JP2004315997A - 紡糸口金板及び押出成形用ダイ - Google Patents
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Abstract
【解決課題】ポリマー分解物耐付着性、耐クラック性、及び耐剥離性に優れた皮膜を形成した紡糸口金板及び押出成形用ダイを提供する。
【解決手段】溶融ポリマーを押出成形用ダイから押出し、樹脂製品を得る際に、その流路である、押出成形用ダイの内壁面、及び、溶融ポリマー吐出口部分のうち、少なくとも溶融ポリマー吐出口の外側周辺部分に、タングステンを30〜50重量%含むニッケル−タングステン合金めっきを被覆した。
【選択図】 図1
【解決手段】溶融ポリマーを押出成形用ダイから押出し、樹脂製品を得る際に、その流路である、押出成形用ダイの内壁面、及び、溶融ポリマー吐出口部分のうち、少なくとも溶融ポリマー吐出口の外側周辺部分に、タングステンを30〜50重量%含むニッケル−タングステン合金めっきを被覆した。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融ポリマー(以下ポリマーと略す)を押出成形するのに用いる、紡糸口金板及び押出成形用ダイに関する。
【0002】
【従来の技術】
溶融紡糸や押出し成形では、一般に、エクストルーダーによって溶融され、押し流されたポリマーは、ポリマー導管を経て、押出成形用ダイから成形されて押し出される。押出成形用ダイが紡糸口金パックである場合、紡糸孔から押し出された糸条は、ローラーに巻き取られ、延伸される。押出成形用ダイがフラットダイの場合は、リップ部から押出される。
【0003】
押出成形用ダイを設計する際には、内部にポリマーの溜まるデッドスペースを生じないように設計するが、溶融されるポリマーの種類や流速等が変わると、運転中に僅かなデッドスペースが生じることがある。
【0004】
このデッドスペースにポリマーが滞留し、熱劣化すると、分子量の低減(モノマー、オリゴマー化)やゲル化を起こし、物性が変化する。このようにして物性が変化したポリマー(以下、ポリマー分解物と言う。)は、ポリマー吐出口から押出される際に、該吐出口の外側周辺に付着、堆積し易い。
【0005】
ポリマー吐出口の周辺付近に付着、堆積したポリマー分解物は、その吐出口付近において、吐出される溶融ポリマーと断続的或いは連続的に接触する。それによって吐出される溶融ポリマーに振れや偏曲(ニーリングと言う。)を生じさせるだけでなく、ダイライン、断糸等を生じさせ、製品の品質に悪影響を及ぼすことがある。
【0006】
そのため、予めポリマー吐出口の周辺にシリコーン系の離型剤を塗布しておき、ポリマー分解物が付着した場合には、軟金属製のヘラ等によりこれをワイピングして除去することが行われている。しかしながら、このワイピング作業は生産を一度中止して行われ製造コストの上昇を招く要因となる。
【0007】
従来から、上記ポリマー分解物の耐付着性を改善すべく、紡糸口金表面に、種々の皮膜を施す手段が提案されている(例えば、特許文献1〜9)。
【0008】
【特許文献1】
特開昭57−193509号公報
【0009】
【特許文献2】
特開昭63−105105号公報
【0010】
【特許文献3】
特開平1−280525号公報
【0011】
【特許文献4】
特開平1−281916号公報
【0012】
【特許文献5】
特開平1−281915号公報
【0013】
【特許文献6】
特開平2−162010号公報
【0014】
【特許文献7】
特開平7−70809号公報
【0015】
【特許文献8】
特開平9−187856号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来技術による被覆手段は、ポリマー分解物耐付着性の効果が低い、剥離し易い、靭性に乏しい、ピンホールやクラックを生じ易い、或いは、耐熱性に乏しい等の問題があった。
【0017】
そこで本発明は、上記従来技術の諸問題に鑑み、ポリマー分解物耐付着性、耐クラック性、及び耐剥離性に優れた皮膜を形成した紡糸口金板及び押出成形用ダイを提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明者等は、鋭意研究の結果、タングステンを30〜50重量%含むニッケル−タングステン合金めっき皮膜が、優れた特性を有することを見出した。
【0019】
よって本発明に係る押出成形用ダイ又は紡糸口金板は、その内部流路の内壁面、及び、溶融ポリマー吐出口部分のうち、少なくとも溶融ポリマー吐出口の外側周辺部分にニッケル−タングステン合金めっきを被覆することに関し、その合金中のタングステンの割合が30〜50重量%であることを特徴とする。
【0020】
前記ニッケル−タングステン合金めっきの膜厚は、0.5〜30μmであることが好ましい。
【0021】
なお、本明細書において「押出成形用ダイ」は、Tダイ、環状ダイ、コートハンガーダイ、フィッシュテールダイの他、紡糸口金パックも含む。
【0022】
本発明の実施形態について、以下に図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、押出成形ダイの1形態である紡糸口金パックを示す断面図である。紡糸口金パック1は、紡糸口金板2、分配板3、濾過材4、トップインサート5がパッケージ6内に収容されている。紡糸口金板2には、複数の紡糸孔2aが溶融ポリマー吐出口として形成されている。紡糸口金パック1は、図外のエクストルーダーと、ポリマー導管7によってされている。紡糸口金パック、ポリマー導管、及びエクストルーダーによって押出成形装置は構成される。
【0024】
タングステンを30〜50重量%含むニッケル−タングステン合金皮膜8が、ポリマー導管7の管内周面と、紡糸口金パック1の内部流路及び紡糸孔2aの外側周辺を含む外側全面に形成されている。なお、図において皮膜は太線で示した。
【0025】
図2は、フィルムダイを示す断面図である。図2では、エクストルーダー及びポリマー導管を図示省略している。フィルムダイ10の溶融ポリマー吐出口11は、ダイリップと呼ばれる。このダイリップの外側周辺、及び内部流路を構成する内壁面に、タングステンを30〜50重量%含むニッケル−タングステン合金めっき皮膜12が形成されている。
【0026】
図1及び図2に示すニッケル−タングステン合金めっき皮膜(8,12)を形成する方法としては、電解めっき法等、公知の被覆方法を採用することができ、被覆するニッケル−タングステン合金めっきの膜厚は0.5μm以上30μm以下であることが好ましく、更には1μm以上20μm以下であることが好ましい。めっきの膜厚が0.5μm以下であるとその膜の性能を最大限に発揮することができず、又、めっきの膜厚が30μm以上であるとめっきにピンホールやクラックが発生しやすい状況になり、更に、めっきを厚くするための時間とコストがかかるため好ましくない。
【0027】
ニッケル−タングステン合金に含まれるタングステンの含有量は30〜50重量%とする。タングステンの含有量が30重量%未満であると後述するワイピング回数が増加するため生産効率が落ちる。その一方、タングステン含有量が50重量%を越えるタングステンを含有するニッケル−タングステン合金を製造することは技術的に困難であると共に製造に使用するタングステン酸ナトリウム等の試薬の使用量も増えるため、製造コストが嵩む反面、耐濡れ性の効果はさほど向上しない。
【0028】
ニッケル−タングステン合金めっきは熱処理を行うとビッカース硬度でHV1000以上になり、更に、クロムめっきと異なり、通常のポリマー溶融温度(200〜330℃)においても硬度を維持し得るため、紡糸口金孔周辺部、ダイリップ部に起こる磨耗を減少させ、又、軟金属製ヘラによるワイピングの作業時にも傷がつき難く、紡糸口金、ダイリップ部の寿命を延ばすことができる。
【0029】
本発明において使用できるポリマーは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2.6−ナフタレートのような芳香族ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン6・6のようなポリアミド等のポリマーを上げることができる。この中で特に芳香族ポリエステルが皮膜との離型性のうえで最も好適に用いることができる。
【0030】
ニッケル−タングステン合金めっき皮膜は押出成形用ダイ、及び、ダイ内部、ポリマー導管に被覆しても硬質クロムめっきのような応力割れなどは生じ難く、そのめっきの持つポリマー離型性によってポリマーとダイ内部、ポリマー導管等のポリマー流路壁面との摩擦抵抗を下げることになりポリマーをスムーズに流すことができる。
【0031】
【実施例】
以下、本発明の特徴とするところをより一層明らかにするために、各種の評価試験を行ったので、それについて説明する。
【0032】
接触角測定による評価
ポリマー分解物の耐付着性を評価するために、めっき皮膜上での溶融ポリマーの接触角を計測した。計測方法は、以下の通りである。
【0033】
図3は、計測装置の概略構成を示す断面図である。この計測装置20は、シリンダ21と、シリンダ21内に先端に配置される円盤22と、ピストン23とを備えている。円盤22は、ステンレス製で直径が10mmで厚さが2mmであり、中心に直径0.5 mmの貫通孔22aが穿設されている。この円盤22を複数個用意し、各々の外側の面に各種の皮膜24を施したサンプルを作成した。
【0034】
ここで、ニッケル−タングステン合金めっき、ニッケルめっき、Si、SiC、TiN、TiC、CrN、SiO2、ZrO2、及びAl2O3の皮膜評価の対象とした。
【0035】
ニッケル−タングステン合金めっき皮膜は、電解めっき法によって形成した。このとき、めっき浴の組成は、NiSO4・6H20が50〜70(g/L)、Na2WO4・2H2Oが60〜85(g/L)、クエン酸ナトリウムが100〜120(g/L)、PH調整剤としてNH4OHであり、めっき浴温度を70℃、陰極電流密度10A/dm2として、タングステンを所望の含有割合として、8μmのめっき厚を形成した。
【0036】
ニッケルめっきは公知の電解めっき法により皮膜を形成し、Si、SiC、TiN、TiC、CrN、SiO2、ZrO2、及びAl2O3の皮膜はスパッタリング法を用いて形成した。
【0037】
接触角は、計測装置20を用い、温度285℃、窒素雰囲気中でポリマー25を貫通孔22aより押し出し、300秒後に皮膜24の表面と溶融ポリマー25との接触角を測定した。
【0038】
接触角の測定は真空理工株式会社製「高温濡れ性試験・固−液間接触角測定装置WET−2000」を用いて行った。この接触角の測定を、各種類の皮膜毎に20回測定し、その平均値を表1に示した。
【0039】
【表1】
【0040】
表面の元素組成は 日本電子株式会社製EPMA(Electron Probe Micro analyzer:型式JXA−8900R)を用いて定量分析を行った。
【0041】
接触角が大きいほど、濡れにくい、即ち、ポリマー分解物が付着しにくいと評価することができる。
【0042】
表1から、ニッケル−タングステン合金めっき皮膜は、ポリマーとの接触角が他の皮膜よりも大きいことから、他の皮膜に比べてポリマー分解物が付着しにくいと評価できる。
【0043】
また、ニッケル−タングステン合金めっき皮膜は、タングステンを30重量%以上含有する場合に、接触角が大きく且つ安定しており、ポリマー分解物が付着しにくい性質に優れていると評価することができる。
【0044】
ワイピング回数及び摩耗状体による評価
SUS630製の紡糸口金吐出面全面に、上記接触角評価試験で行ったと同様の電解めっき法により形成したニッケル−タングステン合金めっき皮膜、通常の電解めっき法により形成した硬質クロムめっき皮膜、スパッタリング法によって得られたTiN、SiC、及びCrNの皮膜、が各々形成された紡糸口金と、何も皮膜が施されていない紡糸口金、の計6種類を用意し、図1に示したパックによって、固有粘度〔η〕が0.63、酸化チタンを0.3重量%含むポリエチレンテレフタレートを4回に分けて紡糸し、その紡糸した合計時間が800時間になったところで評価を行った。尚、1回に行う紡糸時間は200時間とした。
【0045】
その際に行ったワイピング回数、及び使用後の紡糸孔磨耗状態を調査した。その結果を表2に示す。
【0046】
ノズル孔周辺にポリマーが付着・堆積し、糸がその付着物に触れてニーリング、糸揺れ、断糸を起こし紡糸不能になった時に装置を一時停止させてワイピングを行った。なお、ワイピングとは、真鍮等のやわらかい金属製のヘラでその付着物を擦り除去することを意味する。
【0047】
【表2】
【0048】
表2から明らかなように、ニッケル−タングステン合金めっき皮膜は、ワイピング回数低減に加え、ワイピング性の向上、紡糸孔の磨耗を低減させ、結果長時間安定して品質の良い糸条を得ることができることが分かる。
【0049】
ニッケル−タングステン合金めっき皮膜のタングステン含有量に関しては、タングステン含有量が30重量%以上の場合に、ワイピング回数が少なく且つ安定していることが判る。
【0050】
離型性に関する評価
図1に示す紡糸口金パックを用いて、何もコーティング・めっきを被覆していない紡糸口金パックと紡糸口金パック内部(分配孔内部、整流孔など小径内部は除く)に、硬質クロムメッキ、Niメッキ、タングステンの含有量を変化させたニッケル−タングステン合金めっきを被覆したものを用意し、各々のパックを用いて、赤色の塗料を含むポリエチレンテレフタレート(PET)を100g/minで押出、紡調が安定するまで紡糸した後、白色のPETを流し、赤色のPETが置き換わる時間を測定した。測定は5分単位で行った。ニッケル−タングステン合金めっき皮膜は厚みが7μmとなるように電解めっき法により形成した。
【0051】
【表3】
【0052】
表3から、タングステンを20重量%以上含むニッケル−タングステン合金が離型性に優れることが分かる。
【0053】
耐クラック性に関する評価
電気炉で各種サンプルを300℃で1時間保持後→室温1時間→水冷のサイクルを30回繰り返し、各種皮膜の状態を観察した結果を肉眼及び走査型電子顕微鏡(SEM)(1000〜2000倍)を用いて観察した。
【0054】
サンプルは、母材をSUS630として以下のコーティングを施したものを使用した。
【0055】
NiW(Ni:90wt%,W:10wt%)
NiW(Ni:80wt%,W:20wt%)
NiW(Ni:70wt%,W:30wt%)
NiW(Ni:60wt%,W:40wt%)
NiW(Ni:50wt%,W:50wt%)
硬質クロムメッキ
酸化ケイ素(SiO2)被膜
DLC
試験の結果、酸化ケイ素被膜は1回目から孔エッジ部に肉眼で観察し得るクラックが発生し、2回目で割れ剥離を起こした。DLCは電気炉から出した時点で膜のほとんどが消失・剥離していた。硬質クロムメッキに関しては肉眼では変化は見られなかったが走査型電子顕微鏡を用いて表面を観察したところ、微小なクラックが多数発生していた。Ni−W合金は、何れのものも特に目立った変化は見られなかった。
【0056】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、エクストルーダーから溶融、押し出された熱可塑性重合体が流れる流路及びその周辺に、タングステンを30〜50重量%含むニッケル−タングステン合金めっきを被覆することにより、ポリマー分解物耐付着性、耐摩耗性、及び耐剥離性に優れる押出成形用ダイ及び紡糸口金板を得ることができる。
【0057】
さらに、前記ニッケル−タングステン合金めっき被膜の膜厚を0.5〜30μmとすれば、耐クラック性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るニッケル−タングステン合金めっき皮膜を被覆した紡糸口金パックの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係るニッケル−タングステン合金めっき皮膜を被覆したフィルムダイの一実施形態を示す断面図である。
【図3】接触角測定に用いた計測装置を示す模式図である。
【符号の説明】
1 紡糸口金パック
7 ポリマー導管
10 フィルムダイ
8,12 皮膜
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融ポリマー(以下ポリマーと略す)を押出成形するのに用いる、紡糸口金板及び押出成形用ダイに関する。
【0002】
【従来の技術】
溶融紡糸や押出し成形では、一般に、エクストルーダーによって溶融され、押し流されたポリマーは、ポリマー導管を経て、押出成形用ダイから成形されて押し出される。押出成形用ダイが紡糸口金パックである場合、紡糸孔から押し出された糸条は、ローラーに巻き取られ、延伸される。押出成形用ダイがフラットダイの場合は、リップ部から押出される。
【0003】
押出成形用ダイを設計する際には、内部にポリマーの溜まるデッドスペースを生じないように設計するが、溶融されるポリマーの種類や流速等が変わると、運転中に僅かなデッドスペースが生じることがある。
【0004】
このデッドスペースにポリマーが滞留し、熱劣化すると、分子量の低減(モノマー、オリゴマー化)やゲル化を起こし、物性が変化する。このようにして物性が変化したポリマー(以下、ポリマー分解物と言う。)は、ポリマー吐出口から押出される際に、該吐出口の外側周辺に付着、堆積し易い。
【0005】
ポリマー吐出口の周辺付近に付着、堆積したポリマー分解物は、その吐出口付近において、吐出される溶融ポリマーと断続的或いは連続的に接触する。それによって吐出される溶融ポリマーに振れや偏曲(ニーリングと言う。)を生じさせるだけでなく、ダイライン、断糸等を生じさせ、製品の品質に悪影響を及ぼすことがある。
【0006】
そのため、予めポリマー吐出口の周辺にシリコーン系の離型剤を塗布しておき、ポリマー分解物が付着した場合には、軟金属製のヘラ等によりこれをワイピングして除去することが行われている。しかしながら、このワイピング作業は生産を一度中止して行われ製造コストの上昇を招く要因となる。
【0007】
従来から、上記ポリマー分解物の耐付着性を改善すべく、紡糸口金表面に、種々の皮膜を施す手段が提案されている(例えば、特許文献1〜9)。
【0008】
【特許文献1】
特開昭57−193509号公報
【0009】
【特許文献2】
特開昭63−105105号公報
【0010】
【特許文献3】
特開平1−280525号公報
【0011】
【特許文献4】
特開平1−281916号公報
【0012】
【特許文献5】
特開平1−281915号公報
【0013】
【特許文献6】
特開平2−162010号公報
【0014】
【特許文献7】
特開平7−70809号公報
【0015】
【特許文献8】
特開平9−187856号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来技術による被覆手段は、ポリマー分解物耐付着性の効果が低い、剥離し易い、靭性に乏しい、ピンホールやクラックを生じ易い、或いは、耐熱性に乏しい等の問題があった。
【0017】
そこで本発明は、上記従来技術の諸問題に鑑み、ポリマー分解物耐付着性、耐クラック性、及び耐剥離性に優れた皮膜を形成した紡糸口金板及び押出成形用ダイを提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明者等は、鋭意研究の結果、タングステンを30〜50重量%含むニッケル−タングステン合金めっき皮膜が、優れた特性を有することを見出した。
【0019】
よって本発明に係る押出成形用ダイ又は紡糸口金板は、その内部流路の内壁面、及び、溶融ポリマー吐出口部分のうち、少なくとも溶融ポリマー吐出口の外側周辺部分にニッケル−タングステン合金めっきを被覆することに関し、その合金中のタングステンの割合が30〜50重量%であることを特徴とする。
【0020】
前記ニッケル−タングステン合金めっきの膜厚は、0.5〜30μmであることが好ましい。
【0021】
なお、本明細書において「押出成形用ダイ」は、Tダイ、環状ダイ、コートハンガーダイ、フィッシュテールダイの他、紡糸口金パックも含む。
【0022】
本発明の実施形態について、以下に図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、押出成形ダイの1形態である紡糸口金パックを示す断面図である。紡糸口金パック1は、紡糸口金板2、分配板3、濾過材4、トップインサート5がパッケージ6内に収容されている。紡糸口金板2には、複数の紡糸孔2aが溶融ポリマー吐出口として形成されている。紡糸口金パック1は、図外のエクストルーダーと、ポリマー導管7によってされている。紡糸口金パック、ポリマー導管、及びエクストルーダーによって押出成形装置は構成される。
【0024】
タングステンを30〜50重量%含むニッケル−タングステン合金皮膜8が、ポリマー導管7の管内周面と、紡糸口金パック1の内部流路及び紡糸孔2aの外側周辺を含む外側全面に形成されている。なお、図において皮膜は太線で示した。
【0025】
図2は、フィルムダイを示す断面図である。図2では、エクストルーダー及びポリマー導管を図示省略している。フィルムダイ10の溶融ポリマー吐出口11は、ダイリップと呼ばれる。このダイリップの外側周辺、及び内部流路を構成する内壁面に、タングステンを30〜50重量%含むニッケル−タングステン合金めっき皮膜12が形成されている。
【0026】
図1及び図2に示すニッケル−タングステン合金めっき皮膜(8,12)を形成する方法としては、電解めっき法等、公知の被覆方法を採用することができ、被覆するニッケル−タングステン合金めっきの膜厚は0.5μm以上30μm以下であることが好ましく、更には1μm以上20μm以下であることが好ましい。めっきの膜厚が0.5μm以下であるとその膜の性能を最大限に発揮することができず、又、めっきの膜厚が30μm以上であるとめっきにピンホールやクラックが発生しやすい状況になり、更に、めっきを厚くするための時間とコストがかかるため好ましくない。
【0027】
ニッケル−タングステン合金に含まれるタングステンの含有量は30〜50重量%とする。タングステンの含有量が30重量%未満であると後述するワイピング回数が増加するため生産効率が落ちる。その一方、タングステン含有量が50重量%を越えるタングステンを含有するニッケル−タングステン合金を製造することは技術的に困難であると共に製造に使用するタングステン酸ナトリウム等の試薬の使用量も増えるため、製造コストが嵩む反面、耐濡れ性の効果はさほど向上しない。
【0028】
ニッケル−タングステン合金めっきは熱処理を行うとビッカース硬度でHV1000以上になり、更に、クロムめっきと異なり、通常のポリマー溶融温度(200〜330℃)においても硬度を維持し得るため、紡糸口金孔周辺部、ダイリップ部に起こる磨耗を減少させ、又、軟金属製ヘラによるワイピングの作業時にも傷がつき難く、紡糸口金、ダイリップ部の寿命を延ばすことができる。
【0029】
本発明において使用できるポリマーは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2.6−ナフタレートのような芳香族ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン6・6のようなポリアミド等のポリマーを上げることができる。この中で特に芳香族ポリエステルが皮膜との離型性のうえで最も好適に用いることができる。
【0030】
ニッケル−タングステン合金めっき皮膜は押出成形用ダイ、及び、ダイ内部、ポリマー導管に被覆しても硬質クロムめっきのような応力割れなどは生じ難く、そのめっきの持つポリマー離型性によってポリマーとダイ内部、ポリマー導管等のポリマー流路壁面との摩擦抵抗を下げることになりポリマーをスムーズに流すことができる。
【0031】
【実施例】
以下、本発明の特徴とするところをより一層明らかにするために、各種の評価試験を行ったので、それについて説明する。
【0032】
接触角測定による評価
ポリマー分解物の耐付着性を評価するために、めっき皮膜上での溶融ポリマーの接触角を計測した。計測方法は、以下の通りである。
【0033】
図3は、計測装置の概略構成を示す断面図である。この計測装置20は、シリンダ21と、シリンダ21内に先端に配置される円盤22と、ピストン23とを備えている。円盤22は、ステンレス製で直径が10mmで厚さが2mmであり、中心に直径0.5 mmの貫通孔22aが穿設されている。この円盤22を複数個用意し、各々の外側の面に各種の皮膜24を施したサンプルを作成した。
【0034】
ここで、ニッケル−タングステン合金めっき、ニッケルめっき、Si、SiC、TiN、TiC、CrN、SiO2、ZrO2、及びAl2O3の皮膜評価の対象とした。
【0035】
ニッケル−タングステン合金めっき皮膜は、電解めっき法によって形成した。このとき、めっき浴の組成は、NiSO4・6H20が50〜70(g/L)、Na2WO4・2H2Oが60〜85(g/L)、クエン酸ナトリウムが100〜120(g/L)、PH調整剤としてNH4OHであり、めっき浴温度を70℃、陰極電流密度10A/dm2として、タングステンを所望の含有割合として、8μmのめっき厚を形成した。
【0036】
ニッケルめっきは公知の電解めっき法により皮膜を形成し、Si、SiC、TiN、TiC、CrN、SiO2、ZrO2、及びAl2O3の皮膜はスパッタリング法を用いて形成した。
【0037】
接触角は、計測装置20を用い、温度285℃、窒素雰囲気中でポリマー25を貫通孔22aより押し出し、300秒後に皮膜24の表面と溶融ポリマー25との接触角を測定した。
【0038】
接触角の測定は真空理工株式会社製「高温濡れ性試験・固−液間接触角測定装置WET−2000」を用いて行った。この接触角の測定を、各種類の皮膜毎に20回測定し、その平均値を表1に示した。
【0039】
【表1】
【0040】
表面の元素組成は 日本電子株式会社製EPMA(Electron Probe Micro analyzer:型式JXA−8900R)を用いて定量分析を行った。
【0041】
接触角が大きいほど、濡れにくい、即ち、ポリマー分解物が付着しにくいと評価することができる。
【0042】
表1から、ニッケル−タングステン合金めっき皮膜は、ポリマーとの接触角が他の皮膜よりも大きいことから、他の皮膜に比べてポリマー分解物が付着しにくいと評価できる。
【0043】
また、ニッケル−タングステン合金めっき皮膜は、タングステンを30重量%以上含有する場合に、接触角が大きく且つ安定しており、ポリマー分解物が付着しにくい性質に優れていると評価することができる。
【0044】
ワイピング回数及び摩耗状体による評価
SUS630製の紡糸口金吐出面全面に、上記接触角評価試験で行ったと同様の電解めっき法により形成したニッケル−タングステン合金めっき皮膜、通常の電解めっき法により形成した硬質クロムめっき皮膜、スパッタリング法によって得られたTiN、SiC、及びCrNの皮膜、が各々形成された紡糸口金と、何も皮膜が施されていない紡糸口金、の計6種類を用意し、図1に示したパックによって、固有粘度〔η〕が0.63、酸化チタンを0.3重量%含むポリエチレンテレフタレートを4回に分けて紡糸し、その紡糸した合計時間が800時間になったところで評価を行った。尚、1回に行う紡糸時間は200時間とした。
【0045】
その際に行ったワイピング回数、及び使用後の紡糸孔磨耗状態を調査した。その結果を表2に示す。
【0046】
ノズル孔周辺にポリマーが付着・堆積し、糸がその付着物に触れてニーリング、糸揺れ、断糸を起こし紡糸不能になった時に装置を一時停止させてワイピングを行った。なお、ワイピングとは、真鍮等のやわらかい金属製のヘラでその付着物を擦り除去することを意味する。
【0047】
【表2】
【0048】
表2から明らかなように、ニッケル−タングステン合金めっき皮膜は、ワイピング回数低減に加え、ワイピング性の向上、紡糸孔の磨耗を低減させ、結果長時間安定して品質の良い糸条を得ることができることが分かる。
【0049】
ニッケル−タングステン合金めっき皮膜のタングステン含有量に関しては、タングステン含有量が30重量%以上の場合に、ワイピング回数が少なく且つ安定していることが判る。
【0050】
離型性に関する評価
図1に示す紡糸口金パックを用いて、何もコーティング・めっきを被覆していない紡糸口金パックと紡糸口金パック内部(分配孔内部、整流孔など小径内部は除く)に、硬質クロムメッキ、Niメッキ、タングステンの含有量を変化させたニッケル−タングステン合金めっきを被覆したものを用意し、各々のパックを用いて、赤色の塗料を含むポリエチレンテレフタレート(PET)を100g/minで押出、紡調が安定するまで紡糸した後、白色のPETを流し、赤色のPETが置き換わる時間を測定した。測定は5分単位で行った。ニッケル−タングステン合金めっき皮膜は厚みが7μmとなるように電解めっき法により形成した。
【0051】
【表3】
【0052】
表3から、タングステンを20重量%以上含むニッケル−タングステン合金が離型性に優れることが分かる。
【0053】
耐クラック性に関する評価
電気炉で各種サンプルを300℃で1時間保持後→室温1時間→水冷のサイクルを30回繰り返し、各種皮膜の状態を観察した結果を肉眼及び走査型電子顕微鏡(SEM)(1000〜2000倍)を用いて観察した。
【0054】
サンプルは、母材をSUS630として以下のコーティングを施したものを使用した。
【0055】
NiW(Ni:90wt%,W:10wt%)
NiW(Ni:80wt%,W:20wt%)
NiW(Ni:70wt%,W:30wt%)
NiW(Ni:60wt%,W:40wt%)
NiW(Ni:50wt%,W:50wt%)
硬質クロムメッキ
酸化ケイ素(SiO2)被膜
DLC
試験の結果、酸化ケイ素被膜は1回目から孔エッジ部に肉眼で観察し得るクラックが発生し、2回目で割れ剥離を起こした。DLCは電気炉から出した時点で膜のほとんどが消失・剥離していた。硬質クロムメッキに関しては肉眼では変化は見られなかったが走査型電子顕微鏡を用いて表面を観察したところ、微小なクラックが多数発生していた。Ni−W合金は、何れのものも特に目立った変化は見られなかった。
【0056】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、エクストルーダーから溶融、押し出された熱可塑性重合体が流れる流路及びその周辺に、タングステンを30〜50重量%含むニッケル−タングステン合金めっきを被覆することにより、ポリマー分解物耐付着性、耐摩耗性、及び耐剥離性に優れる押出成形用ダイ及び紡糸口金板を得ることができる。
【0057】
さらに、前記ニッケル−タングステン合金めっき被膜の膜厚を0.5〜30μmとすれば、耐クラック性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るニッケル−タングステン合金めっき皮膜を被覆した紡糸口金パックの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係るニッケル−タングステン合金めっき皮膜を被覆したフィルムダイの一実施形態を示す断面図である。
【図3】接触角測定に用いた計測装置を示す模式図である。
【符号の説明】
1 紡糸口金パック
7 ポリマー導管
10 フィルムダイ
8,12 皮膜
Claims (4)
- 溶融ポリマーの通る内部流路及び溶融ポリマー吐出口の外側周辺部分のうち、少なくとも溶融ポリマー吐出口の外側周辺部分に、タングステンを30〜50重量%含むニッケル−タングステン合金めっきを被覆したことを特徴とする紡糸口金板。
- 溶融ポリマーの通る内部流路及び溶融ポリマー吐出口の外側周辺部分のうち、少なくとも溶融ポリマー吐出口の外側周辺部分に、タングステンを30〜50重量%含むニッケル−タングステン合金めっきを被覆したことを特徴とする押出成形用ダイ。
- 前記ニッケル−タングステン合金メッキの膜厚が0.5〜30μmであることを特徴とする請求項1記載の紡糸口金板。
- 前記ニッケル−タングステン合金メッキの膜厚が0.5〜30μmであることを特徴とする請求項2記載の押出成形用ダイ。
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JP2003109171A JP2004315997A (ja) | 2003-04-14 | 2003-04-14 | 紡糸口金板及び押出成形用ダイ |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2013524029A (ja) * | 2010-11-16 | 2013-06-17 | コリア インスティチュート オブ インダストリアル テクノロジー | 多重繊維紡糸装置及びその制御方法 |
CN110409005A (zh) * | 2019-08-07 | 2019-11-05 | 东华大学 | 一种自动化铲板的机电系统及方法 |
-
2003
- 2003-04-14 JP JP2003109171A patent/JP2004315997A/ja active Pending
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