JP2004520040A - 細胞からタンパク質を抽出するための方法および組成物 - Google Patents

細胞からタンパク質を抽出するための方法および組成物 Download PDF

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Abstract

本発明は、タンパク質(組換え体または他の形態)を細胞から放出させる方法に関する。本発明の方法は、目的のタンパク質を含有する宿主細胞を、1種類以上の界面活性剤および1種類以上の還元剤を含む溶液と接触させる工程を含む。本発明の方法は、組換え産物の大規模製造に特に好適である。

Description

【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内タンパク質および他の分子を細胞から回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
目的とするタンパク質または他の分子を含有する、生産宿主として増殖させた細胞を溶解して、細胞内に産生された何らかの所望する生成物を回収することは望ましい。そのような細胞を殺し、溶解する従来の方法には、熱の使用(米国特許第4,601,986号、Wegnerら)、浸透圧の使用(米国特許第4,299,858号、Aubertら)、細胞壁または細胞膜を破壊する酵素の使用(米国特許第3,816,260号、Sugiyama;米国特許第3,890,198号、Kobayashiら;米国特許第3,917,510号、Kitamuraら)、および、例えば、高圧でのホモジネート化による細胞壁の機械的破壊の使用が含まれる。上記特許の開示は参照して本明細書中に組み込まれる。
【0003】
また、様々な界面活性剤が、細胞壁を溶解するために用いられている。例えば、酵母タンパク質抽出試薬(Y−PER(登録商標))がPierce Chemical Companyによって販売されているが、これには、目的とするタンパク質を傷つけない穏やかな手段の細胞溶解を提供するための界面活性剤が含まれる。しかし、Y−PER(登録商標)は、タンパク質の大規模製造のために有用な試薬としてではなく、実験室試薬として使用されるためのものであり、従って高価である。これらの理由から、Y−PER(登録商標)は、宿主細胞から組換えタンパク質を大規模に製造するための有用な試薬としては受け入れられていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
所望するタンパク質を傷つけることなく、最小限のプロセス工程を用いて宿主細胞からタンパク質を容易に放出させるために使用することができる方法がこの分野では求められている。細胞溶解方法は、所望する生成物の変性を直接的または間接的に生じさせてはならず、その後の処理条件および大規模製造と一致しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、タンパク質(組換え体または他の形態)を細胞から放出させる方法に関する。本発明の方法は、目的とするタンパク質を含有する宿主細胞を、1種類以上の界面活性剤および1種類以上の還元剤を含む溶液と接触させる工程を伴う。1種類以上の還元剤の添加は、タンパク質をその本来の立体配座で回収することを容易にする。本発明の方法は、組換え産物の大規模製造に特に好適である。本発明の方法は、下記の4つの基本的な工程を含む:許容環境を達成するために全体的な溶液条件を調節すること、細胞とある種の荷電修飾炭化水素との接触前またはその接触中またはその接触後のいずれかにおいて細胞を還元剤と接触させること、そして最後に、配合またはさらなる処理のために好適な画分を得るために抽出物を清澄化すること。典型的には、還元剤および界面活性剤は任意の順序で連続して加えられ、これにより還元剤および界面活性剤に対する細胞の同時暴露がもたらされる。
【0006】
1つの具体的な実施態様において、1種類以上の界面活性剤は、様々な長さの炭化水素鎖に結合した両親媒性の荷電アミンまたは荷電アミンオキシドである。好ましい実施態様において、使用される1種類以上の界面活性剤は、トリブチルホスファート、ジメチルデシルアミン、ジメチルトリデシルアミン、ジメチルウンデシルアミン、ジメチルジデシルアミン、ジメチルテトラデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルデシルアミンオキシド、ジメチルウンデシルアミンオキシド、ジメチルジデシルアミンオキシド、ジメチルテトラデシルアミンオキシドおよびジメチルトリデシルアミンオキシドからなる群から選択される。好ましくは、界面活性剤はジメチルトリデシルアミンではない。
【0007】
界面活性剤は、0.01%からその溶解度限界までの範囲の濃度で使用することができる。好ましくは、界面活性剤の濃度は0.05%から5%の範囲であり、または0.1%から2%の範囲であり、または溶液全体の約0.5%である。緩衝液に懸濁された細胞に加えられるとき、界面活性剤は、好ましくは、細胞が溶解されるときの最終濃度よりも高い濃度で存在する。好ましくは、界面活性剤は、少なくとも2倍または5倍または10倍または100倍高い濃度で存在する。
【0008】
1つの具体的な実施態様において、1種類以上の還元剤は、ジスルフィド結合を還元し、かつ/またはスルフヒドリル残基を還元形態で維持する還元剤である。そのような還元剤(1種類または2種類以上)はどれも使用することができる。好ましい実施態様において、使用される1種類以上の還元剤は、ジチオトレイトール(DTT)、ジチオエリチリトール(DTE)、システイン(Cys)およびトリス2−カルボキシエチルホスフィン(TCEP)からなる群から選択される。
【0009】
還元剤は、0.1mMから100mMの範囲の濃度、または1mMから25mMの範囲の濃度、または2mMから10mMの範囲の濃度、または約5mMの濃度で使用することができる。緩衝液に懸濁された細胞に加えられるとき、還元剤は、好ましくは、細胞が溶解されるときの最終濃度よりも高い濃度で存在する。好ましくは、界面活性剤は、少なくとも2倍または5倍または10倍または100倍高い濃度で存在する。
【0010】
1種類以上の界面活性剤および還元剤に加えて、好ましい実施態様では、細胞はまたグリセロールとも接触させられる。好ましくは、グリセロールの濃度は少なくとも0.6%であり、あるいは0.6%から20%の範囲、または0.6%から15%の範囲、または0.6%から12%の範囲、または0.6%から6%の範囲、または0.6%から3%の範囲、または0.6%から1%の範囲である。
【0011】
溶液のpHはpH2からpH12の範囲にすることができる。好ましくは、溶液はpH5.0からpH8.0までの範囲のpHである。より好ましくは、pHは、pH5.5からpH7.4の範囲、またはpH6からpH7.4の範囲、またはpH7.0からpH7.4の範囲であり、あるいは約pH7.3である。
【0012】
本発明の溶液を用いた細胞からのタンパク質の回収は約2℃から約50℃の温度で行うことができる。好ましくは、温度は、約2℃から約30℃、または約2℃から約20℃、または約2℃から約10℃、または約3℃から約10℃、または約4℃、または約25℃、または室温である。
【0013】
「宿主細胞」は、目的とするタンパク質を含有する細胞である。「目的とするタンパク質」は、宿主細胞に存在する任意のタンパク質で、宿主細胞から放出させ、場合によっては、続いて単離または精製することが望まれる任意のタンパク質である。好ましくは、目的とするタンパク質は組換えタンパク質である。好ましい実施態様において、目的とするタンパク質は分子量が100kD未満である。さらなる好ましい実施態様において、目的とするタンパク質は分子量が5kDから75kDであり、好ましくは約50kDである。宿主細胞は任意のタイプであってもよく、好ましくは、哺乳動物細胞、細菌細胞、酵母細胞、菌類細胞、植物細胞、鳥類細胞または爬虫類細胞である。最も好ましくは、宿主細胞は酵母細胞である。1つの具体的な実施態様において、酵母細胞はピキア・パストリス(Pichia pastoris)の種である。
【0014】
タンパク質を宿主細胞から放出させることに加えて、本発明の組成物は、核酸、脂質、ビタミン、小分子、および細胞または細胞質またはオルガネラに由来する他の分子または分子複合体を含む他の分子を宿主細胞から放出させるために使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の様々な特徴は、添付された図面と一緒に読んだとき、下記の説明からより完全に理解することができる。
【0016】
本発明は、タンパク質(組換え体または他の形態)を細胞から放出させる方法に関する。本発明の方法は下記の4つの基本的な工程を含む:許容環境を達成するために全体的な溶液条件を調節すること、細胞とある種の荷電修飾炭化水素との接触前またはその接触中またはその接触後のいずれかにおいて細胞を還元剤と接触させること、そして最後に、配合またはさらなる処理のために好適な画分を得るための抽出物を清澄化すること。
【0017】
具体的な実施態様において、溶液の状態は、1)細胞性画分を沈降させ、その後、再懸濁することによって、2)ろ過法を使用する溶液交換によって、3)存在する溶液状態を直接的に改変することによって、または4)溶媒交換の他の手段によって調節される。適当な溶液に懸濁された細胞は、その後、細胞膜の破壊を生じさせ、従って、細胞の中身を、細胞壁を通って細胞外の媒体中に拡散させることができる、ある種の両親媒性分子と接触させられる。その後、細胞破片が、沈降、凝集、ろ過、クロマトグラフィーまたは他の分離法によって可溶性抽出物から分離される。
【0018】
好ましい実施態様において、発酵プロセスから直接得られる酵母細胞(例えば、ピキア・パストリス)が濃縮され、その後、微孔性メンブランを使用するタンジェンシャルフローろ過によって増殖培地から特定の緩衝化溶液に交換される。濃縮され、溶液が調節された細胞は、その後、細胞タイプおよび溶液状態に依存して、様々な長さのアルキル鎖を有するジメチルアミン化合物および/またはジメチルアミンオキシド化合物と接触させられる。さらに、溶液は、抽出プロセスを強化する界面活性剤(トリトンX−100など)またはポリオール(グリセロールなど)を含むことができる。細胞内分子の抽出物は、その後、例えば、ケイソウ土をプレートフィルタープレスまたはフレームフィルタープレスにおいて使用する縦に長いろ過によって、残留する不溶性スラリーから分離される。
【0019】
溶液の許容性は、pH、温度、イオン強度、時間、細胞濃度、および細胞破壊または分子安定性の有効性または速度論を高めるある種の成分の添加に依存する。溶液のpHは、pH3からpH11に、より好ましくはpH5からpH8に、または約pH6.5〜8.0にすることができる。温度は約2℃から50℃の範囲にすることができ、またはより好ましくは2℃から30℃の範囲にすることができる。イオン強度は、所望する標的分子の性質に依存して、低張性の状態から高張性の状態まで変化させることができ、最も好ましくは0.001mMから3000mMの塩化ナトリウムまたは他の塩にすることができる。好ましい実施態様において、イオン強度は、350mM未満、250mM未満、150mM未満、100mM未満、50mM未満、そして10mM未満であるが、5mM、1mM、0.01mMまたは0.001mMよりも低くならない。
【0020】
「宿主細胞」は、目的とするタンパク質を含有する細胞である。「目的とするタンパク質」は、宿主細胞に存在する任意のタンパク質で、宿主細胞から放出させ、場合によっては、続いて単離または精製することが望まれる任意のタンパク質である。好ましくは、目的とするタンパク質は組換えタンパク質である。目的とするタンパク質が組換えタンパク質であるとき、組換えタンパク質は、この分野で知られている任意の方法によって製造することができる。典型的には、所望する組換えタンパク質をコードする遺伝子が組換え分子に挿入される。遺伝子を構成するポリヌクレオチドは、この分野で知られている標準的な手法によって、例えば、クローン化されたDNA(DNA「ライブラリー」など)、化学合成、cDNAクローニングなどから得ることができ、あるいはSambrook,J.他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989)に記載されるように、ゲノムDNAまたはそのフラグメントを所望する細胞からクローニングすることによって得ることができる。
【0021】
組換えタンパク質をコードする遺伝子が単離されると、遺伝子は適切なクローニングベクターに挿入される。この分野で知られている非常に多くのベクター−宿主系を使用することができる。可能なベクターには、ベクター系が、使用される宿主細胞と適合し得るならば、プラスミドまたは改変ウイルスが含まれるが、これらに限定されない。使用され得るベクターには、例えば、大腸菌クローニングベクター、λ誘導体などのバクテリオファージ、pBR322誘導体またはpUCプラスミド誘導体などのプラスミドが含まれる。クローニングベクターは、形質転換、トランスフェクション、感染、エレクトロポレーションなどによって宿主細胞に導入することができ、その結果、遺伝子配列の多くのコピーがもたらされる。
【0022】
遺伝子を含むクローニングベクターによる宿主細胞の形質転換により、遺伝子の多数のコピーを生じさせることが可能になる。従って、遺伝子を、形質転換体を増殖させ、クローニングベクターを形質転換体から単離し、必要なときには、挿入された遺伝子を単離されたクローニングベクターから回収することによって多量に得ることができる。十分なコピー数の遺伝子配列が得られると、組換えタンパク質をコードする遺伝子あるいはその機能的に活性なフラグメントまたは他の誘導体を適切な組換え分子に挿入することができる。組換え分子は、組換えタンパク質の挿入されたタンパク質コード配列を転写および翻訳させるための必要なエレメントを含有するポリヌクレオチド発現ベクターである。好ましくは、発現ベクターまたは複製起点を含む。必要な転写シグナルおよび翻訳シグナルもまた、天然の遺伝子および/またはその隣接領域によって供給され得る。
【0023】
組換え分子が調製されると、組換え分子は、増殖および分裂してクローン体を産生する受容可能な宿主細胞に挿入される。様々な宿主細胞−ベクター系を、組換えタンパク質を発現させるために利用することができる。好適な宿主細胞−ベクター系には、例えば、細菌発現系、ワクシニアウイルスまたはアデノウイルスなどのウイルスに感染させられる哺乳動物細胞発現系、バキュロウイルスなどのウイルスに感染させられる昆虫細胞系、酵母ベクターを含有する酵母などの微生物、およびバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNAで形質転換される細菌が含まれる。
【0024】
目的とする遺伝子を含有する組換え分子は、所望するプラスミドDNAまたは特定のmRNAのPCR増幅、核酸ハイブリダイゼーション、マーカー遺伝子機能の存在の有無、および挿入された配列の発現によって確認することができる。
【0025】
目的とする組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞(例えば、大腸菌)を、直接、反応容器に加えることができる。組換えタンパク質を精製および回収する場合、宿主細胞は、全細胞の濃縮された懸濁物を得るために濃縮される。宿主細胞は、この分野で知られている任意の方法により濃縮することができる。例えば、宿主細胞を遠心分離することができる。遠心分離により、水が宿主細胞から除かれ、細胞が濃縮され、これにより細胞ペーストが得られる。遠心分離によりまた、宿主細胞が培養培地から分離される。宿主細胞は任意のタイプであってもよいが、好ましくは、哺乳動物細胞、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞、鳥類細胞または爬虫類細胞である。最も好ましくは、宿主細胞は酵母細胞である。
【0026】
濃縮された細胞懸濁物が得られると、細胞をタンパク質回収溶液と接触させる。タンパク質回収溶液は1種類以上の界面活性剤および1種類以上の還元剤を含む。1つの具体的な実施態様において、1種類以上の界面活性剤は、様々な長さの炭化水素鎖に結合した両親媒性の荷電アミンまたは荷電アミンオキシドである。好ましい実施態様において、使用される1種類以上の界面活性剤は、トリブチルホスファート、ジメチルデシルアミン、ジメチルトリデシルアミン、ジメチルウンデシルアミン、ジメチルジデシルアミン、ジメチルテトラデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルデシルアミンオキシド、ジメチルウンデシルアミンオキシド、ジメチルジデシルアミンオキシド、ジメチルテトラデシルアミンオキシド、およびジメチルトリデシルアミンオキシドからなる群から選択される。好ましくは、界面活性剤はジメチルトリデシルアミンではない。界面活性剤は、0.01%からその溶解度限界までの範囲の濃度で使用することができる。好ましくは、界面活性剤の濃度は0.05%から5%の範囲であり、または0.1%から2%の範囲であり、あるいは溶液全体の約0.5%または1%である。好ましくは、界面活性剤は、宿主細胞へのその添加直前において、少なくとも90%の純度、または少なくとも95%の純度、または少なくとも99%の純度である。好ましい実施態様において、添加される界面活性剤は、細胞懸濁物における添加および希釈の後の界面活性剤の最終濃度の少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも200倍である。
【0027】
1つの具体的な実施態様において、1種類以上の還元剤は、ジスルフィド結合を還元し、かつ/またはスルフヒドリル残基を還元形態で維持する還元剤である。そのような還元剤(1種類または2種類以上)はどれも使用することができる。好ましい実施態様において、使用される1種類以上の還元剤は、ジチオトレイトール(DTT)、ジチオエリチリトール(DTE)、システイン(Cys)およびトリス2−カルボキシエチルホスフィン(TCEP)からなる群から選択される。
【0028】
還元剤は、0.1mMから100mMの範囲の濃度、または1mMから25mMの範囲の濃度、または2mMから10mMの範囲の濃度、または約5mMの濃度で使用することができる。緩衝液に懸濁された細胞に加えられるとき、還元剤は、好ましくは、細胞が溶解されるときの最終濃度よりも高い濃度で存在する。好ましくは、界面活性剤は、少なくとも2倍、5倍、10倍または100倍高い濃度で存在する。還元剤の有効性は、エルマン(Ellman)試薬を使用して結合していないスルフヒドリル基を滴定することによって決定することができる。好ましくは、還元剤はジチオトレイトールである。好ましくは、還元剤の濃度は5mMである。好ましくは、還元剤は、界面活性剤が添加される直前の抽出緩衝液に加えられ、その後、4℃で12時間インキュベーションされる。しかし、還元剤は界面活性剤の前または界面活性剤の後に加えることができる。好ましくは、還元剤は界面活性剤の添加前に加えられる。別の実施態様において、界面活性剤および還元剤は一緒に加えられる。別の実施態様において、界面活性剤は還元剤の前に加えられる。
【0029】
1種類以上の界面活性剤および還元剤に加えて、好ましい実施態様では、細胞はまたグリセロールとも接触させられる。好ましくは、グリセロールの濃度は少なくとも0.6%であり、あるいは0.6%から20%の範囲、または0.6%から12%の範囲、または0.6%から6%の範囲、または0.6%から3%の範囲、または0.6%から1%の範囲である。好ましくは、グリセロールは、宿主細胞に添加される直前において、少なくとも90%の純度、少なくとも95%の純度、または少なくとも99%の純度である。好ましい実施態様において、添加されるグリセロールは、細胞懸濁物における添加および希釈の後のグリセロールの最終濃度の少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも166倍である。
【0030】
好ましくは、溶液はpH5.0からpH8.0までの範囲のpHである。より好ましくは、pHは、pH5.5からpH7.4の範囲、またはpH6からpH7.4の範囲、またはpH7.0からpH7.4の範囲、または約pH7.3である。
【0031】
本発明の溶液を用いた細胞からの目的とするタンパク質の回収は約2℃から約50℃の温度で行うことができる。好ましくは、温度は、約2℃から約30℃、または2℃から約20℃、または2℃から約10℃、または約4℃、または約25℃、または室温である。
【0032】
細胞1グラムあたり使用される本発明の界面活性剤と還元剤との溶液の量は大きく変化させることができ、例えば、細胞1グラムあたり0.5mLの界面活性剤と還元剤との溶液から、1グラムあたり20mLまでのいずれでも使用することができる。好ましくは、細胞ペースト1グラムあたり2.5mLから5.0mLの界面活性剤と還元剤との溶液が使用される。
【0033】
細胞をタンパク質回収溶液と接触させた後の細胞の溶解を可能にする時間の長さは当業者によって決定することができる。例えば、細胞は、タンパク質回収溶液の存在下、40分間から72時間まで、好ましくは、90分間、150分間、8時間または16時間から30時間にわたってインキュベーションすることができる。それらよりも短い時間または長い時間もまた適する。一般に、時間の長さは、界面活性剤の濃度が低いときには増大させることができ、界面活性剤の量が大きいときには減少させることができる。例えば、1%の界面活性剤濃度を有するタンパク質回収溶液は40分後に効果的であり、これに対して、0.1%の界面活性剤濃度を有するタンパク質回収溶液は150分間またはそれ以上にわたってインキュベーションすべきである。タンパク質の最適な回収のためには、必要な時間の正確な長さは、媒体に放出される目的とするタンパク質の濃度が経時的に測定される、所与の界面活性剤濃度における簡単な経時変化実験によって決定することができる。ある時点の後では、放出されるタンパク質のさらなる増大が認められなくなる。この時点が、選ばれた界面活性剤濃度に関して、細胞の溶解に必要な最適な時間である。
【0034】
細胞を溶解した後、溶液を遠心分離して、細胞破片をペレットで集め、これにより、放出された目的とするタンパク質を上清に残すことができる。上清は、目的とするタンパク質をさらに単離および精製するために、当業者に知られている方法により処理することができる。目的とするタンパク質をさらに単離および精製するために用いられる方法は、目的とする特定のタンパク質の特性および性質に非常に依存しており、それぞれのタンパク質について決定しなければならない。1つの具体的な実施態様において、目的とするタンパク質は反応活性なスルフヒドリル基を有する。1つの具体的な実施態様において、目的とするタンパク質は、その天然の立体配座において1つ以上のジスルフィド結合を有している。1つの具体的な実施態様において、目的とするタンパク質は、例えば、結合していないスルフヒドリル基を有する還元された形態で精製される。1つの具体的な実施態様において、還元された形態で単離されたタンパク質は、精製後、その本来の酸化型の立体配座に折り畳まれる。タンパク質を折り畳む方法に関しては、Chaudhuri JB、組換えタンパク質の折り畳み:プロセス方針および新規な取り組み、Ann NY Acad Sci、1994(5月2日)、721:374〜85を参照のこと(これは参照して本明細書中に組み込まれる)。
【0035】
好ましい実施態様において、本発明の方法は、生物分子を回収する大規模なプロセスに適用される。大規模なプロセスは、多量の宿主細胞バイオマスを伴うプロセスである。好ましい実施態様において、本発明の方法により1回の回分処理で処理されるバイオマスの量は、1kgから50,000kg、1000kgから20,000kg、5000kgから10,000kg、または約40kg、100kg、1000kgまたは10,000kgである。別の実施態様において、バイオマスの量は1kgを越える、または40kgを越える、100kgを越える、1000kgを越える、5000kgを越える、10,000kgを越えるまたは20,000kgを越える。宿主細胞は、一般に、プロセスの開始時には発酵液中に存在する。宿主細胞は、例えば、遠心分離またはタンジェンシャルフローろ過によって発酵液中で濃縮され、その後、発酵液は、60mMリン酸ナトリウム/50mM NaCl/5mM EDTA(pH7.3)(緩衝液)で交換される。交換は、当業者に知られている任意の手段によって、例えば、0.45μmのメンブランを使用するタンジェンシャルフローろ過によって行うことができる。濃縮されたバイオマスは、液体がろ過プロセスによってバイオマスから除かれた速度と等しい速度で緩衝液をバイオマスに加えながら、一定の容量で維持することができる。50%を越える、60%を越える、70%を越える、80%を越える、90%を越える、95%、95%を越えるまたは約100%の緩衝液交換を使用することができる。好ましくは、交換は90%またはそれ以上である。例えば、約3kgの細胞を含有する7.6リットルの発酵液の場合、約27Lの緩衝液を上記のように処理することができ、その結果、95%を越える緩衝液交換が得られる。濃縮および緩衝液交換が行われたバイオマスは、その後、還元剤、界面活性剤および他の化合物(例えば、グリセロールおよびテトラデシルジメチルアミン)を、それぞれ、5mM、6.0%の最終重量および0.5%の最終重量の濃度に添加することによって改変される。添加される化合物は別個に加えることができ、または一緒に混合されて加えることができる。上記に示されているように、他の濃度もまた使用することができる。その後、混合物は撹拌しながらインキュベーションすることができる。このインキュベーションは、任意の適切な時間および温度で行うことができ、例えば19℃で14.5時間行うことができる。任意の所与の抽出に対する還元剤、界面活性剤の実際の濃度、そして実際の時間および温度は、当業者によって容易に決定することができる。インキュベーション後、混合物の可溶性画分は、細胞膜および細胞質に以前には束縛されていた多量のタンパク質、核酸、脂質および他の分子を含有する。混合物は、例えば、4000×gで30分間、遠心分離することができる。その後、上清画分を、例えば、1.2μmおよび0.2μmのフィルターで連続してろ過することによってさらに処理することができる。
【0036】
下記の実施例は、本発明の方法の好ましい実施態様を例示しており、本明細書および請求項を決して限定するものではない。
【実施例】
【0037】
1.組換え産物の大規模放出
湿重量比で24.4%のバイオマスを含有し、30.2mS/cmの導電率および4.86のpHを有するピキア・パストリス(Pichia pastoris)発酵液(12.6kg)を7.6Lに濃縮した。濃縮されたバイオマスを、その後、0.45mの0.45μmメンブランを使用するタンジェンシャルフローろ過によって60mMリン酸ナトリウム/50mM NaCl/5mM EDTA(pH7.3)(緩衝液)に交換した。濃縮されたバイオマスを、液体がろ過プロセスによってバイオマスから除かれた速度と等しい速度で緩衝液をバイオマスに加えながら、7.6Lで維持した。約27Lの緩衝液を上記のように処理し、95%を越える緩衝液交換が得られた。濃縮および緩衝液交換が行われたバイオマスを、その後、グリセロールおよびテトラデシルジメチルアミンをそれぞれ最終的には6.0重量パーセントおよび0.5重量パーセントの濃度に別々に加えることによって改変した。混合物を、その後、撹拌下、19℃で14.5時間インキュベーションした。この時点で、混合物の可溶性画分は、細胞膜および細胞質に以前には束縛されていた多量のタンパク質、核酸、脂質および他の分子を含有していた。その後、混合物を4000×gで30分間遠心分離した。その後、上清画分を、1.2μmおよび0.2μmのフィルターで連続してろ過することによってさらに処理した。得られた清澄化抽出液は、約15g/Lの総タンパク質および0.8g/Lの目的とする特定の異種タンパク質を含有していた。清澄化された抽出液はまた、多量のリボ核酸、デオキシリボ核酸および細胞由来の脂質を含有していた。
【0038】
2.種々の温度における組換え産物の経時的抽出
ピキア・パストリス細胞を許容性の緩衝液条件に交換して、0.5%テトラデシルジメチルアミン(DMA−C14)および1%トリトンX−100および6%グリセロールと接触させた。上清のサンプルを、異なる温度(4℃および22℃)でのインキュベーションの後の様々な時間で採取した。その後、特定の異種タンパク質(BotB、すなわち、rBoNTB/Hcタンパク質)の濃度を、そのタンパク質に対して特異的なHPLC法によって測定した。結果を図1(4℃)および図2(21℃)に示す。異種タンパク質は、時間とともに、高い方の温度で、より大きい効率で放出されるが、25時間では、DMA−C14(テトラデシルジメチルアミン)/トリトン/グリセロールまたはDMA−C14/グリセロールが使用されたとき、2つの温度で放出されたタンパク質の量を区別することができなかった。DMA−C14/トリトン/DMA−C14はあまり効果的ではなかった。図1または図2には示されていないが、他の観測結果は、グリセロールまたはトリトンX−100または緩衝液は単独では、検出できるレベルでタンパク質を抽出しなかったことを示している。
【0039】
3.分子内生物分子の非選択的回収
ピキア・パストリス細胞を許容性の緩衝液条件に交換して、0.5%テトラデシルジメチルアミン(DMA−C14)および6%グリセロールと接触させた。サンプルをインキュベーション後および清澄化後に採取した(低速遠心分離および0.2umでのろ過)。RNA、DNA、リン脂質および総タンパク質の濃度を、市販の試薬キットを使用して測定した。その後、目的とする特定の異種タンパク質(rBoNTB/Hc)の濃度をHPLCによって測定した。結果が表1に示される。
【0040】
【表1】
データは、RNA、DNA、リン脂質、特定の異種タンパク質、および非特異的な総タンパク質が細胞から抽出されたことを示している。このことは、本発明の方法が非選択的であり、従って、微生物細胞から細胞内の分子を回収するために一般に適用可能であることを示している。データはまた、DNA、RNAおよび脂質が、(抽出液を清澄化された抽出液と比較したとき)DMA−C14/グリセロール抽出液の可溶性タンパク質画分から容易に除かれることを示している。このことは、核酸および脂質の含有量が大きいコロイド状の懸濁物の形成をもたらす機械的な細胞抽出法とは対照的である。そのようなコロイド状物は可溶性タンパク質画分から容易に分離されず、タンパク質精製法を複雑にすることがある。あるいは、他方では、DNA、RNA、脂質または類似する分子の回収は、そのような分子が目的とする分子であった場合にはひどく制限される。従って、透過法の穏やかで、低剪断で、非選択的な特徴により、機械的な溶解物からは容易に得られない、タンパク質以外の細胞内の生成物(核酸、脂質および他の分子など)の回収を容易にすることができる。
【0041】
3.還元剤の存在下における細胞内生物分子の回収
rBoNTA(Hc)タンパク質を発現するP.pastoris細胞を、0.5%のDMA−C14(w/w)および6%(w/w)のグリセロールを含有するpH7.2の溶液に懸濁した(350gバイオマス/L抽出緩衝液)。その後、1つのサンプルを21℃でインキュベーションし、第2のサンプルを4℃でインキュベーションした。その後、ジチオトレイトール(DTT)を第3のサンプルに4mMになるように加え、このサンプルを21℃でインキュベーションした。DTTを第4のサンプルに1mMになるように加え、このサンプルを4℃でインキュベーションした。一部を、示された時点で4つのサンプルのそれぞれから取り出した(図1を参照のこと)。サンプルを清澄化して、rBoNTA(Hc)の濃度をHPLCによって測定した。その後、rBoNTA(Hc)の濃度を4つの異なる処理について時間の関数としてプロットした。データが図1にまとめられている。
【0042】
本発明が、その具体的な実施態様を参照して詳しく記載されているが、機能的に等価である様々な変化は本発明の範囲に含まれることが理解される。実際、本明細書中に示された改変および記載された改変に加えて、本発明の様々な改変が、前記の説明および添付された図面から当業者には明らかになる。そのような改変は、添付された請求項の範囲に含まれるものとする。
【0043】
様々な刊行物が本明細書中に引用されているが、その開示はその全体が参照して組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】4℃および21℃におけるDTTの存在下および非存在下でのrBoNTA(Hc)の抽出を示す。図1は、宿主細胞からの目的とするタンパク質の回収に対する時間および温度および還元剤の影響を示す。

Claims (13)

  1. 細胞を還元剤および界面活性剤と接触させる工程を含み、界面活性剤が両親媒性の荷電アミンまたは両親媒性の荷電アミンオキシドである、宿主細胞から目的のタンパク質を放出させる方法。
  2. 界面活性剤が、トリブチルホスファート、ジメチルデシルアミン、ジメチルトリデシルアミン、ジメチルウンデシルアミン、ジメチルジデシルアミン、ジメチルテトラデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルデシルアミンオキシド、ジメチルウンデシルアミンオキシド、ジメチルジデシルアミンオキシド、ジメチルテトラデシルアミンオキシドおよびジメチルトリデシルアミンオキシドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
  3. 界面活性剤がジメチルトリデシルアミンではない、請求項1に記載の方法。
  4. 懸濁された宿主細胞にグリセロールを加える工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
  5. 界面活性剤が0.01パーセントから10パーセントの最終濃度で含まれる、請求項4に記載の方法。
  6. グリセロールが0.6パーセントから15パーセントの最終濃度で含まれる、請求項4に記載の方法。
  7. グリセロールが0.6パーセントから6パーセントの最終濃度で含まれる、請求項5に記載の方法。
  8. 還元剤が、ジチオトレイトール(DTT)、ジチオエリチリトール(DTE)、システイン(Cys)およびトリス2−カルボキシエチルホスフィン(TCEP)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
  9. 還元剤が0.1mMから100mMの濃度である、請求項8に記載の方法。
  10. 宿主細胞がピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞である、請求項1に記載の方法。
  11. 細胞および界面活性剤および還元剤の混合物を90分間から24時間にわたってインキュベーションする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
  12. インキュベーションが8時間から24時間である、請求項12に記載の方法。
  13. 細胞および界面活性剤および還元剤の混合物を約3℃から約10℃の温度でインキュベーションする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
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