JP2004273707A - 薄膜回路の形成方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】高分子基材1の表面に、回路パターンに沿ってレーザ光Lを照射することにより、高分子の化学結合部を選択的に解離させて照射域Zの基材1表面部を親水性に改質し、無電解メッキによって照射域Zに金属薄膜3を被着させる。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばパーソナルコンピュータやその関連機器、オーデオ及びビデオ用機器、インクジェットプリンタ、携帯電話の如き電子機器類、家庭用電気製品、産業用ロポット、自動生産ラインの制御装置、各種計測装置等に使用されるプリント配線板等に好適な薄膜回路の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、フレキシブルプリント配線板として代表的な3層銅張り積層板は、一般的に図7(A)〜(F)に示す手順で製造されている。すなわち、(A)ポリイミドフィルム11の接着剤12を塗布した表面に、予め被着面13aを化学的又は物理的に粗面化した銅箔13を貼着して積層一体化し、(B)この積層体10の銅箔13側の表面にフォトレジスト14を塗布し、(C)該フォトレジスト14を回路パターンのマスク15を介して露光し、(D)現像して非露光部の未硬化レジストを剥離除去し、(E)銅箔13の露呈部分をエッチングによって除去し、(F)硬化レジストの除去によって回路を構成する銅層13bを露呈させる。なお、近年においては、(C)の露光工程で、マスク15を使用する代わりに、レーザ光を回路パターンに沿って照射するレーザ露光も行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のフレキシブルプリント配線板では、回路構成材料として用いる銅箔13がポリイミドフィルム11への貼着操作等の取扱いに耐える強度を確保するために数十〜百μmの厚さを有する上、エッチング時に側面浸食を生じることから、回路の配線幅は最小でも100μm程度となり、これによって回路パターンの高密度化に限界があり、今後の電子機器類の高性能化及び小型化の進展に最早対応できなくなっている。
【0004】
また、前記の製造方法では、工程的に非常に煩雑であることに加え、接着剤、フォトレジスト液、現像液、レジスト剥離液、エッチング液等の薬剤を消費することから、製作コストが極めて高く付いて少量多品種生産に不向きである上、使用後の現像液、レジスト剥離液、エッチング液等が環境への負荷となって廃液処理にもコストがかかり、しかも一般的に銅箔13として用いた銅の約80%がエッチングによって除去されるが、その回収にはコストが嵩むために通常は廃棄されており、省資源の観点からも問題が多い。
【0005】
本発明は、上述の情況に鑑み、プリント配線板等の回路の導体厚みを極薄に設定でき、もって従来に比較して回路パターンを格段に高密度化することを可能とし、しかも従来のような接着剤、フォトレジスト液、現像液、レジスト剥離液、エッチング液等を必要とせず、極めて簡素な工程によって基材に対する導体金属の被着強度が大きい高性能な薄膜回路を安価に且つ確実に形成でき、また環境に優しく省資源にも貢献できる方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る薄膜回路の形成方法は、高分子基材の表面に、レーザ光を照射することにより、高分子の化学結合部を選択的に解離させて照射域の基材表面部を親水性に改質し、無電解メッキによって前記照射域に金属薄膜を被着させることを特徴としている。
【0007】
上記方法によれば、高分子基材の本来が疎水性である表面に、レーザ光の照射によって親水性の表面部が形成されるから、次の無電解メッキにおいて、その親水性の表面部のみに金属が析出付着する。従って、該高分子基材の表面に対するレーザ光の照射パターンを回路パターンに設定することにより、導体金属による薄膜回路が直接に形成されることになる。しかして、この方法では、レーザ光の照射域がそのまま金属薄膜の被着部となるから、回路の配線幅を数μmから数十μmに設定することが可能であると共に、無電解メッキによって被着する金属層の厚さを配線幅に対応した極薄に設定できるから、従来に比較して飛躍的に高密度化することが可能となる。また、本方法では、レーザ光の照射と無電解メッキのみで薄膜回路を形成できる上、導体金属を回路形成に必要な量だけ消費することになって無駄がない。
【0008】
上記のようにレーザ光の照射パターンを回路パターンに設定するには、請求項2の発明のようにレーザ光によって高分子基材の表面に回路パターンを描画する方法か、もしくは請求項3の発明のように回路パターンに対応した光透過パターンを有するマスクを介してレーザ光を照射する方法を採用すればよい。
【0009】
請求項4の発明は、上記請求項1〜3の薄膜回路の形成方法において、高分子基材の表面に、その高分子基材よりもアブレーションしきい値が高い材料の微粒子を散布したのち、回路パターンに沿って前記レーザ光を照射するすることにより、前記化学結合部の選択的解離と同時に照射域に微細凹凸を形成する構成としている。この場合、前記微粒子の蒸発を抑えて且つ高分子基材の表面部の蒸発を生じるように、レーザ光のエネルギ密度を調整することにより、その照射域の高分子基材表面に、各微粒子にてレーザ光が遮られる部分を凸部、遮られない部分を蒸発による凹部とする微細凹凸が形成され、この微細凹凸によって次の無電解メッキで形成される薄膜回路の導体金属層にアンカー効果がもたらされる。
【0010】
また、請求項5の発明は、上記請求項4の薄膜回路の形成方法において、高分子基材の表面に前処理としてレーザ光を照射し、この照射時のアブレーションにて飛散したカーボン微粒子を該高分子基材の表面に自然落下させることにより、前記前記微粒子の散布を行う構成としている。この場合、前処理のレーザ光照射によって高分子基材の表面に前記微粒子を散布できるから、散布用の微粒子を別途に用意する必要がなく、その散布のための各別な装置も不要であり、表面改質工程においてレーザ光の照射を複数回(通常は2回)行うだけで済む。
【0011】
更に、このような薄膜回路の形成方法の好適態様として、請求項6の発明では高分子基材がポリイミド系樹脂からなり、前記レーザ光の照射によってイミド環のC−N結合を選択的に解離後、親水基を付加する構成を、請求項7の発明では金属薄膜が銅又は銅合金からなる構成を、請求項8の発明ではレーザ光が紫外光である構成を、請求項9の発明では前記無電解メッキにおいて、浴液に振動を与える構成を、それぞれ採用している。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る薄膜回路の形成方法の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0013】
図1に示す薄膜回路の形成方法では、同図(A)に示す高分子基材1の表面に、まず同図(B)の如く、該高分子基材1よりもアブレーションしきい値の高い材料からなる微粒子2…を散布する。しかる後、同図(C)の如く、この微粒子2…を散布した高分子基材1の表面に、例えば集束レンズSにて集束させたレーザ光Lを、スキャンニングヘッドHを介して所定の回路パターンに沿って照射する。次に、このレーザ照射後の高分子基材1を無電解メッキ処理に供することにより、高分子基材1の表面における前記レーザ光Lの照射域のみに金属薄膜3が被着し、もって薄膜回路30が形成される。
【0014】
なお、レーザ光の走査は、スキャンニングヘッドを用いる代わりに、高分子基材を載せたXYテーブルを移動させる方法で行ってもよいし、スキャンニングヘッドによる光軸方向の移動とXYテーブルの移動とを組み合わせる方法で行うこともできる。
【0015】
また、本発明の薄膜回路の形成方法では、上記のようにレーザ光の走査によって回路パターンを描画する方法に代えて、回路パターンに対応した光透過パターンを有するマスクを用い、このマスクを介して高分子基材の表面にレーザ光を一括照射する方法を採用してもよい。すなわち、このマスクを用いる方法では、必要とする回路パターンの一部又は全部を一括して表面改質できる。
【0016】
ここで、前記の無電解メッキ処理により、高分子基材1の表面における前記レーザ光Lの照射域のみに金属薄膜3が被着するのは、高分子基材1の表面が本来的に疎水性(撥水性)であってメッキ液を弾くが、レーザ光Lの照射域では当該基材の高分子の化学結合部がレーザ光Lのエネルギによって選択的に解離し、親水性に改質されてメッキ液に対する親和性を示すため、メッキ浴の還元作用によって金属が該照射域に選択的に析出被着することによる。
【0017】
因みに、高分子基材1がポリイミドの場合、下記の式(I)で示す化学構造を有するが、適切な強度のレーザ光を照射することにより、イミド環のC−N結合が選択的に解離し、この解離部に例えば下記の式(II)に示すようにOH基の如き親水基を付加させることにより、強い親水性を発揮させることができる。なお、このように親水基を付加させるには、特に各別な処理を行う必要はなく、大気中でのレーザ光照射では照射を行った段階で空気中の水分に由来してOH基が自然に前記解離部に付加することになる。また、不活性ガス等の人工的雰囲気中でのレーザ光照射では、その雰囲気中に水蒸気等の親水基を生成し得るガス成分を混入しておけばよい。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
一方、レーザ光Lの照射を行う前に、前記のように高分子基材1の表面に予め微粒子2…を散布しておくことにより、無電解メッキにおいて析出被着する金属薄膜3の当該基材1表面に対する被着強度及び密着性が向上する。これを図2によって説明すると、同図(A)の如く高分子基材1の表面に微粒子2…が散布された状態でレーザ光Lを照射する際、そのエネルギ密度を微粒子2…の蒸発を抑えて且つ高分子基材1の表面部の蒸発を生じるように調整することにより、レーザ光Lの照射域Lでは、該基材1表面における微粒子2…の各粒子の影になる部分はレーザ光が遮られるために蒸発が進まないのに対し、微粒子2…の存在しない部分の蒸発が進行する結果、照射後の表面には同図(B)の如く微粒子2の影になる部分が凸部、他の部分が凹部となった微細凹凸Gを生じる。しかして、この微細凹凸Gを有する照射域Zは前記のように親水性に転化しており、次の無電解メッキによって同図(C)の如く該微細凹凸Gを有する部分に金属薄膜3が析出被着することになるから、該金属薄膜3は微細凹凸Gによるアンカー効果によって基材1表面に対して優れた被着強度及び密着性を発揮する。
【0021】
高分子基材1の表面に上記微粒子2…を散布する手段としては、レーザ照射時のアブレーションによって生成・飛散するカーボン粒子を自然落下させる方法、アーク放電での電極からのカーボンナノ粒子の飛翔のような放電による飛翔散布、機械的な散布、ノズルからの噴霧、スパッタリング等、種々の方法を採用できる。なお、レーザ照射による方法は、既述した基材1表面を改質するためのレーザ光照射とは別に、前処理として該基材1表面に1回又は複数回のレーザ光照射を行うことにより、該該基材1の高分子のアブレーションによって生じたカーボン粒子が飛翔後、当該基材1表面に重力で自然に落下するのを利用するものであり、そのためのレーザ光は改質用のレーザ光照射と同じ所(パターン)に照射すればよい。
【0022】
なお、微粒子2としては、前記カーボン粒子を始めとして、高分子基材1よりもアブレーションしきい値の高いものであれば特に制約なく使用できるが、機械的な散布やノズルからの噴霧による散布では、残留した当該微粒子による回路短絡を回避する上でセラミック、ガラス、岩石、鉱滓等の無機質の不導体材料の微粉末が好適である。ただし、無電解メッキの前に表面洗浄等で付着微粒子を確実に除去できる場合は、導体材料の微粉末も使用可能である。
【0023】
高分子基材1としては、薄膜回路を設けた物品の用途に応じた材料及び形態のものを使用するが、ポリマー構造中に親水基を含まず、疎水性(撥水性)の表面を有することが必要である。しかして、このようにポリマー構造中に親水基を含まない高分子材料は多々あるが、レーザ光照射による改質を行う上で耐熱性のよい高分子材料が望ましく、例えばポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエステルイミド系樹脂等が挙げられ、特にプリント配線板用として高耐熱性であるポリイミド系樹脂が最適である。
【0024】
高分子基材1の表面改質に使用するレーザ光の照射源としては、使用する高分子基材1の種類、つまり高分子の選択的解離させるべき化学的結合の種類に対応した光子エネルギ強度を有するものを使用すればよいが、とりわけ紫外光(波長400μm以下)レーザが好適である。
【0025】
因みに、図3は、レーザ波長と光子エネルギとの関係を曲線Pにて表すと共に、この曲線P上に高分子の主な化学結合(C−N、C−C、C=C、C≡C、C≡N)の結合エネルギを示している。なお、C−C結合はベンゼン環のような芳香族環の構成部を除くものである。この図より、特定の化学結合を選択的解離させるには、その結合エネルギよりも高い光子エネルギを有する波長のレーザが必要であり、例えばポリイミド系樹脂からなる高分子基材の前記表面改質ではC−N結合の選択的解離を行う上で紫外光レーザが有用であることが判る。ただし、可視光レーザであっても、近年開発されたフェムト(10−15 )秒レーザによれば、1光子のエネルギーが化学結合エネルギより小さくとも、多光子解離(2個以上の光子による解離)によって同様に表面改質を行うことができる。
【0026】
表面改質に使用するレーザ光の強度は、高分子基材の種類によって適正範囲が異なるが、そのパワー密度を高分子基材のシブレーションしきい値以上に設定すべきである。また、レーザ光照射時の雰囲気は、特に制約はなく、大気中及び不活性ガス中のいずれでもよい。
【0027】
無電解メッキは、プラスチックへの導電金属のメッキに利用される一般的な手法に準じ、金属イオンを供給する金属塩、還元剤、金属キレートを形成するためのキレート剤、NaOH等のPH調整剤、安定剤を始めとする任意の助剤成分等を含むメッキ液を調製し、そのメッキ浴に前記の回路パターンに沿うレーザ照射を経た高分子基材1を所要時間浸漬すればよく、浴中の金属イオンが還元反応によって金属として高分子基材1の前記レーザ光の照射域Zのみに選択的に析出し、薄膜回路が形成されることになる。
【0028】
薄膜回路を形成する金属としては、無電解メッキが可能で且つ導電性の高いものであればよく、通常は銅又は銅合金が採用される。そして、銅又は銅合金を採用する場合、メッキ厚を1μm以下とする薄付け用としては、例えば、金属塩に硫酸銅、還元剤にホルムアルデヒド、キレート剤にロッシェル塩がそれぞれ一般的に使用される。また、メッキ厚10μm以下までの厚付け用としては、例えば、金属塩に硫酸銅、還元剤にホルムアルデヒド、キレート剤にEDTAがそれぞれ一般的に使用される。
【0029】
しかして、本発明における無電解メッキ工程は、各別な条件設定を行う必要がなく、通常の無電解メッキプロセスに準じて処理すればよいから、一般的に汎用されている無電解メッキ装置により、メッキ金属の種類に応じた市販の無電解メッキ浴を用いて行える。例えば、無電解銅メッキでは、薄付け用又は厚付け用の無電解銅メッキ浴として市販されるものを支障なく使用できる。
【0030】
なお、無電解メッキにおいては、超音波等によって浴液に振動を与えるようにすれば、高分子基材の表面改質部に対する液の接触確率が高まることから、金属薄膜の形成効率が向上するという利点がある。
【0031】
このような薄膜回路の形成方法によれば、微粒子の散布、レーザ光の照射、無電解メッキという僅か3工程で導体回路を形成できるため、プリント配線板等を極めて能率よく低コストで製作でき、多品種少量生産に適する。しかも、回路パターンは、レーザ光の照射域がそのまま金属薄膜の被着部になることから、配線幅を数μmから数十μmに設定可能であり、且つ無電解メッキによって被着する金属層の厚さを配線幅に対応した極薄に設定できるから、従来に比較して飛躍的に高密度化することが可能である。また、本方法では、導体金属を回路形成に必要な量だけ消費するため、従来のエッチングによる回路形成のような無駄がなく、省資源に貢献でき、しかも無電解メッキのメッキ浴は消費成分を補充して繰り返し使用できるから、廃液処理の負担が従来に比して著しく軽減され、プロセス全体を通して環境への負荷は極めて僅少となる。
【0032】
なお、上述した実施形態では、無電解メッキで形成する金属薄膜の高分子基材に対する被着強度及び密着性を高めるために、レーザ光の照射前に基材の表面に微粒子を散布して微細凹凸を形成するようにしているが、本発明方法にあっては、金属薄膜の膜厚や回路パターンの形態等により、特に微細凹凸によるアンカー効果がなくとも充分な被着強度及び密着性が得られる場合は、微粒子の散布を省略してもよい。従って、この場合には、薄膜回路の形成をレーザ光の照射と無電解メッキの2工程で行え、プリント配線板等の更なる製造能率の向上と低コスト化を図ることができる。
【0033】
【実施例】
短パルスFGH(第四高調波)レーザ(MHI社製Meister1000DF、パルス幅3.5×10−9秒、波長266μm)を用い、厚さ50μmのポリイミドフィルムからなる基材の表面(上面)に、前処理として、照射面でのパワー密度をポリイミドのアブレーションしきい値以上に設定したレーザ光を照射スポット径20μmで直線状に走査させて照射し、アブレーションによって発生・飛散したカーボン粒子を自然落下によって当該基材表面に散布した。次いで、このカーボン粒子を散布した基材表面に、同レーザによってレーザ光を再び同条件で直線状に走査させて照射し、照射域を親水性に改質すると共に微細凹凸を形成した。なお、本実施例では、薄膜回路とする金属薄膜の形成状態を調べるために、模擬配線パターンとして直線パターンを採用した。
【0034】
次に、上記のレーザ光の照射によって表面改質及び微細凹凸形成を行ったポリイミドフィルムについて、超音波洗浄槽を用い、薄付け用無電解銅メッキ浴(奥野製薬社製…以下の薬剤商品名も同様)により、常法に準じ、以下の手順による無電解銅メッキを行い、前記表面改質部に銅薄膜を被着させた。なお、以下において、ポリイミドフィルムの浴液には超音波による振動を与えるようにした。
【0035】
超音波洗浄槽において、ポリイミドフィルムを、まず液温65℃の脱脂用薬液(エースクリーンA220)中に5分間浸漬して脱脂を行い、スプレー水洗後にキャタリスト処理として35%HCl溶液とパラジウム触媒溶液(キャタリストC)との3:1混合液中に常温で4分間浸漬し、スプレー水洗後にアクセレータ処理として液温40℃の98%H2 SO4 溶液中に4分間浸漬し、更に水洗後に無電解メッキ浴剤(溶液OPC−700AとOPC−700Bとの1:1混合液)中に常温下で20分間浸漬して銅メッキを行った。
【0036】
上記の無電解銅メッキを施したポリイミドフィルムついて、前記表面改質部を含む一部表面の拡大顕微鏡による写真(100倍)を図4に、同じく低真空SEM−EDX(エネルギ分散型X線分光器)による同定パターンを図5に、それぞれ示す。図4において、白い直線として視認される部分が光源からの光を反射する銅薄膜の被着部であり、レーザ光の照射幅に一致する20μmの幅でレーザ光が走査した全長にわたって連続していることが確認された。また、図5に示すように、ポリイミドフィルム表面における銅の存在は幅20μmのレーザ光照射域のみであり、無電解銅メッキによって該照射域に選択的に銅が被着していることが確認された。
【0037】
なお、レーザ光の照射域が親水性に改質されたことは前記無電解メッキによる該照射域への選択的な銅薄膜形成によって実証されるが、これを更に確認するため、前記実施例におけるレーザ光の照射前後のポリイミドフィルムについて、X線光電子分光装置(XPS)によるCisスペクトル分布計測を行った。図6の(A)はレーザ光照射前、(B)は同照射後のそれぞれCisスペクトル分布を示す。図6(A)では改質前の前記式1で示すポリイミドの分子構造中のイミド環(O=C−N−C=O)のピーク(288.5eV)が存在している。しかるに、図6(B)では、該イミド環のピークが低下すると共に、該イミド環の開裂によるイミド結合(O=C−NH)のピーク(287.9eV)と、カルボキシル基(O=C−OH)のピーク(289eV)とが生成している。また、図6(A)に対して(B)では285〜287eVのショルダー部が低下しており、この低下はイミド環に隣接するC−CONの減少を示唆している。
【0038】
上記のCisスペクトル分布計測結果から、ポリイミドフィルム表面のレーザ光の照射域では、イミド環のC−N結合が選択的に解離して、この解離部にOH基が付加し、前記式2前記化2で示す構造に転化しており、これによって親水性に改質されていることが明らかである。なお、このようなイミド環の開裂によるアミド結合とカルボキシル基の生成は、KOHやNaOH等のアルカリ液による表面改質において知られている。
【0039】
【発明の効果】
請求項1に係る薄膜回路の形成方法によれば、高分子基材の表面に、レーザ光を照射することにより、照射域の基材表面部を親水性に改質し、無電解メッキによって該照射域に金属薄膜を被着させることから、高分子基材の表面に配線幅が数μmから数十μmといった導体金属からなる回路パターンを形成でき、従来に比較して回路パターンを飛躍的に高密度化することが可能となり、しかもレーザ光の照射と無電解メッキのみで薄膜回路を形成できるため、プリント配線板等を極めて能率よく低コストで製作でき、少量多品種生産に適する上、導体金属を回路形成に必要な量だけ消費するため、無駄がなく省資源に貢献でき、しかも廃液処理の負担が従来に比して著しく軽減され、プロセス全体を通して環境への負荷が極めて僅少となる。
【0040】
請求項2の発明によれば、上記の薄膜回路の形成方法において、高分子基材の表面にレーザ光で直接に配線パターンを描画することにより、無電解メッキ経て該パターン通りに金属薄膜が被着するから、複雑で精緻な薄膜回路でも極めて容易に形成できる。
【0041】
請求項3の発明によれば、上記の薄膜回路の形成方法において、回路パターンに対応した光透過パターンを有するマスクを介してレーザ光を照射することから、必要とする回路パターンの一部又は全部を一括して表面改質でき、それだけ表面改質操作を能率よく行える。
【0042】
請求項4の発明によれば、上記の薄膜回路の形成方法において、高分子基材の表面に、その高分子基材よりもアブレーションしきい値が高い材料の微粒子を散布したのち、レーザ光を照射するすることから、表面改質と同時に照射域に微細凹凸が形成され、この微細凹凸によるアンカー効果により、高分子基材に対する導体金属の被着強度及び密着性が向上する。
【0043】
請求項5の発明によれば、上記の表面改質と同時に微細凹凸の形成を行うに当たり、高分子基材の表面に前処理としてレーザ光を照射し、この照射時のアブレーションにて飛散したカーボン微粒子を該高分子基材の表面に自然落下させることから、散布用の微粒子を別途に用意する必要がなく、その散布のための各別な装置も不要であり、もって材料コスト及び設備コストが低減されると共に、表面改質工程においてレーザ光の照射を複数回行うだけで済むという利点がある。
【0044】
請求項6の発明によれば、上記の薄膜回路の形成方法において、ポリイミド系樹脂からなる高分子基材に、レーザ光を照射してイミド環のC−N結合を選択的に解離後、親水基を付加する構成であるから、特にプリント配線板の製造に好ましく適用できる。
【0045】
請求項7の発明によれば、上記の薄膜回路の形成方法において、金属薄膜が銅又は銅合金からなるため、特に導電性に優れて無電解メッキによる形成が容易な薄膜回路を形成できる。
【0046】
請求項8の発明によれば、上記の薄膜回路の形成方法において、レーザ光が紫外光であることから、上記の優れた薄膜回路をより確実に形成できるという利点がある。
【0047】
請求項9の発明によれば、上記の薄膜回路の形成方法において、無電解メッキ時に浴液に振動を与えることから、金属薄膜の形成効率が向上するという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る薄膜回路の形成方法を工程順に示す模式断面図であり、(A)は高分子基材、(B)は表面に微粒子を散布した高分子基材、(C)は該基材表面に対するレーザ光の照射状態、(D)は該基材表面に薄膜回路を形成した状態をそれぞれ示す。
【図2】同薄膜回路の形成における散布微粒子の作用を説明する模式断面図であり、(A)は微粒子を散布した高分子基材表面に対するレーザ光の照射状態、(B)はレーザ光照射後の高分子基材、(C)は該基材表面に導体金属層を形成した状態をそれぞれ示す。
【図3】レーザ波長と光子エネルギとの相関図に、種々のレーザの波長と化学的結合の結合エネルギとを付記した説明図である。
【図4】実施例で無電解銅メッキを施したポリイミドフィルムの一部表面の拡大顕微鏡写真図である。
【図5】同ポリイミドフィルムの一部表面の低真空SEM−EDXによる銅の同定パターン図である。
【図6】同実施例におけるレーザ光照射前後のポリイミドフィルムのX線光電子分光装置によるCisスペクトル分布を示し、(A)はレーザ光照射前のCisスペクトル分布図、(B)はレーザ光照射後のCisスペクトル分布図である。
【図7】従来における3層銅張りプリント配線板の製造方法を工程順に示す模式断面図であり、(A)はポリイミドフィルムと銅箔との貼着状態、(B)は貼着後の銅箔表面にフォトレジストを塗布した状態、(C)は露光状態、(D)は未効果レジストを除去した状態、(E)はエッチング後の状態、(E)は回路形成後の状態をそれぞれ示す。
【符号の説明】
1 高分子基材
2 微粒子
3 金属薄膜
30 薄膜回路
L レーザ光
Z 照射域
G 微細凹凸
Claims (9)
- 高分子基材の表面に、レーザ光を照射することにより、高分子の化学結合部を選択的に解離させて照射域の基材表面部を親水性に改質し、無電解メッキによって前記照射域に金属薄膜を被着させることを特徴とする薄膜回路の形成方法。
- 前記レーザ光によって高分子基材の表面に回路パターンを描画することを特徴とする請求項1記載の薄膜回路の形成方法。
- 高分子基材の表面に、回路パターンに対応した光透過パターンを有するマスクを介して前記レーザ光を照射することを特徴とする請求項1記載の薄膜回路の形成方法。
- 高分子基材の表面に、その高分子基材よりもアブレーションしきい値が高い材料の微粒子を散布したのち、前記レーザ光を照射するすることにより、前記化学結合部の選択的解離と同時に照射域に微細凹凸を形成する請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜回路の形成方法。
- 高分子基材の表面に前処理としてレーザ光を照射し、この照射時のアブレーションにて飛散したカーボン微粒子を該高分子基材の表面に自然落下させることにより、前記前記微粒子の散布を行う請求項4記載の薄膜回路の形成方法。
- 高分子基材がポリイミド系樹脂からなり、前記レーザ光の照射によってイミド環のC−N結合を選択的に解離後、親水基を付加することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の薄膜回路の形成方法。
- 金属薄膜が銅又は銅合金からなる請求項1〜6のいずれかに記載の薄膜回路の形成方法。
- レーザ光が紫外光である請求項1〜7のいずれかに記載の薄膜回路の形成方法。
- 前記無電解メッキにおいて、浴液に振動を与えることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の薄膜回路の形成方法。
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