JP2004162758A - ブレーキディスク - Google Patents
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Abstract
【課題】反り変形を抑制するためのAlブレーキディスクの降伏強度を明確にし、軽量かつブレーキングによる反り変形を起こし難いブレーキディスクを提供する。
【解決手段】
Fe:0.5 〜5.0 %、Si:0.2 〜3.0 %、Cu:0.5 〜3.0 %、
Mg:0.5 〜2.0 %、およびCr:0.5 〜3.0 %
を含有するAl合金に、平均粒径が1〜20μmのセラミックス粒子を5〜30体積%分散させて成るAl基複合材から構成する。
【選択図】 なし
【解決手段】
Fe:0.5 〜5.0 %、Si:0.2 〜3.0 %、Cu:0.5 〜3.0 %、
Mg:0.5 〜2.0 %、およびCr:0.5 〜3.0 %
を含有するAl合金に、平均粒径が1〜20μmのセラミックス粒子を5〜30体積%分散させて成るAl基複合材から構成する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブレーキディスクに関し、特に軽量であって、ブレーキングの際に起こる塑性変形を低減して熱変形を抑制するとともに、高い熱伝導率を確保してブレーキング中のブレーキライニングの焼付き防止や摩耗量の低減が可能となる、主として鉄道車両用のブレーキディスクに関する。
【0002】
【従来の技術】
ディスクブレーキは、高速で走行する鉄道車両や自動車および自動二輪車などの陸上輸送機械の制動装置である。ディスクブレーキには、側ディスクと呼ばれるブレーキディスクを備えたタイプのものがある。
【0003】
図1(a) 〜(b) に側ディスクの一例として、鉄道車両用側ディスクの形状を示す。図1(a) は、側ディスク1の1/4 を示す部分平面図であり、図1(b) は、図1(a) の側ディスク1の断面とブレーキライニング6の断面を示す部分断面図である。
【0004】
同図(a) 、(b) に示すように、一般に、側ディスク1は、片側に摺動面5を備える外周部3と車輪に締結するためのボルト孔4を備える内周部2とから構成されている。この側ディスク1は、片側の摺動面にブレーキライニング6を押し当て、その摩擦により制動力を得る。高速車両、特に新幹線等の高速鉄道車両では、側ディスクの回転速度や慣性力が非常に大きいため、ブレーキング中の側ディスクの温度上昇は著しく大きい。
【0005】
そのため、上記のような側ディスク( 以下、単にブレーキディスクとも言う) では、ブレーキング中の摺動面側と裏面側の温度差が大きくなり、その結果、図2に示すように側ディスク1の外周部3が軸方向に変形する、いわゆる反り変形が生じる。この反り変形は、側ディスク1が塑性変形することにより生じることから、ブレーキディスクを長期間使用するためには、ブレーキディスク材の降伏強度を、ある程度以上確保する必要がある。
【0006】
従来、側ディスクには鋳鉄や鍛鋼が用いられてきた。特に、近年は車両の高速化により、ブレーキングによる負荷が増大してきていることから、強度・延性に優れている鍛鋼製のブレーキディスク、つまり鍛鋼ブレーキディスクが多く用いられるようになっている。鍛鋼ブレーキディスクは、降伏強度が高いので上述の反り変形を抑制することができ、比較的長期間の使用にも耐え得る。それでも、ある一定の期間使用すると反り変形が発生するため、現状では予め交換時期を設定しておいて、反り変形が大きくなる前に新品と交換している。
【0007】
一方、最近では、車両の高速化、振動・騒音の低減、省エネルギー化の観点から、ブレーキディスクの軽量化が望まれている。このため、軽量なAl合金を利用したブレーキディスク(以下、Alブレーキディスクという)の検討が進められつつある。
【0008】
Alブレーキディスクは、鍛鋼ブレーキディスクに比べ強度は劣るものの、熱伝導率が良いため、ブレーキングによる摩擦熱が速やかに拡散し、その結果、温度上昇は比較的小さい。そのため、Alブレーキディスクは鍛鋼ブレーキディスクよりも低い降伏強度で上記の反り変形を抑制することが可能である。
【0009】
例えば、特開平10−140275号公報には、Alブレーキディスクの高温強度を向上させることを目的としてFe:5.0〜10.0質量%であってAl−Fe 系金属間化合物を析出させたAl合金にセラミックス粒子を分散させた複合材料から成る鉄道車両用ブレーキディスクが開示されている。
【0010】
また、特開平9−184037号公報には、Alブレーキディスクの熱伝導率を高くするためSi:2.0 〜10.0質量%を含有するAl合金にセラミックス粒子を分散させた熱伝導率が180W/mK 以上の複合材料から成る鉄道車両用ブレーキディスクが開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開平10−140275号公報 請求項1
【特許文献2】特開平9−184037号公報 請求項1
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ここに、さらなる車両の高速化、振動・騒音の低減、および省エネルギー化を図るためには、従来の鋳鉄や鍛鋼による鉄系のブレーキディスクに代わって、軽量なAlブレーキディスクを使用することが必要不可欠である。
【0013】
しかしながら、Alブレーキディスクの降伏強度が低いとブレーキングにより発生する熱変形の一つであって、特に問題となる反り変形を十分抑制することができず、また高い熱伝導率を確保できないとブレーキライニングの焼付きが発生したりブレーキライニングの摩耗量が著しくなり長期間の使用に耐えられない可能性がある。
【0014】
特許文献1では、Alブレーキディスクの耐摩耗性に着目して高温強度を確保するとともに、摩耗量を可及的に少なくすることに開発の目的が向けられていた。しかしながら、特許文献1ではもっぱら高温強度に注目しているため、Feの含有量を必要以上に多くしている可能性があり、その結果、熱伝導率が低下し、ブレーキライニングの焼付きや摩耗によって使用期間が短くなる可能性がある。
【0015】
一方、特許文献2では、Alブレーキディスクの熱伝導率を確保することに着目していることから、反り変形を抑制するのに十分な強度を確保できていない可能性がある。
【0016】
ここに、本発明の目的は、上記のような各種従来技術の問題に対して、軽量かつブレーキングにより発生する反り変形、ブレーキライニングの焼付き、そしてブレーキライニングの摩耗量の増大をそれぞれ起こし難いブレーキディスクを提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題に対して、鋼材に比較してはるかに軽量であるAl基複合材に着目し、その降伏強度、熱伝導率の改善について研究を重ね、母材となるAl合金とセラミックス粒子に適切なものを適量用いることにより、反り変形を抑制するために必要な降伏強度(150MPa 以上) を有しながら、ブレーキライニングの焼付き、摩耗量の増大を起こしがたい高い熱伝導率(130W/mK以上) を保持したAlブレーキディスクを提供できることを知り、本発明を完成した。
【0018】
本発明にかかるAlブレーキディスクは、質量%で、Feを0.5 〜5.0 %、Siを0.2 〜3.0 %、Cuを0.5 〜3.0 %、Mgを0.5 〜2.0 %、およびCrを0.5 〜3.0 %含有するAl合金に、平均粒径が1〜20μmのセラミックス粒子を5〜30体積%分散させて成るAl基複合材から構成されたブレーキディスクであって、前記Al基複合材の降伏強度が150MPa以上、かつ熱伝導率が130W/mK 以上であることを特徴とするブレーキディスクである。
【0019】
本発明の好適態様では、上記Al基複合材は、下記式(1) 、(2) を満たすような組成であることが好ましい。
1.00≦fn1 ・・・・・(1)
ただし、
fn1=√(1.7692−0.0923 WFe−0.0308WSi−0.0769 W Cu−0.1538 W Mg−0.0038 W Cr−0.0038 VC)
1.00≦fn2 ・・・・・(2)
ただし、
fn2=√(0.2000+0.1333 WFe+0.0267WSi+0.4000WCu+0.4000WMg+0.2333WCr+0.0333VC)
ここで、 WFe、 WSi、 WCu、 WMg、 WCrは各成分の質量%を、 VC はセラミックス粒子の体積%をそれぞれ表す。
【0020】
本発明の別の好適態様によれば、前記Al基複合材は伸び5%以上である。
本発明のさらに別の好適態様によれば、前記ブレーキディスクは、粉末の固化成型体に鍛造を行って製造したものである。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明における含有成分の意義および限定理由について説明する。
本明細書において「%」は特にことわりがない限り「質量%」である。ただし、セラミックス粒子の配合割合は「体積%」で示す。
【0022】
Feは合金の強度、特に高温での強度を高め、耐摩耗性を向上させる元素である。その含有量は0.5 〜5.0 %の範囲であり、0.5 %未満では効果が十分ではなく、5.0 %を越えると熱伝導率が低下する。好ましい下限は 1.0%、好ましい上限は 3.0%である。
【0023】
Siは、合金の耐摩耗性および耐焼付き性を高める元素である。その範囲は0.2 〜3.0 %であり、0.2 %未満では効果が十分でなく、3.0 %を越えると熱伝導率が低下するため耐焼付き性が低下し、また延性も低下するため繰返しブレーキによる耐き裂性が低下する。好ましくは 0.5〜2.5 %である。
【0024】
Cu、Mgは両者を所定量含有させることで、時効処理による合金の強度向上の効果が得られる。ここに、時効処理とは熱処理の一種で一定温度で一定時間保持することにより合金を硬化させる処理のことである。それぞれの含有量はCu:0.5 〜3.0 %、Mg:0.5 〜2.0 %であり、それぞれこの範囲未満では効果が十分ではなく、範囲を越えると熱伝導率が低下する。また、Cuは過度に含有すると耐食性を低下させる。
【0025】
Crは単体で合金の強度を向上させる働きがある。その含有量は、0.5 〜3.0 %の範囲であり、0.5 %未満では効果が十分ではなく、3.0 %を越えると熱伝導率を低下させる。好ましくは 0.5〜1.5 %である。
【0026】
セラミックス粒子は、SiC 、AlN 、Al2O3 等が例示されるが、好ましくはSiC 粒子である。
SiC粒子は、ビッカース硬さ500 以上を有するセラミックス粒子であり、これを添加することで、ディスク材およびブレーキライニングの摩耗を低減させることができる。また、SiC の熱伝導率は120W/mK と高く、この粒子を添加することによってAlブレーキディスクの熱伝導率が大幅に低下することはない。
【0027】
セラミックス粒子は平均粒径が1〜20μmであり、5 〜30体積%分散させる。平均粒径がこの範囲未満では十分な耐摩耗性を発揮できず、分散性も良くない。一方、この範囲を越えると機械加工性(切削性)が低下する。また、平均粒径は好ましくは5〜15μm の範囲である。
【0028】
配合量は体積%が上記範囲未満では十分な耐摩耗性を発揮できなく、範囲を越えると機械加工性(切削性)が低下する。好ましくは5〜20体積%である。
以上のように本発明では、個々の成分について、上記のような考え方に基づいてそれぞれ範囲を限定した。
【0029】
さらに本発明にあっては、上述のようにして構成されるAl基複合材の降伏強度を150MPa以上、熱伝導率を130W/mK 以上に規定するが、これはAlブレーキディスクを構成したときに熱変形を抑制し、焼付き防止および摩耗量低減を実現させるためである。
【0030】
本発明においては、さらに好ましくは上記Al基複合材の組成が前述の式(1) 、(2) を満足するように限定することで、確実に本発明の上記特性を達成できるようにする。
【0031】
式(1) のfn1 は、本発明のAlブレーキディスクの熱伝導率と各成分の関係を表す相関関数であり、種々のAl合金、Al基複合材の熱伝導率と成分含有量の関係を重回帰分析して得たものである。
【0032】
式(2) のfn2 は、本発明のAlブレーキディスクの降伏強度(常温)と各成分の関係を表す相関関数であり、種々のAl合金、Al基複合材の降伏強度と成分含有量の関係を重回帰分析して得たものである。なお、fn2 を求める際の降伏強度は時効処理によって硬化させたときの降伏強度を用いている。また、反り変形はディスクがブレーキング後冷却されたときに発生するので、常温での降伏強度の影響が大きいことから、ここでは常温の降伏強度を用いた。
【0033】
fn1 、fn2 は各成分の含有量が決まったときに熱伝導率および降伏強度がいくらになるかというのを求めるための関数である。例えば、式(1) ではFeの量を増やすとfn1 の値は小さくなる。すなわち熱伝導率が低下し、式(2) ではFeの量を増やすとfn2 の値は大きくなる。すなわち降伏強度が向上する。
【0034】
このため、本発明の目標を達成するためにはfn1 、fn2 がある値を満たしている必要がある。
図3(a) に、Alブレーキディスクの熱伝導率とfn1 の関係を、図3(b) にAlブレーキディスクの降伏強度とfn2 の関係をそれぞれ示す。
【0035】
耐焼付き性を確保するためには、熱伝導率は少なくとも130W/mK 以上が好ましく、そのためにはfn1 は1.00以上が好ましい範囲である。またより好ましい熱伝導率の範囲は150W/mK 以上であり、そのためにはfn1 は1.08以上が好ましい。
【0036】
Alブレーキディスクの熱伝導率は純Alの熱伝導率230W/mK を越えることができないので、必然的にfn1 の上限は1.33未満となる。
一方、反り変形を抑制するためには、後述するFEM(有限要素法)解析結果から降伏強度(常温)が150MPa以上必要であり、そのためにはfn2 は1.00以上が好ましい。またここでは、時効処理による強度向上の効果を考慮しているが、Alブレーキディスクを長期間使用すると過時効されて強度が低下する可能性がある。そのため、降伏強度は200MPa以上あることがより好ましく、そのためにはfn2 は1.15以上が好ましい。なお、過時効とは初期に与えた時効処理より使用中などにおいてさらに必要以上に熱が加わった状態のことであり、強度の低下を招く恐れがある。
【0037】
fn2 は大きすぎると必要以上に強度が高くなり延性が低下するので、1.50未満であることが好ましい。
以上のようにfn1 が1.08以上、fn2 が1.15以上という範囲を考慮すると、本発明におけるAl基複合材の各成分は次のような範囲にあることがより好ましい。
【0038】
すなわち、Fe:1.0 〜2.2 %、Si:1.0 〜2.2 %、Cu:0.8 〜1.2 %、Mg:0.8 〜1.2 %、Cr:0.8 〜1.2 %、セラミックス粒子:5〜15体積%である。セラミックス粒子としては、好ましくはSiC 粒子である。
【0039】
ここで、本発明のAlブレーキディスクの製造方法について説明する。
本発明のAlブレーキディスクに用いるAl基複合材は例えば公知の粉末冶金法により製造され、セラミックス粒子を均一に分散させる。
【0040】
粉末冶金法によれば所定の組成を有するAl合金粉末とセラミックス粒子、例えばSiC 粒子を所定の割合で配合し、十分に混合する。均一な混合状態を得るためには、Al合金粉未は微細であることが望ましく、通常100 μm 以下の粉末が使用される。次いで混合粉末を容器(缶ともいう)に充填し、混合粉末を400 〜500 ℃の温度に加熱しながら容器の内部を真空排気、あるいは不活性ガスで置換して、Al合金粉末およびセラミックス粒子の表面に吸着しているガスおよび水分を除去する脱ガス処理を行う。続いて、容器内に充填されている上記の混合粉末を容器とともにホットプレスすることにより固化成型し、混合粉末を99%以上の緻密度にする。固化成型後、そのままあるいは適当な大きさに切断して鍛造を行い、その後、溶体化処理および時効処理を行い所望の降伏強度以上の強度を確保する。そして最後に機械加工(切削加工)を行いブレーキディスクに仕上げる。
【0041】
【実施例】
本例では、種々のAl基複合材を用いて高速鉄道用Alブレーキディスク[直径720mm ×50mm(最大厚み)] を作製した。そこからJIS4号の丸棒引張り試験片を採取して引張り試験を実施し、降伏強度と伸びを測定した。さらに熱伝導率測定用試験片を別途採取し、熱伝導率を測定した。
【0042】
このようにして得られたAlブレーキディスクはブレーキ試験に供して、反り変形、耐焼付き性および耐き裂性について評価した。ブレーキ試験は300km/h からの非常ブレーキの条件で実施した。
【0043】
ブレーキ試験での反り変形は図2に示すように、Alブレーキディスクの最外周部の軸方向の変位量で評価し、ブレーキ100 回以内に1mm以上変位した場合を反り変形の発生とした。耐焼付き性の評価は、ブレーキ100 回以内にブレーキライニングがAlブレーキディスクに付着して離れなくなった場合を焼付きの発生とした。耐き裂性は、ブレーキ100 回以内にボルト孔などの応力集中部よりき裂が発生したかどうかで評価した。
【0044】
表1に示すNo.1〜4のAlブレーキディスクは粉末冶金法・鍛造により作製した。
すなわち、エアアトマイズ法によってAl合金粉末を製造し、これを100 μm以下に分級した。これとSiC 粒子を強制攪拌羽根付きクロスロータリーミキサーによって15分間混合し、混合粉末を外径90mm、高さ200mm の容器に充填した後、480 ℃の温度で1時間真空脱ガス処理を施して封かんし、これを内径90mmの閉塞金型に装填し、400 ℃の温度で、500tonの押圧力でホットプレス固化成型した。さらに、400 ℃の温度で一軸の自由鍛造によって固化成型体の高さが1/ 2になるまで鍛練加工 (鍛練比2.0)を行い、試験体を作製した。
【0045】
なお、No.1のAlブレーキディスクについては強度を上げるために、鍛造後に520 ℃で溶体化処理および170 ℃×10hrで時効処理をそれぞれ実施した。
SiC 粒子は市販のものを使用したので、平均粒径は公称寸法を意味する。
【0046】
表1に示すNo.5のAlブレーキディスクは、公知のコンポキャスティング法によって製造した。すなわち、所定の成分のAl合金が固液共存状態となるように温度を保持し、攪拌しながらSiC 粒子を添加、混合し、内径150mm 、深さ50mmの金型に鋳造した。続いて、その鋳塊を400 ℃の温度で高さが40mmになるまで鍛練加工(鍛練比1.25) を行い、試験体を作製した。
【0047】
【表1】
【0048】
表2に各種試験結果をまとめて示す。
本発明例のNo.1は降伏強度が十分高いためブレーキ試験において反り変形が発生していない。熱伝導率も高い値を確保しているので焼付きも発生せず、延性 (伸び) も十分にあるためき裂の発生も無かった。
【0049】
比較例のNo.2はFeの含有量が多すぎるため、No.3はMgの含有量が多すぎるため、それぞれ高い熱伝導率が確保できずに焼付きが発生した。比較例のNo.4はMgを含有していないため十分な強度を確保できず反り変形が発生した。比較例のNo.5は鋳造で作製しているため伸びが小さく十分な延性が無いため、き裂が発生した。
【0050】
【表2】
【0051】
次に、本発明にかかるAlブレーキディスクに必要な降伏強度を明確にするとともに、その効果を確認するためFEM 解析を実施した。本解析では、Al基複合材の熱伝導率を150W/mK とし、上記のブレーキ試験と同じく高速鉄道車両用のAlブレーキディスクを対象として、300km/h からの非常ブレーキの条件で実施した。
【0052】
表3に、FEM 解析に供試したAlブレーキディスクの物性値を、表4に機械的特性をそれぞれ示す。表4において常温での降伏強度を50〜250MPaとした。
図4に、FEM 解析結果として、ブレーキ1回当りの反りの増加量とAlブレーキディスクの降伏強度の関係を示す。なお、図中の反り量は、降伏強度が100(MPa)の場合を1として、無次元化している。図に示すように、本発明品である降伏強度が150(MPa)以上のAlブレーキディスクでは、反り変形が大きく低減できることが分かる。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、SiC 粒子を分散させたAl基複合材を使用することで、従来の鋳鉄や鍛鋼を用いたブレーキディスクに比べ、大幅に軽量化することができ、その結果、より高速での走行が可能となる。また、使用するAl基複合材に適正な成分とその含有量を用いることで、高い熱伝導率を保持しながら十分な強度を確保することが可能となる。これにより、耐焼付き性および耐摩耗性を十分確保しながら、ブレーキングによる反り変形も抑制できる。さらに、鍛造により成型することで、延性を向上させることができ、耐き裂性も向上する。結果として長期間の使用に耐え得るAlブレーキディスクを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来型の鉄道車両用ブレーキディスクを示す図であり、図1(a) は、鉄道車両用ブレーキディスクの1/4を示す部分平面図、図1(b) は、鉄道車両用ブレーキディスクの断面の1/2を示す部分断面図である。
【図2】鉄道車両用ブレーキディスクのブレーキングによる反り変形を模式的に表した部分断面図である。
【図3】図3(a) は、本発明のAlブレーキディスクの熱伝導率と相関関数fn1 の関係を表すグラフであり、図3(b) は本発明のAlブレーキディスクの降伏強度 (常温) と相関関数fn2 の関係を表すグラフである。
【図4】Alブレーキディスクのブレーキ1回当たりの反りの増加量と降伏強度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1:ブレーキディスク 2:ディスク内周部
3:ディスク外周部 4:ボルト孔
5:摺動面 6:ブレーキライニング
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブレーキディスクに関し、特に軽量であって、ブレーキングの際に起こる塑性変形を低減して熱変形を抑制するとともに、高い熱伝導率を確保してブレーキング中のブレーキライニングの焼付き防止や摩耗量の低減が可能となる、主として鉄道車両用のブレーキディスクに関する。
【0002】
【従来の技術】
ディスクブレーキは、高速で走行する鉄道車両や自動車および自動二輪車などの陸上輸送機械の制動装置である。ディスクブレーキには、側ディスクと呼ばれるブレーキディスクを備えたタイプのものがある。
【0003】
図1(a) 〜(b) に側ディスクの一例として、鉄道車両用側ディスクの形状を示す。図1(a) は、側ディスク1の1/4 を示す部分平面図であり、図1(b) は、図1(a) の側ディスク1の断面とブレーキライニング6の断面を示す部分断面図である。
【0004】
同図(a) 、(b) に示すように、一般に、側ディスク1は、片側に摺動面5を備える外周部3と車輪に締結するためのボルト孔4を備える内周部2とから構成されている。この側ディスク1は、片側の摺動面にブレーキライニング6を押し当て、その摩擦により制動力を得る。高速車両、特に新幹線等の高速鉄道車両では、側ディスクの回転速度や慣性力が非常に大きいため、ブレーキング中の側ディスクの温度上昇は著しく大きい。
【0005】
そのため、上記のような側ディスク( 以下、単にブレーキディスクとも言う) では、ブレーキング中の摺動面側と裏面側の温度差が大きくなり、その結果、図2に示すように側ディスク1の外周部3が軸方向に変形する、いわゆる反り変形が生じる。この反り変形は、側ディスク1が塑性変形することにより生じることから、ブレーキディスクを長期間使用するためには、ブレーキディスク材の降伏強度を、ある程度以上確保する必要がある。
【0006】
従来、側ディスクには鋳鉄や鍛鋼が用いられてきた。特に、近年は車両の高速化により、ブレーキングによる負荷が増大してきていることから、強度・延性に優れている鍛鋼製のブレーキディスク、つまり鍛鋼ブレーキディスクが多く用いられるようになっている。鍛鋼ブレーキディスクは、降伏強度が高いので上述の反り変形を抑制することができ、比較的長期間の使用にも耐え得る。それでも、ある一定の期間使用すると反り変形が発生するため、現状では予め交換時期を設定しておいて、反り変形が大きくなる前に新品と交換している。
【0007】
一方、最近では、車両の高速化、振動・騒音の低減、省エネルギー化の観点から、ブレーキディスクの軽量化が望まれている。このため、軽量なAl合金を利用したブレーキディスク(以下、Alブレーキディスクという)の検討が進められつつある。
【0008】
Alブレーキディスクは、鍛鋼ブレーキディスクに比べ強度は劣るものの、熱伝導率が良いため、ブレーキングによる摩擦熱が速やかに拡散し、その結果、温度上昇は比較的小さい。そのため、Alブレーキディスクは鍛鋼ブレーキディスクよりも低い降伏強度で上記の反り変形を抑制することが可能である。
【0009】
例えば、特開平10−140275号公報には、Alブレーキディスクの高温強度を向上させることを目的としてFe:5.0〜10.0質量%であってAl−Fe 系金属間化合物を析出させたAl合金にセラミックス粒子を分散させた複合材料から成る鉄道車両用ブレーキディスクが開示されている。
【0010】
また、特開平9−184037号公報には、Alブレーキディスクの熱伝導率を高くするためSi:2.0 〜10.0質量%を含有するAl合金にセラミックス粒子を分散させた熱伝導率が180W/mK 以上の複合材料から成る鉄道車両用ブレーキディスクが開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開平10−140275号公報 請求項1
【特許文献2】特開平9−184037号公報 請求項1
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ここに、さらなる車両の高速化、振動・騒音の低減、および省エネルギー化を図るためには、従来の鋳鉄や鍛鋼による鉄系のブレーキディスクに代わって、軽量なAlブレーキディスクを使用することが必要不可欠である。
【0013】
しかしながら、Alブレーキディスクの降伏強度が低いとブレーキングにより発生する熱変形の一つであって、特に問題となる反り変形を十分抑制することができず、また高い熱伝導率を確保できないとブレーキライニングの焼付きが発生したりブレーキライニングの摩耗量が著しくなり長期間の使用に耐えられない可能性がある。
【0014】
特許文献1では、Alブレーキディスクの耐摩耗性に着目して高温強度を確保するとともに、摩耗量を可及的に少なくすることに開発の目的が向けられていた。しかしながら、特許文献1ではもっぱら高温強度に注目しているため、Feの含有量を必要以上に多くしている可能性があり、その結果、熱伝導率が低下し、ブレーキライニングの焼付きや摩耗によって使用期間が短くなる可能性がある。
【0015】
一方、特許文献2では、Alブレーキディスクの熱伝導率を確保することに着目していることから、反り変形を抑制するのに十分な強度を確保できていない可能性がある。
【0016】
ここに、本発明の目的は、上記のような各種従来技術の問題に対して、軽量かつブレーキングにより発生する反り変形、ブレーキライニングの焼付き、そしてブレーキライニングの摩耗量の増大をそれぞれ起こし難いブレーキディスクを提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題に対して、鋼材に比較してはるかに軽量であるAl基複合材に着目し、その降伏強度、熱伝導率の改善について研究を重ね、母材となるAl合金とセラミックス粒子に適切なものを適量用いることにより、反り変形を抑制するために必要な降伏強度(150MPa 以上) を有しながら、ブレーキライニングの焼付き、摩耗量の増大を起こしがたい高い熱伝導率(130W/mK以上) を保持したAlブレーキディスクを提供できることを知り、本発明を完成した。
【0018】
本発明にかかるAlブレーキディスクは、質量%で、Feを0.5 〜5.0 %、Siを0.2 〜3.0 %、Cuを0.5 〜3.0 %、Mgを0.5 〜2.0 %、およびCrを0.5 〜3.0 %含有するAl合金に、平均粒径が1〜20μmのセラミックス粒子を5〜30体積%分散させて成るAl基複合材から構成されたブレーキディスクであって、前記Al基複合材の降伏強度が150MPa以上、かつ熱伝導率が130W/mK 以上であることを特徴とするブレーキディスクである。
【0019】
本発明の好適態様では、上記Al基複合材は、下記式(1) 、(2) を満たすような組成であることが好ましい。
1.00≦fn1 ・・・・・(1)
ただし、
fn1=√(1.7692−0.0923 WFe−0.0308WSi−0.0769 W Cu−0.1538 W Mg−0.0038 W Cr−0.0038 VC)
1.00≦fn2 ・・・・・(2)
ただし、
fn2=√(0.2000+0.1333 WFe+0.0267WSi+0.4000WCu+0.4000WMg+0.2333WCr+0.0333VC)
ここで、 WFe、 WSi、 WCu、 WMg、 WCrは各成分の質量%を、 VC はセラミックス粒子の体積%をそれぞれ表す。
【0020】
本発明の別の好適態様によれば、前記Al基複合材は伸び5%以上である。
本発明のさらに別の好適態様によれば、前記ブレーキディスクは、粉末の固化成型体に鍛造を行って製造したものである。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明における含有成分の意義および限定理由について説明する。
本明細書において「%」は特にことわりがない限り「質量%」である。ただし、セラミックス粒子の配合割合は「体積%」で示す。
【0022】
Feは合金の強度、特に高温での強度を高め、耐摩耗性を向上させる元素である。その含有量は0.5 〜5.0 %の範囲であり、0.5 %未満では効果が十分ではなく、5.0 %を越えると熱伝導率が低下する。好ましい下限は 1.0%、好ましい上限は 3.0%である。
【0023】
Siは、合金の耐摩耗性および耐焼付き性を高める元素である。その範囲は0.2 〜3.0 %であり、0.2 %未満では効果が十分でなく、3.0 %を越えると熱伝導率が低下するため耐焼付き性が低下し、また延性も低下するため繰返しブレーキによる耐き裂性が低下する。好ましくは 0.5〜2.5 %である。
【0024】
Cu、Mgは両者を所定量含有させることで、時効処理による合金の強度向上の効果が得られる。ここに、時効処理とは熱処理の一種で一定温度で一定時間保持することにより合金を硬化させる処理のことである。それぞれの含有量はCu:0.5 〜3.0 %、Mg:0.5 〜2.0 %であり、それぞれこの範囲未満では効果が十分ではなく、範囲を越えると熱伝導率が低下する。また、Cuは過度に含有すると耐食性を低下させる。
【0025】
Crは単体で合金の強度を向上させる働きがある。その含有量は、0.5 〜3.0 %の範囲であり、0.5 %未満では効果が十分ではなく、3.0 %を越えると熱伝導率を低下させる。好ましくは 0.5〜1.5 %である。
【0026】
セラミックス粒子は、SiC 、AlN 、Al2O3 等が例示されるが、好ましくはSiC 粒子である。
SiC粒子は、ビッカース硬さ500 以上を有するセラミックス粒子であり、これを添加することで、ディスク材およびブレーキライニングの摩耗を低減させることができる。また、SiC の熱伝導率は120W/mK と高く、この粒子を添加することによってAlブレーキディスクの熱伝導率が大幅に低下することはない。
【0027】
セラミックス粒子は平均粒径が1〜20μmであり、5 〜30体積%分散させる。平均粒径がこの範囲未満では十分な耐摩耗性を発揮できず、分散性も良くない。一方、この範囲を越えると機械加工性(切削性)が低下する。また、平均粒径は好ましくは5〜15μm の範囲である。
【0028】
配合量は体積%が上記範囲未満では十分な耐摩耗性を発揮できなく、範囲を越えると機械加工性(切削性)が低下する。好ましくは5〜20体積%である。
以上のように本発明では、個々の成分について、上記のような考え方に基づいてそれぞれ範囲を限定した。
【0029】
さらに本発明にあっては、上述のようにして構成されるAl基複合材の降伏強度を150MPa以上、熱伝導率を130W/mK 以上に規定するが、これはAlブレーキディスクを構成したときに熱変形を抑制し、焼付き防止および摩耗量低減を実現させるためである。
【0030】
本発明においては、さらに好ましくは上記Al基複合材の組成が前述の式(1) 、(2) を満足するように限定することで、確実に本発明の上記特性を達成できるようにする。
【0031】
式(1) のfn1 は、本発明のAlブレーキディスクの熱伝導率と各成分の関係を表す相関関数であり、種々のAl合金、Al基複合材の熱伝導率と成分含有量の関係を重回帰分析して得たものである。
【0032】
式(2) のfn2 は、本発明のAlブレーキディスクの降伏強度(常温)と各成分の関係を表す相関関数であり、種々のAl合金、Al基複合材の降伏強度と成分含有量の関係を重回帰分析して得たものである。なお、fn2 を求める際の降伏強度は時効処理によって硬化させたときの降伏強度を用いている。また、反り変形はディスクがブレーキング後冷却されたときに発生するので、常温での降伏強度の影響が大きいことから、ここでは常温の降伏強度を用いた。
【0033】
fn1 、fn2 は各成分の含有量が決まったときに熱伝導率および降伏強度がいくらになるかというのを求めるための関数である。例えば、式(1) ではFeの量を増やすとfn1 の値は小さくなる。すなわち熱伝導率が低下し、式(2) ではFeの量を増やすとfn2 の値は大きくなる。すなわち降伏強度が向上する。
【0034】
このため、本発明の目標を達成するためにはfn1 、fn2 がある値を満たしている必要がある。
図3(a) に、Alブレーキディスクの熱伝導率とfn1 の関係を、図3(b) にAlブレーキディスクの降伏強度とfn2 の関係をそれぞれ示す。
【0035】
耐焼付き性を確保するためには、熱伝導率は少なくとも130W/mK 以上が好ましく、そのためにはfn1 は1.00以上が好ましい範囲である。またより好ましい熱伝導率の範囲は150W/mK 以上であり、そのためにはfn1 は1.08以上が好ましい。
【0036】
Alブレーキディスクの熱伝導率は純Alの熱伝導率230W/mK を越えることができないので、必然的にfn1 の上限は1.33未満となる。
一方、反り変形を抑制するためには、後述するFEM(有限要素法)解析結果から降伏強度(常温)が150MPa以上必要であり、そのためにはfn2 は1.00以上が好ましい。またここでは、時効処理による強度向上の効果を考慮しているが、Alブレーキディスクを長期間使用すると過時効されて強度が低下する可能性がある。そのため、降伏強度は200MPa以上あることがより好ましく、そのためにはfn2 は1.15以上が好ましい。なお、過時効とは初期に与えた時効処理より使用中などにおいてさらに必要以上に熱が加わった状態のことであり、強度の低下を招く恐れがある。
【0037】
fn2 は大きすぎると必要以上に強度が高くなり延性が低下するので、1.50未満であることが好ましい。
以上のようにfn1 が1.08以上、fn2 が1.15以上という範囲を考慮すると、本発明におけるAl基複合材の各成分は次のような範囲にあることがより好ましい。
【0038】
すなわち、Fe:1.0 〜2.2 %、Si:1.0 〜2.2 %、Cu:0.8 〜1.2 %、Mg:0.8 〜1.2 %、Cr:0.8 〜1.2 %、セラミックス粒子:5〜15体積%である。セラミックス粒子としては、好ましくはSiC 粒子である。
【0039】
ここで、本発明のAlブレーキディスクの製造方法について説明する。
本発明のAlブレーキディスクに用いるAl基複合材は例えば公知の粉末冶金法により製造され、セラミックス粒子を均一に分散させる。
【0040】
粉末冶金法によれば所定の組成を有するAl合金粉末とセラミックス粒子、例えばSiC 粒子を所定の割合で配合し、十分に混合する。均一な混合状態を得るためには、Al合金粉未は微細であることが望ましく、通常100 μm 以下の粉末が使用される。次いで混合粉末を容器(缶ともいう)に充填し、混合粉末を400 〜500 ℃の温度に加熱しながら容器の内部を真空排気、あるいは不活性ガスで置換して、Al合金粉末およびセラミックス粒子の表面に吸着しているガスおよび水分を除去する脱ガス処理を行う。続いて、容器内に充填されている上記の混合粉末を容器とともにホットプレスすることにより固化成型し、混合粉末を99%以上の緻密度にする。固化成型後、そのままあるいは適当な大きさに切断して鍛造を行い、その後、溶体化処理および時効処理を行い所望の降伏強度以上の強度を確保する。そして最後に機械加工(切削加工)を行いブレーキディスクに仕上げる。
【0041】
【実施例】
本例では、種々のAl基複合材を用いて高速鉄道用Alブレーキディスク[直径720mm ×50mm(最大厚み)] を作製した。そこからJIS4号の丸棒引張り試験片を採取して引張り試験を実施し、降伏強度と伸びを測定した。さらに熱伝導率測定用試験片を別途採取し、熱伝導率を測定した。
【0042】
このようにして得られたAlブレーキディスクはブレーキ試験に供して、反り変形、耐焼付き性および耐き裂性について評価した。ブレーキ試験は300km/h からの非常ブレーキの条件で実施した。
【0043】
ブレーキ試験での反り変形は図2に示すように、Alブレーキディスクの最外周部の軸方向の変位量で評価し、ブレーキ100 回以内に1mm以上変位した場合を反り変形の発生とした。耐焼付き性の評価は、ブレーキ100 回以内にブレーキライニングがAlブレーキディスクに付着して離れなくなった場合を焼付きの発生とした。耐き裂性は、ブレーキ100 回以内にボルト孔などの応力集中部よりき裂が発生したかどうかで評価した。
【0044】
表1に示すNo.1〜4のAlブレーキディスクは粉末冶金法・鍛造により作製した。
すなわち、エアアトマイズ法によってAl合金粉末を製造し、これを100 μm以下に分級した。これとSiC 粒子を強制攪拌羽根付きクロスロータリーミキサーによって15分間混合し、混合粉末を外径90mm、高さ200mm の容器に充填した後、480 ℃の温度で1時間真空脱ガス処理を施して封かんし、これを内径90mmの閉塞金型に装填し、400 ℃の温度で、500tonの押圧力でホットプレス固化成型した。さらに、400 ℃の温度で一軸の自由鍛造によって固化成型体の高さが1/ 2になるまで鍛練加工 (鍛練比2.0)を行い、試験体を作製した。
【0045】
なお、No.1のAlブレーキディスクについては強度を上げるために、鍛造後に520 ℃で溶体化処理および170 ℃×10hrで時効処理をそれぞれ実施した。
SiC 粒子は市販のものを使用したので、平均粒径は公称寸法を意味する。
【0046】
表1に示すNo.5のAlブレーキディスクは、公知のコンポキャスティング法によって製造した。すなわち、所定の成分のAl合金が固液共存状態となるように温度を保持し、攪拌しながらSiC 粒子を添加、混合し、内径150mm 、深さ50mmの金型に鋳造した。続いて、その鋳塊を400 ℃の温度で高さが40mmになるまで鍛練加工(鍛練比1.25) を行い、試験体を作製した。
【0047】
【表1】
【0048】
表2に各種試験結果をまとめて示す。
本発明例のNo.1は降伏強度が十分高いためブレーキ試験において反り変形が発生していない。熱伝導率も高い値を確保しているので焼付きも発生せず、延性 (伸び) も十分にあるためき裂の発生も無かった。
【0049】
比較例のNo.2はFeの含有量が多すぎるため、No.3はMgの含有量が多すぎるため、それぞれ高い熱伝導率が確保できずに焼付きが発生した。比較例のNo.4はMgを含有していないため十分な強度を確保できず反り変形が発生した。比較例のNo.5は鋳造で作製しているため伸びが小さく十分な延性が無いため、き裂が発生した。
【0050】
【表2】
【0051】
次に、本発明にかかるAlブレーキディスクに必要な降伏強度を明確にするとともに、その効果を確認するためFEM 解析を実施した。本解析では、Al基複合材の熱伝導率を150W/mK とし、上記のブレーキ試験と同じく高速鉄道車両用のAlブレーキディスクを対象として、300km/h からの非常ブレーキの条件で実施した。
【0052】
表3に、FEM 解析に供試したAlブレーキディスクの物性値を、表4に機械的特性をそれぞれ示す。表4において常温での降伏強度を50〜250MPaとした。
図4に、FEM 解析結果として、ブレーキ1回当りの反りの増加量とAlブレーキディスクの降伏強度の関係を示す。なお、図中の反り量は、降伏強度が100(MPa)の場合を1として、無次元化している。図に示すように、本発明品である降伏強度が150(MPa)以上のAlブレーキディスクでは、反り変形が大きく低減できることが分かる。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、SiC 粒子を分散させたAl基複合材を使用することで、従来の鋳鉄や鍛鋼を用いたブレーキディスクに比べ、大幅に軽量化することができ、その結果、より高速での走行が可能となる。また、使用するAl基複合材に適正な成分とその含有量を用いることで、高い熱伝導率を保持しながら十分な強度を確保することが可能となる。これにより、耐焼付き性および耐摩耗性を十分確保しながら、ブレーキングによる反り変形も抑制できる。さらに、鍛造により成型することで、延性を向上させることができ、耐き裂性も向上する。結果として長期間の使用に耐え得るAlブレーキディスクを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来型の鉄道車両用ブレーキディスクを示す図であり、図1(a) は、鉄道車両用ブレーキディスクの1/4を示す部分平面図、図1(b) は、鉄道車両用ブレーキディスクの断面の1/2を示す部分断面図である。
【図2】鉄道車両用ブレーキディスクのブレーキングによる反り変形を模式的に表した部分断面図である。
【図3】図3(a) は、本発明のAlブレーキディスクの熱伝導率と相関関数fn1 の関係を表すグラフであり、図3(b) は本発明のAlブレーキディスクの降伏強度 (常温) と相関関数fn2 の関係を表すグラフである。
【図4】Alブレーキディスクのブレーキ1回当たりの反りの増加量と降伏強度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1:ブレーキディスク 2:ディスク内周部
3:ディスク外周部 4:ボルト孔
5:摺動面 6:ブレーキライニング
Claims (4)
- 質量%で、
Fe:0.5 〜5.0 %、Si:0.2 〜3.0 %、Cu:0.5 〜3.0 %、
Mg:0.5 〜2.0 %、およびCr:0.5 〜3.0 %
を含有するAl合金に、平均粒径が1〜20μmのセラミックス粒子を5〜30体積%分散させて成るAl基複合材から構成されたブレーキディスクであって、該Al基複合材の降伏強度が150MPa以上、かつ熱伝導率が130W/mK 以上であることを特徴とするブレーキディスク。 - 前記Al基複合材の組成が、下記式(1) 、(2) を満たす請求項1記載のブレーキディスク。
1.00≦fn1 ・・・・・(1)
ただし、
fn1=√(1.7692−0.0923 WFe−0.0308WSi−0.0769 W Cu−0.1538 W Mg−0.0038 W Cr−0.0038 VC)
1.00≦fn2 ・・・・・(2)
ただし、
fn2=√(0.2000+0.1333 WFe+0.0267WSi+0.4000WCu+0.4000WMg+0.2333WCr+0.0333VC)
ここに、 WFe、 WSi、 WCu、 WMg、 WCrは各成分の質量%を、 VC はセラミックス粒子の体積%をそれぞれ表す。 - 前記Al基複合材が、伸び5%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキディスク。
- 前記ブレキーキディスクが粉末の固化成型体に鍛造を行って製造したものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のブレーキディスク。
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-
2002
- 2002-11-11 JP JP2002327435A patent/JP2004162758A/ja active Pending
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