JP2004359969A - 耐熱鋼、耐熱鋼塊の製造方法および蒸気タービンロータ - Google Patents

耐熱鋼、耐熱鋼塊の製造方法および蒸気タービンロータ Download PDF

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龍一 石井
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Abstract

【課題】高温下で安定な特性を有し、安価で、製造性に優れた耐熱鋼および耐熱鋼塊の製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.6〜1.0%、W:1.5〜1.8%、Co:1.0〜4.0%、Ta:0.05〜0.08%、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより析出させたM23型炭化物とMX型炭窒化物およびMX型炭窒化物との合計量が2.0〜4.0質量%の範囲にあり、前記MX型炭窒化物に含有されるV量とMo量とがV>Moの関係を満たし、所定の使用条件下で析出させた金属間化合物と前記析出物との合計量が4.0〜6.0質量%の範囲にある。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐熱鋼、耐熱鋼塊の製造方法および蒸気タービンロータに関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、火力発電設備の高温部品の構成材料として9〜12%のCrを含有する高Crフェライト系耐熱鋼が多用されている。かかる耐熱鋼は、比較的低価格であるだけでなく、製造性および物理的特性にも優れているため、広範な用途があり、火力発電設備における高温機器の性能、信頼性および運用性の向上に貢献している。
【0003】
例えば、特許文献1および特許文献2には、火力発電設備で使用される蒸気タービンロータ用の高Cr系耐熱鋼がそれぞれ開示されている。
【0004】
近時、地球環境保全の観点から火力発電プラントの熱効率の向上を目指して600℃以上の高温蒸気を用いた高効率機種が開発されつつあるが、このような機種の構造材料にも高Crフェライト系耐熱鋼が多く用いられ、火力発電プラントの高効率化に寄与している。
【0005】
火力発電プラントにおいては、長期間の安定な運用が不可欠であるために、その構成材料についても、高温環境において長時間安定な特性を有することが求められている。しかも、熱効率を向上させるために、鋼材が曝される蒸気温度は上昇する傾向にあり、高温蒸気に対する安定性への要望はより高くなってきている。さらに、高温機器の経済性が以前にも増して重要視されるようになってきており、安価で、製造性に優れた鋼材が求められている。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−3697号公報
【0007】
【特許文献2】
特許第2948324号
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の高Cr系耐熱鋼では、これらすべての要求を満足することは困難であった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、高温下で安定な特性を有し、安価で、製造性に優れた耐熱鋼および耐熱鋼塊の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、製造コストが抑えられ、高温の蒸気環境下で安定に運用することができる蒸気タービンロータを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、高Crフェライト系耐熱鋼において、高温強度に優れ、製造性および経済性を兼ね備え、特に高温蒸気タービンロータの構成材料として用いられる耐熱鋼を開発すべく鋭意研究した結果、本発明に至った。
【0012】
本発明に係る耐熱鋼は、質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.6〜1.0%、W:1.5〜1.8%、Co:1.0〜4.0%、Ta:0.05〜0.08%、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより、主要な析出物として結晶粒界およびマルテンサイトラス境界に析出させたM23型炭化物と、マルテンサイトラス内部に析出させたMX型炭窒化物およびMX型炭窒化物とを有し、前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が2.0〜4.0質量%の範囲にあり、かつ、前記MX型炭窒化物に含有されるV量とMo量とがV>Moの関係を満たし、さらに、所定の使用条件下で析出させた金属間化合物と前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が4.0〜6.0質量%の範囲にあることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る耐熱鋼は、質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.6〜1.0%、W:1.5〜1.8%、Co:1.0〜4.0%、Nb:0.05〜0.08%、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより、前記炭化物および炭窒化物の析出組織を有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る耐熱鋼は、質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.4%以上0.6%未満、W:1.8%を超え2.0%以下、Co:1.0〜4.0%、Ta:0.05〜0.08%、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより、前記炭化物および炭窒化物の析出組織を有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る耐熱鋼は、質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.4%以上0.6%未満、W:1.8%を超え2.0%以下、Co:1.0〜4.0%、Nb:0.05〜0.08%、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより、前記炭化物および炭窒化物の析出組織を有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る耐熱鋼は、質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.6〜1.0%、W:1.5〜1.8%、Co:1.0〜4.0%、Nb:0.02%以上0.05%未満、Ta:0.02%以上0.05%未満、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより、前記炭化物および炭窒化物の析出組織を有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る耐熱鋼は、質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.4%以上0.6%未満、W:1.8%を超え2.0%以下、Co:1.0〜4.0%、Nb:0.02%以上0.05%未満、Ta:0.02%以上0.05%未満、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより、前記炭化物および炭窒化物の析出組織を有することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る耐熱鋼塊の製造方法は、前記耐熱鋼からなる鋼塊を、エレクトロスラグ再溶解法を用いて再溶解し、これを鋳造して所定形状の鋼塊とし、さらに鍛造することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る蒸気タービンロータは、前記耐熱鋼からなる鋼塊を所定形状に鍛造した後に、前記鍛造鋼塊の軸方向端部に低合金鋼を肉盛り溶接して、回転に伴う凝着磨耗を回避するようにしたことを特徴とする。
【0020】
本発明に係る蒸気タービンロータは、前記耐熱鋼塊を構成材料として含むことを特徴とする。
【0021】
以下、成分組成の限定理由を説明する。
【0022】
なお、以下の説明において組成を表す「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
【0023】
(1)C:0.08〜0.15%
Cは焼入れ性の確保に有用であるとともに、析出強化に寄与する炭化物の構成元素としても有用な元素である。C含有量が0.08%未満では上記の効果が小さく、一方、0.15%を超えると炭化物の凝集が促進され、長時間クリープ強度の低下を招く。このため、C含有量を0.08〜0.15%の範囲とする。
【0024】
(2)Si:0.1%以下
Siは脱酸剤として有用な元素だが、過剰に含有すると靭性の低下および脆化を促進させる。このため、Si含有量は可能な限り抑制することが望ましい。Si含有量が0.1%を超えると靭性の低下および脆化が著しく進むことから、その上限値を0.1%とする。
【0025】
(3)Mn:0.1〜0.3%
Mnは脱硫剤として有用な元素だが、その含有量が0.1%未満では脱硫効果が認められない。一方、Mn含有量が0.3%を超えるとクリープ抵抗が低下する。このため、Mn含有量を0.1〜0.3%の範囲とする。
【0026】
(4)Ni:0.1〜0.3%
Niは焼入れ性および靭性を向上させるが、その含有量が0.1%未満ではこの効果が認められない。一方、Ni含有量が0.3%を超えるとクリープ抵抗が低下する。このため、Ni含有量を0.1〜0.3%の範囲とする。
【0027】
(5)Cr:9.0%以上10.0%未満
Crは析出強化に寄与する析出物の構成元素として有用であるとともに、耐酸化性、耐食性の確保にも不可欠な元素である。Cr含有量が9.0%未満では上記の効果が小さく、一方、10.0%以上ではフェライトの生成を促進させ、特に、長時間におけるクリープ強度の低下が起こる。このため、Cr含有量を9.0%以上10.0%未満の範囲とする。
【0028】
(6)V:0.15〜0.30%
Vは固溶強化および微細な炭窒化物の形成に寄与する。V含有量を0.15%以上とすると、微細炭窒化物が十分に析出し、回復を抑制することができる。一方、V含有量が0.30%を超えると炭窒化物の凝集が促進され、長時間クリープ強度の低下を招く。このため、V含有量を0.15〜0.30%の範囲とする。
【0029】
(7)Mo:0.4〜1.0%
Moは固溶強化元素および炭化物の構成元素として有用であり、0.4%以上の添加によりその効果が発揮される。一方、1.0%を超えて添加すると、フェライトの生成が促進され、靭性の低下が起こる。このため、Mo含有量を0.4〜1.0%の範囲とする。
【0030】
特に、MoはWの添加量とのバランスによってフェライトの生成を抑制するとともに、所望のクリープ強度を発揮させる。マルテンサイト単相組織とし、所望の強度を得るためには、Wの添加量が1.8%を超え2.0%以下の範囲にある場合には、Moの添加量を0.4以上0.6%未満の範囲とすることが好ましく、Wの添加量が1.5〜1.8%の範囲にある場合には、Moの添加量を0.6〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
【0031】
(8)W:1.5〜2.0%
Wは固溶強化に寄与するとともに、炭化物中および金属間化合物中に置換し、析出強化にも寄与する。Wを1.5%以上添加すると、これらの効果を発揮させることができるが、一方、2.0%を超えて添加するとフェライトの生成が促進され、靭性の低下が起こる。このため、W含有量を1.5〜2.0%の範囲とする。
【0032】
特に、Wは上記したように、Moの添加量とのバランスによってフェライトの生成を抑制するとともに、所望のクリープ強度を発揮させる。マルテンサイト単相組織とし、所望の強度を得るためには、Moの添加量が0.6〜1.0%の範囲にある場合には、Wの添加量を1.5〜1.8%の範囲とすることが好ましく、Moの添加量が0.4%以上0.6%未満の範囲にある場合には、Wの添加量を1.8%を超え2.0%以下の範囲とすることが好ましい。
【0033】
(9)N:0.01〜0.04%
Nは窒化物あるいは炭窒化物を形成することにより析出強化に寄与する。さらに、母相中に残存するNは固溶強化にも寄与する。N含有量が0.01%未満ではこれらの効果が認められず、一方、0.04%を超えると窒化物あるいは炭窒化物の粗大化を促進し、クリープ抵抗を低下させる。このため、N含有量を0.01〜0.04%の範囲とする。
【0034】
(10)Co:1.0〜4.0%
Coは固溶強化に寄与するとともに、フェライトの生成を抑制する効果を有する。Coを1.0%以上添加するとこれらの効果を発揮させることができる。一方、4.0%を超えて添加するとこれらの効果が飽和する。さらに、Coは高価な金属元素であるため、大型鋼塊を製造する場合には経済性を著しく損なう恐れがある。このため、Co含有量を1.0〜4.0%の範囲とする。
【0035】
(11)Nb:0.02〜0.08%
Nbは炭窒化物を形成することにより析出強化に寄与する。Nb含有量が0.02%未満であるとこの効果が認められない。一方、Nb含有量が0.08%を超えると鋼塊製造時に未固溶の粗大なNb炭窒化物が多量に生成し、微細なNb炭窒化物の析出量が減少して強度特性が低下するとともに、靭性の低下を招く。このため、Nb含有量を0.02〜0.08%の範囲とする。
【0036】
特に、NbはTaの添加量とのバランスによって炭窒化物の析出量を制御し、所望のクリープ強度を発揮させる。所望の析出組織を得るためには、Taを添加した場合には、Nbの添加量を0.02%以上0.05%未満の範囲にすることが好ましく、Taを無添加とした場合には、Nbの添加量を0.05〜0.08%の範囲とすることが好ましい。
【0037】
(12)Ta:0.02〜0.08%
Taは炭窒化物を形成することにより析出強化に寄与する。Ta含有量が0.02%未満ではこの効果が認められず、一方、0.08%を超えると鋼塊製造時に未固溶の粗大なTa炭窒化物が多量に生成し、微細なTa炭窒化物の析出量が減少して強度特性が低下するとともに、靭性の低下を招く。このため、Ta含有量を0.02〜0.08%の範囲とする。
【0038】
特に、TaはNbの添加量とのバランスによって炭窒化物の析出量を制御し、所望のクリープ強度を発揮させる。所望の析出組織を得るためには、Nbを添加した場合には、Taの添加量を0.02%以上0.05%未満の範囲とすることが好ましく、Nbを無添加とした場合には、Taの添加量を0.05〜0.08%の範囲とすることが好ましい
(13)B:0.001〜0.015%
Bは微量の添加で焼入れ性を高めるとともに、炭窒化物の高温での長時間安定性を向上させる。Bを0.001%以上添加することでこれらの効果が認められ、結晶粒界およびその近傍に析出する炭化物の粗大化を抑制することができる。一方、B含有量が0.015%を超えると粗大生成物の形成が促進され、鍛造性が著しく低下する。このため、B含有量を0.001〜0.015%の範囲とする。
【0039】
上記した成分元素並びに主成分であるFeを添加する際に不可避的に混入する不純物は極力低減することが望ましい。
【0040】
次に、焼戻し熱処理後の析出物について説明する。
【0041】
本発明に係る耐熱鋼のような高Cr系耐熱鋼においては、焼戻し熱処理後にM23型炭化物やMX型炭窒化物が析出することが知られている。本発明では、上記の炭化物や炭窒化物だけでなく、さらにMX型炭窒化物を析出させて、耐熱鋼の高温強化に利用する。
【0042】
X型炭窒化物は、主にCr、V、MoなどのM元素が、X元素であるCおよびNと結合することにより、マルテンサイトラス内部に微細析出するものである。MX型炭窒化物は、焼戻し熱処理後の析出密度が1m当たり2×10個以上と極めて高く、耐熱鋼の析出強化に寄与し、高温強度の向上をもたらす。
【0043】
23型炭化物が主に結晶粒界上およびマルテンサイトラス境界上に析出し、さらに、MX型炭窒化物とMX型炭窒化物とがマルテンサイトラス内部に複合的に析出することにより、さらに著しい析出強化の作用をもたらすことが可能となる。
【0044】
X型炭窒化物中の構成元素の組成は、焼戻し熱処理の温度および時間によって変化する。この構成元素中のVおよびMoの含有量も、焼戻し熱処理の温度や時間により変化するが、その温度がより高温であるほど、あるいは、その時間がより長いほど、V含有量がMo含有量より多くなり、MX型炭窒化物の高温安定性が高まる。これにより耐熱鋼の高温強度が向上し、安定になる。
【0045】
焼戻し熱処理後に析出する析出物、すなわちM23型炭化物、MX型炭窒化物およびMX型炭窒化物の合計量は、添加元素のうち特にMoやWの含有量に依存する。析出物の合計量が、2.0質量%未満であると、析出密度が低過ぎるため、十分な析出強化作用を得ることができない。一方、析出物の合計量が4.0質量%を超えると、使用条件下で新たに金属化合物が析出するのを阻害するため、長時間でのクリープ強度の低下に繋がる。以上のことから、焼戻し熱処理後の析出物の合計量を2.0〜4.0質量%の範囲とする。MoおよびWの含有量を上記の範囲内とすることで所望量の析出物を得ることができる。
【0046】
次に、使用条件下で析出する金属化合物について説明する。
【0047】
本発明に係る耐熱鋼は、焼戻し熱処理後には存在しない金属間化合物を高温での使用中に新たに析出させることを特徴のひとつとする。金属間化合物は、所定の使用条件下で主に結晶粒界やマルテンサイトラス境界に析出する。
【0048】
ここで、本明細書中において「所定の使用条件下」とは、例えば、本発明に係る耐熱鋼を高温蒸気タービンロータ用材料として用いた場合に曝される、高温蒸気環境下を示す用語である。
【0049】
この金属間化合物と上記の焼戻し熱処理後の析出物との合計量が4.0質量%未満であると、十分な高温クリープ強度が確保できない。一方、合計量が6.0質量%を超えると、個々の金属化合物および析出物の粗大化が著しくなるとともに、母相の軟化が促進される。以上のことから、使用条件下で析出する金属化合物と焼戻し熱処理後の析出物との合計量を4.0〜6.0質量%の範囲とする。
【0050】
前記金属間化合物としては、例えば、主としてFe、Cr、MoおよびWからなる(Fe,Cr)(Mo,W)型析出物を挙げることができる。
【0051】
次に、マルテンサイトラスの平均間隔および平均転位密度について説明する。
【0052】
本発明に係る耐熱鋼は、焼戻し熱処理後、母相が多数のマルテンサイトラスから構成された組織を呈するが、個々のマルテンサイトラスの間隔は高温クリープ強度に影響を及ぼす。すなわち、高温加熱することによりマルテンサイトラス内にある転位は移動し、これに伴ってマルテンサイトラス間隔が広がり、軟化や強度の低下に繋がる。このことから、耐熱鋼の高温でのクリープ強度をより高めるためには、マルテンサイトラス間隔が狭くなるように調整し、かつ、マルテンサイトラス中の転位が高密度に存在するように調整することが好ましい。焼戻し熱処理後のマルテンサイトラス間隔を平均値で0.4μm以下に調整し、その転位密度を平均値で1m当たり1014以上に調整することにより母相の硬度をより高めることができ、優れた強度特性を発揮させることが可能となる。
【0053】
次に、耐熱鋼塊の製造方法について説明する。
【0054】
前述した成分組成を有し、所定の析出物を含有する耐熱鋼からなる鋼塊をエレクトロスラグ再溶解法により再溶解し、鋳造した後、さらに鍛造することにより耐熱鋼塊を得る。以下、エレクトロスラグ再溶解をESRと称する。
【0055】
ESR法には、脱硫効果や非金属介在物の除去効果などがあり、鋼塊性状の改善に有用である。本発明に係る耐熱鋼のように重元素と軽元素の双方を多量に含有する鋼種においては、鍛造時に成分の凝固偏析が大きくなるため、均質な濃度分布を有する鋼塊を製造することが極めて困難である。特に、蒸気タービンロータの構成材料となるような大型鋼塊については、凝固偏析が大きくなる傾向が著しい。このため、脱硫効果や非金属介在物の除去効果を有するESR法を用いることにより、所定の成分元素の偏析を抑制し、均質な性状を有する鋼塊を製造する。
【0056】
再溶解後の鋳造工程および鍛造工程については、高Cr系耐熱鋼の鋼塊を製造する際に用いられる一般的な方法および条件を適用することができる。
【0057】
次に、耐熱鋼塊に含有されるB元素について説明する。
【0058】
本発明に係る耐熱鋼のような高Cr系耐熱鋼からなる鋼塊を蒸気タービンロータの構成材料として用いた場合、鋼材の軸方向端部と軸受との接触面に凝着磨耗を生じる恐れがある。これを防ぐためには、鋼材の軸方向端部に低合金鋼を肉盛り溶接することが好ましい。しかしながら、本発明に係る耐熱鋼に添加されるB元素は溶接性を損なう元素であり、このため、割れを生じさせることなく肉盛り溶接を行うことは困難である。
【0059】
ESR法では、スラグ中の化学反応を利用して脱硫や非金属介在物の除去を行うため、投入するスラグ組成を変化させることによって得られる鋼塊中に含有される成分元素の濃度を意図的に変化させることができる。したがって、ESR法を用いることにより、鋼塊における被溶接部のB含有量を肉盛り溶接に適した範囲内に制御することができ、当該部に割れのない肉盛り溶接を行うことが可能になる。溶接部をより健全なものとするためには、被溶接部のB含有量を0.005質量%以下とすることが好ましい。
【0060】
次に、蒸気タービンロータについて説明する。
【0061】
本発明に係る耐熱鋼および耐熱鋼塊は、上記したように高温下で安定であるため、蒸気タービンロータの構成材料として用いることができる。定常時の最高蒸気温度が580℃未満である蒸気タービンロータには、従来の耐熱鋼を適用することができる。一方、蒸気タービンロータの最高蒸気温度が630℃を超えると耐熱鋼の軟化が急速に進行する恐れがある。以上のことから、本発明に係る耐熱鋼または耐熱鋼塊を構成材料として含む蒸気タービンロータの定常時の最高蒸気温度は580〜630℃の範囲とすることが好ましい。
【0062】
ただし、抽気蒸気で冷却することにより蒸気タービンロータの外表面の温度を630℃以下に制御できる場合には、蒸気タービンロータの定常時の最高蒸気温度を630℃を超え730℃以下の範囲とすることができ、特に、700℃程度とすることが好ましい。なお、冷却手段にはいかなるものを用いてもよい。
【0063】
蒸気タービンロータの構成材料に本発明に係る耐熱鋼を適用する場合には、耐熱鋼からなる鋼塊を鍛造して得られた鍛造鋼塊を用いる。鍛造鋼塊は、上記したようにESRを用いて鋼塊を再溶解し、鋳造し、その後、鍛造して製造することが好ましい。この鍛造鋼塊の軸方向端部に低合金鋼を肉盛り溶接して蒸気タービンロータの回転に伴う凝着磨耗を回避させることができる。低合金鋼を肉盛り溶接する際には、被溶接部のB含有量を上記したように調整することが好ましい。
【0064】
また、蒸気タービンロータの構成材料に本発明に係る耐熱鋼塊を適用する場合にも、上記したように鍛造した鋼塊の軸方向端部に低合金鋼を肉盛り溶接して蒸気タービンロータの回転に伴う凝着磨耗を回避させることが好ましい。低合金鋼を肉盛り溶接する際には、被溶接部のB含有量を上記したように調整することが好ましい。
【0065】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0066】
【発明の実施の形態】
以下、実施例を用いて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
(実施例1〜28、比較例1〜8)
ここでは、本発明の範囲内にある成分組成を有する耐熱鋼が優れた特性を示すことを説明する。
【0068】
種々の成分組成を有する供試鋼を用意し、以下に説明するように耐熱鋼を製造した。供試鋼の成分組成を表1に示す。表1に示す供試鋼のうち、鋼種ア〜フは成分組成が本発明の範囲内にある実施例鋼であり、鋼種ヘ〜ヤは成分組成が本発明の範囲内にない比較例鋼である。
【0069】
用意した供試鋼アに30kg真空誘導溶解を行った後、鋳込んだ鋳塊を熱間圧延し、続いて、焼鈍して焼ならした後、油焼入れを行い、その後、さらに焼戻しを施して実施例1の耐熱鋼を得た。得られた耐熱鋼は常温0.02%耐力を蒸気タービンロータに適した700MPa程度に調整した。同様に、供試鋼イ〜フを用いて実施例2〜28の耐熱鋼を製造し、供試鋼ヘ〜ヤを用いて比較例1〜8の耐熱鋼を製造した。
【0070】
実施例1〜28および比較例1〜8の耐熱鋼の常温0.02%耐力を、JISZ 2241に規定された方法に従って測定した。この結果を表2に示す。
【0071】
また、実施例1〜28および比較例1〜8の耐熱鋼について、JIS Z 2271に規定された方法に従って650℃−120MPaでのクリープ破断試験を行い、クリープ破断時間を測定した。この結果を表2に併記する。
【0072】
さらに、実施例1〜28および比較例1〜8の耐熱鋼について、JIS 4号2mmVノッチ試験片を用い、JIS Z 2242に規定された方法に従って20℃でシャルピー衝撃試験を行い、衝撃吸収エネルギーを測定した。この結果を表2に併記する。
【0073】
【表1−1】
Figure 2004359969
【0074】
【表1−2】
Figure 2004359969
【0075】
【表2−1】
Figure 2004359969
【0076】
【表2−2】
Figure 2004359969
【0077】
成分組成が本発明の範囲内にある供試鋼を用いた実施例1〜28の耐熱鋼は、いずれもクリープ破断時間が12000時間を超えて非常に長く、高温強度に優れていた。また、衝撃吸収エネルギーも大きく、靭性にも優れていた。
【0078】
これに対して、成分組成が本発明の範囲内になかった供試鋼を用いた耐熱鋼のうち比較例1,2,4,7の耐熱鋼は、クリープ破断時間が実施例1〜28の耐熱鋼に比べて著しく劣化し、さらに衝撃吸収エネルギーも10J以下と小さかった。
【0079】
成分組成が本発明の範囲内になかった供試鋼を用いた耐熱鋼のうち比較例3,5,6,8の耐熱鋼は、衝撃吸収エネルギーは実施例1〜28の耐熱鋼と同等であったものの、クリープ破断時間が著しく短かった。
【0080】
以上のことから、成分組成が本発明の範囲内にある耐熱鋼は、同等の常温0.02%耐力に調整した場合、成分組成が本発明の範囲内にない耐熱鋼に比べ、クリープ破断時間および衝撃吸収エネルギーの双方に優れていることがわかる。
【0081】
(実施例29〜38、比較例9〜18)
ここでは、本発明の範囲内にある析出物量を有する耐熱鋼が優れた特性を示すことを説明する。
【0082】
表1中の鋼種オの供試鋼を用い、実施例1と同様の方法で製造条件を変えて実施例29、実施例30、比較例9および比較例10の耐熱鋼を製造した。同様に、鋼種キの供試鋼から実施例31〜32および比較例11〜12の耐熱鋼を製造し、鋼種セの供試鋼から実施例33〜34および比較例13〜14の耐熱鋼を製造し、鋼種テの供試鋼から実施例35〜36および比較例15〜16の耐熱鋼を製造し、鋼種ニの供試鋼から実施例37〜38および比較例17〜18の耐熱鋼を製造した。
【0083】
得られた耐熱鋼について、焼戻し後のM23炭化物、MX炭窒化物およびMX炭窒化物の合計量を以下に説明する方法で測定した。この結果を表3に示す。
【0084】
試料をメタノール、アセチルアセトンおよびテトラメチルアンモニウムクロライドの混合液に入れ、電解にて母相を溶解する。これを濾過し、残渣を洗浄後、質量を測定する。この残渣の質量を焼戻し後のM23型炭化物、MX型炭窒化物およびMX型炭窒化物の合計量として質量%で表す。
【0085】
また、MX型炭窒化物中のVおよびMoの含有量を以下に説明する方法で測定し、V含有量に対するMo含有量の比を算出した。この結果を表3に併記する。
【0086】
カーボン抽出レプリカ組織上で電子線回折およびEDX半定量分析を行ってMX型炭窒化物を同定し、これに含有されるV量およびMo量を定量する。
【0087】
また、上記の同定を他の析出物にも施し、M23型炭化物、MX型炭窒化物およびMX型炭窒化物におけるM元素はCr、V、Moであり、X元素はCおよびNであることを確認した。
【0088】
さらに、得られた耐熱鋼の常温での0.02%耐力および20℃での衝撃吸収エネルギーを実施例1と同様の方法で測定した。この結果を表3に併記する。
【0089】
なお、ここでは、常温0.02%耐力が665MPa以上である耐熱鋼が蒸気タービンロータの構成材料に好適であるとの判断基準を設けた。
【0090】
また、得られた耐熱鋼に600℃で10000時間の時効熱処理を行い、使用条件下で析出した金属間化合物と、焼戻し後のM23型炭化物、MX型炭窒化物およびMX型炭窒化物との合計量として、時効熱処理後の析出物量を上記方法と同様に測定した。さらに、時効熱処理後の耐熱鋼の20℃での衝撃吸収エネルギーを上記方法と同様に測定した。これらの結果を表3に併記する。
【0091】
金属化合物は上記の同定を行うことにより(Fe,Cr)(Mo,W)型析出物であることを確認した。
【0092】
【表3】
Figure 2004359969
【0093】
焼戻し後の析出物量が本発明の範囲内にある実施例29〜38の耐熱鋼は、MX型炭窒化物中のV含有量がMo含有量よりも大きくなり、MX型炭窒化物の高温安定性が高かった。さらに、蒸気タービンロータの構成材料として好適な常温0.02%耐力を有していただけでなく、衝撃吸収エネルギーも優れた値を示した。また、時効熱処理後の析出物量も本発明の範囲内にあり、時効熱処理後の衝撃吸収エネルギーも優れた値を示した。
【0094】
これに対して、焼戻し後の析出物量が2.0質量%未満であった比較例9,11,13,15,17の耐熱鋼は、MX型炭窒化物中のV含有量がMo含有量よりも小さく、MX型炭窒化物の高温安定性が低下していた。また、衝撃吸収エネルギーも10J未満と著しく劣化していた。また、時効熱処理後に析出物量が増加するものの4.0質量%を下回り、衝撃吸収エネルギーは10J未満と低いままであった。
【0095】
焼戻し後の析出物量が4.0質量%を超えた比較例10,12,14,16,18の耐熱鋼は、MX型炭窒化物中のV含有量がMo含有量よりも大きく、衝撃吸収エネルギーも良好な値を示したが、蒸気タービンロータの構成材料として必要な常温0.02%耐力を確保できなかった。また、時効熱処理後の析出物量が6.0質量%を上回り、衝撃吸収エネルギーが著しく低下していた。
【0096】
以上のことから、焼戻し後の析出物量が本発明の範囲内にある耐熱鋼は、初期の特性および高温長時間加熱後の特性のいずれも優れていることがわかる。
【0097】
(例1〜5)
ここでは、耐熱鋼塊の製造に際し、ESR法を用いることにより軸方向端部のB濃度を制御した場合の効果について説明する。
【0098】
溶解した供試鋼をESRの消耗電極用モールドに鋳込み、次いでこの鋳塊を鍛造した後、消耗電極として再溶解し、表1中の鋼種セと同等の成分組成を有する直径約450mm、長さ1000mm形状の鋼塊を得た。このとき、鋼塊の長手軸方向の端部に相当する部位を溶解する際にスラグ組成を調整することによりB濃度を以下に説明するように制御した。
【0099】
鋼塊の最端部におけるB濃度を0.001%とし、鋼塊の最端部から内側に500mm程度離れた部位におけるB濃度が0.01%になるように徐々に変化させながら溶解し、その後、凝固させた。
【0100】
得られた鋼塊において、B濃度が0.001%、0.003%、0.005%、0.008%および0.010%に調整されている部位に低合金鋼をサブマージアーク溶接で肉盛りし、割れが生じるか否かを観察した。この結果を表4に示す。
【0101】
【表4】
Figure 2004359969
【0102】
B濃度が0.005%以下の範囲に制御されている部位では、割れのない健全な肉盛り溶接が可能であった。
【0103】
一方、B濃度が0.008%以上の範囲に制御されている部位では、肉盛り溶接後に割れが発生した。
【0104】
以上のことから、本発明に係る耐熱鋼塊の製造において、ESR法を用いて被溶接部位のB濃度を制御することにより、割れを発生させることなく低合金鋼を肉盛り溶接することが可能となることがわかる。すなわち、本発明に従えば蒸気タービンロータ回転時の軸方向端部における凝着磨耗を抑制することができる。
【0105】
(例6〜11)
ここでは、焼戻し熱処理後の転位組織のマルテンサイトラス間隔および転位密度が本発明の範囲内にある耐熱鋼が優れた特性を示すことを説明する。
【0106】
表1中の鋼種イの供試鋼を用い、実施例1と同様の方法で製造条件を変えて例6および例7の耐熱鋼を製造した。同様に、鋼種ケの供試鋼を用いて例8〜9の耐熱鋼を製造し、鋼種ナの供試鋼を用いて例10〜11の耐熱鋼を製造した。
【0107】
得られた耐熱鋼のマルテンサイトラスの平均間隔を以下に説明する方法で測定した。この結果を表5に示す。
【0108】
透過型電子顕微鏡を用いて転位下部組織を撮影し、写真上で観察される任意の位置におけるマルテンサイトラスの幅を計測した。複数のマルテンサイトラスの幅を計測してその平均値を算出した。
【0109】
また得られた耐熱鋼のマルテンサイトラス内部の平均転位密度を以下に説明する方法で測定した。この結果を表5に併記する。
【0110】
透過型電子顕微鏡を用いて電子線の入射方向を統一し、特定面積内の全転位長さとサンプル厚さから算出した。複数の位置の転位密度を計測してその平均値を算出した。
【0111】
また、得られた耐熱鋼の600℃−250MPaにおける5000時間でのクリープひずみ量を、JIS Z 2271に規定された方法に従って測定した。この結果を表5に併記する。
【0112】
【表5】
Figure 2004359969
【0113】
マルテンサイトラスの平均間隔を0.4μm以下、マルテンサイトラス内部の転位密度を1m当たり1014以上に調整した例6,8,10の耐熱鋼は、マルテンサイトラスの平均間隔が0.4μmを超える例7,9,11の耐熱鋼に比べてクリープひずみ量が約1/2程度に抑制された。
【0114】
これに対して、マルテンサイトラス内部の転位密度が1m当たり1014未満であり、マルテンサイトラスの平均間隔が0.4μmを超えた例9の耐熱鋼は、例6,8,10の耐熱鋼に比べてクリープひずみ量が著しく増加した。
【0115】
マルテンサイトラス内部の転位密度が1m当たり1014以上であるものの、マルテンサイトラスの平均間隔が0.4μmを超えた例7および例11の耐熱鋼も、例6,8,10の耐熱鋼に比べてクリープひずみ量が著しく増加した。
【0116】
以上のことから、本発明の範囲内にある所定の転位組織を有する耐熱鋼は、高温下でのクリープ変形が抑制されることがわかる。
【0117】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明に従えば、高温下で安定な特性を有し、安価で、製造性に優れた耐熱鋼および耐熱鋼塊を提供することができる。また、製造コストが抑えられ、高温の蒸気環境下で安定に運用することができる蒸気タービンロータを提供することが可能となり、産業上、有益な効果がもたらすことができる。

Claims (13)

  1. 質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.6〜1.0%、W:1.5〜1.8%、Co:1.0〜4.0%、Ta:0.05〜0.08%、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより、主要な析出物として結晶粒界およびマルテンサイトラス境界に析出させたM23型炭化物と、マルテンサイトラス内部に析出させたMX型炭窒化物およびMX型炭窒化物とを有し、前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が2.0〜4.0質量%の範囲にあり、かつ、前記MX型炭窒化物に含有されるV量とMo量とがV>Moの関係を満たし、
    さらに、所定の使用条件下で析出させた金属間化合物と前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が4.0〜6.0質量%の範囲にあることを特徴とする耐熱鋼。
  2. 質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.6〜1.0%、W:1.5〜1.8%、Co:1.0〜4.0%、Nb:0.05〜0.08%、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより、主要な析出物として結晶粒界およびマルテンサイトラス境界に析出させたM23型炭化物と、マルテンサイトラス内部に析出させたMX型炭窒化物およびMX型炭窒化物とを有し、前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が2.0〜4.0質量%の範囲にあり、かつ、前記MX型炭窒化物に含有されるV量とMo量とがV>Moの関係を満たし、
    さらに、所定の使用条件下で析出させた金属間化合物と前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が4.0〜6.0質量%の範囲にあることを特徴とする耐熱鋼。
  3. 質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.4%以上0.6%未満、W:1.8%を超え2.0%以下、Co:1.0〜4.0%、Ta:0.05〜0.08%、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより、主要な析出物として結晶粒界およびマルテンサイトラス境界に析出させたM23型炭化物と、マルテンサイトラス内部に析出させたMX型炭窒化物およびMX型炭窒化物とを有し、前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が2.0〜4.0質量%の範囲にあり、かつ、前記MX型炭窒化物に含有されるV量とMo量とがV>Moの関係を満たし、
    さらに、所定の使用条件下で析出させた金属間化合物と前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が4.0〜6.0質量%の範囲にあることを特徴とする耐熱鋼。
  4. 質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.4%以上0.6%未満、W:1.8%を超え2.0%以下、Co:1.0〜4.0%、Nb:0.05〜0.08%、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより、主要な析出物として結晶粒界およびマルテンサイトラス境界に析出させたM23型炭化物と、マルテンサイトラス内部に析出させたMX型炭窒化物およびMX型炭窒化物とを有し、前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が2.0〜4.0質量%の範囲にあり、かつ、前記MX型炭窒化物に含有されるV量とMo量とがV>Moの関係を満たし、
    さらに、所定の使用条件下で析出させた金属間化合物と前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が4.0〜6.0質量%の範囲にあることを特徴とする耐熱鋼。
  5. 質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.6〜1.0%、W:1.5〜1.8%、Co:1.0〜4.0%、Nb:0.02%以上0.05%未満、Ta:0.02%以上0.05%未満、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより、主要な析出物として結晶粒界およびマルテンサイトラス境界に析出させたM23型炭化物と、マルテンサイトラス内部に析出させたMX型炭窒化物およびMX型炭窒化物とを有し、前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が2.0〜4.0質量%の範囲にあり、かつ、前記MX型炭窒化物に含有されるV量とMo量とがV>Moの関係を満たし、
    さらに、所定の使用条件下で析出させた金属間化合物と前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が4.0〜6.0質量%の範囲にあることを特徴とする耐熱鋼。
  6. 質量%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.1%以下、Mn:0.1〜0.3%、Ni:0.1〜0.3%、Cr:9%以上10%未満、V:0.15〜0.30%、Mo:0.4%以上0.6%未満、W:1.8%を超え2.0%以下、Co:1.0〜4.0%、Nb:0.02%以上0.05%未満、Ta:0.02%以上0.05%未満、B:0.001〜0.015%、N:0.01〜0.04%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を焼戻し熱処理することにより、主要な析出物として結晶粒界およびマルテンサイトラス境界に析出させたM23型炭化物と、マルテンサイトラス内部に析出させたMX型炭窒化物およびMX型炭窒化物とを有し、前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が2.0〜4.0質量%の範囲にあり、かつ、前記MX型炭窒化物に含有されるV量とMo量とがV>Moの関係を満たし、
    さらに、所定の使用条件下で析出させた金属間化合物と前記M23型炭化物と前記MX型炭窒化物と前記MX型炭窒化物との合計量が4.0〜6.0質量%の範囲にあることを特徴とする耐熱鋼。
  7. 前記マルテンサイトラスは、前記焼戻し熱処理後の平均間隔が0.4μm以下にあり、かつ、平均転位密度が1m当たり1014以上であることを特徴とする請求項1ないし6のうちのいずれか1項に記載の耐熱鋼。
  8. 請求項1ないし6のうちのいずれか1項に記載の耐熱鋼からなる鋼塊を、エレクトロスラグ再溶解法を用いて再溶解し、これを鋳造して所定形状の鋼塊とし、さらに鍛造することを特徴とする耐熱鋼塊の製造方法。
  9. 低合金鋼の肉盛り溶接が行われる前記鋼塊の軸方向端部のB含有量を、前記エレクトロスラグ再溶解法における化学反応を制御することにより所定範囲内に調整することを特徴とする請求項8に記載の耐熱鋼塊の製造方法。
  10. 請求項1ないし7のうちのいずれか1項に記載の耐熱鋼からなる鋼塊を所定形状に鍛造した後に、前記鍛造鋼塊の軸方向端部に低合金鋼を肉盛り溶接して、回転に伴う凝着磨耗を回避するようにしたことを特徴とする蒸気タービンロータ。
  11. 請求項8または9のいずれか一方に記載の製造方法を用いて得られた耐熱鋼塊を構成材料として含むことを特徴とする蒸気タービンロータ。
  12. 定常時の最高蒸気温度が580〜630℃の範囲にあることを特徴とする請求項10または11のいずれか一方に記載の蒸気タービンロータ。
  13. 抽気蒸気による冷却手段と組合せて用いられ、定常時の最高蒸気温度が630℃を超え730℃以下の範囲にあることを特徴とする請求項10または11のいずれか一方に記載の蒸気タービンロータ。
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