JP2004256838A - プレス成形性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板 - Google Patents
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Abstract
【課題】プレス成形における摺動性に優れた合金化溶融めっき鋼板を提供する。
【解決手段】Fe−Zn合金めっき層を少なくとも鋼板の片面に有し、かつ、該Fe−Zn合金めっき層はその表面に平坦部を有し、前記平坦部表層には、微細な網目状構造と分散状に存在する粒子状物とを有し、前記粒子状物は平均粒径が20〜500nmで1μm2当り1〜100個存在する。前記網目状構造は酸化物及び/又は水酸化物主体で、前記粒子状物は金属状態主体である。
【選択図】 図1
【解決手段】Fe−Zn合金めっき層を少なくとも鋼板の片面に有し、かつ、該Fe−Zn合金めっき層はその表面に平坦部を有し、前記平坦部表層には、微細な網目状構造と分散状に存在する粒子状物とを有し、前記粒子状物は平均粒径が20〜500nmで1μm2当り1〜100個存在する。前記網目状構造は酸化物及び/又は水酸化物主体で、前記粒子状物は金属状態主体である。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、プレス成形における摺動性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板と比較して塗装性及び溶接性に優れることから、自動車や家電製品等に広く利用されている。
【0003】
このような合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、プレス成形を施されて目的の用途に供される。しかし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、冷延鋼板に比べてプレス成形性が劣るという欠点を有する。これは合金化溶融亜鉛めっき鋼板とプレス金型との摺動抵抗が、冷延鋼板の場合に比較して大きいことが原因である。即ち、ビードと亜鉛系めっき鋼板との摺動抵抗が著しく大きい部分で、合金化溶融亜鉛めっき鋼板がプレス金型に流入しにくくなり、鋼板の破断が起こりやすい。
【0004】
そこで亜鉛系めっき鋼板のプレス成形性を向上させる方法としては、一般に高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられている。しかしこの方法では、潤滑油の高粘性のために、塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生したり、またプレス時の油切れにより、プレス性能が不安定になる等の問題がある。前記問題を解決するには、潤滑油の塗布量を極力低減できることが必要であり、そのためには、合金化溶融亜鉛めっき鋼板自体のプレス成形性を改善することが必要となる。
【0005】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に亜鉛めっきを施した後、加熱処理を行い、鋼板中のFeとめっき層中のZnが拡散する合金化反応が生じることにより、Fe−Zn合金層を形成させたものである。このFe−Zn合金層は、通常、Γ相、δ1相、ζ相からなる皮膜であり、Fe濃度が低くなるに従い、すなわち、Γ相→δ1相→ζ相の順で、硬度ならびに融点が低下する傾向がある。このため、摺動性の観点からは、高硬度で、融点が高く凝着の起こりにくい高Fe濃度の皮膜が有効であり、プレス成形性を重視する合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、皮膜中の平均Fe濃度を高めに製造されている。
【0006】
しかしながら、高Fe濃度の皮膜では、めっき−鋼板界面に硬くて脆いΓ相が形成されやすく、加工時に、界面から剥離する現象、いわゆるパウダリングが生じ易い問題を有している。このため、特許文献1に示されているように、摺動性と耐パウダリング性を両立するために、上層に第二層として硬質のFe系合金を電気めっきなどの手法により付与する方法がとられている。
【0007】
めっき皮膜を二層とすることは製造コストが余計にかかるという問題も有している。この問題を解決する方法として、特許文献2および特許文献3は、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理を施すことにより、ZnOを主体とする酸化膜を形成させて溶接性、または加工性を向上させる技術を開示している。
【0008】
特許文献4は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、リン酸ナトリウム5〜60 g/lを含みpH2〜6の水溶液中にめっき鋼板を浸漬するか、電解処理、また、上記水溶液を散布することによりP酸化物を主体とした酸化膜を形成して、プレス成形性及び化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0009】
特許文献5は、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布処理、塗布酸化処理、または加熱処理により、Ni酸化物を生成させることによりプレス成形性および化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0010】
特許文献6は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に凹部を形成させることで、潤滑油を鋼板表面に保持しやすくし、プレス成形性を向上させる技術を開示している。
【0011】
特許文献7では、めっき表面を対象としたマクロな粗さパラメータである、“表面の断面曲線の振幅確率密度分布”(スキューネス)を−1.5以上−0.3未満に規定することにより、プレス成形性を向上させる技術を開示している。
【0012】
以下に、先行技術文献情報について記載する。
【0013】
【特許文献1】
特開平1−319661号公報
【0014】
【特許文献2】
特開昭53−60332号公報
【0015】
【特許文献3】
特開平2−190483号公報
【0016】
【特許文献4】
特開平4−88196号公報
【0017】
【特許文献5】
特開平3−191093号公報
【0018】
【特許文献6】
特開平7−18402号公報
【0019】
【特許文献7】
特開平5−117831号公報
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献2〜5のようにめっき層表面に酸化膜を形成する方法では、特にプレス金型とめっき鋼板が接触する面積が広い部分で、摺動を継続して受けるような場合には摺動性の改善効果は少ない。これは、表面の酸化物が摺動の過程において容易に剥ぎ取られてしまうためであり、このような従来の方法でもプレス成形性の改善効果としては十分であるとは言えない。
【0021】
また、凹部を形成させる特許文献6についても、これだけでは十分なプレス成形性が得られないことがわかった。これは、凹部には潤滑油が溜まり易いが、逆に摺動性に与える影響が大きい凸部には潤滑油が溜まりにくいという問題があるためと考えられる。特許文献7についても、十分なプレス成形性は得られていない。先行技術6と7は、めっき表面のマクロな形状制御だけでは、顕著なプレス成形性の向上は達成できないことを示している。
【0022】
この発明は上記の問題点を解決するためになされたもので、プレス成形における摺動性に優れた合金化溶融めっき鋼板を提供することを目的とする。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述した目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき表面に平坦部を設け、その平坦部表面に微小粒子が混在した微細な凹凸を形成することで、高度に安定して優れたプレス成形性が得られることを知見した。本発明における微細な凹凸の粗さは、先行技術6、7に示されているめっき表面の粗さとはそのスケールにおいてまったく異質のものである。すなわち、先行技術6、7ではめっき表面全体を対象としたマクロな粗さであり(例えば、数10mm×数10mmの範囲内の粗さ、Ra≧1μm)、本発明ではめっき表面上に形成された平坦部(典型的には数μm×数μm)内の微細凹凸(粗さは、Ra≦10nm)を問題としている。
【0024】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、合金化処理時の鋼板−めっき界面の反応性の差およびFe−Zn合金の角張った形状により、めっき表面にマクロな凹凸が存在している。このような合金化溶融亜鉛めっき鋼板に平坦部を設ける。平坦部を設けることによって、めっき表面の凹凸を緩和し表面を平滑にすると同時にめっき表面の凸部を平坦にする。平坦部の形成方法は特に限定されないが、調質圧延と兼ねてもよい。このようにして形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面の平坦部は、プレス成形時に金型が直接接触する部分であるため、この平坦部の摺動抵抗を小さくすることが、プレス成形性を安定して改善することにつながるのである。
【0025】
本発明者らは、平坦部の表面に微細な網目状構造を形成するとともに、さらに微小粒子を分散状に存在せしめることで、摺動抵抗が減少することを知見した。さらに、微細な網目状構造のすべてあるいは一部をめっき皮膜のFe−Zn合金よりも高融点の物質、例えばZn主体の酸化物及び/又は水酸化物、また粒子状物を金属状態主体とすることによりさらに優れた摺動抵抗低減効果が得られることがわかった。
【0026】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものである。
【0027】
第1発明は、Fe−Zn合金めっき層を少なくとも鋼板の片面に有し、かつ、該Fe−Zn合金めっき層はその表面に平坦部を有し、前記平坦部表層には、微細な網目状構造と分散状に存在する粒子状物とを有し、前記粒子状物は平均粒径が20〜500nmで1μm2当り1〜100個存在することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0028】
第2発明は、第1発明において、前記網目状構造は酸化物及び/又は水酸化物主体で、前記粒子状物は金属状態主体であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0029】
第3発明は、第1発明または第2発明において、前記網目状突起構造と分散状に存在する粒子状物とを有する部分が、面積率で、平坦部の30%以上存在することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0030】
第4発明は、第1発明または第2発明または第3発明において、Fe−Zn合金めっき層の平坦部表面に、Ni付着量として100〜1000mg/m3のNi、又はNi及びZn を主成分とする皮膜を有し、かつ前記Ni、又はNi及びZn を主成分とする皮膜の表層が網目状構造と分散状に存在する粒子状物からなることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0031】
【発明の実施の形態】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板のプレス成形性を向上させるためには、プレス成形時に金型が直接接触するめっき表面の摺動抵抗を低減することが必要である。Fe−Zn合金めっき層表面に平坦部を設けることにより、プレス成形時に金型が接触する表面の大部分をこの平坦部に限定することができる。その上で、この平坦部表面に微小粒子を分散させた微細な網目状構造を形成することが、摺動抵抗の低減に非常に有効である。
【0032】
また、Fe−Zn合金めっき層表面に平坦部を設け、さらにその上に摺動特性改善処理皮膜を形成し、該皮膜の平坦部に前述の微小粒子を分散させた微細な網目状構造を形成してもよい。
【0033】
これは、1)微小粒子によりめっき表面の平坦部と金型との接点が分散され実接触面積が減少することによる効果(以下、接触面積分散効果)と、2)微細な網目状構造が平坦部に潤滑油を保持する効果(以下、微小油溜効果)、さらに3)両者を混在させることにより、微小粒子が柱のような役割を果たして微細な網目状構造物が摺動により破壊されるのを抑制する効果、により平坦部と金型との摺動抵抗が低減するためと考えられる。従って、めっき鋼板全体が金型との間で滑り易くなり、プレス成型時の摺動性を格段に向上できるものと考えられる。
【0034】
めっき表面の平坦部に、上記の微小粒子または微細な網目状構造が単独で形成されていても摺動抵抗が低減する効果は発揮されるが、発明者らは、特に両者が混在する表面において、格段に摺動抵抗が低減する効果を確認した。
【0035】
図1は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層の平坦部表面に形成された微細な網目状構造と分散状に存在する粒子状物とを説明する走査電子顕微鏡写真の一例である。図1において、黒色部分または黒灰色部分(1)が網目状構造の凹部で、この部分を囲むようにして網目状に白く見える部分(2)が網目状構造の凸部である。また、円形状の白色部分(3)が粒子状物である。
【0036】
図2は、めっき層の平坦部表面に形成された微細な網目状構造を説明する平面模式図で、網目状構造部分は図1の場合よりも拡大して示されている。但し、図2には、粒子状物は示されていない。図2において、白抜きの島状の部分(4)は網目状構造の凹部、ハッチング部分(5)は網目状構造の凸部に対応し、ハッチング部分内の破線(6)は、凸部の稜線を示している。
【0037】
網目状構造とは、図2の模式図に示されるように、凸部が凹部(網の目)を囲むように形成された構造で、微細な凹部が分散している。凹部とは、最低部と平均高さで5nm以上の高低差のある凸部で囲まれて隔てられた窪みのことである。周囲の凸部は同じ高さである必要はなく、ある程度の高さの変動があっても構わない。重要なことは、微細な凹部が分散していることである。凹部の形態(凹部を上から見たときの形態で、本明細書では凹部の平面構造とも記載する。)は特に限定されない。ここで、凹部の平面構造は、凹部を囲む凸部の稜線を辿って形成される平面形状であり、略円形、略楕円形、略多角形、あるいはこれらが部分的に結合して形成されたものであってもよく、また、稜線を辿る線は、部分的に折れ曲がっていてもよい。この微細な凹部が摺動方向に依存しない微小油溜として働き、平坦部の摺動抵抗を低下させる。そのため、めっき皮膜の平坦部表面の微細凹凸を網目状構造とすることで、安定して高い摺動抵抗低減効果を得ることができる。
【0038】
摺動抵抗低減効果のある網目状構造の典型的な形態は、凹部の平面構造を面積が等価な円と仮定した場合、その平均直径は5〜500nm程度であり、凸部の平均高さは500nm以下である。また、不連続な凹部の数は、1μm2当たり5個以上であることが望ましく、10個以上であることがより望ましい。ここで、凹部の面積は、凹部を囲む凸部の稜線で囲まれた部分の面積である。
【0039】
微小粒子は、平均粒径が20〜500nmで、1μm2当り1〜100個の範囲で分散されていることが望ましい。ここで、微小粒子の平均粒径は上から見たときの平均粒径である。分散状に存在する微小粒子は網目状構造内部にあってもよく、一部分またはその大部分が網目状構造の上方に露出していてもよい。
【0040】
前記微小粒子及び微細網目状構造は、めっき皮膜(Fe−Zn合金めっき層)上にじかに形成されていてもよく、あるいは、めっき皮膜表層のFe−Zn合金よりも高融点の物質からなるような摺動特性改善処理皮膜を合金化処理後に付与された後、その皮膜上に形成されていてもよい。摺動特性改善処理皮膜としては、例えばNi付着量として100〜1000mg/m3のNi系皮膜を電解処理により形成したものを例示できる。この場合、皮膜は少なくともFe−Zn合金めっき層表面の平坦部に形成されており、金属状態のNi、又はNi及びZnを主成分とすることが好ましい。該皮膜表層には、既に酸化物及び/又は水酸化物が形成されていてもよいが、厚さ10nm以下でNi、又はNi及びZnが主体であることが好ましい。
【0041】
ここまで述べてきためっき表面について、微小粒子を含む微細網目状構造が存在する平坦部は、平坦部に対する面積率として30%以上(100%を含む)であることが望ましい。その理由は、30%未満では摺動抵抗の低減効果が十分に得られないためである。このとき、面積率が高ければ高いほどその効果が大きく、50%以上とするのがより望ましい。
【0042】
これまで述べた微小粒子及び微細網目状構造は、その組成を特に限定するものではないが、めっき表面の平坦部を構成するFe−Zn合金よりも高融点の物質で構成することにより、より摺動抵抗を低減することができる。この理由は金型と接する部分が高融点となるため、金型と擦れ合う際に融着を防ぐ効果が加わるためと考えられる。微小粒子及び微細網目状構造を高融点の物質で形成させても良いし、微小粒子及び微細網目状構造物の表面に高融点の物質を存在させても良い。微細凹凸のサイズが同程度であれば高融点の物質の部分が多い方が摺動抵抗の低減効果が大きい。めっき皮膜表層のFe−Zn合金より高融点の物質としては、Ni、Feなどの金属、Zn、Ni、Fe、Al、Mn、Siなどの酸化物、あるいは水酸化物などで、他のめっき鋼板特性を著しく低下させるものでなければ特に規定されるものではない。
【0043】
また、特に、網目状構造物内に分散している微小粒子を、酸化物ではなく金属状態(例えばZn、Ni、Feなどからなる金属粒子)とすることで、より大きな摺動抵抗低減効果が得られる。この場合でも、金属粒子の表面には、自然酸化や網目状構造物の影響による酸化物及び/又は水酸化物が存在していてもよい。
【0044】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の摺動性を改善する処理として、例えばNiを含む処理液を用いた処理が合金化処理後に行われていることがある。このような点を考慮すると前記微細網目状構造、あるいは少なくとも網目状構造物表面を、めっき皮膜中に含まれる成分であるZn、及び/又は摺動性改善のための処理液中に含まれるNi、またはそれらの酸化物及び/又は水酸化物とすることに、工業上の利点がある。その理由は、他の金属や金属化合物を形成させるためには、新たな工程を追加する必要があるが、上記物質であれば、めっき皮膜中に含まれる金属成分または既に採用されている摺動性を改善するための処理液中に含まれる金属成分を利用できるため、比較的簡便な処理により微細凸部を平坦部表面に形成できるからである。さらに、新たな工程を追加する必要が少ないため、合金化溶融亜鉛めっき鋼板本来の特性を劣化させる心配が少なく、新たな元素を追加する必要がないため添加元素による影響の心配もない。
【0045】
この場合、十分な摺動性向上効果を得るためには酸化物及び/又は水酸化物層の平均の厚さを10nm以上とすることが望ましい。これは、平均厚さが10nm未満では摺動抵抗の低減効果が十分でないことによる。また、平均厚さが500nmを超えると、この酸化物及び/又は水酸化物が割れ易くなり、めっき表面にキズが付き易くなること、また、化成処理性が劣化するため望ましくない。
【0046】
めっき表面に平坦部を形成させる場合、平坦部の面積率は、20%以上80%以下とするのが望ましい。20%未満では、微小粒子及び微細網目状構造による摺動性改善効果を発揮できる平坦部と金型との接触面積が小さくなるため、プレス成形性の改善効果が小さくなる。平坦部を除く部分は、プレス成型時に潤滑油を保持する役割を持つ。平坦部を除く部分の面積率が20%未満になる(平坦部の面積率が80%を超える)とプレス成形時に油切れを起こしやすくなり、プレス成形性の改善効果が小さくなる。このなかでも、平坦部の面積率は30%以上、70%以下の範囲がさらに望ましい。
【0047】
本発明において、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき皮膜の合金相の構成については特に限定しない。めっき皮膜中鉄濃度が高くめっき層表面の平坦部にζ相がほとんど存在しない(ほぼδ1相)めっき鋼板に本発明を適用する場合は、硬いδ1相の効果と相まって高い摺動抵抗の低減効果を得ることができる。また、めっき皮膜中鉄濃度が低く平坦部にζが存在するめっき鋼板に本発明を適用すると、低鉄濃度皮膜の高い成型性と本発明の低摺動抵抗を兼ね備えた、高加工性の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【0048】
微小粒子及び微細網目状構造の形状や大きさ、分布は、高分解能の走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡などにより観察あるいは測定できる。粒径は、電子顕微鏡写真及び電子間力顕微鏡像を画像処理して粒毎の面積を求め、各粒を円と仮定したときの直径で規定する。高さは、めっき表面からの高さ(但し、微細網目状構造の凹部が、めっき皮膜表層のFe−Zn合金よりも高融点の物質、例えば、Ni又はNiとZnを含む酸化物及び/又は水酸化物からなる場合は、該凹部表面からの高さ)である。
【0049】
酸化物あるいは水酸化物層の厚さは、Ar+イオンスパッタリングと組み合わせたオージェ電子分光法(AES)や透過型電子顕微鏡による断面観察などにより求めることができる。AESによる方法においては、所定深さまでスパッタした後、測定対象の各元素のピーク強度から相対感度因子補正により、その深さでの組成を求めることができる。酸化物または水酸化物に起因するOの含有率は、ある深さで最大値となった後(これが最表層の場合もある)、減少し一定となる。酸化物層の厚さは、Oの含有率が、最大値より深い位置で、最大値と一定値との和の1/2となるスパッタリング時間を、膜厚既知のSiO2膜などのスパッタレートをもとに、換算して求めることができる。
【0050】
めっき表面の平坦部は、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡等で表面を観察することで容易に識別可能である。めっき表面における平坦部の面積率は、上記顕微鏡写真を画像解析することにより求めることができる。
【0051】
本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するには、亜鉛めっき浴でめっきし、合金化処理を行う。亜鉛めっき浴中の添加元素成分は特に限定されない。すなわち、Al、Fe、Pb、Sb、Si、Sn、Mn、Ni、Ti、Li、Cuなどが含有または添加されていても、本発明の効果が損なわれるものではない。次いでめっき表面に平坦部を形成する。その際、平坦部の面積率を前記で説明した範囲にする。平坦部を形成する方法は特に限定されない。例えば、調質圧延によってめっき表面に平坦部を形成できる。その際、圧延条件を調整し、平坦部の面積率を前記で説明した範囲にする。
【0052】
次いで、めっき表面の平坦部に前記した微小粒子及び微細網目状構造を形成する。この方法は特に規定するものではないが、上記鋼板にNiを電気めっきした後酢酸ナトリウム溶液に浸漬することで形成する方法が一例としてあげられる。
【0053】
なお、本発明において、微小粒子及び微細網目状構造には、Zn、Fe、Ni以外にめっき皮膜に含有または添加されているZn、Fe、Ni以外の成分や微細凹凸やその下層を形成する処理液などに含まれるP、Mg、Ca、Sr、Ba、F、S、Cl、C、N、B、Na、MnあるいはSiなどが不可避的に取り込まれていてもよい。このような場合でも、本発明のプレス成形性改善効果が損なわれることはない。
【0054】
【実施例】
板厚0.8mmの冷延鋼板上に、常法の溶融亜鉛めっきと合金化処理を行い、付着量45〜60g/m2のFe−Zn合金めっき皮膜を形成し、更に調質圧延を行った。この際、調質圧延の圧下荷重を変化させることで、表面における平坦部の面積率を40〜60%に調整した。合金化溶融亜鉛めっき皮膜の平均Fe濃度を9.4〜10.5%に調節した。次に、オフラインにて、pH12.5の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、合金化処理時の加熱により生成した酸化物層の一部を除去した(以下、アルカリ処理)。引き続き、平坦部に微細凹凸を形成するために次の処理を行った。
【0055】
上記合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対して、Ni2+イオン、Fe2+イオン、Zn2+イオン及び硝酸イオンを含む酸性硫酸塩水溶液からなる電解液中で陰極電解処理を施し、Ni付着量として100〜1000mg/m3のNi系皮膜を形成させた。電解液として、Ni2+イオンを0.8〜1.1mol/l、Fe2+イオンをmol濃度としてFe2+イオン濃度/(Fe2+イオン濃度+Ni2+イオン濃度)が0.1となるように硫酸塩により添加し、0.02mol/lの硝酸イオン濃度を硝酸ナトリウムにより添加した。電解処理条件は、浴温を50℃、電流密度を30〜90A/dm2とした。
【0056】
さらに、10g/lの酢酸ナトリウム溶液(pH1.5)に2〜20秒間浸漬し、1〜5秒間放置した後水洗・乾燥させた。浸漬時間を変化させることで、表面凹凸の形状や表面凹凸を形成する元素の状態を変化させた。
【0057】
比較例1、2では、前記工程のうち、電解処理を行っていない。比較例3では、前記工程のうち、電解処理までしか行なわず、酢酸ナトリウムへの浸漬を行なっていない。また、前記工程でアルカリ処理のみを行い、その後微細凹凸を形成するための処理を施していない比較例4も用意した。
【0058】
次いで、以上の様に作製した供試体について、平坦部の微細凹凸部の形状と面積率、凹凸を構成する成分(金属状態または酸化物(水酸化物)の判定)、平坦部の面積率の測定をした。また、プレス成形性を評価するために、各供試体の摩擦係数を測定した。
【0059】
平坦部の面積率は、光学顕微鏡又は走査電子顕微鏡(SEM)による観察像から、2値化等の画像処理により平坦部を抽出することで求めることができる。いずれの供試体も平坦部の面積率は40〜60%の範囲にあった。微細凹凸の形状および面積率は、電界放出型の走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて観察することにより評価した。金属状態または酸化物の判定は、前記FE−SEMを用い、エネルギー分散型のX線分光器で行った。加速電圧を2kVに設定し、表面敏感かつ高空間分解能で、粒子状の物質および網目状の構造上に電子ビームを固定して分析を行った。金属状態または酸化物の判定は、ZnおよびNiのL線の強度に対する酸素K線の相対強度で行った。強度比(高さ比:O−K/(Zn−L+Ni−L)が0.4以上の場合は酸化物及び/又は水酸化物が主体、0.3以下の場合は金属状態が主体と判定した。
【0060】
摩擦係数は以下のようにして測定した。
図3は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。図3に示すように、供試体から採取した摩擦係数測定用試料11が試料台12に固定され、試料台12は、水平移動可能なスライドテーブル13の上面に固定されている。スライドテーブル13の下面には、これに接したローラ14を有する上下動可能なスライドテーブル支持台15が設けられ、これを押上げることにより、ビード16による摩擦係数測定用試料11への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル17が、スライドテーブル支持台15に取付けられている。上記押付力を作用させた状態でスライドテーブル13を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル18が、スライドテーブル13の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、日本パーカライジング社製ノックスラスト550HNを試料11の表面に塗布して試験を行った。
【0061】
図4および図5は、使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード16の下面が試料11の表面に押しつけられた状態で摺動する。図4に示すビード16の形状は、幅10mm、試料の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。図5に示すビード16の形状は、幅10mm、試料の摺動方向長さ69mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ60mmの平面を有する。
【0062】
摩擦係数測定試験は、以下に示す2条件で行った。
[条件A(高面圧条件)]図4に示すビードを用い、押付荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル13の水平移動速度):100cm/minとした。
[条件B(低面圧条件)]図5に示すビードを用い、押付荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度:20cm/minとした。
供試体とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
【0063】
結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
網目状構造中に粒子状の構造物を分散させた、本発明例1〜3は、比較例1〜4よりも低い摩擦係数を示しており、摺動特性に優れることがわかる。網目状構造および粒子状物が単独でも低い摩擦係数を示すが(比較例1〜3)、それら摩擦係数の平均よりも、本発明例の摩擦係数が低いことから、本発明の効果は二つの異なる構造の効果の単なる足し合わせでなく、二つの構造を分散させた効果であることが明確である。網目状構造が酸化物主体、粒子状物が金属状態主体である本発明例3は、さらに低い摩擦係数を示しており、プレス成形性が向上している。
【0066】
【発明の効果】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板はプレス成形時の摺動抵抗が小さく、安定して優れたプレス成形性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層の平坦部表面に形成された微細な網目状構造と分散状に存在する粒子状物とを説明する図面代用の走査電子顕微鏡写真の一例である。
【図2】本発明の実施の形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層の平坦部表面に形成された微細な網目状構造を説明する平面模式図である。
【図3】摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。
【図4】図3中のビード形状・寸法を示す概略斜視図である。
【図5】図3中の別のビード形状・寸法を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
1、4 網目状構造の凹部
2、5 網目状構造の凸部
3 粒子状物
6 網目状構造の凸部の稜線
11 摩擦係数測定用試料
12 試料台
13 スライドテーブル
14 ローラ
15 スライドテーブル支持台
16 ビード
17 第1ロードセル
18 第2ロードセル
19 レール
N 押付荷重
F 摺動抵抗力
P 引張荷重
【発明の属する技術分野】
この発明は、プレス成形における摺動性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板と比較して塗装性及び溶接性に優れることから、自動車や家電製品等に広く利用されている。
【0003】
このような合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、プレス成形を施されて目的の用途に供される。しかし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、冷延鋼板に比べてプレス成形性が劣るという欠点を有する。これは合金化溶融亜鉛めっき鋼板とプレス金型との摺動抵抗が、冷延鋼板の場合に比較して大きいことが原因である。即ち、ビードと亜鉛系めっき鋼板との摺動抵抗が著しく大きい部分で、合金化溶融亜鉛めっき鋼板がプレス金型に流入しにくくなり、鋼板の破断が起こりやすい。
【0004】
そこで亜鉛系めっき鋼板のプレス成形性を向上させる方法としては、一般に高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられている。しかしこの方法では、潤滑油の高粘性のために、塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生したり、またプレス時の油切れにより、プレス性能が不安定になる等の問題がある。前記問題を解決するには、潤滑油の塗布量を極力低減できることが必要であり、そのためには、合金化溶融亜鉛めっき鋼板自体のプレス成形性を改善することが必要となる。
【0005】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に亜鉛めっきを施した後、加熱処理を行い、鋼板中のFeとめっき層中のZnが拡散する合金化反応が生じることにより、Fe−Zn合金層を形成させたものである。このFe−Zn合金層は、通常、Γ相、δ1相、ζ相からなる皮膜であり、Fe濃度が低くなるに従い、すなわち、Γ相→δ1相→ζ相の順で、硬度ならびに融点が低下する傾向がある。このため、摺動性の観点からは、高硬度で、融点が高く凝着の起こりにくい高Fe濃度の皮膜が有効であり、プレス成形性を重視する合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、皮膜中の平均Fe濃度を高めに製造されている。
【0006】
しかしながら、高Fe濃度の皮膜では、めっき−鋼板界面に硬くて脆いΓ相が形成されやすく、加工時に、界面から剥離する現象、いわゆるパウダリングが生じ易い問題を有している。このため、特許文献1に示されているように、摺動性と耐パウダリング性を両立するために、上層に第二層として硬質のFe系合金を電気めっきなどの手法により付与する方法がとられている。
【0007】
めっき皮膜を二層とすることは製造コストが余計にかかるという問題も有している。この問題を解決する方法として、特許文献2および特許文献3は、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理を施すことにより、ZnOを主体とする酸化膜を形成させて溶接性、または加工性を向上させる技術を開示している。
【0008】
特許文献4は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、リン酸ナトリウム5〜60 g/lを含みpH2〜6の水溶液中にめっき鋼板を浸漬するか、電解処理、また、上記水溶液を散布することによりP酸化物を主体とした酸化膜を形成して、プレス成形性及び化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0009】
特許文献5は、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布処理、塗布酸化処理、または加熱処理により、Ni酸化物を生成させることによりプレス成形性および化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0010】
特許文献6は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に凹部を形成させることで、潤滑油を鋼板表面に保持しやすくし、プレス成形性を向上させる技術を開示している。
【0011】
特許文献7では、めっき表面を対象としたマクロな粗さパラメータである、“表面の断面曲線の振幅確率密度分布”(スキューネス)を−1.5以上−0.3未満に規定することにより、プレス成形性を向上させる技術を開示している。
【0012】
以下に、先行技術文献情報について記載する。
【0013】
【特許文献1】
特開平1−319661号公報
【0014】
【特許文献2】
特開昭53−60332号公報
【0015】
【特許文献3】
特開平2−190483号公報
【0016】
【特許文献4】
特開平4−88196号公報
【0017】
【特許文献5】
特開平3−191093号公報
【0018】
【特許文献6】
特開平7−18402号公報
【0019】
【特許文献7】
特開平5−117831号公報
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献2〜5のようにめっき層表面に酸化膜を形成する方法では、特にプレス金型とめっき鋼板が接触する面積が広い部分で、摺動を継続して受けるような場合には摺動性の改善効果は少ない。これは、表面の酸化物が摺動の過程において容易に剥ぎ取られてしまうためであり、このような従来の方法でもプレス成形性の改善効果としては十分であるとは言えない。
【0021】
また、凹部を形成させる特許文献6についても、これだけでは十分なプレス成形性が得られないことがわかった。これは、凹部には潤滑油が溜まり易いが、逆に摺動性に与える影響が大きい凸部には潤滑油が溜まりにくいという問題があるためと考えられる。特許文献7についても、十分なプレス成形性は得られていない。先行技術6と7は、めっき表面のマクロな形状制御だけでは、顕著なプレス成形性の向上は達成できないことを示している。
【0022】
この発明は上記の問題点を解決するためになされたもので、プレス成形における摺動性に優れた合金化溶融めっき鋼板を提供することを目的とする。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述した目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき表面に平坦部を設け、その平坦部表面に微小粒子が混在した微細な凹凸を形成することで、高度に安定して優れたプレス成形性が得られることを知見した。本発明における微細な凹凸の粗さは、先行技術6、7に示されているめっき表面の粗さとはそのスケールにおいてまったく異質のものである。すなわち、先行技術6、7ではめっき表面全体を対象としたマクロな粗さであり(例えば、数10mm×数10mmの範囲内の粗さ、Ra≧1μm)、本発明ではめっき表面上に形成された平坦部(典型的には数μm×数μm)内の微細凹凸(粗さは、Ra≦10nm)を問題としている。
【0024】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、合金化処理時の鋼板−めっき界面の反応性の差およびFe−Zn合金の角張った形状により、めっき表面にマクロな凹凸が存在している。このような合金化溶融亜鉛めっき鋼板に平坦部を設ける。平坦部を設けることによって、めっき表面の凹凸を緩和し表面を平滑にすると同時にめっき表面の凸部を平坦にする。平坦部の形成方法は特に限定されないが、調質圧延と兼ねてもよい。このようにして形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面の平坦部は、プレス成形時に金型が直接接触する部分であるため、この平坦部の摺動抵抗を小さくすることが、プレス成形性を安定して改善することにつながるのである。
【0025】
本発明者らは、平坦部の表面に微細な網目状構造を形成するとともに、さらに微小粒子を分散状に存在せしめることで、摺動抵抗が減少することを知見した。さらに、微細な網目状構造のすべてあるいは一部をめっき皮膜のFe−Zn合金よりも高融点の物質、例えばZn主体の酸化物及び/又は水酸化物、また粒子状物を金属状態主体とすることによりさらに優れた摺動抵抗低減効果が得られることがわかった。
【0026】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものである。
【0027】
第1発明は、Fe−Zn合金めっき層を少なくとも鋼板の片面に有し、かつ、該Fe−Zn合金めっき層はその表面に平坦部を有し、前記平坦部表層には、微細な網目状構造と分散状に存在する粒子状物とを有し、前記粒子状物は平均粒径が20〜500nmで1μm2当り1〜100個存在することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0028】
第2発明は、第1発明において、前記網目状構造は酸化物及び/又は水酸化物主体で、前記粒子状物は金属状態主体であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0029】
第3発明は、第1発明または第2発明において、前記網目状突起構造と分散状に存在する粒子状物とを有する部分が、面積率で、平坦部の30%以上存在することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0030】
第4発明は、第1発明または第2発明または第3発明において、Fe−Zn合金めっき層の平坦部表面に、Ni付着量として100〜1000mg/m3のNi、又はNi及びZn を主成分とする皮膜を有し、かつ前記Ni、又はNi及びZn を主成分とする皮膜の表層が網目状構造と分散状に存在する粒子状物からなることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0031】
【発明の実施の形態】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板のプレス成形性を向上させるためには、プレス成形時に金型が直接接触するめっき表面の摺動抵抗を低減することが必要である。Fe−Zn合金めっき層表面に平坦部を設けることにより、プレス成形時に金型が接触する表面の大部分をこの平坦部に限定することができる。その上で、この平坦部表面に微小粒子を分散させた微細な網目状構造を形成することが、摺動抵抗の低減に非常に有効である。
【0032】
また、Fe−Zn合金めっき層表面に平坦部を設け、さらにその上に摺動特性改善処理皮膜を形成し、該皮膜の平坦部に前述の微小粒子を分散させた微細な網目状構造を形成してもよい。
【0033】
これは、1)微小粒子によりめっき表面の平坦部と金型との接点が分散され実接触面積が減少することによる効果(以下、接触面積分散効果)と、2)微細な網目状構造が平坦部に潤滑油を保持する効果(以下、微小油溜効果)、さらに3)両者を混在させることにより、微小粒子が柱のような役割を果たして微細な網目状構造物が摺動により破壊されるのを抑制する効果、により平坦部と金型との摺動抵抗が低減するためと考えられる。従って、めっき鋼板全体が金型との間で滑り易くなり、プレス成型時の摺動性を格段に向上できるものと考えられる。
【0034】
めっき表面の平坦部に、上記の微小粒子または微細な網目状構造が単独で形成されていても摺動抵抗が低減する効果は発揮されるが、発明者らは、特に両者が混在する表面において、格段に摺動抵抗が低減する効果を確認した。
【0035】
図1は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層の平坦部表面に形成された微細な網目状構造と分散状に存在する粒子状物とを説明する走査電子顕微鏡写真の一例である。図1において、黒色部分または黒灰色部分(1)が網目状構造の凹部で、この部分を囲むようにして網目状に白く見える部分(2)が網目状構造の凸部である。また、円形状の白色部分(3)が粒子状物である。
【0036】
図2は、めっき層の平坦部表面に形成された微細な網目状構造を説明する平面模式図で、網目状構造部分は図1の場合よりも拡大して示されている。但し、図2には、粒子状物は示されていない。図2において、白抜きの島状の部分(4)は網目状構造の凹部、ハッチング部分(5)は網目状構造の凸部に対応し、ハッチング部分内の破線(6)は、凸部の稜線を示している。
【0037】
網目状構造とは、図2の模式図に示されるように、凸部が凹部(網の目)を囲むように形成された構造で、微細な凹部が分散している。凹部とは、最低部と平均高さで5nm以上の高低差のある凸部で囲まれて隔てられた窪みのことである。周囲の凸部は同じ高さである必要はなく、ある程度の高さの変動があっても構わない。重要なことは、微細な凹部が分散していることである。凹部の形態(凹部を上から見たときの形態で、本明細書では凹部の平面構造とも記載する。)は特に限定されない。ここで、凹部の平面構造は、凹部を囲む凸部の稜線を辿って形成される平面形状であり、略円形、略楕円形、略多角形、あるいはこれらが部分的に結合して形成されたものであってもよく、また、稜線を辿る線は、部分的に折れ曲がっていてもよい。この微細な凹部が摺動方向に依存しない微小油溜として働き、平坦部の摺動抵抗を低下させる。そのため、めっき皮膜の平坦部表面の微細凹凸を網目状構造とすることで、安定して高い摺動抵抗低減効果を得ることができる。
【0038】
摺動抵抗低減効果のある網目状構造の典型的な形態は、凹部の平面構造を面積が等価な円と仮定した場合、その平均直径は5〜500nm程度であり、凸部の平均高さは500nm以下である。また、不連続な凹部の数は、1μm2当たり5個以上であることが望ましく、10個以上であることがより望ましい。ここで、凹部の面積は、凹部を囲む凸部の稜線で囲まれた部分の面積である。
【0039】
微小粒子は、平均粒径が20〜500nmで、1μm2当り1〜100個の範囲で分散されていることが望ましい。ここで、微小粒子の平均粒径は上から見たときの平均粒径である。分散状に存在する微小粒子は網目状構造内部にあってもよく、一部分またはその大部分が網目状構造の上方に露出していてもよい。
【0040】
前記微小粒子及び微細網目状構造は、めっき皮膜(Fe−Zn合金めっき層)上にじかに形成されていてもよく、あるいは、めっき皮膜表層のFe−Zn合金よりも高融点の物質からなるような摺動特性改善処理皮膜を合金化処理後に付与された後、その皮膜上に形成されていてもよい。摺動特性改善処理皮膜としては、例えばNi付着量として100〜1000mg/m3のNi系皮膜を電解処理により形成したものを例示できる。この場合、皮膜は少なくともFe−Zn合金めっき層表面の平坦部に形成されており、金属状態のNi、又はNi及びZnを主成分とすることが好ましい。該皮膜表層には、既に酸化物及び/又は水酸化物が形成されていてもよいが、厚さ10nm以下でNi、又はNi及びZnが主体であることが好ましい。
【0041】
ここまで述べてきためっき表面について、微小粒子を含む微細網目状構造が存在する平坦部は、平坦部に対する面積率として30%以上(100%を含む)であることが望ましい。その理由は、30%未満では摺動抵抗の低減効果が十分に得られないためである。このとき、面積率が高ければ高いほどその効果が大きく、50%以上とするのがより望ましい。
【0042】
これまで述べた微小粒子及び微細網目状構造は、その組成を特に限定するものではないが、めっき表面の平坦部を構成するFe−Zn合金よりも高融点の物質で構成することにより、より摺動抵抗を低減することができる。この理由は金型と接する部分が高融点となるため、金型と擦れ合う際に融着を防ぐ効果が加わるためと考えられる。微小粒子及び微細網目状構造を高融点の物質で形成させても良いし、微小粒子及び微細網目状構造物の表面に高融点の物質を存在させても良い。微細凹凸のサイズが同程度であれば高融点の物質の部分が多い方が摺動抵抗の低減効果が大きい。めっき皮膜表層のFe−Zn合金より高融点の物質としては、Ni、Feなどの金属、Zn、Ni、Fe、Al、Mn、Siなどの酸化物、あるいは水酸化物などで、他のめっき鋼板特性を著しく低下させるものでなければ特に規定されるものではない。
【0043】
また、特に、網目状構造物内に分散している微小粒子を、酸化物ではなく金属状態(例えばZn、Ni、Feなどからなる金属粒子)とすることで、より大きな摺動抵抗低減効果が得られる。この場合でも、金属粒子の表面には、自然酸化や網目状構造物の影響による酸化物及び/又は水酸化物が存在していてもよい。
【0044】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の摺動性を改善する処理として、例えばNiを含む処理液を用いた処理が合金化処理後に行われていることがある。このような点を考慮すると前記微細網目状構造、あるいは少なくとも網目状構造物表面を、めっき皮膜中に含まれる成分であるZn、及び/又は摺動性改善のための処理液中に含まれるNi、またはそれらの酸化物及び/又は水酸化物とすることに、工業上の利点がある。その理由は、他の金属や金属化合物を形成させるためには、新たな工程を追加する必要があるが、上記物質であれば、めっき皮膜中に含まれる金属成分または既に採用されている摺動性を改善するための処理液中に含まれる金属成分を利用できるため、比較的簡便な処理により微細凸部を平坦部表面に形成できるからである。さらに、新たな工程を追加する必要が少ないため、合金化溶融亜鉛めっき鋼板本来の特性を劣化させる心配が少なく、新たな元素を追加する必要がないため添加元素による影響の心配もない。
【0045】
この場合、十分な摺動性向上効果を得るためには酸化物及び/又は水酸化物層の平均の厚さを10nm以上とすることが望ましい。これは、平均厚さが10nm未満では摺動抵抗の低減効果が十分でないことによる。また、平均厚さが500nmを超えると、この酸化物及び/又は水酸化物が割れ易くなり、めっき表面にキズが付き易くなること、また、化成処理性が劣化するため望ましくない。
【0046】
めっき表面に平坦部を形成させる場合、平坦部の面積率は、20%以上80%以下とするのが望ましい。20%未満では、微小粒子及び微細網目状構造による摺動性改善効果を発揮できる平坦部と金型との接触面積が小さくなるため、プレス成形性の改善効果が小さくなる。平坦部を除く部分は、プレス成型時に潤滑油を保持する役割を持つ。平坦部を除く部分の面積率が20%未満になる(平坦部の面積率が80%を超える)とプレス成形時に油切れを起こしやすくなり、プレス成形性の改善効果が小さくなる。このなかでも、平坦部の面積率は30%以上、70%以下の範囲がさらに望ましい。
【0047】
本発明において、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき皮膜の合金相の構成については特に限定しない。めっき皮膜中鉄濃度が高くめっき層表面の平坦部にζ相がほとんど存在しない(ほぼδ1相)めっき鋼板に本発明を適用する場合は、硬いδ1相の効果と相まって高い摺動抵抗の低減効果を得ることができる。また、めっき皮膜中鉄濃度が低く平坦部にζが存在するめっき鋼板に本発明を適用すると、低鉄濃度皮膜の高い成型性と本発明の低摺動抵抗を兼ね備えた、高加工性の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【0048】
微小粒子及び微細網目状構造の形状や大きさ、分布は、高分解能の走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡などにより観察あるいは測定できる。粒径は、電子顕微鏡写真及び電子間力顕微鏡像を画像処理して粒毎の面積を求め、各粒を円と仮定したときの直径で規定する。高さは、めっき表面からの高さ(但し、微細網目状構造の凹部が、めっき皮膜表層のFe−Zn合金よりも高融点の物質、例えば、Ni又はNiとZnを含む酸化物及び/又は水酸化物からなる場合は、該凹部表面からの高さ)である。
【0049】
酸化物あるいは水酸化物層の厚さは、Ar+イオンスパッタリングと組み合わせたオージェ電子分光法(AES)や透過型電子顕微鏡による断面観察などにより求めることができる。AESによる方法においては、所定深さまでスパッタした後、測定対象の各元素のピーク強度から相対感度因子補正により、その深さでの組成を求めることができる。酸化物または水酸化物に起因するOの含有率は、ある深さで最大値となった後(これが最表層の場合もある)、減少し一定となる。酸化物層の厚さは、Oの含有率が、最大値より深い位置で、最大値と一定値との和の1/2となるスパッタリング時間を、膜厚既知のSiO2膜などのスパッタレートをもとに、換算して求めることができる。
【0050】
めっき表面の平坦部は、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡等で表面を観察することで容易に識別可能である。めっき表面における平坦部の面積率は、上記顕微鏡写真を画像解析することにより求めることができる。
【0051】
本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するには、亜鉛めっき浴でめっきし、合金化処理を行う。亜鉛めっき浴中の添加元素成分は特に限定されない。すなわち、Al、Fe、Pb、Sb、Si、Sn、Mn、Ni、Ti、Li、Cuなどが含有または添加されていても、本発明の効果が損なわれるものではない。次いでめっき表面に平坦部を形成する。その際、平坦部の面積率を前記で説明した範囲にする。平坦部を形成する方法は特に限定されない。例えば、調質圧延によってめっき表面に平坦部を形成できる。その際、圧延条件を調整し、平坦部の面積率を前記で説明した範囲にする。
【0052】
次いで、めっき表面の平坦部に前記した微小粒子及び微細網目状構造を形成する。この方法は特に規定するものではないが、上記鋼板にNiを電気めっきした後酢酸ナトリウム溶液に浸漬することで形成する方法が一例としてあげられる。
【0053】
なお、本発明において、微小粒子及び微細網目状構造には、Zn、Fe、Ni以外にめっき皮膜に含有または添加されているZn、Fe、Ni以外の成分や微細凹凸やその下層を形成する処理液などに含まれるP、Mg、Ca、Sr、Ba、F、S、Cl、C、N、B、Na、MnあるいはSiなどが不可避的に取り込まれていてもよい。このような場合でも、本発明のプレス成形性改善効果が損なわれることはない。
【0054】
【実施例】
板厚0.8mmの冷延鋼板上に、常法の溶融亜鉛めっきと合金化処理を行い、付着量45〜60g/m2のFe−Zn合金めっき皮膜を形成し、更に調質圧延を行った。この際、調質圧延の圧下荷重を変化させることで、表面における平坦部の面積率を40〜60%に調整した。合金化溶融亜鉛めっき皮膜の平均Fe濃度を9.4〜10.5%に調節した。次に、オフラインにて、pH12.5の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、合金化処理時の加熱により生成した酸化物層の一部を除去した(以下、アルカリ処理)。引き続き、平坦部に微細凹凸を形成するために次の処理を行った。
【0055】
上記合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対して、Ni2+イオン、Fe2+イオン、Zn2+イオン及び硝酸イオンを含む酸性硫酸塩水溶液からなる電解液中で陰極電解処理を施し、Ni付着量として100〜1000mg/m3のNi系皮膜を形成させた。電解液として、Ni2+イオンを0.8〜1.1mol/l、Fe2+イオンをmol濃度としてFe2+イオン濃度/(Fe2+イオン濃度+Ni2+イオン濃度)が0.1となるように硫酸塩により添加し、0.02mol/lの硝酸イオン濃度を硝酸ナトリウムにより添加した。電解処理条件は、浴温を50℃、電流密度を30〜90A/dm2とした。
【0056】
さらに、10g/lの酢酸ナトリウム溶液(pH1.5)に2〜20秒間浸漬し、1〜5秒間放置した後水洗・乾燥させた。浸漬時間を変化させることで、表面凹凸の形状や表面凹凸を形成する元素の状態を変化させた。
【0057】
比較例1、2では、前記工程のうち、電解処理を行っていない。比較例3では、前記工程のうち、電解処理までしか行なわず、酢酸ナトリウムへの浸漬を行なっていない。また、前記工程でアルカリ処理のみを行い、その後微細凹凸を形成するための処理を施していない比較例4も用意した。
【0058】
次いで、以上の様に作製した供試体について、平坦部の微細凹凸部の形状と面積率、凹凸を構成する成分(金属状態または酸化物(水酸化物)の判定)、平坦部の面積率の測定をした。また、プレス成形性を評価するために、各供試体の摩擦係数を測定した。
【0059】
平坦部の面積率は、光学顕微鏡又は走査電子顕微鏡(SEM)による観察像から、2値化等の画像処理により平坦部を抽出することで求めることができる。いずれの供試体も平坦部の面積率は40〜60%の範囲にあった。微細凹凸の形状および面積率は、電界放出型の走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて観察することにより評価した。金属状態または酸化物の判定は、前記FE−SEMを用い、エネルギー分散型のX線分光器で行った。加速電圧を2kVに設定し、表面敏感かつ高空間分解能で、粒子状の物質および網目状の構造上に電子ビームを固定して分析を行った。金属状態または酸化物の判定は、ZnおよびNiのL線の強度に対する酸素K線の相対強度で行った。強度比(高さ比:O−K/(Zn−L+Ni−L)が0.4以上の場合は酸化物及び/又は水酸化物が主体、0.3以下の場合は金属状態が主体と判定した。
【0060】
摩擦係数は以下のようにして測定した。
図3は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。図3に示すように、供試体から採取した摩擦係数測定用試料11が試料台12に固定され、試料台12は、水平移動可能なスライドテーブル13の上面に固定されている。スライドテーブル13の下面には、これに接したローラ14を有する上下動可能なスライドテーブル支持台15が設けられ、これを押上げることにより、ビード16による摩擦係数測定用試料11への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル17が、スライドテーブル支持台15に取付けられている。上記押付力を作用させた状態でスライドテーブル13を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル18が、スライドテーブル13の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、日本パーカライジング社製ノックスラスト550HNを試料11の表面に塗布して試験を行った。
【0061】
図4および図5は、使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード16の下面が試料11の表面に押しつけられた状態で摺動する。図4に示すビード16の形状は、幅10mm、試料の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。図5に示すビード16の形状は、幅10mm、試料の摺動方向長さ69mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ60mmの平面を有する。
【0062】
摩擦係数測定試験は、以下に示す2条件で行った。
[条件A(高面圧条件)]図4に示すビードを用い、押付荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル13の水平移動速度):100cm/minとした。
[条件B(低面圧条件)]図5に示すビードを用い、押付荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度:20cm/minとした。
供試体とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
【0063】
結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
網目状構造中に粒子状の構造物を分散させた、本発明例1〜3は、比較例1〜4よりも低い摩擦係数を示しており、摺動特性に優れることがわかる。網目状構造および粒子状物が単独でも低い摩擦係数を示すが(比較例1〜3)、それら摩擦係数の平均よりも、本発明例の摩擦係数が低いことから、本発明の効果は二つの異なる構造の効果の単なる足し合わせでなく、二つの構造を分散させた効果であることが明確である。網目状構造が酸化物主体、粒子状物が金属状態主体である本発明例3は、さらに低い摩擦係数を示しており、プレス成形性が向上している。
【0066】
【発明の効果】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板はプレス成形時の摺動抵抗が小さく、安定して優れたプレス成形性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層の平坦部表面に形成された微細な網目状構造と分散状に存在する粒子状物とを説明する図面代用の走査電子顕微鏡写真の一例である。
【図2】本発明の実施の形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層の平坦部表面に形成された微細な網目状構造を説明する平面模式図である。
【図3】摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。
【図4】図3中のビード形状・寸法を示す概略斜視図である。
【図5】図3中の別のビード形状・寸法を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
1、4 網目状構造の凹部
2、5 網目状構造の凸部
3 粒子状物
6 網目状構造の凸部の稜線
11 摩擦係数測定用試料
12 試料台
13 スライドテーブル
14 ローラ
15 スライドテーブル支持台
16 ビード
17 第1ロードセル
18 第2ロードセル
19 レール
N 押付荷重
F 摺動抵抗力
P 引張荷重
Claims (4)
- Fe−Zn合金めっき層を少なくとも鋼板の片面に有し、かつ、該Fe−Zn合金めっき層はその表面に平坦部を有し、前記平坦部表層には、微細な網目状構造と分散状に存在する粒子状物とを有し、前記粒子状物は平均粒径が20〜500nmで1μm2当り1〜100個存在することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記網目状構造は酸化物及び/又は水酸化物主体で、前記粒子状物は金属状態主体であることを特徴とする請求項1記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記網目状突起構造と分散状に存在する粒子状物とを有する部分が、面積率で、平坦部の30%以上存在することを特徴とする請求項1または2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- Fe−Zn合金めっき層の平坦部表面に、Ni付着量として100〜1000mg/m3のNi、又はNi及びZnを主成分とする皮膜を有し、かつ前記Ni、又はNi及びZnを主成分とする皮膜の表層が網目状構造と分散状に存在する粒子状物からなることを特徴とする、請求項1または2または3に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
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