JP2004269957A - 鋼帯の酸洗方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】材質やスケール厚等の要因により異なる鋼帯の酸洗性に応じて、鋼帯毎にそれぞれ適正な濃度設定値を与え、その設定値に応じて槽内の酸濃度を制御することにより、酸液を供給される酸洗槽からの酸洗液の蒸発量を抑制しながら、酸洗の生産性を向上できる連続酸洗方法を提供する。
【解決手段】酸洗槽2a〜2eにそれぞれ収容される酸洗液に順次浸漬されることによって酸洗を行われる複数種の鋼帯1を分類する複数のグループそれぞれ毎に、酸洗槽2a〜2eにそれぞれ収容される酸洗液の温度及び/又は酸濃度の設定値を予め定めておき、複数種の鋼帯1に酸洗を順次行う際には、複数種の鋼帯1それぞれ毎に、酸洗槽2a〜2eにそれぞれ収容される酸洗液の温度及び/又は酸濃度を、設定値となるように調整することにより、鋼帯1を酸洗する。
【選択図】 図1
【解決手段】酸洗槽2a〜2eにそれぞれ収容される酸洗液に順次浸漬されることによって酸洗を行われる複数種の鋼帯1を分類する複数のグループそれぞれ毎に、酸洗槽2a〜2eにそれぞれ収容される酸洗液の温度及び/又は酸濃度の設定値を予め定めておき、複数種の鋼帯1に酸洗を順次行う際には、複数種の鋼帯1それぞれ毎に、酸洗槽2a〜2eにそれぞれ収容される酸洗液の温度及び/又は酸濃度を、設定値となるように調整することにより、鋼帯1を酸洗する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼帯の酸洗方法に関し、具体的には、鋼帯を酸洗する酸洗処理において、酸洗処理能力を最大限に維持しながらスケール残りや過酸洗さらには変色による歩留り落ち等の発生を確実に防止することができる鋼帯の酸洗方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱間圧延を行われた鋼帯の表面には、酸化物からなるスケールが存在する。このスケールは、一般的には鋼帯を例えば塩酸等からなる酸洗液に連続的に浸漬することにより行われる酸洗によって、除去される。通常、この酸洗は、並設された3〜5槽程度の酸洗槽を有する連続酸洗装置を用いて、行われる。
【0003】
図1は、5槽の酸洗槽2a〜2eを有する連続酸洗装置0の一例を示す説明図である。同図に示すように、酸洗は各酸洗槽2a〜2eに順次連続的に通板させることにより行われる。各酸洗槽2a〜2eに収容される酸洗液2a’ 〜2e’(本例では塩酸) は、鋼帯1との反応や鋼帯1による持ち出しによって徐々に減少する。そのため、この連続酸洗装置0では酸液供給装置5bから最終の酸洗槽2eに酸液を供給する。そして、酸洗槽2eに供給された酸液を、隣接する上流側の各酸洗槽2d〜2aへ順次オーバーフローさせる。最上流の第1槽2aからオーバーフローした酸洗液は、回収装置 (図示しない) に送られて回収され、再利用される。
【0004】
このように、この連続酸洗装置0では酸洗液2e’ 〜2a’ を各酸洗槽2e〜2aで循環させるため、各酸洗槽2e〜2aに収容される酸洗液の酸濃度は異なる。例えば、最終の酸洗槽2eにおける酸濃度は約12%(本明細書では特にことわりがない限り「%」は「質量%」を意味するものとする)であるのに対し、第1槽2aでは5%以下程度であり、その中間の酸洗槽2d〜2bでは酸濃度も中間的な値となる。
【0005】
各酸洗槽2e〜2aにはそれぞれ適正な酸濃度範囲が存在する。各酸洗槽2e〜2aににおける酸濃度が低過ぎると、スケールが完全には除去されずにスケール残りが発生し、通板速度を低下せざるを得なくなって生産能率が悪化する。一方、各酸洗槽2e〜2aにおける酸濃度が高過ぎると鋼帯1の表面のスケールが前半の酸洗槽2a、2bで早期に簡単に除去されてしまうため、後半の酸洗槽2c〜2eにおいて鋼帯1の表面と酸洗液との接触時間が増加し、過酸洗となる。また、酸ヒュームの増加によって酸原単位が悪化するとともに、洗浄工程において変色の発生を誘発することにもつながる。
【0006】
各酸洗槽2e〜2aの適正な酸濃度範囲は、主に、スケールの酸洗除去性によって決定付けられる。適正な酸濃度範囲は、スケールの酸洗除去性が良好な鋼板を酸洗する際には低濃度側へ、スケールの酸洗除去性が良好でない鋼板を酸洗する際には高濃度側へ、それぞれシフトする。そして、このスケールの酸洗除去性の良否を決定付ける大きな要素は、スケールの組成及び厚みである。
【0007】
酸洗において問題とするスケールは、鋼の熱間仕上圧延時に主として600 〜950 ℃の高温域で生成したものである。570 ℃以上におけるスケールの構造は、内側の地鉄と接するところにウスタイト(FeO) 、中間にマグネタイト(Fe3O4) 、大気と接する外側にはへマタイト(Fe2O3) の各層が存在する3層構造となる。各層の570 ℃以上における相対的な量は略一定であり、概略それぞれ95%、4%、1%程度であるが、一般に温度が低くなるにつれてウスタイト(FeO) の相対的な量は少しずつ減少する。ウスタイト(FeO) は、脱スケールを容易にするため、工業的に重要な意味を有するが、安定存在域が570 ℃以上であり、この温度以下ではマグネタイト(Fe3O4) とα−Fe とに共析的に分解する。したがって、600 ℃以上の高温巻取り材では冷却過程においてウスタイト(FeO) の大半がマグネタイト(Fe3O4) へと変態してしまい、酸洗性の悪いスケールとなり易い。また、それ以下の巻取り温度ではウスタイト(FeO) の一部は常温まで残存し、酸洗性が良好なスケールとなり易い。スケールの厚みに関しては、仕上圧延温度が高いほど、巻取り温度が高いほど、スケールは厚く成長し、難酸洗性のスケールとなり易い。
【0008】
以上述べてきたように、連続酸洗装置0において理想的な酸濃度管理を行うには、各々の鋼帯1の酸洗性に応じて、各鋼帯1毎に各酸洗槽における酸濃度及び温度を最適な値に制御することが望ましい。
【0009】
この連続酸洗装置0では、酸洗槽2eへの酸液の供給量を決定するには、酸洗槽2eに収容された酸洗液2e’ の実際の酸濃度を測定する必要がある。酸濃度の測定には、代表的なものとして、公知の滴定式分析計により測定する方法がある。しかし、周知のように、滴定分析法は卓上では優れた測定精度を有するものの、その装置及び分析工程の複雑さからオンラインでは信頼性及び精度が低下する。また、致命的欠点として1回の測定に長時間を有するため、時々刻々変化する各酸洗槽2e〜2aに収容された酸洗液の酸濃度2e’ 〜2a’ の変化を連続的に測定することはできない。
【0010】
酸洗液の酸濃度を短時間で測定できないという滴定分析計の欠点を補うために、例えば特許文献1には、酸洗液の酸濃度を測定せずに鋼帯の寸法や材質等に基づいて酸液の供給量を演算により求める発明が開示されている。また、特許文献2には、酸洗液の酸濃度を測定せずに酸洗の前後における鋼帯の板厚の測定値に基づいて酸液の供給量を演算により求める発明が開示されている。これらの従来の技術によれば、酸液を供給される酸洗槽に収容された酸洗液の酸濃度を、制御精度は±3〜5%と低いながらも、目標値の近傍に制御できる。
【0011】
しかし、これらの従来の酸濃度制御技術では、応答性や制御精度の問題から、鋼帯の材質やスケール厚等により異なる脱スケール速度に応じた酸濃度管理を行うことは困難であった。そのため、従来は、全鋼種に対し鋼帯にスケール残りが発生しない安全な高い濃度に槽内の酸濃度を設定することが、一般的に行われていた。そのため、塩酸の使用量は必然的に必要量よりも多いものとなっていた。したがって、鋼帯の酸洗性に応じた濃度管理を実現するには、まず第一に高い制御精度を有する濃度制御装置を開発する必要があった。
【0012】
なお、鋼帯の化学組成、熱間圧延時の巻取り温度およびスケール厚はいずれも脱スケール性に影響を及ぼす因子であるため、これらのうちの何れか一つを鋼帯のグループ分類、および酸洗液の濃度設定に反映させることが望ましい。また、板厚、コイル長、進行速度はいずれも酸洗時間に影響を及ぼす因子であるため、これらのうちの何れか一つを鋼帯のグループ分類、および酸洗液の濃度設定に反映させることが望ましい。
【0013】
従って、より好ましくは、鋼帯の化学組成、熱間圧延時の巻取り温度およびスケール厚のうちの何れか一つ、板厚、コイル長、進行速度のうちの何れか一つ、及び酸洗前処理工程を通板時の伸び率、の三つを鋼帯のグループ分類、および酸洗液の濃度設定に反映させることで、本発明の効果を最大限発揮することができる。
【0014】
そこで、本発明者らは、まず酸濃度制御精度上の問題を解決すべく、先に特許文献3により連続酸洗装置にかかる発明を開示した。この連続酸洗装置は、連続酸洗装置を構成する複数の酸洗槽のうちの2つ以上の酸洗槽と、2つ以上の酸洗槽へそれぞれ酸液を供給する酸液供給系と、2つ以上の酸洗槽にそれぞれ収容された酸洗液の酸濃度をそれぞれ連続的に測定する酸濃度連続測定装置と、2つ以上の酸洗槽にそれぞれ収容された酸洗液の酸洗時における酸消費量の予測値を、酸洗時の酸洗条件からそれぞれ算出し、算出した予測値に基づいて酸液供給量を決定して酸液供給系へ酸液供給信号を出力するとともに、酸液供給系から2つ以上の酸洗槽へ酸液が供給された後に酸濃度連続測定装置から出力される酸濃度の連続的な測定値に基づいて、2つ以上の酸洗槽にそれぞれ収容された酸洗液の酸濃度がいずれも目標値に一致するように、酸液供給系へ酸液供給信号を出力する制御装置とを組み合わせて備える。
【0015】
この提案にかかる連続酸洗装置は、連続酸洗装置を構成する複数の酸洗槽のうちの2つ以上の酸洗槽にそれぞれ収容された酸洗液の酸洗時における酸消費量の予測値を、酸洗時の酸洗条件に基づいて算出し、算出した予測値に基づいて2つ以上の酸洗槽それぞれへの酸液供給量を決定して酸液を供給し、酸液を供給された2つ以上の酸洗槽にそれぞれ収容される酸洗液の酸濃度を連続的に測定し、測定された酸濃度の連続的な測定値に基づいて、2つ以上の酸洗槽にそれぞれ収容された酸洗液の酸濃度がいずれも目標値に一致するように、2つ以上の酸洗槽への酸液供給量を制御する。
【0016】
この連続酸洗装置は、各酸洗槽からの酸洗液の蒸発量をできるだけ抑制しながら、各酸洗槽に収容された酸洗液の酸濃度を、いずれも従来よりも大幅に目標値に近づけることができる。
【0017】
このため、この装置によれば、既存の連続酸洗設備に対する改造をできるだけ抑制しながら、この連続酸洗設備を用いた酸洗の生産性を高めることができる。
【0018】
【特許文献1】特開昭57−174473号公報
【特許文献2】特開平7−54175 号公報
【特許文献3】特開2000−297390号公報
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
これらの従来の発明により、各酸洗槽の濃度は±1%程度の精度で制御可能となり、使用する酸の原単位も大きく向上した。
【0020】
しかし、鋼種やスケール厚によって異なる脱スケール速度に対応するため、例えば熱間圧延工程において高温巻き取りを行った鋼種等のように脱スケール速度が遅い鋼種に関しては、大幅に通板速度を低下せざるを得なかった。一方、厚物材のように、入側溶接サイクルタイムによって通板速度が規制されるコイル長の短い鋼種に関しては、上流槽内でスケールが早期に除去されてしまい、下流域で過酸洗になるという問題も生じていた。
【0021】
特に、特許文献3により開示された連続酸洗装置にかかる発明による酸消費量の予測値は、鋼種を酸洗完了時間(鋼板を浸漬後、酸洗が完了するまでの時間を示し、酸洗ラインで酸洗が完了する範囲で、最も早い通板速度に逆比例する)とスケール厚さより分類して、さらに精度を向上させることができる。また、別の分類方法の一つとして、熱間圧延時の巻取り温度及び鋼の化学組成を基に、酸洗完了時間とスケール厚さを近似的に表し、分類する方法もある。しかし、これらの方法は、いずれも酸消費量の予測値を算出するための方法、すなわち各槽の給酸量を決定するための方法であり、特に厚物材の過酸洗を防止するためには効果がない。
【0022】
本発明の目的は、材質やスケール厚等の要因により異なる鋼帯の酸洗性に応じて、鋼帯毎にそれぞれ適正な濃度設定値を与え、その設定値に応じて槽内の酸濃度を制御することにより、酸液を供給される酸洗槽からの酸洗液の蒸発量をできるだけ抑制しながら、酸洗の生産性を向上することができる連続酸洗方法を提供することである。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明は、複数の酸洗槽にそれぞれ収容される酸洗液に順次浸漬されることによって酸洗を行われる複数種の鋼帯を分類する複数のグループそれぞれ毎に、複数の酸洗槽にそれぞれ収容される酸洗液の温度及び酸濃度の一方又は双方の設定値を予め定めておき、複数種の鋼帯に酸洗を順次行う際には、これら複数種の鋼帯それぞれ毎に、複数の酸洗槽にそれぞれ収容される酸洗液の温度及び酸濃度の一方又は双方を、予め定めた設定値となるように調整しておくことを特徴とする鋼帯の酸洗方法である。
【0024】
この本発明に係る鋼帯の酸洗方法では、複数種の鋼帯が、鋼帯の化学組成、熱間圧延時の巻取り温度、表面のスケール厚、板厚、コイル長、進行速度、及び酸洗前処理工程を通板中の伸び率のうちの少なくとも1つによって、複数のグループに分類されることが、望ましい。
【0025】
これらの本発明に係る鋼帯の酸洗方法では、酸洗液の温度及び酸濃度の一方又は双方の設定値が、鋼帯の化学組成、熱間圧延時の巻取り温度、表面のスケール厚、板厚、コイル長、進行速度、及び酸洗前処理工程を通板中の伸び率のうちの少なくとも1つを用いた計算によって、予め定められることが、望ましい。
【0026】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係る鋼帯の酸洗方法の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、近年は鋼帯の酸洗方法として塩酸による酸洗が主流となっているため、以降の説明は酸洗液として塩酸を用いた場合を例にとる。
【0027】
本実施の形態では、上述した図1に示す連続酸洗装置0を用いて、本発明に係る鋼帯の酸洗方法を行った。
本実施の形態では、5槽からなる酸洗槽2a〜2eの第3槽2c及び第5槽2eに、高応答性を有する連続式酸濃度計3a、3bを設置した。この連続式酸濃度計3a、3bは、本出願人が特願2000−51963 号により開示した酸濃度測定装置に係るものであって、酸液のサンプリングから測定までを1分間以内で行うことができ、測定後の酸液サンプルは第3槽2c及び第5槽2eそれぞれに戻されるため、測定に伴う酸洗液2c’ 、2e’ のロス分が殆どないという特徴を有する。さらに、酸洗液2c’ 、2e’ のサンプリングは連続的に行われるため、略連続的に測定できる。図1に示すように、連続式酸濃度計3aを設置した第3槽2cには酸液供給装置5aを設けるとともに、連続式酸濃度計3bを設置した第5槽2eには酸液供給装置5bを設けた。
【0028】
連続式酸濃度計3a、3bの濃度検出部では、サンプリングした酸の温度、密度及び導電率が測定される。測定されたこれらのデータは、連続的に酸濃度制御装置6に入力され、この酸濃度制御装置6により塩酸の酸濃度に変換される。
【0029】
本実施の形態では、各酸洗槽2a〜2eにそれぞれ収容される酸洗液2a’ 〜2e’ に順次浸漬されることによって酸洗を行われる複数種の鋼帯1を複数のグループに分類しておき、複数のグループそれぞれ毎に、酸洗液2a’ 〜2e’ の酸濃度の設定値を予め定めておく。そこで、これらの設定値の事前設定について以下に説明する。
【0030】
図2は、酸洗において脱スケール時間 (秒) すなわち脱スケール速度に及ぼす塩酸濃度 (質量%) の影響を示すグラフである。また、図3は、塩酸蒸気圧(mmHg)に及ぼす塩酸濃度 (質量%) の影響を示すグラフである。
【0031】
図2に示すグラフから、酸洗の生産性を向上するためには、脱スケール速度の上昇を図るために塩酸濃度を高めればよいことがわかる。しかしながら、塩酸濃度を上げ過ぎると、図3にグラフで示すように、塩酸蒸気圧が高まって塩酸蒸発量が増加し、酸液の原単位の低下を招き、さらに塩酸ヒュームによる変色、錆といった問題が発生する。
【0032】
すなわち、酸洗の際の各酸洗槽2a〜2eにそれぞれ収容される酸洗液 (塩酸)2a’〜2e’ の濃度は、必要な脱スケール速度が得られる範囲内で最小の値に設定することが、酸洗の生産性を阻害することなく、高品位の表面肌を得ることができ、かつ酸液を供給される酸洗槽2c、2eからの酸洗液2c’ 、2e’ の蒸発量をできるだけ抑制することができるために、望ましい。
【0033】
なお、本実施の形態とは異なり、各酸洗槽2a〜2eに収容された酸洗液2a’ 〜2e’ の温度を制御しても、本実施の形態と同様の効果が奏されるが、本実施の形態のように酸濃度を制御する場合に比較すると制御の変動が非常に緩やかで応答性が悪く、鋼帯1の酸洗のように小ロット単位で鋼種が短時間で変動する制御対象には、制御の追従性が芳しくなく、不向きである。
【0034】
次に、酸洗時の脱スケール速度に影響を及ぼす因子▲1▼、▲2▼について説明する。
▲1▼仕上圧延温度、巻取り温度
上述したように、スケールが厚いほど、また冷却過程におけるウスタイトのマグネタイトへの共析変態率が高いほど、難酸洗性のスケールが生成し易い。このため、例えば仕上圧延温度が高い極低炭素鋼や600 ℃を超える高温巻取り材などは、通板速度を通常よりも遅くする。したがって、難酸洗性のスケールが生成し易いこれらの鋼種の鋼帯を酸洗する際は、スケール残りを防止するために通板速度を低下するか、又は酸濃度を高める必要がある。
【0035】
▲2▼スケールブレーキング
酸洗前のスケールブレーキング工程も通板速度に大きく影響する。酸洗による脱スケールは、酸による溶解過程と物理的剥離過程との複合現象であることが広く知られている。剥離過程で支配的な因子は、スケールブレーキング工程において導入されるスケール中の亀裂の密度である。これは、スケール中の亀裂から母材である鋼帯との界面へ侵入した酸がスケールおよび母材の界面を侵食することによってスケールの剥離が進行するからである。したがって、スケールの亀裂密度が高い程スケール及び母材の界面への酸の侵入は活発になり、スケールの剥離が促進される。一般にスケールブレーキング工程における伸び率が高いほど亀裂密度が高くなり、脱スケール速度が速くなることが知られている。
【0036】
これらの因子▲1▼、▲2▼は、いずれも、脱スケール速度を決定付ける因子であるため、これらの因子▲1▼、▲2▼を考慮して、操業上の通板速度を決定する。しかしながら、実際の操業の中では逆に操業上の制約からまず通板速度が決定されることもある。例えば厚物材のように単尺のコイルでは、酸洗槽の入側での溶接サイクルタイムがネックとなり、酸洗槽の通板速度が制約される。酸洗槽の入側がネックとなる場合の槽内の平均通板速度は、単純に、槽内平均通板速度=コイル長/入側サイクルタイムとして与えられる。
【0037】
これからも理解されるように、通板速度は、材質やスケール厚には無関係に一義的にコイル長さによって決められる。このような場合、通常、槽内通過時間は脱スケール時間を大幅に上回るため、脱スケールは上流側の酸洗槽を通過した時点で早期に完了し、その後長時間にわたって酸洗液が接触する状態となる。このため、厚物材では過酸洗気味になることもしばしばある。このような場合、通板速度の制約を受けるために通板速度を上げることはできないため、過酸洗を防止するためには酸濃度を下げることが最も効果的である。
【0038】
さらに、酸洗変色を防止するために酸濃度の設定値が制約を受ける場合もある。酸洗工程では、最終の酸洗槽の直下流に水洗浄工程を有するが、水洗浄の際に鋼板の表面に残存する酸によって遊離した鉄イオンと水、酸素とが反応して変色を発生させることがある。変色は、水洗浄が不十分な状態で長時間経過した際に出易く、実操業上では通板速度の遅い厚物通板時に発生し易い。また、厚物は上述したように過酸洗になり易いため、ピットに入り込んだ酸が水洗除去され難く、変色反応の進行を助長する。さらに、鋼板の温度が下がり難いことも変色発生の一因となる。したがって、こうした変色の発生し易い材料に対しては、酸濃度を下げることにより過酸洗を防止できるとともに、ヒューム低減による変色防止効果も期待できる。
【0039】
以上説明したように、鋼帯の酸洗では、鋼帯1本毎に酸濃度の適正な範囲が存在し、主として脱スケール速度により決定される。脱スケール速度に影響する因子としては、鋼帯の化学組成、熱間圧延時の巻取り温度、表面のスケール厚、板厚、コイル長、進行速度及び酸洗前処理工程を通板中の伸び率等がある。また、コイル寸法によっては通板速度の制約を受けるものもあり、この場合にはコイルの品質劣化を防止するためには、酸濃度を適正化することが重要である。
【0040】
そこで、本実施の形態では、脱スケール速度、もしくは通板速度制約に応じて鋼種を大きく3つに分類し、各々最適な濃度設定を検討した。分類は、▲1▼熱間圧延工程における巻取り温度が600 ℃を超える高温巻き取り材、▲2▼コイル全長が短いため入側ネックとなり最高通板速度が180mpm以下となる、板厚が5mm以上の厚物材、▲3▼それ以外の一般材の3分類とした。
【0041】
各分類毎に、スケール残りが発生しない塩酸の濃度の範囲を求めた結果を表1にまとめた。表1に示すように、鋼種によってスケール残りが発生しない最小の塩酸濃度には大きな違いがある。
【0042】
【表1】
【0043】
図1において、酸濃度制御装置6では、上位プロセスコンピュータ8から酸洗ライン制御装置7を介して送られるこの鋼帯1についての設定濃度と、測定された実測濃度とを比較し、適正給酸量を算出し、算出結果に基づいて、各槽2a〜2eの新酸供給バルブ5へ開度指令を送る。
【0044】
同時に、酸濃度制御装置6では、時々刻々、酸洗槽2a〜2e内へ導入される鋼帯1のスケール量を板幅情報及び通板速度実績から算出し、消費される塩酸の量を予測計算して給酸指令を出す予測制御もあわせて行う。これにより、定常状態では設定値に対して±1%の制御精度を確保することができる。
【0045】
そして、本実施の形態では、複数種の鋼帯1に酸洗を順次行う際には、これら複数種の鋼帯それぞれ毎に、複数の酸洗槽2a〜2eにそれぞれ収容される酸洗液2a’ 〜2e’ の酸濃度を、予め定めた設定値となるように調整しておくことにより、鋼帯1の酸洗を行う。
【0046】
このように、本実施の形態によれば、材質やスケール厚等の要因により異なる鋼帯1の酸洗性に応じて、鋼帯1毎にそれぞれ適正な濃度設定値を与え、その設定値に応じて酸洗槽2c、2eに収容された酸洗液2c’ 、2e’ の酸濃度を制御することにより、酸洗液2c’ 、2e’ を供給される酸洗槽2c、2eからの酸洗液2c’ 、2e’ の蒸発量をできるだけ抑制しながら、酸洗の生産性を向上することができる。
【0047】
【実施例】
次に、本発明を実施例を参照しながら具体的に説明する。
(実施例1)
まず、図1に示す連続酸洗装置0を流れる全ての鋼帯1を表2に示すように、▲1▼巻取温度≧600 ℃、▲2▼板厚≧5mm、及び▲3▼一般材 (▲1▼、▲2▼以外) と3つのグループに分類し、各々のグループに対する各酸洗槽2a〜2eに収容される酸洗液2a’ 〜2e’ の濃度設定値を表1の結果に基づいて設定した。
【0048】
【表2】
【0049】
そして、図1に示す連続酸洗装置0を用いて、表3に示す22種の鋼帯 (低炭素鋼鋼帯及び極低炭素鋼帯) を連続酸洗した。
【0050】
【表3】
【0051】
この連続酸洗の際に、第3槽2c及び第5槽2eの酸濃度の実績値の推移を、設定値とともに図4にグラフで示す。また、比較のため、表3に示したスケジュールを表2の▲3▼に示す酸洗条件に固定して、連続酸洗を行った。なお、本実施例では濃度設定値はオペレータの手入力で切替えた。結果を表4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
本発明に係る酸洗方法 (実施例) によれば、全ての鋼帯に対して、スケール残りや、過酸洗及び過酸洗による変色を発生させることなく、高品位の酸洗鋼帯を製造することができ、かつ酸洗能率も大幅に向上させることができた。
【0054】
一方、比較例では、巻取温度≧600 ℃の鋼帯でスケール残りが発生し、通板速度を落として操業せざるを得なかった。また、板厚≧5mmの材料では通板速度が入側サイクルタイムによって規制されているため遅く、過酸洗気味となり、一部の材料では酸洗変色も発生した。
【0055】
(実施例2)
実施例1で用いた連続酸洗装置0を用いて酸洗を行った。連続式酸濃度計3a、3b及び酸液供給装置5a、5bが設置された第3槽2c及び第5槽2eの濃度設定値(Cs)は、演算式 Cs=Co+α+β・(Cx−Cm)+γ・(Tx−Tm)+δ・E により求めた。
【0056】
ここで、Coは第3槽2c及び第5槽2eの基準濃度設定値であり、αは鋼帯1の材質に基づいて設定される定数であり、βは熱間圧延時の巻取り温度の酸洗性への影響係数であり、Cxは巻取り温度の実績値であり、Cmは巻取り温度が酸洗性に影響し始める最小温度であり(本例では600 ℃としたが、Cx<Cmの場合はCx=Cmとする)、γは板厚の酸洗性への影響係数であり、Txは鋼帯1の板厚であり、Tmは板厚が酸洗性に影響し始める最小値であり(本例では5.0mm としたが、Tx<Tmの場合はTx=Tmとする)、δは酸洗前処理工程における伸び率の酸洗性への影響係数であり、さらに、Eは酸洗前処理工程におけるトータル伸び率である。
【0057】
実施例1と同じスケジュールに対して上記の式により設定濃度を算出した結果を表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
本実施例では、図1の酸濃度制御装置6に、上記式における各係数を記憶させ、1コイル毎に設定濃度を自動計算させた。表5に示した濃度設定条件にて酸洗を実施した際の第3槽2c及び第5槽2eの酸濃度の推移を図5にグラフで示す。
【0060】
本実施例においても、実施例1と同様、スケール残りや過酸洗および過酸洗による変色を発生させることなく、高品位の酸洗板を製造でき、かつ酸洗能率も大幅に向上させることができた。
【0061】
なお、実施例1及び2では、設定濃度が大きく下がる際には第1槽2a〜第5槽2e全てに設置された給水配管 (図1には図示していない) から水を投入することにより下降方向の濃度の追従性を向上させた。
【0062】
しかし、より効率的に本発明に係る連続酸洗方法を行うには、例えば実施例2において自動スケジューリング機能等により酸洗順を決定する際、1コイル毎の設定濃度の変化が、例えば第3槽2cで±0.5 %以内になるよう制限すれば、水を投入することなく良好な濃度の設定値への追従性が得られる。
【0063】
なお、本実施例2では、材質(化学組成)、巻取り温度、板厚及び酸洗前処理工程における伸び率をもとに酸洗液の濃度測定を行ったが、例えば材質及び巻取り温度の替わりにスケール厚を、又は板厚の替わりにコイル長を用いても同様の効果が得られることはいうまでもない。その場合は、スケール厚やコイル長が必要酸濃度に及ぼす影響係数をテストにより求めておき、演算式Cs=Co+α+β・(Cx−Cm)+γ・(Tx−Tm)+δ・E の右辺を変形させて用いればよい。
【0064】
より簡易的には、酸洗前処理工程を通板時の伸び率もしくは巻取り温度等の、一つのパラメータだけを考慮しても良好な結果が得られるが、本発明の効果を最大限発揮するには、脱スケール性、酸洗時間及び酸洗前処理工程における伸び率の三つの影響を考慮することが望ましい。
【0065】
(変形形態)
なお、本発明の酸洗方法は塩酸酸洗に限らず、硫酸やその他のあらゆる酸による酸洗に対しても適用することができる。また、±1%の制御精度を有するものであれば、様々なタイプの濃度制御装置を有する酸洗工程の全てに対しても適用することができる。
【0066】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明の酸洗方法によれば、材質やスケール厚等の要因により異なる鋼帯の酸洗性に応じて、鋼帯毎にそれぞれ適正な濃度設定値を与え、その設定値に応じて槽内の酸濃度を制御することにより、酸液を供給される酸洗槽からの酸洗液の蒸発量をできるだけ抑制しながら、酸洗の生産性を向上することができ、これにより、酸洗槽内の少なくとも2つ以上の槽に酸濃度制御装置を配置し、かつ被酸洗材の脱スケール性に応じて酸洗槽内の塩酸濃度設定値を変更することにより、スケール残り、過酸洗を効果的に防止することができ、さらに酸洗能率を大幅に向上することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】5槽の酸洗槽を有する連続酸洗装置の一例を示す説明図である。
【図2】酸洗において脱スケール時間 (秒) すなわち脱スケール速度に及ぼす塩酸濃度 (質量%) の影響を示すグラフである。
【図3】塩酸蒸気圧(mmHg)に及ぼす塩酸濃度 (質量%) の影響を示すグラフである。
【図4】実施例1における第3槽及び第5槽の酸濃度の実績値の推移を、設定値とともに示すグラフである。
【図5】実施例2における第3槽及び第5槽の酸濃度の推移を示すグラフである。
【符号の説明】
0 連続酸洗装置
1 鋼帯
2 酸洗層
3 連続酸濃度計
4 給酸流量調整弁
5 給酸配管
6 酸濃度制御装置
7 酸洗ライン制御装置
8 プロセスコンピュータ
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼帯の酸洗方法に関し、具体的には、鋼帯を酸洗する酸洗処理において、酸洗処理能力を最大限に維持しながらスケール残りや過酸洗さらには変色による歩留り落ち等の発生を確実に防止することができる鋼帯の酸洗方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱間圧延を行われた鋼帯の表面には、酸化物からなるスケールが存在する。このスケールは、一般的には鋼帯を例えば塩酸等からなる酸洗液に連続的に浸漬することにより行われる酸洗によって、除去される。通常、この酸洗は、並設された3〜5槽程度の酸洗槽を有する連続酸洗装置を用いて、行われる。
【0003】
図1は、5槽の酸洗槽2a〜2eを有する連続酸洗装置0の一例を示す説明図である。同図に示すように、酸洗は各酸洗槽2a〜2eに順次連続的に通板させることにより行われる。各酸洗槽2a〜2eに収容される酸洗液2a’ 〜2e’(本例では塩酸) は、鋼帯1との反応や鋼帯1による持ち出しによって徐々に減少する。そのため、この連続酸洗装置0では酸液供給装置5bから最終の酸洗槽2eに酸液を供給する。そして、酸洗槽2eに供給された酸液を、隣接する上流側の各酸洗槽2d〜2aへ順次オーバーフローさせる。最上流の第1槽2aからオーバーフローした酸洗液は、回収装置 (図示しない) に送られて回収され、再利用される。
【0004】
このように、この連続酸洗装置0では酸洗液2e’ 〜2a’ を各酸洗槽2e〜2aで循環させるため、各酸洗槽2e〜2aに収容される酸洗液の酸濃度は異なる。例えば、最終の酸洗槽2eにおける酸濃度は約12%(本明細書では特にことわりがない限り「%」は「質量%」を意味するものとする)であるのに対し、第1槽2aでは5%以下程度であり、その中間の酸洗槽2d〜2bでは酸濃度も中間的な値となる。
【0005】
各酸洗槽2e〜2aにはそれぞれ適正な酸濃度範囲が存在する。各酸洗槽2e〜2aににおける酸濃度が低過ぎると、スケールが完全には除去されずにスケール残りが発生し、通板速度を低下せざるを得なくなって生産能率が悪化する。一方、各酸洗槽2e〜2aにおける酸濃度が高過ぎると鋼帯1の表面のスケールが前半の酸洗槽2a、2bで早期に簡単に除去されてしまうため、後半の酸洗槽2c〜2eにおいて鋼帯1の表面と酸洗液との接触時間が増加し、過酸洗となる。また、酸ヒュームの増加によって酸原単位が悪化するとともに、洗浄工程において変色の発生を誘発することにもつながる。
【0006】
各酸洗槽2e〜2aの適正な酸濃度範囲は、主に、スケールの酸洗除去性によって決定付けられる。適正な酸濃度範囲は、スケールの酸洗除去性が良好な鋼板を酸洗する際には低濃度側へ、スケールの酸洗除去性が良好でない鋼板を酸洗する際には高濃度側へ、それぞれシフトする。そして、このスケールの酸洗除去性の良否を決定付ける大きな要素は、スケールの組成及び厚みである。
【0007】
酸洗において問題とするスケールは、鋼の熱間仕上圧延時に主として600 〜950 ℃の高温域で生成したものである。570 ℃以上におけるスケールの構造は、内側の地鉄と接するところにウスタイト(FeO) 、中間にマグネタイト(Fe3O4) 、大気と接する外側にはへマタイト(Fe2O3) の各層が存在する3層構造となる。各層の570 ℃以上における相対的な量は略一定であり、概略それぞれ95%、4%、1%程度であるが、一般に温度が低くなるにつれてウスタイト(FeO) の相対的な量は少しずつ減少する。ウスタイト(FeO) は、脱スケールを容易にするため、工業的に重要な意味を有するが、安定存在域が570 ℃以上であり、この温度以下ではマグネタイト(Fe3O4) とα−Fe とに共析的に分解する。したがって、600 ℃以上の高温巻取り材では冷却過程においてウスタイト(FeO) の大半がマグネタイト(Fe3O4) へと変態してしまい、酸洗性の悪いスケールとなり易い。また、それ以下の巻取り温度ではウスタイト(FeO) の一部は常温まで残存し、酸洗性が良好なスケールとなり易い。スケールの厚みに関しては、仕上圧延温度が高いほど、巻取り温度が高いほど、スケールは厚く成長し、難酸洗性のスケールとなり易い。
【0008】
以上述べてきたように、連続酸洗装置0において理想的な酸濃度管理を行うには、各々の鋼帯1の酸洗性に応じて、各鋼帯1毎に各酸洗槽における酸濃度及び温度を最適な値に制御することが望ましい。
【0009】
この連続酸洗装置0では、酸洗槽2eへの酸液の供給量を決定するには、酸洗槽2eに収容された酸洗液2e’ の実際の酸濃度を測定する必要がある。酸濃度の測定には、代表的なものとして、公知の滴定式分析計により測定する方法がある。しかし、周知のように、滴定分析法は卓上では優れた測定精度を有するものの、その装置及び分析工程の複雑さからオンラインでは信頼性及び精度が低下する。また、致命的欠点として1回の測定に長時間を有するため、時々刻々変化する各酸洗槽2e〜2aに収容された酸洗液の酸濃度2e’ 〜2a’ の変化を連続的に測定することはできない。
【0010】
酸洗液の酸濃度を短時間で測定できないという滴定分析計の欠点を補うために、例えば特許文献1には、酸洗液の酸濃度を測定せずに鋼帯の寸法や材質等に基づいて酸液の供給量を演算により求める発明が開示されている。また、特許文献2には、酸洗液の酸濃度を測定せずに酸洗の前後における鋼帯の板厚の測定値に基づいて酸液の供給量を演算により求める発明が開示されている。これらの従来の技術によれば、酸液を供給される酸洗槽に収容された酸洗液の酸濃度を、制御精度は±3〜5%と低いながらも、目標値の近傍に制御できる。
【0011】
しかし、これらの従来の酸濃度制御技術では、応答性や制御精度の問題から、鋼帯の材質やスケール厚等により異なる脱スケール速度に応じた酸濃度管理を行うことは困難であった。そのため、従来は、全鋼種に対し鋼帯にスケール残りが発生しない安全な高い濃度に槽内の酸濃度を設定することが、一般的に行われていた。そのため、塩酸の使用量は必然的に必要量よりも多いものとなっていた。したがって、鋼帯の酸洗性に応じた濃度管理を実現するには、まず第一に高い制御精度を有する濃度制御装置を開発する必要があった。
【0012】
なお、鋼帯の化学組成、熱間圧延時の巻取り温度およびスケール厚はいずれも脱スケール性に影響を及ぼす因子であるため、これらのうちの何れか一つを鋼帯のグループ分類、および酸洗液の濃度設定に反映させることが望ましい。また、板厚、コイル長、進行速度はいずれも酸洗時間に影響を及ぼす因子であるため、これらのうちの何れか一つを鋼帯のグループ分類、および酸洗液の濃度設定に反映させることが望ましい。
【0013】
従って、より好ましくは、鋼帯の化学組成、熱間圧延時の巻取り温度およびスケール厚のうちの何れか一つ、板厚、コイル長、進行速度のうちの何れか一つ、及び酸洗前処理工程を通板時の伸び率、の三つを鋼帯のグループ分類、および酸洗液の濃度設定に反映させることで、本発明の効果を最大限発揮することができる。
【0014】
そこで、本発明者らは、まず酸濃度制御精度上の問題を解決すべく、先に特許文献3により連続酸洗装置にかかる発明を開示した。この連続酸洗装置は、連続酸洗装置を構成する複数の酸洗槽のうちの2つ以上の酸洗槽と、2つ以上の酸洗槽へそれぞれ酸液を供給する酸液供給系と、2つ以上の酸洗槽にそれぞれ収容された酸洗液の酸濃度をそれぞれ連続的に測定する酸濃度連続測定装置と、2つ以上の酸洗槽にそれぞれ収容された酸洗液の酸洗時における酸消費量の予測値を、酸洗時の酸洗条件からそれぞれ算出し、算出した予測値に基づいて酸液供給量を決定して酸液供給系へ酸液供給信号を出力するとともに、酸液供給系から2つ以上の酸洗槽へ酸液が供給された後に酸濃度連続測定装置から出力される酸濃度の連続的な測定値に基づいて、2つ以上の酸洗槽にそれぞれ収容された酸洗液の酸濃度がいずれも目標値に一致するように、酸液供給系へ酸液供給信号を出力する制御装置とを組み合わせて備える。
【0015】
この提案にかかる連続酸洗装置は、連続酸洗装置を構成する複数の酸洗槽のうちの2つ以上の酸洗槽にそれぞれ収容された酸洗液の酸洗時における酸消費量の予測値を、酸洗時の酸洗条件に基づいて算出し、算出した予測値に基づいて2つ以上の酸洗槽それぞれへの酸液供給量を決定して酸液を供給し、酸液を供給された2つ以上の酸洗槽にそれぞれ収容される酸洗液の酸濃度を連続的に測定し、測定された酸濃度の連続的な測定値に基づいて、2つ以上の酸洗槽にそれぞれ収容された酸洗液の酸濃度がいずれも目標値に一致するように、2つ以上の酸洗槽への酸液供給量を制御する。
【0016】
この連続酸洗装置は、各酸洗槽からの酸洗液の蒸発量をできるだけ抑制しながら、各酸洗槽に収容された酸洗液の酸濃度を、いずれも従来よりも大幅に目標値に近づけることができる。
【0017】
このため、この装置によれば、既存の連続酸洗設備に対する改造をできるだけ抑制しながら、この連続酸洗設備を用いた酸洗の生産性を高めることができる。
【0018】
【特許文献1】特開昭57−174473号公報
【特許文献2】特開平7−54175 号公報
【特許文献3】特開2000−297390号公報
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
これらの従来の発明により、各酸洗槽の濃度は±1%程度の精度で制御可能となり、使用する酸の原単位も大きく向上した。
【0020】
しかし、鋼種やスケール厚によって異なる脱スケール速度に対応するため、例えば熱間圧延工程において高温巻き取りを行った鋼種等のように脱スケール速度が遅い鋼種に関しては、大幅に通板速度を低下せざるを得なかった。一方、厚物材のように、入側溶接サイクルタイムによって通板速度が規制されるコイル長の短い鋼種に関しては、上流槽内でスケールが早期に除去されてしまい、下流域で過酸洗になるという問題も生じていた。
【0021】
特に、特許文献3により開示された連続酸洗装置にかかる発明による酸消費量の予測値は、鋼種を酸洗完了時間(鋼板を浸漬後、酸洗が完了するまでの時間を示し、酸洗ラインで酸洗が完了する範囲で、最も早い通板速度に逆比例する)とスケール厚さより分類して、さらに精度を向上させることができる。また、別の分類方法の一つとして、熱間圧延時の巻取り温度及び鋼の化学組成を基に、酸洗完了時間とスケール厚さを近似的に表し、分類する方法もある。しかし、これらの方法は、いずれも酸消費量の予測値を算出するための方法、すなわち各槽の給酸量を決定するための方法であり、特に厚物材の過酸洗を防止するためには効果がない。
【0022】
本発明の目的は、材質やスケール厚等の要因により異なる鋼帯の酸洗性に応じて、鋼帯毎にそれぞれ適正な濃度設定値を与え、その設定値に応じて槽内の酸濃度を制御することにより、酸液を供給される酸洗槽からの酸洗液の蒸発量をできるだけ抑制しながら、酸洗の生産性を向上することができる連続酸洗方法を提供することである。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明は、複数の酸洗槽にそれぞれ収容される酸洗液に順次浸漬されることによって酸洗を行われる複数種の鋼帯を分類する複数のグループそれぞれ毎に、複数の酸洗槽にそれぞれ収容される酸洗液の温度及び酸濃度の一方又は双方の設定値を予め定めておき、複数種の鋼帯に酸洗を順次行う際には、これら複数種の鋼帯それぞれ毎に、複数の酸洗槽にそれぞれ収容される酸洗液の温度及び酸濃度の一方又は双方を、予め定めた設定値となるように調整しておくことを特徴とする鋼帯の酸洗方法である。
【0024】
この本発明に係る鋼帯の酸洗方法では、複数種の鋼帯が、鋼帯の化学組成、熱間圧延時の巻取り温度、表面のスケール厚、板厚、コイル長、進行速度、及び酸洗前処理工程を通板中の伸び率のうちの少なくとも1つによって、複数のグループに分類されることが、望ましい。
【0025】
これらの本発明に係る鋼帯の酸洗方法では、酸洗液の温度及び酸濃度の一方又は双方の設定値が、鋼帯の化学組成、熱間圧延時の巻取り温度、表面のスケール厚、板厚、コイル長、進行速度、及び酸洗前処理工程を通板中の伸び率のうちの少なくとも1つを用いた計算によって、予め定められることが、望ましい。
【0026】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係る鋼帯の酸洗方法の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、近年は鋼帯の酸洗方法として塩酸による酸洗が主流となっているため、以降の説明は酸洗液として塩酸を用いた場合を例にとる。
【0027】
本実施の形態では、上述した図1に示す連続酸洗装置0を用いて、本発明に係る鋼帯の酸洗方法を行った。
本実施の形態では、5槽からなる酸洗槽2a〜2eの第3槽2c及び第5槽2eに、高応答性を有する連続式酸濃度計3a、3bを設置した。この連続式酸濃度計3a、3bは、本出願人が特願2000−51963 号により開示した酸濃度測定装置に係るものであって、酸液のサンプリングから測定までを1分間以内で行うことができ、測定後の酸液サンプルは第3槽2c及び第5槽2eそれぞれに戻されるため、測定に伴う酸洗液2c’ 、2e’ のロス分が殆どないという特徴を有する。さらに、酸洗液2c’ 、2e’ のサンプリングは連続的に行われるため、略連続的に測定できる。図1に示すように、連続式酸濃度計3aを設置した第3槽2cには酸液供給装置5aを設けるとともに、連続式酸濃度計3bを設置した第5槽2eには酸液供給装置5bを設けた。
【0028】
連続式酸濃度計3a、3bの濃度検出部では、サンプリングした酸の温度、密度及び導電率が測定される。測定されたこれらのデータは、連続的に酸濃度制御装置6に入力され、この酸濃度制御装置6により塩酸の酸濃度に変換される。
【0029】
本実施の形態では、各酸洗槽2a〜2eにそれぞれ収容される酸洗液2a’ 〜2e’ に順次浸漬されることによって酸洗を行われる複数種の鋼帯1を複数のグループに分類しておき、複数のグループそれぞれ毎に、酸洗液2a’ 〜2e’ の酸濃度の設定値を予め定めておく。そこで、これらの設定値の事前設定について以下に説明する。
【0030】
図2は、酸洗において脱スケール時間 (秒) すなわち脱スケール速度に及ぼす塩酸濃度 (質量%) の影響を示すグラフである。また、図3は、塩酸蒸気圧(mmHg)に及ぼす塩酸濃度 (質量%) の影響を示すグラフである。
【0031】
図2に示すグラフから、酸洗の生産性を向上するためには、脱スケール速度の上昇を図るために塩酸濃度を高めればよいことがわかる。しかしながら、塩酸濃度を上げ過ぎると、図3にグラフで示すように、塩酸蒸気圧が高まって塩酸蒸発量が増加し、酸液の原単位の低下を招き、さらに塩酸ヒュームによる変色、錆といった問題が発生する。
【0032】
すなわち、酸洗の際の各酸洗槽2a〜2eにそれぞれ収容される酸洗液 (塩酸)2a’〜2e’ の濃度は、必要な脱スケール速度が得られる範囲内で最小の値に設定することが、酸洗の生産性を阻害することなく、高品位の表面肌を得ることができ、かつ酸液を供給される酸洗槽2c、2eからの酸洗液2c’ 、2e’ の蒸発量をできるだけ抑制することができるために、望ましい。
【0033】
なお、本実施の形態とは異なり、各酸洗槽2a〜2eに収容された酸洗液2a’ 〜2e’ の温度を制御しても、本実施の形態と同様の効果が奏されるが、本実施の形態のように酸濃度を制御する場合に比較すると制御の変動が非常に緩やかで応答性が悪く、鋼帯1の酸洗のように小ロット単位で鋼種が短時間で変動する制御対象には、制御の追従性が芳しくなく、不向きである。
【0034】
次に、酸洗時の脱スケール速度に影響を及ぼす因子▲1▼、▲2▼について説明する。
▲1▼仕上圧延温度、巻取り温度
上述したように、スケールが厚いほど、また冷却過程におけるウスタイトのマグネタイトへの共析変態率が高いほど、難酸洗性のスケールが生成し易い。このため、例えば仕上圧延温度が高い極低炭素鋼や600 ℃を超える高温巻取り材などは、通板速度を通常よりも遅くする。したがって、難酸洗性のスケールが生成し易いこれらの鋼種の鋼帯を酸洗する際は、スケール残りを防止するために通板速度を低下するか、又は酸濃度を高める必要がある。
【0035】
▲2▼スケールブレーキング
酸洗前のスケールブレーキング工程も通板速度に大きく影響する。酸洗による脱スケールは、酸による溶解過程と物理的剥離過程との複合現象であることが広く知られている。剥離過程で支配的な因子は、スケールブレーキング工程において導入されるスケール中の亀裂の密度である。これは、スケール中の亀裂から母材である鋼帯との界面へ侵入した酸がスケールおよび母材の界面を侵食することによってスケールの剥離が進行するからである。したがって、スケールの亀裂密度が高い程スケール及び母材の界面への酸の侵入は活発になり、スケールの剥離が促進される。一般にスケールブレーキング工程における伸び率が高いほど亀裂密度が高くなり、脱スケール速度が速くなることが知られている。
【0036】
これらの因子▲1▼、▲2▼は、いずれも、脱スケール速度を決定付ける因子であるため、これらの因子▲1▼、▲2▼を考慮して、操業上の通板速度を決定する。しかしながら、実際の操業の中では逆に操業上の制約からまず通板速度が決定されることもある。例えば厚物材のように単尺のコイルでは、酸洗槽の入側での溶接サイクルタイムがネックとなり、酸洗槽の通板速度が制約される。酸洗槽の入側がネックとなる場合の槽内の平均通板速度は、単純に、槽内平均通板速度=コイル長/入側サイクルタイムとして与えられる。
【0037】
これからも理解されるように、通板速度は、材質やスケール厚には無関係に一義的にコイル長さによって決められる。このような場合、通常、槽内通過時間は脱スケール時間を大幅に上回るため、脱スケールは上流側の酸洗槽を通過した時点で早期に完了し、その後長時間にわたって酸洗液が接触する状態となる。このため、厚物材では過酸洗気味になることもしばしばある。このような場合、通板速度の制約を受けるために通板速度を上げることはできないため、過酸洗を防止するためには酸濃度を下げることが最も効果的である。
【0038】
さらに、酸洗変色を防止するために酸濃度の設定値が制約を受ける場合もある。酸洗工程では、最終の酸洗槽の直下流に水洗浄工程を有するが、水洗浄の際に鋼板の表面に残存する酸によって遊離した鉄イオンと水、酸素とが反応して変色を発生させることがある。変色は、水洗浄が不十分な状態で長時間経過した際に出易く、実操業上では通板速度の遅い厚物通板時に発生し易い。また、厚物は上述したように過酸洗になり易いため、ピットに入り込んだ酸が水洗除去され難く、変色反応の進行を助長する。さらに、鋼板の温度が下がり難いことも変色発生の一因となる。したがって、こうした変色の発生し易い材料に対しては、酸濃度を下げることにより過酸洗を防止できるとともに、ヒューム低減による変色防止効果も期待できる。
【0039】
以上説明したように、鋼帯の酸洗では、鋼帯1本毎に酸濃度の適正な範囲が存在し、主として脱スケール速度により決定される。脱スケール速度に影響する因子としては、鋼帯の化学組成、熱間圧延時の巻取り温度、表面のスケール厚、板厚、コイル長、進行速度及び酸洗前処理工程を通板中の伸び率等がある。また、コイル寸法によっては通板速度の制約を受けるものもあり、この場合にはコイルの品質劣化を防止するためには、酸濃度を適正化することが重要である。
【0040】
そこで、本実施の形態では、脱スケール速度、もしくは通板速度制約に応じて鋼種を大きく3つに分類し、各々最適な濃度設定を検討した。分類は、▲1▼熱間圧延工程における巻取り温度が600 ℃を超える高温巻き取り材、▲2▼コイル全長が短いため入側ネックとなり最高通板速度が180mpm以下となる、板厚が5mm以上の厚物材、▲3▼それ以外の一般材の3分類とした。
【0041】
各分類毎に、スケール残りが発生しない塩酸の濃度の範囲を求めた結果を表1にまとめた。表1に示すように、鋼種によってスケール残りが発生しない最小の塩酸濃度には大きな違いがある。
【0042】
【表1】
【0043】
図1において、酸濃度制御装置6では、上位プロセスコンピュータ8から酸洗ライン制御装置7を介して送られるこの鋼帯1についての設定濃度と、測定された実測濃度とを比較し、適正給酸量を算出し、算出結果に基づいて、各槽2a〜2eの新酸供給バルブ5へ開度指令を送る。
【0044】
同時に、酸濃度制御装置6では、時々刻々、酸洗槽2a〜2e内へ導入される鋼帯1のスケール量を板幅情報及び通板速度実績から算出し、消費される塩酸の量を予測計算して給酸指令を出す予測制御もあわせて行う。これにより、定常状態では設定値に対して±1%の制御精度を確保することができる。
【0045】
そして、本実施の形態では、複数種の鋼帯1に酸洗を順次行う際には、これら複数種の鋼帯それぞれ毎に、複数の酸洗槽2a〜2eにそれぞれ収容される酸洗液2a’ 〜2e’ の酸濃度を、予め定めた設定値となるように調整しておくことにより、鋼帯1の酸洗を行う。
【0046】
このように、本実施の形態によれば、材質やスケール厚等の要因により異なる鋼帯1の酸洗性に応じて、鋼帯1毎にそれぞれ適正な濃度設定値を与え、その設定値に応じて酸洗槽2c、2eに収容された酸洗液2c’ 、2e’ の酸濃度を制御することにより、酸洗液2c’ 、2e’ を供給される酸洗槽2c、2eからの酸洗液2c’ 、2e’ の蒸発量をできるだけ抑制しながら、酸洗の生産性を向上することができる。
【0047】
【実施例】
次に、本発明を実施例を参照しながら具体的に説明する。
(実施例1)
まず、図1に示す連続酸洗装置0を流れる全ての鋼帯1を表2に示すように、▲1▼巻取温度≧600 ℃、▲2▼板厚≧5mm、及び▲3▼一般材 (▲1▼、▲2▼以外) と3つのグループに分類し、各々のグループに対する各酸洗槽2a〜2eに収容される酸洗液2a’ 〜2e’ の濃度設定値を表1の結果に基づいて設定した。
【0048】
【表2】
【0049】
そして、図1に示す連続酸洗装置0を用いて、表3に示す22種の鋼帯 (低炭素鋼鋼帯及び極低炭素鋼帯) を連続酸洗した。
【0050】
【表3】
【0051】
この連続酸洗の際に、第3槽2c及び第5槽2eの酸濃度の実績値の推移を、設定値とともに図4にグラフで示す。また、比較のため、表3に示したスケジュールを表2の▲3▼に示す酸洗条件に固定して、連続酸洗を行った。なお、本実施例では濃度設定値はオペレータの手入力で切替えた。結果を表4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
本発明に係る酸洗方法 (実施例) によれば、全ての鋼帯に対して、スケール残りや、過酸洗及び過酸洗による変色を発生させることなく、高品位の酸洗鋼帯を製造することができ、かつ酸洗能率も大幅に向上させることができた。
【0054】
一方、比較例では、巻取温度≧600 ℃の鋼帯でスケール残りが発生し、通板速度を落として操業せざるを得なかった。また、板厚≧5mmの材料では通板速度が入側サイクルタイムによって規制されているため遅く、過酸洗気味となり、一部の材料では酸洗変色も発生した。
【0055】
(実施例2)
実施例1で用いた連続酸洗装置0を用いて酸洗を行った。連続式酸濃度計3a、3b及び酸液供給装置5a、5bが設置された第3槽2c及び第5槽2eの濃度設定値(Cs)は、演算式 Cs=Co+α+β・(Cx−Cm)+γ・(Tx−Tm)+δ・E により求めた。
【0056】
ここで、Coは第3槽2c及び第5槽2eの基準濃度設定値であり、αは鋼帯1の材質に基づいて設定される定数であり、βは熱間圧延時の巻取り温度の酸洗性への影響係数であり、Cxは巻取り温度の実績値であり、Cmは巻取り温度が酸洗性に影響し始める最小温度であり(本例では600 ℃としたが、Cx<Cmの場合はCx=Cmとする)、γは板厚の酸洗性への影響係数であり、Txは鋼帯1の板厚であり、Tmは板厚が酸洗性に影響し始める最小値であり(本例では5.0mm としたが、Tx<Tmの場合はTx=Tmとする)、δは酸洗前処理工程における伸び率の酸洗性への影響係数であり、さらに、Eは酸洗前処理工程におけるトータル伸び率である。
【0057】
実施例1と同じスケジュールに対して上記の式により設定濃度を算出した結果を表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
本実施例では、図1の酸濃度制御装置6に、上記式における各係数を記憶させ、1コイル毎に設定濃度を自動計算させた。表5に示した濃度設定条件にて酸洗を実施した際の第3槽2c及び第5槽2eの酸濃度の推移を図5にグラフで示す。
【0060】
本実施例においても、実施例1と同様、スケール残りや過酸洗および過酸洗による変色を発生させることなく、高品位の酸洗板を製造でき、かつ酸洗能率も大幅に向上させることができた。
【0061】
なお、実施例1及び2では、設定濃度が大きく下がる際には第1槽2a〜第5槽2e全てに設置された給水配管 (図1には図示していない) から水を投入することにより下降方向の濃度の追従性を向上させた。
【0062】
しかし、より効率的に本発明に係る連続酸洗方法を行うには、例えば実施例2において自動スケジューリング機能等により酸洗順を決定する際、1コイル毎の設定濃度の変化が、例えば第3槽2cで±0.5 %以内になるよう制限すれば、水を投入することなく良好な濃度の設定値への追従性が得られる。
【0063】
なお、本実施例2では、材質(化学組成)、巻取り温度、板厚及び酸洗前処理工程における伸び率をもとに酸洗液の濃度測定を行ったが、例えば材質及び巻取り温度の替わりにスケール厚を、又は板厚の替わりにコイル長を用いても同様の効果が得られることはいうまでもない。その場合は、スケール厚やコイル長が必要酸濃度に及ぼす影響係数をテストにより求めておき、演算式Cs=Co+α+β・(Cx−Cm)+γ・(Tx−Tm)+δ・E の右辺を変形させて用いればよい。
【0064】
より簡易的には、酸洗前処理工程を通板時の伸び率もしくは巻取り温度等の、一つのパラメータだけを考慮しても良好な結果が得られるが、本発明の効果を最大限発揮するには、脱スケール性、酸洗時間及び酸洗前処理工程における伸び率の三つの影響を考慮することが望ましい。
【0065】
(変形形態)
なお、本発明の酸洗方法は塩酸酸洗に限らず、硫酸やその他のあらゆる酸による酸洗に対しても適用することができる。また、±1%の制御精度を有するものであれば、様々なタイプの濃度制御装置を有する酸洗工程の全てに対しても適用することができる。
【0066】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明の酸洗方法によれば、材質やスケール厚等の要因により異なる鋼帯の酸洗性に応じて、鋼帯毎にそれぞれ適正な濃度設定値を与え、その設定値に応じて槽内の酸濃度を制御することにより、酸液を供給される酸洗槽からの酸洗液の蒸発量をできるだけ抑制しながら、酸洗の生産性を向上することができ、これにより、酸洗槽内の少なくとも2つ以上の槽に酸濃度制御装置を配置し、かつ被酸洗材の脱スケール性に応じて酸洗槽内の塩酸濃度設定値を変更することにより、スケール残り、過酸洗を効果的に防止することができ、さらに酸洗能率を大幅に向上することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】5槽の酸洗槽を有する連続酸洗装置の一例を示す説明図である。
【図2】酸洗において脱スケール時間 (秒) すなわち脱スケール速度に及ぼす塩酸濃度 (質量%) の影響を示すグラフである。
【図3】塩酸蒸気圧(mmHg)に及ぼす塩酸濃度 (質量%) の影響を示すグラフである。
【図4】実施例1における第3槽及び第5槽の酸濃度の実績値の推移を、設定値とともに示すグラフである。
【図5】実施例2における第3槽及び第5槽の酸濃度の推移を示すグラフである。
【符号の説明】
0 連続酸洗装置
1 鋼帯
2 酸洗層
3 連続酸濃度計
4 給酸流量調整弁
5 給酸配管
6 酸濃度制御装置
7 酸洗ライン制御装置
8 プロセスコンピュータ
Claims (3)
- 複数の酸洗槽にそれぞれ収容される酸洗液に順次浸漬されることによって酸洗を行われる複数種の鋼帯を分類する複数のグループそれぞれ毎に、前記複数の酸洗槽にそれぞれ収容される酸洗液の酸濃度及び/又は温度の設定値を予め定めておき、
複数種の鋼帯に前記酸洗を順次行う際には、該複数種の鋼帯それぞれ毎に、前記複数の酸洗槽にそれぞれ収容される酸洗液の酸濃度及び/又は温度を、前記設定値となるように調整しておくこと
を特徴とする鋼帯の酸洗方法。 - 前記複数種の鋼帯は、該鋼帯の化学組成、熱間圧延時の巻取り温度、表面のスケール厚、板厚、コイル長、進行速度、及び酸洗前処理工程を通板中の伸び率のうちの少なくとも1つによって、前記複数のグループに分類される請求項1に記載された鋼帯の酸洗方法。
- 前記酸洗液の温度及び/又は酸濃度の設定値は、前記鋼帯の化学組成、熱間圧延時の巻取り温度、表面のスケール厚、板厚、コイル長、進行速度、及び酸洗前処理工程を通板中の伸び率のうちの少なくとも1つを用いた計算によって、予め定められる請求項1又は請求項2に記載された鋼帯の酸洗方法。
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2003
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