JP2004284977A - ヒト生理活性物質とヒト蛋白質合成阻害物質との挿入融合体 - Google Patents
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Abstract
【課題】接合する個々の蛋白質の機能を維持したまま、より合目的的な構造を実現する。
【解決手段】ヒト蛋白質阻害物質であるヒトRNase1のループ部位にヒト生理活性物質であるヒトbFGFを一次配列上挿入し、宿主細胞中で発現させることで、RNase1とbFGFの機能を併せ持つ挿入融合体を作製する。この挿入融合体は、癌細胞等のFGF受容体を高発現している細胞に対して選択的に細胞障害活性を示す。
【選択図】 図6
【解決手段】ヒト蛋白質阻害物質であるヒトRNase1のループ部位にヒト生理活性物質であるヒトbFGFを一次配列上挿入し、宿主細胞中で発現させることで、RNase1とbFGFの機能を併せ持つ挿入融合体を作製する。この挿入融合体は、癌細胞等のFGF受容体を高発現している細胞に対して選択的に細胞障害活性を示す。
【選択図】 図6
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒト生理活性物質とヒト蛋白質合成阻害物質との挿入融合体、及びその挿入融合体を有効成分とする医薬組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
固形癌に有効な抗癌剤が少ないことや多剤耐性癌細胞の出現などから、新しい作用機序を持つ抗癌剤の開発が望まれている。さらに、副作用の軽減や効果増強を目指したDDS(Drug Delivery System)の研究も盛んである。しかしながら、未だ満足するものは得られていない。
【0003】
本件発明者らは、このような状況を打破すべく、リボソームにおける蛋白質合成阻害物質(トキシン)と癌細胞を認識する抗体との接合体(イムノトキシン)を作製し、従来にはない利点を有した治療薬となる可能性をin vitro やin vivoでの実験系で明らかにしてきた(Hirota, N. et al., Cancer Res., 49: 7106−7109, 1989)。しかしながら、これらのイムノトキシンではトキシンとしてリシン(ricin)、ジェローニン(gelonin)、ジフテリアトキシン(diphteria toxin)などのヒト由来でない異種蛋白質が用いられるため、ヒトに投与すると副作用としてcapillary leak syndrome が生じ、しかも免疫源性が強いため、長期にわたる反復投与ができないという問題があった。また、抗体としては、トランスフェリンレセプターのように癌細胞に特異的とはいえず、しかも悪性度とは無関係の抗原を認識するモノクローナル抗体が用いられるため、患者の治療成績向上をあまり期待できないという問題があった。
【0004】
近年になって、ウシ膵臓由来のリボヌクレアーゼ(以下、適宜「RNase」という。)が顕著な抗癌性及び抗HIV活性を有することが報告されている(Vescia, S. et al., Cancer Res., 40: 3740−3744, 1980; Wu, Y.N., et al., J. Biol. Chem., 268: 10686−10693, 1993; Nitta, K. et al., Cancer Res., 54: 920−927, 1994; Youle, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91: 6012−6016, 1994)。これらの報告は、ウシRNaseがヒトに免疫源性を示さない限り、治療目的に使用できる可能性を示唆している。
【0005】
本件発明者らは、各種組織や細胞に広く存在しているヒトRNaseにも同様の活性があるか否かを研究し、RNaseによりヒト由来の細胞を死滅させ得ることを見いだした(Jinno, H. et al., Life Science, 58(21): 190−198, 1996)。このRNaseは、ヒト生理活性物質として元々ヒトに存在している物質であるため免疫源性は極めて弱く、またその生物活性や動態が既に判明しているため、投与に伴う副作用も多くの点で予測可能であるなど、治療薬への応用に優れた利点を有している。そこで、本件発明者らは、このような細胞障害活性を有するRNaseと特定の組織や細胞を特異的に認識する物質とを組み合わせることによる、特定組織や細胞に特異的な新規な治療薬の開発を行ってきた。
【0006】
ここで、一般に増殖因子受容体を過剰発現している癌細胞は悪性度が高く、従来の治療法では治癒させることができず、細胞膜上に発現する増殖因子受容体を分子標的としたターゲット療法が必要である(Ozawa, S., Cancer, 63: 2169−2173, 1989; Kitazawa, Y., Clin. Cancer Res., 2: 909−914, 1996)。近年、本件発明者らは、副作用の軽減や効果増強を目指した抗癌剤として、ヒト上皮増殖因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor;以下、適宜「EGF受容体」という。)を過剰発現する癌細胞を認識するヒト上皮増殖因子(以下、適宜「EGF」という。)とRNaseとを3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸−N−スクシンイミジル(SPDP)等の架橋試薬を用いて化学的に接合して接合体を作製したところ、EGF受容体の発現量に依存した細胞障害活性が認められた(例えば下記特許文献1参照)。
【0007】
また、本件発明者らは、免疫疾患にも有効な接合体として、インターロイキン−2(以下、「IL−2」という。)等のIL−2受容体を特異的に認識する因子とRNaseとをSPDP等の架橋試薬を用いて化学的に接合し、又は両者をコードする遺伝子をプラスミドに組み込むことにより遺伝子工学的に接合して接合体を作製したところ、ATL(成人T細胞白血病)細胞等のIL−2過剰発現細胞に対して、IL−2受容体の発現量に依存した細胞障害活性が認められた(例えば下記特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開平7−309780号公報
【特許文献2】
特開平9−324000号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1、2のように架橋試薬を用いて2種類の蛋白質を化学的に接合する方法では、蛋白質同士の立体配置の制御が困難であり、接合体の均質性、安定性が悪くなる。また、作製時の収量が悪いため、実用には向かないという問題がある。一方、上記特許文献2のように遺伝子融合により接合する場合には、2つの遺伝子の末端同士を接合(直列融合)することになるが、本来的に接合箇所が2箇所しか存在しないため立体配置の選択肢が少なく、その結果、蛋白質間の立体障害により個々の蛋白質の機能が十分に発揮されなくなる場合がある。
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、接合する個々の蛋白質の機能を維持したまま、より合目的的な構造を実現するために、ヒト蛋白質合成阻害物質にヒト生理活性物質が挿入された挿入融合体、及びその挿入融合体を有効成分とする医薬組成物を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上述した目的を達成するために、本発明に係るヒト生理活性物質とヒト蛋白質合成阻害物質との挿入融合体は、ヒト生理活性物質及びヒト蛋白質合成阻害物質のいずれか一方が他方に一次配列上挿入されてなるものである。
【0012】
ここで、上記ヒト蛋白質合成阻害物質は、例えばリボヌクレアーゼ(RNase)である。この場合、ヒト生理活性物質がリボヌクレアーゼのループ部位に相当する配列部分に挿入されているものが好ましく、上記ループ部位が上記リボヌクレアーゼにおけるリボヌクレアーゼ阻害剤結合部位に対して立体構造上近傍に位置するものがより好ましい。
【0013】
また、上記ヒト生理活性物質は、例えば塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、上皮増殖因子(EGF)、インターロイキン−2(IL−2)又は抗体である。
【0014】
また、本発明に係る医薬組成物は、本発明に係る挿入融合体を有効成分とするものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
本実施の形態における挿入融合体は、ヒト生理活性物質及びヒト蛋白質合成阻害物質の何れか一方(被挿入蛋白質)に他方(挿入蛋白質)が一次配列上挿入されたものであり、遺伝子工学的に作製することができる。すなわち、被挿入蛋白質をコードするDNA配列中に挿入蛋白質をコードするDNA配列が挿入された遺伝子をプラスミドに組み込み、この挿入融合体を効率的に発現する宿主細胞中で発現させることにより、被挿入蛋白質に挿入蛋白質が遺伝子レベルで挿入された挿入融合体を作製することができる。
【0016】
ここで、2つのDNA配列の末端同士を接合(直列融合)すると、本来的に接合箇所が2箇所しか存在しないため立体配置の選択肢が少なく、その結果、蛋白質間の立体障害により個々の蛋白質の機能が十分に発揮されなくなる場合があるが、本実施の形態における挿入融合体のように一方のDNA配列中に他方のDNA配列を挿入(挿入融合)することで、立体構造の選択肢が増え、両者の機能が効果的に発揮されるような合目的的な立体構造を実現することができる。
【0017】
なお、被挿入蛋白質及び挿入蛋白質をコードするDNAは、必ずしも全長でなくてもよく、その機能を発現できる限り、一部が欠失又は置換されたものであっても構わない。また、被挿入蛋白質と挿入蛋白質との接合部にリンカー配列を挿入するようにしても構わない。
【0018】
被挿入蛋白質としては、例えばヒト蛋白質阻害物質であるヒトRNaseを用いることができる。挿入部位としては、被挿入蛋白質のループ部位に相当する配列部分が立体障害を避ける上で好ましい。ヒトRNaseを用いる場合、RNase活性の強さよりもRNaseインヒビターに対する抵抗性の方が実効RNA分解能力にとって重要であることが示唆されているため(Futami,J. et al., Biochemistry, 40(25): 7518−7524, 2001)、インヒビターの結合部分に近いループ部位に挿入することで、インヒビターに対する耐性を獲得することができる。後述する実施例では、ヒトRNase1の7つのループ部位のうち、立体構造上、RNaseインヒビターの結合部位に近い38番、68番、89番アミノ酸部分に挿入した。なお、予めヒトRNaseのインヒビター結合部分(例えばヒトRNase1のN末端の数アミノ酸)を除く修飾を行っている場合には、任意のループ部分に挿入しても構わない。
【0019】
一方、挿入蛋白質としては、N末端とC末端との距離が近く、且つ略同方向を向いているものが好ましい。後述する実施例では、挿入蛋白質としてヒト生理活性物質である塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を用いたが、この他に、例えば上皮増殖因子(EGF)、インターロイキン−2(IL−2)、或いはIgEといった抗体など、標的細胞に合わせて選択可能である。例えばbFGFを用いた場合、本実施の形態における挿入融合体は、癌細胞のようなFGF受容体を高発現している細胞に対して選択的に細胞障害活性を発揮する。この細胞障害活性の作用機序は、次のように考えられる。すなわち、先ず生理活性物質であるbFGFが癌細胞等のFGF受容体を高発現している細胞を識別し、次いでFGF受容体と複合体を形成する。そして、その複合体が細胞内に陥入すると同時にbFGFと接合している蛋白質合成阻害物質であるRNaseも細胞内に侵入し、この侵入したRNaseがRNA合成を阻害することで、細胞の増殖を抑制する。
【0020】
なお、上記の例に限らず、ヒト生理活性物質を被挿入蛋白質として、ヒト蛋白質阻害物質を挿入蛋白質としてそれぞれ用いるようにしてもよいことは勿論である。
【0021】
この挿入融合体は、薬理的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤等と混合して医薬組成物とすることができる。この医薬組成物は、ペプチド医薬に一般的に用いられている方法、すなわち非経口投与方法、例えば静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与などによって投与するのが好ましい。経口投与した場合、この医薬組成物は消化管内で分解を受けるため、この投与方法は一般的には効果的でないが、消化管内で分解を受けにくい製剤、例えば活性成分である本実施の形態における挿入融合体をリポソーム内に抱容したマイクロカプセル剤として経口投与することも可能である。また、直腸、鼻内、舌下などの消化管以外の粘膜から吸収させる投与方法も可能である。この場合には、座剤、点鼻スプレー、舌下錠といった形態で投与することができる。
【0022】
なお、この医薬組成物の投与量は、疾患の種類、患者の年齢、体重、症状の程度及び投与経路などによっても異なるが、一般的に0.1μg/kg体重〜100mg/kg体重の範囲で投与することができる。0.5μg/kg体重〜5mg/kg体重の範囲で投与するのが好ましく、1μg/kg体重〜1mg/kg体重がさらに好ましい。
【0023】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0024】
実施例1
ヒトbFGFとヒトRNase1との挿入融合体の作製
実施例1では、ヒトbFGFとヒトRNase1との挿入融合体を作製した。ヒトbFGFの成熟蛋白質の塩基配列を配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に示す。また、ヒトRNase1の成熟蛋白質の塩基配列を配列番号3に、アミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0025】
ここで、ヒトRNase1遺伝子をコードするプラスミドpBO26DNAは、文献(Seno M. et al., BBRC 216, 406−413, 1995)記載の方法により調製した。また、4番目と118番目のアミノ酸残基をCys残基に置換し、S−S架橋を導入した安定化型ヒトRNase1変異体(CL−RNase1)遺伝子を含むプラスミドpBO383DNAは、文献(Futami J. et al., J. Biochem., 128, 245−250, 2000)記載の方法により調製した。
【0026】
また、N末端にMet残基を付加した147残基型のヒトbFGF遺伝子を含むプラスミドpBO45DNAは、文献(Futami J. et al., Protein Engineering, 12, 1013−1019, 1999)記載のものを用いた。さらに、上記pBO45を鋳型として、69残基目のCys残基をSer残基に、87番目のCys残基をSer残基に、88番目のVal残基をAla残基にそれぞれ置換する部位特異的変異導入を2回施すことにより、安定化型ヒトbFGF変異体bFGF(C69/S,C87/S, V88/A)遺伝子をコードするプラスミドpBO126を調製した。
【0027】
上記4種のプラスミドDNAにおいて、各遺伝子はプラスミドpET3aDNA(Novagen 社より購入)のバクテリオファージT7プロモーター下流に順方向で組込まれている。プラスミドpCRTM2.1DNAは、Invitrogen 社より購入した。
【0028】
1)ヒトbFGFとヒトRNase1との挿入融合体遺伝子構築
安定化型ヒトbFGF変異体遺伝子をコードするプラスミドpBO126を鋳型とし、合成DNAオリゴマー#368(配列番号5)及び#369(配列番号6)をプライマーとしてPCR反応を行うことにより、両末端に2アミノ酸残基から成るリンカー部とSacII制限酵素切断配列とが導入されたbFGF変異体の19残基目から146残基目部分(bFGF(19−146))をコードするDNA断片を増幅させる。この増幅断片をpCRTM2.1ベクターにクローン化した後、制限酵素SacIIでbFGF(19−146) をコードするDNAインサートを切り出す。
【0029】
同様に、プラスミドpBO126を鋳型とし、合成DNAオリゴマー#631(配列番号7)及び#632(配列番号8)をプライマーとしてPCRを行うことにより、両末端に1アミノ酸から成るリンカー部とSacII制限酵素切断配列とが導入されたbFGF変異体の21残基目から144残基目部分(bFGF(21−144))をコードするDNA断片を増幅させる。この増幅断片をpCRTM2.1ベクターにクローン化した後、制限酵素SacIIでbFGF(21−144) をコードするDNAインサートを切り出す。
【0030】
次に、ヒトRNase1遺伝子を含むプラスミドpBO26を鋳型とし、合成DNAオリゴマー#513(配列番号9)及び#514(配列番号10)をプライマーとした部位特異的変異導入をQuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(Staratagene 社製)を用いて行うことにより、89残基目に相当する位置に制限酵素SacII切断配列が導入されたヒトRNase1遺伝子を含むプラスミドDNAを調製する。得られたプラスミドDNAを制限酵素SacIIで切断した後、上記bFGF(28−155) DNAインサートをライゲーションすることで、RNase1の89残基目に相当する位置にbFGF(19−146) が順方向にインフレームで挿入された挿入融合体(RFN89)遺伝子の発現ベクターを調製する。
【0031】
同様に、プラスミドpBO383を鋳型とし、プライマーとして合成DNAオリゴマー#513、#514を用いた部位特異的変異導入を行うことにより、89残基目に相当する位置に制限酵素SacII切断配列が導入されたCL−RNase1遺伝子を含むプラスミドDNAを調製する。得られたプラスミドDNAを制限酵素SacIIで切断した後、上記bFGF(19−146) DNAインサートをライゲーションすることで、CL−RNase1の89残基目に相当する位置にbFGF(19−146) が順方向にインフレームで挿入された挿入融合体(CL−RFN89)遺伝子の発現ベクターを調製する。
【0032】
同様に、プラスミドpBO383を鋳型とした部位特異的変異導入法により、CL−RNase1の38残基目、68残基目に相当する位置にSacII切断配列が導入されたCL−RNase1遺伝子を含むプラスミドDNAを各々調製し、導入したSacII切断部位に上記bFGF(21−144) DNAインサートをライゲーションすることで、CL−RNase1の38、68残基目にbFGF(21−144) が挿入された挿入融合体(CL−RFN38、CL−RFN68)遺伝子の発現ベクターを各々調製する。
【0033】
以上のヒトbFGFとヒトRNase1との挿入融合体の名称と構造を以下の表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
この挿入融合体(RFN89、CL−RFN89、CL−RFN38、CL−RFN68)遺伝子の発現用ベクタープラスミドDNAを用いて、ヒトbFGFとヒトRNase1との挿入融合体を以下の手順により製造した。
【0036】
2)形質転換
上記の各種挿入融合体発現ベクターで、T7 RNAポリメラーゼ遺伝子(λDE3 lysogens)の染色体コピーを含む大腸菌MM294(DE3)pLySを形質転換する。得られた形質転換体をアンピシリン(50μg/ml)及びクロラムフェニコール(10μg/ml)を含むLB培地中、37℃で、600nmの吸光度が0.6程度に達するまで培養する。その後、最終濃度0.4mMのイソプロピル1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)を加えて発現を誘導し、さらに3時間培養を続ける。
【0037】
3)発現菌体の溶菌と封入体の単離
遠心分離により菌体を回収し、2.4リットル分の菌体を溶菌用冷緩衝液(10mM Tris−HCl(pH7.5)、10%スクロース、0.2M NaCl、0.1mM EDTA)50ml中に再懸濁した後、−20℃で一晩凍結する。37℃水浴中で迅速に溶解し、さらに15分間37℃で保温した後、超音波処理により菌体を破砕する。さらにDNase1による消化によりDNAを分解した後、遠心分離により沈澱(不溶性画分)を回収する。
【0038】
その後、沈澱物を洗浄用溶液(0.5% Triton−X 100、1mM EDTA、0.2M NaCl)に再懸濁して超音波処理した後、遠心分離により不溶性画分を回収する。さらに、沈澱物を超純水に再懸濁して超音波処理した後、遠心分離により不溶性画分を回収することにより、封入体を単離する。
【0039】
4)封入体の可溶化及びタンパク質の再生(巻き戻し)
得られた封入体画分を20mlの6M 塩酸グアニジン、0.1M Tris−HCl(pH8.5)溶液中に溶解する。脱気及び窒素置換により空気を除去し、最終濃度0.1Mとなるようにβ−メルカプトエタノールを加える。さらに脱気及び窒素置換した後、37℃で90分間保温して還元反応を行わせる。
【0040】
上記反応液を、1リットルの巻き戻し用緩衝液(0.28M 塩酸グアニジン、30%(v/v) グリセロール、0.3M リン酸ナトリウム、20mM Tris−HCl(pH8.5)、0.5mM 還元型グルタチオン、0.5mM 酸化型グルタチオン)で約50倍に希釈し、4℃で2晩以上、タンパク質の再生を行う。
【0041】
5)再生タンパク質の回収及び最終精製工程
再生タンパク質を含む溶液を超純水で5倍希釈後、pH5.0に調整する。これを、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で平衡化した陽イオン交換カラム(CM−Toyopeal 650C、東ソー社製)に流し、タンパク質を吸着させ、0.2M NaClを含む同緩衝液で洗浄した後、0.6M NaClを含む同緩衝液で溶出する。
【0042】
溶出液を超純水で5倍に希釈後、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で平衡化した陽イオン交換カラム(CM−Toyopeal 650M、東ソー社製)に吸着させ、0.2M NaClを含む同緩衝液で洗浄後、NaCl濃度0.2〜0.6Mのグラジエントで溶出させる。280nmの吸光度のピーク画分を精製タンパク質として回収する。
【0043】
回収した精製タンパク質を限外ろ過膜(MWCO 10K)により濃縮し、緩衝液をリン酸緩衝に置換する。
【0044】
CL−RFN89タンパク質精製過程のドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)解析の結果を図1に示す。ここで図1において、レーンMは分子量マーカー、レーン1はIPTGによる発現誘導後の菌体、レーン2〜4は可溶性画分、レーン5は不溶性画分、レーン6は1回目のCMカラムの溶出画分、レーン7は2回目のCMカラムの溶出画分をそれぞれ泳動したものである。図1に示すように、CL−RFN89は分子量約34KDaのタンパク質であることが確認された。
【0045】
以上の手順で作製された各種挿入融合体の最終精製標品のSDS−PAGE解析の結果を図2に示す。ここで図2において、レーンMは分子量マーカー、レーン1はCL−RFN38、レーン2はCL−RFN68、レーン3はRFN89、レーン4はCL−RFN89をそれぞれ泳動したものである。
【0046】
実施例2
挿入融合体のRNA分解活性
実施例2では、bFGFによって一次配列上分断されたRNase1がRNA分解活性を保持しているか否かを検証するために、上記実施例1で得られた各種挿入融合体(RFN89、CL−RFN89、CL−RFN38、CL−RFN68)のRNase1活性を、文献(Futami J. et al., BBRC, 216, 406−413, 1995)に記載の方法に準じて測定した。具体的には、0.1%ウシ血清アルブミン水溶液で希釈した各挿入融合体15μlを、予め30℃に保温した基質溶液(0.06%(w/v) yeast RNA、0.1M Tris−HCl、0.1M NaCl、1mM EDTA、pH7.5)1.5mlの入った石英セル(光路長1cm)に加えて混合し、30℃における300nmの吸光度を経時的に測定してRNAの分解を測定した。hRNase1のRNA分解活性を100%としたときの各挿入融合体の比活性を図3に示す。
【0047】
図3に示すように、RFN89、CL−RFN89、CL−RFN38、CL−RFN68のRNA分解活性は、hRNase1のそれぞれ21%、16%、20%、21%と、bFGFの挿入により低下しているものの依然として活性を保持していた。
【0048】
実施例3
RNaseインヒビター存在下でのRNA分解活性
実施例3では、bFGFをRNase1のインヒビター結合部位付近に挿入することによるインヒビター耐性の獲得の有無を検証するために、RNaseインヒビター(RI)存在下、非存在下におけるRNA分解活性を測定した。具体的には、40ng(1.4pmol)の各挿入融合体を、胎盤リボヌクレアーゼインヒビター(和光純薬株式会社製)40ユニット共存下で、4μgの大腸菌MRE600由来リボソームRNA(rRNA、ベーリンガーマンハイム社製)を含む50mM Tris−HCl(pH7.4)、10mM ジチオスレイトール 10μlに加えた。そして、37℃で15分インキュベートした後、1.5%アガロースゲル電気泳動にかけ、ゲルをエチジウムブロミドで染色し、RNAを検出した。なお、陰性対照としては、hRNase1及びCL−RNase1を用いた。結果を図4に示す。ここで図4において、レーンCはrRNA、レーン1はhRNase1、レーン2はRFN89、レーン3はCL−RFN89、レーン4はCL−RNase1、レーン5はCL−RFN38、レーン6はCL−RFN68をそれぞれ泳動したものである。
【0049】
図4に示すように、陰性対照であるRNase1及びCL−RNase1では、RNaseインヒビターによりRNA分解活性が阻害されたが、RFN89、CL−RFN89、CL−RFN38、CL−RFN68では、RNaseインヒビター存在下でもRNA分解活性を発揮し、インヒビター結合部位付近にbFGFを挿入することでインヒビター耐性を獲得していることが確認された。
【0050】
実施例4
挿入融合体のトリプシンに対する抵抗性
実施例4では、挿入融合体の安定性を検証するために、トリプシン分解に対する抵抗性を調べた。具体的には、75mM Tris−HCl(pH8.0)で希釈した0.33mg/mlの挿入融合体(RFN89、CL−RFN89)溶液10μlに、濃度6.25〜50μg/mlのTPCK−トリプシン溶液5μlを加えて混合し、37℃で30分インキュベートした。その後、反応液と当量のサンプルバッファー(2%SDS、2%メルカプトエタノール、40%グリセロール、50mM Tris−HCl、pH6.8)を混合して、98℃で5分間加温することにより、酵素反応を停止させ、15%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEに供した。ゲルをクマシーブリリアントブルーで染色し、タンパク質バンドを検出した結果を図5に示す。ここで図5において、レーンMは分子量マーカー、レーン1,2,3,4はそれぞれ濃度6.25μg/ml,12.5μg/ml,25μg/ml,50μg/mlのTPCK−トリプシン溶液5μlを加えたサンプル、レーン5はTPCK−トリプシン溶液を加えなかったサンプルをそれぞれ示す。
【0051】
図5に示すように、hRNase1そのものは高濃度(最終濃度17μg/ml)のTPCK−トリプシン存在下でも殆ど分解されなかったが、挿入融合体RFN89は、最終濃度2μg/mlのTPCK−トリプシンで完全に分解された。一方、CL−RFN89では、最終濃度4μg/mlのTPCK−トリプシン存在下でも50%程度残存しており、4番目と118番目のアミノ酸残基をシステインに置換してS−S架橋を導入することで、挿入融合体が安定化することが確認された。
【0052】
実施例5
FGF受容体高発現細胞株に対する細胞障害活性
実施例4では、各種挿入融合体の細胞障害活性を検証するために、FGF受容体を高発現しているマウス転移性メラノーマ細胞株B16/BL6に対する増殖抑制効果を、文献(Futami J. et al., Protein Engineering, 12, 1013−1019, 1999)記載の方法を用いて測定した。具体的には、96穴マイクロプレートに3%牛胎児血清を含むRPMI−1640培地100μl中に懸濁したB16/BL6細胞を5×102細胞/穴となるように播種し、37℃、5%CO2存在下で1日培養後、各挿入融合体(RFN89、CL−RFN89、CL−RFN38、CL−RFN68)を10−8Mから10−6M濃度となるよう添加してさらに2日培養した。細胞増殖度は、文献(Tada H. et al., J. Immunol. Methods, 93, 15−165, 1986)記載の方法(MTT法)により評価した。すなわち、各穴に20μlのMTT(3−(4,5−dimetylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide)を含むPBSを添加して4時間培養した後、10% SDS、0.01M HCl溶液100μlを加えて反応を停止し、1日後に各穴の570nmの吸光度を測定した。なお、陰性対照としては、hRNase1、CL−RNase1、bFGFの3種類を用いた。結果を図6に示す。
【0053】
図6に示すように、陰性対照であるhRNase1、CL−RNase1、bFGFではB16/BL6細胞に対する増殖抑制効果を発揮しなかったのに対して、挿入融合体では、何れも用量依存的な増殖抑制効果を発揮した。
【0054】
比較例1
FGF受容体低発現細胞株に対する細胞障害活性
比較例として、FGF受容体を低発現しているヒト扁平上皮癌細胞株A431に対する増殖抑制効果を測定した。具体的には、96穴マイクロプレートに10%牛胎児血清を含むDMEM 100μl中に懸濁したA431細胞を1×104細胞/穴となるように播種し、37℃、5%CO2存在下で1晩培養後、挿入融合体CL−RFN89を2μM濃度となるよう添加してさらに24時間培養した。その後、Cell Counting Kit−8(株式会社同仁化学研究所製)を用いてWST−8(2−[2−methoxy−4−nitrophenyl]−3−[4−nitrophenyl]−5−[2,4−disulfophenyl]−2H−tetrazolium, monosodium salt)アッセイを行い、細胞増殖を測定した。すなわち、WST−8がミトコンドリアのコハク酸デヒドロゲナーゼによって還元されることによって生成された水溶性ホルマザンを450nmの吸光度により測定した。それぞれ4つの穴での測定結果を以下の表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、陰性対照と比較して挿入融合体CL−RFN89の添加によりA431細胞の増殖が約1.7%しか抑制されておらず、挿入融合体の細胞障害活性はFGF受容体の発現量に依存することが確認された。
【0057】
実施例6
癌細胞を移植したマウスにおける血管新生抑制効果
実施例6では、挿入融合体のin vivo における効果を検証するために、A431細胞を移植したマウスにおける血管新生抑制効果を文献(Tanaka et al., Cancer Res., 49, 6727−6730, 1980)記載の方法に準じてマウス背部皮下法(Mouse dorsal air sac assay)により観察した。具体的には、Milliporeリング(Millipore社製)の両側を孔径0.45μmのMilliporeフィルタで覆い、得られたMilliporeチャンバーを0.15mlのPBSに懸濁した1.5×106個のA431細胞と1μM又は2μMの濃度の挿入融合体CL−RFN89とで満たした。なお、陽性対照としてはA431細胞のみのチャンバーを用い、陰性対照としてはPBSのみのチャンバーを用いた。これらのチャンバーを、マウス(Balb/c、メス6週齢)の背部に予め適量の空気を注入して形成された気嚢(air sac)内部に移植し、5日後にチャンバを皮下組織から除去した。血管新生作用は、解剖顕微鏡写真により、チャンバーに接触していた領域に新たに形成された3mm以上の長さの血管を数えることにより評価した。
【0058】
PBSのみのチャンバー、A431細胞のみのチャンバー、A431細胞及び2μM CL−RFN89のチャンバーを移植した場合の解剖顕微鏡写真をそれぞれ図7(a)、(b)、(c) に示す。図7に示すように、A431細胞のみのチャンバーを移植した場合(図7(b))には、図中矢印で示す位置に新生血管特有のジグザグ状の血管が確認されるが、A431細胞及び2μM CL−RFN89のチャンバーを移植した場合(図7(c))には、PBSのみのチャンバーを移植した場合(図7(a))と同様に、新生血管は確認されない。
【0059】
PBSのみのチャンバーを移植したマウス6匹、A431細胞のみのチャンバーを移植したマウス6匹、A431細胞及び2μM CL−RFN89のチャンバーを移植したマウス5匹について新生血管数を計数した結果を図8に示す。なお、図8において血管新生インデックスとは、観察された新生血管数を表す。但し、インデックス5とは新生血管が5以上観察された場合を表す。図8に示すように、A431細胞及び2μM CL−RFN89のチャンバーを移植した場合には、A431細胞のみのチャンバーを移植した場合と比較して、新生血管の数が有意に減少している。
【0060】
このように、本実施の形態における挿入融合体によれば、ヒト生理活性物質及びヒト蛋白質合成阻害物質の何れか一方に他方を一次配列上挿入することで、立体構造の選択肢が増え、両者の機能が効果的に発揮されるような合目的的な立体構造を実現することができる。
【0061】
また、標的細胞に合わせてヒト生理活性物質の種類を変えることで標的細胞に特異的な挿入融合体を作製することができ、種々の治療薬に応用可能である。特に、この挿入融合体は、ヒト由来の蛋白質のみから構成されているため副作用の心配も極めて低いと考えられ、長期投与が可能となる。
【0062】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明に係るヒト生理活性物質とヒトリボヌクレアーゼとの挿入融合体によれば、ヒト生理活性物質及びヒト蛋白質合成阻害物質の機能が効果的に発揮されるような合目的的な立体構造を実現することができ、種々の治療薬に応用可能である。特に、この挿入融合体は、ヒト由来の蛋白質のみから構成されているため副作用の心配も極めて低いと考えられ、長期投与が可能となる。
【0063】
【配列表】
【配列表フリーテキスト】
配列番号5:人工的に合成されたプライマー配列
配列番号6:人工的に合成されたプライマー配列
配列番号7:人工的に合成されたプライマー配列
配列番号8:人工的に合成されたプライマー配列
配列番号9:人工的に合成されたプライマー配列
配列番号10:人工的に合成されたプライマー配列
【図面の簡単な説明】
【図1】挿入融合体CL−RFN89の精製過程におけるSDS−PAGE解析の結果を示す図である。
【図2】各種挿入融合体の最終精製標品のSDS−PAGE解析の結果を示す図である。
【図3】各種挿入融合体のRNA分解活性を示す図である。
【図4】RNaseインヒビター存在下における挿入融合体CL−RFN89のRNA分解活性を示す図である。
【図5】挿入融合体RFN89及びCL−RFN89のトリプシンに対する安定性を示す図である。
【図6】各種挿入融合体のFGF受容体高発現細胞株に対する細胞障害活性を示す図である。
【図7】癌細胞を移植したマウスにおける挿入融合体の血管新生抑制効果を示す解剖顕微鏡写真である。
【図8】癌細胞を移植したマウスにおける挿入融合体の血管新生抑制効果を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒト生理活性物質とヒト蛋白質合成阻害物質との挿入融合体、及びその挿入融合体を有効成分とする医薬組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
固形癌に有効な抗癌剤が少ないことや多剤耐性癌細胞の出現などから、新しい作用機序を持つ抗癌剤の開発が望まれている。さらに、副作用の軽減や効果増強を目指したDDS(Drug Delivery System)の研究も盛んである。しかしながら、未だ満足するものは得られていない。
【0003】
本件発明者らは、このような状況を打破すべく、リボソームにおける蛋白質合成阻害物質(トキシン)と癌細胞を認識する抗体との接合体(イムノトキシン)を作製し、従来にはない利点を有した治療薬となる可能性をin vitro やin vivoでの実験系で明らかにしてきた(Hirota, N. et al., Cancer Res., 49: 7106−7109, 1989)。しかしながら、これらのイムノトキシンではトキシンとしてリシン(ricin)、ジェローニン(gelonin)、ジフテリアトキシン(diphteria toxin)などのヒト由来でない異種蛋白質が用いられるため、ヒトに投与すると副作用としてcapillary leak syndrome が生じ、しかも免疫源性が強いため、長期にわたる反復投与ができないという問題があった。また、抗体としては、トランスフェリンレセプターのように癌細胞に特異的とはいえず、しかも悪性度とは無関係の抗原を認識するモノクローナル抗体が用いられるため、患者の治療成績向上をあまり期待できないという問題があった。
【0004】
近年になって、ウシ膵臓由来のリボヌクレアーゼ(以下、適宜「RNase」という。)が顕著な抗癌性及び抗HIV活性を有することが報告されている(Vescia, S. et al., Cancer Res., 40: 3740−3744, 1980; Wu, Y.N., et al., J. Biol. Chem., 268: 10686−10693, 1993; Nitta, K. et al., Cancer Res., 54: 920−927, 1994; Youle, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91: 6012−6016, 1994)。これらの報告は、ウシRNaseがヒトに免疫源性を示さない限り、治療目的に使用できる可能性を示唆している。
【0005】
本件発明者らは、各種組織や細胞に広く存在しているヒトRNaseにも同様の活性があるか否かを研究し、RNaseによりヒト由来の細胞を死滅させ得ることを見いだした(Jinno, H. et al., Life Science, 58(21): 190−198, 1996)。このRNaseは、ヒト生理活性物質として元々ヒトに存在している物質であるため免疫源性は極めて弱く、またその生物活性や動態が既に判明しているため、投与に伴う副作用も多くの点で予測可能であるなど、治療薬への応用に優れた利点を有している。そこで、本件発明者らは、このような細胞障害活性を有するRNaseと特定の組織や細胞を特異的に認識する物質とを組み合わせることによる、特定組織や細胞に特異的な新規な治療薬の開発を行ってきた。
【0006】
ここで、一般に増殖因子受容体を過剰発現している癌細胞は悪性度が高く、従来の治療法では治癒させることができず、細胞膜上に発現する増殖因子受容体を分子標的としたターゲット療法が必要である(Ozawa, S., Cancer, 63: 2169−2173, 1989; Kitazawa, Y., Clin. Cancer Res., 2: 909−914, 1996)。近年、本件発明者らは、副作用の軽減や効果増強を目指した抗癌剤として、ヒト上皮増殖因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor;以下、適宜「EGF受容体」という。)を過剰発現する癌細胞を認識するヒト上皮増殖因子(以下、適宜「EGF」という。)とRNaseとを3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸−N−スクシンイミジル(SPDP)等の架橋試薬を用いて化学的に接合して接合体を作製したところ、EGF受容体の発現量に依存した細胞障害活性が認められた(例えば下記特許文献1参照)。
【0007】
また、本件発明者らは、免疫疾患にも有効な接合体として、インターロイキン−2(以下、「IL−2」という。)等のIL−2受容体を特異的に認識する因子とRNaseとをSPDP等の架橋試薬を用いて化学的に接合し、又は両者をコードする遺伝子をプラスミドに組み込むことにより遺伝子工学的に接合して接合体を作製したところ、ATL(成人T細胞白血病)細胞等のIL−2過剰発現細胞に対して、IL−2受容体の発現量に依存した細胞障害活性が認められた(例えば下記特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開平7−309780号公報
【特許文献2】
特開平9−324000号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1、2のように架橋試薬を用いて2種類の蛋白質を化学的に接合する方法では、蛋白質同士の立体配置の制御が困難であり、接合体の均質性、安定性が悪くなる。また、作製時の収量が悪いため、実用には向かないという問題がある。一方、上記特許文献2のように遺伝子融合により接合する場合には、2つの遺伝子の末端同士を接合(直列融合)することになるが、本来的に接合箇所が2箇所しか存在しないため立体配置の選択肢が少なく、その結果、蛋白質間の立体障害により個々の蛋白質の機能が十分に発揮されなくなる場合がある。
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、接合する個々の蛋白質の機能を維持したまま、より合目的的な構造を実現するために、ヒト蛋白質合成阻害物質にヒト生理活性物質が挿入された挿入融合体、及びその挿入融合体を有効成分とする医薬組成物を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上述した目的を達成するために、本発明に係るヒト生理活性物質とヒト蛋白質合成阻害物質との挿入融合体は、ヒト生理活性物質及びヒト蛋白質合成阻害物質のいずれか一方が他方に一次配列上挿入されてなるものである。
【0012】
ここで、上記ヒト蛋白質合成阻害物質は、例えばリボヌクレアーゼ(RNase)である。この場合、ヒト生理活性物質がリボヌクレアーゼのループ部位に相当する配列部分に挿入されているものが好ましく、上記ループ部位が上記リボヌクレアーゼにおけるリボヌクレアーゼ阻害剤結合部位に対して立体構造上近傍に位置するものがより好ましい。
【0013】
また、上記ヒト生理活性物質は、例えば塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、上皮増殖因子(EGF)、インターロイキン−2(IL−2)又は抗体である。
【0014】
また、本発明に係る医薬組成物は、本発明に係る挿入融合体を有効成分とするものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
本実施の形態における挿入融合体は、ヒト生理活性物質及びヒト蛋白質合成阻害物質の何れか一方(被挿入蛋白質)に他方(挿入蛋白質)が一次配列上挿入されたものであり、遺伝子工学的に作製することができる。すなわち、被挿入蛋白質をコードするDNA配列中に挿入蛋白質をコードするDNA配列が挿入された遺伝子をプラスミドに組み込み、この挿入融合体を効率的に発現する宿主細胞中で発現させることにより、被挿入蛋白質に挿入蛋白質が遺伝子レベルで挿入された挿入融合体を作製することができる。
【0016】
ここで、2つのDNA配列の末端同士を接合(直列融合)すると、本来的に接合箇所が2箇所しか存在しないため立体配置の選択肢が少なく、その結果、蛋白質間の立体障害により個々の蛋白質の機能が十分に発揮されなくなる場合があるが、本実施の形態における挿入融合体のように一方のDNA配列中に他方のDNA配列を挿入(挿入融合)することで、立体構造の選択肢が増え、両者の機能が効果的に発揮されるような合目的的な立体構造を実現することができる。
【0017】
なお、被挿入蛋白質及び挿入蛋白質をコードするDNAは、必ずしも全長でなくてもよく、その機能を発現できる限り、一部が欠失又は置換されたものであっても構わない。また、被挿入蛋白質と挿入蛋白質との接合部にリンカー配列を挿入するようにしても構わない。
【0018】
被挿入蛋白質としては、例えばヒト蛋白質阻害物質であるヒトRNaseを用いることができる。挿入部位としては、被挿入蛋白質のループ部位に相当する配列部分が立体障害を避ける上で好ましい。ヒトRNaseを用いる場合、RNase活性の強さよりもRNaseインヒビターに対する抵抗性の方が実効RNA分解能力にとって重要であることが示唆されているため(Futami,J. et al., Biochemistry, 40(25): 7518−7524, 2001)、インヒビターの結合部分に近いループ部位に挿入することで、インヒビターに対する耐性を獲得することができる。後述する実施例では、ヒトRNase1の7つのループ部位のうち、立体構造上、RNaseインヒビターの結合部位に近い38番、68番、89番アミノ酸部分に挿入した。なお、予めヒトRNaseのインヒビター結合部分(例えばヒトRNase1のN末端の数アミノ酸)を除く修飾を行っている場合には、任意のループ部分に挿入しても構わない。
【0019】
一方、挿入蛋白質としては、N末端とC末端との距離が近く、且つ略同方向を向いているものが好ましい。後述する実施例では、挿入蛋白質としてヒト生理活性物質である塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を用いたが、この他に、例えば上皮増殖因子(EGF)、インターロイキン−2(IL−2)、或いはIgEといった抗体など、標的細胞に合わせて選択可能である。例えばbFGFを用いた場合、本実施の形態における挿入融合体は、癌細胞のようなFGF受容体を高発現している細胞に対して選択的に細胞障害活性を発揮する。この細胞障害活性の作用機序は、次のように考えられる。すなわち、先ず生理活性物質であるbFGFが癌細胞等のFGF受容体を高発現している細胞を識別し、次いでFGF受容体と複合体を形成する。そして、その複合体が細胞内に陥入すると同時にbFGFと接合している蛋白質合成阻害物質であるRNaseも細胞内に侵入し、この侵入したRNaseがRNA合成を阻害することで、細胞の増殖を抑制する。
【0020】
なお、上記の例に限らず、ヒト生理活性物質を被挿入蛋白質として、ヒト蛋白質阻害物質を挿入蛋白質としてそれぞれ用いるようにしてもよいことは勿論である。
【0021】
この挿入融合体は、薬理的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤等と混合して医薬組成物とすることができる。この医薬組成物は、ペプチド医薬に一般的に用いられている方法、すなわち非経口投与方法、例えば静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与などによって投与するのが好ましい。経口投与した場合、この医薬組成物は消化管内で分解を受けるため、この投与方法は一般的には効果的でないが、消化管内で分解を受けにくい製剤、例えば活性成分である本実施の形態における挿入融合体をリポソーム内に抱容したマイクロカプセル剤として経口投与することも可能である。また、直腸、鼻内、舌下などの消化管以外の粘膜から吸収させる投与方法も可能である。この場合には、座剤、点鼻スプレー、舌下錠といった形態で投与することができる。
【0022】
なお、この医薬組成物の投与量は、疾患の種類、患者の年齢、体重、症状の程度及び投与経路などによっても異なるが、一般的に0.1μg/kg体重〜100mg/kg体重の範囲で投与することができる。0.5μg/kg体重〜5mg/kg体重の範囲で投与するのが好ましく、1μg/kg体重〜1mg/kg体重がさらに好ましい。
【0023】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0024】
実施例1
ヒトbFGFとヒトRNase1との挿入融合体の作製
実施例1では、ヒトbFGFとヒトRNase1との挿入融合体を作製した。ヒトbFGFの成熟蛋白質の塩基配列を配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に示す。また、ヒトRNase1の成熟蛋白質の塩基配列を配列番号3に、アミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0025】
ここで、ヒトRNase1遺伝子をコードするプラスミドpBO26DNAは、文献(Seno M. et al., BBRC 216, 406−413, 1995)記載の方法により調製した。また、4番目と118番目のアミノ酸残基をCys残基に置換し、S−S架橋を導入した安定化型ヒトRNase1変異体(CL−RNase1)遺伝子を含むプラスミドpBO383DNAは、文献(Futami J. et al., J. Biochem., 128, 245−250, 2000)記載の方法により調製した。
【0026】
また、N末端にMet残基を付加した147残基型のヒトbFGF遺伝子を含むプラスミドpBO45DNAは、文献(Futami J. et al., Protein Engineering, 12, 1013−1019, 1999)記載のものを用いた。さらに、上記pBO45を鋳型として、69残基目のCys残基をSer残基に、87番目のCys残基をSer残基に、88番目のVal残基をAla残基にそれぞれ置換する部位特異的変異導入を2回施すことにより、安定化型ヒトbFGF変異体bFGF(C69/S,C87/S, V88/A)遺伝子をコードするプラスミドpBO126を調製した。
【0027】
上記4種のプラスミドDNAにおいて、各遺伝子はプラスミドpET3aDNA(Novagen 社より購入)のバクテリオファージT7プロモーター下流に順方向で組込まれている。プラスミドpCRTM2.1DNAは、Invitrogen 社より購入した。
【0028】
1)ヒトbFGFとヒトRNase1との挿入融合体遺伝子構築
安定化型ヒトbFGF変異体遺伝子をコードするプラスミドpBO126を鋳型とし、合成DNAオリゴマー#368(配列番号5)及び#369(配列番号6)をプライマーとしてPCR反応を行うことにより、両末端に2アミノ酸残基から成るリンカー部とSacII制限酵素切断配列とが導入されたbFGF変異体の19残基目から146残基目部分(bFGF(19−146))をコードするDNA断片を増幅させる。この増幅断片をpCRTM2.1ベクターにクローン化した後、制限酵素SacIIでbFGF(19−146) をコードするDNAインサートを切り出す。
【0029】
同様に、プラスミドpBO126を鋳型とし、合成DNAオリゴマー#631(配列番号7)及び#632(配列番号8)をプライマーとしてPCRを行うことにより、両末端に1アミノ酸から成るリンカー部とSacII制限酵素切断配列とが導入されたbFGF変異体の21残基目から144残基目部分(bFGF(21−144))をコードするDNA断片を増幅させる。この増幅断片をpCRTM2.1ベクターにクローン化した後、制限酵素SacIIでbFGF(21−144) をコードするDNAインサートを切り出す。
【0030】
次に、ヒトRNase1遺伝子を含むプラスミドpBO26を鋳型とし、合成DNAオリゴマー#513(配列番号9)及び#514(配列番号10)をプライマーとした部位特異的変異導入をQuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(Staratagene 社製)を用いて行うことにより、89残基目に相当する位置に制限酵素SacII切断配列が導入されたヒトRNase1遺伝子を含むプラスミドDNAを調製する。得られたプラスミドDNAを制限酵素SacIIで切断した後、上記bFGF(28−155) DNAインサートをライゲーションすることで、RNase1の89残基目に相当する位置にbFGF(19−146) が順方向にインフレームで挿入された挿入融合体(RFN89)遺伝子の発現ベクターを調製する。
【0031】
同様に、プラスミドpBO383を鋳型とし、プライマーとして合成DNAオリゴマー#513、#514を用いた部位特異的変異導入を行うことにより、89残基目に相当する位置に制限酵素SacII切断配列が導入されたCL−RNase1遺伝子を含むプラスミドDNAを調製する。得られたプラスミドDNAを制限酵素SacIIで切断した後、上記bFGF(19−146) DNAインサートをライゲーションすることで、CL−RNase1の89残基目に相当する位置にbFGF(19−146) が順方向にインフレームで挿入された挿入融合体(CL−RFN89)遺伝子の発現ベクターを調製する。
【0032】
同様に、プラスミドpBO383を鋳型とした部位特異的変異導入法により、CL−RNase1の38残基目、68残基目に相当する位置にSacII切断配列が導入されたCL−RNase1遺伝子を含むプラスミドDNAを各々調製し、導入したSacII切断部位に上記bFGF(21−144) DNAインサートをライゲーションすることで、CL−RNase1の38、68残基目にbFGF(21−144) が挿入された挿入融合体(CL−RFN38、CL−RFN68)遺伝子の発現ベクターを各々調製する。
【0033】
以上のヒトbFGFとヒトRNase1との挿入融合体の名称と構造を以下の表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
この挿入融合体(RFN89、CL−RFN89、CL−RFN38、CL−RFN68)遺伝子の発現用ベクタープラスミドDNAを用いて、ヒトbFGFとヒトRNase1との挿入融合体を以下の手順により製造した。
【0036】
2)形質転換
上記の各種挿入融合体発現ベクターで、T7 RNAポリメラーゼ遺伝子(λDE3 lysogens)の染色体コピーを含む大腸菌MM294(DE3)pLySを形質転換する。得られた形質転換体をアンピシリン(50μg/ml)及びクロラムフェニコール(10μg/ml)を含むLB培地中、37℃で、600nmの吸光度が0.6程度に達するまで培養する。その後、最終濃度0.4mMのイソプロピル1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)を加えて発現を誘導し、さらに3時間培養を続ける。
【0037】
3)発現菌体の溶菌と封入体の単離
遠心分離により菌体を回収し、2.4リットル分の菌体を溶菌用冷緩衝液(10mM Tris−HCl(pH7.5)、10%スクロース、0.2M NaCl、0.1mM EDTA)50ml中に再懸濁した後、−20℃で一晩凍結する。37℃水浴中で迅速に溶解し、さらに15分間37℃で保温した後、超音波処理により菌体を破砕する。さらにDNase1による消化によりDNAを分解した後、遠心分離により沈澱(不溶性画分)を回収する。
【0038】
その後、沈澱物を洗浄用溶液(0.5% Triton−X 100、1mM EDTA、0.2M NaCl)に再懸濁して超音波処理した後、遠心分離により不溶性画分を回収する。さらに、沈澱物を超純水に再懸濁して超音波処理した後、遠心分離により不溶性画分を回収することにより、封入体を単離する。
【0039】
4)封入体の可溶化及びタンパク質の再生(巻き戻し)
得られた封入体画分を20mlの6M 塩酸グアニジン、0.1M Tris−HCl(pH8.5)溶液中に溶解する。脱気及び窒素置換により空気を除去し、最終濃度0.1Mとなるようにβ−メルカプトエタノールを加える。さらに脱気及び窒素置換した後、37℃で90分間保温して還元反応を行わせる。
【0040】
上記反応液を、1リットルの巻き戻し用緩衝液(0.28M 塩酸グアニジン、30%(v/v) グリセロール、0.3M リン酸ナトリウム、20mM Tris−HCl(pH8.5)、0.5mM 還元型グルタチオン、0.5mM 酸化型グルタチオン)で約50倍に希釈し、4℃で2晩以上、タンパク質の再生を行う。
【0041】
5)再生タンパク質の回収及び最終精製工程
再生タンパク質を含む溶液を超純水で5倍希釈後、pH5.0に調整する。これを、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で平衡化した陽イオン交換カラム(CM−Toyopeal 650C、東ソー社製)に流し、タンパク質を吸着させ、0.2M NaClを含む同緩衝液で洗浄した後、0.6M NaClを含む同緩衝液で溶出する。
【0042】
溶出液を超純水で5倍に希釈後、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で平衡化した陽イオン交換カラム(CM−Toyopeal 650M、東ソー社製)に吸着させ、0.2M NaClを含む同緩衝液で洗浄後、NaCl濃度0.2〜0.6Mのグラジエントで溶出させる。280nmの吸光度のピーク画分を精製タンパク質として回収する。
【0043】
回収した精製タンパク質を限外ろ過膜(MWCO 10K)により濃縮し、緩衝液をリン酸緩衝に置換する。
【0044】
CL−RFN89タンパク質精製過程のドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)解析の結果を図1に示す。ここで図1において、レーンMは分子量マーカー、レーン1はIPTGによる発現誘導後の菌体、レーン2〜4は可溶性画分、レーン5は不溶性画分、レーン6は1回目のCMカラムの溶出画分、レーン7は2回目のCMカラムの溶出画分をそれぞれ泳動したものである。図1に示すように、CL−RFN89は分子量約34KDaのタンパク質であることが確認された。
【0045】
以上の手順で作製された各種挿入融合体の最終精製標品のSDS−PAGE解析の結果を図2に示す。ここで図2において、レーンMは分子量マーカー、レーン1はCL−RFN38、レーン2はCL−RFN68、レーン3はRFN89、レーン4はCL−RFN89をそれぞれ泳動したものである。
【0046】
実施例2
挿入融合体のRNA分解活性
実施例2では、bFGFによって一次配列上分断されたRNase1がRNA分解活性を保持しているか否かを検証するために、上記実施例1で得られた各種挿入融合体(RFN89、CL−RFN89、CL−RFN38、CL−RFN68)のRNase1活性を、文献(Futami J. et al., BBRC, 216, 406−413, 1995)に記載の方法に準じて測定した。具体的には、0.1%ウシ血清アルブミン水溶液で希釈した各挿入融合体15μlを、予め30℃に保温した基質溶液(0.06%(w/v) yeast RNA、0.1M Tris−HCl、0.1M NaCl、1mM EDTA、pH7.5)1.5mlの入った石英セル(光路長1cm)に加えて混合し、30℃における300nmの吸光度を経時的に測定してRNAの分解を測定した。hRNase1のRNA分解活性を100%としたときの各挿入融合体の比活性を図3に示す。
【0047】
図3に示すように、RFN89、CL−RFN89、CL−RFN38、CL−RFN68のRNA分解活性は、hRNase1のそれぞれ21%、16%、20%、21%と、bFGFの挿入により低下しているものの依然として活性を保持していた。
【0048】
実施例3
RNaseインヒビター存在下でのRNA分解活性
実施例3では、bFGFをRNase1のインヒビター結合部位付近に挿入することによるインヒビター耐性の獲得の有無を検証するために、RNaseインヒビター(RI)存在下、非存在下におけるRNA分解活性を測定した。具体的には、40ng(1.4pmol)の各挿入融合体を、胎盤リボヌクレアーゼインヒビター(和光純薬株式会社製)40ユニット共存下で、4μgの大腸菌MRE600由来リボソームRNA(rRNA、ベーリンガーマンハイム社製)を含む50mM Tris−HCl(pH7.4)、10mM ジチオスレイトール 10μlに加えた。そして、37℃で15分インキュベートした後、1.5%アガロースゲル電気泳動にかけ、ゲルをエチジウムブロミドで染色し、RNAを検出した。なお、陰性対照としては、hRNase1及びCL−RNase1を用いた。結果を図4に示す。ここで図4において、レーンCはrRNA、レーン1はhRNase1、レーン2はRFN89、レーン3はCL−RFN89、レーン4はCL−RNase1、レーン5はCL−RFN38、レーン6はCL−RFN68をそれぞれ泳動したものである。
【0049】
図4に示すように、陰性対照であるRNase1及びCL−RNase1では、RNaseインヒビターによりRNA分解活性が阻害されたが、RFN89、CL−RFN89、CL−RFN38、CL−RFN68では、RNaseインヒビター存在下でもRNA分解活性を発揮し、インヒビター結合部位付近にbFGFを挿入することでインヒビター耐性を獲得していることが確認された。
【0050】
実施例4
挿入融合体のトリプシンに対する抵抗性
実施例4では、挿入融合体の安定性を検証するために、トリプシン分解に対する抵抗性を調べた。具体的には、75mM Tris−HCl(pH8.0)で希釈した0.33mg/mlの挿入融合体(RFN89、CL−RFN89)溶液10μlに、濃度6.25〜50μg/mlのTPCK−トリプシン溶液5μlを加えて混合し、37℃で30分インキュベートした。その後、反応液と当量のサンプルバッファー(2%SDS、2%メルカプトエタノール、40%グリセロール、50mM Tris−HCl、pH6.8)を混合して、98℃で5分間加温することにより、酵素反応を停止させ、15%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEに供した。ゲルをクマシーブリリアントブルーで染色し、タンパク質バンドを検出した結果を図5に示す。ここで図5において、レーンMは分子量マーカー、レーン1,2,3,4はそれぞれ濃度6.25μg/ml,12.5μg/ml,25μg/ml,50μg/mlのTPCK−トリプシン溶液5μlを加えたサンプル、レーン5はTPCK−トリプシン溶液を加えなかったサンプルをそれぞれ示す。
【0051】
図5に示すように、hRNase1そのものは高濃度(最終濃度17μg/ml)のTPCK−トリプシン存在下でも殆ど分解されなかったが、挿入融合体RFN89は、最終濃度2μg/mlのTPCK−トリプシンで完全に分解された。一方、CL−RFN89では、最終濃度4μg/mlのTPCK−トリプシン存在下でも50%程度残存しており、4番目と118番目のアミノ酸残基をシステインに置換してS−S架橋を導入することで、挿入融合体が安定化することが確認された。
【0052】
実施例5
FGF受容体高発現細胞株に対する細胞障害活性
実施例4では、各種挿入融合体の細胞障害活性を検証するために、FGF受容体を高発現しているマウス転移性メラノーマ細胞株B16/BL6に対する増殖抑制効果を、文献(Futami J. et al., Protein Engineering, 12, 1013−1019, 1999)記載の方法を用いて測定した。具体的には、96穴マイクロプレートに3%牛胎児血清を含むRPMI−1640培地100μl中に懸濁したB16/BL6細胞を5×102細胞/穴となるように播種し、37℃、5%CO2存在下で1日培養後、各挿入融合体(RFN89、CL−RFN89、CL−RFN38、CL−RFN68)を10−8Mから10−6M濃度となるよう添加してさらに2日培養した。細胞増殖度は、文献(Tada H. et al., J. Immunol. Methods, 93, 15−165, 1986)記載の方法(MTT法)により評価した。すなわち、各穴に20μlのMTT(3−(4,5−dimetylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide)を含むPBSを添加して4時間培養した後、10% SDS、0.01M HCl溶液100μlを加えて反応を停止し、1日後に各穴の570nmの吸光度を測定した。なお、陰性対照としては、hRNase1、CL−RNase1、bFGFの3種類を用いた。結果を図6に示す。
【0053】
図6に示すように、陰性対照であるhRNase1、CL−RNase1、bFGFではB16/BL6細胞に対する増殖抑制効果を発揮しなかったのに対して、挿入融合体では、何れも用量依存的な増殖抑制効果を発揮した。
【0054】
比較例1
FGF受容体低発現細胞株に対する細胞障害活性
比較例として、FGF受容体を低発現しているヒト扁平上皮癌細胞株A431に対する増殖抑制効果を測定した。具体的には、96穴マイクロプレートに10%牛胎児血清を含むDMEM 100μl中に懸濁したA431細胞を1×104細胞/穴となるように播種し、37℃、5%CO2存在下で1晩培養後、挿入融合体CL−RFN89を2μM濃度となるよう添加してさらに24時間培養した。その後、Cell Counting Kit−8(株式会社同仁化学研究所製)を用いてWST−8(2−[2−methoxy−4−nitrophenyl]−3−[4−nitrophenyl]−5−[2,4−disulfophenyl]−2H−tetrazolium, monosodium salt)アッセイを行い、細胞増殖を測定した。すなわち、WST−8がミトコンドリアのコハク酸デヒドロゲナーゼによって還元されることによって生成された水溶性ホルマザンを450nmの吸光度により測定した。それぞれ4つの穴での測定結果を以下の表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、陰性対照と比較して挿入融合体CL−RFN89の添加によりA431細胞の増殖が約1.7%しか抑制されておらず、挿入融合体の細胞障害活性はFGF受容体の発現量に依存することが確認された。
【0057】
実施例6
癌細胞を移植したマウスにおける血管新生抑制効果
実施例6では、挿入融合体のin vivo における効果を検証するために、A431細胞を移植したマウスにおける血管新生抑制効果を文献(Tanaka et al., Cancer Res., 49, 6727−6730, 1980)記載の方法に準じてマウス背部皮下法(Mouse dorsal air sac assay)により観察した。具体的には、Milliporeリング(Millipore社製)の両側を孔径0.45μmのMilliporeフィルタで覆い、得られたMilliporeチャンバーを0.15mlのPBSに懸濁した1.5×106個のA431細胞と1μM又は2μMの濃度の挿入融合体CL−RFN89とで満たした。なお、陽性対照としてはA431細胞のみのチャンバーを用い、陰性対照としてはPBSのみのチャンバーを用いた。これらのチャンバーを、マウス(Balb/c、メス6週齢)の背部に予め適量の空気を注入して形成された気嚢(air sac)内部に移植し、5日後にチャンバを皮下組織から除去した。血管新生作用は、解剖顕微鏡写真により、チャンバーに接触していた領域に新たに形成された3mm以上の長さの血管を数えることにより評価した。
【0058】
PBSのみのチャンバー、A431細胞のみのチャンバー、A431細胞及び2μM CL−RFN89のチャンバーを移植した場合の解剖顕微鏡写真をそれぞれ図7(a)、(b)、(c) に示す。図7に示すように、A431細胞のみのチャンバーを移植した場合(図7(b))には、図中矢印で示す位置に新生血管特有のジグザグ状の血管が確認されるが、A431細胞及び2μM CL−RFN89のチャンバーを移植した場合(図7(c))には、PBSのみのチャンバーを移植した場合(図7(a))と同様に、新生血管は確認されない。
【0059】
PBSのみのチャンバーを移植したマウス6匹、A431細胞のみのチャンバーを移植したマウス6匹、A431細胞及び2μM CL−RFN89のチャンバーを移植したマウス5匹について新生血管数を計数した結果を図8に示す。なお、図8において血管新生インデックスとは、観察された新生血管数を表す。但し、インデックス5とは新生血管が5以上観察された場合を表す。図8に示すように、A431細胞及び2μM CL−RFN89のチャンバーを移植した場合には、A431細胞のみのチャンバーを移植した場合と比較して、新生血管の数が有意に減少している。
【0060】
このように、本実施の形態における挿入融合体によれば、ヒト生理活性物質及びヒト蛋白質合成阻害物質の何れか一方に他方を一次配列上挿入することで、立体構造の選択肢が増え、両者の機能が効果的に発揮されるような合目的的な立体構造を実現することができる。
【0061】
また、標的細胞に合わせてヒト生理活性物質の種類を変えることで標的細胞に特異的な挿入融合体を作製することができ、種々の治療薬に応用可能である。特に、この挿入融合体は、ヒト由来の蛋白質のみから構成されているため副作用の心配も極めて低いと考えられ、長期投与が可能となる。
【0062】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明に係るヒト生理活性物質とヒトリボヌクレアーゼとの挿入融合体によれば、ヒト生理活性物質及びヒト蛋白質合成阻害物質の機能が効果的に発揮されるような合目的的な立体構造を実現することができ、種々の治療薬に応用可能である。特に、この挿入融合体は、ヒト由来の蛋白質のみから構成されているため副作用の心配も極めて低いと考えられ、長期投与が可能となる。
【0063】
【配列表】
【配列表フリーテキスト】
配列番号5:人工的に合成されたプライマー配列
配列番号6:人工的に合成されたプライマー配列
配列番号7:人工的に合成されたプライマー配列
配列番号8:人工的に合成されたプライマー配列
配列番号9:人工的に合成されたプライマー配列
配列番号10:人工的に合成されたプライマー配列
【図面の簡単な説明】
【図1】挿入融合体CL−RFN89の精製過程におけるSDS−PAGE解析の結果を示す図である。
【図2】各種挿入融合体の最終精製標品のSDS−PAGE解析の結果を示す図である。
【図3】各種挿入融合体のRNA分解活性を示す図である。
【図4】RNaseインヒビター存在下における挿入融合体CL−RFN89のRNA分解活性を示す図である。
【図5】挿入融合体RFN89及びCL−RFN89のトリプシンに対する安定性を示す図である。
【図6】各種挿入融合体のFGF受容体高発現細胞株に対する細胞障害活性を示す図である。
【図7】癌細胞を移植したマウスにおける挿入融合体の血管新生抑制効果を示す解剖顕微鏡写真である。
【図8】癌細胞を移植したマウスにおける挿入融合体の血管新生抑制効果を示す図である。
Claims (6)
- ヒト生理活性物質及びヒト蛋白質合成阻害物質のいずれか一方が他方に一次配列上挿入されてなることを特徴とする挿入融合体。
- 上記ヒト蛋白質合成阻害物質がリボヌクレアーゼであることを特徴とする請求項1記載の挿入融合体。
- 上記ヒト生理活性物質が上記リボヌクレアーゼのループ部位に相当する配列部分に挿入されていることを特徴とする請求項2記載の挿入融合体。
- 上記ループ部位が上記リボヌクレアーゼにおけるリボヌクレアーゼ阻害剤結合部位に対して立体構造上近傍に位置することを特徴とする請求項3記載の挿入融合体。
- 上記ヒト生理活性物質が塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、インターロイキン−2又は抗体であることを特徴とする請求項1記載の挿入融合体。
- 請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の挿入融合体を有効成分とすることを特徴とする医薬組成物。
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2003
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WO2012120176A2 (es) * | 2011-03-10 | 2012-09-13 | Universitat De Girona | Proteínas recombinantes con efecto antitumoral |
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