JP2014208731A - フェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体 - Google Patents

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Abstract

【課題】溶解性、加工性、機能性等を向上させた新規ポリアセチレンを提供する。【解決手段】2個のフェニルアルコキシ基をもつ二置換アセチレンを触媒を用いて溶媒の存在下で重合して、フェニルアルコキシ基をもつ二置換アセチレン系重合体とする。またこの重合溶液を用いて製膜する。それをドーピング処理して、ポーラロンとソリトンが共存する導電性高分子を調製する。また、発光性薄膜を調製し、各種の機能素子、センシング・デバイスとする。【選択図】なし

Description

本発明は、フェニルアルコキシ基を有する二置換アセチレン系重合体とその製造方法、及び、その高分子液晶や導電性高分子、それを用いた発光性薄膜、センシング・デバイス等に関する。
代表的な共役系高分子であるポリアセチレンは、金属同様の導電性の高分子としてよく知られている。ただ、ポリアセチレンは、空気中では不安定で、溶媒に難溶性で、加工しにくいという問題点を有している。
一方、フェニルアセチレン重合体等に代表される置換ポリアセチレンは、空気中での安定性、有機溶媒の可溶性なども改善の可能性があるものとして期待されている。また、近年では、置換ポリアセチレンが電子材料や発光材料としても研究されている。(非特許文献1〜2)
そしてまた、ポリアセチレンの高分子側鎖や高分子主鎖末端にそれぞれ特殊な置換基を導入して、一分子導電ワイヤなどの分子デバイスを調製する試みもある。(特許文献1)
しかしながら、置換ポリアセチレンの特性は、溶解性ひとつをとっても、結晶性などの物理的特性のみならず、水素結合や双極子−双極子相互作用などの分子内あるいは分子間の側鎖同士の強い相互作用などがさまざまに関係していることから、その特性を的確に予想し、所望のものに制御することは必ずしも容易ではない。
Synthetic Metals,101,p.210から211,1999年 Polymer,37(10),p.1959−1963,1996年
特開2008−222797号公報
以上のとおりの背景から、本発明者らは、置換ポリアセチレンの研究の中で、特に二置換ポリアセチレンに着目し、ポリアセチレンの両側鎖に種々の置換基を導入して様々な二置換ポリアセチレンを調製し溶解性、成型加工性、安定性等の改良や、光電子特性に係る研究を重ねてきた。
そこで、本発明は、二置換ポリアセチレンに着目し、溶解性、加工性、機能性等を向上させた新しいポリアセチレンとその製造方法並びにその機能材料としての応用の方策を提供することを課題としている。
上記の課題を解決するものとして、本発明は、フェニルアルコキシ基を有する二置換アセチレンのモノマー単位を含む単独重合体または共重合体であることを特徴とするフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体であることを特徴としている。
このフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体は、
次式(1)
(式中のR、R’は、それぞれ、炭化水素基を示す。)で表わされるフェニルアルコキシ基を有する二置換アセチレンのモノマー単位を含むことが好ましい。
また、前記式(1)中のR、R’は、それぞれ、炭素数8以上のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を示すことが好ましい。
そして、フェニルアルコキシ基をもつ二置換アセチレンのモノマー単位以外の共重合性モノマー単位を40モル%以下の割合で含むことが好ましい。
また、本発明は、前記したフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体の製造方法であって、フェニルアルコキシ基を有する二置換アセチレンのモノマーを単独で、もしくは、フェニルアルコキシ基を有する二置換アセチレンのモノマーとこれ以外の共重合性モノマーとを重合させることを特徴とする。
この方法においては、タンタル系触媒を用いて溶媒の存在下で重合することが好ましい。そして、本発明は、前記の二置換アセチレン重合体の溶液を用いて成形することを特徴とするフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体の成形方法も提供する。
前記の成形する工程は、成膜する工程であることも好ましい。
本発明は以下のものも提供する。
すなわち、まず、前記のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体を液晶成分として含む高分子液晶。
前記のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体がドーピング処理されたものである導電性高分子。
電気伝導性キャリアとして、ポーラロンとソリトンとが同時に存在する前記の導電性高分子。
前記のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体が薄膜である発光性薄膜。
光照射により発光性、蛍光性が変化する前記の発光性薄膜。
薄膜の厚さ変化により発光性、蛍光性が変化する前記の発光性薄膜。
センシング・デバイスとして機能するする前記の発光性薄膜。
本発明によれば、従来のポリアセチレン、置換ポリアセチレンの課題としての溶解性、加工性、機能性等を改善した新しい置換ポリアセチレンとしてのフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体が提供される。
また、このフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体は、液晶性、発色性、蛍光性などの光学特性を備えるほか、ドーピング処理により、複数種の電気伝導性キャリアを備えた導電性高分子となるほか、光照射により発光性、蛍光性が変化する発光性薄膜、厚さ変化により発光性、蛍光性が変化する発光性薄膜、センシング・デバイスとして機能するする発光性薄膜となるので、各種の電磁気デバイス、光電子デバイスとして応用できる。
フェニルアルコキシ二置換アセチレンモノマーと、ホモポリマーの赤外吸収スペクトルを示す。 フェニルアルコキシ二置換アセチレンモノマーと、ホモポリマーの紫外−可視吸収スペクトル、及び、蛍光スペクトルを示す。 偏光顕微鏡観察でトルエン溶液中に鋭敏版を挿入した時のポリマー結晶の光軸性を示す、正の複屈折の可視光照射観測図を示す。 トルエン溶液中のポリマー結晶の一軸性を示す、可視光照射観測図を示す。 テトラヒドロフラン(THF)溶液中の発光のポリマー濃度依存性を示す、可視光照射観測図を示す。 テトラヒドロフラン(THF)溶液中のポリマーのSx相の偏光顕微鏡観察図を示す。 ドーピング時間を変化させて測定した約30回の測定チャートを1枚のシグナルチャート図に重ねて示す。ドーピングした時間に応じて、g値、強度、線幅に後述のような変化が見られ、各測定チャートの線は一部分重なりを生じつつ、きれいな分布を見せる。 ESR測定チャートから、g値、強度、線幅を求める、解析ルールを示す。 ESR測定チャートから解析したg値、強度、線幅をもとに、横x軸に左から右へドーピング時間をとり、縦y軸に、g値(白ぬき正方形)、強度(白抜き丸)、線幅(黒三角)をプロットして、ESRシグナルの測定結果をグラフ化した図である。 ドーピング初期(第1ステージ)の導電性高分子の概念図を示す。 ドーピング中期(第2ステージ)の導電性高分子の概念図を示す。 ドーピング安定期(第3ステージ)の導電性高分子の概念図を示す。 ドーピング飽和期(第4ステージ)の導電性高分子の概念図を示す。 ドーピング安定期(第3ステージ)のポリマーで、電気抵抗の温度依存性の測定を行った結果をプロットしたグラフを示す。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体は、前記のとおり、フェニルアルコキシ基を有する二置換アセチレンのモノマー単位を含むものである。
ここでのモノマー単位は、アセチレン炭素骨格に二つの置換基としてフェニルアルコキシ基を有している。すなわち、少くとも一つのアルコキシ基をフェニル(ベンゼン)環に結合するフェニル基がアセチレン炭素原子の2箇所の各々に結合している。
アルコキシ基は各種のものであってよく、また、フェニル(ベンゼン)環には許容される範囲でアルコキシ基以外の官能基を適宜に有していてもよい。そして、アセチレン炭素原子の2箇所の各々に結合するフェニルアルコキシ基は、各々同一または別異のものであってよい。
本発明のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体に含まれるフェニルアルキシ基を有する二置換アセチレンモノマー単位としては、例えば、前記の式(1)のものが示される。このものは、例えば次式(2)
で表わされる二置換アセチレンモノマーを用いた重合により提供される。
ここで、好適には、式(1)(2)における式R、R’は、それぞれ、炭化水素基を示す。より好ましくは、炭素数8以上のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。
さらに好ましくは、本発明のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体は、一般式(1)において、両側鎖の芳香族環のパラ位に少なくとも一つのアルキル基、好ましくは、炭素数8以上の長鎖アルコキシ基をもつ置換基を有することが好ましい。長鎖アルコキシ基はフェニル芳香族環にひとつ置換すればよいが、複数置換してもよい。ただ、オルト位に置換する場合は重合に際しての立体障害の有無や、その程度について考慮することが望まれる。
立体障害の小さいその他の置換基であればオルト位やパラ位、メタ位を問わず長鎖アルコキシ基が置換している以外の位置のフェニル芳香族環に置換しても良い。立体障害の小さい置換基としては、水酸基、ハロゲン、アミノ基、カルボン酸やメチル基やエチル基な
どの短いアルキル鎖を有する置換基等が挙げられる。
本発明におけるフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体は、フェニルアルコキシ二置換アセチレンの単独重合体、または、フェニルアルコキシ二置換アセチレン単位が過半を占める共重合体である。
コモノマーとしては、先ず、無置換のアセチレン、一置換のアセチレンなどが挙げられる。これらの共重合体であれば、主鎖方向の共役系はほぼ維持されるので、フェニルアルコキシ基をもつ二置換アセチレン単独重合体の諸特性も、ほぼ維持される。
また、成形性、加工性等の便宜からスチレン系モノマー、ビニル系モノマーなどのコモノマーも40モル%までであれば、ブロックコポリマーなどの形態での導入が許容される。
本発明のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体の製造方法としては、フェニルアルコキシ基を有する二置換アセチレンのモノマーを単独重合で、もしくはこれと異なる共重合性モノマーとの共重合として実施可能とされる。後者の場合、ブロック共重合としての逐次重合反応としてもよい。
重合には、触媒や溶解が適宜に使用されてよい。アセチレン系モノマーの重合触媒、重合溶媒として公知の各種のものが考慮されてよい。
原料モノマーについては合成してもよい。例えば前記式(1)の重合体の製造のために式(2)のアセチレン化合物を原料とする場合、この原料化合物については、次の3段階の反応によることができる。
<A>先ず、次式に従って、1位にヨード、4位にデシロキシ基などの長鎖アルコキシ基を持つベンゼンと、トリメチルシリルアセチレンとを、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどのパラジウム触媒を用いて反応させる。
<B>次いで、次式のような脱保護反応させる。
<C>続いて、1−デシロキシ−4−ヨードベンゼンとデシロキシフェニルアセチレンとの反応により、ジ−デシロキシフェニルアセチレンなどのフェニルアルコキシ基を側鎖に有する二置換アセチレンを得る。
例えば上記のようにして調製された式のフェニルアルコキシ基をもつ二置換アセチレンは、塩化タンタル等のタンタル触媒を用いたメタセシス型重合、例えば次式のようにして、一般式(1)のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体とすることができる。
以上例示のようなフェニルアルコキシ基として炭素数8以上の長鎖アルコキシ基を用いる場合、側鎖間のフェニルアルコキシ基同士のパッキングによる秩序性の発現もしくは分子鎖の運動による分子鎖間の秩序性向上により、重合後に、ライオトロピック型やスメクチック型の液晶構造を示し、溶媒が蒸発すると、球晶構造のポリマー結晶が得られる。
成膜後は、結晶構造や、高い秩序性からクロロホルムやトルエン等の有機溶媒に対して難溶性を示す。
従来、難溶性の二置換アセチレン系重合体は、沈殿乾燥後には、有機溶媒に微量しか溶解せず、再び溶解させるためには、加熱や超音波等の刺激が必要である。二置換アセチレン系重合体は溶液で長時間放置したり、超音波や熱を加えることにより、アルコキシ基中の炭化水素が離脱したり異性化する可能性があるため、沈殿乾燥後に再び溶解させる方法では規則性の高い膜を製造することは困難である。
本発明においては、このような難溶性の二置換アセチレン系重合体の製造を良溶媒中で行うことができる。このため、沈殿前には高濃度で溶解しており、その溶液に更に良溶媒を追加するなどして濃度を調節し,得られた重合体溶液を用いて塗布法により難溶性の二置換アセチレン系重合体からなる膜を得る。
重合反応の条件によって収率が低い場合には、沈殿物と上澄み液に分離して精製する中間工程を介在させることが考慮される。
フェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体に対する良溶媒としてはクロロホルム,トルエン、テトラヒドロフラン等があげられるが、特にこれらには限定されない。
得られたフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体は、比較的大きな側鎖構造を有するために溶液中では不安定なので、重合、溶液濃度を調整した後は出来るだけ早く製膜・成形することが望ましい。
製膜方法としては通常の高分子溶液と同様にキヤスト法やスピンコート法などを用いることができる。製膜媒体としては、ガラスやシリコン、酸化シリコン等の基板や、粒子等の種々の形状のものを用いることができる。
膜厚は溶液濃度および製膜条件により調整できる。また、膜厚は溶媒の粘度等にも影響されるため,ポリマーの構造,分子量等にあわせてあらかじめ製膜条件を整えておくことが望ましい。
また、フェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体膜は有機溶媒に難溶性のため耐有機溶媒性のコーティング膜としても使用できる。
本発明のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体においては液晶性、発色性、蛍光性などの特徴のある光学特性が得られる。また、ドーピング処理により導電性高分子とすることができる。
例えば、光照射により光学性、蛍光性が変化する発酵性薄膜や、厚さ変化により発光性、蛍光性が変化する発光性薄膜、センシング、デバイスとして機能する発光性薄膜などが実現される。
このように、各種の光電子デバイスや電磁気デバイスとしての応用が可能とされる。
以下、実施例を示し本発明をさらに詳しく説明する
<モノマーの合成>
1)1−デシロキシ−2−トリフェニルアセチレンの合成
真空窒素置換したシュレンク細管フラスコに、蒸留トリエチルアミン(TEA)(20mmo1)、
1−デシロキシ−4−ヨードベンゼン(2.16g、6.03mmol)、
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.18g、0.16mmol)、
ヨード銅(I)(0.32g、0.17mmol)を加えて約1時間撹拌した。
触媒がすべて溶けきった後、トリメチルシリルアセチレン(0.83mml、6mmol)をフラスコに加え、温度を55℃まで上げたのち、6時間撹拌した。
反応終了後、ジエチルエーテルと水で抽出を行い、有機層を硫化マグネシウムで脱水、ろ過により硫化マグネシウムを取り除いたあと、シリカゲルカラムにより精製を行った。
これを真空乾燥したのち、黄色固体片(1.78g、5.4mmol、収率 89.5%)を得た。
2)脱保護反応によるデシロキシアセチレンの合成
真空窒素置換したシュレンクフラスコに、脱水メタノール(40m1)、1−デシロキシ−2−トリメチルシリルアセチレン(1.78g、5.39mmol)(Compoud1)と、カリウムカーボネート(1.66g、12mmol)を加え、室温で3時間撹拌した。
反応終了後、ジエチルエーテルと水で抽出を行い、有機層を硫化マグネシウムで脱水、ろ過により硫化マグネシウムを取り除いたあと、シリカゲルカラムにより精製を行った。
これを真空乾燥したのち、黄色固体片(1.28g、5.4mmol、収率 92.1%)を得た。
3)ジ−デシロキシアセチレン(モノマー)の合成
真空窒素置換したシュレンクフラスコに、蒸留トリエチルアミン(TEA)(10m1)、
1−デシロキシ−4−ヨードベンゼン(0.56g、1.6mmol)(Compoud2)、
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.0354g、0.03mmol)、
ヨード銅(I)(0.0096g、0.05mmol)を加えて約1時間撹拌した。
触媒がすべて溶けきった後、デシロキシアセチレン(0.33g、1.3mmol)をフラスコに加え、温度を55℃まで上げたのち、6時間撹拌した。
反応終了後、ジエチルエーテルと水で抽出を行い、有機層を硫化マグネシウムで脱水、ろ過により硫化マグネシウムを取り除いたあと、シリカゲルカラムにより精製を行った。
これを真空乾燥したのち、黄色固体片(0.45g、0.94mmol、収率 72%)のモノマーを得た。
<ポリマーの合成>
Di-decyloxy acetyleneの重合
窒素雰囲気下で、真空窒素置換したシュレンクフラスコ(1)に、タンタルムペンタクロライド(V) (0.07g、0.020mmo1)、トルエン(lml)と、
トリブチルスズ(0.11ml、0.35mmol)を加え、80℃に熱し30分撹拌した。このとき、溶液の色が白色から暗褐色になった。
別の真空窒素置換したシュレンクフラスコ(2)にCompoud3(1.820g、3.7mmol)とトルエン(1.5mmol)を加え、同じく80℃でモノマーが溶け切るまで撹拌した。モノマーが溶け切ったことを確認したのち、シュレンクフラスコ(1)にシュレンクフラスコ(2)のトルエン溶液を移した後、80℃で20時間撹拌した。
反応終了後、300mlのメタノールで再沈殿させた後、30分撹拌した。その後、3時間ほど静置し、上澄み溶液を除去した。次に、ピンセットにて沈殿物を回収し、真空乾燥させた。これにより、黄色固体片(0.036g、収率3%)のポリマーを得た。
重合したポリマーはIRスペクトル、UV−vis吸収スペクトル、蛍光スペクトル、GPCにより目的物のポリマーであるであることを確認した。
図1に示す赤外吸収スペクトルでは、1230nm付近にアルコキシ基のC−O−C伸縮運動に由来するピークがモノマー、ポリマー双方のIRスペクトルに表れている。
また、1500nm付近に芳香族環に由来するシグナルがみられる。以上より、モノマーの側鎖がポリマーにおいても保持されていることを確認した。
図2に示す紫外−可視吸収スペクトルでは、300nm付近にフェニル基に由来するπ−π*遷移に由来するスペクトル、また380nm、450nm付近にポリマー主鎖のπ−π*遷移に由来するスペクトルを確認した。
また、図2に示す蛍光スペクトルがレッドシフトしていることにより、共役長が伸びていることを確認した。
重合度については、ポリマーのGPC測定を行い、標準ポリスチレン換算より、分子量及び重合度を算出した。結果は下記のとおり。
GPC測定結果
Mn数平均分子量(標準ポリスチレン換算) :255000
Mw重量平均分子量(標準ポリスチレン換算):738000
Mw/Mn : 2.89
重合度(標準ポリスチレン換算):519
なお、ポリマー収率については、数十%未満でやや低いものであった。
この原因としては、窒素雰囲気下で重合を行ったものの、それが不十分であり、タンタルの触媒活性になんらかの影響を与え、局所的に重合が進行した可能性が考慮される。
また、側鎖の非常に長いモノマーであったので、その一部が低分子量のものになってしまった可能性もある。
<偏光顕微鏡観察による特性の評価>
合成したポリマーを、トルエンとテトラヒドロフラン(THF)にそれぞれ溶かし、プレートに滴下し、蒸発させ、偏光顕微鏡で観察した。
偏光顕微鏡観察の結果、トルエン溶液中では、ポリマーがライオトロピック型の液晶構造を示したのち、トルエンが蒸発すると、球晶構造のポリマー結晶が発現した。
図3に、偏光顕微鏡観察でトルエン溶液中に鋭敏版を挿入した時のポリマー結晶の光軸性を示す、正の複屈折の可視光照射観測図を示す。
図4に、トルエン溶液中のポリマー結晶の一軸性を示す、可視光照射観測図を示す。
他方、等方相のポリマーTHF溶液は、プレート滴下後、THF溶媒の蒸発過程や、降温過程で、ライオトロピック型液晶相やスメクチック液晶相が観察されたが、球晶構造のポリマー結晶は発現しなかった。図6には、テトラヒドロフラン(THF)溶液中のポリマーのSx相(微細構造未同定のスメクチック液晶相)の偏光顕微鏡観察図を示す。
ポリマーTHF溶液では、THF溶媒が蒸発した後も液晶性が保持され、得られる固体状態のポリマー薄膜でも、液晶性や配向性が観察された。
ポリマー主鎖のポリエン部位は、1次元性の強い剛直な高分子骨格であり、また、フェニルアルコキシ置換基のフェニル部位も剛直なので、これらがメソゲン(液晶形成要素)として機能していると考えられる。
また、フェニル基からエーテル結合を介して伸びる長いアルキル鎖は屈曲性があり会合状態となり易いことなどもポリマーの液晶性や配向性に寄与していると考えられる。
ポリマーTHF溶液は、プレート滴下後の液膜の厚さやポリマー濃度によって、可視光照射時に観測される発色状態が変化する。これは、ポリマーの凝集状態が厚さにより異なるためと考えられる。図5には、テトラヒドロフラン(THF)溶液中の発光のポリマー濃度依存性を示す、可視光照射観測図を示す。

<成形加工性について>
THF溶液から形成した固体薄膜でも、液晶状態が維持され、ポリマーの厚さによって発光、発色が異なるし、蛍光性の発現も異なることが観察された。
この液晶状態のポリマー成形体に、紫外光、青色光などの短波長光を照射すると、液晶状態を維持した状態で、アセチレン重合体の分子鎖間の架橋などの架橋反応の構造変化が起こり、不溶・不融の極めて強靭なフィルムが形成できる。また、トルエン蒸発後のポリマー球晶をもつフィルムでも、同様に、短波長光を照射すると、アセチレン重合体の分子鎖間の架橋などの架橋反応の構造変化が起こり、強靭なフィルムが形成できる。これらアセチレン重合体の分子鎖間架橋反応で得られる液晶状態を維持した不溶・不融の強靭なフィルムでも、反応の前後により、蛍光発色性などが変化することが確かめられた。
液晶状態の強い配向特性が固定化されて強靭な成形体が得られることは、高性能エンジニアリング樹脂に近い特性を期待させるものである。
また、成形・成膜に使用する溶媒系により、成形体の諸特性が大きく相違することは、成形加工の多様な可能性を示唆するものである。
<電磁気的特性の評価>
電子スピン共鳴法(ESR)にてポリマー中に発生するキャリアを観察するため、ヨウ素によるドーピングを行った。合成ポリマーをESR用のサンプルセルに移した。
ヨウ素ドーピング前には、合成ポリマーは、ESRシグナルを発しない。
次に、微量のヨウ素をサンプルセルに加え、ヨウ素を揮発させることにより、気相にてヨウ素ドーピングを行った。ヨウ素ドーピング後の合成ポリマーは、ESRシグナルを発するので、磁場強度を掃引すると、ESRスペクトルは、典型的な導電性高分子で観測されるローレンツ曲線のチャートを示した。
このサンプルを用いESR測定を行った。
ドーピング処理は、ヨウ素などの電子受容体や、アルカリ金属などの電子供与体を用いる化学ドープ処理の他、FETによる電界ドープ、光励起など様々な手法により実施することができる。
ESR解析は、不対電子が磁場中に置かれた時に生じる準位間の遷移を観測する分光分析手法であり、g値、強度(Intensity)、線幅(PeakWidth)が求められる。
実際の測定は、マイクロ波照射下で磁場(H)を掃引して行う。磁場が大きくなるに従ってエネルギー間隔(ΔE)が増大し、ΔEがマイクロ波のエネルギー(hν)と等しくなった時に共鳴吸収が観測される。その強度、g値、線幅、超微細構造などから、不対電子を有する欠陥や化学種の量、構造、運動性、反応に関する情報が得られる。
図7に、ドーピング時間を変化させて測定した約30回の測定チャートを1枚のシグナルチャート図に重ねて示す。ドーピングした時間に応じて、g値、強度、線幅に後述のような変化が見られ、各測定チャートの線は、一部分重なりを生じつつ、きれいな分布を見せる。
ドーピングの進展によりg値は、僅かに増加する。ドーピング開始10分後のg値は2.00378であり、ドーピング開始60分後のg値は2.00393であった。
図8に示すESR測定チャートの解析ルールにより、g値、強度、線幅を求めた。
ESRスペクトルのローレンツ曲線のチャート上のピーク・ピーク線幅(ΔHpp)は、ドーピングの進展により増加した。ドーピング開始10分後の値は0.19mTであり、ドーピング開始60分後の値は0.29mTであった。
線幅の広がりは、自由に動けるスピンをもつ電荷担体が、スピン軌道相互作用の二乗に比例した確率で電子スピンが反転してスピン格子緩和を誘起することで観測されるものである。
ドーピングが或る程度進展すると、ESRスペクトルのローレンツ曲線のチャートの329mT付近に、小さなショルダーが観測された。ドーピングの進展により、ポリマー主鎖と側鎖の双方にソリトンとポーラロンが生成したことによるものと推察される。ただしこのチャートからは、ソリトン、ポーラロンのそれぞれの生成を個別に確認することはできない。
これらESRデータからは、このポリマーの側鎖が、電荷担体の存在を安定化させる役割を担っていると推察される。
ESRデータから、電荷担体の種類や量の増加のみならず、ポリマー中のラジカルの増加も把握される。
ESRデータ、電気伝導性の増加、常磁性的挙動種の存在などから、この二置換ポリアセチレンは、ドーピングで、ポリエン主鎖に沿ってのラジカルカチオンやソリトンの生成、フェニル置換基側鎖に沿ってのラジカルカチオンやポーラロンの生成などを通じてポリマーのほぼ全域にわたって電荷担体を生成していることが把握される。
図9で、横x軸に左から右へドーピング時間をとり、縦y軸に、g値(白ぬき正方形)、強度(白抜き丸)、線幅(黒三角)をプロットして、ESRシグナルの測定結果をグラフ化した。
得られたESRからは、ドーピングした時間に応じて、g値、強度、線幅に下記の表1のような4段階の変化が見られた。
ドーピング初期(第1ステージ)
まず第1ステージにおいて、g値がー定で強度、線幅が増加していることから、ポリマー中の不対電子の数が増加し、不対電子同士の相互作用が増加したことが考えられる。
よって、ポリマーの側鎖からドーピングが生じ、芳香族環部位にポーラロンが発生したもの考えられる。
ドーピング初期(第1ステージ)の導電性高分子の概念図を図10に示す。
ドーピング中期(第2ステージ)
次の第2ステージにおいては、強度が減少し、線幅、g値がほぼ一定である。
バイポーラロンが発生すると、電荷は増えるものの、スピン数は減少する。このことから、側鎖のドーピングがさらに進みバイポーラロンが発生したものと思われる。
ドーピング中期(第2ステージ)の導電性高分子の概念図を図11に示す。
ドーピング安定期(第3ステージ)
第3ステージにおいて、強度が再び増加しその後下がっている。しかし、線幅はほとんど変化はみられない。この結果から、ドーピングが主鎖にまでおよび、電子が一つ引き抜かれることによってカチオンとフジーラジカルが生じたものと思われる。このため、フリーラジカルの電子スピンよりも強度が上昇したものと考えられる。ここで、発生したフリーラジカルは、ポリアセチレン上に生じるソリトンの性質を帯びているため、不対電子間の相互作用を受けず、線幅がほぼ一定となったと思われる。
ドーピング安定期(第3ステージ)の導電性高分子の概念図を図12に示す。
ドーピングがほぼ行き渡ったところで、ESRシグナルの強度も最大値となるので、強度変化の微分値がゼロとなる状況でドーピングを終えれば、ドーピング安定期(第3ステージ)にある導電性高分子を得られる。
ドーピング飽和期(第4ステージ)
第4ステージでは、強度はほぼ一定であるが、線幅が減少し、g値が著しく下がっている。線幅の減少は不対電子同士の相互作用が著しく減少したことを示している。また、g値の減少は、自由電子の振る舞いと比較して、著しく逸脱した振る舞いをキャリアがしていることを示している。これらを踏まえると、まず、第3ステージで生じた不対電子がドーピングによって奪われたことにより、電子スピンの濃度が減少したものと考えられる。
フェニル基に発生したポーラロン、バイポーラロン、アセチレン系重合体中に発生するソリトン的振る舞いをするキャリアは、いずれも高分子骨格の歪みを伴うキャリアである。
ドーピング飽和期(第4ステージ)の導電性高分子の概念図を図13に示す。
これらのキャリアの影響により、高分子骨格に歪みが生じ、ラジカルが非局在化したものと思われる。その結果、自由電子の振る舞いから逸脱した動きをしていると考えられる。
ESR測定により、合成した二置換ポリアセチレン中でのキャリアの発生を確認した。
また、主鎖上で発生した不対電子が不対電子間の相互作用を受けにくいということから主鎖上におけるソリトン型ラジカルの発生の可能性を見出した。
<電気抵抗、及びその温度依存性の測定と評価>
合成ポリマーの導電性は、ドーピング無しでの電気絶縁材料の状態から、ドーピングの進展に伴い、4.9×10−5S/cm(常温、4点プローブ法で計測。)まで増加しており、電荷担体の生成により導電性がもたらされているといえる。
図14には、ドーピング安定期(第3ステージ)のポリマーで、電気抵抗の温度依存性の測定を行った結果をプロットしたグラフを示す。
グラフより、低温状態にしていくと電気抵抗が大きくなることが分かる。これは、半導体型の導電性高分子の典型的な挙動である。また、240(K)付近で完全に絶縁体になったことが分かる。
258(K)付近でグラフの傾きが変わっていることから何らかの相転移が生じていると考えられる。
図14の中枠で示す縦軸1/Rと横軸1/Tとで表示するプロット図では、258(K)付近での主グラフの傾き変化の意義を、プロット点間隔の変化などから確認している。
これら電気抵抗の温度依存性の結果からは、本願発明の共役系高分子ポリマーの伝導性を担うキャリアが、ポーラロン、ソリトンといった構造の変化を伴うキャリアであることを裏付けるものと考えられる。
ポーラロン、ソリトンが電荷の担い手として高分子骨格状を移動するとき、これらの歪みもポーラロンとソリトンの動きに伴い移動する。低温状態においてはこれら高分子鎖の動きが制限されるため、電気抵抗が下がると考えられる。
また、258(K)付近でグラフの傾き変化は、ポリアセチレンのような1次元性の強い高分子が、金属状態から絶縁状態へと変化する相転移の影響とも考えられる。
常温から低温までの電気抵抗を測定し、240(K)付近で絶縁体となることを確認した。また、258(K)において、相転移現象が起きていることを確認した。
上述のESRデータ解析結果は、分子モデル計算からも裏付けられる。
やや大きな側鎖置換基の導入と、それらの相互の立体構造配置における反発作用により、ポリアセチレン主鎖の直線的な分子構造は多少変形させられ、π電子共役系の広がりを制約する要素となっている。
また、それら分子の立体構造配置上の特性から、分子鎖に揺動があり、主鎖方向の電荷担体の動きを制約する要素となっている。
しかし、二置換ポリアセチレン全体の高分子鎖構造を概括すると、らせん状に回りながら全体として真直ぐ伸びるリニアな配置構成となり、電荷担体も、らせん構造が伸びる軸方向にほぼ直線的に動くことができると推察され、上述の高い導電性との対応が理解される。
<発光性薄膜の特性評価>
THF溶液で形成した薄膜では、ポリマーの厚さによって発光、発色が変化し、蛍光性も観察された。
そこで、厚さ30μmの薄膜を調製し、偏光顕微鏡、色度計などを用いて、発光性薄膜の特性評価を行った。無張力下では、淡い黄色を呈するが、約1.5倍に伸長するとオレンジ色を呈する、色調変化が観察された。再び、無張力下に戻すと、淡い黄色を呈する状態に戻った。低弾性率で、低張力により可逆的に色調変化するので、応力センサーなどへの応用が期待される。
さらに、張力下の伸長時に、特定波長の強い光を照射することにより、応力変形を固定化することができるので、光異性化反応や、架橋反応が生じていると考えられる。
変形を固定化させると、発光性、発色性、蛍光性の諸特性も変形時のものに固定化されるので、特定波長光の発生履歴を確認するデバイス等としても応用が期待される。

Claims (16)

  1. フェニルアルコキシ基を有する二置換アセチレンのモノマー単位を含む単独重合体または共重合体であることを特徴とするフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体。
  2. 次式(1)
    (式中のR、R’は、それぞれ、炭化水素基を示す。)で表わされるフェニルアルコキシ基を有する二置換アセチレンのモノマー単位を含むことを特徴とする請求項1に記載のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体。
  3. 前記式(1)中のR、R’は、それぞれ、炭素数8以上のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を示すことを特徴とする請求項2に記載のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体。
  4. フェニルアルコキシ基をもつ二置換アセチレンのモノマー単位以外の共重合性モノマー単位を40モル%以下の割合で含むことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか一項に記載のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体。
  5. 請求項1から4のうちのいずれか一項に記載のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体の製造方法であって、フェニルアルコキシ基を有する二置換アセチレンのモノマーを単独で、もしくは、フェニルアルコキシ基を有する二置換アセチレンのモノマーとこれ以外の共重合性モノマーとを重合させることを特徴とするフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体の製造方法。
  6. タンタル系触媒を用いて溶媒の存在下で重合することを特徴とする請求項5に記載のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体の製造方法。
  7. 請求項5または6に記載の方法により得られたフェニルアルコキシ基を有する二置換アセチレン重合体溶液を用いて成形することを特徴とするフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体の成形方法。
  8. 成形する工程が成膜する工程である、請求項7記載のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体の成形方法。
  9. 請求項1から4のうちのいずれか一項に記載のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体を液晶成分として含むことを特徴とする高分子液晶。
  10. 短波長光の照射等により分子鎖間架橋が導入されていることを特徴とする請求項9に記載の高分子液晶。
  11. 請求項1から4のうちのいずれか一項に記載のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体がドーピング処理されたものであることを特徴とする導電性高分子。
  12. 電気伝導性キャリアとして、ポーラロンとソリトンとが同時に存在することを特徴とする請求項11に記載の導電性高分子。
  13. 請求項1から4のうちのいずれか一項に記載のフェニルアルコキシ二置換アセチレン系重合体が薄膜であることを特徴とする発光性薄膜。
  14. 光照射により発光性、蛍光性が変化する請求項13に記載の発光性薄膜。
  15. 薄膜の厚さ変化により発光性、蛍光性が変化する請求項13または14に記載の発光性薄膜。
  16. センシング・デバイスとして機能するする請求項13から15のうちのいずれか一項に記載の発光性薄膜。
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