JP2004256852A - 超硬合金およびそれを用いたドリル - Google Patents
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Abstract
【解決手段】コバルトを主体とする結合相5〜15質量%にて炭化タングステン粒子間を結合してなり、前記炭化タングステン粒子の平均粒径が0.9μm以下であるとともに、前記結合相中に少なくともクロムを含有し、かつ前記結合相中のクロム濃度が炭化タングステン粒子との界面に向かって漸次増加する超硬合金を作製する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は超硬合金およびそれを用いたドリルに関し、特に強度や硬度のばらつきを抑え、さらに穴あけ加工時のドリル変形を抑制した超硬合金およびそれを用いたドリルに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属の切削加工やプリント基板加工用として、炭化タングステン粒子を主体として、チタン、ニオブ、ジルコニウム、クロム、バナジウム、およびタンタル等のいわゆるβ相(β金属炭化物)を添加し、かつ結合相としてコバルトを含有せしめた超硬合金が広く用いられている。
【0003】
かかる超硬合金として、特にプリント基板加工用ドリル等の小物加工用として用いられているものは、炭化タングステン粒子の粒径を1μm以下と小さくした、いわゆる超微粒超硬が好適であり、例えば、特許文献1では、超硬合金中にクロムとバナジウムを少量添加し、かつこれら金属成分を結合相中に固溶せしめることによって炭化タングステン粒子の粒成長を抑制して微粒化し、硬度および強度に優れるとともに、耐摩耗性と靭性に優れた超硬合金が作製できることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、超硬合金中にバナジウム、クロム、タンタル、ニオブおよびチタンの炭化物や炭窒化物粒子またはタングステン、バナジウム、クロム、タンタル、ニオブおよびチタンの2種以上からなる炭化物や炭窒化物粒子を分散せしめ、かつその粒径を制御することによって硬度および靭性に優れた超硬合金が作製できることが記載されている。
【0005】
一方、プリント基板加工用ドリル等の切削工具としては、微細配線化、高密度化が進められ、ドリル加工においてはドリル径の極小径化、ドリルの回転速度を上げた高速切削化が求められている。
【0006】
〔特許文献1〕
特開昭61−12847号公報
〔特許文献2〕
特開平6−81072号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に記載されるように超硬合金中に少量のクロムとバナジウムを加えて炭化タングステン粒子を微粒化したものでは、合金の硬度と強度を向上させることができるが、上記ドリル径の極小径化および高速切削化に対応しようとすると繰り返し加工によって穴位置精度が低下したり、疲労によってドリルが折損する等の問題があった。
【0008】
また、特許文献2のように超硬合金中に炭化物や炭窒化物粒子を分散したものでも、小径のドリルとして応用した場合、ドリル径が0.2mm以下と極小径化すると折損が発生しやすく、さらにドリルの形状が変形して穴位置精度が低下するという問題があった。
【0009】
本発明は上記課題に対してなされたもので、その目的は、硬度・強度を高めることができて耐欠損性、耐摩耗性および耐折損性に優れるとともに、極小径化、高速切削における繰り返し加工によっても穴位置精度の高いドリルを作製可能な超硬合金、およびそれを用いたドリルを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明においては、超硬合金の結合相の構成に着目し、結合相中にクロムを含有せしめるとともに、この結合相中のクロム濃度を炭化タングステン粒子との界面に向かって漸次増加する組織とすることによって、ドリルの極小径化、高速切削化においても繰り返し加工における穴位置精度の高い加工が可能となるものである。
【0011】
すなわち、本発明の超硬合金は、コバルトを主体とする結合相5〜15質量%にて炭化タングステン粒子間を結合してなる超硬合金であって、前記炭化タングステン粒子の平均粒径が0.9μm以下であるとともに、前記結合相中に少なくともクロムを含有し、かつ前記結合相中のクロム濃度が炭化タングステン粒子との界面に向かって漸次増加することを特徴とする。
【0012】
上記超硬合金では、前記超硬合金を粉砕し、#20メッシュを通した粉砕粉末を50℃の希塩酸(HCl:H2O=1:1)中で24時間溶解してろ過したろ液中に、ろ液中の総金属量に対してクロムを2〜6質量%の割合で含有することが望ましい。
【0013】
また、上記超硬合金では、前記ろ液中に、さらに、ろ液中の総金属量に対してタングステンを12〜30質量%の割合で含有することが望ましい。
【0014】
また、上記超硬合金では、前記ろ液中に、さらにバナジウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムおよびタンタルの群から選ばれる少なくとも1種を含有することが望ましい。
【0015】
また、本発明のドリルは、上記のような超硬合金からなることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の超硬合金は、コバルトを主体とする結合相5〜15質量%にて炭化タングステン粒子間を結合してなるものであって、前記炭化タングステン粒子の平均粒径が0.9μm以下、特に0.5μm以下、さらに0.35μm以下と微細な粒子が分散したものである。すなわち、上記超硬合金において炭化タングステン粒子の平均粒径が0.9μmより大きくなると超硬合金の硬度および抗折強度が低下してドリルの耐折損性および耐摩耗性が低下する。
【0017】
ここで、本発明によれば、前記結合相中にクロムが存在し、このクロムの濃度が炭化タングステン粒子との界面に向かって漸次増加することが大きな特徴であり、これによって、超硬合金のクリープ特性、特に結合相、および結合相と炭化タングステン粒子との界面における繰り返し荷重および高温化に対する信頼性をたかめることができることから、ドリルの極小径化、および高速切削化においても繰り返し加工における穴位置精度の高いドリル加工が可能となる。
【0018】
すなわち、結合相中にクロムを含有しないか、またはクロム濃度が一定である場合、結合相および結合相と炭化タングステン粒子との界面において繰り返しの荷重および高温化に対し位置ずれや変形、剥離等が発生して繰り返し加工による穴位置精度の低下を招く。なお、結合相中にクロムが含有されているか否かについては、透過型電子顕微鏡(TEM)観察において結合相領域の構成元素をエネルギー分散分光分析(EDS)法によって測定することにより確認できる。
【0019】
さらに、上記超硬合金においては、結合相をなすコバルトの含有量は5〜15質量%であることがドリルとして必要な硬度および強度を満足するために必要であるが、小径化、穴位置精度の向上のためにドリルの変形を起こさない点では、結合相をなすコバルトの含有量は特に5〜15質量%、さらには5〜8質量%であることが望ましい。
【0020】
なお、結合相および結合相と炭化タングステン粒子との界面に存在するクロムの含有量は、前記超硬合金を粉砕し、#20メッシュを通した粉砕粉末を50℃の希塩酸(HCl:H2O=1:1)中で24時間溶解してろ過したろ液中に含まれるクロム濃度を分析することによって見積もることができるが、結合相の強度向上の点でろ液中の金属総含有量に対するクロム含有量が2〜6質量%の割合であることが望ましい。
【0021】
ここで、本発明によれば、前記ろ液中に、さらに、金属総含有量に対するタングステンを12〜30質量%の割合で含有することによって、結合相の特に高温での変形を防止することができる。
【0022】
また、前記ろ液中に、クロム以外にも、さらにバナジウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムおよびタンタルの群から選ばれる少なくとも1種の金属成分を含有せしめ、結合相中または結合相界面に上記クロムを含めたβ金属を溶け込ませていることが結合相強化の点で望ましく、中でもバナジウムを含有せしめることにより炭化タングステン粒子の粒径制御が可能となる。
【0023】
なお、上記クロム、バナジウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムおよびタンタルの群から選ばれる少なくとも1種の金属成分は結合相中にすべて溶解するものであっても良いが、その一部は平均粒径0.01〜0.5μmの第3相硬質粒子として析出、分散することがドリルの耐折損性向上の点で望ましい。
【0024】
また、上述した本発明の超硬合金は、金属または樹脂加工用の切削工具、特にスローアウェイ式切削工具として有用に使用できるが、中でも使用本数が多く、かつ加工精度が要求されるプリント基板加工用ドリルとして特に有効である。
【0025】
(製造方法)
また、上述した超硬合金を製造するには、まず、例えばフィッシャー(Fischer)法による平均粒径(FSSS)が1.0μm以下、特に0.5μmの炭化タングステン粉末を80〜94質量%、平均粒径(FSSS)0.1〜1.8μmの炭化クロム粉末を0.4〜0.8質量%、バナジウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムおよびタンタルの炭化物、窒化物または炭窒化物の群から選ばれる少なくとも1種の粉末を5質量%以下、平均粒径(FSSS)0.1〜0.5μmのコバルト粉末を5〜15質量%の割合で秤量し、これに、所望により炭素含有量調整のために炭化タングステン原料粉末の炭素含有量に対して平均粒径0.1μm以下のカーボンブラック(C)粉末を混合する。
【0026】
ここで、本発明によれば、上記原料粉末のうち、炭化タングステン粉末、炭化クロム粉末、コバルト粉末の平均粒径を上記範囲に制御すること、および炭化クロム粉末の不純物酸素量を0.2〜0.5質量%、特に0.2〜0.4質量%に制御することが重要であり、上記原料粉末の平均粒径が上記範囲から逸脱すると後述の焼成温度範囲内で焼結体を緻密化させることができず後述する焼成温度が1375℃を超えることによって上述した結合相中のクロム濃度分布を達成することができない。また、炭化クロム粉末の不純物酸素量が0.2%より少ないと上述した結合相中のクロム濃度分布を達成することができず、逆に不純物酸素量が0.5%を超えると緻密化に必要な焼成温度が1375℃を超えてしまうとともに、超硬合金中の炭素量の調整が困難となる。
【0027】
次に、上記混合に際して、メタノール等の有機溶媒を加え、粉砕メディアとして平均粒径0.5μm以下の炭化タングステン粒子を主体とする超硬合金製の平均直径2〜7mmの粉砕ボールを用いて振動ミル粉砕するか、あるいは10〜20時間アトライタ粉砕することにより混合粉末の均一化を図った後、混合粉末に有機バインダを添加して成形用の混合粉末を得る。
【0028】
次に、上記混合粉末を用いて、プレス成形、鋳込成形、押出成形、冷間静水圧プレス成形等の公知の成形方法によって所定形状に成形した後、0.1〜5Paの真空中、1330〜1375℃の温度で0.2〜2時間真空焼成した後、アルゴンガスを5MPa以上導入して前記真空焼成温度よりも5〜100℃低い温度で0.5〜2時間熱間静水圧プレス焼成を施し、5〜10℃/分の冷却速度で1000℃以下の温度まで冷却することにより本発明の超硬合金を作製することができる。
【0029】
ここで、上記焼成条件のうち、焼成温度が1330℃より低いと合金を緻密化させることができず強度低下を招き、逆に焼成温度が1375℃を超えると、炭化タングステン粒子が粒成長して硬度、強度が低下するとともに上述した結合相中のクロムの濃度分布を達成することができない。また、熱間静水圧プレス焼成の温度と真空焼成温度との差が5℃より小さいと結合相中のクロム濃度分布を達成することができず、逆にこの温度差が100℃より大きいと合金中にボイドが発生して強度低下の原因となる。
【0030】
また、上述した本発明の超硬合金は、高硬度、高強度、耐変形性に優れるとともに、信頼性の高い機械的特性を有することから、金型、耐摩耗部材、高温構造材料等に適応可能であり、中でも切削工具、さらにはプリント基板加工用ドリルとして好適に使用可能である。
【0031】
さらに、本発明の切削工具は、上述した超硬合金の表面に、周期律表第4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸窒化物、特に(TiaMb)CxNyOz(ただし、M:Al,Zr,Cr,Siの群から選ばれる少なくとも1種、0<a≦1,0≦b<1,a+b=1,0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)、ダイヤモンド、cBNおよびAl2O3の群から選ばれる少なくとも1種の被覆層を単層または複数層形成したものであってもよい。
【0032】
なお、超硬合金に前記被覆層を形成するには、所望により、超硬合金の表面を研磨、洗浄した後、従来公知のPVD法やCVD法等の薄膜形成法を用いて成膜すればよい。また、被覆層の厚みは0.1〜20μmであることが望ましい。
【0033】
(ドリル)
また、上記超硬合金を用いてプリント基板加工用ドリルを作製するには、上述した原料および成形用混合粉末を用いて棒状成形体を作製し、上述した焼成方法に従って焼成した後、焼結体に加工を施して所望のドリル形状に加工することによって作製できる。さらに、ドリルの少なくとも一部に上述したコーティング膜を成膜してもよい。
【0034】
【実施例】
(実施例)
表1に示すフィッシャー法による平均粒径の炭化タングステン(WC)粉末、炭化クロム(Cr3C2)粉末、金属コバルト(Co)粉末および他金属炭化物粉末、平均粒径0.05μmのカーボンブラックを表1に示す比率で添加し、溶媒としてメタノールを、メディアとして平均粒径0.3μmの超硬合金製からなる平均直径3mmの粉砕ボールを加えて、アトライタ混合し、有機バインダとしてパラフィンを添加した。乾燥して混合粉末を作製した後、プレス成形により棒状に成形し、表1に示す条件で焼成して超硬合金を50本ずつ作製した。
【0035】
【表1】
得られた超硬合金50本についてφ0.15mm、アンダーカットタイプのドリル形状に加工し、下記条件によってプリント基板の孔あけ加工テストを行い、2000穴加工したときのドリルの穴位置加工精度(基板のドリル加工上面に対する下面の穴中心位置のずれ:平均dμm、バラツキ3σ)を測定するとともに、引き続き穴開け加工を続けて穴開け加工できた加工数を求めた。結果は表2に示した。
【0036】
<条件>
被削材:FR−4
ドリル形状:φ0.15mm、アンダーカットタイプ
スピンドル回転数:200,000rpm
送り速度:3.0m/min
また、上記ドリルの任意5点について透過型電子顕微鏡(TEM)像を観察し、炭化タングステン粒子の平均粒径、およびエネルギー分散分光分析(EDS:energy dispersive spectroscopy)にて任意5箇所について結合相の中心から炭化タングステン粒子との界面に向かって、結合相中に含有されるクロム濃度変化を測定した。
【0037】
さらに、上記ドリルを粉砕し#20メッシュを通した粉砕粉末1gに塩酸(HCl:H2O=1:1)溶液を加え、スターラーにて攪拌し24時間50℃で加熱溶解した溶液をろ過した。この溶液に希塩酸(HCl:H2O=1:1)溶液を加えて50ml定容とし、このろ液について、ICP法によってろ液中のコバルト、クロム、タングステンおよび他金属元素の含有量を測定し、ろ液全体中の金属総量に対する各金属含有割合(ろ液中の各金属含有濃度)を算出した。結果は表2に示した。
【0038】
【表2】
表1、2の結果より、本発明に従い、炭化タングステン粒子の平均粒径が0.9μm以下であるとともに、結合相中にクロムを含有し、かつ前記結合相中のクロム濃度が炭化タングステン粒子との界面に向かって漸次増加する試料No.1〜5についてはいずれも加工本数(工具寿命)が12000本以上であり、穴位置精度も高いものであった。
【0039】
これに対して、原料粉末の性状、特に炭化クロム粉末の不純物酸素量および平均粒径、または焼成条件が適正な範囲から外れ、結合相中のクロム濃度分布が均一となった試料No.6〜10では、いずれも加工本数(工具寿命)および穴位置精度が本発明の試料に比べて劣るものであった。
【0040】
【発明の効果】
以上詳述したとおり、本発明の超硬合金によれば、結合相中にクロムを含有せしめるとともに、この結合相中のクロム濃度を炭化タングステン粒子との界面に向かって漸次増加する組織とすることによって、ドリルの極小径化、高速切削化においても繰り返し加工における穴位置精度の高い加工が可能となる。
【0041】
また、本発明のドリルによれば、結合相中にクロムを含有せしめるとともに、この結合相中のクロム濃度を炭化タングステン粒子との界面に向かって漸次増加する組織を有する超硬合金からなることから、ドリルの極小径化、高速切削化においても繰り返し加工における穴位置精度の高い加工が可能となる。
Claims (5)
- コバルトを主体とする結合相5〜15質量%にて炭化タングステン粒子間を結合してなる超硬合金であって、前記炭化タングステン粒子の平均粒径が0.9μm以下であるとともに、前記結合相中に少なくともクロムを含有し、かつ前記結合相中のクロム濃度が炭化タングステン粒子との界面に向かって漸次増加することを特徴とする超硬合金。
- 前記超硬合金を粉砕し、#20メッシュを通した粉砕粉末を50℃の希塩酸(HCl:H2O=1:1)中で24時間溶解してろ過したろ液中に、ろ液中の総金属量に対してクロムを2〜6質量%の割合で含有することを特徴とする請求項1記載の超硬合金。
- 前記ろ液中に、さらに、ろ液中の総金属量に対してタングステンを12〜30質量%の割合で含有することを特徴とする請求項2記載の超硬合金。
- 前記ろ液中に、さらにバナジウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムおよびタンタルの群から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項2記載の超硬合金。
- 請求項1乃至4のいずれか記載の超硬合金からなるドリル。
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