好ましいトリアルキルホスフィンはトリブチルホスフィンである。オキシム:ホスフィン:スルフィドの比は、1:1〜2:1.5〜3とすることができる。好ましくはオキシム:ホスフィン:スルフィドの比は、1:1.1:2である。
【0059】
アリールチオイミンのイミンへの加水分解の代表的手順は以下の通りである。イミンをTHFに溶かし、pHを2〜3に調節するのに十分な量の濃塩酸などの酸を加える。イミンは、濾過または水への抽出によって、相当する塩酸塩として単離することができる。遊離塩基は、炭酸ナトリウム水溶液でのpH調節と酢酸エチルもしくはIPACなどの有機溶媒への逆抽出によって得ることができる。
【0060】
アリールチオイミンのケトンへの加水分解の手順は、下記の実施例2に示したように、アリールチオイミンのイミンへの加水分解と、それに続くイミンのケトンへの加水分解によるものである。別法として、この2段階をイミンの単離を行わずにワンポット法で行うことができる。
【0061】
一般的方法
本明細書に詳細に説明するように、本発明の方法の反応を単一ポットで行うことが可能である。ただし、記載の方法は複数ポットで実行可能であることは明らかであろう。「単一ポット」方法とは、1個の反応容器で行うことができる方法である。当業者であれば、単一ポット法が複数ポット法に勝る一定の利点を提供することは理解できよう。例えば単一ポット法では、成分の取り扱いおよび/または移動が少なくて済むことで、偶発事象や誤りの危険性が低くなる。単一ポット法はまた、反応成分の取り扱いおよび移動が減少する結果として、複数ポット法より安価になる傾向がある。
【0062】
本方法の反応は、非常に広い範囲の温度、例えば0℃〜150℃、より好ましくは20℃〜100℃で行うことができる。選択される温度は、各種要素によって決まり得るものである。例えば加熱は、反応を4〜10のpH範囲で行う場合に好ましいことがあり得る。他方、10以上のpHで室温にて反応は通常十分に進行する。
【0063】
本発明の方法の反応に要する時間は、多くの要素、特には基質の性質、反応温度ならびに使用する緩衝液その他の媒体のpHおよび性質、特には温度およびpHに応じて広く変動し得る。しかしながら、上記で示した好ましい範囲内では、5分〜50時間の期間で通常は十分である。
【0064】
本発明の方法の反応が完結した後、従来の手段、例えば反応混合物のpH調節;反応混合物の濃縮(例:減圧下での溶媒留去);反応残留物の分離(例:濾過);または結晶沈殿が生成しない場合には、水非混和性溶媒による混合物の抽出とそれに続く抽出液からの溶媒留去という段階のいずれかまたは適切な組み合わせによって、所望の化合物を反応混合物から回収することができる。必要に応じて得られた生成物を、例えば再結晶あるいはカラムクロマトグラフィーもしくは分取薄層クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー法などの常套的な方法によってさらに精製することができる。
【0065】
添加される外部材料が上記の反応の性質をほとんど変化させず、加えることで反応を促し、副反応を抑制し、または合成の精製段階を改善する限りにおいて、必要に応じて溶媒、触媒、希釈剤および他の材料などの他の成分を反応混合物中に存在させることもできる。
【0066】
本発明の方法によって製造することができる化合物には、免疫抑制活性、抗微生物活性、抗真菌活性、抗ウィルス活性、抗炎症活性および抗増殖活性を有し、化学療法薬耐性を改善する能力を有する化合物などがある。
【0067】
本発明の方法によって合成される化合物は、慢性関節リウマチ、橋本甲状腺炎、多発性硬化症、重症筋無力症、I型糖尿病、ブドウ膜炎、アレルギー性脳脊髄炎、糸球体腎炎などの自己免疫疾患の治療でも用いることができると考えられる。
【0068】
さらに別の用途には、乾癬、アトピー性皮膚炎および表皮水疱症などの、炎症性および過増殖性皮膚疾患および免疫介在病の皮膚発現の治療および予防などがある。本発明の化合物が有用であると考えられるさらに別の例には、眼天疱瘡、強膜炎およびグレーブス眼症などの各種眼球疾患(自己免疫疾患およびその他疾患)などがある。
【0069】
下記の実施例は、本発明の方法の好ましい実施形態および用途を説明することを目的として提供されるものであって、本明細書に添付の特許請求の範囲に別断の記載がない限り、本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0070】
9−フェニルチオイミノエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートを以下の手順に従って合成した。
【0071】
最初に、9−フェニルチオイミノエリスロマイシンを以下のように合成した。エリスロマイシン9−オキシム(7.5g、10mmol、米国特許第5274085号に開示の手順に従ってエリスロマイシンAをオキシム化することで得たもの)およびジフェニルジスルフィド(4.4g、20mmol)のテトラヒドロフラン(30mL)溶液に窒素雰囲気下で5〜8℃にて、トリブチルホスフィン(5mL、20mmol)を滴下した。30分後、反応混合物を5%炭酸ナトリウム水溶液(150mL)に投入することで反応停止した。沈殿を濾過した。フィルターケーキを酢酸イソプロピル(50mL)および塩化メチレン(50mL)の混合液に溶解させ、硫酸マグネシウムで脱水した。乾燥剤を濾去し、溶液を減圧下に濃縮した。残留物を酢酸イソプロピル(7mL)に溶かし、ヘプタン(70mL)を加えることで生成物を沈殿させた。濾過および乾燥によって、フェニルチオイミノエリスロマイシン4.43g(収率52%に相当)を得た。
【0072】
次に、9−フェニルチオイミノエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートを次のように製造した。9−フェニルチオイミノエリスロマイシン(1.25g、1.5mmol)、無水安息香酸(1.0g、4.4mmol)、トリエチルアミン(0.5ml、3.6mmol)およびジメチルアミノピリジン(0.18g、1.5mmol)を、テトラヒドロフラン(4mL)中で室温にて約15時間混合した。混合物に水0.2mLを加えて反応停止した。0.5時間後、それを酢酸エチル(20mL)および水(20mL)で希釈した。有機層を分液し、10%炭酸ナトリウム水溶液(10mL)で洗浄した。次に、有機層を減圧下に濃縮し、アセトニトリル(5mL)でさらに濃縮した。アセトニトリルからの再結晶および乾燥によって、所望のジベンゾエート1.1g(収率71%に相当)を得た。これらの反応は、中間体のフェニルチオイミノエリスロマイシンを単離せずに行うこともできる。
【実施例2】
【0073】
エリスロマイシンA9−オキシム2′,4″,9−トリベンゾエートを以下のように合成した。
【0074】
固体のエリスロマイシンAオキシム(2.006kg、2.677mol)を50リットル丸底フラスコ(撹拌パドル、温度計および窒素導入管を取り付けたもの)に入れ、酢酸イソプロピル(IPAC、15.5kg)に溶かした。定期的にテトラヒドロフラン(THF、45.6kg)を加えながらIPACを濃縮して、最終容量を22リットル(K.F.=5.3mol%)とした。ジメチルアミノピリジン(DMAP、0.3282kg、2.67mol)、トリエチルアミン(1.198kg、11.84mol)および無水安息香酸(2.547kg、11.269mol)をフラスコに一気に加え、25℃で40時間撹拌した。反応混合物を冷却して0〜5℃とし、N,N−ジメチルエチレンジアミン(0.427kg、定量したBz2Oに対して1.5当量)を内部温度が<10℃に維持されるような速度で加えた(代表的には約40分間)。添加終了後、未反応の無水安息香酸がなくなるまで、混合物を+5℃で約1時間撹拌した。反応混合物を100リットル容器に移し、メチル−t−ブチルエーテル(MTBE、20リットル)で希釈した。有機層を5%KH2PO4溶液(20kgで2回)で洗浄した。有機層を7%NaHCO3溶液(20kg)および27%NaCl溶液(10kg)で洗浄した。定期的にIPA(16リットル)を加えながら、有機層を減圧下に濃縮してTHFを除去して、最終容量を12リットル(NMRでTHFがないことが示された)とした。十分に撹拌しながらスラリーを昇温させて45℃とし、1.5時間撹拌した。スラリーを冷却して−5℃とし、1.5時間撹拌した。生成物を濾過し、IPA(−10℃まで予め冷却したもの1リットルで3回)で洗浄した。トリベンゾエートをトレーに移し、窒素を送り込みながら50℃で真空乾燥した。収量は2.323kg(82%)であった。
【0075】
次に、エリスロマイシンAオキシムトリベンゾエートを炭酸3−(3−キノリニル)−2−プロペン−1−オールt−ブチルで次のようにアルキル化した。
【0076】
固体のエリスロマイシンAオキシムトリベンゾエート(1000.1g、0.942mol)を10リットルのロータリーエバポレータフラスコに入れ、THF(4.066kg)に溶かした。THFを減圧下に留去して泡状油状物を得た。その泡状物をTHF(3.427kg)に溶かし、再度留去を行った。得られた物質をTHF(3.500kg)に溶かし、冷却管、窒素導入管、マントルヒーターおよび撹拌機を取り付けた12リットル丸底フラスコに移し入れた。容器の脱酸素を行った。固体の炭酸3−(3−キノリニル)−2−プロペン−1−オールt−ブチル(308.9g、1.08mol、1.15当量)を一気に加え、次にPd2(dba)3(8.61g、0.0094mol、0.01当量)およびdppb(8.02g、0.018mol、0.02当量)を加えた。反応混合物を、出発原料が消費されるまで約30分間加熱還流(65℃)した。
【0077】
反応混合物を冷却して15℃とした。イソプロピルアルコール(4.0リットル)を加え、直ちに2N NaOH(234mL、0.234mol、0.5当量)を加えた。追加の水酸化ナトリウム溶液を必要に応じて加えて、加水分解を完了させた。反応混合物をMTBE(12リットル)および7%NaHCO3水溶液(8リットル)に投入し、4分間撹拌した。層分離したら黒色の界面が形成した。層を分離し、その界面を水層とともに除去した。有機層を23%NaCl水溶液(8リットル)で洗浄し、黒色界面を水層とともに再度除去しながら分液を行った。加熱浴を45℃としながら、溶媒をロータリーエバポレータで除去した。残った泡状物をTHF(4リットル)に溶かし、ロータリーエバポレータで濃縮した。その手順を繰り返して、所望の生成物を重量1262.1gの乾燥泡状物として得た。
【実施例3】
【0078】
6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートを、以下の合成手順に従って製造した。
【0079】
最初に、9−イミノ−6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートを以下のように製造した。6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシンオキシム2′,4″−ジベンゾエート(40g、36mmol、実施例2の手順に従って合成したもの)およびジフェニルジスルフィド(16g、73mmol)のテトラヒドロフラン(240mL)溶液に窒素雰囲気下で、トリブチルホスフィン(31mL、120mmol)を滴下して加えた。15時間後、濃HCl(3.5mL)を滴下して添加することで混合物の反応停止を行った。2時間後、沈殿を濾過した。フィルターケーキをMTBE(100mL)で洗浄し、乾燥して、塩酸塩としてのイミン33g(収率80%に相当)を得た。
【0080】
次に、6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートを次のように製造した。9−イミノ−6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエート(2g、1.8mmol)および酒石酸(0.5g、3.3mmol)、テトラヒドロフラン(8mL)および水(8mL)を室温で混合した。混合物を、HPLCで未反応原料が2%以下となるまで60〜65℃で加熱した。水酸化ナトリウム水溶液(4N)を加えることで、混合物のpHを7〜8に調節した。水層を分液し、有機層を減圧下に濃縮し、IPAでさらに濃縮し、IPA(8mL)中でスラリーとした。濾過および乾燥によって、ケトン1.82g(収率91%に相当)を得た。これらの反応は、イミン単離を行わずに単一ポットで行って、ケトンを収率75〜80%で得ることもできる。
【実施例4】
【0081】
炭酸3−(3−キノリニル)−2−プロペン−1−オールt−ブチルを以下のように製造した。オーバーヘッド撹拌機を取り付けた500mL三頸丸底フラスコに、シスおよびトランス異性体の混合物としての3−(3−キノリニル)−2−プロペン−1−オール(13.03g、70.43mmol)(シス81%およびトランス19%)、ジ−t−ブチルジカーボネート(16.91g、77.48mmol、1.11当量)、硫酸水素テトラn−ブチルアンモニウム(742mg、2.17mmol)および塩化メチレン(135mL)を入れた。撹拌混合物を冷却して0〜5℃とし、その時点で内部温度が20℃を超えないように45分間かけて25%水酸化ナトリウム水溶液(33.3mL)を加えた。反応完了後(1〜4時間)、反応混合物を塩化メチレン(50mL)で希釈し、水(125mLで2回)で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、濾過し、減圧下に濃縮して炭酸3−(3−キノリニル)−2−プロペン−1−オールt−ブチル18.35g(91.4%)を油状物として得た。この物質は、シリカゲルでのクロマトグラフィーによってさらに精製され、最初のシス異性体およびトランス異性体の比を維持した無色油状物としての精製炭酸エステルとすることができる(17.50g、87.2%)。
【実施例5】
【0082】
9−イミノ−6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートを、以下の手順に従って合成した。
【0083】
最初に、9−フェニルチオイミノ−6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートを以下のように製造した。プロペニルキノリンt−ブチルカーボネート(PQC、0.5g、1.75mmol、実施例4の手順に従って合成したもの)、9−フェニルチオイミノエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエート(1.05g、1mmol、実施例1の手順によって得たもの)、酢酸パラジウム(5mg)およびビス−(ジフェニルホスフィノ)ブタン(16mg)を、窒素雰囲気下でテトラヒドロフラン(5mL)に溶かした。混合物を加熱還流した。3時間後、混合物を冷却して室温とし、FILTROL(0.2g)層で濾過した。溶媒を留去し、残留物を酢酸イソプロピル(5mL)で濃縮し、酢酸イソプロピル−ヘプタン(1:4、5mL)中でスラリーとした。次に、固体を濾過し、乾燥して、生成物0.9g(収率75%に相当)を得た。
【0084】
次に、9−イミノ−6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエート塩酸塩を、以下のように製造した。9−フェニルチオイミノ−6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエート(0.9g、0.7mmol)のテトラヒドロフラン(5mL)溶液に室温で、出発原料がすべて消費されるまで塩酸を滴下して加えた。得られた混合物をMTBE(5mL)で希釈し、濾過した。フィルターケーキをアセトニトリル(2mL)で洗浄し、乾燥して、生成物0.74g(収率88%に相当)を得た。
【0085】
引用した参考文献はいずれも、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0086】
以上の説明および実施例によって本発明を説明している。上記の説明を考慮すれば当業者には多くの変形形態が明らかになることから、上記の説明は本発明を限定するものではない。添付の特許請求の範囲およびその精神の範囲内でのそのような変形形態はいずれも、本発明に包含されるものである。
【0087】
添付の特許請求の範囲で定義される本発明の概念および範囲から逸脱しない限りにおいて、本明細書に記載の本発明の方法の構成、操作および順序に関して変更を行うことができる。
Claims (28)
- ケトン含有エリスロマイシン誘導体のケトンをチオイミンとして保護する方法であって、
ケトン含有エリスロマイシン誘導体のケトンを、ヒドロキサメート化剤と反応させてオキシムを形成する段階;ならびに次に
前記オキシムをトリアルキルホスフィンおよびアリールジスルフィドと反応させて、アリールチオイミンを形成する段階
を含むことを特徴とする方法。 - 前記ケトンがC−9ケトンであり;前記アリールチオイミンがC−9アリールチオイミンである請求項1に記載の方法。
- 前記トリアルキルホスフィンがトリブチルホスフィンである請求項1に記載の方法。
- 前記アリールジスルフィドがジフェニルジスルフィドである請求項1に記載の方法。
- 前記ヒドロキサメート化剤がヒドロキシルアミンである請求項1に記載の方法。
- 水系酸性溶液中で前記アリールチオイミンを脱保護してケトン含有エリスロマイシン誘導体を形成する段階をさらに含む請求項1に記載の方法。
- 前記C−9ケトン含有エリスロマイシン誘導体がC−6に水酸基を有する請求項2に記載の方法。
- 前記C−9ケトンをアルキル化剤で保護してC−6をアルキル化する請求項7に記載の方法。
- 前記アルキル化剤がアルケニルアルキル化剤である請求項8に記載の方法。
- 前記ケトン含有エリスロマイシン誘導体がエリスロマイシンAであり;前記アリールチオイミンが9−フェニルチオイミノエリスロマイシンである請求項1に記載の方法。
- 前記アリールチオイミンを加水分解剤で加水分解してイミンとする段階をさらに含む請求項1に記載の方法。
- 6−O−置換オキシム含有エリスロマイシン誘導体の脱オキシム化方法であって、
6−O−置換オキシム含有エリスロマイシン誘導体のオキシムをトリアルキルホスフィンおよびアリールジスルフィドと反応させてアリールチオイミンを形成する段階;ならびに次に、
前記アリールチオイミンを水系酸性溶液中で加水分解してケトン含有6−O−置換エリスロマイシン誘導体を形成する段階
を含むことを特徴とする方法。 - 前記トリアルキルホスフィンがトリブチルホスフィンである請求項12に記載の方法。
- 前記アリールジスルフィドがジフェニルジスルフィドである請求項12に記載の方法。
- 前記6−O−置換オキシム含有エリスロマイシン誘導体が、C−9オキシム含有、2′−水酸基含有、4″−水酸基含有、C−6−水酸基含有エリスロマイシン誘導体である請求項12に記載の方法。
- アリールチオイミン形成後に、前記C−9オキシム含有、2′−水酸基含有、4″−水酸基含有、C−6−水酸基含有エリスロマイシン誘導体の前記2′−水酸基および前記4″−水酸基を、少なくとも1種類の水酸基保護剤で保護して、2′−および4″−水酸基保護アリールチオイミンを形成する段階をさらに含む請求項15に記載の方法。
- 前記2′−および4″−水酸基保護アリールチオイミンをアルキル化剤でアルキル化して、2′−および4″−水酸基保護、C−6−O−アルキル化アリールチオイミンを形成する段階をさらに含む請求項16に記載の方法。
- 前記2′−および4″−水酸基保護、C−6−O−アルキル化アリールチオイミンが9−フェニルチオイミノ−6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートであり;前記ケトン含有6−O−置換エリスロマイシン誘導体が6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートである請求項17に記載の方法。
- C−9ケトン含有、C−6水酸基含有、2′−水酸基含有、4″−水酸基含有エリスロマイシン誘導体の6−O−アルキル誘導体を製造する方法であって、
C−9ケトン含有、C−6水酸基含有、2′−水酸基含有、4″−水酸基含有エリスロマイシン誘導体の前記C−9ケトンをヒドロキサメート化剤と反応させて、C−9オキシムを形成する段階;
前記C−9オキシムをトリアルキルホスフィンおよびアリールジスルフィドで誘導体化してC−9アリールチオイミンを形成する段階;
前記C−9アリールチオイミンの前記2′−水酸基および前記4″−水酸基を少なくとも1種類の水酸基保護剤で保護して、2′および4″−水酸基保護C−9アリールチオイミンを形成する段階;
前記2′および4″−水酸基保護C−9アリールチオイミンの前記C−6−水酸基をアルキル化剤でアルキル化して、C−6−O−アルキル化2′および4″−水酸基保護C−9アリールチオイミンを形成する段階;
前記2′および4″−水酸基保護C−6−O−アルキル化C−9アリールチオイミンを水系酸性溶液中で脱オキシム化することで、2′および4″−水酸基保護C−6−O−アルキル化C−9ケト−エリスロマイシン誘導体を形成する段階;ならびに次に、
前記所望の生成物を単離する段階
を含むことを特徴とする方法。 - 前記トリアルキルホスフィンがトリブチルホスフィンである請求項19に記載の方法。
- 前記アリールジスルフィドがジフェニルジスルフィドである請求項19に記載の方法。
- 少なくとも1種類の水酸基保護剤が無水安息香酸である請求項19に記載の方法。
- 前記アルキル化剤がアルケニルアルキル化剤である請求項19に記載の方法。
- 前記アルケニルアルキル化剤がプロペニルキノリンt−ブチルカーボネートおよびパラジウム触媒である請求項23に記載の方法。
- 前記2′および4″−水酸基保護C−6−O−アルキル化C−9ケト−エリスロマイシン誘導体を脱保護して、2′および4″−水酸基、C−6−O−アルキル化C−9ケト−エリスロマイシン誘導体を形成する段階をさらに含む請求項19に記載の方法。
- 前記2′および4″−水酸基保護C−6−O−アルキル化C−9ケト−エリスロマイシン誘導体が6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートである請求項19に記載の方法。
- エリスロマイシンAのケトンをチオイミンとして保護する方法であって、
エリスロマイシンAの前記ケトンをヒドロキシルアミンと反応させてオキシムを形成する段階;ならびに次に、
前記オキシムをトリブチルホスフィンおよびフェニルジスルフィドと反応させて9−フェニルチオイミノエリスロマイシンを形成する段階
を含むことを特徴とする方法。 - 6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン−2′,4″−ジベンゾエートを製造する方法であって、
エリスロマイシンAのC−9ケトンをヒドロキシルアミンと反応させてエリスロマイシンオキシムを形成する段階;
前記オキシムをトリブチルホスフィンおよびフェニルジスルフィドで誘導体化して9−フェニルチオイミノエリスロマイシンを形成する段階;
9−フェニルチオイミノエリスロマイシンの前記2′−水酸基および前記4″−水酸基を無水安息香酸で保護して9−フェニルチオイミノエリスロマイシン2′,4″ジベンゾエートを形成する段階;
9−フェニルチオイミノエリスロマイシン2′,4″ジベンゾエートの前記C−6−水酸基をプロペニルキノリンt−ブチルカーボネートおよびパラジウム触媒でアルキル化して、6−O−プロペニルキノリニル−9−フェニルチオイミノエリスロマイシン2′,4″ジベンゾエートを形成する段階;
6−O−プロペニルキノリニル−9−フェニルチオイミノエリスロマイシン2′,4″ジベンゾエートをHCl水溶液中で6−O−プロペニルキノリニルエリスロマイシン2′,4″ジベンゾエートに変換する段階;ならびに次に、
前記所望の生成物を単離する段階
を含むことを特徴とする方法。
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