JP2004276821A - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】油圧式パワーステアリング装置におけるダンピング特性を適切に再現することができる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】本装置のダンピング制御部122は、所定のダンピングマップ1222と、これを参照して操舵角速度ωに基づき基本ダンピング電流値Id’を決定する基本ダンピング電流値決定部1221と、所定の補正ゲインマップ1224と、これを参照して操舵トルクTに基づき補正ゲインcを決定する補正ゲイン決定部1223と、基本ダンピング電流値Id’に補正ゲインcを乗算してダンピング制御電流値Idを出力する乗算器1225とを含む。ダンピング制御電流値Idは、操舵トルクが0近傍のときの基本ダンピング電流値に対し、操舵トルクに応じて1以上の補正ゲインcが乗算されて設定されるので、操舵トルクに応じた油圧式パワーステアリング装置の良好な操舵操作性を実現することができる。
【選択図】 図4
【解決手段】本装置のダンピング制御部122は、所定のダンピングマップ1222と、これを参照して操舵角速度ωに基づき基本ダンピング電流値Id’を決定する基本ダンピング電流値決定部1221と、所定の補正ゲインマップ1224と、これを参照して操舵トルクTに基づき補正ゲインcを決定する補正ゲイン決定部1223と、基本ダンピング電流値Id’に補正ゲインcを乗算してダンピング制御電流値Idを出力する乗算器1225とを含む。ダンピング制御電流値Idは、操舵トルクが0近傍のときの基本ダンピング電流値に対し、操舵トルクに応じて1以上の補正ゲインcが乗算されて設定されるので、操舵トルクに応じた油圧式パワーステアリング装置の良好な操舵操作性を実現することができる。
【選択図】 図4
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動モータによって車両のステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、運転者がハンドル(ステアリングホイール)に加える操舵トルクに応じて電動モータを駆動することによりステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置が用いられている。この電動パワーステアリング装置では、操舵のための操作手段であるハンドルに加えられる操舵トルクを検出して当該操舵トルクを示すトルク検出信号を出力するトルクセンサが設けられており、そのトルクセンサからのトルク検出信号に基づき電動モータに流すべき電流の目標値が設定される。なお、この目標値の設定には、予め定められたトルク値と電流値との対応関係を示すテーブル(「アシストテーブル」と呼ばれる)が用いられる。そして、比例積分制御器によりこの目標値と電動モータに実際に流れる電流の検出値との偏差に基づき、電動モータの駆動手段に与えるべき指令値が生成される。電動モータの駆動手段は、その指令値に応じたデューティ比のパルス幅変調信号(PWM信号)を生成するPWM信号生成回路と、そのPWM信号のデューティ比に応じてオン/オフするパワートランジスタを用いて構成されるモータ駆動回路とから成り、そのデューティ比に応じた電圧すなわち指令値に応じた電圧を電動モータに印加する。この電圧印加によって電動モータに流れる電流は電流検出回路によって検出され、上記目標値とこの検出値との差が上記指令値を生成するための偏差として使用される。
【0003】
以上のように、従来の電動パワーステアリング装置では、電動モータに流すべき電流の目標値は操舵トルクに応じて決定されるが、さらに詳しくは、操舵トルクに応じて決定され操舵補助力を与えるために電動モータに流すべき電流の目標値(「基本アシスト電流値」と呼ばれる)に対して、操舵角速度に基づき操舵操作の操作性を向上させるためのダンピング制御電流値(収斂制御電流値)が減算されることにより、電動モータに流すべき電流の目標値が決定されることが多い。このダンピング制御(収斂制御)により、操舵時の手応え感や、車両の収斂性能を向上させることができる。
【0004】
ここで、ダンピング制御は、ハンドルの回転角速度である操舵角速度と上記ダンピング制御電流値との対応関係を示すテーブル(以下「ダンピングマップ」という)に基づき行われることが多い。通常、このダンピングマップは、線形の対応関係を示しているが、特開平8−207812号公報では、非線形の対応関係を示している。
【0005】
また通常、ダンピング制御は操舵角速度のみに基づき決定されるが、特開2001−106108号公報では、操舵角速度に基づき算出されたダンピング制御電流値(ブレーキ電流基本値)に対して、操舵トルクおよび電動モータの回転方向に基づき算出される1以下の補正係数を乗じることにより、補正されたダンピング制御電流値(ブレーキ電流値)を設定する構成が開示されている。このように回転方向に基づき電動モータの粘性を減少させることにより、ハンドルを切り込んだ状態から速やかに中立位置に戻すことができる。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−207812号公報
【特許文献2】
特開2001−106108号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、従来のダンピング制御は、基本的には操舵角速度(および車速)とダンピング制御電流値との対応関係を示すダンピングマップに基づき行われる。そのため、操舵角速度(および車速)以外の操舵状態(例えば操舵トルク)に基づき変化する油圧式パワーステアリング装置のダンピング特性(油圧式のパワーステアリング装置により内在的に実現される特性であって上記ダンピング制御の特性に相当する特性)が適切に再現されるわけではない。
【0008】
また、ダンピングマップに基づき設定されるダンピング制御電流値に対して補正が行われる従来の構成では、油圧式パワーステアリング装置におけるダンピング特性を再現するための補正が行われるわけではない。例えば、特開2001−106108号公報では、操舵トルク値の絶対値が大きくなるほど補正のために乗算されるべき係数が1より小さくなる構成が開示されているが、この構成では、操舵トルクの絶対値が大きくなるほど粘性が大きくなる油圧式パワーステアリング装置のダンピング特性とは逆の結果を生じる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、油圧式のパワーステアリング装置におけるダンピング特性を適切に再現することができる電動パワーステアリング装置を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
第1の発明は、車両操舵のための操作手段によって加えられる操舵トルクに応じて電動モータを駆動することにより当該車両のステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置であって、
前記操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記操作手段の操作による操舵角変化の速度である操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段と、
前記操舵角速度に応じた前記車両の制御のための補償電流値を設定する補償電流値設定手段と、
前記操舵トルクに基づき、前記補償電流値を補正する補正手段と、
前記操舵トルクに基づき、前記操舵補助力を与えるために前記電動モータに供給すべき電流の目標値である基本アシスト電流値を算出し、当該基本アシスト電流値に対して前記補正手段により補正された補償電流値を減算することにより前記電流目標値を設定する目標値設定手段と、
前記電流目標値と前記電動モータに流れる電流値との電流偏差に基づき、前記電動モータに対してフィードバック制御を行う制御手段と
を備え、
前記補正手段は、前記操舵トルクの絶対値が大きくなるほど前記補償電流値の絶対値が大きくなるように補正することを特徴とする。
【0011】
このような第1の発明によれば、車両の制御のための上記補償電流値は、操舵トルクの絶対値が大きくなるほど大きくなるように設定されるため、操舵トルクに応じたコントロールバルブの開閉動作によって変化する油圧式のパワーステアリング装置のダンピング特性を、本電動パワーステアリング装置においても適切に再現することができる。よって、本電動パワーステアリング装置は、良好な車両(ハンドル)の収斂性能とハンドルの手応え感とを含む良好な操舵操作性を実現することができる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、
前記補償電流値設定手段は、前記操舵トルクが0近傍であるときの補償電流値を設定し、
前記補正手段は、前記補償電流値に対し、前記操舵トルクに応じて1以上の補正値を乗じることにより、前記補償電流値を補正することを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
<1.全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成を、それに関連する車両構成と共に示した概略図である。この電動パワーステアリング装置は、操舵のための操作手段としてのハンドル(ステアリングホイール)100に一端が固着されるステアリングシャフト102と、そのステアリングシャフト102の他端に連結されたラックピニオン機構104と、ハンドル100の回転角速度である操舵角速度を検出する操舵角速度センサ2と、ハンドル100の操作によってステアリングシャフト102に加えられる操舵トルクを検出するトルクセンサ3と、この電動パワーステアリング装置が搭載される車両の車速を検出する車速センサ4と、ハンドル操作(操舵操作)による運転者の負荷を軽減するための操舵補助力を発生させる電動モータ6と、そのモータ6の発生する操舵補助力をステアリングシャフト102に伝達する減速ギヤ7と、車載バッテリ8からイグニションスイッチ9を介して電源の供給を受け、操舵角速度センサ2、トルクセンサ3、および車速センサ4からのセンサ信号に基づきモータ6の駆動を制御する電子制御ユニット(ECU)5とを備えている。
【0014】
ここで、ステアリングシャフト102において、ハンドル100側の部分と、減速ギヤ7を介して操舵補助トルクの加えられる部分との間にはトーションバーが介装されている。トルクセンサ3は、そのトーションバーのねじれを検出することにより操舵トルクを検出する。このようにして検出された操舵トルクの検出値Tは、操舵トルク検出信号としてトルクセンサ3から出力され、ECU5に入力される。また、操舵角速度センサ2は、操舵角速度の検出値ωを示す信号を操舵角速度信号として出力する。さらに、車速センサ4は、車両の走行速度である車速の検出値Vを示す信号を車速信号として出力する。これらの操舵角速度信号および車速信号もECU5に入力される。
【0015】
このような電動パワーステアリング装置を搭載した車両において運転者がハンドル100を操作すると、その操作による操舵トルクがトルクセンサ3によって検出され、その操舵トルクの検出値Tと車速センサ4によって検出された車速の検出値Vとに基づいてECU5によりモータ6が駆動される。これによりモータ6は操舵補助力を発生し、この操舵補助力が減速ギヤ7を介してステアリングシャフト102に加えられることにより、操舵操作による運転者の負荷が軽減される。すなわち、ハンドル操作によって加えられる操舵トルクと、モータ6の発生する操舵補助力によるトルクとの和が出力トルクとして、ステアリングシャフト102を介してラックピニオン機構104に与えられる。これによりピニオン軸が回転すると、その回転がラックピニオン機構104によってラック軸の往復運動に変換される。ラック軸の両端はタイロッドおよびナックルアームから成る連結部材106を介して車輪108に連結されており、ラック軸の往復運動に応じて車輪108の向きが変わる。
【0016】
<2.制御装置の構成および動作>
図2は、上記電動パワーステアリング装置における制御装置であるECU5の機能的構成を示すブロック図である。このECU5は、モータ制御部として機能するマイクロコンピュータ(以下「マイコン」と略記する)10と、そのマイコン10から出力される指令値Dに応じたデューティ比のパルス幅変調信号(PWM信号)を生成するPWM信号生成回路18と、そのPWM信号のデューティ比に応じた電圧をモータ6に印加するモータ駆動回路20と、モータ6に流れる電流を検出する電流検出器19とから構成される。
【0017】
マイコン10は、その内部のメモリに格納された所定のプログラムを実行することにより、目標電流設定部12と減算器14とフィードバック制御演算部(以下「FB制御演算部」とも略記する)16とからなるモータ制御部として機能する。このモータ制御部において、目標電流設定部12は、操舵角速度センサ2から出力される操舵角速度の検出値ω(以下、単に「操舵角速度ω」という)と、トルクセンサ3から出力される操舵トルクの検出値T(以下、単に「操舵トルクT」という)と、車速センサ4から出力される車速の検出値V(以下、単に「車速V」という)とに基づき、モータ6に流すべき電流の目標値Itを決定する。この目標電流設定部12の詳細な構成および動作については後述する。減算器14は、この目標電流設定部12から出力される電流目標値Itと電流検出器19から出力されるモータ電流の検出値Isとの偏差It−Isを算出する。FB制御演算部16は、この偏差It−Isに基づく比例積分制御演算によって、PWM信号生成回路18に与えるべきフィードバック制御のための上記指令値Dを生成する。
【0018】
PWM信号生成回路18は、この指令値Dに応じたデューティ比のパルス信号、すなわち指令値Dに応じてパルス幅の変化するPWM信号を生成する。モータ駆動回路20は、典型的にはバッテリ8の電源ラインと接地ラインとの間に接続される4個の電力用の電界効果型トランジスタからなるブリッジ回路であって、PWM信号のパルス幅(デューティ比)に応じた電圧をモータ6に印加する。モータ6は、その電圧印加によって流れる電流に応じた大きさおよび方向のトルクを発生する。このように、電流目標値Itを受け取る減算器14、FB制御演算部16、PWM信号生成回路18、モータ駆動回路20、およびモータ電流の検出値Isを減算器14へ出力する電流検出器19は、モータ6に対するフィードバック制御を行う制御手段を構成する。なお、上記電動モータ6はブラシ付きの一般的な直流モータであるが、本発明における駆動手段としての電動モータは、上記モータに限定されるものではなく、例えばブラシレスモータであってもよい。
【0019】
<3.目標電流設定部の詳細な構成および動作>
図3は、上記一実施形態における目標電流設定部12の構成を示すブロック図である。この目標電流設定部12は、操舵トルクTを受け取り、電流目標値Itを算出する基礎となる値であって操舵補助力を与えるために電動モータに流すべき電流の目標値である基本アシスト電流値It’を出力するアシスト電流設定部121と、操舵角速度ωを受け取り車両の収斂制御を行うためのダンピング制御電流値Idを出力するダンピング制御部122と、上記基本アシスト電流値It’からダンピング制御電流値Idを減算することにより上記電流目標値Itを出力する減算器123とを含む。なお、上記操舵トルクTは、所定のパラメータを有する位相進み等のフィルタからなる図示されない位相補償器を通すことにより位相補償が行われてもよい。また、上記ダンピング制御部122のほか、ハンドルの戻し制御を行う戻し制御部など操舵操作の操作性を向上させるための各種補償手段が設けられてもよい。以下、目標電流設定部12の各構成要素の動作について詳細に説明する。
【0020】
なお、以下では、マイコン10が所定のプログラムを実行することにより、目標電流設定部12における各種構成要素がソフトウェア的に実現されるように構成されるが、これらの構成要素の一部または全部は、専用の電子回路等によりハードウェア的に実現されてもよい。
【0021】
アシスト電流設定部121は、トルクセンサ3からの操舵トルクTと車速Vとに基づき基本アシスト電流値It’を算出する。具体的には、適切な操舵補助力を発生させるためにモータ6に供給すべき電流目標値を算出する基礎となるべき基本アシスト電流値It’と操舵トルクTとの関係を車速Vをパラメータとして示すアシストテーブルがアシスト電流設定部121に予め保持されており、アシスト電流設定部121は、このアシストテーブルを参照して基本アシスト電流値It’を設定する。このアシストテーブルは、車速Vが小さいほど、また操舵トルクTが大きいほど基本アシスト電流値It’が大きくなるように設定される。そうすれば、ハンドルが重いときほど操舵補助力が大きくなり、操舵操作が容易になる。
【0022】
ダンピング制御部122は、操舵角速度センサ2からの操舵角速度ωとトルクセンサ3からの操舵トルクTとに基づきダンピング制御電流値Idを算出する。なお、操舵角速度センサ2に代えてハンドルの回転角度である舵角を検知する舵角センサが設けられ、さらにこの舵角センサからの舵角を微分することにより得られる操舵角速度をダンピング制御部122に与える微分器が新たに設けられ、舵角センサおよび微分器により操舵角速度を検出する手段が構成されてもよい。また、操舵角速度センサ2に代えて、電動モータ6の回転角速度を検出する手段が設けられることにより、操舵角速度を検出する手段が構成されてもよい。以下、ダンピング制御部122の構成について詳述する。
【0023】
図4は、ダンピング制御部122の詳細な構成を示すブロック図である。ダンピング制御部122は、予め定められたダンピングマップ1222と、操舵角速度ωに基づきこのダンピングマップ1222を参照することによりダンピング制御電流値Idを算出する基礎となるべき基本ダンピング電流値Id’を決定する基本ダンピング電流値決定部1221と、予め定められた補正ゲインマップ1224と、操舵トルクTに基づきこの補正ゲインマップ1224を参照することにより補正のための係数である補正ゲインcを決定する補正ゲイン決定部1223と、基本ダンピング電流値Id’に補正ゲインcを乗算することによりダンピング制御電流値Idを出力する乗算器1225とを含む。
【0024】
ダンピングマップ1222は、車両の収斂性能等を向上させるための基本ダンピング電流値Id’と操舵角速度との対応関係を示すテーブルである。図5は、このダンピングマップを例示する図である。図に示すように、このダンピングマップ1222は、非線形の対応関係を表しているが、これは油圧式のパワーステアリング装置のダンピング特性を電動パワーステアリング装置において再現するためである。このことにより、油圧式のパワーステアリング装置が有している良好な操舵操作性、例えば良好な車両(ハンドル)の収斂性能やハンドルの手応え感などが再現される。
【0025】
ここで一般的に、油圧式パワーステアリング装置は、トーションバーのねじれ角に応じて作動するコントロールバルブと、このコントロールバルブを介して油圧ポンプから供給される高圧の作動油により操舵補助力を付与する油圧アクチュエータとを備えている。操舵トルクが0であるとき、上記コントロールバルブは所定のニュートラル位置にあって閉じており、操舵トルクが大きくなるとトーションバーのねじれ角が大きくなるため、コントロールバルブが開口され(すなわち開口面積が増大し)、操舵補助力が付与される。このとき、コントロールバルブの開口面積に応じて供給される作動油によって、上記開口面積が大きくなるに従い粘性抵抗トルクが増加する。しかし、ダンピングマップを作成する際、油圧式パワーステアリング装置のダンピング特性は、操舵角速度との対応関係を得るため、操舵トルクが0のとき(コントロールバルブが閉鎖されているとき)の計測またはシミュレーションにより得られた特性が用いられる。よって、ダンピングマップを作成する際にコントロールバルブの開口面積の変化について考慮することはできない。図6は、油圧式のパワーステアリング装置のコントロールバルブ開口時および閉鎖時のダンピング特性を示す図である。図中の点線はバルブ開口時のダンピング特性を示し、図中の実線はバルブ閉鎖時のダンピング特性を示す。このバルブ閉鎖時のダンピング特性が図5に示すダンピングマップにより再現されるべき特性となる。
【0026】
基本ダンピング電流値決定部1221は、上記ダンピングマップ1222を参照することにより、操舵角速度センサ2からの操舵角速度に対応する基本ダンピング電流値Id’を決定する。なお、このダンピングマップ1222は、アシストテーブルと同様に、車速Vをパラメータとして上記対応関係を示すテーブルであってもよい。また、このダンピングマップ1222に代えて、基本ダンピング電流値Id’を算出するために操舵角速度に乗算されるべき所定の係数であるゲインKdや所定の関数式が保持されていてもよい。
【0027】
ここで、油圧式パワーステアリング装置のダンピング特性は、操舵角速度のみならず、操舵トルクに応じたコントロールバルブの開閉動作によっても変化するため、このダンピング特性を適切に再現するためにはさらに操舵トルクに応じた補正が必要となる。補正ゲイン決定部1223は、この補正のために予め定められた補正ゲインマップ1224を参照することにより、トルクセンサ3からの操舵トルクTに対応する補正ゲインcを決定する。乗算器1225は、基本ダンピング電流値決定部1221からの基本ダンピング電流値Id’に対して補正ゲイン決定部1223からの補正ゲインcを乗算することにより得られるダンピング制御電流値Idを出力する。図7は、補正ゲインマップを例示する図である。図に示すように、操舵トルクTが0近傍のとき、補正ゲインcは1であり、操舵トルクTの絶対値が大きくなるに従って、補正ゲインcは1よりも大きくなるように設定されている。よって、操舵トルクTの絶対値が大きくなるほどダンピング制御電流値Idの絶対値は大きくなる。その結果、操舵トルクTの絶対値が大きいときには、例えば図6に示すバルブ開口時のダンピング特性が再現される。このように、ダンピング制御部122によって、油圧式パワーステアリング装置のダンピング特性が操舵トルクの変化に応じて適切に再現される。なお、上記補正ゲインマップ1224に代えて、補正ゲインcを算出するために操舵トルクTに乗算されるべき所定の係数や所定の関数式が保持されていてもよい。
【0028】
以上のように設定されるダンピング制御電流値Idは、減算器123により基本アシスト電流値It’から減算され、当該減算値(減算結果)は電流目標値Itとして出力される。
【0029】
<4.効果>
上記一実施形態によれば、ダンピング制御電流値は、操舵トルクが0近傍のときのダンピング特性を示すダンピングマップを参照して得られる基本ダンピング電流値に対して、操舵トルクに応じて決定される1以上の補正ゲインが乗算されることにより設定される。したがって、操舵トルクに応じたコントロールバルブの開閉動作によって変化する油圧式のパワーステアリング装置のダンピング特性を、本電動パワーステアリング装置においても適切に再現することができる。よって、本電動パワーステアリング装置は、良好な車両(ハンドル)の収斂性能とハンドルの手応え感とを含む良好な操舵操作性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成をそれに関連する車両構成と共に示す概略図である。
【図2】上記一実施形態に係る電動パワーステアリング装置における制御装置であるECUの機能的構成を示すブロック図である。
【図3】上記一実施形態における目標電流設定部の構成を示すブロック図である。
【図4】上記一実施形態におけるダンピング制御部の構成を示すブロック図である。
【図5】上記一実施形態におけるダンピングマップを例示する図である。
【図6】上記一実施形態において再現されるべき油圧式のパワーステアリング装置のコントロールバルブ開口時および閉鎖時のダンピング特性を示す図である。
【図7】上記一実施形態における補正ゲインマップを例示する図である。
【符号の説明】
2 …操舵角速度センサ
3 …トルクセンサ
4 …車速センサ
5 …電子制御ユニット(ECU)
6 …モータ
10 …マイクロコンピュータ(モータ制御部)
12 …目標電流設定部(目標値設定手段)
14 …減算器
16 …フィードバック制御演算部(FB制御演算部)
18 …PWM信号生成回路
19 …電流検出器
20 …モータ駆動回路
121 …アシスト電流設定部
122 …ダンピング制御部(補償電流値設定手段)
123 …減算器
1221…基本ダンピング電流値決定部
1222…ダンピングマップ
1223…補正ゲイン決定部
1224…補正ゲインマップ
It …電流目標値
It’…基本アシスト電流値
Is …電流検出値
Id …ダンピング制御電流値
Id’…基本ダンピング電流値
V …車速
T …操舵トルク
ω …操舵角速度
c …補正ゲイン
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動モータによって車両のステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、運転者がハンドル(ステアリングホイール)に加える操舵トルクに応じて電動モータを駆動することによりステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置が用いられている。この電動パワーステアリング装置では、操舵のための操作手段であるハンドルに加えられる操舵トルクを検出して当該操舵トルクを示すトルク検出信号を出力するトルクセンサが設けられており、そのトルクセンサからのトルク検出信号に基づき電動モータに流すべき電流の目標値が設定される。なお、この目標値の設定には、予め定められたトルク値と電流値との対応関係を示すテーブル(「アシストテーブル」と呼ばれる)が用いられる。そして、比例積分制御器によりこの目標値と電動モータに実際に流れる電流の検出値との偏差に基づき、電動モータの駆動手段に与えるべき指令値が生成される。電動モータの駆動手段は、その指令値に応じたデューティ比のパルス幅変調信号(PWM信号)を生成するPWM信号生成回路と、そのPWM信号のデューティ比に応じてオン/オフするパワートランジスタを用いて構成されるモータ駆動回路とから成り、そのデューティ比に応じた電圧すなわち指令値に応じた電圧を電動モータに印加する。この電圧印加によって電動モータに流れる電流は電流検出回路によって検出され、上記目標値とこの検出値との差が上記指令値を生成するための偏差として使用される。
【0003】
以上のように、従来の電動パワーステアリング装置では、電動モータに流すべき電流の目標値は操舵トルクに応じて決定されるが、さらに詳しくは、操舵トルクに応じて決定され操舵補助力を与えるために電動モータに流すべき電流の目標値(「基本アシスト電流値」と呼ばれる)に対して、操舵角速度に基づき操舵操作の操作性を向上させるためのダンピング制御電流値(収斂制御電流値)が減算されることにより、電動モータに流すべき電流の目標値が決定されることが多い。このダンピング制御(収斂制御)により、操舵時の手応え感や、車両の収斂性能を向上させることができる。
【0004】
ここで、ダンピング制御は、ハンドルの回転角速度である操舵角速度と上記ダンピング制御電流値との対応関係を示すテーブル(以下「ダンピングマップ」という)に基づき行われることが多い。通常、このダンピングマップは、線形の対応関係を示しているが、特開平8−207812号公報では、非線形の対応関係を示している。
【0005】
また通常、ダンピング制御は操舵角速度のみに基づき決定されるが、特開2001−106108号公報では、操舵角速度に基づき算出されたダンピング制御電流値(ブレーキ電流基本値)に対して、操舵トルクおよび電動モータの回転方向に基づき算出される1以下の補正係数を乗じることにより、補正されたダンピング制御電流値(ブレーキ電流値)を設定する構成が開示されている。このように回転方向に基づき電動モータの粘性を減少させることにより、ハンドルを切り込んだ状態から速やかに中立位置に戻すことができる。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−207812号公報
【特許文献2】
特開2001−106108号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、従来のダンピング制御は、基本的には操舵角速度(および車速)とダンピング制御電流値との対応関係を示すダンピングマップに基づき行われる。そのため、操舵角速度(および車速)以外の操舵状態(例えば操舵トルク)に基づき変化する油圧式パワーステアリング装置のダンピング特性(油圧式のパワーステアリング装置により内在的に実現される特性であって上記ダンピング制御の特性に相当する特性)が適切に再現されるわけではない。
【0008】
また、ダンピングマップに基づき設定されるダンピング制御電流値に対して補正が行われる従来の構成では、油圧式パワーステアリング装置におけるダンピング特性を再現するための補正が行われるわけではない。例えば、特開2001−106108号公報では、操舵トルク値の絶対値が大きくなるほど補正のために乗算されるべき係数が1より小さくなる構成が開示されているが、この構成では、操舵トルクの絶対値が大きくなるほど粘性が大きくなる油圧式パワーステアリング装置のダンピング特性とは逆の結果を生じる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、油圧式のパワーステアリング装置におけるダンピング特性を適切に再現することができる電動パワーステアリング装置を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
第1の発明は、車両操舵のための操作手段によって加えられる操舵トルクに応じて電動モータを駆動することにより当該車両のステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置であって、
前記操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記操作手段の操作による操舵角変化の速度である操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段と、
前記操舵角速度に応じた前記車両の制御のための補償電流値を設定する補償電流値設定手段と、
前記操舵トルクに基づき、前記補償電流値を補正する補正手段と、
前記操舵トルクに基づき、前記操舵補助力を与えるために前記電動モータに供給すべき電流の目標値である基本アシスト電流値を算出し、当該基本アシスト電流値に対して前記補正手段により補正された補償電流値を減算することにより前記電流目標値を設定する目標値設定手段と、
前記電流目標値と前記電動モータに流れる電流値との電流偏差に基づき、前記電動モータに対してフィードバック制御を行う制御手段と
を備え、
前記補正手段は、前記操舵トルクの絶対値が大きくなるほど前記補償電流値の絶対値が大きくなるように補正することを特徴とする。
【0011】
このような第1の発明によれば、車両の制御のための上記補償電流値は、操舵トルクの絶対値が大きくなるほど大きくなるように設定されるため、操舵トルクに応じたコントロールバルブの開閉動作によって変化する油圧式のパワーステアリング装置のダンピング特性を、本電動パワーステアリング装置においても適切に再現することができる。よって、本電動パワーステアリング装置は、良好な車両(ハンドル)の収斂性能とハンドルの手応え感とを含む良好な操舵操作性を実現することができる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、
前記補償電流値設定手段は、前記操舵トルクが0近傍であるときの補償電流値を設定し、
前記補正手段は、前記補償電流値に対し、前記操舵トルクに応じて1以上の補正値を乗じることにより、前記補償電流値を補正することを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
<1.全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成を、それに関連する車両構成と共に示した概略図である。この電動パワーステアリング装置は、操舵のための操作手段としてのハンドル(ステアリングホイール)100に一端が固着されるステアリングシャフト102と、そのステアリングシャフト102の他端に連結されたラックピニオン機構104と、ハンドル100の回転角速度である操舵角速度を検出する操舵角速度センサ2と、ハンドル100の操作によってステアリングシャフト102に加えられる操舵トルクを検出するトルクセンサ3と、この電動パワーステアリング装置が搭載される車両の車速を検出する車速センサ4と、ハンドル操作(操舵操作)による運転者の負荷を軽減するための操舵補助力を発生させる電動モータ6と、そのモータ6の発生する操舵補助力をステアリングシャフト102に伝達する減速ギヤ7と、車載バッテリ8からイグニションスイッチ9を介して電源の供給を受け、操舵角速度センサ2、トルクセンサ3、および車速センサ4からのセンサ信号に基づきモータ6の駆動を制御する電子制御ユニット(ECU)5とを備えている。
【0014】
ここで、ステアリングシャフト102において、ハンドル100側の部分と、減速ギヤ7を介して操舵補助トルクの加えられる部分との間にはトーションバーが介装されている。トルクセンサ3は、そのトーションバーのねじれを検出することにより操舵トルクを検出する。このようにして検出された操舵トルクの検出値Tは、操舵トルク検出信号としてトルクセンサ3から出力され、ECU5に入力される。また、操舵角速度センサ2は、操舵角速度の検出値ωを示す信号を操舵角速度信号として出力する。さらに、車速センサ4は、車両の走行速度である車速の検出値Vを示す信号を車速信号として出力する。これらの操舵角速度信号および車速信号もECU5に入力される。
【0015】
このような電動パワーステアリング装置を搭載した車両において運転者がハンドル100を操作すると、その操作による操舵トルクがトルクセンサ3によって検出され、その操舵トルクの検出値Tと車速センサ4によって検出された車速の検出値Vとに基づいてECU5によりモータ6が駆動される。これによりモータ6は操舵補助力を発生し、この操舵補助力が減速ギヤ7を介してステアリングシャフト102に加えられることにより、操舵操作による運転者の負荷が軽減される。すなわち、ハンドル操作によって加えられる操舵トルクと、モータ6の発生する操舵補助力によるトルクとの和が出力トルクとして、ステアリングシャフト102を介してラックピニオン機構104に与えられる。これによりピニオン軸が回転すると、その回転がラックピニオン機構104によってラック軸の往復運動に変換される。ラック軸の両端はタイロッドおよびナックルアームから成る連結部材106を介して車輪108に連結されており、ラック軸の往復運動に応じて車輪108の向きが変わる。
【0016】
<2.制御装置の構成および動作>
図2は、上記電動パワーステアリング装置における制御装置であるECU5の機能的構成を示すブロック図である。このECU5は、モータ制御部として機能するマイクロコンピュータ(以下「マイコン」と略記する)10と、そのマイコン10から出力される指令値Dに応じたデューティ比のパルス幅変調信号(PWM信号)を生成するPWM信号生成回路18と、そのPWM信号のデューティ比に応じた電圧をモータ6に印加するモータ駆動回路20と、モータ6に流れる電流を検出する電流検出器19とから構成される。
【0017】
マイコン10は、その内部のメモリに格納された所定のプログラムを実行することにより、目標電流設定部12と減算器14とフィードバック制御演算部(以下「FB制御演算部」とも略記する)16とからなるモータ制御部として機能する。このモータ制御部において、目標電流設定部12は、操舵角速度センサ2から出力される操舵角速度の検出値ω(以下、単に「操舵角速度ω」という)と、トルクセンサ3から出力される操舵トルクの検出値T(以下、単に「操舵トルクT」という)と、車速センサ4から出力される車速の検出値V(以下、単に「車速V」という)とに基づき、モータ6に流すべき電流の目標値Itを決定する。この目標電流設定部12の詳細な構成および動作については後述する。減算器14は、この目標電流設定部12から出力される電流目標値Itと電流検出器19から出力されるモータ電流の検出値Isとの偏差It−Isを算出する。FB制御演算部16は、この偏差It−Isに基づく比例積分制御演算によって、PWM信号生成回路18に与えるべきフィードバック制御のための上記指令値Dを生成する。
【0018】
PWM信号生成回路18は、この指令値Dに応じたデューティ比のパルス信号、すなわち指令値Dに応じてパルス幅の変化するPWM信号を生成する。モータ駆動回路20は、典型的にはバッテリ8の電源ラインと接地ラインとの間に接続される4個の電力用の電界効果型トランジスタからなるブリッジ回路であって、PWM信号のパルス幅(デューティ比)に応じた電圧をモータ6に印加する。モータ6は、その電圧印加によって流れる電流に応じた大きさおよび方向のトルクを発生する。このように、電流目標値Itを受け取る減算器14、FB制御演算部16、PWM信号生成回路18、モータ駆動回路20、およびモータ電流の検出値Isを減算器14へ出力する電流検出器19は、モータ6に対するフィードバック制御を行う制御手段を構成する。なお、上記電動モータ6はブラシ付きの一般的な直流モータであるが、本発明における駆動手段としての電動モータは、上記モータに限定されるものではなく、例えばブラシレスモータであってもよい。
【0019】
<3.目標電流設定部の詳細な構成および動作>
図3は、上記一実施形態における目標電流設定部12の構成を示すブロック図である。この目標電流設定部12は、操舵トルクTを受け取り、電流目標値Itを算出する基礎となる値であって操舵補助力を与えるために電動モータに流すべき電流の目標値である基本アシスト電流値It’を出力するアシスト電流設定部121と、操舵角速度ωを受け取り車両の収斂制御を行うためのダンピング制御電流値Idを出力するダンピング制御部122と、上記基本アシスト電流値It’からダンピング制御電流値Idを減算することにより上記電流目標値Itを出力する減算器123とを含む。なお、上記操舵トルクTは、所定のパラメータを有する位相進み等のフィルタからなる図示されない位相補償器を通すことにより位相補償が行われてもよい。また、上記ダンピング制御部122のほか、ハンドルの戻し制御を行う戻し制御部など操舵操作の操作性を向上させるための各種補償手段が設けられてもよい。以下、目標電流設定部12の各構成要素の動作について詳細に説明する。
【0020】
なお、以下では、マイコン10が所定のプログラムを実行することにより、目標電流設定部12における各種構成要素がソフトウェア的に実現されるように構成されるが、これらの構成要素の一部または全部は、専用の電子回路等によりハードウェア的に実現されてもよい。
【0021】
アシスト電流設定部121は、トルクセンサ3からの操舵トルクTと車速Vとに基づき基本アシスト電流値It’を算出する。具体的には、適切な操舵補助力を発生させるためにモータ6に供給すべき電流目標値を算出する基礎となるべき基本アシスト電流値It’と操舵トルクTとの関係を車速Vをパラメータとして示すアシストテーブルがアシスト電流設定部121に予め保持されており、アシスト電流設定部121は、このアシストテーブルを参照して基本アシスト電流値It’を設定する。このアシストテーブルは、車速Vが小さいほど、また操舵トルクTが大きいほど基本アシスト電流値It’が大きくなるように設定される。そうすれば、ハンドルが重いときほど操舵補助力が大きくなり、操舵操作が容易になる。
【0022】
ダンピング制御部122は、操舵角速度センサ2からの操舵角速度ωとトルクセンサ3からの操舵トルクTとに基づきダンピング制御電流値Idを算出する。なお、操舵角速度センサ2に代えてハンドルの回転角度である舵角を検知する舵角センサが設けられ、さらにこの舵角センサからの舵角を微分することにより得られる操舵角速度をダンピング制御部122に与える微分器が新たに設けられ、舵角センサおよび微分器により操舵角速度を検出する手段が構成されてもよい。また、操舵角速度センサ2に代えて、電動モータ6の回転角速度を検出する手段が設けられることにより、操舵角速度を検出する手段が構成されてもよい。以下、ダンピング制御部122の構成について詳述する。
【0023】
図4は、ダンピング制御部122の詳細な構成を示すブロック図である。ダンピング制御部122は、予め定められたダンピングマップ1222と、操舵角速度ωに基づきこのダンピングマップ1222を参照することによりダンピング制御電流値Idを算出する基礎となるべき基本ダンピング電流値Id’を決定する基本ダンピング電流値決定部1221と、予め定められた補正ゲインマップ1224と、操舵トルクTに基づきこの補正ゲインマップ1224を参照することにより補正のための係数である補正ゲインcを決定する補正ゲイン決定部1223と、基本ダンピング電流値Id’に補正ゲインcを乗算することによりダンピング制御電流値Idを出力する乗算器1225とを含む。
【0024】
ダンピングマップ1222は、車両の収斂性能等を向上させるための基本ダンピング電流値Id’と操舵角速度との対応関係を示すテーブルである。図5は、このダンピングマップを例示する図である。図に示すように、このダンピングマップ1222は、非線形の対応関係を表しているが、これは油圧式のパワーステアリング装置のダンピング特性を電動パワーステアリング装置において再現するためである。このことにより、油圧式のパワーステアリング装置が有している良好な操舵操作性、例えば良好な車両(ハンドル)の収斂性能やハンドルの手応え感などが再現される。
【0025】
ここで一般的に、油圧式パワーステアリング装置は、トーションバーのねじれ角に応じて作動するコントロールバルブと、このコントロールバルブを介して油圧ポンプから供給される高圧の作動油により操舵補助力を付与する油圧アクチュエータとを備えている。操舵トルクが0であるとき、上記コントロールバルブは所定のニュートラル位置にあって閉じており、操舵トルクが大きくなるとトーションバーのねじれ角が大きくなるため、コントロールバルブが開口され(すなわち開口面積が増大し)、操舵補助力が付与される。このとき、コントロールバルブの開口面積に応じて供給される作動油によって、上記開口面積が大きくなるに従い粘性抵抗トルクが増加する。しかし、ダンピングマップを作成する際、油圧式パワーステアリング装置のダンピング特性は、操舵角速度との対応関係を得るため、操舵トルクが0のとき(コントロールバルブが閉鎖されているとき)の計測またはシミュレーションにより得られた特性が用いられる。よって、ダンピングマップを作成する際にコントロールバルブの開口面積の変化について考慮することはできない。図6は、油圧式のパワーステアリング装置のコントロールバルブ開口時および閉鎖時のダンピング特性を示す図である。図中の点線はバルブ開口時のダンピング特性を示し、図中の実線はバルブ閉鎖時のダンピング特性を示す。このバルブ閉鎖時のダンピング特性が図5に示すダンピングマップにより再現されるべき特性となる。
【0026】
基本ダンピング電流値決定部1221は、上記ダンピングマップ1222を参照することにより、操舵角速度センサ2からの操舵角速度に対応する基本ダンピング電流値Id’を決定する。なお、このダンピングマップ1222は、アシストテーブルと同様に、車速Vをパラメータとして上記対応関係を示すテーブルであってもよい。また、このダンピングマップ1222に代えて、基本ダンピング電流値Id’を算出するために操舵角速度に乗算されるべき所定の係数であるゲインKdや所定の関数式が保持されていてもよい。
【0027】
ここで、油圧式パワーステアリング装置のダンピング特性は、操舵角速度のみならず、操舵トルクに応じたコントロールバルブの開閉動作によっても変化するため、このダンピング特性を適切に再現するためにはさらに操舵トルクに応じた補正が必要となる。補正ゲイン決定部1223は、この補正のために予め定められた補正ゲインマップ1224を参照することにより、トルクセンサ3からの操舵トルクTに対応する補正ゲインcを決定する。乗算器1225は、基本ダンピング電流値決定部1221からの基本ダンピング電流値Id’に対して補正ゲイン決定部1223からの補正ゲインcを乗算することにより得られるダンピング制御電流値Idを出力する。図7は、補正ゲインマップを例示する図である。図に示すように、操舵トルクTが0近傍のとき、補正ゲインcは1であり、操舵トルクTの絶対値が大きくなるに従って、補正ゲインcは1よりも大きくなるように設定されている。よって、操舵トルクTの絶対値が大きくなるほどダンピング制御電流値Idの絶対値は大きくなる。その結果、操舵トルクTの絶対値が大きいときには、例えば図6に示すバルブ開口時のダンピング特性が再現される。このように、ダンピング制御部122によって、油圧式パワーステアリング装置のダンピング特性が操舵トルクの変化に応じて適切に再現される。なお、上記補正ゲインマップ1224に代えて、補正ゲインcを算出するために操舵トルクTに乗算されるべき所定の係数や所定の関数式が保持されていてもよい。
【0028】
以上のように設定されるダンピング制御電流値Idは、減算器123により基本アシスト電流値It’から減算され、当該減算値(減算結果)は電流目標値Itとして出力される。
【0029】
<4.効果>
上記一実施形態によれば、ダンピング制御電流値は、操舵トルクが0近傍のときのダンピング特性を示すダンピングマップを参照して得られる基本ダンピング電流値に対して、操舵トルクに応じて決定される1以上の補正ゲインが乗算されることにより設定される。したがって、操舵トルクに応じたコントロールバルブの開閉動作によって変化する油圧式のパワーステアリング装置のダンピング特性を、本電動パワーステアリング装置においても適切に再現することができる。よって、本電動パワーステアリング装置は、良好な車両(ハンドル)の収斂性能とハンドルの手応え感とを含む良好な操舵操作性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成をそれに関連する車両構成と共に示す概略図である。
【図2】上記一実施形態に係る電動パワーステアリング装置における制御装置であるECUの機能的構成を示すブロック図である。
【図3】上記一実施形態における目標電流設定部の構成を示すブロック図である。
【図4】上記一実施形態におけるダンピング制御部の構成を示すブロック図である。
【図5】上記一実施形態におけるダンピングマップを例示する図である。
【図6】上記一実施形態において再現されるべき油圧式のパワーステアリング装置のコントロールバルブ開口時および閉鎖時のダンピング特性を示す図である。
【図7】上記一実施形態における補正ゲインマップを例示する図である。
【符号の説明】
2 …操舵角速度センサ
3 …トルクセンサ
4 …車速センサ
5 …電子制御ユニット(ECU)
6 …モータ
10 …マイクロコンピュータ(モータ制御部)
12 …目標電流設定部(目標値設定手段)
14 …減算器
16 …フィードバック制御演算部(FB制御演算部)
18 …PWM信号生成回路
19 …電流検出器
20 …モータ駆動回路
121 …アシスト電流設定部
122 …ダンピング制御部(補償電流値設定手段)
123 …減算器
1221…基本ダンピング電流値決定部
1222…ダンピングマップ
1223…補正ゲイン決定部
1224…補正ゲインマップ
It …電流目標値
It’…基本アシスト電流値
Is …電流検出値
Id …ダンピング制御電流値
Id’…基本ダンピング電流値
V …車速
T …操舵トルク
ω …操舵角速度
c …補正ゲイン
Claims (2)
- 車両操舵のための操作手段によって加えられる操舵トルクに応じて電動モータを駆動することにより当該車両のステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置であって、
前記操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記操作手段の操作による操舵角変化の速度である操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段と、
前記操舵角速度に応じた前記車両の制御のための補償電流値を設定する補償電流値設定手段と、
前記操舵トルクに基づき、前記補償電流値を補正する補正手段と、
前記操舵トルクに基づき、前記操舵補助力を与えるために前記電動モータに供給すべき電流の目標値である基本アシスト電流値を算出し、当該基本アシスト電流値に対して前記補正手段により補正された補償電流値を減算することにより前記電流目標値を設定する目標値設定手段と、
前記電流目標値と前記電動モータに流れる電流値との電流偏差に基づき、前記電動モータに対してフィードバック制御を行う制御手段と
を備え、
前記補正手段は、前記操舵トルクの絶対値が大きくなるほど前記補償電流値の絶対値が大きくなるように補正することを特徴とする、電動パワーステアリング装置。 - 前記補償電流値設定手段は、前記操舵トルクが0近傍であるときの補償電流値を設定し、
前記補正手段は、前記補償電流値に対し、前記操舵トルクに応じて1以上の補正値を乗じることにより、前記補償電流値を補正することを特徴とする、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
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