JP2004325661A - 赤外線感光性ポジ型平版印刷版 - Google Patents
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Abstract
【課題】赤外線レーザを用いて記録することが可能で、従来の発明よりもさらに高感度な赤外線感光性ポジ型平版印刷版を提供する。
【解決手段】親水性支持体上に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含有する第一層と、該層上に水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含み、露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が増加する最上層とを、順次積層した重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版であって、第一層の赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、最上層の赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差、又は、最上層の赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、第一層の赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差が、0〜30nmであることを特徴とする赤外線感光性ポジ型平版印刷版。
【選択図】 なし
【解決手段】親水性支持体上に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含有する第一層と、該層上に水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含み、露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が増加する最上層とを、順次積層した重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版であって、第一層の赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、最上層の赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差、又は、最上層の赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、第一層の赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差が、0〜30nmであることを特徴とする赤外線感光性ポジ型平版印刷版。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、赤外線露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が変化するポジ型の感光性平版印刷版に関し、詳細にはコンピュータ等のデジタルデータに基づいて赤外線レーザ光を走査することにより直接製版できる、いわゆるダイレクト製版可能なポジ型の感光性平版印刷版に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年におけるレーザの発展は目覚ましく、特に近赤外から赤外に発光領域を持つ固体レーザ・半導体レーザは高出力かつ小型の物が容易に入手できる様になっている。コンピュータ等のデジタルデータから直接製版する際の露光光源として、これらのレーザは非常に有用である。
【0003】
赤外線レーザ用ポジ型平版印刷版は、通常アルカリ水溶液可溶性のバインダー樹脂と、光を吸収し熱を発生する赤外線吸収剤等とを必須成分とする感光層を有する。感光層の未露光部(画像部)では、赤外線吸収剤等がバインダー樹脂との相互作用によりバインダー樹脂の溶解性を実質的に低下させる溶解阻止剤として働き、露光部では、発生した熱により溶解性を阻害する上記相互作用が弱まる。これにより、感光層露光部をアルカリ現像液で選択的に溶解除去して非画像部を形成し、平版印刷版を作製することができる。
しかしながら、このような赤外線レーザ用ポジ型平版印刷版の画像形成能は、感光層の赤外線レーザ露光による発熱に依存しているため、支持体近傍では、熱の拡散により画像形成、即ち、感光層の可溶化に用いられる熱量が少なくなり、結果として露光・未露光の差が小さくなり、感光層の感度として不充分であるという問題があった。
従って、未露光部と露光部との溶解性の差を出すために、バインダー樹脂として、あらかじめアルカリ現像液に対する溶解性の高いものを使用せざるを得ず、このような赤外線レーザ用ポジ型平版印刷版は、耐傷性に劣化や現像前の状態が不安定なものとなるという問題を抱えていた。
【0004】
これらの問題を解決するため、特許文献1(特開平11−218914号公報)には、上部に画像形成時の溶解性変化の大きな感光層を設けて、下層にアルカリ溶解性の高い層を設けることが考案されている。これにより露光後の層全体の溶解性を高いままに維持し、未露光での溶解性を抑えることが出来る。このような重層型感光層の画像形成性をさらに向上させるため、特許文献2(特開2003−29413号公報)においては、上層と下層に異なる赤外線吸収染料を用い、感度向上、現像ラチチュード拡大、耐傷性向上を図っている。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−218914号公報
【特許文献2】
特開2003−29413号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の技術では感度の面で十分ではなく、さらなる高感度化が望まれていた。
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、赤外線を放射する固体レーザ又は半導体レーザを用いて記録することにより、コンピュータ等のデジタルデータから直接製版が可能であり、従来よりもさらに高感度な赤外線感光性ポジ型平版印刷版を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明者らは、重層型感光層の一方の層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、他方の層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度吸収波長との差を特定範囲にすることにより、高感度を達成できることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至ったものである。
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1) 親水性支持体上に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含有する第一層と、該層上に水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含み、露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が増加する最上層とを、順次積層した重層型感光層を有し、前記第一層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、前記最上層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差が0〜30nmの範囲内にある赤外線感光性ポジ型平版印刷版。
【0008】
(2) 親水性支持体上に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含有する第一層と、該層上に水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含み、露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が増加する最上層とを、順次積層した重層型感光層を有し、前記最上層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、前記第一層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差が0〜30nmの範囲内にある赤外線感光性ポジ型平版印刷版。
【0009】
赤外光が赤外線吸収剤に吸収された後、光エネルギーは一般的に、1)光熱変換による発熱過程、又は2)発熱しない蛍光発光過程を経るが、本発明のごとき発生した熱により分子間相互作用が弱まりアルカリ現像液に対する溶解性が増大する「サーマルポジ型感光層」の高感度化においては、1)の発熱過程が重要であり、2)の蛍光発光過程は光エネルギーのロスに相当する。
本発明は、重層型の感光層において、赤外線吸収剤を上記発明の光吸収特性と蛍光発光特性の条件下で用いることによって、一方の層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光発光を、他方の層に含まれる赤外線吸収剤によって効率よく再吸収して発熱させることができ、高感度を達成できたものと推測される。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の赤外線感光性ポジ型平版印刷版は、親水性支持体上に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含有する第一層と、該層上に水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含み、露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が増加する最上層とを、順次積層した重層型の感光層を有し、第一層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、最上層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差が0〜30nmの範囲内にあることを特徴とする。第一層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と最上層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差は、より好ましくは0〜20nmであり、特に好ましくは0〜10nmである。
【0011】
本発明の別の態様は、上記の重層型感光層において、最上層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、第一層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差が0〜30nmの範囲内にあることを特徴とする。最上層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と第一層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差は、より好ましくは0〜20nmであり、特に好ましくは0〜10nmである。
【0012】
図1は本発明の態様を示す模式図であり、一方の層に含まれる赤外線吸収剤(b)の蛍光発光を、他方の層に含まれる赤外線吸収剤(a)によって再吸収する様子を表している。このときの再吸収の効率に対応するのが、赤外線吸収剤(a)の吸光スペクトル(各波長における吸光度の積分値)と、赤外線吸収剤(b)の蛍光スペクトル(各波長における蛍光強度の積分値)との重なり面積である。即ち、この重なり面積が大きいほど、赤外線吸収剤(a)のエネルギー準位と赤外線吸収剤(b)のエネルギー準位との差が小さくなるため、光エネルギー移動効率が高くなり、蛍光発光の再吸収効率も高くなる。特に、本発明で規定した特定範囲条件下においては、極めて高い再吸収効率が得られるものと推測される。
以下、本発明を構成する要素について、順次詳細に説明する。
【0013】
〔(A)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂〕
本発明の重層型感光層に用いられるバインダー樹脂である(A)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂(以下では、単にアルカリ可溶性樹脂ともいう。)としては、高分子中の主鎖及び/又は側鎖に酸性基を含有する単独重合体、これらの共重合体、又はこれらの混合物を包含する。
中でも、下記(1)〜(6)に挙げる酸性基を高分子の主鎖及び/又は側鎖中に有するものが、耐現像性の点及びアルカリ水溶液に対する溶解性の点で好ましい。
【0014】
(1)フェノール基(−Ar−OH)
(2)スルホンアミド基(−SO2NH−R)
(3)活性イミド基(−SO2NHCOR、−SO2NHSO2R、−CONHSO2R)
(4)カルボン酸基(−CO2H)
(5)スルホン酸基(−SO3H)
(6)リン酸基(−OPO3H2)
【0015】
上記(1)〜(6)中、Arは置換基を有していてもよい2価のアリール連結基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。
【0016】
上記(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有するアルカリ可溶性樹脂の中でも、(1)フェノール基、(2)スルホンアミド基、(3)活性イミド基及び(4)カルボン酸基を有するアルカリ可溶性樹脂が好ましく、特に、(1)フェノール基、(2)スルホンアミド基又は(3)カルボン酸基を有するアルカリ可溶性樹脂が、アルカリ性現像液に対する溶解性、現像ラチチュード、膜強度を十分に確保する点から最も好ましい。
【0017】
上記(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(1)フェノール基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、フェノールとホルムアルデヒドとの縮重合体、m−クレゾールとホルムアルデヒドとの縮重合体、p−クレゾールとホルムアルデヒドとの縮重合体、m−/p−混合クレゾールとホルムアルデヒドとの縮重合体、フェノールとクレゾール(m−、p−、又はm−/p−混合のいずれでもよい)とホルムアルデヒドとの縮重合体等のノボラック樹脂、及びピロガロールとアセトンとの縮重合体を挙げることができる。さらに、フェノール基を側鎖に有する化合物を共重合させた共重合体を挙げることもできる。或いは、フェノール基を側鎖に有する化合物を共重合させた共重合体を用いることもできる。
【0018】
フェノール基を側鎖に有する化合物としては、フェノール基を有するアクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、又はヒドロキシスチレン等が挙げられる。
【0019】
(2)スルホンアミド基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、スルホンアミド基を有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分として構成される重合体を挙げることができる。上記のような化合物としては、窒素原子に少なくとも一つの水素原子が結合したスルホンアミド基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物が挙げられる。中でも、アクリロイル基、アリル基、又はビニロキシ基と、置換もしくはモノ置換アミノスルホニル基又は置換スルホニルイミノ基と、を分子内に有する低分子化合物が好ましく、例えば、下記一般式(i)〜一般式(v)で表される化合物が挙げられる。
【0020】
【化1】
【0021】
式中、X1、X2は、それぞれ独立に−O−又はNR7を表す。R1、R4は、それぞれ独立に水素原子又は−CH3を表す。R2、R5、R9、R12、及び、R16は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基又はアラルキレン基を表す。R3、R7、及び、R13は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。また、R6、R17は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。R8、R10、R14は、それぞれ独立に水素原子又は−CH3を表す。R11、R15は、それぞれ独立に単結合又は置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基又はアラルキレン基を表す。Y1、Y2は、それぞれ独立に単結合又はCOを表す。
【0022】
一般式(i)〜一般式(v)で表される化合物のうち、本発明の重層型感光層には、特に、m−アミノスルホニルフェニルメタクリレート、N−(p−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド、N−(p−アミノスルホニルフェニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0023】
(3)活性イミド基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、活性イミド基を有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分として構成される重合体を挙げることができる。上記のような化合物としては、下記構造式で表される活性イミド基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物を挙げることができる。
【0024】
【化2】
【0025】
具体的には、N−(p−トルエンスルホニル)メタクリルアミド、N−(p−トルエンスルホニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0026】
(4)カルボン酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、カルボン酸基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分とする重合体を挙げることができる。具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等のα、β−不飽和カルボン酸類が挙げられる。また、側鎖にヒドロキシル基を有するアクリレート又はメタクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチルエチルアクリレート又はメタクリレート等)のヒドロキシル基と、二塩基酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、フタル酸等)とのモノエステルである不飽和カルボン酸も好適なものとして挙げられる。
(5)スルホン酸基を有するアルカリ可溶性高分子としては、例えば、スルホン酸基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成単位とする重合体を挙げることができる。
(6)リン酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、リン酸基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分とする重合体を挙げることができる。
【0027】
本発明の重層型感光層に用いられるアルカリ可溶性樹脂を構成する、前記(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有する最小構成単位は、特に1種類のみである必要はなく、同一の酸性基を有する最小構成単位を2種以上、又は異なる酸性基を有する最小構成単位を2種以上共重合させたものを用いることもできる。
【0028】
前記共重合体は、共重合させる(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有する化合物が共重合体中に10モル%以上含まれているものが好ましく、20モル%以上含まれているものがより好ましい。10モル%未満であると、現像ラチチュードを十分に向上させることができない傾向がある。
【0029】
前記酸性基を有するモノマーと共重合させるモノマー成分としては、例えば、下記(m1)〜(m12)に示すモノマーを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
(m1)2−ヒドロキシエチルアクリレート又は2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の脂肪族水酸基を有するアクリル酸エステル類、及びメタクリル酸エステル類。
(m2)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸−2−クロロエチル、グリシジルアクリレート、等のアルキルアクリレート。
(m3)メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸−2−クロロエチル、グリシジルメタクリレート、等のアルキルメタクリレート。
(m4)アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−ヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド、N−エチル−N−フェニルアクリルアミド等のアクリルアミド若しくはメタクリルアミド。
(m5)エチルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類。
(m6)ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルブチレート、安息香酸ビニル等のビニルエステル類。
(m7)スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン類。
(m8)メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、プロピルビニルケトン、フェニルビニルケトン等のビニルケトン類。
(m9)エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン等のオレフィン類。
(m10)N−ビニルピロリドン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
(m11)マレイミド、N−アクリロイルアクリルアミド、N−アセチルメタクリルアミド、N−プロピオニルメタクリルアミド、N−(p−クロロベンゾイル)メタクリルアミド等の不飽和イミド。
(m12)アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸。
【0031】
本発明におけるアルカリ可溶性樹脂が、前記の酸性基を有する重合性モノマーの単独重合体或いは共重合体である場合には、重量平均分子量は2,000以上、数平均分子量が500以上のものが好ましい。更に好ましくは、重量平均分子量が5,000〜300,000で、数平均分子量が800〜250,000であり、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1〜10のものである。また、本発明においてアルカリ可溶性樹脂がフェノールホルムアルデヒド樹脂、クレゾールアルデヒド樹脂等の樹脂である場合には、重量平均分子量が500〜20,000であり、数平均分子量が200〜10,000のものが好ましい。
【0032】
これらアルカリ可溶性樹脂は、それぞれ1種類又は2種類以上を組み合わせて使用してもよく、前記感光層全固形分中、30〜99質量%、好ましくは40〜95質量%、特に好ましくは50〜90質量%の添加量で用いられる。この範囲内で良好な感度及び感光層の耐久性が得られる。
【0033】
〔(B)赤外線吸収剤〕
本発明に用いられる赤外線吸収剤としては、光を吸収し、熱を発生する物質であれば特に吸収波長域の制限はなく用いることができるが、入手容易な高出力レーザへの適合性の観点から、波長760nm〜1200nmに吸収極大を有する赤外線吸収性染料又は顔料が好ましく挙げられる。
【0034】
染料としては、市販の染料、例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体、オキソノール染料、ジイモニウム染料、アミニウム染料、クロコニウム染料等の染料が挙げられる。
【0035】
好ましい染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭60−78787号等の各公報、米国特許第4973572号明細書等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等の各公報に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等の各公報に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号公報等に記載されているスクアリリウム色素、英国特許第434,875号明細書記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0036】
また、米国特許第5,156,938号明細書記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号明細書記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号公報記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号等の各公報に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号公報記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号明細書記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号の各公報に開示されているピリリウム化合物も好ましく用いられる。
【0037】
また、染料として好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
【0038】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、フタロシアニン染料、オキソノール染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、チオピリリウム染料、ニッケルチオレート錯体が挙げられる。さらに、下記一般式(a)〜一般式(e)で示される染料が光熱変換効率に優れるため好ましく、特に下記一般式(a)で示されるシアニン色素は、本発明の重層型感光層に使用した場合に、アルカリ可溶性樹脂との高い相互作用を与え、且つ、安定性、経済性に優れるため最も好ましい。
【0039】
【化3】
【0040】
一般式(a)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−NPh2、X2−L1又は以下に示す基を表す。ここで、X2は酸素原子又は、硫黄原子を示し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。
【0041】
【化4】
【0042】
R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。感光層塗布液の保存安定性から、R1及びR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、さらに、R1とR2とは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0043】
Ar1、Ar2は、それぞれ同じでも異なっていても良く、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y1、Y2は、それぞれ同じでも異なっていても良く、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R3、R4は、それぞれ同じでも異なっていても良く、置換基を有していても良い炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R5、R6、R7及びR8は、それぞれ同じでも異なっていても良く、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Za−は、対アニオンを示す。ただし、R1〜R8のいずれかにスルホ基が置換されている場合は、Za−は必要ない。好ましいZa−は、感光層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0044】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、以下に例示するものの他、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]、特開2002−40638号公報の段落番号[0012]〜[0038]、特開2002−23360号公報の段落番号[0012]〜[0023]に記載されたものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0045】
【化5】
【0046】
【化6】
【0047】
【化7】
【0048】
【化8】
【0049】
前記一般式(b)中、Lは共役炭素原子数7以上のメチン鎖を表し、該メチン鎖は置換基を有していてもよく、置換基が互いに結合して環構造を形成していてもよい。Zb+は対カチオンを示す。好ましい対カチオンとしては、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウム、ピリジニウム、アルカリ金属カチオン(Ni+、K+、Li+)などが挙げられる。R9〜R14及びR15〜R20は互いに独立に水素原子又はハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、カルボニル基、チオ基、スルホニル基、スルフィニル基、オキシ基、又はアミノ基から選択される置換基、或いは、これらを2つ若しくは3つ組み合わせた置換基を表し、互いに結合して環構造を形成していてもよい。ここで、前記一般式(b)中、Lが共役炭素原子数7のメチン鎖を表すもの、及び、R9〜R14及びR15〜R20がすべて水素原子を表すものが入手の容易性と効果の観点から好ましい。
【0050】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(b)で示される染料の具体例としては、以下に例示するものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0051】
【化9】
【0052】
【化10】
【0053】
前記一般式(c)中、Y3及びY4は、それぞれ、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、又はテルル原子を表す。Mは、共役炭素数5以上のメチン鎖を表す。R21〜R24及びR25〜R28は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、カルボニル基、チオ基、スルホニル基、スルフィニル基、オキシ基、又はアミノ基を表す。また、式中Za−は対アニオンを表し、前記一般式(a)におけるZa−と同義である。
【0054】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(c)で示される染料の具体例としては、以下に例示するものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0055】
【化11】
【0056】
【化12】
【0057】
前記一般式(d)中、R29ないしR31は各々独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を示す。R33及びR34は各々独立に、アルキル基、置換オキシ基、又はハロゲン原子を示す。n及びmは各々独立に0ないし4の整数を示す。R29とR30、又はR31とR32はそれぞれ結合して環を形成してもよく、またR29及び/又はR30はR33と、またR31及び/又はR32はR34と結合して環を形成しても良く、さらに、R33又はR34が複数存在する場合に、R33同士又はR34同士は互いに結合して環を形成してもよい。X2及びX3は各々独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基であり、X2及びX3の少なくとも一方は水素原子又はアルキル基を示す。Qは置換基を有していてもよいトリメチン基又はペンタメチン基であり、2価の有機基とともに環構造を形成してもよい。Zc−は対アニオンを示し、前記一般式(a)におけるZa−と同義である。
【0058】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(d)で示される染料の具体例としては、以下に例示するものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。。
【0059】
【化13】
【0060】
【化14】
【0061】
前記一般式(e)中、R35〜R50はそれぞれ独立に、置換基を有してもよい水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、水酸基、カルボニル基、チオ基、スルホニル基、スルフィニル基、オキシ基、アミノ基、オニウム塩構造を示す。Mは2つの水素原子若しくは金属原子、ハロメタル基、オキシメタル基を示すが、そこに含まれる金属原子としては、周期律表のIA、IIA、IIIB、IVB族原子、第一、第二、第三周期の遷移金属、ランタノイド元素が挙げられ、中でも、銅、マグネシウム、鉄、亜鉛、コバルト、アルミニウム、チタン、バナジウムが好ましい。
【0062】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(e)で示される染料の具体例としては、以下に例示するものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0063】
【化15】
【0064】
本発明において赤外線吸収剤として使用される顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が挙げられる。
【0065】
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。これらの顔料のうち好ましいものはカーボンブラックである。
【0066】
これら顔料は表面処理をせずに用いてもよく、表面処理を施して用いてもよい。表面処理の方法には、樹脂やワックスを表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、反応性物質(例えば、シランカップリング剤、エポキシ化合物、ポリイソシアネート等)を顔料表面に結合させる方法等が考えられる。上記の表面処理方法は、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)及び「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0067】
顔料の粒径は0.01μm〜10μmの範囲にあることが好ましく、0.05μm〜1μmの範囲にあることがさらに好ましく、特に0.1μm〜1μmの範囲にあることが好ましい。顔料の粒径が0.01μm未満のときは分散物の画像感光層塗布液中での安定性の点で好ましくなく、また、10μmを越えると画像感光層の均一性の点で好ましくない。
【0068】
顔料を分散する方法としては、インク製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。分散機としては、超音波分散器、サンドミル、アトライター、パールミル、スーパーミル、ボールミル、インペラー、デスパーザー、KDミル、コロイドミル、ダイナトロン、3本ロールミル、加圧ニーダー等が挙げられる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0069】
これらの顔料又は染料は、感光層の全固形分に対し0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜10質量%、染料の場合特に好ましくは0.5〜10質量%、顔料の場合特に好ましくは0.1〜10質量%の割合で添加することができる。この範囲内で、感光層の均一性や膜強度に好ましくない影響を与えることなく、高感度が得られる。
【0070】
上述したこれらの赤外線吸収剤の中で、最上層と第一層に添加するのにより好ましい染料としては一般式(a)で示されるシアニン染料であり、特に前記シアニン染料I,II,IIIを用いて最上層と第一層に別々の染料を添加するのが好ましい。
また、最上層と第一層に添加する染料の好ましい添加量(g/m2)の比率は、最上層添加量/第一層添加量=1.0〜3.0であり、より好ましくは最上層添加量/第一層添加量=1.0〜2.5であり、特に好ましくは最上層添加量/第一層添加量=1.1〜2.0である。
【0071】
〔酸触媒分解系成分〕
既述のごとく、本発明の重層型感光層の第一層及び最上層は、(A)アルカリ可溶性樹脂及び(B)赤外線吸収剤を含み、赤外線レーザ露光による発熱によって上記(A)、(B)等の分子間の相互作用が解除されてアルカリ水溶液に対する溶解性が増加する相互作用解除系ポジ型感光層として機能する。
本発明においては、上記感光層に、熱によって酸を発生する化合物(酸発生剤)、及び発生した酸を触媒として化学結合を開裂してアルカリ現像液に対する溶解性が増大する化合物(酸分解性化合物)とからなる酸触媒分解系のアルカリ可溶化成分を加えることができる。かかる成分の添加の添加において、重層型感光層のうち、最上層に添加することがより好ましい。
【0072】
(酸分解性化合物)
本発明において、酸を触媒として化学結合を開裂してアルカリ現像液に対する溶解性が増大する化合物とは、分子内に酸で分解し得る結合基を有する化合物と言い代えることができる。このような化合物としては、特開平9−171254号公報に記載の「酸で分解し得る結合を少なくとも1つ有する化合物」を用いることができる。酸で分解し得る結合としては、例えば、アセタール結合又はケタール結合等を好ましいものとして挙げることができる。
このような化合物中、感度及び現像性の観点から、下記一般式(I)で表される化合物を用いることがより好ましい。
【0073】
【化16】
【0074】
一般式(I)中、R1、R2及びR3は、各々水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数1〜5のアルコキシ基、スルホ基、カルボキシル基又はヒドロキシル基を表し、p、q及びrは、各々1〜3の整数を表し、m及びnは、各々1〜5の整数を表す。
【0075】
一般式(I)において、R1、R2及びR3が表すアルキル基は直鎖でも分岐でもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基等が挙げられ、スルホ基及びカルボキシル基はその塩を包含する。一般式(I)で表される化合物のうち、m及びnが1又は2である化合物が特に好ましい。一般式(I)で表される化合物は公知の方法で合成することができる。
【0076】
その他、本発明に適用し得る酸分解性化合物としては、特開昭48−89603号、同51−120714号、同53−133429号、同55−12995号、同55−126236号、同56−17345号の各公報に記載のC−O−C結合を有する化合物、特開昭60−37549号、同60−121446号の各公報に記載のSi−O−C結合を有する化合物、特開昭60−3625号、同60−10247号の各公報に記載されているその他の酸分解化合物を挙げることができ、更に特開昭62−222246号公報に記載されているSi−N結合を有する化合物、特開昭62−251743号公報に記載されている炭酸エステル、特開昭62−209451号公報に記載されているオルト炭酸エステル、特開昭62−280841号公報に記載されているオルトチタン酸エステル、特開昭62−280842号公報に記載されているオルトケイ酸エステル、特開昭63−010153号、特開平10−55067号、同10−111564号、同10−87733号、同10−153853号、同10−228102号、同10−268507号、同282648号、同10−282670号の各公報、欧州特許第0884647号明細書に記載されているアセタール、ケタール及びオルトカルボン酸エステル、特開昭62−244038号公報に記載されているC−S結合を有する化合物を用いることが出来る。
【0077】
上記酸分解性化合物の中でも特に、特開昭53−133429号、同56−17345号、同60−121446号、同60−37549号、同62−209451号、同63−010153号、特開平10−55067号、同10−111564号、同10−87733号、同10−153853号、同10−228102号、同10−268507号、同282648号、同10−282670号の各公報、欧州特許第0884647号明細書に記載されているC−O−C結合を有する化合物、Si−O−C結合を有する化合物、オルト炭酸エステル、アセタール類、ケタール類及びシリルエーテル類が好ましい。
この酸分解性化合物の中でも、主鎖中に繰り返しアセタール又はケタール部分を有し、アルカリ現像液中でその溶解度が発生した酸により上昇する高分子化合物が好ましく用いられる。
【0078】
これらの酸分解性化合物は、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、添加量としては、感光層全固形分に対し5〜70質量%、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜35質量%の割合で層中に添加される。この範囲内で良好に、露光によるアルカリ現像液への溶解性増加が得られる。
【0079】
(酸発生剤)
光又は熱により酸を発生する化合物(酸発生剤)とは、赤外線の照射や、100℃以上の加熱によって分解し酸を発生する化合物を指す。発生する酸としては、スルホン酸、塩酸等のpKaが2以下の強酸であることが好ましい。
【0080】
本発明において好適に用いられる酸発生剤としては、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩等のオニウム塩が挙げられる。具体的には、米国特許第4,708,925号明細書や特開平7−20629号公報に記載されている化合物を挙げることができる。特に、スルホン酸イオンを対イオンとするヨードニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾニウム塩が好ましい。ジアゾニウム塩としては、米国特許第3,867,147号明細書記載のジアゾニウム化合物、米国特許第2,632,703号明細書記載のジアゾニウム化合物や特開平1−102456号公報及び特開平1−102457号公報に記載されているジアゾ樹脂も好ましい。また、米国特許第5,135,838号明細書や米国特許第5,200,544号明細書に記載されているベンジルスルホナート類も好ましい。更に、特開平2−100054号、特開平2−100055号及び特開平9−197671号の各公報に記載されている活性スルホン酸エステルやジスルホニル化合物類も好ましい。他にも、特開平7−271029号公報に記載されている、ハロアルキル置換されたS−トリアジン類も好ましい。
【0081】
本発明における酸発生剤の含有量は、その化学的性質及び本発明の感光層の組成又は物性によって広範囲に変えることができるが、感光層固形分に対して約0.1〜約20質量%の範囲が適当であり、好ましくは0.2〜10質量%の範囲である。
【0082】
〔その他の成分〕
上述された本発明の重層型感光層には、更に必要に応じて、種々の添加剤を添加することができる。
例えば、感光層の溶解性を調節するために、オニウム塩、芳香族スルホン化合物、芳香族スルホン酸エステル化合物、多官能アミン化合物等、添加するとアルカリ可溶性樹脂の現像液への溶解阻止機能を向上させるいわゆる溶解阻止剤を添加することが好ましく、中でも、オニウム塩、o−キノンジアジド化合物、スルホン酸アルキルエステル等の熱分解性であり、分解しない状態ではアルカリ可溶性樹脂の溶解性を実質的に低下させる物質を併用することが、画像部の現像液への溶解阻止性の向上を図る点で好ましい。
【0083】
感光層の溶解性調節のために用いられるオニウム塩の好適なものとしては、例えばS.I.Schlesinger,Photogr.Sci.Eng.,18,387(1974)、T.S.Bal et al,Polymer,21,423(1980)、特開平5−158230号公報に記載のジアゾニウム塩、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号の各明細書、特開平3−140140号、特開2002−229186号の各公報に記載のアンモニウム塩、D.C.Necker et al,Macromolecules,17,2468(1984)、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号の各明細書に記載のホスホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromorecules,10(6),1307(1977)、Chem.&Eng.News,Nov.28,p31(1988)、欧州特許第104,143号、米国特許第5,041,358号、同第4,491,628号の各明細書、特開平2−150848号、特開平2−296514号の各公報に記載のヨードニウム塩、J.V.Crivello et al,Polymer J.17,73(1985)、J.V.Crivello et al.J.Org.Chem.,43,3055(1978)、W.R.Watt et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,22,1789(1984)、J.V.Crivello et al,Polymer Bull.,14,279(1985)、J.V.Crivello etal,Macromorecules,14(5),1141(1981)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,2877(1979)、欧州特許第370,693号、同233,567号、同297,443号、同297,442号、米国特許第4,933,377号、同3,902,114号、同5,041,358号、同4,491,628号、同4,760,013号、同4,734,444号、同2,833,827号、独国特許第2,904,626号、同3,604,580号、同3,604,581号の各明細書に記載のスルホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromorecules,10(6),1307(1977)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,1047(1979)に記載のセレノニウム塩、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)に記載のアルソニウム塩等が挙げられる。
これらのオニウム塩の中でも、溶解阻止能や熱分解性の観点から、ジアゾニウム塩が特に好ましい。特に、特開平5−158230号公報に記載の一般式(I)で示されるジアゾニウム塩や特開平11−143064号公報に記載の一般式(1)で示されるジアゾニウム塩が好ましく、可視光領域の吸収波長が小さい特開平11−143064号公報に記載の一般式(1)で示されるジアゾニウム塩が最も好ましい。また、第4級アンモニウム塩としては、特開2002−229186号公報の段落番号[0020]及び[0021]に記載の(1)〜(10)に示される第4級アンモニウム塩が好ましい。
【0084】
オニウム塩の対イオンとしては、四フッ化ホウ酸、六フッ化リン酸、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸、5−ニトロ−o−トルエンスルホン酸、5−スルホサリチル酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2−ニトロベンゼンスルホン酸、3−クロロベンゼンスルホン酸、3−ブロモベンゼンスルホン酸、2−フルオロカプリルナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、1−ナフトール−5−スルホン酸、2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイル−ベンゼンスルホン酸、及びパラトルエンスルホン酸等を挙げることができる。これらの中でも特に六フッ化リン酸、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸や2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸のごときアルキル芳香族スルホン酸が好適である。
【0085】
好適なキノンジアジド類としてはo−キノンジアジド化合物を挙げることができる。本発明に用いられるo−キノンジアジド化合物は、少なくとも1個のo−キノンジアジド基を有する化合物で、熱分解によりアルカリ可溶性を増すものであり、種々の構造の化合物を用いることができる。つまり、o−キノンジアジドは熱分解によりバインダー樹脂の溶解抑制能を失うことと、o−キノンジアジド自身がアルカリ可溶性の物質に変化することの両方の効果により感光層の溶解性を助ける。本発明に用いられるo−キノンジアジド化合物としては、例えば、J.コーサー著「ライト−センシティブ・システムズ」(John Wiley&Sons.Inc.)第339〜352頁に記載の化合物が使用できるが、特に種々の芳香族ポリヒドロキシ化合物又は芳香族アミノ化合物と反応させたo−キノンジアジドのスルホン酸エステル又はスルホン酸アミドが好適である。また、特公昭43−28403号公報に記載されているようなベンゾキノン(1,2)−ジアジドスルホン酸クロライド又はナフトキノン−(1,2)−ジアジド−5−スルホン酸クロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステル、米国特許第3,046,120号及び同第3,188,210号明細書に記載されているベンゾキノン−(1,2)−ジアジドスルホン酸クロライド又はナフトキノン−(1,2)−ジアジド−5−スルホン酸クロライドとフェノール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステルも好適に使用される。
【0086】
さらにナフトキノン−(1,2)−ジアジド−4−スルホン酸クロライドとフェノールホルムアルデヒド樹脂又はクレゾール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステル、ナフトキノン−(1,2)−ジアジド−4−スルホン酸クロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステルも同様に好適に使用される。その他の有用なo−キノンジアジド化合物としては、数多くの特許に報告され知られている。例えば特開昭47−5303号、特開昭48−63802号、特開昭48−63803号、特開昭48−96575号、特開昭49−38701号、特開昭48−13354号、特公昭41−11222号、特公昭45−9610号、特公昭49−17481号などの各公報、米国特許第2,797,213号、同第3,454,400号、同第3,544,323号、同第3,573,917号、同第3,674,495号、同第3,785,825号、英国特許第1,227,602号、同第1,251,345号、同第1,267,005号、同第1,329,888号、同第1,330,932号、独国特許第854,890号などの各明細書中に記載されているものを挙げることができる。
【0087】
分解性溶解阻止剤であるオニウム塩、及び/又は、o−キノンジアジド化合物の添加量は好ましくは感光層の全固形分に対し、1〜10質量%、更に好ましくは1〜5質量%、特に好ましくは1〜2質量%の範囲である。これらの化合物は単一で使用できるが、数種の混合物として使用してもよい。
オニウム塩及びo−キノンジアジド化合物以外の添加剤の添加量は、好ましくは0.1〜5質量%、更に好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.1〜1.5質量%である。
【0088】
また、分解性を有さない溶解阻止剤を併用してもよく、好ましい溶解阻止剤としては、特開平10−268512号公報に詳細に記載されているスルホン酸エステル、燐酸エステル、芳香族カルボン酸エステル、芳香族ジスルホン、カルボン酸無水物、芳香族ケトン、芳香族アルデヒド、芳香族アミン、芳香族エーテル等、同じく特開平11−190903号公報に詳細に記載されているラクトン骨格、N,N−ジアリールアミド骨格、ジアリールメチルイミノ骨格を有し着色剤を兼ねた酸発色性色素、同じく特開2000−105454号公報に詳細に記載されている非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0089】
ポジ型感光層に使用される添加剤としては、感度を向上させる目的で、環状酸無水物類、フェノール類、有機酸類を併用することができる。また、後述する界面活性剤、画像着色剤、及び可塑剤も、本発明のポジ型感光層に使用することができる。
【0090】
環状酸無水物としては米国特許第4,115,128号明細書に記載されている無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドオキシ−4−テトラヒドロ無水フタル酸、テトラクロル無水フタル酸、無水マレイン酸、クロル無水マレイン酸、α−フェニル無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸などが使用できる。フェノール類としては、ビスフェノールA、p−ニトロフェノール、p−エトキシフェノール、4,4’−ビスヒドロキシフェニルスルホン、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’,4”−トリヒドロキシトリフェニルメタン、4,4’,3”,4”−テトラヒドロキシ−3,5,3’,5’−テトラメチルトリフェニルメタンなどが挙げられる。更に、有機酸類としては、特開昭60−88942号、特開平2−96755号公報などに記載されている、スルホン酸類、スルフィン酸類、アルキル硫酸類、ホスホン酸類、リン酸エステル類、及びカルボン酸類などが挙げられる。
上記の環状酸無水物、フェノール類、及び有機酸類の感光層中に占める割合は、0.05〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜15質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%である。
【0091】
また、これら以外にも、エポキシ化合物、ビニルエーテル類、更には特開平8−276558号公報に記載のヒドロキシメチル基を有するフェノール化合物、アルコキシメチル基を有するフェノール化合物及び本発明者らが先に提案した特開平11−160860号公報に記載のアルカリ溶解抑制作用を有する架橋性化合物等を目的に応じて適宜添加することができる。
【0092】
また、本発明に係る感光層には、現像条件に対する処理の安定性を広げるため、特開昭62−251740号公報や特開平3−208514号公報に記載されているような非イオン界面活性剤、特開昭59−121044号公報、特開平4−13149号公報に記載されているような両性界面活性剤、欧州特許第950517号明細書に記載されているようなシロキサン系化合物、特開平11−288093号公報に記載されているようなフッ素含有のモノマー共重合体を添加することができる。
非イオン界面活性剤の具体例としては、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタントリオレート、ステアリン酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。両面活性剤の具体例としては、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、2−アルキル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインやN−テトラデシル−N,N−ベタイン型(例えば、商品名「アモーゲンK」:第一工業(株)製)等が挙げられる。
シロキサン系化合物としては、ジメチルシロキサンとポリアルキレンオキシドのブロック共重合体が好ましく、具体例として、(株)チッソ社製、DBE−224,DBE−621,DBE−712,DBP−732,DBP−534、独Tego社製、Tego Glide100等のポリアルキレンオキシド変性シリコーンを挙げることが出来る。
上記非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤の感光層中に占める割合は、0.05〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0093】
また、露光による加熱後直ちに可視像を得るための焼き出し剤や、画像着色剤としての染料や顔料を加えることができる。
焼き出し剤としては、露光による加熱によって酸を放出する化合物(光酸放出剤)と塩を形成し得る有機染料の組合せを代表として挙げることができる。具体的には、特開昭50−36209号、同53−8128号の各公報に記載されているo−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸ハロゲニドと塩形成性有機染料の組合せや、特開昭53−36223号、同54−74728号、同60−3626号、同61−143748号、同61−151644号及び同63−58440号の各公報に記載されているトリハロメチル化合物と塩形成性有機染料の組合せを挙げることができる。かかるトリハロメチル化合物としては、オキサゾール系化合物とトリアジン系化合物とがあり、どちらも経時安定性に優れ、明瞭な焼き出し画像を与える。
【0094】
画像の着色剤としては、前述の塩形成性有機染料以外に他の染料を用いることができる。塩形成性有機染料を含めて、好適な染料として油溶性染料と塩基性染料を挙げることができる。具体的にはオイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)などを挙げることができる。また、特開昭62−293247号公報に記載されている染料は特に好ましい。これらの染料は、感光層全固形分に対し、0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜3質量%の割合で感光層中に添加することができる。
【0095】
また、感光層中には、感光層の溶解性をさらに加速させるため、少なくとも1つのメルカプト基(−SH)を有する化合物を添加することができる。
鎖状のメルカプト基を有する化合物としては、脂肪族炭化水素の側鎖或いは末端に−SHを有するものが挙げられる。これらの炭化水素化合物は、直鎖状であっても分岐鎖を有するものであってもよく、さらに水酸基、ハロゲン原子、アミノ基等の置換基を有するものであってもよい。また、炭化水素系化合物内のメチレン基は、エーテル、チオエーテル、エステル、アミド、ウレア、チオウレア等の2価の有機基で置換されていてもよい。このような化合物としては、例えば、エタン、ブタン、ヘキサン、ノナン、デカン、ドデカン、オクタデカンなど炭素原子数2〜18程度の直鎖状炭化水素の片末端、或いは両末端に−SH基を導入した化合物、炭素原子数2〜18程度の炭化水素鎖内の炭素上に−SH基を導入した化合物、及びそれらの炭化水素鎖内のメチン基をエーテル結合、エステル結合で置換した化合物などが挙げられる。具体的な化合物としては特願2002−204418号明細書の段落[0018]〜[0019]に記載の化合物が挙げられる。
【0096】
環状のメルカプト基を有する化合物としては、脂環炭化水素、芳香族炭化水素、縮合多環系炭化水素、さらには、ヘテロ環化合物などが挙げられる。また、分子内に互いに独立した2以上の環構造を有するものであってもよい。環状炭化水素系化合物においても、環構造に−SH基の他、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基などの置換基を有するものであってもよい。このような化合物としては、シクロヘキサン、ベンゼン、ナフタレン、などの環状炭化水素に−SH基を置換した化合物、環状炭化水素上のアルキル基などの置換基上に−SH基を置換した化合物、ヘテロ環に−SH基を置換した化合物などが挙げられる。具体的な化合物としては特願2002−204418号明細書の段落[0020]〜[0026]に記載の化合物が挙げられる。
【0097】
これらの分子構造については、特に制限はないが、メルカプト化合物特有の臭気を抑制する観点から、分子量が高く、揮発性の低い化合物であることが好ましい。そのようなチオール化合物の分子量は、90以上であることが好ましく、110以上であることがより好ましい。また、複数のメルカプト基を有するチオール化合物及び芳香族チオール化合物も同様の観点から好ましい。添加量については、感光層全固形分中、0.2〜20質量%添加されることが好ましく、0.5〜10質量%添加されることがさらに好ましい。この範囲内で、塗膜の皮膜特性が低下することなく、優れた現像ラチチュード及び画像コントラストを有する良好な感光層の溶解性の加速が得られる。
【0098】
更に、各感光層中には必要に応じ、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤が加えられる。例えば、ブチルフタリル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸又はメタクリル酸のオリゴマー及びポリマー等が用いられる。
【0099】
〔感光層の形成〕
本発明の赤外線感光性ポジ型平版印刷版は、上記の必要成分を溶媒に溶かした感光層塗布液を適当な支持体上に塗布して感光層を設けることにより製造することができる。また、目的に応じて、後述する樹脂中間層、バックコート層なども同様にして形成することができる。
ここで使用する溶媒としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン等をあげることができるがこれに限定されるものではない。これらの溶媒は単独又は混合して使用される。
溶媒中の上記成分(添加剤を含む全固形分)の濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0100】
また塗布、乾燥後に得られる支持体上の塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、重層型感光層についていえば、一般的に第一層の塗布量においては0.5〜5.0g/m2が好ましく、最上層の塗布量においては0.05〜1.0g/m2が好ましい。さらに好ましい塗布量としては、第一層においては0.7〜3.0g/m2、最上層においては0.1〜0.9g/m2である。この範囲内で、良好な感度及び皮膜強度が得られる。
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
【0101】
本発明の重層型感光層中には、塗布性を良化するための界面活性剤、例えば特開昭62−170950号公報に記載されているようなフッ素系界面活性剤を添加することができる。好ましい添加量は、感光層全固形分中0.01〜1質量%、さらに好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0102】
〔樹脂中間層〕
本発明の感光性平版印刷版には、必要に応じて、支持体と感光層との間に樹脂中間層を設けることができる。
この樹脂中間層を設けることで、支持体と感光層との間の高分子からなる樹脂中間層が断熱層として機能し、赤外線レーザの露光により発生した熱が支持体に拡散せず、効率よく使用されることから、高感度化が図れるという利点を有する。また、本発明に係る感光層は、この樹脂中間層を設ける際にも、露光面或いはその近傍に位置するため、赤外線レーザに対する感度は良好に維持される。
なお、未露光部においては、アルカリ現像液に対して非浸透性である感光層自体が樹脂中間層の保護層として機能するために、現像安定性が良好になるとともにディスクリミネーションに優れた画像が形成され、且つ、経時的な安定性も確保されるものと考えられ、露光部においては、溶解抑制能が解除された感光層の成分が速やかに現像液に溶解、分散し、さらには、支持体に隣接して存在するこの樹脂中間層自体がアルカリ可溶性高分子からなるものであるため、現像液に対する溶解性が良好で、例えば、活性の低下した現像液などを用いた場合でも、残膜などが発生することなく速やかに溶解し、現像性の向上にも寄与し、この樹脂中間層は有用であると考えられる。
【0103】
〔支持体〕
本発明に使用される支持体としては、寸度的に安定な板状物であり、必要な強度、可撓性などの物性を満たすものであれば特に制限はなく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上記のごとき金属がラミネート、もしくは蒸着された紙、又はプラスチックフィルム等が挙げられる。
【0104】
本発明に適用し得る支持体としては、ポリエステルフィルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸法安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板は特に好ましい。好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネート又は蒸着されたプラスチックフィルムでもよい。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は高々10質量%以下である。本発明において特に好適なアルミニウムは、純アルミニウムであるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。
このように本発明に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。本発明で用いられるアルミニウム板の厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度、好ましくは0.15mm〜0.4mm、特に好ましくは0.2mm〜0.3mmである。
【0105】
アルミニウム板を粗面化するに先立ち、所望により、表面の圧延油を除去するための例えば界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液などによる脱脂処理が行われる。アルミニウム板の表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。また、電気化学的な粗面化法としては塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。また、特開昭54−63902号公報に開示されているように両者を組み合わせた方法も利用することができる。この様に粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じてアルカリエッチング処理及び中和処理された後、所望により表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成する種々の電解質の使用が可能で、一般的には硫酸、リン酸、蓚酸、クロム酸又はそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。
【0106】
陽極酸化の処理条件は用いる電解質により種々変わるので一概に特定し得ないが一般的には電解質の濃度が1〜80質量%溶液、液温は5〜70℃、電流密度5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10秒〜5分の範囲であれば適当である。陽極酸化皮膜の量は1.0g/m2より少ないと耐刷性が不十分であったり、平版印刷版の非画像部に傷が付き易くなって、印刷時に傷の部分にインキが付着するいわゆる「傷汚れ」が生じ易くなったりする。陽極酸化処理を施された後、アルミニウム表面は必要により親水化処理が施される。本発明に使用される親水化処理としては、米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、第3,280,734号及び第3,902,734号に開示されているようなアルカリ金属シリケート(例えばケイ酸ナトリウム水溶液)法がある。この方法においては、支持体がケイ酸ナトリウム水溶液で浸漬処理されるか又は電解処理される。他に特公昭36−22063号公報に開示されているフッ化ジルコン酸カリウム及び米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号、同第4,689,272号に開示されているようなポリビニルホスホン酸で処理する方法などが用いられる。
【0107】
本発明の支持体としてポリエステルフィルムなど表面の親水性が不十分な支持体を用いる場合は、親水層を塗布して表面を親水性にすることが望ましい。親水層としては、特開2001−199175号に記載の、ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、珪素、チタン、硼素、ゲルマニウム、スズ、ジルコニウム、鉄、バナジウム、アンチモン及び遷移金属から選択される少なくとも一つの元素の酸化物又は水酸化物のコロイドを含有する塗布液を塗布してなる親水層が好ましい。中でも、珪素の酸化物又は水酸化物のコロイドを含有する塗布液を塗布してなる親水層が好ましい。
【0108】
〔下塗層〕
本発明の赤外線感光性ポジ型平版印刷版は、支持体上に重層型感光層を有するが、必要に応じて支持体と感光層の間に下塗層を設けることができる。
下塗層成分としては種々の有機化合物が用いられ、例えば、ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルブチレート、安息香酸ビニルなどのビニルエステル類、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、アラビアガム、2−アミノエチルホスホン酸などのアミノ基を有するホスホン酸類、置換基を有してもよいフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アルキルホスホン酸、グリセロホスホン酸、メチレンジホスホン酸及びエチレンジホスホン酸などの有機ホスホン酸、置換基を有してもよいフェニルリン酸、ナフチルリン酸、アルキルリン酸及びグリセロリン酸などの有機リン酸、置換基を有してもよいフェニルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸、アルキルホスフィン酸及びグリセロホスフィン酸などの有機ホスフィン酸、グリシンやβ−アラニンなどのアミノ酸類、及びトリエタノールアミンの塩酸塩などのヒドロキシ基を有するアミンの塩酸塩等から選ばれるが、2種以上混合して用いてもよい。
【0109】
また、本発明における好適な下塗層成分として、特開2000−241962号公報に記載の酸基を有する構成成分とオニウム基を有する構成成分とを有する高分子化合物を挙げることができる。具体的には、酸基を有するモノマーとオニウム基を有するモノマーの共重合体が挙げられる。酸基として好ましいのは酸解離指数(pKa)が7以上の酸基であり、より好ましくはーCOOH、−SO3H、−OSO3H、−PO3H2、―OPO3H2、―CONHSO2―、又はSO2NHSO2−であり、特に好ましくはーCOOHである。酸基を有するモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、上記酸基を有するスチレンなどが挙げられる。オニウム塩として好ましいのは、周期表V族又は第VI族の原子からなるオニウム基であり、より好ましくは窒素原子、リン原子又は硫黄原子から成るオニウム塩であり、特に好ましくは窒素原子から成るオニウム塩である。オニウム塩を有するモノマーの具体例としては、側鎖にアンモニウム基を有するメタクリレート、メタクリルアミド、第4級アンモニウム基等のオニウム基を含む置換基などのオニウム基を含む置換基を有するスチレン等が挙げられる。
【0110】
この有機下塗層は次のような方法で設けることができる。即ち、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液をアルミニウム板上に塗布、乾燥して設ける方法と、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液に、アルミニウム板を浸漬して上記化合物を吸着させ、その後水などによって洗浄、乾燥して有機下塗層を設ける方法である。前者の方法では、上記の有機化合物の濃度0.005〜10質量%溶液を種々の方法で塗布できる。また後者の方法では、溶液の濃度は0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%であり、浸漬温度は20〜90℃、好ましくは25〜50℃であり、浸漬時間は0.1秒〜20分、好ましくは2秒〜1分である。これに用いる溶液は、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化カリウムなどの塩基性物質や、塩酸、リン酸などの酸性物質によりpH1〜12の範囲に調整することもできる。
有機下塗層の被覆量は、2〜200mg/m2が適当であり、好ましくは5〜100mg/m2である。この範囲内で、耐刷性を維持しつつ良好な汚れ防止効果が得られる。
【0111】
〔バックコート層〕
本発明の感光性平版印刷版の支持体裏面には必要に応じてバックコート層を設けることができる。バックコート層は、支持体裏面のアルカリ現像液による腐食を防止するのに有用である。かかるバックコート層としては、特開平5−45885号公報記載の有機高分子化合物、及び特開平6−35174号公報記載の有機又は無機金属化合物を加水分解及び重縮合させて得られる金属酸化物などの被覆層が挙げられる。これらの被覆層のうち、Si(OCH3)4、Si(OC2H5)4、Si(OC3H7)4、Si(OC4H9)4などのケイ素のアルコキシ化合物が安価で入手しやすく、それから得られる金属酸化物の被覆層が耐現像液に優れており、特に好ましい。
【0112】
〔製版方法〕
本発明の赤外線感光性ポジ型平版印刷版は熱により画像形成される。具体的には、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光や赤外線ランプ露光などが用いられるが、波長700〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザ、YAGレーザ等の固体高出力赤外線レーザによる露光が好適である。
レーザの出力は100mW以上が好ましく、露光時間を短縮するため、マルチビームレーザデバイスを用いることが好ましい。また、1画素あたりの露光時間は20μ秒以内であることが好ましく、版面に照射されるエネルギーは10〜500mJ/cm2であることが好ましい。
【0113】
露光された本発明の感光性平版印刷版は、現像処理及びフィニッシャーや保護ガムなどによる後処理を施されて印刷版となる。これらの処理には、公知の自動現像機などの処理機器を用いることができる。
本発明の感光性平版印刷版の現像処理及び後処理に用いられる処理剤は、公知の処理剤の中から適宜選択できる。
【0114】
好適な現像液としては、pHが9.0〜14.0の範囲、好ましくは12.0〜13.5の範囲にある現像液である。現像液には、従来から知られているアルカリ水溶液が使用できる。上記のアルカリ水溶液のうち、特に好適な現像液として、塩基としてケイ酸アルカリを含有した、又は塩基にケイ素化合物を混ぜてケイ酸アルカリとしたものを含有した、従来から良く知られている所謂「シリケート現像液」と呼ばれるpH12以上の水溶液、及び、特開平8−305039号、特開平11−109637号公報等に記載の、ケイ酸アルカリを含有せず、非還元糖(緩衝作用を有する有機化合物)と塩基とを含有した所謂「非シリケート現像液」が挙げられる。
【0115】
本発明の感光性平版印刷版においては、現像処理して得られた平版印刷版に不必要な画像部がある場合には、その不必要な画像部の消去が行なわれる。このような消去には、公知の消去液を用いる方法を適用できる。また、オプティカルファイバーで導かれた活性光線を不必要画像部に照射したのち現像する方法も利用できる。
【0116】
より一層高耐刷力の平版印刷版としたい場合にはバーニング処理が施される。本発明の製版においては、公知のバーニング方法を適宜選択して行うことができる。また、市販のバーニングプロセッサー(例えば富士写真フイルム(株)より販売されているバーニングプロセッサー:「BP−1300」)などを用いることもできる。バーニングの後処理も公知の方法が適用できる。
【0117】
このような処理によって得られた平版印刷版はオフセット印刷機等にかけられ、多数枚の印刷に用いられる。
【0118】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0119】
〔支持体の作製〕
厚さ0.3mmのJIS−A−1050アルミニウム板を用いて、下記(a)〜(k)の表面処理を順に行って、本発明に用いる支持体を作製した。
【0120】
(a)機械的粗面化処理
比重1.12の研磨剤(ケイ砂)と水との懸濁液を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転するローラ状ナイロンブラシにより機械的な粗面化を行った。研磨剤の平均粒径は8μm、最大粒径は50μmであった。ナイロンブラシの材質は6・10ナイロン、毛長50mm、毛の直径は0.3mmであった。ナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。回転ブラシは3本使用した。ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。ブラシローラはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、ブラシローラをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して7kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。ブラシの回転数は200rpmであった。
【0121】
(b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に温度70℃のNaOH水溶液(濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%)をスプレーしてエッチング処理を行い、アルミニウム板を6g/m2溶解した。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0122】
(c)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。前記デスマットに用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的な粗面化を行う工程の廃液を用いた。
【0123】
(d)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸10.5g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L)、温度50℃であった。交流電源波形は電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、DUTY比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助陽極にはフェライトを用いた。電解槽はラジアルセルタイプのものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で220C/dm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。
その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0124】
(e)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%でスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.20g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的な粗面化を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0125】
(f)デスマット処理
温度30℃の硫酸濃度15質量%水溶液(アルミニウムイオンを4.5質量%含む)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、井水を用いてスプレーで水洗した。前記デスマットに用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的な粗面化を行う工程の廃液を用いた。
【0126】
(g)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、塩酸7.5g/リットル水溶液(アルミニウムイオンを5g/リットル含む)、温度35℃であった。交流電源波形は矩形波であり、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽はラジアルセルタイプのものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で25A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で50C/dm2であった。
その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0127】
(h)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%でスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.10g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的な粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0128】
(i)デスマット処理
温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0129】
(j)陽極酸化処理
電解液としては、硫酸を用いた。電解液は、いずれも硫酸濃度170g/L(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)、温度は43℃であった。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
電流密度はともに約30A/dm2であった。最終的な酸化皮膜量は2.7g/m2であった。
【0130】
(k)アルカリ金属ケイ酸塩処理
陽極酸化処理により得られたアルミニウム支持体を温度30℃の3号ケイ酸ソーダ1質量%水溶液の処理層中へ、10秒間浸漬することでアルカリ金属ケイ酸塩処理(シリケート処理)を行った。その後、井水を用いたスプレーによる水洗を行った。その際のシリケート付着量は3.6mg/m2であった。
【0131】
〔下塗処理〕
上記のようにして得られたアルカリ金属ケイ酸塩処理後のアルミニウム支持体上に、下記組成の下塗液を塗布し、80℃で15秒間乾燥した。乾燥後の被覆量は15mg/m2であった。
【0132】
<下塗液組成>
・下記高分子化合物 0.3g
・メタノール 100g
・水 1.0g
【0133】
【化17】
【0134】
〔実施例1〕
上記のようにして得た下塗層を有する支持体に、下記の感光層用塗布液1を第一層感光層として塗布し、140℃のオーブンで50秒乾燥後、下記の感光層用塗布液2を最上層感光層として塗布し、140℃のオーブンで1分乾燥して、塗布量が第一層0.85g/m2、最上層0.85g/m2、計1.70g/m2である重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を作製した。
【0135】
<感光層用塗布液1>
・N−(4−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド/アクリロニトリル
/メタクリル酸メチル共重合体 2.13g
(モル比36:34:30、重量平均分子量50,000)
・赤外線吸収剤 0.134g
(下記シアニン染料A)
・ビス−p−ヒドロキシフェニルスルホン 0.126g
・テトラヒドロ無水フタル酸 0.19g
・p−トルエンスルホン酸 0.008g
・2−メトキシ−4−(N−フェニルアミノ)ベンゼンジアゾニウム
ヘキサフルオロホスフェート 0.032g
・エチルバイオレットの対アニオンを
6−ナフタレンスルホン酸イオンに変えた染料 0.078g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、
大日本インキ化学工業(株)製) 0.023g
・γ―ブチロラクトン 13.16g
・メチルエチルケトン(MEK) 25.39g
・1−メトキシ−2−プロパノール 12.95g
【0136】
【化18】
【0137】
<感光層用塗布液2>
・m,p−クレゾールノボラック樹脂(m/p比=6/4) 0.35g
(重量平均分子量7700、未反応クレゾール0.5質量%含有)
・赤外線吸収剤 0.029g
(下記シアニン染料B)
・下記構造のポリマー(MEK30%溶液) 0.14g
・第4級アンモニウム塩(下記構造) 0.004g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、
大日本インキ化学工業(株)製) 0.004g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−781、
大日本インキ化学工業(株)製) 0.001g
・メチルエチルケトン 2.63g
・1−メトキシ−2−プロパノール 5.27g
【0138】
【化19】
【0139】
【化20】
【0140】
〔実施例2〕
実施例1で用いたのと同じ下塗層を有する支持体に、前記の感光層用塗布液1を第一層感光層として塗布し、140℃のオーブンで50秒乾燥後、下記の感光層用塗布液3を最上層感光層として塗布し、140℃のオーブンで1分乾燥して、塗布量が第一層0.85g/m2、最上層0.85g/m2、計1.70g/m2の重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を作製した。
【0141】
<感光層用塗布液3>
赤外線吸収剤を下記シアニン染料Cに替えた以外は感光層用塗布液2と同じ。
【0142】
【化21】
【0143】
〔実施例3〕
実施例1で用いたのと同じ下塗り層を有する支持体に、下記の感光層用塗布液4を第一層感光層として塗布し、140℃のオーブンで50秒乾燥後、下記の感光層用塗布液5を最上層感光層として塗布し、140℃のオーブンで1分乾燥して、塗布量が第一層0.85g/m2、最上層0.85g/m2、計1.70g/m2の重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を作製した。
【0144】
<感光層用塗布液4>
赤外線吸収剤をシアニン染料Bにした以外は感光層用塗布液1と同じ。
【0145】
<感光層用塗布液5>
赤外線吸収剤をシアニン染料Aにした以外は感光層用塗布液2と同じ。
【0146】
〔実施例4〕
実施例1で用いたのと同じ下塗り層を有する支持体に、下記の感光層用塗布液6を第一層感光層として塗布し、140℃のオーブンで50秒乾燥後、前記の感光層用塗布液5を最上層感光層として塗布し、140℃のオーブンで1分乾燥して、膜厚が第一層0.85g/m2、最上層0.85g/m2、計1.70g/m2の重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を作製した。
【0147】
<感光層用塗布液6>
赤外線吸収剤をシアニン染料Cにした以外は感光層用塗布液1と同じ。
【0148】
〔比較例1〕
実施例1で用いたのと同じ下塗り層を有する支持体に、前記の感光層用塗布液1を第一層感光層として塗布し、140℃のオーブンで50秒乾燥後、前記の感光層用塗布液5を最上層感光層として塗布し、140℃のオーブンで1分乾燥して、塗布量が第一層0.85g/m2、最上層0.85g/m2、計1.70g/m2の重層型ポジ型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を作製した。
【0149】
〔比較例2〕
実施例1で用いたのと同じ下塗り層を有する支持体に、前記の感光層用塗布液6を第一層感光層として塗布し、140℃のオーブンで50秒乾燥後、前記の画像感光層用塗布液3を最上層感光層として塗布し、140℃のオーブンで1分乾燥して、塗布量が第一層0.85g/m2、最上層0.85g/m2、計1.70g/m2の重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を作製した。
【0150】
〔比較例3〕
特開平11―218914号公報の実施例1に記載されている製造方法に基づいて作製した重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を比較例として用いた。塗布量は第一層1.40g/m2、最上層0.60g/m2、計2.00g/m2、最上層及び第一層に含まれている赤外線吸収剤は前記のシアニン色素Iであった。
【0151】
〔比較例4〕
特開2003−29413号公報の実施例1に記載されている製造方法に基づいて作製した重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を比較例として用いた。塗布量は第一層0.85g/m2、最上層0.15g/m2、計1.00g/m2、最上層に含まれている赤外線吸収剤は前記シアニン色素A、第一層に含まれている赤外線吸収色素は下記のシアニン色素Dであった。
【0152】
【化22】
【0153】
〔赤外線感光性ポジ型平版印刷版の評価〕
(クリア感度と現像ラチチュード)
得られた赤外線感光性ポジ型平版印刷版を、富士写真フイルム(株)製サーマルプレートセッターLuxel―T6000IIIにて、ビーム強度30〜100%、ドラム回転数460rpmでベタ画像を含むテストパターンを描き込んだ後、電導度を43mS/cmにした富士写真フイルム(株)製「非シリケート現像液」DT−2、及び富士写真フイルム(株)製フィニッシャーFP2W(1:1希釈したもの)を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサー940Hを用い、液温を30℃に保ち現像時間12秒で現像した。その後、現像液に富士写真フイルム(株)製「非シリケート現像補充液」DT−2Rを適量加え、電導度を2mS/cmずつ上げ、画像の現像による膜減りが顕著に観察されるまでこの作業を続けた。
この時、実質上耐刷に影響を及ぼさない程度に現像膜減りが維持される限界の電導度(X)mSを求め、該電導度より2mSだけ小さい電導度(X−2)mSにおけるベタ画像部を50倍のルーペで観察し、ポツ状の残膜が観測されないところの露光ビーム強度をクリア感度とした。なおクリア感度は数値が小さいものほど高感度であると評価される。
また現像ラチチュードについては、電導度(X−2)mSにおける実効感度露光量(10.4μmのラインアンドスペース(LS)パターンを1対1に解像するときの露光量)を50倍のルーペで観察して求め、この実行感度露光量の数値をクリア感度露光量の数値が上回らない限界の電導度(Y)mSと、上記電導度(X)mSとの幅を現像ラチチュード幅(X−Y)mSとした。
結果を下記表1に示す。
【0154】
(吸光度極大波長)
最上層及び第一層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長は、前述の実施例1〜4、及び比較例1〜4の第一層及び最上層塗布液をそれぞれ実施例1に記載のアルミニウム支持体に塗布し、140℃のオーブンで50秒間乾燥させた感光層試料を、日本分光工業(株)製Ubest―50型分光光度計を用いて反射光吸収スペクトルを測定して求めた。
結果を下記表1に示す。
【0155】
(蛍光強度極大波長)
最上層及び第一層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長は、前述の実施例1〜4、及び比較例1〜4の第一層及び最上層塗布液をそれぞれ実施例1に記載のアルミ支持体に塗布し、140℃のオーブンで60秒間乾燥させた感光層試料を、Jobin Yvon Inc.製蛍光分光光度計Fluorolog3を用いて励起光808nmにおける蛍光スペクトルを測定して求めた。
結果を下記表1に示す。
【0156】
【表1】
【0157】
表1から、λE1とλA2の差、又はλE2とλA1の差が本発明の範囲(0〜30nm)である実施例1〜4は、高感度であるのに対し、これらの差が本発明の範囲外である比較例1、比較例2、特開平11―218914号公報の実施例である比較例3、及び特開2003−29413号公報の実施例である比較例4は、感度が低いことが明らかである。
【0158】
【発明の効果】
本発明の重層型感光層を用いた赤外線感光性ポジ型平版印刷版によれば、感光層の一方の層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、他方の層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度吸収波長との差を特定範囲に設定することにより、さらに高感度な平版印刷版を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における高感度化の機構を説明する模式図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、赤外線露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が変化するポジ型の感光性平版印刷版に関し、詳細にはコンピュータ等のデジタルデータに基づいて赤外線レーザ光を走査することにより直接製版できる、いわゆるダイレクト製版可能なポジ型の感光性平版印刷版に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年におけるレーザの発展は目覚ましく、特に近赤外から赤外に発光領域を持つ固体レーザ・半導体レーザは高出力かつ小型の物が容易に入手できる様になっている。コンピュータ等のデジタルデータから直接製版する際の露光光源として、これらのレーザは非常に有用である。
【0003】
赤外線レーザ用ポジ型平版印刷版は、通常アルカリ水溶液可溶性のバインダー樹脂と、光を吸収し熱を発生する赤外線吸収剤等とを必須成分とする感光層を有する。感光層の未露光部(画像部)では、赤外線吸収剤等がバインダー樹脂との相互作用によりバインダー樹脂の溶解性を実質的に低下させる溶解阻止剤として働き、露光部では、発生した熱により溶解性を阻害する上記相互作用が弱まる。これにより、感光層露光部をアルカリ現像液で選択的に溶解除去して非画像部を形成し、平版印刷版を作製することができる。
しかしながら、このような赤外線レーザ用ポジ型平版印刷版の画像形成能は、感光層の赤外線レーザ露光による発熱に依存しているため、支持体近傍では、熱の拡散により画像形成、即ち、感光層の可溶化に用いられる熱量が少なくなり、結果として露光・未露光の差が小さくなり、感光層の感度として不充分であるという問題があった。
従って、未露光部と露光部との溶解性の差を出すために、バインダー樹脂として、あらかじめアルカリ現像液に対する溶解性の高いものを使用せざるを得ず、このような赤外線レーザ用ポジ型平版印刷版は、耐傷性に劣化や現像前の状態が不安定なものとなるという問題を抱えていた。
【0004】
これらの問題を解決するため、特許文献1(特開平11−218914号公報)には、上部に画像形成時の溶解性変化の大きな感光層を設けて、下層にアルカリ溶解性の高い層を設けることが考案されている。これにより露光後の層全体の溶解性を高いままに維持し、未露光での溶解性を抑えることが出来る。このような重層型感光層の画像形成性をさらに向上させるため、特許文献2(特開2003−29413号公報)においては、上層と下層に異なる赤外線吸収染料を用い、感度向上、現像ラチチュード拡大、耐傷性向上を図っている。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−218914号公報
【特許文献2】
特開2003−29413号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の技術では感度の面で十分ではなく、さらなる高感度化が望まれていた。
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、赤外線を放射する固体レーザ又は半導体レーザを用いて記録することにより、コンピュータ等のデジタルデータから直接製版が可能であり、従来よりもさらに高感度な赤外線感光性ポジ型平版印刷版を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明者らは、重層型感光層の一方の層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、他方の層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度吸収波長との差を特定範囲にすることにより、高感度を達成できることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至ったものである。
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1) 親水性支持体上に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含有する第一層と、該層上に水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含み、露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が増加する最上層とを、順次積層した重層型感光層を有し、前記第一層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、前記最上層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差が0〜30nmの範囲内にある赤外線感光性ポジ型平版印刷版。
【0008】
(2) 親水性支持体上に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含有する第一層と、該層上に水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含み、露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が増加する最上層とを、順次積層した重層型感光層を有し、前記最上層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、前記第一層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差が0〜30nmの範囲内にある赤外線感光性ポジ型平版印刷版。
【0009】
赤外光が赤外線吸収剤に吸収された後、光エネルギーは一般的に、1)光熱変換による発熱過程、又は2)発熱しない蛍光発光過程を経るが、本発明のごとき発生した熱により分子間相互作用が弱まりアルカリ現像液に対する溶解性が増大する「サーマルポジ型感光層」の高感度化においては、1)の発熱過程が重要であり、2)の蛍光発光過程は光エネルギーのロスに相当する。
本発明は、重層型の感光層において、赤外線吸収剤を上記発明の光吸収特性と蛍光発光特性の条件下で用いることによって、一方の層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光発光を、他方の層に含まれる赤外線吸収剤によって効率よく再吸収して発熱させることができ、高感度を達成できたものと推測される。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の赤外線感光性ポジ型平版印刷版は、親水性支持体上に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含有する第一層と、該層上に水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含み、露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が増加する最上層とを、順次積層した重層型の感光層を有し、第一層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、最上層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差が0〜30nmの範囲内にあることを特徴とする。第一層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と最上層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差は、より好ましくは0〜20nmであり、特に好ましくは0〜10nmである。
【0011】
本発明の別の態様は、上記の重層型感光層において、最上層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、第一層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差が0〜30nmの範囲内にあることを特徴とする。最上層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と第一層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差は、より好ましくは0〜20nmであり、特に好ましくは0〜10nmである。
【0012】
図1は本発明の態様を示す模式図であり、一方の層に含まれる赤外線吸収剤(b)の蛍光発光を、他方の層に含まれる赤外線吸収剤(a)によって再吸収する様子を表している。このときの再吸収の効率に対応するのが、赤外線吸収剤(a)の吸光スペクトル(各波長における吸光度の積分値)と、赤外線吸収剤(b)の蛍光スペクトル(各波長における蛍光強度の積分値)との重なり面積である。即ち、この重なり面積が大きいほど、赤外線吸収剤(a)のエネルギー準位と赤外線吸収剤(b)のエネルギー準位との差が小さくなるため、光エネルギー移動効率が高くなり、蛍光発光の再吸収効率も高くなる。特に、本発明で規定した特定範囲条件下においては、極めて高い再吸収効率が得られるものと推測される。
以下、本発明を構成する要素について、順次詳細に説明する。
【0013】
〔(A)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂〕
本発明の重層型感光層に用いられるバインダー樹脂である(A)水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂(以下では、単にアルカリ可溶性樹脂ともいう。)としては、高分子中の主鎖及び/又は側鎖に酸性基を含有する単独重合体、これらの共重合体、又はこれらの混合物を包含する。
中でも、下記(1)〜(6)に挙げる酸性基を高分子の主鎖及び/又は側鎖中に有するものが、耐現像性の点及びアルカリ水溶液に対する溶解性の点で好ましい。
【0014】
(1)フェノール基(−Ar−OH)
(2)スルホンアミド基(−SO2NH−R)
(3)活性イミド基(−SO2NHCOR、−SO2NHSO2R、−CONHSO2R)
(4)カルボン酸基(−CO2H)
(5)スルホン酸基(−SO3H)
(6)リン酸基(−OPO3H2)
【0015】
上記(1)〜(6)中、Arは置換基を有していてもよい2価のアリール連結基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。
【0016】
上記(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有するアルカリ可溶性樹脂の中でも、(1)フェノール基、(2)スルホンアミド基、(3)活性イミド基及び(4)カルボン酸基を有するアルカリ可溶性樹脂が好ましく、特に、(1)フェノール基、(2)スルホンアミド基又は(3)カルボン酸基を有するアルカリ可溶性樹脂が、アルカリ性現像液に対する溶解性、現像ラチチュード、膜強度を十分に確保する点から最も好ましい。
【0017】
上記(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(1)フェノール基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、フェノールとホルムアルデヒドとの縮重合体、m−クレゾールとホルムアルデヒドとの縮重合体、p−クレゾールとホルムアルデヒドとの縮重合体、m−/p−混合クレゾールとホルムアルデヒドとの縮重合体、フェノールとクレゾール(m−、p−、又はm−/p−混合のいずれでもよい)とホルムアルデヒドとの縮重合体等のノボラック樹脂、及びピロガロールとアセトンとの縮重合体を挙げることができる。さらに、フェノール基を側鎖に有する化合物を共重合させた共重合体を挙げることもできる。或いは、フェノール基を側鎖に有する化合物を共重合させた共重合体を用いることもできる。
【0018】
フェノール基を側鎖に有する化合物としては、フェノール基を有するアクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、又はヒドロキシスチレン等が挙げられる。
【0019】
(2)スルホンアミド基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、スルホンアミド基を有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分として構成される重合体を挙げることができる。上記のような化合物としては、窒素原子に少なくとも一つの水素原子が結合したスルホンアミド基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物が挙げられる。中でも、アクリロイル基、アリル基、又はビニロキシ基と、置換もしくはモノ置換アミノスルホニル基又は置換スルホニルイミノ基と、を分子内に有する低分子化合物が好ましく、例えば、下記一般式(i)〜一般式(v)で表される化合物が挙げられる。
【0020】
【化1】
【0021】
式中、X1、X2は、それぞれ独立に−O−又はNR7を表す。R1、R4は、それぞれ独立に水素原子又は−CH3を表す。R2、R5、R9、R12、及び、R16は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基又はアラルキレン基を表す。R3、R7、及び、R13は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。また、R6、R17は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。R8、R10、R14は、それぞれ独立に水素原子又は−CH3を表す。R11、R15は、それぞれ独立に単結合又は置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基又はアラルキレン基を表す。Y1、Y2は、それぞれ独立に単結合又はCOを表す。
【0022】
一般式(i)〜一般式(v)で表される化合物のうち、本発明の重層型感光層には、特に、m−アミノスルホニルフェニルメタクリレート、N−(p−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド、N−(p−アミノスルホニルフェニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0023】
(3)活性イミド基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、活性イミド基を有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分として構成される重合体を挙げることができる。上記のような化合物としては、下記構造式で表される活性イミド基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物を挙げることができる。
【0024】
【化2】
【0025】
具体的には、N−(p−トルエンスルホニル)メタクリルアミド、N−(p−トルエンスルホニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0026】
(4)カルボン酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、カルボン酸基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分とする重合体を挙げることができる。具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等のα、β−不飽和カルボン酸類が挙げられる。また、側鎖にヒドロキシル基を有するアクリレート又はメタクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチルエチルアクリレート又はメタクリレート等)のヒドロキシル基と、二塩基酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、フタル酸等)とのモノエステルである不飽和カルボン酸も好適なものとして挙げられる。
(5)スルホン酸基を有するアルカリ可溶性高分子としては、例えば、スルホン酸基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成単位とする重合体を挙げることができる。
(6)リン酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、リン酸基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分とする重合体を挙げることができる。
【0027】
本発明の重層型感光層に用いられるアルカリ可溶性樹脂を構成する、前記(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有する最小構成単位は、特に1種類のみである必要はなく、同一の酸性基を有する最小構成単位を2種以上、又は異なる酸性基を有する最小構成単位を2種以上共重合させたものを用いることもできる。
【0028】
前記共重合体は、共重合させる(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有する化合物が共重合体中に10モル%以上含まれているものが好ましく、20モル%以上含まれているものがより好ましい。10モル%未満であると、現像ラチチュードを十分に向上させることができない傾向がある。
【0029】
前記酸性基を有するモノマーと共重合させるモノマー成分としては、例えば、下記(m1)〜(m12)に示すモノマーを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
(m1)2−ヒドロキシエチルアクリレート又は2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の脂肪族水酸基を有するアクリル酸エステル類、及びメタクリル酸エステル類。
(m2)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸−2−クロロエチル、グリシジルアクリレート、等のアルキルアクリレート。
(m3)メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸−2−クロロエチル、グリシジルメタクリレート、等のアルキルメタクリレート。
(m4)アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−ヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド、N−エチル−N−フェニルアクリルアミド等のアクリルアミド若しくはメタクリルアミド。
(m5)エチルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類。
(m6)ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルブチレート、安息香酸ビニル等のビニルエステル類。
(m7)スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン類。
(m8)メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、プロピルビニルケトン、フェニルビニルケトン等のビニルケトン類。
(m9)エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン等のオレフィン類。
(m10)N−ビニルピロリドン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
(m11)マレイミド、N−アクリロイルアクリルアミド、N−アセチルメタクリルアミド、N−プロピオニルメタクリルアミド、N−(p−クロロベンゾイル)メタクリルアミド等の不飽和イミド。
(m12)アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸。
【0031】
本発明におけるアルカリ可溶性樹脂が、前記の酸性基を有する重合性モノマーの単独重合体或いは共重合体である場合には、重量平均分子量は2,000以上、数平均分子量が500以上のものが好ましい。更に好ましくは、重量平均分子量が5,000〜300,000で、数平均分子量が800〜250,000であり、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1〜10のものである。また、本発明においてアルカリ可溶性樹脂がフェノールホルムアルデヒド樹脂、クレゾールアルデヒド樹脂等の樹脂である場合には、重量平均分子量が500〜20,000であり、数平均分子量が200〜10,000のものが好ましい。
【0032】
これらアルカリ可溶性樹脂は、それぞれ1種類又は2種類以上を組み合わせて使用してもよく、前記感光層全固形分中、30〜99質量%、好ましくは40〜95質量%、特に好ましくは50〜90質量%の添加量で用いられる。この範囲内で良好な感度及び感光層の耐久性が得られる。
【0033】
〔(B)赤外線吸収剤〕
本発明に用いられる赤外線吸収剤としては、光を吸収し、熱を発生する物質であれば特に吸収波長域の制限はなく用いることができるが、入手容易な高出力レーザへの適合性の観点から、波長760nm〜1200nmに吸収極大を有する赤外線吸収性染料又は顔料が好ましく挙げられる。
【0034】
染料としては、市販の染料、例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体、オキソノール染料、ジイモニウム染料、アミニウム染料、クロコニウム染料等の染料が挙げられる。
【0035】
好ましい染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭60−78787号等の各公報、米国特許第4973572号明細書等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等の各公報に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等の各公報に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号公報等に記載されているスクアリリウム色素、英国特許第434,875号明細書記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0036】
また、米国特許第5,156,938号明細書記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号明細書記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号公報記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号等の各公報に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号公報記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号明細書記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号の各公報に開示されているピリリウム化合物も好ましく用いられる。
【0037】
また、染料として好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
【0038】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、フタロシアニン染料、オキソノール染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、チオピリリウム染料、ニッケルチオレート錯体が挙げられる。さらに、下記一般式(a)〜一般式(e)で示される染料が光熱変換効率に優れるため好ましく、特に下記一般式(a)で示されるシアニン色素は、本発明の重層型感光層に使用した場合に、アルカリ可溶性樹脂との高い相互作用を与え、且つ、安定性、経済性に優れるため最も好ましい。
【0039】
【化3】
【0040】
一般式(a)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−NPh2、X2−L1又は以下に示す基を表す。ここで、X2は酸素原子又は、硫黄原子を示し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。
【0041】
【化4】
【0042】
R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。感光層塗布液の保存安定性から、R1及びR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、さらに、R1とR2とは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0043】
Ar1、Ar2は、それぞれ同じでも異なっていても良く、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y1、Y2は、それぞれ同じでも異なっていても良く、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R3、R4は、それぞれ同じでも異なっていても良く、置換基を有していても良い炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R5、R6、R7及びR8は、それぞれ同じでも異なっていても良く、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Za−は、対アニオンを示す。ただし、R1〜R8のいずれかにスルホ基が置換されている場合は、Za−は必要ない。好ましいZa−は、感光層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0044】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、以下に例示するものの他、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]、特開2002−40638号公報の段落番号[0012]〜[0038]、特開2002−23360号公報の段落番号[0012]〜[0023]に記載されたものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0045】
【化5】
【0046】
【化6】
【0047】
【化7】
【0048】
【化8】
【0049】
前記一般式(b)中、Lは共役炭素原子数7以上のメチン鎖を表し、該メチン鎖は置換基を有していてもよく、置換基が互いに結合して環構造を形成していてもよい。Zb+は対カチオンを示す。好ましい対カチオンとしては、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウム、ピリジニウム、アルカリ金属カチオン(Ni+、K+、Li+)などが挙げられる。R9〜R14及びR15〜R20は互いに独立に水素原子又はハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、カルボニル基、チオ基、スルホニル基、スルフィニル基、オキシ基、又はアミノ基から選択される置換基、或いは、これらを2つ若しくは3つ組み合わせた置換基を表し、互いに結合して環構造を形成していてもよい。ここで、前記一般式(b)中、Lが共役炭素原子数7のメチン鎖を表すもの、及び、R9〜R14及びR15〜R20がすべて水素原子を表すものが入手の容易性と効果の観点から好ましい。
【0050】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(b)で示される染料の具体例としては、以下に例示するものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0051】
【化9】
【0052】
【化10】
【0053】
前記一般式(c)中、Y3及びY4は、それぞれ、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、又はテルル原子を表す。Mは、共役炭素数5以上のメチン鎖を表す。R21〜R24及びR25〜R28は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、カルボニル基、チオ基、スルホニル基、スルフィニル基、オキシ基、又はアミノ基を表す。また、式中Za−は対アニオンを表し、前記一般式(a)におけるZa−と同義である。
【0054】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(c)で示される染料の具体例としては、以下に例示するものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0055】
【化11】
【0056】
【化12】
【0057】
前記一般式(d)中、R29ないしR31は各々独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を示す。R33及びR34は各々独立に、アルキル基、置換オキシ基、又はハロゲン原子を示す。n及びmは各々独立に0ないし4の整数を示す。R29とR30、又はR31とR32はそれぞれ結合して環を形成してもよく、またR29及び/又はR30はR33と、またR31及び/又はR32はR34と結合して環を形成しても良く、さらに、R33又はR34が複数存在する場合に、R33同士又はR34同士は互いに結合して環を形成してもよい。X2及びX3は各々独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基であり、X2及びX3の少なくとも一方は水素原子又はアルキル基を示す。Qは置換基を有していてもよいトリメチン基又はペンタメチン基であり、2価の有機基とともに環構造を形成してもよい。Zc−は対アニオンを示し、前記一般式(a)におけるZa−と同義である。
【0058】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(d)で示される染料の具体例としては、以下に例示するものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。。
【0059】
【化13】
【0060】
【化14】
【0061】
前記一般式(e)中、R35〜R50はそれぞれ独立に、置換基を有してもよい水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、水酸基、カルボニル基、チオ基、スルホニル基、スルフィニル基、オキシ基、アミノ基、オニウム塩構造を示す。Mは2つの水素原子若しくは金属原子、ハロメタル基、オキシメタル基を示すが、そこに含まれる金属原子としては、周期律表のIA、IIA、IIIB、IVB族原子、第一、第二、第三周期の遷移金属、ランタノイド元素が挙げられ、中でも、銅、マグネシウム、鉄、亜鉛、コバルト、アルミニウム、チタン、バナジウムが好ましい。
【0062】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(e)で示される染料の具体例としては、以下に例示するものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0063】
【化15】
【0064】
本発明において赤外線吸収剤として使用される顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が挙げられる。
【0065】
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。これらの顔料のうち好ましいものはカーボンブラックである。
【0066】
これら顔料は表面処理をせずに用いてもよく、表面処理を施して用いてもよい。表面処理の方法には、樹脂やワックスを表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、反応性物質(例えば、シランカップリング剤、エポキシ化合物、ポリイソシアネート等)を顔料表面に結合させる方法等が考えられる。上記の表面処理方法は、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)及び「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0067】
顔料の粒径は0.01μm〜10μmの範囲にあることが好ましく、0.05μm〜1μmの範囲にあることがさらに好ましく、特に0.1μm〜1μmの範囲にあることが好ましい。顔料の粒径が0.01μm未満のときは分散物の画像感光層塗布液中での安定性の点で好ましくなく、また、10μmを越えると画像感光層の均一性の点で好ましくない。
【0068】
顔料を分散する方法としては、インク製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。分散機としては、超音波分散器、サンドミル、アトライター、パールミル、スーパーミル、ボールミル、インペラー、デスパーザー、KDミル、コロイドミル、ダイナトロン、3本ロールミル、加圧ニーダー等が挙げられる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0069】
これらの顔料又は染料は、感光層の全固形分に対し0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜10質量%、染料の場合特に好ましくは0.5〜10質量%、顔料の場合特に好ましくは0.1〜10質量%の割合で添加することができる。この範囲内で、感光層の均一性や膜強度に好ましくない影響を与えることなく、高感度が得られる。
【0070】
上述したこれらの赤外線吸収剤の中で、最上層と第一層に添加するのにより好ましい染料としては一般式(a)で示されるシアニン染料であり、特に前記シアニン染料I,II,IIIを用いて最上層と第一層に別々の染料を添加するのが好ましい。
また、最上層と第一層に添加する染料の好ましい添加量(g/m2)の比率は、最上層添加量/第一層添加量=1.0〜3.0であり、より好ましくは最上層添加量/第一層添加量=1.0〜2.5であり、特に好ましくは最上層添加量/第一層添加量=1.1〜2.0である。
【0071】
〔酸触媒分解系成分〕
既述のごとく、本発明の重層型感光層の第一層及び最上層は、(A)アルカリ可溶性樹脂及び(B)赤外線吸収剤を含み、赤外線レーザ露光による発熱によって上記(A)、(B)等の分子間の相互作用が解除されてアルカリ水溶液に対する溶解性が増加する相互作用解除系ポジ型感光層として機能する。
本発明においては、上記感光層に、熱によって酸を発生する化合物(酸発生剤)、及び発生した酸を触媒として化学結合を開裂してアルカリ現像液に対する溶解性が増大する化合物(酸分解性化合物)とからなる酸触媒分解系のアルカリ可溶化成分を加えることができる。かかる成分の添加の添加において、重層型感光層のうち、最上層に添加することがより好ましい。
【0072】
(酸分解性化合物)
本発明において、酸を触媒として化学結合を開裂してアルカリ現像液に対する溶解性が増大する化合物とは、分子内に酸で分解し得る結合基を有する化合物と言い代えることができる。このような化合物としては、特開平9−171254号公報に記載の「酸で分解し得る結合を少なくとも1つ有する化合物」を用いることができる。酸で分解し得る結合としては、例えば、アセタール結合又はケタール結合等を好ましいものとして挙げることができる。
このような化合物中、感度及び現像性の観点から、下記一般式(I)で表される化合物を用いることがより好ましい。
【0073】
【化16】
【0074】
一般式(I)中、R1、R2及びR3は、各々水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数1〜5のアルコキシ基、スルホ基、カルボキシル基又はヒドロキシル基を表し、p、q及びrは、各々1〜3の整数を表し、m及びnは、各々1〜5の整数を表す。
【0075】
一般式(I)において、R1、R2及びR3が表すアルキル基は直鎖でも分岐でもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基等が挙げられ、スルホ基及びカルボキシル基はその塩を包含する。一般式(I)で表される化合物のうち、m及びnが1又は2である化合物が特に好ましい。一般式(I)で表される化合物は公知の方法で合成することができる。
【0076】
その他、本発明に適用し得る酸分解性化合物としては、特開昭48−89603号、同51−120714号、同53−133429号、同55−12995号、同55−126236号、同56−17345号の各公報に記載のC−O−C結合を有する化合物、特開昭60−37549号、同60−121446号の各公報に記載のSi−O−C結合を有する化合物、特開昭60−3625号、同60−10247号の各公報に記載されているその他の酸分解化合物を挙げることができ、更に特開昭62−222246号公報に記載されているSi−N結合を有する化合物、特開昭62−251743号公報に記載されている炭酸エステル、特開昭62−209451号公報に記載されているオルト炭酸エステル、特開昭62−280841号公報に記載されているオルトチタン酸エステル、特開昭62−280842号公報に記載されているオルトケイ酸エステル、特開昭63−010153号、特開平10−55067号、同10−111564号、同10−87733号、同10−153853号、同10−228102号、同10−268507号、同282648号、同10−282670号の各公報、欧州特許第0884647号明細書に記載されているアセタール、ケタール及びオルトカルボン酸エステル、特開昭62−244038号公報に記載されているC−S結合を有する化合物を用いることが出来る。
【0077】
上記酸分解性化合物の中でも特に、特開昭53−133429号、同56−17345号、同60−121446号、同60−37549号、同62−209451号、同63−010153号、特開平10−55067号、同10−111564号、同10−87733号、同10−153853号、同10−228102号、同10−268507号、同282648号、同10−282670号の各公報、欧州特許第0884647号明細書に記載されているC−O−C結合を有する化合物、Si−O−C結合を有する化合物、オルト炭酸エステル、アセタール類、ケタール類及びシリルエーテル類が好ましい。
この酸分解性化合物の中でも、主鎖中に繰り返しアセタール又はケタール部分を有し、アルカリ現像液中でその溶解度が発生した酸により上昇する高分子化合物が好ましく用いられる。
【0078】
これらの酸分解性化合物は、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、添加量としては、感光層全固形分に対し5〜70質量%、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜35質量%の割合で層中に添加される。この範囲内で良好に、露光によるアルカリ現像液への溶解性増加が得られる。
【0079】
(酸発生剤)
光又は熱により酸を発生する化合物(酸発生剤)とは、赤外線の照射や、100℃以上の加熱によって分解し酸を発生する化合物を指す。発生する酸としては、スルホン酸、塩酸等のpKaが2以下の強酸であることが好ましい。
【0080】
本発明において好適に用いられる酸発生剤としては、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩等のオニウム塩が挙げられる。具体的には、米国特許第4,708,925号明細書や特開平7−20629号公報に記載されている化合物を挙げることができる。特に、スルホン酸イオンを対イオンとするヨードニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾニウム塩が好ましい。ジアゾニウム塩としては、米国特許第3,867,147号明細書記載のジアゾニウム化合物、米国特許第2,632,703号明細書記載のジアゾニウム化合物や特開平1−102456号公報及び特開平1−102457号公報に記載されているジアゾ樹脂も好ましい。また、米国特許第5,135,838号明細書や米国特許第5,200,544号明細書に記載されているベンジルスルホナート類も好ましい。更に、特開平2−100054号、特開平2−100055号及び特開平9−197671号の各公報に記載されている活性スルホン酸エステルやジスルホニル化合物類も好ましい。他にも、特開平7−271029号公報に記載されている、ハロアルキル置換されたS−トリアジン類も好ましい。
【0081】
本発明における酸発生剤の含有量は、その化学的性質及び本発明の感光層の組成又は物性によって広範囲に変えることができるが、感光層固形分に対して約0.1〜約20質量%の範囲が適当であり、好ましくは0.2〜10質量%の範囲である。
【0082】
〔その他の成分〕
上述された本発明の重層型感光層には、更に必要に応じて、種々の添加剤を添加することができる。
例えば、感光層の溶解性を調節するために、オニウム塩、芳香族スルホン化合物、芳香族スルホン酸エステル化合物、多官能アミン化合物等、添加するとアルカリ可溶性樹脂の現像液への溶解阻止機能を向上させるいわゆる溶解阻止剤を添加することが好ましく、中でも、オニウム塩、o−キノンジアジド化合物、スルホン酸アルキルエステル等の熱分解性であり、分解しない状態ではアルカリ可溶性樹脂の溶解性を実質的に低下させる物質を併用することが、画像部の現像液への溶解阻止性の向上を図る点で好ましい。
【0083】
感光層の溶解性調節のために用いられるオニウム塩の好適なものとしては、例えばS.I.Schlesinger,Photogr.Sci.Eng.,18,387(1974)、T.S.Bal et al,Polymer,21,423(1980)、特開平5−158230号公報に記載のジアゾニウム塩、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号の各明細書、特開平3−140140号、特開2002−229186号の各公報に記載のアンモニウム塩、D.C.Necker et al,Macromolecules,17,2468(1984)、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号の各明細書に記載のホスホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromorecules,10(6),1307(1977)、Chem.&Eng.News,Nov.28,p31(1988)、欧州特許第104,143号、米国特許第5,041,358号、同第4,491,628号の各明細書、特開平2−150848号、特開平2−296514号の各公報に記載のヨードニウム塩、J.V.Crivello et al,Polymer J.17,73(1985)、J.V.Crivello et al.J.Org.Chem.,43,3055(1978)、W.R.Watt et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,22,1789(1984)、J.V.Crivello et al,Polymer Bull.,14,279(1985)、J.V.Crivello etal,Macromorecules,14(5),1141(1981)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,2877(1979)、欧州特許第370,693号、同233,567号、同297,443号、同297,442号、米国特許第4,933,377号、同3,902,114号、同5,041,358号、同4,491,628号、同4,760,013号、同4,734,444号、同2,833,827号、独国特許第2,904,626号、同3,604,580号、同3,604,581号の各明細書に記載のスルホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromorecules,10(6),1307(1977)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,1047(1979)に記載のセレノニウム塩、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)に記載のアルソニウム塩等が挙げられる。
これらのオニウム塩の中でも、溶解阻止能や熱分解性の観点から、ジアゾニウム塩が特に好ましい。特に、特開平5−158230号公報に記載の一般式(I)で示されるジアゾニウム塩や特開平11−143064号公報に記載の一般式(1)で示されるジアゾニウム塩が好ましく、可視光領域の吸収波長が小さい特開平11−143064号公報に記載の一般式(1)で示されるジアゾニウム塩が最も好ましい。また、第4級アンモニウム塩としては、特開2002−229186号公報の段落番号[0020]及び[0021]に記載の(1)〜(10)に示される第4級アンモニウム塩が好ましい。
【0084】
オニウム塩の対イオンとしては、四フッ化ホウ酸、六フッ化リン酸、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸、5−ニトロ−o−トルエンスルホン酸、5−スルホサリチル酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2−ニトロベンゼンスルホン酸、3−クロロベンゼンスルホン酸、3−ブロモベンゼンスルホン酸、2−フルオロカプリルナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、1−ナフトール−5−スルホン酸、2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイル−ベンゼンスルホン酸、及びパラトルエンスルホン酸等を挙げることができる。これらの中でも特に六フッ化リン酸、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸や2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸のごときアルキル芳香族スルホン酸が好適である。
【0085】
好適なキノンジアジド類としてはo−キノンジアジド化合物を挙げることができる。本発明に用いられるo−キノンジアジド化合物は、少なくとも1個のo−キノンジアジド基を有する化合物で、熱分解によりアルカリ可溶性を増すものであり、種々の構造の化合物を用いることができる。つまり、o−キノンジアジドは熱分解によりバインダー樹脂の溶解抑制能を失うことと、o−キノンジアジド自身がアルカリ可溶性の物質に変化することの両方の効果により感光層の溶解性を助ける。本発明に用いられるo−キノンジアジド化合物としては、例えば、J.コーサー著「ライト−センシティブ・システムズ」(John Wiley&Sons.Inc.)第339〜352頁に記載の化合物が使用できるが、特に種々の芳香族ポリヒドロキシ化合物又は芳香族アミノ化合物と反応させたo−キノンジアジドのスルホン酸エステル又はスルホン酸アミドが好適である。また、特公昭43−28403号公報に記載されているようなベンゾキノン(1,2)−ジアジドスルホン酸クロライド又はナフトキノン−(1,2)−ジアジド−5−スルホン酸クロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステル、米国特許第3,046,120号及び同第3,188,210号明細書に記載されているベンゾキノン−(1,2)−ジアジドスルホン酸クロライド又はナフトキノン−(1,2)−ジアジド−5−スルホン酸クロライドとフェノール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステルも好適に使用される。
【0086】
さらにナフトキノン−(1,2)−ジアジド−4−スルホン酸クロライドとフェノールホルムアルデヒド樹脂又はクレゾール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステル、ナフトキノン−(1,2)−ジアジド−4−スルホン酸クロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステルも同様に好適に使用される。その他の有用なo−キノンジアジド化合物としては、数多くの特許に報告され知られている。例えば特開昭47−5303号、特開昭48−63802号、特開昭48−63803号、特開昭48−96575号、特開昭49−38701号、特開昭48−13354号、特公昭41−11222号、特公昭45−9610号、特公昭49−17481号などの各公報、米国特許第2,797,213号、同第3,454,400号、同第3,544,323号、同第3,573,917号、同第3,674,495号、同第3,785,825号、英国特許第1,227,602号、同第1,251,345号、同第1,267,005号、同第1,329,888号、同第1,330,932号、独国特許第854,890号などの各明細書中に記載されているものを挙げることができる。
【0087】
分解性溶解阻止剤であるオニウム塩、及び/又は、o−キノンジアジド化合物の添加量は好ましくは感光層の全固形分に対し、1〜10質量%、更に好ましくは1〜5質量%、特に好ましくは1〜2質量%の範囲である。これらの化合物は単一で使用できるが、数種の混合物として使用してもよい。
オニウム塩及びo−キノンジアジド化合物以外の添加剤の添加量は、好ましくは0.1〜5質量%、更に好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.1〜1.5質量%である。
【0088】
また、分解性を有さない溶解阻止剤を併用してもよく、好ましい溶解阻止剤としては、特開平10−268512号公報に詳細に記載されているスルホン酸エステル、燐酸エステル、芳香族カルボン酸エステル、芳香族ジスルホン、カルボン酸無水物、芳香族ケトン、芳香族アルデヒド、芳香族アミン、芳香族エーテル等、同じく特開平11−190903号公報に詳細に記載されているラクトン骨格、N,N−ジアリールアミド骨格、ジアリールメチルイミノ骨格を有し着色剤を兼ねた酸発色性色素、同じく特開2000−105454号公報に詳細に記載されている非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0089】
ポジ型感光層に使用される添加剤としては、感度を向上させる目的で、環状酸無水物類、フェノール類、有機酸類を併用することができる。また、後述する界面活性剤、画像着色剤、及び可塑剤も、本発明のポジ型感光層に使用することができる。
【0090】
環状酸無水物としては米国特許第4,115,128号明細書に記載されている無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドオキシ−4−テトラヒドロ無水フタル酸、テトラクロル無水フタル酸、無水マレイン酸、クロル無水マレイン酸、α−フェニル無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸などが使用できる。フェノール類としては、ビスフェノールA、p−ニトロフェノール、p−エトキシフェノール、4,4’−ビスヒドロキシフェニルスルホン、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’,4”−トリヒドロキシトリフェニルメタン、4,4’,3”,4”−テトラヒドロキシ−3,5,3’,5’−テトラメチルトリフェニルメタンなどが挙げられる。更に、有機酸類としては、特開昭60−88942号、特開平2−96755号公報などに記載されている、スルホン酸類、スルフィン酸類、アルキル硫酸類、ホスホン酸類、リン酸エステル類、及びカルボン酸類などが挙げられる。
上記の環状酸無水物、フェノール類、及び有機酸類の感光層中に占める割合は、0.05〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜15質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%である。
【0091】
また、これら以外にも、エポキシ化合物、ビニルエーテル類、更には特開平8−276558号公報に記載のヒドロキシメチル基を有するフェノール化合物、アルコキシメチル基を有するフェノール化合物及び本発明者らが先に提案した特開平11−160860号公報に記載のアルカリ溶解抑制作用を有する架橋性化合物等を目的に応じて適宜添加することができる。
【0092】
また、本発明に係る感光層には、現像条件に対する処理の安定性を広げるため、特開昭62−251740号公報や特開平3−208514号公報に記載されているような非イオン界面活性剤、特開昭59−121044号公報、特開平4−13149号公報に記載されているような両性界面活性剤、欧州特許第950517号明細書に記載されているようなシロキサン系化合物、特開平11−288093号公報に記載されているようなフッ素含有のモノマー共重合体を添加することができる。
非イオン界面活性剤の具体例としては、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタントリオレート、ステアリン酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。両面活性剤の具体例としては、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、2−アルキル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインやN−テトラデシル−N,N−ベタイン型(例えば、商品名「アモーゲンK」:第一工業(株)製)等が挙げられる。
シロキサン系化合物としては、ジメチルシロキサンとポリアルキレンオキシドのブロック共重合体が好ましく、具体例として、(株)チッソ社製、DBE−224,DBE−621,DBE−712,DBP−732,DBP−534、独Tego社製、Tego Glide100等のポリアルキレンオキシド変性シリコーンを挙げることが出来る。
上記非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤の感光層中に占める割合は、0.05〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0093】
また、露光による加熱後直ちに可視像を得るための焼き出し剤や、画像着色剤としての染料や顔料を加えることができる。
焼き出し剤としては、露光による加熱によって酸を放出する化合物(光酸放出剤)と塩を形成し得る有機染料の組合せを代表として挙げることができる。具体的には、特開昭50−36209号、同53−8128号の各公報に記載されているo−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸ハロゲニドと塩形成性有機染料の組合せや、特開昭53−36223号、同54−74728号、同60−3626号、同61−143748号、同61−151644号及び同63−58440号の各公報に記載されているトリハロメチル化合物と塩形成性有機染料の組合せを挙げることができる。かかるトリハロメチル化合物としては、オキサゾール系化合物とトリアジン系化合物とがあり、どちらも経時安定性に優れ、明瞭な焼き出し画像を与える。
【0094】
画像の着色剤としては、前述の塩形成性有機染料以外に他の染料を用いることができる。塩形成性有機染料を含めて、好適な染料として油溶性染料と塩基性染料を挙げることができる。具体的にはオイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)などを挙げることができる。また、特開昭62−293247号公報に記載されている染料は特に好ましい。これらの染料は、感光層全固形分に対し、0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜3質量%の割合で感光層中に添加することができる。
【0095】
また、感光層中には、感光層の溶解性をさらに加速させるため、少なくとも1つのメルカプト基(−SH)を有する化合物を添加することができる。
鎖状のメルカプト基を有する化合物としては、脂肪族炭化水素の側鎖或いは末端に−SHを有するものが挙げられる。これらの炭化水素化合物は、直鎖状であっても分岐鎖を有するものであってもよく、さらに水酸基、ハロゲン原子、アミノ基等の置換基を有するものであってもよい。また、炭化水素系化合物内のメチレン基は、エーテル、チオエーテル、エステル、アミド、ウレア、チオウレア等の2価の有機基で置換されていてもよい。このような化合物としては、例えば、エタン、ブタン、ヘキサン、ノナン、デカン、ドデカン、オクタデカンなど炭素原子数2〜18程度の直鎖状炭化水素の片末端、或いは両末端に−SH基を導入した化合物、炭素原子数2〜18程度の炭化水素鎖内の炭素上に−SH基を導入した化合物、及びそれらの炭化水素鎖内のメチン基をエーテル結合、エステル結合で置換した化合物などが挙げられる。具体的な化合物としては特願2002−204418号明細書の段落[0018]〜[0019]に記載の化合物が挙げられる。
【0096】
環状のメルカプト基を有する化合物としては、脂環炭化水素、芳香族炭化水素、縮合多環系炭化水素、さらには、ヘテロ環化合物などが挙げられる。また、分子内に互いに独立した2以上の環構造を有するものであってもよい。環状炭化水素系化合物においても、環構造に−SH基の他、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基などの置換基を有するものであってもよい。このような化合物としては、シクロヘキサン、ベンゼン、ナフタレン、などの環状炭化水素に−SH基を置換した化合物、環状炭化水素上のアルキル基などの置換基上に−SH基を置換した化合物、ヘテロ環に−SH基を置換した化合物などが挙げられる。具体的な化合物としては特願2002−204418号明細書の段落[0020]〜[0026]に記載の化合物が挙げられる。
【0097】
これらの分子構造については、特に制限はないが、メルカプト化合物特有の臭気を抑制する観点から、分子量が高く、揮発性の低い化合物であることが好ましい。そのようなチオール化合物の分子量は、90以上であることが好ましく、110以上であることがより好ましい。また、複数のメルカプト基を有するチオール化合物及び芳香族チオール化合物も同様の観点から好ましい。添加量については、感光層全固形分中、0.2〜20質量%添加されることが好ましく、0.5〜10質量%添加されることがさらに好ましい。この範囲内で、塗膜の皮膜特性が低下することなく、優れた現像ラチチュード及び画像コントラストを有する良好な感光層の溶解性の加速が得られる。
【0098】
更に、各感光層中には必要に応じ、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤が加えられる。例えば、ブチルフタリル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸又はメタクリル酸のオリゴマー及びポリマー等が用いられる。
【0099】
〔感光層の形成〕
本発明の赤外線感光性ポジ型平版印刷版は、上記の必要成分を溶媒に溶かした感光層塗布液を適当な支持体上に塗布して感光層を設けることにより製造することができる。また、目的に応じて、後述する樹脂中間層、バックコート層なども同様にして形成することができる。
ここで使用する溶媒としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン等をあげることができるがこれに限定されるものではない。これらの溶媒は単独又は混合して使用される。
溶媒中の上記成分(添加剤を含む全固形分)の濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0100】
また塗布、乾燥後に得られる支持体上の塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、重層型感光層についていえば、一般的に第一層の塗布量においては0.5〜5.0g/m2が好ましく、最上層の塗布量においては0.05〜1.0g/m2が好ましい。さらに好ましい塗布量としては、第一層においては0.7〜3.0g/m2、最上層においては0.1〜0.9g/m2である。この範囲内で、良好な感度及び皮膜強度が得られる。
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
【0101】
本発明の重層型感光層中には、塗布性を良化するための界面活性剤、例えば特開昭62−170950号公報に記載されているようなフッ素系界面活性剤を添加することができる。好ましい添加量は、感光層全固形分中0.01〜1質量%、さらに好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0102】
〔樹脂中間層〕
本発明の感光性平版印刷版には、必要に応じて、支持体と感光層との間に樹脂中間層を設けることができる。
この樹脂中間層を設けることで、支持体と感光層との間の高分子からなる樹脂中間層が断熱層として機能し、赤外線レーザの露光により発生した熱が支持体に拡散せず、効率よく使用されることから、高感度化が図れるという利点を有する。また、本発明に係る感光層は、この樹脂中間層を設ける際にも、露光面或いはその近傍に位置するため、赤外線レーザに対する感度は良好に維持される。
なお、未露光部においては、アルカリ現像液に対して非浸透性である感光層自体が樹脂中間層の保護層として機能するために、現像安定性が良好になるとともにディスクリミネーションに優れた画像が形成され、且つ、経時的な安定性も確保されるものと考えられ、露光部においては、溶解抑制能が解除された感光層の成分が速やかに現像液に溶解、分散し、さらには、支持体に隣接して存在するこの樹脂中間層自体がアルカリ可溶性高分子からなるものであるため、現像液に対する溶解性が良好で、例えば、活性の低下した現像液などを用いた場合でも、残膜などが発生することなく速やかに溶解し、現像性の向上にも寄与し、この樹脂中間層は有用であると考えられる。
【0103】
〔支持体〕
本発明に使用される支持体としては、寸度的に安定な板状物であり、必要な強度、可撓性などの物性を満たすものであれば特に制限はなく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上記のごとき金属がラミネート、もしくは蒸着された紙、又はプラスチックフィルム等が挙げられる。
【0104】
本発明に適用し得る支持体としては、ポリエステルフィルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸法安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板は特に好ましい。好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネート又は蒸着されたプラスチックフィルムでもよい。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は高々10質量%以下である。本発明において特に好適なアルミニウムは、純アルミニウムであるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。
このように本発明に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。本発明で用いられるアルミニウム板の厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度、好ましくは0.15mm〜0.4mm、特に好ましくは0.2mm〜0.3mmである。
【0105】
アルミニウム板を粗面化するに先立ち、所望により、表面の圧延油を除去するための例えば界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液などによる脱脂処理が行われる。アルミニウム板の表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。また、電気化学的な粗面化法としては塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。また、特開昭54−63902号公報に開示されているように両者を組み合わせた方法も利用することができる。この様に粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じてアルカリエッチング処理及び中和処理された後、所望により表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成する種々の電解質の使用が可能で、一般的には硫酸、リン酸、蓚酸、クロム酸又はそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。
【0106】
陽極酸化の処理条件は用いる電解質により種々変わるので一概に特定し得ないが一般的には電解質の濃度が1〜80質量%溶液、液温は5〜70℃、電流密度5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10秒〜5分の範囲であれば適当である。陽極酸化皮膜の量は1.0g/m2より少ないと耐刷性が不十分であったり、平版印刷版の非画像部に傷が付き易くなって、印刷時に傷の部分にインキが付着するいわゆる「傷汚れ」が生じ易くなったりする。陽極酸化処理を施された後、アルミニウム表面は必要により親水化処理が施される。本発明に使用される親水化処理としては、米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、第3,280,734号及び第3,902,734号に開示されているようなアルカリ金属シリケート(例えばケイ酸ナトリウム水溶液)法がある。この方法においては、支持体がケイ酸ナトリウム水溶液で浸漬処理されるか又は電解処理される。他に特公昭36−22063号公報に開示されているフッ化ジルコン酸カリウム及び米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号、同第4,689,272号に開示されているようなポリビニルホスホン酸で処理する方法などが用いられる。
【0107】
本発明の支持体としてポリエステルフィルムなど表面の親水性が不十分な支持体を用いる場合は、親水層を塗布して表面を親水性にすることが望ましい。親水層としては、特開2001−199175号に記載の、ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、珪素、チタン、硼素、ゲルマニウム、スズ、ジルコニウム、鉄、バナジウム、アンチモン及び遷移金属から選択される少なくとも一つの元素の酸化物又は水酸化物のコロイドを含有する塗布液を塗布してなる親水層が好ましい。中でも、珪素の酸化物又は水酸化物のコロイドを含有する塗布液を塗布してなる親水層が好ましい。
【0108】
〔下塗層〕
本発明の赤外線感光性ポジ型平版印刷版は、支持体上に重層型感光層を有するが、必要に応じて支持体と感光層の間に下塗層を設けることができる。
下塗層成分としては種々の有機化合物が用いられ、例えば、ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルブチレート、安息香酸ビニルなどのビニルエステル類、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、アラビアガム、2−アミノエチルホスホン酸などのアミノ基を有するホスホン酸類、置換基を有してもよいフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アルキルホスホン酸、グリセロホスホン酸、メチレンジホスホン酸及びエチレンジホスホン酸などの有機ホスホン酸、置換基を有してもよいフェニルリン酸、ナフチルリン酸、アルキルリン酸及びグリセロリン酸などの有機リン酸、置換基を有してもよいフェニルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸、アルキルホスフィン酸及びグリセロホスフィン酸などの有機ホスフィン酸、グリシンやβ−アラニンなどのアミノ酸類、及びトリエタノールアミンの塩酸塩などのヒドロキシ基を有するアミンの塩酸塩等から選ばれるが、2種以上混合して用いてもよい。
【0109】
また、本発明における好適な下塗層成分として、特開2000−241962号公報に記載の酸基を有する構成成分とオニウム基を有する構成成分とを有する高分子化合物を挙げることができる。具体的には、酸基を有するモノマーとオニウム基を有するモノマーの共重合体が挙げられる。酸基として好ましいのは酸解離指数(pKa)が7以上の酸基であり、より好ましくはーCOOH、−SO3H、−OSO3H、−PO3H2、―OPO3H2、―CONHSO2―、又はSO2NHSO2−であり、特に好ましくはーCOOHである。酸基を有するモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、上記酸基を有するスチレンなどが挙げられる。オニウム塩として好ましいのは、周期表V族又は第VI族の原子からなるオニウム基であり、より好ましくは窒素原子、リン原子又は硫黄原子から成るオニウム塩であり、特に好ましくは窒素原子から成るオニウム塩である。オニウム塩を有するモノマーの具体例としては、側鎖にアンモニウム基を有するメタクリレート、メタクリルアミド、第4級アンモニウム基等のオニウム基を含む置換基などのオニウム基を含む置換基を有するスチレン等が挙げられる。
【0110】
この有機下塗層は次のような方法で設けることができる。即ち、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液をアルミニウム板上に塗布、乾燥して設ける方法と、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液に、アルミニウム板を浸漬して上記化合物を吸着させ、その後水などによって洗浄、乾燥して有機下塗層を設ける方法である。前者の方法では、上記の有機化合物の濃度0.005〜10質量%溶液を種々の方法で塗布できる。また後者の方法では、溶液の濃度は0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%であり、浸漬温度は20〜90℃、好ましくは25〜50℃であり、浸漬時間は0.1秒〜20分、好ましくは2秒〜1分である。これに用いる溶液は、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化カリウムなどの塩基性物質や、塩酸、リン酸などの酸性物質によりpH1〜12の範囲に調整することもできる。
有機下塗層の被覆量は、2〜200mg/m2が適当であり、好ましくは5〜100mg/m2である。この範囲内で、耐刷性を維持しつつ良好な汚れ防止効果が得られる。
【0111】
〔バックコート層〕
本発明の感光性平版印刷版の支持体裏面には必要に応じてバックコート層を設けることができる。バックコート層は、支持体裏面のアルカリ現像液による腐食を防止するのに有用である。かかるバックコート層としては、特開平5−45885号公報記載の有機高分子化合物、及び特開平6−35174号公報記載の有機又は無機金属化合物を加水分解及び重縮合させて得られる金属酸化物などの被覆層が挙げられる。これらの被覆層のうち、Si(OCH3)4、Si(OC2H5)4、Si(OC3H7)4、Si(OC4H9)4などのケイ素のアルコキシ化合物が安価で入手しやすく、それから得られる金属酸化物の被覆層が耐現像液に優れており、特に好ましい。
【0112】
〔製版方法〕
本発明の赤外線感光性ポジ型平版印刷版は熱により画像形成される。具体的には、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光や赤外線ランプ露光などが用いられるが、波長700〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザ、YAGレーザ等の固体高出力赤外線レーザによる露光が好適である。
レーザの出力は100mW以上が好ましく、露光時間を短縮するため、マルチビームレーザデバイスを用いることが好ましい。また、1画素あたりの露光時間は20μ秒以内であることが好ましく、版面に照射されるエネルギーは10〜500mJ/cm2であることが好ましい。
【0113】
露光された本発明の感光性平版印刷版は、現像処理及びフィニッシャーや保護ガムなどによる後処理を施されて印刷版となる。これらの処理には、公知の自動現像機などの処理機器を用いることができる。
本発明の感光性平版印刷版の現像処理及び後処理に用いられる処理剤は、公知の処理剤の中から適宜選択できる。
【0114】
好適な現像液としては、pHが9.0〜14.0の範囲、好ましくは12.0〜13.5の範囲にある現像液である。現像液には、従来から知られているアルカリ水溶液が使用できる。上記のアルカリ水溶液のうち、特に好適な現像液として、塩基としてケイ酸アルカリを含有した、又は塩基にケイ素化合物を混ぜてケイ酸アルカリとしたものを含有した、従来から良く知られている所謂「シリケート現像液」と呼ばれるpH12以上の水溶液、及び、特開平8−305039号、特開平11−109637号公報等に記載の、ケイ酸アルカリを含有せず、非還元糖(緩衝作用を有する有機化合物)と塩基とを含有した所謂「非シリケート現像液」が挙げられる。
【0115】
本発明の感光性平版印刷版においては、現像処理して得られた平版印刷版に不必要な画像部がある場合には、その不必要な画像部の消去が行なわれる。このような消去には、公知の消去液を用いる方法を適用できる。また、オプティカルファイバーで導かれた活性光線を不必要画像部に照射したのち現像する方法も利用できる。
【0116】
より一層高耐刷力の平版印刷版としたい場合にはバーニング処理が施される。本発明の製版においては、公知のバーニング方法を適宜選択して行うことができる。また、市販のバーニングプロセッサー(例えば富士写真フイルム(株)より販売されているバーニングプロセッサー:「BP−1300」)などを用いることもできる。バーニングの後処理も公知の方法が適用できる。
【0117】
このような処理によって得られた平版印刷版はオフセット印刷機等にかけられ、多数枚の印刷に用いられる。
【0118】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0119】
〔支持体の作製〕
厚さ0.3mmのJIS−A−1050アルミニウム板を用いて、下記(a)〜(k)の表面処理を順に行って、本発明に用いる支持体を作製した。
【0120】
(a)機械的粗面化処理
比重1.12の研磨剤(ケイ砂)と水との懸濁液を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転するローラ状ナイロンブラシにより機械的な粗面化を行った。研磨剤の平均粒径は8μm、最大粒径は50μmであった。ナイロンブラシの材質は6・10ナイロン、毛長50mm、毛の直径は0.3mmであった。ナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。回転ブラシは3本使用した。ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。ブラシローラはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、ブラシローラをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して7kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。ブラシの回転数は200rpmであった。
【0121】
(b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に温度70℃のNaOH水溶液(濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%)をスプレーしてエッチング処理を行い、アルミニウム板を6g/m2溶解した。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0122】
(c)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。前記デスマットに用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的な粗面化を行う工程の廃液を用いた。
【0123】
(d)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸10.5g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L)、温度50℃であった。交流電源波形は電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、DUTY比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助陽極にはフェライトを用いた。電解槽はラジアルセルタイプのものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で220C/dm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。
その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0124】
(e)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%でスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.20g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的な粗面化を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0125】
(f)デスマット処理
温度30℃の硫酸濃度15質量%水溶液(アルミニウムイオンを4.5質量%含む)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、井水を用いてスプレーで水洗した。前記デスマットに用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的な粗面化を行う工程の廃液を用いた。
【0126】
(g)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、塩酸7.5g/リットル水溶液(アルミニウムイオンを5g/リットル含む)、温度35℃であった。交流電源波形は矩形波であり、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽はラジアルセルタイプのものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で25A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で50C/dm2であった。
その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0127】
(h)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%でスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.10g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的な粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0128】
(i)デスマット処理
温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0129】
(j)陽極酸化処理
電解液としては、硫酸を用いた。電解液は、いずれも硫酸濃度170g/L(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)、温度は43℃であった。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
電流密度はともに約30A/dm2であった。最終的な酸化皮膜量は2.7g/m2であった。
【0130】
(k)アルカリ金属ケイ酸塩処理
陽極酸化処理により得られたアルミニウム支持体を温度30℃の3号ケイ酸ソーダ1質量%水溶液の処理層中へ、10秒間浸漬することでアルカリ金属ケイ酸塩処理(シリケート処理)を行った。その後、井水を用いたスプレーによる水洗を行った。その際のシリケート付着量は3.6mg/m2であった。
【0131】
〔下塗処理〕
上記のようにして得られたアルカリ金属ケイ酸塩処理後のアルミニウム支持体上に、下記組成の下塗液を塗布し、80℃で15秒間乾燥した。乾燥後の被覆量は15mg/m2であった。
【0132】
<下塗液組成>
・下記高分子化合物 0.3g
・メタノール 100g
・水 1.0g
【0133】
【化17】
【0134】
〔実施例1〕
上記のようにして得た下塗層を有する支持体に、下記の感光層用塗布液1を第一層感光層として塗布し、140℃のオーブンで50秒乾燥後、下記の感光層用塗布液2を最上層感光層として塗布し、140℃のオーブンで1分乾燥して、塗布量が第一層0.85g/m2、最上層0.85g/m2、計1.70g/m2である重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を作製した。
【0135】
<感光層用塗布液1>
・N−(4−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド/アクリロニトリル
/メタクリル酸メチル共重合体 2.13g
(モル比36:34:30、重量平均分子量50,000)
・赤外線吸収剤 0.134g
(下記シアニン染料A)
・ビス−p−ヒドロキシフェニルスルホン 0.126g
・テトラヒドロ無水フタル酸 0.19g
・p−トルエンスルホン酸 0.008g
・2−メトキシ−4−(N−フェニルアミノ)ベンゼンジアゾニウム
ヘキサフルオロホスフェート 0.032g
・エチルバイオレットの対アニオンを
6−ナフタレンスルホン酸イオンに変えた染料 0.078g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、
大日本インキ化学工業(株)製) 0.023g
・γ―ブチロラクトン 13.16g
・メチルエチルケトン(MEK) 25.39g
・1−メトキシ−2−プロパノール 12.95g
【0136】
【化18】
【0137】
<感光層用塗布液2>
・m,p−クレゾールノボラック樹脂(m/p比=6/4) 0.35g
(重量平均分子量7700、未反応クレゾール0.5質量%含有)
・赤外線吸収剤 0.029g
(下記シアニン染料B)
・下記構造のポリマー(MEK30%溶液) 0.14g
・第4級アンモニウム塩(下記構造) 0.004g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、
大日本インキ化学工業(株)製) 0.004g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−781、
大日本インキ化学工業(株)製) 0.001g
・メチルエチルケトン 2.63g
・1−メトキシ−2−プロパノール 5.27g
【0138】
【化19】
【0139】
【化20】
【0140】
〔実施例2〕
実施例1で用いたのと同じ下塗層を有する支持体に、前記の感光層用塗布液1を第一層感光層として塗布し、140℃のオーブンで50秒乾燥後、下記の感光層用塗布液3を最上層感光層として塗布し、140℃のオーブンで1分乾燥して、塗布量が第一層0.85g/m2、最上層0.85g/m2、計1.70g/m2の重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を作製した。
【0141】
<感光層用塗布液3>
赤外線吸収剤を下記シアニン染料Cに替えた以外は感光層用塗布液2と同じ。
【0142】
【化21】
【0143】
〔実施例3〕
実施例1で用いたのと同じ下塗り層を有する支持体に、下記の感光層用塗布液4を第一層感光層として塗布し、140℃のオーブンで50秒乾燥後、下記の感光層用塗布液5を最上層感光層として塗布し、140℃のオーブンで1分乾燥して、塗布量が第一層0.85g/m2、最上層0.85g/m2、計1.70g/m2の重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を作製した。
【0144】
<感光層用塗布液4>
赤外線吸収剤をシアニン染料Bにした以外は感光層用塗布液1と同じ。
【0145】
<感光層用塗布液5>
赤外線吸収剤をシアニン染料Aにした以外は感光層用塗布液2と同じ。
【0146】
〔実施例4〕
実施例1で用いたのと同じ下塗り層を有する支持体に、下記の感光層用塗布液6を第一層感光層として塗布し、140℃のオーブンで50秒乾燥後、前記の感光層用塗布液5を最上層感光層として塗布し、140℃のオーブンで1分乾燥して、膜厚が第一層0.85g/m2、最上層0.85g/m2、計1.70g/m2の重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を作製した。
【0147】
<感光層用塗布液6>
赤外線吸収剤をシアニン染料Cにした以外は感光層用塗布液1と同じ。
【0148】
〔比較例1〕
実施例1で用いたのと同じ下塗り層を有する支持体に、前記の感光層用塗布液1を第一層感光層として塗布し、140℃のオーブンで50秒乾燥後、前記の感光層用塗布液5を最上層感光層として塗布し、140℃のオーブンで1分乾燥して、塗布量が第一層0.85g/m2、最上層0.85g/m2、計1.70g/m2の重層型ポジ型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を作製した。
【0149】
〔比較例2〕
実施例1で用いたのと同じ下塗り層を有する支持体に、前記の感光層用塗布液6を第一層感光層として塗布し、140℃のオーブンで50秒乾燥後、前記の画像感光層用塗布液3を最上層感光層として塗布し、140℃のオーブンで1分乾燥して、塗布量が第一層0.85g/m2、最上層0.85g/m2、計1.70g/m2の重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を作製した。
【0150】
〔比較例3〕
特開平11―218914号公報の実施例1に記載されている製造方法に基づいて作製した重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を比較例として用いた。塗布量は第一層1.40g/m2、最上層0.60g/m2、計2.00g/m2、最上層及び第一層に含まれている赤外線吸収剤は前記のシアニン色素Iであった。
【0151】
〔比較例4〕
特開2003−29413号公報の実施例1に記載されている製造方法に基づいて作製した重層型感光層を有する赤外線感光性ポジ型平版印刷版を比較例として用いた。塗布量は第一層0.85g/m2、最上層0.15g/m2、計1.00g/m2、最上層に含まれている赤外線吸収剤は前記シアニン色素A、第一層に含まれている赤外線吸収色素は下記のシアニン色素Dであった。
【0152】
【化22】
【0153】
〔赤外線感光性ポジ型平版印刷版の評価〕
(クリア感度と現像ラチチュード)
得られた赤外線感光性ポジ型平版印刷版を、富士写真フイルム(株)製サーマルプレートセッターLuxel―T6000IIIにて、ビーム強度30〜100%、ドラム回転数460rpmでベタ画像を含むテストパターンを描き込んだ後、電導度を43mS/cmにした富士写真フイルム(株)製「非シリケート現像液」DT−2、及び富士写真フイルム(株)製フィニッシャーFP2W(1:1希釈したもの)を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサー940Hを用い、液温を30℃に保ち現像時間12秒で現像した。その後、現像液に富士写真フイルム(株)製「非シリケート現像補充液」DT−2Rを適量加え、電導度を2mS/cmずつ上げ、画像の現像による膜減りが顕著に観察されるまでこの作業を続けた。
この時、実質上耐刷に影響を及ぼさない程度に現像膜減りが維持される限界の電導度(X)mSを求め、該電導度より2mSだけ小さい電導度(X−2)mSにおけるベタ画像部を50倍のルーペで観察し、ポツ状の残膜が観測されないところの露光ビーム強度をクリア感度とした。なおクリア感度は数値が小さいものほど高感度であると評価される。
また現像ラチチュードについては、電導度(X−2)mSにおける実効感度露光量(10.4μmのラインアンドスペース(LS)パターンを1対1に解像するときの露光量)を50倍のルーペで観察して求め、この実行感度露光量の数値をクリア感度露光量の数値が上回らない限界の電導度(Y)mSと、上記電導度(X)mSとの幅を現像ラチチュード幅(X−Y)mSとした。
結果を下記表1に示す。
【0154】
(吸光度極大波長)
最上層及び第一層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長は、前述の実施例1〜4、及び比較例1〜4の第一層及び最上層塗布液をそれぞれ実施例1に記載のアルミニウム支持体に塗布し、140℃のオーブンで50秒間乾燥させた感光層試料を、日本分光工業(株)製Ubest―50型分光光度計を用いて反射光吸収スペクトルを測定して求めた。
結果を下記表1に示す。
【0155】
(蛍光強度極大波長)
最上層及び第一層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長は、前述の実施例1〜4、及び比較例1〜4の第一層及び最上層塗布液をそれぞれ実施例1に記載のアルミ支持体に塗布し、140℃のオーブンで60秒間乾燥させた感光層試料を、Jobin Yvon Inc.製蛍光分光光度計Fluorolog3を用いて励起光808nmにおける蛍光スペクトルを測定して求めた。
結果を下記表1に示す。
【0156】
【表1】
【0157】
表1から、λE1とλA2の差、又はλE2とλA1の差が本発明の範囲(0〜30nm)である実施例1〜4は、高感度であるのに対し、これらの差が本発明の範囲外である比較例1、比較例2、特開平11―218914号公報の実施例である比較例3、及び特開2003−29413号公報の実施例である比較例4は、感度が低いことが明らかである。
【0158】
【発明の効果】
本発明の重層型感光層を用いた赤外線感光性ポジ型平版印刷版によれば、感光層の一方の層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、他方の層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度吸収波長との差を特定範囲に設定することにより、さらに高感度な平版印刷版を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における高感度化の機構を説明する模式図である。
Claims (2)
- 親水性支持体上に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含有する第一層と、該層上に水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含み、露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が増加する最上層とを、順次積層した重層型感光層を有し、前記第一層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、前記最上層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差が0〜30nmの範囲内にある赤外線感光性ポジ型平版印刷版。
- 親水性支持体上に、水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含有する第一層と、該層上に水不溶性且つアルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収剤を含み、露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が増加する最上層とを、順次積層した重層型感光層を有し、前記最上層に含まれる赤外線吸収剤の蛍光強度極大波長と、前記第一層に含まれる赤外線吸収剤の吸光度極大波長との差が0〜30nmの範囲内にある赤外線感光性ポジ型平版印刷版。
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