JP2004253249A - 非水電解質電池 - Google Patents
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Abstract
【課題】保存特性などの電池特性の劣化を抑制することが可能な非水電解質電池を提供する。
【解決手段】この発明の非水電解質電池は、正極と、負極と、γ−ブチロラクトンを有する電解液を含む物理ゲル電解質とを備えている。
【選択図】なし
【解決手段】この発明の非水電解質電池は、正極と、負極と、γ−ブチロラクトンを有する電解液を含む物理ゲル電解質とを備えている。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水電解質電池に関し、特に、γ−ブチロラクトンを含む電解質を備えた非水電解質電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話やモバイルコンピュータなどの携帯型情報機器が急速に発達している。リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質電池は、高いエネルギー密度や優れたリサイクル特性などを有するため、このような携帯型情報機器の電源として幅広く使用されている。一方、非水電解質電池では、過充電に起因して負極上に析出される針状のリチウム金属によりセパレータが破損して正極と負極との短絡が生じるという危険性を有する。このため、電解液の溶媒にリチウム金属との反応性の高いγ−ブチロラクトンを混合することによって、析出した針状のリチウム金属を溶解させることにより安全性を向上させた非水電解質電池が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の非水電解質電池では、負極の表面に形成される炭酸リチウムからなる被膜によって、負極上での電解液の還元分解反応が抑制されることにより電池の自己放電が抑制されることが知られている。しかしながら、負極表面に形成された被膜は電池の充放電に伴って剥落し、その結果、自己放電を抑制する機能が低下するため保存特性などの電池特性の劣化が生じる。このような場合には、電解液の溶媒として、環状カーボネートや鎖状カーボネートなどの還元分解によって炭酸リチウムを生成する溶媒を用いれば、負極表面の剥落した被膜の修復機能が得られる。その結果、保存特性などの電池特性の劣化を抑制できることも知られている。
【0004】
また、最近では、形状の自由度が大きいことや金属缶の外装体を用いた電池よりも軽量化が図れることなどの理由から、電池の外装体にアルミニウムラミネートを用いた薄型の非水電解質電池が広く利用されている。このような電池では、外装体が破損した場合に液漏れが発生するのを防止するために、導電性ポリマーを用いてゲルポリマー電解質を形成することにより電解液を固定化する方法が種々提案されている。これらの方法の一つとして、ポリマーが化学結合で架橋構造を形成することにより凝固する化学ゲルを用いてゲルポリマー電解質を形成することにより電解液を固定化する方法が提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−153486号公報
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、化学ゲルによって電解質を形成するとともに、電解液にγ−ブチロラクトンを他の溶媒(還元分解によって炭酸リチウムを生成する溶媒)と混合して用いた場合には、γ−ブチロラクトンが化学ゲルを形成するポリマーから受ける分子間力などの相互作用の大きさが、他の溶媒が受ける相互作用の大きさと比べて小さくなる。これにより、γ−ブチロラクトンは他の溶媒よりも高い自由度を得ることになるので、負極表面においてγ−ブチロラクトンの分解反応が選択的に生じるとともに、他の溶媒の分解反応が阻害されるという不都合がある。この場合、γ−ブチロラクトンの分解反応では炭酸リチウムが生成されないため、負極表面の炭酸リチウムからなる被膜の修復機能が低下するという不都合がある。これにより、電池の自己放電が増大するのを抑制するのが困難となる。その結果、保存特性などの電池特性の劣化を抑制するのが困難になるという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、保存特性などの電池特性の劣化を抑制することが可能な非水電解質電池を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
上記目的を達成するために、本願発明者が鋭意検討した結果、γ−ブチロラクトンを含む電解液を用いた非水電解質電池において、物理ゲルにより電解質を形成することによって保存特性などの電池特性の劣化を抑制することが可能であることを見出した。
【0008】
すなわち、この発明の一の局面による非水電解質電池は、正極と、負極と、γ−ブチロラクトンを有する電解液を含む物理ゲル電解質とを備えている。
【0009】
この一の局面による非水電解質電池では、上記のように、電解液の溶媒にγ−ブチロラクトンを添加するとともに、物理ゲルにより電解質を形成することによって、化学ゲルにより電解質を形成する場合と異なり、γ−ブチロラクトンおよびγ−ブチロラクトン以外の溶媒と、物理ゲルを形成するポリマーとの間に働く分子間力などの相互作用の大きさを溶媒の種類にかかわらずほぼ一定にすることができる。これにより、負極の表面でγ−ブチロラクトンの分解反応が選択的に生じるのを抑制することができるので、負極表面において、γ−ブチロラクトン以外の溶媒の分解反応が阻害されるのを抑制することができる。このため、γ−ブチロラクトン以外の溶媒の分解反応によって、γ−ブチロラクトンの分解反応では形成不可能な炭酸リチウムからなる被膜が負極表面に形成されるのを促進することができる。これにより、化学ゲル電解質を用いた従来の場合に比べて、負極表面の自己放電を抑制するための被膜の修復機能を向上させることができるので、電池の自己放電が増大するのを抑制することができる。その結果、非水電解質電池の保存特性などの電池特性が劣化するのを抑制することができる。
【0010】
上記一の局面において、好ましくは、電解液は、環状カーボネートを含む。このように構成すれば、環状カーボネートは、分解反応による生成物として選択的に炭酸リチウムを生成するので、容易に、負極表面に炭酸リチウムからなる被膜を形成することができる。これにより、容易に、負極表面の自己放電を抑制するための被膜の修復機能を向上させることができるので、容易に、電池の自己放電が増大するのを抑制することができる。その結果、容易に、非水電解質電池の保存特性などの電池特性が劣化するのを抑制することができる。
【0011】
上記一の局面において、好ましくは、物理ゲル電解質は、微多孔を含む。このように構成すれば、電解液の一部を微多孔の内部に存在させることができる。これにより、微多孔の内部に存在する電解液の溶媒は、物理ゲルを形成するポリマーから受ける相互作用が小さいので、電解質をゲル化させないイオン電池の電解液の溶媒と同程度の高い自由度を得ることができる。このため、微多孔を有しない物理ゲル電解質を用いた場合と比べて、負極表面での溶媒の分解反応が生じやすくなるので、容易に、負極表面に炭酸リチウムからなる被膜を形成することができる。これにより、容易に、負極表面の自己放電を抑制するための被膜の修復機能を向上させることができるので、容易に、電池の自己放電が増大するのを抑制することができる。その結果、容易に、非水電解質電池の保存特性などの電池特性が劣化するのを抑制することができる。
【0012】
上記一の局面において、好ましくは、物理ゲル電解質は、ポリフッ化ビニリデン、および、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体の少なくともいずれか一方を含む。このように構成すれば、物理ゲル電解質と負極活物質との親和性を向上させることができる。これにより、負極表面において、物理ゲル電解質に含まれる電解液の溶媒の分解反応が生じやすくなるので、容易に、負極表面に炭酸リチウムからなる被膜を形成することができる。このため、容易に、負極表面の自己放電を抑制するための被膜の修復機能を向上させることができるので、容易に、電池の自己放電が増大するのを抑制することができる。その結果、容易に、非水電解質電池の保存特性などの電池特性が劣化するのを抑制することができる。
【0013】
【実施例】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0014】
(実施例1)
この実施例1では、電解質の異なる実施例1−1による本発明電池1−1、比較例1−1および1−2による比較電池1−1および1−2を作製して保存特性の評価を行った。
【0015】
(実施例1−1)
この実施例1−1では、以下のような作製プロセスによって非水電解質電池を作製した。
【0016】
[正極極板の作製]
正極極板は、正極活物質としてのコバルト酸リチウムと、導電助剤としての黒鉛およびケッチェンブラックと、結着剤としてのフッ素樹脂とを用いて作製した。すなわち、コバルト酸リチウム、黒鉛、ケッチェンブラックおよびフッ素樹脂を90:3:2:5の質量比で混合し、これをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させてペースト状の混合物を得た。そして、この混合物をドクターブレード法により金属芯体(20μmの厚みを有するアルミ箔)の両面に均一に塗布した。これを加熱した乾燥機中において100℃〜150℃の温度で真空熱処理をすることによりNMPを除去した後、厚みが0.17mmになるようにロールプレス機を用いて圧延することによって、正極極板を作製した。
【0017】
[負極極板の作製]
負極活物質としての天然黒鉛と、結着剤としてのフッ素樹脂とを95:5の質量比で混合し、これをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させてペースト状の混合物を得た。そして、この混合物をドクターブレード法により金属芯体(20μmの厚みを有する銅箔)の両面に均一に塗布した。これを加熱した乾燥機中において100℃〜150℃の温度で真空熱処理をすることによりNMPを除去した後、厚みが0.14mmになるようにロールプレス機を用いて圧延することによって、負極極板を作製した。
【0018】
[セパレータの作製]
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させたポリフッ化ビニリデン(PVdF)をポリオレフィン系微多孔膜に含浸させた後、加熱することによりNMPを除去し、PVdFを内部で保持しているセパレータ(PVdF担持セパレータ)を作製した。
【0019】
[電解液の調整]
エチレンカーボネート(EC)とγ−ブチロラクトン(GBL)とを1:1の体積比で混合して得た混合溶媒に対して、電解質塩としてLiBF4を1モル/リットルとなるように溶解させて電解液を調整した。
【0020】
[非水電解質電池の作製]
上記のようにして得た正極極板、負極極板、PVdF担持セパレータおよび電解液を用いて非水電解質電池を作製した。すなわち、正極極板および負極極板の金属芯体にそれぞれ集電タブを取り付けた。次に、PVdF担持セパレータを間に介して正極極板と負極極板とを積層した後、これを巻き取り、最外周をテープで止めて渦巻き状の電極体を形成した。その後、この渦巻き状の電極体を扁平状に押しつぶして板状体とした。この板状体をPET(ポリエチレンテレフタレート)、アルミニウムなどを積層して形成したラミネート材からなる筒型の外装体に挿入し、外装体の一方の開口部から集電タブが外部に突き出た状態で加熱することにより開口部を封止した。次に、外装体のまだ封止していない他方の開口部から電解液を5ml注入し、PVdF担持セパレータに電解液を吸収させてゲル化させることにより物理ゲル電解質を形成した。その後、開口部を加熱して封止することにより、本発明電池1−1を作製した。なお、以上のようにして作製した電池の容量を測定したところ、600mAhの容量を示した。
【0021】
(比較例1−1)
この比較例1−1では、セパレータとして、PVdFを内部に保持していないポリオレフィン系微多孔膜からなるセパレータを用いて電極体を形成した。そして、上記のようにして得た電解液とエチレンオキシド系モノマーとを混合した混合物を電極体を挿入した外装体中に注入した後、加熱してゲル化させることにより化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして比較電池1−1を作製した。
【0022】
(比較例1−2)
この比較例1−2では、セパレータとしてPVdFを内部に保持していないポリオレフィン系微多孔膜からなるセパレータを用いて電極体を形成した。そして、実施例1−1と同様にして調整した電解液(モノマーを含まない)を電極体を挿入した外装体中に注入した。これ以外は、実施例1−1と同様にして比較電池1−2を作製した。
【0023】
次に、上記のようにして作製した本発明電池1−1、比較電池1−1および比較電池1−2について、以下のような保存特性の評価試験を行った。
【0024】
[保存特性の評価試験]
上記実施例1−1、比較例1−1および比較例1−2による各電池に対して1.0C(600mA)の定電流で充電することにより4.2Vに到達させた後、定電圧で2時間充電を行うことにより満充電状態にさせた。その後、15分間放置した後、1.0Cの定格電流で3.0Vまで放電させた。その後、1時間放置した後、電池電圧を測定した。このときの電池電圧を「保存前の電池電圧」とした。この後、各電池を60℃の恒温槽中で20日間放置した後、電池電圧を測定した。このときの電池電圧を「保存後の電池電圧」とした。そして、「保存後の電池電圧」から「保存前の電池電圧」を差し引くことにより、保存前後での電池の電圧変化量を求めた。その結果を以下の表1に示す。なお、電圧変化量の絶対値が小さいほど、保存による電池の電圧の低下が小さいことを表すので、電圧変化量の絶対値が大きいほど保存特性が劣っていることを意味する。また、表1中の耐漏液性において、○は電池外装体が破損した場合に液漏れが発生しないことを表し、×は電池外装体が破損した場合に液漏れが発生することを表す。つまり、化学ゲルおよび物理ゲルでは、液漏れが発生せず、ゲル化させないイオン電池では、液漏れが発生することを示している。
【0025】
【表1】
上記表1から明らかなように、化学ゲル電解質(ポリエチレンオキシド系ポリマー使用)を用いた比較電池1−1は、保存により大きな電圧の低下(電圧変化量−2.86V)を示した。その一方、物理ゲル電解質(PVdF使用)を用いた本発明電池1−1、および、電解質をゲル化させない比較電池1−2(イオン電池)は、保存により比較電池1−1と比べて小さな電圧の低下(電圧変化量−0.74V、−0.72V)を示した。すなわち、物理ゲル電解質を用いた本発明電池1−1および電解質をゲル化させない比較電池1−2は、化学ゲル電解質を用いた比較電池1−1よりも優れた保存特性を示した。
【0026】
また、保存特性の評価試験後の本発明電池1−1、比較電池1−1および比較電池1−2の電解液について組成分析を行った。その結果、比較電池1−1では、保存前と比べて、電解液中のγ−ブチロラクトンの含有率が低下していることが明らかになった。その一方、本発明電池1−1および比較電池1−2では、電解液中のγ−ブチロラクトンおよびエチレンカーボネートの含有率は保存前とほぼ同等であることが明らかになった。
【0027】
また、化学ゲルと物理ゲルとで内部に保持した液の保持力に違いが見られるのかを確認するために、次のような試験を行った。すなわち、化学ゲルについては、ゲルを形成するためのポリマー材料としてエチレンオキシド系ポリマーを用いるとともに、ゲルに保持させる溶媒として環状カーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート)、鎖状カーボネート(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート)、γ−ブチロラクトンをそれぞれ単独で用いて試験を行った。物理ゲルについては、ゲルを形成するためのポリマー材料としてPVdFを用いるとともに、ゲルに保持させる溶媒として上記の化学ゲルの場合と同様の各溶媒をそれぞれ単独で用いて試験を行った。
【0028】
試験方法としては、まず、溶媒とポリマー材料とを体積比で、溶媒/ポリマー材料=10/1となるように準備した。その後、化学ゲルについては、溶媒とポリマー材料とを混合した後、ゲル化させ、これを所定の形状に切り出して試料を作製した。また、物理ゲルについては、ポリマー材料に溶媒を吸収させることによりゲル化させた後、化学ゲルと同様の所定の形状に切り出すことにより試料を作製した。そして、これらの試料に対して1cm2当たり10kgの圧力をかけることにより、各試料からの漏液の量について比較を行った。その結果、化学ゲルでは、上記の各種の溶媒を用いた試料の中で、γ−ブチロラクトンを用いた試料で最も多くの漏液が生じた。一方、物理ゲルでは、上記の各種の溶媒を用いた試料の間で漏液の量に差が見られなかった。この結果から、化学ゲルでは上記の各種溶媒の中でγ−ブチロラクトンの保持力のみが弱く、物理ゲルではγ−ブチロラクトンを含む全ての溶媒に対して同等の保持力を有することがわかる。すなわち、化学ゲルでは、γ−ブチロラクトンに対する拘束力のみが弱いのに対して、物理ゲルでは、全ての溶媒に対して同等の拘束力を示すことが明らかになった。
【0029】
本実施例1において、以上のような結果が得られた理由は次のように考えられる。すなわち、化学ゲル電解質では、使用する溶媒の種類によって、化学ゲルを形成するポリマーと溶媒との間に働く分子間力などの相互作用(拘束力)の大きさが異なる。これは、上記した化学ゲルの液の保持力試験の結果からも明らかである。このため、電解液の溶媒として複数の溶媒を混合して使用した場合に、ポリマーから受ける分子レベルでの相互作用の大きさの違いに起因して特定の溶媒の自由度が大きくなる。したがって、化学ゲル電解質を用いた比較電池1−1では、電解液の溶媒として用いたエチレンカーボネートおよびγ−ブチロラクトンのうち、γ−ブチロラクトンの方がエチレンカーボネートよりもポリマーから受ける相互作用(拘束力)が小さいので、γ−ブチロラクトンはエチレンカーボネートよりも大きな自由度を有する。このため、負極表面において、γ−ブチロラクトンの還元による分解反応が選択的に生じるとともに、エチレンカーボネートの還元による分解反応が阻害される。これは、電解液の組成分析において、保存前に比べてγ−ブチロラクトンの含有率が低下していることからも明らかである。また、エチレンカーボネートは、分解反応により炭酸リチウムを生成する一方、γ−ブチロラクトンは分解反応により炭酸リチウムを生成しない。そのため、化学ゲル電解質を用いた比較電池1−1では、負極表面の自己放電抑制のための炭酸リチウムからなる被膜の修復機能が低下する。これにより、比較電池1−1では、保存に伴う自己放電が増大するので、大きな電圧の低下が発生し、その結果、保存特性の劣化が生じたと考えられる。
【0030】
その一方、物理ゲル電解質では、物理ゲルを形成するためのポリマーと溶媒との間に働く分子間力などの相互作用(拘束力)の大きさは溶媒の種類にかかわらずほぼ一定となる。これは、上記した物理ゲルの液の保持力試験の結果からも明らかである。このため、電解液の溶媒として複数の溶媒を混合して使用した場合に、全ての溶媒がほぼ同等の自由度を有する。したがって、物理ゲル電解質を用いた本発明電池1−1では、電解液の溶媒として用いたγ−ブチロラクトンおよびエチレンカーボネートはほぼ同等の自由度を有する。このため、化学ゲル電解質を用いた場合と異なり、γ−ブチロラクトンの選択的な分解反応に伴うエチレンカーボネートの分解反応の阻害が生じることがない。これは、電解液の組成分析において、γ−ブチロラクトンおよびエチレンカーボネートの含有率が保存前とほぼ同等であることからも明らかである。したがって、物理ゲル電解質を用いた本発明電池1−1では、負極表面の自己放電抑制のための炭酸リチウムからなる被膜の修復機能が低下するのが抑制される。これにより、本発明電池1−1では、保存に伴う自己放電が増大するのが抑制されるので、化学ゲル電解質を用いた比較電池1−1と比べて小さな電圧の低下が発生し、その結果、本発明電池1−1は比較電池1−1よりも優れた保存特性を示したと考えられる。また、電解質をゲル化させない比較電池1−2でも、γ−ブチロラクトンの選択的な分解反応は生じないので、上記した本発明電池1−1と同様の理由により、本発明電池1−1と同程度の優れた保存特性を示したと考えられる。
【0031】
なお、本願発明者の実験により、比較例1−1による比較電池1−1でポリマー材料として用いたポリエチレンオキシドの代わりに、アクリレート系ポリマーやエポキシ系ポリマーを用いて化学ゲル電解質を形成することにより作製した電池でも、保存により比較電池1−1と同程度の大きな電圧の低下が発生することが確認済みである。
【0032】
(実施例2)
この実施例2では、γ−ブチロラクトンと、以下に示す異なる溶媒とを混合して得た電解液を用いて物理ゲル電解質を形成することにより、以下の4種類の実施例2−1〜2−4による本発明電池2−1〜2−4を作製して保存特性の評価を行った。
【0033】
(実施例2−1)
この実施例2−1では、エチレンカーボネート(環状カーボネート)とγ−ブチロラクトンとを1:1の体積比で混合して得た混合溶媒を含む電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。そして、これを用いて、実施例1−1により作製した本発明電池1−1の構成と全く同様の構成の本発明電池2−1を作製した。
【0034】
(実施例2−2)
この実施例2−2では、プロピレンカーボネート(環状カーボネート)とγ−ブチロラクトンとを1:1の体積比で混合して得た混合溶媒を含む電解液を用いて物理ゲル電解質を形成したこと以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池2−2を作製した。
【0035】
(実施例2−3)
この実施例2−3では、ジエチルカーボネート(鎖状カーボネート)とγ−ブチロラクトンとを1:1の体積比で混合して得た混合溶媒を含む電解液を用いて物理ゲル電解質を形成したこと以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池2−3を作製した。
【0036】
(実施例2−4)
この実施例2−4では、ジメチルカーボネート(鎖状カーボネート)とγ−ブチロラクトンとを1:1の体積比で混合して得た混合溶媒を含む電解液を用いて物理ゲル電解質を形成したこと以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池2−4を作製した。
【0037】
次に、上記のようにして作製した本発明電池2−1〜2−4について、実施例1で行った保存特性の評価試験と同様の試験を行った。その結果を以下の表2に示す。
【0038】
【表2】
上記表2から明らかなように、γ−ブチロラクトンと混合する電解液の溶媒として、環状カーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート)を用いた本発明電池2−1および本発明電池2−2の保存による電圧の低下(電圧変化量−0.74V、−0.76V)は、鎖状カーボネート(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート)を用いた本発明電池2−3および本発明電池2−4の保存による電圧の低下(電圧変化量−0.95V、−0.94V)よりも小さいことがわかった。すなわち、γ−ブチロラクトンと混合する電解液の溶媒として、環状カーボネートを用いた本発明電池2−1および2−2は、鎖状カーボネートを用いた本発明電池2−3および2−4よりも優れた保存特性を示すことがわかった。
【0039】
これは、次のような理由によると考えられる。すなわち、環状カーボネートおよび鎖状カーボネートは、共に、還元による分解反応によって炭酸リチウムを生成する。しかしながら、これらの分解反応によって生成される反応生成物は、炭酸リチウムのみではなく、他の反応生成物の生成も並行して行われる。エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートでは、ジエチルカーボネートやジメチルカーボネートなどの鎖状カーボネートと比べて、種々の反応生成物のうち炭酸リチウムを生成する反応がより支配的に進行される。これにより、負極表面における自己放電抑制のための炭酸リチウムからなる被膜の修復機能が向上される。このため、電池の自己放電が増大するのが抑制される。その結果、γ−ブチロラクトンと混合する電解液の溶媒として環状カーボネートを用いた本発明電池2−1および2−2では、鎖状カーボネートを用いた本発明電池2−3および2−4よりも保存により小さな電圧の低下が発生したと考えられる。
【0040】
(実施例3)
この実施例3では、電解液中のγ−ブチロラクトンの含有率を変化させて形成した物理ゲル電解質を用いて、以下の6種類の実施例3−1〜3−5および比較例3−7による本発明電池3−1〜3−5および比較電池3−7を作製するとともに、電解液中のγ−ブチロラクトンの含有率を変化させて形成した化学ゲル電解質を用いて、以下の6種類の比較例3−1〜3−6による比較電池3−1〜3−6を作製して保存特性の評価を行った。
【0041】
(実施例3−1)
この実施例3−1では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で2%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池3−1を作製した。
【0042】
(実施例3−2)
この実施例3−2では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で5%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池3−2を作製した。
【0043】
(実施例3−3)
この実施例3−3では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で10%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池3−3を作製した。
【0044】
(実施例3−4)
この実施例3−4では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で30%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池3−4を作製した。
【0045】
(実施例3−5)
この実施例3−5では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で50%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池3−5を作製した。
【0046】
(比較例3−1)
この比較例3−1では、プロピレンカーボネート単独の溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて化学ゲル電解質を形成した。つまり、この比較例3−1では、γ−ブチロラクトンの含有率が0%の化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、比較例1−1と同様にして比較電池3−1を作製した。
【0047】
(比較例3−2)
この比較例3−2では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で2%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、比較例1−1と同様にして比較電池3−2を作製した。
【0048】
(比較例3−3)
この比較例3−3では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で5%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、比較例1−1と同様にして比較電池3−3を作製した。
【0049】
(比較例3−4)
この比較例3−4では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で10%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、比較例1−1と同様にして比較電池3−4を作製した。
【0050】
(比較例3−5)
この比較例3−5では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で30%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、比較例1−1と同様にして比較電池3−5を作製した。
【0051】
(比較例3−6)
この比較例3−6では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で50%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、比較例1−1と同様にして比較電池3−6を作製した。
【0052】
(比較例3−7)
この比較例3−7では、プロピレンカーボネート単独の溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。つまり、この比較例3−7では、γ−ブチロラクトンの含有率が0%の物理ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして比較電池3−7を作製した。
【0053】
次に、上記のようにして作製した本発明電池3−1〜3−5および比較電池3−1〜3−7について、実施例1で行った保存特性の評価試験と同様の試験を行った。その結果を以下の表3に示す。なお、表3中の耐過充電性において、○は耐過充電性が優れていることを示し、△は耐過充電性がやや劣ることを示す。つまり、γ−ブチロラクトンの含有率が0%の場合は、耐過充電性がやや劣ることを示している。また、表3の結果をもとに、電解液中のγ−ブチロラクトンの含有率と保存による電池の電圧変化量との関係を図1に示した。
【0054】
【表3】
上記表3および図1から明らかなように、γ−ブチロラクトンの含有率が0%では、化学ゲル電解質(エチレンオキシド系ポリマー使用)を用いた比較電池3−1および物理ゲル電解質(PVdF使用)を用いた比較電池3−7は、共に、保存により同程度の小さな電圧の低下(電圧変化量−0.86V、−0.82V)を示した。その一方、γ−ブチロラクトンの含有率が2%以上では、化学ゲル電解質を用いた比較電池3−2〜3−6では、保存により大きな電圧の低下(電圧変化量−2.65V〜−1.18V)を示すとともに、γ−ブチロラクトンの含有率の増大に伴って電圧の低下が大きくなるという傾向を示した。それに対して、γ−ブチロラクトンの含有率が2%以上の物理ゲル電解質を用いた本発明電池3−1〜3−5では、保存により比較的小さな電圧の低下(電圧変化量−0.88V〜−0.79V)を示すとともに、γ−ブチロラクトンの含有率が増大しても大きな電圧の低下は生じなかった。
【0055】
以上のような結果が得られた理由は、次のように考えられる。すなわち、γ−ブチロラクトンの含有率が0%では、γ−ブチロラクトンの分解反応は生じないので、化学ゲル電解質および物理ゲル電解質のどちらを用いた場合でも、プロピレンカーボネートの分解反応は阻害されない。プロピレンカーボネートは分解反応により炭酸リチウムを生成するので、化学ゲル電解質および物理ゲル電解質のどちらを用いた場合でも、負極表面における炭酸リチウムからなる被膜の修復機能を同程度に得ることができる。その結果、電池の自己放電が増大するのが同程度に抑制されるので、比較電池3−1および比較電池3−7は、保存により同程度の小さな電圧の低下を示したと考えられる。
【0056】
一方、γ−ブチロラクトンの含有率が2%以上では、化学ゲル電解質を用いた場合は、前述したような負極表面におけるγ−ブチロラクトンの選択的な分解反応に起因するプロピレンカーボネートの分解反応の阻害が生じる。このため、負極表面における炭酸リチウムからなる被膜の修復機能が低下するので、電池の自己放電が増大する。また、γ−ブチロラクトンの含有率が増大するほど、プロピレンカーボネートの分解反応がより阻害されるので、被膜の修復機能がより低下し、その結果、電池の自己放電がより増大する。このため、比較電池3−2〜3−6では、保存により大きな電圧の低下を示すとともに、γ−ブチロラクトンの含有率の増大に伴って電圧の低下が大きくなるという傾向を示したと考えられる。
【0057】
また、γ−ブチロラクトンの含有率が2%以上の物理ゲル電解質を用いた場合は、化学ゲル電解質を用いた場合と異なり、γ−ブチロラクトンの選択的な分解反応に起因するプロピレンカーボネートの分解反応の阻害が生じることがない。このため、負極表面における炭酸リチウムからなる被膜の修復機能が低下するのが抑制されるので、電池の自己放電が増大するのが抑制される。また、γ−ブチロラクトンの含有率が増大しても、プロピレンカーボネートの分解反応に伴う負極表面の炭酸リチウムからなる被膜の修復機能は、ある程度得られるので、電池の自己放電が増大するのが抑制される。その結果、本発明電池3−1〜3−5では、保存により比較的小さな電圧の低下を示すとともに、γ−ブチロラクトンの含有率が増大しても大きな電圧の低下は生じなかったと考えられる。
【0058】
(実施例4)
この実施例4では、物理ゲル電解質中に微多孔を有しない実施例4−1による本発明電池4−1と、微多孔を有する実施例4−2による本発明電池4−2とを作製して保存特性の評価を行った。
【0059】
(実施例4−1)
この実施例4−1では、微多孔を有しないPVdF担持セパレータを用いて、微多孔を有しない物理ゲル電解質を形成した。そして、これを用いて、実施例1−1により作製した本発明電池1−1の構成と同様の構成の本発明電池4−1を作製した。
【0060】
(実施例4−2)
この実施例4−2では、溶融状態の材料中に気体を溶解させた後、急激に冷却して固化させることにより微多孔を有するPVdF担持セパレータを形成した。そして、これを用いて微多孔を有する物理ゲル電解質を形成した。これ以外は実施例1−1と同様にして、本発明電池4−2を作製した。
【0061】
次に、上記のようにして作製した本発明電池4−1および4−2について、実施例1で行った保存特性の評価試験と同様の試験を行った。その結果を以下の表4に示す。
【0062】
【表4】
上記表4から明らかなように、微多孔を有する物理ゲル電解質を用いた本発明電池4−2の保存による電圧の低下(電圧変化量−0.61V)は、微多孔を有しない物理ゲル電解質を用いた本発明電池4−1の保存に伴う電圧の低下(電圧変化量−0.74V)よりも小さかった。すなわち、微多孔を有する物理ゲル電解質を用いた本発明電池4−2は、微多孔を有しない物理ゲル電解質を用いた本発明電池4−1よりも優れた保存特性を示した。
【0063】
この理由は、次のように考えられる。すなわち、PVdF担持セパレータ中に微多孔を形成しておくことにより、電池内に注入された電解液の一部は微多孔の内部に保持される。これにより、微多孔の内部に保持された電解液と物理ゲル電解質を形成するポリマーとの間に距離が隔てられるため、微多孔の内部に保持された電解液の溶媒がポリマーから受ける分子間力などの相互作用(拘束力)は小さくなる。その結果、微多孔の内部に保持された電解液の溶媒の自由度が大きくなるので、電解液の溶媒の負極表面における分解反応が生じやすくなる。このため、負極表面に電池の自己放電を抑制するための炭酸リチウムからなる被膜が形成されやすくなるので、負極表面の被膜の修復機能が向上される。これにより、電池の自己放電が増大するのが抑制されるので、保存に伴う電池の電圧の低下が抑制される。その結果、微多孔を有する物理ゲル電解質を用いた本発明電池4−2は、微多孔を有しない物理ゲル電解質を用いた本発明電池4−1よりも優れた保存特性を示したと考えられる。
【0064】
なお、上記したように、微多孔中に保持された電解液は物理ゲル電解質を形成するポリマーから受ける相互作用(拘束力)は小さいものの、全体としてみると電解液は物理ゲル電解質の内部に保持されている。このため、電池の外装体の封止部が開口したり、外装体が破損した場合にも、ゲル化させない電解質を用いたイオン電池で発生するような液漏れは発生しない。
【0065】
(実施例5)
この実施例5では、物理ゲル電解質を形成するために、以下に示す異なるポリマー材料を用いて、以下の3種類の実施例5−1〜5−3による本発明電池5−1〜5−3を作製して保存特性の評価を行った。
【0066】
(実施例5−1)
この実施例5−1では、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を内部に保持させたPVdF担持セパレータを用いて物理ゲル電解質を形成した。そして、これを用いて、実施例1−1により作製した本発明電池1−1の構成と同様の構成の本発明電池5−1を作製した。
【0067】
(実施例5−2)
この実施例5−2では、フッ化ビニリデンとヘキサフッ化プロピレンとの共重合体(P(VDF−HFP))を内部に保持させたセパレータを用いて物理ゲル電解質を形成したこと以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池5−2を作製した。
【0068】
(実施例5−3)
この実施例5−3では、ポリスルホンを内部に保持させたセパレータを用いて物理ゲル電解質を形成したこと以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池5−3を作製した。
【0069】
次に、上記のように作製した本発明電池5−1〜5−3について、実施例1で行った保存特性の評価試験と同様の試験を行った。その結果を以下の表5に示す。
【0070】
【表5】
上記表5から明らかなように、物理ゲル電解質を形成するためのポリマー材料として、ポリフッ化ビニリデンを用いた本発明電池5−1およびフッ化ビニリデンとヘキサフッ化プロピレンとの共重合体を用いた本発明電池5−2の保存に伴う電圧の低下(電圧変化量−0.74V、−0.72V)は、ポリスルホンを用いた本発明電池5−3の保存に伴う電圧の低下(電圧変化量−0.86V)よりも小さかった。すなわち、ポリフッ化ビニリデンを用いた本発明電池5−1およびフッ化ビニリデンとヘキサフッ化プロピレンとの共重合体を用いた本発明電池5−2は、ポリスルホンを用いた本発明電池5−3よりも優れた保存特性を示した。
【0071】
この理由は、次のように考えられる。すなわち、ポリフッ化ビニリデンを用いた物理ゲル電解質、および、フッ化ビニリデンとヘキサフッ化プロピレンとの共重合体を用いた物理ゲル電解質は、ポリスルホンを用いた物理ゲル電解質よりも負極活物質に対して高い親和性を有する。このため、ポリフッ化ビニリデンを用いた物理ゲル電解質およびフッ化ビニリデンとヘキサフッ化プロピレンとの共重合体を用いた物理ゲル電解質は、注入された電解液を吸収して膨潤していく過程で負極活物質の粒子の表面に良好に密着する。これにより、物理ゲル電解質に含まれる電解液の溶媒の負極表面における還元による分解反応が生じやすくなる。このため、負極表面に電池の自己放電を抑制するための炭酸リチウムからなる被膜が形成されやすくなるので、負極表面の被膜の修復機能が向上される。これにより、電池の自己放電が増大するのが抑制されるので、保存に伴う電池の電圧の低下が抑制される。その結果、ポリマー材料としてポリフッ化ビニリデンを用いた本発明電池5−1およびフッ化ビニリデンとヘキサフッ化プロピレンとの共重合体を用いた本発明電池5−2は、ポリスルホンを用いた本発明電池5−3よりも優れた保存特性を示したと考えられる。
【0072】
なお、今回開示された実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0073】
たとえば、上記の実施例では、電解液の溶媒としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートを用いたが、本発明はこれに限らず、分解反応により負極表面に炭酸リチウムからなる被膜を形成可能なものであれば他の溶媒を用いてもよい。たとえば、ジエチルカーボネートやジメチルカーボネートなどの鎖状カーボネートなどを用いてもよい。
【0074】
また、上記の実施例では、正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いたが、本発明はこれに限らず、正極活物質としてマンガン酸リチウムやニッケル酸リチウムなどの遷移金属酸化物を用いた場合にも同様の効果を得ることができる。
【0075】
また、上記の実施例2では、γ−ブチロラクトンと混合する溶媒に、環状カーボネートの一例としてエチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートを用いた場合を例にとって説明したが、本発明はこれ限らず、これら以外の環状カーボネートを用いても同様の効果を得ることができる。すなわち、ブチレンカーボネート、フッ素化プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートなどの環状カーボネートを用いた場合にも、同様の効果を得られることが本願発明者の実験により確認済みである。また、γ−ブチロラクトンと環状カーボネートとその他の溶媒とを混合して得た3成分以上の組成からなる混合溶媒を用いた場合にも、同様の効果が得られることが本願発明者の実験により確認済みである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例3による電解液中のγ−ブチロラクトンの含有率と保存による電池の電圧変化量との関係を示した図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水電解質電池に関し、特に、γ−ブチロラクトンを含む電解質を備えた非水電解質電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話やモバイルコンピュータなどの携帯型情報機器が急速に発達している。リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質電池は、高いエネルギー密度や優れたリサイクル特性などを有するため、このような携帯型情報機器の電源として幅広く使用されている。一方、非水電解質電池では、過充電に起因して負極上に析出される針状のリチウム金属によりセパレータが破損して正極と負極との短絡が生じるという危険性を有する。このため、電解液の溶媒にリチウム金属との反応性の高いγ−ブチロラクトンを混合することによって、析出した針状のリチウム金属を溶解させることにより安全性を向上させた非水電解質電池が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の非水電解質電池では、負極の表面に形成される炭酸リチウムからなる被膜によって、負極上での電解液の還元分解反応が抑制されることにより電池の自己放電が抑制されることが知られている。しかしながら、負極表面に形成された被膜は電池の充放電に伴って剥落し、その結果、自己放電を抑制する機能が低下するため保存特性などの電池特性の劣化が生じる。このような場合には、電解液の溶媒として、環状カーボネートや鎖状カーボネートなどの還元分解によって炭酸リチウムを生成する溶媒を用いれば、負極表面の剥落した被膜の修復機能が得られる。その結果、保存特性などの電池特性の劣化を抑制できることも知られている。
【0004】
また、最近では、形状の自由度が大きいことや金属缶の外装体を用いた電池よりも軽量化が図れることなどの理由から、電池の外装体にアルミニウムラミネートを用いた薄型の非水電解質電池が広く利用されている。このような電池では、外装体が破損した場合に液漏れが発生するのを防止するために、導電性ポリマーを用いてゲルポリマー電解質を形成することにより電解液を固定化する方法が種々提案されている。これらの方法の一つとして、ポリマーが化学結合で架橋構造を形成することにより凝固する化学ゲルを用いてゲルポリマー電解質を形成することにより電解液を固定化する方法が提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−153486号公報
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、化学ゲルによって電解質を形成するとともに、電解液にγ−ブチロラクトンを他の溶媒(還元分解によって炭酸リチウムを生成する溶媒)と混合して用いた場合には、γ−ブチロラクトンが化学ゲルを形成するポリマーから受ける分子間力などの相互作用の大きさが、他の溶媒が受ける相互作用の大きさと比べて小さくなる。これにより、γ−ブチロラクトンは他の溶媒よりも高い自由度を得ることになるので、負極表面においてγ−ブチロラクトンの分解反応が選択的に生じるとともに、他の溶媒の分解反応が阻害されるという不都合がある。この場合、γ−ブチロラクトンの分解反応では炭酸リチウムが生成されないため、負極表面の炭酸リチウムからなる被膜の修復機能が低下するという不都合がある。これにより、電池の自己放電が増大するのを抑制するのが困難となる。その結果、保存特性などの電池特性の劣化を抑制するのが困難になるという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、保存特性などの電池特性の劣化を抑制することが可能な非水電解質電池を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
上記目的を達成するために、本願発明者が鋭意検討した結果、γ−ブチロラクトンを含む電解液を用いた非水電解質電池において、物理ゲルにより電解質を形成することによって保存特性などの電池特性の劣化を抑制することが可能であることを見出した。
【0008】
すなわち、この発明の一の局面による非水電解質電池は、正極と、負極と、γ−ブチロラクトンを有する電解液を含む物理ゲル電解質とを備えている。
【0009】
この一の局面による非水電解質電池では、上記のように、電解液の溶媒にγ−ブチロラクトンを添加するとともに、物理ゲルにより電解質を形成することによって、化学ゲルにより電解質を形成する場合と異なり、γ−ブチロラクトンおよびγ−ブチロラクトン以外の溶媒と、物理ゲルを形成するポリマーとの間に働く分子間力などの相互作用の大きさを溶媒の種類にかかわらずほぼ一定にすることができる。これにより、負極の表面でγ−ブチロラクトンの分解反応が選択的に生じるのを抑制することができるので、負極表面において、γ−ブチロラクトン以外の溶媒の分解反応が阻害されるのを抑制することができる。このため、γ−ブチロラクトン以外の溶媒の分解反応によって、γ−ブチロラクトンの分解反応では形成不可能な炭酸リチウムからなる被膜が負極表面に形成されるのを促進することができる。これにより、化学ゲル電解質を用いた従来の場合に比べて、負極表面の自己放電を抑制するための被膜の修復機能を向上させることができるので、電池の自己放電が増大するのを抑制することができる。その結果、非水電解質電池の保存特性などの電池特性が劣化するのを抑制することができる。
【0010】
上記一の局面において、好ましくは、電解液は、環状カーボネートを含む。このように構成すれば、環状カーボネートは、分解反応による生成物として選択的に炭酸リチウムを生成するので、容易に、負極表面に炭酸リチウムからなる被膜を形成することができる。これにより、容易に、負極表面の自己放電を抑制するための被膜の修復機能を向上させることができるので、容易に、電池の自己放電が増大するのを抑制することができる。その結果、容易に、非水電解質電池の保存特性などの電池特性が劣化するのを抑制することができる。
【0011】
上記一の局面において、好ましくは、物理ゲル電解質は、微多孔を含む。このように構成すれば、電解液の一部を微多孔の内部に存在させることができる。これにより、微多孔の内部に存在する電解液の溶媒は、物理ゲルを形成するポリマーから受ける相互作用が小さいので、電解質をゲル化させないイオン電池の電解液の溶媒と同程度の高い自由度を得ることができる。このため、微多孔を有しない物理ゲル電解質を用いた場合と比べて、負極表面での溶媒の分解反応が生じやすくなるので、容易に、負極表面に炭酸リチウムからなる被膜を形成することができる。これにより、容易に、負極表面の自己放電を抑制するための被膜の修復機能を向上させることができるので、容易に、電池の自己放電が増大するのを抑制することができる。その結果、容易に、非水電解質電池の保存特性などの電池特性が劣化するのを抑制することができる。
【0012】
上記一の局面において、好ましくは、物理ゲル電解質は、ポリフッ化ビニリデン、および、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体の少なくともいずれか一方を含む。このように構成すれば、物理ゲル電解質と負極活物質との親和性を向上させることができる。これにより、負極表面において、物理ゲル電解質に含まれる電解液の溶媒の分解反応が生じやすくなるので、容易に、負極表面に炭酸リチウムからなる被膜を形成することができる。このため、容易に、負極表面の自己放電を抑制するための被膜の修復機能を向上させることができるので、容易に、電池の自己放電が増大するのを抑制することができる。その結果、容易に、非水電解質電池の保存特性などの電池特性が劣化するのを抑制することができる。
【0013】
【実施例】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0014】
(実施例1)
この実施例1では、電解質の異なる実施例1−1による本発明電池1−1、比較例1−1および1−2による比較電池1−1および1−2を作製して保存特性の評価を行った。
【0015】
(実施例1−1)
この実施例1−1では、以下のような作製プロセスによって非水電解質電池を作製した。
【0016】
[正極極板の作製]
正極極板は、正極活物質としてのコバルト酸リチウムと、導電助剤としての黒鉛およびケッチェンブラックと、結着剤としてのフッ素樹脂とを用いて作製した。すなわち、コバルト酸リチウム、黒鉛、ケッチェンブラックおよびフッ素樹脂を90:3:2:5の質量比で混合し、これをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させてペースト状の混合物を得た。そして、この混合物をドクターブレード法により金属芯体(20μmの厚みを有するアルミ箔)の両面に均一に塗布した。これを加熱した乾燥機中において100℃〜150℃の温度で真空熱処理をすることによりNMPを除去した後、厚みが0.17mmになるようにロールプレス機を用いて圧延することによって、正極極板を作製した。
【0017】
[負極極板の作製]
負極活物質としての天然黒鉛と、結着剤としてのフッ素樹脂とを95:5の質量比で混合し、これをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させてペースト状の混合物を得た。そして、この混合物をドクターブレード法により金属芯体(20μmの厚みを有する銅箔)の両面に均一に塗布した。これを加熱した乾燥機中において100℃〜150℃の温度で真空熱処理をすることによりNMPを除去した後、厚みが0.14mmになるようにロールプレス機を用いて圧延することによって、負極極板を作製した。
【0018】
[セパレータの作製]
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させたポリフッ化ビニリデン(PVdF)をポリオレフィン系微多孔膜に含浸させた後、加熱することによりNMPを除去し、PVdFを内部で保持しているセパレータ(PVdF担持セパレータ)を作製した。
【0019】
[電解液の調整]
エチレンカーボネート(EC)とγ−ブチロラクトン(GBL)とを1:1の体積比で混合して得た混合溶媒に対して、電解質塩としてLiBF4を1モル/リットルとなるように溶解させて電解液を調整した。
【0020】
[非水電解質電池の作製]
上記のようにして得た正極極板、負極極板、PVdF担持セパレータおよび電解液を用いて非水電解質電池を作製した。すなわち、正極極板および負極極板の金属芯体にそれぞれ集電タブを取り付けた。次に、PVdF担持セパレータを間に介して正極極板と負極極板とを積層した後、これを巻き取り、最外周をテープで止めて渦巻き状の電極体を形成した。その後、この渦巻き状の電極体を扁平状に押しつぶして板状体とした。この板状体をPET(ポリエチレンテレフタレート)、アルミニウムなどを積層して形成したラミネート材からなる筒型の外装体に挿入し、外装体の一方の開口部から集電タブが外部に突き出た状態で加熱することにより開口部を封止した。次に、外装体のまだ封止していない他方の開口部から電解液を5ml注入し、PVdF担持セパレータに電解液を吸収させてゲル化させることにより物理ゲル電解質を形成した。その後、開口部を加熱して封止することにより、本発明電池1−1を作製した。なお、以上のようにして作製した電池の容量を測定したところ、600mAhの容量を示した。
【0021】
(比較例1−1)
この比較例1−1では、セパレータとして、PVdFを内部に保持していないポリオレフィン系微多孔膜からなるセパレータを用いて電極体を形成した。そして、上記のようにして得た電解液とエチレンオキシド系モノマーとを混合した混合物を電極体を挿入した外装体中に注入した後、加熱してゲル化させることにより化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして比較電池1−1を作製した。
【0022】
(比較例1−2)
この比較例1−2では、セパレータとしてPVdFを内部に保持していないポリオレフィン系微多孔膜からなるセパレータを用いて電極体を形成した。そして、実施例1−1と同様にして調整した電解液(モノマーを含まない)を電極体を挿入した外装体中に注入した。これ以外は、実施例1−1と同様にして比較電池1−2を作製した。
【0023】
次に、上記のようにして作製した本発明電池1−1、比較電池1−1および比較電池1−2について、以下のような保存特性の評価試験を行った。
【0024】
[保存特性の評価試験]
上記実施例1−1、比較例1−1および比較例1−2による各電池に対して1.0C(600mA)の定電流で充電することにより4.2Vに到達させた後、定電圧で2時間充電を行うことにより満充電状態にさせた。その後、15分間放置した後、1.0Cの定格電流で3.0Vまで放電させた。その後、1時間放置した後、電池電圧を測定した。このときの電池電圧を「保存前の電池電圧」とした。この後、各電池を60℃の恒温槽中で20日間放置した後、電池電圧を測定した。このときの電池電圧を「保存後の電池電圧」とした。そして、「保存後の電池電圧」から「保存前の電池電圧」を差し引くことにより、保存前後での電池の電圧変化量を求めた。その結果を以下の表1に示す。なお、電圧変化量の絶対値が小さいほど、保存による電池の電圧の低下が小さいことを表すので、電圧変化量の絶対値が大きいほど保存特性が劣っていることを意味する。また、表1中の耐漏液性において、○は電池外装体が破損した場合に液漏れが発生しないことを表し、×は電池外装体が破損した場合に液漏れが発生することを表す。つまり、化学ゲルおよび物理ゲルでは、液漏れが発生せず、ゲル化させないイオン電池では、液漏れが発生することを示している。
【0025】
【表1】
上記表1から明らかなように、化学ゲル電解質(ポリエチレンオキシド系ポリマー使用)を用いた比較電池1−1は、保存により大きな電圧の低下(電圧変化量−2.86V)を示した。その一方、物理ゲル電解質(PVdF使用)を用いた本発明電池1−1、および、電解質をゲル化させない比較電池1−2(イオン電池)は、保存により比較電池1−1と比べて小さな電圧の低下(電圧変化量−0.74V、−0.72V)を示した。すなわち、物理ゲル電解質を用いた本発明電池1−1および電解質をゲル化させない比較電池1−2は、化学ゲル電解質を用いた比較電池1−1よりも優れた保存特性を示した。
【0026】
また、保存特性の評価試験後の本発明電池1−1、比較電池1−1および比較電池1−2の電解液について組成分析を行った。その結果、比較電池1−1では、保存前と比べて、電解液中のγ−ブチロラクトンの含有率が低下していることが明らかになった。その一方、本発明電池1−1および比較電池1−2では、電解液中のγ−ブチロラクトンおよびエチレンカーボネートの含有率は保存前とほぼ同等であることが明らかになった。
【0027】
また、化学ゲルと物理ゲルとで内部に保持した液の保持力に違いが見られるのかを確認するために、次のような試験を行った。すなわち、化学ゲルについては、ゲルを形成するためのポリマー材料としてエチレンオキシド系ポリマーを用いるとともに、ゲルに保持させる溶媒として環状カーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート)、鎖状カーボネート(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート)、γ−ブチロラクトンをそれぞれ単独で用いて試験を行った。物理ゲルについては、ゲルを形成するためのポリマー材料としてPVdFを用いるとともに、ゲルに保持させる溶媒として上記の化学ゲルの場合と同様の各溶媒をそれぞれ単独で用いて試験を行った。
【0028】
試験方法としては、まず、溶媒とポリマー材料とを体積比で、溶媒/ポリマー材料=10/1となるように準備した。その後、化学ゲルについては、溶媒とポリマー材料とを混合した後、ゲル化させ、これを所定の形状に切り出して試料を作製した。また、物理ゲルについては、ポリマー材料に溶媒を吸収させることによりゲル化させた後、化学ゲルと同様の所定の形状に切り出すことにより試料を作製した。そして、これらの試料に対して1cm2当たり10kgの圧力をかけることにより、各試料からの漏液の量について比較を行った。その結果、化学ゲルでは、上記の各種の溶媒を用いた試料の中で、γ−ブチロラクトンを用いた試料で最も多くの漏液が生じた。一方、物理ゲルでは、上記の各種の溶媒を用いた試料の間で漏液の量に差が見られなかった。この結果から、化学ゲルでは上記の各種溶媒の中でγ−ブチロラクトンの保持力のみが弱く、物理ゲルではγ−ブチロラクトンを含む全ての溶媒に対して同等の保持力を有することがわかる。すなわち、化学ゲルでは、γ−ブチロラクトンに対する拘束力のみが弱いのに対して、物理ゲルでは、全ての溶媒に対して同等の拘束力を示すことが明らかになった。
【0029】
本実施例1において、以上のような結果が得られた理由は次のように考えられる。すなわち、化学ゲル電解質では、使用する溶媒の種類によって、化学ゲルを形成するポリマーと溶媒との間に働く分子間力などの相互作用(拘束力)の大きさが異なる。これは、上記した化学ゲルの液の保持力試験の結果からも明らかである。このため、電解液の溶媒として複数の溶媒を混合して使用した場合に、ポリマーから受ける分子レベルでの相互作用の大きさの違いに起因して特定の溶媒の自由度が大きくなる。したがって、化学ゲル電解質を用いた比較電池1−1では、電解液の溶媒として用いたエチレンカーボネートおよびγ−ブチロラクトンのうち、γ−ブチロラクトンの方がエチレンカーボネートよりもポリマーから受ける相互作用(拘束力)が小さいので、γ−ブチロラクトンはエチレンカーボネートよりも大きな自由度を有する。このため、負極表面において、γ−ブチロラクトンの還元による分解反応が選択的に生じるとともに、エチレンカーボネートの還元による分解反応が阻害される。これは、電解液の組成分析において、保存前に比べてγ−ブチロラクトンの含有率が低下していることからも明らかである。また、エチレンカーボネートは、分解反応により炭酸リチウムを生成する一方、γ−ブチロラクトンは分解反応により炭酸リチウムを生成しない。そのため、化学ゲル電解質を用いた比較電池1−1では、負極表面の自己放電抑制のための炭酸リチウムからなる被膜の修復機能が低下する。これにより、比較電池1−1では、保存に伴う自己放電が増大するので、大きな電圧の低下が発生し、その結果、保存特性の劣化が生じたと考えられる。
【0030】
その一方、物理ゲル電解質では、物理ゲルを形成するためのポリマーと溶媒との間に働く分子間力などの相互作用(拘束力)の大きさは溶媒の種類にかかわらずほぼ一定となる。これは、上記した物理ゲルの液の保持力試験の結果からも明らかである。このため、電解液の溶媒として複数の溶媒を混合して使用した場合に、全ての溶媒がほぼ同等の自由度を有する。したがって、物理ゲル電解質を用いた本発明電池1−1では、電解液の溶媒として用いたγ−ブチロラクトンおよびエチレンカーボネートはほぼ同等の自由度を有する。このため、化学ゲル電解質を用いた場合と異なり、γ−ブチロラクトンの選択的な分解反応に伴うエチレンカーボネートの分解反応の阻害が生じることがない。これは、電解液の組成分析において、γ−ブチロラクトンおよびエチレンカーボネートの含有率が保存前とほぼ同等であることからも明らかである。したがって、物理ゲル電解質を用いた本発明電池1−1では、負極表面の自己放電抑制のための炭酸リチウムからなる被膜の修復機能が低下するのが抑制される。これにより、本発明電池1−1では、保存に伴う自己放電が増大するのが抑制されるので、化学ゲル電解質を用いた比較電池1−1と比べて小さな電圧の低下が発生し、その結果、本発明電池1−1は比較電池1−1よりも優れた保存特性を示したと考えられる。また、電解質をゲル化させない比較電池1−2でも、γ−ブチロラクトンの選択的な分解反応は生じないので、上記した本発明電池1−1と同様の理由により、本発明電池1−1と同程度の優れた保存特性を示したと考えられる。
【0031】
なお、本願発明者の実験により、比較例1−1による比較電池1−1でポリマー材料として用いたポリエチレンオキシドの代わりに、アクリレート系ポリマーやエポキシ系ポリマーを用いて化学ゲル電解質を形成することにより作製した電池でも、保存により比較電池1−1と同程度の大きな電圧の低下が発生することが確認済みである。
【0032】
(実施例2)
この実施例2では、γ−ブチロラクトンと、以下に示す異なる溶媒とを混合して得た電解液を用いて物理ゲル電解質を形成することにより、以下の4種類の実施例2−1〜2−4による本発明電池2−1〜2−4を作製して保存特性の評価を行った。
【0033】
(実施例2−1)
この実施例2−1では、エチレンカーボネート(環状カーボネート)とγ−ブチロラクトンとを1:1の体積比で混合して得た混合溶媒を含む電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。そして、これを用いて、実施例1−1により作製した本発明電池1−1の構成と全く同様の構成の本発明電池2−1を作製した。
【0034】
(実施例2−2)
この実施例2−2では、プロピレンカーボネート(環状カーボネート)とγ−ブチロラクトンとを1:1の体積比で混合して得た混合溶媒を含む電解液を用いて物理ゲル電解質を形成したこと以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池2−2を作製した。
【0035】
(実施例2−3)
この実施例2−3では、ジエチルカーボネート(鎖状カーボネート)とγ−ブチロラクトンとを1:1の体積比で混合して得た混合溶媒を含む電解液を用いて物理ゲル電解質を形成したこと以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池2−3を作製した。
【0036】
(実施例2−4)
この実施例2−4では、ジメチルカーボネート(鎖状カーボネート)とγ−ブチロラクトンとを1:1の体積比で混合して得た混合溶媒を含む電解液を用いて物理ゲル電解質を形成したこと以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池2−4を作製した。
【0037】
次に、上記のようにして作製した本発明電池2−1〜2−4について、実施例1で行った保存特性の評価試験と同様の試験を行った。その結果を以下の表2に示す。
【0038】
【表2】
上記表2から明らかなように、γ−ブチロラクトンと混合する電解液の溶媒として、環状カーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート)を用いた本発明電池2−1および本発明電池2−2の保存による電圧の低下(電圧変化量−0.74V、−0.76V)は、鎖状カーボネート(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート)を用いた本発明電池2−3および本発明電池2−4の保存による電圧の低下(電圧変化量−0.95V、−0.94V)よりも小さいことがわかった。すなわち、γ−ブチロラクトンと混合する電解液の溶媒として、環状カーボネートを用いた本発明電池2−1および2−2は、鎖状カーボネートを用いた本発明電池2−3および2−4よりも優れた保存特性を示すことがわかった。
【0039】
これは、次のような理由によると考えられる。すなわち、環状カーボネートおよび鎖状カーボネートは、共に、還元による分解反応によって炭酸リチウムを生成する。しかしながら、これらの分解反応によって生成される反応生成物は、炭酸リチウムのみではなく、他の反応生成物の生成も並行して行われる。エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートでは、ジエチルカーボネートやジメチルカーボネートなどの鎖状カーボネートと比べて、種々の反応生成物のうち炭酸リチウムを生成する反応がより支配的に進行される。これにより、負極表面における自己放電抑制のための炭酸リチウムからなる被膜の修復機能が向上される。このため、電池の自己放電が増大するのが抑制される。その結果、γ−ブチロラクトンと混合する電解液の溶媒として環状カーボネートを用いた本発明電池2−1および2−2では、鎖状カーボネートを用いた本発明電池2−3および2−4よりも保存により小さな電圧の低下が発生したと考えられる。
【0040】
(実施例3)
この実施例3では、電解液中のγ−ブチロラクトンの含有率を変化させて形成した物理ゲル電解質を用いて、以下の6種類の実施例3−1〜3−5および比較例3−7による本発明電池3−1〜3−5および比較電池3−7を作製するとともに、電解液中のγ−ブチロラクトンの含有率を変化させて形成した化学ゲル電解質を用いて、以下の6種類の比較例3−1〜3−6による比較電池3−1〜3−6を作製して保存特性の評価を行った。
【0041】
(実施例3−1)
この実施例3−1では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で2%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池3−1を作製した。
【0042】
(実施例3−2)
この実施例3−2では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で5%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池3−2を作製した。
【0043】
(実施例3−3)
この実施例3−3では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で10%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池3−3を作製した。
【0044】
(実施例3−4)
この実施例3−4では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で30%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池3−4を作製した。
【0045】
(実施例3−5)
この実施例3−5では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で50%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池3−5を作製した。
【0046】
(比較例3−1)
この比較例3−1では、プロピレンカーボネート単独の溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて化学ゲル電解質を形成した。つまり、この比較例3−1では、γ−ブチロラクトンの含有率が0%の化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、比較例1−1と同様にして比較電池3−1を作製した。
【0047】
(比較例3−2)
この比較例3−2では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で2%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、比較例1−1と同様にして比較電池3−2を作製した。
【0048】
(比較例3−3)
この比較例3−3では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で5%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、比較例1−1と同様にして比較電池3−3を作製した。
【0049】
(比較例3−4)
この比較例3−4では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で10%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、比較例1−1と同様にして比較電池3−4を作製した。
【0050】
(比較例3−5)
この比較例3−5では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で30%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、比較例1−1と同様にして比較電池3−5を作製した。
【0051】
(比較例3−6)
この比較例3−6では、γ−ブチロラクトン(GBL)の含有率が体積比で50%となるようにプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを混合して得た混合溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて化学ゲル電解質を形成した。これ以外は、比較例1−1と同様にして比較電池3−6を作製した。
【0052】
(比較例3−7)
この比較例3−7では、プロピレンカーボネート単独の溶媒を用いて電解液を調整するとともに、この電解液を用いて物理ゲル電解質を形成した。つまり、この比較例3−7では、γ−ブチロラクトンの含有率が0%の物理ゲル電解質を形成した。これ以外は、実施例1−1と同様にして比較電池3−7を作製した。
【0053】
次に、上記のようにして作製した本発明電池3−1〜3−5および比較電池3−1〜3−7について、実施例1で行った保存特性の評価試験と同様の試験を行った。その結果を以下の表3に示す。なお、表3中の耐過充電性において、○は耐過充電性が優れていることを示し、△は耐過充電性がやや劣ることを示す。つまり、γ−ブチロラクトンの含有率が0%の場合は、耐過充電性がやや劣ることを示している。また、表3の結果をもとに、電解液中のγ−ブチロラクトンの含有率と保存による電池の電圧変化量との関係を図1に示した。
【0054】
【表3】
上記表3および図1から明らかなように、γ−ブチロラクトンの含有率が0%では、化学ゲル電解質(エチレンオキシド系ポリマー使用)を用いた比較電池3−1および物理ゲル電解質(PVdF使用)を用いた比較電池3−7は、共に、保存により同程度の小さな電圧の低下(電圧変化量−0.86V、−0.82V)を示した。その一方、γ−ブチロラクトンの含有率が2%以上では、化学ゲル電解質を用いた比較電池3−2〜3−6では、保存により大きな電圧の低下(電圧変化量−2.65V〜−1.18V)を示すとともに、γ−ブチロラクトンの含有率の増大に伴って電圧の低下が大きくなるという傾向を示した。それに対して、γ−ブチロラクトンの含有率が2%以上の物理ゲル電解質を用いた本発明電池3−1〜3−5では、保存により比較的小さな電圧の低下(電圧変化量−0.88V〜−0.79V)を示すとともに、γ−ブチロラクトンの含有率が増大しても大きな電圧の低下は生じなかった。
【0055】
以上のような結果が得られた理由は、次のように考えられる。すなわち、γ−ブチロラクトンの含有率が0%では、γ−ブチロラクトンの分解反応は生じないので、化学ゲル電解質および物理ゲル電解質のどちらを用いた場合でも、プロピレンカーボネートの分解反応は阻害されない。プロピレンカーボネートは分解反応により炭酸リチウムを生成するので、化学ゲル電解質および物理ゲル電解質のどちらを用いた場合でも、負極表面における炭酸リチウムからなる被膜の修復機能を同程度に得ることができる。その結果、電池の自己放電が増大するのが同程度に抑制されるので、比較電池3−1および比較電池3−7は、保存により同程度の小さな電圧の低下を示したと考えられる。
【0056】
一方、γ−ブチロラクトンの含有率が2%以上では、化学ゲル電解質を用いた場合は、前述したような負極表面におけるγ−ブチロラクトンの選択的な分解反応に起因するプロピレンカーボネートの分解反応の阻害が生じる。このため、負極表面における炭酸リチウムからなる被膜の修復機能が低下するので、電池の自己放電が増大する。また、γ−ブチロラクトンの含有率が増大するほど、プロピレンカーボネートの分解反応がより阻害されるので、被膜の修復機能がより低下し、その結果、電池の自己放電がより増大する。このため、比較電池3−2〜3−6では、保存により大きな電圧の低下を示すとともに、γ−ブチロラクトンの含有率の増大に伴って電圧の低下が大きくなるという傾向を示したと考えられる。
【0057】
また、γ−ブチロラクトンの含有率が2%以上の物理ゲル電解質を用いた場合は、化学ゲル電解質を用いた場合と異なり、γ−ブチロラクトンの選択的な分解反応に起因するプロピレンカーボネートの分解反応の阻害が生じることがない。このため、負極表面における炭酸リチウムからなる被膜の修復機能が低下するのが抑制されるので、電池の自己放電が増大するのが抑制される。また、γ−ブチロラクトンの含有率が増大しても、プロピレンカーボネートの分解反応に伴う負極表面の炭酸リチウムからなる被膜の修復機能は、ある程度得られるので、電池の自己放電が増大するのが抑制される。その結果、本発明電池3−1〜3−5では、保存により比較的小さな電圧の低下を示すとともに、γ−ブチロラクトンの含有率が増大しても大きな電圧の低下は生じなかったと考えられる。
【0058】
(実施例4)
この実施例4では、物理ゲル電解質中に微多孔を有しない実施例4−1による本発明電池4−1と、微多孔を有する実施例4−2による本発明電池4−2とを作製して保存特性の評価を行った。
【0059】
(実施例4−1)
この実施例4−1では、微多孔を有しないPVdF担持セパレータを用いて、微多孔を有しない物理ゲル電解質を形成した。そして、これを用いて、実施例1−1により作製した本発明電池1−1の構成と同様の構成の本発明電池4−1を作製した。
【0060】
(実施例4−2)
この実施例4−2では、溶融状態の材料中に気体を溶解させた後、急激に冷却して固化させることにより微多孔を有するPVdF担持セパレータを形成した。そして、これを用いて微多孔を有する物理ゲル電解質を形成した。これ以外は実施例1−1と同様にして、本発明電池4−2を作製した。
【0061】
次に、上記のようにして作製した本発明電池4−1および4−2について、実施例1で行った保存特性の評価試験と同様の試験を行った。その結果を以下の表4に示す。
【0062】
【表4】
上記表4から明らかなように、微多孔を有する物理ゲル電解質を用いた本発明電池4−2の保存による電圧の低下(電圧変化量−0.61V)は、微多孔を有しない物理ゲル電解質を用いた本発明電池4−1の保存に伴う電圧の低下(電圧変化量−0.74V)よりも小さかった。すなわち、微多孔を有する物理ゲル電解質を用いた本発明電池4−2は、微多孔を有しない物理ゲル電解質を用いた本発明電池4−1よりも優れた保存特性を示した。
【0063】
この理由は、次のように考えられる。すなわち、PVdF担持セパレータ中に微多孔を形成しておくことにより、電池内に注入された電解液の一部は微多孔の内部に保持される。これにより、微多孔の内部に保持された電解液と物理ゲル電解質を形成するポリマーとの間に距離が隔てられるため、微多孔の内部に保持された電解液の溶媒がポリマーから受ける分子間力などの相互作用(拘束力)は小さくなる。その結果、微多孔の内部に保持された電解液の溶媒の自由度が大きくなるので、電解液の溶媒の負極表面における分解反応が生じやすくなる。このため、負極表面に電池の自己放電を抑制するための炭酸リチウムからなる被膜が形成されやすくなるので、負極表面の被膜の修復機能が向上される。これにより、電池の自己放電が増大するのが抑制されるので、保存に伴う電池の電圧の低下が抑制される。その結果、微多孔を有する物理ゲル電解質を用いた本発明電池4−2は、微多孔を有しない物理ゲル電解質を用いた本発明電池4−1よりも優れた保存特性を示したと考えられる。
【0064】
なお、上記したように、微多孔中に保持された電解液は物理ゲル電解質を形成するポリマーから受ける相互作用(拘束力)は小さいものの、全体としてみると電解液は物理ゲル電解質の内部に保持されている。このため、電池の外装体の封止部が開口したり、外装体が破損した場合にも、ゲル化させない電解質を用いたイオン電池で発生するような液漏れは発生しない。
【0065】
(実施例5)
この実施例5では、物理ゲル電解質を形成するために、以下に示す異なるポリマー材料を用いて、以下の3種類の実施例5−1〜5−3による本発明電池5−1〜5−3を作製して保存特性の評価を行った。
【0066】
(実施例5−1)
この実施例5−1では、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を内部に保持させたPVdF担持セパレータを用いて物理ゲル電解質を形成した。そして、これを用いて、実施例1−1により作製した本発明電池1−1の構成と同様の構成の本発明電池5−1を作製した。
【0067】
(実施例5−2)
この実施例5−2では、フッ化ビニリデンとヘキサフッ化プロピレンとの共重合体(P(VDF−HFP))を内部に保持させたセパレータを用いて物理ゲル電解質を形成したこと以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池5−2を作製した。
【0068】
(実施例5−3)
この実施例5−3では、ポリスルホンを内部に保持させたセパレータを用いて物理ゲル電解質を形成したこと以外は、実施例1−1と同様にして本発明電池5−3を作製した。
【0069】
次に、上記のように作製した本発明電池5−1〜5−3について、実施例1で行った保存特性の評価試験と同様の試験を行った。その結果を以下の表5に示す。
【0070】
【表5】
上記表5から明らかなように、物理ゲル電解質を形成するためのポリマー材料として、ポリフッ化ビニリデンを用いた本発明電池5−1およびフッ化ビニリデンとヘキサフッ化プロピレンとの共重合体を用いた本発明電池5−2の保存に伴う電圧の低下(電圧変化量−0.74V、−0.72V)は、ポリスルホンを用いた本発明電池5−3の保存に伴う電圧の低下(電圧変化量−0.86V)よりも小さかった。すなわち、ポリフッ化ビニリデンを用いた本発明電池5−1およびフッ化ビニリデンとヘキサフッ化プロピレンとの共重合体を用いた本発明電池5−2は、ポリスルホンを用いた本発明電池5−3よりも優れた保存特性を示した。
【0071】
この理由は、次のように考えられる。すなわち、ポリフッ化ビニリデンを用いた物理ゲル電解質、および、フッ化ビニリデンとヘキサフッ化プロピレンとの共重合体を用いた物理ゲル電解質は、ポリスルホンを用いた物理ゲル電解質よりも負極活物質に対して高い親和性を有する。このため、ポリフッ化ビニリデンを用いた物理ゲル電解質およびフッ化ビニリデンとヘキサフッ化プロピレンとの共重合体を用いた物理ゲル電解質は、注入された電解液を吸収して膨潤していく過程で負極活物質の粒子の表面に良好に密着する。これにより、物理ゲル電解質に含まれる電解液の溶媒の負極表面における還元による分解反応が生じやすくなる。このため、負極表面に電池の自己放電を抑制するための炭酸リチウムからなる被膜が形成されやすくなるので、負極表面の被膜の修復機能が向上される。これにより、電池の自己放電が増大するのが抑制されるので、保存に伴う電池の電圧の低下が抑制される。その結果、ポリマー材料としてポリフッ化ビニリデンを用いた本発明電池5−1およびフッ化ビニリデンとヘキサフッ化プロピレンとの共重合体を用いた本発明電池5−2は、ポリスルホンを用いた本発明電池5−3よりも優れた保存特性を示したと考えられる。
【0072】
なお、今回開示された実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0073】
たとえば、上記の実施例では、電解液の溶媒としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートを用いたが、本発明はこれに限らず、分解反応により負極表面に炭酸リチウムからなる被膜を形成可能なものであれば他の溶媒を用いてもよい。たとえば、ジエチルカーボネートやジメチルカーボネートなどの鎖状カーボネートなどを用いてもよい。
【0074】
また、上記の実施例では、正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いたが、本発明はこれに限らず、正極活物質としてマンガン酸リチウムやニッケル酸リチウムなどの遷移金属酸化物を用いた場合にも同様の効果を得ることができる。
【0075】
また、上記の実施例2では、γ−ブチロラクトンと混合する溶媒に、環状カーボネートの一例としてエチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートを用いた場合を例にとって説明したが、本発明はこれ限らず、これら以外の環状カーボネートを用いても同様の効果を得ることができる。すなわち、ブチレンカーボネート、フッ素化プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートなどの環状カーボネートを用いた場合にも、同様の効果を得られることが本願発明者の実験により確認済みである。また、γ−ブチロラクトンと環状カーボネートとその他の溶媒とを混合して得た3成分以上の組成からなる混合溶媒を用いた場合にも、同様の効果が得られることが本願発明者の実験により確認済みである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例3による電解液中のγ−ブチロラクトンの含有率と保存による電池の電圧変化量との関係を示した図である。
Claims (4)
- 正極と、
負極と、
γ−ブチロラクトンを有する電解液を含む物理ゲル電解質とを備えた、非水電解質電池。 - 前記電解液は、環状カーボネートを含む、請求項1に記載の非水電解質電池。
- 前記物理ゲル電解質は、微多孔を含む、請求項1または2に記載の非水電解質電池。
- 前記物理ゲル電解質は、ポリフッ化ビニリデン、および、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体の少なくともいずれか一方を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
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