JP2004292864A - アルミニウム複合材の熱処理方法 - Google Patents

アルミニウム複合材の熱処理方法 Download PDF

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Hisanori Harada
尚紀 原田
Kiyoshi Arai
▲澂▼ 荒井
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Kurimoto Ltd
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Abstract

【課題】Al−Si−Mg系アルミニウム合金に硬質粒子を複合させたアルミニウム複合材の伸びを向上させることである。
【解決手段】Al−Si−Mg系アルミニウム合金に硬質のSiC粒子を複合させたアルミニウム複合材を熱処理する際に、容体化処理温度から時効処理温度への冷却を油冷として冷却速度を緩やかにする(実施例3〜6)か、または容体化処理を2段階処理として処理時間を短くする(実施例7)ことにより、時効処理過程において伸びの阻害因子となる硬質な金属間化合物であるMgSiの析出量を減少させ、通常の熱処理を行った場合(比較例1,2)に比べて伸びを大幅に向上させたのである。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、Al−Si−Mg系アルミニウム合金に硬質粒子を複合させたアルミニウム複合材の熱処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Al−Si−Mg系アルミニウム合金は、鋼に比べて軽量なうえ、熱処理により強度や伸びも機械構造部品に必要な水準に調整できるため、車両用部材や航空機用部材等の素材として広く使用されている。しかし、最近では、このようなアルミニウム合金を使用した部材の中でも、特に他の部材との摺動部を有するものについては、交換周期の延長を図るため、耐摩耗性の向上が求められている。
【0003】
このような軽量部材の耐摩耗性を向上させるための手段の一つとして、その素材を、アルミニウム合金中にSiC等の高硬度の粒子を均一に分散させたアルミニウム複合材に変更することが考えられる。しかしながら、このアルミニウム複合材は、母材中に分散する硬質粒子にほとんど弾性がないため、通常の熱処理を行っても伸びが低いものとなることは避けられない。
【0004】
例えば、Siを8〜10wt%、Mgを0.3〜0.6wt%含有するAl−Si−Mg系アルミニウム合金(JIS:AC4A)は、約525℃×約10時間の容体化処理後に約160℃×約9時間の時効処理を行うことにより、約3%の伸びが得られる(例えば、非特許文献1参照。)が、同じ組成のアルミニウム合金に20vol%のSiCを複合させたアルミニウム複合材では、同じ熱処理を行っても、伸びがほぼ0%となってしまう。
【0005】
【非特許文献1】
「アルミニウムの組織と性質」軽金属学会、1991年、p.518−521
【0006】
従って、硬質粒子を複合させたアルミニウム複合材は、耐摩耗性には優れるが、ある程度伸びが必要とされる用途には使用できないのが現状であった。
【0007】
例えば、図1に示す鉄道車両用のブレーキディスク1では、ブレーキ作動時にブレーキパッド4と摺動して入熱される外周部と、車輪3の回転により常に冷却されている内周側ボルト締付部との間に熱膨張差が生じ、この熱膨張差を十分に吸収できるだけの伸びが要求される。従って、このブレーキディスク1の素材として硬質粒子を複合させたアルミニウム複合材を使用すれば、ボルト締付部に熱亀裂が発生して割れてしまうおそれがある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、この発明の課題は、Al−Si−Mg系アルミニウム合金に硬質粒子を複合させたアルミニウム複合材の伸びを向上させることである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、この発明は、アルミニウム複合材を熱処理する際に、伸びの阻害因子となる硬質な金属間化合物であるMgSiの析出量を抑えるようにしたのである。
【0010】
MgSiの析出量を抑えるための具体的な手段としては、容体化処理後に人工時効処理を行う熱処理方法において、前記容体化処理の保持温度から前記時効処理の保持温度への冷却を油冷とする方法を採用することができる。
【0011】
すなわち、容体化処理温度から時効処理温度への冷却を従来の水冷から油冷に変更することにより、冷却速度を緩やかにし、冷却後に過飽和に固溶されるMgおよびSiの量を少なくして、時効処理過程におけるMgSiの析出量を減少させたのである。
【0012】
また、別の具体的な手段として、前記容体化処理を、550〜560℃で1〜3時間保持する1次容体化処理と、530〜540℃で3〜5時間保持する2次容体化処理とに分けて行う方法を採用することもできる。
【0013】
すなわち、容体化処理を従来の1段階処理から2段階処理に変更することにより、容体化処理全体の時間を短くし、時効処理温度への冷却開始前のMgおよびSiの固溶量を少なくするようにしても、時効処理でのMgSiの析出量を減少させることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき、この発明の実施形態を説明する。図1は、この実施形態の熱処理の対象となる鉄道車両用ブレーキディスク1を示す。このブレーキディスク1は、中央の取付孔1aの周縁に複数のボルト孔1bを有する円盤状に形成されており、鉄道車両の車軸2の外径に嵌め込まれて車輪3にボルト締めされた状態で使用され、ブレーキ作動時には外周部にブレーキパッド4が押し付けられるようになっている。このディスク1では、前述のように、ブレーキ作動時にパッド4との摺動により入熱される外周部と、車輪3の回転により常に冷却されている内周側ボルト締付部との間に熱膨張差が生じるため、この熱膨張差を吸収できるだけの伸び(本発明者らの解析では0.7%以上)が必要である。
【0015】
この実施形態では、前記ブレーキディスク1を、Siを8〜10wt%、Mgを0.3〜0.6wt%含有するAl−Si−Mg系アルミニウム合金(JIS:AC4A)に20vol%のSiC粒子を均一に分散させたアルミニウム複合材で形成し、本発明を適用した熱処理を行って、必要な伸びの確保を図るようにした。
【0016】
ここで、前記アルミニウム複合材の伸びに対する本発明の熱処理方法の効果を確認するため、以下の実験を行った。実験は、アルミニウム複合材の試験片を7個用意し、各試験片に対してそれぞれ異なる熱処理を行って、熱処理後の強度や伸び等の機械的性質を調査した。
【0017】
図2は、前記各試験片の熱処理条件と機械的性質の測定結果を示す。この図2から、容体化処理温度から水冷して時効処理する通常の熱処理を行った比較例(No.1、2)の伸びが非常に低いレベルにあるのに対して、容体化処理温度からの冷却を油冷とした実施例(No.3〜6)では、1.0%前後の伸びが得られていることがわかる。また、容体化処理を1次処理と2次処理とに分けて行った実施例(No.7)でも、1.2%の伸びが得られた。この結果から、本発明の熱処理方法を適用して、容体化処理および時効処理の温度や時間を適切に設定することにより、時効処理過程におけるMgSiの析出量が減少して、伸びが大幅に向上することが確認された。
【0018】
なお、各実施例の母材硬さは比較例よりも低くなっているが、母材中に非常に硬度の高いSiC粒子が均一に分散しており、複合材全体としては十分に高い耐摩耗性が得られるので、ある程度の母材硬さの低下は問題とならない。また、強度(抗張力、0.2%耐力)についても、標準的な熱処理条件の比較例(No.1)に比べると低いが、ブレーキディスクに必要なレベルは確保されている。
【0019】
従って、前記アルミニウム複合材を素材として形成したブレーキディスクに対して、図2に示した各実施例のいずれかの熱処理を行うことにより、ディスク内周側と外周側の熱膨張差を十分に吸収する伸びが得られ、ディスクを長期間安定して使用できるようになる。
【0020】
【発明の効果】
以上のように、この発明は、アルミニウム合金に硬質粒子を複合させたアルミニウム複合材を熱処理する際に、容体化処理温度から時効処理温度への冷却を油冷として冷却速度を緩やかにするか、または容体化処理を2段階処理として処理時間を短くすることにより、時効処理過程におけるMgSiの析出量を減少させたので、通常の熱処理を行った場合に比べて伸びを大幅に向上させることができる。従って、この発明を適用したアルミニウム複合材は、ある程度の伸びが必要な用途でも、割れ等を発生することなく安定して使用することができ、耐摩耗性向上の要求に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般的な鉄道車両用のブレーキディスクの正面図
【図2】アルミニウム複合材の伸びに対する本発明の熱処理方法の効果を示す表
【符号の説明】
1 ブレーキディスク
1a 取付孔
1b ボルト孔
2 車軸
3 車輪
4 ブレーキパッド

Claims (2)

  1. Al−Si−Mg系アルミニウム合金に硬質粒子を複合させたアルミニウム複合材に対して、容体化処理後に人工時効処理を行う熱処理方法において、前記容体化処理の保持温度から前記時効処理の保持温度への冷却を油冷としたことを特徴とするアルミニウム複合材の熱処理方法。
  2. Al−Si−Mg系アルミニウム合金に硬質粒子を複合させたアルミニウム複合材に対して、容体化処理後に人工時効処理を行う熱処理方法において、前記容体化処理を、550〜560℃で1〜3時間保持する1次容体化処理と、530〜540℃で3〜5時間保持する2次容体化処理とに分けて行うようにしたことを特徴とするアルミニウム複合材の熱処理方法。
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