JP4214352B2 - ブレーキディスク用Al基複合材料およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性に優れるブレーキディスク用Al基複合材料およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄道車両、自動車、自動二輪車等の制動機として代表的なものに、ディスクブレーキ、ブロックブレーキ、ドラムブレーキ等があるが、従来、鉄道のような大重量の車両用制動機としては、その優れた制動力から、ディスクブレーキが採用されてきた。
【0003】
ディスクブレーキとは、車輪に取り付けたドーナツ形の円盤状のブレーキディスクとブレーキパッド(摩擦材)との摩擦によって制動力を得る装置である。ブレーキディスクに用いられる材料は、制動時の摩擦による摩耗と、急激な温度上昇があるため、耐摩耗性、耐熱性、耐亀裂性等の多様な特性を有することが要求され、従来、ブレーキディスクとして鋳鉄、ステンレス鋼等の鉄系の材料が使用されてきた。しかし、車両の走行性能の向上や省エネルギー対策の観点から、ブレーキディスクの軽量化が求められており、上記の材料に変わる軽量のディスク材料が求められている。
【0004】
ブレーキディスクを軽量化するには、ディスク材料として密度が小さく比強度の高いものを採用するのが最も効果があることから、Al合金の適用が検討されている。しかし、通常のAl合金をブレーキディスクとして使用すると、ブレーキ制動時に摩擦熱によってディスク材の温度が急激に上昇し、場合によってはディスク材が焼き付けを起こしたり、ディスク材に激しい引っ掻き傷が発生する等の問題が生じる。上記のように、ブレーキディスク材は、強度および耐摩耗性を備えていることが重要であり、このほかにも、制動力の観点から摩擦係数が高いことも必要とされる。更に、ブレーキディスクの成形は鍛造加工および切削加工を伴うので、優れた鍛造性および切削性も要求される。
【0005】
そこで、Al合金マトリックス中にAl2O3(アルミナ)、Si3N4(窒化珪素)、SiC(炭化珪素)等のセラミックス粒子を強化材として添加したブレーキディスク用Al基複合材料が提案されている(特開平2-25538号公報、特開平3-47945号公報等)。これらの公報に記載される技術は、Al合金に添加する上記の強化粒子の粒径および添加量を特定の範囲に調整することを特徴とするものである。さらに、Al合金に添加する上記の強化粒子の粒径毎に添加量を限定する技術(特開平10-140273号公報)、Al合金自体の化学組成を限定する技術(特開平10-137920号公報)、粉末成形したAl基複合材料の熱伝導率を限定する技術(特開平9-184037号公報)等が提案されている。
【0006】
ここで、上記の強化剤として添加されるSiCは、その結晶構造によって、六方晶系のα型SiCと立方晶系のβ型SiCの二種類に大別される。α型SiCは、結晶の成長速度や温度、不純物などの影響によってc軸の格子常数が変化し、200種以上の形状が存在するが、β型SiCには1種類の形状しかない。β型SiCは、「低温型」とも呼ばれるように、2000℃程度以下までの温度で存在するが、この温度領域ではα型SiCが生成することもある。更に、β型SiCは、2200℃程度以上の温度で徐々にα型SiCに転移し、2300℃に至れば数分以内でこの転移が完了するという性質を持っている。このβ型SiCからα型SiCへの転移は不可逆的であるため、β型SiCを製造する際には厳密な温度管理を必要とする。
【0007】
一般的かつ簡易なSiCの製造方法として、珪石あるいは珪砂をコークスその他の炭材と混合し、電気抵抗炉によって溶融して製造する方法がある。この製造方法によれば、多量のSiCを同時に製造することができるが、この製造方法では、β型SiCの結晶を十分に成長させるのは難しい。従って、β型SiCは、特殊な製造方法、例えば、極微細な黒鉛または炭素を用い、これらを溶融珪素または一酸化珪素の蒸気と反応させて製造する方法や、高温に保たれた黒鉛の表面に、水素により運ばれたハロゲン化珪素を接触させ、解離するSiとCとを反応させて製造する方法等によって製造されるのが一般的である。
【0008】
このように、α型SiCは、β型SiCに比べて温度管理が容易であり、またその製造工程が簡易であることから安価に製造できるので、一般に多用されてきた。また、現在までにブレーキディスク用Al基複合材料に添加するSiCの結晶構造に着目して、その物性を確認されたことはなく、上記の公報においても、α型SiCが使用されてきたことが予想される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のブレーキディスク用Al基複合材料に添加されるSiCの結晶構造に着目してなされたものであり、上記のブレーキディスク用Al基複合材料に要求される性能、特に耐摩耗性に優れたブレーキディスク用Al基複合材料およびその製造方法を提供することをその目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、SiCの結晶構造と耐摩耗性との関係に着目して研究を行った結果、本発明を完成した。
【0011】
本発明の要旨は、下記の(1)〜(3)に示すブレーキディスク用Al基複合材料の製造方法およびその製造方法にある。
(1)Al合金とSiC粒子とを複合したブレーキディスク用Al基複合材であって、Al基複合材料中に結晶構造が立方晶であるSiCが含まれることを特徴とするブレーキディスク用Al基複合材料。
(2)Al合金粉末と結晶構造が立方晶のものを含むSiC粒子とを混合し、混合粉を300℃以上で脱ガス処理した後、この混合粉をホットプレスにより固化することを特徴とする上記の(1)のブレーキディスク用Al基複合材料の製造方法。
(3)Al合金溶湯を噴霧し、微細な液滴が凝固を完了する前に基板上に堆積させるスプレーフォーミング法によるAl合金の製造方法において、堆積面に結晶構造が立方晶のものを含むSiC粒子を吹付け、SiC粒子を液滴と同時に堆積させることを特徴とする上記の(1)のブレーキディスク用Al基複合材料の製造方法。
【0012】
図1は、SiCの粒子形状を示す図であり、(a)は結晶構造が六方晶系のα型SiCのSEM写真、(b)は結晶構造が立方晶系のβ型SiCのSEM写真である。同図に示すとおり、α型SiCは、その形状が鋭利であるが、β型SiCは、その形状が丸みを帯びており、表面に階段状の段差が見られる。β型SiCの場合、同図(b)に示すような形状を有するので、α型SiCに比べてAl合金との接触面積が大きく、その結果SiCが脱落しにくくなる。従って、β型SiCを含むブレーキディスクは、使用中にSiCの脱落が少なく、ライニングが摺動する面に残存するSiC量が多くなるので、耐摩耗性に優れるのである。
【0013】
本発明のディスクブレーキ用Al基複合材料において母材は、純Alでも良いが、特にAl−Si系合金が望ましい。以下、ディスクブレーキ用Al基複合材料の母材としてAl−Si系合金を使用する場合の各元素の望ましい含有量の範囲とその限定理由を述べる。
【0014】
Siは、Al合金のマトリックス中に分散し、材料の耐摩耗性を高める効果を有する元素であるが、5質量%未満ではその効果が不十分であり、15質量%を超えると切削性および鍛造性が低下する。従って、5〜15質量%の範囲で含有させるのが望ましい。
【0015】
Al合金を構成する元素として上記のSiのほか、CuおよびMgの1種または2種を下記の含有量の範囲で含有させてもよい。
【0016】
Cuは、Al合金中に固溶して強度および耐摩耗性を改善するのに有効な元素であるが、0.5質量%未満ではその効果が不十分であり、5質量%を超えると、切削性、鍛造性および耐食性が低下する。従って、0.5〜5質量%の範囲で含有させてもよい。
【0017】
Mgは、Al合金に固溶して強度および耐摩耗性を改善するのに有効な元素であり、特にCuと共存した場合に顕著な効果が得られるが、0.05質量%未満ではその効果が不十分であり、1.0質量%を超えると、切削性、鍛造性および熱伝導率が低下する。従って、含有させるとしても0.05〜1.0質量%の範囲で含有させてもよい。
【0018】
更に、Al合金中にFe:0.5質量%以下、Zr:0.5質量%以下、V:0.5質量%以下、Ni:0.5質量%以下、Mn:1.0質量%以下、Mo:0.5質量%以下、Cr:0.5質量%以下、Ti:0.5質量%以下、Zn:0.5質量%以下の1種または2種以上を含有させることにより、材料の強度を高めることができるので、ブレーキディスクの耐摩耗性および耐焼付性を向上させることができる。
【0019】
本発明のブレーキディスク用Al基複合材料の製造方法は、粉末冶金法あるいはスプレーフォーミング法のいずれかを採用すればよい。
【0020】
粉末冶金法とは、一般に、Al合金溶湯を噴霧して製造したAl合金粉末とSiC粒子とを混合し、この混合粉を300℃以上で脱ガス処理した後、熱間押出またはホットプレスにより固化する方法をいう。ここで、脱ガス処理は、真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で300℃以上の温度で保持することにより、粉末表面に吸着している水分を除去する工程である。
【0021】
スプレーフォーミング法とは、一般に、Al合金溶湯を噴霧し、微細な液滴が凝固を完了する前に基板上に堆積させると同時に、堆積面にSiC粒子を吹付け、SiC粒子をAl合金の液滴と同時に堆積させる方法をいう。
【0022】
これらの製造方法の外、Al合金溶湯にSiC粒子を添加し鋳造する方法がある。これら方法によれば、SiC粒子を凝集あるいは偏析させることなく、Al合金中に均一に分散させることができ、更に、Al合金の組織が微細であるため製造された複合材料の強度が高い。また、上記のいずれかの方法で製造したAl基複合材料を、必要に応じて鍛造しても良い。
【0023】
【実施例】
実施例1〜6のディスクは、下記の粉末冶金法により作製した。
エアアトマイズ法により作製したAl−8%Si−1%Cu系合金粉末にα型および/またはβ型のSiC粒子を混合して、封缶した後、480℃で1時間の真空脱ガス処理を施し、450℃で面圧約30kg/mm2のホットプレスを行った。このようにして得たAl基複合材料を鍛造して、外径400mm、厚み20mmのディスクに加工した。
【0024】
実施例7のディスクは、下記のスプレーフォーミング法により作製した。
Al−10Si−0.3Mn−0.3Mg系合金を溶解し、窒素ガスアトマイズ法により溶湯を液滴化し、アトマイズノズル下部の回転円板型コレクタ上に半凝固状態で堆積させた。このとき、β型SiC粒子をアトマイズ用の窒素ガスに乗せてコレクタ上に噴射させてアルミニウム合金とともに堆積させた。堆積したプリフォームの寸法は、外径260mm、高さ300mm程度であった。このプリフォームから外径250mm、高さ100mmの円柱を切り出し、450℃に加熱した後、油圧プレスを用いて圧下速度2mm/secで据込み、外径400mm、厚み20mmのディスクに加工した。
【0025】
このようにして作製したそれぞれのディスクブレーキに下記の条件で摩耗試験を施した。
<摩耗試験条件>
ライニング材質 :レジン材
ライニング押付位置:直径340mm(ディスク両面から押し付ける方式)
ライニング形状 :26mm×26mm
ライニング押付荷重:568N(面圧:0.84MPa)
ディスク回転数 :3110rpm(摺動速度:199.3km/h)
1回の試験時間 :60秒(一回の摺動距離:3.3×103m)
ただし、上記の条件で1回の試験でディスクの温度が220℃程度まで上昇したので、各回の試験後、60℃まで冷却した後に次の試験をする手順で行った。
【0026】
それぞれのブレーキディスクについて上記の試験を行い、試験回数に対応した摩耗体積および下記の式から求められる比摩耗量H(mm3/J)を求めた。
H=W/(L・P)
なお、W:試験回数が20回目以降の摩耗体積(mm3)、L:摺動距離(m)、P:ライニング押付荷重(N)である。
【0027】
表1にディスクの条件および摩耗試験結果を示す。
【0028】
【表1】
表1に示すとおり、β型SiCを含む本発明例(実施例1〜4および7)は、β型SiCを含まない比較例(実施例5および6)と比較して比摩耗量が1/3程度となっており、本発明の優れた耐摩耗性を確認できた。
【0029】
【発明の効果】
本発明によれば、優れた耐摩耗性を有するので、自動車、自動二輪車用ブレーキディスクをはじめ、特に、高速かつ大重量の鉄道用ブレーキディスクとして好適なAl基複合材料およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】SiCの粒子形状を示す図であり、(a)は結晶構造が六方晶系のα型SiCのSEM写真、(b)は結晶構造が立方晶系のβ型SiCのSEM写真である。
Claims (3)
- Al合金とSiC粒子とを複合したブレーキディスク用Al基複合材であって、Al基複合材料中に結晶構造が立方晶であるSiCが含まれることを特徴とするブレーキディスク用Al基複合材料。
- Al合金粉末と結晶構造が立方晶のものを含むSiC粒子とを混合し、混合粉を300℃以上で脱ガス処理した後、この混合粉をホットプレスにより固化することを特徴とする請求項1に記載のブレーキディスク用Al基複合材料の製造方法。
- Al合金溶湯を噴霧し、微細な液滴が凝固を完了する前に基板上に堆積させるスプレーフォーミング法によるAl合金の製造方法において、堆積面に結晶構造が立方晶のものを含むSiC粒子を吹付け、SiC粒子を液滴と同時に堆積させることを特徴とする請求項1に記載のブレーキディスク用Al基複合材料の製造方法。
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