JP2004277825A - 複合構造物及びその作製方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】導電性を保持しながら日常生活における外的要因との接触により傷つきにくく磨耗しにくいICカードやメモリーカードなどの電極端子及び電極端子保護方法を提供する。
【解決手段】基材上に薄膜の金属層が形成されており、その上にセラミックスを含む導電性構造物が接着層を介することなく直接接合して導電性の複合構造物を構成する。具体的には、複合構造物を構成している導電性構造物が一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックスと一種類以上の金属からなる複合体であることを特徴とする
【選択図】 図5
【解決手段】基材上に薄膜の金属層が形成されており、その上にセラミックスを含む導電性構造物が接着層を介することなく直接接合して導電性の複合構造物を構成する。具体的には、複合構造物を構成している導電性構造物が一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックスと一種類以上の金属からなる複合体であることを特徴とする
【選択図】 図5
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はセラミックスと金属の複合体である導電性構造物を基材上の金属層上に形成させた、基材と金属層と導電性構造物からなる複合構造物およびその作製方法に関する。
【0002】
本発明に係る複合構造物は導電性と高い耐磨耗性をあわせもつので、例えばICカードやメモリーカードの電極端子への利用が挙げられる。また、他にも携帯電話の充電用端子、磁気ヘッドの帯電防止用ハードコート、回路基板上に設けた入出力端子などに利用することが可能である。
【0003】
【従来の技術】
一般にICカードやメモリーカードはカード本体表面に電極端子を備えており、リーダ・ライタなどのカード挿入機構で電極端子と接続することにより、読みとり書き込みなどの操作が行われる。この電極端子部分は金属めっきやスパッタリングによって形成されているものが大部分であり、表面が剥き出しになっている。また、携帯電話の充電用端子なども表面が剥き出しになっていることが多い。
【0004】
ICカードやメモリーカードなどの電極端子部分は表面が剥き出しになっていることから日常生活において何らかの外的要因との接触により傷つきやすく破損しやすいことが問題とされている。また、長期間の使用により端子表面が劣化し接続障害が生じるという問題もある。さらに剥き出しの電極端子に静電気が誘発されやすくICチップの静電耐力が低下する傾向にある。対処法の一つとして未接続時に電極端子をシャッターでカバーすることによって外部との接触を避けるといった方法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開平1−242292号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、未接続時に電極端子をシャッターでカバーすることによって外部との接触を避けるといった方法においては、ICカードやメモリーカードの電極端子部分にシャッターなどの機能を付加することは、カード製造工程やカードリーダ・ライタの構造も複雑化する問題がある。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、導電性を保持しながら日常生活における外的要因との接触により傷つきにくく磨耗しにくいICカードやメモリーカードなどの電極端子及び電極端子保護方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る複合構造物は、基材上に薄膜の金属層が形成されており、その上にセラミックスを含む導電性構造物が接着層を介することなく直接接合されていることを特徴とする。このような複合構造物はセラミックスを含んでいる導電性構造物が金属層と接着層を介することなく直接接合されているため導電性とセラミックス並みの高い耐磨耗性をあわせもつといった効果がある。
なお、このような複合構造物はエアロゾルデポジション法によって形成することが可能である。エアロゾルデポジション法は脆性材料の微粒子を含むエアロゾルをノズルから高速で基板に向けて噴射し、基板に微粒子を衝突させて、その機械的衝撃力を利用して脆性材料の多結晶構造物を基板上にダイレクトに形成させる方法であり、特開平11−21677号公報、特開平2000−212766号公報などに開示されている。
【0009】
本発明に係る複合構造物は、複合構造物を構成している導電性構造物が一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックスと一種類以上の金属からなる複合体であることを特徴とする。このため、セラミックスや金属の種類や割合を変えることによって導電性などの電気的特性や、硬度・耐磨耗性といった機械的特性をさまざまに制御することが可能であるといった効果がある。
【0010】
本発明に係る複合構造物は、複合構造物を構成しているセラミックスが多結晶であり、この多結晶部分を構成する結晶は実質的に結晶配向性がなく、また前記セラミックス同士の結晶界面にはガラス質からなる粒界層が実質的に存在せず、更に前記構造物の一部は前記金属層表面に食い込むアンカー部となって直接接合されていることを特徴とする。このような複合構造物は導電性構造物の一部が金属層表面に食い込むアンカー部となって直接接合していることから非常に密着性が高いといった効果がある。
【0011】
本発明に係る複合構造物は、複合構造物を構成している薄膜の金属層の厚さが1mm以下であることを特徴とする。このような複合構造物は、複合構造物を構成している薄膜の金属層をめっき、スパッタリング、PVD、CVD、印刷などによって簡単に形成することが可能である。また、既に形成されている金属層への適用も可能である。
【0012】
本発明に係る複合構造物は、複合構造物を構成している金属層がICチップの電極端子であることを特徴とする。ICチップの電極端子に導電性構造物を形成させることで、電極端子の導電性を保持したまま耐磨耗性を大幅に向上させることが可能であり、例えばICカードのICチップ電極端子に適用することで耐久性や信頼性向上といった効果がある。
【0013】
本発明に係る複合構造物は、ICチップの電極端子表面に形成された導電性構造物が形成高さの違いにより模様を形成していることを特徴とする。導電性構造物をICチップ電極端子に高さを変えて形成させることにより、濃淡のある模様を形成することが可能で、この模様を光学的に検出するようにすればカード真偽を確認することができることから、カード偽造防止やセキュリティ性の向上といった効果もある。また、模様は文字やマークなどでもよく、そうすることで視認性も向上する。さらにICカードだけではなく、例えばメモリーカードや携帯電話のような表面に剥き出しの状態になっているあらゆる電極端子に適用可能である。
【0014】
本発明に係るエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の一作製方法は、一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックス微粒子表面に一種類以上の金属をコーティングさせる工程もしくは一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックスを一種類以上の金属微粒子表面にコーティングさせる工程を経て複合微粒子を形成した後、該複合微粒子のエアロゾルを前記基材上の前記金属層表面に高速で衝突させて、前記複合微粒子の成分が前記金属層表面に食い込むアンカー部を形成し、同時に衝突の衝撃によって前記複合微粒子を変形または破砕させ、前記複合微粒子の成分同士を結合せしめ、前記アンカー部の上にセラミックスと金属の微細組織とが分散した導電性構造物を形成することを特徴とする。金属をセラミックスの微粒子表面にコーティングする方法としては、PVDやCVD、めっき、メカニカルアロイングを模した処理によっても良く、微粒子表面にさらに粒径の小さな超微粒子を混練などにて付着させるだけでもよい。また、好適な構造物を形成させるためにあらかじめ遊星ミルなどで内部歪を付与したセラミックス微粒子に金属をコーティングしてもよいし、コーティング時に同時に内部歪を付与してもよいし、コーティング後に内部歪を付与してもよい。また、セラミックスを金属の微粒子表面にコーティングする方法としては、PVDやCVD、メカニカルアロイングを模した処理によっても良く、微粒子表面にさらに粒径の小さな超微粒子を混練などにて付着させるだけでもよい。また、あらかじめ遊星ミルなどで内部歪を付与したセラミックス微粒子に金属をコーティングしてもよいし、コーティング時に同時に内部歪を付与してもよいし、コーティング後に内部歪を付与してもよい。
【0015】
また、金属微粒子もしくはコーティングされた金属部分も衝突などの機械的衝撃による変形または破砕を伴うため、破砕し再接合したセラミックス結晶の境界に金属結晶が存在することにより、少ない金属含有率で10−1Ωcm未満といった導電性を発現させることができる。また微粒子が破砕した断片粒子の再接合部であるため、結晶配向を持つことはなく、ほとんど緻密質である。さらに構造物の一部が基材表面に食い込むアンカー部となって直接接合されているため、ビッカース硬度HV500以上の硬さ、耐磨耗性などの機械的特性に優れた導電性材料となる。例えば、セラミックスとして高硬度で耐磨耗性に優れた酸化アルミニウムを、金属として良好な導電性で比較的酸化劣化しにくいニッケルを用いれば、両方の特性を併せ持つような複合構造物が作製することが可能である。
【0016】
本発明に係るエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の別の一作製方法は、一種類以上の金属微粒子と一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックス微粒子を混合させる工程を経て混合微粒子を形成した後、該混合微粒子のエアロゾルを前記基材上の前記金属層表面に高速で衝突させて、前記混合微粒子の成分が前記金属層表面に食い込むアンカー部を形成し、同時衝突の衝撃によって前記混合微粒子を変形または破砕させ、前記混合微粒子の成分同士を結合せしめ、前記アンカー部の上にセラミックスと金属の微細組織とが分散した導電性構造物を形成することを特徴とする。セラミックス微粒子と金属微粒子の混合微粒子のエアロゾルを予め作製し基材上の金属層表面に高速で衝突させてもよいし、別々に微粒子を準備しそれぞれのエアロゾルを発生させて別々に基材上の金属層表面に高速で衝突させるか、あるいはエアロゾルの混合比を変えつつ混合させ同時に衝突させてもよい。この場合は作製中に導電性と耐磨耗性の制御ができるので好適である。このように金属微粒子とセラミックス微粒子の種類や混合割合を自由に選択できることから、導電率、抵抗、硬度などの各種特性を制御することで目的にあった複合構造物の作製が可能である。
【0017】
本発明に係るエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の作製方法は、用いるセラミックス微粒子が平均粒径が0.1〜5μmで、金属微粒子が、平均粒径が0.01〜5μmであることを特徴とする。このような微粒子を用いることで、エアロゾルデポジション法により効率よく複合構造物の作製が可能となる。
【0018】
本発明に係るエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の作製方法は、常温下で行なうことを特徴する。室温〜200℃といった常温下で複合構造物の作製が可能なため、例えばプラスチックなどの熱に弱い基材へも適用することが可能である。また、例えば熱に弱いICチップの電極端子などへも本作製方法は適用可能である。
【0019】
本発明に係る複合構造物を作製する基材としては、金属、ガラス、セラミックス、半導体、プラスチック等の有機化合物等が好適な物として挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。基材上の金属層としては鉄、ニッケル、クロム、コバルト、亜鉛、マンガン、銅、アルミニウム、金、銀、白金、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、バナジウム、パラジウム、モリブデン、ニオブ、ジルコニウム、イットリウム、タンタル、ハフニウム、インジウム、タングステン、鉛、錫、ランタンなどの金属が好適である。高い導電性であれば、ポリアセチレンなどの導電性高分子やITOなどの導電性セラミックスなどでもよい。また、基材上の金属層の形成手段としては印刷、めっき、蒸着、PVD、CVD、スパッタリングなどが好適な物として挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。導電性構造物を構成しているセラミックスとしては酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化クロム、酸化ハフニウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化珪素などの酸化物、ダイヤモンド、炭化硼素、炭化珪素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化クロム、炭化タングステン、炭化モリブデン、炭化タンタルなどの炭化物、窒化硼素、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化ニオブ、窒化タンタルなどの窒化物、硼素、硼化アルミニウム、硼化珪素、硼化チタン、硼化ジルコニウム、硼化バナジウム、硼化ニオブ、硼化タンタル、硼化クロム、硼化モリブデン、硼化タングステンなどの硼化物、あるいはこれらの混合物や多元系の固溶体、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸リチウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸アルミニウム、PZT、PLZTなどの圧電性・焦電性セラミックス、サイアロン、サーメットなどの高靭性セラミックス、水酸化アパタイト、燐酸カルシウムなどの生体適合性セラミックスなどが挙げられる。導電性構造物を構成している金属としては、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、亜鉛、マンガン、銅、アルミニウム、金、銀、白金、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、バナジウム、パラジウム、モリブデン、ニオブ、ジルコニウム、イットリウム、タンタル、ハフニウム、インジウム、タングステン、鉛、錫、ランタンなどの金属材料、これらを主成分とした合金材料などが挙げられる。
【0020】
本発明に係るエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の特徴の1つは、導電性構造物の形成高さを0.1μm〜500μmで自由に制御できることから導電性構造物の抵抗を制御することが可能である。例えば金属層表面にセラミックスと金属の複合体である導電性構造物を形成させる場合に、導電性構造物の形成高さをなるべく小さくして作製された電極端子の抵抗は、導電性構造物材料のみで作製された電極端子と比較すると十分小さく発熱量も小さいことから、ICチップやメモリーカード、回路基板などの電極端子への利用に好適である。
【0021】
本発明に係るエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の特徴の1つは、ある種のプラスチックのようなエアロゾルデポジション法で製膜されにくい基板に金属層をパターニングして形成させた基板を準備しその上に導電性構造物を形成させる場合において、基板上を一様にスキャニングしても金属層がパターニングされた部分にのみ導電性構造物を形成させることが可能である。このことは例えば回路基板などの複雑にパターニングされた電極端子への利用に好適である。また、基板上の金属層にマスキングなどをして導電性構造物を形成高さを変えて形成させることにより濃淡のある模様を形成することが可能である。例えばICカードの電極端子に適用した場合に、この模様を光学的に検出するようにすればカード真偽を確認することができることから、カード偽造防止やセキュリティ性の向上といった効果もあるので好適である。また、模様は文字やマークなどでもよく、そうすることで視認性も向上するので好適である。さらにICカードだけではなく、例えばメモリーカードや携帯電話のような表面に剥き出しの状態になっているあらゆる電極端子に適用可能である。
【0022】
ここで、本発明を理解する上で重要となる語句の解釈を以下に行う。
(絶縁体・半導体)
本件では絶縁体を体積抵抗率が1010Ωcm以上、半導体を半金属の領域を除いた体積抵抗率100Ωcm〜1010Ωcmの物質とする。
(導電性)
本件では体積抵抗率が100Ωcm未満を導電性とする。良好な導電性を示す物質としては半金属及び金属があげられる。例えば、良好な導電性の物質である金属ニッケルの体積抵抗率は6.84×10−6Ωcm(文献値)である。
(金属層)
本件では基材上に電極などの目的で形成させた金属の膜のことで、基材上にめっき、スパッタリング、PVD、CVD、印刷、溶射などによって形成させる。一般的に電極として適当な膜厚は〜2μmであり、めっきやスパッタリングで形成することが多い。特に耐磨耗用などの膜厚の大きいもので25μm程度である。他の用途で膜厚を大きくする場合は、印刷で〜数百μm、溶射で〜数mm程度である。
(電極端子)
本件ではICカードやメモリーカードなどの表面にある、読みとり書き込みなどの操作の際に接続するための接触端子のことである。この電極端子部分は金属めっきやスパッタリングによって形成されているものが大部分であり、表面が剥き出しになっていることが多い。
(多結晶)
本件では結晶子が接合・集積してなる構造体を指す。結晶子は実質的にそれひとつで結晶を構成しその径は通常5nm以上である。ただし、微粒子が破砕されずに構造物中に取り込まれるなどの場合がまれに生じるが、実質的には多結晶である。
(結晶配向性)
本件では多結晶である構造物中での結晶軸の配向具合を指し、配向性があるかないかは、一般には実質的に配向性のないと考えられる粉末X線回折などによって標準データとされたJCPDS(ASTM)データを指標として判断する。
構造物中のセラミックス結晶を構成する物質をあげたこの指標における主要な回折3ピークのピーク強度を100%として、構造物の同物質測定データ中、最も主要なピークのピーク強度をこれに揃えた場合に、他の2ピークのピーク強度が指標の値と比較して30%以内にそのずれが収まっている状態を、本件では実質的に配向性がないと称する。
(界面)
本件では結晶子同士の境界を構成する領域を指す。
(粒界層)
界面あるいは焼結体でいう粒界に位置するある厚み(通常数nm〜数μm)を持つ層で、通常結晶粒内の結晶構造とは異なるアモルファス構造をとり、また場合によっては不純物の偏析を伴う。
(アンカー部)
本件の場合には、基材と構造物の界面に形成された凹凸を指し、特に、予め基材に凹凸を形成させるのではなく、構造物形成時に、元の基材の表面精度を変化させて形成される凹凸のことを指す。
(コーティング)
本件においては、セラミックス微粒子の周囲に金属部分をめっき・PVD・CVD・ハイブリダイゼーション・メカノフュージョン・遊星ミルなどによって形成させること、もしくは金属微粒子の周囲にセラミックス部分をPVD・CVD・ハイブリダイゼーション・メカノフュージョン・遊星ミルなどによって形成させることを指す。
(常温)
本件においては、セラミックスの焼結温度や金属の融点に対して十分低い温度のことを指し、実質的に室温〜200℃の範囲を指す。
【0023】
【発明の実施の形態】
次に本発明における複合構造物の作製方法の一実施形態について述べる。
サブミクロン粒径のセラミックス微粒子粉体の表面に金属をコーティングした複合微粒子粉体を予め準備して、これを用いてエアロゾルデポジション法により基板上の金属層表面に導電性構造物を形成させた。図1に使用したエアロゾルデポジション法の装置図を示す。
【0024】
図1では、複合構造物作製装置10は、ヘリウムガスボンベ101が、搬送管102を介してエアロゾル発生器103に接続され、その下流側に解砕器104が、さらに下流側に分級器105が設置されている。これらを通じている搬送管102の先に構造物形成室106内に設置されたノズル107が配置される。ノズル107の開口の先には表面に金属を蒸着した基板108がXYステージ109に取り付けられて設置されている。構造物形成室106は真空ポンプ110に接続されている。エアロゾル発生器103は前記複合微粒子粉体103aを内蔵している。
【0025】
以上の構成からなる複合構造物作製装置10の作用を次に述べる。予め図示しない歪付与装置である遊星ミルにて粉砕することにより、前記複合微粒子粉体103bを準備し、これをエアロゾル発生器103内に充填する。ヘリウムガスボンベ101より搬送管102を通じて複合微粒子粉体を装填したエアロゾル発生器103内にヘリウムガスを導入し、エアロゾル発生器103を作動させて複合微粒子を含むエアロゾルを発生させる。エアロゾル中の微粒子は凝集しており、おおよそ100μmの二次粒子を形成しているが、これを搬送管102を通じて解砕器104に導入して一次粒子を多く含むエアロゾルに変換する。その後分級器105に導入して、解砕器104では解砕しきれずにエアロゾル中にまだ存在している粗大な二次粒子を除去してさらに一次粒子リッチなエアロゾルに変換し、導出する。その後構造物形成室106内に設置されたノズル107から高速で基板108に向けて噴射させる。ノズル107の先に設置された基板108にエアロゾルを衝突させつつ、基板108をXYステージ109により揺動させて、基板108上の一定面積に薄膜の構造物を形成させた。構造物形成室106は真空ポンプ110により1kPa以下の減圧環境下に置かれる。
【0026】
なお、上述する構造物形成工程のうち、エアロゾル発生器103、解砕器104、分級器105は別体でもよいし、一体でもよい。解砕器の性能が十分であれば分級器は必要ない。また微粒子のミル粉砕は、金属をコーティングする後でも良いし、同時でも良い。同時の場合は例えば金属微粒子とセラミックス微粒子を混合した粉体を装填したミルにより解砕中にコーティングが行なわれる。勿論コーティング方法は様々考えられ、例えばPVD、CVD、めっき、ゾルゲル法などの様々な手法を用いて予め作製しておくことができる。
【0027】
セラミックス微粒子の種類は一種類に限らず、いくつも混合させることは容易であるし、また金属も同様である。その混合比も任意に設定できるため、構造物の組成を自由に制御でき好適である。使用するガスもヘリウムガスに限らず、窒素、アルゴンなど任意である。
【0028】
次に本発明における複合構造物の作製方法の別の一実施形態を述べる。
図2は、複合構造物作製装置20を示す図であり、複合構造物作製装置20では、窒素ガスボンベ201a、201bが、搬送管202a、202bを介してエアロゾル発生器203a、203bにそれぞれ接続され、さらに下流側に解砕器204a、204bが設置され、さらに下流に分級器205a、205bが設置され、さらに下流にエアロゾル濃度測定器206a、206bが設置されている。これらを通じている搬送管202a、202bはエアロゾル濃度測定器206a、206bの下流にて合流し、構造物形成室207内に設置されたノズル208に通じている。
尚、金属微粒子を内蔵するエアロゾル発生器の下流側には解砕器を設けなくてもよい。
【0029】
ノズル208の開口の先には表面に金属めっきを施した基板209がXYステージ210に取り付けられて設置されている。構造物形成室207は真空ポンプ211に接続されている。またエアロゾル発生器203a、203bおよびエアロゾル濃度測定器206a、206bは制御装置212に配線されている。エアロゾル発生器203a、203bの一方には平均粒径が0.5μm程度のセラミックス微粒子213aを、他方には金属微粒子213bをそれぞれ内蔵している。
【0030】
以上の構成からなる複合構造物作製装置20の作用を次に述べる。セラミックス微粒子213aと金属微粒子213bをそれぞれエアロゾル発生器203a、203b内に装填する。次に窒素ガスボンベ201a、201bを開栓し、窒素ガスを搬送管202a、202bを通じてエアロゾル発生器203a、203b内へそれぞれ導入する。制御装置212の制御を受けてエアロゾル発生器203a、203bが作動し、微粒子のエアロゾルをそれぞれ発生させる。これらのエアロゾル中のセラミックス微粒子は凝集しており、おおよそ100μmの二次粒子を形成しているが、解砕器204a、204bに導入して、一次粒子を多く含むエアロゾルに変換する。その後分級器205a、205bに導入して、解砕器204a、204bでは解砕しきれずにエアロゾル中にまだ存在している粗大な二次粒子を除去されてさらに一次粒子リッチなエアロゾルに変換し導出する。その後これらのエアロゾルはエアロゾル濃度測定器206a、206b内を通り、エアロゾル中の微粒子の濃度をモニタリングした後、合流させ、構造物形成室209内にてノズル207より高速で基板209に向けて噴射する。
【0031】
基板209はXYステージ210により揺動されており、エアロゾルの基板209への衝突位置を刻々と変化させることにより、セラミックス微粒子213aと金属微粒子213bを基板209上の広面積に衝突させる。この衝突の際にセラミックス微粒子213aが破砕あるいは変形し、これらが接合して結晶が一次粒子の平均粒径以下の結晶サイズ、すなわちナノメートルサイズで独立に分散して存在する緻密質の構造物が形成される。また、構造物形成室211内は真空ポンプ211により排気され、内部の気圧を1kPa以下の一定値に制御されている。
【0032】
このようにして基板209上にセラミックスと金属が分散した構造物を形成させるが、この際エアロゾル濃度測定器206a、206bのモニター結果を制御装置212により解析し、エアロゾル発生器203a、203bにフィードバックしてエアロゾル発生量、濃度を制御することにより、構造物中のセラミックスと金属の存在比率を一定あるいは傾斜的に制御することができる。このような傾斜材料を作製する場合は、XYステージとの連動により、堆積高さ方向で存在比率を変えたり、基板209の面方向で存在分布を変えたりすることが容易である。また複数のエアロゾルを合流させずに別々のノズルを用いて噴射させて構造物を形成させることもできる。この場合は薄い堆積層からなる構造物が得られ、その厚みの制御による傾斜化も容易である。またエアロゾル発生器に内蔵させる微粒子は複合微粒子であっても良いし複数のセラミックスと金属の混合微粒子であっても良く、目的とする構造物の構造を達成するに都合の良い内蔵方法を選択すればよい。ガスの組成も任意である。また金属においては、予め微粒子粉体を用意する、記載のエアロゾル発生器ではなく、バルクを蒸発させた後急冷して微粒子を形成させるガス中蒸発法などを用いても良い。
【0033】
なお、上述する構造物形成工程のうち、ICカードの電極端子に構造物を形成させる場合にはICカード基材にICチップを埋め込んだ後に必要に応じてマスキングを施したものでもよいし、ICチップのみで電極端子に構造物を形成させ、構造物形成後にICカード基材に埋め込んでもよい。また、必要に応じて構造物を形成高さを変えて形成させることにより濃淡のある模様を形成する手段を付加してもよい。さらに、ICカードの電極端子に限ることなく、スマートメディアやメモリーカードなどの電極端子でもよい。電極の形成方法も様々考えられ、例えばめっき、スパッタリング、PVD、CVD、印刷、溶射などによって予め基材上に形成させておくことができる。
【0034】
(実施例1)
セラミックス微粒子として純度99.8%平均粒径0.6μmの酸化アルミニウム微粒子を、金属微粒子として純度99.6%平均粒径0.4μmの金属ニッケル微粒子を準備した。酸化アルミニウム微粒子に金属ニッケル微粒子を重量比で30%添加してミリングすることにより粉体を調製した。このようにして調製した粉体を図1に相当する複合構造物作製装置のエアロゾル発生器に装填し、搬送ガスをヘリウム10l/min.として、ポリエチレンテレフタラートに金電極をスパッタリングでパターニングして形成させた基板にスキャニング面積17×10mm、形成高さ約5μmの複合構造物を形成させた。このときの構造物形成室の圧力は0.2kPaであった。形成させた複合構造物は黒みを帯びた色となった。形成させた構造物のNi含有率、体積抵抗率とビッカース硬度を測定した結果を表1に示す。形成させた構造物のNi含有率[wt%]は日立製作所製走査型電子顕微鏡S−4100と堀場製作所製エネルギー分散型X線分析装置EMAX−7000により測定した。体積抵抗率は三菱化学製低抵抗率計LORESTA−GP MCP−T600を用いて四端子法にて測定を行った。ビッカース硬度は島津製作所製ダイナミック超微小硬度計DUH−W201を用いて測定した。これらの値の算出に必要な構造物の形成高さはアルバック製触針式表面形状測定器Dektak3030を用いて測定した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1より、作製した複合構造物の体積抵抗率は一般的なアルミナの体積抵抗率1015Ωcmより大幅に低下し10−2Ωcmといった金属並みの導電性を示した。また、硬度は金属ニッケルのビッカース硬度HV90〜120(文献値)よりはるかに大きいことがわかった。そこで、比較として導電性構造物を形成させる前の基板と実施例の複合構造物をダイヤモンドペースト(粒子径6μm)で研磨したところ、導電性構造物を形成させる前の基板の金電極は軽く研磨しただけではがれてしまったが、実施例1の複合構造物はかなりの時間強く研磨してもはがれることはなく、形成高さもほとんど変化しなかった。
【0037】
(実施例2)
実施例1と同様の条件で調製した粉体を図1に相当する複合構造物作製装置のエアロゾル発生器に装填し、搬送ガスをヘリウム10l/min.として、マスキングをおこなったICカードの金電極端子上にスキャニング面積20×10mm、形成高さ約3μmの導電性構造物を形成させた。このときの構造物形成室の圧力は0.3kPaであった。形成させた導電性構造物は黒みを帯びた色で、体積抵抗率は2×10−2Ωcmであった。また形成させた導電性構造物をダイヤモンドペーストで長時間研磨してもほとんどはがれなかった。図3に示したICカードの電極端子302に導電性構造物を形成させた際の電極端子部分の画像を図4に示した。図4において電極端子の左半分401に導電性構造物を形成させた。また、その中心付近402は100μm間隔の格子模様を形成させた部分である。比較のために電極端子の右半分403にはマスキングすることにより複合構造物を形成しなかった。図5には図4における直線Aでの断面模式図を示した。図5において501が基材、502が電極端子、503が導電性構造物、504が形成高さを変えて模様を形成させた部分である。
【0038】
【発明の効果】
上述のように本発明に係る複合構造物は、基材上の金属層上に導電性構造物が接着層を介することなく直接接合されて形成されているので機械的・電気的特性に優れた材料を提供することができる。導電性と高い耐磨耗性をあわせもっていることから、例えばICカードなどの電極端子に好適である。また、本発明に係る複合構造物の作製方法によれば、パターニングや任意形状の複合構造物を作製できるので、その用途をあらゆる分野に拡大することができる。更に、基材上に複合構造物を形成する場合にも、低温(室温程度)で、加熱焼成などの工程を経ないので、任意の基材を選定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】エアロゾルデポジション法による複合構造物作製装置の概略図
【図2】エアロゾルデポジション法による複合構造物作製装置の概略図
【図3】実施例2に記載のICカード
【図4】実施例2に記載のICカードの電極端子部分の拡大図
【図5】実施例2に記載のICカードの電極端子部分の断面模式図
【符号の説明】
10…複合構造物作製装置、101…ヘリウムガスボンベ、102…搬送管、103…エアロゾル発生器、103a…微粒子粉体、104…解砕器、105…分級器、106…構造物形成室、107…ノズル、108…基板、109…XYステージ、110…真空ポンプ。
20…複合構造物作製装置、201a、201b…窒素ガスボンベ、202a、202b…搬送管、203a、203b…エアロゾル発生器、204a、204b…解砕器、205a、205b…分級器、206a、206b…エアロゾル濃度測定器、207…構造物形成室、208…ノズル、209…基板、210…XYステージ、211…真空ポンプ,212…制御装置、213a…セラミックス微粒子、213b…金属微粒子。
301…ICカード、302…電極端子
401…導電性構造物を形成させた部分、402…格子模様に導電性構造物を形成させた部分、503…導電性構造物を形成させていない部分
501…基材、502…金電極層、503…導電性構造物、504…形成高さを変えて模様を形成させた部分
【発明の属する技術分野】
本発明はセラミックスと金属の複合体である導電性構造物を基材上の金属層上に形成させた、基材と金属層と導電性構造物からなる複合構造物およびその作製方法に関する。
【0002】
本発明に係る複合構造物は導電性と高い耐磨耗性をあわせもつので、例えばICカードやメモリーカードの電極端子への利用が挙げられる。また、他にも携帯電話の充電用端子、磁気ヘッドの帯電防止用ハードコート、回路基板上に設けた入出力端子などに利用することが可能である。
【0003】
【従来の技術】
一般にICカードやメモリーカードはカード本体表面に電極端子を備えており、リーダ・ライタなどのカード挿入機構で電極端子と接続することにより、読みとり書き込みなどの操作が行われる。この電極端子部分は金属めっきやスパッタリングによって形成されているものが大部分であり、表面が剥き出しになっている。また、携帯電話の充電用端子なども表面が剥き出しになっていることが多い。
【0004】
ICカードやメモリーカードなどの電極端子部分は表面が剥き出しになっていることから日常生活において何らかの外的要因との接触により傷つきやすく破損しやすいことが問題とされている。また、長期間の使用により端子表面が劣化し接続障害が生じるという問題もある。さらに剥き出しの電極端子に静電気が誘発されやすくICチップの静電耐力が低下する傾向にある。対処法の一つとして未接続時に電極端子をシャッターでカバーすることによって外部との接触を避けるといった方法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開平1−242292号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、未接続時に電極端子をシャッターでカバーすることによって外部との接触を避けるといった方法においては、ICカードやメモリーカードの電極端子部分にシャッターなどの機能を付加することは、カード製造工程やカードリーダ・ライタの構造も複雑化する問題がある。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、導電性を保持しながら日常生活における外的要因との接触により傷つきにくく磨耗しにくいICカードやメモリーカードなどの電極端子及び電極端子保護方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る複合構造物は、基材上に薄膜の金属層が形成されており、その上にセラミックスを含む導電性構造物が接着層を介することなく直接接合されていることを特徴とする。このような複合構造物はセラミックスを含んでいる導電性構造物が金属層と接着層を介することなく直接接合されているため導電性とセラミックス並みの高い耐磨耗性をあわせもつといった効果がある。
なお、このような複合構造物はエアロゾルデポジション法によって形成することが可能である。エアロゾルデポジション法は脆性材料の微粒子を含むエアロゾルをノズルから高速で基板に向けて噴射し、基板に微粒子を衝突させて、その機械的衝撃力を利用して脆性材料の多結晶構造物を基板上にダイレクトに形成させる方法であり、特開平11−21677号公報、特開平2000−212766号公報などに開示されている。
【0009】
本発明に係る複合構造物は、複合構造物を構成している導電性構造物が一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックスと一種類以上の金属からなる複合体であることを特徴とする。このため、セラミックスや金属の種類や割合を変えることによって導電性などの電気的特性や、硬度・耐磨耗性といった機械的特性をさまざまに制御することが可能であるといった効果がある。
【0010】
本発明に係る複合構造物は、複合構造物を構成しているセラミックスが多結晶であり、この多結晶部分を構成する結晶は実質的に結晶配向性がなく、また前記セラミックス同士の結晶界面にはガラス質からなる粒界層が実質的に存在せず、更に前記構造物の一部は前記金属層表面に食い込むアンカー部となって直接接合されていることを特徴とする。このような複合構造物は導電性構造物の一部が金属層表面に食い込むアンカー部となって直接接合していることから非常に密着性が高いといった効果がある。
【0011】
本発明に係る複合構造物は、複合構造物を構成している薄膜の金属層の厚さが1mm以下であることを特徴とする。このような複合構造物は、複合構造物を構成している薄膜の金属層をめっき、スパッタリング、PVD、CVD、印刷などによって簡単に形成することが可能である。また、既に形成されている金属層への適用も可能である。
【0012】
本発明に係る複合構造物は、複合構造物を構成している金属層がICチップの電極端子であることを特徴とする。ICチップの電極端子に導電性構造物を形成させることで、電極端子の導電性を保持したまま耐磨耗性を大幅に向上させることが可能であり、例えばICカードのICチップ電極端子に適用することで耐久性や信頼性向上といった効果がある。
【0013】
本発明に係る複合構造物は、ICチップの電極端子表面に形成された導電性構造物が形成高さの違いにより模様を形成していることを特徴とする。導電性構造物をICチップ電極端子に高さを変えて形成させることにより、濃淡のある模様を形成することが可能で、この模様を光学的に検出するようにすればカード真偽を確認することができることから、カード偽造防止やセキュリティ性の向上といった効果もある。また、模様は文字やマークなどでもよく、そうすることで視認性も向上する。さらにICカードだけではなく、例えばメモリーカードや携帯電話のような表面に剥き出しの状態になっているあらゆる電極端子に適用可能である。
【0014】
本発明に係るエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の一作製方法は、一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックス微粒子表面に一種類以上の金属をコーティングさせる工程もしくは一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックスを一種類以上の金属微粒子表面にコーティングさせる工程を経て複合微粒子を形成した後、該複合微粒子のエアロゾルを前記基材上の前記金属層表面に高速で衝突させて、前記複合微粒子の成分が前記金属層表面に食い込むアンカー部を形成し、同時に衝突の衝撃によって前記複合微粒子を変形または破砕させ、前記複合微粒子の成分同士を結合せしめ、前記アンカー部の上にセラミックスと金属の微細組織とが分散した導電性構造物を形成することを特徴とする。金属をセラミックスの微粒子表面にコーティングする方法としては、PVDやCVD、めっき、メカニカルアロイングを模した処理によっても良く、微粒子表面にさらに粒径の小さな超微粒子を混練などにて付着させるだけでもよい。また、好適な構造物を形成させるためにあらかじめ遊星ミルなどで内部歪を付与したセラミックス微粒子に金属をコーティングしてもよいし、コーティング時に同時に内部歪を付与してもよいし、コーティング後に内部歪を付与してもよい。また、セラミックスを金属の微粒子表面にコーティングする方法としては、PVDやCVD、メカニカルアロイングを模した処理によっても良く、微粒子表面にさらに粒径の小さな超微粒子を混練などにて付着させるだけでもよい。また、あらかじめ遊星ミルなどで内部歪を付与したセラミックス微粒子に金属をコーティングしてもよいし、コーティング時に同時に内部歪を付与してもよいし、コーティング後に内部歪を付与してもよい。
【0015】
また、金属微粒子もしくはコーティングされた金属部分も衝突などの機械的衝撃による変形または破砕を伴うため、破砕し再接合したセラミックス結晶の境界に金属結晶が存在することにより、少ない金属含有率で10−1Ωcm未満といった導電性を発現させることができる。また微粒子が破砕した断片粒子の再接合部であるため、結晶配向を持つことはなく、ほとんど緻密質である。さらに構造物の一部が基材表面に食い込むアンカー部となって直接接合されているため、ビッカース硬度HV500以上の硬さ、耐磨耗性などの機械的特性に優れた導電性材料となる。例えば、セラミックスとして高硬度で耐磨耗性に優れた酸化アルミニウムを、金属として良好な導電性で比較的酸化劣化しにくいニッケルを用いれば、両方の特性を併せ持つような複合構造物が作製することが可能である。
【0016】
本発明に係るエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の別の一作製方法は、一種類以上の金属微粒子と一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックス微粒子を混合させる工程を経て混合微粒子を形成した後、該混合微粒子のエアロゾルを前記基材上の前記金属層表面に高速で衝突させて、前記混合微粒子の成分が前記金属層表面に食い込むアンカー部を形成し、同時衝突の衝撃によって前記混合微粒子を変形または破砕させ、前記混合微粒子の成分同士を結合せしめ、前記アンカー部の上にセラミックスと金属の微細組織とが分散した導電性構造物を形成することを特徴とする。セラミックス微粒子と金属微粒子の混合微粒子のエアロゾルを予め作製し基材上の金属層表面に高速で衝突させてもよいし、別々に微粒子を準備しそれぞれのエアロゾルを発生させて別々に基材上の金属層表面に高速で衝突させるか、あるいはエアロゾルの混合比を変えつつ混合させ同時に衝突させてもよい。この場合は作製中に導電性と耐磨耗性の制御ができるので好適である。このように金属微粒子とセラミックス微粒子の種類や混合割合を自由に選択できることから、導電率、抵抗、硬度などの各種特性を制御することで目的にあった複合構造物の作製が可能である。
【0017】
本発明に係るエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の作製方法は、用いるセラミックス微粒子が平均粒径が0.1〜5μmで、金属微粒子が、平均粒径が0.01〜5μmであることを特徴とする。このような微粒子を用いることで、エアロゾルデポジション法により効率よく複合構造物の作製が可能となる。
【0018】
本発明に係るエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の作製方法は、常温下で行なうことを特徴する。室温〜200℃といった常温下で複合構造物の作製が可能なため、例えばプラスチックなどの熱に弱い基材へも適用することが可能である。また、例えば熱に弱いICチップの電極端子などへも本作製方法は適用可能である。
【0019】
本発明に係る複合構造物を作製する基材としては、金属、ガラス、セラミックス、半導体、プラスチック等の有機化合物等が好適な物として挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。基材上の金属層としては鉄、ニッケル、クロム、コバルト、亜鉛、マンガン、銅、アルミニウム、金、銀、白金、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、バナジウム、パラジウム、モリブデン、ニオブ、ジルコニウム、イットリウム、タンタル、ハフニウム、インジウム、タングステン、鉛、錫、ランタンなどの金属が好適である。高い導電性であれば、ポリアセチレンなどの導電性高分子やITOなどの導電性セラミックスなどでもよい。また、基材上の金属層の形成手段としては印刷、めっき、蒸着、PVD、CVD、スパッタリングなどが好適な物として挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。導電性構造物を構成しているセラミックスとしては酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化クロム、酸化ハフニウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化珪素などの酸化物、ダイヤモンド、炭化硼素、炭化珪素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化クロム、炭化タングステン、炭化モリブデン、炭化タンタルなどの炭化物、窒化硼素、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化ニオブ、窒化タンタルなどの窒化物、硼素、硼化アルミニウム、硼化珪素、硼化チタン、硼化ジルコニウム、硼化バナジウム、硼化ニオブ、硼化タンタル、硼化クロム、硼化モリブデン、硼化タングステンなどの硼化物、あるいはこれらの混合物や多元系の固溶体、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸リチウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸アルミニウム、PZT、PLZTなどの圧電性・焦電性セラミックス、サイアロン、サーメットなどの高靭性セラミックス、水酸化アパタイト、燐酸カルシウムなどの生体適合性セラミックスなどが挙げられる。導電性構造物を構成している金属としては、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、亜鉛、マンガン、銅、アルミニウム、金、銀、白金、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、バナジウム、パラジウム、モリブデン、ニオブ、ジルコニウム、イットリウム、タンタル、ハフニウム、インジウム、タングステン、鉛、錫、ランタンなどの金属材料、これらを主成分とした合金材料などが挙げられる。
【0020】
本発明に係るエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の特徴の1つは、導電性構造物の形成高さを0.1μm〜500μmで自由に制御できることから導電性構造物の抵抗を制御することが可能である。例えば金属層表面にセラミックスと金属の複合体である導電性構造物を形成させる場合に、導電性構造物の形成高さをなるべく小さくして作製された電極端子の抵抗は、導電性構造物材料のみで作製された電極端子と比較すると十分小さく発熱量も小さいことから、ICチップやメモリーカード、回路基板などの電極端子への利用に好適である。
【0021】
本発明に係るエアロゾルデポジション法を用いた複合構造物の特徴の1つは、ある種のプラスチックのようなエアロゾルデポジション法で製膜されにくい基板に金属層をパターニングして形成させた基板を準備しその上に導電性構造物を形成させる場合において、基板上を一様にスキャニングしても金属層がパターニングされた部分にのみ導電性構造物を形成させることが可能である。このことは例えば回路基板などの複雑にパターニングされた電極端子への利用に好適である。また、基板上の金属層にマスキングなどをして導電性構造物を形成高さを変えて形成させることにより濃淡のある模様を形成することが可能である。例えばICカードの電極端子に適用した場合に、この模様を光学的に検出するようにすればカード真偽を確認することができることから、カード偽造防止やセキュリティ性の向上といった効果もあるので好適である。また、模様は文字やマークなどでもよく、そうすることで視認性も向上するので好適である。さらにICカードだけではなく、例えばメモリーカードや携帯電話のような表面に剥き出しの状態になっているあらゆる電極端子に適用可能である。
【0022】
ここで、本発明を理解する上で重要となる語句の解釈を以下に行う。
(絶縁体・半導体)
本件では絶縁体を体積抵抗率が1010Ωcm以上、半導体を半金属の領域を除いた体積抵抗率100Ωcm〜1010Ωcmの物質とする。
(導電性)
本件では体積抵抗率が100Ωcm未満を導電性とする。良好な導電性を示す物質としては半金属及び金属があげられる。例えば、良好な導電性の物質である金属ニッケルの体積抵抗率は6.84×10−6Ωcm(文献値)である。
(金属層)
本件では基材上に電極などの目的で形成させた金属の膜のことで、基材上にめっき、スパッタリング、PVD、CVD、印刷、溶射などによって形成させる。一般的に電極として適当な膜厚は〜2μmであり、めっきやスパッタリングで形成することが多い。特に耐磨耗用などの膜厚の大きいもので25μm程度である。他の用途で膜厚を大きくする場合は、印刷で〜数百μm、溶射で〜数mm程度である。
(電極端子)
本件ではICカードやメモリーカードなどの表面にある、読みとり書き込みなどの操作の際に接続するための接触端子のことである。この電極端子部分は金属めっきやスパッタリングによって形成されているものが大部分であり、表面が剥き出しになっていることが多い。
(多結晶)
本件では結晶子が接合・集積してなる構造体を指す。結晶子は実質的にそれひとつで結晶を構成しその径は通常5nm以上である。ただし、微粒子が破砕されずに構造物中に取り込まれるなどの場合がまれに生じるが、実質的には多結晶である。
(結晶配向性)
本件では多結晶である構造物中での結晶軸の配向具合を指し、配向性があるかないかは、一般には実質的に配向性のないと考えられる粉末X線回折などによって標準データとされたJCPDS(ASTM)データを指標として判断する。
構造物中のセラミックス結晶を構成する物質をあげたこの指標における主要な回折3ピークのピーク強度を100%として、構造物の同物質測定データ中、最も主要なピークのピーク強度をこれに揃えた場合に、他の2ピークのピーク強度が指標の値と比較して30%以内にそのずれが収まっている状態を、本件では実質的に配向性がないと称する。
(界面)
本件では結晶子同士の境界を構成する領域を指す。
(粒界層)
界面あるいは焼結体でいう粒界に位置するある厚み(通常数nm〜数μm)を持つ層で、通常結晶粒内の結晶構造とは異なるアモルファス構造をとり、また場合によっては不純物の偏析を伴う。
(アンカー部)
本件の場合には、基材と構造物の界面に形成された凹凸を指し、特に、予め基材に凹凸を形成させるのではなく、構造物形成時に、元の基材の表面精度を変化させて形成される凹凸のことを指す。
(コーティング)
本件においては、セラミックス微粒子の周囲に金属部分をめっき・PVD・CVD・ハイブリダイゼーション・メカノフュージョン・遊星ミルなどによって形成させること、もしくは金属微粒子の周囲にセラミックス部分をPVD・CVD・ハイブリダイゼーション・メカノフュージョン・遊星ミルなどによって形成させることを指す。
(常温)
本件においては、セラミックスの焼結温度や金属の融点に対して十分低い温度のことを指し、実質的に室温〜200℃の範囲を指す。
【0023】
【発明の実施の形態】
次に本発明における複合構造物の作製方法の一実施形態について述べる。
サブミクロン粒径のセラミックス微粒子粉体の表面に金属をコーティングした複合微粒子粉体を予め準備して、これを用いてエアロゾルデポジション法により基板上の金属層表面に導電性構造物を形成させた。図1に使用したエアロゾルデポジション法の装置図を示す。
【0024】
図1では、複合構造物作製装置10は、ヘリウムガスボンベ101が、搬送管102を介してエアロゾル発生器103に接続され、その下流側に解砕器104が、さらに下流側に分級器105が設置されている。これらを通じている搬送管102の先に構造物形成室106内に設置されたノズル107が配置される。ノズル107の開口の先には表面に金属を蒸着した基板108がXYステージ109に取り付けられて設置されている。構造物形成室106は真空ポンプ110に接続されている。エアロゾル発生器103は前記複合微粒子粉体103aを内蔵している。
【0025】
以上の構成からなる複合構造物作製装置10の作用を次に述べる。予め図示しない歪付与装置である遊星ミルにて粉砕することにより、前記複合微粒子粉体103bを準備し、これをエアロゾル発生器103内に充填する。ヘリウムガスボンベ101より搬送管102を通じて複合微粒子粉体を装填したエアロゾル発生器103内にヘリウムガスを導入し、エアロゾル発生器103を作動させて複合微粒子を含むエアロゾルを発生させる。エアロゾル中の微粒子は凝集しており、おおよそ100μmの二次粒子を形成しているが、これを搬送管102を通じて解砕器104に導入して一次粒子を多く含むエアロゾルに変換する。その後分級器105に導入して、解砕器104では解砕しきれずにエアロゾル中にまだ存在している粗大な二次粒子を除去してさらに一次粒子リッチなエアロゾルに変換し、導出する。その後構造物形成室106内に設置されたノズル107から高速で基板108に向けて噴射させる。ノズル107の先に設置された基板108にエアロゾルを衝突させつつ、基板108をXYステージ109により揺動させて、基板108上の一定面積に薄膜の構造物を形成させた。構造物形成室106は真空ポンプ110により1kPa以下の減圧環境下に置かれる。
【0026】
なお、上述する構造物形成工程のうち、エアロゾル発生器103、解砕器104、分級器105は別体でもよいし、一体でもよい。解砕器の性能が十分であれば分級器は必要ない。また微粒子のミル粉砕は、金属をコーティングする後でも良いし、同時でも良い。同時の場合は例えば金属微粒子とセラミックス微粒子を混合した粉体を装填したミルにより解砕中にコーティングが行なわれる。勿論コーティング方法は様々考えられ、例えばPVD、CVD、めっき、ゾルゲル法などの様々な手法を用いて予め作製しておくことができる。
【0027】
セラミックス微粒子の種類は一種類に限らず、いくつも混合させることは容易であるし、また金属も同様である。その混合比も任意に設定できるため、構造物の組成を自由に制御でき好適である。使用するガスもヘリウムガスに限らず、窒素、アルゴンなど任意である。
【0028】
次に本発明における複合構造物の作製方法の別の一実施形態を述べる。
図2は、複合構造物作製装置20を示す図であり、複合構造物作製装置20では、窒素ガスボンベ201a、201bが、搬送管202a、202bを介してエアロゾル発生器203a、203bにそれぞれ接続され、さらに下流側に解砕器204a、204bが設置され、さらに下流に分級器205a、205bが設置され、さらに下流にエアロゾル濃度測定器206a、206bが設置されている。これらを通じている搬送管202a、202bはエアロゾル濃度測定器206a、206bの下流にて合流し、構造物形成室207内に設置されたノズル208に通じている。
尚、金属微粒子を内蔵するエアロゾル発生器の下流側には解砕器を設けなくてもよい。
【0029】
ノズル208の開口の先には表面に金属めっきを施した基板209がXYステージ210に取り付けられて設置されている。構造物形成室207は真空ポンプ211に接続されている。またエアロゾル発生器203a、203bおよびエアロゾル濃度測定器206a、206bは制御装置212に配線されている。エアロゾル発生器203a、203bの一方には平均粒径が0.5μm程度のセラミックス微粒子213aを、他方には金属微粒子213bをそれぞれ内蔵している。
【0030】
以上の構成からなる複合構造物作製装置20の作用を次に述べる。セラミックス微粒子213aと金属微粒子213bをそれぞれエアロゾル発生器203a、203b内に装填する。次に窒素ガスボンベ201a、201bを開栓し、窒素ガスを搬送管202a、202bを通じてエアロゾル発生器203a、203b内へそれぞれ導入する。制御装置212の制御を受けてエアロゾル発生器203a、203bが作動し、微粒子のエアロゾルをそれぞれ発生させる。これらのエアロゾル中のセラミックス微粒子は凝集しており、おおよそ100μmの二次粒子を形成しているが、解砕器204a、204bに導入して、一次粒子を多く含むエアロゾルに変換する。その後分級器205a、205bに導入して、解砕器204a、204bでは解砕しきれずにエアロゾル中にまだ存在している粗大な二次粒子を除去されてさらに一次粒子リッチなエアロゾルに変換し導出する。その後これらのエアロゾルはエアロゾル濃度測定器206a、206b内を通り、エアロゾル中の微粒子の濃度をモニタリングした後、合流させ、構造物形成室209内にてノズル207より高速で基板209に向けて噴射する。
【0031】
基板209はXYステージ210により揺動されており、エアロゾルの基板209への衝突位置を刻々と変化させることにより、セラミックス微粒子213aと金属微粒子213bを基板209上の広面積に衝突させる。この衝突の際にセラミックス微粒子213aが破砕あるいは変形し、これらが接合して結晶が一次粒子の平均粒径以下の結晶サイズ、すなわちナノメートルサイズで独立に分散して存在する緻密質の構造物が形成される。また、構造物形成室211内は真空ポンプ211により排気され、内部の気圧を1kPa以下の一定値に制御されている。
【0032】
このようにして基板209上にセラミックスと金属が分散した構造物を形成させるが、この際エアロゾル濃度測定器206a、206bのモニター結果を制御装置212により解析し、エアロゾル発生器203a、203bにフィードバックしてエアロゾル発生量、濃度を制御することにより、構造物中のセラミックスと金属の存在比率を一定あるいは傾斜的に制御することができる。このような傾斜材料を作製する場合は、XYステージとの連動により、堆積高さ方向で存在比率を変えたり、基板209の面方向で存在分布を変えたりすることが容易である。また複数のエアロゾルを合流させずに別々のノズルを用いて噴射させて構造物を形成させることもできる。この場合は薄い堆積層からなる構造物が得られ、その厚みの制御による傾斜化も容易である。またエアロゾル発生器に内蔵させる微粒子は複合微粒子であっても良いし複数のセラミックスと金属の混合微粒子であっても良く、目的とする構造物の構造を達成するに都合の良い内蔵方法を選択すればよい。ガスの組成も任意である。また金属においては、予め微粒子粉体を用意する、記載のエアロゾル発生器ではなく、バルクを蒸発させた後急冷して微粒子を形成させるガス中蒸発法などを用いても良い。
【0033】
なお、上述する構造物形成工程のうち、ICカードの電極端子に構造物を形成させる場合にはICカード基材にICチップを埋め込んだ後に必要に応じてマスキングを施したものでもよいし、ICチップのみで電極端子に構造物を形成させ、構造物形成後にICカード基材に埋め込んでもよい。また、必要に応じて構造物を形成高さを変えて形成させることにより濃淡のある模様を形成する手段を付加してもよい。さらに、ICカードの電極端子に限ることなく、スマートメディアやメモリーカードなどの電極端子でもよい。電極の形成方法も様々考えられ、例えばめっき、スパッタリング、PVD、CVD、印刷、溶射などによって予め基材上に形成させておくことができる。
【0034】
(実施例1)
セラミックス微粒子として純度99.8%平均粒径0.6μmの酸化アルミニウム微粒子を、金属微粒子として純度99.6%平均粒径0.4μmの金属ニッケル微粒子を準備した。酸化アルミニウム微粒子に金属ニッケル微粒子を重量比で30%添加してミリングすることにより粉体を調製した。このようにして調製した粉体を図1に相当する複合構造物作製装置のエアロゾル発生器に装填し、搬送ガスをヘリウム10l/min.として、ポリエチレンテレフタラートに金電極をスパッタリングでパターニングして形成させた基板にスキャニング面積17×10mm、形成高さ約5μmの複合構造物を形成させた。このときの構造物形成室の圧力は0.2kPaであった。形成させた複合構造物は黒みを帯びた色となった。形成させた構造物のNi含有率、体積抵抗率とビッカース硬度を測定した結果を表1に示す。形成させた構造物のNi含有率[wt%]は日立製作所製走査型電子顕微鏡S−4100と堀場製作所製エネルギー分散型X線分析装置EMAX−7000により測定した。体積抵抗率は三菱化学製低抵抗率計LORESTA−GP MCP−T600を用いて四端子法にて測定を行った。ビッカース硬度は島津製作所製ダイナミック超微小硬度計DUH−W201を用いて測定した。これらの値の算出に必要な構造物の形成高さはアルバック製触針式表面形状測定器Dektak3030を用いて測定した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1より、作製した複合構造物の体積抵抗率は一般的なアルミナの体積抵抗率1015Ωcmより大幅に低下し10−2Ωcmといった金属並みの導電性を示した。また、硬度は金属ニッケルのビッカース硬度HV90〜120(文献値)よりはるかに大きいことがわかった。そこで、比較として導電性構造物を形成させる前の基板と実施例の複合構造物をダイヤモンドペースト(粒子径6μm)で研磨したところ、導電性構造物を形成させる前の基板の金電極は軽く研磨しただけではがれてしまったが、実施例1の複合構造物はかなりの時間強く研磨してもはがれることはなく、形成高さもほとんど変化しなかった。
【0037】
(実施例2)
実施例1と同様の条件で調製した粉体を図1に相当する複合構造物作製装置のエアロゾル発生器に装填し、搬送ガスをヘリウム10l/min.として、マスキングをおこなったICカードの金電極端子上にスキャニング面積20×10mm、形成高さ約3μmの導電性構造物を形成させた。このときの構造物形成室の圧力は0.3kPaであった。形成させた導電性構造物は黒みを帯びた色で、体積抵抗率は2×10−2Ωcmであった。また形成させた導電性構造物をダイヤモンドペーストで長時間研磨してもほとんどはがれなかった。図3に示したICカードの電極端子302に導電性構造物を形成させた際の電極端子部分の画像を図4に示した。図4において電極端子の左半分401に導電性構造物を形成させた。また、その中心付近402は100μm間隔の格子模様を形成させた部分である。比較のために電極端子の右半分403にはマスキングすることにより複合構造物を形成しなかった。図5には図4における直線Aでの断面模式図を示した。図5において501が基材、502が電極端子、503が導電性構造物、504が形成高さを変えて模様を形成させた部分である。
【0038】
【発明の効果】
上述のように本発明に係る複合構造物は、基材上の金属層上に導電性構造物が接着層を介することなく直接接合されて形成されているので機械的・電気的特性に優れた材料を提供することができる。導電性と高い耐磨耗性をあわせもっていることから、例えばICカードなどの電極端子に好適である。また、本発明に係る複合構造物の作製方法によれば、パターニングや任意形状の複合構造物を作製できるので、その用途をあらゆる分野に拡大することができる。更に、基材上に複合構造物を形成する場合にも、低温(室温程度)で、加熱焼成などの工程を経ないので、任意の基材を選定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】エアロゾルデポジション法による複合構造物作製装置の概略図
【図2】エアロゾルデポジション法による複合構造物作製装置の概略図
【図3】実施例2に記載のICカード
【図4】実施例2に記載のICカードの電極端子部分の拡大図
【図5】実施例2に記載のICカードの電極端子部分の断面模式図
【符号の説明】
10…複合構造物作製装置、101…ヘリウムガスボンベ、102…搬送管、103…エアロゾル発生器、103a…微粒子粉体、104…解砕器、105…分級器、106…構造物形成室、107…ノズル、108…基板、109…XYステージ、110…真空ポンプ。
20…複合構造物作製装置、201a、201b…窒素ガスボンベ、202a、202b…搬送管、203a、203b…エアロゾル発生器、204a、204b…解砕器、205a、205b…分級器、206a、206b…エアロゾル濃度測定器、207…構造物形成室、208…ノズル、209…基板、210…XYステージ、211…真空ポンプ,212…制御装置、213a…セラミックス微粒子、213b…金属微粒子。
301…ICカード、302…電極端子
401…導電性構造物を形成させた部分、402…格子模様に導電性構造物を形成させた部分、503…導電性構造物を形成させていない部分
501…基材、502…金電極層、503…導電性構造物、504…形成高さを変えて模様を形成させた部分
Claims (10)
- 基材上に薄膜の金属層が形成されており、その上にセラミックスを含む導電性構造物が接着層を介することなく直接接合されていることを特徴とする基材と金属層と導電性構造物からなる複合構造物。
- 前記導電性構造物が一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックスと一種類以上の金属からなる複合体であることを特徴とする請求項1に記載の複合構造物。
- 前記セラミックスは多結晶であり、この多結晶部分を構成する結晶は実質的に結晶配向性がなく、また前記セラミックス同士の結晶界面にはガラス質からなる粒界層が実質的に存在せず、更に前記構造物の一部は前記金属層表面に食い込むアンカー部となって直接接合されていることを特徴とする請求項2に記載の複合構造物。
- 前記金属層の厚さが1mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の複合構造物。
- 前記金属層がICチップの電極端子であることを特徴とする請求項4に記載の複合構造物。
- 前記ICチップの電極端子表面に形成された導電性構造物が、形成高さの違いにより模様を形成していることを特徴とする請求項5に記載の複合構造物。
- 一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックス微粒子表面に一種類以上の金属をコーティングさせる工程もしくは一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックスを一種類以上の金属微粒子表面にコーティングさせる工程を経て複合微粒子を形成した後、該複合微粒子のエアロゾルを前記基材上の前記金属層表面に高速で衝突させて、前記複合微粒子の成分が前記金属層表面に食い込むアンカー部を形成し、同時に衝突の衝撃によって前記複合微粒子を変形または破砕させ、前記複合微粒子の成分同士を結合せしめ、前記アンカー部の上にセラミックスと金属の微細組織とが分散した導電性構造物を形成することを特徴とする複合構造物の作製方法。
- 一種類以上の金属微粒子と一種類以上の絶縁体もしくは半導体のセラミックス微粒子を混合させる工程を経て混合微粒子を形成した後、該混合微粒子のエアロゾルを前記基材上の前記金属層表面に高速で衝突させて、前記混合微粒子の成分が前記金属層表面に食い込むアンカー部を形成し、同時衝突の衝撃によって前記混合微粒子を変形または破砕させ、前記混合微粒子の成分同士を結合せしめ、前記アンカー部の上にセラミックスと金属の微細組織とが分散した導電性構造物を形成することを特徴とする複合構造物の作製方法。
- 前記セラミックス微粒子は平均粒径が0.1〜5μmで、前記金属微粒子は、平均粒径が0.01〜5μmであることを特徴とする請求項7又は8に記載の複合構造物の作製方法。
- 前記複合構造物の作製を常温下で行なうことを特徴とする請求項7〜9何れか一項に記載の複合構造物の作製方法。
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