JP4118579B2 - Ecat5ノックアウト細胞 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ES細胞に特異的に発現しているECAT5遺伝子がノックアウトされた細胞に関する。
【0002】
【従来の技術】
胚性幹(ES)細胞は着床前の胚盤胞内に存在する内部細胞塊(inner cell mass)に由来する多能性幹細胞であり、1981年にマウスにおいて初めて樹立された(Evans, M. J. and Kaufman, M. H. (1981). Nature 292 (5819) : 154-156)。ES細胞は培養下で多分化能および正常染色体型を保持したまま無限に増殖することができる。胚盤胞の中に注入することによって、胚発生に加わりキメラ動物を作ることができる。1987年に初めてノックアウトマウスが作成されて以来(Hooper, M., et al. (1987). Nature 326 (6110) : 292-295)、現在までに約3000遺伝子のノックアウトマウスが作製され、その遺伝子産物の機能が詳細に解析されている。
【0003】
これまでにマウスES細胞は発生工学的な道具として利用されてきたが、1998年にヒトES細胞の樹立が報告されたことにより(Thomson, J. A., et al. (1998). Science 282 (5391) : 1145-1147)、再生医学的な応用が期待され始めている。将来的にヒトES細胞から血液細胞、神経細胞、心筋細胞などへの分化が可能になれば、細胞移植治療により、現在治療法の無い疾患治療が可能になると考えられる。このような期待はES細胞の持つあらゆる体細胞に分化する能力(分化全能性)および未分化状態を維持したまま無限に増殖する能力(自己複製能)によるものである。
【0004】
一方、ES細胞は動物に移植した場合、奇形腫とよばれる腫瘍を形成する。この腫瘍形成能はES細胞を臨床応用する際の大きな懸念となっている。
実際に応用するにあたっては、ES細胞の分化全能性、高い増殖能および腫瘍形成能を規定する分子メカニズムを解明することが不可欠であるといえる。最近の研究で徐々に明らかになりつつあるが、不明な点は多く残されている。
【0005】
ES細胞はインビトロにおいてLIF(Leukemia Inhibitory Factor)存在下で培養することで未分化な状態で半永久的に増殖するが、LIFを除去することにより様々な細胞系譜へと分化する(Williams, R. L., et al. (1988). Nature 336 (6200) : 684-687; Smith, A. G., et al. (1988). Nature 336 (6200) : 688-690)。LIFシグナルはgp130とLIF受容体(LIFR)からなるヘテロ受容体を通して、Jak−Stat3経路およびRas−MAPK経路を活性化する。Stat3の活性化はES細胞の未分化状態維持に必要十分であることが示されている(Niwa, H., et al. (1998). Genes Dev. 12 (13) : 2048-2060; Matsuda, T., et al. (1999). EMBO J. 18 (15) : 4261-4269)。一方、Ras−MAPK経路の活性化はES細胞の分化を促進するという報告がある(Burdon, T., et al. (1999). Dev. Biol. 210 (1) : 30-43)。また、LIFと同じインターロイキン6ファミリーであるCNTF(ciliary neurotrophic factor)やOSM(oncostatin M)によっても未分化状態を維持することが可能である。一方Stat3を介さない未分化状態維持経路が存在するという報告もある(Dani, C., et al. (1998). Dev. Biol. 203 (1) : 149-162)。また、未分化状態特異的に発現する転写因子Oct3/4の発現量の増減がES細胞の分化能に重要な役割を果たしていることも明らかになっている(Niwa, H., et al. (2000). Nature Genet. 24 (4) : 372-376)。
【0006】
ES細胞の自己複製能は未分化状態維持と同時に増殖が促進されることによって成り立っており、この2つの特性は異なる因子が支えていると考えられる。
このように分化全能性や未分化状態維持機構に関してはいくつかの知見が得られているが、ES細胞の高い増殖能や腫瘍形成能の分子機構に関してはほとんど解明されていないのが現状である。
【0007】
一方、細胞の機能を決定する要因の1つとして特定の細胞において部位または時期特異的に発現の見られる遺伝子群の存在が考えられる。そこでES細胞の性質を規定する因子の候補として、未分化状態において特異的に発現する遺伝子群が挙げられる。本発明者らは既にEST(Expressed Sequence Tag)データベースを用いたDigital Differential Displayを行った結果、ES細胞または精巣において特異的に発現の見られる9遺伝子を同定している。その中の一つであるECAT5遺伝子の全長配列を決定したところ、Rasに類似するタンパク質であることがわかった。
【0008】
Rasは分子量約21kDの膜結合性タンパク質であり、H−Ras、N−RasおよびK−Rasの3種が知られている。1981年にラットの肉腫ウイルス由来の癌遺伝子として発見され、1982年にはヒトの腫瘍組織の多くから点変異を受けて活性化された形で検出された。Rasをはじめとする低分子量Gタンパク質は三量体型Gタンパク質とは異なりサブユニット構造を有していないが、GDPおよびGTPと特異的に結合し、結合したGTPを加水分解してGDPに変換するGTPase活性を有している。低分子量Gタンパク質にはこの活性に必要な共通した領域が存在し、きわめて高度に保存されている。腫瘍の原因となる点変異はRasタンパク質の12、13、61番目のいずれかのアミノ酸を置換するものであり、自身のGTPase活性が著しく低下している。通常、細胞内においてRasはほとんどがGDPと結合した不活性型であるのに対して、変異Rasの大部分はGTPと結合した活性型となり下流へとシグナルを送り続ける。現在ではRasの12番目のアミノ酸であるグリシン(G)をバリン(V)に置き換えた恒常的活性型(Ras V12)および17番目のアミノ酸であるセリン(S)をアスパラギン(N)に置き換えたドミナントネガティブ型(Ras N17)が作製され、多くの実験に用いられている。
【0009】
また、低分子量Gタンパク質は下流のエフェクターを認識するエフェクター領域を有している。この領域は各低分子量Gタンパク質に特異的な配列であり、この領域でエフェクターと相互作用する。GDP結合型とGTP結合型ではタンパク質の高次構造に大きな変化がみられ、エフェクター領域の構造も大きく異なっている。エフェクターはこの構造の違いを認識してGTP結合型に特異的に結合するものと考えられる。また、低分子量Gタンパク質はC末端領域にCAAXモチーフ(C:システイン、A:脂肪族アミノ酸、X:任意のアミノ酸)を有している。このモチーフがファルネシル化やゲラニルゲラニル化、メチル化、加水分解等の翻訳後修飾を受ける。この翻訳後修飾は低分子量Gタンパク質の細胞膜への局在化やエフェクターとの相互作用に必須である。
【0010】
活性化されたRasは多くの標的因子を活性化する。その代表的なものとして、Rafセリン/スレオニンキナーゼ、PI3−キナーゼ(phosphoinositide 3-kinase)、Rasファミリーに属する低分子量Gタンパク質Ralの活性化因子RalGDS(Ral guanine-nucleotide dissociation stimulator)が挙げられる。RafはMAPキナーゼカスケードの最上流に位置するキナーゼであり、PI3−キナーゼはその産物であるホスファチジルイノシトール3,4,5−三リン酸(PIP3)を介してAktキナーゼ、低分子量Gタンパク質Racなどのシグナル伝達系の活性化を、RalGDSはRalの活性化により細胞骨格系を制御する。このようにRasは複数の標的因子を活性化することにより、細胞増殖および分化のシグナルを制御している。
【0011】
H−Ras、N−Rasのノックアウトマウスはともに成体まで成長し交配することも可能である。H−、N−Rasのダブルノックアウトマウスも同様に正常である。一方、K−Rasのノックアウトマウスは胎生18日目で致死となる。しかしH−Ras遺伝子をK−Rasノックアウトマウスに導入したマウスは致死とならないことから、K−Rasの機能をH−Rasが代替できるということが考えられている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ECATの1つであるRas類似遺伝子ECAT5の機能や発現調節機構を解明し、かかる解明により得られた知見をもとに多分化能を維持しつつ、無制限な細胞増殖機構が抑制されている哺乳動物細胞、特に哺乳動物のES細胞を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく、ECATとEGFP(Enhanced Green-fluorescent protein)との融合タンパク質を細胞内に発現させることにより、ECAT5の細胞内局在の観察を行い、続いてES細胞における強制発現を行ってECAT5遺伝子の未分化状態維持機構への関与について調べた。
また、ECAT5ノックアウトES細胞を樹立し、それをもとに細胞レベルにおける機能、さらにECAT5ノックアウトマウスを作製することによって生体レベルにおける機能の解明を試みた。その結果、ECAT5ノックアウトES細胞では、多分化能を維持しつつ、奇形腫形成等の従来ES細胞の再生医療への応用を阻んできた問題点が改善されていることを見出して本発明を完成した。
【0014】
即ち本発明は下記の通りである。
(1)ECAT5がノックアウトされた哺乳動物細胞。
(2)ECAT5が配列番号1記載のマウスECAT5遺伝子であるか、または、配列番号3記載のヒトECAT5遺伝子である、上記(1)記載の哺乳動物細胞。
(3)ES細胞である、上記(1)または(2)記載の哺乳動物細胞。
(4)ES細胞がマウス由来であるかまたはヒト由来である、上記(3)記載の哺乳動物細胞。
【0015】
本発明においてECAT5(遺伝子)とは、ES細胞に特異的に発現する遺伝子(ES細胞特異的発現遺伝子ともいう)であって、具体的には配列番号1(マウスECAT5遺伝子)または配列番号3(ヒトECAT5遺伝子)に記載される配列を有する遺伝子であるが、当該遺伝子は、ES細胞に特異的に発現するという特徴と、その遺伝子がノックアウトされた場合に多分化能を維持しつつ奇形腫形成などの障害を誘導しないという特徴(後述)を併せ持つ限り、上記配列番号1または配列番号3の塩基配列中、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する、極めて高い相同性を有するものであってもよい。本発明においては、配列番号1または3で表される塩基配列を有する遺伝子に加え、それらの変異体も併せて便宜上ECAT5(遺伝子)と称する。
【0016】
ここで「極めて高い相同性を有する遺伝子」とは、具体的にはECAT5遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子を意味し、具体的には配列番号1または3のECAT5遺伝子と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有する遺伝子である。ここでストリンジェンシーはハイブリダイズ反応や洗浄の際の温度、塩濃度等を適宜変化させることにより調節することができ、所望の相同性に応じて設定され得る。
【0017】
本発明において「ECAT5がノックアウトされた哺乳動物細胞」とは、上記ECAT5遺伝子が破壊されて発現できないような状況にある哺乳動物細胞を意味する。具体的には、該哺乳動物細胞は、哺乳動物細胞中のECAT5遺伝子を標的遺伝子として、標的遺伝子の任意の位置で相同組換えを起こすベクター(ターゲティングベクター)を用いて当該遺伝子を破壊する方法(ジーンターゲティング法)や、標的遺伝子の任意の位置にトラップベクター(プロモーターを持たないレポーター遺伝子)を挿入して当該遺伝子を破壊しその機能を失わせる方法(遺伝子トラップ法)、それらを組み合わせた方法等の通常当分野でノックアウト細胞、トランスジェニック動物(ノックアウト動物含む)等を作製する際に用いられる方法を用いて該細胞中のECAT5遺伝子を破壊することによって作製される。相同置換を起こす位置あるいはトラップベクターを挿入する位置は、ECAT5遺伝子の発現の消失をもたらす変異を生じる位置であれば特に限定されないが、好ましくは転写調節領域、より好ましくは第2エクソンを置換する。
またECAT5遺伝子をノックアウトする他の方法としては、ECAT5遺伝子のアンチセンスcDNAを発現するベクターをES細胞に導入する方法や、ECAT5遺伝子の2重鎖RNAを発現するベクターをES細胞に導入する方法が挙げられる。
当該ベクターとしては、ウイルスベクターやプラスミドベクター等が包含され、通常の遺伝子工学的手法に基づき、例えばMolecular cloning 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等の基本書に従い作製することができる。又、市販されているベクターを任意の制限酵素で切断し所望の遺伝子等を組み込んで半合成することもできる。
【0018】
上記ベクターの細胞内への導入は、トランスフェクション、リポフェクション、マイクロインジェクション、衝撃ミサイル、エレクトロポレーション法等従来公知の方法によって行われる。
【0019】
当該ベクターが細胞内に導入され、また、ECAT5遺伝子がノックアウトされているか否かは、該ベクターが導入された細胞についてサザンブロットを行い正しく相同組換えが起こっていることを確認することによって、また、タンパク質レベルでは抗ECAT5抗体を用いてECAT5の発現が消失していることを確認することによっても知ることができる。
【0020】
本発明において「哺乳動物細胞」とは、ヒトならびにサル、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ等の種々の哺乳動物の細胞が挙げられ、好ましくはその未分化な状態でECAT5を発現しているES細胞であり、より好ましくはヒトES細胞ならびにマウスES細胞である。ES細胞としては、従来報告されている方法に従って適宜調製することもできるが、商業的に入手可能なもの、あるいは公知の手法、論文に基づいて得られるものを利用してもよい。例えば該細胞としては、マウス由来のRF8細胞やMG1.19細胞等が挙げられる。
【0021】
【実施例】
以下、参考例および実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0022】
参考例1:GATEWAY Cloning Technologyによるベクター作製
後述の実施例で使用したベクターの多くはGATEWAY Cloning Technology (GIBCO BRL) を利用して作製した。これは目的の遺伝子をもつエントリーベクターと、大腸菌や動物細胞での発現をもたらすデスティネーションベクターとの間で組換えを起こし、目的の遺伝子をもつ発現ベクターを迅速に構築するものである。エントリーベクターを作製するために、遺伝子特異的センス側プライマーの5'末端にattB1の部分的配列5'-AAAAAAgCAggC-3'(配列番号5)、アンチセンス側プライマーの5'末端にattB2部分的配列5'-AgAAAgCTgggT-3'(配列番号6)をそれぞれ付加し、これらのプライマーを用いてPCRを行う。さらに得られたPCR産物を鋳型として、attB1プライマー:5'-ggggACAAgTTTgTACAAAAAAgCAggCT-3'(配列番号7)およびattB2プライマー:5'-ggggACCACTTTgTACAAgAAAgCTgggT-3'(配列番号8)を用いてPCRを行う。PCRによるエラーを減らすために酵素はKOD plus (Toyobo)を用いた。結果、末端にattB配列が付加されたcDNAを得ることができる。得られたPCR産物をアガロースゲルで電気泳動し、目的のサイズのバンドをゲル抽出する。ゲル抽出産物をマニュアルに従いエントリーベクターpDONR 201に導入する。または制限酵素処理により切り出したcDNA断片をLigation High (Toyobo) を用いたライゲーション反応によりpENTR-1Aに導入する。これらの方法により、各遺伝子のエントリーベクターを作製した。
目的の発現ベクターのマルチクローニング部位にGATEWAYカセットを組込むことで、デスティネーションベクターに改造した。カセットを用いて調製したデスティネーションベクターは、ccdBに耐性で、gyrase変異株である大腸菌DB3.1で増幅させることが可能である。
【0023】
GATEWAYデスティネーションベクターをカセット中の制限酵素で処理し直線化したものをマニュアルに従いエントリークローンと反応させることにより、GATEWAYカセットとcDNAとの間で組換えが起こり目的の発現ベクターにcDNAを組み込むことができる。この方法により、非常に効率よくベクターを作製することができた。
【0024】
参考例2:デスティネーションベクターの作製
後述のRF8細胞に強制発現させるためにpCAG IRES neoを作製した。この発現ベクターはIRES (Internal Ribosomal Entry Site) により目的遺伝子と薬剤耐性遺伝子を1つのプロモーターの下流に直列に配置したものである。理論上は薬剤耐性であれば確実に目的遺伝子を発現しているという利点がある。またCAGプロモーターを用いており、目的遺伝子を普遍的に発現させることが可能である。pCAG IRES neoはpCX-EGFP(Ikawa, M., et al. (1995). FEBS Lett. 375 : 125-128)をNdeI/EcoRIで処理し、CAGプロモーター部分を切り出したものをpIRES neo (Clonetech) のNdeI/EcoRI siteに挿入して作製した。pCAG IRES neo-gwはpCAG IRES neoをEcoRIで処理し、Klenow (Toyobo) を用いて平滑末端化した後、ライゲーション反応によりGATEWAYカセットAを挿入して作製した。
pCAG IRES hyg-gwの作製にはpCAG IRES neo-gwをSpeIで処理することによりCAG-GATEWAYカセットを切り出し、これをpIRES hyg (Clonetech) のSpeI/SpeI siteに挿入して作製した。これらを用いて、GATEWAY Cloning Technologyにより目的遺伝子を挿入した。
また後述のMG1.19細胞用発現ベクターとして、pPHCAGGSを用いた(Niwa, et al. (1998). Genes Dev. 12 (13) : 2048-2060。このベクターも同様にCAGプロモーターを有している。またマウスポリオーマウイルスの複製開始点を有しているため、マウスポリオーマウイルスラージT抗原を恒常的に発現するMG1.19細胞中において染色体外で複製されることにより、目的遺伝子を安定に高発現させることが可能である。このベクターをXhoIで処理し、Klenowを用いて平滑末端化した後、ライゲーション反応によりGATEWAYカセットAを挿入してpPHCAGGS-gwを作製した。これを用いて、GATEWAY Cloning Technologyにより目的遺伝子を挿入した。また、GATEWAYカセットの前に読み枠が一致するようにmycまたはHAタグを挿入したpPHCAGGS-myc-gwおよびpPHCAGGS-HA-gwを作製した。HAタグはHA-tag-oligo-s (5'-AATTCACCATggggTACCCATACgATgTTCCggATTACgCTggATCCCTCgAgC-3':配列番号9) およびHA-tag-oligo-as (5'-gATCgCTCgAgggATCCAgCgTAATCCggAACATCgTATgggTACCCCATggTg-3':配列番号10)をアニーリングさせることにより作製した。これをpCAG IRES neoのEcoRI/BamHI siteに挿入しpCAG HA IRES neoを作製した。pCAG HA IRES neoをBamHIで処理し、Klenowにより平滑末端化した後、ライゲーション反応によりGATEWAYカセットBを挿入してpCAG HA IRES neo-gwを作製した。pCAG HA IRES neo-gwをSpeI/XhoIで処理することによりCAG-HA-GATEWAYカセットを切り出し、pPHCAGGSのSpeI/XhoI siteに挿入してpPHCAGGS-HA-gwを作製した。
細胞内局在観察のためにpPHCAGGS-EGFP-ECAT5を作製するために、まずpEGFP-C2 (Clonetech) をNheI/BamHIで処理することにより得られたEGFPのcDNAをpcDNA3.1 (Invitrogen) のNheI/BamHI siteに挿入しpcDNA3.1-EGFPを作製した。pcDNA3.1-EGFPをXhoIで処理し、Klenowを用いて平滑末端化した後、ライゲーション反応によりGATEWAYカセットCを挿入してpcDNA3.1-EGFP-gwを作製した。pcDNA3.1-EGFP-gwをEcoRIで処理することにより直線化したものをpDONR-ECAT5と反応させ、GATEWAY Cloning TechnologyによりpcDNA3.1-EGFP-ECAT5を作製した。
【0025】
参考例3:エントリーベクターの作製
ECAT5の全長cDNAを得るためにEST (Expressed Sequence Tag) の配列をもとに遺伝子特異的プライマー45328 Race1 (5'-ggATgTCCCATgTTACCACgTAACCT-3' :配列番号11) および45328 Race2 (5'-TggTgTCgggTCTTCTTgCTTgATTC-3' :配列番号12) を設計した。マウスES細胞のtotal RNAを鋳型として、5' RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends, Version 2.0 (GIBCO BRL) を用いてマニュアルに従い5' RACEを行った。PCR産物を1%アガロースゲルで電気泳動し、約1 kbのバンドをゲル抽出 (QIAquick Gel Extraction Kit : QIAGEN) した。ゲル抽出産物を用いて、マニュアルに従いTAクローニング (TOPO TA Cloning : Invitrogen) を行い、pCR2.1-ECAT5を作製した。添付のT7プライマーおよびM13 reverseプライマーを用いて塩基配列を確認した後、attB配列付加遺伝子特異的プライマーERAS-gw-s (5'-AAAAAAgCAggCTggggAATggCTTTgCCTA-3' :配列番号13) およびERAS-gw-as (5'-AgAAAgCTgggTCAAAgATCTTCAggCTACAg-3' :配列番号14)を用いてPCRを行い、翻訳領域を増幅した。得られた断片を用いてエントリークローンpDONR-ECAT5を作製し、GATEWAY エントリークローンのシークエンス用プライマーであるseq.LAプライマーおよびseq.LBプライマー(Invitrogen)を用いて塩基配列の確認を行った。ヒトECAT5の遺伝子配列を得るために遺伝子特異的プライマーhHRAS2-s (5'-gATCAgCACACAATAggCAT-3' :配列番号15) およびhHRAS2-as (5'-ACTCCCACCCACACAACACT-3' :配列番号16) を用いて、ヒトのゲノムDNAを鋳型にPCRを行った。得られた断片を用いてTAクローニングを行いpCR2.1-hECAT5を作製し、T7およびM13 reverseプライマーを用いて塩基配列を決定した。
【0026】
参考例4:目的遺伝子発現ベクターの構築
後述のECAT5ノックアウト細胞にECAT5発現ベクターを導入した細胞を樹立するためにpCAG IRES hyg-ECAT5を作製した。pCAG IRES hyg-gwをNotIで処理することにより直線化したものにpDONR-ECAT5を反応させ、GATEWAY Cloning Technologyにより作製した。
ECAT5の細胞内局在を観察するために、pPHCAGGS-EGFP-ECAT5を作製した。まずpcDNA3.1-EGFP-ECAT5をNheI/XbaIで処理することにより得られたEGFP-ECAT5融合遺伝子をKlenowを用いて平滑末端化し、pCAG IRES puroをEcoRIで処理しKlenowで平滑末端化したものに挿入してpCAG EGFP-ECAT5 IRES puroを作製した。
pCAG IRES puroはpCX-EGFPをNdeI/EcoRIで処理し、CAGプロモーター部分を切り出したものをpIRES puro (Clonetech) のNdeL/EcoRI siteに挿入して作製した。pCAG EGFP-ECAT5 IRES puroをEco47III/BamHIで処理することにより得られたEGFP-ECAT5融合遺伝子をT4ポリメラーゼ (Toyobo) で平滑末端化したものをpPHCAGGSをXhoIで処理してKlenowで平滑末端化したものに挿入して、pPHCAGGS-EGFP-ECAT5を作製した。
また抗ECAT5ポリクローナル抗体作製のために、pDONR-ECAT5をもとにGATEWAY Cloning Technologyを用いて、HIS-ECAT5融合タンパク質大腸菌発現用ベクターpDEST17にECAT5遺伝子を挿入した
【0027】
参考例5:BACスクリーニングおよび遺伝子構造解析
マウスゲノムにおけるECAT5遺伝子の構造を解析するためにECAT5遺伝子を含むBAC (Bacterial Artificial Chromosome) クローンのスクリーニングを行った。スクリーニングにはBACクローンDNAをブロットしたメンブレン (Mouse High Density BAC Colony DNA Membranes : Research Genetics) を使用しサザンブロットを行った。プローブはpCR2.1-ECAT5をEcoRIで処理することにより切り出したECAT5 cDNA断片を用いた。得られたECAT5遺伝子を含むBACクローンを用いて、マニュアルに従いTOPO Walker (Clonetech) による遺伝子構造解析を行った。BACクローンをAatII、BstXI、KpnI、NsiI、PstI、SacIまたはSphIで処理したものを用いて、5'方向の解析には、プライマーエクステンションに遺伝子特異的プライマーERAS-TW1 (5'-CTCAAgAAAgTCCgCTTCCCgCTCAg-3' :配列番号17) を用い、PCRに遺伝子特異的プライマーERAS-TW2 (5'-ggAACgCCAgAgCCCTgCTTACCTgT-3' :配列番号18) を用いた。3'方向の解析には、プライマーエクステンションに遺伝子特異的センスプライマーERAS-U527 (5'-CtggTgATggTgTgCTgggCgTCT-3' :配列番号19)を用い、PCRにERAS-S812 (5'-CgAATCAAgCAAgAAgACCCgACACCA-3' :配列番号20)を用いた。PCR産物を1%アガロースゲルで電気泳動し、目的のバンドをゲル抽出した。ゲル抽出産物を用いてTAクローニングを行い、5'方向は約4 kbのNsiI断片を用いてpCR2.1-ECAT5TW、3'方向は約2.5 kbのPstI断片を用いてpCR2.1-U5を作製した。
【0028】
参考例6:培養細胞
ジーンターゲティングには129/SvJae系マウス由来のES細胞であるRF8細胞株を用いた(Meiner, V. L., et al. (1996). Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93 (24) : 14041-14046。RF8細胞の培養にはマウス胎児繊維芽細胞由来のSTO細胞をマイトマイシンC (Roche) 処理することにより増殖を停止させたもの (MSTO) をフィーダーとして用いた。RF8細胞用培地は15% FBS (Fetal Bovine Serum : Hyclone), 0.1 mM Non Essential Amino Acids (GIBCO BRL), 2 mM L-glutamine (GIBCO BRL), 50 U/ml Penicillin-Streptomycin (GIBCO BRL), 0.11 mM 2-ME (GIBCO BRL) /Dulbecco's Modified Eagle Medium (DMEM : nacalai tesque) を用いた。RF8細胞を分化誘導する際には、0.1%ゲラチンでコートした100mmプレートに2×105個の細胞を撒き、培地に3×10-7 Mのレチノイン酸 (Sigma) を加えて5日間培養した。
細胞内局在観察にはMG1.19細胞を用いた。MG1.19細胞はCCE ES細胞に由来するマウスポリオーマウイルスラージT抗原を恒常的に発現するES細胞であり、ポリオーマの複製開始点を有するベクターpPHCAGGSを導入した場合、発現ベクターは染色体外で複製され、結果として非常に高く安定な発現を示す(Gassmann, M., et al. (1995). Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92 (5) : 1292-1296)。培養条件としては、0.1%ゲラチンでコートした細胞培養用プレートを用い、10% FBS, 0.1 mM Non Essential Amino Acids, 2 mM L-glutamine, 50 U/ml Penicillin-Streptomycin, 0.11 mM 2-ME/DMEMを用いた。フィーダー細胞非存在下で未分化状態を維持するために、1000 U/mlのLIF (ESGRO : CHEMICON) を使用直前に添加した。
全ての細胞の培養は温度37℃、CO2濃度5%、湿度100%の条件で行った。
全ての細胞を継代する際には、0.25% Trypsin/1m M EDTA (GIBCO BRL) を用いた。細胞の洗浄にはDulbecco's Phosphate Buffered Saline without Calcium and Magnesium (PBS : nacalai tesque) を用いた。
【0029】
参考例7:ノザンブロット
100 mmプレートにコンフルエントな状態の培養細胞をマニュアルに従い1 mlのTRIzol (GIBCO BRL) で処理し、クロロホルム抽出、エタノール沈殿後、25 μlのDEPC処理水に懸濁したtotal RNAを得た。精製したtotal RNA 10 μgと25 μlのRNA loading mix (GenHunter) と混合したものを65℃で10分間熱処理しホルマリン変性ゲル (0.72% agarose, 18% formalin, 0.02 M MOPS, 8 mM NaOAC, 1 mM EDTA, pH7.0) で電気泳動した後、Turbo Blotter (Schleocher & Schuell) を用いてナイロンメンブレン (Hybond N : Amersham) にブロットした。UV照射による固定を行い、68℃で30分間プレハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション用バッファーとしてQuickHyb (Stratagene) 10 mlを用いた。プローブはpCR2.1-ECAT5をEcoRIで処理することでECAT5 cDNA断片を切り出したものをrediprime II (Amersham) を用いて[32P]-dCTPによるラベリングを行った。ラベルしたプローブは液体シンチレーションカウンターにより放射線強度を測定した。12000000 cpmのプローブとサケ精子DNA 1 mgを混合し、100℃で5分間熱処理したものをプレハイブリダイゼーション後の反応容器内に加え、68℃で3時間ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション終了後、wash buffer 1 (2×SSC, 0.1% SDS) を用いて室温で15分間の洗浄を2回行った。続いて、wash buffer 2 (0.1×SSC, 0.1% SDS) を用いて68℃で30分間の洗浄を行った。洗浄後のメンブレンをイメージングプレート (Fuji Film) に一晩露光し、BAS 5000 (Fuji Film) により解析した。
【0030】
参考例8:サザンブロット
ゲノムDNAを得るために、24 wellプレートにコンフルエントな状態のES細胞を500 μlのlysis buffer (50 mM Tris-HCl pH8.0, 20 mM NaCl, 1 mM EDTA, 1% SDS) で処理、回収したものに100 μg/mlのProteinase K (nacalai tesque) を加え、55℃で一晩インキュベートした。またノックアウトマウスの遺伝子型解析には、数mm程度カットしたマウスの尾を同様に処理したものを用いた。その後、フェノールクロロホルム抽出、エタノール沈殿を行い、10mM Tris-HClに懸濁した。ゲノムDNA 20 μgをEcoRIで一晩処理したものを0.8%アガロースゲルで電気泳動した。泳動後のゲルを変性用バッファー (0.5 N NaOH, 1.5 M NaCl) に浸し30分間穏やかに撹拌した後、蒸留水で濯ぎ、中和用バッファー (0.5 M Tris-HCl pH7.5, 3 M NaCl) に浸し30分間穏やかに撹拌した。その後、蒸留水で濯ぎ、20×SSCに30分間浸し穏やかに撹拌した後、Turbo Blotterを用いてナイロンメンブレン (Hybond N : Amersham) にブロットした。UV照射による固定を行い、68℃で30分間プレハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション用バッファーとしてQuickHyb 10 mlを用いた。プローブはpCR2.1-ECAT5TWをEcoRIで処理することによって得られた0.7 kbのDNA断片をrediprime IIを用いて[32P]-dCTPによるラベリングを行った。ラベルしたプローブは液体シンチレーションカウンターにより放射線強度を測定した。12000000 cpmのプローブとサケ精子DNA 1 mgを混合し、100℃で5分間熱処理したものをプレハイブリダイゼーション後の反応容器内に加え、68℃で3時間ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション終了後、wash buffer 1を用いて室温で15分間の洗浄を2回行った。続いて、wash buffer 2を用いて68℃で30分間の洗浄を行った。洗浄後のメンブレンをイメージングプレートに一晩露光し、BAS 5000により解析した。
【0031】
参考例9:細胞内局在の観察
5×105個のMG1.19細胞を0.1%ゲラチンでコートしたカバーガラス入り6wellプレートに撒いた。翌日、12 μlのLipofectamine 2000を用いて4 μgのpPHCAGGS-EGFP-ECAT5をMG1.19細胞に導入した。24時間後、培地を除去しPBSで3回洗浄した。10%ホルマリン/PBSを加えて5分間固定を行った。その後PBSで3回洗浄し、透明マニキュアを用いてスライドガラスに固定した。これを共焦点顕微鏡 (Carl Zeiss) により100倍で観察した。
【0032】
参考例10:組換えタンパク質精製および抗体作製
抗ECAT5ポリクローナル抗体を作製した。PDEST17-ECAT5を組換えタンパク質発現用大腸菌BL21-SI (GIBCO BRL) にトランスフォーメーションし、NaCl不含アンピシリン含有 (100 μg/ml) LBプレートに撒いた。翌日、シングルコロニーを拾い1 mlで10時間培養後、500 mlのNaCl不含アンピシリン含有 (100 μg/ml) LB液体培地でO.D. = 0.6まで培養した。O.D. = 0.6に達した時点で300 mMのNaCl溶液を培地に添加することにより、組換えタンパク質 (HIS-ECAT5) の発現を誘導した。その後2時間培養し菌体を回収した。菌体を12 mlのバッファー1 (0.01 M Tris-HCl pH8.0, 8 M Urea, 0.1 M NaH2PO4) に再懸濁し、氷上で超音波処理を行ったものを10000 rpmで30分間遠心した。滅菌水で前処理した2 ml容量のポリスチレン製カラム (PIERCE) に2 mlのNi-NTA agarose (QIAGEN) を充填し、余分なバッファーを自然落下させた。その後、1 mlのバッファー2 (0.01 M Tris-HCl pH6.3, 8 M Urea, 0.1 M NaH2PO4) を加えて自然落下させ、遠心後の菌体上清をカラムに通した。4mlのバッファー2で3回洗浄後、1 mlのバッファー3 (0.01 M Tris-HCl pH4.5, 8 M Urea, 0.1 M NaH2PO4) で5回抽出を行った。回収した組換えタンパク質をSlide-A-Lyzer Cassette (PIERCE) を用いて6 M Urea/PBSに一晩透析した。その後、SDS-ゲル電気泳動およびCBB染色により組換えタンパク質の存在および量を確認し、これを抗原タンパク質とした。
抗体作製用動物として、2羽のニュージーランドホワイト種 (10週齢、♀) を用いた。
初回免疫は、400 μgの抗原タンパク質 (1 ml) と等容量のADJUVANT COMPLETE FREUND (DIFCO) を混合しエマルジョンを形成したものを20カ所程度背中に皮下注射した。4週間後、2回目の免疫からは200 μgの抗原タンパク質と等容量のADJUVANT INCOMPLETE FREUND (DIFCO) を混合しエマルジョンを形成したものを同様に20カ所程度皮下注射した。2回目の免疫以降は2週間に1回、5回目まで免疫注射を行った。免疫注射から1週間後、ラビットの耳の動脈より約20 mlの血液を採取した。採取した血液は4℃で一晩静置後、3000 rpmで10分間遠心し、上清を回収した。採血は免疫注射の翌週に行った。5回目免疫の翌週に耳動脈より可能な限り採血した後、心窄刺による全採血を行った。
得られた抗血清はウエスタンブロットに使用した。
【0033】
参考例11:ジーンターゲティング
ECAT5のジーンターゲティングを行うためのターゲティングベクターを作製した。5'側の相同領域として、ECAT5遺伝子のイントロン部分約3.3 kbを増幅するために遺伝子特異的プライマーERAS-S118 (5'-ACTgCCCCTCATCAgACTgCTAC-3' :配列番号21) およびERAS-AS264 (5'-ACTgTgCCCAAgCCTCgTgACTTT-3' :配列番号22)を用いてBACクローンを鋳型にPCRを行い、得られた断片を用いてTAクローニング (pGEM-T Easy : Promega) を行い、pGEM-ECAT5 LAを作製した。3'側の相同領域として、TOPO Walkerを用いた遺伝子構造解析を行った際に作製したpCR2.1-U5を用いた。pGEM-ECAT5 LAをNotI/SacIIで処理することにより得られた5'側相同領域 (long arm) をpBS-SK β-geoのNotI/SacII siteにを挿入した。またpCR2.1-U5をEcoRIで処理して得られた3'側相同領域 (short arm) をKlenowを用いて平滑末端化したものを、pBS-SKβ-geo をSalIで処理しKlenowで平滑末端化したものに挿入した。尚、pBS-SK β-geoは、pGT1.8-Iresβgeo(Mountford P., et al. (1994). Proc. Natl. Acad. Sci. USA (91) 4303-7)のBgIII/SalI断片をpBluescript SK(-)(Stratagene社)のBamHI/SalI部位へ挿入し作製した。
ECAT5ジーンターゲティングにはプロモータートラップ法を用いた。作製したターゲティングベクターはプロモーターを持たず、理論上、相同組換えが正しく起こった場合に内在性プロモーターによりβ-geo (β-galactosidase/neomycin resistance cassette) 遺伝子が転写されG418耐性クローンとなる。この方法により偽陽性を減らすことが可能である。
またPCRによるスクリーニングの際に用いるポジティブコントロールとしてコントロールベクターを作製した。short armとして用いた領域からさらに0.2 kb下流までの領域を増幅するために、遺伝子特異的プライマーERAS-S812 (5'-CgAATCAAgCAAgAAgACCCgACA-3' :配列番号23) およびERAS CV-L (5'-CCCACTggCCCAgACgTCgAggAT-3' :配列番号24) を用いてBACクローンを鋳型にPCRを行った後、TAクローニングを行いpCR2.1-ECAT5 CVSAを作製した。pCR2.1-ECAT5 CVSAをEcoRIで処理して得られた断片をKlenowを用いて平滑末端化したものを、pBS-SK β-geo をSalIで処理しKlenowで平滑末端化したものに挿入してコントロールベクター (ERAS CV) を作製した。
作製したターゲティングベクターをSacIIで一晩処理し直線化を行い、フェノールクロロホルム抽出、エタノール沈殿後、PBSに懸濁した。前日に100 mmプレートにコンフルエントな状態のRF8細胞を1 : 2で継代したものをPBSで洗浄し、トリプシン処理を行い15 mlチューブに回収した。800 rpmで5分間遠心して上清を除去した後、細胞を800 μlのPBSに懸濁した。細胞懸濁液に20 μgの直線化したターゲティングベクターを加え、エレクトロポレーション用キュベット (BIORAD) へ移した。0.25 kV、500 μF、 抵抗無限 (Gene pulser II, BIORAD) でエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーション後、細胞を室温で15分間静置し、2枚の100 mm MSTOプレートにまいた。翌日から200 μg/mlのG418 (nacalai tesque) で選択を行った。10日後、マイクロピペットを用いてコロニーを拾い、96 well MSTOプレートおよび0.1%ゲラチンでコートした96 wellプレートへ移した。コンフルエントになった時点でMSTOプレートの細胞は凍結保存し、0.1%ゲラチンでコートしたプレート上にまいた細胞はPBSで洗浄後、Tail Tip buffer (50 mM Tris-HCl, 20 mM NaCl、1 mM EDTA, 1% SDS)を20 μl加えて、55℃で2時間処理してDNAを抽出した後、4 μlを100 μlの滅菌水に溶かし、100℃で5分間処理した。そのうち1μlを鋳型として相同組換え体特異的なプライマーbgeo-screening1 (5'-AATgggCTgACCgCTTCCTCgTgCTT-3' :配列番号25) およびERAS-screening1 (5'-gggAgggAgggCAAgggCAgAgggCT-3' :配列番号26) を用いてPCRによるスクリーニングを行った。PCRの結果、相同組換えが正しく起こっていると考えられるクローンについてサザンブロットを行った。ゲノムDNA 20 μgをEcoRIで一晩処理したものを用いプローブはpCR2.1-ECAT5TWをEcoRIで処理することによって得られた0.7 kbのDNA断片を用いた。また抗ECAT5ポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロットによる発現の確認を行った。
また、樹立したECAT5ノックアウト細胞にECAT5発現ベクターを導入したクローン (KO + ECAT5) を以下の通りに作製した。
pCAG ECAT5 IRES hygをMluIで一晩処理し直線化を行い、フェノールクロロホルム抽出、エタノール沈殿後、PBSに懸濁した。100 mmプレートにコンフルエントな状態のECAT5ノックアウト細胞に上記と同様の方法でエレクトロポレーションにより導入した。エレクトロポレーション後の細胞はハイグロマイシン耐性のフィーダー細胞 (R-PMEF-H : Specialty Media) に撒き、翌日から100 μg/mlのハイグロマイシンで選択した。この際培地には1000 U/mlのLIFを使用直前に添加した。10日後、マイクロピペットを用いてコロニーを拾い、24 well MSTOプレートへ移した。抗ECAT5ポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロットにより、ECAT5の発現を確認した。
【0034】
参考例12:細胞増殖速度測定
野生型 (RF8細胞)、ジーンターゲティングの際に得られた非相同組換え体クローン (RI)、ECAT5ノックアウトおよびKO + ECAT5細胞を24 wellプレートに1×104個/well撒き、培地交換は2日おきに行った。測定日に細胞をPBSで1回洗浄後、100μlのトリプシンで処理し、細胞を剥がし400 μlの培地で中和した後、ピペッティングにより単一化させた細胞をチューブに回収した。そのうち100 μlを用いてコールターカウンターにより細胞数を測定した。回収した細胞をさらに24 wellプレートに1×104個/well撒き、測定を繰り返した。測定の際、コールターカウンターの測定範囲は上限を18 μm、下限を9 μmとした。この実験はMSTOプレート上、0.1%ゲラチンでコートしたプレート上で培地に1000 U/mlのLIFを添加した場合としていない場合について行った。
【0035】
参考例13:奇形腫形成
6 well MSTOプレートにコンフルエントな状態の野生型 (RF8細胞)、非相同組換え体クローン (RI)、ECAT5ノックアウトおよびKO + ECAT5細胞を500 μlのトリプシンで処理し、2 mlの培地で中和しチューブに回収した。800 rpmで5分間遠心後、上清を除去し、PBSで細胞を1×107個/mlに調製した。
6週齢の免疫不全マウス (BALB/cAJc1-nu, ♀) をジエチルエーテル麻酔した後、1×106個 (100 μl) の細胞を両後肢基部背側に皮下注射した。4週間後、マウスを頸椎脱臼により安楽死させ、奇形腫を摘出した。摘出した奇形腫は重量を測定し、4%ホルマリン/PBS中で保存した。
【0036】
参考例14:ECAT5ノックアウトマウス作製
ECAT5ノックアウトマウスを作製を行った。ECAT5ノックアウト細胞をC57BL/6J由来のブラストシストにインジェクションしたものを偽妊娠マウス (ICR ♀)の子宮に移植した。誕生したキメラマウスとC57BL/6Jを交配させることにより、ECAT5ノックアウトマウスを作製した。RF8細胞は毛色が茶色 (agouti) になる優性遺伝子を有しているため、誕生したマウスの内で毛色が茶色なもののみを選択した。約4週齢に達した時点で尾の先端数mmをカットした。カットした尾からゲノムDNAを抽出し、サザンブロットによる遺伝子型の確認を行った。
【0037】
実施例1 ECAT5の同定
ES細胞において高頻度に発現の見られるESTをもとに5' RACEを行った結果、約1 kbの明瞭なPCR産物を得た。その塩基配列を決定した結果、Ras類似の遺伝子であることがわかった。マウスECAT5は約24 kDのタンパク質でH-Rasとアミノ酸レベルにおいて約36%の相同性を有している。Rasタンパク質をはじめとする低分子量Gタンパク質の有するGTPase活性およびGDP/GTP結合に必要な領域であるG1〜G5は非常に高く保存されていた。また、低分子量Gタンパク質が翻訳後修飾を受けて細胞膜に結合するために必要なCAAXモチーフ (C : システイン、A : 脂肪族アミノ酸、X : 任意のアミノ酸) は保存されていた。
【0038】
実施例2:ECAT5の発現
未分化ES細胞、レチノイン酸処理により分化誘導したES細胞および12の体細胞由来のRNAを用いてノザンブロットによるECAT5の発現確認を行った。結果、コントロールとして用いたH-Rasは全ての組織で発現が見られた。一方、ECAT5は未分化ES細胞のみで発現が見られ、分化誘導後および体細胞においては全く発現が見られなかった。抗ECAT5ポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロットの結果、分化誘導後のES細胞においてはECAT5は発現していないことをタンパク質レベルで確認した。また、MG1.19細胞においてもECAT5の発現が確認されたことから、ECAT5はRF8細胞に特有の遺伝子ではないということを確認した。
【0039】
実施例3:ECAT5の細胞内局在
ECAT5の細胞内局在を観察するために、MG1.19細胞にEGFP-ECAT5融合タンパク質を発現させた。共焦点顕微鏡で観察を行った結果、ECAT5は他のRasタンパク質と同様に細胞膜の細胞質側に局在していることが明らかになった。
【0040】
実施例4:ECAT5の遺伝子構造
BACスクリーニングおよびTOPO Walkerを用いた遺伝子構造解析の結果、上流方向はNsiI断片により約4 kb、下流方向はPstI断片により約2.5 kbの領域を得ることができた。ECAT5は2つのエクソンからなり、第1エクソンと第2エクソンの間には約3.5 kbのイントロンが存在することがわかった。
【0041】
実施例5:ECAT5ノックアウト細胞の樹立
ECAT5の第2エクソンをβ-geoカセット置換するターゲティングベクターをRF8細胞に導入し(図1)、形成されたG418耐性の96コロニーをスクリーニングした結果、2クローンが陽性であり、サザンブロットにより正しく相同組換えが起こっていることが確認できた(図2A)。得られた2クローンについて、抗ECAT5ポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロットによる発現確認を行った結果、ECAT5の発現は完全に消失していることを確認した(図2B)。1回の組換えでサザンブロットにおける野生型由来のバンドおよびタンパク質レベルの発現が消失したことから、マウスのECAT5遺伝子は性染色体に存在することが強く示唆された。
また、ECAT5ノックアウト細胞にハイグロマイシン耐性遺伝子を有するECAT5発現ベクターを導入した。抗ECAT5ポリクローナル抗体によるウエスタンブロットを行い、2クローンのECAT5ノックアウト細胞それぞれについて、導入したcDNAによりECAT5の発現が回復したクローン (KO + cDNA) を得たことを確認した(図2B)。
【0042】
実施例6:ECAT5ノックアウト細胞の増殖能
24 well MSTOプレート上、0.1%ゲラチンでコートしたプレート上で培地に1000 U/mlのLIFを添加した場合としていない場合においてECAT5ノックアウト細胞の細胞増殖速度を測定し、野生型 (RF8)、非相同組換え体 (RI)、ノックアウト細胞にECAT5発現ベクターを導入した細胞 (KO + cDNA) との比較を行った(図3)。3種の条件全てにおいて、野生型のES細胞と比較して増殖能が低下しており、特に0.1%ゲラチンでコートしたプレート上で培地にLIFを添加していない場合において大きな差が見られた。また、ECAT5ノックアウト細胞にECAT5発現ベクターを導入した細胞 (KO + cDNA) は完全ではないが増殖能の回復が見られた。
【0043】
実施例7:ECAT5ノックアウト細胞における奇形腫の形成
ES細胞を免疫不全マウスに皮下注射し奇形腫を形成させ、その重量を比較した(図4)。野生型と比較してECAT5ノックアウト細胞を皮下注射した場合には、形成される腫瘍の程度が小さく(重量の減少)、明らかに奇形腫の形成が抑制されていた。また、ECAT5ノックアウト細胞にECAT5発現ベクターを導入した細胞 (KO + cDNA)はECAT5ノックアウト細胞と比較して部分的に奇形腫が形成され、その重量も増加していた。
【0044】
実施例8:ECAT5ノックアウトマウスの遺伝子型解析
ECAT5ノックアウト細胞をマウスのブラストシストにインジェクションし、偽妊娠させたメスのICRマウスの子宮内に移植することによりキメラマウスを作製した。結果、キメラ率が90%以上のマウスがオス、メス共に1匹ずつ得られた。キメラ率が約80%のマウスはオス、メス共に2匹ずつであった。キメラ率が約50%のマウスはオス、メス共に1匹ずつで、キメラ率が50%以下のマウスはメスが8匹であった。キメラ率が90%以上のオスまたは約80%のオスとメスのC57BL/6Jマウスを交配させ、誕生したマウスの遺伝子型をサザンブロットにより解析した結果、メスのヘテロ (+/-) マウスが誕生していることが確認できた。また、キメラ率が90%以上のメスとオスのC57BL/6Jマウスを交配させ、誕生したマウスの遺伝子型をサザンブロットにより解析した結果(図5)、オスのECAT5 nullマウスであることが確認できた。
【0045】
ECAT5ノックアウト細胞をマウスのブラストシストにインジェクションした結果、キメラマウスを作り、生殖系列にも寄与したことから分化多能性は失われていないと考えられ、また一方ではECAT5ノックアウトES細胞においては増殖能の低下が観察された。
またECAT5ノックアウト細胞にECAT5のcDNAを導入した結果、その増殖は完全ではないが回復した。これらの結果より、ECAT5はES細胞の高い増殖能維持に関与していると考えられる。また、ES細胞を免疫不全マウスの皮下に移植すると、多種類の組織が入り交じった奇形腫を形成する。しかしECAT5ノックアウト細胞を皮下注射しても、奇形腫はほとんど形成されなかった。
【0046】
【発明の効果】
ECAT5ノックアウトES細胞が細胞移植療法の細胞供給源として、正常細胞よりも優れている可能性が示唆された。ECAT5ノックアウトES細胞は分化全能性を保持しており、しかも正常ES細胞よりは遅いものの依然高い増殖能を有しているため、体外で様々な分化細胞を充分量作り出すことが可能であると考えられる。一方、増殖能は維持しつつ奇形種形成能がほとんど失われていることから、患者に移植した際の腫瘍形成の危険性が正常細胞よりはるかに低いことが期待される。
【0047】
【配列表フリーテキスト】
配列番号5:attB1の部分配列
配列番号6:attB2の部分配列
配列番号7:attB1プライマー
配列番号8:attB2プライマー
配列番号9:HA−タグの調製のために使用されるオリゴヌクレオチド
配列番号10:HA−タグの調製のために使用されるオリゴヌクレオチド
配列番号11:ECAT5 cDNAを得るためのプライマーとして作用すべく設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号12:ECAT5 cDNAを得るためのプライマーとして作用すべく設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号13:attB配列が付加された遺伝子特異的プライマー
配列番号14:attB配列が付加された遺伝子特異的プライマー
配列番号15:PCRのための遺伝子特異的プライマー
配列番号16:PCRのための遺伝子特異的プライマー
配列番号17:5’方向の解析におけるプライマーエクステンションのための遺伝子特異的プライマー
配列番号18:5’方向の解析におけるPCRのための遺伝子特異的プライマー
配列番号19:3’方向の解析におけるプライマーエクステンションのための遺伝子特異的プライマー
配列番号20:3’方向の解析におけるPCRのための遺伝子特異的プライマー
配列番号21:ECAT5イントロン領域を増幅するための遺伝子特異的プライマー
配列番号22:ECAT5イントロン領域を増幅するための遺伝子特異的プライマー
配列番号23:コントロール(ポジティブ)ベクターの調製におけるPCR用の遺伝子特異的プライマー
配列番号24:コントロール(ポジティブ)ベクターの調製におけるPCR用の遺伝子特異的プライマー
配列番号25:相同組換え体に特異的なプライマー
配列番号26:相同組換え体に特異的なプライマー
【0048】
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ECAT5ジーントラップの模式図である。ECAT5遺伝子を相同組換えによってノックアウトするために、図示されるターゲティングベクターをES細胞に導入した。正しく相同組換えが起こった場合、ECAT5遺伝子の第2エクソンがIRES−β−geo−pAカセットに置換される。
【図2】図2は、ECAT5ノックアウト細胞をノザンブロットおよびウエスタンブロットで確認した図である。A図は、G418耐性クローンのゲノムDNAをEcoRIで切断し、サザンブロットを行った結果を示している。野生型では9kb、相同組換え体では4.3kbのバンドが検出された。B図は、G418耐性クローンの細胞抽出液を用いて抗ECAT5ポリクローナル抗体によるウエスタンブロットを行い発現確認を行った結果を示している。また、ECAT5ノックアウト細胞にECAT5発現ベクターを導入した細胞に対し同様にしてECAT5の発現確認を行った。ノックアウト細胞ではECAT5の発現は消失し、ECAT5発現ベクターを導入することによりECAT5発現が回復した。
【図3】図3は、野生型のES細胞、ECAT5ノックアウトES細胞、および当該ノックアウトES細胞にECAT5発現ベクターを導入した細胞の3種類の細胞を用いて、細胞の増殖速度について調べた結果を示すグラフである。WTは野生型、RIは非相同組換え体クローン、KOはECAT5ノックアウト細胞、KO+cDNAはECAT5ノックアウト細胞にECAT5発現ベクターを導入した細胞を示している。
【図4】図4は、野生型のES細胞、ECAT5ノックアウトES細胞、および当該ノックアウトES細胞にECAT5発現ベクターを導入した細胞の3種類の細胞を用いて、奇形腫の形成について調べた結果を示すグラフである。WTは野生型、KOはECAT5ノックアウト細胞、KO+cDNAはECAT5ノックアウト細胞にECAT5発現ベクターを導入した細胞を示している。
【図5】図5は、ECAT5ノックアウトマウスの遺伝子型解析の結果を示すグラフである。作製したECAT5ノックアウトマウスの尾から抽出したゲノムDNAをEcoRIで処理し、サザンブロットによるマウスの遺伝子型の解析を行った。ECAT5遺伝子はX染色体上に存在するので、X染色体が1本のオスでは第1世代目で、野生型かあるいはnull型になる。X染色体が2本のメスは第1世代で野生型またはヘテロ型(+/−)となる。

Claims (3)

  1. 以下の (1) または (2) に示される内在性遺伝子がノックアウトされた哺乳動物の胚性幹(ES)細胞。
    (1) 配列番号1または配列番号3記載のコード配列を有する遺伝子
    (2) 配列番号1または配列番号3記載のコード配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするコード配列を有する遺伝子であって、ES細胞に特異的に発現し、かつ当該遺伝子がノックアウトされたES細胞が多分化能を維持しつつ奇形腫形成を誘導しないものである遺伝子
  2. 伝子が配列番号1記載のコード配列を有する遺伝子であり、哺乳動物がマウスである、請求項1記載のES細胞。
  3. 伝子が配列番号3記載のコード配列を有する遺伝子であり、哺乳動物がヒトである、請求項1記載のES細胞。
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