JP2004267114A - 酒石酸塩の析出分離方法及びその方法を用いて得られた赤外線照射飲料 - Google Patents
酒石酸塩の析出分離方法及びその方法を用いて得られた赤外線照射飲料 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】この発明に係る酒石酸塩の析出分離方法は、酒石酸塩を溶解している液体に赤外線レーザー光を照射して酒石酸塩の結晶核を生成する工程と、酒石酸塩を溶解している液体を過飽和温度に冷却して酒石酸塩の結晶を析出させ、かつ酒石酸塩の結晶の成長を促進させる工程と、析出した酒石酸塩の結晶を固液分離する工程とを設ける。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酒石酸水素カリウムを主成分とする酒石酸塩(以降、酒石酸塩という)を溶解している液体から、この酒石酸塩を結晶化し析出させて分離する方法を提供するものであり、ブドウを原料としたワインやジュースなどの飲料液体において、製品を出荷後にその液中に含まれる酒石酸塩が結晶化して析出沈殿し、或いは微小な結晶として浮遊し混濁を生ずることを防ぐために行われている酒石安定化処理や、発酵液体から工業的に酒石酸を分離抽出するための酒石酸塩の析出分離方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ブドウを原料としたワインやジュースを製造する際には、ブドウ原料に由来する酒石酸塩、主として酒石酸水素カリウムが液体中に多く含まれている。そして、製品として出荷した後に、冷蔵庫や冷暗所に長期間静置された場合に、ワインやジュースに溶解していた酒石酸塩の結晶が自然析出して、沈殿を生じたり、浮遊して混濁を生ずることがあり、消費者において異物の混入と誤認されることがある。そこで、多くの飲料メーカーでは、安定化処理と称して酒石酸塩を予め人工的に結晶化させて分離除去している。
【0003】
酒石酸塩を溶解している液体、即ち、ブドウを原料としたワインやジュースなど飲料液体の酒石安定化処理方法としては、ワインやジュースを出荷前に冷却タンクに長期間貯蔵して酒石酸塩の結晶を析出させる冷却法や、ワインやジュースに種結晶を添加しながら晶析槽やタンクで冷却循環させて強制的に結晶を析出分離する種結晶添加法、その他に電気透析法、イオン交換法等の方法が従来から採用、或いは考えられている。
【0004】
そして種結晶添加法としては、例えば種結晶として、シリカ結晶を添加する「ワインの安定化方法及びそれに用いる種結晶」特開平8−275768号公報(特許文献1参照)の発明がある。
また、種結晶として、酒石酸水素カリウム結晶を添加する「酒石を除去する方法及び装置」特公平5−8673号公報(特許文献2参照)の発明がある。
これらの種結晶添加法は、いずれも結晶核の自然発生を待つのではなく、ワインやジュースに種結晶を添加したうえ、晶析槽などにより冷却循環させて酒石酸塩の結晶成長を促進し、析出分離する方法である。
【0005】
さらに、グルコースの原料液を発酵させて多数の有機酸を含む液体を製造し、そこから酸味料などの原料となる酒石酸を選択的に分離する発酵法なる酒石酸の製造方法として、例えば「酒石酸の分離法」特開平5−163193号公報(特許文献3参照)記載の発明がある。
この酒石酸塩分離製造法は、発酵液からの酒石酸分離のためにカルシウムやカリウムを処理液に添加して冷却処理することで、一旦酒石酸塩結晶として析出させて分離ろ過し、その後化学処理して酒石酸を製造する方法である。
【0006】
また、酸化防止剤が添加されていないワインに赤外線パルス光を照射して、酸化を防止するとともに腐敗をも防止することを図った、本出願人による「赤外線照射ワインおよびその製造装置」特開2002−209571号公報(特許文献4参照)記載の発明がある。
【0007】
【特許文献1】
特開平8−275768号公報(第2図、及び[0011]項,[0015]項,[実施例])
【0008】
【特許文献2】
特公平5−8673号公報(第1図、及び[実施例],[作用],実験例の第4頁右欄第1行〜第15行)
【0009】
【特許文献3】
特開平5−163193号公報(明細書の[0005]項,[0009]項,[0014]項〜[0016]項)
【0010】
【特許文献4】
特開2002−209571号公報(第1図、第2図、及び[0001]項,[0006]項,[0021]項,[0034]項〜[0036]項)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
従来一般の冷却法は、酒石酸塩を溶解している液体を酒石酸塩が過飽和になる0℃から−5℃程度に冷却することにより、エネルギー的な揺らぎによって自然に酒石酸塩結晶の核が発生し、その核が成長するのを待つ方法であるため、酒石酸塩の析出、沈殿には長い時間を必要とする。
そのために冷却法による酒石酸塩の析出分離方法では、大型の冷却貯蔵設備が必要で設備に場所を取るだけでなく、設備コストや長期間の冷却貯蔵に要する電力消費コストも多大となった。
【0012】
つまり従来の冷却法は、酒石酸塩を高濃度に含む液体、例えばブドウを原料としたワインやジュースを0℃から−5℃程度に冷却し、酒石酸塩の濃度を過飽和状態に保持することによって、自然発生的に生成された酒石酸塩の結晶核が大きく成長するのを待つ方法であるために、ワインやジュースを冷却タンクで約7日から10日程度、或いはそれ以上の長期間をかけて酒石酸塩結晶の析出分離を行う必要がある。
また、ワインやジュースの原料となるブドウの違いや製造方法の違いによって酒石酸塩の含有量、PH、糖度、ポリフェノール量が変化するため、冷却時の過飽和度の程度が小さい時には、結晶核の生成と成長が遅れ、酒石酸塩の除去性能が必ずしも一定しないという欠点があり、更には、処理に調期間を要するため製品需要の急増などに際し迅速に対応できないという弱点もあった。
【0013】
また、上記種結晶添加法として、シリカ結晶を添加する特許文献1「ワインの安定化方法及びそれに用いる種結晶」の方法や、酒石酸水素カリウム結晶を添加する特許文献2「酒石を除去する方法及び装置」の方法は、結晶成長の核となる微細な結晶を人工的に添加することにより、結晶核の生成期間を省略する方法である。そして、酒石酸塩が過飽和となる−4℃程度で冷却循環させて、結晶成長を促進する方法であるため、短時間で確実に酒石酸塩を析出分離除去でき、処理に要する時間を大幅に短縮することが可能となり、製品需要にも迅速に対応できる方法である。
しかしながら、特殊な構造を持った高価な晶析槽が必要となって、その運転操作には熟練を要するものであった。
また、種結晶として添加する微細な結晶は、その寸法や結晶面の方向などによって結晶成長の性能が左右され、酒石酸塩の析出効果にバラツキが生じたり、種結晶と共に不純物が混入する恐れがあるため、添加する種結晶の品質管理を徹底する必要がある等の問題があった。
【0014】
また、従来の電気透析法やイオン交換法は、比較的短時間で酒石の主成分である酒石酸イオンやカリウムイオンを除去できる方法であるが、同時に酒石酸以外の有機酸やポリフェノール類といったワインやジュースに含まれる他の重要な成分の一部も吸着除去されてしまうため、ワインやジュースが本来有していた味や香りや色調などを変質させてしまうという問題点があった。
【0015】
さらに酒石酸を含む原料液から酒石酸を選択的に分離する発酵法なる酒石酸の製造方法、特許文献3「酒石酸の分離法」の方法は、酒石酸の抽出にはカリウムイオンを添加したうえ、pH調整を行って、酒石酸のカルシウム塩として沈殿させ分離しているが、処理効率や設備コスト及び運転コストに関して、ワインやジュースからの酒石酸塩分離と同様の問題が存在していた。
【0016】
また、本出願人による特許文献4「赤外線照射ワインおよびその製造装置」の発明は、ワインの酸化防止と腐敗防止を意図したものであって、酒石酸塩の結晶化と分離除去方法、およびその適正な相関までを配慮したものではなかった。
【0017】
本発明は、上述のような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、酒石酸塩が溶解している液体、ブドウを原料としたワインやジュースなどの飲料液体、或いは酒石酸や他の有機酸を溶解している液体から、効率良く短時間に酒石酸塩を析出分離する方法と、この方法によって得られた飲料を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る酒石酸塩の析出分離方法は、酒石酸塩を溶解している液体に赤外線レーザー光を照射して酒石酸塩の結晶核を生成する工程と、酒石酸塩を溶解している液体を過飽和温度に冷却して酒石酸塩の結晶を析出させ、かつ酒石酸塩の結晶の成長を促進させる工程と、析出した酒石酸塩の結晶を固液分離する工程とを設けるものである。
【0019】
また、この発明に係る酒石酸塩の析出分離方法は、酒石酸塩を溶解している液体に赤外線レーザー光を照射して酒石酸塩の結晶核を生成する工程の後に、酒石酸塩を溶解している液体を過飽和温度に冷却して酒石酸塩の結晶を析出させ、かつ酒石酸塩の結晶の成長を促進させる工程を設けるものである。
【0020】
また、この発明に係る酒石酸塩の析出分離方法は、酒石酸塩を溶解している液体に赤外線レーザー光を照射して酒石酸塩の結晶核を生成する工程と、酒石酸塩を溶解している液体を過飽和温度に冷却して酒石酸塩の結晶を析出させ、かつ結晶の成長を促進させる工程とを同時並行させるものである。
【0021】
また、上記酒石酸塩を溶解している液体に照射する赤外線レーザー光は、炭酸ガスパルスレーザー発振器を光源とする赤外線パルスレーザー光、またはNd−YAGパルスレーザー発振器を光源とする赤外線パルスレーザー光としたものである。
【0022】
さらにまた、上記赤外線レーザー光の照射条件は、波長が5.3μm或いは10.6μm、または1.6μmと3.5μmの混合波長の赤外線パルスレーザー光であって、平均出力が0.1W/cm2から2W/cm2、パルス繰り返し周波数が20Hzから10kHzとしたものである。
【0023】
また、酒石酸塩を溶解している液体は、ブドウを原料としたワインやジュースなどの飲料液体であって、赤外線レーザー光照射された飲料液体中に含有する析出した酒石酸塩の結晶を分離除去してなる赤外線照射飲料である。
【0024】
上記飲料液体への赤外線レーザー光の照射は、該赤外線レーザー照射によって飲料液体の酸化還元電位を低下させて酸化劣化を抑制しつつ、この酸化還元電位の低下が最小となる照射時間又はその近傍の照射時間であって、かつ酒石酸塩の結晶核の生成量が最大となる照射時間又はその近傍の照射時間とした赤外線照射飲料である。
【0025】
【発明実施の形態】
酒石酸塩を溶解している液体から酒石酸結晶得るには、第1に結晶の核の生成が必要であり、第2に結晶成長を促進させるための過飽和濃度の環境が必要である。
そこで本発明では、赤外線レーザー光の照射エネルギーによって酒石酸酸塩を励起して結晶核の生成を促し、かつ生成した酒石酸塩結晶を急速に成長させるために、酒石酸塩が過飽和になる温度に冷却保持することによって酒石酸塩の析出を促進することを特徴としている。
【0026】
つまり本発明は、酒石酸塩を溶解している液体、例えばブドウを原料としたワインやジュースなどの飲料液体、或いはそれらの原料液体、または食品工業における発酵液などの液体に赤外線レーザーを照射することにより、酒石酸塩の結晶核が生成され、かつこの液体を酒石酸塩が過飽和になる温度に冷却することにより析出効率が向上するという知見を実験的に得たもので、処理効果と処理製品の品質、設備コストや運転コストの面において効果が得られる。
【0027】
そして、酒石酸塩が溶解している液体に対して赤外線レーザー光を照射処理する時期を変える場合、次の2つの照射処理システムが適用できる。
【0028】
まず第1の赤外線レーザー光照射処理システムとして、酒石酸塩が溶解している液体に赤外線パルスレーザー光を照射した後に、冷却を行う方法にあっては、液体を冷却貯蔵するタンクへ送液する手前の配管或るいは小型タンクに赤外線パルスレーザー照射装置を取り付けるものである。
このシステムでは、赤外線パルスレーザー光を透過する窓材を介して流動している液体に照射したのち、照射処理した液体を貯蔵タンクにて−4℃程度に冷却保持しながらゆっくり攪拌或いは静置して酒石酸塩結晶の成長を促進し、大きく成長した酒石酸塩結晶を貯蔵タンク内で析出沈殿させる。そして、さらに微小で浮遊している酒石酸塩結晶は、次のフィルターろ過工程や遠心分離する工程において液体中から分離する。
【0029】
このように、冷却前の配管等の途中で、酒石酸塩が溶解している液体に赤外線レーザー光を照射する第1のシステムにあっては、予め所定の条件を設定し、同一条件で均一かつ連続的に、赤外線レーザー光を照射し酒石酸塩の結晶核を生成しながら送液し、その後この生成した結晶核を基にして、冷却によって安定状態で析出成長を促進させることができる。
そして、配管等の途中におけるレーザー照射装置の設置や取替え、メンテナンスなども簡単にできる。
【0030】
次に第2の赤外線レーザー光照射処理システムとして、酒石酸塩が溶解している液体を冷却した後、或いは冷却と同時に並行させて、液体に赤外線パルスレーザー光を照射する方法にあっては、液体を−4℃程度で冷却貯蔵しているタンクに赤外線パルスレーザー照射装置を取り付けるものである。
このシステムでは、攪拌或いは静置された冷却貯蔵タンク内の液体に、赤外線レーザー光を透過する窓材を介して赤外線パルスレーザー光を照射し、酒石酸塩の結晶核の生成と結晶成長とを同時に促進しながら、大きく成長した酒石酸塩結晶をタンク内で析出沈殿させる。そして、さらに微小で浮遊している酒石酸塩結晶は次のフィルターろ過工程や遠心分離する工程において液体中から分離する。
尚、冷却貯蔵タンクは、従来のような晶析槽に置き換えても良く、更に酒石酸塩結晶の析出効率を向上させることが可能となる。
【0031】
このように、酒石酸塩を溶解している液体を酒石酸塩が過飽和になる温度に冷却した後、或いは冷却しながら照射する第2のシステムにあっては、液体が冷却されている分だけ赤外線パルスレーザーの熱エネルギーが過度に液体へ入りにくくなるため、熱によってワインやジュースを劣化させることがない。また、この場合には、パルス幅が比較的長く安価なパルスレーザー発振器を用いることが可能となる。
【0032】
また、赤外線パルスレーザー光の照射形態としては、連続して照射する連続照射と一定時間毎に照射を断続する断続照射があり、更には照射効率を向上させるために、処理する液体の一定範囲の液面に対して、パルスレーザー光をスキャニングして照射する形態が適用できる。
【0033】
この方法に用いる赤外線パルスレーザー光は、炭酸ガスパルスレーザー発振器を光源とした波長10.6μmの赤外線パルスレーザー光、同じく炭酸ガスパルスレーザー発振器を光源とした波長5.3μmの赤外線パルスレーザー光が適用できる。
このように、パルス幅が短い赤外線パルスレーザー光を使用することによって、ブドウを原料としたワインやジュースなど飲料の酒石酸安定化処理においては、ワインやジュースなど飲料の品質をレーザー光の熱で劣化させることが生じない。
【0034】
なお、上記の赤外線パルスレーザー照射方法は、食品の酸味料や医薬品の原料として用いる酒石酸を発酵法等で製造する際にも適用できる。
また、Nd−YAGパルスレーザー発振器を光源とした波長3.5μmと1.6μmの混合波長の赤外線パルスレーザー光も適用することができることを実験で確認されている。
即ち原料液を発酵させて複数の有機酸が溶解している発酵液から酒石酸を抽出するにあたって、従来の発酵液にカルシウムやカリウムを添加し酒石酸塩結晶として析出分離する方法と比較して、処理する原料液体はワインなどと同様の液体であるので、発酵液にカルシウムやカリウムを添加することなく、ワインなどからの酒石酸分離と同様にパルスレーザー照射処理方法が有効である。
【0035】
【実施例】
図1乃至図4に基づいて、上記酒石酸塩の析出分離方法における実施形態例の具体的なレーザー照射装置、処理システム、及び実験結果について説明する。
【0036】
図1はレーザー照射装置1の全体を示しており、2は赤外線パルスレーザー発振器である。この赤外線パルスレーザー発振器1から発振された赤外線パルスレーザー光を、赤外線反射防止コーティングを施したレンズ3を用いて、光路途中にある鏡4や光学窓6に焦点を結ばないように図りながら照射する。
この際に、赤外線反射コーティングを施した鏡4を取り付けたスキャナー5を用いてレーザー光を走査し、レンズ3で適切なレーザービームサイズに整え、反射防止コーティングを施した光学窓6を介してワインやジュースなどの被処理液体7に照射する。
【0037】
上記赤外線パルスレーザー光は、波長が5.3μm或いは10.6μmの赤外線パルスレーザー光にあっては、平均出力は0.1W/cm2(ワット/平方センチメートル)から2W/cm2、パルス繰り返し周波数は20Hz(ヘルツ)から10kHz(キロヘルツ)の照射条件の範囲に、酒石酸塩の結晶析出が促進され、かつ被照射液の酸化抑制効果が得られる照射条件が存在していた。
【0038】
尚、波長5.3μmの炭酸ガスパルスレーザーの第二次高調波パルスレーザー光を照射する場合や、3.5μmと1.6μmの混合波長であるNd−YAGパルスレーザーのパラメトリック発振光を照射する場合には、それぞれのレーザー発振器2とスキャナー5に取り付けた鏡4のとの間の光路途中にレンズ、非線形光学結晶、ビームスプリッターなどを適宜配置する必要がある。
【0039】
図2は、冷却する前の液体輸送管にレーザー照射装置1を取り付けたシステムの事例である。
貯蔵タンク8から冷却器9に至る途中、液体輸送管にレーザー照射装置1を取付け、赤外線パルスレーザーを照射し結晶を生成させ、ポンプで送液する。そして、冷却攪拌槽10で結晶の成長を促進させ、固液分離槽11で酒石酸塩を沈殿分離し、清澄タンク12へ送っている。
【0040】
図3は、冷却攪拌槽10にレーザー照射装置1を取り付けたシステムの事例である。
このシステムでは、冷却攪拌槽10で冷却しながら、レーザー照射装置1で赤外線パルスレーザーを照射し結晶を生成させ、さらにこの冷却攪拌槽10内で結晶の成長を促進させ、固液分離槽11で酒石酸塩を沈殿分離し、清澄タンク12へ送液している。
このように、冷却攪拌槽10にてレーザーを照射する場合にあっては、被処理液体は静止状態であるよりも、一定速度の微速で攪拌された状態のほうが照射効率、結晶析出効率が向上する。
【0041】
赤外線パルスレーザー光の照射に際しては、赤外線パルスレーザーの出力とパルス繰り返し周波数を一定にしたうえで、照射時間や照射パターンを変えて照射する。
図4は、ワインに赤外線パルスレーザー光を照射後−4℃で24時間冷却保持した場合の、酒石酸塩結晶の析出量変化、及び酸化還元電位の変化量を模式的示したものである。
図4に示すように酒石酸塩結晶の析出量は、最初は照射時間を長くするほど増加してゆくが、或る照射時間を境にして反転して減少してゆくことが実験で確認された。
これは、パルスレーザー光の照射によってワイン中に酒石酸塩の結晶核が生成し析出し始め、照射時間が長いほど結晶核の生成量が多くなってゆくが、一方で結晶核が成長する駆動力は周囲の酒石酸塩の濃度に依存し、結晶核の生成数が少ないほど結晶は大きく成長し析出沈殿し易いのに対し、逆に結晶核の生成数が多くなりすぎると結晶成長自体が抑制されるため、微小な結晶が大量に形成されて、結晶は析出しても大きく成長しにくくなることを示している。
【0042】
また図4に示すように、赤外線パルスレーザー光の照射時間と酸化還元電位の変化の関係に関しては、照射時間を長くしてゆくと、赤外線パルスレーザー被照射液体の酸化還元電位は、初期値より低下してゆくが、或る照射時間を境に反転して、酸化還元電位の上昇を生ずる。
ところで、被照射液体の酸化還元電位は低いほど還元作用力が大きいことを示しているため、被照射液体がワインやジュースの場合は、酸化還元電位が初期値より低くなっている方が良い。
【0043】
よって被照射液体がワインやジュースの場合には、赤外線パルスレーザー照射時間は、図4に示す範囲、即ち酸化還元電位が初期値よりも低くなりかつ最低値を示す照射時間より短くて、しかも酒石酸塩結晶の析出量が最大に近い酒石酸塩結晶の析出量となる照射時間を選択するのが良い。
つまり、−4℃で冷却保持した被照射液に対し、酸化還元電位ができるだけ低くなるように赤外線パルスレーザー光を照射すると、ワインやジュースの酸化抑制効果が得られるのと同時に、溶解している酒石酸酸を結晶として析出分離することが容易となる。
【0044】
【発明の効果】
この発明に係る酒石酸塩の析出分離方法は、酒石酸塩を溶解している液体に赤外線レーザー光を照射して酒石酸塩の結晶核を生成する工程と、酒石酸塩を溶解している液体を過飽和温度に冷却して酒石酸塩の結晶を析出させ、かつ酒石酸塩の結晶の成長を促進させる工程と、析出した酒石酸塩の結晶を固液分離する工程とを設けるので、赤外線パルスレーザー光を照射することによって、酒石酸塩結晶の核生成を促進でき、液体を酒石酸塩が過飽和になる温度に冷却することによって、酒石酸塩結晶の急速な成長を促すことが可能となり、従来のように大型の冷却設備で長時間をかけることもなく、酒石酸塩を溶解する液体からの酒石酸塩の析出分離を短時間で確実に行うことができる。
また、外部より種結晶を添加する必要がないため、種結晶の品質管理に苦労することもない。
そして、処理効果と処理製品の品質、設備コストや運転コストの面において効果が得られる。
【0045】
また、この発明に係る酒石酸塩の析出分離方法は、酒石酸塩を溶解している液体に赤外線レーザー光を照射して酒石酸塩の結晶核を生成する工程の後に、酒石酸塩を溶解している液体を過飽和温度に冷却して酒石酸塩の結晶を析出させ、かつ酒石酸塩の結晶の成長を促進させる工程を設けるので、予め照射条件を設定して、均一かつ連続的に赤外線レーザー光を照射し酒石酸塩の結晶核を生成しながら送液し、その後この生成した結晶核を基にして、冷却によって安定状態で析出成長を促進させることができる。
そして、配管途中などにおける、レーザー照射装置の設置や取替え、メンテナンスなども簡単に行うことができる。
【0046】
また、この発明に係る酒石酸塩の析出分離方法は、酒石酸塩を溶解している液体に赤外線レーザー光を照射して酒石酸塩の結晶核を生成する工程と、酒石酸塩を溶解している液体を過飽和温度に冷却して酒石酸塩の結晶を析出させ、かつ結晶の成長を促進させる工程とを同時並行させるので、液体が冷却されている分だけ赤外線パルスレーザーの熱エネルギーが過度に液体へ入りにくくなるため、熱によって液体を劣化させることがなく、またパルス幅が比較的長く安価なパルスレーザー発振器を用いることが可能となる。
【0047】
また、上記酒石酸塩を溶解している液体に照射する赤外線レーザー光は、炭酸ガスパルスレーザー発振器を光源とする赤外線パルスレーザー光、またはNd−YAGパルスレーザー発振器を光源とする赤外線パルスレーザー光としたので、パルス幅が短い赤外線パルスレーザー光を使用することによって、ブドウを原料としたワインやジュースなど飲料の酒石酸安定化処理においては、ワインやジュースなど飲料の品質をレーザー光の熱で劣化させることが生じない。
【0048】
さらにまた、上記赤外線レーザー光の照射条件は、波長が5.3μm或いは10.6μm、または1.6μmと3.5μmの混合波長の赤外線パルスレーザー光であって、平均出力が0.1W/cm2から2W/cm2、パルス繰り返し周波数が20Hzから10kHzとしたので、この照射条件の範囲にて、酒石酸塩の結晶析出が促進され、かつ被照射液の酸化抑制効果が得られる照射条件が存在していた。
【0049】
また、酒石酸塩を溶解している液体は、ブドウを原料としたワインやジュースなどの飲料液体であって、赤外線レーザー光照射された飲料液体中に含有する析出した酒石酸塩の結晶を分離除去してなる赤外線照射飲料であるので、安定して確実、かつ効率良く酒石酸塩の分離除去を行うことが可能となり、品質の良い飲料を得ることができる。
【0050】
さらにまた、上記飲料液体への赤外線レーザー光の照射は、該赤外線レーザー照射によって飲料液体の酸化還元電位を低下させて酸化劣化を抑制しつつ、この酸化還元電位の低下が最小となる照射時間又はその近傍の照射時間であって、かつ酒石酸塩の結晶核の生成量が最大となる照射時間又はその近傍の照射時間とした赤外線照射飲料であるので、酸化還元電位を測定することによって適切な照射時間が設定されるため、酸化抑制を行いながら同時に効率良く酒石酸塩の分離除去を行うことが可能となる。
【0051】
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る酒石酸塩の析出分離方法に用いるレーザー照射装置を示す説明図である。
【図2】この発明に係る酒石酸塩の析出分離方法における赤外線パルスレーザー照射システムの第1の事例を示す説明図である。
【図3】この発明に係る酒石酸塩の析出分離方法における赤外線パルスレーザー照射システムの第2の事例を示す説明図である。
【図4】この発明に係る酒石酸塩の析出分離方法を用いて、ワインの処理を行った場合の赤外線パルスレーザー照射効果を示す説明図である。
【記号の説明】
1 レーザー照射装置
2 赤外線パルスレーザー発振器
3 レンズ
4 鏡
5 スキャナー
6 光学窓
7 被処理液体
8 貯蔵タンク
9 冷却器
10 冷却攪拌槽
11 固液分離槽
12 清澄タンク
Claims (7)
- 酒石酸塩を溶解している液体に赤外線レーザー光を照射して酒石酸塩の結晶核を生成する工程と、酒石酸塩を溶解している液体を過飽和温度に冷却して酒石酸塩の結晶を析出させ、かつ酒石酸塩の結晶の成長を促進させる工程と、析出した酒石酸塩の結晶を固液分離する工程とを設けることを特徴とする酒石酸塩の析出分離方法。
- 酒石酸塩を溶解している液体に赤外線レーザー光を照射して酒石酸塩の結晶核を生成する工程の後に、酒石酸塩を溶解している液体を過飽和温度に冷却して酒石酸塩の結晶を析出させ、かつ酒石酸塩の結晶の成長を促進させる工程を設けることを特徴とする請求項1記載の酒石酸塩の析出分離方法。
- 酒石酸塩を溶解している液体に赤外線レーザー光を照射して酒石酸塩の結晶核を生成する工程と、酒石酸塩を溶解している液体を過飽和温度に冷却して酒石酸塩の結晶を析出させ、かつ結晶の成長を促進させる工程とを同時並行させることを特徴とする請求項1記載の酒石酸塩の析出分離方法。
- 酒石酸塩を溶解している液体に照射する赤外線レーザー光は、炭酸ガスパルスレーザー発振器を光源とする赤外線パルスレーザー光、またはNd−YAGパルスレーザー発振器を光源とする赤外線パルスレーザー光であることを特徴とする請求項1乃至3記載の酒石酸塩の析出分離方法。
- 酒石酸塩を溶解している液体に照射する赤外線レーザー光の照射条件は、波長が5.3μm或いは10.6μm、または1.6μmと3.5μmの混合波長の赤外線パルスレーザー光であって、平均出力が0.1W/cm2から2W/cm2、パルス繰り返し周波数が20Hzから10kHzであることを特徴とする請求項1乃至4記載の酒石酸塩の析出分離方法。
- 酒石酸塩を溶解している液体は、ブドウを原料としたワインやジュースなどの飲料液体であって、赤外線レーザー光照射された飲料液体中に含有する析出した酒石酸塩の結晶を分離除去してなることを特徴とする赤外線照射飲料。
- 上記飲料液体への赤外線レーザー光の照射は、該赤外線レーザー照射によって飲料液体の酸化還元電位を低下させて酸化劣化を抑制しつつ、この酸化還元電位の低下が最小となる照射時間又はその近傍の照射時間であって、かつ酒石酸塩の結晶核の生成量が最大となる照射時間又はその近傍の照射時間であることを特徴とする請求項6記載の赤外線照射飲料。
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