JP2004344092A - Orc4遺伝子変異非ヒト動物 - Google Patents

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雅秀 浅野
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智恵 成瀬
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Abstract

【課題】複製開始点複合体(Origin Recognition Complex、ORC)の生体内での動態を解析する為、DNAの複製及び細胞周期の分子機構を解明する実験モデルとして有用な非ヒト動物を提供する。
【解決手段】ゲノム中の、特定の塩基配列で示されるORC4遺伝子のイントロン1部位にジーントラップベクター、ROSANβ-geoが挿入されている非ヒト動物である。このORC4変異非ヒト動物は、母由来のORC4タンパク質を受精卵内に有している為、受精後数日間はDNA複製を行う事が可能であり、従って細胞分裂を起こすことが出来る。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、DNAの複製及び細胞周期の分子機構を解明する実験モデルとして有用な非ヒト動物に関し、更に詳細にはがんに代表される増殖異常疾患の分子機構を解明する実験モデルとして有用な非ヒト動物に関する。
【0002】
【従来の技術】
真核生物において、遺伝情報を担う染色体DNAの複製と娘細胞への染色体分配即ち細胞分裂は互いに密接な関連を有しており、これらは細胞周期の重要なイベントである。DNA複製機構を分子レベルで理解するためには、DNA複製開始点で構築される、種々の複製関連因子の複合体の動態を解析する必要がある。
【0003】
前述した複製関連因子の一つであり、真核細胞DNAの複製で必要とされる、複製開始点複合体 (Origin Recognition Complex、以下の文中においてORCと略称)は6つのサブユニットからなり、真核生物においてよく保存されたタンパク質である。その中でも、ORCの中心部に位置するサブユニットであるORC4は、ORC形成に必須と考えられている。
【0004】
酵母を用いての研究により、ORCは細胞周期を通じてDNA複製開始点に結合しており、その役割はDNA複製開始点の認識、及びDNA合成期(S期)開始に必要な細胞分裂周期タンパク質(CDC6)やミニ染色体保持タンパク質(MCM)が複合体を形成してDNA複製開始点に結合するための足場であると考えられている。また、酵母のORC変異体の解析によって、ORCの全てのサブユニットがDNA複製に必須であり、変異体は致死となることが知られている。
【0005】
がんに代表される増殖異常疾患のメカニズム解明という視点からも、正常な発生過程における体細胞、又はがん細胞のような病的な状態において、細胞周期機構とDNA複製開始機構とがどのような接点を持つのかについての詳細な解析が望まれている。この目的から、ヒト及び哺乳類のDNA複製開始点のコンセンサス配列の一例が特許文献1において公開されており、また、酵母ORC遺伝子のクローニングに関しては特許文献2において公開されている。
【0006】
【特許文献1】
特表2001−506498号公報
【0007】
【特許文献2】
特表平9−506768号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、DNA複製開始機構は酵母を用いての解析がその主なものであり、他の高等生物、特にヒト及び哺乳類動物におけるDNA複製開始機構の分子レベルでの動態は未だ明らかにされていない部分が多い。前記特許文献1においては、ヒト及び哺乳類のDNA複製開始点のコンセンサス配列の一例が公開されるに留まり、また前記特許文献2においては、ORCのクローニングが行われてはいるが酵母についての開示に留まっている。
【0009】
また、前述した如く、不完全なORC複合体を有する酵母即ちORCの変異体酵母は致死となる為、酵母を用いた研究ではORC遺伝子を変異させて生体内でのORCの分子レベルでの動向を深く解析することがこれまでは困難であった。
【0010】
そこで本発明では、ORCの生体内での動態を解析する為、DNAの複製及び細胞周期の分子機構を解明する実験モデルとして有用な非ヒト動物を提供する事を目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ジーントラップ法を用いてORC4変異マウスを得た後、当該マウスについて研究を進めたところ、当該マウスのヘテロ接合体同士の交配により得られたホモ接合体は胎生3.5日から7.5日の間に発生が止まり母マウス子宮に吸収されていること、及びホモ接合体の胚盤胞内部細胞塊は試験管内で培養すると3日目から4日目にDNA凝集を伴う変性を起こすことを明らかにし、また、当該マウスは、ORC4遺伝子に変異があること、及びDNAの複製及び細胞周期の分子機構を解明する実験モデルとして利用可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係るORC4変異非ヒト動物は、ゲノム中のORC4遺伝子に変異を有する事を特徴とする。
【0013】
以上の様なORC4変異非ヒト動物は、母由来のORC4タンパク質を受精卵内に有している為、受精後数日間はDNA複製を行う事が可能であり、従って細胞分裂を起こすことが出来る。
ただし、胚細胞ゲノム内に存在するORC4遺伝子に変異を持つ為、正常に機能するORC4タンパク質を自ら産生する事が出来ず、DNA複製開始に必須であるORCを形成する事が出来ないと考えられる。従って、上記ORC4変異非ヒト動物は、母由来ORC4タンパク質の枯渇に伴いDNA複製が停止し、細胞の分裂も行われなくなる為に発生途中の状態のまま母胎内で致死となるが、本発明では、死亡に至る前に母胎からORC4遺伝子変異非ヒト動物の胚を取り出すことで、あるいは、ORC4遺伝子変異非ヒト動物の胚盤胞を例えば試験管内で培養して内部細胞塊を採取することで、さらにはこの内部細胞塊を培養して培養細胞を得ることで、DNAの複製開始機構を解明するための実験等に利用することが可能である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のORC4変異非ヒト動物について、詳細に説明する。
【0015】
本発明のORC4変異非ヒト動物は、ゲノム中のORC4遺伝子に変異を有する。ここで非ヒト動物とは、例えばマウス、ラット等のげっ歯目動物等のヒト以外の動物を指し、中でも繁殖が容易である等の利点を有することからマウスを用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0016】
ゲノム中のORC4遺伝子に変異を有する状態とは、ゲノム中でORC4遺伝子に人為的に置換、欠失、付加、挿入等の変異を加えることにより、ORC4遺伝子の発現能が抑制又は喪失した状態等を含む。ゲノム中のORC4遺伝子が欠損した状態か否かは、動物の組織等から抽出したDNAについてPCR解析を行うこと等によって容易に判別できる。
【0017】
複製開始点複合体 (Origin Recognition Complex)サブユニット4(ORC4)遺伝子とは、ORC4をコードするヒト以外の動物の遺伝子であり、例えばcDNAとして配列番号1で示される塩基配列を含むもの等が挙げられる。この配列番号1で示されるORC4遺伝子は、ゲノム中で、エキソン1とエキソン2との間(配列番号1中145番目と146番目との間)に対応する位置にイントロン1、エキソン2とエキソン3との間(213番目と214番目との間)にイントロン2、エキソン3とエキソン4との間(290番目と291番目との間)にイントロン3、エキソン4とエキソン5との間(381番目と382番目との間)にイントロン4、エキソン5とエキソン6との間(454番目と455番目との間)にイントロン5、エキソン6とエキソン7との間(540番目と541番目との間)にイントロン6、エキソン7とエキソン8との間(589番目と590番目との間)にイントロン7、エキソン8とエキソン9との間(741番目と742番目との間)にイントロン8、エキソン9とエキソン10との間(1002番目と1003番目との間)にイントロン9、エキソン10とエキソン11との間(1111番目と1112番目との間)にイントロン10、エキソン11とエキソン12との間(1207番目と1208番目との間)にイントロン11、エキソン12とエキソン13との間(1275番目と1276番目との間)にイントロン12を有している。本発明においては、配列番号1で示されるORC4遺伝子の、ゲノムDNAの例えばイントロン1部位に、ジーントラップベクターを挿入することにより、ORC4遺伝子の機能を抑制又は喪失させることができる。
【0018】
本発明のORC4遺伝子変異非ヒト動物は、ORC4遺伝子の発現能が抑制又は喪失しているため、DNAの複製及び細胞周期の分子機構を解明する実験モデルとして有用である。すなわち、本発明に係るORC4遺伝子変異非ヒト動物は、例えば、ORCの分子レベルでの生体内動向の解析、欠損したORCタンパク質を補ってDNA複製を開始させる作用を有する物質の探索等の実験モデルや、がん等の増殖異常疾患の分子機構を解明するための実験モデルとして使用することができる。また、ORC4遺伝子変異非ヒト動物のホモ接合体では正常なORCタンパク質を産生することが出来ない為にDNA複製が行われず、胎生致死を示すが、死亡に至る前に母胎から取り出されたORC4遺伝子変異非ヒト動物の胚も、ORC4遺伝子変異非ヒト動物と同様に、DNAの複製開始機構を解明するための研究に使用することが可能である。また、ORC4遺伝子変異非ヒト動物の胚盤胞を例えば試験管内で培養して採取される内部細胞塊、さらにはこの内部細胞塊を培養して得られる培養細胞も、DNAの複製開始機構を解明するための実験等に使用することが可能である。
【0019】
次に、ORC4変異非ヒト動物の作製方法の一例として、ORC4変異マウスの作製方法を例に挙げて説明する。ORC4変異マウス(以下ORC4変異マウス(−/−)と称することがある。)は、例えば以下のように作製することができる。
【0020】
ORC4変異マウスは、ジーントラップ法により作製することが出来る。ジーントラップ法とは、プロモーターを持たないレポーター遺伝子(ジーントラップベクター)を細胞に導入し、偶発的に起こる内在性プロモーターからの発現を示標として、ゲノム上の遺伝子内へのトラップベクターの挿入体を選別する方法である。ジーントラップベクターをマウスES細胞に導入する事により、様々な内在遺伝子に変異を有するクローンを得る事が出来る。上記ジーントラップベクターのES細胞への導入は、常法に従って行うことができ、具体的にはエレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、レトロウイルスベクターの使用等が挙げられる。ES細胞としては、例えば胚盤胞の内部細胞塊由来のものを用いることができる。
【0021】
次いで、内在性遺伝子へのベクターの挿入の生じた細胞を選択する。選択は、例えば、ベクター内に存在する選択マーカーの表現型により行うことができる。選択マーカーの使用は、この選択を容易にする点で好ましい。
【0022】
さらに、5´RACE PCR法を用いて挿入体クローンのトラップされた遺伝子の一部の塩基配列を調べ、ESTデータベース検索を行うことによりORC4遺伝子をトラップされたクローン(ES細胞)を選択することが出来る。加えて、ゲノムPCRを行うことにより、ベクターの挿入位置を決定することが出来る。
【0023】
この選択されたES細胞をマウスの初期胚に注入し、この初期胚を偽妊娠雌マウスの胎内に移植し、個体へと発生させ、キメラマウスを産出させる。キメラマウスの生殖細胞が挿入体ES細胞に由来すれば、このキメラマウスを野生型マウスと交雑することによって、対立遺伝子の一方でORC4遺伝子に変異を持ったヘテロ接合体のマウスを得ることができる。そして、ヘテロ接合体のマウス同士を交雑することによって、対立遺伝子の両方でORC4遺伝子に変異を持ったホモ接合体の変異マウスを得ることができる。
【0024】
ホモ接合体の変異マウスを任意の時期に母胎から摘出することによって、ORC4遺伝子変異マウスの胚を得ることができ、さらに、胚盤胞を適当な条件下で培養することによって内部細胞塊を得ることができる。
前記ホモ接合体の変異マウス胚盤胞内部細胞塊の試験管内培養は、以下に示す方法で行うことが出来る。具体的には、受精後4.5日目の胚盤胞を酸性タイロード処理して透明帯を除去した後、ES培地で培養を2日間行うことにより、栄養膜細胞と内部細胞塊を容易に区別する事が出来る。また、露出した内部細胞塊を適当な条件下で培養することにより、ゲノム中のORC4遺伝子が変異したマウス培養細胞を得ることが可能である。
【0025】
なお、ORC4遺伝子変異マウスの作製方法は上述の方法に限定されず、種々の変更が可能である。また、上述の説明では、ORC4遺伝子変異マウスの作製方法を例に挙げて説明したが、マウス以外の非ヒト動物も、通常の方法に従って作製することができる。
【0026】
【実施例】
次に、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
【0027】
ORC4変異マウスは、具体的には以下に述べるような方法で作製することができる。
【0028】
〈実験1 トラップベクターの構築〉
トラップ法に用いるROSANβ−geoジーントラップレトロウイルスベクターの構築は以下の如く行った。すなわち、Friedrichらの作製したROSANβ−geo(Friedrich and Soriano, 1991)の3′−スプライス部位とβ−gal遺伝子の融合部にあるCla I サイトとb−gal遺伝子内にあるCla Iサイトを切断して得られた8.3キロ塩基対(kbp)のベクター側断片と、pAxCANLacZ (Kanegae et al., 1995)をCla I サイトで切断して得られた0.9 kbpのSV40 T抗原由来の核移行シグナルとを,b−galの融合遺伝子断片が正方向になるように結合して、pROSANβ−geoを作製した。なお、トラップベクターの構築については下記の文献に発表済みである。
Naruse−Nakajima, C. et al.: Involvement of EphA2 in the formation of the tail notochord via interaction with ephrinA1. Mechanisms of Development 102: 95−105 (2001).
【0029】
〈実験2 トラップウイルスの産生〉
ジーントラップウイルスをSorianoらの方法に従って以下のように作製した{ ADDIN ENRfu ,(Soriano et al., 1991)}。即ち、トラップベクターをウイルス粒子として産生させるため、トラップベクターに欠損しているgag、pol、env遺伝子を供給するGP+E−86細胞 { ADDIN ENRfu ,(Markowitz et al., 1988)} をジーントラップウイルス産生細胞として使用した。pROSANβ−geoをDra Iで切断した遺伝子断片20μgとPGKneobpA遺伝子断片2μgを同時に、エレクトロポレーション(500μF、290 V)により2×10個のGP+E−86細胞に導入した。その後、G418(GENETICINE;Gibco/BRL Life Technologies, Inc. MD)を1 mg/ml加えた培地で細胞を培養し、2−3週間後にジーントラップウイルス産生細胞クローンを単離した。ウイルス産生細胞クローンを15−cmプレートで培養し、飽和状態になったところで、ウイルス上清を回収した。
【0030】
〈実験3 ORC4変異マウスの作製〉
先ず、前記ROSANβ−geoジーントラップレトロウイルスを20pfu/mlで10個のR1 ES細胞(Nagy et al., 1993)に1時間感染させ、感染後のES細胞を300μg(活性型)/mlのG418(Gibco/BRL社製)添加培地で7〜10日間培養し、G418抵抗性のコロニーを選択した。R1ES細胞は、カナダトロントのMount Sinai Hospital, Samuel Lunenfeld Research Institute のAndras Nagy博士より分与された。培地としては、ダルベッコ変法イーグル培地(Gibco/BRL社製)に15%ウシ胎仔血清、非必須アミノ酸(Gibco/BRL社製)、1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco/BRL社製)、0.1mM 2−メルカプトエタノール(Gibco/BRL社製)、1000u/ml Leukemia Inhibitory Factor(Gibco/BRL社製)を加えたものを用いた。
【0031】
各クローンについて核型を調べ、染色体が正常数(40本)ある細胞が70%以上含まれるクローンを選んだ。各クローンより調製したRNAを用いて5′RACE PCR法によりトラップされた遺伝子の塩基配列を解析し、ORC4に変異を有するクローンを選択した。即ち、acid guanidinium thiocyanate−phenol−chloroform(AGPC)法により精製したtotal RNAを材料として、oligo (dT) セルロースカラムを用いてpoly (A) RNAを精製した。cDNA作製はFirst−Strand cDNA Synthesis kit(Amersham)を利用した。LacZ内の塩基配列を含むプライマー1(配列番号2)を用い、ジーントラップベクターから5’ 側へ逆転写を行った。作製したcDNAに対し、Terminal deoxinucleotidyl transferaseを用いてdCTPによるテーリングを行った後、cDNAを回収した。このcDNAを用いてnested PCRを行った。1回目のPCRにはlacZ内の塩基配列を含むプライマー2(配列番号3)と、Sal Iサイトを含むアンカープライマー(配列番号4)を用いた。なお、配列番号4のアンカープライマーにおいては、アンカー部分のアニーリング温度が高くなり過ぎないように,「G」のホモポリマーではなく途中に「i」(イノシン)を含む配列にしてある。2回目のPCRにはNLSの塩基配列を含むプライマー3(配列番号5)とアンカープライマーの塩基配列を含むアンプリフィケーションプライマー(配列番号6)を用いた。PCRのサイクルは両者とも、変性94℃、30秒間、アニーリング65℃、1分間、伸長72℃、1分間である。増幅された遺伝子断片をpBluescript KS (+)のSal IサイトとCla Iサイトにサブクローニングし、塩基配列の解析を行った。その結果、配列番号7に示す塩基配列を持つ遺伝子がトラップされたことがわかった。NCBIデータベース検索を行ったところ、配列番号7はORC4遺伝子のエキソン1であることがわかった。ORC4エキソン1プライマー(配列番号8)とプライマー2(配列番号3)を用いてゲノムPCRを行い、ベクター挿入部位近傍のゲノム配列をクローニングし塩基配列を決定したところ、選択されたORC4変異体では、図1のようにジーントラップベクターがイントロン1に挿入されていた。
【0032】
〈実験4 ノーザンブロット〉
ノーザンブロットは、前記AGPC法によって全RNAを肝臓から調製し、0.8%変性アガロースゲルにて全RNAを電気泳動し、ナイロンメンブレンに転写することにより行った。32P標識DNAプローブを用いた一般的な方法(Sambrook et al., 1989)によってハイブリダイゼーションを行った。
【0033】
前記ORC4変異体について、図2に示すごとく、前述したノーザンブロット法により、LacZをプローブに用いて解析を行ったところ、ORC4遺伝子がトラップベクターによりトラップされた結果、mRNAの転写がトラップベクター内のpoly(A)シグナルで停止していることが、検出された4.0kbのバンドから明らかとなった。
【0034】
〈実験5 ヘテロ接合体の作製〉
次に、選択したクローンから、改変した凝集法 (Nagy et al., 1993)によりキメラマウスを作製した。キメラマウスをC57BL/6Jの雌と交配し、ヘテロ接合体マウスを作製した。上記ヘテロ接合体マウスは、金沢大学大学院医学系研究科の動物実験施設内のクリーンルームで、SPF(specific pathogen−free)環境で維持されている。
【0035】
このヘテロ接合体マウスについて、X−gal染色により発現マーカーであるlacZの発現パターンを調べた結果、胚でも成獣でも発現が確認された。また、前述したノーザンブロット解析の結果、ヘテロ接合体の成獣においてトラップされた遺伝子は全身の臓器に発現していた。
【0036】
〈実験6 遺伝子型の決定〉
野生型染色体と変異型染色体を区別するために用いるPCR用プライマーとして、共通のforwardプライマー(配列番号9)、野生型に特異的なreverseプライマーwtR(配列番号10)、及び変異型に特異的なreverseプライマーmtR(配列番号11)を作製した。
【0037】
前記ヘテロ接合体同士の交雑を行い得られた胚の受精後4.5日目、7.5日目、及び出生後28日目の仔の遺伝子型を調べた結果を表1に示す。具体的には、各日齢の仔よりゲノムDNAを調製し、前記PCRプライマーを用いてPCR法により解析を行った。その結果、野生型(+/+)と同じ遺伝子型を示す個体とヘテロ接合体(+/−)とホモ接合体(−/−)との割合は、受精後4.5日目ではほぼメンデルの法則(1:2:1)に近いものであったが、受精後7.5日目ではホモ接合体は存在せず、ほぼメンデルの法則より期待される値に近い数の空の脱落膜が得られた。
【0038】
【表1】
Figure 2004344092
【0039】
受精後4.5日目と7.5日目の胚の実体顕微鏡写真を図3に示す。4.5日目の胚では、ヘテロ接合体(+/−)とホモ接合体(−/−)との区別は外見上付けられないが、7.5日目のホモ接合体の胚は変性してしまい、生存していなかった。
【0040】
〈実験7 変異胚内部細胞塊の試験管内培養〉
さらに詳細に解析を行うために、変異胚の内部細胞塊の試験管内培養を以下に示す方法で行った。受精後4.5日目の胚盤胞を酸性タイロード処理して透明帯を除去した後、ES培地で培養を2日間行うことにより、栄養膜細胞と内部細胞塊を容易に区別することができる。正常胚では受精後4.5日目までに胚盤胞がプレートに接着し、受精後6.5日目に胚性幹(ES)細胞様のコロニーが形成される。
【0041】
前述した方法で試験管内培養したホモ接合体(−/−)の内部細胞塊は、受精後7.5日目までは存在が確認できるが、受精後8.5日目ではホモ接合体の内部細胞塊は消失していた(図4)。
【0042】
〈実験8 DNA複製の状態〉
変異胚の試験管内培養におけるDNA複製の状態を、BrdU取り込みを指標に解析した結果を図5に示す。受精後7.5日目の胚において、ホモ接合体(−/−)内部細胞塊では、ヘテロ接合体(+/−)と比較してBrdU取り込み量の抑制が確認された。
【0043】
次に、核酸を染色する4’,6’−diamidino−2−phenylindole, dihydrochloride(DAPI)で細胞を染色したところ、受精後7.5日目のホモ接合体(−/−)の内部細胞塊には、アポトーシスを起こしている細胞に特異的に観察される染色体のドラムスティック型の凝集(矢印)が確認された(図6)。
【0044】
また、terminal deoxynucleotidyl transferase mediated dUTP nick end labeling(TUNEL法)を用いて染色体の断片化を観察した結果、ホモ接合体の内部細胞塊に染色体の断片化が多く確認された(図7)。
【0045】
さらに、M期特異的マーカーであるリン酸化ヒストンH3に対する抗体を用いて細胞を染色したところ、陽性細胞の数自体はヘテロ接合体(+/−)とホモ接合体(−/−)の間に差は見られなかったが、ホモ接合体のM期細胞では染色体のドラムスティック型の凝集(矢印)が確認された(図8)。
【0046】
以上の如く、本実施例のORC4変異マウスのホモ接合体は、受精後4.5日目までは正常に発生経過をたどるが、その後、受精8.5日目までに致死となった。これは、前述したように、ゲノム中のORC4遺伝子に変異を有し正常なORCタンパク質を新たに産生することが出来ない為、母マウス由来ORC4タンパク質の枯渇によりDNA複製の停止を引き起こし、従って細胞分裂も停止した結果であると考えられる。
【0047】
【発明の効果】
本発明のORC4変異非ヒト動物は、ゲノム中のORC4遺伝子に変異を有し、ホモ接合体では正常なORCタンパク質を産生することが出来ない為にDNA複製が行われず、胎生期中に致死となるが、この非ヒト動物やその胚、さらには内部細胞塊、この内部細胞塊を培養した培養細胞を用いて、これまで主に酵母における研究が進められてきたDNA複製開始機構を、哺乳類動物を用いて解析する事が可能となる。すなわち、上記非ヒト動物やその胚、さらには内部細胞塊、この内部細胞塊を培養した培養細胞を用いて、ORCの分子レベルでの生体内動向を解析することが可能である。加えて、哺乳類動物では発生段階及び細胞種によってDNA複製開始点が変化するといわれているが、ES細胞は適当な因子を添加することにより各種細胞に分化するので、標識したORCタンパク質を補って、各種細胞におけるDNA複製開始点の位置及び塩基配列の探索、DNA複製を開始させる作用を有する他の物質の探索、又は、DNAの複製及び細胞周期の分子機構を解明する実験モデルとして使用することが可能である。
【0048】
マウスの個体を用いるものとしては、Creと呼ばれる大腸菌P1ファージ由来の組換え酵素により特異的に認識される34塩基対のloxP配列で挟んだORC4遺伝子をORC4変異ES細胞に導入して、複製が可能なES細胞を単離する。次に、レスキューしたES細胞からマウス個体を作製し、loxP配列を認識してその間で組換えを起こすCreを臓器特異的にマウス胚や個体で発現させて導入したORC4を欠損させることにより、特定の臓器、例えばあまり細胞複製が起こらないとされている神経系や心筋などで細胞周期を停止させることで異常が現れれば、その臓器における幹細胞の機能、もしくは分裂を継続している細胞の存在を明らかにすることができる。加えて、導入するORC4遺伝子の発現量の強弱を調節することにより、がんに代表される増殖異常疾患の分子機構を解明する実験モデルとしても有用である。
【0049】
【配列表】
Figure 2004344092
Figure 2004344092
Figure 2004344092
Figure 2004344092
Figure 2004344092

【図面の簡単な説明】
【図1】ORC4の野生型染色体(wt)とトラップベクターが挿入された変異型染色体(mt)の模式図である。線及び矢印は各染色体から転写されるmRNAを示す。
【図2】野生型ES細胞(+/+)とトラップベクターが挿入された変異型ES細胞(+/?) の全RNAに対して、lacZをプローブにノザンハイブリダイゼーションを行った写真である。図1の模式図に示したように、変異型染色体から転写されるmRNAのサイズは4.0kbpであった。
【図3】ORC4変異マウス(−/−)及びコントロール(+/−)の受精後4.5日目(E4.5)及び受精後7.5日目(E7.5)の胚の写真である。矢印は円筒胚(+/−)または変性した胚(−/−)を示す。
【図4】ORC4変異マウス(−/−)及びコントロール(+/−)の胚の試験管内培養開始後6日目(受精後8.5日目)の写真である。ICMは内部細胞塊由来の細胞、trophoblastは栄養膜細胞を示す。
【図5】ORC4変異マウス(−/−)及びコントロール(+/−)の胚の試験管内培養開始後5日目(受精後7.5日目)の細胞にBrdUを取り込ませ、抗BrdUを用いて染色した写真である。線で囲んだ部分が内部細胞塊由来の細胞である。
【図6】ORC4変異マウス(−/−)及びコントロール(+/−)の胚の試験管内培養開始後5日目(受精後7.5日目)の染色体をDAPI染色した写真である。線で囲んだ部分が内部細胞塊由来の細胞である。矢印はドラムスティック状に変性した染色体を示す。
【図7】ORC4変異マウス(−/−)及びコントロール(+/−)の胚の試験管内培養開始後5日目(受精後7.5日目)の細胞をTUNEL法で染色した写真である。線で囲んだ部分が内部細胞塊由来の細胞である。
【図8】ORC4変異マウス(−/−)及びコントロール(+/−)の胚の試験管内培養開始後5日目(受精後7.5日目)の細胞を抗ヒストンH3を用いて免疫染色した写真である。線で囲んだ部分が内部細胞塊由来の細胞である。矢印はドラムスティック状に変性した染色体を示す。

Claims (8)

  1. ゲノム中のORC4遺伝子に変異を有することを特徴とする非ヒト動物。
  2. 前記ORC4遺伝子は、cDNAとして配列番号1記載の塩基配列を含むことを特徴とする請求項1記載の非ヒト動物。
  3. 前記変異は、ゲノム中のORC4遺伝子のイントロン1部位にジーントラップベクターが挿入されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の非ヒト動物。
  4. 前記非ヒト動物は、げっ歯目動物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非ヒト動物。
  5. 前記げっ歯目動物は、マウスであることを特徴とする請求項4記載の非ヒト動物。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の非ヒト動物の胚。
  7. 請求項1〜5のいずれかに記載の非ヒト動物の胚盤胞を培養して採取される内部細胞塊。
  8. 請求項7に記載の内部細胞塊を培養して得られる培養細胞。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2016093161A (ja) * 2014-11-17 2016-05-26 学校法人北里研究所 トランスジェニック非ヒト動物及びその製造方法、遺伝子改変非ヒト動物及びその製造方法、並びに発現ベクター製造用ベクター及び発現ベクター

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