JP2004520134A - 放射線架橋ハイドロゲル - Google Patents

放射線架橋ハイドロゲル Download PDF

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Abstract

放射線架橋され、生物分解可能な合成ハイドロゲル、並びにハイドロゲルをヒト患者又は患畜の体に植え込むことを含むその種々の用途。放射線架橋され、生物分解可能な本発明による合成ハイドロゲルは、モノマー(不飽和炭化水素などのアクリルモノマー及びメタクリルモノマーなど)又はポリマーに放射線を照射することによって調整され得、そのうちの一部が生物分解可能であるか、又は生物分解可能なユニット或いはサブユニットを含む。放射線架橋され、生物分解可能な合成ハイドロゲルの医療分野での用途に、ハイドロゲルを止血、組織増大、組織工学、塞栓形成、血管裂孔又は創傷の閉鎖などに利用する例がある。

Description

【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、放射線架橋ハイドロゲル材料、並びにこの種の材料を生体医学の用途又は梱包などのその他の用途に使用するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルポリマーは、生体医学材料産業において、脈管及び組織の移植用材料として幅広く使用されている。この種の材料は、多様な形態に容易に加工できることに加えて、組成に応じて様々な特性を備えることができる。これらの材料の定義的特徴は吸収・保水能であり、この特性はバルク材料内の親水基の存在によって左右される。
【0003】
先行技術において、放射線架橋ハイドロゲルが数多く存在する。この放射線架橋ハイドロゲルは、典型的には、天然ポリマー及び合成ポリマーの水溶液に放射線を照射して、ポリマー鎖を架橋させることによって調製される。放射線架橋ハイドロゲルは、医療分野において、医療用電極部品及び創傷被覆材として主に体外に使用されてきた。米国特許第5,354,790号は、当業界における放射線架橋ハイドロゲル調合物を開示している。米国特許第5,634,943号は、放射線架橋ハイドロゲル調合物の角膜インプラントとしての体内での利用を開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術の多くのハイドロゲルは、天然材料から調製されている。天然の物質から得られたハイドロゲルを医療用移植片に用いることは、天然の物質に特有のばらつき又は不純物が存在することに加えて、天然の物質から所望の化合物又は材料を抽出、単離及び精製するための手間及びコストを要するため問題がある。また、ハイドロゲル材料をヒト患者又は患畜の体内に植え込む多くの生体医学においては、ハイドロゲルが植え込み後に生物分解することが望まれる。しかし、放射線架橋によって形成された架橋結合は、生理学的条件下では一般的に非常に安定であり、生物分解しない。このため、放射線架橋ハイドロゲルの利点と生物分解の利点との両方が要求される場合は、前駆体ポリマー及びモノマーの少なくともいずれかに生物分解を受けやすい部位を導入する必要がある。
【0005】
したがって、生物分解可能で、かつ種々の用途に使用可能な合成放射線架橋ハイドロゲルが当業界において求められている。このような用途に、ハイドロゲルが血管裂孔の接合(sealing)、組織工学(tissue engineering)、組織増大(tissue augmentation)(美容形成術)、外科的シーラント、止血剤、ドラッグデリバリー、及び充填の材料として用いられるか、又はこれらと共に用いられる医療用移植片があるが、これに限定されない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイドロゲル材料は、合成ポリマー又はモノマーの水溶液に放射線を照射することによって調製され得、そのうちの少なくとも一部(又はその一部分)が生理学的条件下(例えば、ハイドロゲル材料がヒト患者又は患畜の体に植え込まれる場合など)で分解するものである。これによって、医療用途及び医療以外の用途に幅広く使用できる、放射線架橋され、生物分解可能な合成ハイドロゲルが製造される。これらのハイドロゲルを架橋によって生成可能な合成ポリマーの例として、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール−コ−プロピレングリコール)、ポリ(ビニルピロリジノン)、ポリ(ビニルアルコール)、アクリルポリマー、及びメタクリルポリマーが挙げられる。これらのハイドロゲルを架橋によって生成可能な合成モノマーの例として、不飽和(ethylenically unsaturated)炭化水素などのアクリルモノマー及びメタクリルモノマーが挙げられる。
【0007】
本発明によると、放射線架橋され、生物分解可能な合成ハイドロゲルがポリマー出発物質から調製されるときに、照射の前にポリマー出発物質の少なくとも一部に分解可能な部分(degradable moiety)又は領域が取り入れられる。これに対し、ハイドロゲルをモノマー出発物質から生成する場合は、照射時に分解可能な要素又は部分がハイドロゲルに導入又は取り入れられる。さらに、本発明によると、架橋ハイドロゲルを哺乳類の体内に植え込む場合、ハイドロゲルの生物分解によって生じた分解生成物が、著しい腎障害を招くことなく患者の腎臓から排泄されることを保証するために、ハイドロゲルの調合物又は構造が選択され得る。一般に、分子量が20,000〜30,000未満の分解生成物は著しい腎障害を招くことなく人体から排泄されるが、分子量が30,000を超える分解生成物は、排泄されないか、されたとしても著しい腎障害の原因となる。
【0008】
さらに、本発明によると、生物分解可能な放射線架橋PEGハイドロゲルが提供される。この生物分解可能な放射線架橋PEGハイドロゲルは、a)モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)(mPEG)ダイマーを生成するために、mPEGとサクシニッククロライド又はグルタリッククロライド等のジアシッドクロライド(diacid chloride)とを反応させる工程と、b)pHが約5のmPEGダイマー水溶液を提供するためにリン酸緩衝液又はその他の適した水性溶媒にmPEGダイマーを溶解させる工程と、c)この溶液にアルゴンの気泡を発生させるか、その他の適切な手段によって溶存酸素及び気体酸素の少なくともいずれかをmPEGダイマー溶液から除去する工程と、d)mPEGダイマーの分子間に所望の量の架橋結合を形成させるために、電子ビーム(EB)放射などの電離放射線をmPEGダイマー溶液に十分な強度で十分な時間にわたって照射する工程とからなる方法によって生成される。
【0009】
さらに、本発明によると、上記の放射線架橋ハイドロゲルを体に植え込む(注入、点滴注入、外科的植え込み又はそれ以外の植え込みのほか、カニューレ、カテーテル、ニードルなどの導入用機器による導入、又は留置など)ことにより、ヒト患者又は患畜の種々の疾患、状態、形成異常又は障害を治療するための方法が提供される。詳細には、本発明の放射線架橋ハイドロゲルは、皮下の、創傷、腫瘍、又は腫瘍に栄養している血管、臓器、迷走血管又は脈管構造、組織や解剖構造の間に存在する空間、又は外科的に形成した嚢或いは空間に植え込まれる。このように、本発明の放射線架橋ハイドロゲルは、止血、組織増大、塞栓形成、血管裂孔の閉鎖(closure)及びその他の医療用途に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
下記の詳細説明並びに実施例は、本発明の実施形態を例示することのみを意図したものであり、本発明の可能な実施形態を全て記載するものではない。
【0011】
下記に、本発明の生物分解可能な放射線架橋合成ハイドロゲルの調製方法の例と、特定の生体医学用途にこの種のハイドロゲルを使用するための方法とを示す。本発明の生物分解可能な放射線架橋合成ハイドロゲルはポリマー出発物質又はモノマー出発物質から調製することが可能である。下記に、この2つの工程の詳細な例を記載する。
(ポリマー出発物質からの生物分解可能な放射線架橋ハイドロゲルの調製)
(1.マクロマー溶液の調製)
まず、ポリマーの水溶液又はほぼ水溶液(nearly aquerous solution)を含むマクロマー溶液を調製する。マクロマーは、2つの別の領域(水溶性領域及び生物分解可能な領域)を有する。
【0012】
マクロマーは、生体適合性を備えた任意の水溶性ポリマーでよく、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール−コ−プロピレングリコール)、ポリ(ビニルピロリジノン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチルオキサゾリン)、アクリルポリマー、及びメタクリルポリマーなどである。好適な実施形態においては、生体適合性を備え、種々の分子量のものが入手可能であり、かつ分解可能な部分を共有結合するためのヒドロキシル基を有していることから、マクロマーはポリ(エチレングリコール)(PEG)が好ましい。モノメトキシPEG(mPEG)などの単官能マクロマーが特に好適である。マクロマーの分子量は、好適には約2,000〜約30,000、より好適には約2,000〜約15,000、最も好適には約2,000〜約5,000である。
【0013】
マクロマーには、生物分解を達成するための分解可能な部分が取り入れられる。分解可能な部分は、加水分解又は酵素反応によって分解され得る。分解の速度は、分解可能な領域又は部分の種類を選択することによって制御することが可能である。例えば、生物分解を達成する方法として、2つのマクロマー分子を加水分解を受け易い結合によって結合させる方法がある。利用できる加水分解可能な結合には、エステル結合、ペプチド結合、無水物結合、オルトエステル結合、ホスファジン結合、及びリン酸エステル結合がある。
【0014】
また、分解可能な領域は、グリコリド、ラクチド、ε−カプロラクトン、及びその他のヒドロキシ酸のポリマー又はオリゴマー、並びにその他の生物学的に分解可能なポリマーであって、副生成物が無毒なものを含み得る。好適なポリ(α−ヒドロキシ酸)は、ポリ(グリコール酸)、ポリ(DL−乳酸)、及びポリ(L−乳酸)である。その他の利用できる分解可能な領域に、ポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ホスファジン)、及びポリ(リン酸エステル)がある。また、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)、及びポリ(γ−ブチロラクトン)等のポリラクトンも有用である。
【0015】
別法として、酵素分解可能な領域を使用してもよい。組み込むことができる酵素分解可能な領域の例として、Leu−Gly−Pro−Ala(コラーゲナーゼによる分解を受け易い結合)或いはGly−Pro−Lys(プラスミンによる分解を受け易い結合)などのペプチド配列と、ウェスト(West)、プラット(Pratt)及びハッベル(Hubbell)、Protolytically Degradable Hydrogels、第23回生体材料学会(23rd Annual Meeting of the Society for Biomaterials)(1997)に開示されている酵素分解可能なその他のペプチド配列などがある。同文献の全ては、援用によってここに参照される。
【0016】
ひとたびマクロマーを合成したら、マクロマーの水溶液又はほぼ水溶液を調製する。この溶液は、水、食塩水、緩衝食塩水(リン酸塩、炭酸塩など)中に調製するか、又は上記の溶液と混合液に少量の薬学的に許容し得る溶媒(ジメチルスルホキシド、エタノールなど)との混合物中に調製してもよい。マクロマーの濃度は、好適には約5w/w%〜約30w/w%である。
【0017】
分解可能な部分が加水分解を受ける場合、随意的に、哺乳類の体内又は体表面への植え込みの前に、溶液のpHを調整して加水分解速度を低下させることができる。続いて、マクロマー溶液を気密容器に包装する。ハイドロゲルの形状は容器の形状にしたがうため、容器は入念に選択する必要がある。
(2.マクロマーの架橋形成)
次に、このマクロマー溶液に電離放射線を照射する。照射によって、ポリマー鎖に沿った部位においてフリーラジカルが生成され、このフリーラジカル部位でポリマー鎖の間に架橋が形成される。放射線源は、電子ビーム発生装置、γ線源、又はバンデグラーフ型発生装置であり得る。好適な放射線量は、約10kGy〜約50kGyである。厳密な照射線量は、分子量及びマクロマー溶液の濃度のほか、生成されるハイドロゲルの所望の機械的特性によって決まる。ハイドロゲルの機械的特性は、架橋密度によって調整することができる。架橋密度は、マクロマーの分子量、マクロマーの濃度及び照射線量を変更することによって最も良好に調整することができる。ほとんどのマクロマーでは、マクロマーの分子量、マクロマーの濃度及び照射線量が増大するにつれて架橋密度も増大し得る。しかし、PEGをベースとしたハイドロゲルでは、架橋密度はPEGの濃度に逆比例する。これらの3つの変量は、適応(indocation)ごとに最適化する必要がある。
(3.随意的な乾燥又は凍結乾燥、粉砕及び保管)
ハイドロゲルは、適宜、乾燥又は凍結乾燥、粉砕又は破砕して粒子化してもよい。好適には、ハイドロゲルは、長期安定性を向上させるために不活性雰囲気下で保管される。
(実施例1)
(mPEG−SA−mPEGマクロマーからの生物分解可能なPEGヒロドゲルの調製)
500mLの丸底フラスコに、PEG 5,000(ユニオンカーバイド[Union
Carbide]製)50gとトルエン(アルドリッチ[Aldrich]製)500 mLとを入れる。約100mLのトルエンを共沸蒸留して、この溶液から水を除去する。この溶液を約10℃まで冷却する。サクシニッククロライド(0.78g、アルドリッチ製)及びトリエチルアミン(1.00g、アルドリッチ製)を溶液に加える。この溶液を室温で48時間反応させて、析出物を生成させる。
【0018】
フリット釉漏斗を使用した真空濾過によって析出物を除去する。次に、この溶液を4℃のイソプロピルアルコール(アルドリッチ製)2Lに加えて、mPEGダイマーを析出させる。析出したmPEGダイマーをフリット釉漏斗(fritted funnel)を使用した真空濾過によって収集する。トルエンに溶解させた後に、イソプロピルアルコールによって析出させるという作業を3回繰り返す。最後に、mPEGダイマーを50℃で真空乾燥器内で乾燥させる。
【0019】
mPEGダイマー17.5gをpH5の50mMリン酸ナトリウム溶液82.5mgに溶解させて、マクロマー溶液を調製する。完全に溶解したら、この溶液を真空で脱気する。次に、マクロマー溶液を5ccシリンジ(ベクトンディキンソン[Becton−Dickinson]製)に入れて封入(capped)する。シリンジに30kGyの電子ビームを照射し(カリフォルニア州ヘイワード所在ニューテックインコーポレイテッド[Nutek,Inc.]による)、生物分解可能な放射線架橋合成ハイドロゲルを生成させる。
(本発明のハイドロゲルの用途)
上記の生物分解可能な放射線架橋ハイドロゲルの生体医学への用途を下記に記載する。しかし、このハイドロゲル材料は、下記に記載する用途以外にも、多くの医療用途及び医療以外の用途に使用することができる。
(血管裂孔の閉鎖)
血管裂孔の閉鎖においては、高い密着性と高い凝集性とを備えたハイドロゲルが要求される。動脈圧下で動脈裂孔を接合するためには、ハイドロゲルが皮下組織に堅固に接着する必要がある。さらに、ハイドロゲルは、動脈圧下で崩壊することのないように、十分な凝集強度を備えている必要がある。ハイドロゲルは術後1ヵ月以内に分解する必要がある。血管裂孔の接合用のハイドロゲルが備えていることが好ましい特徴に、押出適性(extrudability)、つまり、6フレンチ以下のルーメンを通して注入することができる点が挙げられる。血管裂孔の閉鎖の用途に好適なマクロマーは、分解可能な結合原子団(linking group)としてポリ(グリコリド)を有するmPEG 10,000のダイマーである。血管裂孔の閉鎖の用途に好適な調合物は、このマクロマーの約15w/w%溶液に約25kGyの放射線を照射して、流動性のある湿潤状態に維持したものである。
(塞栓形成)
腫瘍、動静脈瘻、外傷部位、医原性出血等の塞栓形成においては、本発明によるハイドロゲルは高い凝集性と低い接着性とを備えていることが要求される。ハイドロゲルは、生物分解に一定の期間(数年など)を要し、好適には動脈圧下で変形を受けない。ハイドロゲルの分解速度は、塞栓形成の適応に応じて個別に選択又は最適化され得る。このため、ハイドロゲルの分解速度は、生物分解可能なセグメントの種類と数とによって決まる。迅速な生物分解が要求される場合、好適な生物分解可能なセグメントとしてラクチド又はポリ(ラクチド)を使用し得る。比較的遅い生物分解が要求される場合は、好適な生物分解可能なセグメントとしてε−カプロラクトンを使用し得る。塞栓形成の多くの用途に好適なハイドロゲルに、サクシニッククロライドの結合原子団によって結合されたmPEG 5,000のダイマーがある。塞栓形成の用途に好適な調合物は、このマクロマーの約25w/w%溶液に約35kGyの放射線を照射したのちに、乾燥又は凍結乾燥して、直径約100〜900マイクロメートルの粒子にしたものである。
(外科用スポンジ又は止血用スポンジ)
外科用スポンジの場合、高い凝集性と多少の密着性とを備えたハイドロゲルが要求される。このハイドロゲルは、動脈圧下でも損傷及び変形を受けないものでなくてはならない。分解速度の高い外科用スポンジが好ましい。スポンジ用途に好適なマクロマーは、分解可能な結合原子団としてサクシニッククロライドを有するmPEG 5,000のダイマーである。塞栓形成の用途に好適な調合物は、このマクロマーの約20w/w%溶液に約30kGyの放射線を照射して、所望の厚さ(例えば厚さ約0.5cm)のシート状に乾燥させたものである。このシートを切断して、所望の寸法及び厚みをの少なくともいずれかを有するスポンジを作製することができる。
(外科的シーラント)
外科的シーラントの場合、本発明のハイドロゲルは高い密着性と高い凝集性とを備えていることが要求される。このような外科的シーラントは、漏れのある肺組織の修復、血管内グラフトの内部漏出の接合、縫合箇所又はステープル留め箇所の周囲からの漏出の封止を目的として使用し得る。このような用途においては、液体の漏出を防止するために、ハイドロゲルは堅固に組織に密着する必要がある。さらに、このハイドロゲルは、負荷下で崩壊することのないように、十分な凝集強度を備えている必要がある。ハイドロゲルは術後1ヵ月以内に分解する必要がある。外科的シーラントの用途に好適なマクロマーは、分解可能な結合原子団としてポリ(グリコリド)を有するmPEG 10,000のダイマーである。外科的シーラントの用途に好適な調合物は、このマクロマーの約15w/w%溶液に約25kGyの放射線を照射して、所望の組織表面に使用できるように流動性のある湿潤状態に維持したものである。
(流動性止血剤)
流動性を備えた止血剤においては、本発明のハイドロゲルは、高い密着性と高い凝集性とを備えていることが望まれる。血液の漏出を防止するために、ハイドロゲルは組織に堅固に密着する必要がある。さらに、負荷下で崩壊することのないように、十分な凝集強度を備えている必要がある。
【0020】
止血を促すために、随意的にハイドロゲルにトロンビンを混入してもよい。ハイドロゲルは術後1ヵ月以内に分解する必要がある。止血剤の用途に好適なマクロマーは、分解可能な結合原子団としてポリ(グリコリド)を有するmPEG 10,000のダイマーである。止血剤の用途に好適な調合物は、マクロマーの約15w/w%溶液に約25kGyの放射線を照射して、流動性のある湿潤状態に維持したものである。
(一時的組織増大)
組織増大においては、本発明の生物分解可能なハイドロゲルは、凝集性が高く、密着性のないことが要求される。
【0021】
このような用途に使用されるハイドロゲルは、好ましくは約1週間から1年の間、損傷も受けず生物分解もされず、好適には植え込み部位から移動しない。組織増大の用途では、低い分解速度が望まれる。組織増大の用途に好適なマクロマーは、分解可能な結合原子団としてサクシニッククロライドを有するmPEG 5,000のダイマーである。塞栓形成の用途に好適な調合物は、約35kGyの放射線を照射したマクロマーの約20w/w%溶液である。このような一時的な組織増大の用途の例として、現在はコラーゲン注入が用いられている美容外科術による口唇の増大、皺取り術がある。
(組織工学)
組織工学においては、凝集性が高く、密着性のないハイドロゲルが要求される。ハイドロゲルは損傷を受けず、移動もしない必要がある。組織工学においては、適度な分解速度が望まれる。遺伝子治療用のベクター、及び基質タンパク質又はペプチドの少なくともいずれかを組み込むことによって、ハイドロゲル基質の作用を高めてもよい。組織増大の用途に好適なマクロマーは、分解可能な結合原子団としてポリ(ラクチド)を有するmPEG 5,000のダイマーである。塞栓形成の用途に好適な調合物は、約35kGyの放射線を照射したマクロマーの約20w/w%溶液である。
(ドラッグデリバリー)
ドラッグデリバリーにおいては、高い凝集性と適度な接着性とを備えたハイドロゲルが望まれる。ハイドロゲルは、損傷を受けることなく、投与された部位に滞留する必要がある。ハイドロゲルの分解速度は、送達する薬剤に応じて変わり得る。ドラッグデリバリーに好適なマクロマーは、分解可能な結合原子団としてサクシニッククロライドを有するmPEG 5,000のダイマーである。塞栓形成の用途に好適な調合物は、約30kGyの放射線を照射したマクロマーの約20w/w%溶液である。
【0022】
上記の詳細説明は、本発明の実施形態を例示することのみを意図したものであり、本発明の可能な実施形態を全て記載するものではない。本発明の変更例、均等物及び代替例は、本発明の意図した精神及び範囲を逸脱しない限り本発明に含まれる。

Claims (29)

  1. ヒト患者又は患畜の疾患、変形又は障害を治療するための方法であって、
    (A)ある量の生体適合性親水性ポリマーを提供する工程と、
    (B)前記ポリマーの架橋形成を生じさせるために前記ポリマーに放射線を照射する工程と、
    (C)前記患者又は患畜の体に前記架橋ポリマーを導入する工程とからなる方法。
  2. 前記(A)工程は合成親水性ポリマーを提供する工程からなる、請求項1に記載の方法。
  3. 前記架橋ポリマーは生物分解可能である、請求項1に記載の方法。
  4. 前記架橋ポリマーは生物分解して、前記患者又は患畜の腎臓に実質的な不可逆的損傷を生じることなく腎臓クリアランスを受けるために十分低い分子量のポリマー断片が生成される、請求項3に記載の方法。
  5. 前記(A)工程において提供される前記ポリマーは、生物分解可能なダイマー結合を有するダイマーを生成するために前記(B)工程の前にダイマー化され、前記(B)工程は、前記ダイマー分子の架橋形成を生じさせるために十分な量の放射線を前記ダイマーに照射する工程を含む、請求項3に記載の方法。
  6. 前記(A)工程において提供される前記ポリマーは重合した多価アルコールである、請求項1に記載の方法。
  7. 前記(A)工程において提供される前記ポリマーはポリ(エチレングリコール)である、請求項6に記載の方法。
  8. 前記(A)工程において提供される前記ポリマーはポリ(プロピレングリコール)を含む、請求項6に記載の方法。
  9. 生物分解可能なダイマー結合を有するポリ(エチレングリコール)ダイマーを生成するために、前記(A)工程において提供される前記ポリ(エチレングリコール)をダイマー化する工程をさらに含み、前記(B)工程は前記ポリ(エチレングリコール)ダイマーに放射線を照射する工程を含む、請求項7に記載の方法。
  10. 前記(A)工程において提供される前記ポリ(エチレングリコール)はモノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)を含み、前記モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)は前記(B)工程の前に、
    i.モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)ダイマーを生成するために、前記モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)とジアシッドクロライドとを反応させる工程と、
    ii.前記モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)ダイマーを含有するpH約5の水溶液を調製する工程と、
    iii.前記モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)ダイマー水溶液から溶存酸素を除去する工程と、
    iv.前記モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)ダイマー分子を架橋させるために前記モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)ダイマー溶液に放射線を照射する工程とによってダイマー化される、請求項9に記載の方法。
  11. 前記工程iは、
    (a)前記モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)を溶媒に溶解させる工程と、
    (b)前記ダイマー化反応を進めるために、前記ジアシッドクロライドと塩素イオン捕捉剤とを添加する工程と、
    (c)前記モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)ダイマーを析出させる工程とによって実行される、請求項10に記載の方法。
  12. モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)を溶解させる前記溶媒はトルエンである、請求項11に記載の方法。
  13. 前記ジアシッドクロライド及び前記塩素イオン捕捉剤の添加の前に前記トルエンの一部を留出させる工程をさらに有する、請求項12に記載の方法。
  14. 前記ジアシッドクロライドはサクシニッククロライドである、請求項11に記載の方法。
  15. 前記ジアシッドクロライドはグルタリッククロライドである、請求項11に記載の方法。
  16. 前記塩素イオン捕捉剤はトリエチルアミンである、請求項13に記載の方法。
  17. 前記工程iiはpH約5のリン酸緩衝液に前記モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)を溶解させることによって実行される、請求項8に記載の方法。
  18. モノメトキシ−ポリ(エチレングリコール)17.5gあたりpH約5の50mMリン酸緩衝液約82.5gに溶解される、請求項17に記載の方法。
  19. 前記工程iiiは、前記溶液中のほぼ全ての溶存酸素を除去するために十分な時間にわたって前記溶液にアルゴンの気泡を発生させることによって実施される、請求項8に記載の方法。
  20. 前記工程ivは、密閉した放射線透過性容器に前記溶液を入れる工程と、続いて前記溶液に放射線を照射するために前記容器に放射線を照射する工程とからなる、請求項8に記載の方法。
  21. 前記容器はガラス製のシリンジである、請求項20に記載の方法。
  22. 前記工程ivは前記溶液に電子ビーム放射を照射する工程を含む、請求項8に記載の方法。
  23. 前記工程ivは前記溶液に30kGyの電子ビーム放射を照射する工程を含む、請求項8に記載の方法。
  24. 前記方法は創傷の閉鎖を目的として実施され、かつ前記(C)工程はある量の前記放射線架橋ハイドロゲルを創傷に配置する工程を含む、請求項1に記載の方法。
  25. 前記方法は内腔を有する血管又は外科的導管の閉塞を目的として実施され、かつ前記(C)工程は血管又は外科的導管内の内腔を通る流れを遮断するために前記内腔にある量の前記放射線架橋ハイドロゲルを配置する工程を含む、請求項1に記載の方法。
  26. 前記方法は体液の吸収を目的として実施され、かつ前記(C)工程は体液の吸収が所望される前記患者又は患畜の体の部位にある量の前記放射線架橋ハイドロゲルを配置する工程を含む、請求項1に記載の方法。
  27. 前記方法は接合を目的として実施され、かつ前記(C)工程は接合が所望される前記患者又は患畜の体の部位にある量の前記放射線架橋ハイドロゲルを配置する工程を含む、請求項1に記載の方法。
  28. 前記方法は止血を目的として実施され、かつ前記(C)工程は出血部位を止血するために前記出血部位にある量の前記放射線架橋ハイドロゲルを配置する工程を含む、請求項1に記載の方法。
  29. 前記方法は組織増大を目的として実施され、かつ前記(C)工程は組織増大が所望される前記患者又は患畜の体の部分に前記放射線架橋ハイドロゲルを配置する工程を含む、請求項1に記載の方法。
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