JP2004263814A - 流体軸受装置の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】生産性の低下を招いたりすることなく、撥油剤を良好に定着させることのできる流体軸受装置の製造方法を提供する。
【解決手段】スリーブとシャフトとを互いに組み付けていない状態で、スリーブとシャフトとに撥油剤を供給する撥油剤供給工程#1、#2と、この後に撥油剤が変性しない温度ならびに時間の条件下でスリーブとシャフトとをそれぞれ乾燥させる乾燥工程#3、#4と、この後、スリーブとシャフトとを組み付けるとともに、スリーブの端部にスラストプレートを、シール接着剤を供給した状態で組み付ける組付工程#5、#6と、互いに組み付けたシャフトとスリーブとを、撥油剤が変性する温度ならびに時間の条件とシール接着剤が硬化する条件との両者を満たす条件下で加熱して、撥油剤を変性させて定着させると同時にシール接着剤を硬化させる加熱工程#7とを有せしめる。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハードディスクなどのモータに用いられる流体軸受装置の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ハードディスクのスピンドルモータやビデオテープレコーダの回転ヘッド駆動用モータなどに用いられている流体軸受装置は知られている(例えば、特許文献1)。図4は、この流体軸受装置の部分断面図である。この図4に示すように、流体軸受装置は、軸受部21aを有するスリーブ21と、このスリーブ21内に回転自在に挿入されたシャフト22との間の隙間に、潤滑剤1が充填されており、シャフト22における軸受部21aと対向する部分22a(または軸受部21a)に、へリングボーン形状の動圧発生溝2を形成している。そして、シャフト22またはスリーブ21を回転させることにより、動圧発生溝2においてへリングボーン形状に基づくポンピング作用による動圧を発生させて、スリーブ21とシャフト22とを非接触状態に維持するようになっている。
【0003】
スリーブ21とシャフト22との間に充填された潤滑剤1は、表面張力によってスリーブ21内部に保持されているが、流体軸受装置の回転駆動により潤滑剤1が飛散したり滲み出したりすると、回転不良や外部への汚染を生じるため、図4に示すように、潤滑剤1の液界面付近箇所(図4においては、シャフト22の段部22bならびにスリーブ21における前記段部22bに対向する箇所21bを含む部分)に、潤滑剤1をはじく撥油剤3を塗布して潤滑剤1の滲み出しや流出を防いでいる。
【0004】
なお、図示しないが、スリーブ21の一端部には、円板状のスラストプレートがシール接着剤で接着されており、スリーブ21の一端部側が閉塞されて潤滑剤1が漏れないようにシールされている。
【0005】
この種の流体軸受装置は、従来、以下のような方法を用いて組立てていた。
図5に示すように、まず、スリーブ21にシャフト22を挿入していない状態で、それぞれに撥油剤3を塗布し(撥油剤供給工程(ステップ#11、#12))、次に、スリーブ21およびシャフト22をそれぞれ単体で、加熱室内に持ち込んで所定時間加熱し、例えば、80℃で1時間、さらに120℃で1時間加熱する(加熱(撥油剤定着)工程(ステップ#13、#14))。これにより、撥油剤3中の溶剤成分を発散させて変性させ、撥油剤3を定着させている。
【0006】
次に、スリーブ21にシャフト22を挿入して組み付け(シャフト組付工程(ステップ#15))、さらに、スリーブ21の端部にスラストプレートを、シール接着剤を供給した状態で組み付けた(スラストプレート組付工程(ステップ#16))後、この流体軸受装置を、再度、加熱室内に持ち込んで、85℃の状態で所定時間(例えば4時間)加熱して、シール接着剤の硬化およびガス抜きを行っていた(加熱(シール接着剤硬化)工程(ステップ#17))。
【0007】
そして、この後、スリーブ21とシャフト22との間の隙間に、潤滑剤1を充填していた(潤滑剤充填工程(ステップ#18))。
【0008】
【特許文献1】
特開平5−256315号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の流体軸受装置の製造方法によれば、撥油剤3を定着させるための加熱処理を行った後、スリーブ21とシャフト22との組み付け後に、シール接着剤を硬化させるための加熱処理を再度行っているため、これらの加熱処理に多くの時間がかかって生産性が悪くなるという課題があった。また、各加熱処理を行う度に、加熱室にスリーブ21やシャフト22、また、スリーブ21にシャフト22を取り付けた流体軸受装置を搬送しなければならないため、この搬送作業にも多くの手間や時間がかかり、さらに、生産性を低下させていた。
【0010】
本発明は上記課題を解決するもので、生産性の低下を招いたりすることなく、撥油剤を良好に定着させることのできる流体軸受装置の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明の請求項1に記載の流体軸受装置の製造方法は、スリーブとシャフトとを互いに組み付けていない状態で、スリーブとシャフトとに、撥油剤を供給する撥油剤供給工程と、この後に撥油剤が変性しない温度ならびに時間の条件下でスリーブとシャフトとをそれぞれ乾燥させる乾燥工程と、この後、スリーブとシャフトとを組み付けるとともに、スリーブの端部にスラストプレートを、シール接着剤を供給した状態で組み付ける組付工程と、互いに組み付けたシャフトとスリーブとを、撥油剤が変性する温度ならびに時間の条件とシール接着剤が硬化する条件との両者を満たす条件下で加熱して、撥油剤を変性させて定着させると同時にシール接着剤を硬化させる加熱工程とを有することを特徴とする。
【0012】
この方法によれば、乾燥工程において、撥油剤は変性することはないものの、乾燥により溶剤の一部が揮発して粘度が高まり、撥油剤の供給位置がずれることを防止できる。そして、その後の過熱工程において、シール接着剤を硬化させると同時に、並行して撥油剤を定着させるので、従来のように、スリーブやシャフトを組み付ける前には、これらのスリーブやシャフトを加熱室に持ち込んで高温で加熱しなくても済み、生産性が向上する。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の流体軸受装置の製造方法において、乾燥工程では自然乾燥することを特徴とする。
この方法によれば、乾燥工程において自然乾燥するだけでよいので、これによっても手間や時間を省くことができる。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1に記載の流体軸受装置の製造方法において、定着硬化工程における撥油剤の変性条件が少なくとも約80℃、1時間であることを特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図1および図2を用いて説明する。
まず、本発明の製造方法により製造する流体軸受装置について、図1を参照しながら説明する。図1(a)はこの流体軸受装置の断面図、図1(b)はこの流体軸受装置の要部拡大断面図である。図2は本発明の実施の形態にかかる流体軸受装置の製造方法の工程を示す図である。また、図3は同流体軸受装置の製造方法における撥油剤が変性する温度ならびに時間の関係を示す図である。なお、図4に示す従来の流体軸受装置の構成要素と同様な機能のものには同符号を付す。
【0016】
図1(a)、(b)に示すように、ベース11に植設されたスリーブ12の小径孔部13にシャフト14が挿通され、小径孔部13と同軸状に形成された大径孔部15に、シャフト14の端部に圧入固定され円板状をなすスラスト軸受16が配置されている。スリーブ12の端部には、スラスト軸受16との間に所定の間隙を形成しながら大径孔部15を閉塞する円板状のスラストプレート17が設けられている。また、18は、スリーブ12の端部の内周面とスラストプレート17の外周面とを接着して、これらの間の隙間をシールするシール接着剤であり、例えば、二液性の熱硬化型接着剤が用いられている。
【0017】
スリーブ12とシャフト14との間、および、スリーブ12,スラストプレート17の内側とシャフト14,スラスト軸受16との間には、潤滑油1が注入されている。また、シャフト14におけるスリーブ12から突出する部分近傍箇所(潤滑油1の液面1a近傍箇所でもある)には、V状溝14cが形成され、このV状溝14cを含むスリーブ12の端部や外周部に、潤滑剤1をはじいて潤滑剤1の滲み出しや流出を防ぐ撥油剤3が塗布されている。さらに、スリーブ12における前記シャフト14のV状溝14cが設けられている箇所に臨むテーパ面12aならびに、その近傍の端面および外周面にも撥油剤3が塗布されて、潤滑剤1の滲み出しや流出が防止されている。
【0018】
なお、図示しないが、スリーブ12の小径孔部13の壁面13a(またはシャフト14におけるスリーブ12の壁面13aと対向する部分14a)には、へリングボーン形状の動圧発生溝が形成されており、シャフト14(またはスリーブ12)を回転させることにより、動圧発生溝においてへリングボーン形状に基づくポンピング作用による動圧を発生させて、スリーブ12とシャフト14とを非接触状態に維持する。
【0019】
また、スラスト軸受16とスラストプレート17との何れか一方の対向面16a(17a)、およびスラスト軸受16とシャフト14との何れか一方の対向面16b(14b)に、半径方向に沿って伸びたヘリングボーン形状の動圧発生溝が形成されており、シャフト14(またはスリーブ12)を回転させることにより、動圧発生溝においてへリングボーン形状に基づくポンピング作用による動圧を発生させて、スラスト軸受16とスラストプレート17、およびスラスト軸受16とシャフト14とを非接触状態に維持する。
【0020】
次に、上記流体軸受装置のスリーブ12とシャフト14とを組みつけて潤滑油1を充填するまでの手順について、図2を参照しながら説明する。 まず、スリーブ12にシャフト14を挿入していない状態で、まず、それぞれに、溶剤を含む撥油剤3を塗布し(撥油剤供給工程(ステップ#1、#2))、次に、スリーブ12およびシャフト14をそれぞれ単体で、自然乾燥し(乾燥工程(ステップ#3、#4))、例えば、室温状態で、1時間乾燥させる。これにより、撥油剤3は変性(キュア)することはないものの、乾燥により撥油剤3中の溶剤の一部が揮発して粘度が高まり、撥油剤3が塗布位置からずれることを防止できる。
【0021】
次に、スリーブ12にシャフト14を挿入して組み付けるとともに、スリーブ12の端部にスラストプレート17を、シール接着剤18を供給した状態で組み付ける(組付工程(ステップ#5、#6))。
【0022】
この後、互いに組み付けたスリーブ12とシャフト14とを、加熱室内に持ち込んで、撥油剤3が変性する温度ならびに時間の条件と、シール接着剤18が硬化する条件との両方の条件を満足する温度および時間で加熱する(加熱工程(ステップ#7))。
【0023】
ここで、図3は、撥油剤3が変性する温度ならびに時間を示すもので、例えば、80℃で、1時間以上保持することにより変性して硬化するが、70℃で例えば2時間以上保持したり、90℃で40分以上保持したりしてもよい。また、シール接着剤18の硬化条件としては、その成分や性質により異なるため、一概には規定できないが、例えば、本実施の形態にかかる二液性の熱硬化型接着剤の場合には、85℃で2時間保持することで十分に硬化する。
【0024】
したがって、本実施の形態では、85℃で2時間保持し、これにより、撥油剤3は変性(キュア)して良好に定着すると同時に、シール接着剤18が良好に硬化する。この際、撥油剤3は、熱により撥油剤3中の成分が架橋され、安定した状態に変化(キュア)して定着する。
【0025】
そして、この後、スリーブ12とシャフト14との間の隙間に、真空ポンプを利用するなどして潤滑剤1を充填する(潤滑剤充填工程(ステップ#8))。
この製造方法によれば、スリーブ12とシャフト14とが単体(互いに組み付けていない)の状態では、単に乾燥させるだけであり、その後の過熱工程において、シール接着剤18を硬化させると同時に、並行して撥油剤3を定着させるので、従来のように、スリーブ12やシャフト14を組み付ける前には、これらのスリーブ12やシャフト14を加熱室に持ち込んで高温で加熱しなくても済む。したがって、スリーブ12とシャフト14との組み付け前に、これらを加熱室へ搬送したり、加熱室への持込のための準備作業などを行ったりしなくても済み、その分だけ手間や時間を省くことができて、生産性が向上する。また、乾燥工程において自然乾燥することにより、例えば、加熱室への持込まずに、加熱装置により比較的低い温度で加熱する場合と比べても、手間や時間を省くことができる。
【0026】
なお、上記実施の形態では、シール接着剤18として二液性の熱硬化型接着剤を用いた場合を述べたが、これに限るものではなく、加熱硬化性も有する一液性の嫌気性付与紫外線硬化接着剤など、その他の熱硬化性を有するシール接着剤を用いてもよく、加熱工程において、撥油剤3が変性する温度ならびに時間の条件と、シール接着剤18が硬化する条件との両方の条件を満足する条件(温度および時間)で加熱すればよい。
【0027】
また、上記方法は、図1に示す構造の流体軸受装置に限るものではなく、撥油剤3を塗布するなどして供給する工程を有する流体軸受装置の製造方法に適用できることはもちろんである。
【0028】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、スリーブとシャフトとを互いに組み付けていない状態で、スリーブとシャフトとに撥油剤を供給した後に撥油剤の変性温度よりも低い温度でスリーブとシャフトとをそれぞれ乾燥させ、この後、スリーブとシャフトとを組み付けるとともに、スリーブの端部にスラストプレートを、シール接着剤を供給した状態で組み付け、互いに組み付けたシャフトとスリーブとを、撥油剤が変性する温度ならびに時間の条件とシール接着剤が硬化する条件との両者を満たす条件下で加熱して、撥油剤を変性させて定着させると同時にシール接着剤を硬化させることにより、それぞれ撥油剤が供給されたスリーブとシャフトとを互いに組み付けていない状態では、撥油剤の変性温度よりも低い温度で乾燥させるだけでよく、加熱室に持ち込んで高温で加熱しなくても済んで、多くの手間や時間を省くことができて、生産性が向上する。
【0029】
また、乾燥工程で自然乾燥することによっても、手間や時間を省くことができて、生産性が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明の実施の形態にかかる流体軸受装置の製造方法により製造する流体軸受装置の断面図、(b)はこの流体軸受装置の要部拡大断面図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる流体軸受装置の製造方法の工程を示す図である。
【図3】同流体軸受装置の製造方法における撥油剤が変性する温度ならびに時間の関係を示す図である。
【図4】従来の流体軸受装置の断面図である。
【図5】従来の流体軸受装置の製造方法の工程を示す図である。
【符号の説明】
1 潤滑油
3 撥油剤
12 スリーブ
12a テーパ面
13a 壁面
14 シャフト
14a 対向部分
14c V状溝

Claims (3)

  1. スリーブとシャフトとを互いに組み付けていない状態で、スリーブとシャフトとに、撥油剤を供給する撥油剤供給工程と、
    この後に撥油剤が変性しない温度ならびに時間の条件下でスリーブとシャフトとをそれぞれ乾燥させる乾燥工程と、
    この後、スリーブとシャフトとを組み付けるとともに、スリーブの端部にスラストプレートを、シール接着剤を供給した状態で組み付ける組付工程と、
    互いに組み付けたシャフトとスリーブとを、撥油剤が変性する温度ならびに時間の条件とシール接着剤が硬化する条件との両者を満たす条件下で加熱して、撥油剤を変性させて定着させると同時にシール接着剤を硬化させる加熱工程と
    を有することを特徴とする流体軸受装置の製造方法。
  2. 乾燥工程では自然乾燥することを特徴とする請求項1に記載の流体軸受装置の製造方法。
  3. 定着硬化工程における撥油剤の変性条件が少なくとも約80℃、1時間であることを特徴とする請求項1または2に記載の流体軸受装置の製造方法。
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