JP2004308091A - ポリエステルモノフィラメント - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ポリエステルモノフィラメントであって、ポリエステル以外の成分として、シリコーンオイルおよびフッ素樹脂を含有し、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)による分析によりモノフィラメント表面からケイ素およびフッ素が検出され、同時に検出される炭素の原子数を1としたときに、炭素に対するケイ素の原子数比が0.01以上、炭素に対するフッ素の原子数比が0.003以上であることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。および該ポリエステルモノフィラメントを各種工業用織物の構成素材として使用する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、抄紙ドライヤーカンバスなどの工業用織物の構成素材として好適な、優れた防汚性と優れた耐加水分解性とを兼備したポリエステルモノフィラメントに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステルは、優れた物性を有しているため、各種工業用部品、衣料用および工業用繊維材料、各種織物などに使用されてきた。例えばポリエステルモノフィラメントとして、抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、各種ブラシ、筆毛、印刷スクリーン用紗、釣り糸、ゴム補強用繊維材料などに広く用いられてきた。しかしながら、ポリエステルモノフィラメントを高温・多湿など加水分解されやすい条件下で使用される用途、例えば抄紙ドライヤーカンバスの構成素材やタイヤコードとして適用した場合には、使用中にポリエステルモノフィラメントが加水分解劣化による強度低下を起こすという欠点を有していた。更に、ポリエステルモノフィラメント製の抄紙ドライヤーカンバスの場合には、長期間湿紙を乾燥している間に紙料に混入した回収段ボール古紙由来のガムピッチなどの粘着性の汚れがドライヤーカンバス表面や内部に付着蓄積し、乾燥効率低下および製品紙の品位低下などを引き起こすという欠点も有していた。したがって、これらの欠点のために、抄紙ドライヤーカンバスの使用期間が著しく制限されるという重要な問題を有していた。
【0003】
このような欠点を解決するため従来から様々の提案が行われてきた。
【0004】
ポリエステルモノフィラメントの欠点である耐加水分解性を向上するため提案としては次のようなものが公知である。
【0005】
例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,ポリ−4−メチルペンテン1,ポリスチレンなどのポリオレフィンを特定量添加したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献1参照)が知られているが、この技術で得られるモノフィラメント、例えばポリエチレンを添加したポリエチレンテレフタレート製モノフィラメントは、耐加水分解性向上効果が小さく、また防汚性は何ら改善されていないため実用的ではなかった。
【0006】
また、カルボジイミド化合物を添加することによりポリエステルの耐加水分解性を向上せしめる方法が知られている。
【0007】
例えば、カルボキシル末端基がカルボジイミドとの反応でキャップされ、遊離のモノ及び/又はビスカルボジイミド化合物30〜200ppmと遊離のポリカルボジイミド又はなお反応性を有するポリカルボジイミド基を含む反応生成物を少なくとも0.02重量%含有するポリエステル繊維(例えば、特許文献2参照)、特定量のリンを含むポリエステルに特定のカルボジイミド化合物を添加する工業用ポリエステルモノフィラメントの製造方法(例えば、特許文献3参照)、ポリマ成分が、末端カルボキシル基濃度が10当量/106g以下のポリエステル(A)99.8〜60重量%と、フッ素原子を含有しない熱可塑性ポリマ(B)0.2〜40重量%からなり、当該ポリマ成分が未反応の状態のカルボジイミド化合物(C)を0.005〜1.5重量%含有するポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献4参照)、およびシンジオタクチック構造などのポリスチレンと未反応の状態のモノカルボジイミド化合物とポリカルボジイミド化合物とをそれぞれ特定量含有するポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献5参照)が提案されているが、これらの提案では、耐加水分解性は改善されるものの、防汚性については何ら改善されるものではなかった。
【0008】
また、ポリエステルモノフィラメントの防汚性を改善するための手段としては、例えば、少なくとも糸の表層部に、溶融混練されたポリシロキサンを含有するポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献6参照)が知られているが、このポリエステルモノフィラメントは、防汚性は改善されるものの耐加水分解性は何ら改善されたものではなかった。
【0009】
さらに、ポリエステルモノフィラメントの耐加水分解性と防汚性とを同時に改善するための手段としては、例えば、末端カルボキシル基濃度が10当量/ポリエステル106g以下であって、カルボジイミド化合物を未反応の状態で0.005〜1.5重量%含有し、かつエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素系重合体を0.01〜30重量%含有したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献7参照)、および末端カルボキシル基濃度が10当量/106g以下のポリエステル99.9〜70重量%と、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン共重合体0.1〜30重量%とを含有し、未反応のカルボジイミド化合物を0.005〜1.5重量%含有するポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献8参照)が提案されているが、このポリエステルモノフィラメントは、耐加水分解性と非粘着性の汚れに対する防汚性は改善されるものの、ガムピッチなどの粘着性の汚れに対する防汚性は不十分なものであった。
【0010】
さらにまた、耐加水分解性と耐屈曲摩耗性とを改善したポリエステルモノフィラメントとして、極限粘度0.6以上、末端カルボキシル基濃度が10当量/106g以下のポリエチレンテレフタレートに、0.1〜10重量%の有機ケイ素化合物を含有させた組成物からなるポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献9参照)が提案され、その明細書中には、末端カルボキシル基濃度が10当量/106g以下のポリエチレンテレフタレートを得る一手段として、特定のモノカルボジイミド化合物を添加する方法が記載され、耐屈曲摩耗性を向上する一手段として、有機ケイ素化合物であるポリジメチルシロキサンやポリメチルフェニルシロキサンなどのシリコーンオイルを添加する方法が記載されている。しかしながらこのポリエステルモノフィラメントは、ガムピッチなどの粘着性の汚れに対する防汚性は不十分なものであった。
【0011】
【特許文献1】
特開昭51−136923号公報(第1〜5頁)
【特許文献2】
特開平4−289221号公報(第1〜7頁)
【特許文献3】
特開昭57−205518号公報(第1〜9頁)
【特許文献4】
特開平7−258524号公報(第1〜43頁)
【特許文献5】
特開平10−168661号公報(第1〜11頁)
【特許文献6】
特開昭60−81313号公報(第1〜4頁)
【特許文献7】
再公表 国際公開番号 WO 92/07126号公報(第1〜11頁)
【特許文献8】
特開平09−049121号公報(第1〜11頁)
【特許文献9】
特開平7−157921号公報(第1〜4頁)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記した欠点のない、抄紙ドライヤーカンバスなどの工業用織物の構成素材として好適な、ガムピッチに対する優れた防汚性と優れた耐加水分解性とを兼備したポリエステルモノフィラメントの提供にある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の課題は、
ポリエステル以外の成分としてシリコーンオイルおよびフッ素樹脂を含有するポリエステルモノフィラメントであって、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)に基づく分析によりモノフィラメント表面からケイ素およびフッ素が検出され、同時に検出される炭素の原子数を1としたときに、炭素に対するケイ素の原子数比が0.01以上、炭素に対するフッ素の原子数比が0.003以上であることを特徴とするポリエステルモノフィラメントによって解決することができる。
【0014】
なお、本発明においては、
前記ポリエステルモノフィラメントが含有するシリコーンオイルの含有量が0.2〜20重量%であり、フッ素樹脂の含有量が0.5〜20重量%であること、 前記ポリエステルモノフィラメントが、モノカルボジイミド化合物0.01〜1.5重量%を含有し、かつカルボキシル末端基濃度が7当量/ポリエステルモノフィラメント106g以下であること、
前記ポリエステルモノフィラメントが、ポリカルボジイミド化合物0.05〜3.0重量%を含有すること、
〔ただし、ポリカルボジイミド化合物は、このポリカルボジイミド化合物中の未反応のカルボジイミド基(D1)と、ポリエステルのカルボキシル末端基および/またはヒドロキシル末端基とが一部反応しているカルボジイミド基(D2)との合計((D1)+(D2))で1分子中に5〜100個のカルボジイミド基を含有するアルキル置換芳香族ポリカルボジイミド化合物である。〕
前記ポリエステルモノフィラメントが、シンジオタクチック構造のポリスチレンを0.5〜10重量%を含有すること、
前記ポリエステルモノフィラメントが含有するフッ素樹脂が、ビニリデンフルオライド・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン3元共重合体およびエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体から選ばれた1種以上であること、
前記ポリエステルモノフィラメントが含有するモノカルボジイミド化合物が、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドであること、
前記ポリエステルモノフィラメントが含有するアルキル置換芳香族ポリカルボジイミド化合物が、カルボジイミド基に対して、フェニル基のオルトの位置がイソプロピル基で置換されたアルキル置換芳香族ポリカルボジイミド化合物であること、
前記ポリエステルモノフィラメントが工業用織物の構成素材であること、
がいずれも好ましい条件であり、これらの条件の少なくとも一つの条件を満たすことによって一層優れた効果の取得を期待することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明のポリエステルモノフィラメントは1本の単糸からなる連続糸である。
【0016】
このポリエステルモノフィラメントの繊維軸方向に垂直な断面の形状(以下、断面形状もしくは断面という)は、円、扁平、正方形、半月状、三角形、5角以上の多角形、多葉状、ドッグボーン状、繭型などいかなる断面形状を有するものでもよい。本発明のポリエステルモノフィラメントを工業用織物の構成素材として用いる場合には、モノフィラメントの断面形状が円もしくは扁平の形状であることが好ましい。特に、モノフィラメントが抄紙用ドライヤーカンバスの経糸である場合には、防汚性を有効に発現させることと、カンバスの平坦性という観点から、モノフィラメントの断面形状が扁平なものが好ましく用いられる。本発明における扁平とは、楕円、正方形もしくは長方形のことであるが、数学的に定義される正確な楕円、正方形もしくは長方形以外に、概ね楕円、正方形もしくは長方形に類似した形状、例えば正方形および長方形の角を丸くした形状を含むものである。また、楕円の場合は、この楕円の中心で直角に交わる長軸の長さ(LD)と短軸の長さ(SD)とが次式を満足する関係にあり、正方形もしくは長方形の場合は、長方形の長辺の長さ(LD)と短辺の長さ(SD)とが次式を満足する関係にあることが好ましい。
【0017】
1.0≦LD/SD≦10
モノフィラメント断面の重心を通る線分の長さは、用途によって適宜選択できるが、0.05〜2.5mmの範囲が好ましい。また、糸の必要強度は用途により異なるが、概ね2cN/dtex以上であることが好ましい。
【0018】
本発明のポリエステルモノフィラメントを構成するポリエステルは、ジカルボン酸成分と、グリコール成分とからなるものである。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらのジカルボン酸成分とグリコール成分とを適宜組み合わせて使用することができる。また、上記のジカルボン酸成分の一部を、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えてもよく、また、上記のグリコール成分の一部を、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えてもよい。更に、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。さらに、ポリエステルとしては、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルも含むものである。
【0019】
これらの内でも、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、グリコール成分の90モル%がエチレングリコールからなる、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)が好適である。
【0020】
ポリエステルの極限粘度は、通常は0.5以上であればよいが、モノフィラメントを工業用織物の構成素材として使用する場合には、0.7以上であることが、強度に優れるため好ましい。ここで、極限粘度とはo−クロロフェノール溶液中25℃で測定した粘度より求めた極限粘度であり、〔η〕で表わされる値である。
【0021】
本発明のポリエステルモノフィラメントを構成するポリエステルには、溶融重縮合に引き続いて固相重縮合を行って高分子量のポリエステルを製造する方法も好ましく採用できる。特に、ポリエステルモノフィラメントを工業用織物の構成素材として使用する場合には、溶融重縮合に引き続いて固相重縮合を行うことが好適である。固相重合を行うことは、ポリエステルの高分子量化と共にカルボキシル末端基(以下、COOH末端基という)濃度を低減できるためにも好適である。
【0022】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、ポリエステル以外の成分としてシリコーンオイルおよびフッ素樹脂を含有し、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)(以下、ESCAという)に基づく分析によりモノフィラメント表面からケイ素およびフッ素が検出され、同時に検出される炭素の原子数を1としたときに、炭素に対するケイ素の原子数比が0.01以上、炭素に対するフッ素の原子数比が0.003以上であることが重要な要件である。
【0023】
本発明のポリエステルモノフィラメントが含有するシリコーンオイルは、室温または高温下で流動性を有するシリコーンオイルであり、公知のシリコーンオイルであればいずれでもよいが、例えばジメチルシロキサンを繰り返し単位からなるジメチルシリコーンオイル類、ジメチルシロキサンの一部がフェニル基で置換されたメチルフェニルシリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルの両末端のメチル基が水酸基で置換された両末端ジオール・ジメチルシリコーンオイル類、ジメチルシロキサンのメチル基の一部が水素原子で置換されたメチルハイドロジェンシリコーンオイル類等のストレートシリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を長鎖アルキル基に置換したアルキル変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を長鎖アルキル基やフェニルアルキル基に置換したアルキル/アラルキル変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を親水性のポリオキシアルキレンで置換したポリエーテル変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を高級脂肪酸エステルに置換した高級脂肪酸変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部をポリフルオロアルキル基に置換したフッ素変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部をアミノアルキル基に置換したアミノ変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部をエポキシ基含有アルキル基に置換したエポキシ変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部をカルボキシル基含有アルキル基に置換したカルボキシル変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を水酸基含有アルキル基に置換したアルコール変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部をメルカプト基含有アルキル基に置換したメルカプト変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を塩素含有アルキル基に置換したクロロ変性シリコーンオイル類、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を塩素含有アルキル基に置換したクロロ変性シリコーンオイル類、長鎖アルキル基、フェニルアルキル基およびポリオキシアルキレンに置換したアルキル・アラルキル・ポリエーテル変性シリコーンオイル類などを挙げることができる。これらの中から1種または複数種を組み合わせて含有することができる。これらの中でも、ジメチルシリコーンオイル類が特に好ましい。ジメチルシリコーンオイル類としては25℃で1、000センチストークス以上の粘度を有するものが好ましい。これらのシリコーンオイル類は、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社およびジーイー東芝シリコーン株式会社から市販されている。
【0024】
本発明のポリエステルモノフィラメントにおけるシリコーンオイルの含有量は任意に設計できるが、0.2〜20重量%の範囲が好ましく、0.5〜15重量%の範囲がより好ましく、0.8〜10重量%の範囲が更に好ましい。0.2重量%より少ないと対ガムピッチ防汚性が不十分であり、20重量%より多いとモノフィラメントの製造が困難になったり、得られるモノフィラメントの引張強度や引掛強度および結節強度が不十分となる傾向が招かれる。
【0025】
本発明のポリエステルモノフィラメントが含有するフッ素樹脂は、分子中にフッ素原子を含有する樹脂であればいずれでもよいが、例えばポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン3元共重合体などを挙げることができる。これらのフッ素樹脂の中から1種または複数種を組み合わせて含有することができる。これらのなかでもビニリデンフルオライド・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン3元共重合体(以下、P(2F・4F・6F)と略称する)およびエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(以下、ETFEと略称する)が、ポリエステルへの分散性とモノフィラメント製造時の製糸性および防汚性とが良好であることから特に好ましい。これらのフッ素樹脂はダイキン工業株式会社および住友スリーエム株式会社等から市販されている。
【0026】
本発明のポリエステルモノフィラメントにおけるフッ素樹脂の含有量は任意に設計できるが0.5〜20重量%の範囲が好ましく、0.8〜15重量%の範囲がより好ましく、1〜12重量%の範囲が更に好ましい。0.5重量%より少ないと対ガムピッチ防汚性が不十分であり、20重量%より多いとモノフィラメントの製造が困難になったり、得られるモノフィラメントの引張強度が不十分となる傾向が招かれる。
【0027】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、ESCAに基づく分析によりモノフィラメント表面からケイ素およびフッ素が検出され、同時に検出される炭素の原子数を1としたときに、炭素に対するケイ素の原子数比が0.01以上、炭素に対するフッ素の原子数比が0.003以上である。
【0028】
なお、ESCAに基づくモノフィラメント表面の元素分析は、島津製作所製ESCA750を使用したX線光電子分光法にて、X線源:Mg Kα1,2、X線出力7kV、30A、光電子の検出角度θ=90°(試料表面に対する検出器の傾き角度)の条件で行った。
【0029】
ESCAによりケイ素およびフッ素と同時に検出される炭素の原子数を1としたときに、炭素に対するケイ素の原子数比が0.01以上で炭素に対するフッ素の原子数比が0.003以上の条件を満足することにより、ポリエステルモノフィラメントが優れたガムピッチに対する防汚性を有するものとなる。この点から炭素1に対するケイ素の原子数比は0.02以上、炭素1に対するフッ素の原子数比は0.006以上であることが更に好ましい。
【0030】
また、本発明のポリエステルモノフィラメント表面から検出される炭素1に対するケイ素原子数比は、本発明のポリエステルモノフィラメントと同一種で同量のシリコーンオイルを含有しているが、フッ素樹脂を含有しないポリエステルモノフィラメント表面から検出される炭素1に対するケイ素の原子数比よりも多く、一方、本発明のポリエステルモノフィラメント表面から検出される炭素1に対するフッ素の原子数比は、本発明のポリエステルモノフィラメントと同一種で同量のフッ素樹脂を含有しているが、シリコーンオイルを含有しないポリエステルモノフィラメント表面から検出される炭素1に対するフッ素の原子数比よりも少ないことが特徴である。
【0031】
この理由については明確ではないが、シリコーンオイルとフッ素樹脂とがポリエステルモノフィラメント中に共存することで、フッ素樹脂またはフッ素樹脂からポリエステル中に溶出したフッ素を含有するオリゴマーの存在によって、ポリエステル中のシリコーンオイルが選択的にモノフィラメント表面に移行したものと考えることができる。この結果として本発明のポリエステルモノフィラメントが従来のシリコーンオイルのみを含有するポリエステルモノフィラメント、またはフッ素樹脂のみを含有するポリエステルモノフィラメントに比べ格別優れた対ガムピッチ防汚性を有するものになるためと推定できる。
【0032】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、モノカルボジイミド化合物0.01〜1.5重量%を含有し、かつCOOH末端基濃度が7当量(以下、eqという)/ポリエステルモノフィラメント106g以下であることが、モノフィラメントが耐加水分解性に優れたものとなることから好適である。
【0033】
本発明のポリエステルモノフィラメントが含有するモノカルボジイミド化合物(以下、MCD化合物と略称する)は、分子中に1個のカルボジイミド基(−N=C=N−)を含有する活性な化合物であり、言い換えればポリエステルモノフィラメント中に添加されたMCD化合物の内、ポリエステルモノフィラメント中に未反応の状態で残存するMCD化合物である。
【0034】
このMCD化合物としてはいずれでもよいが、例えば、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリイルカルボジイミドなどが挙げられる。これらのMCD化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリエステルモノフィラメントに含有させればよいが、ポリエステルに添加後の安定性から、芳香族骨格を有する化合物が有利な傾向にあり、中でもN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミドなどが、特にN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(以下、TICという)が好適である。TICは、市販品である Rhein−Chemie社製の“STABAXOL”(登録商標)Iまたは Raschig AG社製の“Stabilizer”(登録商標)7000などを購入して使用することができる。
【0035】
本発明のポリエステルモノフィラメントが含有するMCD化合物は、ポリエステルの加水分解を促進する触媒作用を有するポリエステル自身のCOOH末端基を反応封鎖して不活性化する作用を有する。
【0036】
ポリエステルのCOOH末端基は、原料由来、重縮合起因、溶融成型時の熱や加水分解、および湿熱雰囲気中で使用中に加水分解等によって発生する。
【0037】
ポリエステルの加水分解を抑制するためには、溶融成形前のポリエステルにMCD化合物を添加して溶融中にMCD化合物とCOOH末端基と反応させてCOOH末端基不活性化すると共に、成形品中にもMCD化合物を含有させて湿熱雰囲気中で使用中に加水分解によって発生するCOOH末端基を不活性化する必要がある。したがって、ポリエステルモノフィラメントの耐用期間を延長する上では、モノフィラメント中にいかに多量のMCD化合物を残存・含有させるかが重要になる。
【0038】
ここで、本発明でいうポリエステルモノフィラメント中のMCD化合物の含有量は次の方法で測定したものである。
(1)100mlメスフラスコに試料約200mgを秤取する。
(2)ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム(容量比1/1)2m lを加えて試料を溶解させる。
(3)試料が溶解したら、クロロホルム8mlを加える。
(4)アセトニトリル/クロロホルム(容量比9/1)を徐々に加えポリマを 析出させながら100mlとする。
(5)試料溶液を目開き0.45μmのディスクフィルターで濾過し、HPL Cで定量分析する。HPLC分析条件は次の通り。
カラム:Inertsil ODS−2 4.6mm×250mm
移動相:アセトニトリル/水(容量比94/6)
流 量:1.5ml/min.
試料量:20μl
検出器:UV(280nm)
【0039】
本発明のポリエステルモノフィラメント中のMCD化合物の含有量が0.01重量%未満であると、耐加水分解性改善効果が不足し、1.5重量%より多いと、モノフィラメントの製造が困難になったり、得られるモノフィラメントの強度が不足したものとなる傾向が招かれる。MCD化合物の含有量が0.03重量%〜1.0重量%であるとより好ましく、0.06〜0.8重量%の範囲であると更に好ましい。
【0040】
本発明のポリエステルモノフィラメントにMCD化合物を0.01〜1.5重量%含有させるには、原料のポリエステルが保有していたCOOH末端基および溶融紡糸時の加熱による加水分解や熱分解で発生したCOOH末端基とを合計した総COOH末端基と、ポリエステル中の水酸末端基を封鎖・不活性化反応し、更に製品ポリエステルモノフィラメント中に0.01〜1.5重量%のMCD化合物が残存含有する量のMCD化合物を、ポリエステルに添加し溶融混練した後、溶融紡糸する方法が有利である。また、MCD化合物と共に、ポリエステルのCOOH末端基および水酸末端基と反応する公知のエポキシド化合物およびオキサゾリン化合物などを併用することもできる。
【0041】
MCD化合物を0.01〜1.5重量%含有する本発明のポリエステルモノフィラメントは、COOH末端基が7eq/モノフィラメント106g以下であり、更に好ましくは5eq/106g以下である。
【0042】
ここで、モノフィラメントのCOOH末端基濃度の測定は次のように行ったものである。
【0043】
<モノフィラメントのCOOH末端基濃度の測定方法>
(1)10ml試験管にポリエステル成分として0.5±0.002gのモノ フィラメントサンプルを秤取する。
(2)o−クレゾール10mlを前記試験管に注入し、100℃で30分間加熱 攪拌しサンプル溶解させる。
(3)試験管の内容液を30mlビーカーに移す(試験管内の残液を3mlの ジクロルメタンで洗浄してビーカーに追加する。
(4)ビーカー内の液温が25℃になるまで放冷する。
(5)0.02NのNaOHメタノール溶液で滴定する。
(6)サンプル無しで前記(1)〜(5)と同様に行い、サンプル滴定に要し た0.02NのNaOHメタノール溶液滴定量からモノフィラメント106 gあたりのCOOH末端基当量を求める。
【0044】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、更にポリカルボジイミド化合物を0.1〜3.0重量部含有するものであることが、耐加水分解性が更にすぐれたものとなるため好ましい。
【0045】
〔ただし、ポリカルボジイミド化合物は、このポリカルボジイミド化合物中の未反応のカルボジイミド基(D1)と、ポリエステルのCOOH末端基および/またはヒドロキシル末端基とが一部反応しているカルボジイミド基(D2)との合計((D1)+(D2))で1分子中に5〜100個のカルボジイミド基を含有するポリカルボジイミド化合物である。〕
【0046】
本発明のポリエステルモノフィラメントが含有するポリカルボジイミド化合物(以下、PCD化合物と略記する)としては、例えば、カルボジイミド基に結合するベンゼン環の2,6−位および/または2,4,6−位にイソプロピル基が置換した構造を繰り返し単位とする芳香族PCD化合物、1,3,5−トリス(1−メチルエチル)−2,4−ジイソシアナトベンゼンから合成される芳香族PCD化合物、1,3,5−トリス(1−メチルエチル)−2,4−ジイソシアナトベンゼンと2,6−ジイソプロピルベンゼンジイソシアネートとの混合体から合成される芳香族PCD化合物、1,3,5−トリス(1−メチルエチル)−2,4−ジイソシアナトベンゼンと1,3,5−トリス(イソプロピル)−2,4−ジイソシアナトベンゼンとの混合体から合成される芳香族PCD化合物、およびポリ[1,1’−ジシクロヘキシルメタン(4,4’−ジイソシアネート)]から合成される脂環式PCD化合物を好ましく挙げることができる。ただし、これに何ら制限されるものではない。
【0047】
これらのPCD化合物の中では、カルボジイミド基に結合するベンゼン環の2,6−位および/または2,4,6−位にイソプロピル基が置換した構造を繰り返し単位とする芳香族PCD化合物が特に好ましい。
【0048】
前記カルボジイミド基に結合するベンゼン環の2,6−位および/または2,4,6−位にイソプロピル基が置換した構造を繰り返し単位とする芳香族PCD化合物は、市販品として、例えば平均分子量約3,000の“STABAXOL”(登録商標)P(Rhein Chemie社製品)、平均分子量約10,000の“STABAXOL”(登録商標)P100(Rhein Chemie社製品)および平均分子量約20,000の“Stabilizer”(登録商標)9000(Raschig AG社製品)を購入して使用することができる。また、前記ポリ[1,1’−ジシクロヘキシルメタン(4,4’−ジイソシアネート)]から合成される脂環式PCD化合物は、市販品として、例えば“CARBODILITE”(登録商標)HMV−8CA(日清紡績株式会社製品)を購入して使用することができる。これらのPCD化合物は予めポリエステルに練り込んだマスターバッチとしても市販されており、例えば前記した平均分子量約10,000の“STABAXOL”(登録商標)P100を15重量%含有するPETマスターバッチである“STABAXOL”(登録商標)KE−7646(Rhein Chemie社製品)および前記した平均分子量約20,000の“Stabilizer”(登録商標)9000を15重量%含有するPETマスターバッチである“Stabilizer”9500(登録商標)(Raschig AG社製品)などが知られている。またPCD化合物とMCD化合物とはお互いに溶解混合して使用することができる。
【0049】
PCD化合物の含有量は0.05〜3.0重量%の範囲である。PCD化合物の含有量が0.05重量%より少ないと、耐加水分解性向上効果が不十分であり、PCD化合物の含有量が3.0重量%を越えると、ポリエステルの溶融粘度が上昇しすぎたり、吐出や成形が困難になる傾向が招かれる。PCD化合物の含有量が0.1〜1.5重量%であると更に好ましい。
【0050】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、シンジオタクチック構造のポリスチレンを0.5〜10重量%を含有するものであることが、耐加水分解性が更に優れたものとなることから好ましい。
【0051】
この理由は、MCD化合物の溶解度が、ポリエステルよりもシンジオタクチック構造のポリスチレン方が圧倒的に高いために、シンジオタクチック構造のポリスチレンを0.5〜10重量%を含有することにより、ポリエステルに添加されたMCD化合物が溶融混練時にシンジオタクチック構造のポリスチレン中により多く溶解し、ポリエステルの水酸末端基とMCD化合物との副反応が抑制され保護されるため、製品ポリエステルモノフィラメント中のMCD化合物の含有量が増加することに起因するものと考えられる。また、シンジオタクチック構造のポリスチレンは、結晶性であり融点が約270℃と高く耐熱性に優れるものであり、モノフィラメントの耐熱性を損なうことがないことから好適である。
【0052】
シンジオタクチック構造のポリスチレンの含有量が0.5重量%未満であると、耐加水分解性向上効果が不十分であり、10重量%より多いと、モノフィラメントの製造が困難になったり得られるモノフィラメントの強度が不足する傾向が招かれる。
【0053】
また、シンジオタクチック構造のポリスチレンに替えて、またはシンジオタクチック構造のポリスチレンに加えて、アイソタクチック構造、アタクチック構造の各種スチレン系ポリマ類(p−メチルスチレン共重合体を含む)、例えば、ポリエチレン類、ポリプロピレン類、ポリメチルペンテン類、エチレンとアクリレート類との共重合体類などのポリオレフィンを含有させることもできる。
【0054】
本発明のポリエステルモノフィラメントの製造は、例えば、所定量のポリエステル、シリコーンオイル、フッ素樹脂および必要に応じてMCD化合物、PCD化合物およびシンジオタクチック構造のポリスチレンなどを溶融混練した後、溶融紡糸することで行うことができる。
【0055】
本発明のポリエステルモノフィラメントの好ましい製造例としては、1軸もしくは2軸エクストルダーのホッパーに、必要量の乾燥したポリエステルペレット、シリコーンオイルを高濃度に含有したポリエステルマスターバッチペレット、フッ素樹脂ペレットまたはフッ素樹脂を高濃度に含有したポリエステルマスターバッチペレットおよび必要に応じてシンジオタクチック構造のポリスチレンペレットを計量供給し、ポリエステルまたはフッ素樹脂のどちらか高い融点以上の温度で溶融混練した後、エクストルダ先端に設けた計量ギアポンプを介して紡糸口金より押し出し、冷却・延伸・熱セットを行うなどの方法を挙げることができる。シリコーンオイルおよびフッ素樹脂は一緒または各々別個に、予め高濃度でポリエステルに含有させたマスターバッチペレットとして供給することができる。
【0056】
MCD化合物を含有させる場合は、例えば、そのものの固体または高濃度マスターバッチとして計量供給しても良いが、融点以上に加熱して溶融させた液体としてエクストルダの入り口、またはエクストルダのバレルの途中から計量供給する方法が好ましい。PCD化合物を含有させる場合は、例えば、単独またはMCD化合物と共に融点以上に加熱して溶融させた液体として添加することもできるが、高濃度でポリエステルに含有させたマスターバッチペレットとして計量供給する方法が好ましい。
【0057】
かくして得られる本発明のポリエステルモノフィラメントは、対ガムピッチ防汚性と更には優れた耐加水分解性とを有するものであることから、各種工業用織物の構成素材として有用なものである。
【0058】
したがって、本発明のポリエステルモノフィラメントを構成素材とする各種工業用織物は、ガムピッチなどの粘着性汚れに対する防汚性が従来のものより優れ、かつ、高湿・高温雰囲気下における加水分解劣化が従来のものより抑制されるものであることから、従来より長期間の使用が可能となり産業用の利用価値の高いものである。
【0059】
本発明における工業用織物とは、本発明のポリエステルモノフィラメントを織物の緯糸および/または経糸の少なくとも一部に使用した各種工業用途に使用される織物のことであり、例えば、抄紙ワイヤー(パルプ漉き揚げ用の織物)、抄紙ドライヤーカンバスなどの抄紙機に装着される織物類、サーマルボンド法不織布熱接着工程用ネットコンベア織物、熱処理炉内搬送用ベルト織物もしくは各種フィルター織物のことである。
【0060】
ここで抄紙ワイヤーとは、平織、二重織および三重織など様々な織物として、紙の漉き上げ工程で使用される織物のことで、長網あるいは丸網などとして用いられるものである。また、抄紙ドライヤーカンンバスとは、平織り、二重織および三重織など様々な織物(相前後する緯糸と緯糸とがスパイラル状の経糸用モノフィラメントによって織継がれたスパイラル状織物を含む)として、抄紙機のドライヤー内で紙を乾燥させるために使用される織物のことである。さらに、不織布の熱接着工程用ベルト織物とは、不織布を構成する低融点のポリエチレンのような熱接着性繊維を融着させるために不織布を炉中に通過させるための織物であり、平織り、二重織、などの織物である。また、熱処理炉内搬送用ベルト織物とは、各種半製品の乾燥、熱硬化、殺菌、加熱調理などのために高温ゾーン内において半製品を搬送する織物のことである。さらにまた、各種フィルターとは、高温の液体、気体、粉体などをろ過する織物のことである。
【0061】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0062】
なお、以下の実施例における特性値は各実施例の中で特に記さない限り、次に示す方法によって測定したものである。
【0063】
<ポリエステルモノフィラメントの対ガムピッチ防汚性評価のための布ガムテープ剥離試験方法(以下、布ガムテープ剥離試験という)>
(1)厚さ150〜250μm、横巾30mm、縦長さ120mmのポリエチレンテレフタレート製2軸延伸フィルムを2枚用意し、各々のフィルムの30mm巾の一端同士を重ならないように合わせて、この合わせ面に、片面に粘着剤の塗布された25mm×25mmサイズの布粘着テープを、前記2枚のフィルムの両端に渡るように貼付することにより、接合部で縦方向に繋ぎ合わされた見かけの縦長さ約240mm、横巾30mmのフィルムを作成する。
(2)前記の2枚が繋ぎ合わされたフィルムの前記布粘着テープの貼付されていない面のどちらか半分(一枚のフィルム)に、横巾10mm、縦長さ120mmの両面粘着テープ(日東電工(株)製品、No.523または同等品)を、前記フィルムと前記両面粘着テープの横巾方向のセンターを合わせて長手方向に揃えて貼付する。
(3)長さ約200mmに切断した繊維試料を、前記両面粘着テープを貼付したフィルムの粘着テープ上に、前記フィルムの長手方向と平行に隙間無く貼付し、前記両面粘着テープの長手方向の両端からはみ出している前記繊維の余端を鋏で切除し、繊維試料貼付フィルムを得る。
(4)平坦な硝子板(厚さ約8mm、縦約250mm、横約80mm)の上に前記繊維試料貼付フィルムを乗せ、繊維貼付面を上向き、かつ繊維面が左側になるようにしてから、横巾10mm、縦長さ150mmに切断した片面に粘着剤が塗布された布粘着テープ(ニチバン(株)製、段ボール包装用強粘着テープ<LS>No.101Nまたは同等品)を、該布粘着テープの長手方向左端を前記繊維試料貼付フィルムの繊維面左端と合わせて、前記繊維上に前記布粘着テープを仮貼付する。次いで、前記繊維面右端に約30mm残っている前記布粘着テープを、前記フィルム面にしっかりと貼付する。
(5)前記繊維貼付フィルムを裏返して、前記(1)で2枚のフィルムを繋ぎ合わせるために貼付した前記布粘着テープを取り除く。
(6)前記繊維貼付フィルムの繊維貼付面を上向きにし、この繊維貼付フィルムを繊維貼付部分が硝子板上に完全に乗るようにセットして、前記繊維の表面に仮貼付されている前記布粘着テープ上に、重量1.43Kg、巾50mm、直径86mmのゴムローラーを、前記布粘着テープを重ねたフィルムの右長手方向から片道走行させ、前記布粘着テープを前記繊維試料に貼付して剥離応力測定用試料を作成する。
(7)前記剥離応力測定用試料の2枚のフィルムの接合部を支点にして、前記布粘着テープの貼付面が内側になるように山折りし、次いで山折りの支点部から繊維上に貼付されている前記布粘着テープを長さ約10mm剥がし、露出した繊維貼付フィルム端部を、引張試験器((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−III−100)の上チャックの中央部にセットし、一方の繊維の貼付されていない前記フィルムの下端(山折りの裾部)を、前記引張試験器の下チャックの中央部にセットして、引張速度100mm/分、チャートスピード100mm/分の条件で剥離応力を測定し、剥離応力の高い山と剥離応力の低い谷とが交互に連なった剥離応力チャートを得る。
(8)得られた剥離応力チャートの最初の剥離応力の高い山から約20mm後の剥離応力の高い山を始点として、一個一個の交互の山と谷各40点の剥離応力を読み取り、その平均値をもって剥離応力とし、この測定をn10で行い、その平均値を布粘着テープ剥離応力とする。
【0064】
布粘着テープ剥離応力が低いほど対ガムピッチ防汚性が優れることを表す。
【0065】
なお、上記した布ガムテープ剥離試験を採用することによって、製織することなく本発明のポリエステルモノフィラメントを構成素材とする織物の対ガムピッチ防汚性を定量的に相対評価することが可能である。
【0066】
<モノフィラメントの耐加水分解性評価>
モノフィラメントを100リットルのオートクレーブに入れ、121℃飽和 水蒸気中で12日間処理した後、処理後のモノフィラメントの強力を下記のモノフィラメントの引張試験により求め、処理前のモノフィラメントの強力と比較した強力保持率を耐加水分解性の尺度とした(以下、蒸熱処理後の強力保持率という)。蒸熱処理後の強力保持率が高いほど耐加水分解性が優れることを表す。
【0067】
<モノフィラメントの引張試験方法>
引張試験器((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−III−100)を使用して測定した。
【0068】
また、実施例中でモノフィラメントの製造に使用した原料は、実施例中で特に記さない限り次のものを使用した。
1.ポリエステルペレット
公知の溶融重縮合と固相重縮合とによって製造した極限粘度0.94、末端カルボキシル基濃度15当量/106gの乾燥したPETペレット(以下、PETペレットと略称する)
2.シリコーンオイル含有PETマスターバッチペレット
ポリジメチルシリコーンオイル(高粘度)を50重量%含有したPETマ スターバッチペレットであるBY27−111(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製品)(以下、SO−PET−MBと略称する)
3.フッ素樹脂 (1)ETEFペレット
“ネオフロン”(登録商標)ETFE EP−521ペレット(ダイ キン工業株式会社製品)
(2)P(2F/4F/6F)ペレット
“ダイニオン”(登録商標)THV500Gペレット(住友スリーエ ム株式会社製品)
4.MCD化合物
TICである“Stabilizer”(登録商標)7000(Raschig AG 社製品)(以 下、S7000と略称する)
5.PCD化合物含有PETマスターバッチペレット
カルボジイミド基に結合するベンゼン環の2,6−位および/または2,4, 6−位にイソプロピル基が置換した構造を繰り返し単位とする芳香族PCD化 合物である、平均分子量約10,000の“STABAXOL”(登録商標)P100を15 重量%含有するPETマスターバッチペレット(以下、PCD−MBという)である “STABAXOL”(登録商標)KE−7646(Rhein Chemie社製品)(以下、KE7646と略称する)
6.シンジオタクチック構造のポリスチレンペレット
シンジオタクチック構造のポリスチレンのペレットである“ザレック”(登 録商標)30A(出光石油化学株式会社製品)(以下、SPSと略称する)
【0069】
〔実施例1〜13、比較実験例1〜3〕
PETペレット、シリコーンオイルを含有するマスターバッチペレットであるSO−PET−MBペレット、フッ素樹脂ペレット、PCD化合物を含有するマスターバッチペレットであるKE7646およびSPSペレットを、表1に記載の量比で計量しながら、1軸エクストルダーのホッパーおよびホッパー下部のポリマ配管を経由して1軸エクストルダーに連続供給した。同時にホッパー下部のポリマ配管中に100℃で加熱溶融したMCD化合物であるS7000を表1に記載した量比で計量しながら連続供給した。
【0070】
1軸エクストルダー内で約282℃で3分間溶融混練した溶融ポリマをギアポンプを経て紡糸パック内の濾過層を通して円形断面糸用紡糸口金より紡出した。紡出モノフィラメントを70℃の湯浴で冷却後、常法にしたがい合計5.0倍に延伸および熱セットを行ない、直径0.43mmの断面形状が円形のポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの組成とESCA分析結果を表1に示し、COOH末端基濃度、布ガムテープ剥離試験結果および蒸熱処理後の強力保持率の評価結果を表2に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
表1および表2から明らかなとおり、本発明のポリエステルモノフィラメントは、従来のものよりも優れた対ガムピッチ防汚性と耐加水分解性を有しており、各種工業用織物の構成素材として好適なものであることがわかる。
【0074】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のポリエステルモノフィラメントは、従来のものより優れた対ガムピッチ防汚性と優れた耐加水分解性とを有しており、抄紙ドライヤーカンバスを代表とする各種工業用織物の構成素材として産業上の利用価値の高いものである。
Claims (9)
- ポリエステル以外の成分としてシリコーンオイルおよびフッ素樹脂を含有するポリエステルモノフィラメントであって、ESCA(Electron Sp−ectroscopy for Chemical Analysis)に基づく分析によりモノフィラメント表面からケイ素およびフッ素が検出され、同時に検出される炭素の原子数を1としたときに、炭素に対するケイ素の原子数比が0.01以上、炭素に対するフッ素の原子数比が0.003以上であることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。
- 前記ポリエステルモノフィラメントが含有するシリコーンオイルの含有量が0.2〜20重量%であり、フッ素樹脂の含有量が0.5〜20重量%であることを特徴とする請求項1記載のポリエステルモノフィラメント。
- 前記ポリエステルモノフィラメントが、モノカルボジイミド化合物0.01〜1.5重量%を含有し、かつカルボキシル末端基濃度が7当量/ポリエステルモノフィラメント106g以下であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステルモノフィラメント。
- 前記ポリエステルモノフィラメントが、ポリカルボジイミド化合物0.05〜3.0重量%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステルモノフィラメント。
〔ただし、ポリカルボジイミド化合物は、このポリカルボジイミド化合物中の未反応のカルボジイミド基(D1)と、ポリエステルのカルボキシル末端基および/またはヒドロキシル末端基とが一部反応しているカルボジイミド基(D2)との合計((D1)+(D2))で1分子中に5〜100個のカルボジイミド基を含有するアルキル置換芳香族ポリカルボジイミド化合物である。〕 - 前記ポリエステルモノフィラメントが、シンジオタクチック構造のポリスチレンを0.5〜10重量%を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステルモノフィラメント。
- 前記ポリエステルモノフィラメントが含有するフッ素樹脂が、ビニリデンフルオライド・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン3元共重合体およびエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエステルモノフィラメント。
- 前記ポリエステルモノフィラメントが含有するモノカルボジイミド化合物が、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のポリエステルモノフィラメント。
- 前記ポリエステルモノフィラメントが含有するアルキル置換芳香族ポリカルボジイミド化合物が、カルボジイミド基に対して、フェニル基のオルトの位置がイソプロピル基で置換されたアルキル置換芳香族ポリカルボジイミド化合物であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項記載のポリエステルモノフィラメント。
- 工業用織物の構成素材であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載のポリエステルモノフィラメント。
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