JP2004247099A - 透明電極の製造方法、el素子及びel素子の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】加工部の周辺や下地層の損傷を防止しつつ透明電極やEL素子の微細加工を可能にするレーザ加工技術を提供する。
【解決手段】ガラス基板11上にITO膜12と金属膜13とを積層し、ピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射して金属膜13及びITO膜12を個別化する。次に、ピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、金属膜13を部分的に除去してITO膜12の一部を露出させる。ITO膜12の露出部にEL膜14を形成し、EL膜14の上に導電膜15を形成する。
【選択図】 図15
【解決手段】ガラス基板11上にITO膜12と金属膜13とを積層し、ピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射して金属膜13及びITO膜12を個別化する。次に、ピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、金属膜13を部分的に除去してITO膜12の一部を露出させる。ITO膜12の露出部にEL膜14を形成し、EL膜14の上に導電膜15を形成する。
【選択図】 図15
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、透明電極の製造方法及びEL素子の製造方法に係り、特に、レーザ光を用いた透明電極及びEL素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、各種表示装置における発光素子として、EL素子が用いられている。EL素子は、無機化合物や有機化合物などからなる発光材料を電極で挟んで構成され、電極の一方にはITO等の透明電極が用いられることが多い。通常、電極の微細加工(パターン化)は、フォトリソグラフィとウェットエッチング又はドライエッチングにより行われる。しかし、発光材料には水に弱い性質を有するものがあり、そのような発光材料を用いたEL素子を製造する場合には、ウェットプロセスを採用することはできない。この場合、EL素子の製造工程のすべてにおいて、ドライでクリーンなプロセスが要求される。
【0003】
ドライかつクリーンな加工方法として、レーザ光を用いた加工方法が挙げられる。特許文献1には、レーザ光を用いたEL素子の微細パターン化方法が記載されている。この方法は、加工エッジ周辺部や下地層に対する損傷をできるだけ抑えながら微細加工を可能にすることを目的とし、レーザ光のフルーエンスを10〜220mJ/cm2に規定するものである。しかし、上記方法は、EL素子のうち、非透明の金属系電極又は発光材料と金属系電極との積層体を微細加工するものであり、透明電極自体を加工するものではない。
【0004】
一方、金属系電極や発光素子だけでなく、透明電極自体をレーザ光で加工する方法も望まれている。しかし、例えばレーザ光として波長が1.05μm程度のYAGレーザ光を用いたとすると、その光学的エネルギーは1.23eVである。一方、透明材料であるITOは、通常は3.7eV以上のバンドギャップを有している。そのため、赤外や可視光の領域では十分な吸収が起こらず、十分なレーザー加工は困難である。そこで、透明材料をレーザ光で加工する方法として、紫外領域以下の波長のレーザ光を用いる方法が提案されている。例えば特許文献2には、透明材料又は透明材料と金属膜とを組み合わせたものに対し、エキシマレーザ光を照射して電極を加工する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平8−222371号公報
【特許文献2】
特開昭61−105885号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、実際には、レーザ光のフルーエンスを上記特許文献1に記載された前記範囲に保つだけでは、必ずしもエッジ部や下地層の損傷を防ぐことはできなかった。そのため、エッジ部や下地層の損傷を十分に防ぐことができる他の手法が待ち望まれていた。また、前述した通り、上記特許文献1の方法では透明電極を十分に加工することができなかった。そのため、金属系電極と透明電極とを適宜選択的に加工することができず、利便性に劣っていた。
【0007】
一方、エキシマレーザ光による加工では、微細加工を行うに当たってパワーを下げる必要があるが、パワーの低下とともにITOの完全な除去が難しくなり、加工物にITOの残渣物が残るという問題があった。また、エキシマレーザ光の波長が透明材料の吸収波長域にあり、熱的プロセスにより加工が行われるため、加工部の周辺の損傷や下地層への影響が大きく、精度の高い微細加工が難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加工部の周辺や下地層の損傷を防止しつつ透明電極やEL素子の微細加工を可能にするレーザ加工技術を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本願発明者は、パルス幅の小さな短パルスレーザ光を用い、エネルギーを時間的に集約しつつレーザ強度を十分に大きくし、多光子吸収を起こすように加工を行う方法に思い至った。この方法によれば、吸収波長域外の材料も加工することができ、透明電極及びEL素子の加工方法として好適である。しかし、上記方法を実際に応用するには何らかの指針が必要である。そこで、本願発明者は、試行錯誤の結果、短パルスレーザ光のピーク出力に着目し、このピーク出力を調節することによって良好な微細加工が可能となることを見い出した。
【0010】
本発明に係る透明電極の製造方法は、基板上に透明導電性膜を形成する工程と、前記透明導電性膜に対してピーク出力が2〜25GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記透明導電性膜を加工するレーザ加工工程とを備えているものである。
【0011】
上記方法によれば、基板に損傷を与えることなく、また、透明導電性膜の残渣物を残すことなく、透明導電性膜を加工することができる。また、加工後の透明導電性膜のエッジ部分にテーパが形成されにくく、シャープな加工形状を得ることができる。したがって、高精度な透明電極の加工を行うことができ、高品質の透明電極を得ることができる。
【0012】
本発明に係る透明電極の製造方法は、基板上に透明導電性膜を形成する工程と、前記透明導電性膜上に金属膜を形成する工程と、前記金属膜に対してピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記金属膜の一部を除去して前記透明導電性膜の一部を露出させるレーザ加工工程とを備えているものである。
【0013】
上記方法によれば、透明導電性膜に損傷を与えることなく金属膜を加工することができる。また、加工後の金属膜のエッジ部分にテーパが形成されにくく、シャープな加工形状を得ることができる。
【0014】
本発明に係る透明電極の製造方法は、基板上に透明導電性膜を形成する工程と、前記透明導電性膜上に金属膜を形成する工程と、前記金属膜側からピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記金属膜の一部とその裏側の透明導電性膜とを一括して除去するレーザ加工工程とを備えているものである。
【0015】
上記方法によれば、基板に損傷を与えることなく金属膜及び透明導電性膜の両方を一括して加工することができる。また、加工後の金属膜及び透明導電性膜のエッジ部分にテーパが形成されにくく、シャープな加工形状を得ることができる。
【0016】
前記レーザ加工工程は、レーザ光の照射位置を0.1mm/s以下の走査速度で走査させながら加工を行う工程であることが好ましい。
【0017】
このことにより、加工形状を更に良好なものにすることができる。
【0018】
前記短パルスレーザ光は、ピコ秒レーザ光であることが好ましい。
【0019】
前記短パルスレーザ光は、パルス幅が10フェムト秒〜100ピコ秒のパルスレーザ光であることが好ましい。
【0020】
本発明に係るEL素子は、前記製造方法により製造された透明電極と、前記透明電極上に形成されたEL膜と、前記EL膜上に形成された電極とを備えているものである。
【0021】
このことにより、高品質のEL素子を得ることができる。
【0022】
本発明に係るEL素子の製造方法は、基板上に透明導電性膜からなる第1の導電性膜を形成する工程と、前記第1導電性膜上に第2の導電性膜を形成する工程と、前記第2導電性膜側からピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記第1及び第2導電性膜の一部を一括して除去することによって該第1及び第2導電性膜を一括して個別化する工程と、前記第2導電性膜にピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、該第2導電性膜を部分的に除去することによって前記第1導電性膜の一部を露出させる工程と、少なくとも前記第1導電性膜の露出部の表面上にEL膜を形成する工程と、前記EL膜上に第3の導電性膜を形成する工程とを備えているものである。
【0023】
上記製造方法によれば、高品質なEL素子を得ることができる。
【0024】
本発明に係るEL素子の製造方法は、基板上に透明導電性膜からなる第1の導電性膜を形成する工程と、前記第1導電性膜上に第2の導電性膜を形成する工程と、前記第2導電性膜側からピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記第1及び第2導電性膜の一部を一括して除去することによって該第1及び第2導電性膜を一括して個別化する工程と、前記第2導電性膜側から絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜側から短パルスレーザ光を照射し、前記絶縁膜及び前記第2導電性膜の一部を一括して除去することによって前記第1導電性膜の一部を露出させる工程と、少なくとも前記第1導電性膜の露出部の表面上にEL膜を形成する工程と、前記EL膜上に第3の導電性膜を形成する工程とを備えているものである。
【0025】
上記製造方法によれば、高品質なEL素子を得ることができる。加えて、EL膜が導電性膜に封止されているので、別途新たな保護膜を設けなくても、水分や酸素などの活性種によるEL膜の劣化を防ぐことができる。
【0026】
【発明の効果】
以上より、本発明によれば、下地層の損傷を防ぎつつ、下地層上の透明電極やEL膜等を高精度に加工することができる。また、加工部の周辺にテーパが生じることを抑制又は防止することができる。そのため、加工後にシャープなエッジ部を得ることができ、良好な加工形状を得ることができる。したがって、高品質な透明電極又はEL素子を得ることが可能となる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1は、短パルスレーザ加工システム1の構成を示している。このレーザ加工システム1は、レーザ発生装置2と、レーザ発生装置2から出力されたレーザ光の向きを変える反射鏡3と、反射鏡3に反射されたレーザ光を透過又は遮断するシャッター4と、アテネータ5と、集光レンズ7と、加工対象物10を支持するステージ6とを備えている。
【0029】
レーザ発生装置2は、いわゆるピコ秒レーザ光の出力が可能な装置であり、20ピコ秒のパルス幅を有する短パルスレーザ光を出力することができる。
【0030】
アテネータ5はレーザ光の透過量を調節するものであり、このアテネータ5によって、加工に必要な光量を調整することができる。ステージ6は、いわゆるXYステージからなり、2次元移動が自在に構成されている。そして、このステージ6を移動させることにより、加工対象物10に対するレーザ光の照射位置が移動する。
【0031】
なお、上記レーザ加工システム1は例示であり、本願発明に係る製造方法を実施するためのシステムは上記システム1に何ら限定されるものではない。
【0032】
本願発明では、短パルスレーザ光のピーク出力を特定の範囲に規定する。以下、その理由を説明する。
【0033】
−ピーク出力の影響について−
始めに、レーザ光のパルス幅及びフルーエンスの影響を調べるために、以下のような実験を行った。
【0034】
本実験では、ガラス基板上に厚さ0.1μmのITO膜を形成しておき、所定条件のレーザ光を上記ITO膜に照射し、このITO膜に直線状の溝を形成した。そして、溝の形状及びITO膜のエッジ部を光学顕微鏡にて観察し、レーザ加工の評価を行った。
【0035】
まず、ナノ秒レーザ光を用いた実験(実験1)について説明する。ITO膜に対して十分大きなエネルギーを与えるために、レーザ光のフルーエンスは1パルス当たり約2500mJ/cm2と大きめに設定した。ただし、ピーク出力は25.6MW/cm2である。具体的には、下記表1に示す条件のレーザ光を照射した。
【0036】
【表1】
【0037】
その結果、図2に示すように、レーザ光を照射した部分についてはITO膜51をほとんど除去することができたものの、ガラス基板52上にわずかにITOの残渣物54が残ってしまった。また、溝の両側にテーパ状のエッジ部53が残ってしまい、シャープな加工形状を得ることはできなかった。
【0038】
次に、表2に示す条件のレーザ光を用いて、同様の実験を行った(実験2)。このレーザ光はいわゆるピコ秒レーザ光であり、ピーク出力は約2.4GW/cm2である。
【0039】
【表2】
【0040】
その結果、図3に示すように、レーザ光を照射した部分においてITO膜51をきれいに除去することができ、溝55の両側には、ガラス基板52の表面にほぼ垂直なエッジ部53が形成された。したがって、良好な加工形状を得ることができた。
【0041】
このように、加工形状に最も影響を及ぼすと考えられていたフルーエンスは実験2よりも実験1の方が高い値であったにも拘わらず、加工形状は実験2の方が実験1よりも良好であった。そこで、フルーエンスよりもピーク出力の大小の方が加工形状に及ぼす影響が大きいと考え、ピーク出力を変化させて同様の実験を行った。その結果を図4に示す。
【0042】
顕微鏡写真による観察の結果、ピーク出力が2GW/cm2以上では、加工形状が良好であることが分かった。一方、ピーク出力が25GW/cm2を超えると、ガラス基板に損傷が見られた。そのため、ピーク出力を2〜25GW/cm2の範囲に規定することによって、基板に損傷を与えずに良好な加工を実現することができる。
【0043】
−走査速度の影響について−
表3に示す条件下でレーザ光の走査速度を段階的に変化させ、走査速度とエッジ部のテーパ形状との関係を調べてみた。
【0044】
【表3】
【0045】
図5は、走査速度とテーパ率との関係を示している。ここでテーパ率Tは、レーザ光の加工幅をb、両側のテーパ部の幅を2aとした場合に、T=2a/bで定義される値である(図6参照)。したがって、テーパ率が小さいほど加工形状は良好となる。
【0046】
図5から、走査速度が遅いほどテーパ率が小さいことが分かる。また、走査速度が0.1mm/sであれば、平均出力に拘わらず、テーパ率は零又はほぼ零に近い値になることが分かる。言い換えると、ピーク出力に拘わらず、走査速度を0.1mm/s以下にすることによって良好な加工形状を得ることができる。
【0047】
図7は、走査速度が0.1mm/s、0.4mm/s、0.7mm/s、1.0mm/sの場合におけるエッジ部の加工形状を示している。図7から、走査速度が小さくなるほどテーパ部は小さくなり、走査速度が0.1mm/sの場合にはテーパ部が見られなくなることが分かる。
【0048】
−ITO膜及び金属膜の選択的加工−
次に、図8に示すように、ガラス基板52上にITO膜51及び金属膜56を順に積層して供試体57を形成し、レーザ光を照射してITO膜51及び金属膜56を加工する実験を行った。ここでは、金属膜56の材料としてクロム(Cr)を用いた。ITO膜51、金属膜56の膜厚は、それぞれ0.1μm、0.15μmとした。
【0049】
図9に、ピーク出力と加工形状との関係を示す。実験の結果、ピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の範囲では、加工形状を良好に保ちつつ金属膜56のみを除去することができた。一方、ピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の範囲では、加工形状を良好に保ちつつ金属膜56及びITO膜51の双方を一括して除去することができた。
【0050】
次に、レーザ光の走査速度を段階的に変化させ、エッジ部の形状を観察した。図10は、走査速度が0.1mm/s、0.4mm/s、0.7mm/s、1.0mm/sの場合におけるエッジ部の加工形状を示している。図10から、走査速度が小さくなるほどテーパ部は小さくなり、走査速度が0.1mm/sの場合にはテーパ部が見られなくなることが分かる。また、走査速度が小さいほどエッジ部の形状の乱れが少なくなり、走査速度が0.1mm/sの場合には形状の乱れがほとんど見られなくなることが分かる。
【0051】
−透明電極及びEL素子の製造方法−
次に、本発明に係る透明電極及びEL素子の製造方法について説明する。
【0052】
始めに、本発明に係る第1のEL素子31(図15参照)の製造方法について説明する。第1EL素子31の製造に際しては、まず、図11に示すように、ガラス基板11の表面にITOからなる透明導電性膜12を形成し、この透明導電性膜12の表面にCrからなる金属膜13を形成する。
【0053】
次に、図12に示すように、ピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を金属膜13側から照射し、金属膜13及び透明導電性膜12の一部を一括して除去することにより、金属膜13及び透明導電性膜12を一括して個別化する。なお、レーザ光による加工に際しては、ステージ6を移動させることによって、レーザ光の照射位置を0.1mm/s以下の速度で移動させることが好ましい。
【0054】
次に、図13に示すように、ピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の短パルスレーザ光を金属膜13に照射し、金属膜13の一部を除去することによって透明導電性膜12の一部を露出させる。なお、この際もレーザ光の照射位置を0.1mm/s以下の速度で移動させることが好ましい。
【0055】
次に、図14に示すように、透明導電性膜12の露出部分とこの露出部分の両側の金属膜13の表面上に、EL膜14を形成する。その後、図15に示すように、EL膜14上に、共通電極となる導電性膜15を形成する。
【0056】
なお、上記製造方法において、透明導電性膜12、金属膜13、EL膜14及び導電性膜15の形成に際しては、スパッタリングや蒸着等の周知の成膜技術を用いることができる。
【0057】
上記製造方法によれば、ITO膜12及び金属膜13からなる積層膜を良好に加工することができる。すなわち、ITO膜12を残したまま金属膜13だけを良好な加工状態で除去することができ、また、ガラス基板11に損傷を与えることなくITO膜12及び金属膜13の両方を良好な加工状態で除去することができる。したがって、ITO膜12やEL膜14の微細加工を高精度に行うことができる。
【0058】
次に、本発明に係る第2のEL素子32(図19参照)の製造方法を説明する。この第2EL素子32は、EL膜14を共通電極で封止したものである。
【0059】
本製造に際しては、始めに第1EL素子31の製造と同様、ガラス基板11上にITOからなる透明導電性膜12及びCrからなる金属膜13を順に形成し(図11参照)、ピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射することにより、金属膜13及び透明導電性膜12を一括して個別化する(図12参照)。なお、この場合も、0.1mm/s以下の走査速度でレーザ光を走査させることが好ましい。
【0060】
次に、図16に示すように、金属膜13の表面側に絶縁膜16を形成する。そして、図17に示すように、ピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の短パルスレーザ光を絶縁膜16の表側から照射し、絶縁膜16及び金属膜13の一部を一括して除去することにより、透明導電性膜12の一部を露出させる。なお、この際にも、0.1mm/s以下の走査速度でレーザ光を走査させることが好ましい。
【0061】
次に、図18に示すように、透明導電性膜12の露出部分とこの露出部分の両側の絶縁膜16の表面上に、EL膜14を形成する。
【0062】
その後、図19に示すように、EL膜14の全体を覆うように、絶縁膜16の表面側に共通電極となる導電性膜15を形成する。言い換えると、導電性膜15によってEL膜14を覆い、EL膜14を導電性膜15で封止する。
【0063】
なお、上記製造方法において、透明導電性膜12、金属膜13、絶縁膜16、EL膜14及び導電性膜15の形成に際しては、スパッタリングや蒸着等の周知の成膜技術を用いることができる。
【0064】
上記製造方法においても、ITO膜12やEL膜14の微細加工を高精度に行うことができる。加えて、第2EL素子32では、EL膜14が導電性膜15によって封止されているので、EL膜14が水分や空気に触れることを防止することができる。したがって、EL膜14の品質劣化を防止することができ、信頼性の向上及び長寿命化を図ることができる。
【0065】
なお、上記製造方法においては、ステージ6を移動させることによってレーザ光を走査させていたが、反射鏡3を揺動させることによってレーザ光を走査させてもよい。レーザ光の走査方法は何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【図1】短パルスレーザ加工システムの構成図である。
【図2】(a)はピーク出力が25.6MW/cm2のレーザ加工後におけるITO膜の加工状態を示す光学顕微鏡写真図であり、(b)はその断面図である。
【図3】(a)はピーク出力が2.394GW/cm2のレーザ加工後におけるITO膜の加工状態を示す光学顕微鏡写真図であり、(b)はその断面図である。
【図4】ピーク出力と加工線幅との関係を示したグラフである。
【図5】走査速度とテーパ率との関係を示したグラフである。
【図6】テーパ率を説明するための図である。
【図7】レーザ加工後におけるITO膜の加工状態を示す光学顕微鏡写真図である。
【図8】供試体の断面図である。
【図9】ピーク出力と加工幅との関係を示すグラフである。
【図10】レーザ加工後における供試体の加工状態を示す光学顕微鏡写真図である。
【図11】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図12】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図13】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図14】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図15】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図16】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図17】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図18】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図19】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【符号の説明】
1 短パルスレーザ加工システム
2 レーザ発生装置
3 反射鏡
4 シャッター
5 アテネータ
6 ステージ
7 集光レンズ
10 加工対象物
11 ガラス基板
12 透明導電性膜
13 金属膜
14 EL膜
15 導電性膜
16 絶縁膜
31 第1EL素子
32 第2EL素子
【発明の属する技術分野】
本発明は、透明電極の製造方法及びEL素子の製造方法に係り、特に、レーザ光を用いた透明電極及びEL素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、各種表示装置における発光素子として、EL素子が用いられている。EL素子は、無機化合物や有機化合物などからなる発光材料を電極で挟んで構成され、電極の一方にはITO等の透明電極が用いられることが多い。通常、電極の微細加工(パターン化)は、フォトリソグラフィとウェットエッチング又はドライエッチングにより行われる。しかし、発光材料には水に弱い性質を有するものがあり、そのような発光材料を用いたEL素子を製造する場合には、ウェットプロセスを採用することはできない。この場合、EL素子の製造工程のすべてにおいて、ドライでクリーンなプロセスが要求される。
【0003】
ドライかつクリーンな加工方法として、レーザ光を用いた加工方法が挙げられる。特許文献1には、レーザ光を用いたEL素子の微細パターン化方法が記載されている。この方法は、加工エッジ周辺部や下地層に対する損傷をできるだけ抑えながら微細加工を可能にすることを目的とし、レーザ光のフルーエンスを10〜220mJ/cm2に規定するものである。しかし、上記方法は、EL素子のうち、非透明の金属系電極又は発光材料と金属系電極との積層体を微細加工するものであり、透明電極自体を加工するものではない。
【0004】
一方、金属系電極や発光素子だけでなく、透明電極自体をレーザ光で加工する方法も望まれている。しかし、例えばレーザ光として波長が1.05μm程度のYAGレーザ光を用いたとすると、その光学的エネルギーは1.23eVである。一方、透明材料であるITOは、通常は3.7eV以上のバンドギャップを有している。そのため、赤外や可視光の領域では十分な吸収が起こらず、十分なレーザー加工は困難である。そこで、透明材料をレーザ光で加工する方法として、紫外領域以下の波長のレーザ光を用いる方法が提案されている。例えば特許文献2には、透明材料又は透明材料と金属膜とを組み合わせたものに対し、エキシマレーザ光を照射して電極を加工する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平8−222371号公報
【特許文献2】
特開昭61−105885号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、実際には、レーザ光のフルーエンスを上記特許文献1に記載された前記範囲に保つだけでは、必ずしもエッジ部や下地層の損傷を防ぐことはできなかった。そのため、エッジ部や下地層の損傷を十分に防ぐことができる他の手法が待ち望まれていた。また、前述した通り、上記特許文献1の方法では透明電極を十分に加工することができなかった。そのため、金属系電極と透明電極とを適宜選択的に加工することができず、利便性に劣っていた。
【0007】
一方、エキシマレーザ光による加工では、微細加工を行うに当たってパワーを下げる必要があるが、パワーの低下とともにITOの完全な除去が難しくなり、加工物にITOの残渣物が残るという問題があった。また、エキシマレーザ光の波長が透明材料の吸収波長域にあり、熱的プロセスにより加工が行われるため、加工部の周辺の損傷や下地層への影響が大きく、精度の高い微細加工が難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加工部の周辺や下地層の損傷を防止しつつ透明電極やEL素子の微細加工を可能にするレーザ加工技術を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本願発明者は、パルス幅の小さな短パルスレーザ光を用い、エネルギーを時間的に集約しつつレーザ強度を十分に大きくし、多光子吸収を起こすように加工を行う方法に思い至った。この方法によれば、吸収波長域外の材料も加工することができ、透明電極及びEL素子の加工方法として好適である。しかし、上記方法を実際に応用するには何らかの指針が必要である。そこで、本願発明者は、試行錯誤の結果、短パルスレーザ光のピーク出力に着目し、このピーク出力を調節することによって良好な微細加工が可能となることを見い出した。
【0010】
本発明に係る透明電極の製造方法は、基板上に透明導電性膜を形成する工程と、前記透明導電性膜に対してピーク出力が2〜25GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記透明導電性膜を加工するレーザ加工工程とを備えているものである。
【0011】
上記方法によれば、基板に損傷を与えることなく、また、透明導電性膜の残渣物を残すことなく、透明導電性膜を加工することができる。また、加工後の透明導電性膜のエッジ部分にテーパが形成されにくく、シャープな加工形状を得ることができる。したがって、高精度な透明電極の加工を行うことができ、高品質の透明電極を得ることができる。
【0012】
本発明に係る透明電極の製造方法は、基板上に透明導電性膜を形成する工程と、前記透明導電性膜上に金属膜を形成する工程と、前記金属膜に対してピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記金属膜の一部を除去して前記透明導電性膜の一部を露出させるレーザ加工工程とを備えているものである。
【0013】
上記方法によれば、透明導電性膜に損傷を与えることなく金属膜を加工することができる。また、加工後の金属膜のエッジ部分にテーパが形成されにくく、シャープな加工形状を得ることができる。
【0014】
本発明に係る透明電極の製造方法は、基板上に透明導電性膜を形成する工程と、前記透明導電性膜上に金属膜を形成する工程と、前記金属膜側からピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記金属膜の一部とその裏側の透明導電性膜とを一括して除去するレーザ加工工程とを備えているものである。
【0015】
上記方法によれば、基板に損傷を与えることなく金属膜及び透明導電性膜の両方を一括して加工することができる。また、加工後の金属膜及び透明導電性膜のエッジ部分にテーパが形成されにくく、シャープな加工形状を得ることができる。
【0016】
前記レーザ加工工程は、レーザ光の照射位置を0.1mm/s以下の走査速度で走査させながら加工を行う工程であることが好ましい。
【0017】
このことにより、加工形状を更に良好なものにすることができる。
【0018】
前記短パルスレーザ光は、ピコ秒レーザ光であることが好ましい。
【0019】
前記短パルスレーザ光は、パルス幅が10フェムト秒〜100ピコ秒のパルスレーザ光であることが好ましい。
【0020】
本発明に係るEL素子は、前記製造方法により製造された透明電極と、前記透明電極上に形成されたEL膜と、前記EL膜上に形成された電極とを備えているものである。
【0021】
このことにより、高品質のEL素子を得ることができる。
【0022】
本発明に係るEL素子の製造方法は、基板上に透明導電性膜からなる第1の導電性膜を形成する工程と、前記第1導電性膜上に第2の導電性膜を形成する工程と、前記第2導電性膜側からピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記第1及び第2導電性膜の一部を一括して除去することによって該第1及び第2導電性膜を一括して個別化する工程と、前記第2導電性膜にピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、該第2導電性膜を部分的に除去することによって前記第1導電性膜の一部を露出させる工程と、少なくとも前記第1導電性膜の露出部の表面上にEL膜を形成する工程と、前記EL膜上に第3の導電性膜を形成する工程とを備えているものである。
【0023】
上記製造方法によれば、高品質なEL素子を得ることができる。
【0024】
本発明に係るEL素子の製造方法は、基板上に透明導電性膜からなる第1の導電性膜を形成する工程と、前記第1導電性膜上に第2の導電性膜を形成する工程と、前記第2導電性膜側からピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記第1及び第2導電性膜の一部を一括して除去することによって該第1及び第2導電性膜を一括して個別化する工程と、前記第2導電性膜側から絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜側から短パルスレーザ光を照射し、前記絶縁膜及び前記第2導電性膜の一部を一括して除去することによって前記第1導電性膜の一部を露出させる工程と、少なくとも前記第1導電性膜の露出部の表面上にEL膜を形成する工程と、前記EL膜上に第3の導電性膜を形成する工程とを備えているものである。
【0025】
上記製造方法によれば、高品質なEL素子を得ることができる。加えて、EL膜が導電性膜に封止されているので、別途新たな保護膜を設けなくても、水分や酸素などの活性種によるEL膜の劣化を防ぐことができる。
【0026】
【発明の効果】
以上より、本発明によれば、下地層の損傷を防ぎつつ、下地層上の透明電極やEL膜等を高精度に加工することができる。また、加工部の周辺にテーパが生じることを抑制又は防止することができる。そのため、加工後にシャープなエッジ部を得ることができ、良好な加工形状を得ることができる。したがって、高品質な透明電極又はEL素子を得ることが可能となる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1は、短パルスレーザ加工システム1の構成を示している。このレーザ加工システム1は、レーザ発生装置2と、レーザ発生装置2から出力されたレーザ光の向きを変える反射鏡3と、反射鏡3に反射されたレーザ光を透過又は遮断するシャッター4と、アテネータ5と、集光レンズ7と、加工対象物10を支持するステージ6とを備えている。
【0029】
レーザ発生装置2は、いわゆるピコ秒レーザ光の出力が可能な装置であり、20ピコ秒のパルス幅を有する短パルスレーザ光を出力することができる。
【0030】
アテネータ5はレーザ光の透過量を調節するものであり、このアテネータ5によって、加工に必要な光量を調整することができる。ステージ6は、いわゆるXYステージからなり、2次元移動が自在に構成されている。そして、このステージ6を移動させることにより、加工対象物10に対するレーザ光の照射位置が移動する。
【0031】
なお、上記レーザ加工システム1は例示であり、本願発明に係る製造方法を実施するためのシステムは上記システム1に何ら限定されるものではない。
【0032】
本願発明では、短パルスレーザ光のピーク出力を特定の範囲に規定する。以下、その理由を説明する。
【0033】
−ピーク出力の影響について−
始めに、レーザ光のパルス幅及びフルーエンスの影響を調べるために、以下のような実験を行った。
【0034】
本実験では、ガラス基板上に厚さ0.1μmのITO膜を形成しておき、所定条件のレーザ光を上記ITO膜に照射し、このITO膜に直線状の溝を形成した。そして、溝の形状及びITO膜のエッジ部を光学顕微鏡にて観察し、レーザ加工の評価を行った。
【0035】
まず、ナノ秒レーザ光を用いた実験(実験1)について説明する。ITO膜に対して十分大きなエネルギーを与えるために、レーザ光のフルーエンスは1パルス当たり約2500mJ/cm2と大きめに設定した。ただし、ピーク出力は25.6MW/cm2である。具体的には、下記表1に示す条件のレーザ光を照射した。
【0036】
【表1】
【0037】
その結果、図2に示すように、レーザ光を照射した部分についてはITO膜51をほとんど除去することができたものの、ガラス基板52上にわずかにITOの残渣物54が残ってしまった。また、溝の両側にテーパ状のエッジ部53が残ってしまい、シャープな加工形状を得ることはできなかった。
【0038】
次に、表2に示す条件のレーザ光を用いて、同様の実験を行った(実験2)。このレーザ光はいわゆるピコ秒レーザ光であり、ピーク出力は約2.4GW/cm2である。
【0039】
【表2】
【0040】
その結果、図3に示すように、レーザ光を照射した部分においてITO膜51をきれいに除去することができ、溝55の両側には、ガラス基板52の表面にほぼ垂直なエッジ部53が形成された。したがって、良好な加工形状を得ることができた。
【0041】
このように、加工形状に最も影響を及ぼすと考えられていたフルーエンスは実験2よりも実験1の方が高い値であったにも拘わらず、加工形状は実験2の方が実験1よりも良好であった。そこで、フルーエンスよりもピーク出力の大小の方が加工形状に及ぼす影響が大きいと考え、ピーク出力を変化させて同様の実験を行った。その結果を図4に示す。
【0042】
顕微鏡写真による観察の結果、ピーク出力が2GW/cm2以上では、加工形状が良好であることが分かった。一方、ピーク出力が25GW/cm2を超えると、ガラス基板に損傷が見られた。そのため、ピーク出力を2〜25GW/cm2の範囲に規定することによって、基板に損傷を与えずに良好な加工を実現することができる。
【0043】
−走査速度の影響について−
表3に示す条件下でレーザ光の走査速度を段階的に変化させ、走査速度とエッジ部のテーパ形状との関係を調べてみた。
【0044】
【表3】
【0045】
図5は、走査速度とテーパ率との関係を示している。ここでテーパ率Tは、レーザ光の加工幅をb、両側のテーパ部の幅を2aとした場合に、T=2a/bで定義される値である(図6参照)。したがって、テーパ率が小さいほど加工形状は良好となる。
【0046】
図5から、走査速度が遅いほどテーパ率が小さいことが分かる。また、走査速度が0.1mm/sであれば、平均出力に拘わらず、テーパ率は零又はほぼ零に近い値になることが分かる。言い換えると、ピーク出力に拘わらず、走査速度を0.1mm/s以下にすることによって良好な加工形状を得ることができる。
【0047】
図7は、走査速度が0.1mm/s、0.4mm/s、0.7mm/s、1.0mm/sの場合におけるエッジ部の加工形状を示している。図7から、走査速度が小さくなるほどテーパ部は小さくなり、走査速度が0.1mm/sの場合にはテーパ部が見られなくなることが分かる。
【0048】
−ITO膜及び金属膜の選択的加工−
次に、図8に示すように、ガラス基板52上にITO膜51及び金属膜56を順に積層して供試体57を形成し、レーザ光を照射してITO膜51及び金属膜56を加工する実験を行った。ここでは、金属膜56の材料としてクロム(Cr)を用いた。ITO膜51、金属膜56の膜厚は、それぞれ0.1μm、0.15μmとした。
【0049】
図9に、ピーク出力と加工形状との関係を示す。実験の結果、ピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の範囲では、加工形状を良好に保ちつつ金属膜56のみを除去することができた。一方、ピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の範囲では、加工形状を良好に保ちつつ金属膜56及びITO膜51の双方を一括して除去することができた。
【0050】
次に、レーザ光の走査速度を段階的に変化させ、エッジ部の形状を観察した。図10は、走査速度が0.1mm/s、0.4mm/s、0.7mm/s、1.0mm/sの場合におけるエッジ部の加工形状を示している。図10から、走査速度が小さくなるほどテーパ部は小さくなり、走査速度が0.1mm/sの場合にはテーパ部が見られなくなることが分かる。また、走査速度が小さいほどエッジ部の形状の乱れが少なくなり、走査速度が0.1mm/sの場合には形状の乱れがほとんど見られなくなることが分かる。
【0051】
−透明電極及びEL素子の製造方法−
次に、本発明に係る透明電極及びEL素子の製造方法について説明する。
【0052】
始めに、本発明に係る第1のEL素子31(図15参照)の製造方法について説明する。第1EL素子31の製造に際しては、まず、図11に示すように、ガラス基板11の表面にITOからなる透明導電性膜12を形成し、この透明導電性膜12の表面にCrからなる金属膜13を形成する。
【0053】
次に、図12に示すように、ピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を金属膜13側から照射し、金属膜13及び透明導電性膜12の一部を一括して除去することにより、金属膜13及び透明導電性膜12を一括して個別化する。なお、レーザ光による加工に際しては、ステージ6を移動させることによって、レーザ光の照射位置を0.1mm/s以下の速度で移動させることが好ましい。
【0054】
次に、図13に示すように、ピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の短パルスレーザ光を金属膜13に照射し、金属膜13の一部を除去することによって透明導電性膜12の一部を露出させる。なお、この際もレーザ光の照射位置を0.1mm/s以下の速度で移動させることが好ましい。
【0055】
次に、図14に示すように、透明導電性膜12の露出部分とこの露出部分の両側の金属膜13の表面上に、EL膜14を形成する。その後、図15に示すように、EL膜14上に、共通電極となる導電性膜15を形成する。
【0056】
なお、上記製造方法において、透明導電性膜12、金属膜13、EL膜14及び導電性膜15の形成に際しては、スパッタリングや蒸着等の周知の成膜技術を用いることができる。
【0057】
上記製造方法によれば、ITO膜12及び金属膜13からなる積層膜を良好に加工することができる。すなわち、ITO膜12を残したまま金属膜13だけを良好な加工状態で除去することができ、また、ガラス基板11に損傷を与えることなくITO膜12及び金属膜13の両方を良好な加工状態で除去することができる。したがって、ITO膜12やEL膜14の微細加工を高精度に行うことができる。
【0058】
次に、本発明に係る第2のEL素子32(図19参照)の製造方法を説明する。この第2EL素子32は、EL膜14を共通電極で封止したものである。
【0059】
本製造に際しては、始めに第1EL素子31の製造と同様、ガラス基板11上にITOからなる透明導電性膜12及びCrからなる金属膜13を順に形成し(図11参照)、ピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射することにより、金属膜13及び透明導電性膜12を一括して個別化する(図12参照)。なお、この場合も、0.1mm/s以下の走査速度でレーザ光を走査させることが好ましい。
【0060】
次に、図16に示すように、金属膜13の表面側に絶縁膜16を形成する。そして、図17に示すように、ピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の短パルスレーザ光を絶縁膜16の表側から照射し、絶縁膜16及び金属膜13の一部を一括して除去することにより、透明導電性膜12の一部を露出させる。なお、この際にも、0.1mm/s以下の走査速度でレーザ光を走査させることが好ましい。
【0061】
次に、図18に示すように、透明導電性膜12の露出部分とこの露出部分の両側の絶縁膜16の表面上に、EL膜14を形成する。
【0062】
その後、図19に示すように、EL膜14の全体を覆うように、絶縁膜16の表面側に共通電極となる導電性膜15を形成する。言い換えると、導電性膜15によってEL膜14を覆い、EL膜14を導電性膜15で封止する。
【0063】
なお、上記製造方法において、透明導電性膜12、金属膜13、絶縁膜16、EL膜14及び導電性膜15の形成に際しては、スパッタリングや蒸着等の周知の成膜技術を用いることができる。
【0064】
上記製造方法においても、ITO膜12やEL膜14の微細加工を高精度に行うことができる。加えて、第2EL素子32では、EL膜14が導電性膜15によって封止されているので、EL膜14が水分や空気に触れることを防止することができる。したがって、EL膜14の品質劣化を防止することができ、信頼性の向上及び長寿命化を図ることができる。
【0065】
なお、上記製造方法においては、ステージ6を移動させることによってレーザ光を走査させていたが、反射鏡3を揺動させることによってレーザ光を走査させてもよい。レーザ光の走査方法は何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【図1】短パルスレーザ加工システムの構成図である。
【図2】(a)はピーク出力が25.6MW/cm2のレーザ加工後におけるITO膜の加工状態を示す光学顕微鏡写真図であり、(b)はその断面図である。
【図3】(a)はピーク出力が2.394GW/cm2のレーザ加工後におけるITO膜の加工状態を示す光学顕微鏡写真図であり、(b)はその断面図である。
【図4】ピーク出力と加工線幅との関係を示したグラフである。
【図5】走査速度とテーパ率との関係を示したグラフである。
【図6】テーパ率を説明するための図である。
【図7】レーザ加工後におけるITO膜の加工状態を示す光学顕微鏡写真図である。
【図8】供試体の断面図である。
【図9】ピーク出力と加工幅との関係を示すグラフである。
【図10】レーザ加工後における供試体の加工状態を示す光学顕微鏡写真図である。
【図11】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図12】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図13】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図14】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図15】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図16】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図17】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図18】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図19】EL素子の製造工程の一部を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【符号の説明】
1 短パルスレーザ加工システム
2 レーザ発生装置
3 反射鏡
4 シャッター
5 アテネータ
6 ステージ
7 集光レンズ
10 加工対象物
11 ガラス基板
12 透明導電性膜
13 金属膜
14 EL膜
15 導電性膜
16 絶縁膜
31 第1EL素子
32 第2EL素子
Claims (9)
- 基板上に透明導電性膜を形成する工程と、
前記透明導電性膜に対してピーク出力が2〜25GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記透明導電性膜を加工するレーザ加工工程とを備えている透明電極の製造方法。 - 基板上に透明導電性膜を形成する工程と、
前記透明導電性膜上に金属膜を形成する工程と、
前記金属膜に対してピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記金属膜の一部を除去して前記透明導電性膜の一部を露出させるレーザ加工工程とを備えている透明電極の製造方法。 - 基板上に透明導電性膜を形成する工程と、
前記透明導電性膜上に金属膜を形成する工程と、
前記金属膜側からピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記金属膜の一部とその裏側の透明導電性膜とを一括して除去するレーザ加工工程とを備えている透明電極の製造方法。 - 前記レーザ加工工程は、レーザ光の照射位置を0.1mm/s以下の走査速度で走査させながら加工を行う工程である請求項1〜3のいずれか一つに記載の透明電極の製造方法。
- 前記短パルスレーザ光は、ピコ秒レーザ光である請求項1〜4のいずれか一つに記載の透明電極の製造方法。
- 前記短パルスレーザ光は、パルス幅が10フェムト秒〜100ピコ秒のパルスレーザ光である請求項1〜4のいずれか一つに記載の透明電極の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれか一つに記載の透明電極の製造方法により製造された透明電極と、
前記透明電極上に形成されたEL膜と、
前記EL膜上に形成された電極とを備えているEL素子。 - 基板上に透明導電性膜からなる第1の導電性膜を形成する工程と、
前記第1導電性膜上に第2の導電性膜を形成する工程と、
前記第2導電性膜側からピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記第1及び第2導電性膜の一部を一括して除去することによって該第1及び第2導電性膜を一括して個別化する工程と、
前記第2導電性膜にピーク出力が0.8〜1.6GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、該第2導電性膜を部分的に除去することによって前記第1導電性膜の一部を露出させる工程と、
少なくとも前記第1導電性膜の露出部の表面上にEL膜を形成する工程と、
前記EL膜上に第3の導電性膜を形成する工程と
を備えているEL素子の製造方法。 - 基板上に透明導電性膜からなる第1の導電性膜を形成する工程と、
前記第1導電性膜上に第2の導電性膜を形成する工程と、
前記第2導電性膜側からピーク出力が3.1〜10.2GW/cm2の短パルスレーザ光を照射し、前記第1及び第2導電性膜の一部を一括して除去することによって該第1及び第2導電性膜を一括して個別化する工程と、
前記第2導電性膜側から絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜側から短パルスレーザ光を照射し、前記絶縁膜及び前記第2導電性膜の一部を一括して除去することによって前記第1導電性膜の一部を露出させる工程と、
少なくとも前記第1導電性膜の露出部の表面上にEL膜を形成する工程と、
前記EL膜上に該EL膜を封止する第3の導電性膜を形成する工程と
を備えているEL素子の製造方法。
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JP2010287800A (ja) * | 2009-06-12 | 2010-12-24 | Tokki Corp | 有機デバイスの製造装置並びに有機デバイスの製造方法 |
-
2003
- 2003-02-12 JP JP2003034042A patent/JP2004247099A/ja active Pending
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