特許文献1に記載されている磁気検出素子は、タンタル(Ta)からなるバッファ層62を下地として、その上に、ピン止め強磁性層70が積層されたものである。ピン止め強磁性層70は、第1のコバルト(Co)フィルム72と第2のコバルト(Co)フィルム74が、ルテニウム(Ru)フィルム73を介して積層されたものである。第1のコバルト(Co)フィルム72と第2のコバルト(Co)フィルム74は各々の異方性磁界によって磁化が固定されている。第1のコバルト(Co)フィルム72と第2のコバルト(Co)フィルム74は反強磁性結合しており、互いに反平行方向に磁化されている。
しかし、特許文献1に記載されている磁気検出素子のように、タンタルからなるバッファ層上にCoフィルムを積層する構成では、ピン止め強磁性層70の磁化方向を適切に固定できないことがわかった。このことは、特許文献2においても指摘されている。
特許文献2に記載の磁気検出素子は、特許文献1の問題を解決することを目的として発明されたものである。この磁気検出素子では、積層フェリ固定層の強磁性膜をCoFeまたはCoFeNiによって形成することによって誘導異方性を向上させている。
なお、特許文献2には、積層フェリ固定層の下にTaからなる下地層を設けることも記載されているが、Ta下地を設けた場合とTa下地を設けない場合を比較した実験結果(特許文献2の図4、図5、図6、図7)をみると、強磁性層にCoFe合金を用いたときには、Ta下地を設けない方が磁気抵抗変化も保磁力も大きくなることが示されている。
特許文献2には、積層フェリ固定層の誘導異方性を大きくするために、強磁性膜にCoFe合金を使用すること、及び強磁性膜の磁歪を正にすることが記載されている。
自己固定式の固定磁性層の磁化を固定するために、最も重要な要素の一つは固定磁性層の磁気弾性エネルギーに由来する一軸異方性である。特に固定磁性層の磁歪を最適化することが重要である。しかし、特許文献2には、固定磁性層の磁歪を最適化する機構に関する考察がなく、固定磁性層の磁歪を最適化するための具体的構成に関する記載はなされていない。
また前記磁歪と共に前記固定磁性層の保磁力も大きくできればより好ましい。前記保磁力が小さいと、メカニカルストレス(媒体表面に衝突した場合や製造過程時に生じるストレス)によってハイト方向に固定されていた固定磁性層の磁化が容易に反転しやすく、再生特性が不安定化し信頼性の低下を招く。
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、自己固定式の固定磁性層を有する磁気検出素子において、固定磁性層の磁歪を制御する機構を明らかにし、該磁歪や保磁力を適切に制御するために、前記固定磁性層に接する非磁性膜の材料や膜厚等を適切に選択することによって、固定磁性層の磁化を強固に固定することのできる磁気検出素子を提供することを目的とする。
本発明は、固定磁性層とフリー磁性層が非磁性材料層を介して積層されている磁気検出素子において、
前記固定磁性層は、複数の磁性層が非磁性中間層を介して積層されたものであって、前記複数の磁性層のうち前記非磁性材料層から最も離れた位置に形成されている第1の磁性層が、X―Mn(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金からなる非磁性金属層に接しており、前記非磁性金属層内の結晶と前記第1の磁性層内の少なくとも一部の結晶はエピタキシャルまたはヘテロエピタキシャルな状態であり、前記固定磁性層の記録媒体との対向面側の端面が開放されていることを特徴とするものである。
本発明は、固定磁性層自体の一軸異方性によって固定磁性層の磁化が固定される、いわゆる自己固定式の磁気検出素子である。
従って、膜厚200Åの厚い反強磁性層を有する磁気検出素子に比べて分流損失を少なくできるので、磁気検出素子の磁界検出出力を20〜30%向上させることができる。また、磁気検出素子の上下に設けられるシールド層間の距離も短くなるので、記録媒体のさらなる高線記録密度化に対応することもできる。
強磁性体膜の磁気異方性磁界を決める要素には、結晶磁気異方性、誘導磁気異方性、及び磁気弾性効果がある。このうち、結晶磁気異方性は保磁力を大きくすることで大きくすることが出来る。一方、誘導磁気異方性は成膜時または熱処理時に一方向の磁場を与えることによって一軸性を帯び、磁気弾性効果は一軸性の応力を加えることによって一軸性を帯びる。
本発明の第1形態は、固定磁性層の磁化を固定する一軸異方性を決める磁気弾性効果に着目してなされたものである。
磁気弾性効果は、磁気弾性エネルギーに支配される。磁気弾性エネルギーは、固定磁性層にかかる応力と固定磁性層の磁歪定数によって規定される。
本発明では、前記固定磁性層の記録媒体との対向面側の端面が開放されているので、応力の対称性がくずれて、前記固定磁性層には、素子高さ方向(ハイト方向;前記対向面に対する法線方向)に引張り応力が働く。本発明では、固定磁性層の磁歪定数を大きくすることによって磁気弾性エネルギーを大きくし、これによって、固定磁性層の一軸異方性を大きくするものである。固定磁性層の一軸異方性が大きくなると、固定磁性層の磁化は一定の方向に強固に固定され、磁気検出素子の出力が大きくなりかつ出力の安定性や対称性も向上する。
具体的には,前記固定磁性層を構成する前記複数の磁性層のうち前記第1の磁性層を、X―Mn(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金からなる非磁性金属層と、エピタキシャルまたはヘテロエピタキシャルな状態で接合させることによって、前記第1の磁性層の結晶構造に歪みを生じさせて前記第1の磁性層の磁歪定数λを大きくさせている。これにより前記固定磁性層の磁歪定数を大きく出来る。
または本発明は、固定磁性層とフリー磁性層が非磁性材料層を介して積層されている磁気検出素子において、
前記固定磁性層は、複数の磁性層が非磁性中間層を介して積層されたものであって、前記複数の磁性層のうち前記非磁性材料層から最も離れた位置に形成されている第1の磁性層は、反強磁性層に接しており、前記反強磁性層は、X―Mn(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金からなり、しかも前記第1の磁性層との間で一方向の交換結合磁界(Hex)を生じず、前記反強磁性層内の結晶と前記第1の磁性層内の少なくとも一部の結晶はエピタキシャルまたはヘテロエピタキシャルな状態であり、前記固定磁性層の記録媒体との対向面側の端面が開放されていることを特徴とするものである。
上記の発明では、第1の磁性層に反強磁性層を接して形成している。前記反強磁性層は、前記第1の磁性層との間で反強磁性的な交換結合は生じているが、一方向の交換結合磁界(Hex)は発生していない。これは前記反強磁性層と第1の磁性層の結晶は交換結合しているものの、第1の磁性層のスピンが回転すると共に反強磁性層のスピンもそれに引きずられて回転してしまうために反強磁性層の結晶磁気異方性の影響で前記第1の磁性層が異方性分散を起こしていることによる。
上記発明では、固定磁性層の磁歪を大きくできると共に、前記反強磁性層の影響で第1の磁性層が異方性分散を起こしているために保磁力Hcも大きく出来る。これによって磁気弾性エネルギーと共に、実質的な結晶磁気異方性も大きくでき、前記固定磁性層の一軸異方性あるいは硬質磁気特性を、効果的に大きくできる。
また前記非磁性金属層または反強磁性層の膜厚は、5Å以上50Å以下であることが好ましい。前記膜厚をこの範囲内に設定することで、固定磁性層の磁歪を大きくでき、またシャントロスを適切に低減でき再生出力を高めることが出来る。
また前記反強磁性層の膜厚は、5Å以上18Å以下であることが好ましい。後述する実験によれば、固定磁性層の保磁力を高めることが出来ると共に、PLR(Pinned Layer Reversal)の発生率及びベースラインノイズの発生率を適切に低減できる。
また本発明では、前記反強磁性層の膜厚は、14Å以上18Å以下であることが好ましい。これにより前記固定磁性層の保磁力をより効果的に高めることが出来ると共に、前記PLRの発生率をより適切に低減させることが出来る。
あるいは本発明は、固定磁性層とフリー磁性層が非磁性材料層を介して積層されている磁気検出素子において、
前記固定磁性層は、複数の磁性層が非磁性中間層を介して積層されたものであって、前記複数の磁性層のうち前記非磁性材料層から最も離れた位置に形成されている第1の磁性層は、反強磁性層に接しており、前記反強磁性層は、X―Mn(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金からなり、しかも前記反強磁性層の膜厚は5Å以上18Å以下であり、前記反強磁性層内の結晶と前記第1の磁性層内の少なくとも一部の結晶はエピタキシャルまたはヘテロエピタキシャルな状態であり、前記固定磁性層の記録媒体との対向面側の端面が開放されていることを特徴とするものである。
上記の発明では、第1の磁性層に反強磁性層を接して形成している。前記反強磁性層は薄い膜厚であるため反強磁性層の結晶磁気異方性によるスピンの拘束力が弱く、よって一方向性交換結合が弱く、結果として第1の磁性層が異方性分散を起こしている。
本発明では、固定磁性層の磁歪を大きくできると共に、前記反強磁性層の影響で第1の磁性層が異方性分散を起こしているために保磁力Hcも大きく出来る。これによって磁気弾性エネルギーと共に、実質的な結晶磁気異方性も大きくでき、前記固定磁性層の一軸異方性あるいは硬磁性を、効果的に大きくできる。
また本発明では、前記反強磁性層の膜厚は14Å以上18Å以下であることが好ましい。これにより、前記固定磁性層の保磁力をより効果的に高めることが出来ると共に、ベースラインノイズの発生率及びPLR(Pinned Layer Reversal)の発生率を適切に低減させることが出来る。
また本発明では、前記反強磁性層は、IrMn,RuMnあるいはRhMnであることが好ましい。これらはいずれも不規則系反強磁性層でネール温度が室温以上である。
前記反強磁性層は、Mnを除く元素の組成比が15原子%以上29原子%以下であることが好ましい。これにより固定磁性層の磁歪と共に保磁力を大きく出来る。
またX―Mn合金中のX元素の含有量は、45原子%以上99原子%以下であることが好ましい。これにより前記固定磁性層の磁歪を大きくすることができる。
なお、Pt100at%でも、磁歪を大きくすることは可能である。しかし、Pt100at%だと、抵抗値が小さくなりセンス電流の分流損失が大きくなって出力が低下しやすい。したがって、Mnを1%以上添加して比抵抗を大きくするすることが好ましい。
本発明では、前記非磁性金属層または反強磁性層が、X―Mn(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金によって形成されると、前記非磁性金属層または反強磁性層は、前記固定磁性層の第1の磁性層側の界面付近、あるいは全領域において、面心立方構造(fcc)構造をとり、前記非磁性金属層の下にNiFeCrなどの適切なシード層を配した場合に、前記界面と平行な方向に、{111}面として表される等価な結晶面が優先配向する形態を一形態として提供することが出来る。
前記フリー磁性層と前記固定磁性層の両側端部には、フリー磁性層に縦バイアス磁界を供給するバイアス層が設けられていることが好ましい。
本発明では、前記固定磁性層の第1の磁性層は、前記非磁性金属層側または反強磁性層側の界面付近あるいは全領域において面心立方構造(fcc)構造をとり、前記界面と平行な方向に、{111}面として表される等価な結晶面が優先配向していることが好ましい。
上記のように、本発明における前記非磁性金属層は、fcc構造をとり前記界面と平行な方向に、{111}面として表される等価な結晶面が優先配向している形態を一形態として提供することが出来る。
従って、前記第1の磁性層が、fcc構造をとり前記界面と平行な方向に、{111}面として表される等価な結晶面が優先配向しているものであると、前記第1の磁性層を構成する原子と前記非磁性金属層または反強磁性層を構成する原子が互いに重なりあいやすくなる。
しかし、前記第1の磁性層の{111}面内の最近接原子間距離と、前記非磁性金属層または反強磁性層の{111}面内の最近接原子間距離には、一定以上の差が生じるので、前記第1の磁性層と前記非磁性金属層または反強磁性層の界面付近では、前記第1の磁性層を構成する原子と前記非磁性金属層または反強磁性層を構成する原子が互いに重なり合いつつも、それぞれの結晶構造に歪みが生じている。すなわち、前記第1の磁性層の結晶構造に歪を生じさせることによって磁歪定数λを大きくさせることができる。
例えば、前記固定磁性層の第1の磁性層を、CoまたはCoxFey(y≦20,x+y=100、x及びyはat%)によって形成すると、前記第1の磁性層を、fcc構造をとり前記界面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向するものにできる。
または、前記固定磁性層の第1の磁性層は、前記非磁性金属層側または反強磁性層側の界面付近あるいは全領域において体心立方格子(bcc)構造をとり、前記界面と平行な方向に、{110}面として表される等価な結晶面が優先配向している形態を一形態として提供できる。
前記第1の磁性層が、bcc構造をとり前記界面と平行な方向に、{110}面として表される等価な結晶面が優先配向しているものであっても、前記第1の磁性層を構成する原子と前記非磁性金属層または反強磁性層を構成する原子が互いに重なりあいやすくなる。
このときも、前記第1の磁性層の{110}面内の最近接原子間距離と、前記非磁性金属層または反強磁性層の{111}面内の最近接原子間距離には、一定以上の差が生じ、前記第1の磁性層と前記非磁性金属層または反強磁性層の界面付近では、前記第1の磁性層を構成する原子と前記非磁性金属層または反強磁性層を構成する原子が互いに重なり合いつつも、それぞれの結晶構造に歪みが生じる。すなわち、前記第1の磁性層の結晶構造に歪を生じさせることによって磁歪定数λを大きくさせることができる。
例えば、前記固定磁性層の第1の磁性層を、CoxFey(y≧20,x+y=100、x及びyはat%)によって形成すると、前記第1の磁性層を、bcc構造をとり前記界面と平行な方向に{110}面として表される等価な結晶面が優先配向するものにできる。なお、bcc構造をとるCoxFey(y≧20,x+y=100)は、fcc構造をとるCoまたはCoxFey(y≦20,x+y=100)より、特にy=50付近で、磁歪定数λの値が大きいので、より大きな磁気弾性効果を発揮することができる。また、bcc構造をとるCoxFey(y≧20,x+y=100)は、保磁力が大きく、前記固定磁性層の磁化固定を強固にすることができる。
また、本発明では、前記固定磁性層の第1の磁性層の、前記非磁性金属層側または反強磁性層側の界面付近は面心立方構造(fcc)構造をとり、前記界面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向しており、前記非磁性中間層側の界面付近は体心立方格子(bcc)構造をとり、前記界面と平行な方向に、{110}面として表される等価な結晶面が優先配向していることが好ましい。
前記非磁性中間層側の界面付近をbcc構造にすることにより、磁歪定数λの値を大きくし、大きな磁気弾性効果を発揮させることができる。一方、前記第1の磁性層の前記非磁性金属層側または反強磁性層側の界面付近をfcc構造にすると、固定磁性層、非磁性材料層、フリー磁性層の結晶配向性が一定になりやすく、磁気抵抗変化率(MR比)を高くすることができる。
例えば、前記固定磁性層の第1の磁性層の、前記非磁性金属層側または反強磁性層側の界面付近の組成をCoxFey(y≦20,x+y=100)またはCoにし、前記非磁性中間層側の界面付近の組成をCoxFey(y≧20,x+y=100)にすることによって、前記非磁性金属層側または反強磁性層側の界面付近は、fcc構造であって、前記界面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向し、前記非磁性中間層側の界面付近は、(bcc)構造であって、前記界面と平行な方向に、{110}面として表される等価な結晶面が優先配向しているものにできる。
また、前記非磁性中間層側の界面付近の組成が、CoxFey(y≧20,x+y=100)であると、前記非磁性中間層を介した第1の磁性層と他の磁性層間のRKKY相互作用が強くなるので好ましい。
なお、前記固定磁性層の第1の磁性層は、前記非磁性金属層側または反強磁性層側の界面から前記非磁性中間層側の界面に向かうに連れて、Fe濃度が徐々に大きくなるものであってもよい。
本発明では、前記非磁性金属層または反強磁性層を構成する原子と前記第1の磁性層の原子とを、重なり合わせつつ、結晶構造に歪みを生じさせるために、前記界面と平行な面内における、前記非磁性金属層または反強磁性層の最近接原子間距離と、前記固定磁性層の第1の磁性層の最近接原子間距離の差を、前記第1の磁性層の最近接原子間距離で割った値を、0.05以上0.20以下にすることが好ましい。
また前記第1の磁性層は磁歪定数が正の値である磁性材料によって形成されていることが好ましい。
なお、フリー磁性層、非磁性材料層、及び前記固定磁性層の両側部に、Cr、α−Ta、またはRhからなる電極層が形成されていると、前記固定磁性層にかかるトラック幅方向の圧縮応力(すなわちハイト方向の引張り応力)を大きくできるので好ましい。
前記電極層の結晶格子面の膜面平行方向の面間隔がCrの場合で0.2044nm以上(bcc構造の{110}面間隔)、α−Taの場合で0.2337nm以上(bcc構造の{110}面間隔)、Rhの場合で0.2200nm以上(fcc構造の{111}面間隔)であることが好ましい。
本発明は、磁気検出素子の小型化を進めたときに特に有効になる。特に、前記固定磁性層の光学的トラック幅寸法が、0.15μm以下であることが好ましい。
本発明では、自己固定式の固定磁性層を有する磁気検出素子において、固定磁性層の磁歪を制御する機構を明らかにし、前記固定磁性層に接する非磁性金属層の材料を適切に選択することによって、該磁歪を適切に制御して、固定磁性層の磁化を強固に固定することのできる磁気検出素子を提供できる。
具体的には、前記固定磁性層を、複数の磁性層が非磁性中間層を介して積層されたものとし、前記複数の磁性層のうち前記非磁性材料層から最も離れた位置に形成されている第1の磁性層を、X―Mn(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金からなる前記非磁性金属層と接合させる。
これにより、前記第1の磁性層の結晶構造に歪みを生じさせて前記第1の磁性層の磁歪定数λを大きくさせることができる。固定磁性層の磁歪定数を大きくすることによって磁気弾性エネルギーを大きくし、固定磁性層の一軸異方性を大きくできる。
固定磁性層の一軸異方性が大きくなると、固定磁性層の磁化は一定の方向に強固に固定され、磁気検出素子の出力が大きくなりかつ出力の安定性や対称性も向上する。
また本発明では、前記非磁性金属層に代えて反強磁性層を用いてもよい。前記反強磁性層の膜厚は非常に薄いために前記第1の磁性層との間で一方向の交換結合磁界(Hex)は生じていないか、あるいは生じていても極めて弱い。そして前記反強磁性層の膜厚が薄いことで、前記反強磁性層の結晶磁気異方性によるスピンの拘束力の低下により第1の磁性層が異方性分散を生じており、この結果、前記第1の磁性層の保磁力Hcを増大させることが出来る。かかる形態では、前記固定磁性層の磁歪のみならず保磁力も大きく出来るので、より効果的に前記固定磁性層の磁化をハイト方向に固定でき、メカニカルストレスの発生があっても前記固定磁性層の磁化反転を適切に抑制でき、安定した再生特性を得ることができ信頼性の高い磁気検出素子を提供できる。
図1は、本発明の第1の実施の形態の磁気検出素子を記録媒体との対向面側から見た断面図である。
図1に示される磁気検出素子では、アルミナなどの絶縁性材料からなる下部ギャップ層20上に多層膜T1が形成されている。
図1に示す実施形態では、多層膜T1は、下からシードレイヤ21、非磁性金属層22、固定磁性層23、非磁性材料層24、フリー磁性層25及び保護層26の順に積層されたものである。
シードレイヤ21は、NiFe合金、NiFeCr合金あるいはCr、Taなどで形成されている。シードレイヤ21は、例えば(Ni0.8Fe0.2)60at%Cr40at%の膜厚35Å〜60Åで形成される。
シードレイヤ21があると、非磁性金属層22の{111}配向が良好になる。
非磁性金属層22については、後述する。
固定磁性層23は、第1磁性層(第1の磁性層)23aと第2磁性層23cが非磁性中間層23bを介して積層された人工フェリ構造を有している。固定磁性層23は、固定磁性層23自体の一軸異方性によって磁化が、ハイト方向(図示Y方向)に固定されている。
非磁性材料層24は、固定磁性層23とフリー磁性層25との磁気的な結合を防止する層であり、Cu,Cr,Au,Agなど導電性を有する非磁性材料により形成されることが好ましい。特にCuによって形成されることが好ましい。非磁性材料層の膜厚は17Å〜30Åである。
フリー磁性層25は、NiFe合金やCoFe合金等の磁性材料で形成される。図1に示す実施形態では特にフリー磁性層25がNiFe合金で形成されるとき、フリー磁性層25と非磁性材料層24との間にCoやCoFeなどからなる拡散防止層(図示しない)が形成されていることが好ましい。フリー磁性層25の膜厚は20Å〜60Åである。また、フリー磁性層25は、複数の磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造であってもよい。
保護層26はTaなどからなり、多層膜T1の酸化の進行を抑える。保護層26の膜厚は10Å〜50Åである。
図1に示す実施形態では、シードレイヤ層21から保護層26までの多層膜T1の両側にはバイアス下地層27、ハードバイアス層28及び電極層29が形成されている。ハードバイアス層28からの縦バイアス磁界によってフリー磁性層25の磁化はトラック幅方向(図示X方向)に揃えられる。
バイアス下地層27,27はCr,W,Tiで、ハードバイアス層28,28は例えばCo−Pt(コバルト−白金)合金やCo−Cr−Pt(コバルト−クロム−白金)合金などで形成されており、電極層29,29は、Cr,Ta,Rh,AuやW(タングステン)などで形成されている。
バイアス下地層27,27の膜厚は20Å〜100Å、ハードバイアス層28,28の膜厚は100Å〜400Å、電極層29,29の膜厚は400Å〜1500Åである。
電極層29,29、及び保護層26上には、アルミナなどの絶縁性材料からなる上部ギャップ層30が積層される。なお、図示はしないが、下部ギャップ層20の下には下部シールド層が設けられ、上部ギャップ層上には上部シールド層が設けられる。下部シールド層及び上部シールド層はNiFeなどの軟磁性材料によって形成される。上部ギャップ層及び下部ギャップ層の膜厚は50Å〜300Åである。
フリー磁性層25の磁化は、ハードバイアス層28,28からの縦バイアス磁界によってトラック幅方向(図示X方向)に揃えられる。そして記録媒体からの信号磁界(外部磁界)に対し、フリー磁性層25の磁化が感度良く変動する。一方、固定磁性層23の磁化は、ハイト方向(図示Y方向)に固定されている。
フリー磁性層25の磁化方向の変動と、固定磁性層23の固定磁化方向(特に第2磁性層23cの固定磁化方向)との関係で電気抵抗が変化し、この電気抵抗値の変化に基づく電圧変化または電流変化により、記録媒体からの洩れ磁界が検出される。
本実施の形態の特徴部分について述べる。
図1に示される磁気検出素子の固定磁性層23は、第1磁性層(第1の磁性層)23aと第2磁性層23cが非磁性中間層23bを介して積層された人工フェリ構造を有している。第1磁性層23aの磁化と第2磁性層23cの磁化は、非磁性中間層23bを介したRKKY相互作用によって互いに反平行方向に向けられている。
第1磁性層23aは、第2磁性層23cより非磁性材料層24から離れた位置に形成されており、非磁性金属層22に接している。
非磁性金属層22は、X―Mn(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金によって形成されている。
非磁性金属層22の膜厚は、5Å以上50Å以下であることが好ましい。
X―Mn(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)からなる非磁性金属層22の膜厚がこの範囲内であると、非磁性金属層22の結晶構造は、成膜時の状態である面心立方構造(fcc)を維持しつづける。なお、非磁性金属層22の膜厚が、50Åより大きくなると、250℃以上の熱が加わったときに、非磁性金属層22の結晶構造がCuAuI型の規則型の面心正方構造(fct)に構造変態するので好ましくない。ただし、非磁性金属層22の膜厚が、50Åより大きくても、250℃以上の熱が加わらなければ、非磁性金属層の結晶構造は、成膜時の状態である面心立方構造(fcc)を維持しつづける。
またCuAuI型の規則相への変態の過程で原子の再配列が起こると、第1の磁性層との界面での原子間の整合関係が崩れるので、磁歪を増強させる観点では前記の再配列が起こるのは好ましくないが、一部のみ規則相へ変態するのであれば磁歪の低下は小さく、なおかつ反強磁性化による第1の磁性層23aの保磁力の増大効果が付与されるので、前記非磁性金属層22が一部、規則化しても良い。
そして、X―Mn(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)からなる非磁性金属層22が面心立方構造(fcc)の結晶構造を有するとき、この非磁性金属層22と第1磁性層23aとの界面には交換結合磁界は発生しないか、または極めて弱く、交換結合磁界によって第1磁性層23aの磁化方向を固定することはできない。
また前記非磁性金属層22は、室温以下では反強磁性を帯びるが、前記非磁性金属層22の大部分は室温より低いブロッキング温度(TB)を有しており、このため室温では前記非磁性金属層22の大部分は非磁性となっている。なお前記非磁性金属層22の一部に、室温より高いブロッキング温度を有する反強磁性相があってもかまわない。
図1に示される磁気検出素子は、固定磁性層23自体の一軸異方性によって固定磁性層23の磁化が固定されている。図1に示される磁気検出素子は、自己固定式の磁気検出素子と呼ばれる。
自己固定式の磁気検出素子は、200Å程度の厚い膜厚の反強磁性層を有する磁気検出素子に比べて分流損失を少なくできるので、磁気検出素子の磁界検出出力を20〜30%向上させることができる。また、磁気検出素子の上下に設けられるシールド層間の距離も短くなるので、記録媒体のさらなる高線記録密度化に対応することもできる。
本実施の形態では、第2磁性層23cの膜厚の方が、第1磁性層23aの膜厚より大きくなっている。第2磁性層23cの磁化はハイト方向(図示Y方向)を向き、第1磁性層23aの磁化はハイト方向と反平行方向を向いた状態で磁化が固定されている。
第1磁性層23aの膜厚は10Å〜30Åであり、第2磁性層23cの膜厚は15Å〜35Åである。第1磁性層23aの膜厚を厚くすると、保磁力は大きくなる。しかし、第1磁性層23aの膜厚が大きいと分流損失が大きくなる。また、後述するように、第1磁性層23aは、非磁性金属層22と整合することによって結晶構造に歪みが生じ、この歪みによって磁歪定数λ及び一軸異方性を大きくしている。しかし、第1磁性層23aの膜厚が大きすぎると、第1磁性層23aに生じる歪みが小さくなり、磁歪定数λ及び一軸異方性も小さくなってしまう。
図1に示す第1の実施形態では、固定磁性層23の磁化を固定する一軸異方性を決める、誘導磁気異方性と磁気弾性効果のうち、磁気弾性効果を主に利用している。
磁気弾性効果は、磁気弾性エネルギーに支配される。磁気弾性エネルギーは、固定磁性層23にかかる応力σと固定磁性層23の磁歪定数λによって規定される。
図2は、図1に示された磁気検出素子を図示上側(図示Z方向と反対方向)からみた平面図である。磁気検出素子の多層膜T1は一対のバイアス下地層27,27、ハードバイアス層28,28及び電極層29,29の間に形成されている。なお、バイアス下地層27,27、ハードバイアス層28,28は、電極層29,29の下に設けられているので、図2には図示されていない。多層膜T1と、バイアス下地層27,27、ハードバイアス層28,28及び電極層29,29の周囲は、斜線で示される絶縁材料層31によって埋められている。
また、多層膜T1、バイアス下地層27,27、ハードバイアス層28,28、及び電極層29,29の記録媒体との対向面側の端面Fは露出しているか、またはダイヤモンドライクカーボン(DLC)などからなる膜厚20Å〜50Å薄い保護層で覆われているだけであり、開放端となっている。
従って、もともと2次元的に等方的であった下部ギャップ層20及び上部ギャップ層30からの応力が端面Fで開放された結果、対称性がくずれて、多層膜T1には、ハイト方向(図示Y方向)に平行な方向に、引っ張り応力が加えられている。また、バイアス下地層27,27、ハードバイアス層28,28、及び電極層29,29の積層膜が圧縮性の内部応力を有している場合には、電極層などが面内方向に延びようとするため、多層膜T1には、トラック幅方向に(図示X方向)に平行な方向及び反平行な方向に圧縮応力を加えられている。
すなわち、記録媒体との対向面側の端面Fが開放されている固定磁性層23には、ハイト方向の引張り応力とトラック幅方向の圧縮応力が加えられる。そして、第1磁性層23aは、磁歪定数が正の値である磁性材料によって形成されているので、磁気弾性効果によって、第1磁性層23aの磁化容易軸は磁気検出素子の奥側(ハイト方向;図示Y方向)に平行方向となり、第1磁性層23aの磁化方向がハイト方向と平行方向または反平行方向に固定される。第2磁性層23cの磁化は、非磁性中間層23bを介したRKKY相互作用によって第1磁性層23aの磁化方向と反平行方向を向いた状態で固定される。
第1の実施形態では、固定磁性層23の磁歪定数λを大きくすることによって磁気弾性エネルギーを大きくし、これによって、固定磁性層23の一軸異方性を大きくするものである。固定磁性層23の一軸異方性が大きくなると、固定磁性層23の磁化は一定の方向に強固に固定され、磁気検出素子の出力が大きくなりかつ出力の安定性や対称性も向上する。
具体的には、固定磁性層23を構成する第1磁性層23aを、非磁性金属層22と接合させることによって、第1磁性層23aの結晶構造に歪みを生じさせて第1磁性層23aの磁歪定数λを大きくさせている。
先に述べたように、非磁性金属層22は、例えばfcc構造をとり、界面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向するものである。
一方、固定磁性層23の第1磁性層23aがCoまたはCoxFey(y≦20,x+y=100)によって形成されていると、第1磁性層23aは面心立方構造(fcc)構造をとる。また、第1磁性層23aは、界面と平行な方向に、{111}面として表される等価な結晶面が優先配向している。
従って、第1磁性層23aを構成する原子と非磁性金属層22を構成する原子が互いに重なりあいやすくなり、非磁性金属層22内の結晶と固定磁性層23内の結晶はエピタキシャルな状態になっている。
しかし、第1磁性層23aの{111}面内の最近接原子間距離と、非磁性金属層22の{111}面内の最近接原子間距離には、一定以上の差があることが必要である。
非磁性金属層22を構成する原子と第1磁性層23aの原子とを重なり合わせつつ、結晶構造に歪みを生じさせ、第1磁性層23aの磁歪を大きくするために、非磁性金属層22の材料である前記X―Mn合金中のX元素の含有量を調節することが好ましい。
例えば、前記X―Mn合金中のX元素の含有量を、51原子%以上にすると、非磁性金属層22に重なる第1磁性層23aの磁歪が急激に増加する。また、X―Mn合金中のX元素の含有量が、45原子%以上99原子%以下であると、前記第1磁性層の磁歪が大きな値をとりつつ安定する。なお前記含有量は55原子%以上で99原子%以下であることがより好ましい。
また、非磁性金属層22の{111}面内の最近接原子間距離と、固定磁性層23の第1磁性層23aの{111}面内の最近接原子間距離との差を、第1磁性層23aの{111}面内の最近接原子間距離で割った値(以下ミスマッチ値と呼ぶ)を、0.05以上0.20以下にすることが好ましい。
本実施の形態の磁気検出素子では、図3に模式的に示すように、非磁性金属層22を構成する原子と第1磁性層23aの原子とが重なり合いつつも、界面付近で結晶構造に歪みが生じている状態になる。
図3において符号N1は第1磁性層23aの{111}面内の最近接原子間距離を示しており、符号N2は非磁性金属層22の{111}面内の最近接原子間距離を示している。N1及びN2は、非磁性金属層22と第1磁性層23aの界面から離れた歪みの影響の少ないところで測定する。
このように、第1磁性層23aの結晶構造に歪みが生じると、第1磁性層23aの磁歪定数λを大きくすることができるので、大きな磁気弾性効果を発揮することができる。
ここで、非磁性金属層22と第1磁性層23aのミスマッチ値が小さすぎると、図4に模式的に示すように、非磁性金属層22の原子と第1磁性層23aの原子が重なりあったとき、界面付近の結晶構造に歪みが生じなくなり、第1磁性層23aの磁歪定数λを大きくすることができなくなる。
また、非磁性金属層22と第1磁性層23aのミスマッチ値が大きくなりすぎると、図5に模式的に示すように、非磁性金属層22の原子と第1磁性層23aの原子が重なりあわなくなり、非整合または非エピタキシャルな状態になる。非磁性金属層22の原子と第1磁性層23aの原子が非整合または非エピタキシャルな状態になるときも、界面付近の結晶構造に歪みが生じなくなり、第1磁性層23aの磁歪定数λを大きくすることができなくなる。
また、固定磁性層23の第1磁性層23aが、体心立方格子(bcc)構造をとり、界面と平行な方向に、{110}面として表される等価な結晶面が優先配向しているものであってもよい。
例えば、固定磁性層23の第1磁性層23aがCoxFey(y≧20,x+y=100)によって形成されていると、第1磁性層23aは体心立方格子(bcc)構造をとる。
上述したように、非磁性金属層22は、例えばfcc構造をとり、界面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向しているものである。
bcc構造を有する結晶の{110}面として表される等価な結晶面の原子配列とfcc構造を有する結晶の{111}面として表される等価な結晶面の原子配列は類似しており、bcc構造を有する結晶とfcc構造を有する結晶を、各々の原子が重なり合った整合状態、いわゆるヘテロエピタキシャルな状態にすることができる。
さらに、第1磁性層23aの{110}面内の最近接原子間距離と、非磁性金属層22の{111}面内の最近接原子間距離には、一定以上の差が生じている。このため、第1磁性層23aと非磁性金属層22の界面付近では、第1磁性層23aを構成する原子と非磁性金属層22を構成する原子が互いに重なり合いつつも、それぞれの結晶構造に歪みが生じる。従って、第1磁性層23aの結晶構造に歪を生じさせることによって磁歪定数λを大きくさせることができる。
なお、bcc構造をとるCoxFey(y≧20,x+y=100)は、fcc構造をとるCoまたはCoxFey(y≦20,x+y=100)より、特に、y=50付近の組成において、磁歪定数λの値が大きいので、より大きな磁気弾性効果を発揮することができる。また、bcc構造をとるCoxFey(y≧20,x+y=100)は、保磁力が大きく、固定磁性層23の磁化固定を強固にすることができる。
なお、本発明では、第1磁性層23aと非磁性金属層22の界面付近で、第1磁性層23aを構成する原子と、非磁性金属層22を構成する原子の大部分が互いに重なり合う整合状態になっていればよい。例えば、図3に模式的に示すように、一部に、第1磁性層23aを構成する原子と、非磁性金属層22を構成する原子が重なり合わない領域があってもよい。
また、第2磁性層23cの材料には、bcc構造をとるCoxFey(y≧20,x+y=100)、fcc構造をとるCoまたはCoxFey(y≦20,x+y=100)のどちらを用いてもよい。
第2磁性層23cの材料に、bcc構造をとるCoxFey(y≧20,x+y=100)を用いると、正磁歪を大きくすることができる。bcc構造をとるCoxFey(y≧20,x+y=100)は、保磁力が大きく、固定磁性層23の磁化固定を強固にすることができる。また、非磁性中間層23bを介した第1磁性層23aと第2磁性層23c間のRKKY相互作用が強くなる。
一方、第2磁性層23cは、非磁性材料層24に接しており、磁気抵抗効果に大きな影響を及ぼす層なので、fcc構造をとるCoまたはCoxFey(y≦20,x+y=100)を用いて形成すると磁気抵抗効果の劣化が少ない。
図6ないし図8は、固定磁性層23の他の様態を示す部分断面図である。
図6に示されるように、固定磁性層23を構成する第1磁性層23aが、非磁性金属層22側にfcc磁性層23a1が設けられ、非磁性中間層側にbcc磁性層23a2が設けられたものであってもよい。
fcc磁性層23a1とは、面心立方構造(fcc)構造をとり、界面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向する磁性層であり、bcc磁性層23a2とは、体心立方格子(bcc)構造をとり、界面と平行な方向に{110}面として表される等価な結晶面が優先配向している磁性層である。
fcc磁性層23a1は、CoまたはCoxFey(y≦20,x+y=100)を用いて形成され、bcc磁性層23a2は、CoxFey(y≧20,x+y=100)によって形成される。
第1磁性層23aの非磁性中間層23b側の界面付近をbcc構造にすることにより、磁歪定数λの値を大きくし、大きな磁気弾性効果を発揮させることができる。また、非磁性中間層23b側の組成が、CoxFey(y≧20,x+y=100)であると、非磁性中間層23bを介した第1磁性層23aと第2磁性層23c間のRKKY相互作用が強くなる。
一方、第1磁性層23aの非磁性金属層22側の界面付近をfcc構造にすると、固定磁性層23、非磁性材料層、フリー磁性層の結晶配向性が一定になり、結晶粒も大きくなって磁気抵抗変化率(MR比)を高くすることができる。
また、図7に示されるように、固定磁性層23を構成する第2磁性層23cは、非磁性材料層24側にfcc磁性層23c2が設けられ、非磁性中間層23b側にbcc磁性層23c1が設けられたものであってもよい。
fcc磁性層23c2とは、面心立方構造(fcc)構造をとり、界面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向する磁性層であり、bcc磁性層23c1とは、体心立方格子(bcc)構造をとり、界面と平行な方向に{110}面として表される等価な結晶面が優先配向している磁性層である。
fcc磁性層23c2は、CoまたはCoxFey(y≦20,x+y=100)を用いて形成され、bcc磁性層23c1は、CoxFey(y≧20,x+y=100)によって形成される。
第2磁性層23cの非磁性中間層23b側の界面付近をbcc構造にすることにより、磁歪定数λの値を大きくし、大きな磁気弾性効果を発揮させることができる。また、非磁性中間層23b側の組成が、CoxFey(y≧20,x+y=100)であると、非磁性中間層23bを介した第1磁性層23aと第2磁性層23c間のRKKY相互作用が強くなる。
一方、第1磁性層23aの非磁性金属層22側の界面付近をfcc構造にすることによって、磁気抵抗効果の劣化を抑えることができる。
または、図8に示されるように、固定磁性層23を構成する第1磁性層23aは、非磁性金属層22側にfcc磁性層23a1が設けられ、非磁性中間層側にbcc磁性層23a2が設けられたものであり、かつ、第2磁性層23cは、非磁性材料層24側にfcc磁性層23c2が設けられ、非磁性中間層23b側にbcc磁性層23c1が設けられたものであってもよい。
なお、図6ないし図8では、第1磁性層23aをfcc磁性層23a1とbcc磁性層23a2とが積層された構造にし、または、第2磁性層23cを、bcc磁性層23c1とfcc磁性層23c2とが積層された構造にしている。
しかし、本発明では、固定磁性層23の第1磁性層23aが、非磁性金属層22側の界面付近で、面心立方構造(fcc)構造をとり、界面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向し、非磁性中間層23b側の界面付近で、体心立方格子(bcc)構造をとり、界面と平行な方向に、{110}面として表される等価な結晶面が優先配向していればよい。
従って、固定磁性層23の第1磁性層23aは、非磁性金属層22側の界面付近でCoまたはCoxFey(y≦20,x+y=100)の組成を有し、fcc構造をとり、界面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向し、非磁性金属層22側の界面付近から非磁性中間層23b側の界面に向かうに連れて、Fe濃度が徐々に大きくなって、非磁性中間層23b側の界面付近で、CoxFey(y≧20,x+y=100)の組成を有し、体心立方格子(bcc)構造をとり、界面と平行な方向に、{110}面として表される等価な結晶面が優先配向したものであってもよい。
また、第2磁性層23cも同様に、非磁性材料層24側の界面付近から非磁性中間層23b側の界面に向かうに連れて、Fe濃度が徐々に大きくなるCoFe合金で形成されてよい。
図9は、本発明の第2の実施の形態の磁気検出素子を記録媒体との対向面側から見た断面図である。
図9に示された磁気検出素子は、図1に示された磁気検出素子に類似しており、多層膜T1の代わりに、多層膜T2が形成されている点で図1に示された磁気検出素子と異なっている。多層膜T2は、下から順にシードレイヤ21、フリー磁性層25、非磁性材料層24、第2磁性層23c、非磁性中間層23b、第1磁性層23aからなる固定磁性層23、非磁性金属層22、及び保護層26が積層されたものである。すなわち、多層膜T2は、多層膜T1の各層の積層順序を逆にしたものである。
本実施の形態の磁気検出素子でも、固定磁性層23の第1磁性層23aが非磁性金属層22に接している。
本実施の形態でも、非磁性金属層22の結晶構造は、例えば成膜時の状態である面心立方構造(fcc)を維持しつづける。
従って、非磁性金属層22を構成する原子と、固定磁性層23の第1磁性層23aを構成する原子とが互いに重なりあいやすくなり、非磁性金属層22内の結晶と第1磁性層23a内の結晶がエピタキシャルな整合状態になりやすくなる。
しかも、第1磁性層23aの{111}面内または{110}面内の最近接原子間距離と、非磁性金属層22の{111}面内の最近接原子間距離には、一定以上の差が生じている。このため、第1磁性層23aと非磁性金属層22の界面付近では、第1磁性層23aを構成する原子と非磁性金属層22を構成する原子が互いに重なり合いつつも、それぞれの結晶構造に歪みが生じる。従って、第1磁性層23aの結晶構造に歪を生じさせることによって磁歪定数λを大きくさせることができる。
固定磁性層23の磁気弾性効果に基づく異方性を大きくするためには、多層膜T1またはT2に対して、バイアス下地層27,27、ハードバイアス層28,28、及び電極層29,29からトラック幅方向に(図示X方向)に平行な方向及び反平行な方向に加わる圧縮応力を大きくすることが好ましい。
例えば、電極層29,29がCr(クロム)、α−Ta、またはRhで形成され、しかも電極層29,29の結晶格子面の膜面平行方向の面間隔がCrの場合で0.2044nm以上(bcc構造の{110}面間隔)、α−Taの場合で0.2337nm以上(bcc構造の{110}面間隔)、Rhの場合で0.2200nm以上(fcc構造の{111}面間隔)であると、多層膜T1またはT2に加わる圧縮応力を大きくすることができる。このとき、図2に示される矢印方向、すなわち電極層29,29の外側方向に向けて、電極層29,29が延伸し、多層膜T1またはT2に対し、トラック幅方向に(図示X方向)に平行な方向及び反平行な方向に圧縮応力が加えられる。
電極層29,29の結晶格子面の膜面平行方向の面間隔は、X線回折や電子線回折によって測定することができる。なお、バルク状態のCr、α−Ta、またはRhは、結晶格子面の膜面平行方向の面間隔がCrの場合で0.2040nm(bcc構造の{110}面間隔)、α−Taの場合で0.2332nm(bcc構造の{110}面間隔)、Rhの場合で0.2196nm(fcc構造の{111}面間隔)であり、前記面間隔がこの値以上になると電極層29,29が多層膜T1に対し圧縮応力を与えるように作用する。
電極層29,29をCrによって形成したときと、Auのような軟い金属材料によって形成したときとでは、前記圧縮応力に以下のような違いが生じる。
例えば、下から順に、バイアス下地層:Cr(50Å)/ハードバイアス層:CoPt(200Å)/中間層:Ta(50Å)/電極層:Au(800Å)/保護層:Ta(50Å)が積層された膜が生じさせる圧縮応力は、280MPaである。
これに対し、下から順に、バイアス下地層:Cr(50Å)/ハードバイアス層:CoPt(200Å)/中間層:Ta(50Å)/電極層:Cr(1400Å)/保護層:Ta(50Å)が積層された膜が生じさせる圧縮応力は、670MPaである。
なお、中間層Ta(50Å)と保護層Ta(50Å)は図1には示されていないが、それぞれ、電極層の配向性を整える層と酸化防止層として機能する。
なお、電極層29,29をスパッタ成膜するときには、イオンビームスパッタ法を用い、スパッタ装置内のAr,Xe,Krなどの圧力を5×10−3〜1×10−1(Pa)と小さくする。スパッタ装置内のAr,Xe,Krなどの圧力が小さいと、電極層を形成するCr,Ta,Rh原子がAr原子に衝突する確率が減少するので、Crなどの原子は高いエネルギーを保持したまま堆積していく。既に成膜されているCrなどの膜に、ターゲットから飛来したなどのCr原子が大きなエネルギーをもって衝突して埋め込まれていくと、電極層29,29が外側方向に向けて延伸する。
固定磁性層23のトラック幅方向の両端部はハードバイアス層28,28が発生する縦バイアス磁界によって磁化方向が傾きやすくなっている。しかし、固定磁性層23のトラック幅方向の両端部には大きな圧縮応力が加わる。従って、固定磁性層23のトラック幅方向の両端部は、磁気弾性効果による異方性が大きくなり、磁化方向が一方向に強く固定される。
第1,第2の実施形態は、固定磁性層23の両側からの圧縮応力と磁歪との関係に基づく一軸異方性によって、固定磁性層23の磁化方向を固定するものであり、固定磁性層にかかる圧縮応力は固定磁性層23の光学的トラック幅方向の両端部で強く、中央部で弱い。従って、固定磁性層23の光学的トラック幅方向の幅寸法が大きいと、固定磁性層23の中央部付近の磁化方向固定力が小さくなる。従って、固定磁性層23の光学的トラック幅寸法W1は、0.15μm以下であることが好ましい。
なお、フリー磁性層25の磁歪は負磁歪にすることが好ましい。上記したように、磁気検出素子の多層膜T1には、両側から圧縮応力が加わっているので、負磁歪のフリー磁性層25は磁気弾性効果によって、トラック幅方向(図示X方向)に平行または反平行方向が磁化容易軸になりやすくなる。
フリー磁性層25のトラック幅方向の両端部は反磁界によって磁化が不安定になりやすい。しかし、フリー磁性層25のトラック幅方向の両端部は、ハードバイアス層28,28に近く、大きな圧縮応力が加わる。従って、フリー磁性層25のトラック幅方向の両端部は、磁気弾性効果による異方性が大きくなり、磁化方向が安定化する。
従って、ハードバイアス層28,28の膜厚を小さくして、縦バイアス磁界を小さくしてもフリー磁性層25を安定した単磁区状態にすることができる。ハードバイアス層28,28の膜厚を小さくして、縦バイアス磁界を小さくできると、固定磁性層23のハイト方向への磁化固定状態を安定化できる。
なお、フリー磁性層25の中央部付近の圧縮応力は、両端部の圧縮応力よりも小さいので、磁界検出感度の低下を抑えることができる。
フリー磁性層25の磁歪定数λは、−8×10−6≦λ≦−0.5×10−6の範囲であることが好ましい。また、ハードバイアス層28,28の膜厚tは100Å≦t≦200Åであることが好ましい。フリー磁性層25の磁歪λが小さすぎると、或はハードバイアス層28,28の膜厚tが厚すぎると磁気検出素子の再生感度が低下する。一方、フリー磁性層25の磁歪λが大きすぎると、或はハードバイアス層28,28の膜厚tが薄すぎると磁気検出素子の再生波形に乱れが生じやすい。
図1、図9に示された本実施の形態の磁気検出素子は、スパッタ法又は蒸着法による薄膜形成及びレジストフォトリゾグラフィーによるパターン形成によって製造される。スパッタ法及びレジストフォトリゾグラフィーは磁気検出素子を形成するときに、通常用いられる方法を使用する。
ただし、第1磁性層23aを構成する原子と、非磁性金属層22を構成する原子とを互いに重なり合わせつつ、それぞれの結晶構造に歪みを生じさせるために、非磁性金属層22並びに第1磁性層23aを成膜するときには、例えば、以下の条件下で成膜することが好ましい。
DCマグネトロンスパッタ法
ターゲットへの入力電力:10〜100W
Ar圧力:0.01〜0.5Pa
ターゲット/基板間距離:100〜300mm
また、図1に示される磁気検出素子を形成するときには、非磁性金属層22を成膜するときの基板温度よりも第1磁性層23aを成膜するときの基板温度が高くなるようにすると熱膨張の効果によって、より大きな整合歪みを生じさせることができる。図9に示される磁気検出素子を形成するときには、非磁性金属層22を成膜するときの基板温度を第1磁性層23aを成膜するときの基板温度より高くなるようにすることが好ましい。
多層膜T1の両側にハードバイアス層28,28が設けられた、図1の磁気検出素子を形成後、ハイト方向に例えば1200(kA/m)の強磁場を印加して、第1磁性層23a、第2磁性層23c、及びハードバイアス層28,28の磁化をハイト方向に向ける。その後、印加磁場を連続的に減少させ、第1磁性層23aと第2磁性層23cのスピンフロップ磁界より小さくして、第1磁性層23aと第2磁性層23cの磁化を互いに反平行方向に向ける。ハイト方向の磁場を取り去った後、さらに、トラック幅方向にハードバイアス層28,28の保磁力より大きな磁場を印加してハードバイアス層28,28を着磁する。
トラック幅方向の磁場を除くと、固定磁性層23の第1磁性層23a及び第2磁性層23cの磁化は、主に磁気弾性効果によってハイト方向に反平行方向または平行方向を向く。また、フリー磁性層25はハードバイアス層28,28からの縦バイアス磁界によってトラック幅方向に単磁区化される。
なお、固定磁性層23の成膜時にハイト方向の磁場を印加して、固定磁性層23の第1磁性層23a及び第2磁性層23cに、誘導異方性を付与してもよい。
ただし、固定磁性層23の光学的トラック幅寸法W1が、0.15μm以下になると磁気弾性効果の影響が非常に大きくなる。特に本発明では、第1磁性層23a及び第2磁性層23cの磁歪定数λ及びトラック幅方向に多層膜に加わる圧縮応力を大きくしているので、固定磁性層23の磁化の固定は主に磁気弾性効果によっている。
第1,第2の実施の形態では、多層膜T1、T2の両側部にハードバイアス層28,28と電極層29,29の積層体が形成され、この積層体によって多層膜T1,T2に圧縮応力が加えられている。ただし、多層膜T1,T2の両側部にはハードバイアス層28,28がなくてもよい。例えば、多層膜T1,T2の両側部に、軟磁性材料層と反強磁性層の積層体が設けられていてもよいし、多層膜T1,T2の両側部が絶縁層であってもよい。
なお、本発明は、多層膜T1,T2の膜厚垂直方向にセンス電流が流されるトンネル型磁気抵抗効果素子やCPP−GMR型磁気検出素子に用いてもよい。この場合、電極層は、多層膜T1,T2の上下にそれぞれ形成されることになる。
次に本発明における第3の実施形態の磁気検出素子について以下に説明する。図1,図9を用いて説明した磁気検出素子と異なるのは、前記非磁性金属層22が、反強磁性層40で形成されている点である。
ただし前記反強磁性層40は、前記第1磁性層23aとの間で一方向の交換結合磁界(Hex)を生じないか、あるいは生じても極めて弱く前記交換結合磁界によって前記第1磁性層23aの磁化をハイト方向に強固に固定することは出来ない。
前記反強磁性層40は、前記第1磁性層23aとの間で反強磁性的な交換結合を生じている。しかし前記反強磁性層40の膜厚は5Å以上で50Å以下、好ましくは5Å以上で18Å以下、より好ましくは14Å以上で18Å以下といった非常に薄い膜厚で形成されているから、反強磁性層40のKAF(結晶磁気異方性)・tが、Jk(反強磁性体と強磁性体との界面における界面交換結合エネルギー)(なおKAF・t,Jkはいずれも単位がJ/m2である)より小さいため、強磁性スピンと共に反強磁性スピンも回るが、前記KAFの分、前記第1磁性層23aに異方性分散が生じるものと考えられる。
上記のように前記反強磁性層40の影響で第1の磁性層23aに異方性分散が生じている結果、前記第1磁性層23aとの間で一方向の交換結合磁界を生じないか、あるいは極めて弱い一方向の交換結合磁界しか生じないようになっているが、前記異方性分散により前記第1磁性層23aの保磁力Hcは大きくなる。
上記したように前記反強磁性層40の膜厚を5Å以上で18Å以下にすることで、前記固定磁性層23の保磁力Hcを高くすることが出来ると共に、ベースラインノイズの発生率を適切に低減させることが出来る。またPLR(Pinned Layer Reversal、固定磁性層の磁化反転)の発生率を低減させることが出来る。
また前記反強磁性層40の膜厚を14Å以上で18Å以下にすれば、前記固定磁性層23の保磁力Hcをより確実に高く出来ると共に、PLR(Pinned Layer Reversal、固定磁性層の磁化反転)の発生率もより効果的に低減させることが出来る。
なお前記反強磁性層40の膜厚は16Å以上で18Å以下であることが最も好ましい。これにより前記固定磁性層23の保磁力Hcを極めて高い値に確実に設定でき(具体的には600Oe=約4.74×104A/m)、またPLR(Pinned Layer Reversal、固定磁性層の磁化反転)の発生率をほぼゼロに設定できる。
本発明では、前記反強磁性層40の材質としては、X―Mn(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金を提示できる。
ただしこれら合金のうち、上記のような薄い膜厚で、第1の磁性層23aに異方性分散を適切に生じさせるには不規則系反強磁性層を用いることが好ましく、例示すればIrMn合金,RuMn合金,RhMn合金である。
上記したように、前記X―Mn合金中のX元素の含有量は、45原子%以上99原子%以下であることが好ましいと説明したが、反強磁性層40として使用する場合には、前記X―Mn合金中のX元素の含有量は、15原子%以上29原子%以下であることが好ましい。これにより、上記のように薄い膜厚にしたときでも、異方性分散を適切に生じた反強磁性層を形成出来る。
なお非磁性金属層22に代えて反強磁性層40を用いた場合でも、第1磁性層23aとの間には図3で説明したのと同様に、反強磁性層40を構成する原子と第1磁性層23aの原子とが重なり合いつつも、界面付近で結晶構造に歪みが生じている状態になる。
このように、反強磁性層40を用いた場合でも、第1磁性層23aの結晶構造に歪みが生じ、第1磁性層23aの磁歪定数λを大きくすることができるので、大きな磁気弾性効果を発揮することができる。
このように前記非磁性金属層22に代えて反強磁性層40を用いた場合には、前記第1磁性層23aの磁歪定数λのみならず保磁力Hcをも大きく出来る。
反強磁性層40との相互作用の影響で第1の磁性層23aの異方性分散を大きく出来るため、前記固定磁性層23の保磁力Hcを大きく出来る。このため、磁気検出素子をメディア上に走行させた時に、前記磁気検出素子がメディア上の突起等に衝突するなどし、または製造過程中に生じたメカニカルストレスによっても、ハイト方向に向けられていた固定磁性層23の磁化は反転しなくなり、仮に反転したとしてもトラック幅方向(図示X方向)と平行な方向にまで磁化反転を起こさなくなるから、前記ストレスが除去されれば再び元の磁化状態に適切に(スムーズに)戻る。この結果、再生特性を前記メカニカルストレスが生じた場合でも安定したものにでき、磁気検出素子の信頼性を向上させることが出来る。
なお反強磁性層40の結晶配向等は、図1や図9で説明した非磁性金属層22と同じであり、またその他の構成においても図1と図9で説明したものと変らない。
以上本発明をその好ましい実施例に関して述べたが、本発明の範囲から逸脱しない範囲で様々な変更を加えることができる。
なお、上述した実施例はあくまでも例示であり、本発明の特許請求の範囲を限定するものではない。
PtMn層にCoFe層を積層し、PtMn層の組成比を変化させたときのCoFeの磁歪の変化を調べた。
以下の多層膜を成膜し、290℃で4時間アニールした。
シリコン基板/アルミナ(1000Å)/(Ni0.8Fe0.2)60Cr40(52Å)/PtxMn100-x(30Å)/Co90Fe10(20Å)/Ru(9Å)
本実施例では、第2磁性層、非磁性材料層、フリー磁性層などを省略することによって、第1磁性層23aの磁歪を正確に測定するようにしている。
磁歪の測定には光梃子法を用いた。レーザ光線を上記多層膜の表面に当てた状態で、前記多層膜の膜面平行方向に磁界を印加する。磁歪による多層膜の曲がりをレーザ光線の反射角度の変化として読み取り、多層膜の磁歪定数を検出する。
結果を図10に示す。図10に示されるように、PtMn層のPt濃度が高くなる程、多層膜の磁歪定数λsが大きくなる。特に、Pt濃度が51原子%以上になると、磁歪定数が急激に増加し、Pt濃度が55原子%以上になると磁歪定数の増加率が緩やかになる。
これは、PtMn層のPt濃度が高くなる程、PtMnの結晶格子定数が大きくなり、PtMn層とCoFe層の界面付近の歪みが大きくなるためであると考えられる。
次に、PtMn層にCoFe層を積層したときと、PtMn層にCo層を積層したときのCo及びCoFeの磁歪定数を比較した。
以下の多層膜を成膜し、290℃で4時間アニールした。
シリコン基板/アルミナ(1000Å)/(Ni0.8Fe0.2)60Cr40(52Å)/Pt50Mn50(0Åまたは30Å)/Pin1(XÅ)/Ru(9Å)/Cu(85Å)/Ta(30Å)(ただし、Pin1はCo90Fe10またはCo)
磁歪の測定には光梃子法を用いた。
結果を図11に示す。Pin1がCoであっても、CoFeであっても、PtMn層が下層にあるほうが、PtMn層がないものに比べて磁歪定数が大きくなっている。また、Pin1がCoであるほうが、CoFeであるものよりも磁歪定数λsが大きくなっている。
また、Pin1をCoとし、Pin1の下層にPtMn層(30Å)を設けたとき、Pin1の膜厚を大きくしていくと、Pin1の膜厚が16Åから20Åの範囲で磁歪定数λsの増加が見られるが、Pin1の膜厚が20Åより大きくなると磁歪定数λsが減少している。
これは、Pin1が厚くなりすぎると、Pin1とPtMn層の界面付近に生じた歪みによる磁歪定数増大の効果が小さくなることを示している。
次に、Pin1の上にPtMn層を形成して、Co及びCoFeの磁歪定数を比較した。
以下の多層膜を成膜し、290℃で4時間アニールした。
シリコン基板/アルミナ(1000Å)/(Ni0.8Fe0.2)60Cr40(52Å)/Cu(85Å)/Ru(9Å)/Pin1(XÅ)/Pt50Mn50(0Åまたは30Å)/Ta(30Å)(ただし、Pin1はCo90Fe10またはCo)
磁歪の測定には光梃子法を用いた。
結果を図12に示す。Pin1の上にPtMn層を形成したときも、Pin1の下にPtMn層を形成したときの結果と同様の傾向をしめした。
すなわち、Pin1がCoであっても、CoFeであっても、PtMn層が上層にあるほうが、PtMn層がないものに比べて磁歪定数λsが大きくなっている。また、Pin1がCoであるほうが、CoFeであるものよりも磁歪定数λsが大きくなっている。また、Pin1をCoとし、Pin1の上層にPtMn層(30Å)を設けたとき、Pin1の膜厚を大きくしていくと、Pin1の膜厚が16Åから20Åの範囲で磁歪定数λsの増加が見られるが、Pin1の膜厚が20Åより大きくなると磁歪定数が減少している。
次に、積層人工フェリ構造の多層膜にPnMn層を重ねて磁歪を測定した。
以下の多層膜を成膜し、290℃で4時間アニールした。
シリコン基板/アルミナ(1000Å)/(Ni0.8Fe0.2)60Cr40(52Å)/Pt50Mn50(30Å)/Pin1(16Å)/Ru(9Å)/Pin2(40Å)/Cu(85Å)/Ta(30Å)(ただし、Pin1、Pin2はCo90Fe10、Fe50Co50またはCo)
なお、本実施の形態では、Pin2層の厚さを現実的に好ましい厚さよりも厚く設定することによって、Pin1とPin2間のスピンフロップ磁界を大きくし、磁歪を測定しやすくしている。
磁歪の測定にはベンディング法を用いた。ベンディング法とは、上記多層膜を湾曲させて一軸性の歪みを与え、逆磁歪効果による一軸異方性の変化から磁歪定数を測定する方法である。
結果を表1に示す。
この実験結果から、Pin1、Pin2がCoであるほうが、CoFeであるものよりも磁歪定数λsが大きくなることがわかる。
次に、非磁性金属層の膜厚を変化させたときの、Co及びCoFeの磁歪定数を比較した。
以下の多層膜を成膜し、290℃で4時間アニールした後、磁歪を測定した。
シリコン基板/アルミナ(1000Å)/(Ni0.8Fe0.2)60Cr40(52Å)/非磁性金属層/Pin1/Ru(9Å)/Pin2(40Å)/Cu(85Å)/Ta(30Å)
本実施例では、第2磁性層、非磁性材料層、フリー磁性層などを省略することによって、第1磁性層23aの磁歪を正確に測定するようにしている。
なお、非磁性金属層=RuまたはPt50Mn50(at%)、Pin1=Co、Co90Fe10(at%)またはFe50Co50(at%)、Pin2=Co、Co90Fe10(at%)である。なお、以下において、Co90Fe10(at%)を単に「CoFe」と、Fe50Co50(at%)を単に「FeCo」と略記する。
磁歪の測定にはベンディング法を用いた。ベンディング法とは、上記多層膜を湾曲させて一軸性の歪みを与え、逆磁歪効果による一軸異方性の変化から磁歪定数を測定する方法である。
結果を図13に示す。この実験結果から、非磁性金属層がRuとPt50Mn50(at%)のいずれであっても、Pin1がCoまたはFeCoであるほうが、CoFeであるものよりも磁歪定数λsが大きくなることがわかる。CoFeはCoやFeCoに比べて、歪みが発生しても磁歪が変化しにくい材料であることがその理由であると考えられる。
また、非磁性金属層が形成されたものは、非磁性金属層が形成されないものより磁歪定数が大きくなることもわかる。
Pin1がCoであるときは、非磁性金属層がRuとPt50Mn50(at%)のいずれであっても同じくらい磁歪が増大する。
Pin1がFeCoであるときは、非磁性金属層がPt50Mn50(at%)であるときのほうが、Ruであるときより、磁歪が増大する。
なおPin1がCoまたはFeCoであるとき、非磁性金属層の膜厚を5Å以上にすると、それより薄い膜厚の場合に比べて、磁歪を効果的に大きく出来ることがわかった。
ただし、あまり非磁性金属層の膜厚を厚くしすぎると、磁歪定数は減少する傾向にある。これは、非磁性金属層の膜厚が厚くなると、非磁性金属層とPin1の界面が非整合状態になりやすくなるためと考えられる。逆にいうと、非磁性金属層の膜厚が薄くなると、非磁性金属層の格子定数が変化しやすくなり、非磁性金属層とPin1の界面が歪みをともなう整合状態になりやすくなると考えられる。
図13には、さらにもう一つの実験結果が掲載されている。上記と同じ多層膜の膜構成を用い、ただし非磁性金属層をIr27Mn73(下付きの数値はat%)に変更して前記多層膜を形成した。なおPin1にはFe60Co40(下付きの数値はat%)を、Pin2にはCoを用いた。
図13に示すように、IrMnを用いた多層膜では磁歪定数λsが他の多層膜の構成に比べて非常に高い値を示し、またIrMnの膜厚を30Å程度まで大きくしても安定した磁歪定数を得ることが出来ることがわかった。
前記IrMnは、図13で非磁性金属層として用いたPtMnやRuと異なり反強磁性層であると考えられる。それは次の保磁力Hcの実験結果のところで説明する。
図14(a)(b)は、シリコン基板/アルミナ(1000Å)/Ni0.8Fe0.2)60Cr40(52Å)/Ir27Mn73あるいはPt50Mn50/FeCo/Ru(9Å)/Cu(85Å)/Ta(30Å)の膜構成からなる多層膜を形成し、Ir27Mn73あるいはPt50Mn50の膜厚と保磁力Hc及び一方向の交換結合磁界(Hex)との関係を示す実験結果である。
なお上記多層膜を成膜した後、290℃で4時間のアニールを施した。
図14(a)に示すように、IrMn合金を用いた場合、前記IrMnの膜厚を12Å以上にすると急激に保磁力Hcが増大し、好ましくは14Å以上にすると600Oe(約4.74×104A/m)以上、より好ましくは16Å以上にすると800Oe(約6.32×104A/m)以上の保磁力Hcが得られることがわかった。
一方、図14(a)に示すようにIrMnの膜厚を18Å以上にすると、一方向性の交換結合磁界(Hex)が生じることがわかった。
また図14(b)に示すように、PtMn合金を用いた場合、PtMn合金の膜厚を55Å以上にすると一方向性の交換結合磁界(Hex)が生じることがわかった。
前記一方向性の交換結合磁界は反強磁性層が十分な膜厚でないと熱的に不安定であるが、本発明では前記一方向性の交換結合磁界を生じない厚さに調整するので、IrMn合金を用いた場合の膜厚は18Åより薄く、PtMn合金を用いた場合は55Åより薄いことが好ましいことがわかった。
また図14(a)(b)に示すように、IrMn及びPtMnの膜厚が0(すなわちこれらの下地層が設けられていない)の場合、保磁力Hcはそれなりに大きな値となるが、図13に示すようにこれら下地を設けていないと磁歪定数λが非常に小さくなってしまう。前記下地は最低でも5Å以上ないと十分な磁歪定数λが得られず、本発明としては、下地の膜厚を5Å以上で、しかも一方向性の交換結合磁界が生じず、且つシャントロスが十分に小さくなるように前記下地の膜厚を調整することが必要である。
図15は、図14の実験で使用した多層膜を用い、超音波メカストレス印加試験でのIrMnあるいはPtMnの膜厚と、PLR(Pinned Layer Reversal、固定磁性層の磁化反転)の発生率(%)との関係を求めたグラフである。実験では、上記多層膜を備えた磁気ヘッドを超音波洗浄して、故意にメカニカルストレスを生じさせた状態で、PLR発生率を測定した。
図15に示すように、Pin1の下地としてIrMnを用いた場合、IrMnの膜厚を約5Å以上にするとPLR発生率を5%程度にまで低下させることができ、またIrMnの膜厚を14Å以上にするとPLR発生率を5%以下に抑えることができ、さらにIrMnの膜厚を16Å以上にするとPLR発生率をほぼ0%にできることがわかった。
図15のグラフと図14のグラフとを照らし合わせると、ほぼ対称関係にあることがわかる。すなわち図14のグラフで示すように保磁力Hcが大きくなるとPLR発生率は低下することがわかった。
このように保磁力とPLR発生率との間には密接な関係がある。Pin1の下地としてPtMnを用いた場合にはPLR発生率が高く、メカニカルストレスに弱い磁気検出素子しか製造できないが、Pin1の下地としてIrMnを用いれば、メカニカルストレスが生じても固定磁性層の磁化反転を抑制でき、より信頼性に優れた磁気検出素子を製造できることがわかった。
図16は、図14の実験で使用した多層膜を用い、IrMnあるいはPtMnの膜厚と、これらの多層膜を備えた磁気ヘッドのベースラインノイズの発生率(%)との関係を求めたグラフである。
実験では実際の磁気ヘッドの、再生出力のベースラインに乗るベースラインノイズがある閾値を越える不良ヘッドの発生率を測定した。
図16に示すように、Pin1の下地としてIrMnを用いたとき、前記IrMnの膜厚が18Å以上になると急激にベースラインノイズが増大することがわかった。
図13ないし図16に示す実験結果から次のことを導き出すことが出来る。Pin1に接して形成される非磁性金属層あるいは反強磁性層の膜厚としては5Å以上であることが好ましい。これによって磁歪定数λsを適切に大きくすることが可能である(図13を参照)。また反強磁性層の場合は、保磁力増大に貢献でき、PLR発生率の低減を図ることが出来る(図14,図15を参照)。また非磁性金属層あるいは反強磁性層の膜厚が50Å以上になるとシャントロスが増大して出力低下に繋がり好ましくない。
よって前記非磁性金属層あるいは反強磁性層の膜厚は5Å以上で50Å以下であることが好ましい。
次に、反強磁性層(IrMn)を用いる場合には、5Å以上で18Å以下の膜厚であることが好ましい。反強磁性層(IrMn)の膜厚を18Å以下にするとベースラインノイズの発生を適切に抑制することが出来る(図16を参照)。また保磁力Hcも大きくすることが出来る(図14を参照)。また下地としてIrMnを用いた場合、一方向性の交換結合磁界(Hex)の発生を0に出来る。なおベースラインノイズはIrMnのブロッキング温度の低さに起因した熱ゆらぎノイズである可能性があるので、ブロッキン温度の高い反強磁性層を用いた場合は膜厚を18Åより厚くしてもよい可能性がある。
また前記反強磁性層の膜厚の下限値は14Å以上であることが好ましく、より好ましくは、16Å以上である。これにより、より適切に保磁力Hcの増大を図ることができ、PLR発生率も適切に低減できる。特に反強磁性層の膜厚を16Å以上にすればPLR発生率をほぼ0にすることが出来る(図14,図15を参照)。また図14(a)に示すように、保磁力を800Oe(約6.32×104A/m)以上得ることが出来る。