JP2004288327A - 磁気記録媒体およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】スペーシングロスを大きくすることなく、磁気記録媒体表面の腐食性ガス等の耐食性を向上させる磁気記録媒体の製造方法およびその製造方法により製造された磁気記録媒体。
【解決手段】非磁性基体上に少なくとも磁性層、カーボン保護層、潤滑層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、前記カーボン保護層成膜後に、酸素を15体積%から30体積%含む希ガスと酸素の混合ガス雰囲気下でプラズマ処理することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法、およびその製造方法により製造される、カーボン保護層の表面の酸素濃度が11原子%以上、14原子%以下であり、前記カーボン保護層の水との接触角が4度以下である磁気記録媒体。
【選択図】 なし
【解決手段】非磁性基体上に少なくとも磁性層、カーボン保護層、潤滑層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、前記カーボン保護層成膜後に、酸素を15体積%から30体積%含む希ガスと酸素の混合ガス雰囲気下でプラズマ処理することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法、およびその製造方法により製造される、カーボン保護層の表面の酸素濃度が11原子%以上、14原子%以下であり、前記カーボン保護層の水との接触角が4度以下である磁気記録媒体。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンピュータの外部記憶装置をはじめとする各種磁気記録装置に搭載される磁気記録媒体及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、アルミ系磁気記録媒体では、アルミニウムのブランク材にNi−Pをメッキし、ポリッシュした基板を用いる。その基板表面にテクスチャーと呼ばれる円周状の溝を形成する加工を行う。その後、基板洗浄後、成膜装置中に設置し、真空排気し、加熱した後に、下地層、磁性層およびDLC(ダイアモンドライクカーボン)保護層を成膜する。大気に取り出した後に、潤滑材を塗布するなどして媒体は完成される。
【0003】
DLC保護層は、磁気記録媒体上を磁気ヘッドが安定して浮上すること、また磁気ヘッドがシークする時に磁気記録媒体と磁気ヘッドが接触し磨耗することを防止することを主な目的としている。しかしながら、DLC保護層は、耐磨耗性を維持したまま、腐食性ガスの耐食性を上げることは従来から困難であった。
【0004】
カーボン保護層の成膜方法としては、Ar雰囲気中またはAr+水素または炭化水素雰囲気中で、スパッタ法、またはCVD法により成膜するのが一般的である。Ar雰囲気中またはAr+水素または炭化水素雰囲気中で成膜されたカーボン保護層には、ダングリングボンドと呼ばれる不対電子が存在する。ダングリングボンドは潤滑剤の主要な吸着サイトの一つであるが、これがカーボン保護層の潤滑剤分子に覆われていない微視的な部位(露出部位)に存在する場合には、この部位は、潤滑剤分子と結合せずに、ガス等の汚染物質を吸着する吸着サイトとなり、これにより、CSS耐久性および表面品質安定性が損なわれる。特許文献1は、酸素原子を含む雰囲気下でカーボン保護層の成膜を実施し、カーボン保護層の膜表層が3原子%から15原子%の酸素を含有することにより、カーボン保護層のダングリングボンド部位を減らし、CSS耐久性および表面品質安定性を向上させているが、耐食性に優れた保護層表面を得ることは、未だ不充分である。
【0005】
Ar+N2雰囲気、またはAr+O2雰囲気中でスパッタ法またはCVD法によりカーボン保護層を成膜する方法も提案されている。特許文献2では、CVD法の反応性ガスとして分子内に酸素原子を含む炭化水素と水素を、体積比が1:1から1:100となるように混合した混合ガスを用いるか、あるいは炭化水素として炭素原子数に対する酸素原子の比が0.14から0.5であるものを用いることを特徴とするカーボン保護層成膜方法が提案されている。しかしながら、この場合は、原料ガスとプロセスが更に複雑になるという欠点があり、耐食性に対する言及も行われていない。
【0006】
保護膜成膜後のエッチングのような表面改質については、カーボン保護層の膜表面の酸素量を2.9%から12%とし、窒素量を5.0%から16.5%とし、またはラマン分光分析のB/A値を1.22から1.65とする磁気記録媒体が提案されている(特許文献3)。しかしながら、既提案の内容では、耐食性に優れた保護層表面を得ることは、未だ不充分である。
【0007】
また、保護層成膜時に、2つ以上の成膜プロセスを用いて、より表面には耐食性を有する材料を成膜してもよいが、保護層全体の膜厚が厚くなってしまい、スペーシングロスが大きくなってしまう。
【0008】
【特許文献1】
特開平8−180383号公報
【0009】
【特許文献2】
特開2001−23156号公報
【0010】
【特許文献3】
特開2001−14657号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
磁気記録媒体の高記録密度化が進むにつれて、磁気記録媒体に書き込まれるデータの最小単位である1ビットのサイズは小さくなっており、磁気ヘッドと磁気記録媒体とのスペーシングも小さくなってきている。その場合、スペーシングロスを大きくすることなく磁気記録媒体表面の腐食性ガス等の耐食性を益々高めていく必要がある。
【0012】
本発明では、これらの観点から、薄膜化できる高性能と、優れた耐食性を有する、磁気記録媒体の高記録密度化に対応した保護層を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、水の接触角が4度以下であり、カーボン保護層表面の酸素含有率が11原子%から14原子%であるカーボン保護層を有する磁気記録媒体およびその製造方法を提供する。
【0014】
具体的には、本発明の第1として、非磁性基体上に少なくとも磁性層、カーボン保護層、潤滑層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、前記カーボン保護層成膜後に、酸素を15体積%から30体積%含む希ガスと酸素の混合ガス雰囲気下で、カーボン保護層をプラズマ処理することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
【0015】
さらに、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基体上に少なくとも磁性層、カーボン保護層、潤滑層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、プラズマ処理されたカーボン保護層を、酸素を0.5体積%から30体積%含む希ガスと酸素の混合ガス雰囲気下に、0.5mTorrから660mTorrで0.5秒から10秒曝露させる工程を、任意選択的に含んでもよい。
【0016】
本発明の第2として、本発明の第1の製造方法により製造される磁気記録媒体であって、非磁性基体上に少なくとも磁性層、カーボン保護層、潤滑層を有する磁気記録媒体において、前記カーボン保護層の表面の酸素濃度が11原子%以上、14原子%以下であり、前記カーボン保護層の水との接触角が4度以下であることを特徴とする磁気記録媒体を提供する。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明は、水の接触角が4度以下であり、表面の酸素含有率が11原子%から14原子%のカーボン保護層を有する磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【0018】
磁気記録媒体の高記録密度化の現在において、スペーシングロスを大きくすることなく耐食性を向上させるには、潤滑剤分子に結合することなくカーボン保護層に存在し、各種ガス等の汚染物質吸着サイトとなる過剰なダングリングボンドを減少させればよい。このダングリングボンドを減少させるには、いくつかの方法がある。第1の方法は、酸素を含む雰囲気下でのプラズマ処理により、保護層表面の水素を酸素に置換することにより、保護層表面の過剰なダングリングボンドを減少させる方法がある。しかしこの方法のみでは十分な耐食性を得ることができず、本願発明の目的とするものではない。この方法に加え、第2の方法として、保護層の上に塗布される潤滑剤との関係からも方法を考える必要がある。潤滑剤が保護層に被覆する割合を高めることができれば、ダングリングボンドが潤滑剤と結合する割合が高まり、汚染物質吸着サイトとなる過剰なダングリングボンドが減少すると考えられる。潤滑剤の分子に覆われていない部位ができるのは、保護層の表面の表面エネルギーが低いことが原因であると考えられることから、保護層の表面エネルギーを高めることにより、潤滑剤が保護層を被覆する割合を高めようとする方法である。表面エネルギーの大きさは、表面上の水の接触角を指標として簡便に計測することができ、接触角が低い程表面エネルギーが高いことを示す。
【0019】
本発明は、第1の方法のみでは十分な耐食性が得られないところを、第2の方法と組み合わせることにより、スペーシングロスをすることなく優れた耐食性を獲得する。
【0020】
したがって、本発明は、カーボン保護層の表面の酸素濃度が11原子%以上、14原子%以下であり、カーボン保護層の水との接触角が4度以下であることを耐食性獲得の指標として、これを満足する磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【0021】
本発明は、第1に、保護層表面の酸素含有率を11原子%から14原子%とするために、酸素を15体積%から30体積%含む希ガスと酸素の混合ガス雰囲気下でプラズマ処理をすることにより、保護層表面付近の水素を酸素に置換する。第2に、保護層の水の接触角を4度以下に規定することにより、保護層の表面エネルギーを高め、潤滑剤が保護層上に塗布された場合に相互作用が高まり、これにより、潤滑剤が保護層表面を被覆する割合を高めることを可能にする。これら2つの点から、ダングリングボンドを減少させ、スペーシングロスを大きくすることなく耐食性を向上させることに本発明の特徴がある。
【0022】
以下、本発明の磁気記録媒体の製造方法について説明する。
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、一般的な磁気記録媒体に適用可能であるが、具体例を示せば以下のようになる。
【0023】
本発明の方法は、基板上に下地層を成膜する工程と、中間層を成膜する工程と、磁性層を成膜する工程と、保護層を成膜する工程と、保護層をプラズマ処理する工程と、任意選択的に保護層を曝露する工程と、潤滑層を成膜する工程とを含む。これらの工程は、一般的に、ターゲットを備えた真空成膜装置を用い、下地層、中間層、磁性層、および保護層を連続で成膜する。以下各工程について説明する。
【0024】
第1の工程は、基板を加熱した後、基板上に、Cr、CrW合金またはCrMo合金等からなる下地層を、スパッタ法等の慣用の方法を用いて基板に成膜する工程である。本発明で用いる基板は通常アルミニウムのブランク材にNi−Pメッキし、ポリッシュした基板を用いる。これ以外にもアルマイト、セラミック、シリコン、プラスチックおよび耐衝撃性を向上させるためにガラス基板も用いることができる。ガラス基板を用いる場合は、Ta、Zr、Nb、NiP、NiAl、RuAl、NiTa、NiNb、WNb、CoW等からなる1nmから100nmのシード層を、スパッタ、蒸着またはCVD等の慣用の方法により予め成膜してもよい。これらの基板には表面にテクスチャー加工が施されている。下地層は、一般に、3nmから20nmの膜厚を有する。
【0025】
第2の工程は、スパッタ法等の慣用の方法を用いて、中間層を成膜する工程である。好ましい材料は、CoCrTa合金、CoCrPt合金、およびCoCrPtB合金等である。中間層は、一般に、0.5nmから2nmの膜厚を有する。
【0026】
第3の工程は、Coを主とする磁性材料からなる磁性層を、スパッタ法等の慣用の方法を用いて成膜する工程である。好ましい磁性材料は、CoCr合金、CoCrTa合金、CoNiCr合金、CoCrPt合金、CoCrPtTa合金、CoNiPt合金、CoNiCrPt合金およびCoCrPtB合金である。磁性層は、一般に、5nmから20nmの厚さを有する。
【0027】
第4の工程は、保護層を、スパッタ法またはCVD等の慣用の方法を用いて磁性層の上に成膜する工程である。本発明では保護層をカーボン保護層とし、好ましい材料は、カーボン(C)、シリコンカーバイド(SiC)、カーボンナイトライド(CN)等であり、およびより好ましくはダイヤモンドライクカーボン(DLC)である。保護層は、一般に、1nmから6nmの厚さを有する。
【0028】
第5の工程は、前工程で成膜された保護層をプラズマ処理する工程である。この工程を、以下に説明する工程および条件により、水の接触角が4度以下、保護層表面の酸素含有率が11原子%から14原子%の保護層を得ることが可能となる。
【0029】
具体的には、まず保護層の成膜を完了した磁気記録媒体を大気に取り出し、プラズマ処理を実施可能なチャンバーを具えた真空成膜装置に設置する。この手順は、保護層の成膜後、大気に取り出すことなく、連続して保護層の成膜を行うことも可能である。
【0030】
次に、プラズマ処理に用いるガスをチャンバー内に導入する。ここで用いられるガスは、不活性ガスと反応性ガスの混合ガスである。不活性ガスとして好ましいのは、Ar、He、Ne、Kr、Xe等の希ガスであり、より好ましいのはArである。反応性ガスとして好ましいのは、酸素である。混合ガスにおける酸素の割合は、例えば、15体積%から30体積%、好ましくは20体積%から25体積%が適している。
【0031】
チャンバー内の条件は、内圧が、5mTorrから60mTorr、好ましくは40mTorrから55mTorrが適している。温度は0℃から200℃、好ましくは20℃から80℃が適している。
【0032】
次に、プラズマ処理を行う。プラズマ処理の方式は、RIE型、ECR型、ヘリコン波型、およびRFグローエッチングを含むICP型、ホローカソードまたはフィラメントにより熱電子を供給する手段を有するイオンソース型、またはラジアルラインスロットアンテナ型等、エッチング可能な方式であれば特に制限はない。好ましいのはRFグローエッチングである。
【0033】
チャンバー内が以上のような条件で、プラズマ処理によるエッチングを行う。エッチングの条件は、用いるプラズマ処理の方式にも異なるが、高周波電力は、20Wから200W、好ましくは30Wから100W、最も好ましくは60Wが適している。また、周波数は、13.56MHzから2.45GHz、好ましくは13.56MHzが適している。処理時間は、0.5秒から10秒、好ましくは3秒から6秒が適している。
【0034】
次に、任意選択的な工程として、プラズマ処理後に不活性ガスと反応性ガスの混合ガス雰囲気下に曝露させる工程をさらに含んでもよい。この工程を以下に記載するような条件で行うことにより、前工程のプラズマ処理を受けたのみの磁気記録媒体よりも、耐食性をより向上させることができる。
【0035】
この工程において用いられるガスは、不活性ガスと反応性ガスの混合ガスである。不活性ガスとして好ましいのは、Ar、He、Ne、Kr、Xe等の希ガスであり、より好ましいのはArである。反応性ガスとしては酸素が好ましい。この混合ガスにおける酸素の割合は、0.5体積%から30体積%、好ましくは1体積%から5体積%が適している。その他の条件として、内圧は、0.5mTorrから660mTorr、好ましくは10mTorrから20mTorr、曝露時間は、0.5秒から10秒、好ましくは1秒から8秒が適している。この工程は、前工程のプラズマ処理と連続して行っても、別個に行ってもよい。
【0036】
次の工程は、潤滑層を保護層の上に成膜する工程である。潤滑層に用いられる潤滑剤は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)が一般的に使用され、ソルベイソレクシス(株)から、商品名Z−DOL、AM、およびZ−Tetraolとして市販されている。また、摺動耐久性、PFPE分解抑制剤として、X−Lube社から、商品名X−1Pとして市販されているフォスファーゼン系添加剤を併用する場合がある。潤滑層は、ディップ法、スプレー法、スピンコート法または真空蒸着法により成膜される。潤滑層は、下層である保護層が、水の接触角が4度以下という表面エネルギーが極めて高い保護層であることから、通常の保護層より高い相互作用を生じ、表面の被覆割合を高めることができる。潤滑層は、一般に、1nmから2nmの厚さを有する。
【0037】
本発明の方法は、保護層成膜後のプラズマ処理および任意選択的な曝露処理が中心部分であり、さらなる層が成膜される工程、または磁気記録層を二層に成膜する工程等の変更が加えられる場合においても実施可能である。
【0038】
次に本発明の第2について説明する。
【0039】
本発明の第2は、本発明の第1の製造方法によって製造された磁気記録媒体である。本発明の第2の磁気記録媒体は、本発明の第1の製造方法により製造されることにより、水の接触角が4度以下であり、表面の酸素含有率が11原子%から14原子%の保護層を有することが可能である。
【0040】
本発明の磁気記録媒体の構造について説明する。
【0041】
本発明の磁気記録媒体は、一般的な磁気記録媒体であり、基板、下地層、中間層、磁性層、保護層、および潤滑層が順次積層された構造を有する。以下の本発明の磁気記録媒体の各層について説明するが、以下の説明は一般的な構成の磁気記録媒体であって、多少の変更が可能である。
【0042】
第1層は基板である。通常用いられる基板は、通常アルミニウムのブランク材にNi−Pをメッキし、ポリッシュした基板を用いる。これ以外にも、好ましい材料は、アルマイト、セラミック、シリコン、プラスチック、および対衝撃性を向上させるためのガラス基板である。ガラス基板を用いる場合には、Ta、Zr、Nb、NiP、NiAl、RuAl、NiTa、NiNb、WNb、CoW等からなる1nmから100nmのシード層を予め成膜してもよい。これらの基体は表面にテクスチャー加工が施されている。
【0043】
第2層は下地層である。次に成膜する中間層の磁気的特性を向上させるために挿入される。好ましい下地層の材料は、Cr、CrW合金またはCrMo合金である。下地層は、一般に、3nmから20nmの膜厚を有する。
【0044】
第3層は中間層である。次に成膜する磁性層の磁気的特性を向上させるために挿入される。好ましい中間層の材料は、CoCrTa合金、CoCrPt合金、およびCoCrPtB合金等である。中間層は、一般に、0.5nmから2nmの膜厚を有する。
【0045】
第4層は磁性層である。情報を記録するための層であり、磁性層の材料としては、Coを主とする磁性材料により成膜される。好ましい磁性材料は、CoCr合金、CoCrTa合金、CoNiCr合金、CoCrPt合金、CoCrPtTa合金、CoNiPt合金、CoNiCrPt合金およびCoCrPtB合金である。磁性層は、一般に、5nmから20nmの厚さを有する。
【0046】
第5層は保護層である。保護層は、下にある層のヘッド接触による破壊を防止するために成膜される、一般に、1nmから6nmの厚さを有する層であり、本発明ではカーボン保護層とする。好ましい材料は、カーボン(C)、シリコンカーバイド(SiC)、およびカーボンナイトライド(CN)を含む。とりわけ好ましい材料は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)が用いられる。これは硬いカーボン系保護膜であり、潤滑性に優れ、また摩耗し難い。
【0047】
本発明の保護層表面は、エッチング処理が施されており、水の接触角が4度以下、保護層表面の酸素含有率が、11原子%から14原子%である特徴を有する。
【0048】
カーボン保護層は、Ar雰囲気中やAr+水素または炭化水素の雰囲気中で成膜された場合に、ダングリングボンドと呼ばれる不対電子が存在する。このダングリングボンドは潤滑剤の主要な吸着サイトの一つでもあるが、上層の潤滑剤の分子に覆われていない部位(露出部位)の保護層には、ダングリングボンドが表面に露出する。これが各種ガス等の汚染物質を吸着することにより、磁気記録媒体を劣化させる。このような状態を回避すべく、本発明の磁気記録媒体は、保護層表面の酸素含有率を、11原子%から14原子%、好ましくは12原子%から14原子%、より好ましくは13原子%から14原子%とすることで、水素原子を酸素原子に置換し、過剰なダングリングボンドを減少させる。また、保護層の水の接触角を4度以下に規定することにより、保護層の表面エネルギーを高め、潤滑剤が保護層上に塗布された場合に相互作用が高まり、そして潤滑剤が保護層表面を被覆する割合を高め、結果として潤滑剤の分子に覆われていない部位(露出部位)のダングリングボンドを減少させることができる。これら2つの点から、潤滑剤の分子に覆われていないダングリングボンドを減少させるため、本発明の磁気記録媒体は、スペーシングロスを大きくすることなく耐食性を向上させることができるのである。
【0049】
第5層は潤滑層である。潤滑剤の好ましい材料は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)が一般的に使用され、ソルベイソレクシス(株)から、商品名Z−DOL、AM、およびZ−Tetraolとして市販されている。また、摺動耐久性、PFPE分解抑制剤として、X−Lube社から、商品名X−1Pとして市販されているフォスファーゼン系添加剤を併用する場合がある。潤滑層は、一般に、1nmから2nmの厚さを有する。潤滑層は、下層が、水の接触角が4度以下という表面エネルギーが極めて高い保護層であることから、通常の保護層より高い相互作用を生じ、表面の被覆割合を高めることができる。
【0050】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示すが、以下の実施例は、本発明を好適に説明する代表例に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
【0051】
(実施例)
基板は、アルミニウムのブランク材にNi−Pをメッキし、ポリッシュした基板を用いた。その基板表面に、テクスチャーと呼ばれる円周状の溝を形成する加工を、Ra=約0.5nmになるように行った。その後、基板の洗浄を行い、成膜装置の中に設置し、5×10−7Torr以下まで真空排気し、250℃から350℃に加熱した後に、3mTorrから15mTorrのAr雰囲気下でCr下地層(2nmから15nm)、CrMo等の合金下地層(1nmから5nm)、CoCrTa中間層(0.8nmから1.5nm)及びCo系合金磁性層(8nmから16nm)を、スパッタにより順次成膜した。さらに1mTorrから10mTorrのAr雰囲気下で、CVD法により成膜時にN2を混合したDLC保護層(4.5nm)を成膜した。大気に取り出した後に、RFグローエッチングチャンバーを備えた真空成膜装置に再度設置し、40mTorrから55mTorrの、Arのみ(試料C、F)か、またはAr+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下(試料A、B、D、E)で、60WのRFグローエッチングを行った。一部の試料については、エッチングの直後に、真空成膜装置内で、14.5mTorrのAr+5体積%O2雰囲気に2.3秒間曝露して取り出した(試料D、E、F)。その後、フルオロカーボン(例えば、3M製PF5060、ソルベイソレクシス製ZS100)を溶媒として、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤(例えばソルベイソレクシス製Fomblin Z−TETRAOL)が0.04質量%になるように希釈した液体潤滑剤を、膜厚が2nmになるようにディップコート法により保護膜上に塗布して、潤滑層を成膜し、磁気記録媒体とした。
【0052】
以上のようにして作製された試料AからFのエッチングプロセス条件を表1に示す。比較例は、保護層までの成膜を行った後、大気に取り出し、その後RFグローエッチングチャンバーを備えた真空成膜装置に設置したのみで、エッチングプロセスを行わないで取り出した以外は同様の操作により作製された試料である。
【0053】
【表1】
【0054】
(保護層表面の表面特性評価方法)
保護層表面の表面特性評価であるため、以下の表面特性評価方法に用いられる試料は、実施例の操作のうち保護層を成膜する工程まで行われ、潤滑層が成膜されていない試料である。
【0055】
(1)保護層の表面エネルギー(水の接触角)
保護層表面の表面エネルギーについて水の接触角計を用いて測定した。保護層の表面エネルギーは、保護層表面のダングリングボンドの量によって決定されるが、保護層表面のダングリングボンドの分析手法は、有効な手段がほとんどなく、水の接触角による評価が簡便でよい評価指標であるからである。
【0056】
水の接触角については、協和界面科学(株)製FACE CA−X150F型接触角計にて、試料表面に純水を0.4μl滴下して出来る液滴を観察して、画像処理式3点クリック法により、水の液滴と試料表面との成す接触角を評価した。
【0057】
(2)保護層の表面の酸素濃度および窒素濃度
表面の酸素濃度と窒素濃度はESCA装置を用いて評価した。
ESCA装置(島津製作所、ESCA3200)を用い、保護層表面の酸素量及び窒素量を以下の式に基づいて測定した。ESCA(XPS)は代表的な表面分析装置の一つであり、固体の表面から数nmの深さ領域に関する元素および化学結合状態の分析に用いることができる。磁気記録媒体の保護層の膜厚は約4.5nmであるため、保護層のほぼ全体に関するデータを得ることができる。
酸素量(%)=(O1sピーク面積/感度因子)/(C1sのピーク面積/感度因子+O1sのピーク面積/感度因子+N1sのピーク面積/感度因子)
窒素量(%)=(N1sピーク面積/感度因子)/(C1sのピーク面積/感度因子+O1sのピーク面積/感度因子+N1sのピーク面積/感度因子)
感度因子とは、ESCA装置における本来の元素の検出感度等を反映する因子をいう。
【0058】
装置仕様及び測定条件は、次のとおりである:
アノード:アルミニウム製、
スポットサイズ:約φ4mm、
面積の求め方:フィッティング法(C:Gaussianフィッティング、N,O:Gaussian+Lorentzフィッティング)。
【0059】
(3)保護層の膜評価
保護層の膜評価はラマン分光分析装置を用いて評価した。
ラマン分光分析については、ラマン分光分析装置 U−1000(Jobin・Yvon社製)を用いて、ラマン分光法(光源:Arレーザー、波長:514.5nm、出力:300mW、露光時間:15秒、面積の求め方:Gaussianフィッティング)により評価した。B/Aは、バックグラウンドを含むDLCピーク強度(B)のバックグラウンドを差し引いた正味のDLCピーク強度(A)に対する割合を示す。カーボン保護膜が、1560cm−1付近のグラファイト部分と、1380cm−1付近のディスオーダー部分の2つから構成されると仮定して、ラマン波形に対してグラファイトとディスオーダーの2つをGaussianフィッティングさせる。GXは1560cm−1付近のグラファイト(G)ピークの波数を示す。DXは1380cm−1付近のディスオーダー(D)ピークの波数を示す。ID/IGはフィッティングさせたDピークのガウシアン波形の面積の同様なGピークの面積に対する割合を示す。Dh/Ghは、Dピーク強度のGピーク強度に対する割合を示す。
【0060】
(4)表面残留成分分析
表面残留成分分析には、潤滑層を有する磁気記録媒体を試料として用いるのが好ましいが、潤滑剤を塗布すると、ガス吸着量が約1/10に減少するため、分析が容易である潤滑層のない試料を用いた。
潤滑剤塗布前の試料を、0.1ppmのSO2ガス大気圧雰囲気中で、23℃、50%RHのような環境で10時間放置した。その後、試料を10mm×10mmに切り出して、TOF−SIMS分析装置(アルバック・ファイ(株)製飛行時間型二次イオン質量分析装置TOF−SIMS TRIFT II)にて、表2のような条件で、保護層表面の残留成分を分析した。TOF−SIMSは、深さ数Å程度という試料の表面に存在する有機物・無機物についてppmオーダーの極微量成分を検出することができる特徴を有する。
【0061】
【表2】
【0062】
(結果)
(1)保護層の表面エネルギー
結果を表3に示す。エッチングを行わなかった比較例では、水の接触角が38.6度であるのに対し、エッチングを行った試料全てにおいて、水の接触角は15.5度以下に低下した。特に、Ar+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下のエッチングを行ったものでは、接触角は、3.6度以下と、極端に低下した。この結果は、エッチング処理のみでも接触角を低下させることが可能であるが、Ar+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下のエッチングにより、より接触角を低下させることができる。
【0063】
(2)保護層の表面の酸素濃度および窒素濃度
結果を表3に示す。酸素濃度は、エッチングを行わなかった比較例が4.8原子%であるのに対し、エッチングを行った試料は10.8原子%以上に増加した(試料AからF)。特にAr+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下のエッチングを行った試料では、酸素濃度は13原子%以上に大きく増加している(試料A、B、D、E)。さらにその後にAr+5体積%O2混合ガス雰囲気下で曝露させることで、さらに酸素濃度を増加させることが可能である(試料D、E、F)。これは、保護層の表面付近の酸素濃度が高くなっていることを示し、水素が酸素によって置換され、ダングリングボンドが減少していることと対応している。
【0064】
窒素濃度については、エッチングを行った試料の酸素濃度が大きく増加したのにも関わらず、比較例が8.6原子%であるのに対し、エッチングを行った全ての試料で7原子%から8原子%という、1原子%から1.5原子%のわずかな減少に留まった(実施例AからF)。この結果により、酸素と置換したのは、主に水素であると考えられる。
【0065】
【表3】
【0066】
(3)保護層の膜評価
結果を表4に示す。B/A値は、エッチングを施さない比較例の1.25に対し、エッチングを行った試料は若干増加し、1.27から1.32の値となった(試料AからF)。その場合、GXは、比較例の値より若干低くなった。一方、DX、ID/IG、およびDh/Ghは、ほぼ同等であった。このことは、C膜表面における、sp2結合のC微粒子とsp3結合のC微粒子が、エッチングにより、sp3結合のC微粒子を主とした鎖状ポリマー構造に変化したことを示している。また、膜全体での、sp2結合のC微粒子とsp3結合のC微粒子の割合は、変化していないことを示している。
【0067】
【表4】
【0068】
(4)表面残留成分分析
結果を表3に示す。SO3ピークとHSO4ピークについて調べた結果、Ar+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下のエッチングを行った試料(試料A、B、D、E)のSO3ピークとHSO4ピークは、比較例およびArガス雰囲気下のエッチング(試料C、F)が3000以上にあるのに対し、最高でも514という非常に小さい値となった。また、Ar+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下のエッチングを行った後、Ar+5体積%O2混合ガス雰囲気下で曝露した試料のピークはさらに小さかった(試料D、E)。このことは、Ar+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下のエッチングを行った試料は、腐食性ガスと接触しても、残留量が少なく、耐食性に優れることを示す。これは、過剰なダングリングボンドが減少したために、ダングリングボンドの腐食性ガスの吸着が減少したためと考えられる。さらに、その後にAr+5体積%O2混合ガス雰囲気下で曝露した試料は、残留量がより少なくなったことから、Ar+5体積%O2混合ガス雰囲気下の曝露は、耐食性の向上に有用であると考えられる。
【0069】
ここで、SO2ガス吸着性の点で、何故良好な結果が得られたかについて、先程の保護層表面の性質との因果関係を考える。試料CおよびFに見られるように、単に保護層表面の酸素濃度が10.8原子%から14.2原子%であること、保護層表面の窒素濃度が7.2原子%から7.7原子%であること、およびラマン分光分析のB/Aが1.27から1.28であるだけでは不充分である。試料A、B、D及びEのように、表面エネルギ―を示す指標である水の接触角が約4度以下となることが、非常に重要であることがわかる。水の接触角が小さいと、表面エネルギーが高く、潤滑材を塗布した場合潤滑材との相互作用が高く、潤滑材が媒体表面を被覆する割合が高くなり、腐食性ガスと保護層の膜とが接触する割合が低くなる。また、保護層表面の水素が酸素によって置換されているため、保護層最表面のダングリングボンドが少なくなり、特にSO2のような腐食性ガスとの反応が抑制されていることが要因の一つと考えられる。
また、ここでの表面改質は、保護層膜厚を厚くしていないので、スペーシングロスを大きくすることはない。
【0070】
【発明の効果】
本発明により、保護層の膜厚を増加させることなく、表面エネルギ―が極端に低く、腐食性ガスを吸着しにくい表面を有する磁気記録媒体を製造することが可能である。本発明は、薄膜化が可能であり、かつ優れた耐食性を有する、信頼性の高い高記録密度に対応した磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンピュータの外部記憶装置をはじめとする各種磁気記録装置に搭載される磁気記録媒体及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、アルミ系磁気記録媒体では、アルミニウムのブランク材にNi−Pをメッキし、ポリッシュした基板を用いる。その基板表面にテクスチャーと呼ばれる円周状の溝を形成する加工を行う。その後、基板洗浄後、成膜装置中に設置し、真空排気し、加熱した後に、下地層、磁性層およびDLC(ダイアモンドライクカーボン)保護層を成膜する。大気に取り出した後に、潤滑材を塗布するなどして媒体は完成される。
【0003】
DLC保護層は、磁気記録媒体上を磁気ヘッドが安定して浮上すること、また磁気ヘッドがシークする時に磁気記録媒体と磁気ヘッドが接触し磨耗することを防止することを主な目的としている。しかしながら、DLC保護層は、耐磨耗性を維持したまま、腐食性ガスの耐食性を上げることは従来から困難であった。
【0004】
カーボン保護層の成膜方法としては、Ar雰囲気中またはAr+水素または炭化水素雰囲気中で、スパッタ法、またはCVD法により成膜するのが一般的である。Ar雰囲気中またはAr+水素または炭化水素雰囲気中で成膜されたカーボン保護層には、ダングリングボンドと呼ばれる不対電子が存在する。ダングリングボンドは潤滑剤の主要な吸着サイトの一つであるが、これがカーボン保護層の潤滑剤分子に覆われていない微視的な部位(露出部位)に存在する場合には、この部位は、潤滑剤分子と結合せずに、ガス等の汚染物質を吸着する吸着サイトとなり、これにより、CSS耐久性および表面品質安定性が損なわれる。特許文献1は、酸素原子を含む雰囲気下でカーボン保護層の成膜を実施し、カーボン保護層の膜表層が3原子%から15原子%の酸素を含有することにより、カーボン保護層のダングリングボンド部位を減らし、CSS耐久性および表面品質安定性を向上させているが、耐食性に優れた保護層表面を得ることは、未だ不充分である。
【0005】
Ar+N2雰囲気、またはAr+O2雰囲気中でスパッタ法またはCVD法によりカーボン保護層を成膜する方法も提案されている。特許文献2では、CVD法の反応性ガスとして分子内に酸素原子を含む炭化水素と水素を、体積比が1:1から1:100となるように混合した混合ガスを用いるか、あるいは炭化水素として炭素原子数に対する酸素原子の比が0.14から0.5であるものを用いることを特徴とするカーボン保護層成膜方法が提案されている。しかしながら、この場合は、原料ガスとプロセスが更に複雑になるという欠点があり、耐食性に対する言及も行われていない。
【0006】
保護膜成膜後のエッチングのような表面改質については、カーボン保護層の膜表面の酸素量を2.9%から12%とし、窒素量を5.0%から16.5%とし、またはラマン分光分析のB/A値を1.22から1.65とする磁気記録媒体が提案されている(特許文献3)。しかしながら、既提案の内容では、耐食性に優れた保護層表面を得ることは、未だ不充分である。
【0007】
また、保護層成膜時に、2つ以上の成膜プロセスを用いて、より表面には耐食性を有する材料を成膜してもよいが、保護層全体の膜厚が厚くなってしまい、スペーシングロスが大きくなってしまう。
【0008】
【特許文献1】
特開平8−180383号公報
【0009】
【特許文献2】
特開2001−23156号公報
【0010】
【特許文献3】
特開2001−14657号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
磁気記録媒体の高記録密度化が進むにつれて、磁気記録媒体に書き込まれるデータの最小単位である1ビットのサイズは小さくなっており、磁気ヘッドと磁気記録媒体とのスペーシングも小さくなってきている。その場合、スペーシングロスを大きくすることなく磁気記録媒体表面の腐食性ガス等の耐食性を益々高めていく必要がある。
【0012】
本発明では、これらの観点から、薄膜化できる高性能と、優れた耐食性を有する、磁気記録媒体の高記録密度化に対応した保護層を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、水の接触角が4度以下であり、カーボン保護層表面の酸素含有率が11原子%から14原子%であるカーボン保護層を有する磁気記録媒体およびその製造方法を提供する。
【0014】
具体的には、本発明の第1として、非磁性基体上に少なくとも磁性層、カーボン保護層、潤滑層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、前記カーボン保護層成膜後に、酸素を15体積%から30体積%含む希ガスと酸素の混合ガス雰囲気下で、カーボン保護層をプラズマ処理することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
【0015】
さらに、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基体上に少なくとも磁性層、カーボン保護層、潤滑層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、プラズマ処理されたカーボン保護層を、酸素を0.5体積%から30体積%含む希ガスと酸素の混合ガス雰囲気下に、0.5mTorrから660mTorrで0.5秒から10秒曝露させる工程を、任意選択的に含んでもよい。
【0016】
本発明の第2として、本発明の第1の製造方法により製造される磁気記録媒体であって、非磁性基体上に少なくとも磁性層、カーボン保護層、潤滑層を有する磁気記録媒体において、前記カーボン保護層の表面の酸素濃度が11原子%以上、14原子%以下であり、前記カーボン保護層の水との接触角が4度以下であることを特徴とする磁気記録媒体を提供する。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明は、水の接触角が4度以下であり、表面の酸素含有率が11原子%から14原子%のカーボン保護層を有する磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【0018】
磁気記録媒体の高記録密度化の現在において、スペーシングロスを大きくすることなく耐食性を向上させるには、潤滑剤分子に結合することなくカーボン保護層に存在し、各種ガス等の汚染物質吸着サイトとなる過剰なダングリングボンドを減少させればよい。このダングリングボンドを減少させるには、いくつかの方法がある。第1の方法は、酸素を含む雰囲気下でのプラズマ処理により、保護層表面の水素を酸素に置換することにより、保護層表面の過剰なダングリングボンドを減少させる方法がある。しかしこの方法のみでは十分な耐食性を得ることができず、本願発明の目的とするものではない。この方法に加え、第2の方法として、保護層の上に塗布される潤滑剤との関係からも方法を考える必要がある。潤滑剤が保護層に被覆する割合を高めることができれば、ダングリングボンドが潤滑剤と結合する割合が高まり、汚染物質吸着サイトとなる過剰なダングリングボンドが減少すると考えられる。潤滑剤の分子に覆われていない部位ができるのは、保護層の表面の表面エネルギーが低いことが原因であると考えられることから、保護層の表面エネルギーを高めることにより、潤滑剤が保護層を被覆する割合を高めようとする方法である。表面エネルギーの大きさは、表面上の水の接触角を指標として簡便に計測することができ、接触角が低い程表面エネルギーが高いことを示す。
【0019】
本発明は、第1の方法のみでは十分な耐食性が得られないところを、第2の方法と組み合わせることにより、スペーシングロスをすることなく優れた耐食性を獲得する。
【0020】
したがって、本発明は、カーボン保護層の表面の酸素濃度が11原子%以上、14原子%以下であり、カーボン保護層の水との接触角が4度以下であることを耐食性獲得の指標として、これを満足する磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【0021】
本発明は、第1に、保護層表面の酸素含有率を11原子%から14原子%とするために、酸素を15体積%から30体積%含む希ガスと酸素の混合ガス雰囲気下でプラズマ処理をすることにより、保護層表面付近の水素を酸素に置換する。第2に、保護層の水の接触角を4度以下に規定することにより、保護層の表面エネルギーを高め、潤滑剤が保護層上に塗布された場合に相互作用が高まり、これにより、潤滑剤が保護層表面を被覆する割合を高めることを可能にする。これら2つの点から、ダングリングボンドを減少させ、スペーシングロスを大きくすることなく耐食性を向上させることに本発明の特徴がある。
【0022】
以下、本発明の磁気記録媒体の製造方法について説明する。
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、一般的な磁気記録媒体に適用可能であるが、具体例を示せば以下のようになる。
【0023】
本発明の方法は、基板上に下地層を成膜する工程と、中間層を成膜する工程と、磁性層を成膜する工程と、保護層を成膜する工程と、保護層をプラズマ処理する工程と、任意選択的に保護層を曝露する工程と、潤滑層を成膜する工程とを含む。これらの工程は、一般的に、ターゲットを備えた真空成膜装置を用い、下地層、中間層、磁性層、および保護層を連続で成膜する。以下各工程について説明する。
【0024】
第1の工程は、基板を加熱した後、基板上に、Cr、CrW合金またはCrMo合金等からなる下地層を、スパッタ法等の慣用の方法を用いて基板に成膜する工程である。本発明で用いる基板は通常アルミニウムのブランク材にNi−Pメッキし、ポリッシュした基板を用いる。これ以外にもアルマイト、セラミック、シリコン、プラスチックおよび耐衝撃性を向上させるためにガラス基板も用いることができる。ガラス基板を用いる場合は、Ta、Zr、Nb、NiP、NiAl、RuAl、NiTa、NiNb、WNb、CoW等からなる1nmから100nmのシード層を、スパッタ、蒸着またはCVD等の慣用の方法により予め成膜してもよい。これらの基板には表面にテクスチャー加工が施されている。下地層は、一般に、3nmから20nmの膜厚を有する。
【0025】
第2の工程は、スパッタ法等の慣用の方法を用いて、中間層を成膜する工程である。好ましい材料は、CoCrTa合金、CoCrPt合金、およびCoCrPtB合金等である。中間層は、一般に、0.5nmから2nmの膜厚を有する。
【0026】
第3の工程は、Coを主とする磁性材料からなる磁性層を、スパッタ法等の慣用の方法を用いて成膜する工程である。好ましい磁性材料は、CoCr合金、CoCrTa合金、CoNiCr合金、CoCrPt合金、CoCrPtTa合金、CoNiPt合金、CoNiCrPt合金およびCoCrPtB合金である。磁性層は、一般に、5nmから20nmの厚さを有する。
【0027】
第4の工程は、保護層を、スパッタ法またはCVD等の慣用の方法を用いて磁性層の上に成膜する工程である。本発明では保護層をカーボン保護層とし、好ましい材料は、カーボン(C)、シリコンカーバイド(SiC)、カーボンナイトライド(CN)等であり、およびより好ましくはダイヤモンドライクカーボン(DLC)である。保護層は、一般に、1nmから6nmの厚さを有する。
【0028】
第5の工程は、前工程で成膜された保護層をプラズマ処理する工程である。この工程を、以下に説明する工程および条件により、水の接触角が4度以下、保護層表面の酸素含有率が11原子%から14原子%の保護層を得ることが可能となる。
【0029】
具体的には、まず保護層の成膜を完了した磁気記録媒体を大気に取り出し、プラズマ処理を実施可能なチャンバーを具えた真空成膜装置に設置する。この手順は、保護層の成膜後、大気に取り出すことなく、連続して保護層の成膜を行うことも可能である。
【0030】
次に、プラズマ処理に用いるガスをチャンバー内に導入する。ここで用いられるガスは、不活性ガスと反応性ガスの混合ガスである。不活性ガスとして好ましいのは、Ar、He、Ne、Kr、Xe等の希ガスであり、より好ましいのはArである。反応性ガスとして好ましいのは、酸素である。混合ガスにおける酸素の割合は、例えば、15体積%から30体積%、好ましくは20体積%から25体積%が適している。
【0031】
チャンバー内の条件は、内圧が、5mTorrから60mTorr、好ましくは40mTorrから55mTorrが適している。温度は0℃から200℃、好ましくは20℃から80℃が適している。
【0032】
次に、プラズマ処理を行う。プラズマ処理の方式は、RIE型、ECR型、ヘリコン波型、およびRFグローエッチングを含むICP型、ホローカソードまたはフィラメントにより熱電子を供給する手段を有するイオンソース型、またはラジアルラインスロットアンテナ型等、エッチング可能な方式であれば特に制限はない。好ましいのはRFグローエッチングである。
【0033】
チャンバー内が以上のような条件で、プラズマ処理によるエッチングを行う。エッチングの条件は、用いるプラズマ処理の方式にも異なるが、高周波電力は、20Wから200W、好ましくは30Wから100W、最も好ましくは60Wが適している。また、周波数は、13.56MHzから2.45GHz、好ましくは13.56MHzが適している。処理時間は、0.5秒から10秒、好ましくは3秒から6秒が適している。
【0034】
次に、任意選択的な工程として、プラズマ処理後に不活性ガスと反応性ガスの混合ガス雰囲気下に曝露させる工程をさらに含んでもよい。この工程を以下に記載するような条件で行うことにより、前工程のプラズマ処理を受けたのみの磁気記録媒体よりも、耐食性をより向上させることができる。
【0035】
この工程において用いられるガスは、不活性ガスと反応性ガスの混合ガスである。不活性ガスとして好ましいのは、Ar、He、Ne、Kr、Xe等の希ガスであり、より好ましいのはArである。反応性ガスとしては酸素が好ましい。この混合ガスにおける酸素の割合は、0.5体積%から30体積%、好ましくは1体積%から5体積%が適している。その他の条件として、内圧は、0.5mTorrから660mTorr、好ましくは10mTorrから20mTorr、曝露時間は、0.5秒から10秒、好ましくは1秒から8秒が適している。この工程は、前工程のプラズマ処理と連続して行っても、別個に行ってもよい。
【0036】
次の工程は、潤滑層を保護層の上に成膜する工程である。潤滑層に用いられる潤滑剤は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)が一般的に使用され、ソルベイソレクシス(株)から、商品名Z−DOL、AM、およびZ−Tetraolとして市販されている。また、摺動耐久性、PFPE分解抑制剤として、X−Lube社から、商品名X−1Pとして市販されているフォスファーゼン系添加剤を併用する場合がある。潤滑層は、ディップ法、スプレー法、スピンコート法または真空蒸着法により成膜される。潤滑層は、下層である保護層が、水の接触角が4度以下という表面エネルギーが極めて高い保護層であることから、通常の保護層より高い相互作用を生じ、表面の被覆割合を高めることができる。潤滑層は、一般に、1nmから2nmの厚さを有する。
【0037】
本発明の方法は、保護層成膜後のプラズマ処理および任意選択的な曝露処理が中心部分であり、さらなる層が成膜される工程、または磁気記録層を二層に成膜する工程等の変更が加えられる場合においても実施可能である。
【0038】
次に本発明の第2について説明する。
【0039】
本発明の第2は、本発明の第1の製造方法によって製造された磁気記録媒体である。本発明の第2の磁気記録媒体は、本発明の第1の製造方法により製造されることにより、水の接触角が4度以下であり、表面の酸素含有率が11原子%から14原子%の保護層を有することが可能である。
【0040】
本発明の磁気記録媒体の構造について説明する。
【0041】
本発明の磁気記録媒体は、一般的な磁気記録媒体であり、基板、下地層、中間層、磁性層、保護層、および潤滑層が順次積層された構造を有する。以下の本発明の磁気記録媒体の各層について説明するが、以下の説明は一般的な構成の磁気記録媒体であって、多少の変更が可能である。
【0042】
第1層は基板である。通常用いられる基板は、通常アルミニウムのブランク材にNi−Pをメッキし、ポリッシュした基板を用いる。これ以外にも、好ましい材料は、アルマイト、セラミック、シリコン、プラスチック、および対衝撃性を向上させるためのガラス基板である。ガラス基板を用いる場合には、Ta、Zr、Nb、NiP、NiAl、RuAl、NiTa、NiNb、WNb、CoW等からなる1nmから100nmのシード層を予め成膜してもよい。これらの基体は表面にテクスチャー加工が施されている。
【0043】
第2層は下地層である。次に成膜する中間層の磁気的特性を向上させるために挿入される。好ましい下地層の材料は、Cr、CrW合金またはCrMo合金である。下地層は、一般に、3nmから20nmの膜厚を有する。
【0044】
第3層は中間層である。次に成膜する磁性層の磁気的特性を向上させるために挿入される。好ましい中間層の材料は、CoCrTa合金、CoCrPt合金、およびCoCrPtB合金等である。中間層は、一般に、0.5nmから2nmの膜厚を有する。
【0045】
第4層は磁性層である。情報を記録するための層であり、磁性層の材料としては、Coを主とする磁性材料により成膜される。好ましい磁性材料は、CoCr合金、CoCrTa合金、CoNiCr合金、CoCrPt合金、CoCrPtTa合金、CoNiPt合金、CoNiCrPt合金およびCoCrPtB合金である。磁性層は、一般に、5nmから20nmの厚さを有する。
【0046】
第5層は保護層である。保護層は、下にある層のヘッド接触による破壊を防止するために成膜される、一般に、1nmから6nmの厚さを有する層であり、本発明ではカーボン保護層とする。好ましい材料は、カーボン(C)、シリコンカーバイド(SiC)、およびカーボンナイトライド(CN)を含む。とりわけ好ましい材料は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)が用いられる。これは硬いカーボン系保護膜であり、潤滑性に優れ、また摩耗し難い。
【0047】
本発明の保護層表面は、エッチング処理が施されており、水の接触角が4度以下、保護層表面の酸素含有率が、11原子%から14原子%である特徴を有する。
【0048】
カーボン保護層は、Ar雰囲気中やAr+水素または炭化水素の雰囲気中で成膜された場合に、ダングリングボンドと呼ばれる不対電子が存在する。このダングリングボンドは潤滑剤の主要な吸着サイトの一つでもあるが、上層の潤滑剤の分子に覆われていない部位(露出部位)の保護層には、ダングリングボンドが表面に露出する。これが各種ガス等の汚染物質を吸着することにより、磁気記録媒体を劣化させる。このような状態を回避すべく、本発明の磁気記録媒体は、保護層表面の酸素含有率を、11原子%から14原子%、好ましくは12原子%から14原子%、より好ましくは13原子%から14原子%とすることで、水素原子を酸素原子に置換し、過剰なダングリングボンドを減少させる。また、保護層の水の接触角を4度以下に規定することにより、保護層の表面エネルギーを高め、潤滑剤が保護層上に塗布された場合に相互作用が高まり、そして潤滑剤が保護層表面を被覆する割合を高め、結果として潤滑剤の分子に覆われていない部位(露出部位)のダングリングボンドを減少させることができる。これら2つの点から、潤滑剤の分子に覆われていないダングリングボンドを減少させるため、本発明の磁気記録媒体は、スペーシングロスを大きくすることなく耐食性を向上させることができるのである。
【0049】
第5層は潤滑層である。潤滑剤の好ましい材料は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)が一般的に使用され、ソルベイソレクシス(株)から、商品名Z−DOL、AM、およびZ−Tetraolとして市販されている。また、摺動耐久性、PFPE分解抑制剤として、X−Lube社から、商品名X−1Pとして市販されているフォスファーゼン系添加剤を併用する場合がある。潤滑層は、一般に、1nmから2nmの厚さを有する。潤滑層は、下層が、水の接触角が4度以下という表面エネルギーが極めて高い保護層であることから、通常の保護層より高い相互作用を生じ、表面の被覆割合を高めることができる。
【0050】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示すが、以下の実施例は、本発明を好適に説明する代表例に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
【0051】
(実施例)
基板は、アルミニウムのブランク材にNi−Pをメッキし、ポリッシュした基板を用いた。その基板表面に、テクスチャーと呼ばれる円周状の溝を形成する加工を、Ra=約0.5nmになるように行った。その後、基板の洗浄を行い、成膜装置の中に設置し、5×10−7Torr以下まで真空排気し、250℃から350℃に加熱した後に、3mTorrから15mTorrのAr雰囲気下でCr下地層(2nmから15nm)、CrMo等の合金下地層(1nmから5nm)、CoCrTa中間層(0.8nmから1.5nm)及びCo系合金磁性層(8nmから16nm)を、スパッタにより順次成膜した。さらに1mTorrから10mTorrのAr雰囲気下で、CVD法により成膜時にN2を混合したDLC保護層(4.5nm)を成膜した。大気に取り出した後に、RFグローエッチングチャンバーを備えた真空成膜装置に再度設置し、40mTorrから55mTorrの、Arのみ(試料C、F)か、またはAr+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下(試料A、B、D、E)で、60WのRFグローエッチングを行った。一部の試料については、エッチングの直後に、真空成膜装置内で、14.5mTorrのAr+5体積%O2雰囲気に2.3秒間曝露して取り出した(試料D、E、F)。その後、フルオロカーボン(例えば、3M製PF5060、ソルベイソレクシス製ZS100)を溶媒として、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤(例えばソルベイソレクシス製Fomblin Z−TETRAOL)が0.04質量%になるように希釈した液体潤滑剤を、膜厚が2nmになるようにディップコート法により保護膜上に塗布して、潤滑層を成膜し、磁気記録媒体とした。
【0052】
以上のようにして作製された試料AからFのエッチングプロセス条件を表1に示す。比較例は、保護層までの成膜を行った後、大気に取り出し、その後RFグローエッチングチャンバーを備えた真空成膜装置に設置したのみで、エッチングプロセスを行わないで取り出した以外は同様の操作により作製された試料である。
【0053】
【表1】
【0054】
(保護層表面の表面特性評価方法)
保護層表面の表面特性評価であるため、以下の表面特性評価方法に用いられる試料は、実施例の操作のうち保護層を成膜する工程まで行われ、潤滑層が成膜されていない試料である。
【0055】
(1)保護層の表面エネルギー(水の接触角)
保護層表面の表面エネルギーについて水の接触角計を用いて測定した。保護層の表面エネルギーは、保護層表面のダングリングボンドの量によって決定されるが、保護層表面のダングリングボンドの分析手法は、有効な手段がほとんどなく、水の接触角による評価が簡便でよい評価指標であるからである。
【0056】
水の接触角については、協和界面科学(株)製FACE CA−X150F型接触角計にて、試料表面に純水を0.4μl滴下して出来る液滴を観察して、画像処理式3点クリック法により、水の液滴と試料表面との成す接触角を評価した。
【0057】
(2)保護層の表面の酸素濃度および窒素濃度
表面の酸素濃度と窒素濃度はESCA装置を用いて評価した。
ESCA装置(島津製作所、ESCA3200)を用い、保護層表面の酸素量及び窒素量を以下の式に基づいて測定した。ESCA(XPS)は代表的な表面分析装置の一つであり、固体の表面から数nmの深さ領域に関する元素および化学結合状態の分析に用いることができる。磁気記録媒体の保護層の膜厚は約4.5nmであるため、保護層のほぼ全体に関するデータを得ることができる。
酸素量(%)=(O1sピーク面積/感度因子)/(C1sのピーク面積/感度因子+O1sのピーク面積/感度因子+N1sのピーク面積/感度因子)
窒素量(%)=(N1sピーク面積/感度因子)/(C1sのピーク面積/感度因子+O1sのピーク面積/感度因子+N1sのピーク面積/感度因子)
感度因子とは、ESCA装置における本来の元素の検出感度等を反映する因子をいう。
【0058】
装置仕様及び測定条件は、次のとおりである:
アノード:アルミニウム製、
スポットサイズ:約φ4mm、
面積の求め方:フィッティング法(C:Gaussianフィッティング、N,O:Gaussian+Lorentzフィッティング)。
【0059】
(3)保護層の膜評価
保護層の膜評価はラマン分光分析装置を用いて評価した。
ラマン分光分析については、ラマン分光分析装置 U−1000(Jobin・Yvon社製)を用いて、ラマン分光法(光源:Arレーザー、波長:514.5nm、出力:300mW、露光時間:15秒、面積の求め方:Gaussianフィッティング)により評価した。B/Aは、バックグラウンドを含むDLCピーク強度(B)のバックグラウンドを差し引いた正味のDLCピーク強度(A)に対する割合を示す。カーボン保護膜が、1560cm−1付近のグラファイト部分と、1380cm−1付近のディスオーダー部分の2つから構成されると仮定して、ラマン波形に対してグラファイトとディスオーダーの2つをGaussianフィッティングさせる。GXは1560cm−1付近のグラファイト(G)ピークの波数を示す。DXは1380cm−1付近のディスオーダー(D)ピークの波数を示す。ID/IGはフィッティングさせたDピークのガウシアン波形の面積の同様なGピークの面積に対する割合を示す。Dh/Ghは、Dピーク強度のGピーク強度に対する割合を示す。
【0060】
(4)表面残留成分分析
表面残留成分分析には、潤滑層を有する磁気記録媒体を試料として用いるのが好ましいが、潤滑剤を塗布すると、ガス吸着量が約1/10に減少するため、分析が容易である潤滑層のない試料を用いた。
潤滑剤塗布前の試料を、0.1ppmのSO2ガス大気圧雰囲気中で、23℃、50%RHのような環境で10時間放置した。その後、試料を10mm×10mmに切り出して、TOF−SIMS分析装置(アルバック・ファイ(株)製飛行時間型二次イオン質量分析装置TOF−SIMS TRIFT II)にて、表2のような条件で、保護層表面の残留成分を分析した。TOF−SIMSは、深さ数Å程度という試料の表面に存在する有機物・無機物についてppmオーダーの極微量成分を検出することができる特徴を有する。
【0061】
【表2】
【0062】
(結果)
(1)保護層の表面エネルギー
結果を表3に示す。エッチングを行わなかった比較例では、水の接触角が38.6度であるのに対し、エッチングを行った試料全てにおいて、水の接触角は15.5度以下に低下した。特に、Ar+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下のエッチングを行ったものでは、接触角は、3.6度以下と、極端に低下した。この結果は、エッチング処理のみでも接触角を低下させることが可能であるが、Ar+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下のエッチングにより、より接触角を低下させることができる。
【0063】
(2)保護層の表面の酸素濃度および窒素濃度
結果を表3に示す。酸素濃度は、エッチングを行わなかった比較例が4.8原子%であるのに対し、エッチングを行った試料は10.8原子%以上に増加した(試料AからF)。特にAr+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下のエッチングを行った試料では、酸素濃度は13原子%以上に大きく増加している(試料A、B、D、E)。さらにその後にAr+5体積%O2混合ガス雰囲気下で曝露させることで、さらに酸素濃度を増加させることが可能である(試料D、E、F)。これは、保護層の表面付近の酸素濃度が高くなっていることを示し、水素が酸素によって置換され、ダングリングボンドが減少していることと対応している。
【0064】
窒素濃度については、エッチングを行った試料の酸素濃度が大きく増加したのにも関わらず、比較例が8.6原子%であるのに対し、エッチングを行った全ての試料で7原子%から8原子%という、1原子%から1.5原子%のわずかな減少に留まった(実施例AからF)。この結果により、酸素と置換したのは、主に水素であると考えられる。
【0065】
【表3】
【0066】
(3)保護層の膜評価
結果を表4に示す。B/A値は、エッチングを施さない比較例の1.25に対し、エッチングを行った試料は若干増加し、1.27から1.32の値となった(試料AからF)。その場合、GXは、比較例の値より若干低くなった。一方、DX、ID/IG、およびDh/Ghは、ほぼ同等であった。このことは、C膜表面における、sp2結合のC微粒子とsp3結合のC微粒子が、エッチングにより、sp3結合のC微粒子を主とした鎖状ポリマー構造に変化したことを示している。また、膜全体での、sp2結合のC微粒子とsp3結合のC微粒子の割合は、変化していないことを示している。
【0067】
【表4】
【0068】
(4)表面残留成分分析
結果を表3に示す。SO3ピークとHSO4ピークについて調べた結果、Ar+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下のエッチングを行った試料(試料A、B、D、E)のSO3ピークとHSO4ピークは、比較例およびArガス雰囲気下のエッチング(試料C、F)が3000以上にあるのに対し、最高でも514という非常に小さい値となった。また、Ar+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下のエッチングを行った後、Ar+5体積%O2混合ガス雰囲気下で曝露した試料のピークはさらに小さかった(試料D、E)。このことは、Ar+15体積%から30体積%O2混合ガス雰囲気下のエッチングを行った試料は、腐食性ガスと接触しても、残留量が少なく、耐食性に優れることを示す。これは、過剰なダングリングボンドが減少したために、ダングリングボンドの腐食性ガスの吸着が減少したためと考えられる。さらに、その後にAr+5体積%O2混合ガス雰囲気下で曝露した試料は、残留量がより少なくなったことから、Ar+5体積%O2混合ガス雰囲気下の曝露は、耐食性の向上に有用であると考えられる。
【0069】
ここで、SO2ガス吸着性の点で、何故良好な結果が得られたかについて、先程の保護層表面の性質との因果関係を考える。試料CおよびFに見られるように、単に保護層表面の酸素濃度が10.8原子%から14.2原子%であること、保護層表面の窒素濃度が7.2原子%から7.7原子%であること、およびラマン分光分析のB/Aが1.27から1.28であるだけでは不充分である。試料A、B、D及びEのように、表面エネルギ―を示す指標である水の接触角が約4度以下となることが、非常に重要であることがわかる。水の接触角が小さいと、表面エネルギーが高く、潤滑材を塗布した場合潤滑材との相互作用が高く、潤滑材が媒体表面を被覆する割合が高くなり、腐食性ガスと保護層の膜とが接触する割合が低くなる。また、保護層表面の水素が酸素によって置換されているため、保護層最表面のダングリングボンドが少なくなり、特にSO2のような腐食性ガスとの反応が抑制されていることが要因の一つと考えられる。
また、ここでの表面改質は、保護層膜厚を厚くしていないので、スペーシングロスを大きくすることはない。
【0070】
【発明の効果】
本発明により、保護層の膜厚を増加させることなく、表面エネルギ―が極端に低く、腐食性ガスを吸着しにくい表面を有する磁気記録媒体を製造することが可能である。本発明は、薄膜化が可能であり、かつ優れた耐食性を有する、信頼性の高い高記録密度に対応した磁気記録媒体を提供することが可能となる。
Claims (3)
- 非磁性基体上に少なくとも磁性層、カーボン保護層、潤滑層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、前記カーボン保護層の成膜後に、酸素を15体積%から30体積%含む希ガスと酸素の混合ガス雰囲気下で、カーボン保護層をプラズマ処理することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
- 非磁性基体上に少なくとも磁性層、カーボン保護層、潤滑層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、プラズマ処理されたカーボン保護層を、酸素を0.5体積%から30体積%含む希ガスと酸素の混合ガス雰囲気下に、0.5mTorrから660mTorrで0.5秒から10秒曝露させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
- 非磁性基体上に少なくとも磁性層、カーボン保護層、潤滑層を有する磁気記録媒体において、前記カーボン保護層の表面の酸素濃度が11原子%以上、14原子%以下であり、前記カーボン保護層の水との接触角が4度以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
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