JP2008052833A - 磁気記録媒体及びその製造方法 - Google Patents

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哲一 中村
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卓 豊口
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Abstract

【課題】機械的強度が高く、しかも潤滑剤の付着率が高い保護層を有し、耐久性に優れた磁気記録媒体及びその効率的な製造方法の提供。
【解決手段】本発明の磁気記録媒体は、基板上に、磁性層、保護層、及び潤滑剤層を、前記基板側からこの順に有してなり、前記保護層が、ダイヤモンドライクカーボンからなる第1保護層と、ケイ素含有化合物を含む第2保護層とを、前記基板側からこの順に有している。本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基板上に磁性層を形成する磁性層形成工程と、該磁性層上に保護層を形成する保護層形成工程と、該保護層上に潤滑剤層を形成する潤滑剤層形成工程とを少なくとも含み、前記保護層形成工程が、前記磁性層上にダイヤモンドライクカーボンからなる第1保護層を形成した後、該第1保護層上にケイ素含有化合物を含む第2保護層を形成することを含み、前記第1保護層の形成がフィルタードカソーディックアーク法により行われる。
【選択図】図6

Description

本発明は、機械的強度が高く、しかも潤滑剤の付着率が高い保護層を有し、耐久性に優れた磁気記録媒体及びその効率的な製造方法に関する。
情報記録装置としてヘッドの浮上を必要とする磁気記録装置(所謂ハードディスクドライブ、磁気ディスクドライブ等)は、コンピュータ、各種情報端末、例えばモバイルパソコン、携帯電話、ゲーム機、ディジタルカメラ、車載ナビゲータ等の外部記憶装置として、一般に広く使用されている。
前記磁気記録装置に用いられている現在の磁気ディスクは、硬質非磁性基板上に良好な磁性特性を示すコバルト系の合金を薄膜磁性合金層として設けたものからなるが、磁性合金層は、耐久性及び耐蝕性に著しく劣るため、磁気ヘッドとの接触、摺動による摩擦、磨耗や湿気吸着による腐食発生に起因する、磁気特性の劣化や機械的又は化学的損傷を生じ易い。
そこで、現状では、磁性合金層表面に保護層を設け、更に、その保護層上を潤滑剤で被覆することにより、耐久性及び耐蝕性の向上を図っている。
前記保護層としては、アモルファスの炭素系保護膜が耐熱性、耐蝕性、及び耐磨耗性に優れていることから、磁気記録媒体及び磁気ヘッドの保護膜として最適とされ、一般にスパッタリング法、CVD法などにより形成された炭素系保護膜(ダイヤモンドライクカーボン(DLC)保護膜)が、製品に用いられている。
ところで、近年の情報化社会では、あらゆる分野において、取り扱う情報量が増大する傾向にあり、これに伴って磁気ディスクには、更なる高記録密度化及び大容量化が切望されている。
高記録密度化への要求に応えるためには、磁気記録層と磁気ヘッドの記録/読取り部との間の間隔、所謂磁気スペーシングを短縮することが不可欠であり、このため、保護膜層自体の薄膜化が必要とされてきている。
したがって、5nm以下の極薄膜においても、充分な耐久性及び耐蝕性を確保することができる保護膜の需要が高まっており、近年では従来以上に良好な耐久性を有する保護膜が形成可能な成膜方法として、フィルタードカソーディックアーク(FCA)法(特許文献1参照)が注目されている。
前記FCA法は、その成膜原理から、ダイヤモンド結合と呼ばれるsp結合量を50%以上に増加させることが容易であり、ダイヤモンドに近い硬度及び密度をアモルファス状で実現することができ、結果として極めて優れた耐久性を有する。また、これまでに、前記FCA法で形成した保護膜(FCA膜)は、1nmの膜厚においても、現状の手法で形成した厚み4nmの保護膜と同等以上の耐久性を有しており、摺動強度の観点からは、充分に要求特性を充たすことが確認されている。
更に今後は、磁気ディスクの主要な記録技術として普及が予想される垂直方式の磁気記録媒体では、これまでの水平方式と異なり、加熱プロセスを経ることで磁気特性が劣化することが知られているが、現行殆どの磁気記録媒体に設置されているCVD−DLC保護膜の形成法では、成膜時の基板加熱が前提となっている。
一方、前記FCA法は、室温プロセスによる成膜が可能であり、基板加熱が不要であるため、水平方式は勿論のこと、垂直方式の磁気記録媒体(特許文献2参照)においても理想的な保護膜の形成が可能である。
しかしながら、本発明者らの調査によると、前記FCA法で成膜した保護膜は、その直上に塗布する潤滑剤との親和性が、従来多用されてきたスパッタリング法やCVD法で成膜した保護膜に比較して著しく劣ることが判っている。ここで、各保護膜上に現行の潤滑剤を塗布し、100℃でベーク処理を行って作製した完成媒体(磁気記録媒体)のサンプルにおける、保護膜に対する潤滑剤の付着率を図7に示す。なお、該潤滑剤の付着率は、2,3−ジハイドロデカフルオロペンタンで洗浄した後、潤滑剤層の膜厚について、洗浄前の膜厚(初期膜厚)に対する膜厚残存率を測定することにより求めた。図7より、前記FCA法により作製した保護膜は、他の手法で作製した保護膜に比して、潤滑剤付着率が低いことが明らかである。
前記潤滑剤は、磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触時における摩擦や磨耗を低減させることでヘッドクラッシュを防止すると共に撥水表面を生成させる性質があり、それによって大気中のコンタミネーションに起因する磁気記録層の腐食を抑制する役割も果たしているが、充分な効力を発揮させるためには、保護膜表面に理想的な状態、即ち、保護膜表面で凝集状態にならず、均一に濡れ拡がり、且つ、強固に付着していることが必要である。
したがって、上述の通り、前記FCA法で成膜したアモルファスの炭素系保護膜は、機械的強度は優れているものの、磁気記録媒体の保護層という観点からは、直ちに適用するのが困難である。
特開2004−244667号公報 特開2005−302204号公報
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、機械的強度が高く、しかも潤滑剤の付着率が高い保護層を有し、耐久性に優れた磁気記録媒体及びその効率的な製造方法を提供することを目的とする。
前記課題を解決するための手段としては、後述する付記に列挙した通りである。即ち、
本発明の磁気記録媒体は、基板上に、磁性層、保護層、及び潤滑剤層を、前記基板側からこの順に少なくとも有してなり、
前記保護層が、ダイヤモンドライクカーボンからなる第1保護層と、ケイ素含有化合物を含む第2保護層とを、前記基板側からこの順に有していることを特徴とする。
該磁気記録媒体においては、前記保護層が、前記第1保護層及び前記第2保護層の2層で構成されており、該第1保護層が高い機械的強度を有し、該第2保護層が潤滑剤を容易に付着し、前記潤滑剤層との親和性に優れる。このため、前記磁気記録媒体においては、ヘッドクラッシュの発生が抑制され、耐久性に優れ、信頼性が高い。そして、該磁気記録媒体は、コンピュータ、各種情報端末の外部記憶装置等として広く使用されているハードディスク装置に好適に使用可能である。
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基板上に、磁性層を形成する磁性層形成工程と、該磁性層上に保護層を形成する保護層形成工程と、該保護層上に潤滑剤層を形成する潤滑剤層形成工程とを少なくとも含み、
前記保護層形成工程が、前記磁性層上に、ダイヤモンドライクカーボンからなる第1保護層を形成した後、該第1保護層上に、ケイ素含有化合物を含む第2保護層を形成することを含み、
前記第1保護層の形成が、フィルタードカソーディックアーク法により行われることを特徴とする。
該磁気記録媒体の製造方法では、前記磁性層形成工程において、前記基板上に、前記磁性層が形成される。前記保護層形成工程において、前記磁性層上に保護層が形成される。このとき、まず、前記磁性層上に、フィルタードカソーディックアーク法によりダイヤモンドライクカーボンからなる第1保護層が形成され、次いで、該第1保護層上に、ケイ素含有化合物を含む第2保護層が形成される。前記潤滑剤層形成工程において、前記保護層(前記第2保護層)上に、前記潤滑剤層が形成される。
本発明によると、従来における問題を解決することができ、機械的強度が高く、しかも潤滑剤の付着率が高い保護層を有し、耐久性に優れた磁気記録媒体及びその効率的な製造方法を提供することができる。
(磁気記録媒体)
本発明の磁気記録媒体は、基板上に、磁性層、保護層、及び潤滑剤層を、前記基板側からこの順に少なくとも有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の層を有してなる。
−基板−
前記基板としては、その形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記形状としては、前記磁気記録媒体がハードディスク等の磁気ディスクである場合には、円板状である。また、前記構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。また、前記材質としては、磁気記録媒体の基材材料として公知のものの中から、適宜選択することができ、例えば、アルミニウム、ガラス、シリコン、石英、シリコン表面に熱酸化膜を形成してなるSiO/Si、等が挙げられる。これらの基板材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、前記基板は、適宜製造したものであってもよいし、市販品を使用してもよい。
−磁性層−
前記磁性層は、前記磁気記録媒体において記録層として機能する。
前記磁性層の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができるが、例えば、Fe、Co、Ni、FeCo、FeNi、CoNi、CoNiP、FePt、CoPt、NiPtなどが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記磁性層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、通常、5〜150nm程度である。
前記磁性層の形成方法としては、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができ、例えば、電着(電着法)等により行うことができる。
−保護層−
前記保護層は、前記磁性層を保護する機能を有する層であり、前記磁性層上に積層され、第1保護層及び第2保護層の2層を、前記基板側からこの順に有してなる。
本発明の磁気記録媒体においては、前記保護層が、前記第1保護層及び前記第2保護層の2層で構成され、該第1保護層は高い機械的強度及び優れた耐久性を有し、該第2保護層は前記潤滑剤層との良好な親和性を有している。
前記保護層の総厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、磁気記録媒体の高密度記録化及び大容量化を図る観点からは、薄いのが好ましく、平均厚みで4nm以下が好ましい。
前記総厚みが、4nmを超えると、信号強度が低下することがある。
磁気記録装置(ハードディスク装置)において、信号出力は、下記式1により容易に表すことができる。
<式1>
信号出力=(磁気ヘッドの読出し特性)×(磁気記録媒体の磁気特性)×(磁気スペーシング因子)
このとき、前記磁気スペーシング因子は、k×exp(−2πd/記録ビット長)で近似することができ、kは比例定数を表し、dは磁気スペーシングを表す。
前記式1より、磁気スペーシングが小さくなるほど、信号出力が指数関数的に大きくなることが判る。
なお、前記磁気スペーシングは、下記式2で表されるように、下記量の総和と等しい。
<式2>
磁気スペーシング=(磁気ヘッド保護層の厚み)+(磁気ヘッド浮上量)+(磁気記録媒体の潤滑剤層の厚み)+(磁気記録媒体の保護層の厚み)
また、前記ハードディスク装置における、面記録密度と磁気ヘッド浮上隙間との関係を図1に示す。図1に示すように、近年、磁気ヘッド浮上隙間を縮小化することにより、面記録密度が大幅に向上していることが判る。
以上より、現行5nm程度の保護層の厚みを、更に薄層化することにより、磁気記録媒体の性能向上を実現することができる。
−−第1保護層−−
前記第1保護層は、前記磁性層の表面に形成され、ダイヤモンドライクカーボンからなる。
前記ダイヤモンドライクカーボン(DLC)においては、炭素間結合の割合が、sp/sp比で、65%以上であるのが好ましい。
前記sp/sp比が、65%未満であると、前記第1保護層の硬度に劣ることがある。
即ち、sp性炭素のみで構成(単結合で構成)されるダイヤモンドは、σ軌道のみを有しており、硬度が高い。これに対し、グラファイト等のsp性炭素は、単結合及び共有結合で構成され、σ軌道に加えて、π軌道を有し、前記ダイヤモンドに比して硬度が低い。前記ダイヤモンドライクカーボン(DLC)においては、sp性炭素及びsp性炭素が混在しているので、sp性炭素が多く存在するものが、より硬度に優れているといえる。
前記sp/sp比の算出方法としては、例えば、Bergerらにより確立された、炭素結合比の定量化手法(S.D.Berger et al. Pios.Mag.Lett.57 285 (1988))に従って、グラファイトを標準物質として電子エネルギー損失分光法(Electron Energy−Loss Spectroscopy:EELS)により得られた炭素K−edgeスペクトルを解析することにより行うことができる。
前記第1保護層の形成は、フィルタードカソーディックアーク(FCA)法で行うことが必要である。
前記第1保護層は、硬質であるアモルファス状の炭素で形成されるのが好ましく、前記フィルタードカソーディックアーク法によると、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy−Loss Spectroscopy:EELS)により得られる、炭素K−edgeスペクトルにおいて、σ結合と、π結合との比が1以上(ダイヤモンド結合と呼ばれるsp結合量が50%以上)で、ダイヤモンドに近い硬度及び密度の膜質が得られ、前記第1保護層の耐久性向上を実現することができる。
前記第1保護層の厚みとしては、特に制限はなく、第2保護層の厚み及び前記保護層の総厚みとの関係で適宜選択することができ、耐久性を確保することができる範囲内で、最大厚みを縮小することができるが、磁気スペーシングを削減する観点から、平均厚みで3nm以下が好ましい。
−−第2保護層−−
前記第2保護層は、前記第1保護層の表面に形成され、ケイ素含有化合物を含んでなる。
なお、前記第2保護層の表面には、後述する潤滑剤層が積層形成される。
前記ケイ素含有化合物としては、ケイ素(Si)原子を少なくとも含む限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、潤滑剤層における潤滑剤との親和性に優れ、かつ比較的高硬度な点で、窒化シリコンが好適に挙げられる。
また、前記ケイ素含有化合物には、撥水性を向上可能な、水素元素、フッ素元素などを添加してもよい。この場合、これらの元素が、母材と結合することにより、耐蝕性に優れた第2保護層が得られる。
前記第2保護層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法に従って行うことができ、例えば、スパッタ法、塗布法などにより行うことができる。
前記第2保護層の厚みとしては、特に制限はなく、前記第1保護層の厚み及び前記保護層の総厚みとの関係で適宜選択することができ、潤滑剤層を付着させることができる範囲内で、最大厚みを縮小させることができるが、磁気スペーシングを削減する観点から、平均厚みで1nm以下が好ましい。
−潤滑剤層−
前記潤滑剤層は、前記磁気記録媒体と磁気ヘッドとの接触時の摩擦、磨耗等を低減させ、ヘッドクラッシュの発生を抑制する機能を有する。また、撥水表面を形成し、大気中のコンタミネーションによる磁気記録媒体の腐蝕を抑制する。
前記潤滑剤層は、前記保護層(前記第2保護層)の表面に形成される。
前記潤滑剤層を形成する潤滑剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フルオロカーボン系液体潤滑剤が挙げられ、具体的には、パーフルオロポリエーテル(PFPE)などが挙げられる。
前記フルオロカーボン系液体潤滑剤は、その片末端又は両末端に、前記第2保護層との密着性を向上させるための官能基を導入してもよい。該官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸基が挙げられる。
前記潤滑剤は、適宜合成したものであってもよいし、市販品であってもよく、該市販品としては、例えば、FOMBLIN Z TETRAOL(伊ソルベイソレクシス社製、数平均分子量=2,500)が好適に挙げられる。
また、前記潤滑剤は、溶媒を用いて希釈して使用してもよい。該溶媒としては、例えば、2,3−ジハイドロデカフルオロペンタンが挙げられる。
前記潤滑剤の前記第2保護層への付着率、即ち、前記第2保護層の表面における前記潤滑剤層を、2,3−ハイドロデカフルオロペンタンを用いて洗浄した後の該潤滑剤層の厚みの残存率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、70%以上が好ましい。
前記厚みの残存率(前記潤滑剤の付着量)が、70%未満であると、前記第2保護層への前記潤滑剤層の付着性に劣り、前記磁気記録媒体の耐久性が低下することがある。
前記潤滑剤層の洗浄に用いる2,3−ハイドロデカフルオロペンタンとしては、適宜合成してもよいし、市販品であってもよく、該市販品としては、三井デュポンフロロケミカル社製のものが挙げられる。
また、洗浄の条件としては、前記2,3−ハイドロデカフルオロペンタンを原液で用い、クリーンルーム内の湿度及び温度下にて、洗浄を行うのが好ましい。
前記潤滑剤層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm前後であるのが好ましい。
前記潤滑剤層の厚みの測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、赤外分光分析(IR)により、前記潤滑剤層中のCF強度を測定することにより求めることができる。
−その他の層−
前記その他の層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下地層などが挙げられる。
前記下地層は、前記基板と前記磁性層との間に配設される。
前記下地層の材料としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができる。
前記下地層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記下地層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電着(電着法)や無電解メッキなどが挙げられる。
本発明の磁気記録媒体は、磁気ヘッドを用いた各種の磁気記録に、その記録方式(水平方式又は垂直方式)を問わず使用することができ、ヘッドクラッシュの発生が抑制され、耐久性に優れ、信頼性が高い。このため、該磁気記録媒体は、各種の磁気記録媒体として設計し使用することができ、例えば、コンピュータ、各種情報端末の外部記憶装置等として広く使用されているハードディスク装置、などに設計し使用することができ、ハードディスク等の磁気ディスクに特に好適に設計し使用することができる。
本発明の磁気記録媒体の製造は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、以下に説明する本発明の磁気記録媒体の製造方法により好適に製造することができる。
(磁気記録媒体の製造方法)
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、磁性層形成工程、保護層形成工程、及び潤滑剤層形成工程を含み、好ましくはベーク処理工程を含み、更に必要に応じて適宜選択した、下地層形成工程等のその他の工程を含む。
−下地層形成工程−
前記下地層形成工程は、必要に応じて選択され、基板上に下地層を形成する工程である。
前記基板としては、上述した通りである。
前記下地層の形成は、公知の方法に従って行うことができ、例えば、スパッタ法(スパッタリング)、蒸着法等の真空成膜法、電着(電着法)などで形成してもよいし、あるいは無電解メッキで形成してもよい。
前記下地層形成工程により、前記基板上に所望の厚みの前記下地層が形成される。
−磁性層形成工程−
前記磁性層形成工程は、前記基板上(又は該基板上に前記下地層が形成されている場合には該下地層上)に、磁性層を形成する工程である。
前記磁性層の形成は、上述した磁性層の材料を、スパッタ法(スパッタリング)等により前記基板上に積層させることにより行うことができる。
前記磁性層形成工程により、前記基板上(又は前記下地層上)に磁性層が形成される。
−保護層形成工程−
前記保護層形成工程は、前記磁性層上に保護層を形成する工程であり、前記磁性層上に、ダイヤモンドライクカーボンからなる第1保護層を形成した後、該第1保護層上に、ケイ素含有化合物を含む第2保護層を形成することを含む。
前記第1保護層の形成は、フィルタードカソーディックアーク(FCA)法により行うことが必要である。
この場合、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy−Loss Spectroscopy:EELS)により得られる、炭素K−edgeスペクトルにおいて、σ結合と、π結合との比が1以上(ダイヤモンド結合と呼ばれるsp結合量が50%以上)で、ダイヤモンドに近い硬度及び密度の膜質を有し、耐久性に優れた第1保護層を形成することができる。
前記FCA法による第1保護層の形成は、例えば、FCA装置を用い、グラファイトターゲットを原料として行うことができる。
前記第2保護層の形成は、公知の方法に従って行うことができ、例えば、スパッタ法、塗布法などにより行うことができる。
前記スパッタ法の場合、前記第2保護層の形成は、例えば、RF−スパッタ装置を用い、シリコンターゲットを原料として行うことができる。
前記保護層形成工程により、前記磁性層上に前記第1保護層が形成され、該第1保護層上に前記第2保護層が形成され、2層構成からなる前記保護層が形成される。
−潤滑剤層形成工程−
前記潤滑剤層形成工程は、前記保護層上に潤滑剤層を形成する工程である。
前記潤滑剤層の形成は、上述したフルオロカーボン系液体潤滑剤中に前記保護層を浸漬させて引き上げ法により塗布することにより行うことができる。
前記浸漬時間等の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記潤滑剤層形成工程により、前記保護層上に前記潤滑剤層が形成される。
−ベーク処理工程−
前記ベーク処理工程は、前記潤滑剤層形成工程の後、得られた積層体をベークする工程である。
前記積層体としては、前記基板上に、前記磁性層、前記保護層、及び前記潤滑剤層を、前記基板側からこの順に有してなる態様、前記基板上に、前記下地層、前記磁性層、前記保護層、及び前記潤滑剤層を、前記基板側からこの順に有してなる態様、などが挙げられる。
前記ベーク処理の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜100℃が好ましい。
前記ベーク処理を行うことにより、前記潤滑剤の前記第2保護層への付着率、即ち、前記第2保護層の表面における前記潤滑剤層を、2,3−ハイドロデカフルオロペンタンを用いて洗浄した後の該潤滑剤層の厚みの残存率を向上させることができる。
前記ベーク処理工程により、前記積層体がベークされる。
本発明の磁気記録媒体の製造方法により、磁気記録媒体を効率よく低コストで製造することができる。このため、本発明の前記磁気記録媒体の製造方法は、本発明の前記磁気記録媒体の製造に好適である。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
−フィルタードカソーディックアーク(FCA)法による保護層作製実験−
まず、アルミニウム合金からなる基板上に、下地層及びCo磁性層をスパッタリング法により積層した。次いで、FCA装置を用い、グラファイトターゲットを原料として、アーク電流60A、アーク電圧30V、及びカソードコイル電流10Aの条件で、アモルファス状炭素を成膜し、サンプルの保護層(ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜)を作製した。該サンプルの保護層の膜厚は、成膜時間を適宜調整することにより変化させ、平均膜厚の測長は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた断面観察により行った。
−摺動強度の評価−
得られたサンプルの保護層(ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜)を有する磁気記録媒体であって、該保護層の表面に潤滑剤を塗布していない状態のものを用い、下記方法により摺動強度を測定し評価した。結果を図2に示す。
前記摺動強度は、サンプルの保護層上に、荷重15g重のアルミナからなるピンを、周速0.25m/secで摺動させ、該保護層が破断するまでの周回回数をカウントすることにより測定した。その結果、図2より、前記保護層の膜厚が薄くなるに従い、摺動強度は減少するが、FCA法により成膜したサンプルの保護層は、従来のCVD法により作製した4nmの保護層が破断する500周回を、1nm厚でも達成することができた。
続いて、前記FCA法により作製したサンプルの保護層を有し、かつ該保護層上に潤滑剤を塗布した磁気記録媒体の摺動強度を、下記方法により測定し評価した。結果を図3に示す。なお、図3では、前記FCA法により作製したサンプルの保護層(ダイヤモンドライクカーボン(DLC))、及び現行の磁気記録媒体に多く採用されているCVD−DLCの各保護層を有する磁気記録媒体の摺動強度の比較を示す。
前記潤滑剤として、下記構造式で表されるFOMBLIN Z TETRAOL(伊ソルベイソレクシス社製、数平均分子量=2,500)を、2,3−ジハイドロデカフルオロペンタン(三井デュポンフロロケミカル社製)で約0.2vol%に希釈した潤滑剤溶液を用い、浸漬時間30秒間の条件で引き上げ法により各サンプルへ1nmの厚みとなるように塗布した。その後、後工程として、約100℃でベーク処理を行い完成媒体とした。
前記摺動強度は、サンプルの保護層上に、荷重30g重のアルミナからなるピンを、周速0.25m/secで摺動させ、該保護層が破断するまでの周回回数をカウントすることにより測定した。その結果、図3に示すように、現行保護層を有する磁気記録媒体は、約1,500周回で破断したのに対し、前記FCA法により作製したサンプルの保護層を有する磁気記録媒体は、約1,000周回で破断した。両者の差について、前記FCA法により作製した保護層を有する磁気記録媒体は、該保護層自体の強度は高いものの潤滑剤の付着性が低く、周回を重ねることにより潤滑剤の剥離が生じ、結果として摩擦係数が増大したために破断までの周回数が減少したものと推測される。
−EELS測定から得られたK−edgeスペクトルの比較−
次に、前記FCA法により作製したサンプルの保護層(DLC膜)、及び現行の磁気記録媒体に多く採用されている保護層(CVD−DLC膜)の断面サンプルにおける、ELLS測定から得られたK−edgeスペクトルを図4に示す。
sp性炭素のみで構成されるダイヤモンドは、伝導帯としてσ*軌道のみを有するのに対し、グラファイト等のsp性炭素は、σ*軌道に加えπ*軌道を有する。前記DLC膜は、両炭素が混在した構造であるため、グラファイトを標準物質としてEELSスペクトルを解析すれば、前記DLC膜のπ共有結合の存在比が判り、sp結合比を算出することができる。
図4に示すスペクトル比較からも明らかなように、CVD−DLC膜は、前記FCA法により作製したサンプルの保護層(DLC膜)よりもπ*強度が増加しており、sp性が高い。ここで、Bergerらにより確立された、炭素結合比の定量化手法(S.D.Berger et al. Pios.Mag.Lett.57 285 (1988))を用い、各DLC膜のsp/sp比を評価したところ、FCA法により作製したDLC膜が65%であるのに対し、CVD−DLC膜は33%であった。
−密度及び硬度の比較−
前記FCA法により作製したサンプルの保護層(DLC膜)、及び現行の磁気記録媒体に多く採用されている保護層(CVD−DLC膜)について、Si基板上に、50nmの厚みとなるように成膜したときの密度及び硬度を、下記方法により測定し、その比較を図5に示す。
前記密度は、ラザフォード後方散乱分光法(Rutherford Backscattering Spectroscopy)により測定した。
前記硬度は、μN程度の微小荷重を用いてダイヤモンド圧子を前記サンプルに押し込み、除荷する際の微小変形を測定することにより力学特性を評価するナノインデンテーション法により測定した。
その結果、図5に示すように、前記FCA法により作製した保護層(DLC膜)は、前記CVD法により作製した保護層(CVD−DLC膜)と比較して、密度が約1.5倍であり、硬度が約2倍であることが判った。この理由としては、前記FCA法では、成膜種が炭素イオンのみで構成され、sp性も高いことから緻密膜が形成されるためであると推測される。
以上のように、前記FCA法により作製した保護層は、CVD−DLC膜と比較して、緻密膜となるため機械的強度が高いものの、潤滑剤の付着性が低いために完成媒体の形態では充分な耐久性が発現されないことが理解できる。
(実施例1)
−磁気記録媒体の製造−
図6は、本発明の磁気記録媒体の一例を示す概略断面図である。
図6に示すように、アルミニウム合金からなる基板1上に、下地層2及びCoからなる磁性層3をスパッタリング法により順次積層形成した。以上が、前記下地層形成工程及び前記磁性層形成工程である。
次いで、FCA装置を用い、グラファイトターゲットを原料として、アーク電流60A、アーク電圧30V、及びカソードコイル電流10Aの条件で、アモルファス状炭素を厚みが3nmとなるように成膜し、第1保護層4aを形成した。続いて、RF−スパッタ装置を用い、シリコンターゲットを原料として、パワー3kW、窒素流量10sccm、及びAr流量3sccmの条件で、窒化シリコンを厚みが1nmとなるように成膜し、第2保護層4bを形成した。以上が、前記保護層形成工程である。
その後、下記構造式で表されるFOMBLIN Z TETRAOL(伊ソルベイソレクシス社製、数平均分子量=2,500)を、2,3−ジハイドロデカフルオロペンタン(三井デュポンフロロケミカル社製)で約0.2vol%に希釈した潤滑剤溶液を、浸漬時間30秒間の条件で引き上げ法により第2保護層4bに塗布し、厚みが1nmの潤滑剤層5を形成した。以上が、前記潤滑剤層形成工程である。このようにして、完成媒体(積層体)としての磁気記録媒体10を得た。
得られた完成媒体(積層体)10における潤滑剤層5を、2,3−ジハイドロデカフルオロペンタン(三井デュポンフロロケミカル社製)の原液で洗浄した後、潤滑剤層5の膜厚について、洗浄前の膜厚(初期膜厚)に対する膜厚残存率(潤滑剤の付着率)を測定したところ、70%であった。なお、前記洗浄は、クリーンルームの湿度及び温度下にて行った。
また、耐久性試験として、完成媒体10における潤滑剤層5上に、荷重30g重のアルミナからなるピンを、周速0.25m/secで摺動させたところ、5,000周回を超えても保護層4(第1保護層4a及び第2保護層4b)は破断しなかった。
(実施例2)
実施例1において、第2保護層4b上に潤滑剤層5を形成して得られた積層体に対し、後処理として、100℃にてベーク(前記ベーク処理工程)を行った以外は、実施例1と同様にして完成媒体としての磁気記録媒体を製造した。
得られた完成媒体(積層体)における潤滑剤層を、前記2,3−ジハイドロデカフルオロペンタンの原液で洗浄した後、潤滑剤層5の膜厚について、洗浄前の膜厚(初期膜厚)に対する膜厚残存率(潤滑剤の付着率)を測定したところ、100%であった。なお、前記洗浄は、クリーンルームの湿度及び温度下にて行った。
また、耐久性試験として、完成媒体における潤滑剤層上に、荷重30g重のアルミナからなるピンを、周速0.25m/secで摺動させたところ、5,000周回を超えても保護層4(第1保護層4a及び第2保護層4b)は破断しなかった。
(比較例1)
アルミニウム合金からなる基板上に、下地層及びCo磁性層をスパッタリング法により順次積層形成した。次いで、FCA装置を用い、グラファイトターゲットを原料として、アーク電流60A、アーク電圧30V、及びカソードコイル電流10Aの条件で、アモルファス状炭素を厚みが4nmとなるように成膜し、保護層を形成した。
その後、前記FOMBLIN Z TETRAOL(伊ソルベイソレクシス社製、数平均分子量=2,500)を、2,3−ジハイドロデカフルオロペンタン(三井デュポンフロロケミカル社製)で約0.2vol%に希釈した潤滑剤溶液を、浸漬時間30秒間の条件で引き上げ法により保護層に塗布し、厚みが1nmの潤滑剤層を形成した。このようにして、完成媒体(積層体)としての磁気記録媒体を得た。
得られた完成媒体における潤滑剤層を、前記2,3−ジハイドロデカフルオロペンタンの原液で洗浄した後、潤滑剤層の膜厚について、洗浄前の膜厚(初期膜厚)に対する膜厚残存率(潤滑剤の付着率)を測定したところ、35%であった。なお、前記洗浄は、クリーンルームの湿度及び温度下にて行った。
また、耐久性試験として、完成媒体における潤滑剤層上に、荷重30g重のアルミナからなるピンを、周速0.25m/secで摺動させたところ、約400周回で保護層が破断した。
(比較例2)
比較例1において、保護層上に潤滑剤層を形成して得られた積層体に対し、後処理として、100℃にてベークを行った以外は、比較例1と同様にして完成媒体としての磁気記録媒体を製造した。
得られた完成媒体(積層体)における潤滑剤層を、前記2,3−ジハイドロデカフルオロペンタンの原液で洗浄した後、潤滑剤層の膜厚について、洗浄前の膜厚(初期膜厚)に対する膜厚残存率(潤滑剤の付着率)を測定したところ、55%であった。なお、前記洗浄は、クリーンルームの湿度及び温度下にて行った。
また、耐久性試験として、完成媒体における潤滑剤層上に、荷重30g重のアルミナからなるピンを、周速0.25m/secで摺動させたところ、約1,000周回で保護層が破断した。
(比較例3)
アルミニウム合金からなる基板上に、下地層及びCo磁性層をスパッタリング法により順次積層形成した。次いで、RF−スパッタ装置を用い、シリコンターゲットを原料として、パワー3kW、窒素流量10sccm、及びAr流量3sccmの条件で、窒化シリコンを厚みが4nmとなるように成膜し、保護層を形成した。
その後、前記FOMBLIN Z TETRAOL(伊ソルベイソレクシス社製、数平均分子量=2,500)を、2,3−ジハイドロデカフルオロペンタン(三井デュポンフロロケミカル社製)で約0.2vol%に希釈した潤滑剤溶液を、浸漬時間30秒間の条件で引き上げ法により保護層に塗布し、厚みが1nmの潤滑剤層を形成した。得られた積層体に対し、後処理として、100℃にてベークを行い、完成媒体としての磁気記録媒体を製造した。
得られた完成媒体における潤滑剤層を、前記2,3−ジハイドロデカフルオロペンタンの原液で洗浄した後、潤滑剤層の膜厚について、洗浄前の膜厚(初期膜厚)に対する膜厚残存率(潤滑剤の付着率)を測定したところ、100%であった。なお、前記洗浄は、クリーンルームの湿度及び温度下にて行った。
また、耐久性試験として、完成媒体における潤滑剤層上に、荷重30g重のアルミナからなるピンを、周速0.25m/secで摺動させたところ、約2,000周回で保護層が破断した。
(比較例4)
アルミニウム合金からなる基板上に、下地層及びCo磁性層をスパッタリング法により順次積層形成した。次いで、RF−CVD装置を用い、炭化水素及び水素を原料ガスとして、プラズマ出力1,000W、基板バイアス−300V、成膜室内圧力3Pa、及び基板温度200℃の各条件下で、厚みが4nmのDLC(ダイヤモンドライクカーボン)保護層を形成した。
その後、前記FOMBLIN Z TETRAOL(伊ソルベイソレクシス社製、数平均分子量=2,500)を、2,3−ジハイドロデカフルオロペンタン(三井デュポンフロロケミカル社製)で約0.2vol%に希釈した潤滑剤溶液を、浸漬時間30秒間の条件で引き上げ法によりDLC保護層に塗布し、厚みが1nmの潤滑剤層を形成した。得られた積層体に対し、後処理として、100℃にてベークを行い、完成媒体としての磁気記録媒体を製造した。
得られた完成媒体における潤滑剤層を、前記2,3−ジハイドロデカフルオロペンタンの原液で洗浄した後、潤滑剤層の膜厚について、洗浄前の膜厚(初期膜厚)に対する膜厚残存率(潤滑剤の付着率)を測定したところ、70%であった。なお、前記洗浄は、クリーンルームの湿度及び温度下にて行った。
また、耐久性試験として、完成媒体における潤滑剤層上に、荷重30g重のアルミナからなるピンを、周速0.25m/secで摺動させたところ、約1,500周回で保護層が破断した。
以上より、実施例1〜2では、磁気記録媒体における保護層を、ダイヤモンドライクカーボンからなる第1保護層と、ケイ素含有化合物を含む第2保護層との2層構成としたので、該保護層は、機械的強度が高く、しかも前記潤滑剤層との付着性に優れ、得られた磁気記録媒体は、耐久性に優れることが判った。
一方、比較例1〜4では、保護層として、FCA法により作製したDLC膜、窒化シリコンを含む膜、及びCVD法により作製したDLC膜のいずれかを単層で使用したので、保護層の摺動強度が低く、耐久性に劣ることが判った。また、比較例1に示すFCA法により作製したDLC膜は、潤滑剤の付着率が35%と低く、後処理として、前記ベーク処理を行っても、比較例2に示すように、潤滑剤の付着率は、55%程度までしか上昇しなかった。
本発明の好ましい態様を付記すると、以下の通りである。
(付記1) 基板上に、磁性層、保護層、及び潤滑剤層を、前記基板側からこの順に少なくとも有してなり、
前記保護層が、ダイヤモンドライクカーボンからなる第1保護層と、ケイ素含有化合物を含む第2保護層とを、前記基板側からこの順に有していることを特徴とする磁気記録媒体。
(付記2) 第2保護層におけるケイ素含有化合物が、窒化シリコンである付記1に記載の磁気記録媒体。
(付記3) 保護層の表面における潤滑剤層を、2,3−ハイドロデカフルオロペンタンを用いて洗浄した後の該潤滑剤層の厚みの残存率が、70%以上である付記1から2のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(付記4) 第1保護層におけるダイヤモンドライクカーボン中の炭素間結合の割合が、sp/sp比で、65%以上である付記1から3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(付記5) 第1保護層が、フィルタードカソーディックアーク法により形成された付記1から4のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(付記6) 保護層の総厚みが、4nm以下である付記1から5のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(付記7) 第2保護層の厚みが、1nm以下である付記1から6のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(付記8) 第1保護層の厚みが、3nm以下である付記1から7のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(付記9) 基板上に、磁性層を形成する磁性層形成工程と、該磁性層上に保護層を形成する保護層形成工程と、該保護層上に潤滑剤層を形成する潤滑剤層形成工程とを少なくとも含み、
前記保護層形成工程が、前記磁性層上に、ダイヤモンドライクカーボンからなる第1保護層を形成した後、該第1保護層上に、ケイ素含有化合物を含む第2保護層を形成することを含み、
前記第1保護層の形成が、フィルタードカソーディックアーク法により行われることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(付記10) 潤滑剤層形成工程の後、得られた積層体をベークするベーク処理工程を含む付記9に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(付記11) 第2保護層におけるケイ素含有化合物が、窒化シリコンである付記9から10のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
本発明の磁気記録媒体は、コンピュータ、各種情報端末の外部記憶装置等として広く使用されているハードディスク装置に好適に使用可能である。
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明の前記磁気記録媒体の製造に好適に使用することができる。
図1は、近年の磁気記録媒体装置における、磁気ヘッド浮上隙間と磁気記録媒体の面記録密度との関係を示すグラフの一例である。 図2は、FCA法により作製した保護層の膜厚と摺動強度との関係の一例を示すグラフである。 図3は、FCA法により作製した保護層を有する磁気記録媒体と、CVD法により作製した保護層を有する磁気記録媒体とにおける摺動強度の比較の一例を示すグラフである。 図4は、FCA法により作製した保護層、CVD法により作製した保護層、及びグラファイトにおける、ELLS測定から得られたK−edgeスペクトルの一例を示すグラフである。 図5は、FCA法により作製した保護層、及びCVD法により作製した保護層における、密度及び硬度の一例を示すグラフである。 図6は、本発明の磁気記録媒体の一例を示す概略断面図である。 図7は、FCA法により作製した保護膜、及びCVD法により作製した保護膜における潤滑剤付着率の一例を示すグラフである。
符号の説明
1 基板
2 下地層
3 磁性層
4 保護層
4a 第1保護層
4b 第2保護層
5 潤滑剤層
10 磁気記録媒体(積層体)

Claims (5)

  1. 基板上に、磁性層、保護層、及び潤滑剤層を、前記基板側からこの順に少なくとも有してなり、
    前記保護層が、ダイヤモンドライクカーボンからなる第1保護層と、ケイ素含有化合物を含む第2保護層とを、前記基板側からこの順に有していることを特徴とする磁気記録媒体。
  2. 保護層の表面における潤滑剤層を、2,3−ハイドロデカフルオロペンタンを用いて洗浄した後の該潤滑剤層の厚みの残存率が、70%以上である請求項1に記載の磁気記録媒体。
  3. 第1保護層におけるダイヤモンドライクカーボン中の炭素間結合の割合が、sp/sp比で、65%以上である請求項1から2のいずれかに記載の磁気記録媒体。
  4. 保護層の総厚みが、4nm以下である請求項1から3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
  5. 基板上に、磁性層を形成する磁性層形成工程と、該磁性層上に保護層を形成する保護層形成工程と、該保護層上に潤滑剤層を形成する潤滑剤層形成工程とを少なくとも含み、
    前記保護層形成工程が、前記磁性層上に、ダイヤモンドライクカーボンからなる第1保護層を形成した後、該第1保護層上に、ケイ素含有化合物を含む第2保護層を形成することを含み、
    前記第1保護層の形成が、フィルタードカソーディックアーク法により行われることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
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