JP2004322433A - 静電型液体吐出ヘッドおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ノズルに連通する圧力室を加圧するための静電型アクチュエータの初期駆動電圧を低減し、振動板の撓み変形量の電圧制御を可能にする。
【解決手段】圧力室11、ノズル12等を形成したSi基板10に薄片化ガラスによる振動板13を設け、その上に下電極14を形成し、絶縁膜15を介して、高分子材料基板20の凹所21の壁面21aに被着された上電極22を接合する。凹所21は略三角形状の断面を有し、両電極14、22間のギャップに静電引力を発生させると、テーパー状のギャップ側縁部において振動板13が撓み変形を開始するため、初期駆動電圧が少なくてすむ。
【選択図】 図1
【解決手段】圧力室11、ノズル12等を形成したSi基板10に薄片化ガラスによる振動板13を設け、その上に下電極14を形成し、絶縁膜15を介して、高分子材料基板20の凹所21の壁面21aに被着された上電極22を接合する。凹所21は略三角形状の断面を有し、両電極14、22間のギャップに静電引力を発生させると、テーパー状のギャップ側縁部において振動板13が撓み変形を開始するため、初期駆動電圧が少なくてすむ。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧力室等を有する一方の基体に振動板を配設してその上に一方の電極を、他方の基体の凹状の溝部に他方の電極をそれぞれ配置し、両電極間の静電引力で振動板を撓ませて、この後の振動板のバネ定数に依存する復元力で圧力室内の液体をノズル(液吐出口)から吐出する、いわゆる静電型アクチュエータを用いた静電型液体吐出ヘッドおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
圧力室に液体を導入し、静電引力による駆動力を用いて圧力室に体積変化を与え、圧力室からノズルを介して液体を吐出させる静電型液体吐出ヘッドは、例えば、高速、高画質、低消費、低価格のインクジェットプリンタとして知られており、近年では、より一層低消費電力で駆動可能であり、かつさらなる高集積化を可能にするための様々なヘッド構造が提案されている。
【0003】
例えば、特開平11−165413号公報に開示された静電型インクジェットヘッドにおいては、一方の基体であるSi基板に溝を設け、該溝による薄片化箇所を振動板として用い、対向する他方の基体にガラス基板を用い、それぞれ対向する箇所の振動板およびガラス基板に電極を形成して、均一な変位特性を有する静電型アクチュエータを実現するための構成が示されている。
【0004】
また、特開2000−15808号公報に開示された静電型インクジェットヘッドにおいては、それぞれ振動板として多結晶Si基板を、電極基板として単結晶Si基板を用い、振動板と電極基板とのギャップをSi酸化膜の厚さで制御し、同時にSi酸化膜を介して振動板と電極基板とを互いに接合し、多結晶Si薄膜振動板の形成を行っている。
【0005】
さらに、特開平6−71882号公報に開示された静電型インクジェットヘッドにおいては、振動板と電極基板との間のギャップ保持手段として、Si酸化膜およびホウケイ酸ガラス薄膜を用い、同時にSi酸化膜およびホウケイ酸ガラス薄膜を介して振動板と電極基板を直接接合している。
【0006】
図5は一従来例による静電型液体吐出ヘッドを示す。これは、圧力室102、ノズル孔103、液供給室110、液供給口110a等を構成する溝をSi基板101に設けて、Si基板101の圧力室102の底部を振動板105とし、ガラス基板106の凹部107に電極111を装着して、Si基板101に設けた電極との間に発振回路を接続したものである。両電極間にパルス電圧を印加し、静電吸引作用によって振動板105を撓み変形させることで圧力室102内の液体を加圧し、ノズル孔103から記録紙Pに向かって液滴を吐出する(特開平6−71882号公報参照)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来例による、振動板としてSi基板の薄片化箇所あるいは多結晶Si膜等を使用し、対向電極基板として単結晶Si基板あるいはガラス基板を用いて、振動板に一方の電極を、そして対向電極基板に他方の電極を形成した構成や、振動板と対向電極基板との間のギャップ保持手段としてSi酸化膜の厚さを利用したり、図5に示すようにガラス基板等に形成した凹部に電極を装着する構成においては、いずれの場合も、上下2つの電極は平行平板型の電極であって、電極間に形成されるギャップの形状は、電極間の間隙(距離)が均一な方形である。
【0008】
このような静電型アクチュエータの場合は、電極間の間隙が小さければ小さい程、駆動電圧は小さくなるが、ギャップ寸法が小さすぎると、圧力室の体積変化が少なくなり、振動板の復元力が低下して、液体の吐出性能に影響を及ぼす。さらに、振動板のバネ定数が低い場合は、振動板の変位量は増加するが、同時に振動板の復元力は低下する。
【0009】
従って、従来例のような静電型アクチュエータを用いて安定した吐出性能にするためには、電極間のギャップの間隙寸法が一定になるように形成すると同時に、振動板のバネ定数を一定にすることが必要となる。そして、同じ印加電圧の場合、静電引力はギャップ寸法の二乗に反比例することから、両電極間に電圧が印加されていない無負荷状態から、両電極間に電圧を印加する負荷状態に移行する時点で、すなわち無負荷初期状態から振動板の駆動状態へ移行させる初期駆動時に、電圧を最も高くする必要がある。従って、駆動電圧値によって各振動板の撓み変形量を制御することは困難である。
【0010】
本発明は、上記従来の技術の有する未解決の課題に鑑みてなされたものであり、振動板の無負荷状態から駆動状態へ移行する時の初期駆動電圧を低く設定することで消費電力を低減し、かつ、振動板の撓み変形量を駆動電圧値によって自在に操作することを可能とすることによって吐出特性を大幅に向上できる静電型液体吐出ヘッドおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の静電型液体吐出ヘッドは、1個または複数の液吐出口にそれぞれ連通する圧力室を有する第1の基体と、前記圧力室に液体を供給する液供給手段と、前記圧力室を加圧して前記液体を前記液吐出口から吐出するための振動板と、前記振動板と一体である第1の電極と、前記振動板に面して前記第1の基体に接合された第2の基体と、前記第2の基体に保持された第2の電極とを備えており、前記第1および前記第2の電極間のギャップに発生する静電引力によって前記振動板を撓ませることで前記圧力室を加圧する静電型液体吐出ヘッドであって、前記2つの電極間が前記ギャップの端縁において絶縁膜を介して接合されており、前記2つの電極間の距離が、前記ギャップの中央部に向かって前記端縁から直線状または曲線状に拡大していることを特徴とする。
【0012】
【作用】
振動板を振動させる駆動力となる静電引力を発生するギャップの端縁において、薄膜である絶縁膜を介して2つの電極を接合させ、2つの電極間を徐々にギャップの中央部に向かって拡大させるテーパー形状のギャップを設けることで、低電圧による初期駆動が可能となる。すなわち、低電圧によってまずギャップの端縁近傍において振動板が変形し、電圧の増加につれてギャップ中央部の振動板が変形し、目標の撓み変形量に到達する。
【0013】
低電圧による初期駆動が可能になるため、振動板に与える衝撃が少なくなり、また、振動板の撓み変形量を駆動電圧によって自在に制御できるようになる。その結果、消費電力が小さくて吐出性能や耐久性にもすぐれた静電型液体吐出ヘッドを実現できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は第1の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの主要部を示す。これは、下部構造体を構成する第1の基体としてSi基板10を用いるもので、Si基板10に圧力室11およびノズル12等となる溝を形成する。
【0016】
図1において、圧力室11は、紙面に垂直な方向に長尺であり、その端部において、図5に示す従来例と同様の液供給手段である図示しない液供給室に連通している。このように、液供給室に連通する圧力室11およびノズル12等を加工したSi基板10に、振動板13となるガラス板を陽極接合し、このガラス板を所望の厚さ、例えば、1〜200μmの厚さまで薄片化することで振動板13を形成する。次いで、圧力室11の直上に位置するように振動板13上に第1の電極である下電極14を形成し、下電極14上に絶縁膜15を形成する。
【0017】
上部構造体は第2の基体である高分子材料基板20を有し、高分子材料基板20のSi基板10の下電極14と対面する部位に、断面が三角形状で両端縁に向かって浅くなるテーパー部を有する電極用溝である凹所21が形成され、凹所21の壁面21aには第2の電極である上電極22が被着・保持されている。凹所21の端縁においては、上電極22が絶縁膜15を挟んで下電極14に接合され、凹所21の中心に進むにつれて上電極22と下電極14との間の間隙(距離)が直線状に増大するように、凹所21の中央部を頂点とし両端縁に向かって同じ直線勾配を有するテーパー形状の側縁部を有する略三角形状のギャップを形成する。このように下電極14と上電極22の間にテーパー形状の側縁部を有するギャップを形成し、Si基板10と高分子材料基板20の間を接着層16によって接着して一体的なヘッド構造体を得る。
【0018】
上下電極14、22間に電圧を印加したときに両電極間のギャップに作用する静電引力は、両電極間の距離が最も小さいギャップ端縁近傍における両電極14、22間で最大になるため、振動板13はまず最初にギャップの端縁に続くテーパー状のギャップ側縁部で撓み変形し、電圧の増加とともにギャップの中央部に広がってゆく。この撓み変形量は静電引力と振動板13の復元力との間の平衡関係によって決まるものであり、電圧の増加につれて、振動板13は撓み変形を増加させ、同時に復元力も増加させる。
【0019】
このように、電圧が零から徐々に増加する過程で振動板の撓み変形を次第に大きくしていくことを可能にするものであるため、振動板の撓み変形量を駆動電圧値で制御可能となり、振動板の復元力による液滴の吐出量を電圧制御によって自在に加減できる静電型液体吐出ヘッドを実現することができる。
【0020】
また、バネ定数の大きな振動板を用いることで、低電圧駆動による省力化に貢献できる。加えて、初期駆動電圧が低いために振動板に与える衝撃が少なくてすみ、さらには、平行平板型の電極構造を用いる場合のように電極間を所定の均一な間隙にする必要がないため、製造コストが低いという利点もある。
【0021】
図2は第1の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの製造方法を説明する工程図である。まず、図2の(a)に示すように、Si基板10に図示しない液供給室および圧力室11、ノズル12等をそれぞれ形成し、同図の(b)に示すように、Si基板10の接合面10aにガラス板を陽極接合し、陽極接合後のガラス板をラッピング研磨またはポリッシング研磨によって薄片化して振動板13を形成する。振動板13を圧力室11の一方の壁とし、図2の(c)に示すように振動板13上に導電性材料からなる下電極14を成膜し、さらに下電極14上に薄膜である絶縁膜15を成膜する。
【0022】
他方、図2の(a)に示すように、高分子材料基板20を加熱して熱可塑性状態で塑性変形させ、壁面21aの断面形状が略三角形状の凹所21(電極用溝)を形成し、この凹所21に同図の(d)に示すように、導電性材料からなる上電極22を形成する。そして、Si基板10上の下電極14以外の振動板13上に水ガラスからなる接着剤を塗布して接着層16を形成し、下電極14と上電極22を互いに対向させて位置合わせを行い、2つの基体10、20を接着層16を介して接着し、一体化する。このようにして、下電極14と上電極22は絶縁膜15を介して両電極14、22の間のギャップ端縁で接合した構成となる。
【0023】
なお、振動板としては、耐熱ガラスを用いる。この他にも、例えば酸化シリコン、酸化ボロンおよび酸化アルミニウムの少なくとも一種類以上の構造イオンと、および不純物イオンを含むガラスであればよく、例えばソーダライムガラス、ボロンシリケートガラス、アルミノケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、亜鉛ホウケイ酸ガラスでもよく、好ましくは圧力室、液供給室、ノズル等を形成する第1の基体の熱膨張係数に近いガラスがよい。
【0024】
第2の基体を構成する高分子材料基板としては、例えばポリカーボネイトを用いるが、この他にも可塑性を有する材料であればよく、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂のいずれでもよい。例えばポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、イミド系耐熱性樹脂、尿素樹脂であってもよい。
【0025】
さらに、高分子材料基板の電極用溝である断面三角形状の凹所は、高分子材料基板を熱可塑性状態で塑性変形させることで形成したが、この他にも例えば、型を用いたモールド成形によって凹所を形成してもよい。
【0026】
接着層としては例えば、水ガラスを用いて120℃以下の温度で接着を行う。この他にも接着層として高分子接着剤を用いてもよい。
【0027】
上記工程を経て作成した液体吐出ヘッドを用いて吐出系を構成し、上電極と下電極間に電圧を印加したところ、良好な液滴吐出性能が観察された。
【0028】
図3は第2の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの主要部を示す。これは、下部構造体を構成する第1の基体としてSi基板30を用いるもので、Si基板30にそれぞれ図示しない液供給手段である液供給室、圧力室31およびノズル32等となる溝を形成する。このように、液供給室、圧力室31およびノズル32等を加工したSi基板30に、振動板33となるガラス板を陽極接合し、該ガラス板を所望の厚さまで薄片化し、さらに、圧力室31の直上に位置するように振動板33上に第1の電極である下電極34を形成し、下電極34上に薄膜である絶縁膜35を形成する。
【0029】
上部構造体は第2の基体であるガラス基板40を有し、ガラス基板40のSi基板30の下電極34と対面する部位に、断面が凹状の2次曲線形状を有する電極用溝である凹所41が形成されている。凹所41は、壁面41aが凹所41の端縁で微分係数すなわち勾配を零とする平面であり、凹所41の中心に進む途中で次第に微分係数を増加させる急勾配となり、さらに中心に進むに従って次第に微分係数を減少させる緩やかな勾配となり、中央部で微分係数を零とする勾配零の平面となるようなテーパー形状を有する。
【0030】
このように曲線状に浅くなるテーパー形状の凹所41の壁面41aに上電極42を形成し、Si基板30とガラス基板40を接着層36によって接着して一体的なヘッド構造体を得る。
【0031】
上下電極34、42間に電圧を印加した時の両電極間の静電引力は、両電極間の隙間(距離)が最も小さい箇所であるギャップ端縁で静電引力が最大になる。このため振動板33はまず最初にギャップの端縁近傍で撓み変形し、電圧の増加とともにギャップ中央部に広がってゆく。この撓み変形量は静電引力と振動板33の復元力との間の平衡関係によって決まる。すなわち、電圧の増加につれて、振動板33は撓み変形を増加させ、同時に復元力も増加させる。
【0032】
このように、電圧を零から次第に増加させる過程で、振動板の撓み変形を次第に大きくしていくことを可能にする。これによって、振動板の撓み変形量を駆動電圧値で制御可能となるため、振動板の復元力による液滴の吐出量を電圧制御によって自在に加減できる静電型液体吐出ヘッドを実現することができる。
【0033】
図4は第2の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの製造方法を説明する工程図である。まず、図4の(a)に示すように、Si基板30に図示しない液供給室、圧力室31、ノズル32をそれぞれ形成し、同図の(b)に示すように、Si基板30の接合面30aにガラス板を陽極接合し、陽極接合後のガラス板を薄片化研磨して振動板33を形成する。振動板33を圧力室31の一方の壁とし、振動板33上に導電性材料からなる下電極34を成膜し、図4の(c)に示すように、下電極34上に絶縁膜35を成膜する。
【0034】
他方、図4の(a)に示すように、ガラス基板40を該ガラスの軟化点以下の温度で熱処理し、熱処理によってガラス基板40を流動変形させ、断面が略三角形状で、かつ曲線形状のテーパー部を有する壁面41aからなる凹所41を形成する。すなわち、壁面41aは、溝側縁部における曲線R2 と溝中央部における曲線R1 を変曲点で連結し、かつ曲線R1 がガラス基板40の基板面に接するように湾曲した曲面形状を有する電極用溝を構成し、ここに導電性材料からなる上電極42を成膜する。そして、下電極34以外の振動板33上に水ガラスからなる接着剤を塗布し、接着層36を形成する。
【0035】
この後、下電極34および上電極42を互いに対向させて位置決めし、2つの基体30、40を接着層36を介して接着する。この接着により、下電極34と上電極42は、両電極34、42の端部すなわちギャップの端縁で絶縁膜35を介して互いに接合した構造となる。
【0036】
振動板としては、例えばSD−2(HOYA(社)商標登録)を用いる。この他にもSi基板の熱膨張係数に近いガラスであればよい。
【0037】
第2の基体を構成するガラス基板としては、例えば振動板と同様なSD−2を用いるが、軟化点以下の温度で流動変形を有する材料であればよく、この他にも例えば酸化シリコン、酸化ボロンおよび酸化アルミニウムの少なくとも一種類以上の構造イオンと、および不純物イオンを含むガラス基板であればよく、例えばソーダライムガラス、ボロンシリケートガラス、アルミノケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、亜鉛ホウケイ酸ガラスでもよい。
【0038】
電極用溝である凹所の形成は、ガラス基板を軟化点以下の温度に加熱し、ガラス基板の自重で電極用溝である凹所を設ける箇所のみに流動変形を与えることにより行うとよいが、この他にも例えば、ガラス基板の両側から電極用溝である凹所を設ける箇所にのみそれぞれ異なる圧力を印加し、圧力差を用いてガラス基板に流動変形を与えるものでもよい。
【0039】
電極用溝である凹所は、壁面の曲線形状を二つの変曲点を有するものとしたが、この他にも、少なくとも一つ以上の変曲点を有するものであればよい。そして、曲線形状が一方の端縁あるいは両端縁で接するように構成する。
【0040】
上記工程を経て、作成した液体吐出ヘッドを用いた吐出系を製作し、上電極および下電極間に電圧を印加したところ、良好な液滴吐出性能が観察された。
【0041】
また、上記の液体吐出ヘッドを複数装備し、各液体吐出ヘッドに静電型振動板駆動回路を備え、液体吐出ヘッドのノズルと被記録媒体とを所望の距離で対向させるための支持部材と、入力した情報に応じてノズルと被記録媒体との相対位置を変化させるための機構を有する記録装置を作製した。これらの記録装置は、高解像度、高速印字が可能で従来と比較して低電圧化、低消費電力化、高密度化が可能になった。
【0042】
本発明の実施態様は以下の通りである。
【0043】
本発明の静電型液体吐出ヘッドは、1個または複数の液吐出口にそれぞれ連通する圧力室を有する第1の基体と、前記圧力室に液体を供給する液供給手段と、前記圧力室を加圧して前記液体を前記液吐出口から吐出するための振動板と、前記振動板と一体である第1の電極と、前記振動板に面して前記第1の基体に接合された第2の基体と、前記第2の基体に保持された第2の電極とを備えており、前記第1および前記第2の電極間のギャップに発生する静電引力によって前記振動板を撓ませることで前記圧力室を加圧する静電型液体吐出ヘッドであって、前記2つの電極間が前記ギャップの端縁において絶縁膜を介して接合されており、前記2つの電極間の距離が、前記ギャップの中央部に向かって前記端縁から直線状または曲線状に拡大していることを特徴とする。
【0044】
上記静電型液体吐出ヘッドにおいて、前記ギャップが略三角形状の断面を有するとよい。
【0045】
上記静電型液体吐出ヘッドにおいて、前記第2の基体が、前記第2の電極を保持するための電極用溝を有する高分子材料基板であって、前記電極用溝が、その中央部から端縁に向かって直線状に浅くなるテーパー形状を有するとよい。
【0046】
上記静電型液体吐出ヘッドにおいて、前記第2の基体が、前記第2の電極を保持するための電極用溝を有するガラス基板であって、前記電極用溝の端縁と中央部における壁面の勾配がそれぞれ零であり、前記電極用溝が、前記中央部から前記端縁に向かって曲線状に浅くなるテーパー形状を有するものでもよい。
【0047】
前記振動板の材質は、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノケイ酸ガラス、バリウムケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスまたは亜鉛ホウケイ酸ガラスであるとよい。
【0048】
前記第1および前記第2の電極の材質は、それぞれ、Al、In、Ag、Cu、Zn、Sn、Ge、Si、Ni、PdまたはPbであるとよい。
【0049】
前記絶縁膜の材質は、Si酸化膜、窒化Si膜またはAl酸化膜であるとよい。
【0050】
本発明の静電型液体吐出ヘッドの製造方法は、1個または複数の液吐出口にそれぞれ連通する圧力室を有する第1の基体に振動板を形成しその上に第1の電極を配設する工程と、第2の基体に、中央部から端縁に向かって直線状または曲線状に浅くなるテーパー形状の電極用溝を形成する工程と、第2の基体に形成されたテーパー形状の電極用溝に第2の電極を配設する工程と、第1および第2の電極の間をテーパー形状の電極用溝の端縁において絶縁膜を介して接合するように位置決めして第1の基体と第2の基体を一体的に結合する工程を有することを特徴とする。
【0051】
また、1個または複数の液吐出口にそれぞれ連通する圧力室を有する第1の基体に振動板を形成しその上に第1の電極を配設する工程と、高分子材料基板からなる第2の基体を加熱して塑性変形させることで、中央部から端縁に向かって直線状に浅くなるテーパー形状の電極用溝を形成する工程と、第2の基体に形成されたテーパー形状の電極用溝に第2の電極を配設する工程と、第1および第2の電極をテーパー形状の電極用溝の端縁において絶縁膜を介して接合するように位置決めして第1の基体と第2の基体を一体的に結合する工程を有することを特徴とする静電型液体吐出ヘッドの製造方法でもよい。
【0052】
あるいは、1個または複数の液吐出口にそれぞれ連通する圧力室を有する第1の基体に振動板を形成しその上に第1の電極を配設する工程と、ガラス基板からなる第2の基体を加熱して流動変形させることで、中央部から端縁に向かって曲線状に浅くなるテーパー形状の電極用溝を形成する工程と、第2の基体に形成されたテーパー形状の電極用溝に第2の電極を配設する工程と、第1および第2の電極をテーパー形状の電極用溝の端縁において絶縁膜を介して接合するように位置決めして第1の基体と第2の基体を一体的に結合する工程を有することを特徴とする静電型液体吐出ヘッドの製造方法でもよい。
【0053】
【発明の効果】
本発明は上述のとおり構成されているので、以下に記載するような効果を奏する。
【0054】
(1)上電極と下電極は平行平板型電極ではなく、三角形状または略三角形状の断面を有するテーパー形状のギャップを形成するものであることから、両電極間に静電引力が作用した時、下電極と一体となっている振動板は、初期駆動の低電圧により、まず両電極間のギャップ側縁部で撓み変形を生ずる。このため振動板に撓み変形を開始させる初期駆動時から両電極間に最大電圧を印加する必要がない。すなわち、小さい印加電圧で振動板の初期駆動を可能にする。
【0055】
(2)振動板の撓み変形量は、両電極間に印加する電圧の増加と共に次第に増していくので、振動板の撓み変形を自在に電圧制御することが可能になる。
【0056】
(3)バネ定数の大きな振動板であれば、小さな駆動電圧で振動板に撓み変形を与えることができるため、より一層低電圧駆動が可能である。
【0057】
(4)平行平板型電極ではないので、両電極間の隙間を電極の全面に渡って均一にする必要がなく、作製が容易である。
【0058】
(5)初期駆動電圧を低くできるので振動板に与える衝撃力を緩和できる。
【0059】
(6)振動板の撓み変形量を駆動電圧で制御することにより、ノズルから吐出する液滴の量的な制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの主要部を示す部分模式断面図である。
【図2】第1の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの製造方法を示す工程図である。
【図3】第2の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの主要部を示す部分模式断面図である。
【図4】第2の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの製造方法を示す工程図である。
【図5】一従来例を示す模式図である。
【符号の説明】
10、30 Si基板
11、31 圧力室
12、32 ノズル
13、33 振動板
14、34 下電極
15、35 絶縁膜
16、36 接着層
20 高分子材料基板
21、41 凹所
22、42 上電極
40 ガラス基板
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧力室等を有する一方の基体に振動板を配設してその上に一方の電極を、他方の基体の凹状の溝部に他方の電極をそれぞれ配置し、両電極間の静電引力で振動板を撓ませて、この後の振動板のバネ定数に依存する復元力で圧力室内の液体をノズル(液吐出口)から吐出する、いわゆる静電型アクチュエータを用いた静電型液体吐出ヘッドおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
圧力室に液体を導入し、静電引力による駆動力を用いて圧力室に体積変化を与え、圧力室からノズルを介して液体を吐出させる静電型液体吐出ヘッドは、例えば、高速、高画質、低消費、低価格のインクジェットプリンタとして知られており、近年では、より一層低消費電力で駆動可能であり、かつさらなる高集積化を可能にするための様々なヘッド構造が提案されている。
【0003】
例えば、特開平11−165413号公報に開示された静電型インクジェットヘッドにおいては、一方の基体であるSi基板に溝を設け、該溝による薄片化箇所を振動板として用い、対向する他方の基体にガラス基板を用い、それぞれ対向する箇所の振動板およびガラス基板に電極を形成して、均一な変位特性を有する静電型アクチュエータを実現するための構成が示されている。
【0004】
また、特開2000−15808号公報に開示された静電型インクジェットヘッドにおいては、それぞれ振動板として多結晶Si基板を、電極基板として単結晶Si基板を用い、振動板と電極基板とのギャップをSi酸化膜の厚さで制御し、同時にSi酸化膜を介して振動板と電極基板とを互いに接合し、多結晶Si薄膜振動板の形成を行っている。
【0005】
さらに、特開平6−71882号公報に開示された静電型インクジェットヘッドにおいては、振動板と電極基板との間のギャップ保持手段として、Si酸化膜およびホウケイ酸ガラス薄膜を用い、同時にSi酸化膜およびホウケイ酸ガラス薄膜を介して振動板と電極基板を直接接合している。
【0006】
図5は一従来例による静電型液体吐出ヘッドを示す。これは、圧力室102、ノズル孔103、液供給室110、液供給口110a等を構成する溝をSi基板101に設けて、Si基板101の圧力室102の底部を振動板105とし、ガラス基板106の凹部107に電極111を装着して、Si基板101に設けた電極との間に発振回路を接続したものである。両電極間にパルス電圧を印加し、静電吸引作用によって振動板105を撓み変形させることで圧力室102内の液体を加圧し、ノズル孔103から記録紙Pに向かって液滴を吐出する(特開平6−71882号公報参照)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来例による、振動板としてSi基板の薄片化箇所あるいは多結晶Si膜等を使用し、対向電極基板として単結晶Si基板あるいはガラス基板を用いて、振動板に一方の電極を、そして対向電極基板に他方の電極を形成した構成や、振動板と対向電極基板との間のギャップ保持手段としてSi酸化膜の厚さを利用したり、図5に示すようにガラス基板等に形成した凹部に電極を装着する構成においては、いずれの場合も、上下2つの電極は平行平板型の電極であって、電極間に形成されるギャップの形状は、電極間の間隙(距離)が均一な方形である。
【0008】
このような静電型アクチュエータの場合は、電極間の間隙が小さければ小さい程、駆動電圧は小さくなるが、ギャップ寸法が小さすぎると、圧力室の体積変化が少なくなり、振動板の復元力が低下して、液体の吐出性能に影響を及ぼす。さらに、振動板のバネ定数が低い場合は、振動板の変位量は増加するが、同時に振動板の復元力は低下する。
【0009】
従って、従来例のような静電型アクチュエータを用いて安定した吐出性能にするためには、電極間のギャップの間隙寸法が一定になるように形成すると同時に、振動板のバネ定数を一定にすることが必要となる。そして、同じ印加電圧の場合、静電引力はギャップ寸法の二乗に反比例することから、両電極間に電圧が印加されていない無負荷状態から、両電極間に電圧を印加する負荷状態に移行する時点で、すなわち無負荷初期状態から振動板の駆動状態へ移行させる初期駆動時に、電圧を最も高くする必要がある。従って、駆動電圧値によって各振動板の撓み変形量を制御することは困難である。
【0010】
本発明は、上記従来の技術の有する未解決の課題に鑑みてなされたものであり、振動板の無負荷状態から駆動状態へ移行する時の初期駆動電圧を低く設定することで消費電力を低減し、かつ、振動板の撓み変形量を駆動電圧値によって自在に操作することを可能とすることによって吐出特性を大幅に向上できる静電型液体吐出ヘッドおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の静電型液体吐出ヘッドは、1個または複数の液吐出口にそれぞれ連通する圧力室を有する第1の基体と、前記圧力室に液体を供給する液供給手段と、前記圧力室を加圧して前記液体を前記液吐出口から吐出するための振動板と、前記振動板と一体である第1の電極と、前記振動板に面して前記第1の基体に接合された第2の基体と、前記第2の基体に保持された第2の電極とを備えており、前記第1および前記第2の電極間のギャップに発生する静電引力によって前記振動板を撓ませることで前記圧力室を加圧する静電型液体吐出ヘッドであって、前記2つの電極間が前記ギャップの端縁において絶縁膜を介して接合されており、前記2つの電極間の距離が、前記ギャップの中央部に向かって前記端縁から直線状または曲線状に拡大していることを特徴とする。
【0012】
【作用】
振動板を振動させる駆動力となる静電引力を発生するギャップの端縁において、薄膜である絶縁膜を介して2つの電極を接合させ、2つの電極間を徐々にギャップの中央部に向かって拡大させるテーパー形状のギャップを設けることで、低電圧による初期駆動が可能となる。すなわち、低電圧によってまずギャップの端縁近傍において振動板が変形し、電圧の増加につれてギャップ中央部の振動板が変形し、目標の撓み変形量に到達する。
【0013】
低電圧による初期駆動が可能になるため、振動板に与える衝撃が少なくなり、また、振動板の撓み変形量を駆動電圧によって自在に制御できるようになる。その結果、消費電力が小さくて吐出性能や耐久性にもすぐれた静電型液体吐出ヘッドを実現できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は第1の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの主要部を示す。これは、下部構造体を構成する第1の基体としてSi基板10を用いるもので、Si基板10に圧力室11およびノズル12等となる溝を形成する。
【0016】
図1において、圧力室11は、紙面に垂直な方向に長尺であり、その端部において、図5に示す従来例と同様の液供給手段である図示しない液供給室に連通している。このように、液供給室に連通する圧力室11およびノズル12等を加工したSi基板10に、振動板13となるガラス板を陽極接合し、このガラス板を所望の厚さ、例えば、1〜200μmの厚さまで薄片化することで振動板13を形成する。次いで、圧力室11の直上に位置するように振動板13上に第1の電極である下電極14を形成し、下電極14上に絶縁膜15を形成する。
【0017】
上部構造体は第2の基体である高分子材料基板20を有し、高分子材料基板20のSi基板10の下電極14と対面する部位に、断面が三角形状で両端縁に向かって浅くなるテーパー部を有する電極用溝である凹所21が形成され、凹所21の壁面21aには第2の電極である上電極22が被着・保持されている。凹所21の端縁においては、上電極22が絶縁膜15を挟んで下電極14に接合され、凹所21の中心に進むにつれて上電極22と下電極14との間の間隙(距離)が直線状に増大するように、凹所21の中央部を頂点とし両端縁に向かって同じ直線勾配を有するテーパー形状の側縁部を有する略三角形状のギャップを形成する。このように下電極14と上電極22の間にテーパー形状の側縁部を有するギャップを形成し、Si基板10と高分子材料基板20の間を接着層16によって接着して一体的なヘッド構造体を得る。
【0018】
上下電極14、22間に電圧を印加したときに両電極間のギャップに作用する静電引力は、両電極間の距離が最も小さいギャップ端縁近傍における両電極14、22間で最大になるため、振動板13はまず最初にギャップの端縁に続くテーパー状のギャップ側縁部で撓み変形し、電圧の増加とともにギャップの中央部に広がってゆく。この撓み変形量は静電引力と振動板13の復元力との間の平衡関係によって決まるものであり、電圧の増加につれて、振動板13は撓み変形を増加させ、同時に復元力も増加させる。
【0019】
このように、電圧が零から徐々に増加する過程で振動板の撓み変形を次第に大きくしていくことを可能にするものであるため、振動板の撓み変形量を駆動電圧値で制御可能となり、振動板の復元力による液滴の吐出量を電圧制御によって自在に加減できる静電型液体吐出ヘッドを実現することができる。
【0020】
また、バネ定数の大きな振動板を用いることで、低電圧駆動による省力化に貢献できる。加えて、初期駆動電圧が低いために振動板に与える衝撃が少なくてすみ、さらには、平行平板型の電極構造を用いる場合のように電極間を所定の均一な間隙にする必要がないため、製造コストが低いという利点もある。
【0021】
図2は第1の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの製造方法を説明する工程図である。まず、図2の(a)に示すように、Si基板10に図示しない液供給室および圧力室11、ノズル12等をそれぞれ形成し、同図の(b)に示すように、Si基板10の接合面10aにガラス板を陽極接合し、陽極接合後のガラス板をラッピング研磨またはポリッシング研磨によって薄片化して振動板13を形成する。振動板13を圧力室11の一方の壁とし、図2の(c)に示すように振動板13上に導電性材料からなる下電極14を成膜し、さらに下電極14上に薄膜である絶縁膜15を成膜する。
【0022】
他方、図2の(a)に示すように、高分子材料基板20を加熱して熱可塑性状態で塑性変形させ、壁面21aの断面形状が略三角形状の凹所21(電極用溝)を形成し、この凹所21に同図の(d)に示すように、導電性材料からなる上電極22を形成する。そして、Si基板10上の下電極14以外の振動板13上に水ガラスからなる接着剤を塗布して接着層16を形成し、下電極14と上電極22を互いに対向させて位置合わせを行い、2つの基体10、20を接着層16を介して接着し、一体化する。このようにして、下電極14と上電極22は絶縁膜15を介して両電極14、22の間のギャップ端縁で接合した構成となる。
【0023】
なお、振動板としては、耐熱ガラスを用いる。この他にも、例えば酸化シリコン、酸化ボロンおよび酸化アルミニウムの少なくとも一種類以上の構造イオンと、および不純物イオンを含むガラスであればよく、例えばソーダライムガラス、ボロンシリケートガラス、アルミノケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、亜鉛ホウケイ酸ガラスでもよく、好ましくは圧力室、液供給室、ノズル等を形成する第1の基体の熱膨張係数に近いガラスがよい。
【0024】
第2の基体を構成する高分子材料基板としては、例えばポリカーボネイトを用いるが、この他にも可塑性を有する材料であればよく、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂のいずれでもよい。例えばポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、イミド系耐熱性樹脂、尿素樹脂であってもよい。
【0025】
さらに、高分子材料基板の電極用溝である断面三角形状の凹所は、高分子材料基板を熱可塑性状態で塑性変形させることで形成したが、この他にも例えば、型を用いたモールド成形によって凹所を形成してもよい。
【0026】
接着層としては例えば、水ガラスを用いて120℃以下の温度で接着を行う。この他にも接着層として高分子接着剤を用いてもよい。
【0027】
上記工程を経て作成した液体吐出ヘッドを用いて吐出系を構成し、上電極と下電極間に電圧を印加したところ、良好な液滴吐出性能が観察された。
【0028】
図3は第2の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの主要部を示す。これは、下部構造体を構成する第1の基体としてSi基板30を用いるもので、Si基板30にそれぞれ図示しない液供給手段である液供給室、圧力室31およびノズル32等となる溝を形成する。このように、液供給室、圧力室31およびノズル32等を加工したSi基板30に、振動板33となるガラス板を陽極接合し、該ガラス板を所望の厚さまで薄片化し、さらに、圧力室31の直上に位置するように振動板33上に第1の電極である下電極34を形成し、下電極34上に薄膜である絶縁膜35を形成する。
【0029】
上部構造体は第2の基体であるガラス基板40を有し、ガラス基板40のSi基板30の下電極34と対面する部位に、断面が凹状の2次曲線形状を有する電極用溝である凹所41が形成されている。凹所41は、壁面41aが凹所41の端縁で微分係数すなわち勾配を零とする平面であり、凹所41の中心に進む途中で次第に微分係数を増加させる急勾配となり、さらに中心に進むに従って次第に微分係数を減少させる緩やかな勾配となり、中央部で微分係数を零とする勾配零の平面となるようなテーパー形状を有する。
【0030】
このように曲線状に浅くなるテーパー形状の凹所41の壁面41aに上電極42を形成し、Si基板30とガラス基板40を接着層36によって接着して一体的なヘッド構造体を得る。
【0031】
上下電極34、42間に電圧を印加した時の両電極間の静電引力は、両電極間の隙間(距離)が最も小さい箇所であるギャップ端縁で静電引力が最大になる。このため振動板33はまず最初にギャップの端縁近傍で撓み変形し、電圧の増加とともにギャップ中央部に広がってゆく。この撓み変形量は静電引力と振動板33の復元力との間の平衡関係によって決まる。すなわち、電圧の増加につれて、振動板33は撓み変形を増加させ、同時に復元力も増加させる。
【0032】
このように、電圧を零から次第に増加させる過程で、振動板の撓み変形を次第に大きくしていくことを可能にする。これによって、振動板の撓み変形量を駆動電圧値で制御可能となるため、振動板の復元力による液滴の吐出量を電圧制御によって自在に加減できる静電型液体吐出ヘッドを実現することができる。
【0033】
図4は第2の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの製造方法を説明する工程図である。まず、図4の(a)に示すように、Si基板30に図示しない液供給室、圧力室31、ノズル32をそれぞれ形成し、同図の(b)に示すように、Si基板30の接合面30aにガラス板を陽極接合し、陽極接合後のガラス板を薄片化研磨して振動板33を形成する。振動板33を圧力室31の一方の壁とし、振動板33上に導電性材料からなる下電極34を成膜し、図4の(c)に示すように、下電極34上に絶縁膜35を成膜する。
【0034】
他方、図4の(a)に示すように、ガラス基板40を該ガラスの軟化点以下の温度で熱処理し、熱処理によってガラス基板40を流動変形させ、断面が略三角形状で、かつ曲線形状のテーパー部を有する壁面41aからなる凹所41を形成する。すなわち、壁面41aは、溝側縁部における曲線R2 と溝中央部における曲線R1 を変曲点で連結し、かつ曲線R1 がガラス基板40の基板面に接するように湾曲した曲面形状を有する電極用溝を構成し、ここに導電性材料からなる上電極42を成膜する。そして、下電極34以外の振動板33上に水ガラスからなる接着剤を塗布し、接着層36を形成する。
【0035】
この後、下電極34および上電極42を互いに対向させて位置決めし、2つの基体30、40を接着層36を介して接着する。この接着により、下電極34と上電極42は、両電極34、42の端部すなわちギャップの端縁で絶縁膜35を介して互いに接合した構造となる。
【0036】
振動板としては、例えばSD−2(HOYA(社)商標登録)を用いる。この他にもSi基板の熱膨張係数に近いガラスであればよい。
【0037】
第2の基体を構成するガラス基板としては、例えば振動板と同様なSD−2を用いるが、軟化点以下の温度で流動変形を有する材料であればよく、この他にも例えば酸化シリコン、酸化ボロンおよび酸化アルミニウムの少なくとも一種類以上の構造イオンと、および不純物イオンを含むガラス基板であればよく、例えばソーダライムガラス、ボロンシリケートガラス、アルミノケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、亜鉛ホウケイ酸ガラスでもよい。
【0038】
電極用溝である凹所の形成は、ガラス基板を軟化点以下の温度に加熱し、ガラス基板の自重で電極用溝である凹所を設ける箇所のみに流動変形を与えることにより行うとよいが、この他にも例えば、ガラス基板の両側から電極用溝である凹所を設ける箇所にのみそれぞれ異なる圧力を印加し、圧力差を用いてガラス基板に流動変形を与えるものでもよい。
【0039】
電極用溝である凹所は、壁面の曲線形状を二つの変曲点を有するものとしたが、この他にも、少なくとも一つ以上の変曲点を有するものであればよい。そして、曲線形状が一方の端縁あるいは両端縁で接するように構成する。
【0040】
上記工程を経て、作成した液体吐出ヘッドを用いた吐出系を製作し、上電極および下電極間に電圧を印加したところ、良好な液滴吐出性能が観察された。
【0041】
また、上記の液体吐出ヘッドを複数装備し、各液体吐出ヘッドに静電型振動板駆動回路を備え、液体吐出ヘッドのノズルと被記録媒体とを所望の距離で対向させるための支持部材と、入力した情報に応じてノズルと被記録媒体との相対位置を変化させるための機構を有する記録装置を作製した。これらの記録装置は、高解像度、高速印字が可能で従来と比較して低電圧化、低消費電力化、高密度化が可能になった。
【0042】
本発明の実施態様は以下の通りである。
【0043】
本発明の静電型液体吐出ヘッドは、1個または複数の液吐出口にそれぞれ連通する圧力室を有する第1の基体と、前記圧力室に液体を供給する液供給手段と、前記圧力室を加圧して前記液体を前記液吐出口から吐出するための振動板と、前記振動板と一体である第1の電極と、前記振動板に面して前記第1の基体に接合された第2の基体と、前記第2の基体に保持された第2の電極とを備えており、前記第1および前記第2の電極間のギャップに発生する静電引力によって前記振動板を撓ませることで前記圧力室を加圧する静電型液体吐出ヘッドであって、前記2つの電極間が前記ギャップの端縁において絶縁膜を介して接合されており、前記2つの電極間の距離が、前記ギャップの中央部に向かって前記端縁から直線状または曲線状に拡大していることを特徴とする。
【0044】
上記静電型液体吐出ヘッドにおいて、前記ギャップが略三角形状の断面を有するとよい。
【0045】
上記静電型液体吐出ヘッドにおいて、前記第2の基体が、前記第2の電極を保持するための電極用溝を有する高分子材料基板であって、前記電極用溝が、その中央部から端縁に向かって直線状に浅くなるテーパー形状を有するとよい。
【0046】
上記静電型液体吐出ヘッドにおいて、前記第2の基体が、前記第2の電極を保持するための電極用溝を有するガラス基板であって、前記電極用溝の端縁と中央部における壁面の勾配がそれぞれ零であり、前記電極用溝が、前記中央部から前記端縁に向かって曲線状に浅くなるテーパー形状を有するものでもよい。
【0047】
前記振動板の材質は、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノケイ酸ガラス、バリウムケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスまたは亜鉛ホウケイ酸ガラスであるとよい。
【0048】
前記第1および前記第2の電極の材質は、それぞれ、Al、In、Ag、Cu、Zn、Sn、Ge、Si、Ni、PdまたはPbであるとよい。
【0049】
前記絶縁膜の材質は、Si酸化膜、窒化Si膜またはAl酸化膜であるとよい。
【0050】
本発明の静電型液体吐出ヘッドの製造方法は、1個または複数の液吐出口にそれぞれ連通する圧力室を有する第1の基体に振動板を形成しその上に第1の電極を配設する工程と、第2の基体に、中央部から端縁に向かって直線状または曲線状に浅くなるテーパー形状の電極用溝を形成する工程と、第2の基体に形成されたテーパー形状の電極用溝に第2の電極を配設する工程と、第1および第2の電極の間をテーパー形状の電極用溝の端縁において絶縁膜を介して接合するように位置決めして第1の基体と第2の基体を一体的に結合する工程を有することを特徴とする。
【0051】
また、1個または複数の液吐出口にそれぞれ連通する圧力室を有する第1の基体に振動板を形成しその上に第1の電極を配設する工程と、高分子材料基板からなる第2の基体を加熱して塑性変形させることで、中央部から端縁に向かって直線状に浅くなるテーパー形状の電極用溝を形成する工程と、第2の基体に形成されたテーパー形状の電極用溝に第2の電極を配設する工程と、第1および第2の電極をテーパー形状の電極用溝の端縁において絶縁膜を介して接合するように位置決めして第1の基体と第2の基体を一体的に結合する工程を有することを特徴とする静電型液体吐出ヘッドの製造方法でもよい。
【0052】
あるいは、1個または複数の液吐出口にそれぞれ連通する圧力室を有する第1の基体に振動板を形成しその上に第1の電極を配設する工程と、ガラス基板からなる第2の基体を加熱して流動変形させることで、中央部から端縁に向かって曲線状に浅くなるテーパー形状の電極用溝を形成する工程と、第2の基体に形成されたテーパー形状の電極用溝に第2の電極を配設する工程と、第1および第2の電極をテーパー形状の電極用溝の端縁において絶縁膜を介して接合するように位置決めして第1の基体と第2の基体を一体的に結合する工程を有することを特徴とする静電型液体吐出ヘッドの製造方法でもよい。
【0053】
【発明の効果】
本発明は上述のとおり構成されているので、以下に記載するような効果を奏する。
【0054】
(1)上電極と下電極は平行平板型電極ではなく、三角形状または略三角形状の断面を有するテーパー形状のギャップを形成するものであることから、両電極間に静電引力が作用した時、下電極と一体となっている振動板は、初期駆動の低電圧により、まず両電極間のギャップ側縁部で撓み変形を生ずる。このため振動板に撓み変形を開始させる初期駆動時から両電極間に最大電圧を印加する必要がない。すなわち、小さい印加電圧で振動板の初期駆動を可能にする。
【0055】
(2)振動板の撓み変形量は、両電極間に印加する電圧の増加と共に次第に増していくので、振動板の撓み変形を自在に電圧制御することが可能になる。
【0056】
(3)バネ定数の大きな振動板であれば、小さな駆動電圧で振動板に撓み変形を与えることができるため、より一層低電圧駆動が可能である。
【0057】
(4)平行平板型電極ではないので、両電極間の隙間を電極の全面に渡って均一にする必要がなく、作製が容易である。
【0058】
(5)初期駆動電圧を低くできるので振動板に与える衝撃力を緩和できる。
【0059】
(6)振動板の撓み変形量を駆動電圧で制御することにより、ノズルから吐出する液滴の量的な制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの主要部を示す部分模式断面図である。
【図2】第1の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの製造方法を示す工程図である。
【図3】第2の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの主要部を示す部分模式断面図である。
【図4】第2の実施の形態による静電型液体吐出ヘッドの製造方法を示す工程図である。
【図5】一従来例を示す模式図である。
【符号の説明】
10、30 Si基板
11、31 圧力室
12、32 ノズル
13、33 振動板
14、34 下電極
15、35 絶縁膜
16、36 接着層
20 高分子材料基板
21、41 凹所
22、42 上電極
40 ガラス基板
Claims (2)
- 1個または複数の液吐出口にそれぞれ連通する圧力室を有する第1の基体と、前記圧力室に液体を供給する液供給手段と、前記圧力室を加圧して前記液体を前記液吐出口から吐出するための振動板と、前記振動板と一体である第1の電極と、前記振動板に面して前記第1の基体に接合された第2の基体と、前記第2の基体に保持された第2の電極とを備えており、前記第1および前記第2の電極間のギャップに発生する静電引力によって前記振動板を撓ませることで前記圧力室を加圧する静電型液体吐出ヘッドであって、前記2つの電極間が前記ギャップの端縁において絶縁膜を介して接合されており、前記2つの電極間の距離が、前記ギャップの中央部に向かって前記端縁から直線状または曲線状に拡大していることを特徴とする静電型液体吐出ヘッド。
- 1個または複数の液吐出口にそれぞれ連通する圧力室を有する第1の基体に振動板を形成しその上に第1の電極を配設する工程と、第2の基体に、中央部から端縁に向かって直線状または曲線状に浅くなるテーパー形状の電極用溝を形成する工程と、第2の基体に形成されたテーパー形状の電極用溝に第2の電極を配設する工程と、第1および第2の電極間をテーパー形状の電極用溝の端縁において絶縁膜を介して接合するように位置決めして第1の基体と第2の基体を一体的に結合する工程を有することを特徴とする静電型液体吐出ヘッドの製造方法。
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