JP2004323604A - ポリエステル組成物の製造方法およびポリエステルフィルム - Google Patents
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Abstract
【課題】簡便な工程で製造できる、粒子の分散性が良好な粒子含有ポリエステル組成物の製造法を提供すること。
【解決手段】ポリエステル組成物の製造工程において、オキシ塩化ジルコニウム化合物を添加し、製造工程において粒子を形成して得られることを特徴とするポリエステル組成物を得る。
【選択図】 なし
【解決手段】ポリエステル組成物の製造工程において、オキシ塩化ジルコニウム化合物を添加し、製造工程において粒子を形成して得られることを特徴とするポリエステル組成物を得る。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステル組成物の製造方法、特に簡便な工程で得られる粒子含有ポリエステルに関するものであり、含有する粒子が微細かつ分散性が良好で、成型品とした場合には高い機械的強度、耐熱性が期待されるポリエステル組成物の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリマー組成物においては、異種材料との複合体、すなわちコンポジットは、実際の産業への適用において重要な位置を占める。ポリエステルにおいても例外ではなく、これまでも種々の複合体が発明・提供されており、なかでも、ポリエステルに各種粒子を含有させることは、各種産業用途にポリエステルを展開するにあたって非常に重要な技術である。
【0003】
ポリエステルフィルムにおける例を挙げれば、粒子の添加は不可欠と言ってよい。なぜならば、ポリエステルフィルムは何も添加しない場合は表面に凹凸がなく、フィルム同士の摩擦が非常に高く、接触した場合には互いに滑らないからである。このため、粒子を含有させて表面に突起を形成することが重要となる。さらに、磁気記録媒体などの用途、特にデータストレージ等の、近年発達しているデジタル記録方式の磁気記録媒体に用いるためには、粗大な突起の存在や、粒子の凝集などによる分散性不良はデータのドロップアウトを引き起こすため、できるだけ微細な粒子を均一に分散して、微細かつ高さ・分布の揃った突起を形成する必要がある。
【0004】
無機粒子あるいは有機粒子をポリエステルに含有・分散させる技術は古くから様々な技術が知られている。無機あるいは有機粒子をポリエステル中に添加する場合には、あらかじめ製造された無機あるいは有機粒子を、場合によっては溶媒を用いてスラリー化し、しかる後にポリエステルに添加する。
【0005】
粒子をポリエステルに添加して粒子含有ポリエステル組成物を得る方法は大きく分けて2通りある。すなわち、二軸押出機などにより、溶融ポリエステルと混練して粒子含有ポリエステル組成物を得る方法と、ポリエステル製造工程において、ポリエステル原料あるいはポリエステル低分子量体に粒子を混練し、重合度をあげて粒子含有ポリエステル組成物を得る方法である。
【0006】
いずれの方法も、あらかじめポリエステルの反応系外において得られた粒子を添加するものである。よって、(1)粒子の原料を調製する工程、(2)これを用いて粒子を製造する工程、(3)得られた粒子を溶媒などに均一分散してスラリー化する工程、さらに(4)ポリエステルあるいはポリエステル製造中間体に添加・分散するという4つの工程が必要になる。いずれかの工程で変動・トラブルが起これば、最終製品である粒子品質が大きな影響を受ける。工程が多いということは、変動・トラブルの確率が増えるということであり、また、それぞれの工程の条件の組み合わせも複雑になることから制御も難しくなるため、工程は少ないことが好ましい。
【0007】
また、反応系外において得られた粒子は、当然の事ながら、その粒子が添加されるポリエステルマトリックスとは異なるマトリックスの中で安定に合成されたものであるから、そのまま添加したのでは凝集のない、均一な分散は難しい。特に粒子径が小さくなればなるほど、比表面積は急速に増大していくため、粒子‐ポリエステル界面の相互作用の寄与は大きくなり、均一分散はより難しくなってくる。
【0008】
そこで、粒子の均一分散を目的として、機械的分散、化学的分散など種々の方法が提案されてきた。こうしたものの代表的な技術は粒子の表面処理によりポリマーと粒子表面の親和性を高めることにより、分散性向上を図るものである。例えば、近年においては、特許文献1に、平均粒径0.1〜3.0μmの無機化合物粒子をポリエステルに対して0.1〜2.0質量%添加する際に、アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩をポリエステルに対して10〜300ppm添加して粒子の分散性を向上させる技術が開示されており、また、特許文献2には、ポリエステルのカルボキシル末端基濃度を36eq/106g以上とすることにより、粒子とポリエステルとの親和性を向上させる技術などが提案されている。しかしながら、表面処理剤の添加を行う場合は、全ての粒子表面に均一に処理を行うことの難しさに加えて、粒子表面に固定化しなかった余剰の処理剤自身が異物となり、ポリマー全体の特性を悪化させるなどの問題があった。また、カルボキシル末端基の増加はポリエステルの熱特性・機械的特性を低下させるものであり、粒子の分散性が向上しても、フィルムとした場合に総合的には十分な特性が得られず好ましくない。また、二軸混練機やミルなどの各種混練機を使用することも考えられるが、粒子が小さくなればなるほど、このような機械的分散には自ずと限界がある。
【0009】
また、ポリエステルの製造工程において、他の化合物を添加し、反応場で粒子を形成させる、いわゆる内部粒子に関する技術も多く開示されている。例えば特許文献3〜6などには、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物に、場合によってはリン化合物やホウ素化合物などを共にポリエステル反応系に加えて粒子を析出させる方法が開示されている。近年のこれら方法は、あらかじめ製造した粒子を添加する方法よりは簡便で、ポリマーに対する親和性も高いが、一般に得られる粒子が粗大かつ不均一であり、近年のデジタル記録方式の磁気記録媒体などにおいては使用に耐えないレベルである。
また、特許文献7や特許文献8には、ジルコニウム化合物をポリエステル合成反応場に添加してジルコニウム内部粒子を得る方法も開示されている。しかし、実施例に開示されている酢酸ジルコニルやテトラ−n−プロピオネートジルコニウムをはじめとして、明細書中に記載されているいずれの化合物を用いても、本文中および実施例に記載されるように、生成する粒子は粒子径は最小でも0.2μm程度のものであり、近年のニーズを満たすような微細なものは得られていないのが実情である。
【0010】
【特許文献1】特開2002−20590号公報
【0011】
【特許文献2】特開2002−248726号公報
【0012】
【特許文献3】特開昭48−61556号公報
【0013】
【特許文献4】特開昭51−112860号公報
【0014】
【特許文献5】特開昭53−113868号公報
【0015】
【特許文献6】特開昭59−126456号公報
【0016】
【特許文献7】特開昭58−53919号公報
【0017】
【特許文献8】特開平2−132121号公報
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の解決すべき課題は、微細な粒子径をもち、かつ粒子の分散性が良好な粒子含有ポリエステル組成物を簡便な工程で製造する方法を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、ジオール成分とジカルボン酸成分とからポリエステル組成物を製造する任意の段階において、ジルコニウム元素を含む溶液を添加して一次粒子径が1〜200nmの粒子を形成せしめるポリエステル組成物の製造方法を特徴とする。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、ジオール成分とジカルボン酸成分とからポリエステル組成物を製造する任意の段階において、ジルコニウム元素を含む溶液を添加して一次粒子径が1〜200nmの粒子を形成せしめることに特徴がある。上記のジルコニウム元素を含む溶液は、例えば、ジルコニウム元素を含む化合物を溶媒に溶かして得ることができる。そのような化合物としては、例えば、テトラ−n−プロピオジルコネートなどのジルコニウムアルコキサイド化合物、酢酸ジルコニル、蓚酸ジルコニル、塩化ジルコニル、水酸化ジルコニル、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、オキシオレイン酸ジルコニウム、オキシステアリン酸ジルコニウム、オキシラウリン酸ジルコニウム、オキシリン酸ジルコニウムなどを用いることができる。中でも、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、オキシオレイン酸ジルコニウム、オキシステアリン酸ジルコニウム、オキシラウリン酸ジルコニウム、オキシリン酸ジルコニウムが好ましく、例えばオキシ塩化ジルコニウムは、特別な処理を行うことなしにグリコールなどの溶媒に簡単に溶解させることができ、上記溶液を得ることができるため、好ましい。オキシ塩化ジルコニウム化合物は、通常オキシ塩化ジルコニウム8水和物の形で簡便に入手できるものであり、エチレングリコールなどの、ポリエステル形成性ジオールに比較的容易に溶けるため、非常に扱いやすい。
【0021】
なお、酢酸ジルコニルは、エチレングリコールのような溶媒には溶解しにくく、一部がスラリー状態のままとなりやすい。このような状態でポリエステルの製造工程において添加しても、一次粒子径が1〜200nmのような微細な粒子を均一に得ることができにくいため、別途酸などを加える等の溶解操作が必要となってくる場合がある。
【0022】
また、ジルコニウムアルコキシド化合物は、例えば、エチレングリコールに溶解せしめようとした場合、エチレングリコール中に含まれるわずかな水分によって速やかに加水分解を起こし、ゲル化しやすい。このような場合には、予め溶媒を脱水しておくことが効果的である。
【0023】
本発明において多数ある化合物の中でもジルコニウム元素(ジルコニウム化合物、さらにはオキシ塩化ジルコニウム化合物)を選択した理由は、その自己縮合反応の速さにある。すなわち、従来内部粒子法で用いられていたアルカリ金属、アルカリ土類金属などは、その反応性の遅さから、ポリエステル反応場に添加しても、ポリエステルモノマーやオリゴマー、さらには他の添加物と結合する時間を与えてしまうため、ポリエステルと親和性の高い粒子が形成される反面、粒子が大きく成長してしまう欠点があった。
【0024】
この点、特にオキシ塩化ジルコニウム化合物は、ポリエステル反応系に添加した後、ごく短時間のうちにジルコニウム化合物分子同士で反応・縮合して粒子を形成・反応完了するため、粒子が大きく成長せず、一方表面には反応性の高い官能基を露出するため、ポリエステル成分とも反応しやすく、微細な粒子径と親和性を同時に達成することができるのである。
【0025】
また、本発明の製造方法により得られるポリエステル組成物は、示差走査型熱量分析において、ポリエステルの融点から一定速度で温度降下させて測定を行ったときに、融点からガラス転移点までの温度範囲において、0.5J/g以上の吸熱ピークを二つもつこともできる。
【0026】
温度の低い側の吸熱ピークは、ジルコニウム濃度が増加するにつれてブロードになるので、明確に二つのピークを確認するためには、できればジルコニウム濃度は低い領域であることが好ましく、好ましくはポリエステル組成物に対して0.1〜1重量%である。
【0027】
これら吸熱ピークが本発明で得られるポリエステルにおいて生じる原因は定かではないが、この性質を用いることにより、成型品の製造工程における温度条件を変更することで、機械特性などの向上を図ることができる。
【0028】
また、比表面積の非常に大きい微細な粒子が高濃度かつ高度に分散することにより、粒子表面とポリマーとの相互作用による拘束点が飛躍的に増大し、ガラス転移点のアップなど、熱的特性を向上させたポリエステル組成物を得ることも可能となる。
【0029】
これら二つのピークの大小を制御する方法としては、例えばポリエステルの重合度を変えることが挙げられる。すなわち、重合度を上げれば上げるほど、高温側の吸熱ピークは小さくなり、低温側の吸熱ピークは大きくなる。
【0030】
ポリエステル組成物を構成するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどを挙げることができる。また、ほかの共重合成分を用いてもよい。用いることができる共重合成分としては、ジカルボン酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸など、あるいはこれらのアルキルエステルなどエステル形成性誘導体を挙げることができる。また、ジオール成分としてはエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの各種脂肪族あるいは脂環族化合物を用いることができる。
【0031】
これらポリエステルを製造する方法自体は、オキシ塩化ジルコニウム化合物をポリエステル組成物製造工程へ添加する以外は、通常知られた方法を適用することができる。
【0032】
ジルコニウム元素を含む溶液を製造工程において添加する態様としては、ポリエステル組成物を形成するジオール成分から選ばれる少なくともひとつの溶媒に分散あるいは溶解してから添加することが好ましい。すなわち、ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであればエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレートであればブタンジオール、これらの共重合体であればエチレングリコールかブタンジオールのいずれかあるいはこれらの混合溶媒にジルコニウム元素が含有されている状態で添加されることが好ましい。
【0033】
なお、エステル交換反応触媒としてはアルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物など、種々のものを用いることができる。例えば酢酸カルシウムや酢酸マグネシウム、酢酸リチウムなどのアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、その他酢酸マンガン、酢酸コバルト、酢酸リチウムなどが挙げられるが、内部粒子を形成しない点で、酢酸マグネシウムに代表されるマグネシウム化合物が好ましい。添加量は、金属量として100ppm以下(重量基準)であることが好ましい。
【0034】
また、たとえば、ジルコニウム元素の供給源としてオキシ塩化ジルコニウム化合物を用いる場合、化合物中に塩素元素を含有するため、この塩素元素をある程度除去した上でポリエステル製造工程に添加することが好ましい。具体的には、塩素元素をジルコニウム元素に対して100モル%以下とした溶液を添加することが好ましく、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下である。塩素元素を除去する方法としては、例えば酢酸銀のような銀化合物を添加して、塩化銀の沈殿を生成させ、これをろ過あるいは遠心分離により除去する方法がよい。
【0035】
塩素元素の含有量は、ポリエステル組成物の反応性および物性の面からは少ないほど好ましく、含まれていないことが好ましい。ただし、塩素元素が含まれていない場合、溶液のpHが低くなりすぎるため、反応系へ添加する前に先に白濁物が生じる傾向がある。この点からは、塩素元素の含有量をジルコニウム元素に対して0.01モル%以上、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1モル%以上とする。
【0036】
一方、粒子径制御の面からは、含有量を高めると粒子径を大きくすることができるので、意図的に含有量を増加させても構わない。粒径が変化する理由は定かではないが、塩素元素の含有量が多いと、粒子が比較的成長しやすいためではないかと考えられる。
【0037】
なお、生成する粒子の粒径制御の観点からは、塩素元素の含有量を0として、塩酸、硝酸、酢酸などの酸を加えて適宜pHを調製してもよい。
【0038】
また、塩素元素の含有量は、例えば酢酸銀など銀化合物を加えて塩化銀の沈殿として除去してコントロールする場合には、銀化合物の添加量を変えて塩化銀生成量を変えることにより適宜調製することが可能である。この場合、酢酸銀はグリコールなどの溶媒には溶解しにくいため、徐々に添加・反応させて塩化銀の沈殿を生成させて行くことが好ましい。
【0039】
ポリエステル組成物の製造工程において形成される粒子の一次粒子径は1〜200nmであることが好ましく、より好ましくは1〜100nm、さらに好ましくは1〜80nmである。粒径が1nm未満であると、凝集を防ぐことが極めて難しくなる。粒径が100nmを超えると、凝集を起こさない状態でも、フィルムなどとした場合に、表面の突起が微細なものとなりにくい。
【0040】
また、ポリエステル組成物中の上記粒子に含まれるジルコニウム元素の含有量は、ポリエステル組成物に対して0.01〜10wt%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜8wt%であり、さらに好ましくは0.2〜5wt%である。0.01wt%未満であると、ポリエステルに対する個数密度が低すぎるため、フィルムなどとした場合にフィルム表面の突起を十分な個数形成できず、また、その他特性変化も見られなくなりやすい。10wt%を超えると、熱分解を起こしやすくなるなどポリエステルの生産性・特性をかえって悪化させる傾向がある。
【0041】
次に、本発明のポリエステル組成物の製造方法の一例を、マトリックスとしてポリエチレンテレフタレートを用いる場合について以下に述べる。
【0042】
まず、ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを、精留塔を備えた反応容器中に仕込んで溶融させ、ここに触媒化合物を添加する。
【0043】
用いることのできる触媒化合物としては、種々のものを用いることができ、酢酸カルシウム、酢酸マンガン、酢酸マグネシウム、酢酸コバルトあるいはこれらの水和物、テトラエトキシドチタン、テトラブトキシドチタンなどチタンアルコキシドなどを用いることができる。
【0044】
また、重合反応を促進するためには、重合活性を持つ触媒化合物を添加することが好ましく、例えば、3酸化2アンチモン、2酸化ゲルマニウム、チタンアルコキシド化合物などを添加することが好ましい。
【0045】
これらを添加した後、攪拌しながら220〜250℃まで昇温してメタノールを留去せしめ、低重合体を得る。
【0046】
本発明では、この低重合体を得る過程においてジルコニウム元素を含む溶液を添加することが好ましく、より好ましくは、低重合体を得る過程の後半において添加することが好ましい。前半あるいは初期に添加する場合は、反応を遅延させる可能性がある。
【0047】
この過程の中において、安定剤としてリン化合物を添加することができる。リン化合物としては、リン酸、亜リン酸、リン酸トリメチル、ジメチルフェニルホスフィン酸など各種リン化合物を挙げることができる。
【0048】
なお、本発明における上記粒子は、これらリン化合物を添加しなくても形成することができる。また、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物も同様である(粒子構成成分としては必要ではない)。
【0049】
この後、反応系内を徐々に減圧しつつ270〜300℃までさらに昇温して、所定の重合度に達した後反応器からポリマー組成物を抜き出す。
【0050】
また、酸成分として例えばテレフタル酸のようなジカルボン酸化合物、ジオール成分として例えばエチレングリコールを用いる、いわゆる直接重合法により製造することももちろん可能である。この場合、ジルコニウム元素を含む溶液の添加方法は、上記エステル交換反応法のような方法のほか、例えばテレフタル酸、エチレングリコール、ジルコニウム元素含有化合物(例えば、オキシ塩化ジルコニウム)を混合したスラリー状にして反応容器に供給・添加することも可能である。
【0051】
次に、ジルコニウム元素含有溶液の調整法を、オキシ塩化ジルコニウムと酢酸銀を用いる場合を例に下記する。
【0052】
まず、エチレングリコールにオキシ塩化ジルコニウムを溶解する。これを適度に加温しながら、オキシ塩化ジルコニウムの2倍当量の酢酸銀を、酢酸銀自身が過飽和となって沈殿しないように徐々に加える。オキシ酢酸ジルコニウムと酢酸銀の反応により生成した塩化銀を遠心分離器で除去し、ジルコニウム元素を含有したエチレングリコール溶液を得ることができる。このときの濃度としては、あまり濃度が高くなると塩素の残存量が高くなる傾向があるので、オキシ塩化ジルコニウムのモル濃度として0.2mol/L以下が好ましい。
【0053】
また、本発明において得られるポリエステル組成物は、その製造工程あるいは成型時の溶融押し出し過程などにおいて、粒子の分散性を向上させたり、ポリマーの耐熱性その他特性を向上させる目的で、表面処理剤、界面活性剤、ヒンダードフェノール化合物等の分解防止剤ほか各種添加物を添加してもかまわない。
【0054】
こうして得られるポリエステル組成物は、たとえばフィルムに成型して用いる場合は、種々の方法により無延伸あるいは一軸延伸、二軸延伸フィルムに成型することができる。
【0055】
次に、代表的な二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法について下記する。
まず、100〜200℃で乾燥したポリエステル組成物を、T型ダイを兼ね備えた一軸あるいは二軸押出機に供給し、回転するキャスティングドラム上でT型ダイから押し出した溶融フィルムを冷却・固化し未延伸シートを得る。この未延伸シートを、一部の加熱ロールを含む、前段部と後段部で回転速度の違う延伸ロールにより加熱しながら縦延伸し、さらにテンターで加熱しながら横延伸を行い、二軸延伸ポリエステルフィルムを得ることができる。もちろん、同時二軸延伸により二軸延伸フィルムを得ることもできる。
【0056】
上記未延伸シートは、溶融せしめたポリエステルを冷却固化する工程を経ることにより得られるが、その際の冷却温度は、通常はポリエステルのガラス転移温度以下の温度が採用される。本発明においては、もちろんこの条件を採用しても構わないが、ポリエステルが例えば2つの降温結晶化吸熱ピークを有する場合は、ポリエステルを溶融し次いで冷却固化を行い未延伸フィルムを形成する任意の段階において、ポリエステルのガラス転移温度以上融点未満の温度でポリエステルを冷却することが好ましい。より具体的には、キャスティングドラムの温度を降温結晶化吸熱ピークの高い方の温度近傍に保持して、ポリエステルを1秒〜3分間冷却することが好ましい。冷却にはキャスティングドラム以外にも、同等の機能を有する装置を用いることができる。このような冷却工程を経ることにより、フィルムを延伸した場合の機械的特性、特にヤング率などを向上させることが可能となる。この機械的特性向上効果は、ヤング率としてみた場合、上記のような冷却工程を経ないで得られたポリエステルフィルム(他の条件は同一)に対して5%以上向上させることが可能である。
【0057】
本発明において得られるポリエステル組成物を単独で用いてフィルムあるいはその他成型品としても構わないし、他のポリエステルと適宜ブレンド・溶融混練して押し出してももちろん構わない。また、上記ポリエステル組成物を少なくとも1層に含む積層フィルムとしても良い。
【0058】
本発明により得られるポリエステル組成物は、簡便なプロセスで得られる、微細な粒子を含有したポリエステル組成物であり、フィルムとした場合には、表面の平滑性・機械的強度などに優れ、例えば磁気記録媒体のベースフィルムとして非常に有用なフィルムを得ることができるものである。
【0059】
【実施例】
以下に実施例を示す。なお、各物性は下記の方法で測定した。
【0060】
(粒子形成化合物溶液の含有元素量)
・Zr、Ag含有量
溶液を硝酸、硫酸および過塩素酸で加熱分解し、希王水で溶解して定容とした。この溶液を適宜希釈した後、シーケンシャル型ICP発光分光分析装置 SPS4000(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて定量した。
・Cl含有量
全塩素分析装置 TOX−10(三菱化成製)により測定した。
【0061】
(ポリエステル中のZr金属元素含有量)
試料をるつぼに秤取し、硫酸を加えて加熱炭化・灰化した後、硫酸水素カリウムで融解し、希硝酸で溶解して定容とした。この溶液をシーケンシャル型ICP発光分光分析装置 SPS4000(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて定量した。
【0062】
(ポリエステル中の粒子観察)
超薄切片試料(切片厚み100nm)を作成し、透過型電子顕微鏡 H−600型(日立製作所(株)製)を用いて、加速電圧100kVで観察した。
【0063】
(平均一次粒子径)
TEM写真像から、一次粒子100個の最大径を実測し、その平均値を記した。
【0064】
(ポリエステルの示差走査熱分析(DSC))
DSC6200型(セイコーインスツルメンツ(株)製)により、25℃から300℃まで20℃/分で昇温後、2分間保持し、その後300℃から25℃まで10℃/分で降温測定した。降温時のDSC曲線のピークを検出し、重なっている場合はピーク分離を行った。
【0065】
(粒子個数密度)
4万倍のTEM観察像において、10cm×10cm(実像で2.5μm×2.5μm)の視野に含まれる一次粒子個数をカウントし10視野の平均値が2個/視野以上のものは○、2個/視野未満のものは、フィルムなどとした場合に表面の凹凸形成その他特性に寄与し得ないので×とした。
【0066】
(粒子の構成成分分析)
電界放出型電子顕微鏡HF−2210(日立(株)製)とNORAN VOYAGER定量トータル分析システムの組み合わせを用いて、エネルギー分散型X線分析により粒子の元素分析を行った。
【0067】
(ポリマーの固有粘度ηの測定方法)
o−クロロフェノールを溶媒として、25℃で測定した。
【0068】
(実施例1)
Zr元素含有溶液Aの調製;
エチレングリコール110重量部に、オキシ酢酸ジルコニウム8水和物(ナカライテスク(株)製)を3.22重量部加え、約50℃にて30分で攪拌・溶解した。ここに、酢酸銀(関東化学(株)製)3.34重量部を、3時間かけて徐々に添加し、全て添加し終えたあと、さらに30分そのまま攪拌した。得られた反応液を、高速遠心分離機 CR−21G(日立製作所(株)製)にて5時間遠心分離を行い、透明な液体(A液)を得た。該液体の含有元素分析を行ったところ、Zr=7,840ppmであり、一方Ag=8ppm、Cl=200ppmであった(いずれも重量基準)。すなわちClのZrに対するモル比は6.6モル%であった。
【0069】
粒子含有ポリエステル組成物の製造法;
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール64重量部を、精留塔および全縮器を備えた反応容器中150℃で溶融した。溶融完了後攪拌しながら酢酸マグネシウム4水和物を0.08重量部、3酸化2アンチモンを0.04重量部加えて、240℃まで徐々に昇温しつつ、メタノールを留出しなくなるまで留去した。その後、リン酸トリメチルを0.03重量部添加した。さらに、先に調製したA液を18重量部添加した。この後、反応系内を徐々に70Paまで減圧しながら、さらに290℃まで昇温し、η=0.64のポリエステル組成物を得た。結果を表1に示す。TEM写真観察による平均一次粒子径は10nmであった。粒子個数密度も、一次粒子でカウントして50個/視野、凝集したものをまとめて1個とカウントしても20個/視野と、十分なものであった。
【0070】
この粒子の構成成分を分析したところ、Zr元素とO元素から構成されていることがわかった(C元素については、PETマトリックスの影響が大きすぎるため、含有されているか否かは特定できなかった)。
【0071】
また、得られたポリエステルのDSC分析を行ったところ、210℃と180℃に二つのピークが観察され、それぞれの吸熱量はそれぞれ13J/gと32J/gであった。
【0072】
(実施例2〜4)
A液の添加量を表1中の量に変更する他は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例5)
3酸化2アンチモンを添加した直後にA液を添加する他は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。反応性は若干低下した。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例6)
Zr元素含有溶液Bの調製;
エチレングリコール110重量部に、オキシ酢酸ジルコニウム8水和物(ナカライテスク(株)製)を1.61重量部加え、約50℃にて30分で攪拌・溶解した。ここに、酢酸銀(関東化学(株)製)1.67重量部を、3時間かけて徐々に添加し、全て添加し終えたあと、さらに30分そのまま攪拌した。得られた反応液を、高速遠心分離機 CR−21G(日立製作所(株)製)にて20,000rpmで5時間遠心分離を行い、透明な液体(B液)を得た。該液体の含有元素分析を行ったところ、Zr=3,910ppmであり、一方Ag=13ppm、Cl=11ppmであった(いずれも重量基準)。すなわちClのZrに対するモル比は0.7モル%であった。
【0075】
粒子含有ポリエステル組成物の製造法;
A液の代わりにB液を用いるほかは、実施例1と同様に粒子含有ポリエステル組成物を得た。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例7)
Zr元素含有溶液Cの調製;
エチレングリコール110重量部に、オキシ酢酸ジルコニウム8水和物(ナカライテスク(株)製)を3.22重量部加え、約50℃にて30分で攪拌・溶解した。ここに、酢酸銀(関東化学(株)製)1.67重量部を、3時間かけて徐々に添加し、全て添加し終えたあと、さらに30分そのまま攪拌した。得られた反応液を、高速遠心分離機 CR−21G(日立製作所(株)製)にて20,000rpmで5時間遠心分離を行い、透明な液体(C液)を得た。該液体の含有元素分析を行ったところ、Zr=7,810ppmであり、一方Ag=6ppm、Cl=3,170ppmであった(いずれも重量基準)。すなわちClのZrに対するモル比は96モル%であった。
【0077】
粒子含有ポリエステル組成物の製造法;
A液の代わりにC液を用いるほかは、実施例1と同様に粒子含有ポリエステル組成物を得た。結果を表1に示す。粒子径は実施例1〜5に比較して大きくなっている。
【0078】
(実施例8)
酢酸マグネシウム4水和物を0.05重量部に変更し、リン酸トリメチルを添加しないほかは、実施例1と同様に粒子含有ポリエステル組成物を得た。リン化合物が存在しなくても、実施例1とほぼ同等の粒子が形成されている。
【0079】
(比較実施例1)
液Aも液Bも液Cも添加しないほかは、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。結果を表1に示す。
【0080】
なお、得られたポリエステルのDSC分析を行ったところ、ピークは203℃に一つのみピークが観察され、吸熱量は44J/gであった。
【0081】
(比較実施例2)
液Aの添加量を表1中記載の値とする他は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。比較実施例2は粒子の個数密度が非常に低いものであった。比較実施例2は添加直後からポリマーの熱分解が激しく、途中で反応を中止した。
【0082】
(比較実施例3)
Zr元素含有溶液Dの調製;
エチレングリコール110重量部に、オキシ酢酸ジルコニウム8水和物(ナカライテスク(株)製)を16.1重量部加え、約50℃にて攪拌・溶解した。ここに、酢酸銀(関東化学(株)製)16.7重量部を、5時間かけて徐々に添加し、全て添加し終えたあと、さらに30分そのまま攪拌した。得られた反応液を、高速遠心分離機 CR−21G(日立製作所(株)製)にて20,000rpmで計7時間遠心分離を行い、透明な液体(D液)を得た。
【0083】
このD液を500重量部(計算上ポリエステル中のZr濃度が15重量部となる)加えるほかは、実施例1と同様の方法で粒子含有ポリエステル組成物を得ようとしたが、添加途中から熱分解と思われるガスの発生が激しく、ゲル状物が多量に発生し、途中で反応を中止したため、ポリマーは得られなかった。
【0084】
【表1】
【0085】
(実施例9)
実施例1で得られたポリエステルを用いて、290℃で溶融プレスした後、水浴で急冷して未延伸フィルムを得た後、ストレッチャー装置(東洋精機(株)製)を用いて3倍×4.5倍の逐次二軸延伸を行い、二軸延伸フィルムを作成した(延伸前予熱温度95℃×予熱時間30秒)。このフィルムの4.5倍に延伸した方向のヤング率を引っ張り試験機(TENSILON UCT−100型 オリエンテック(株)製)で測定したところ、3.9GPaであった。
【0086】
(実施例10)
実施例1で得られたポリエステルを用いて、290℃で溶融プレスした後、210℃のホットプレート上で1分間保持した後、水浴で急冷して未延伸フィルムを得た後、先と同様に3倍×4.5倍の二軸延伸フィルムを作成した。このフィルムの4.5倍に延伸した方向のヤング率を測定したところ、5.2GPaと33%向上した。
【0087】
(比較実施例4)
比較実施例1で得られたポリエステルを用いて、290℃で溶融プレスした後、水浴で急冷して未延伸フィルムを得た後、実施例9と同様にストレッチャー装置を用いて3倍×4.5倍の二軸延伸フィルムを作成した。このフィルムの4.5倍に延伸した方向のヤング率を測定したところ、3.5GPaであった。
【0088】
(比較実施例5)
比較実施例1で得られたポリエステルを用いて、290℃で溶融プレスした後、210℃のホットプレート上で1分間保持した後、水浴で急冷して未延伸フィルムを得た後、先と同様に3倍×4.5倍の二軸延伸フィルムの作成を試みたが、途中で破断してしまい、フィルムを得ることができなかった。
【0089】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、従来のポリマー外部から粒子を添加する粒子含有ポリエステル組成物に比べて、簡便な工程で得られ、かつ得られるポリエステル中の粒子は従来の内部粒子で得られるものより非常に微細かつ粒子の分散性が良好なポリエステル組成物を得ることができる。また、樹脂として高い機械的強度、耐熱性を有し、ポリエステル成型品一般、繊維、フィルム用途として好適に用いることができ、特にフィルムとした場合には、その微細な粒子による微細で均一な表面突起の形成をはじめとする諸特性により、例えば磁気記録媒体、特にデータストレージなどデジタル記録方式の磁気記録媒体などのベースフィルムとして非常に好適に用いることができる。
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステル組成物の製造方法、特に簡便な工程で得られる粒子含有ポリエステルに関するものであり、含有する粒子が微細かつ分散性が良好で、成型品とした場合には高い機械的強度、耐熱性が期待されるポリエステル組成物の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリマー組成物においては、異種材料との複合体、すなわちコンポジットは、実際の産業への適用において重要な位置を占める。ポリエステルにおいても例外ではなく、これまでも種々の複合体が発明・提供されており、なかでも、ポリエステルに各種粒子を含有させることは、各種産業用途にポリエステルを展開するにあたって非常に重要な技術である。
【0003】
ポリエステルフィルムにおける例を挙げれば、粒子の添加は不可欠と言ってよい。なぜならば、ポリエステルフィルムは何も添加しない場合は表面に凹凸がなく、フィルム同士の摩擦が非常に高く、接触した場合には互いに滑らないからである。このため、粒子を含有させて表面に突起を形成することが重要となる。さらに、磁気記録媒体などの用途、特にデータストレージ等の、近年発達しているデジタル記録方式の磁気記録媒体に用いるためには、粗大な突起の存在や、粒子の凝集などによる分散性不良はデータのドロップアウトを引き起こすため、できるだけ微細な粒子を均一に分散して、微細かつ高さ・分布の揃った突起を形成する必要がある。
【0004】
無機粒子あるいは有機粒子をポリエステルに含有・分散させる技術は古くから様々な技術が知られている。無機あるいは有機粒子をポリエステル中に添加する場合には、あらかじめ製造された無機あるいは有機粒子を、場合によっては溶媒を用いてスラリー化し、しかる後にポリエステルに添加する。
【0005】
粒子をポリエステルに添加して粒子含有ポリエステル組成物を得る方法は大きく分けて2通りある。すなわち、二軸押出機などにより、溶融ポリエステルと混練して粒子含有ポリエステル組成物を得る方法と、ポリエステル製造工程において、ポリエステル原料あるいはポリエステル低分子量体に粒子を混練し、重合度をあげて粒子含有ポリエステル組成物を得る方法である。
【0006】
いずれの方法も、あらかじめポリエステルの反応系外において得られた粒子を添加するものである。よって、(1)粒子の原料を調製する工程、(2)これを用いて粒子を製造する工程、(3)得られた粒子を溶媒などに均一分散してスラリー化する工程、さらに(4)ポリエステルあるいはポリエステル製造中間体に添加・分散するという4つの工程が必要になる。いずれかの工程で変動・トラブルが起これば、最終製品である粒子品質が大きな影響を受ける。工程が多いということは、変動・トラブルの確率が増えるということであり、また、それぞれの工程の条件の組み合わせも複雑になることから制御も難しくなるため、工程は少ないことが好ましい。
【0007】
また、反応系外において得られた粒子は、当然の事ながら、その粒子が添加されるポリエステルマトリックスとは異なるマトリックスの中で安定に合成されたものであるから、そのまま添加したのでは凝集のない、均一な分散は難しい。特に粒子径が小さくなればなるほど、比表面積は急速に増大していくため、粒子‐ポリエステル界面の相互作用の寄与は大きくなり、均一分散はより難しくなってくる。
【0008】
そこで、粒子の均一分散を目的として、機械的分散、化学的分散など種々の方法が提案されてきた。こうしたものの代表的な技術は粒子の表面処理によりポリマーと粒子表面の親和性を高めることにより、分散性向上を図るものである。例えば、近年においては、特許文献1に、平均粒径0.1〜3.0μmの無機化合物粒子をポリエステルに対して0.1〜2.0質量%添加する際に、アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩をポリエステルに対して10〜300ppm添加して粒子の分散性を向上させる技術が開示されており、また、特許文献2には、ポリエステルのカルボキシル末端基濃度を36eq/106g以上とすることにより、粒子とポリエステルとの親和性を向上させる技術などが提案されている。しかしながら、表面処理剤の添加を行う場合は、全ての粒子表面に均一に処理を行うことの難しさに加えて、粒子表面に固定化しなかった余剰の処理剤自身が異物となり、ポリマー全体の特性を悪化させるなどの問題があった。また、カルボキシル末端基の増加はポリエステルの熱特性・機械的特性を低下させるものであり、粒子の分散性が向上しても、フィルムとした場合に総合的には十分な特性が得られず好ましくない。また、二軸混練機やミルなどの各種混練機を使用することも考えられるが、粒子が小さくなればなるほど、このような機械的分散には自ずと限界がある。
【0009】
また、ポリエステルの製造工程において、他の化合物を添加し、反応場で粒子を形成させる、いわゆる内部粒子に関する技術も多く開示されている。例えば特許文献3〜6などには、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物に、場合によってはリン化合物やホウ素化合物などを共にポリエステル反応系に加えて粒子を析出させる方法が開示されている。近年のこれら方法は、あらかじめ製造した粒子を添加する方法よりは簡便で、ポリマーに対する親和性も高いが、一般に得られる粒子が粗大かつ不均一であり、近年のデジタル記録方式の磁気記録媒体などにおいては使用に耐えないレベルである。
また、特許文献7や特許文献8には、ジルコニウム化合物をポリエステル合成反応場に添加してジルコニウム内部粒子を得る方法も開示されている。しかし、実施例に開示されている酢酸ジルコニルやテトラ−n−プロピオネートジルコニウムをはじめとして、明細書中に記載されているいずれの化合物を用いても、本文中および実施例に記載されるように、生成する粒子は粒子径は最小でも0.2μm程度のものであり、近年のニーズを満たすような微細なものは得られていないのが実情である。
【0010】
【特許文献1】特開2002−20590号公報
【0011】
【特許文献2】特開2002−248726号公報
【0012】
【特許文献3】特開昭48−61556号公報
【0013】
【特許文献4】特開昭51−112860号公報
【0014】
【特許文献5】特開昭53−113868号公報
【0015】
【特許文献6】特開昭59−126456号公報
【0016】
【特許文献7】特開昭58−53919号公報
【0017】
【特許文献8】特開平2−132121号公報
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の解決すべき課題は、微細な粒子径をもち、かつ粒子の分散性が良好な粒子含有ポリエステル組成物を簡便な工程で製造する方法を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、ジオール成分とジカルボン酸成分とからポリエステル組成物を製造する任意の段階において、ジルコニウム元素を含む溶液を添加して一次粒子径が1〜200nmの粒子を形成せしめるポリエステル組成物の製造方法を特徴とする。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、ジオール成分とジカルボン酸成分とからポリエステル組成物を製造する任意の段階において、ジルコニウム元素を含む溶液を添加して一次粒子径が1〜200nmの粒子を形成せしめることに特徴がある。上記のジルコニウム元素を含む溶液は、例えば、ジルコニウム元素を含む化合物を溶媒に溶かして得ることができる。そのような化合物としては、例えば、テトラ−n−プロピオジルコネートなどのジルコニウムアルコキサイド化合物、酢酸ジルコニル、蓚酸ジルコニル、塩化ジルコニル、水酸化ジルコニル、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、オキシオレイン酸ジルコニウム、オキシステアリン酸ジルコニウム、オキシラウリン酸ジルコニウム、オキシリン酸ジルコニウムなどを用いることができる。中でも、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、オキシオレイン酸ジルコニウム、オキシステアリン酸ジルコニウム、オキシラウリン酸ジルコニウム、オキシリン酸ジルコニウムが好ましく、例えばオキシ塩化ジルコニウムは、特別な処理を行うことなしにグリコールなどの溶媒に簡単に溶解させることができ、上記溶液を得ることができるため、好ましい。オキシ塩化ジルコニウム化合物は、通常オキシ塩化ジルコニウム8水和物の形で簡便に入手できるものであり、エチレングリコールなどの、ポリエステル形成性ジオールに比較的容易に溶けるため、非常に扱いやすい。
【0021】
なお、酢酸ジルコニルは、エチレングリコールのような溶媒には溶解しにくく、一部がスラリー状態のままとなりやすい。このような状態でポリエステルの製造工程において添加しても、一次粒子径が1〜200nmのような微細な粒子を均一に得ることができにくいため、別途酸などを加える等の溶解操作が必要となってくる場合がある。
【0022】
また、ジルコニウムアルコキシド化合物は、例えば、エチレングリコールに溶解せしめようとした場合、エチレングリコール中に含まれるわずかな水分によって速やかに加水分解を起こし、ゲル化しやすい。このような場合には、予め溶媒を脱水しておくことが効果的である。
【0023】
本発明において多数ある化合物の中でもジルコニウム元素(ジルコニウム化合物、さらにはオキシ塩化ジルコニウム化合物)を選択した理由は、その自己縮合反応の速さにある。すなわち、従来内部粒子法で用いられていたアルカリ金属、アルカリ土類金属などは、その反応性の遅さから、ポリエステル反応場に添加しても、ポリエステルモノマーやオリゴマー、さらには他の添加物と結合する時間を与えてしまうため、ポリエステルと親和性の高い粒子が形成される反面、粒子が大きく成長してしまう欠点があった。
【0024】
この点、特にオキシ塩化ジルコニウム化合物は、ポリエステル反応系に添加した後、ごく短時間のうちにジルコニウム化合物分子同士で反応・縮合して粒子を形成・反応完了するため、粒子が大きく成長せず、一方表面には反応性の高い官能基を露出するため、ポリエステル成分とも反応しやすく、微細な粒子径と親和性を同時に達成することができるのである。
【0025】
また、本発明の製造方法により得られるポリエステル組成物は、示差走査型熱量分析において、ポリエステルの融点から一定速度で温度降下させて測定を行ったときに、融点からガラス転移点までの温度範囲において、0.5J/g以上の吸熱ピークを二つもつこともできる。
【0026】
温度の低い側の吸熱ピークは、ジルコニウム濃度が増加するにつれてブロードになるので、明確に二つのピークを確認するためには、できればジルコニウム濃度は低い領域であることが好ましく、好ましくはポリエステル組成物に対して0.1〜1重量%である。
【0027】
これら吸熱ピークが本発明で得られるポリエステルにおいて生じる原因は定かではないが、この性質を用いることにより、成型品の製造工程における温度条件を変更することで、機械特性などの向上を図ることができる。
【0028】
また、比表面積の非常に大きい微細な粒子が高濃度かつ高度に分散することにより、粒子表面とポリマーとの相互作用による拘束点が飛躍的に増大し、ガラス転移点のアップなど、熱的特性を向上させたポリエステル組成物を得ることも可能となる。
【0029】
これら二つのピークの大小を制御する方法としては、例えばポリエステルの重合度を変えることが挙げられる。すなわち、重合度を上げれば上げるほど、高温側の吸熱ピークは小さくなり、低温側の吸熱ピークは大きくなる。
【0030】
ポリエステル組成物を構成するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどを挙げることができる。また、ほかの共重合成分を用いてもよい。用いることができる共重合成分としては、ジカルボン酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸など、あるいはこれらのアルキルエステルなどエステル形成性誘導体を挙げることができる。また、ジオール成分としてはエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの各種脂肪族あるいは脂環族化合物を用いることができる。
【0031】
これらポリエステルを製造する方法自体は、オキシ塩化ジルコニウム化合物をポリエステル組成物製造工程へ添加する以外は、通常知られた方法を適用することができる。
【0032】
ジルコニウム元素を含む溶液を製造工程において添加する態様としては、ポリエステル組成物を形成するジオール成分から選ばれる少なくともひとつの溶媒に分散あるいは溶解してから添加することが好ましい。すなわち、ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであればエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレートであればブタンジオール、これらの共重合体であればエチレングリコールかブタンジオールのいずれかあるいはこれらの混合溶媒にジルコニウム元素が含有されている状態で添加されることが好ましい。
【0033】
なお、エステル交換反応触媒としてはアルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物など、種々のものを用いることができる。例えば酢酸カルシウムや酢酸マグネシウム、酢酸リチウムなどのアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩、その他酢酸マンガン、酢酸コバルト、酢酸リチウムなどが挙げられるが、内部粒子を形成しない点で、酢酸マグネシウムに代表されるマグネシウム化合物が好ましい。添加量は、金属量として100ppm以下(重量基準)であることが好ましい。
【0034】
また、たとえば、ジルコニウム元素の供給源としてオキシ塩化ジルコニウム化合物を用いる場合、化合物中に塩素元素を含有するため、この塩素元素をある程度除去した上でポリエステル製造工程に添加することが好ましい。具体的には、塩素元素をジルコニウム元素に対して100モル%以下とした溶液を添加することが好ましく、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下である。塩素元素を除去する方法としては、例えば酢酸銀のような銀化合物を添加して、塩化銀の沈殿を生成させ、これをろ過あるいは遠心分離により除去する方法がよい。
【0035】
塩素元素の含有量は、ポリエステル組成物の反応性および物性の面からは少ないほど好ましく、含まれていないことが好ましい。ただし、塩素元素が含まれていない場合、溶液のpHが低くなりすぎるため、反応系へ添加する前に先に白濁物が生じる傾向がある。この点からは、塩素元素の含有量をジルコニウム元素に対して0.01モル%以上、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1モル%以上とする。
【0036】
一方、粒子径制御の面からは、含有量を高めると粒子径を大きくすることができるので、意図的に含有量を増加させても構わない。粒径が変化する理由は定かではないが、塩素元素の含有量が多いと、粒子が比較的成長しやすいためではないかと考えられる。
【0037】
なお、生成する粒子の粒径制御の観点からは、塩素元素の含有量を0として、塩酸、硝酸、酢酸などの酸を加えて適宜pHを調製してもよい。
【0038】
また、塩素元素の含有量は、例えば酢酸銀など銀化合物を加えて塩化銀の沈殿として除去してコントロールする場合には、銀化合物の添加量を変えて塩化銀生成量を変えることにより適宜調製することが可能である。この場合、酢酸銀はグリコールなどの溶媒には溶解しにくいため、徐々に添加・反応させて塩化銀の沈殿を生成させて行くことが好ましい。
【0039】
ポリエステル組成物の製造工程において形成される粒子の一次粒子径は1〜200nmであることが好ましく、より好ましくは1〜100nm、さらに好ましくは1〜80nmである。粒径が1nm未満であると、凝集を防ぐことが極めて難しくなる。粒径が100nmを超えると、凝集を起こさない状態でも、フィルムなどとした場合に、表面の突起が微細なものとなりにくい。
【0040】
また、ポリエステル組成物中の上記粒子に含まれるジルコニウム元素の含有量は、ポリエステル組成物に対して0.01〜10wt%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜8wt%であり、さらに好ましくは0.2〜5wt%である。0.01wt%未満であると、ポリエステルに対する個数密度が低すぎるため、フィルムなどとした場合にフィルム表面の突起を十分な個数形成できず、また、その他特性変化も見られなくなりやすい。10wt%を超えると、熱分解を起こしやすくなるなどポリエステルの生産性・特性をかえって悪化させる傾向がある。
【0041】
次に、本発明のポリエステル組成物の製造方法の一例を、マトリックスとしてポリエチレンテレフタレートを用いる場合について以下に述べる。
【0042】
まず、ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを、精留塔を備えた反応容器中に仕込んで溶融させ、ここに触媒化合物を添加する。
【0043】
用いることのできる触媒化合物としては、種々のものを用いることができ、酢酸カルシウム、酢酸マンガン、酢酸マグネシウム、酢酸コバルトあるいはこれらの水和物、テトラエトキシドチタン、テトラブトキシドチタンなどチタンアルコキシドなどを用いることができる。
【0044】
また、重合反応を促進するためには、重合活性を持つ触媒化合物を添加することが好ましく、例えば、3酸化2アンチモン、2酸化ゲルマニウム、チタンアルコキシド化合物などを添加することが好ましい。
【0045】
これらを添加した後、攪拌しながら220〜250℃まで昇温してメタノールを留去せしめ、低重合体を得る。
【0046】
本発明では、この低重合体を得る過程においてジルコニウム元素を含む溶液を添加することが好ましく、より好ましくは、低重合体を得る過程の後半において添加することが好ましい。前半あるいは初期に添加する場合は、反応を遅延させる可能性がある。
【0047】
この過程の中において、安定剤としてリン化合物を添加することができる。リン化合物としては、リン酸、亜リン酸、リン酸トリメチル、ジメチルフェニルホスフィン酸など各種リン化合物を挙げることができる。
【0048】
なお、本発明における上記粒子は、これらリン化合物を添加しなくても形成することができる。また、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物も同様である(粒子構成成分としては必要ではない)。
【0049】
この後、反応系内を徐々に減圧しつつ270〜300℃までさらに昇温して、所定の重合度に達した後反応器からポリマー組成物を抜き出す。
【0050】
また、酸成分として例えばテレフタル酸のようなジカルボン酸化合物、ジオール成分として例えばエチレングリコールを用いる、いわゆる直接重合法により製造することももちろん可能である。この場合、ジルコニウム元素を含む溶液の添加方法は、上記エステル交換反応法のような方法のほか、例えばテレフタル酸、エチレングリコール、ジルコニウム元素含有化合物(例えば、オキシ塩化ジルコニウム)を混合したスラリー状にして反応容器に供給・添加することも可能である。
【0051】
次に、ジルコニウム元素含有溶液の調整法を、オキシ塩化ジルコニウムと酢酸銀を用いる場合を例に下記する。
【0052】
まず、エチレングリコールにオキシ塩化ジルコニウムを溶解する。これを適度に加温しながら、オキシ塩化ジルコニウムの2倍当量の酢酸銀を、酢酸銀自身が過飽和となって沈殿しないように徐々に加える。オキシ酢酸ジルコニウムと酢酸銀の反応により生成した塩化銀を遠心分離器で除去し、ジルコニウム元素を含有したエチレングリコール溶液を得ることができる。このときの濃度としては、あまり濃度が高くなると塩素の残存量が高くなる傾向があるので、オキシ塩化ジルコニウムのモル濃度として0.2mol/L以下が好ましい。
【0053】
また、本発明において得られるポリエステル組成物は、その製造工程あるいは成型時の溶融押し出し過程などにおいて、粒子の分散性を向上させたり、ポリマーの耐熱性その他特性を向上させる目的で、表面処理剤、界面活性剤、ヒンダードフェノール化合物等の分解防止剤ほか各種添加物を添加してもかまわない。
【0054】
こうして得られるポリエステル組成物は、たとえばフィルムに成型して用いる場合は、種々の方法により無延伸あるいは一軸延伸、二軸延伸フィルムに成型することができる。
【0055】
次に、代表的な二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法について下記する。
まず、100〜200℃で乾燥したポリエステル組成物を、T型ダイを兼ね備えた一軸あるいは二軸押出機に供給し、回転するキャスティングドラム上でT型ダイから押し出した溶融フィルムを冷却・固化し未延伸シートを得る。この未延伸シートを、一部の加熱ロールを含む、前段部と後段部で回転速度の違う延伸ロールにより加熱しながら縦延伸し、さらにテンターで加熱しながら横延伸を行い、二軸延伸ポリエステルフィルムを得ることができる。もちろん、同時二軸延伸により二軸延伸フィルムを得ることもできる。
【0056】
上記未延伸シートは、溶融せしめたポリエステルを冷却固化する工程を経ることにより得られるが、その際の冷却温度は、通常はポリエステルのガラス転移温度以下の温度が採用される。本発明においては、もちろんこの条件を採用しても構わないが、ポリエステルが例えば2つの降温結晶化吸熱ピークを有する場合は、ポリエステルを溶融し次いで冷却固化を行い未延伸フィルムを形成する任意の段階において、ポリエステルのガラス転移温度以上融点未満の温度でポリエステルを冷却することが好ましい。より具体的には、キャスティングドラムの温度を降温結晶化吸熱ピークの高い方の温度近傍に保持して、ポリエステルを1秒〜3分間冷却することが好ましい。冷却にはキャスティングドラム以外にも、同等の機能を有する装置を用いることができる。このような冷却工程を経ることにより、フィルムを延伸した場合の機械的特性、特にヤング率などを向上させることが可能となる。この機械的特性向上効果は、ヤング率としてみた場合、上記のような冷却工程を経ないで得られたポリエステルフィルム(他の条件は同一)に対して5%以上向上させることが可能である。
【0057】
本発明において得られるポリエステル組成物を単独で用いてフィルムあるいはその他成型品としても構わないし、他のポリエステルと適宜ブレンド・溶融混練して押し出してももちろん構わない。また、上記ポリエステル組成物を少なくとも1層に含む積層フィルムとしても良い。
【0058】
本発明により得られるポリエステル組成物は、簡便なプロセスで得られる、微細な粒子を含有したポリエステル組成物であり、フィルムとした場合には、表面の平滑性・機械的強度などに優れ、例えば磁気記録媒体のベースフィルムとして非常に有用なフィルムを得ることができるものである。
【0059】
【実施例】
以下に実施例を示す。なお、各物性は下記の方法で測定した。
【0060】
(粒子形成化合物溶液の含有元素量)
・Zr、Ag含有量
溶液を硝酸、硫酸および過塩素酸で加熱分解し、希王水で溶解して定容とした。この溶液を適宜希釈した後、シーケンシャル型ICP発光分光分析装置 SPS4000(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて定量した。
・Cl含有量
全塩素分析装置 TOX−10(三菱化成製)により測定した。
【0061】
(ポリエステル中のZr金属元素含有量)
試料をるつぼに秤取し、硫酸を加えて加熱炭化・灰化した後、硫酸水素カリウムで融解し、希硝酸で溶解して定容とした。この溶液をシーケンシャル型ICP発光分光分析装置 SPS4000(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて定量した。
【0062】
(ポリエステル中の粒子観察)
超薄切片試料(切片厚み100nm)を作成し、透過型電子顕微鏡 H−600型(日立製作所(株)製)を用いて、加速電圧100kVで観察した。
【0063】
(平均一次粒子径)
TEM写真像から、一次粒子100個の最大径を実測し、その平均値を記した。
【0064】
(ポリエステルの示差走査熱分析(DSC))
DSC6200型(セイコーインスツルメンツ(株)製)により、25℃から300℃まで20℃/分で昇温後、2分間保持し、その後300℃から25℃まで10℃/分で降温測定した。降温時のDSC曲線のピークを検出し、重なっている場合はピーク分離を行った。
【0065】
(粒子個数密度)
4万倍のTEM観察像において、10cm×10cm(実像で2.5μm×2.5μm)の視野に含まれる一次粒子個数をカウントし10視野の平均値が2個/視野以上のものは○、2個/視野未満のものは、フィルムなどとした場合に表面の凹凸形成その他特性に寄与し得ないので×とした。
【0066】
(粒子の構成成分分析)
電界放出型電子顕微鏡HF−2210(日立(株)製)とNORAN VOYAGER定量トータル分析システムの組み合わせを用いて、エネルギー分散型X線分析により粒子の元素分析を行った。
【0067】
(ポリマーの固有粘度ηの測定方法)
o−クロロフェノールを溶媒として、25℃で測定した。
【0068】
(実施例1)
Zr元素含有溶液Aの調製;
エチレングリコール110重量部に、オキシ酢酸ジルコニウム8水和物(ナカライテスク(株)製)を3.22重量部加え、約50℃にて30分で攪拌・溶解した。ここに、酢酸銀(関東化学(株)製)3.34重量部を、3時間かけて徐々に添加し、全て添加し終えたあと、さらに30分そのまま攪拌した。得られた反応液を、高速遠心分離機 CR−21G(日立製作所(株)製)にて5時間遠心分離を行い、透明な液体(A液)を得た。該液体の含有元素分析を行ったところ、Zr=7,840ppmであり、一方Ag=8ppm、Cl=200ppmであった(いずれも重量基準)。すなわちClのZrに対するモル比は6.6モル%であった。
【0069】
粒子含有ポリエステル組成物の製造法;
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール64重量部を、精留塔および全縮器を備えた反応容器中150℃で溶融した。溶融完了後攪拌しながら酢酸マグネシウム4水和物を0.08重量部、3酸化2アンチモンを0.04重量部加えて、240℃まで徐々に昇温しつつ、メタノールを留出しなくなるまで留去した。その後、リン酸トリメチルを0.03重量部添加した。さらに、先に調製したA液を18重量部添加した。この後、反応系内を徐々に70Paまで減圧しながら、さらに290℃まで昇温し、η=0.64のポリエステル組成物を得た。結果を表1に示す。TEM写真観察による平均一次粒子径は10nmであった。粒子個数密度も、一次粒子でカウントして50個/視野、凝集したものをまとめて1個とカウントしても20個/視野と、十分なものであった。
【0070】
この粒子の構成成分を分析したところ、Zr元素とO元素から構成されていることがわかった(C元素については、PETマトリックスの影響が大きすぎるため、含有されているか否かは特定できなかった)。
【0071】
また、得られたポリエステルのDSC分析を行ったところ、210℃と180℃に二つのピークが観察され、それぞれの吸熱量はそれぞれ13J/gと32J/gであった。
【0072】
(実施例2〜4)
A液の添加量を表1中の量に変更する他は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例5)
3酸化2アンチモンを添加した直後にA液を添加する他は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。反応性は若干低下した。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例6)
Zr元素含有溶液Bの調製;
エチレングリコール110重量部に、オキシ酢酸ジルコニウム8水和物(ナカライテスク(株)製)を1.61重量部加え、約50℃にて30分で攪拌・溶解した。ここに、酢酸銀(関東化学(株)製)1.67重量部を、3時間かけて徐々に添加し、全て添加し終えたあと、さらに30分そのまま攪拌した。得られた反応液を、高速遠心分離機 CR−21G(日立製作所(株)製)にて20,000rpmで5時間遠心分離を行い、透明な液体(B液)を得た。該液体の含有元素分析を行ったところ、Zr=3,910ppmであり、一方Ag=13ppm、Cl=11ppmであった(いずれも重量基準)。すなわちClのZrに対するモル比は0.7モル%であった。
【0075】
粒子含有ポリエステル組成物の製造法;
A液の代わりにB液を用いるほかは、実施例1と同様に粒子含有ポリエステル組成物を得た。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例7)
Zr元素含有溶液Cの調製;
エチレングリコール110重量部に、オキシ酢酸ジルコニウム8水和物(ナカライテスク(株)製)を3.22重量部加え、約50℃にて30分で攪拌・溶解した。ここに、酢酸銀(関東化学(株)製)1.67重量部を、3時間かけて徐々に添加し、全て添加し終えたあと、さらに30分そのまま攪拌した。得られた反応液を、高速遠心分離機 CR−21G(日立製作所(株)製)にて20,000rpmで5時間遠心分離を行い、透明な液体(C液)を得た。該液体の含有元素分析を行ったところ、Zr=7,810ppmであり、一方Ag=6ppm、Cl=3,170ppmであった(いずれも重量基準)。すなわちClのZrに対するモル比は96モル%であった。
【0077】
粒子含有ポリエステル組成物の製造法;
A液の代わりにC液を用いるほかは、実施例1と同様に粒子含有ポリエステル組成物を得た。結果を表1に示す。粒子径は実施例1〜5に比較して大きくなっている。
【0078】
(実施例8)
酢酸マグネシウム4水和物を0.05重量部に変更し、リン酸トリメチルを添加しないほかは、実施例1と同様に粒子含有ポリエステル組成物を得た。リン化合物が存在しなくても、実施例1とほぼ同等の粒子が形成されている。
【0079】
(比較実施例1)
液Aも液Bも液Cも添加しないほかは、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。結果を表1に示す。
【0080】
なお、得られたポリエステルのDSC分析を行ったところ、ピークは203℃に一つのみピークが観察され、吸熱量は44J/gであった。
【0081】
(比較実施例2)
液Aの添加量を表1中記載の値とする他は、実施例1と同様の方法でポリエステル組成物を得た。比較実施例2は粒子の個数密度が非常に低いものであった。比較実施例2は添加直後からポリマーの熱分解が激しく、途中で反応を中止した。
【0082】
(比較実施例3)
Zr元素含有溶液Dの調製;
エチレングリコール110重量部に、オキシ酢酸ジルコニウム8水和物(ナカライテスク(株)製)を16.1重量部加え、約50℃にて攪拌・溶解した。ここに、酢酸銀(関東化学(株)製)16.7重量部を、5時間かけて徐々に添加し、全て添加し終えたあと、さらに30分そのまま攪拌した。得られた反応液を、高速遠心分離機 CR−21G(日立製作所(株)製)にて20,000rpmで計7時間遠心分離を行い、透明な液体(D液)を得た。
【0083】
このD液を500重量部(計算上ポリエステル中のZr濃度が15重量部となる)加えるほかは、実施例1と同様の方法で粒子含有ポリエステル組成物を得ようとしたが、添加途中から熱分解と思われるガスの発生が激しく、ゲル状物が多量に発生し、途中で反応を中止したため、ポリマーは得られなかった。
【0084】
【表1】
【0085】
(実施例9)
実施例1で得られたポリエステルを用いて、290℃で溶融プレスした後、水浴で急冷して未延伸フィルムを得た後、ストレッチャー装置(東洋精機(株)製)を用いて3倍×4.5倍の逐次二軸延伸を行い、二軸延伸フィルムを作成した(延伸前予熱温度95℃×予熱時間30秒)。このフィルムの4.5倍に延伸した方向のヤング率を引っ張り試験機(TENSILON UCT−100型 オリエンテック(株)製)で測定したところ、3.9GPaであった。
【0086】
(実施例10)
実施例1で得られたポリエステルを用いて、290℃で溶融プレスした後、210℃のホットプレート上で1分間保持した後、水浴で急冷して未延伸フィルムを得た後、先と同様に3倍×4.5倍の二軸延伸フィルムを作成した。このフィルムの4.5倍に延伸した方向のヤング率を測定したところ、5.2GPaと33%向上した。
【0087】
(比較実施例4)
比較実施例1で得られたポリエステルを用いて、290℃で溶融プレスした後、水浴で急冷して未延伸フィルムを得た後、実施例9と同様にストレッチャー装置を用いて3倍×4.5倍の二軸延伸フィルムを作成した。このフィルムの4.5倍に延伸した方向のヤング率を測定したところ、3.5GPaであった。
【0088】
(比較実施例5)
比較実施例1で得られたポリエステルを用いて、290℃で溶融プレスした後、210℃のホットプレート上で1分間保持した後、水浴で急冷して未延伸フィルムを得た後、先と同様に3倍×4.5倍の二軸延伸フィルムの作成を試みたが、途中で破断してしまい、フィルムを得ることができなかった。
【0089】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、従来のポリマー外部から粒子を添加する粒子含有ポリエステル組成物に比べて、簡便な工程で得られ、かつ得られるポリエステル中の粒子は従来の内部粒子で得られるものより非常に微細かつ粒子の分散性が良好なポリエステル組成物を得ることができる。また、樹脂として高い機械的強度、耐熱性を有し、ポリエステル成型品一般、繊維、フィルム用途として好適に用いることができ、特にフィルムとした場合には、その微細な粒子による微細で均一な表面突起の形成をはじめとする諸特性により、例えば磁気記録媒体、特にデータストレージなどデジタル記録方式の磁気記録媒体などのベースフィルムとして非常に好適に用いることができる。
Claims (7)
- ジオール成分とジカルボン酸成分とからポリエステル組成物を製造する任意の段階において、ジルコニウム元素を含む溶液を添加して一次粒子径が1〜200nmの粒子を形成せしめるポリエステル組成物の製造方法。
- ジオール成分の原料となるジオールを含む溶媒にオキシ塩化ジルコニウム化合物を溶解せしめて得られる溶液を添加する、請求項1に記載のポリエステル組成物の製造方法。
- 塩素元素の含有量をジルコニウム元素に対して100モル%以下とした後に添加する、請求項1または2に記載のポリエステル組成物の製造方法。
- 塩素元素と銀化合物とを反応せしめて塩化銀を生成させ、この塩化銀を除去することにより塩素元素の含有量を制御する、請求項3に記載のポリエステル組成物の製造方法。
- 上記粒子中に含まれるジルコニウム元素の含有量が、ポリエステル組成物に対して0.01〜10wt%である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル組成物の製造方法。
- ポリエステルを溶融し次いで冷却固化を行い未延伸フィルムを形成する任意の段階において、ポリエステルのガラス転移温度以上融点未満の温度でポリエステルを冷却する、請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル組成物の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られるポリエステル組成物を含むポリエステルフィルム。
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JP2003117814A JP2004323604A (ja) | 2003-04-23 | 2003-04-23 | ポリエステル組成物の製造方法およびポリエステルフィルム |
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Cited By (2)
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---|---|---|---|---|
JP2011218717A (ja) * | 2010-04-13 | 2011-11-04 | Toray Ind Inc | ポリエステル成形体の製造方法 |
JP2015117410A (ja) * | 2013-12-18 | 2015-06-25 | 三菱日立パワーシステムズ株式会社 | 金属部材の脱塩装置及び方法 |
-
2003
- 2003-04-23 JP JP2003117814A patent/JP2004323604A/ja active Pending
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