JP2004256690A - 吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマー - Google Patents
吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマー Download PDFInfo
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Abstract
【課題】吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置がエネルギーの付与などにより可逆的に変化され得るポリマーを提供する。
【解決手段】
【化1】
上記構造式で表されるポリマー(但し、nは1以上の整数であり、Rは、o,m,p−フェニル−OCXH2X+1、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CON2、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CONH、o−フェニル−CF3または2−チエニルもしくはこれらの誘導体である。)であって、分子鎖が規則的ならせん構造を有し、刺激の付与、溶媒処理またはその変化によりらせん構造の密度が可逆的に変化され得る、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマー。
【選択図】 なし
【解決手段】
【化1】
上記構造式で表されるポリマー(但し、nは1以上の整数であり、Rは、o,m,p−フェニル−OCXH2X+1、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CON2、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CONH、o−フェニル−CF3または2−チエニルもしくはこれらの誘導体である。)であって、分子鎖が規則的ならせん構造を有し、刺激の付与、溶媒処理またはその変化によりらせん構造の密度が可逆的に変化され得る、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマー。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光の吸光・発光スペクトルを可逆的に変化させ得る新規なポリマーに関し、より詳細には、置換アセチレンの鎖状重合体からなり、ポリマー主鎖のシス−トランス構造の変化及びポリマー鎖の凝集構造の変化により、吸光・発光スペクトルが可逆的に変化するポリマーに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、置換アセチレンを重合してなるポリアセチレンでは、シス体とトランス体との間で構造変化を生じることが知られている。もっとも、ポリアセチレンは空気中の酸素により酸化され易く、かつポリマー同士の凝集構造を制御することが困難であるという問題があった。
【0003】
下記の非特許文献1には、
【0004】
【化4】
【0005】
の構造を有するポリアセチレンが開示されている。ここで、Rとしては、p−ニトロフェニル基、p−3−メチルブトキシフェニル基が示されている。
置換基Rが、p−ニトロフェニル基の場合、シストランソイド構造のポリマーが、圧力を加えられることにより、トランストランソイド構造に変化し、吸収スペクトルのピーク値が430nmから460nmに変化すること、他方、加熱された場合には430nmから440nmに変化することが知られている。
【0006】
また、下記の非特許文献2には、上記構造式(1)において、Rがp−3−メチルブトキシフェニル基の場合には、加圧によりシス−トランス構造変化により吸収ピークが430nmから460nmに変化することが述べられている。また、シス構造の上記ポリマーが凝集構造を形成し、加圧によりこの凝集構造における構造変化により、490nmから450nmに吸収スペクトルのピーク位置が変化することが述べられている。
【0007】
しかしながら、これらの先行文献では、上記ポリマーがシストランソイド構造からトランストランソイド構造に変化することにより吸収スペクトルが変化することは述べられているものの、トランストランソイド構造に変化された後、シストランソイド構造に変化させる方法、すなわちシストランソイド構造とトランストランソイド構造との間で可逆的に変化させる方法については述べられていない。
【0008】
【非特許文献1】
高分子加工第50巻第5号(2001)第221頁〜第223頁
【非特許文献2】
Macromolecule、第34巻第11号第3776頁〜第3782頁(2001)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようなポリマーでは、構造変化により吸収スペクトルや発光スペクトルが変化する。従って、シストランソイド構造とトランストランソイド構造との間の構造変化が可逆的に行われれば、上記ポリマーは、この性質を利用して様々な色材や光学材料などに用いることができる。
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、シストランソイド構造とトランストランソイド構造との間で可逆的に変化されることができ、それによって光の吸収・発光スペクトルの形状やピーク位置が可逆的に変化され得る新規なポリマーを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本願の第1の発明によれば、
【0012】
【化5】
【0013】
上記構造式(1)で表されるポリマー(但し、nは1以上の整数であり、Rは、o,m,p−フェニル−OCXH2X+1、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CON2、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CONH、o−フェニル−CF3または2−チエニルもしくはこれらの誘導体である。)であって、分子鎖が規則的ならせん構造を有し、刺激の付与またはその変化によりらせん構造の密度が可逆的に変化され得る、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマーが提供される。
【0014】
第1の発明の特定の局面では、二重結合部位がシストランソイド構造を有しており、熱、圧力、電磁波、光、放射線及び磁場からなる群から選択された少なくとも1種(または相乗的)の刺激により、シストランソイド構造と、トランストランソイド構造との間で可逆的に変化される。従って、本発明によればこれらの刺激を上記ポリマーに与えることにより、シストランソイド−トランストランソイド構造変化を可逆的に行わせる方法が得られる。
【0015】
第2の発明によれば、上記構造式(1)で表されるポリマー(但し、nは1以上の整数であり、Rは、o,m,p−フェニル−OCXH2X+1、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CON2、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CONH、o−フェニル−CF3または2−チエニルもしくはこれらの誘導体である。)であって、分子鎖が規則的ならせん構造を有し、熱、圧力、電磁波、光、放射線及び磁場からなる群から選択された少なくとも1種(または相乗的)の刺激により分子鎖のらせん構造のピッチが可逆的に変化し、らせん構造のピッチが変化することにより、ポリマーの凝集構造を変えることなく、あるいはポリマーの凝集構造を変えつつ、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマーが提供される。
【0016】
第3の発明によれば、上記構造式(1)で表されるポリマー(但し、nは1以上の整数であり、Rは、o,m,p−フェニル−OCXH2X+1、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CON2、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CONH、o−フェニル−CF3または2−チエニルもしくはこれらの誘導体である。)、分子鎖が規則的ならせん構造を有するポリマーであって、隣り合うポリマーが凝集構造を形成しており、凝集構造が刺激により他の凝集構造に可逆的に変化されることができ、凝集構造の変化により、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマーが提供される。この場合の刺激としては、前記刺激が、熱、圧力、電磁波、光、放射線、磁場及び媒体からなる群から選択された少なくとも1種が用いられる。
【0017】
本発明のある特定の局面では、前記凝集構造がヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造であり、該結晶構造と、アモルファス構造との間で可逆的に変化される。
【0018】
本発明の別の特定の局面では、前記ヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造が、直径1〜100nmのらせん状の上記ポリマーの凝集により形成される。
【0019】
本発明のさらに他の特定の局面では、前記ヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造が、らせんのピッチが0.2〜0.5nmであるらせん状の前記ポリマーが凝集されて構成される。
【0020】
本発明のさらに他の特定の局面では、前記ヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造において、前記らせん状のポリマーの鎖の中心間距離は0.5〜200nmである。
【0021】
本発明のポリマーのさらに別の特定の局面では、吸光・発光スペクトルの190〜2500nmの領域で吸収波形変化及び強度変化が可逆的に生じる。
本発明のポリマーのさらに他の特定の局面では、前記吸光・発光スペクトルのピーク極大位置の変化は、190〜2500nmの範囲で生じる。
【0022】
以下、本発明の詳細を説明する。
上記のように、第1〜第3の発明(本発明)では、構造式(1)で示されるポリマーが用いられる。このポリマーにおいて、置換基Rとしては、上記のように、o,m,p−フェニル−OCXH2X+1、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CON2、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CONH、o−フェニル−CF3または2−チエニルもしくはこれらの誘導体などが挙げられる。なお、xは1以上の整数である。シストランソイド構造とトランストランソイド構造の可逆的変化は、置換基Rを特定の置換基としたことにより果たされる。すなわち、置換基R同士が、π−π結合、水素結合、またはファンデルワールスカ等による結合などにより結合もしくは相互作用し、接近し得る置換基Rが用いられることにより、上記構造変化が達成される。
【0023】
中でも、シストランソイド構造とトランストランソイド構造との変化の可逆性に優れているため、Rとしては、p−フェニル−OC6H12+1、p−フェニル−C6H12+1CONHなどが好適に用いられる。
【0024】
さらに、上記ポリマーでは、隣接するポリマー同士が相互作用により凝集し、凝集構造を形成するが、この凝集構造変化の可逆性に優れているため、置換基Rとしては、p−フェニル−OC6H12+1、p−フェニル−C6H12+1CONHが特に好適に用いられる。
【0025】
上記ポリマーの分子量は特に限定されないが、好ましくは、重量平均分子量で、Mnで千〜数千万の範囲、より好ましくは一万〜数百万の範囲が望ましい。
本発明に係る上記ポリマーは、下記の構造式(2)で示されるシストランソイド構造と、下記の構造式(3)で示されるトランストランソイド構造との間で可逆的に変化する。この可逆的変化は、後述するように、熱、光、電磁波、放射線、圧力、磁場などの少なくとも1種(または相乗的)の刺激の付与により行われる。例えば、加熱あるいは圧力の付加により、らせん構造を有するシストランソイド構造から、直線状のトランストランソイド構造に変化する。
【0026】
【化6】
【0027】
【化7】
【0028】
このようなシストランソイド構造からトランストランソイド構造の変化により、前述したように、吸光・発光スペクトルの形状及び位置が変化する。さらに、上記加圧及び加熱条件を制御することにより、本発明に係るポリマーは、トランストランソイド構造からシストランソイド構造にも変化する。すなわち、シス−トランス構造変化が可逆的に生じる。
【0029】
上記構造変化を可逆的に引き起こす刺激とは、上述したように、熱、光、電磁波、放射線、圧力、磁場などの様々なエネルギーが挙げられ、好ましくは、室温から200℃までの範囲の熱、紫外線から赤外線までの光、5〜500kg/cm2程度の圧力が用いられる。
【0030】
また、本発明に係るポリマーは、上記シストランソイド構造を有し、らせん状の形状を有する。このらせん状の形状のポリマーは、図1に示すように、隣接するポリマー鎖同士が凝集し、凝集構造を形成する。この凝集構造は、図1に示されているように、ヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造である。
【0031】
図1に示したような結晶構造が形成されている場合において、前述したようにシストランソイド構造からトランストランソイド構造へ各ポリマー鎖が変化した場合、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が変化するが、さらに、この凝集構造を変化させた場合においても、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が変化する。凝集構造の変化とは、上記結晶構造からアモルファス構造への変化であり、この凝集構造の変化も可逆的に行われ得る。凝集構造の変化は、例えば、溶媒の極性もしくは親和性または溶媒の種類を変化させるなどの媒体を変化させる方法、あるいは前述した熱、光、電磁波、放射線、圧力、磁場などの刺激の(単独または相乗的)付与により行われ得る。
【0032】
なお、上記結晶構造を有するように凝集されている場合、各ポリマー鎖におけるらせん構造の直径は0.5〜100nm、らせんのピッチは0.2〜0.5nm、ポリマー鎖間の中心距離は1〜200nmの範囲が望ましい。
【0033】
本発明に係るポリマーの製造方法は特に限定されないが、
【0034】
【化8】
【0035】
の構造を有する置換アセチレンを、既知の重合方法に従って重合することにより得ることができる。好ましくは、重合に際しRh錯体を触媒として用いることが望ましい。Rh錯体としては、〔Rh(norbornadiene)Cl〕2、〔Rh(cyclooctadiene)Cl〕2、〔Rh(bis−cyclooctene)Cl〕2などが挙げられ、特に、〔Rh(norbornadiene)Cl〕2が好ましい。
【0036】
また、上記シストランソイド構造のポリマーを得るには、重合に際し重合溶媒として該ポリマーをあまり溶かさない貧溶媒、例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類、水あるいはトリエチルアミン(TA)をまたはこれらの混合溶媒を用いることが望ましい。
【0037】
なお、上記構造式(4)で示される置換アセチレンの合成方法についても特に限定されず、例えば、R.D’Amato,T.Sone,M.Tabata,M.V.Russo,A.FdurlaniらのMacromolecules,31,8660(1998)に記載の方法などにより得ることができる。
【0038】
本発明に係る新規なポリマーは、上記のように、ポリマー鎖におけるシストランソイド構造とトランストランソイド構造との間の可逆的な変化により、吸光・発光スペクトルのピーク位置及び形状が可逆的に変化され得る。また、上記のように、凝集構造の変化によっても、吸光・発光スペクトルのピーク位置及び形状が可逆的に変化する。
【0039】
従って、本発明に係るポリマーは、色可変材料、有機EL装置の電子供給層を構成する材料、非線形光学材料、磁性材料、導電性材料などの様々な光学用途及びエレクトロニクス用途に好適に用いられ得る。
【0040】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の非限定的な実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
(モノマー化合物の合成)
300mlのアセトンに14.8gのNaOH、ジメチルスルホキシド(DMSO)50ml、22.0gのp−ヨードフェノールを添加、溶解した後、0.17モルの臭化ヘキシルを添加し、24時間還流下で反応させた。これに、100mlのエチルエーテルを添加し、エチルエーテルに生成物を抽出した後、エチルエーテル層を蒸留水で洗浄した。その後、エチルエーテル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過し、脱溶剤後、128℃で真空乾燥した。得られた生成物は、収率90%で得られた。
【0042】
上記生成物0.09モルを300mlのトリエチルアミンに溶解し、0.111gのジクロロビス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム(II)と、0.099gのCuIとを添加した後、還流下で3時間反応させた。エバポレーターで脱溶剤後、エチルエーテルを添加し、生成した化合物を抽出した。このエチルエーテル層を蒸留水300mlで3回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで24時間乾燥、濾過し、脱溶剤した。こうして得られた化合物を50mlのトルエン、0.03モルのKOHで4時間還流下で撹拌し、エバポレーターで脱溶剤後、300mlの蒸留水で洗浄し、有機層を取り出し、エチルエーテルで抽出した。このエチルエーテル層を、無水硫酸マグネシウムで24時間乾燥、濾過し、脱溶剤し、89℃で真空乾燥した。このようにして得られた化合物の収率は43%であった。
【0043】
上記のようにして得られた化合物の1HNMRスペクトルのチャートによればこの化合物は、下記の( )中に示した構造を含むものであることがわかった。
【0044】
1HNMR δ(ppm)=0.8(CH3)3H,1.4(CH2)48H,1.6(CH2)2H,3.6(OCH2)2H,3.1(=C−H)1H,6.5(phenyl)4H。
【0045】
(ポリマーの合成)
逆U字型のガラスチューブの一方側に、上記の方法で合成されたモノマーの2.1×10−3モル及び乾燥されたトリエチルアミン50mlを、上記逆U字型のガラスチューブの他方側に、上記モノマーのモル量に対して1/150モル量の触媒〔Rh(norbornadiene)Cl〕2及び乾燥されたトリエチルアミン50mlをそれぞれ入れ、ガラスチューブをひっくり返すことにより反応を開始させた。反応は20℃で、4時間行った。過剰のメタノールを添加することで反応を停止し、沈殿してきた黄色のポリマーを濾過し、メタノールで洗浄した後、24時間真空乾燥した。得られたポリマーの数平均分子量を測定した。また、C14H18O1にある組成比を確認するとともに、1HNMRスペクトルを測定した。このNMRスペクトルのチャートを図2に示す。その結果、Mn=65000、組成比C14H18O1、1HNMRは、δ(ppm)=0.8(CH3)3H,1.4(CH2)48H,1.6(CH2)2H,3.6(OCH2)2H,5.7(=CH)1H,6.5(phenyl)4Hのスペクトルを示した。
【0046】
(吸収スペクトルの可逆変化)
上記重合方法で得られたポリマーの光吸収及び発光スペクトルを溶媒としてテトラヒドロフランを用い、ポリマー濃度を約10−5から10−7モル/Lとして測定したところ、吸収ピーク位置265nm、発光ピーク位置320nmであった。
【0047】
上記ポリマーを200kg/cm2で加圧した後、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、ポリマー濃度を約10−5から10−7モル/Lとして再度吸収・発光スペクトルを測定したところ、吸収ピーク位置約330nm、発光ピーク位置380nmに変化した。
【0048】
さらに、上記のように吸収ピーク位置及び発光ピーク位置が変化したポリマーについて、さらに加熱等の刺激を与え、しかる後、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、ポリマー濃度を10−5から10−7モル/Lとして再度吸収・発光スペクトルを測定したところ、発光ピーク位置は320nmに戻った。
【0049】
(実施例2)
溶媒処理法による黄色ポリマーから黒色ポリマーへの転換
(固体の反射スペクトルの溶媒処理前後の変化)
モノマー化合物として実施例1におけるモノマー構造式におけるRがp−(3−メチルブトキシ)基であるアセチレン化合物(p−メチルブトキシフェニルアセチレン)を用いた以外は実施例1と同じ重合法で得られた黄色ポリマーをクロロフォルムの蒸気に短時間曝した場合、黒色になった。この黄色と黒色固体の反射スペクトルを図3(a)と図3(b)に各々示した。
【0050】
この時、黄色のポリマーの440nmの吸収極大が、黒色ポリマーでは480nmに移動し、400nmから1800nmの吸収強度が増大した。
【0051】
溶媒から再沈澱による黒色ポリマーから黄色ポリマーへの転換
黄色のポリマーをクロロフォルムの蒸気に短時間曝した場合、黒色になるが、これを多量のクロロフォルムに溶解させ、これにポリマーの貧溶媒としてメタノールを添加すると、もとの黄色のポリマーが得られ、その時の固体の反射スペクトルは、図3(a)と同じである。
【0052】
【発明の効果】
本発明に係るポリマーは、上記特定の置換基Rを有するため、二重結合部分がシストランソイド構造を有し、分子鎖が規則的ならせん構造を有する。そして、熱、光、電磁波、X線、γ線、圧力、磁場、溶媒処理などの刺激の(単独または相乗的)付与により、シストランソイド構造からトランストランソイド構造に変化し、かつこの変化が可逆的に行われ得る。
【0053】
従って、本発明によれば、シストランソイド構造とトランストランソイド構造との可逆的な変化により、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化され得るポリマーを得ることができる。
【0054】
よって、本発明によれば、光学特性、電気的特性及び電磁的特性が可逆的に変化され得る新規な有機材料を提供することができ、光学用途やエレクトロニクス用途において有用な材料を提供することが可能となる。
【0055】
また、本発明に係るポリマーは、複数のポリマー鎖が凝集した凝集構造を取り、この凝集構造もまた、溶媒の極性などの媒体変化を含む刺激の付与により変化され得る。従って、凝集構造の変化によっても、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するため、上記シストランソイド構造とトランストランソイド構造との間の可逆変化だけでなく、凝集構造の可逆的変化によっても、光学特性や電気特性などが可逆的に大きく変化され得る新規な材料を提供することができる。また、本触媒によって重合したポリマーには主鎖上のπ−電子密度を大幅に低下させ得る芳香核が側鎖として導入されており、従って、主鎖のπ−電子密度を低下させたことにより、空気中の酸素による酸化反応を阻止することに成功している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るポリマーの凝集構造の一形態であるヘキサゴナル結晶構造を説明するための模式的斜視図。
【図2】実施例1で合成されたモノマーとしての置換ポリアセチレンのNMRチャートを示す図。
【図3】実施例2で重合されたポリアセチレンの溶媒処理前後で観測された拡散反射紫外−可視スペクトルを示す図であり、図3(a)が溶媒処理前、図3(b)がクロロフォルム蒸気に曝した後のスペクトルを示す図。
【発明の属する技術分野】
本発明は、光の吸光・発光スペクトルを可逆的に変化させ得る新規なポリマーに関し、より詳細には、置換アセチレンの鎖状重合体からなり、ポリマー主鎖のシス−トランス構造の変化及びポリマー鎖の凝集構造の変化により、吸光・発光スペクトルが可逆的に変化するポリマーに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、置換アセチレンを重合してなるポリアセチレンでは、シス体とトランス体との間で構造変化を生じることが知られている。もっとも、ポリアセチレンは空気中の酸素により酸化され易く、かつポリマー同士の凝集構造を制御することが困難であるという問題があった。
【0003】
下記の非特許文献1には、
【0004】
【化4】
【0005】
の構造を有するポリアセチレンが開示されている。ここで、Rとしては、p−ニトロフェニル基、p−3−メチルブトキシフェニル基が示されている。
置換基Rが、p−ニトロフェニル基の場合、シストランソイド構造のポリマーが、圧力を加えられることにより、トランストランソイド構造に変化し、吸収スペクトルのピーク値が430nmから460nmに変化すること、他方、加熱された場合には430nmから440nmに変化することが知られている。
【0006】
また、下記の非特許文献2には、上記構造式(1)において、Rがp−3−メチルブトキシフェニル基の場合には、加圧によりシス−トランス構造変化により吸収ピークが430nmから460nmに変化することが述べられている。また、シス構造の上記ポリマーが凝集構造を形成し、加圧によりこの凝集構造における構造変化により、490nmから450nmに吸収スペクトルのピーク位置が変化することが述べられている。
【0007】
しかしながら、これらの先行文献では、上記ポリマーがシストランソイド構造からトランストランソイド構造に変化することにより吸収スペクトルが変化することは述べられているものの、トランストランソイド構造に変化された後、シストランソイド構造に変化させる方法、すなわちシストランソイド構造とトランストランソイド構造との間で可逆的に変化させる方法については述べられていない。
【0008】
【非特許文献1】
高分子加工第50巻第5号(2001)第221頁〜第223頁
【非特許文献2】
Macromolecule、第34巻第11号第3776頁〜第3782頁(2001)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようなポリマーでは、構造変化により吸収スペクトルや発光スペクトルが変化する。従って、シストランソイド構造とトランストランソイド構造との間の構造変化が可逆的に行われれば、上記ポリマーは、この性質を利用して様々な色材や光学材料などに用いることができる。
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、シストランソイド構造とトランストランソイド構造との間で可逆的に変化されることができ、それによって光の吸収・発光スペクトルの形状やピーク位置が可逆的に変化され得る新規なポリマーを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本願の第1の発明によれば、
【0012】
【化5】
【0013】
上記構造式(1)で表されるポリマー(但し、nは1以上の整数であり、Rは、o,m,p−フェニル−OCXH2X+1、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CON2、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CONH、o−フェニル−CF3または2−チエニルもしくはこれらの誘導体である。)であって、分子鎖が規則的ならせん構造を有し、刺激の付与またはその変化によりらせん構造の密度が可逆的に変化され得る、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマーが提供される。
【0014】
第1の発明の特定の局面では、二重結合部位がシストランソイド構造を有しており、熱、圧力、電磁波、光、放射線及び磁場からなる群から選択された少なくとも1種(または相乗的)の刺激により、シストランソイド構造と、トランストランソイド構造との間で可逆的に変化される。従って、本発明によればこれらの刺激を上記ポリマーに与えることにより、シストランソイド−トランストランソイド構造変化を可逆的に行わせる方法が得られる。
【0015】
第2の発明によれば、上記構造式(1)で表されるポリマー(但し、nは1以上の整数であり、Rは、o,m,p−フェニル−OCXH2X+1、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CON2、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CONH、o−フェニル−CF3または2−チエニルもしくはこれらの誘導体である。)であって、分子鎖が規則的ならせん構造を有し、熱、圧力、電磁波、光、放射線及び磁場からなる群から選択された少なくとも1種(または相乗的)の刺激により分子鎖のらせん構造のピッチが可逆的に変化し、らせん構造のピッチが変化することにより、ポリマーの凝集構造を変えることなく、あるいはポリマーの凝集構造を変えつつ、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマーが提供される。
【0016】
第3の発明によれば、上記構造式(1)で表されるポリマー(但し、nは1以上の整数であり、Rは、o,m,p−フェニル−OCXH2X+1、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CON2、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CONH、o−フェニル−CF3または2−チエニルもしくはこれらの誘導体である。)、分子鎖が規則的ならせん構造を有するポリマーであって、隣り合うポリマーが凝集構造を形成しており、凝集構造が刺激により他の凝集構造に可逆的に変化されることができ、凝集構造の変化により、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマーが提供される。この場合の刺激としては、前記刺激が、熱、圧力、電磁波、光、放射線、磁場及び媒体からなる群から選択された少なくとも1種が用いられる。
【0017】
本発明のある特定の局面では、前記凝集構造がヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造であり、該結晶構造と、アモルファス構造との間で可逆的に変化される。
【0018】
本発明の別の特定の局面では、前記ヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造が、直径1〜100nmのらせん状の上記ポリマーの凝集により形成される。
【0019】
本発明のさらに他の特定の局面では、前記ヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造が、らせんのピッチが0.2〜0.5nmであるらせん状の前記ポリマーが凝集されて構成される。
【0020】
本発明のさらに他の特定の局面では、前記ヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造において、前記らせん状のポリマーの鎖の中心間距離は0.5〜200nmである。
【0021】
本発明のポリマーのさらに別の特定の局面では、吸光・発光スペクトルの190〜2500nmの領域で吸収波形変化及び強度変化が可逆的に生じる。
本発明のポリマーのさらに他の特定の局面では、前記吸光・発光スペクトルのピーク極大位置の変化は、190〜2500nmの範囲で生じる。
【0022】
以下、本発明の詳細を説明する。
上記のように、第1〜第3の発明(本発明)では、構造式(1)で示されるポリマーが用いられる。このポリマーにおいて、置換基Rとしては、上記のように、o,m,p−フェニル−OCXH2X+1、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CON2、o,m,p−フェニル−CXH2X+1CONH、o−フェニル−CF3または2−チエニルもしくはこれらの誘導体などが挙げられる。なお、xは1以上の整数である。シストランソイド構造とトランストランソイド構造の可逆的変化は、置換基Rを特定の置換基としたことにより果たされる。すなわち、置換基R同士が、π−π結合、水素結合、またはファンデルワールスカ等による結合などにより結合もしくは相互作用し、接近し得る置換基Rが用いられることにより、上記構造変化が達成される。
【0023】
中でも、シストランソイド構造とトランストランソイド構造との変化の可逆性に優れているため、Rとしては、p−フェニル−OC6H12+1、p−フェニル−C6H12+1CONHなどが好適に用いられる。
【0024】
さらに、上記ポリマーでは、隣接するポリマー同士が相互作用により凝集し、凝集構造を形成するが、この凝集構造変化の可逆性に優れているため、置換基Rとしては、p−フェニル−OC6H12+1、p−フェニル−C6H12+1CONHが特に好適に用いられる。
【0025】
上記ポリマーの分子量は特に限定されないが、好ましくは、重量平均分子量で、Mnで千〜数千万の範囲、より好ましくは一万〜数百万の範囲が望ましい。
本発明に係る上記ポリマーは、下記の構造式(2)で示されるシストランソイド構造と、下記の構造式(3)で示されるトランストランソイド構造との間で可逆的に変化する。この可逆的変化は、後述するように、熱、光、電磁波、放射線、圧力、磁場などの少なくとも1種(または相乗的)の刺激の付与により行われる。例えば、加熱あるいは圧力の付加により、らせん構造を有するシストランソイド構造から、直線状のトランストランソイド構造に変化する。
【0026】
【化6】
【0027】
【化7】
【0028】
このようなシストランソイド構造からトランストランソイド構造の変化により、前述したように、吸光・発光スペクトルの形状及び位置が変化する。さらに、上記加圧及び加熱条件を制御することにより、本発明に係るポリマーは、トランストランソイド構造からシストランソイド構造にも変化する。すなわち、シス−トランス構造変化が可逆的に生じる。
【0029】
上記構造変化を可逆的に引き起こす刺激とは、上述したように、熱、光、電磁波、放射線、圧力、磁場などの様々なエネルギーが挙げられ、好ましくは、室温から200℃までの範囲の熱、紫外線から赤外線までの光、5〜500kg/cm2程度の圧力が用いられる。
【0030】
また、本発明に係るポリマーは、上記シストランソイド構造を有し、らせん状の形状を有する。このらせん状の形状のポリマーは、図1に示すように、隣接するポリマー鎖同士が凝集し、凝集構造を形成する。この凝集構造は、図1に示されているように、ヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造である。
【0031】
図1に示したような結晶構造が形成されている場合において、前述したようにシストランソイド構造からトランストランソイド構造へ各ポリマー鎖が変化した場合、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が変化するが、さらに、この凝集構造を変化させた場合においても、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が変化する。凝集構造の変化とは、上記結晶構造からアモルファス構造への変化であり、この凝集構造の変化も可逆的に行われ得る。凝集構造の変化は、例えば、溶媒の極性もしくは親和性または溶媒の種類を変化させるなどの媒体を変化させる方法、あるいは前述した熱、光、電磁波、放射線、圧力、磁場などの刺激の(単独または相乗的)付与により行われ得る。
【0032】
なお、上記結晶構造を有するように凝集されている場合、各ポリマー鎖におけるらせん構造の直径は0.5〜100nm、らせんのピッチは0.2〜0.5nm、ポリマー鎖間の中心距離は1〜200nmの範囲が望ましい。
【0033】
本発明に係るポリマーの製造方法は特に限定されないが、
【0034】
【化8】
【0035】
の構造を有する置換アセチレンを、既知の重合方法に従って重合することにより得ることができる。好ましくは、重合に際しRh錯体を触媒として用いることが望ましい。Rh錯体としては、〔Rh(norbornadiene)Cl〕2、〔Rh(cyclooctadiene)Cl〕2、〔Rh(bis−cyclooctene)Cl〕2などが挙げられ、特に、〔Rh(norbornadiene)Cl〕2が好ましい。
【0036】
また、上記シストランソイド構造のポリマーを得るには、重合に際し重合溶媒として該ポリマーをあまり溶かさない貧溶媒、例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類、水あるいはトリエチルアミン(TA)をまたはこれらの混合溶媒を用いることが望ましい。
【0037】
なお、上記構造式(4)で示される置換アセチレンの合成方法についても特に限定されず、例えば、R.D’Amato,T.Sone,M.Tabata,M.V.Russo,A.FdurlaniらのMacromolecules,31,8660(1998)に記載の方法などにより得ることができる。
【0038】
本発明に係る新規なポリマーは、上記のように、ポリマー鎖におけるシストランソイド構造とトランストランソイド構造との間の可逆的な変化により、吸光・発光スペクトルのピーク位置及び形状が可逆的に変化され得る。また、上記のように、凝集構造の変化によっても、吸光・発光スペクトルのピーク位置及び形状が可逆的に変化する。
【0039】
従って、本発明に係るポリマーは、色可変材料、有機EL装置の電子供給層を構成する材料、非線形光学材料、磁性材料、導電性材料などの様々な光学用途及びエレクトロニクス用途に好適に用いられ得る。
【0040】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の非限定的な実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
(モノマー化合物の合成)
300mlのアセトンに14.8gのNaOH、ジメチルスルホキシド(DMSO)50ml、22.0gのp−ヨードフェノールを添加、溶解した後、0.17モルの臭化ヘキシルを添加し、24時間還流下で反応させた。これに、100mlのエチルエーテルを添加し、エチルエーテルに生成物を抽出した後、エチルエーテル層を蒸留水で洗浄した。その後、エチルエーテル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過し、脱溶剤後、128℃で真空乾燥した。得られた生成物は、収率90%で得られた。
【0042】
上記生成物0.09モルを300mlのトリエチルアミンに溶解し、0.111gのジクロロビス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム(II)と、0.099gのCuIとを添加した後、還流下で3時間反応させた。エバポレーターで脱溶剤後、エチルエーテルを添加し、生成した化合物を抽出した。このエチルエーテル層を蒸留水300mlで3回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで24時間乾燥、濾過し、脱溶剤した。こうして得られた化合物を50mlのトルエン、0.03モルのKOHで4時間還流下で撹拌し、エバポレーターで脱溶剤後、300mlの蒸留水で洗浄し、有機層を取り出し、エチルエーテルで抽出した。このエチルエーテル層を、無水硫酸マグネシウムで24時間乾燥、濾過し、脱溶剤し、89℃で真空乾燥した。このようにして得られた化合物の収率は43%であった。
【0043】
上記のようにして得られた化合物の1HNMRスペクトルのチャートによればこの化合物は、下記の( )中に示した構造を含むものであることがわかった。
【0044】
1HNMR δ(ppm)=0.8(CH3)3H,1.4(CH2)48H,1.6(CH2)2H,3.6(OCH2)2H,3.1(=C−H)1H,6.5(phenyl)4H。
【0045】
(ポリマーの合成)
逆U字型のガラスチューブの一方側に、上記の方法で合成されたモノマーの2.1×10−3モル及び乾燥されたトリエチルアミン50mlを、上記逆U字型のガラスチューブの他方側に、上記モノマーのモル量に対して1/150モル量の触媒〔Rh(norbornadiene)Cl〕2及び乾燥されたトリエチルアミン50mlをそれぞれ入れ、ガラスチューブをひっくり返すことにより反応を開始させた。反応は20℃で、4時間行った。過剰のメタノールを添加することで反応を停止し、沈殿してきた黄色のポリマーを濾過し、メタノールで洗浄した後、24時間真空乾燥した。得られたポリマーの数平均分子量を測定した。また、C14H18O1にある組成比を確認するとともに、1HNMRスペクトルを測定した。このNMRスペクトルのチャートを図2に示す。その結果、Mn=65000、組成比C14H18O1、1HNMRは、δ(ppm)=0.8(CH3)3H,1.4(CH2)48H,1.6(CH2)2H,3.6(OCH2)2H,5.7(=CH)1H,6.5(phenyl)4Hのスペクトルを示した。
【0046】
(吸収スペクトルの可逆変化)
上記重合方法で得られたポリマーの光吸収及び発光スペクトルを溶媒としてテトラヒドロフランを用い、ポリマー濃度を約10−5から10−7モル/Lとして測定したところ、吸収ピーク位置265nm、発光ピーク位置320nmであった。
【0047】
上記ポリマーを200kg/cm2で加圧した後、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、ポリマー濃度を約10−5から10−7モル/Lとして再度吸収・発光スペクトルを測定したところ、吸収ピーク位置約330nm、発光ピーク位置380nmに変化した。
【0048】
さらに、上記のように吸収ピーク位置及び発光ピーク位置が変化したポリマーについて、さらに加熱等の刺激を与え、しかる後、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、ポリマー濃度を10−5から10−7モル/Lとして再度吸収・発光スペクトルを測定したところ、発光ピーク位置は320nmに戻った。
【0049】
(実施例2)
溶媒処理法による黄色ポリマーから黒色ポリマーへの転換
(固体の反射スペクトルの溶媒処理前後の変化)
モノマー化合物として実施例1におけるモノマー構造式におけるRがp−(3−メチルブトキシ)基であるアセチレン化合物(p−メチルブトキシフェニルアセチレン)を用いた以外は実施例1と同じ重合法で得られた黄色ポリマーをクロロフォルムの蒸気に短時間曝した場合、黒色になった。この黄色と黒色固体の反射スペクトルを図3(a)と図3(b)に各々示した。
【0050】
この時、黄色のポリマーの440nmの吸収極大が、黒色ポリマーでは480nmに移動し、400nmから1800nmの吸収強度が増大した。
【0051】
溶媒から再沈澱による黒色ポリマーから黄色ポリマーへの転換
黄色のポリマーをクロロフォルムの蒸気に短時間曝した場合、黒色になるが、これを多量のクロロフォルムに溶解させ、これにポリマーの貧溶媒としてメタノールを添加すると、もとの黄色のポリマーが得られ、その時の固体の反射スペクトルは、図3(a)と同じである。
【0052】
【発明の効果】
本発明に係るポリマーは、上記特定の置換基Rを有するため、二重結合部分がシストランソイド構造を有し、分子鎖が規則的ならせん構造を有する。そして、熱、光、電磁波、X線、γ線、圧力、磁場、溶媒処理などの刺激の(単独または相乗的)付与により、シストランソイド構造からトランストランソイド構造に変化し、かつこの変化が可逆的に行われ得る。
【0053】
従って、本発明によれば、シストランソイド構造とトランストランソイド構造との可逆的な変化により、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化され得るポリマーを得ることができる。
【0054】
よって、本発明によれば、光学特性、電気的特性及び電磁的特性が可逆的に変化され得る新規な有機材料を提供することができ、光学用途やエレクトロニクス用途において有用な材料を提供することが可能となる。
【0055】
また、本発明に係るポリマーは、複数のポリマー鎖が凝集した凝集構造を取り、この凝集構造もまた、溶媒の極性などの媒体変化を含む刺激の付与により変化され得る。従って、凝集構造の変化によっても、吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するため、上記シストランソイド構造とトランストランソイド構造との間の可逆変化だけでなく、凝集構造の可逆的変化によっても、光学特性や電気特性などが可逆的に大きく変化され得る新規な材料を提供することができる。また、本触媒によって重合したポリマーには主鎖上のπ−電子密度を大幅に低下させ得る芳香核が側鎖として導入されており、従って、主鎖のπ−電子密度を低下させたことにより、空気中の酸素による酸化反応を阻止することに成功している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るポリマーの凝集構造の一形態であるヘキサゴナル結晶構造を説明するための模式的斜視図。
【図2】実施例1で合成されたモノマーとしての置換ポリアセチレンのNMRチャートを示す図。
【図3】実施例2で重合されたポリアセチレンの溶媒処理前後で観測された拡散反射紫外−可視スペクトルを示す図であり、図3(a)が溶媒処理前、図3(b)がクロロフォルム蒸気に曝した後のスペクトルを示す図。
Claims (11)
- 二重結合部位がシストランソイド構造を有しており、熱、圧力、電磁波、光、放射線及び磁場からなる群から選択された少なくとも1種(または相乗的)の刺激により、シストランソイド構造と、トランストランソイド構造との間で可逆的に変化する、請求項1に記載のポリマー。
-
- 前記刺激が、熱、圧力、電磁波、光、放射線、磁場及び媒体からなる群から選択された少なくとも1種である、請求項4に記載の吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマー。
- 前記凝集構造がヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造であり、該結晶構造と、アモルファス構造との間で可逆的に変化される、請求項4または5に記載の吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマー。
- 前記ヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造が、直径1〜100nmのらせん状の上記ポリマーの凝集により形成される、請求項6に記載の吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマー。
- 前記ヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造が、らせんのピッチが0.2〜0.5nmであるらせん状の前記ポリマーが凝集されることにより構成される、請求項6に記載の吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマー。
- 前記ヘキサゴナルまたはオルソロンビック結晶構造において、前記らせん状のポリマーの鎖の中心間距離が1〜200nmである、請求項6に記載の吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマー。
- 吸光・発光スペクトルの190〜2500nmの領域で吸収波形変化及び強度変化が可逆的に行われる、請求項1〜9のいずれかに記載の吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマー。
- 前記吸光・発光スペクトルのピーク極大位置の変化が、190〜2500nmの範囲で生じる、請求項1〜10のいずれかに記載の吸光・発光スペクトルの形状及びピーク位置が可逆的に変化するポリマー。
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