JP2004331571A - ラブデン酸の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】下記(a)、(b)及び(c)に示される工程を含むことを特徴とする、式(4)で表されるラブデン酸の製造方法。
工程(a):式(1)で表される化合物を、バナジン酸類又はモリブデン酸類を触媒として用い、式(2)で表される化合物へ変換する工程。
【化18】
(式(2)中、波線は二重結合がE体又はZ体、あるいはE体とZ体の混合物を表し、3箇所の点線は、単結合2箇所と二重結合1箇所を表す。)
工程(b):式(2)で表される化合物を、ルテニウム−ホスフィン錯体を触媒として、式(3)で表されるアルデヒド化合物へ変換する工程。
【化19】
(式(2)中の波線及び式(2)、(3)中の点線は前記と同じ意味を表す。)
工程(c):式(3)で表される化合物を酸化することにより、一般式(4)で表されるラブデン酸へ変換する工程。
【化20】
(式(3)及び(4)中、点線は前記と同じ意味を表す。)
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、メラニンの生産を抑制し細胞賦活活性と抗菌作用を有する生理活性物質に分類されるラブド−8(17)−エン−15−オリックアシッド、ラブド−7−エン−15−オリックアシッド及びラブド−8−エン−15−オリックアシッド(以下、これら3つの化合物をまとめてラブデン酸とする)の製造方法に関する。
本発明の製造方法によって、これら3つの化合物のいずれか、又はこれら3つの化合物の2種類もしくは3種類の混合物が得られる。
【0002】
【従来の技術】
ラブデン酸は植物のシスタスラブダナムに含まれている化合物で、メラニンの生産を抑制し細胞賦活活性と抗菌作用を有する生理活性を有する化合物として知られているが、この化合物について中間体までの合成方法がいくつか知られている。
例えば、酸化することでラブデン酸に変換されるアルデヒド体の合成に関しては、Aust.J.Chem.(1988),41(5),711−25に以下の反応が報告されている。
【化8】
この文献の記載によると、化合物(B)のアルデヒドは化合物(A)のマヌールを、PCCを使用して酸化的にアリル転位後、鉄触媒を用いて共役オレフィンを選択的に水素化することにより合成しているが、これ以降についての記述は無い。さらにこの方法では毒性の強いクロム化合物やペンタカルボニル鉄を使用しており実用上問題である。
また、化合物(B)の前駆体となり得るアリルアルコールの合成は、Tetrahedron Lett.(1988)、29(9)、1017−20に報告されている。
【化9】
この文献の記載によると、式(5)で示したスクラレオールを式(6)で示した1級のアリルアルコールにアリル転位させる反応は、上記スキームに示したように式(5)の水酸基をアセチル化後、パラジウム触媒を使用して転位を起こさせ、アセチル基を加水分解することにより得られるとされている。しかし、この方法は高価なパラジウム化合物を使用し、その使用量も多く経済的に有利であるとは考えられない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような現状をふまえ、毒性が低く、経済的にも有利な、多様な生理活性を有するラブデン酸の製造法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、式(1)又は式(5)で示される化合物を出発原料とし、安価で経済的に有利な方法でラブデン酸を製造できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0005】
本発明は以下の内容を包含する。
(i)下記(a)、(b)及び(c)に示される工程による、式(4)で表されるラブデン酸の製造方法。
工程(a):式(1)で表される化合物を、バナジン酸類又はモリブデン酸類を触媒として用い、式(2)で表される化合物へ変換する工程。
【化10】
(式(2)中、波線は二重結合がE体又はZ体、あるいはE体とZ体の混合物を表し、3箇所の点線は、単結合2箇所と二重結合1箇所を表す。)
工程(b):式(2)で表される化合物を、ルテニウム−ホスフィン錯体を触媒として、式(3)で表されるアルデヒド化合物へ変換する工程。
【化11】
(式(2)中の波線及び式(2)、(3)中の点線は前記と同じ意味を表す。)
工程(c):式(3)で表される化合物を酸化することにより、一般式(4)で表されるラブデン酸へ変換する工程。
【化12】
(式(3)及び(4)中、点線は前記と同じ意味を表す。)
(ii)下記(d)、(e)、(f)及び(g)に示される工程による、式(4)で表されるラブデン酸の製造方法。
工程(d):式(5)で表される化合物を、バナジン酸類又はモリブデン酸類を触媒として用い、式(6)で表される化合物へ変換する工程。
【化13】
(式(6)中の波線は二重結合がE体又はZ体、あるいはE体とZ体の混合物を表す。)
工程(e):式(6)で表される化合物を、ルテニウム−ホスフィン錯体を触媒として、式(7)で表されるアルデヒド化合物へ変換する工程。
【化14】
(式(6)中の波線は前記と同じ意味を表す。)
工程(f):式(7)で表される化合物を酸化することにより、一般式(8)で表されるヒドロキシカルボン酸化合物へ変換する工程。
【化15】
工程(g):式(8)で表されるヒドロキシカルボン酸に脱水反応を行い、式(4)で表されるラブデン酸へ変換する工程。
【化16】
(式(4)中、3箇所の点線は、単結合2箇所と二重結合1箇所を表す。)
(iii)工程(a)及び工程(d)において、反応系に添加物として塩基性化合物又は二酸化炭素を加えることを特徴とする(i)又は(ii)のいずれかに記載の製造方法。
(iv)工程(b)及び工程(e)において、ルテニウム−ホスフィン錯体が下記一般式(9)
[RuX2(Y)]n (9)
(式(9)中、Xはハロゲン原子を表し、Yは中性配位子を表し、nは2以上の整数を表す。)
で表されるルテニウム化合物とホスフィン化合物から調製されることを特徴とする(i)〜(iii)のいずれかに記載の製造方法。
(v)工程(b)及び工程(e)において、ルテニウム−ホスフィン錯体中のホスフィンが、トリ(m−トリル)ホスフィン、トリ(p−トリル)ホスフィン又はトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンの中から選ばれるものであることを特徴とする(i)〜(iv)のいずれかに記載の製造方法。
(vi)(i)〜(v)のいずれかに記載の方法で製造した、式(4)で表されるラブデン酸を含有する皮膚外用剤。
【0006】
以下に、本発明の製造方法を工程ごとに説明する。
・工程(a)及び工程(d):(アリル転位反応)
この反応は、3級アリルアルコールである式(1)で示されるマヌールもしくは13−エピ−マヌール又は式(5)で示されるスクラレオールもしくは13−エピ−スクラレオールを、触媒としてバナジン酸類又はモリブデン酸類を用いて、式(2)及び式(6)で示される1級アリルアルコールを製造する工程である。ここで使用する触媒としてはバナジン酸類又はモリブデン酸類が挙げられる。具体的なバナジン酸類としては、例えばバナジン(V)酸アンモニウム又はバナジン(V)酸ナトリウム等のバナジン(V)酸塩が挙げられ、モリブデン酸類としては、例えばモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸ナトリウム等のモリブデン酸塩が挙げられる。使用する触媒の量は基質に対して0.1重量%〜50重量%、経済性を考慮して1重量%〜10重量%が好ましい。また、この工程では、反応の平衡を目的物生成側にずらすために、ホウ酸を助剤として使用することができる。ホウ酸を使用する場合はアルコールを併用して反応を行うことが出来、アルコールは1級、2級又は3級アルコールの何れを使用しても良い。用いられるアルコールとしては、好ましくは炭素数が1〜4のアルコールであり、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、2−プロパノール、2−ブタノール、t−ブタノールなどを使用することができる。アルコールの使用量は基質に対して0倍モルから10倍モル、経済性と反応性を考慮して0倍モル〜3倍モル又は5倍モル程度が好ましい。ホウ酸は使用してもしなくても良く、使用する場合は基質に対して0.5〜3倍モル、経済性と反応性を考慮して1.5倍モル〜2.5倍モルが好ましい。反応溶媒としては炭化水素系の溶媒、例えばヘプタン、オクタン、ノナン、トルエン、キシレン、クメン、シメンなどを使用することができる。溶媒の使用量は基質に対して0〜5倍重量、好ましくは0〜1倍重量が良い。反応温度は触媒量や反応時間などの条件によって自ら異なるが、100℃〜200℃、経済性と反応性を考慮して130℃〜170℃が好ましい。反応時間は触媒量や反応温度などの条件によって自ら異なるが、0.5時間〜100時間、好ましくは1時間〜20時間である。本工程では、反応の選択性を向上させるため添加物として水、二酸化炭素又は塩基性化合物を加えることが出来る。塩基性化合物としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸水素ナトリウム等の無機塩基性化合物が挙げられる。添加量は基質に対して0.01重量%〜25重量%、好ましくは0.1〜10重量%が好ましい。得られた式(2)及び式(6)で示される1級アリルアルコールは精製することなく次の反応を行っても良いが、カラムクロマトグラフィー、蒸留又は晶析等により精製し次の反応に使用しても良い。晶析等により精製する場合は、溶媒を使用しても使用しなくてもよく、使用する場合は、トルエン、キシレン又はプソイドクメンなどの芳香族系炭化水素、ヘキサン又はヘプタン等の炭化水素及び酢酸エチルなどのエステル系溶媒を使用することができる。
【0007】
・工程(b)及び工程(e):(アルデヒドへの異性化反応)
式(3)と式(7)で示されるアルデヒドの製造に使用する触媒は一般式(9)で表されるルテニウム化合物[RuX2(Y)]n を原料として調製する。(式中、Xはハロゲン原子をYは中性配位子を示し、nは2以上の整数を示す)。ここで、ハロゲン原子は塩素、臭素、沃素等いずれでも良いが経済性と反応性を考慮し塩素および臭素が好ましい。Yの中性配位子としてはp−シメン、キシレン、ベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、シクロオクタジエン及びノルボルナジエン等が挙げられる。本工程で触媒としてルテニウム−ホスフィン錯体を調製する場合は、一般式(9)のルテニウム化合物[RuX2(Y)]nを、不活性ガス雰囲気下でアセトニトリル、ベンゾニトリル又はトルエン等の溶媒存在下に、配位子としてホスフィン化合物をルテニウム原子に対して、1〜20倍モル、好ましくは3〜15倍モル加え加熱攪拌し淡黄色の均一な触媒溶液を調製して使用しても良い。または、経済性と操作性を考慮して、一般式(9)で表される[RuX2(Y)]nを、不活性ガス雰囲気下、基質の1級アリルアルコール及び溶媒存在下に、配位子としてのホスフィン化合物と一緒に加え、加熱することにより、触媒の調製とアルデヒドへの異性化反応を同時に行っても良い。ここで用いられるホスフィン化合物の量は、ルテニウム原子に対して1〜20倍モル、好ましくは3〜15倍モル用いられる。好ましい配位子としてのホスフィン化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリ(p−トリル)ホスフィン、トリ(m−トリル)ホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(p−クロロフェニル)ホスフィン、トリ(p−フルオロフェニル)ホスフィンが挙げられ、特に好ましいものとしては、トリ(m−トリル)ホスフィン、トリ(p−トリル)ホスフィン又はトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンのような、電子供与基で置換されたフェニル基を有するホスフィン化合物が挙げられる。触媒調製温度は50℃〜300℃、好ましくは100℃〜250℃である。触媒の調製時間は0.1〜10時間、好ましくは0.1時間〜3時間である。このようにして得られた触媒溶液をそのままあるいは溶媒を除去した物を用いても良い。錯体として換算した触媒の使用量は基質に対して0.1重量%〜30重量%で、特に経済性と反応性を考慮し1重量%〜15重量%が好ましい。反応温度は反応時間と触媒量により自ら変わるが、100〜250℃、好ましくは130〜190℃である。反応時間は反応温度と触媒量により自ら変わるが0.1時間〜10時間、好ましくは0.5時間〜3時間である。生成した式(3)及び式(7)で示されるアルデヒドは精製することなく次の反応を行っても良いが、カラムクロマトグラフィー又は蒸留等により精製し次の反応に使用しても良い。
【0008】
・工程(c)及び工程(f):(アルデヒドのカルボン酸への酸化)
式(4)及び式(8)で示されるカルボン酸への酸化はEnrico Dalcanale et al.J.Org.Chem.,(1986)、51、567−569の記載に従って、亜塩素酸ナトリウムによる酸化又は一般的に知られている空気酸化を適用することができる。亜塩素酸ナトリウムを使用する場合、亜塩素酸ナトリウムの量は基質に対して1.0倍モル〜2.0倍モル、経済性と反応性を考慮して1.0倍モル〜1.4倍モルが好ましい。亜塩素酸ナトリウム水溶液として用いる場合の濃度は重量%として、1%〜25%、好ましくは10%〜20%である。反応混合物中にアミド硫酸又は酢酸を存在させてもよい。アミド硫酸の量は、基質に対して0.4倍モル〜2倍モル、経済性と反応性を考慮して0.7倍モル〜1.3倍モルが好ましい。酢酸は使用しても使用しなくてもよく、使用する場合は基質に対して0.01倍モル〜0.1倍モルが好ましい。溶媒としては炭化水素系溶媒、例えばヘプタン、オクタン、ノナン、トルエン、キシレン及びクメンなどを使用することができる。溶媒の使用量は基質に対して0〜10倍重量、好ましくは4〜7倍重量が良い。反応温度は亜塩素酸ナトリウムの量や反応時間などの条件によって自ら異なるが、−15℃〜20℃、反応性を考慮して−8℃〜0℃が好ましい。反応時間は亜塩素酸ナトリウムの量や反応温度などの条件によって自ら異なるが、0.5時間〜100時間、1時間〜5時間が好ましい。
【0009】
・工程(g):(脱水反応)
式(8)で示される化合物の脱水反応には触媒としてプロトン酸、例えば硫酸、パラトルエンスルホン酸及びリン酸等を使用することができる。触媒の量は、基質に対して0.1重量%〜5重量%が好ましい。溶媒としては炭化水素系溶媒、例えばヘプタン、オクタン、ノナン、トルエン、キシレン、クメン及びp−シメンなどを使用することができる。溶媒の使用量は基質に対して0〜10倍重量、好ましくは0.5〜7倍重量が良い。反応温度は触媒の量や反応時間などの条件によって自ら異なるが、50℃〜200℃が好ましい。反応時間は触媒の量や反応温度などの条件によって自ら異なるが、0.5時間〜10時間、1時間〜5時間が好ましい。
【0010】
このようにして得られた式(4)で示されるカルボン酸は、カラムクロマトグラフィー、蒸留、結晶化又はナトリウム塩にした後、メタノール水に溶解し中性成分を低極性の有機溶媒で洗浄除去後、カルボン酸に戻すことにより精製することができる。結晶化により精製する場合は、ヘキサンやヘプタンなどの炭化水素系溶媒を使用することができる。結晶化溶媒量は基質に対して0.5重量〜5重量が好ましい。結晶化温度は溶媒の種類や溶媒量により変化するが−10℃から−50℃が好ましい。ナトリウム塩にした後メタノール水に溶解し中性成分を低極性の有機溶媒で洗浄除去後、カルボン酸に戻すことにより精製する場合は、溶媒としてクメン、ヘキサン及びヘプタンを、基質に対して0.5重量倍から10重量倍使用することができる。ナトリウム塩にする時は、ナトリウムメチラート又は水酸化ナトリウムを基質に対して1.0倍モル〜10倍モル使用する。
【0011】
式(4)で示した化合物のメラニンの生成を抑制する力は、二重結合の位置によって異なり、式(10)、式(11)、式(12)の順番で強い。
【化17】
本特許記載の方法で製造した純粋な式(10)、式(11)又は式(12)で示されるカルボン酸あるいはこれら3成分の混合物は、熱あるいは酸触媒の存在下で加熱することにより、それぞれの純粋なものから、約1:1:1、8:2:0又は7:3:0などさまざまな割合に異性化させることができる。
本発明における反応は、反応形式がバッチ式においても連続式においても実施することができる。
【0012】
かくして得られた式(4)の化合物はメラニン産生抑制剤、細胞賦活剤、抗菌剤として有用である。さらに、これらを、例えば皮膚外用剤などに配合することにより、メラニン産生抑制能、細胞賦活能、抗菌能などを有する皮膚外用剤を得ることができる。本発明において、皮膚外用剤とは、化粧品、医薬品、医薬部外品のことであり、これらの剤型は任意であり、通常、化粧品、医薬品、医薬部外品等に用いられているもの、例えば、化粧水、乳液、パック、ファウンデーション、クリーム、軟膏、浴用剤、ゲル等の剤型が挙げられる。
上記式(4)の化合物の皮膚外用剤における配合量は、基材の種類、使用目的等により適宜変える事が出来るが、通常は外用剤全量に対して0.01〜10重景%、好ましくは0.05〜5重量%である。皮膚外用剤の基材としては公知の皮膚外用剤の基材を用いることができ、本発明化合物に対して不活性なものであれば特に制限されることは無く、固体、液体、乳剤、泡状剤、ゲル状剤等のいずれも使用することができる。
【0013】
また、本発明の皮膚外用剤には、上記式(4)の化合物以外に、化粧品、医薬部外品、医薬品等に用いられる各種成分、例えば、水性成分、粉末成分、界面活性剤、保湿剤、低級あるいは多価アルコール類、増粘剤、着色剤、pH調整剤、防腐剤、香料、紫外線吸収剤、キレート剤、乳化剤、抗炎症剤、薬効成分、皮膚栄養剤等を目的または必要に応じて適宜配合することが出来る。
【0014】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、実施例中において、核磁気共鳴スペクトル(NMR)の測定にはDRX−500型装置(ブルカー社製)を用いた。
【0015】
〔実施例1〕 ラブデン酸の合成
(1) 式(6)で示される1級アリルアルコールの製造
水抜き管と温度計を付けた2Lの反応フラスコに式(5)で示されるスクラレオール250g、ホウ酸95.2g、1−ブタノール264.3g、トルエン75g、バナジン(V)酸アンモニウム7.5gを入れた。窒素置換後、攪拌下、炭酸ナトリウム1.5gを水15gに溶解した溶液を加えた。加熱を開始し、生成する水を抜きながら徐々に反応温度を上げていき、140℃で一定に保ち16時間反応する。反応終了後、冷却し20質量%NaOH水溶液311gを加え、生成したホウ酸エステルを、60℃で1.5時間加水分解し分液した。次に、1−ブタノールとトルエンを減圧下加熱することにより回収した。これに1,2,4−トリメチルベンゼン500mlを入れ、250mlの水で4回洗浄した。これにより式(6)で示される1級アリルアルコールの1,2,4−トリメチルベンゼン溶液を690.68g得た。HPLCで測定したところ、転化率は84.05%、収率は70.32%であった。式(6)で示される1級アリルアルコールは精製することなく次の反応を行った。
【0016】
HPLC分析条件
カラム:Inertsil SIL 100−5 Φ4.6mm x 250mm、溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=3:1、流量:1.5ml/分、カラムオーブン:50℃、検出器:RI。
E−イソ−スクラレオール(式(6)のE体)の物理データ
13C−NMR(125MHz,CDCl3,ppm):140.93(s)、123.18(d)、74.11(s)、61.21(d)、59.29(t)、56.10(d)、44.55(t)、42.89(t)41.97(t)39.74(t)、39.23(s)、33.38(q)、33.23(s)、23.93(q)、23.58(t)、21.49(q)、20.56(t)、18.43(t)、16.43(q)、15.46(q)
Z−イソ−スクラレオール(式(6)のZ体)の物理データ
13C−NMR(125MHz,CDCl3,ppm):142.41(s)、123.39(d)、74.23(s)、61.37(d)、58.42(t)、56.03(d)、44.25(t)、41.92(t)、39.62(t)、35.45(t)、33.32(q)、33.19(s)、24.58(t)、23.99(q)、23.63(s)、21.43(q)、20.45(t)18.43(t)、15.45(q)、15.23(q)
式(6)で示される化合物の13(E)−8(17)−エン−異性体の物理データ
13C−NMR(125MHz,CDCl3,ppm):148.64(s)、140.66(s)、122.99(d)、106.24(t)、59.44(t)、56.33(d)、55.55(d)、42.18(t)、39.66(s)、39.10(t)、38.43(t)、38.36(t)、33.60(q)、33.58(s)、24.45(t)、21.79(t)、21.72(q)、19.39(t)、16.34(q)、14.49(q)
式(6)で示される1級アリルアルコールの物理データ(1H−NMR(500MHz,CDCl3))は図1を参照。
【0017】
さらに、式(5)で示される化合物をバナジン(V)酸アンモニウムの存在下で、式(6)で示されるアリルアルコールに異性化する際、二酸化炭素及び炭酸ナトリウムを添加して行った結果を表1に示す。二酸化炭素はボンベより反応系内に供給した。炭酸ナトリウムの使用量はスクラレオールに対して2wt%である。
【表1】
表1の結果より、二酸化炭素及び炭酸ナトリウムを用いた場合に式(6)の化合物の選択率が向上したことがわかる。
【0018】
(2) 式(7)で示されるアルデヒドの製造
水抜き管と温度計を付けた2Lの反応フラスコに、実施例1(1)で合成した式(6)の1級アリルアルコールの1,2,4−トリメチルベンゼン溶液690.68gを入れた。窒素置換後、反応液の温度を31℃にして、[RuCl2(p−シメン)]2 1.733gとトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン23.93gを同時に入れ、窒素置換を2回行い、加熱を開始した。170〜180℃で2時間反応後、46℃まで冷却し反応終了とした。HPLCで分析したところ、本反応の転化率は100%、収率は61.95%であった。アルデヒドの1,2,4−トリメチルベンゼン溶液710gは精製することなく次の反応を行った。
HPLC分析条件
カラム:Inertsil SIL 100−5 Φ4.6mm x 250mm、
溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=10:1、流量:2ml/分、
カラムオーブン:50℃、検出器:RI。
式(7)で示されるアルデヒドの、13位のジアステレオマー混合物の物理データ
13C−NMR(125MHz,CDCl3,ppm):203.32(d)、203.26(s)、74.26(s)、74.23(s)、62.26(d)、62.07(d)、56.11(d)、51.08(t)、50.77(t)、44.65(t)、44.58(t)、41.95(t)、40.95(t)、40.66(t)、39.75(t)、39.12(s)、33.38(q)、33.22(s)、29.11(d)、28.92(d)、23.97(q)、22.86(t)、22.66(t)、21.46(q)20.54(t)、20.17(q)、19.97(q)18.42(t)、15.45(q)、15.43(q)
式(7)で示されるアルデヒドの物理データ(1H−NMR(500MHz,CDCl3))は図2を参照。
なお、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン以外のホスフィン化合物を使用して、同様の操作を行った結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0019】
(3) 式(8)で示されるヒドロキシカルボン酸の製造
温度計を付けた2Lの反応フラスコに、実施例1(2)で合成した式(7)のアルデヒドの1,2,4−トリメチルベンゼン溶液710g、及び1,2,4−トリメチルベンゼン300g、酢酸0.2g、H2NSO2OH54.57g、水27.28gを入れ、ドライアイスアセトンバスで−5℃まで冷却した。次に80%NaClO2 63.54gを水190.6gに溶解した溶液を、反応温度が−8〜−4℃の間で100分かけて滴下した。同温で2時間反応後、次に20%Na2SO3水溶液425gを−5〜−3℃で30分かけて滴下しその後40〜50℃で30分攪拌し過酸化物を完全に分解した。分液後、5%食塩水250gで2回洗浄し、式(8)のヒドロキシカルボン酸の1,2,4−トリメチルベンゼン溶液1000gを得た。これは精製することなく次の反応を行った。
式(8)のヒドロキシカルボン酸の物理データ
1H−NMR(500MHz,CDCl3,ppm):2.43(1H、dd、6.24Hz、14.74Hz)、2.15(1H、dd、8.15、14.74)、1.99(1H、m)、1.87(1H、dt、12.14、3.13)、1.7〜1.21(12H、m)、1.20〜1.11(4H、m)、1.04(1H、m)、1.00(3H、d、6.59)、0.98〜0.88(2H、m)、0.87(3H、s)、0.80(6H、s)、MS(APCI,m/z):323(M−1)−
式(8)のヒドロキシカルボン酸の13位における異性体の物理データ
1H−NMR(500MHz,CDCl3,ppm):2.33(1H、dd、6.04Hz、14.82Hz)、2.21(1H、dd、7.68、14.82)、1.93(1H、m)、1.86(1H、dt、12.35、3.29)、1.69〜1.21(12H、m)、1.20〜1.10(4H、m)、1.03(1H、m)、0.99(3H、d、6.86)、0.97〜0.89(2H、m)、0.87(3H、s)、0.79(6H、s)
【0020】
(4) 式(4)で示されるカルボン酸の製造
水抜き管と温度計を付けた2Lの反応フラスコに、実施例1(3)で合成した式(8)のヒドロキシカルボン酸の1,2,4−トリメチルベンゼン溶液1000g、20%硫酸水溶液2.68gを入れ、加熱還流下170℃〜176℃で水を抜きながら3時間脱水反応した。反応終了後、冷却し、28%ナトリウムメチラートメタノール溶液74.9gを加えカルボン酸をナトリウム塩とした。これに水を154g加えると上層の中性画分と下層のカルボン酸のナトリウム塩画分に分離した。上層を除去後、下層をヘプタン200mlで2回洗浄した。下層にヘプタン200mlと20%硫酸水溶液95.2gを入れ、カルボン酸のナトリウム塩をカルボン酸にもどしヘプタンで抽出した。溶媒を減圧下加熱することにより回収後、減圧蒸留を行い、式(4)で示されるカルボン酸の二重結合位置異性体混合物を100g得た。収率は35.8%であった。
式(9)と式(10)と式(11)で示されるカルボン酸混合物の物理データ(1H−NMR(500MHz,CDCl3))は図3を参照。
【0021】
〔実施例2〕 ラブデン酸誘導体の合成
(1) 式(2)で示される1級アリルアルコールの製造
水抜き管と温度計を付けた2Lの反応フラスコに式(1)で示されるマヌール235.4g、ホウ酸95.2g、1−ブタノール264.3g、トルエン75g、バナジン(V)酸アンモニウム7.5gを入れた。窒素置換後、攪拌下、炭酸ナトリウム1.5gを水15gに溶解した溶液を加えた。加熱を開始し、生成する水を抜きながら徐々に反応温度を上げていき、140℃で一定に保ち16時間反応させた。反応終了後、冷却し20%NaOH水溶液311gを加え、ホウ酸エステルを60℃で1.5時間撹拌し、分液した。次に、1−ブタノールとトルエンを減圧下加熱することにより回収した。これに1,2,4−トリメチルベンゼン500mlを入れ、250mlの水で4回洗浄した。これにより式(4)で示される1級アリルアルコールの1,2,4−トリメチルベンゼン溶液を675g得た。HPLCで分析したところ、本反応の転化率は84.0%、収率は70.0%であった。式(2)で示される1級アリルアルコールは精製することなく次の反応を行った。
【0022】
(2) 式(3)で示されるアルデヒドの製造
水抜き管と温度計を付けた2Lの反応フラスコに実施例2(1)で合成した1級アリルアルコールの1,2,4−トリメチルベンゼン溶液675gを入れた。窒素置換後、反応液温度を31℃にして、[RuCl2(p−シメン)]2 1.71gとトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン23.5gを同時に入れ、窒素置換を2回行い、加熱を開始した。170〜180℃で2時間反応後、46℃まで冷却し反応終了とした。HPLCで分析したところ、本反応の転化率は100%、収率は62.0%であった。式(3)のアルデヒドの1,2,4−トリメチルベンゼン溶液690gは精製することなく次の反応を行った。
【0023】
(3) 式(4)で示されるカルボン酸の製造
温度計を付けた2Lの反応フラスコに実施例2(2)で合成したアルデヒドの1,2,4−トリメチルベンゼン溶液690gと1、2、4−トリメチルベンゼン300g、酢酸0.2g、H2NSO2OH54.57g、水27.28gを入れ、ドライアイスアセトンバスで−5℃まで冷却した。次に80%NaClO2(63.54g)を水190.6gに溶解した溶液を、反応温度を−8〜−4℃で100分かけて滴下した。同温で2時間反応後、次に20%Na2SO3水溶液425gを−5〜−3℃で30分かけて滴下しその後40〜50℃で30分攪拌し過酸化物を完全に分解した。分液後、5%食塩水250gで2回洗浄しカルボン酸1,2,4−トリメチルベンゼン溶液980gを得た。これに28%ナトリウムメチラートメタノール溶液73.1gを加えカルボン酸をナトリウム塩とした。これに水を150g加えると上層の中性画分と下層のカルボン酸のナトリウム塩画分に分離した。上層を除去後、下層をヘプタン200mlで2回洗浄した。下層にヘプタン200mlと20%硫酸水溶液94.3gを入れカルボン酸のナトリウム塩をカルボン酸にもどしヘプタンで抽出した。溶媒を減圧下加熱することにより回収後減圧蒸留を行い、式(4)で示されるカルボン酸の混合物を95.0g(純度92%)を得た。収率は35.2%であった。
【0024】
〔実施例2〕
常法によりクリームを調製した。
【表3】
【0025】
〔実施例3〕
常法に従い乳液を調製した。
【表4】
【0026】
〔実施例4〕
常法に従い軟膏を調製した。
【表5】
【0027】
【発明の効果】
人体に有益な生理活性を有する式(4)で示されるラブデン酸を、安価で経済的に有利な方法により製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1(1)で製造される式(6)で表される1級アリルアルコールのNMRデータを示す。
【図2】実施例1(2)で製造される式(7)で表されるアルデヒドのNMRデータを示す。
【図3】実施例1(3)で製造される式(9)と式(10)と式(11)で表されるカルボン酸混合物のNMRデータを示す。
Claims (6)
- 下記(a)、(b)及び(c)に示される工程を含むことを特徴とする、式(4)で表されるラブデン酸の製造方法。
工程(a):式(1)で表される化合物を、バナジン酸類又はモリブデン酸類を触媒として用い、式(2)で表される化合物へ変換する工程。
工程(b):式(2)で表される化合物を、ルテニウム−ホスフィン錯体を触媒として、式(3)で表されるアルデヒド化合物へ変換する工程。
工程(c):式(3)で表される化合物を酸化することにより、一般式(4)で表されるラブデン酸へ変換する工程。
- 下記(d)、(e)、(f)及び(g)に示される工程を含むことを特徴とする、式(4)で表されるラブデン酸の製造方法。
工程(d):式(5)で表される化合物を、バナジン酸類又はモリブデン酸類を触媒として用い、式(6)で表される化合物へ変換する工程。
工程(e):式(6)で表される化合物を、ルテニウム−ホスフィン錯体を触媒として、式(7)で表されるアルデヒド化合物へ変換する工程。
工程(f):式(7)で表される化合物を酸化することにより、式(8)で表されるヒドロキシカルボン酸化合物へ変換する工程。
- 工程(a)及び工程(d)において、反応系に添加物として塩基性化合物又は二酸化炭素を加えることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の製造方法。
- 工程(b)及び工程(e)において、ルテニウム−ホスフィン錯体が下記一般式(9)
[RuX2(Y)]n (9)
(式(9)中、Xはハロゲン原子を表し、Yは中性配位子を表し、nは2以上の整数を表す。)
で表されるルテニウム化合物とホスフィン化合物から調製されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。 - 工程(b)及び工程(e)において、ルテニウム−ホスフィン錯体中のホスフィンが、トリ(m−トリル)ホスフィン、トリ(p−トリル)ホスフィン又はトリス(4−メトキシフェニル)ホスフィンの中から選ばれるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
- 請求項1〜請求項5のいずれかに記載の方法で製造した、式(4)で表されるラブデン酸を含有する皮膚外用剤。
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