JP2004269912A - 高硫黄快削鋼 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Feを主成分とし、C:0.03質量%以上0.2質量%以下;S:0.4質量%以上1質量%以下;Mn:0.5質量%以上3質量%以下;
O:0.01質量%以下;を含有する。そして、▲1▼Tiの含有量をWTi(質量%)とし、酸素含有量をWOとして、WTiが0.01質量%以上0.12質量%以下であり、かつ、WTi/ WO≧4.5;▲2▼Alの含有量をWAl(質量%)とし、酸素含有量をWOとして、WAlが0.001質量%以上0.05質量%以下であり、かつ、WTi/WO≧0.05;▲3▼Zrの含有量をWZr(質量%)とし、酸素含有量をWOとして、WZrが0.001質量%以上0.05質量%以下であり、かつ、WZr/ WO≧0.05;にて表される組成条件▲1▼ないし▲3▼のいずれかを充足し、さらに、TiとZrとの合計含有量が0.12質量%以下とされる。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は高硫黄快削鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開昭56−16653号公報
【特許文献2】
特開平10−46292号公報
【特許文献3】
特開昭62−258955号公報
【特許文献4】
特開昭54−17567号公報
【特許文献5】
特開平9−49053号公報
【特許文献6】
特開平11−1743号公報
【特許文献7】
特開2001−262280号公報
【特許文献8】
特開2002−249848号公報
【特許文献9】
特開200−319753号公報
【0003】
機械部品等の切削加工にて製造される部材の生産性を向上させるために、近年、快削鋼の用途が増大しつつある。鉄系材料の被削性向上元素としては、S、Pb、Se、Bi、Te、Caなどが知られている。このうち、Pbは、環境保護に対する関心が地球規模で高まりつつある近年では次第に敬遠されるようになっており、その使用を制限する機器や部品も多くなりつつある。そこで、Sを被削性向上元素の主体として用いた材料が、代替材料として考えられている(特許文献1〜特許文献4)。これらは、主にMnS系の介在物を生成させ、介在物に対する切屑形成時の応力集中効果や、工具と切屑間の潤滑作用により被削性や研削性を高めるようにしている。また、Sとともに相当量のTi及びCを添加し、Ti4S2C2系の介在物を分散形成して快削性を付与した鋼も提案されている(特許文献5〜特許文献7)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Sを快削性付与元素として用いる場合、S添加量が過剰になると、合金の耐食性、熱間加工性あるいは冷間加工性を劣化させる原因となるため、その添加量は一般に0.3質量%以下に留められている(例えば、特許文献1、特許文献3)。当然、S添加量が少ないことから、硫化物系介在物の形成量も不足しがちであり、被削性向上効果には一定の限界があった。また、MnSなどの硫化物は材料の鍛伸方向に延伸しやすく、材料強度の異方性化等を招く原因ともなっている。なお、特許文献3には、TiとSを複合添加して硫化物を球状化できることが開示されているが、S添加量が少ないため、被削性向上効果の向上に限界がある点については何ら変わりはない。
【0005】
他方、特許文献8、特許文献9、特許文献2あるいは特許文献4のごとく、Sの含有量の上限を0.4質量%以上に高め、被削性をさらに向上させる提案もなされているが、前述の問題のほか、粗大な硫化物系介在物が形成されやすく、例えば酸洗処理後メッキして使用される材料等の場合、介在物の脱落により表面性状が悪化したり、また油圧部品など気密性が重視される用途等には適用が困難になったりする問題があった。
【0006】
なお、特許文献8、特許文献9、特許文献2においては、被削性向上のため、鋼中のS含有量のほかO含有量も規定しているが、いずれもO含有量が不足すると硫化物が小型化し、切削に不向きなる主旨の記載があることから、該O含有量の規定が、あくまで一定寸法以上に硫化物を粗大化させることに主眼が置かれていることは明白である。従って、被削性をさらに向上させる目的でS含有量を増大させようとした場合、前述の粗大な硫化物が形成されることによる弊害がさらに助長されることは必至となる。
【0007】
一方、特許文献4〜特許文献7に開示されている、Ti炭硫化物を利用する快削鋼の場合、介在物がMnS等と比較すると硬質なため、ハイス工具等による切削加工では、工具寿命が低下しやすい欠点がある。
【0008】
本発明の課題は、S含有率を高めつつも粗大な硫化物や硬質の炭硫化物の生成を抑制し、ひいては被削性が極めて良好で、かつ介在物の脱落による表面性状の悪化や気密性の低下、さらには工具寿命の低下などの不具合も生じにくい高硫黄快削鋼を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
上記の課題を解決するために、本発明の高硫黄快削鋼は、
Feを主成分とし、
C:0.03質量%以上0.2質量%以下;
S:0.4質量%以上1質量%以下;
Mn:0.5質量%以上3質量%以下;
O:0.01質量%以下;
を含有し、さらに、
▲1▼Tiの含有量をWTi(質量%)とし、酸素含有量をWOとして、WTiが0.01質量%以上0.12質量%以下であり、かつ、WTi/WO≧4.5;
▲2▼Alの含有量をWAl(質量%)とし、酸素含有量をWOとして、WAlが0.001質量%以上0.05質量%以下であり、かつ、WAl/WO≧0.1;
▲3▼Zrの含有量をWZr(質量%)とし、酸素含有量をWOとして、WZrが0.001質量%以上0.05質量%以下であり、かつ、WZr/WO≧0.1;
の該組成条件▲1▼ないし▲3▼のいずれかを充足し、
さらに、TiとZrとの合計含有量が0.12質量%以下であることを特徴とする。
【0010】
上記本発明の高硫黄快削鋼においては、MnとSとを添加することにより、被削性を改善する硫化物系介在物として、MnS系介在物を組織中に分散形成する。そして、Sは、従来の快削鋼よりも多い0.4質量%以上を添加する。他方、上記▲1▼〜▲3▼のいずれかを充足するように、Ti、Al又はZrの含有量と、O含有量とを調整することにより、粗大なMnS系介在物が生じにくくなり、ひいては組織中に微細なMnS系介在物を、従来の快削鋼よりもはるかに多量に形成することができる。その結果、被削性が劇的に向上するとともに、粗大介在物の脱落による表面性状の悪化や気密性の低下も生じにくい。また、高S含有量を設定する一方、TiとZrとの合計含有量は低く留めてあるので、(Ti,Zr)炭硫化物系の硬質介在物の形成も抑制され、工具寿命の低下を生じにくい。なお、(Ti,Zr)炭硫化物系の硬質介在物の形成を抑制し、MnS系介在物が被削性向上介在物の主体となる組織をより確実に得るには、Ti及びZrの合計含有量をWJ(質量%)とし、Sの含有率をWSとして、WS/WJが4以上、より望ましくは6以上となっているのがよい。
【0011】
例えば、上記条件▲1▼に関していえば、特許文献3のごとくTi含有量を単独で調整したり、あるいは特許文献8、特許文献9及び特許文献2のごとくTiを添加せずに、O含有量のみを調整するだけでは、硫化物の球状化を生ずるだけであったり、あるいは硫化物が却って粗大化することにつながる。従って、本発明のごとく、0.4質量%以上という多量のSが添加される条件下では、粗大なMnS系介在物の生成が避け難く、微細なMnS系介在物が多量に形成された組織を得ることはできない。しかし、Ti含有量をO含有量とともに、条件▲1▼に示す特定の範囲内に調整して始めて、粗大なMnS系介在物の形成を抑制しつつ、微細なMnS系介在物を多量に分散させた組織が得られ、表面性状の悪化や気密性の低下を生ずることなく、被削性を大幅に向上させることが可能となるのである。条件▲2▼及び条件▲3▼についても同様である。なお、本発明においては、条件▲1▼〜▲3▼の2以上のものが同時に成立する組成を採用してもよい。
【0012】
被削性向上効果を高めるためには、鋼組織断面に観察される粒径0.25μm以上の硫化物系介在物(MnS系介在物)の、観察視野1mm2あたりの個数が10000個以上80000個以下であり、かつ、観察される硫化物系介在物の最大の粒径が3μm以下であることが望ましい。なお、硫化物系介在物の「粒径」とは、鋼の鍛伸方向と垂直な研磨断面を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)にて観察したとき、図1に示すように、その画像上の介在物粒子の外形線に位置を変えながら外接平行線PLを引いたときの、その外接平行線PLの最大間隔dmaxにて表すものとする。
【0013】
粒径0.25μm以上の硫化物系介在物の、観察視野1mm2あたりの個数が10000個未満では、高硫黄組成に見合った被削性向上効果が十分に得られない場合がある。他方、該個数が80000個を超えると、鋼の硬さが上昇し、被削性が却って低下する場合があるので、80000個以下の範囲にて調整するのがよく、より望ましくは15000個以上25000以下とするのがよい。
【0014】
また、硫化物系介在物の最大の粒径が3μmを超えると、粗大介在物の脱落による表面性状の悪化や気密性の低下といった不具合につながる。該最大の粒径は、2μm以下であることがより望ましい。
【0015】
以下、本発明における組成限定理由について説明する。
(1)C:0.03質量%以上0.2質量%以下
Cは、鋼の強度向上を目的として添加される。C含有量が0.03質量%未満では鋼の強度が不足することにつながる。他方、C含有量が0.2質量%を超えると鋼の硬度が増加しすぎ、被削性の低下を招くことにつながる。C含有量は、より望ましくは0.05質量%以上0.15質量%以下とするのがよい。
【0016】
(2)Mn:0.5質量%以上3質量%以下
MnはSと結合し、MnS系介在物を形成して被削性向上に寄与する。Mn含有量が0.5質量%未満では、FeSを生じて熱間加工性が悪化することにつながる。また、3質量%を超えると鋼の硬さが上昇し、被削性が低下することにつながる。Mn含有量は、より望ましくは1.0質量%以上2.5質量%以下とするのがよい。なお、Mn含有量をWMn(質量%)とし、Sの含有率をWSとして、WMn/WSは1.5以上5以下となっていることが望ましい。WMn/WSがこの範囲外になると、熱間加工性の劣化を招く場合がある。
【0017】
(3)S:0.4質量%以上1質量%以下
SはMnと結合し、MnS系介在物を形成して被削性向上に寄与する。既に説明した通り、0.4%質量%以上と、従来の硫黄快削鋼よりも大量に添加し、被削性をより改善する。S含有量が0.4質量%未満では、被削性を十分に向上させることができなくなる。また、1質量%を超えると熱間加工性が著しく悪化することにつながる。S含有量は、より望ましくは0.5質量%以上0.75質量%以下とするのがよい。
【0018】
(4)O:0.01質量%以下
後述の通り、Ti、AlあるいはZrの少なくともいずれかとともに、含有量を制御することにより、多量に生ずるMnS系介在物の微細化組織制御に寄与する。ただし、O含有量が0.01質量%を超えると、MnSの十分な微細分散制御ができず、巨大なMnS系介在物を生じることにつながる。他方、O含有量を0.001質量%未満とすることは、鋼の製造コストを高騰させることにつながるので、0.001質量%以上とすることが望ましい。O含有量は、より望ましくは0.004質量%以上0.008質量%以下とするのがよい。
【0019】
(5)Ti:0.01質量%以上0.12質量%以下、かつWTi/WO≧4.5(条件▲1▼採用時)
TiはO含有率をコントロールし、MnS系介在物の形態を制御する成分である。Tiを0.01〜0.12%添加して、酸素レベルを適性値に制御することにより、硫化物を超微細に分散制御することができる。Ti含有率及びWTi/WOの少なくともいずれかが下限未満になると、MnS系介在物の十分な微細分散制御ができなくなる。つまり、図2に示すように、MnS系介在物の最大粒径を好ましい値以下(例えば3μm以下)とすることができなくなり、また、微細化が進まないため、介在物の単位面積当たりの個数も十分でなくなる。さらに、切り屑の破砕性も不足しがちとなり、連続切り屑を生じやすくなる。生じた切り屑が長くひげ状に伸びた連続切り屑の形で排出されると、これが被削材や工具に絡まり加工がスムーズに行えなくなる場合がある。また、Ti含有率が上限を超えると、硬質なTi系窒化物やTi系炭硫化物を大量に生成し被削性が悪化するとともに、工具寿命の低下もきたす。Ti含有率は、より望ましくは0.03質量%以上0.08質量%以下とするのがよく、WTi/WOは4.5以上20以下とするのがよい。
【0020】
(6)Al:0.001質量%以上0.05質量%以下、かつWAl/WO≧0.15(条件▲2▼採用時)
AlはO含有率をコントロールし、MnS系介在物の形態を制御する成分である。Alを0.001〜0.05質量%添加して、酸素レベルを適性値に制御することにより、硫化物を超微細に分散制御することができる。Al含有率及びWAl/WOの少なくともいずれかが下限未満になると、MnS系介在物の十分な微細分散制御ができなくなる。また、Al含有率が上限を超えると、硬質なAl系窒化物が大量に生成し被削性が悪化するとともに、工具寿命の低下もきたす。Al含有率は、より望ましくは0.005質量%以上0.030質量%以下とするのがよく、WAl/WOは0.6以上とするのがよい。
【0021】
(7)Zr:0.001質量%以上0.05質量%以下、かつWZr/WO≧0.15(条件▲2▼採用時)
ZrはO含有率をコントロールし、MnS系介在物の形態を制御する成分である。Zrを0.001〜0.05質量%添加して、酸素レベルを適性値に制御することにより、硫化物を超微細に分散制御することができる。Zr含有率及びWZr/WOの少なくともいずれかが下限未満になると、MnS系介在物の十分な微細分散制御ができなくなる。また、Zr含有率が上限を超えると、硬質なZr系窒化物やZr系炭硫化物が大量に生成し被削性が悪化するとともに、工具寿命の低下もきたす。Zr含有率は、より望ましくは0.005質量%以上0.030質量%以下とするのがよく、WZr/WOは0.6以上とするのがよい。
【0022】
以下、本発明の快削鋼に含有可能な他の成分の例と、その好ましい含有量について説明する。
(8)P:0.02質量%以上0.4質量%以下
Pは、上記範囲で添加することにより被削性改善効果を有し、特に仕上げ面の粗さ改善に有効である。ただし、下限値未満では効果に乏しい。他方、Pを上記上限値を超えて添加すると、粒界に偏析して粒界腐食感受性を高めるほか、靭性の低下を招くこともある。P含有率は、より望ましくは0.04質量%以上0.1質量%以下とするのがよい。
【0023】
(9)Si:0.5質量%以下
Siは、脱酸剤として含有させることができる。しかし、含有量が過大となると鋼の硬さが高くなり、被削性を低下させることにつながる。なお、本発明においては、脱酸制御を主にTi、AlあるいはZrに担わせるので、被削性向上の観点から、Si含有量はより望ましくは0.1質量%以下とするのがよい。
【0024】
(10)本発明の快削鋼には、0.2質量%以下のTe、0.2質量%以下のSe、0.02質量%以下のCa、0.02質量%以下のMg、0.02質量%以下のBa、及び0.2質量%以下の希土類金属元素の、1種又は2種以上を合計で0.001質量%以上含有させることができる。これにより、熱間加工時等において、MnS系介在物が鍛伸方向に長く延伸することが抑制され、材料強度の異方性化(特に鍛伸方向と直角な向きの強度低下)を防ぐ上で有効となる。上記成分の合計含有量が下限値未満では効果に乏しく、各々上限値を超えて添加されると効果が飽和し、逆に熱間加工性が低下することがあるので、いずれも好ましくない。なお、希土類元素としては、放射活性の低い元素を主体的に用いることが取り扱い上容易であり、この観点において、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる1種又は2種以上を使用することが有効である。特に上記効果のより顕著な発現と価格上の観点から、軽希土類、特にLaあるいはCeを使用することが望ましい。ただし、希土類分離過程等にて不可避的に残留する微量の放射性希土類元素(例えばThやUなど)が含有されていても差し支えない。また、原料コスト低減等の観点から、ミッシュメタルやジジムなど、非分離希土類を使用することもできる。
【0025】
(11)本発明の快削鋼には、0.2質量%以下のB、2質量%以下のNb、1質量%以下のV、1質量%以下のN、2質量%以下のCu、2質量%以下のNi、2質量%以下のCr、2質量%以下のMo、0.6質量%以下のSn、0.06質量%以下のAs及び0.06質量%以下のSbの、1種又は2種以上を合計で0.001質量%以上含有させることができる。これらの元素は、鋼のマトリックスを適度に脆くし、切削時に発生する切り屑を断続化して、ひげ状の連続切り屑となることを抑制する効果を有する。ただし、これらの元素の合計含有量が0.001質量%未満では効果に乏しく、各々上限値を超えて添加されるとマトリックスが過度に硬化し、被削性が却って低下することがあるので好ましくない。
【0026】
(12)本発明の快削鋼には、PbとBiとの一方又は双方を合計にて0.01質量%以上下0.5質量%以下の範囲にて含有させることができる。これらの元素は被削性をさらに向上させる効果がある。ただし、本発明の快削鋼は高硫黄組成であり、MnS系介在物が微細に分散した形で多量に形成されるので、これらの添加元素の補助がなくとも本来的に被削性は良好である。ただし、材料ロット内あるいはロット間のバラツキを考慮した場合、量産スケールでの被削性の安定化等を図る目的で添加することはもちろん可能である。なお、これらの元素の合計含有量が0.01質量%未満では効果に乏しく、各々上限値を超えて添加されると熱間加工性を低下させるため好ましくない。なお、Pbに関しては環境への配慮から添加が好まれないこともある。しかし、本発明の快削鋼は、上記の通りMnS系介在物の多量形成により本来的に被削性が良好であり、Pb含有量が0.3質量%以下(0質量%を含む)であっても良好な被削性を確保でき、Pbを含有しない(不純物として不可避的に混入する場合も、「含有しない」概念に属するものとする)組成を採用することも十分に可能である。
【0027】
【実施例】
本発明の効果を確認するために、以下の実験を行った。
まず、表1に示す成分組成(質量%)に配合した各々150kg鋼塊を高周波誘導炉にて溶製し、これを、1100℃以上1200℃以下の適当な温度で加熱して熱間鍛造を行なうことにより、外径55mmの丸棒に加工した(鍛造比:約8)。それら丸棒をさらに950℃で1時間加熱した後空冷(焼ならし処理)し、各試験に供した。
【0028】
【表1】
【0029】
(組織観察及び介在物のキャラクタリゼーション)
丸棒試験片の軸直交断面を鏡面研磨した後、該研磨断面の半径の1/2の位置にて面積0.1mm2の視野をランダムに10個設定して、各々光学顕微鏡により組織観察した(倍率:約400倍)。そして、各視野の観察画像を解析することにより、粒径0.25μm以上の介在物の個数(1mm2当たりの換算値)及び粒径の最大値を求め、10視野間での平均値を算出した。なお、介在物は別途EPMAとX線回折により分析を行っており、MnS系の化合物であることを確認している。
【0030】
上記の各試験品につき、以下の実験を行った。
1.切り屑破砕性試験
切削工具として超硬合金(JIS:K10)チップを用いてNC旋盤により以下の条件で切削試験を行う:
・切削速度:80m/min、100m/min及び120m/minの3条件;
・一回転当りの切り込み量:0.3mm及び1.0mmの2条件;
・一回転当りの送り量:0.025mm、0.050mm、0.100mmの3条件;
・切削油:水溶性。
そして、上記の切削速度3条件×切り込み量2条件×送り量3条件の計18条件で、丸棒試験片を長手方向に旋削加工したときの切屑を、表3に示す基準に基づき点数をつけ、その合計点を切屑破砕性評価の指標とした。点数が高いほど切り屑破砕性が良好であることを意味する。
【0031】
2.被削性評価
切削工具には高速度工具鋼(JIS:SKH51)製ドリルを用い、縦形マシニングセンターにより以下の条件にて切削試験を行う:
・工具形状:呼び径5mm;
・切削速度:80m/min;
・一回転当りの送り量:0.1mm;
・穴深さ:15mm;
・切削油:油性。
評価はコーナーの平均磨耗量が100μmになるまでの切削距離にて行なった。
【0032】
3.メッキ性評価
丸棒試験片に対し、表面を砥石研磨とバフ研磨により6.3Sに平滑に仕上げた後、10%塩酸により10分間酸洗後、無電解Niメッキを施した。その後、試験片を軸直交面にて切断し、断面の表層近傍を光学顕微鏡でランダムに20箇所観察した。そして、各観察部にて、MnS介在物脱落に起因した酸洗ピットメッキ不良の有無を調べ、以下のように評価した:
○:不良なし、△:1〜10箇所が不良、×:10箇所以上が不良。
以上の結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
すなわち、本発明に属する実施例の鋼はいずれも、介在物が十分多数形成されているにもかかわらずその粗大化が抑制され、被削性とメッキ性とのいずれにおいても良好な結果が得られている。また、切り屑破砕性指数も高い。図3は、上記の試験結果のうち、切り屑破砕性指数をWTi/WOに対してプロットしたものである。WTi/WOが4.5以上、特に10以上で、切り屑破砕性指数が顕著に向上していることがわかる。また、図4は、単位面積当たりの介在物の個数をWTi/WOに対してプロットしたものである。WTi/WOが4.5以上、特に10以上で、介在物の個数が顕著に増加し、その微細化が進んでいることがわかる。さらに、図5は、被削性の評価結果をTi含有量に対してプロットしたものである。Ti含有量を0.12質量%以下、特に0.1質量%以下とすることで、被削性が顕著に向上していることがわかる。これは、Ti含有量が0.12質量%以下でMnS系介在物の形成が主体的になるためであると考えられる。他方、Ti含有量が0.12質量%を超えたとき被削性が低下するのは、硬質のTi炭硫化物系介在物の形成が顕著になるためであると考えられる。
【0036】
図6は、表1の実施例3の試験片の断面組織を示す光学顕微鏡観察画像である。組織中黒点状に分散しているのがMnS系介在物であり、粒径2μm以下の寸法にて多数かつ一様に分散形成されていることがわかる。他方、図7は、表1の比較例1の試験片の断面組織を示す光学顕微鏡観察画像である。組織の鍛伸方向に大きく伸びたMnS系介在物が多数認められ、特に長さ150μm前後の巨大なものも観察される。該試験片にメッキを施しあとの、表層付近の断面組織画像を図8に示す。介在物の抜け落ちに起因すると思われる大きなピット状の欠陥が形成されているのがわかる。
【0037】
以上、本発明の実施例を示したが、これはあくまで例示であり、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、当事者の知識に基づき種々の改良ないし変形を加えた態様でも実施可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】介在物の粒径の定義を示す説明図。
【図2】WTi/WO(WAl/WO、WZr/WO)に対する、介在物個数、介在物粒径の最大値、切り屑破砕性及び被削性の変化傾向と、WTi/WO(WAl/WO、WZr/WO)の適正範囲の設定理由とを、定性的に示すグラフ。
【図3】実施例の実験結果を示す第一のグラフ。
【図4】実施例の実験結果を示す第二のグラフ。
【図5】実施例の実験結果を示す第三のグラフ。
【図6】表1の実施例3の試験片の断面組織を示す光学顕微鏡観察画像。
【図7】表1の比較例1の試験片の断面組織を示す光学顕微鏡観察画像。
【図8】表1の実施例1の試験片の、メッキ後の断面組織を示す光学顕微鏡観察画像。
Claims (11)
- Feを主成分とし、
C:0.03質量%以上0.2質量%以下;
S:0.4質量%以上1質量%以下;
Mn:0.5質量%以上3質量%以下;
O:0.01質量%以下;
を含有し、
▲1▼Tiの含有量をWTi(質量%)とし、酸素含有量をWOとして、WTiが0.01質量%以上0.12質量%以下であり、かつ、WTi/WO≧4.5;
▲2▼Alの含有量をWAl(質量%)とし、酸素含有量をWOとして、WAlが0.001質量%以上0.05質量%以下であり、かつ、WAl/WO≧0.1;
▲3▼Zrの含有量をWZr(質量%)とし、酸素含有量をWOとして、WZrが0.001質量%以上0.05質量%以下であり、かつ、WZr/WO≧0.1;
にて表される組成条件▲1▼ないし▲3▼のいずれかを充足し、
さらに、TiとZrとの合計含有量が0.12質量%以下であることを特徴とする高硫黄快削鋼。 - 鋼組織断面に観察される粒径0.25μm以上の硫化物系介在物の、観察視野1mm2あたりの個数が10000個以上80000個以下であり、かつ、観察される硫化物系介在物の最大の粒径が3μm以下である請求項1記載の高硫黄快削鋼。
- Ti及びZrの合計含有量をWJ(質量%)とし、Sの含有率をWSとして、WS/WJが4以上である請求項1又は請求項2に記載の高硫黄快削鋼。
- Mn含有量をWMn(質量%)とし、Sの含有率をWSとして、WMn/WSが1.5以上5以下とされる請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の高硫黄快削鋼。
- 0.02質量%以上0.4質量%以下のPを含有する請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の高硫黄快削鋼。
- Siの含有量が0.5質量%以下である請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の高硫黄快削鋼。
- Siの含有量が0.1質量%以下である請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の高硫黄快削鋼。
- 0.2質量%以下のTe、0.2質量%以下のSe、0.02質量%以下のCa、0.02質量%以下のMg、0.02質量%以下のBa、及び0.2質量%以下の希土類金属元素の、1種又は2種以上を合計で0.001質量%以上含有する請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の高硫黄快削鋼。
- 0.2質量%以下のB、2質量%以下のNb、1質量%以下のV、1質量%以下のN、2質量%以下のCu、2質量%以下のNi、2質量%以下のCr、2質量%以下のMo、0.6質量%以下のSn、0.06質量%以下のAs及び0.06質量%以下のSbの、1種又は2種以上を合計で0.001質量%以上含有する請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の高硫黄快削鋼。
- PbとBiとの一方又は双方を合計にて0.01質量%以上0.5質量%以下の範囲にて含有する請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の高硫黄快削鋼。
- Pbの含有量が0.3質量%以下(0質量%を含む)である請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の高硫黄快削鋼。
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