JP2004298033A - 固定化細胞、強固に固定化された細胞の製造法及びカダベリンの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の課題は、高効率でL−リジン塩とリジン脱炭酸酵素が接触するように、細胞表層にリジン脱炭酸酵素を固定した細胞を作成し、さらにこれをκ−カラギーナンゲルにより包括固定化した細胞を、L−リジン塩水溶液と反応させることにより解決する。さらには、包括固定化後にも培養した固定化後培養細胞を用いたり、反応途中に再度ビタミンB6を添加して反応させることにより、より高効率、高収率でカダベリンを生産することができる。
【選択図】なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、タンパク質を細胞表層に提示した細胞をゲル状高分子で包括固定化した固定化細胞と、リジン脱炭酸酵素表層提示細胞の固定化細胞を用いたカダベリンの製造法に関するものである。カダベリンは医薬中間体などの合成原料や樹脂原材料として期待され、需要が高まりつつある。
【0002】
【従来の技術】
従来、リジンを微量のテトラリン過酸化物を含むシクロヘキサノール中で煮沸することによりカダベリンが得られることが知られている(非特許文献1)。しかしながら大量のエネルギー及び有機溶媒が必要である上に、生成効率が非常に低い(36%)。また、この方法によって得られるカダベリンには不純物として、トリ−n−ブチルアミンや2,3,4,5−テトラヒドロピリジンといった塩基性化合物が含有されている。
【0003】
また、カダベリンは生体内に普遍的に存在する生体アミンであり、その生合成系が解明されつつある(非特許文献2)。植物に微生物由来のリジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子を導入すると、カダベリンの蓄積量が増加することが知られている(非特許文献3)。また、大腸菌由来の至適pHの異なるリジン脱炭酸酵素遺伝子が知られている(非特許文献4, 5)。しかしながら、カダベリンの製造について実際的な製造技術は確立されておらず、効率よく、穏和な条件下でカダベリンを製造する方法の開発が望まれている。
【0004】
一方、細胞表面にタンパク質を局在化させる研究は、多くの細菌において行われている。大腸菌、枯草菌などについて細胞表面にタンパク質を局在化させる研究が活発に行われている(非特許文献6,7)。更に、特許文献1にはリパーゼを酵母の表層に局在化させた細胞が固定化される方法が記載されている。一方、細胞をカラギーナンで固定化する方法が非特許文献9に記載されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−290078号公報
【非特許文献1】
須山正、金尾清造著、アミノ酸の脱炭酸(第4報)、「薬学雑誌」、1965年、第85巻、 p.531−533
【非特許文献2】
セリア・ホワイト・テイバー(Celia white tabor), ハーバート・テイバー(Herbert tabor)著, 「マイクロバイオロジカル レビューズ(Microbiological Reviews)」, 1985年, 第49巻, p.81−99
【非特許文献3】
ロウター・F・フェッケル(Lothar F.Fecher), クリスチアーネ・ルーゲンハーゲン(Christiane Rugenhagen), ヨッケン・ベルリン(Jochen Berlin), 「プラントモレキュラーバイオロジー(Plant Molecular Biology)」, 1993年, 第23巻, p.11−21
【非特許文献4】
シ・ヤンメン(Shi−yuanmeng), ジョージ・M・メネット(George M. Mennett), 「ジャーナルオブバイオテクノロジー(Journal of bacteriology)」, 1997年, 第174巻, p.2659− 2669
【非特許文献5】
ヨシミ・キクチ(Yoshimi kikuchi), ヒロユキ・コジマ(Hiroyuki kojima), タカシ・タナカ(Takashi tanaka), ユミコ・タカツカ(Yumiko takatsuka), ヨシユキ・カミオ(Yoshiyuki kamio), 「ジャーナルオブバイオテクノロジー(Journal of Bacteriology)」, 1997年, 第179巻, p.4486− 4492
【非特許文献6】
ジョージ・ジョルジュ(George Georgiou), ヘザー・L・ポエッツケ(Heather L.Poetschke), クリストス・スタトポウロス(Chrisstos Stathopoulos), ヨゼフ・A・フランシスコ(Joseph A. Francisco), 1993年, 第11巻, 「ティブテック(TIBTECH)」, p.6−10
【非特許文献7】
イスティカート・R(Isticato R), キャンジアーノ・G(Cangiano G), トラン・H・T(Tran HT), チアバッティーニ・A(Ciabattini A), メダグリーニ・D(Medaglini D), オッジオーニ・M・R(Oggioni MR), ドゥ・フェリス・M(De Felice M), ポッジ・G(Pozzi G), リッカ・E(Ricca E), 「バクテリオロジー(Bacteriol)」, 2001年, 第21巻, 第183号, p.6294−6301
【非特許文献8】
田中渥夫, 土佐哲也, 松野隆一著, 「生物化学実験法(第28巻)バイオリアクター実験入門」, 第1版, 学会出版センター, 1992年10月25日, p.22−24
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、種々の有用物質の生産などに利用可能なタンパク質を表層に局在化させた固定化細胞の提供、及び固定化した細胞による高効率且つ高収率で、エネルギー消費が少なく、有機溶媒を必要としない長期間安定したカダベリンの工業的製造方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するために、本発明者らは更に生産性が高く、長期間安定したカダベリンの製造方法について鋭意研究を行った結果、高効率でL−リジン塩とリジン脱炭酸酵素が接触するように、細胞表層にリジン脱炭酸酵素を固定した細胞を作成し、さらにこれをκ−カラギーナンゲルによって包括固定化した細胞を用いてL−リジン溶液と反応させると、反応液中のカダベリンの蓄積濃度、反応収率が向上することを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明はリジン脱炭酸酵素が細胞表層に局在化した細胞をκ−カラギーナンゲル中に包括固定化する方法と、これによる固定化細胞をL−リジン溶液と反応させてカダベリンを蓄積せしめ、前記反応液よりカダベリンを回収することを特徴とするカダベリンの製造方法である。
【0008】
すなわち本発明は、「タンパク質が細胞表層に局在化した細菌を包括固定化した固定化細胞」、「細胞表層にリジン脱炭酸酵素が局在化した細胞を包括固定化した固定化細胞」、「包括固定化した後に培地中で培養操作を加えることにより強固に固定化された細胞の製造方法」、及び「前記の固定化細胞を用いることを特徴とするカダベリンの製造方法。」に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
細胞で作られるタンパク質には大きく分けて、細胞質内で機能するもの、細胞膜・細胞壁表層に固定されて機能するもの、細胞外に分泌されて機能するもの3種類があるが、本発明で細胞の表層に局在化させるタンパク質は、通常細胞膜・細胞壁表層にあるものではなく、細胞質内もしくは細胞外に分泌されて機能するものとする。
【0010】
リジン脱炭酸酵素は、L−リジンをカダベリンに転換させる酵素であり、エシェリシア コリー K12(Echerichia coli K12)株をはじめとするエシェリシア属微生物のみならず、多くの生物に存在することが知られている。本発明において使用されるリジン脱炭酸酵素は、細胞表層に提示され得るものであれば、特に制限はない。
【0011】
細胞質内または細胞外に分泌されるタンパク質を細胞表層に局在的に発現させる方法としては、分泌シグナルの一部、細胞表面局在タンパク質の一部をコードする遺伝子配列、及び目的提示タンパク質の構造遺伝子配列をこの順で有するDNAを、タンパク質を局在化させる細胞に導入すればよい。例えば、細胞表層までの分泌シグナルとなるリポプロテイン(以下Lpp)、細胞表層への固定の役割を果たす細胞表面局在タンパク質となる外膜結合(膜貫通型)タンパク質(以下OmpA、アンカータンパク質の一種)をコードする配列の途中から、細胞表層に提示したいタンパク質をコードする配列が接続してる遺伝子をベクターに組み込み、これを細胞に保持させることによりその細胞は表層に目的タンパク質を発現する。目的タンパク質はどのようなタンパク質でも良い。例えばリジン脱炭酸酵素CadAである。
【0012】
分泌シグナル配列の一部に特に制限はない。宿主においてタンパク質を分泌するために必要な配列であればよい。大腸菌においては、例えばLppをコードする配列の一部であり、具体的には、アミノ酸配列としてMetLysAlaThrLysLeuValLeuGlyAlaValIleLeuGlySerThrLeuLeuAlaGlyCysSerSerAsnAlaLysIleAspGln(配列番号:1)と翻訳される遺伝子配列であることが好ましい。
【0013】
細胞表面局在タンパク質の一部に特に制限はない。大腸菌においては、例えば外膜結合タンパク質OmpAの配列の一部であり、具体的には、OmpAの46番目のアミノ酸から159番目のアミノ酸までの配列の一部であることが好ましい。
【0014】
目的タンパク質、リポプロテインlpp遺伝子及びompA遺伝子をクローニングする方法に特に制限はない。既知の遺伝子情報に基づき、PCR(polymerase chain reaction)法を用いて必要な遺伝子領域を増幅取得する方法、既知の遺伝子情報に基づきゲノムライブラリーやcDNAライブラリーより相同性や酵素活性を指標としてクローニングする方法などが挙げられる。本発明においては、これらの遺伝子は、遺伝的多型性などによる変異型も含む。なお、遺伝的多型性とは、遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているものをいう。例えばエシェリシア コリー(Escherichia coli) K12株の染色体DNAよりPCR法を用いてL−リジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子であるcadAまたはldc遺伝子をクローニングする。
【0015】
目的タンパク質が細胞表面に局在化されていることの確認は、例えばL−リジン脱炭酸酵素を細胞表層に局在化させた場合、L−リジン脱炭酸酵素を抗原として作製した抗体により、細胞表面発現細胞を免疫反応後、包埋、薄切りし、電子顕微鏡(免疫電顕法)により観察することで確認できる。
【0016】
タンパク質を細胞表層に局在化した細胞とは、少なくとも目的タンパク質が細胞表面に局在化している状態であり、細胞内に同時に該タンパク質が存在していてもよい。
【0017】
細胞表層にリジン脱炭酸酵素を局在化させる細胞としては、微生物由来のものが好ましく使用できる。特に細菌が好ましく、さらに大腸菌、枯草菌由来のものが好ましい。
【0018】
発明では、ゲル状高分子などでの包括固定化対象として細胞表層にリジン脱炭酸酵素が提示された細胞などを用いるが、細胞表層にリジン脱炭酸酵素が提示された細胞における酵素活性をさらに上昇させる方法に特に制限はない。具体的には例えば、酵素の構造遺伝子自体に変異を導入して、酵素そのものの比活性を上昇させる方法などが挙げられる。
【0019】
遺伝子に変異を生じさせるには、部位特異的変異法(クレイマーW (Kramer W)、フィタHJ(fita HJ)、メソッドインエンザイモロジー(method in Enzymology), 1989年, 第154巻, P.350)、リコンビナントPCR法(PCRテクノロジー(PCR Technology), ストックトン プレス(Stockton Press)、1989年)、特定の部分のDNAを化学合成する方法、または当該遺伝子をヒドロキシアミン処理する方法や、当該遺伝子を保有する菌株を紫外線照射処理、もしくはニトロソグアニジンや亜硝酸などの化学薬剤で処理する方法がある。
【0020】
また、表層に局在化させるタンパク質は一種類ではなく数種類を組み合わせてもよい。
【0021】
タンパク質としては酵素が好ましく、中でもL−リジン脱炭酸酵素が好ましく、エシェリシア属由来であることが特に好ましい。
【0022】
表層にリジン脱炭酸酵素を提示した細胞を包括固定化するためのゲル状高分子としては、大腸菌の生育限界である42℃以上で凝固しないものであればよい。ゲル状高分子としては、アクリルアミドゲル、カラギーナンゲル等がある。好ましくは、多糖カラギーナンから構成されるカラギーナンゲルである。
【0023】
カラギーナンゲル中のカラギーナン濃度については、42℃以上で凝固せず、振動を与えても崩壊しない程度の強度があればよいが、通常1.5〜2.5重量%である。好ましくは2%である。
【0024】
カラギーナンの種類は特に制限はないが、望ましくはκ−カラギーナンゲルである。
【0025】
カラギーナンと細胞懸濁液の混合時の温度は、用いる細胞の生育限界温度以下であれば特に制限はないが、大腸菌の場合は42℃以下である。望ましくは40℃である。
【0026】
カラギーナンにより細胞を包括固定化する際に、補酵素ビタミンB6水溶液を添加することができる。添加するピリドキサルリン酸濃度はゲル中での最終濃度が10 mM以下であることが望ましい。
【0027】
固定化細胞を、その固定化されている細胞に適した培地を用いて培養することにより、ゲル中の細胞がより強固に固定化され、固定化される細胞数も増加した固定化細胞を得ることができる。培養には、例えばリジン脱炭酸酵素表層提示大腸菌については通常のLB培地に、100 μg/mlアンピシリンを添加したものを用いる。
【0028】
固定化細胞を更に培養する際、培養日数は特に制限はないが17h〜20hが望ましい。
【0029】
L−リジン脱炭酸酵素によるL−リジン塩水溶液からカダベリンへの変換は、上記のようにして得られるL−リジン脱炭酸酵素表層提示細胞、もしくはそのκ−カラギーナンにより包括固定化した細胞をL−リジン塩水溶液に接触させることによって行うことができる。
【0030】
反応液中のL−リジン塩酸塩の濃度については、特に制限はない。通常の飽和濃度では酵素活性は不活性化されない。
【0031】
反応に用いられるL−リジン塩に特に制限はなく、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、アジピン酸塩、又はコハク酸塩等が用いられる。特に塩酸塩、アジピン酸塩、又はコハク酸塩が好ましい。更に好ましくは一塩酸塩である。
【0032】
リジン脱炭酸酵素表層提示細胞の固定化細胞の量は、L−リジンからカダベリンへの変換反応を触媒するのに十分な量であればよい。
【0033】
反応温度は、通常、28〜55℃、好ましくは30℃前後である。
【0034】
反応pHは、通常、5〜8,好ましくは、約6である。カダベリンが生成するにつれ、反応溶液はアルカリ性へ変わるので、反応pHを維持するために無機あるいは有機の酸性物質を添加することが好ましい。好ましくは塩酸を使用することが出来る。
【0035】
反応には静置又は攪拌のいずれの方法も採用し得る。
【0036】
反応時間は、使用する固定化細胞の活性、基質濃度などの条件によって異なるが、通常1〜200時間である。また、反応は、L−リジン塩を供給しながら連続的に行っても良い。
【0037】
ビタミンB6には、ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサール及びそのリン酸誘導体であるピリドキサルリン酸があり、どの誘導体でも採用し得る。生体内で補酵素として働く際には、酵素によりリン酸修飾されたピリドキサルリン酸が働くことから、好ましくはピリドキサルリン酸である。
【0038】
ビタミンB6は通常反応開始時に反応液に添加するが、反応途中に再度添加してもよい。また、細胞を固定化する際に、細胞懸濁液と共に添加し、ゲル中に細胞とともに固定化しても良い。いずれの場合も、ろ過滅菌した溶液を添加するのが望ましい。
【0039】
リジン脱炭酸反応へのビタミンB6の添加量は、反応開始時に添加する場合、反応途中に添加する場合、または細胞固定化時に添加する場合のいずれの場合も特に制限はないが、好ましくは最終濃度10 mM以下である。
【0040】
このように生成したカダベリンを反応終了後、反応液から採取する方法としては、イオン交換樹脂を用いる方法や沈殿剤を用いる方法、極性有機溶媒で抽出する方法、その他通常の採取分離方法が採用し得る。
【0041】
また、L−リジン脱炭酸酵素表層提示細胞を作用させた後、L−リジン塩が仕込み濃度の20%以下にまでなった反応液からカダベリンを単離する事により、高精製収率でカダベリンが単離できる。20%以下にまでなったことを確認する手段には特に制限はない。好ましくはHPLC法によって確認することができる。さらに好ましくはpHの変化を経時的に測定し、L−リジン塩の濃度と関連づけて反応の終点を確認する方法が採用できる。
【0042】
さらに一般的に酵素反応では基質阻害、生成物阻害が起こるため基質を高濃度にすればするほど反応速度及び反応収率が低下することが知られている。しかしながら、本発明においては、反応液に仕込むL−リジン塩の濃度(基質)は0.1M以上と一般的な酵素反応より高濃度の基質であることが好ましい。さらに、仕込むL−リジン塩濃度が高濃度であっても得られる高濃度の生成物(カダベリン)阻害がなく、より高生産速度かつ高反応収率でカダベリンが得られるため、飽和L−リジン塩水溶液(例えば25℃における飽和L−リジン濃度は約2.8 M)が好ましくさらに好ましくは過飽和L−リジン塩水溶液である。
【0043】
固定化細胞を回収する方法としてはビーズ状の固定化細胞よりも孔の小さい膜を用いるろ過法など、通常の固液分離方法が採用し得る。
【0044】
【実施例】
実施例1
(1)L−リジン脱炭酸酵素の細胞表層発現ベクターの作製
まず、リポプロテインの配列の一部及び外膜結合タンパク質(OmpA)の46番目のアミノ酸から159番目のアミノ酸までの配列を一つのカセットとしてクローニングした。
【0045】
データベース(GenBank)に登録されている外膜結合タンパク質(ompA)(Accession No. NC−000913)の塩基配列を参考にオリゴヌクレオチドプライマー5’−acaaagcttatgaaagctagtaaagtcc−3’(配列番号:2)、5’−atagtcgacgttgtccggacgactgccg−3’(配列番号:3)、5’−ataaagcttatgaaagctactaaactggtactgggcgcggtaatcctgggttctactctgctggcaggttgctccagcaacgctaaaatcgatcagaacccgta−3’(配列番号:4)を合成した。エシェリシア コリー(Escherichia coli) K12株(ATCC 10798)から常法に従い調製したゲノムDNAの溶液を増幅鋳型として(配列番号:2)(配列番号:3)(配列番号:4)で表されるDNAをプライマーセットとしたPCR法を行った。このPCRにより得られた産物を2%アガロースにて電気泳動し、ompA遺伝子を含む約0.4 kbのDNA断片を常法に従い調製した。この断片を、プラスミドベクターpT7blue(Novagen社製)のEcoRV部位の3’−末端にT塩基が付加された間隙に、常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpTM7と命名した。
【0046】
このpTM7をHindIII、及びSalIで消化し、得られた約0.4kbのHindIII−SalI断片を、予めHindIII、SalIで消化しておいたpUC19(宝酒造製)のHindIII/SalI間隙に常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpTM14と命名した。
【0047】
次に、エシェリシア コリー(Escherichia coli) K12株(ATCC 10798)のL−リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)(Accession No. M76411)の塩基配列を参考にオリゴヌクレオチドプライマー5’−tatgtcgacatgaacgttattgcaatat−3’(配列番号:5)、5’−gggagctcttattttttgctttcttcttt−3’(配列番号:6)を合成した。E.coli K12株(ATCC 10798)から常法に従い調製したゲノムDNAの溶液を増幅鋳型として(配列番号:5)(配列番号:6)をプライマーセットとしたPCR法を行った。
【0048】
このPCR法により得られた産物を1%アガロースにて電気泳動し、cadA遺伝子を含む約2.1kbのDNA断片を常法に従い調製した。この断片を、プラスミドベクターpT7blue(Novagen社製)のEcoRV部位の3’−末端にT塩基が付加された間隙に、常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpTM15と命名した。
【0049】
これら調製したpTM15をSal I及びSac Iで消化し、得られた約2.1kbのSal I断片を、予めSal I、及び、Sac Iで消化しておいたpTM14のSal I/Sac I間隙に常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpTM16と命名した。
【0050】
(2)L−リジン脱炭酸酵素が細胞表面に局在化した細胞の調製
このプラスミドを導入した大腸菌を培養することで、L−リジン脱炭酸酵素が細胞表層に提示され、その大腸菌を回収するだけでL−リジン脱炭酸酵素を調製することができるようになる。
【0051】
作製したpTM16をエシェリシア コリー(Escherichia coli) JM109株に導入した。導入後、組換え大腸菌の選択は抗生物質であるアンチピリン耐性を指標に行い、得られた形質転換体をJM109/pTM16と命名した。
【0052】
E.coli JM109株及びJM109/pTM16の培養は以下のように行った。まず、これらの菌株を各々LB培地5mlに1白金耳植菌し、30℃で16時間振とうして前培養を行った。次に、LB培地40mlを500mlの坂口フラスコに入れ、予め121℃、20分間蒸気滅菌した。この培地に、前培養した上記菌株を植継ぎ、100 μg/mlアンピシリンナトリウム(和光純薬社製)を添加し振幅30cmで180rpmの条件下で3時間培養した後に、1mM イソプロピルーチオーベーターDーガラクトシド(IPTG、isopropyl−1−thio−b−D−galactoside)添加し、更に4時間培養した。回収した菌体は0.85 %生理食塩水で洗浄して下記のゲル化固定に用いた。
【0053】
(3)カラギーナンゲル固定化細胞の作製
2 % κ−カラギーナン(和光純薬社製)水溶液8 mlを100℃で加熱し、完全に溶解させた後冷却し、ゲル温度が大腸菌の生存限界である42℃以下まで下がり、ゲル化が始まる直前に上記の菌体懸濁液2.56 mlを添加、攪拌し、2 % KCl溶液中に滴下してビーズ状の固定化細胞を作製した。調製した固定化細胞は0.85%生理食塩水10 mlで3回洗浄した後下記の反応に用いた。
【0054】
(4)L−リジン塩及びL−リジンの濃度、及びカダベリン濃度のHPLCによる分析方法
HPLC分析諸条件
使用カラム:CAPCELL PAK C18 (資生堂)
移動相:0.1 % (w/w)H3PO4 : アセトニトリル(和光純薬社製)= 4.5 : 5.5
検出:UV 366 nm
サンプル前処理:分析サンプル25 μlに内標として0.03 M 1,4−ジアミノブタン(東京化成工業製)を25 μl、0.075 M 炭酸水素ナトリウム(シグマアルドリッチジャパン製)を150 μl及び0.2 M 2,4−ジニトロフルオロベンゼン(和光純薬社製)のエタノール(和光純薬社製)溶液400 μlを添加混合し、37℃で1時間保温する。上記反応溶液50 μlを1 mlアセトニトリルに溶解後、10,000 rpmで5分間遠心した後の10 μlをHPLC分析した。今後の実施例のHPLC分析においては特に記載のない限り、上記の方法で行った。
【0055】
(5)固定化細胞とL−リジン塩酸塩溶液との反応
L−リジン脱炭酸酵素細胞表層提示細胞について、κ−カラギーナン固定化細胞と、コントロールとしてJM109/pTM16の非固定化細胞を、1.35 M L−リジン塩酸塩水溶液(1.35 M L−リジン一塩酸塩(和光純薬社製)、0.05 mM ピリドキサルリン酸(東京化成工業製)) 100mlと反応させ、30℃で150時間反応させた。反応中、HPLCで反応液中の経時的にカダベリン濃度を測定した。その結果を図2に示す。
【0056】
この結果、κ−カラギーナン固定化したリジン脱炭酸酵素表層提示大腸菌ではκ−カラギーナンで固定化していないリジン脱炭酸酵素表層提示大腸菌よりも活性が高いことが認められた。
【0057】
実施例2
固定化後培養したJM109/pTM16固定化細胞
実施例1と同様に、κ−カラギーナン固定化したJM109/pTM16固定化細胞を、予め500mlの坂口フラスコに入れて121℃、20分間蒸気滅菌したLB培地40mlに入れ、振幅30cmで180rpmの条件下で17時間培養した。回収した固定化細胞は0.85 %生理食塩水10 mlで3回洗浄して下記の反応に用いた。
【0058】
固定化後培養したJM109/pTM16固定化細胞と、コントロールとして固定化後培養をしないJM109/pTM16固定化細胞を、1.35 M L−リジン塩酸塩水溶液(1.35 M L−リジン一塩酸塩、0.05 mM ピリドキサル−5’−リン酸) 100 mlと反応させ、30℃で150時間反応させた。反応中、HPLCで両者の反応液中の経時的にカダベリン濃度を測定した。その結果を図3に示す。
【0059】
実施例3
固定化の際にビタミンB6を添加して調製した固定化細胞
実施例1と同様にJM109/pTM16をκ−カラギーナンゲルで固定化する際、菌体懸濁液2.56 mlと共に5 mM ピリドキサル−5’−リン酸 0.106 mlを添加した固定化細胞を作製した。調製した固定化細胞は0.85%生理食塩水10 mlで3回洗浄して下記の反応に用いた。
【0060】
ピリドキサル−5’−リン酸を調製時に添加した固定化細胞を、1.35 M L−リジン塩酸塩水溶液(1.35 M L−リジン一塩酸塩、5 mM ピリドキサル−5’−リン酸) 100 mlと反応させ、30℃で150時間反応させた。コントロールとして、実施例1のJM109/pTM16固定化細胞を同様に反応させた。反応中、HPLCで反応液中の経時的にカダベリン濃度を測定した。JM109/pTM16のその結果を図4に示す。
【0061】
実施例4
反応時にビタミンB6を途中添加して反応させた固定化細胞
実施例1と同様にJM109/pTM16をκ−カラギーナンゲルで固定化した調製した固定化細胞は0.85%生理食塩水10 mlで3回洗浄して下記の反応に用いた。
【0062】
1.35 M L−リジン塩酸塩水溶液(1.35 M L−リジン一塩酸塩、0.05 mM ピリドキサル−5’−リン酸) 100 mlと反応させ、30℃で150時間反応させ、反応開始から73時間後に、5 mM ピリドキサル−5’−リン酸 1mlを再度添加した。コントロールとして、同様に調製したJM109/pTM16固定化細胞を途中でビタミンB6を添加せずに反応させた。反応中、HPLCで反応液中の経時的にカダベリン濃度を測定した。その結果を図4に示す。
【0063】
以上の結果より、固定化後再度培養した固定化後培養細胞、反応開始後ビタミンB6を添加する方法では、通常の固定化細胞の反応に比べて著しく1,5−PD生成量が増加していることが認められた。
【0064】
【発明の効果】
本発明によれば、高効率、高収率でエネルギー消費が少なく、有機溶媒を必要としないカダベリンの製造方法が提供される。更に、使用する細胞をカラギーナンで固定化することにより、より高い活性が得られ、長期的に安定な触媒として用いることが出来る。また、ゲルで固化した固定化細胞は、固定化していない細胞に比べて回収が容易で繰り返し利用事が可能であることから、リジン脱炭酸酵素を再度調製する必要がなくなり、コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】L−リジン脱炭酸酵素細胞表面発現ベクターpTM16のフィジカルマップを示す図である。
【図2】実施例1におけるJM109/pTM16のκカラギーナン固定化細胞と非固定化細胞の1,5−PD生成能の比較を示す図である。
【図3】実施例2における固定化後培養細胞と、固定化後非培養細胞の1,5−PD生成能の比較を示す図である。
【図4】実施例3及び4におけるビタミンB6を固定化時に添加したもの、反応途中で添加したもの、及びコントロールのカダベリン生産量の比較を示す図である。
【配列表】
Claims (18)
- タンパク質が細胞表層に局在化した細菌の細胞を、包括固定化した固定化細胞。
- タンパク質が酵素であることを特徴とする請求項1に記載の固定化細胞。
- 酵素がL−リジン脱炭酸酵素であることを特徴とする請求項2に記載の固定化細胞。
- L−リジン脱炭酸酵素が細胞表層に局在化した細胞を、包括固定化した固定化細胞。
- L−リジン脱炭酸酵素が、エシェリシア(Escherichia)属由来であることを特徴とする請求項3又は4に記載の固定化細胞。
- 細胞が、細菌由来である請求項4又は5に記載の固定化細胞。
- 細菌が、大腸菌又は枯草菌である請求項1,2,3,又は6に記載の固定化細胞。
- 包括固定化の方法がゲル状高分子で包括固定化する方法である請求項1から7のいずれかに記載の固定化細胞。
- ゲル状高分子が、カラギーナンゲルであることを特徴とする請求項8に記載の固定化細胞。
- 請求項1から9のいずれかの固定化細胞を培地中で培養操作を加えることを特徴とする強固に固定化された細胞の製造法。
- L−リジン塩水溶液に、請求項3から9のいずれかに記載の固定化細胞、または請求項10に記載の細胞の製造法により得られる固定化細胞を作用させて、反応液からカダベリンを単離する事を特徴とするカダベリンの製造方法。
- L−リジン塩が、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、アジピン酸塩、またはコハク酸塩のいずれかであることを特徴とする請求項11に記載のカダベリンの製造方法。
- L−リジン塩が、一塩酸塩、アジピン酸塩、またはコハク酸塩のいずれかであることを特徴とする請求項12記載のカダベリンの製造方法。
- ビタミンB6を反応開始時に添加することを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載のカダベリンの製造方法。
- ビタミンB6を、反応途中に添加することを特徴とする請求14に記載のカダベリンの製造方法。
- ビタミンB6を、固定化細胞調整時に添加することを特徴とする請求項14に記載のカダベリンの製造方法。
- ビタミンB6が、ピリドキサルリン酸であることを特徴とする請求項14から16のいずれかに記載のカダベリンの製造方法。
- L−リジン脱炭酸酵素の固定化細胞表層提示細胞を作用させた後、L−リジン塩の濃度が仕込み濃度の20%以下になった反応液からカダベリンを単離する事を特徴とする請求項11から17のいずれかに記載のカダベリンの製造方法。
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