JP2004285611A - 断熱調湿材とそれを用いる建築材 - Google Patents
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Abstract
【課題】単一の素材で断熱性及び調湿性を高いレベルで併せ持ち、吸湿容量及び調湿の応答速度に優れた断熱調湿材とそれを用いる建築材を提供する。
【解決手段】孔径2〜20nmの細孔(メゾ孔)と、孔径0.1〜20μmの細孔(マクロ孔)からなる二元細孔を有するシリカゲルを含む断熱調湿材2としたものであり、また、該断熱調湿材2を建築材の少なくとも一部に用いるか、あるいは該2からなる層を建築材の少なくとも一層に用いる断熱調湿用建築材としたものであり、該建築材は、さらに透湿性材料表層3及び/又は通気部を有することができ、さらに、畳、絨毯、カーペット又は床用敷物の下部に使用する床材であって、前記2と、補強用補助材とを有する断熱調湿床材としたものである。
【選択図】 図2
【解決手段】孔径2〜20nmの細孔(メゾ孔)と、孔径0.1〜20μmの細孔(マクロ孔)からなる二元細孔を有するシリカゲルを含む断熱調湿材2としたものであり、また、該断熱調湿材2を建築材の少なくとも一部に用いるか、あるいは該2からなる層を建築材の少なくとも一層に用いる断熱調湿用建築材としたものであり、該建築材は、さらに透湿性材料表層3及び/又は通気部を有することができ、さらに、畳、絨毯、カーペット又は床用敷物の下部に使用する床材であって、前記2と、補強用補助材とを有する断熱調湿床材としたものである。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、断熱機能及び調湿機能を有する材料に係り、特に、建築物の室内の住宅建材として壁や床又は天井に施工され、断熱効果と共に室内の湿度変化に応じて湿気を吸収・放出することによって、居住空間の快適性向上や省エネルギー効果を発揮する断熱調湿材とそれを用いる建築材に関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】特開平10−212173号公報
【非特許文献1】「セラミックス」、37(2002)、No.1、p.6−9
住宅などの建築物において、居住空間の快適性及び省エネルギー効果を付与する建材は必要不可欠なものである。このような建材には、断熱材をはじめ、湿度を調整する調湿材、防音や遮音をする吸音材又は遮音材がある。断熱材には、発泡ポリウレタンなどの高分子物質やグラスウール等が使用され、調湿材には、粉粒炭、珪藻土、鹿沼土、ゼオライト、セピオライト、シリカゲル等が使用されている。調湿材は、湿度増加時に水蒸気を吸着し、湿度低下時には水蒸気を放出する機能を持つため、居住空間等での急激な湿度変化を緩和させるものとして役立つ。また、居住空間の湿度の調整は、不快指数のような気分的な快適性だけでなく局所的な水蒸気の結露やそれによるカビの繁殖を防ぐ効果も期待できる。
断熱性と調湿性を併せ持つ材料、すなわち断熱調湿材については、そのほとんどが調湿材としての性能が十分ではなく、断熱性と調湿性を同時に必要とする場合には、断熱材と調湿材とを積層あるいは包括することによって複合的に利用する(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、従来の調湿材として優れた機能をもつものは、強度については考慮しているものの、単位重量当たりの吸湿量が十分でなく、もちろん断熱効果は期待できない(例えば、非特許文献1)。
断熱材のもつ断熱効果は、材料中に大量の空気を含有することで、熱伝導性を低下させることに基づく。また、断熱材の性能は、ベースとなる材料の熱伝導度に加え空気の含有率(気孔率)に大きく依存する。一般的に、気孔率が高いほど断熱能力も向上する。調湿材のもつ水蒸気の吸着は、主に毛管凝縮現象によるものであり、ナノメートルサイズの細孔(以下、「メゾ孔」と記述する)を持つ多孔質材料が利用される。
優れた断熱材として要求される高度な断熱性を発揮するには、気孔率が90%程度以上である必要がある。しかし、そのような高い気孔率においては、単一材料では強度が十分でないため、複合材料化するか、あるいはマイクロメートルサイズ以上の細孔(以下、「マクロ孔」と記述する)の材料を作らざるを得なかった。そのため、結果として優れた断熱材には十分な調湿効果を付与することはできなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、シリカゲルの微細構造を最適化することによって、単一の素材で断熱性及び調湿性を高いレベルで併せ持ち、さらに吸湿容量及び調湿の応答速度に優れる断熱調湿材とそれを用いる建築材を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、孔径2〜20nmの細孔(メゾ孔)と、孔径0.1〜20μmの細孔(マクロ孔)からなる二元細孔を有するシリカゲルを含むことを特徴とする断熱調湿材としたものである。この断熱調湿材の好ましい製造方法としては、安価な原材料として水ガラスを使用し、親水性有機高分子化合物、酸、及び水を混合することによってゲルを形成させ、該ゲルを乾燥する工程の後、焼成する工程を有することによって成形体とする。
また本発明では、前記断熱調湿材を建築材の少なくとも一部に用いるか、あるいは該断熱調湿材からなる層を建築材の少なくとも一層に用いることを特徴とする断熱調湿用建築材としたものであり、また、前記断熱調湿用建築材は、さらに透湿性材料表層及び/又は通気部を有することができる。
さらに、本発明では、畳、絨毯、カーペット又は床用敷物の下部に使用する床材であって、前記断熱調湿材と、補強用補助材を有することを特徴とする断熱調湿床材としたものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
建築材において、断熱材と調湿材の複合材料を利用せず、単一の材料で断熱と調湿を両立することができれば、壁や天井、床などの構成部材が非常に簡略化され、施工の容易性及びコスト等の施工上のメリットは大きい。
本発明者らは、単一の材料としてメゾ孔とマクロ孔を併せ持つ二元細孔多孔質材料を利用することに着目し、鋭意研究によって、シリカゲルの湿度変化による水の吸脱着の大きく変化する湿度域が、その細孔分布によることを見出した。すなわち、調湿材料のメゾ孔の孔径を制御することによって、湿度域の調整が可能であり、また、連通するマクロ孔を持たせることで、多孔質内部への物質移動(拡散)速度が高められ、調湿材料としてさらに機能性を向上させることができるという知見を得た。
【0007】
従来からシリカゲルは吸湿性に優れるため、吸湿材(剤)として多く使用されている。本発明者らは、シリカゲルの微細構造としてメゾ孔及びマクロ孔からなる二元細孔を施すことによって、本来有する優れた吸湿性を損なわず断熱性を付与することができた。この材料を住宅用等の建築材に利用することで、居住空間の快適性や省エネルギー性を向上させることが可能となる。また、この材料は、温度条件や湿度条件を保つ必要のある空間づくりに役立つ。
本発明の二元細孔シリカゲル断熱調湿材(以下、シリカゲル成形体と記述する)は無数のメゾ孔と、連通するマクロ孔(図1)をもち、メゾ孔は水蒸気の吸脱着に対して機能し、マクロ孔はガス拡散速度を高める(実施例5)ことによって水蒸気の脱吸着をスムーズにし、応答性良く調湿することに対して機能する。
【0008】
細孔(メゾ孔)内への気体分子の吸着の挙動は、第一次近似として次に示すKelvin式で表記される。
ln(p/p0) = 2Vγ/RTr・cosθ
(p:気体分子の分圧、p0:気体分子の飽和分圧、V:液体のモル体積、γ:液体の表面張力、R:気体定数、T:温度(K)、r:細孔半径、θ:気体分子と細孔内表面との接触角)
気体分子が水(水蒸気)の場合、p/p0は相対湿度(以下、単に湿度という)を示し、吸着する湿度と細孔半径の関係が上記の式で示される。これによって理論的に計算すると、調湿に用いる材料としては、湿度を40〜80%程度の範囲に設定する場合、細孔径(細孔の直径)は2〜10nmが好ましい。調湿の対象を限定するならば、例えば、製薬工場における製剤工程に適する低湿度環境には2〜3nm、快適な居住空間には3〜5nm、発酵食品工場における発酵工程に適する高湿度環境には5〜10nmのような細孔範囲に調製するとよい。本発明者らが実際にシリカゲル成形体を作製したところ、メゾ孔がおよそ2〜20nmであるときに調湿機能をもつことがわかった(実施例2及び4)。
【0009】
一般的に、結露を防ぐ場合には、室内の湿度を70〜80%程度に抑えることが望ましい。また、人間が快適に生活できる室内湿度は、およそ40〜60%程度といわれる。調湿材によって室内湿度をこの範囲に保つためには、湿度が40%程度以下のときには、加湿すべく大量の水蒸気放出があり、さらに、湿度が60%程度以上のときには、除湿すべく大量の水蒸気吸着があることが望ましい。また、結露防止には、湿度が80%以上であるときに大量の水蒸気を吸着することが望ましく、一方、極端な乾燥防止には、湿度40%以下になってはじめて水蒸気を放出する特性を示す調湿材が望ましい。
マクロ孔については、断熱性優先であれば、気孔率を高めるために孔径を小さくすることも有効であるが、水分子の内部拡散を促進する上では0.1μm以上であることが好ましい。また、強度優先であれば、気孔率を低下させるために孔径を大きくするが、気孔率が70%以下になると断熱性が十分ではなくなるため、20μm以下であることが好ましい。しかしながら、水の吸脱着速度及び断熱性をバランスさせた材料としては、3μm〜10μmの範囲であることがより好ましい。
【0010】
このような二元細孔をもつシリカゲルを作製するためには、実験室規模ではケイ素アルコキシド(例えば、テトラエトキシシラン)を主原料にする方法も選択できるが、建築材の原料として使用するには非常に高価である。したがって、安価に入手可能な水ガラス、すなわちケイ酸ナトリウムの濃厚水溶液を主原料とすることが好ましく、これを相分離させてゲルを形成する方法、例えば非特許文献〔J.Ceram.Soc.Japan, 109(2001)p.577〕の方法を利用して製造することが望ましい。この製造方法により、相分離の過渡構造を凍結することによってメゾ孔及び連通するマクロ孔からなる二元細孔を有するシリカゲルを得る。もちろんコスト上のメリットは無いが、ケイ素アルコキシド等の他の原料から同様な二元細孔シリカゲルを製造しても構わない。
【0011】
典型的には、水で希釈した水ガラス(例えばJIS 3号水ガラス)を分子量2.5万程度のポリアクリル酸を含有する硝酸水溶液に攪拌しながら少量ずつ添加する。この時の組成比は概略、水ガラス:水:硝酸(60質量%):ポリアクリル酸=60:97:37:6.5である。この組成比については、所望なマクロ孔の孔径に応じて適宜調整するものである。例えば、水ガラスの組成比、又はポリアクリル酸(有機高分子化合物)の組成比や分子量を変化させることにより、マクロ孔の孔径を変化させることができる。これは、水ガラスと硝酸によって生成したシリカ微粒子が存在する混合系(ゾル)において、ポリアクリル酸の添加による自由エネルギーの増加及びシリカ粒子の重合(凝集)に伴うエントロピーの低下が引き金となり、有機高分子化合物層とシリカ層との間で相分離を起こすことに基づく。このときの過渡構造が本発明の断熱調湿材(シリカゲル成形体)に反映されるため、相分離開始からゲル化までの時間が長いほど、混合系の濃度又は粘度が高くなるほど、マクロ孔の孔径が大きくなる。
【0012】
ポリアクリル酸については、ゲル化時に相分離を誘起させるために添加するものであるので、同様な作用を持つものとして親水性有機高分子化合物、例えば、ポリビニルアルコールやポリスチレンスルホン酸などを用いてもよい。また、ポリアクリル酸を使用する場合の分子量範囲は2万5千〜25万であることが好ましい。また、他の親水性有機高分子化合物を用いる場合には、適度な粘度をもつ分子量範囲のものを用いることが好ましい。硝酸については、水ガラスの強アルカリ性を中和するために用いるので、酸であれば他の酸すなわち塩酸、硫酸、酢酸、リン酸等を用いてもよく、強酸であることが好ましい。
ここで得られた均一溶液を、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等の耐酸性のある有機高分子材料製の容器に入れ、常温(約25℃)で1日程度静置し、ゲル化させる。この容器の形状は、所望の形状にして構わないが、以降の工程の条件によってひび割れや崩壊の恐れがあるので大きさは制限される。ただし、大きな容器でゲル化させた場合であっても、乾燥前のゲルは容易に切断及び加工できるので、以降の工程前にゲルを適当な大きさにして、ひび割れ等を防いでもよい。
【0013】
混合物(ゾル)がゲル化した後、含有するナトリウムイオン及び硝酸イオン等の不要成分を除去するための水洗を行う。その際に、ゲルの大きさや形状によって水洗時にゲルが破損する場合があるので、さらに1日程度静置し強度が増してから水洗を行うことが望ましい。水洗は、ゲルを水中に浸漬することにより濃度拡散に基づいて不要成分を除去するために行うので、水を入れ替えられるように、水供給部及び排水部を具備して、水が流通できる容器によって行うことが望ましい。もちろんバッチ式として、水洗液を数回交換することで水洗する方法でもよい。このとき使用する水は、イオン交換水又は蒸留水等の純水が好ましい。また、水洗工程に必要な時間は、ゲルの大きさによって増減する。水洗後、必要に応じてpHを制御した溶液中でさらにゲルの熟成を行う。この熟成過程の条件(pH及び温度)により、メゾ孔について孔径を制御することができる。pHについては、pHの増加にほぼ相関して孔径も増加する。また、温度が上昇することによっても、孔径が増加する。
【0014】
ここまでの過程において、ゲル作製条件を制御することにより、マクロ孔の孔径を連続性を損なうことなく、少なくとも1〜20μmの範囲で調製することが可能である。また、ゲル熟成過程でのpH条件の制御により、メゾ孔の孔径については少なくとも2〜20nmの範囲で調製することが可能である。
ゲルの熟成後、ゲルの乾燥に続いて焼成を行う。乾燥の過程でゲルは収縮するため、乾燥が急激である場合にはゲルにひび割れや亀裂が生じ、崩壊する可能性がある。したがって、乾燥速度を制御することが望ましい。また、焼成工程は十分に乾燥した後に行う必要がある。焼成工程の目的は、残留有機物成分の除去、強度の増加、及び水の吸脱着性能の安定化のために行うので、焼成温度は500℃以上が望ましく、細孔特性に影響を与えない範囲として800℃程度以下が好ましい。
得られるシリカゲル成形体は、細孔容積が1〜4cm3/gであり、気孔率が70〜95%である。このように作製したシリカゲル成形体の破面の走査型電子顕微鏡(SEM)による写真を図1に示す。
【0015】
ここまでの過程で得られたシリカゲル成形体は、乾燥工程〜焼成工程で反り等の変形を起こすことがあるので、切削加工等の形状を整えるための工程を入れることが好ましい。
以上の工程で得られたシリカゲル成形体の好ましい利用形態の例として、タイル(小片)状あるいはボード(板)状に作製し、接着剤で壁、天井又は床の基材表面に貼り合わせて断熱調湿材として用いる。
特に、天井や壁に使用する場合には、シリカゲル成形体表層に調湿性を損なわない防汚対策を施すことが望ましい。したがって、調湿性を損なわない防汚対策として、はっ水加工等の防汚処理を施した紙、織布、不織布、多孔性有機高分子膜から選ばれる少なくとも1つを含む透湿性材料を、形成あるいは表面に貼り合わせることが好ましい。このときに使用する接着剤は、透湿性を損なわず、調湿性に悪影響を与えないものが望ましい。そのような接着剤としては、スプレー式の塗布が可能であり、細孔をふさがないものが好ましい。
【0016】
建築材として実用的に防汚対策するには、基本的に基材1、シリカゲル成形体層2、透湿性材料表層3の3層構造(図2)をとることが好ましい。透湿性材料表層3は、多孔性素材及び紙素材等の透湿性材料からなる壁紙をシリカゲル成形体に貼るようにするとよい。また、室内から見て表面を木材等の透湿性材料表層3ほど透湿性が高くない材料(中透湿性材料4)を用いた場合、室内空気が流通可能なように、通気部として通気層5、通気溝6又は通気孔7を設けて内部にシリカゲル成形体を用いるようにしてもよい(図3、図4)。このとき、もちろんシリカゲル成形体層2と中透湿性材料4と隙間を開けて通気層としてもよい。
透湿性材料表層の形成方法として、ディップコーティングによって有機高分子膜等を成膜する方法は、細孔を閉塞させる恐れがあるので好ましくない。透湿性材料の形成方法の好ましい形態の一例としては、スプレー式に有機高分子粒子を吹き付けて接着させる方法が挙げられる。また、透湿性材料表層の形成としては、シリカゲル自体の改質を施してもよい。シリル化剤を用いて表面のOH基(シラノール基)に、例えばオクタデシル基を付加することによって疎水性にして水との親和性を低下させることも可能である。
【0017】
また、はっ水性以外の防汚処理の好ましい一例として、シリカゲル成形体表面に酸化チタン(IV)又は酸化亜鉛(II)を含む光触媒を施すことによって、室内の有機化合物成分による壁等の黄ばみ、例えばたばこの煙中の成分や揮発した調理油等を分解させる防汚加工も有効である。また、成形体の細孔内に、銀、銅又は亜鉛のイオン又は微粒子、あるいは有機化合物系の防カビ剤を担持させることで、抗菌・防カビ特性を持たせることも有効である。
さらに、簡易的にシリカゲル成形体を基材に接着・施工可能なように、あらかじめ接着剤を塗布したシリカゲル成形体を作製し、接着面を剥離紙で保護した接着剤付きシリカゲル成形体として用いてもよい。
床材に使用する場合には、家具や家電製品等の重量物の積載、及び水などの液体がこぼされることが想定されるため、機械的強度及び防汚対策は天井や壁用よりさらに要求が厳しいものとなる。そこで、機械的強度の要求に対応するためには、補強用補助材を用いることが望ましい。補助材の材質としては木材、金属材料、コンクリート、硬質プラスチック、素焼き材、セラミックス、石膏ボード等を用いることができる。そのうち金属材料としては、一般に使用される安価な材料であって、吸収した水によってシリカゲル成形体と接する部分が容易に腐食しないものであればよく、例えばニッケルやクロムあるいは亜鉛でメッキした鉄、あるいはステンレス鋼を好ましく用いる。
【0018】
しかしながら、強度を優先して補強用補助材を多く使用すると、相対的にシリカゲル成形体使用量が減少するため、重量物の下には、圧力を拡散するための板状の木材等の十分強度がある材料を設置するか、もしくはその部分だけシリカゲル成形体の使用を避けるようにすることが望ましい。木材及び素焼き材については、それ自体が吸水性及び吸湿性をもつので、シリカゲル成形体と複合的に用いるのに都合がよい。
床材として使用するための補強用補助材の形態としては、例えば、図5に示すように、上部が空いた直方体状の箱型をなし、シリカゲル成形体を収め、必要な床面積になるように敷き詰めてもよい。このシリカゲル成形体を収める箱型容器8は、水平断面形状が六角形、ひし形、三角形、円形、楕円形、又は不規則な形状でもよいが、密に敷き詰められる形状が好ましい。また、補強用補助材使用の別の形態として、これらの箱型の底面を抜いた枠状のものでもよい。いずれの場合も、用いるシリカゲル成形体は長辺が3〜10cm程度で、厚さが0.5〜1cm程度のものが作りやすく扱いやすく、あまり大きいものは好ましくない。
【0019】
本発明のシリカゲル断熱性調湿材は、上記の断熱性及び吸湿性だけでなく、高い耐熱性も併せ持つ。建築材料として多用されている発泡ポリウレタン等の有機高分子材料は、100℃を超えた辺たりの温度で融解が起こり、火災などでは有害ガスの発生源になる恐れがある。また、ガラス繊維を利用したものでも500℃程度以上になると融解する。一方、本発明のシリカゲル材料は融解せず、800℃程度では気孔率をほぼ維持し、950℃程度であっても、線収縮率は5%以下で構造を保持するという耐熱性をもち、耐熱衝撃性も高い。すなわち、火災などの非常時においては、防火断熱壁として機能させることも可能である。本発明のシリカゲル材料は、およそシリカ(SiO2)のみで構成されるため、高温に長時間曝されても変質は少なく、また有害ガスの発生も無いため、耐熱性を考慮した施工においても有用である。
【0020】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1
細孔構造制御(水ガラス濃度とマクロ孔)
水ガラスとしてJIS 3号水ガラス(日本化学工業)を水(イオン交換水)、で希釈したものを用い、ポリアクリル酸には分子量2.5万のもの(和光純薬)、硝酸には60質量%(和光純薬、特級試薬)を用い、重量組成比としては、水ガラス:水:硝酸:ポリアクリル酸=x:97:37:6.5とし、xは50〜60の範囲で変化させた。原料の混合後、ポリスチレン製容器に流し込み、25℃で24時間静置して、ゲルを生成させた。得られたゲルを水洗後、乾燥オーブン(50℃)中で乾燥後、700℃で2時間焼成を行い、試料片を得た。
このとき、走査型電子顕微鏡(SEM)写真によって破面をみると、図6(A)(x=50)、図6(B)(x=55)、図6(C)(x=60)のように、連通するマクロ孔が1〜20μm程度の範囲で変化することがわかる。すなわち、水ガラスの濃度条件を制御することにより、連通するマクロ孔の細孔径を1〜20μm程度の範囲で制御可能であると考えられる。
【0021】
実施例2
細孔構造制御(ゲル熟成時条件とメゾ孔)
実施例1のように作製する工程のうち、ゲルの熟成時の条件による細孔の変化について試験した。表1及び図7にゲルの熟成時に浸漬する溶液の組成を変化させたときの細孔径(メゾ孔)の結果を示す。実施例1の原料組成比のxを50とし、原料の混合後、ポリスチレン製容器に流し込み、25℃でゲル化させ、24時間後に生成したゲルを実施例1と同様に洗浄し、その後ポリプロピレン製ビーカーに調製した浸漬液500cm3中に浸漬しゲルの熟成を行った。ただし、表1の試料A及びBについては、この熟成工程を省いた。熟成時の温度は50℃、ゲル熟成期間は3日間とし、水洗を24時間行った後、室温で7日間乾燥後、500℃で2時間焼成を行い、成形体(60mm×40mm×7mm)を作製し、試料片を得た。
【0022】
【表1】
表1に示す結果のようにゲル熟成工程を変えることでメゾ孔の孔径を約2〜18nmの範囲で制御できた。また、図7では、各試料のメゾ孔径分布がおよそ2〜20nmの範囲で制御されることがわかる。このことは、メゾ孔の孔径がゲル熟成工程の有無及びゲル熟成時のpHに依存することを示し、ゲル熟成工程を省いた場合及びpHが小さい場合にはメゾ孔が小さくなり、pHが大きい場合にはメゾ孔が大きくなることがわかる。また、本試験片のマクロ孔についても同時に調べたところ、収縮の度合いに対して10%程度のマクロ孔の孔径の変化は認められるものの、SEMで確認できる構造に大きな差異は認められなかった。すなわち、ゲル熟成時のpHを調整することによって、マクロ孔の細孔構造とは独立してメゾ孔の孔径を再現よく制御できることがわかった。
【0023】
実施例3
熱伝導度の測定方法と結果
本発明のシリカゲル成形体(二元細孔シリカゲル)について、熱伝導度の測定を行った。試料には、実施例2の方法で調製し、厚さ7mm以上、大きさ2cm×2cm以上のサイズになるように成形したものを用いた。同条件で作製した試料板を2枚用意し、ホットディスク法によって熱伝導度を測定した。このときの結果及び他の断熱材料のデータを併せ表2に示す。超臨界乾燥により得られるシリカエアロゲル(超臨界乾燥性エアロゲル)は特に低い熱伝導率を示すが、強度は非常に小さく、吸湿により構造が破壊されるので、本発明のシリカゲル成形体とは明らかに用途が異なる。一方、グラスウール及び発泡スチロールと比較すると、本発明のシリカゲル成形体はこれら断熱材の熱伝導率と同程度である。本発明のシリカゲル成形体の気孔率と熱伝導率の関係は図8のようになり、気孔率の増加とともに熱伝導率が低下する。ただし、図8の気孔率0%の熱伝導率については、シリカガラスとしての文献値であり、また、気孔率66%の試料については、マクロ孔がない試料を調整して用いたため、本発明のシリカゲル成形体を用いて測定したものではない。したがって、本発明のシリカゲル成形体は、気孔率すなわち細孔容積の増加により断熱性能が向上する。
【0024】
【表2】
【0025】
実施例4
メゾ孔の孔径による平衡水蒸気吸着特性
実施例2で作製した試料についての水蒸気吸着等温線を図9に示す。メゾ孔の孔径が10nm程度以下の場合、吸着する水蒸気の量はほぼメゾ孔の容積と比例することがわかる。また試料のメゾ孔の孔径の変化によって、水蒸気吸着量が急勾配で増加(脱離過程においては減少)する相対蒸気圧(湿度)域が変化することがわかる。すなわち、この湿度域は実質的な調湿域であり、さらにこの調湿域はメゾ孔の孔径で制御できるといえる。
作製した試料A〜Eを調湿特性で分類すると、試料Bは極端な乾燥を防止するために、試料Cは標準的な環境に対応するために、試料Dは極端な高湿を防止するために有効と考えられ、試料Aや試料Eはこうした調湿の目的にはあまり適さないと考えられる。本発明のシリカゲル成形体を用いる建築用材料としては、施工場所の気候及び要求に応じて、例えば試料B,C,Dを適宜組み合わせることにより、快適な湿度への湿度コントロールが可能であると考えられる。
【0026】
なお、試料Cについて、湿度40〜80%程度の間での水蒸気吸放出量は試料1g当たり標準状態での気体容積で500cm3程度になる。これは気体の状態方程式と水の分子量(18g/mol)より、およそ0.4gの水蒸気量に相当すると計算される。この試料Cの気孔率が77%程度(比重0.5g/cm3)であり、同素材で厚さ1cmの板を作製することを考えると、面積1m2の板(5kgに相当)で約2kgの水蒸気の吸放出能力を持つと推定される。この吸放出能力は、従来の材料(300g/m2程度)と比べると6倍以上高く、しかも重量は軽いという利点がある。
【0027】
実施例5
細孔内のガス拡散速度評価
細孔内ガス拡散速度については、液体窒素温度における窒素の吸着過程における吸着量の時間変化より評価した。実施例1又は2に準じて作製した試料片について、細孔の球形近似を行い、吸着量の時間変化を拡散方程式を解いた解に当てはめてフィッティングを行うことにより拡散係数を算出した。ただし、この方法で得られる拡散係数の絶対値は低温での測定であるため、常温常圧における値より小さくなっていることに留意する必要がある。
拡散方程式の解(近似式)
Mt/M∞=6(D/πa2)1/2×t1/2(a:粒子半径、t:時間、D:拡散係数、Mt:時間tの吸着量、M∞:平衡時の吸着量、)
図10に得られた拡散係数の細孔径依存性を示す。マクロ孔を持つ試料(右側2つのプロット、本発明の試料)ではメゾ孔のみの試料(左側2つのプロット、対照試料)と比べると1桁以上高い拡散係数を示し、同じ孔径のメゾ孔をもつ試料と比較し拡散速度が10倍以上に加速されることが確認できた。このようなマクロ孔による速い物質輸送により、成形体として調湿機能を発現させる場合、環境に応じた急速な水蒸気の吸放出が可能となるため、より有効な調湿材として機能すると考えられる。
【0028】
【発明の効果】
多孔質材料としてシリカゲルを、ナノメートルサイズの細孔(メゾ孔)及びマイクロメートルサイズの細孔(マクロ孔)からなる二元細孔を持つように調製することにより、居住空間の快適性及び省エネルギー性を付加する効果的な断熱調湿材とすることができる。また、調湿性に関しては、メゾ孔の孔径によって水蒸気の吸放出する湿度範囲の設定が可能であり、さらにマクロ孔により調湿の応答性をよくする。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のシリカゲル成形体(破面)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】図2は、本発明のシリカゲル成形体を用いた基材・シリカゲル成形体・透湿性材料表層の3層構造をもつ天井又は壁用建築材の一例を示す図である。
【図3】図3は、室内側に木材を用い、室内空気が流通可能なように通気層を設けた本発明のシリカゲル成形体を用いた天井又は壁用建築材材の一例を示す図である。
【図4】図4は、室内側に木材を用い、室内空気が流通可能なように通気孔及び通気溝を設けた本発明のシリカゲル成形体を用いた天井又は壁用建築材材の一例を示す図である。
【図5】図5は、上部が空いた箱型容器状補強材の中に本発明のシリカゲル成形体を用いた床用建築材材の一例を示す図である。
【図6】図6は、実施例1の水ガラス量比(x)を、(A)は、水ガラス量比(x)を50、(B)は、水ガラス量比(x)を55、(C)は、水ガラス量比(x)を60にして作製したシリカゲル成形体(破面)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】図7は、ゲル熟成時のpH条件を変えて作製した試料片のメゾ孔径の分布を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明のシリカゲル成形体の気孔率と熱伝導率の関係を表すグラフである。
【図9】図9は、メゾ孔径を変化させて調製したシリカゲル成形体の水蒸気吸着等温線である。
【図10】図10は、シリカゲル成形体の細孔径による水蒸気の拡散速度を示すグラフである。
【符号の説明】
1:基材、2:シリカゲル成形体層、3:透湿性材料表面、4:壁紙、5:通気層、6:通気溝、7:通気孔、8:箱型容器
【発明の属する技術分野】
本発明は、断熱機能及び調湿機能を有する材料に係り、特に、建築物の室内の住宅建材として壁や床又は天井に施工され、断熱効果と共に室内の湿度変化に応じて湿気を吸収・放出することによって、居住空間の快適性向上や省エネルギー効果を発揮する断熱調湿材とそれを用いる建築材に関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】特開平10−212173号公報
【非特許文献1】「セラミックス」、37(2002)、No.1、p.6−9
住宅などの建築物において、居住空間の快適性及び省エネルギー効果を付与する建材は必要不可欠なものである。このような建材には、断熱材をはじめ、湿度を調整する調湿材、防音や遮音をする吸音材又は遮音材がある。断熱材には、発泡ポリウレタンなどの高分子物質やグラスウール等が使用され、調湿材には、粉粒炭、珪藻土、鹿沼土、ゼオライト、セピオライト、シリカゲル等が使用されている。調湿材は、湿度増加時に水蒸気を吸着し、湿度低下時には水蒸気を放出する機能を持つため、居住空間等での急激な湿度変化を緩和させるものとして役立つ。また、居住空間の湿度の調整は、不快指数のような気分的な快適性だけでなく局所的な水蒸気の結露やそれによるカビの繁殖を防ぐ効果も期待できる。
断熱性と調湿性を併せ持つ材料、すなわち断熱調湿材については、そのほとんどが調湿材としての性能が十分ではなく、断熱性と調湿性を同時に必要とする場合には、断熱材と調湿材とを積層あるいは包括することによって複合的に利用する(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、従来の調湿材として優れた機能をもつものは、強度については考慮しているものの、単位重量当たりの吸湿量が十分でなく、もちろん断熱効果は期待できない(例えば、非特許文献1)。
断熱材のもつ断熱効果は、材料中に大量の空気を含有することで、熱伝導性を低下させることに基づく。また、断熱材の性能は、ベースとなる材料の熱伝導度に加え空気の含有率(気孔率)に大きく依存する。一般的に、気孔率が高いほど断熱能力も向上する。調湿材のもつ水蒸気の吸着は、主に毛管凝縮現象によるものであり、ナノメートルサイズの細孔(以下、「メゾ孔」と記述する)を持つ多孔質材料が利用される。
優れた断熱材として要求される高度な断熱性を発揮するには、気孔率が90%程度以上である必要がある。しかし、そのような高い気孔率においては、単一材料では強度が十分でないため、複合材料化するか、あるいはマイクロメートルサイズ以上の細孔(以下、「マクロ孔」と記述する)の材料を作らざるを得なかった。そのため、結果として優れた断熱材には十分な調湿効果を付与することはできなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、シリカゲルの微細構造を最適化することによって、単一の素材で断熱性及び調湿性を高いレベルで併せ持ち、さらに吸湿容量及び調湿の応答速度に優れる断熱調湿材とそれを用いる建築材を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、孔径2〜20nmの細孔(メゾ孔)と、孔径0.1〜20μmの細孔(マクロ孔)からなる二元細孔を有するシリカゲルを含むことを特徴とする断熱調湿材としたものである。この断熱調湿材の好ましい製造方法としては、安価な原材料として水ガラスを使用し、親水性有機高分子化合物、酸、及び水を混合することによってゲルを形成させ、該ゲルを乾燥する工程の後、焼成する工程を有することによって成形体とする。
また本発明では、前記断熱調湿材を建築材の少なくとも一部に用いるか、あるいは該断熱調湿材からなる層を建築材の少なくとも一層に用いることを特徴とする断熱調湿用建築材としたものであり、また、前記断熱調湿用建築材は、さらに透湿性材料表層及び/又は通気部を有することができる。
さらに、本発明では、畳、絨毯、カーペット又は床用敷物の下部に使用する床材であって、前記断熱調湿材と、補強用補助材を有することを特徴とする断熱調湿床材としたものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
建築材において、断熱材と調湿材の複合材料を利用せず、単一の材料で断熱と調湿を両立することができれば、壁や天井、床などの構成部材が非常に簡略化され、施工の容易性及びコスト等の施工上のメリットは大きい。
本発明者らは、単一の材料としてメゾ孔とマクロ孔を併せ持つ二元細孔多孔質材料を利用することに着目し、鋭意研究によって、シリカゲルの湿度変化による水の吸脱着の大きく変化する湿度域が、その細孔分布によることを見出した。すなわち、調湿材料のメゾ孔の孔径を制御することによって、湿度域の調整が可能であり、また、連通するマクロ孔を持たせることで、多孔質内部への物質移動(拡散)速度が高められ、調湿材料としてさらに機能性を向上させることができるという知見を得た。
【0007】
従来からシリカゲルは吸湿性に優れるため、吸湿材(剤)として多く使用されている。本発明者らは、シリカゲルの微細構造としてメゾ孔及びマクロ孔からなる二元細孔を施すことによって、本来有する優れた吸湿性を損なわず断熱性を付与することができた。この材料を住宅用等の建築材に利用することで、居住空間の快適性や省エネルギー性を向上させることが可能となる。また、この材料は、温度条件や湿度条件を保つ必要のある空間づくりに役立つ。
本発明の二元細孔シリカゲル断熱調湿材(以下、シリカゲル成形体と記述する)は無数のメゾ孔と、連通するマクロ孔(図1)をもち、メゾ孔は水蒸気の吸脱着に対して機能し、マクロ孔はガス拡散速度を高める(実施例5)ことによって水蒸気の脱吸着をスムーズにし、応答性良く調湿することに対して機能する。
【0008】
細孔(メゾ孔)内への気体分子の吸着の挙動は、第一次近似として次に示すKelvin式で表記される。
ln(p/p0) = 2Vγ/RTr・cosθ
(p:気体分子の分圧、p0:気体分子の飽和分圧、V:液体のモル体積、γ:液体の表面張力、R:気体定数、T:温度(K)、r:細孔半径、θ:気体分子と細孔内表面との接触角)
気体分子が水(水蒸気)の場合、p/p0は相対湿度(以下、単に湿度という)を示し、吸着する湿度と細孔半径の関係が上記の式で示される。これによって理論的に計算すると、調湿に用いる材料としては、湿度を40〜80%程度の範囲に設定する場合、細孔径(細孔の直径)は2〜10nmが好ましい。調湿の対象を限定するならば、例えば、製薬工場における製剤工程に適する低湿度環境には2〜3nm、快適な居住空間には3〜5nm、発酵食品工場における発酵工程に適する高湿度環境には5〜10nmのような細孔範囲に調製するとよい。本発明者らが実際にシリカゲル成形体を作製したところ、メゾ孔がおよそ2〜20nmであるときに調湿機能をもつことがわかった(実施例2及び4)。
【0009】
一般的に、結露を防ぐ場合には、室内の湿度を70〜80%程度に抑えることが望ましい。また、人間が快適に生活できる室内湿度は、およそ40〜60%程度といわれる。調湿材によって室内湿度をこの範囲に保つためには、湿度が40%程度以下のときには、加湿すべく大量の水蒸気放出があり、さらに、湿度が60%程度以上のときには、除湿すべく大量の水蒸気吸着があることが望ましい。また、結露防止には、湿度が80%以上であるときに大量の水蒸気を吸着することが望ましく、一方、極端な乾燥防止には、湿度40%以下になってはじめて水蒸気を放出する特性を示す調湿材が望ましい。
マクロ孔については、断熱性優先であれば、気孔率を高めるために孔径を小さくすることも有効であるが、水分子の内部拡散を促進する上では0.1μm以上であることが好ましい。また、強度優先であれば、気孔率を低下させるために孔径を大きくするが、気孔率が70%以下になると断熱性が十分ではなくなるため、20μm以下であることが好ましい。しかしながら、水の吸脱着速度及び断熱性をバランスさせた材料としては、3μm〜10μmの範囲であることがより好ましい。
【0010】
このような二元細孔をもつシリカゲルを作製するためには、実験室規模ではケイ素アルコキシド(例えば、テトラエトキシシラン)を主原料にする方法も選択できるが、建築材の原料として使用するには非常に高価である。したがって、安価に入手可能な水ガラス、すなわちケイ酸ナトリウムの濃厚水溶液を主原料とすることが好ましく、これを相分離させてゲルを形成する方法、例えば非特許文献〔J.Ceram.Soc.Japan, 109(2001)p.577〕の方法を利用して製造することが望ましい。この製造方法により、相分離の過渡構造を凍結することによってメゾ孔及び連通するマクロ孔からなる二元細孔を有するシリカゲルを得る。もちろんコスト上のメリットは無いが、ケイ素アルコキシド等の他の原料から同様な二元細孔シリカゲルを製造しても構わない。
【0011】
典型的には、水で希釈した水ガラス(例えばJIS 3号水ガラス)を分子量2.5万程度のポリアクリル酸を含有する硝酸水溶液に攪拌しながら少量ずつ添加する。この時の組成比は概略、水ガラス:水:硝酸(60質量%):ポリアクリル酸=60:97:37:6.5である。この組成比については、所望なマクロ孔の孔径に応じて適宜調整するものである。例えば、水ガラスの組成比、又はポリアクリル酸(有機高分子化合物)の組成比や分子量を変化させることにより、マクロ孔の孔径を変化させることができる。これは、水ガラスと硝酸によって生成したシリカ微粒子が存在する混合系(ゾル)において、ポリアクリル酸の添加による自由エネルギーの増加及びシリカ粒子の重合(凝集)に伴うエントロピーの低下が引き金となり、有機高分子化合物層とシリカ層との間で相分離を起こすことに基づく。このときの過渡構造が本発明の断熱調湿材(シリカゲル成形体)に反映されるため、相分離開始からゲル化までの時間が長いほど、混合系の濃度又は粘度が高くなるほど、マクロ孔の孔径が大きくなる。
【0012】
ポリアクリル酸については、ゲル化時に相分離を誘起させるために添加するものであるので、同様な作用を持つものとして親水性有機高分子化合物、例えば、ポリビニルアルコールやポリスチレンスルホン酸などを用いてもよい。また、ポリアクリル酸を使用する場合の分子量範囲は2万5千〜25万であることが好ましい。また、他の親水性有機高分子化合物を用いる場合には、適度な粘度をもつ分子量範囲のものを用いることが好ましい。硝酸については、水ガラスの強アルカリ性を中和するために用いるので、酸であれば他の酸すなわち塩酸、硫酸、酢酸、リン酸等を用いてもよく、強酸であることが好ましい。
ここで得られた均一溶液を、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等の耐酸性のある有機高分子材料製の容器に入れ、常温(約25℃)で1日程度静置し、ゲル化させる。この容器の形状は、所望の形状にして構わないが、以降の工程の条件によってひび割れや崩壊の恐れがあるので大きさは制限される。ただし、大きな容器でゲル化させた場合であっても、乾燥前のゲルは容易に切断及び加工できるので、以降の工程前にゲルを適当な大きさにして、ひび割れ等を防いでもよい。
【0013】
混合物(ゾル)がゲル化した後、含有するナトリウムイオン及び硝酸イオン等の不要成分を除去するための水洗を行う。その際に、ゲルの大きさや形状によって水洗時にゲルが破損する場合があるので、さらに1日程度静置し強度が増してから水洗を行うことが望ましい。水洗は、ゲルを水中に浸漬することにより濃度拡散に基づいて不要成分を除去するために行うので、水を入れ替えられるように、水供給部及び排水部を具備して、水が流通できる容器によって行うことが望ましい。もちろんバッチ式として、水洗液を数回交換することで水洗する方法でもよい。このとき使用する水は、イオン交換水又は蒸留水等の純水が好ましい。また、水洗工程に必要な時間は、ゲルの大きさによって増減する。水洗後、必要に応じてpHを制御した溶液中でさらにゲルの熟成を行う。この熟成過程の条件(pH及び温度)により、メゾ孔について孔径を制御することができる。pHについては、pHの増加にほぼ相関して孔径も増加する。また、温度が上昇することによっても、孔径が増加する。
【0014】
ここまでの過程において、ゲル作製条件を制御することにより、マクロ孔の孔径を連続性を損なうことなく、少なくとも1〜20μmの範囲で調製することが可能である。また、ゲル熟成過程でのpH条件の制御により、メゾ孔の孔径については少なくとも2〜20nmの範囲で調製することが可能である。
ゲルの熟成後、ゲルの乾燥に続いて焼成を行う。乾燥の過程でゲルは収縮するため、乾燥が急激である場合にはゲルにひび割れや亀裂が生じ、崩壊する可能性がある。したがって、乾燥速度を制御することが望ましい。また、焼成工程は十分に乾燥した後に行う必要がある。焼成工程の目的は、残留有機物成分の除去、強度の増加、及び水の吸脱着性能の安定化のために行うので、焼成温度は500℃以上が望ましく、細孔特性に影響を与えない範囲として800℃程度以下が好ましい。
得られるシリカゲル成形体は、細孔容積が1〜4cm3/gであり、気孔率が70〜95%である。このように作製したシリカゲル成形体の破面の走査型電子顕微鏡(SEM)による写真を図1に示す。
【0015】
ここまでの過程で得られたシリカゲル成形体は、乾燥工程〜焼成工程で反り等の変形を起こすことがあるので、切削加工等の形状を整えるための工程を入れることが好ましい。
以上の工程で得られたシリカゲル成形体の好ましい利用形態の例として、タイル(小片)状あるいはボード(板)状に作製し、接着剤で壁、天井又は床の基材表面に貼り合わせて断熱調湿材として用いる。
特に、天井や壁に使用する場合には、シリカゲル成形体表層に調湿性を損なわない防汚対策を施すことが望ましい。したがって、調湿性を損なわない防汚対策として、はっ水加工等の防汚処理を施した紙、織布、不織布、多孔性有機高分子膜から選ばれる少なくとも1つを含む透湿性材料を、形成あるいは表面に貼り合わせることが好ましい。このときに使用する接着剤は、透湿性を損なわず、調湿性に悪影響を与えないものが望ましい。そのような接着剤としては、スプレー式の塗布が可能であり、細孔をふさがないものが好ましい。
【0016】
建築材として実用的に防汚対策するには、基本的に基材1、シリカゲル成形体層2、透湿性材料表層3の3層構造(図2)をとることが好ましい。透湿性材料表層3は、多孔性素材及び紙素材等の透湿性材料からなる壁紙をシリカゲル成形体に貼るようにするとよい。また、室内から見て表面を木材等の透湿性材料表層3ほど透湿性が高くない材料(中透湿性材料4)を用いた場合、室内空気が流通可能なように、通気部として通気層5、通気溝6又は通気孔7を設けて内部にシリカゲル成形体を用いるようにしてもよい(図3、図4)。このとき、もちろんシリカゲル成形体層2と中透湿性材料4と隙間を開けて通気層としてもよい。
透湿性材料表層の形成方法として、ディップコーティングによって有機高分子膜等を成膜する方法は、細孔を閉塞させる恐れがあるので好ましくない。透湿性材料の形成方法の好ましい形態の一例としては、スプレー式に有機高分子粒子を吹き付けて接着させる方法が挙げられる。また、透湿性材料表層の形成としては、シリカゲル自体の改質を施してもよい。シリル化剤を用いて表面のOH基(シラノール基)に、例えばオクタデシル基を付加することによって疎水性にして水との親和性を低下させることも可能である。
【0017】
また、はっ水性以外の防汚処理の好ましい一例として、シリカゲル成形体表面に酸化チタン(IV)又は酸化亜鉛(II)を含む光触媒を施すことによって、室内の有機化合物成分による壁等の黄ばみ、例えばたばこの煙中の成分や揮発した調理油等を分解させる防汚加工も有効である。また、成形体の細孔内に、銀、銅又は亜鉛のイオン又は微粒子、あるいは有機化合物系の防カビ剤を担持させることで、抗菌・防カビ特性を持たせることも有効である。
さらに、簡易的にシリカゲル成形体を基材に接着・施工可能なように、あらかじめ接着剤を塗布したシリカゲル成形体を作製し、接着面を剥離紙で保護した接着剤付きシリカゲル成形体として用いてもよい。
床材に使用する場合には、家具や家電製品等の重量物の積載、及び水などの液体がこぼされることが想定されるため、機械的強度及び防汚対策は天井や壁用よりさらに要求が厳しいものとなる。そこで、機械的強度の要求に対応するためには、補強用補助材を用いることが望ましい。補助材の材質としては木材、金属材料、コンクリート、硬質プラスチック、素焼き材、セラミックス、石膏ボード等を用いることができる。そのうち金属材料としては、一般に使用される安価な材料であって、吸収した水によってシリカゲル成形体と接する部分が容易に腐食しないものであればよく、例えばニッケルやクロムあるいは亜鉛でメッキした鉄、あるいはステンレス鋼を好ましく用いる。
【0018】
しかしながら、強度を優先して補強用補助材を多く使用すると、相対的にシリカゲル成形体使用量が減少するため、重量物の下には、圧力を拡散するための板状の木材等の十分強度がある材料を設置するか、もしくはその部分だけシリカゲル成形体の使用を避けるようにすることが望ましい。木材及び素焼き材については、それ自体が吸水性及び吸湿性をもつので、シリカゲル成形体と複合的に用いるのに都合がよい。
床材として使用するための補強用補助材の形態としては、例えば、図5に示すように、上部が空いた直方体状の箱型をなし、シリカゲル成形体を収め、必要な床面積になるように敷き詰めてもよい。このシリカゲル成形体を収める箱型容器8は、水平断面形状が六角形、ひし形、三角形、円形、楕円形、又は不規則な形状でもよいが、密に敷き詰められる形状が好ましい。また、補強用補助材使用の別の形態として、これらの箱型の底面を抜いた枠状のものでもよい。いずれの場合も、用いるシリカゲル成形体は長辺が3〜10cm程度で、厚さが0.5〜1cm程度のものが作りやすく扱いやすく、あまり大きいものは好ましくない。
【0019】
本発明のシリカゲル断熱性調湿材は、上記の断熱性及び吸湿性だけでなく、高い耐熱性も併せ持つ。建築材料として多用されている発泡ポリウレタン等の有機高分子材料は、100℃を超えた辺たりの温度で融解が起こり、火災などでは有害ガスの発生源になる恐れがある。また、ガラス繊維を利用したものでも500℃程度以上になると融解する。一方、本発明のシリカゲル材料は融解せず、800℃程度では気孔率をほぼ維持し、950℃程度であっても、線収縮率は5%以下で構造を保持するという耐熱性をもち、耐熱衝撃性も高い。すなわち、火災などの非常時においては、防火断熱壁として機能させることも可能である。本発明のシリカゲル材料は、およそシリカ(SiO2)のみで構成されるため、高温に長時間曝されても変質は少なく、また有害ガスの発生も無いため、耐熱性を考慮した施工においても有用である。
【0020】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1
細孔構造制御(水ガラス濃度とマクロ孔)
水ガラスとしてJIS 3号水ガラス(日本化学工業)を水(イオン交換水)、で希釈したものを用い、ポリアクリル酸には分子量2.5万のもの(和光純薬)、硝酸には60質量%(和光純薬、特級試薬)を用い、重量組成比としては、水ガラス:水:硝酸:ポリアクリル酸=x:97:37:6.5とし、xは50〜60の範囲で変化させた。原料の混合後、ポリスチレン製容器に流し込み、25℃で24時間静置して、ゲルを生成させた。得られたゲルを水洗後、乾燥オーブン(50℃)中で乾燥後、700℃で2時間焼成を行い、試料片を得た。
このとき、走査型電子顕微鏡(SEM)写真によって破面をみると、図6(A)(x=50)、図6(B)(x=55)、図6(C)(x=60)のように、連通するマクロ孔が1〜20μm程度の範囲で変化することがわかる。すなわち、水ガラスの濃度条件を制御することにより、連通するマクロ孔の細孔径を1〜20μm程度の範囲で制御可能であると考えられる。
【0021】
実施例2
細孔構造制御(ゲル熟成時条件とメゾ孔)
実施例1のように作製する工程のうち、ゲルの熟成時の条件による細孔の変化について試験した。表1及び図7にゲルの熟成時に浸漬する溶液の組成を変化させたときの細孔径(メゾ孔)の結果を示す。実施例1の原料組成比のxを50とし、原料の混合後、ポリスチレン製容器に流し込み、25℃でゲル化させ、24時間後に生成したゲルを実施例1と同様に洗浄し、その後ポリプロピレン製ビーカーに調製した浸漬液500cm3中に浸漬しゲルの熟成を行った。ただし、表1の試料A及びBについては、この熟成工程を省いた。熟成時の温度は50℃、ゲル熟成期間は3日間とし、水洗を24時間行った後、室温で7日間乾燥後、500℃で2時間焼成を行い、成形体(60mm×40mm×7mm)を作製し、試料片を得た。
【0022】
【表1】
表1に示す結果のようにゲル熟成工程を変えることでメゾ孔の孔径を約2〜18nmの範囲で制御できた。また、図7では、各試料のメゾ孔径分布がおよそ2〜20nmの範囲で制御されることがわかる。このことは、メゾ孔の孔径がゲル熟成工程の有無及びゲル熟成時のpHに依存することを示し、ゲル熟成工程を省いた場合及びpHが小さい場合にはメゾ孔が小さくなり、pHが大きい場合にはメゾ孔が大きくなることがわかる。また、本試験片のマクロ孔についても同時に調べたところ、収縮の度合いに対して10%程度のマクロ孔の孔径の変化は認められるものの、SEMで確認できる構造に大きな差異は認められなかった。すなわち、ゲル熟成時のpHを調整することによって、マクロ孔の細孔構造とは独立してメゾ孔の孔径を再現よく制御できることがわかった。
【0023】
実施例3
熱伝導度の測定方法と結果
本発明のシリカゲル成形体(二元細孔シリカゲル)について、熱伝導度の測定を行った。試料には、実施例2の方法で調製し、厚さ7mm以上、大きさ2cm×2cm以上のサイズになるように成形したものを用いた。同条件で作製した試料板を2枚用意し、ホットディスク法によって熱伝導度を測定した。このときの結果及び他の断熱材料のデータを併せ表2に示す。超臨界乾燥により得られるシリカエアロゲル(超臨界乾燥性エアロゲル)は特に低い熱伝導率を示すが、強度は非常に小さく、吸湿により構造が破壊されるので、本発明のシリカゲル成形体とは明らかに用途が異なる。一方、グラスウール及び発泡スチロールと比較すると、本発明のシリカゲル成形体はこれら断熱材の熱伝導率と同程度である。本発明のシリカゲル成形体の気孔率と熱伝導率の関係は図8のようになり、気孔率の増加とともに熱伝導率が低下する。ただし、図8の気孔率0%の熱伝導率については、シリカガラスとしての文献値であり、また、気孔率66%の試料については、マクロ孔がない試料を調整して用いたため、本発明のシリカゲル成形体を用いて測定したものではない。したがって、本発明のシリカゲル成形体は、気孔率すなわち細孔容積の増加により断熱性能が向上する。
【0024】
【表2】
【0025】
実施例4
メゾ孔の孔径による平衡水蒸気吸着特性
実施例2で作製した試料についての水蒸気吸着等温線を図9に示す。メゾ孔の孔径が10nm程度以下の場合、吸着する水蒸気の量はほぼメゾ孔の容積と比例することがわかる。また試料のメゾ孔の孔径の変化によって、水蒸気吸着量が急勾配で増加(脱離過程においては減少)する相対蒸気圧(湿度)域が変化することがわかる。すなわち、この湿度域は実質的な調湿域であり、さらにこの調湿域はメゾ孔の孔径で制御できるといえる。
作製した試料A〜Eを調湿特性で分類すると、試料Bは極端な乾燥を防止するために、試料Cは標準的な環境に対応するために、試料Dは極端な高湿を防止するために有効と考えられ、試料Aや試料Eはこうした調湿の目的にはあまり適さないと考えられる。本発明のシリカゲル成形体を用いる建築用材料としては、施工場所の気候及び要求に応じて、例えば試料B,C,Dを適宜組み合わせることにより、快適な湿度への湿度コントロールが可能であると考えられる。
【0026】
なお、試料Cについて、湿度40〜80%程度の間での水蒸気吸放出量は試料1g当たり標準状態での気体容積で500cm3程度になる。これは気体の状態方程式と水の分子量(18g/mol)より、およそ0.4gの水蒸気量に相当すると計算される。この試料Cの気孔率が77%程度(比重0.5g/cm3)であり、同素材で厚さ1cmの板を作製することを考えると、面積1m2の板(5kgに相当)で約2kgの水蒸気の吸放出能力を持つと推定される。この吸放出能力は、従来の材料(300g/m2程度)と比べると6倍以上高く、しかも重量は軽いという利点がある。
【0027】
実施例5
細孔内のガス拡散速度評価
細孔内ガス拡散速度については、液体窒素温度における窒素の吸着過程における吸着量の時間変化より評価した。実施例1又は2に準じて作製した試料片について、細孔の球形近似を行い、吸着量の時間変化を拡散方程式を解いた解に当てはめてフィッティングを行うことにより拡散係数を算出した。ただし、この方法で得られる拡散係数の絶対値は低温での測定であるため、常温常圧における値より小さくなっていることに留意する必要がある。
拡散方程式の解(近似式)
Mt/M∞=6(D/πa2)1/2×t1/2(a:粒子半径、t:時間、D:拡散係数、Mt:時間tの吸着量、M∞:平衡時の吸着量、)
図10に得られた拡散係数の細孔径依存性を示す。マクロ孔を持つ試料(右側2つのプロット、本発明の試料)ではメゾ孔のみの試料(左側2つのプロット、対照試料)と比べると1桁以上高い拡散係数を示し、同じ孔径のメゾ孔をもつ試料と比較し拡散速度が10倍以上に加速されることが確認できた。このようなマクロ孔による速い物質輸送により、成形体として調湿機能を発現させる場合、環境に応じた急速な水蒸気の吸放出が可能となるため、より有効な調湿材として機能すると考えられる。
【0028】
【発明の効果】
多孔質材料としてシリカゲルを、ナノメートルサイズの細孔(メゾ孔)及びマイクロメートルサイズの細孔(マクロ孔)からなる二元細孔を持つように調製することにより、居住空間の快適性及び省エネルギー性を付加する効果的な断熱調湿材とすることができる。また、調湿性に関しては、メゾ孔の孔径によって水蒸気の吸放出する湿度範囲の設定が可能であり、さらにマクロ孔により調湿の応答性をよくする。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のシリカゲル成形体(破面)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】図2は、本発明のシリカゲル成形体を用いた基材・シリカゲル成形体・透湿性材料表層の3層構造をもつ天井又は壁用建築材の一例を示す図である。
【図3】図3は、室内側に木材を用い、室内空気が流通可能なように通気層を設けた本発明のシリカゲル成形体を用いた天井又は壁用建築材材の一例を示す図である。
【図4】図4は、室内側に木材を用い、室内空気が流通可能なように通気孔及び通気溝を設けた本発明のシリカゲル成形体を用いた天井又は壁用建築材材の一例を示す図である。
【図5】図5は、上部が空いた箱型容器状補強材の中に本発明のシリカゲル成形体を用いた床用建築材材の一例を示す図である。
【図6】図6は、実施例1の水ガラス量比(x)を、(A)は、水ガラス量比(x)を50、(B)は、水ガラス量比(x)を55、(C)は、水ガラス量比(x)を60にして作製したシリカゲル成形体(破面)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】図7は、ゲル熟成時のpH条件を変えて作製した試料片のメゾ孔径の分布を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明のシリカゲル成形体の気孔率と熱伝導率の関係を表すグラフである。
【図9】図9は、メゾ孔径を変化させて調製したシリカゲル成形体の水蒸気吸着等温線である。
【図10】図10は、シリカゲル成形体の細孔径による水蒸気の拡散速度を示すグラフである。
【符号の説明】
1:基材、2:シリカゲル成形体層、3:透湿性材料表面、4:壁紙、5:通気層、6:通気溝、7:通気孔、8:箱型容器
Claims (4)
- 孔径2〜20nmの細孔(メゾ孔)と、孔径0.1〜20μmの細孔(マクロ孔)からなる二元細孔を有するシリカゲルを含むことを特徴とする断熱調湿材。
- 請求項1記載の断熱調湿材を建築材の少なくとも一部に用いるか、あるいは該断熱調湿材からなる層を建築材の少なくとも一層に用いることを特徴とする断熱調湿用建築材。
- 前記断熱調湿用建築材は、さらに透湿性材料表層及び/又は通気部を有することを特徴とする請求項2に記載の断熱調湿用建築材。
- 畳、絨毯、カーペット又は床用敷物の下部に使用する床材であって、請求項1に記載の断熱調湿材と、補強用補助材とを有することを特徴とする断熱調湿床材。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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2003
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