JP2010111796A - cis−cisoid型置換アセチレン重合体およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】一般式(I)
[式中、nは10〜100000の整数である。Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜30のアリール基、CO2R1で示されるエステル基、CONR2R3(式中、R2、で示されるアミド基、CO2M(式中、Mは水素原子または1価の金属を表す)]で表されるcis-transoid型置換アセチレン重合体を溶解度パラメータの差が10〜15である有機溶媒蒸気中で処理することを特徴とするcis-cisoid型置換アセチレン重合体の製造方法および同製造方法で得られたcis-cisoid型置換アセチレン重合体である。
【選択図】図4
Description
いずれの構造体も、置換基はらせん状主鎖の外側に側鎖として配向している。かかる側鎖が互いに相互作用しうる官能基を有する場合、より密ならせん構造体であるcisoid型は、側鎖同士の相互作用をより強力にし、らせん構造の安定化や、側鎖によって導かれる種々の機能がより強力に発現する。以上のように、かかるcisoid構造を有するcis型置換アセチレン重合体、即ちcis-cisoid型置換アセチレン重合体(以下、「cc型置換アセチレン重合体」と略す)は、非常に有用なポリマーである。
また、非特許文献4には、粉末のオールシス型ポリ(フェニルアセチレン)誘導体を溶媒処理により、黄色、赤、茶、紫、黒等様々な色彩を有するポリマーを取得する方法が記載されている。
さらに、非特許文献5には、膜と粉末のオールシス型ポリ(フェニルアセチレン)誘導体を溶媒処理により、黄色、赤、茶、紫、黒等様々な色彩を有するポリマーを取得する方法が記載されている。
しかしながら、非特許文献1〜5には外部刺激により色や構造変化が起こっていることは報告されているが、ct型置換アセチレン重合体をcc型置換アセチレン重合体に立体配座を異性化させることについては記載されていない。加えて、特許文献1には有機溶媒蒸気と接触させることにより、ポリアセチレンの色彩及びらせん構造が変化することが記載されている。しかしながら、特許文献1においては、ct型置換アセチレン重合体を得た後、それを異性化してcc型置換アセチレン重合体を製造することに関しては記載されていない。
以上のことから、工業的に有利なcc型置換アセチレン重合体を製造する方法は知られていない。
すなわち、本発明は、
(1)一般式(I)
で表されるcis-transoid型置換アセチレン重合体を溶解度パラメータの差が10〜15である有機溶媒蒸気中で処理することを特徴とするcis-cisoid型置換アセチレン重合体の製造方法、
(2)前記cis-transoid型置換アセチレン重合体が一般式(II)
で表される置換アセチレンを、8−10族金属化合物存在下重合させたアセチレン重合体である上記(1)に記載のcis-cisoid型置換アセチレン重合体の製造方法、
(3)前記重合がアルコールおよび/またはアミン中で行われる上記(2)に記載のcis-cisoid型置換アセチレン重合体の製造方法、
(4)前記一般式(I)または(II)におけるRが、アルコキシフェニル基またはアルコキシナフチル基である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のcis-cisoid型置換アセチレン重合体の製造方法、
(5)前記アルコキシフェニル基が4−ブトキシフェニル基であり、前記アルコキシナフチル基が6−ブトキシナフタレン−2−イル基である上記(4)に記載のcis-cisoid型置換アセチレン重合体の製造方法、
(6)前記cis-transoid型置換アセチレン重合体が粉末状である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のcis-cisoid型置換アセチレン重合体の製造方法および
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法により得られるcis-cisoid型置換アセチレン重合体を提供する。
上記一般式(I)において、nは数平均重合度を表し、10〜100,000、好ましくは、100〜100,000の整数である。nを100以上とすることにより、得られるcc型置換アセチレンの成形性、得られる成形体の機械的強度がより優れたものとなるので好ましい。また、cc型置換アセチレン重合体の製造コストおよび成形コストを考慮すると、100,000以下であることが好ましい。nが10〜100、000のct型またはcc型置換アセチレン重合体の数平均分子量は1000〜30,000,000程度となる。後で述べる反応(重合)条件において、温度を低くするか、反応時間を短くするか、置換アセチレンの濃度を低くすると得られるct型(およびcc型)置換アセチレン重合体の数平均分子量は低くなる。
上記一般式(I)および(II)において、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜30のアリール基、CO2R1(式中、R1は置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜30のアリール基を表す)で示されるエステル基、CONR2R3(式中、R2、R3はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜30のアリール基を表す)で示されるアミド基、CO2M(式中、Mは水素原子または1価の金属を表す)で示されるカルボキシル基またはその金属塩のいずれかを表す。
中でも、原料の入手性、モノマー合成の容易性、重合体におけるcc構造の安定性などの観点から置換基を有する炭素数6〜10のアリール基が好ましい。
上記一般式(I)および(II)中、R、R1、R2およびR3が表す炭素数1〜30、好ましくは4〜30のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基などの直鎖状、分岐状または環状のアルキル基が挙げられる。これらのアルキル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基などのアリール基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブトキシ基、n−ヘキシル基、シクロヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、などのアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、フェニルチオ基、ナフチルチオ基などのアルキルチオ基;tert−ブチルジメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジフェニルシリルオキシ基などの三置換シリルオキシ基;アセトキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシロキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基;メチルスルフォキシド基、エチルスルフォキシド基、フェニルスルフォキシド基などのスルフォキシド基;メチルスルフォニルオキシ基、エチルスルフォニルオキシ基、フェニルスルフォニルオキシ基、メトキシスルフォニル基、エトキシスルフォニル基、フェニルオキシスルフォニル基などのスルフォン酸エステル基;ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、メチルフェニルアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基などの1級または2級のアミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、ベンゼンスルホニル基、tert−ブトキシカルボニル基などで置換された、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、フェニル基などのアルキル基またはアリール基などで置換されていてもよいアミノ基;水酸基;シアノ基;ニトロ基;塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子などのハロゲン原子;などが挙げられる。
好ましい置換基は、アリール基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、スルフォキシド基、スルフォン酸エステル基、水酸基、アミノ基である。
上記一般式(I)および(II)中、R、R1、R2およびR3が表す炭素数4〜30、好ましくは6〜30のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基などの芳香族系炭化水素;ピリジル基、ナフチル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基などの複素環;などが挙げられる。これらのアリール基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などの直鎖状、分岐状または環状のアルキル基;ビニル基、アリル基、クロチル基、プレニル基、7−オクテニル基、シクロヘキセニル基などのアルケニル基;エチニル基、プロピニル基、プロパルギル基、フェニルエチニル基などのアルキニル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブトキシ基、n−ヘキシル基、シクロヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、などのアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、フェニルチオ基、ナフチルチオ基などのアルキルチオ基;tert−ブチルジメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジフェニルシリルオキシ基などの三置換シリルオキシ基;アセトキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシロキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基;メチルスルフォキシド基、エチルスルフォキシド基、フェニルスルフォキシド基などのスルフォキシド基;メチルスルフォニルオキシ基、エチルスルフォニルオキシ基、フェニルスルフォニルオキシ基、メトキシスルフォニル基、エトキシスルフォニル基、フェニルオキシスルフォニル基などのスルフォン酸エステル基;ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、メチルフェニルアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基などの1級または2級のアミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、ベンゼンスルホニル基、tert−ブトキシカルボニル基などで置換された、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、フェニル基などのアルキル基またはアリール基などで置換されていてもよいアミノ基;水酸基;シアノ基;ニトロ基;塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。
好ましいアリール基は、置換されていてもよいフェニル基および置換されていてもよいナフチル基である。
上記一般式(I)および(II)中の置換基Rの一つであるCO2MにおけるMが取り得る1価の金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属および銅(I)、銀などの遷移金属が挙げられる。中でも、アルカリ金属が好ましい。
本発明において、cc型置換アセチレン重合体を得る方法としては、下記化学反応式で示される2工程で合成される。即ち、一般式(II)で示される置換アセチレンを8−10族金属化合物の存在下で重合させることにより、工程2における原料となるct型置換アセチレン重合体を得る工程(以下、「工程1」と略す)およびct型置換アセチレン重合体を有機溶媒蒸気中で処理して目的化合物であるcc型置換アセチレン重合体を得る工程(以下、「工程2」と略す)である。
<工程1(触媒)>
置換アセチレンを重合させる際に用いられる8−10族金属化合物としては、例えばロジウム錯体、パラジウム錯体、イリジウム錯体、白金錯体などが挙げられる。
ロジウム錯体としては、例えばクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、アセチルアセトナトビス(エチレン)ロジウム、アセチルアセトナトビス(シクロオクテン)ロジウム、アセチルアセトナト(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム、(1,5−シクロオクタジエン)ビス(トリフェニルホスフィン)ロジウムヘキサフルオロホスフェート、(ノルボルナジエン)トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムヘキサフルオロホスフェート、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ロジウムトリフルオロメタンスルホネート、ビス(ノルボルナジエン)ロジウムテトラフルオロボレート、クロロビス(エチレン)ロジウム ダイマー、クロロビス(シクロオクテン)ロジウムダイマー、クロロ(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム ダイマー、クロロ(ノルボルナジエン)ロジウム ダイマー、クロロ(ジシクロペンタジエニル)ロジウム ダイマー、クロロ(テトラフルオロベンゾバレレン)ロジウム ダイマーなどが挙げられる。
パラジウム錯体としては、例えばジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウムが挙げられる。
イリジウム錯体としては、アセチルアセトナト(1,5−シクロオクタジエン)イリジウム、ビス(1,5−シクロオクタジエン)イリジウムテトラフルオロボレート、クロロビス(シクロオクテン)イリジウムダイマー、クロロ(1,5−シクロオクタジエン)イリジウムダイマーなどが挙げられる。
白金錯体としては、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金、ジクロロ(ジシクロペンタジエニル)白金などが挙げられる。
これらの中でも、クロロ(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム ダイマー、クロロ(ノルボルナジエン)ロジウム ダイマー、クロロ(テトラフルオロベンゾバレレン)ロジウム ダイマーが好ましく、重合活性ならびに工業的な入手性の観点からクロロ(ノルボルナジエン)ロジウム ダイマーがより好ましい。
工程1は、反応の活性を高めるために、必要に応じて、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,2−ジアミノエタン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−ジアミノブタン、N,N−ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルピロリジン、N−メチルモルホリン、ピリジン、ピコリン、ルチジン、コリジン、キノリンなどの添加剤の存在下に実施してもよい。該添加剤を使用する場合、その使用量は、8〜10族金属化合物の金属1モルに対して、通常、1モル以上添加するのが好ましく、反応のための有機溶媒として用いることもできる。
工程1の反応は、通常、有機溶媒中で行なう。かかる有機溶媒としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、ネオペンチルアルコールなどのアルコール;(モノ、ジ、トリ)メチルアミン、(同)エチルアミン、(同)プロピルアミン、(同)ブチルアミンのようなアルキルアミン;エタノールアミンのようなアミノアルコール;ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、エチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル;アセトン、エチルメチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトンなどのケトン;
塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。
これらの有機溶媒の中で、反応速度の観点からアルコール、アミン、アミノアルコールのような極性の高い有機溶媒を用いるのが好ましい。
これらの有機溶媒は1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を併用してもよい。有機溶媒を使用する場合、有機溶媒の使用量に特に制限はないが、置換アセチレンおよび有機溶媒混合液全体中、通常、1〜95質量%であり、好ましくは70〜95質量%の範囲である。
有機溶媒の使用量を1質量%以上とすることにより、混合液の粘度が低下して効率的な攪拌ができるようになり、95質量%以下とすることにより、実用的な反応速度を維持することができる。
工程1における反応温度は、−60〜100℃の範囲であるのが好ましく、0〜40℃の範囲であるのがより好ましい。
反応温度を−60℃以上とすることにより、反応が適度な時間内に進行し、100℃以下とすることにより、cis体からtrans体への異性化のような副反応が生じるのを抑制することができる。
工程1における反応時間は、通常、1分〜20時間の範囲であり、0.5〜10時間の範囲であるのが好ましい。通常、反応温度が低い場合は長時間で、温度が高い場合は短時間で反応を行なうのが好ましい。
工程1における反応圧力は、通常、常圧下に行われる。
通常、下記の手順で反応が行われる。
まず、有機溶媒に置換アセチレンを溶解させた混合液1を準備する。別途、同じ有機溶媒に触媒である8−10族金属化合物およびトリエチルアミンのような添加剤を溶解させた混合液2を準備する。次いで、混合液1と混合液2を混合し、所定の反応温度に保ちながら撹拌して所定の時間反応させることによりct型置換アセチレン重合体を含む反応液が得られる。
工程1で得られた反応液からct型置換アセチレン重合体を一般的な手法によって単離、精製することができる。即ち、得られた反応液をメタノール、水のような貧溶媒中に添加して重合体を沈殿させ、ろ過により分離後、乾燥することにより、以下に述べる工程2における原料となるct型置換アセチレン重合体を取得することができる。該重合体は、必要に応じて、さらに再沈処理を施すか、貧溶媒によりソックスレー抽出器等を用いて、残留する金属化合物や低分子量成分を除去することができる。
工程2において使用されるct型置換アセチレン重合体の形状としては、塊状、粉末状、薄膜状のものが用いられる。ct型置換アセチレン重合体からcc型置換アセチレン重合体への処理効率の観点からは、有機溶媒蒸気に接触する表面積が大きいほど有利であり、粉末状、薄膜状であることがより好ましく、異性化後、種々の形態に加工できるという観点から粉末状であることがより好ましい。
工程2では、ct型置換アセチレン重合体の溶解度パラメータとの差が10〜15となる溶解度パラメータを有する有機溶媒蒸気を用いる。ここで、ct型置換アセチレン重合体の溶解度パラメータは下記参考文献1に記載のBiceranoの方法に従って算出し、有機溶媒蒸気の溶解度パラメータは下記参考文献2に記載の溶解度パラメータを用いた。
参考文献1:Prediction of polymer properties. Marcel Dekker Inc.,New York(1993)
参考文献2:A.F.M.Barton,Chem.Rev.,75,731−753(1975)
p−ブトキシフェニルアセチレン重合体(18.782)または4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニルアセチレン重合体(24.925)のようなアルコキシフェニルアセチレン重合体または6−ブトキシナフタレン−2−イル−アセチレン重合体(19.466)、4−メチルフェニルアセチレン(19.226)、4−n−ヘキシルフェニルアセチレン(18.221)のようなアルキルフェニルアセチレン重合体、プロピオール酸メチル(19.141)などのプロピオール酸エステル等が挙げられる。
中でも、原料の入手性および合成の容易性の観点から4−ブトキシフェニルアセチレン重合体(18.782)のようなアルコキシフェニルアセチレン重合体またはナフチルアセチレン重合体(19.466)が好ましく用いられる。
有機溶媒蒸気処理のための有機溶媒は前記工程1で用いる有機溶媒と同じものでも良いし、異なっていても良い。
上記の有機溶媒の中で、溶解度パラメータが8.8以下であるものを使用するのが好ましく、さらに、前記ct型置換アセチレン重合体の溶解度パラメータとの差が10〜15となるような溶解度パラメータを有する有機溶媒を用いることが必須である。
ct型置換アセチレン重合体と有機溶媒との組み合わせで好ましいものとしては、4−ブトキシフェニルアセチレン重合体とn−ヘキサン、6−ブトキシ−2−エチニルナフタレンとn−ヘキサン、プロピオール酸メチルとn−ヘキサンが挙げられる。
工程2における具体的な処理方法としては、不活性ガス雰囲気下または空気雰囲気下、ct型置換アセチレン重合体を有機溶媒蒸気の気流下に暴露させるか、密閉容器内にct型置換アセチレン重合体を加え、系内を減圧状態とした後、有機溶媒蒸気により減圧を解除することにより行なうのが好ましい。
たとえば、ct型置換アセチレン重合体が粉末状の場合、塔内で不活性ガス雰囲気下または空気雰囲気下、有機溶媒蒸気の雰囲気を形成させ、同重合体の粉末を上部から散布してもよいし、粉末または顆粒状のものを積層した中に有機溶媒蒸気を流通させても良い。
フィルム状で処理する場合は、網状のスペーサーとともに巻回した状態で有機溶媒蒸気を流通させても良い。
工程2における有機溶媒蒸気の分圧は、処理条件における有機溶媒蒸気の飽和蒸気圧またはそれ以下であるが、処理速度の観点からは飽和蒸気圧に近いほど好ましい。
工程2における処理温度は、−20〜100℃の範囲であるのが好ましく、0〜40℃の範囲であるのがより好ましい。
工程2における処理時間は、1秒〜20時間の範囲であるのが好ましく、1分〜10時間の範囲であるのがより好ましい。
(a)1H−NMR(核磁気共鳴)測定を行い、テトラメチルシランを内部標準物質とした場合の化学シフト値から構造を同定した。
<分析条件>
装置:日本電子株式会社製JNM−A400II
溶媒:重クロロホルム
濃度:30mg/ml
温度 :23℃
積算回数:32回
(b) IR測定を行い、モノマーに起因する吸収の消失と生成したポリマーに起因する吸収の出現を確認した。
<分析条件>
装置:日本分光製FT/IR−230
拡散反射アタッチメント DR−81
測定:ポリマー3mgをKBr200mgと混合し、試料台へ詰め拡散反射法で測定
積算回数:64回
(c) ラマン測定を行い、置換アセチレン重合体に起因する吸収の存在を確認した。
<分析条件>
装置:日本分光製 NR−1800S
使用レーザー:532nm
測定:ポリマー3mgをKBr200mgと混合し、錠剤成型機で錠剤を作成
積算回数:10秒を積算2回
(2)置換アセチレン重合体の数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定を行い、ポリスチレン換算分子量として算出した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置 :日本分光株式会社製GPC−900
カラム:K−806L(Shodex)を2本連結(カラム温度:40℃)
移動相:クロロホルム(流速:1.0ml/分)
分析時間:30分
検出器:RI
濾過 :孔径0.45μmの精密フィルター
濃度 :3mg/ml
注入量:20μl
標品 :ポリスチレン
解析 :日本分光製807−ITインテグレーター
(3)置換アセチレン重合体の結晶構造
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=2〜40°の範囲を走査速度0.6°/分で走査し、対称反射法で測定した(WAXD分析)。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2200
X線発生装置:封入管式X線発生装置
X線源:Cu 40kV 40mA
ゴニオメーター:試料水平ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.04°
スリット:発散スリット=1°、受光スリット=0.15mm、散乱スリット=1°
コリメーター:なし
サンプル:白金セルに充填
(4)置換アセチレン重合体の立体配座解析
分子力場法を用いて置換アセチレン二十量体の構造最適化を二面角を変化させながら行い、得られた局所安定構造をそれぞれcc型、ct型とし、そのときの分子サイズから結晶の結晶軸の長さを算出した。計算条件の詳細を以下に示す。
<計算条件>
使用ソフト:Spartan’04 Windows ver.1.03
力場 :MMFF94
以下、4−ブトキシフェニルアセチレンを例に具体的な手順について説明する。
(a) ブトキシフェニルアセチレンの20量体を主鎖二重結合の二面角が180°となるように作図し、末端は水素とした。
(b) 二面角を170°とし、その二面角を固定した状態で分子力場法を用いて構造最適化を行い、安定化構造のエネルギーを得た。
(c) 続いて、上記(b)で得られたモデルの二面角を160°に変え、その二面角を固定した状態で分子力場法を用いて構造最適化を行い、安定化構造のエネルギーを得た。
(d) 以下同様に、二面角が40°になるまで10°刻みに繰り返し、各二面角における安定化構造のエネルギーを求めた。
(e) 二面角と各二面角における安定化構造のエネルギー〔strain energy(kcal/mol)〕の関係をプロットし、 70°と120°に極小値が得られた(図1参照)。
図1において、縦軸は安定化構造のエネルギー、横軸は二面角の角度φ(°)を示す。
(f) 二面角70°の構造をcc型、120°の構造をct型とし、その分子サイズから結晶の結晶軸の長さを算出した。
直径(内径)20mmφ、直線換算長さ200mmのU字型のガラスチューブの両端開口部側を下向きに配置し、その一方の開口部側から乾燥させたエタノール7.2mlに溶解させた4−ブトキシフェニルアセチレン500mg(2.9mmol)溶液を、他方側の開口部側から乾燥させたエタノール7.2mlに溶解させたクロロ(ノルボルナジエン)ロジウム ダイマー13.4mg(0.029mmol)とトリエチルアミン0.4mlの溶液をそれぞれ入れ、U字型のガラスチューブの両端開口部側が上向きになるように反転させることにより両溶液を混合し、反応を開始させた。反応は20℃で、2時間行った。
1/d2=4(h2+hk+k2)/3a2+l2/c2
a、c:結晶軸の長さ:[Å]
h、k、l:ミラー指数:[−]
から、a=21.0Åが得られる。同様に、面間隔d=9.50Å(2θ=9.309°)に出現した回折ピークが六方晶の(200)面に帰属されると仮定した場合、a/2=11.0Åが得られ、面間隔d=18.2Å(2θ=4.885°)に出現した回折ピークと等価の面であったので、得られた重合体の結晶構造は擬六方晶であると帰属した。WAXD分析から得られたaの値は4−ブトキシフェニルアセチレン重合体がct型で、かつその結晶構造が擬六方晶であると仮定して分子力場法で算出したaの値21.5Åとほぼ一致することから、得られた重合体はct型であると帰属した。この4−ブトキシフェニルアセチレン重合体の溶解度パラメータは18.782である。
合成例1における4−ブトキシフェニルアセチレンに代えて6−ブトキシナフタレン−2−イル−アセチレン650mg(2.9ミリモル)を用いた以外は、合成例1と同様に反応を行った。
生成物のIR分析の結果、モノマー由来の3282、2104cm-1の吸収が消失し、979cm-1にC=C−Hの吸収が見られた。また、ラマン分析を行った結果、1530〜1540、1340、995cm-1にcis型置換アセチレン重合体特有の吸収を有していたことから、置換アセチレンの重合体である6−ブトキシナフタレン−2−イル−アセチレン重合体であると帰属した。また、得られた重合体は溶媒に不溶であり、その数平均分子量を算出することはできなかった。続いて、WAXD分析を行った。WAXD分析の結果を図3に示す。面間隔d=23.0Å(2θ=3.482°)に出現した回折ピークが六方晶の(100)面に帰属されると仮定した場合、面間隔dと格子定数の関係式
1/d2 = 4(h2+hk+k2)/3a2 + l2/c2
a,c:結晶軸の長さ [Å]
h,k,l:ミラー指数 [−]
から、a=26.6Åが得られる。同様に、面間隔d=11.6Å(2θ=7.621°)に出現した回折ピークが六方晶の(200)面に帰属されると仮定した場合、a/2=13.4Åが得られ、面間隔d=23.0Å(2θ=3.482°)に出現した回折ピークと等価の面であったので、得られた重合体の結晶構造は擬六方晶であると帰属した。WAXD分析から得られたaの値はポリ(6−ブトキシナフタレン−2−イル−アセチレン)がct型で、かつその結晶構造が擬六方晶であると仮定して分子力場法で算出したaの値26.8Åとほぼ一致することから、得られた重合体はct型であると帰属した。この6−ブトキシナフタレン−2−イル−アセチレン重合体の溶解度パラメータは19.466である。
合成例1における4−ブトキシフェニルアセチレンに代えて4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニルアセチレンのmg(ミリモル)を用いた以外は、合成例1と同様に反応を行った。得られた4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニルアセチレン重合体を合成例1と同様にWAXD分析を行った結果、ct型であることが確認され、その溶解度パラメータは24.925である。
合成例1で得られたct型4−ブトキシフェニルアセチレン重合体[溶解度パラメータ:18.782]の500mgを20℃で1時間、n−ヘキサン[溶解度パラメータ:7.24(重合体の溶解度パラメータとの差:11.542)]の蒸気に暴露した。
暴露の方法は下記の通りである。
内径10mm、長さ50mmの試験管に、500mgのct型ポリ(4−ブトキシフェニルアセチレン)[溶解度パラメータ:18.782]を入れた(これを試験管Aとする)。次に、あらかじめ窒素置換したヘキサン[溶解度パラメータ:7.24]を1ml入れた内径20mm長さ165mmの試験管(試験管Bとする)に、試験管Aを入れた。この試験管Bをセプタムキャップでフタをし、液体窒素で10分間冷却した。ヘキサンが固化したことを確認し、シリンジを接続した真空ポンプで15分間減圧脱気した。シリンジを抜き、試験管Bを液体窒素から出し、20℃で静置した。この操作により試験管B内がヘキサン蒸気で満たされ、試験管A内のポリマーが溶媒蒸気処理される。1時間後、試験管Bを開放して試験管Aを取り出し、24時間減圧乾燥した。
n−ヘキサン蒸気による暴露処理後のWAXD分析結果を図4に示す。面間隔d=21.5Å(2θ=4.110°)に出現した回折ピークが六方晶の(100)面に帰属されると仮定した場合、面間隔dと格子定数の関係式
1/d2=4(h2+hk+k2)/3a2+l2/c2
a、c:結晶軸の長さ[Å]
h、k、l:ミラー指数[−]
から、a=24.8Åが得られる。同様に、面間隔d=10.8Å(2θ=8.186°)に出現した回折ピークが六方晶の(200)面に帰属されると仮定した場合、a/2=12.5Åが得られ、面間隔d=21.5Å(2θ=4.110°)に出現した回折ピークと等価の面であったので、得られた重合体の結晶構造は擬六方晶であると帰属した。
WAXD分析から得られたaの値は4−ブトキシフェニルアセチレン重合体がcc型で、かつその結晶構造が擬六方晶であると仮定して分子力場法で算出したaの値23.7Åとほぼ一致することから、n−ヘキサン蒸気による暴露処理を行うことでct型からcc型へ構造変化したと帰属した。
合成例2で得られたナフチルアセチレン重合体(溶解度パラメータ:19.466)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
重合体とn−ヘキサンの溶解度パラメータの差は12.222である。n−ヘキサン蒸気による暴露処理後のWAXD分析結果を図5に示す。面間隔d=25.1Å(2θ=3.520°)に出現した回折ピークが六方晶の(100)面に帰属されると仮定した場合、面間隔dと格子定数の関係式
1/d2 = 4(h2+hk+k2)/3a2 + l2/c2
a,c:結晶軸の長さ [Å]
h,k,l:ミラー指数 [−]
から、a=29.0Åが得られる。同様に、面間隔d=12.5Å(2θ=7.072°)に出現した回折ピークが六方晶の(200)面に帰属されると仮定した場合、a/2=14.4Åが得られ、面間隔d=25.1Å(2θ=3.520°)に出現した回折ピークと等価の面であったので、得られた重合体の結晶構造は擬六方晶であると帰属した。
WAXD分析から得られたaの値はポリ(6−ブトキシナフタレン−2−イル−アセチレン)がcc型で、かつその結晶構造が擬六方晶であると仮定して分子力場法で算出したaの値29.1Åとほぼ一致することから、n−ヘキサン蒸気による暴露処理を行うことでct型からcc型へ構造変化したと帰属した。
合成例1で得られたct型4−ブトキシフェニルアセチレン重合体[溶解度パラメータ:18.782]500mgを20℃で1時間、クロロホルム[CHCl3、溶解度パラメータ:9.21、重合体の溶解度パラメータとの差:9.572]の蒸気に暴露した以外は実施例1と同様に行なった。
暴露の方法は下記の通りである。
内径10mm、長さ50mmの試験管に、500mgのct型ポリ(4−ブトキシフェニルアセチレン)[溶解度パラメータ:18.782]を入れた(これを試験管Aとする)。次に、あらかじめ窒素置換したクロロホルム[溶解度パラメータ:9.21]を1ml入れた内径20mm長さ165mmの試験管(試験管Bとする)に、試験管Aを入れた。この試験管Bをセプタムキャップでフタをし、液体窒素で10分間冷却した。クロロホルムが固化したことを確認し、シリンジを接続した真空ポンプで15分間減圧脱気した。シリンジを抜き、試験管Bを液体窒素から出し、室温で静置した。この操作により試験管B内がクロロホルム蒸気で満たされ、試験管A内のポリマーが溶媒蒸気処理される。1時間後、試験管Bを開放して試験管Aを取り出し、24時間減圧乾燥した。
ct型4−ブトキシフェニルアセチレン重合体をクロロホルム蒸気による暴露処理した後のWAXD分析結果を図6に示す。面間隔d=21.2Å(2θ=4.168°)とd=17.5Åに回折ピークが出現し、ct型とcc型の混合物であることが確認された。
置換アセチレン重合体として合成例3で得られたct型4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニルアセチレン重合体を、有機溶剤としてクロロホルム(溶解度パラメータ:9.21、重合体の溶解度パラメータとの差:15.72)を用いた以外は実施例と同様に行い、クロロホルムの蒸気による暴露処理後も重合体がct型のままであることが確認された。
合成例1において、、クロロ(ノルボルナジエン)ロジウム ダイマーの使用量を1.34mg(2.9μmol)とした以外は、同様に反応を実施し、モノマーである4−ブトキシフェニルアセチレンの転化率の経時変化を追跡した。
合成例1において、クロロ(ノルボルナジエン)ロジウム ダイマーの使用量を1.34mg(2.9μmol)とし、重合溶媒をヘキサンとした以外は、同様に反応を実施し、モノマーである4−ブトキシフェニルアセチレンの転化率の経時変化を追跡した。
合成例4と比較例3において、モノマーである4−ブトキシフェニルアセチレンの転化率の経時変化を図7に示す。図7から、重合反応において高価なロジウム錯体の使用量を少なくした場合、得られる重合体はct型ではあるがモノマーの消費速度はエタノールの方が明らかに速く、非特許文献1に従うヘキサン溶媒中でのcc型への直接重合に比べ、効率的に重合が進行していることがわかる。
Claims (7)
- 一般式(I)
で表されるcis-transoid型置換アセチレン重合体を溶解度パラメータの差が10〜15である有機溶媒蒸気中で処理することを特徴とするcis-cisoid型置換アセチレン重合体の製造方法。 - 前記重合がアルコールおよび/またはアミン中で行われる請求項2に記載のcis-cisoid型置換アセチレン重合体の製造方法。
- 前記一般式(I)または(II)におけるRが、アルコキシフェニル基またはアルコキシナフチル基である請求項1〜3のいずれかに記載のcis-cisoid型置換アセチレン重合体の製造方法。
- 前記アルコキシフェニル基が4−ブトキシフェニル基であり、前記アルコキシナフチル基が6−ブトキシナフタレン−2−イル基である請求項4に記載のcis-cisoid型置換アセチレン重合体の製造方法。
- 前記cis-transoid型置換アセチレン重合体が粉末状である請求項1〜5のいずれかに記載のcis-cisoid型置換アセチレン重合体の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られるcis-cisoid型置換アセチレン重合体。
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