JP2004245290A - 無段変速機構を含む駆動系統の制御装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】無段変速機構に対して直列に配列されたクラッチの係合圧を、前記無段変速機構よりも先にクラッチに滑りが生じるように制御し、かつそのクラッチの係合圧を学習する学習手段を備えた無段変速機構を含む駆動系統の制御装置であって、前記クラッチに対する入力トルクが予め定めた所定値以下の場合に前記学習手段による係合圧の学習を禁止する学習制御禁止手段(ステップS1201)と、その係合圧の学習が禁止されている場合に前記係合圧を予め定めた所定の圧力に設定する係合圧設定手段(ステップS1202)とを備えている。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ベルトやパワーローラなどのトルクの伝達を媒介するトルク伝達部材を、プーリーやディスクなどの回転部材に直接もしくは間接的に接触させ、接触圧力に応じてトルク容量が変化する無段変速機構を含む駆動系統の制御装置に関し、特に無段変速機構に対して直列に配列されたクラッチの係合圧を制御するための制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
無段変速機構は、ベルトやパワーローラなどのトルクの伝達を媒介する部材とプーリーやディスクとの接触位置あるいはトルク伝達位置を連続的に変化させて、変速比を無段階に変更するように構成されている。そのトルクの伝達は、摩擦力あるいはトラクションオイルのせん断力を利用しておこなわれる。したがって、トルクを伝達する部材とプーリーあるいはディスクとの接触圧あるいはトルクを伝達する部材を挟み付ける圧力(すなわち挟圧力)と、摩擦係数あるいはトラクションオイルのせん断力とに基づいて定まるトルク容量を超えてトルクが作用すると、ベルトやパワーローラの滑りが生じる。
【0003】
ベルトやパワーローラの滑りが過剰に生じると、プーリーやディスクに摩耗が生じ、その結果、その摩耗部分でのトルクの伝達ができなくなって無段変速機構としての機能を果たさなくなる。そのため、無段変速機構を搭載した車両の走行中に無段変速機構での滑りが生じないようにするためには、挟圧力を高くしてトルク容量を大きくしておくことが考えられる。
【0004】
しかしながら、挟圧力を高くすると、無段変速機構での動力の伝達効率が低下し、また油圧を発生させるオイルポンプを駆動するために多くの動力を消費することになるので、車両の燃費が悪化する。したがって、無段変速機構の挟圧力は滑りが生じない範囲で可及的に低くすることが好ましい。
【0005】
その場合、エンジンの出力トルクや車輪側の負トルクが頻繁にあるいは大きく変化する非定常的な走行状態であれば、無段変速機構に作用するトルクが予測できないので、安全率あるいはトルク容量の余裕代(言い換えれば定常状態で滑りの生じない最小もしくは限界のトルク容量に対するトルク容量の超過量)を大きくして、ある程度高い挟圧力に設定せざるを得ない。これに対して定常的あるいは準定常的な走行状態であれば、無段変速機構に作用するトルクが安定するので、滑りが生じる直前の状態程度まで、挟圧力を下げることができる。
【0006】
しかしながら、定常的あるいは準定常的な走行状態であっても不測のトルクが生じることがあるので、たとえその場合であっても無段変速機構の滑りを防止もしくは回避する必要がある。
【0007】
そのため、例えば従来、特開平10−2390号公報(特許文献1)に記載された発明では、エンジンから駆動輪に至る動力伝達経路内にクラッチおよびベルト式無段変速機を備え、クラッチのクラッチ締結力およびベルト式無段変速機のベルト押圧力を制御するベルト式無段変速機付車両の制御装置において、クラッチのスリップを検出するクラッチスリップ検出手段と、滑りが生じる締結力に対するクラッチ締結力の余裕が、ベルト式無段変速機で滑りが生じるベルト押圧力に対するベルト押圧力の余裕よりも小さくなるように、クラッチ締結力およびベルト押圧力をそれぞれ制御する制御手段とを備え、クラッチのスリップが検出されたときにはクラッチ締結力およびベルト押圧力をそれぞれ増大制御するとともに、クラッチのスリップが検出されないときにはクラッチ締結力およびベルト押圧力をそれぞれ減少制御するように構成している。したがってこの公報に記載された装置では、無段変速機でベルトの滑りが生じるよりも先にクラッチがスリップすることになる。そのため、クラッチの滑りを生じさせている以上のトルクが無段変速機に作用しないので、いわゆる外乱トルクによる無段変速機の滑りを未然に防止することができる。
【0008】
また、従来、特開平7−253154号公報(特許文献2)には、スロットル開度が極小値の場合と極小値でない場合とで、ライン圧の学習制御の内容を変更するように構成した発明が記載されている。
【0009】
【特許文献1】
特開平10−2390号公報(段落番号0007〜0039)
【特許文献2】
特開平7−253154号公報(段落番号0026〜0033)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
トルクが変化した場合の滑りが生じるまでのいわゆる余裕代を無段変速機よりもクラッチで小さくする上記の公報に記載された装置では、無段変速機での伝達トルク容量の下限値がクラッチで設定されている伝達トルク容量によって制限される。すなわち、クラッチの係合圧が相対的に高くてその伝達トルク容量が大きい場合には、無段変速機での伝達トルク容量をクラッチよりも高くするべく挟圧力を高くすることになる。したがってクラッチの伝達トルク容量が大きくなってしまった場合には、無段変速機での挟圧力が相対的に高くなるので、動力の伝達効率の向上や耐久性の向上などの所期の目的を必ずしも充分には達成できないことになる。
【0011】
そこで上記の特開平10−2390号公報に記載された発明では、滑りが生じない場合にはクラッチ締結力を低下させ、滑りが検出された場合にはクラッチ締結力を増大させるとしているが、このような構成では、滑りの生じない範囲で最低のクラッチ係合圧(すなわち滑り限界圧)を安定的に設定することができず、制御のハンチングが生じる可能性がある。また、滑りが検出されない場合の締結力を維持するとすれば、クラッチの伝達トルク容量が相対的に大きくなって、無段変速機での挟圧力を必要十分に低下させることができない可能性がある。
【0012】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、クラッチを無段変速機構に先行して滑らせるようにクラッチの係合圧を設定するに際し、クラッチのトルク容量を無段変速機構のトルク容量より確実に小さくして無段変速機構の滑りを防止することのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段およびその作用】
この発明は、上記の目的を達成するために、油圧のばらつきの大きい場合には、クラッチ圧の学習を禁止し、またクラッチの係合圧が学習されていない場合に、既に得られている学習値を考慮してクラッチの係合圧を制御するように構成したことを特徴とするものである。より具体的には、請求項1の発明は、無段変速機構に対して直列に配列されたクラッチの係合圧を、前記無段変速機構よりも先にクラッチに滑りが生じるように制御し、かつそのクラッチの係合圧を学習する学習手段を備えた無段変速機構を含む駆動系統の制御装置であって、前記クラッチに対する入力トルクが予め定めた所定値以下の場合に前記学習手段による係合圧の学習を禁止する学習制御禁止手段と、その係合圧の学習が禁止されている場合に前記係合圧を予め定めた所定の圧力に設定する係合圧設定手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0014】
したがって請求項1の発明では、クラッチに対する入力トルクが所定値以下の場合には、そのクラッチの係合圧についての学習が禁止される。また、その係合圧が予め定めた所定の圧力に設定される。そのため、制御指令値に対する実際の係合圧のばらつきが大きい低トルク域、言い換えれば、制御指令値およびそれに伴う係合圧が小さい状態での係合圧の学習に伴うばらつきの大きい学習値を係合圧として採用することが回避され、クラッチの係合圧が無段変速機構よりも先にクラッチで滑りが生じる圧力に確実に設定される。
【0015】
また、請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記入力トルクが前記所定値よりも大きいトルクに増大した場合、既に得られている学習値による係合圧が前記係合圧設定手段で設定された係合圧より高ければ、前記クラッチの係合圧をその学習値による係合圧に直ちに増大させ、これとは反対に前記学習値による係合圧が前記係合圧設定手段で設定された係合圧より低ければ、前記クラッチの係合圧をその学習値による係合圧に前記増大させる場合よりも遅い速度で低下させる係合圧制御手段を更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0016】
したがって請求項2の発明では、前記係合圧の学習をおこなうトルクに前記入力トルクが増大し、それに伴って係合圧を変化させる場合、既に学習がおこなわれていて係合圧を学習値に基づく圧力に昇圧するのであれば、直ちに係合圧が増大させられ、これとは反対に学習値に基づく圧力に前記係合圧を低下させるのであれば、昇圧時よりゆっくりとした速度で係合圧が低下させられる。そのため、係合圧が相対的に低い状態が迅速に解消され、また係合圧を低下させる場合にオーバーシュートやそれに起因して過剰に低圧になることが回避される。その結果、クラッチの係合圧の不足が抑制され、たとえばクラッチのトルク容量が無段変速機構でのトルク容量に対して小さくなる事態が防止される。
【0017】
さらに、請求項3の発明は、請求項1または2の構成において、前記入力トルクが前記所定値よりも大きくかつ前記学習値が得られていないトルクに増大した場合、その増大した入力トルクに対応する係合圧として、既に得られている他の入力トルクに対する学習値に基づいて推定した学習値に所定油圧を加えた補正油圧を設定する補正油圧設定手段を更に備え、その補正油圧に設定された後に前記学習手段による係合圧の学習をおこなうように構成されていることを特徴とする制御装置である。
【0018】
したがって請求項3の発明では、クラッチに対する入力トルクが、学習の禁止されているトルクから学習のおこなわれるトルクに増大したものの、その増大したトルクに対応する前記学習値が得られていない場合、他のトルクについての既学習値に基づいて、増大したトルクに対応する補正した係合圧が設定され、その状態をもとに係合圧の学習がおこなわれる。そのため、学習値が得られていないトルクに入力トルクが増大しても、既学習値を考慮した圧力に係合圧が変更されるので、係合圧の相対的な過不足が防止され、またその後の学習が迅速に実行される。
【0019】
そして、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの構成に加えて、前記入力トルクが前記所定値より大きくかつ前記学習手段による学習値が得られているトルクである場合に、その入力トルクに対応する係合圧として、学習値により設定された油圧に所定油圧を加えた補正油圧を設定する補正油圧設定手段を更に備え、その補正油圧に設定された後に前記学習手段による係合圧に徐々に移行するように構成されていることを特徴とする制御装置である。
【0020】
したがって請求項4の発明では、係合圧の学習値が得られているトルクに前記入力トルクが変化した場合、学習値より設定された油圧に所定油圧を加えた係合圧が設定され、その状態から学習値により設定された係合圧への移行がおこなわれる。そのため、入力トルクが増大し、係合圧も増大する場合に、油圧の応答遅れによるクラッチの解放が防止される。
【0021】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする無段変速機構を含む駆動系統について説明すると、この発明は、車両に搭載される駆動系統を対象とすることができ、その駆動系統に含まれる無段変速機構は、ベルトをトルク伝達部材としたベルト式の無段変速機構や、パワーローラをトルク伝達部材とするとともにオイル(トラクション油)のせん断力を利用してトルクを伝達するトロイダル型(もしくはトラクション式)無段変速機構である。図17には、ベルト式無段変速機構1を含む車両用駆動系統の一例を模式的に示しており、この無段変速機構1は、前後進切換機構2およびトルクコンバータ3を介して、動力源4に連結されている。
【0022】
その動力源4は、一般の車両に搭載されている動力源と同様のものであって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの内燃機関や、電動機、あるいは内燃機関と電動機とを組み合わせた機構などを採用することができる。なお、以下の説明では、動力源4をエンジン4と記す。
【0023】
エンジン4の出力軸に連結されたトルクコンバータ3は、従来一般の車両で採用しているトルクコンバータと同様の構造であって、エンジン4の出力軸が連結されたフロントカバー5にポンプインペラー6が一体化されており、そのポンプインペラー6に対向するタービンランナー7が、フロントカバー5の内面に隣接して配置されている。これらのポンプインペラー6とタービンランナー7とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラー6が回転することによりフルードの螺旋流を生じさせ、その螺旋流をタービンランナー7に送ることによりタービンランナー7にトルクを与えて回転させるようになっている。
【0024】
また、ポンプインペラー6とタービンランナー7との内周側の部分には、タービンランナー7から送り出されたフルードの流動方向を変化させてポンプインペラー6に流入させるステータ8が配置されている。このステータ8は、一方向クラッチ9を介して所定の固定部10に連結されている。
【0025】
このトルクコンバータ3は、この発明におけるクラッチに相当するロックアップクラッチ(L/Uクラッチ)11を備えている。ロックアップクラッチ11は、ポンプインペラー6とタービンランナー7とステータ8とからなる実質的なトルクコンバータに対して並列に配置されたものであって、フロントカバー5の内面に対向した状態で前記タービンランナー7に保持されており、油圧によってフロントカバー5の内面に押し付けられることにより、入力部材であるフロントカバー5から出力部材であるタービンランナー7に直接、トルクを伝達するようになっている。なお、その油圧を制御することによりロックアップクラッチ11のトルク容量を制御できる。
【0026】
前後進切換機構2は、エンジン4の回転方向が一方向に限られていることに伴なって採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力し、また反転して出力するように構成されている。図17に示す例では、前後進切換機構2としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。
【0027】
すなわち、サンギヤ12と同心円上にリングギヤ13が配置され、これらのサンギヤ12とリングギヤ13との間に、サンギヤ12に噛合したピニオンギヤ14とそのピニオンギヤ14およびリングギヤ13に噛合した他のピニオンギヤ15とが配置され、これらのピニオンギヤ14,15がキャリヤ16によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、二つの回転要素(具体的にはサンギヤ12とキャリヤ16と)を一体的に連結する前進用クラッチ17が設けられ、またリングギヤ13を選択的に固定することにより、出力されるトルクの方向を反転する後進用ブレーキ18が設けられている。
【0028】
無段変速機構1は、従来知られているベルト式無段変速機構と同じ構成であって、互いに平行に配置された駆動プーリー19と従動プーリー20とのそれぞれが、固定シーブと、油圧式のアクチュエータ21,22によって軸線方向に前後動させられる可動シーブとによって構成されている。したがって各プーリー19,20の溝幅が、可動シーブを軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴なって各プーリー19,20に巻掛けたベルト23の巻掛け半径(プーリー19,20の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。そして、上記の駆動プーリー19が前後進切換機構2における出力要素であるキャリヤ16に連結されている。
【0029】
なお、従動プーリー20における油圧アクチュエータ22には、無段変速機構1に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が、図示しない油圧ポンプおよび油圧制御装置を介して供給されている。したがって、従動プーリー20における各シーブがベルト23を挟み付けることにより、ベルト23に張力が付与され、各プーリー19,20とベルト15との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じたトルク容量が設定される。これに対して駆動プーリー19における油圧アクチュエータ21には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
【0030】
無段変速機構1の出力部材である従動プーリー20がギヤ対24およびディファレンシャル25に連結され、さらにそのディファレンシャル25が左右の駆動輪26に連結されている。
【0031】
上記の無段変速機構1およびエンジン4を搭載した車両の動作状態(もしくは走行状態)を検出するために各種のセンサーが設けられている。すなわち、エンジン4の回転数(もしくはロックアップクラッチ11の入力回転数)を検出して信号を出力するエンジン回転数センサー27、タービンランナー7の回転数(もしくはロックアップクラッチ11の出力回転数)を検出して信号を出力するタービン回転数センサー28、駆動プーリー19の回転数を検出して信号を出力する入力回転数センサー29、従動プーリー20の回転数を検出して信号を出力する出力回転数センサー30などが設けられている。
【0032】
上記の前進用クラッチ17および後進用ブレーキ18の係合・解放の制御、および前記ベルト23の挟圧力の制御、ならびにロックアップクラッチ11の係合・解放を含むトルク容量の制御、さらには変速比の制御をおこなうために、変速機用電子制御装置(CVT−ECU)31が設けられている。この電子制御装置31は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算をおこない、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、ならびに変速比の設定などの制御を実行するように構成されている。また、エンジン4を制御するエンジン用電子制御装置(E−ECU)32が設けられ、これらの電子制御装置31,32の間で相互にデータを通信するようになっている。
【0033】
上記の無段変速機構1を含む駆動系統を対象としたこの発明に係る制御装置は、前記のロックアップクラッチ11を無段変速機構1に対するいわゆるトルクヒューズとして機能させるように構成されている。これは、具体的には、トルクの変化が少ない定常走行状態あるいは準定常走行状態において、その時点に作用しているトルクで滑りが生じないように無段変速機構1のトルク容量およびロックアップクラッチ11のトルク容量を設定し、かつ各々のトルク容量(伝達トルク)のいわゆる余裕すなわち滑りが生じない範囲で最低のトルク容量に安全を見込んで付与されている余裕トルク容量が、無段変速機構1におけるよりもロックアップクラッチ11で小さくなるように設定する。これは、駆動系統に作用するトルクが増大(正方向に増大)もしくは低下(負方向に増大)した場合に、無段変速機構1に先行してロックアップクラッチ11に滑りを生じさせて無段変速機構1の滑りを防止する制御である。
【0034】
この発明に係る制御装置は、この種のクラッチを無段変速機構1に対していわゆるトルクヒューズとして機能させる制御を以下のようにして実行する。図1および図2、図5、図6、図8から図16はその制御例を示すフローチャートである。
【0035】
この発明では、ロックアップクラッチ11の伝達トルクに余裕を与えるようにその係合圧を設定するにあたり、先ず、ロックアップクラッチ11が安定的にオン制御されていることから制御を始める。これが、制御の前提条件であり、したがって図1に示すように、先ず、その制御前提条件の成立が判断される(ステップS110)。
【0036】
ここで、安定的にオン制御されているとは、その時点の通常の走行状態で滑りを生じることなく係合状態を維持する係合圧が設定され、しかもその係合圧が過渡的な圧力でなく、安定して維持されている状態である。後述するように、係合状態から滑りが生じる直前の状態もしくは滑りの開始の係合圧にまで係合圧を低下させる制御をおこなうからである。
【0037】
すなわちエンジン回転数Ne および無段変速機構1の入力回転数Nin(もしくはタービン回転数Nt )がほぼ一定に安定しており、またロックアップクラッチ(L/Uクラッチ)11の油圧が滑りの生じない程度に高い圧力に一定しており、さらにベルト挟圧力がベルト滑りの生じない程度に高い圧力に一定している。これは、通常の走行状態すなわち「phase 」が“0”の制御内容である。なお、この「phase 」とは実行するべき制御内容に付した記号であり、図1以降に示すフローチャートでは制御ステップの行き先を示すようにも機能する。
【0038】
上記のステップS110で肯定的に判断された場合には、制御開始条件が成立しているか否かが判断される(ステップS120)。ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして作用させる制御は、エンジン4から入力される駆動トルク(あるいは正トルク)や駆動輪26側から掛かる負トルクが安定している場合に可能であり、したがってこのような定常状態もしくは準定常状態が継続していることが制御開始条件となる。その定常状態もしくは準定常状態とは、アクセル開度(図示しないアクセルペダルの踏み込み量)や無段変速機構1の出力側のトルク(例えば従動プーリー20の軸トルク)の所定時間内の変化が所定範囲内であることである。そして、その所定範囲は車速に応じた範囲とすることができる。また、油圧の制御が所期どおりに円滑に実行できることも制御開始条件となる。
【0039】
この制御開始条件の判断の詳細を図2に示してある。この図2に示す例では、先ず、入力トルクが所定値以上か否かが判断される(ステップS1201)。無段変速機構1に対するいわゆるトルクヒューズとしてロックアップクラッチ11を機能させる場合、その係合圧は入力トルクに応じた圧力として設定する。したがって入力トルクが小さい場合には、係合圧も低い圧力に設定することになるが、その油圧を一般的なデューティソレノイド弁で制御するとした場合、その指令デューティ比とクラッチ油圧との関係は、図3に示すようになる。
【0040】
すなわちクラッチ油圧がPc2で示す低い圧力以下の場合、その範囲DU1 〜DU2 での油圧に対応する指令デューティ比の勾配が、それ以上の油圧に対応する範囲での勾配より大きくなる。これは、指令デューティ比の変化に対してクラッチ油圧が大きく変化し、結局、指令値に対する油圧のばらつきが大きいことを示している。したがってクラッチ油圧が低くなる入力トルクの小さい状態とそれより入力トルクが大きい状態とではクラッチ油圧の制御の内容を異ならせるために、ステップS1201での判断をおこなっている。
【0041】
このステップS1201で否定的に判断された場合、すなわち入力トルクが所定値より小さい場合には、フラグF6が“ON”とされ、かつ「phase 」が“0”に設定され、さらにクラッチ油圧(前記ロックアップクラッチ11の係合圧)が予め定めた所定値Pc0に設定される(ステップS1202)。このステップS1202がこの発明の係合圧設定手段に相当する。
【0042】
この所定値Pc0は、例えば図4に示すように、入力トルクに基づいて演算して得られるクラッチ油圧より高い圧力、より具体的には、低トルク領域の最大トルクに対応するクラッチ油圧に油圧のばらつきおよび所定圧を加えた圧力である。後述する学習によるクラッチ圧を採用せずに既定値を採用するので、上述した油圧特性として不可避的なばらつきを排除して安定的にクラッチ油圧を設定できる。そのために、ロックアップクラッチ11での滑りに対するいわゆる余裕代が、無段変速機構1での滑りに対する余裕代より大きくなるなどの事態を回避し、いわゆるトルクヒューズとしての制御を確実に実行することができる。なお、このステップS1201で否定的に判断された場合には、後述する学習制御を実行しないことになるので、このステップS1201がこの発明の学習禁止手段に相当する。
【0043】
一方、ステップS1201で肯定的に判断された場合、すなわち入力トルクが所定値以上の場合には、フラグF6が“ON”か否かが判断される(ステップS1203)。このフラグF6は上述したように入力トルクが所定値より小さい場合に“ON”に設定されるフラグであるから、このステップS1203で肯定的に判断された場合には、入力トルクが所定値より小さい状態からその所定値以上に増大したことになる。入力トルクがこのように増大してステップS1203で肯定的に判断された場合には、「phase 」が“8”に設定され、かつフラグF6を“OFF”に設定される(ステップS1204)。ついで、定常走行判定が所定時間継続しているか否かが判断される(ステップS1205)。なお、入力トルクが従前から所定値以上であることによりステップS1203で否定的に判断された場合には、「phase 」やフラグF6の変更を行うことなくステップS1205に進む。
【0044】
ステップS1205で肯定的に判断された場合には、定常走行状態もしくは準定常走行状態であることになり、その場合には、ジャダー履歴があるか否かが判断される(ステップS1206)。ジャダーとは、作用するトルクが特には変化しない状態で摩擦材のスリップと係合とが繰り返す状態であり、摩擦係数の不適合状態などが原因で生じる。この判断は、ロックアップクラッチ11に対する入力トルクの領域ごとにおこなうこととしてもよい。
【0045】
ジャダーの発生履歴がないことによりステップS1206で否定的に判断された場合には、フラッグF5が“ON”か否かが判断される(ステップS1207)。このフラグF5は、後述するように、ロックアップクラッチ11の係合制御や解放制御に異常がある場合に“ON”とされるフラグであり、そのフラグF5が“OFF”であることにより、このステップS1207で否定的に判断された場合には、その時点の入力トルクが、学習値を既に得られている領域に入っているか否かが判断される(ステップS1208)。ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させる場合、その係合圧は入力トルクに応じて設定することになるので、ここで説明している具体例では、入力トルクを複数の領域に区分し、その領域ごとに学習値を求めるようにしている。ステップS1208では、その時点の入力トルクが属している領域について学習値が既に得られているか否かを判断する。
【0046】
このステップS1208での判断結果が肯定的である場合、油温が予め定めた第1基準値THOH1 以上か否かが判断される(ステップS1209)。この第1基準値THOH1 は比較的低い温度であり、このステップS1209で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして設定する制御の開始条件が成立したことになる。すなわち学習値が既に得られていれば、ロックアップクラッチ11の解放および係合を伴う学習を実施する必要がなく、ロックアップクラッチ11は、係合したままの状態でよいため油温が相対的に低くて油圧制御精度が特には高くなくても、ロックアップクラッチ11をいわゆるトルクヒューズとして機能させる制御を実行できる。
【0047】
そのため、ステップS1209で肯定的に判断された場合には、「phase 」が“0”に設定されているか否かが判断される(ステップS1211)。このステップS1211で否定的に判断された場合には、設定されている「phase 」に応じた制御をおこなうために、ステップS140に進む。これとは反対に「phase 」が“0”に設定されていることによりステップS1211で肯定的に判断された場合には、制御を順におこなうために、ステップS130に進んで「phase 」が“1”に設定される。
【0048】
一方、ステップS1208で否定的に判断された場合、すなわちその時点の入力トルクが、学習値の得られていない領域に入っている場合には、油温が第2基準値THOH2 以上か否かが判断される(ステップS1210)。この第2基準値THOH2 は前記第1基準値THOH1 より高い温度である。
【0049】
このステップS1210で肯定的に判断された場合には、制御開始条件が成立したことになり、制御が開始される。すなわち学習値が未だ得られていなければ、ロックアップクラッチ11の係合圧を滑りに対して所定の余裕が生じるように正確に設定することが困難であるから、油温が高いことにより油圧の制御が安定している状態で制御が開始される。
【0050】
そのため、ステップS1210で肯定的に判断された場合には、上記のステップS1211に進む。これに対してステップS1210で否定的に判断された場合には、制御開始条件が成立していないことになるので、「phase 」の設定などの制御をおこなうことなく、ステップS140に進む。
【0051】
なお、ステップS1205で否定的に判断された場合には、走行状態が定常状態もしくは準定常状態にないことになる。またステップS1206で肯定的に判断された場合にはロックアップクラッチ11にジャダーの発生履歴があり、ロックアップクラッチ11のトルク容量を正確に制御できない状態にあることになる。さらに、フラグF5が“ON”であることによりステップS1207で肯定的に判断された場合には、係合制御もしくは解放制御に異常が発生していることになる。そして、油温が第1基準値THOH1 より低いことによりステップS1209で否定的に判断された場合には、油温の粘度が高く、油圧の制御を正確には実行できない可能性があることになる。したがって、これらいずれの場合であっても、制御開始条件が成立していないことになるので、ステップS140に進む。
【0052】
上記のようにして制御開始条件が成立したことが判断された場合、すなわちステップS120もしくは図2に示すステップS1211で肯定的に判断された場合には、「phase 」が“1”とされる(ステップS130)。これに対して制御開始条件成立していないことによりステップS120で否定的に判断された場合、あるいは図2に示すステップS1205やステップS1209、ステップS1210で否定的に判断され、もしくはステップS1206あるいはステップS1207で肯定的に判断された場合、さらに既に制御開始条件が成立していてステップS120で否定的に判断された場合には、ステップS130を飛ばしてステップS140に進む。
【0053】
ステップS140では、その時点の入力トルクの領域が記憶され、またフラグF2が“OFF”とされて初期化される。その後、制御終了条件が成立しているか否かが判断される(ステップS150)。この制御終了条件は、上記の制御開始条件とされているいずれかの状態が成立しなくなることであり、例えば車両の走行状態が定常状態もしくは準定常状態ではなくなったことである。
【0054】
このステップS150で、制御終了条件が成立していないことにより否定的に判断された場合には、入力トルク領域が記憶値から変化したか否かが判断される(ステップS200)。これとは反対に、制御終了条件が成立することによりステップS150で肯定的に判断された場合には、「phase 」が“6”に設定されているか否かが判断される(ステップS160)。すなわち、ロックアップクラッチ11を再係合させる係合圧に所定の余裕圧を付与した係合圧でロックアップクラッチ11を係合させている状態か、あるいはそのための学習値DPLU1 を求める学習制御中かが判断される。
【0055】
このステップS160で否定的に判断された場合には、前述した学習値を求める制御が実行されている状態であるから、その学習制御中におけるロックアップクラッチ11の滑りの発生を検出するために、ロックアップクラッチ11の滑りの有無が判断される(ステップS180)。
【0056】
ロックアップクラッチ11に滑りが生じていてステップS180で肯定的に判断された場合には、フラグF4が“ON”に設定され(ステップS190)、その後、「phase 」が“7”に設定される(ステップS170)。この「phase7」は、後述するように、ロックアップクラッチ11の係合制御を規定している。なお、上記のステップS160で肯定的に判断された場合にも、ステップS170に進んで「phase 」が“7”に設定される。その後、図5に示すステップS230に進む。
【0057】
ロックアップクラッチ11の係合圧の学習を含む各種の制御を入力トルク毎におこなっているので、入力トルクが変化した場合には、それに応じた制御をおこなう必要がある。そのために、ステップS200の判断をおこなっている。したがってステップS200で肯定的に判断された場合には、フラグF2が“ON”とされる(ステップS210)。
【0058】
なお、入力トルクの変化は、例えば定常走行判定領域内のアクセル変化によって生じ、またエンジン4が希薄燃焼可能な場合には、その空燃比の変更によって生じ、さらに空調用コンプレッサーなどの補機類のON・OFFによってエンジン負荷を変化させるように構成されている場合には、その補機類のON・OFFの切り換えによって生じる。したがってステップS200の判断は、アクセル開度の変化や空燃比の変更の有無や補機類のON・OFFの切り替えの有無を判断するステップに変更してもよい。
【0059】
ロックアップクラッチ11に滑りが生じていないことにより、上記のステップS180で否定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧が最大圧に設定され、かつ「phase 」が“0”に設定される(ステップS220)。すなわち、終了条件が成立した際にロックアップクラッチ11に滑りが生じていなければ、ロックアップクラッチ11の係合圧を、制御装置の元圧であるライン圧もしくはその補正圧に増大させて、ロックアップクラッチ11を完全係合状態とする。その場合、ロックアップクラッチ11が完全係合状態になることに伴う回転変化が生じないので、慣性力やそれに起因するショックが発生することはない。
【0060】
上記のステップS200で肯定的に判断されてフラグF2が“ON”とされた場合、あるいはステップS200で否定的に判断された場合、ならびにステップS170で「phase 」が“7”に設定された場合には、「phase 」が“1”に設定されているか否かが判断される(図5のステップS230)。上記のように制御開始条件が成立した場合には「phase 」が“1”に設定されているので、このステップS230で肯定的に判断される。
【0061】
「phase1」は、クラッチ油圧を完全係合状態の高い油圧から第1の所定油圧に低下させる制御を含んでおり、その「phase1」の制御の開始からの経過時間が所定時間を超えたか否かが判断される(ステップS250)。この判断は、所定のカウンタによるカウント値に基づいておこなうことができる。制御開始直後は時間が経過していないので、このステップS250で否定的に判断され、その場合は、その時点のクラッチ油圧が第1の所定油圧より低圧か否かが判断される(ステップS251)。このステップS251で否定的に判断された場合には、クラッチ油圧を予め定めた第1の所定油圧に設定する(ステップS252)。
【0062】
なお、上記の第1の所定油圧は、ロックアップクラッチ11の特性のバラツキや油圧がステップ的に変化したときのオーバーショートを考慮しても滑りの生じない程度の係合圧である。その圧力は、ロックアップクラッチ11に対する入力トルクに基づいて求めた摩擦係数μや機構上の特性のバラツキを考慮して設定された油圧とすることができ、あるいは無段変速機構1における目標とする挟圧力から無段変速機構1の入力トルクを求め、その入力トルクに基づいて演算した油圧とすることができる。
【0063】
これに対して所定時間が経過していることによりステップS250で肯定的に判断された場合、およびクラッチ油圧が既に第1の所定油圧より低くなっていることによりステップS251で肯定的に判断された場合には、ステップS260に進んで「phase 」が“2”に設定される。
【0064】
ついで、ロックアップクラッチ11に滑りが生じたか否かが判断される(ステップS270)。このステップS270は、ロックアップクラッチ11の状態を確認することを目的としたものであり、したがってステップS252で第1の所定油圧に設定された後にも実行される。すなわちロックアップクラッチ11の伝達トルクに所定の余裕を設定する制御の過程でロックアップクラッチ11に意図しない(もしくは想定しない)滑りが生じると、その制御を正常に実行できなくなるからである。また、ロックアップクラッチ11の滑りの検出もしくは判定は、ロックアップクラッチ11の入力側の回転数(例えばエンジン回転数Ne )と出力側の回転数(例えばタービン回転数Nt )とを比較することによりおこなうことができる。より具体的には、これらの回転数の差が予め定めたしきい値より大きくなったことによって、ロックアップクラッチ11に滑りが生じたことを検出することができる。
【0065】
制御が想定したとおりに進行すれば、ロックアップクラッチ11に滑りが生じないので、ステップS270で否定的に判断される。これに対して、何らかの理由でロックアップクラッチ11に意図しない滑りが生じた場合には、ステップS270で肯定的に判断される。その場合、「phase 」が“4”に設定され、かつフラグF0が“ON”に設定される(ステップS280)。その後、図6に記載してあるステップS290に進む。なお、ロックアップクラッチ11に滑りが生じないことによりステップS270で否定的に判断された場合には、ステップS280を飛ばしてステップS290に進む。また、「phase 」が“1”に設定されていないことにより上記のステップS230で否定的に判断された場合には、直ちにステップS290に進む。
【0066】
ステップS290では、「phase 」が“2”に設定されているか否かが判断される。上述したように、ロックアップクラッチ11の係合圧を上記の第1所定油圧に低下させる制御が実行された場合には、「phase 」が“2”に設定されている。すなわち、上記の所定時間が経過したことにより、ステップS260で「phase 」が“2”に設定され、かつロックアップクラッチ11に意図しない滑りが生じていないことにより、上記のステップS280を飛ばしてステップS290に進んでいるので、「phase 」が“2”に設定されている。したがって、ステップS290で肯定的に判断される。その場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧が、第2の所定油圧(<第1の所定油圧)に向けて、所定の低下率(第1スイープ勾配)で低下させられる(ステップS300)。
【0067】
この第1スイープ勾配は、上記の第1の所定油圧に低下させる場合の低下率より小さいものの、ロックアップクラッチ11の係合圧をある程度、迅速に低下させるように設定された低下率である。すなわち、第1の所定油圧に設定するのと同様に、ロックアップクラッチ11の滑りが生じる係合圧まで急激に低下させると、オーバーシュートによってロックアップクラッチ11が過剰に滑ってしまい、あるいはロックアップクラッチ11が解放してしまう。また、油圧の応答の遅れにより指令油圧と実油圧の偏差大となる。これを避けるために安定的な係合状態から徐々に係合圧を下げたのでは、応答性が悪くなる。そこで、最初にステップ的に係合圧を下げ、次にある程度大きい勾配で係合圧を低下させることとしたのである。
【0068】
ついで、係合圧が第2の所定油圧に到達したか否かが判断される(ステップS310)。この判断は、油圧指令値により判断することができ、また予め定めた時間が経過したことによって判断することができ、あるいは図示しない油圧センサの検出値に基づいて判断することができる。
【0069】
また、第2の所定油圧は、ロックアップクラッチ11の伝達トルクの余裕がゼロの係合圧(滑り限界圧)に対して所定値だけ高い油圧であり、ロックアップクラッチ11に滑りが生じない圧力である。その一例を挙げれば、「phase0」の状態などの通常の走行時にロックアップクラッチ11を解放状態(OFF)から係合状態(ON)に切り替える際に設定される油圧である。
【0070】
その油圧は、余裕伝達トルクに加えてエンジン4の慣性トルク分の油圧が加算されているので、その加算分を前記所定値とすることができるからである。あるいは、第2の所定油圧は、ロックアップクラッチ11をOFF状態からON状態に切り替える際のロックアップ油圧とその時点の入力トルクに基づいて求まる必要係合圧との差を、現時点の入力トルクから求まる必要係合圧に加算して補正した油圧とすることができる。
【0071】
ロックアップクラッチ11の係合圧が上記の第2の所定油圧に到達することによりステップS310で肯定的に判断されると、つぎの制御に進むために「phase 」が“3”に設定される(ステップS320)。ついで、その時点のロックアップクラッチ11に対する入力トルクが、後述する学習値を得られている領域に入っているか否かが判断される(ステップS330)。なお、係合圧が第2の所定圧に到達していないことによりステップS310で否定的に判断された場合には、つぎの制御に進ませないようにするために、ステップS320を飛ばしてステップS330に進む。
【0072】
ここで説明している制御は、ロックアップクラッチ11の係合圧を伝達トルクに所定の余裕が生じる油圧に制御するためのものであり、そのために先ずはその余裕がゼロの状態を判定する必要があるが、その余裕がゼロの状態に相当する係合圧は、ロックアップクラッチ11に対する入力トルク毎に異なっている。そこで、伝達トルクについての所定の余裕を与える係合圧が求められた場合には、これを、その時点の入力トルクに対応させて記憶することにより、係合圧の学習をおこなうこととしてある。その学習は、後述するとおりである。したがって、既に学習値が得られている場合には、それを利用することにより不必要な制御を省略できるので、その時点の入力トルクが、学習値の得られているトルク領域に入っているか否かを判断することとしたのである。
【0073】
ここでトルク領域の一例を模式的に示せば、図7のとおりであり、入力トルク(スロットル開度に置き換えてもよい)を所定間隔ごとに区分(T0 〜T1 、T1 〜T2 、T2 〜T3 、……、T(n−1) 〜T(n))し、それぞれの区分をトルク領域として学習値が求められる。なお、上述したように入力トルクが所定値以下の状態では、クラッチ油圧の学習がおこなわれないので、入力トルクが最も低トルク側の領域については、図7に「学習禁止」と記載してある。また、図7の例では、低トルク側から3番目の領域について学習が未だおこなわれていない状態を示してある。
【0074】
したがって、その時点の入力トルクが、学習値の得られているトルク領域に入っていることによりステップS330で肯定的に判断された場合には、クラッチ油圧が学習値による設定圧(PLUTT+DPLU1)に到達しているか否かが判断される(ステップS335)。このステップS335で肯定的に判断された場合に、それに応じた制御に進むために「phase 」が“6”に設定され(ステップS340)、ついでステップS350に進む。
【0075】
これに対して、クラッチ油圧が学習値による設定圧(PLUTT+DPLU1)に到達していないことによりステップS335で否定的に判断された場合には、ステップS340を飛ばして、直ちにステップS350に進む。これは、クラッチ油圧を学習値による設定圧(PLUTT+DPLU1)に直ちに低下させずに、油圧にオーバーシュートを防止するべくスイープダウンさせるためである。
【0076】
このステップS350およびこれに続くステップS360は、前述したステップS270およびそれに続くステップS280と同様の制御ステップである。すなわち、ステップS340に至る過程で、ロックアップクラッチ11の係合圧が低下し、あるいは入力トルクが変化する可能性があるので、ロックアップクラッチ11に滑りが生じたか否かが判断される(ステップS350)。
【0077】
そして、ロックアップクラッチ11の滑りが生じたことによりこのステップS350で肯定的に判断された場合には、その滑りが意図しないもの(あるいは想定していないもの)であるから、その滑りに対応した制御に進むために「phase 」が“4”に設定され、かつフラグF0が“ON”に設定される(ステップS360)。その後、図8に記載してあるステップS370に進む。なお、ロックアップクラッチ11に滑りが生じないことによりステップS350で否定的に判断された場合には、ステップS360を飛ばしてステップS370に進む。また、「phase 」が“2”に設定されていないことによりステップS290で否定的に判断された場合には、直ちにステップS370に進む。
【0078】
ステップS370では、「phase 」が“3”に設定されているか否かが判断される。上述したように、ロックアップクラッチ11の係合圧を上記の第2の所定油圧に低下させる制御が実行された場合には、「phase 」が“3”に設定されている。その状態で、入力トルクが学習値の得られていない領域であれば、ステップS340での「phase 」の書き換えがおこなわれず、また意図しない滑りが生じていない場合には、ステップS360での「phase 」の書き換えがおこなわれないので、「phase 」が“3”になっており、したがってステップS370で肯定的に判断される。その場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧が、所定の低下率(第2スイープ勾配<第1スイープ勾配))で低下させられる(ステップS380)。
【0079】
この第2スイープ勾配は、前述した第1スイープ勾配DLPLU1より小さい低下率である。すなわち、ロックアップクラッチ11の係合圧を低下させているので、油圧のわずかな変化でロックアップクラッチ11に滑りが生じ易く、したがってその滑りが過大にならないようにするために係合圧の低下率を小さく設定したのである。言い換えれば、オーバーシュートによって油圧が大きく低下したり、あるいはそれに起因する過大な滑りもしくはロックアップクラッチ11の解放が生じたりすることを回避するためである。
【0080】
ついで、その時点のロックアップクラッチ11に対する入力トルクが、後述する学習値を得られている領域に入っているか否かが判断される(ステップS390)。このステップS390は、前述したステップS330と同様のステップであり、係合圧についての学習値が既に得られている場合には、それを利用するためである。
【0081】
したがってこのステップS390で肯定的に判断された場合には、クラッチ油圧が学習値による設定圧(PLUTT+DPLU1)に到達しているか否かが判断され(ステップS395)、その判断結果が肯定的であれば、「phase 」が“6”に設定され(ステップS400)、その後、ステップS410に進む。これらステップS390およびステップS395ならびにステップS400は、図2に記載してある上記のステップS330およびステップS335ならびにステップS340と同様であり、したがって入力トルクが学習領域に入っていない場合、およびクラッチ油圧が学習値による設定圧(PLUTT+DPLU1)に到達していない場合には、「phase 」を書き換えずに直ちにステップS410に進む。
【0082】
上記のステップS380による油圧の低下制御は、係合状態にあったロックアップクラッチ11に滑りを生じさせるための油圧低下制御における最終段階の制御であり、したがってステップS410では、ロックアップクラッチ11に滑りが生じたか否かが判断される。この判断は、前述したステップS270やステップS350での制御と同様に、入力側の回転数と出力側の回転数とを比較し、もしくはその回転数差を所定のしきい値と比較することによりおこなうことができる。より具体的には、このステップS410で検出するロックアップクラッチ11の滑りは、係合圧を僅かずつ低下させることにより生じる微少な滑りであり、具体的には、ロックアップクラッチ11の入力側の回転数と出力側の回転数との回転数差が、予め定めた所定回転数(例えば50rpm)以上の状態が、予め定めた所定時間(例えば50ms)継続したことによって、ロックアップクラッチ11の滑りを検出することができる。
【0083】
ロックアップクラッチ11に微少滑りが生じることによりステップS410で肯定的に判断された場合には、つぎの制御に進むために、「phase 」が“4”に設定される(ステップS420)。そして、図9に記載してあるステップS450に進む。これとは反対にロックアップクラッチ11に未だ滑りが生じないことによりステップS410で否定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧が所定値以下か否かが判断される(ステップS430)。
【0084】
ロックアップクラッチ11の係合圧が所定値以下になっても滑りが検出されない場合、すなわちステップS430で肯定的に判断された場合には、フラグF5が“ON”に設定される(ステップS440)。これに対して、ステップS430で否定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合・解放に特に異常はないので、「phase3」の制御を継続するために、「phase 」を書き換えずに(ステップS420を飛ばして)、ステップS450に進む。なお、「phase 」が“3”ではないことによりステップS370で否定的に判断された場合には、直ちにステップS450に進む。
【0085】
したがって、各ステップS430,S440では、例えば上記クラッチ制御系にフェール状態があった時、ロックアップクラッチ11の係合圧を低下させる指令が出力されても実際のロックアップクラッチの係合圧が低下しないので、ロックアップクラッチ11の解放が不能の場合にはロックアップクラッチ11の係合圧の学習を禁止することができる。
【0086】
ステップS450では、「phase 」が“4”に設定されているか否かが判断される。ロックアップクラッチ11の係合圧を上記の第2スイープ勾配で低下させることにより、ロックアップクラッチ11が想定したとおりに滑りを生じると、ステップS420で「phase 」が“4”に設定されるので、ステップS450で肯定的に判断される。
【0087】
この状態は、ロックアップクラッチ11の係合圧が、伝達トルクの余裕がゼロの係合圧よりも僅かに下回った状態である。したがってロックアップクラッチ11の滑りが検出された後に、第3スイープ勾配で係合圧が増大させられる(ステップS460)。これは、ロックアップクラッチ11を微少滑り状態から再係合させるための制御であり、伝達トルクの余裕がゼロの状態で再係合させるために、第3スイープ勾配は油圧の応答遅れがほとんど無視できる小さな勾配に設定される。すなわち、ロックアップクラッチ11を係合させる油圧が、図示しないが極めて僅かずつ昇圧される。
【0088】
ついで、ロックアップクラッチ11がトルク容量を持ち始めたか否かが判断される(ステップS470)。この判断は、具体的には、ロックアップクラッチ11の入力回転数であるエンジン回転数Ne とタービン回転数Nt (無段変速機構1の入力回転数)との差の変化率Δ(Ne −Nt )が予め定めた判断基準値DNEINより小さいか否かを判断することによりおこなわれる。すなわち、ロックアップクラッチ11に作用するトルクに対してロックアップクラッチ11のトルク容量が小さい場合には、滑りが生じて入力回転数と出力回転数との差が増大し、また反対に入力されるトルクに対してトルク容量が十分な大きさであれば、ロックアップクラッチ11が完全に係合するように滑り回転数が低下する。
【0089】
このステップS470で肯定的に判断された場合には、フラグF1が“ON”か否かが判断され(ステップS480)、そのフラグF1が“OFF”であることによりこのステップS480で否定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11がトルク容量を持ち始めたときのロックアップ油圧PLUEXCを、完全係合時の摩擦係数に対応したものとするために、そのロックアップ油圧PLUEXCをμ勾配倍率でわり算し、その値に安全率SFを掛けるなどの所定の余裕圧を付与した係合圧から入力トルクに対応したロックアップ油圧PLUTTを減算して学習値DPLU1が求められ、同時にフラグF1が“ON”とされる(ステップS490)。その後、ステップS500に進む。ここで、上記の「所定の余裕圧の付与」は、ステップS470で肯定的に判断された時点の係合圧に所定の係数SF(>1)を掛けた値を求めることでもよく、あるいは予め定めた余裕圧を加算することでもよい。また、ステップS500でロックアップクラッチ11の係合判定成立時のロックアップ油圧を元にして算出してもよい。
【0090】
なお、上記のフラグF1は、学習値DPLU1が算出されることにより“ON”とされるフラグであるから、既に学習値DPLU1が算出されていれば、上記のステップS480で肯定的に判断される。その場合、学習値DPLU1を再度算出することなく(すなわちステップS490を飛ばして)ステップS500に進む。また、ロックアップクラッチ11の入出力回転数の差の変化率Δ(Ne −Nt )が判断基準値DNEIN以上であることによりステップS470で否定的に判断された場合にも、ステップS500に進む。
【0091】
このステップS500では、ロックアップクラッチ11の係合判定が成立しているか否か、すなわちロックアップクラッチ11が係合したか否かが判断される。伝達トルクの余裕がゼロであれば、ロックアップクラッチ11の入力回転数と出力回転数との差がなくなるが、これは、伝達トルクの余裕が過大である場合と同じであるから、伝達トルクの余裕がゼロの状態の再係合を検出することは、必ずしも正確にはおこなえない。そのため、上記の第2スイープ勾配でクラッチ油圧(係合圧)を昇圧している状態で、ロックアップクラッチ11の入力回転数と出力回転数との回転数差が所定値(例えば50rpm)より小さい状態が所定時間(例えば100ms)継続した場合に、ロックアップクラッチ11の再係合の判定が成立する。なお、この時点におけるロックアップクラッチ11の係合圧は、入力トルクに応じて設定されている係合圧である。
【0092】
ロックアップクラッチ11の係合判定が成立した場合、すなわちロックアップクラッチ11が係合したと判断されることにより、ステップS500で肯定的に判断された場合には、ステップS510に進む。ステップS510では、前述したフラグF5が“ON”か否かが判断される。ステップS510で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合・解放の制御に異常があるので、「phase 」が“0”に設定され(ステップS520)、制御を終了する。
【0093】
ステップS510で否定的に判断された場合、「phase4」の制御が終了したことになるので、つぎの制御に進むために、「phase 」が“5”に設定される(ステップS540)。これに続けて前述したフラグF0が“ON”か否かが判断される(ステップS550)。フラグF0は、前述したように、係合圧の制御の過程で意図しない(もしくは想定しない)ロックアップクラッチ11の滑りが検出された場合に“ON”に設定される(ステップS280,S360)から、ステップS510,S550では、ロックアップクラッチ11が意図しない滑りの後に再係合したか否かを判断していることになる。
【0094】
したがってステップS550で肯定的に判断された場合には、再度ロックアップクラッチ11を微少滑り状態とすることにより再学習を行なうために、「phase 」が“3”に設定され、またフラグF0が“OFF”に設定される(ステップS560)。その後、図10に記載してあるステップS530に進む。
【0095】
一方、ロックアップクラッチ11が意図した滑りの後に再係合したことによりステップS550で否定的に判断された場合には、フラグF2が“ON”か否かが判断される(ステップS570)。すなわち、入力トルクが領域を渡って変化したか否かが判断される。このステップS570で肯定的に判断された場合には、入力トルクが変化し、係合圧の学習の前提とする状態が変化したことになるので、入力トルクが安定した状態で再学習するために、ステップS560に進んで前記「phase3」の制御をおこなうために、「phase 」が“3”に設定され、またフラグF0が“OFF”に設定される。すなわちロックアップクラッチ11を解放させた後、再係合させる。係合圧の学習を再度おこなうためである。これに対してステップS570で否定的に判断された場合、すなわち入力トルクの変動が生じていない場合には、ステップS530に進む。
【0096】
また、ロックアップクラッチ11の係合判定が成立しない場合、すなわちロックアップクラッチ11が係合されたと判断されないことにより、ステップS500で否定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧が所定値以上か否かが判断される(ステップS580)。このステップS580では、たとえば通常のロックアップクラッチの制御、すなわち後述するステップS950からステップS960に示すOFFからONもしくはONからOFFに切換える制御においてロックアップクラッチ11の係合および解放が不能になった場合には、ロックアップクラッチ11の滑りが発生する限界の係合圧に対する学習の制御においても、同様にロックアップクラッチ11の係合および解放が不能になる可能性が高いため、その通常のロックアップクラッチの学習の制御を禁止することができる。
【0097】
ロックアップクラッチ11の係合圧が所定値以上になっても、ロックアップクラッチ11の係合判定がされない場合にロックアップクラッチ11の係合状態が異常ありと判断されることにより、このステップS580で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧が“0”に設定され、また「phase 」が“0”に設定され、さらにフラグF5が“ON”に設定される(ステップS590)。
【0098】
これに対して、ロックアップクラッチ11の係合判定が不成立の時のロックアップクラッチ11の係合圧が所定値以上の判定が成立しない場合、すなわちステップS580で否定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合・解放制御に特に異常があるわけではないので、「phase4」を継続するために、「phase 」を書き換えずにステップS530に進む。
【0099】
このステップS530では、「phase 」が“5”に設定されているか否かが判断される。上記のように係合圧をゆっくり低下させることによりロックアップクラッチ11が微少滑りを生じ、その後に係合圧を最小勾配で増大させたことによりロックアップクラッチ11の再係合の判定が成立すれば、「phase 」が“5”に設定されているので、ステップS530で肯定的に判断される。すなわち、係合圧の変化に伴うロックアップクラッチ11の挙動が想定したとおりに変化すると、「phase5」の制御に進むことになる。
【0100】
ステップS530で肯定的に判断されると、ロックアップクラッチ11の係合圧が、「phase4」の終了時点における油圧、すなわちロックアップクラッチ11の再係合が判定された時点の油圧(入力トルクに相当する油圧)に設定される(ステップS600)。そして、所定時間が経過したか否かが判断される(ステップS610)。この所定時間は、図示しないがロックアップクラッチ11の係合圧を所定値に安定させるための予め定めた時間である。
【0101】
所定時間が経過することによりステップS610で肯定的に判断された場合には、前述した学習値DPLU1 が予め定めた所定範囲内か否かが判断される(ステップS620)。この判断は、例えば、算出された学習値DPLU1 を所定の判断基準値と比較することによっておこなうことができ、あるいは所定数のトルク領域での学習値の平均との大小を比較し、その差が大きい場合に所定範囲を外れていると判断することによりおこなうことができ、さらには継続して得られた学習値DPLU1 の平均値に基づいて判断することとしてもよい。
【0102】
油圧制御系統の異常やロックアップクラッチ11の摩擦材の異常あるいはトルクコンバータ3のフルードの変化などが生じていなければ、学習値DPLU1 が所定の範囲内の値に収まるが、異常が生じているとその影響で学習値が極端に大きくなるなどの事態が生じる。すなわちステップS620では学習が正常におこなわれたか否かが判断されることになる。
【0103】
学習値DPLU1 が所定範囲内に収まっていることによりステップS620で肯定的に判断された場合には、つぎの制御に進むために、「phase 」が“6”に設定される(ステップS630)。そして、上記の学習値DPLU1 が記憶される(ステップS640)。すなわち、ロックアップクラッチ11に一旦滑りを生じさせた後、ロックアップクラッチ11が再係合する係合圧に所定の余裕圧を付与した係合圧と、入力トルクに応じた係合圧として予め設定もしくは記憶されている係合圧との差が、ロックアップクラッチ11の係合圧を補正するための値として、上記の学習値DPLU1が記憶される。
【0104】
なお、この学習値DPLU1は、入力トルクを所定の複数の領域に分割し、各領域毎に記憶し、マップとして保持する。したがって前述したステップS330やステップS390での判断は、このようにして得られた学習値の有無に基づく判断である。
【0105】
一方、学習値DPLU1 が所定範囲を超えていることによりステップS620で否定的に判断された場合には、再度、学習をおこなうために「phase 」が“3”に設定される(ステップS650)。また、所定範囲を超えた値であっても得られた学習値DPLU1を無段変速機構1の挟圧力の制御に反映させるために、前述したステップS490で得られた学習値DPLU1 が仮学習値として記憶される(ステップS660)。そして、この仮学習値DPLU1 の平均値の絶対値が予め定めた所定値以上か否かが判断される(ステップS670)。このステップS670で肯定的に判断された場合には、仮学習値DPLU1 が大きく偏っていることになるので、フラグF3が“ON”とされる(ステップS680)。
【0106】
これに対してステップS670で否定的に判断された場合には、予め定めた所定値を超える仮学習値DPLU1 の数が所定数以上か否かが判断される(ステップS690)。すなわち平均値としては所定値以下であるが、過大もしくは過小の仮学習値DPLU1 が多いか否かが判断される。この判断結果が肯定的であれば、何らかの異常があるものと考えられるので、ステップS680に進んでフラグF3が“ON”とされる。反対に否定的に判断された場合には、フラグF3が“OFF”とされる(ステップS700)。すなわち、仮学習値DPLU1を無段変速機構1の挟圧力に反映させる制御をおこなわない。
【0107】
上記のステップS640もしくはステップS680あるいはステップS700を経た後に、ステップS710に進む。また、所定時間が経過していないことによりステップS610で否定的に判断された場合には、直ちにステップS710に進み、この場合は、「phase 」は書き換えられずに“5”に維持される。
【0108】
さらに、この時点においても意図しないロックアップクラッチ11の滑りが生じたか否かが判断される。これがステップS710の制御である。これは、前述したステップS270やステップS350と同様のステップであり、したがってこのステップS710で肯定的に判断された場合には、その滑りに対応した制御に進むために「phase 」が“4”に設定され、かつフラグF0が“ON”に設定される(ステップS720)。その後、図11に記載してあるステップS730に進む。なお、ロックアップクラッチ11に滑りが生じないことによりステップS710で否定的に判断された場合には、ステップS720を飛ばしてステップS730に進む。また、「phase 」が“5”ではないことによりステップS530で否定的に判断された場合には、直ちにステップS730に進む。
【0109】
ステップS730では、「phase 」が“6”に設定されているか否かが判断される。上述したように、ロックアップクラッチ11が再係合する係合圧に所定の余裕圧を付与した係合圧と、その時点の入力トルクに応じて指令もしくは設定されている係合圧との差が学習値DPLU1 として記憶されており、その学習値DPLU1 に異常がない場合には、「phase 」が“6”に設定されているので、ロックアップクラッチ11の意図しない滑りが検出されない限り、ステップS730で肯定的に判断される。
【0110】
その場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧として、入力トルクに基づいて求まる係合圧PLUTT に、その補正値として上記の学習値DPLU1 を加算(学習値DPLU1 が負の値であれば、減算)した油圧が設定される(ステップS740)。すなわち予め得られている係合圧が、上記の学習値DPLU1 によって補正される。その結果、ロックアップクラッチ11の係合圧として、その時点の入力トルクに対して伝達トルクに余裕がない係合圧(つまり余裕がゼロの滑り限界油圧)に、予め定められている所定の余裕油圧を加算した油圧であって、実際の無段変速機構1あるいは駆動系統の状態を反映した油圧が設定される。その余裕油圧は、定常的もしくは準定常的な走行状態でロックアップクラッチ11に滑りが生じるおそれがなく、また定常的もしくは準定常的な走行状態で作用するトルクを超えるトルクが作用した場合には、ロックアップクラッチ11に滑りが生じる程度の油圧である。
【0111】
ロックアップクラッチ11の係合圧を上記のように設定している状態でロックアップクラッチ11に対する入力トルクが変化することがあるので、上記のステップS740に続けて、入力トルクが未学習領域に入ったか否か、すなわち上記の学習値が得られていない入力トルクに変化したか否かが判断される(ステップS750)。その時点の状況は、図示しないがロックアップクラッチ11が滑りを生じることなく係合しており、かつその係合圧は伝達トルクの余裕の小さい油圧である。
【0112】
したがってステップS750で肯定的に判断された場合には、再度、微少滑りを生じさせて学習をおこなうために、「phase2」の制御を実行することになる。すなわち「phase 」が“2”に設定される(ステップS760)。ついでステップS770に進む。なお、入力トルクが学習値の得られている領域に入っていることによりステップS750で否定的に判断された場合には、「phase 」を変更することなく、直ちにステップS770に進む。
【0113】
この時点においても意図しないロックアップクラッチ11の滑りが生じたか否かが判断される。これがステップS770の制御である。これは、前述したステップS270やステップS350、ステップS710と同様のステップであり、したがってこのステップS770で肯定的に判断された場合には、その滑りに対応した制御に進むために「phase 」が“4”に設定され、かつフラグF0が“ON”に設定される(ステップS780)。なお、ロックアップクラッチ11に滑りが生じないことによりステップS770で否定的に判断された場合には、ステップS780を飛ばして、図12に記載してあるステップS790に進む。また、「phase 」が“6”に設定されていないことによりステップS730で否定的に判断された場合には、直ちにステップS790に進む。
【0114】
これに続く図12に記載してあるステップS790では、「phase 」が“7”に設定されているか否かが判断される。このステップS790で肯定的に判断された場合には、フラグF4が“ON”か否かが判断される(ステップS800)。このフラグF4は、前述したように、制御終了条件が成立した後にロックアップクラッチ11に滑りが検出された場合に“ON”とされるフラグである。したがってこのステップS800で否定的に判断された場合には、予め定めた所定時間が経過したか否かが判断される(ステップS810)。その所定時間は、前述したステップS150で制御終了条件の成立が判断された場合、無段変速機構1のベルト挟圧力が通常時の圧力(すなわち最大圧力)に増大させられるので、この増大制御が完了するまで(すなわちベルト挟圧力が最大圧に安定するまで)の時間であり、したがってこのステップS810で否定的に判断された場合には、入力トルクに応じて設定された係合圧PLUTT を前記学習値DPLU1 で補正した係合圧でロックアップクラッチ11を係合させる制御が継続される(ステップS820)。その後、図13に示すステップS860に進む。
【0115】
ロックアップクラッチ11に滑りが検出されてフラグF4が“ON”となっていることによりステップS800で肯定的に判断された場合や、前記の所定時間が経過してステップS810で肯定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合判定が成立しているか否かが判断される(ステップS830)。
【0116】
ロックアップクラッチ11に滑りが生じていることによりステップS830で否定的に判断された場合には、ロックアップクラッチ11の係合圧が徐々に増大させられる(ステップS840)。すなわちスイープアップされる。その後、ステップS860に進む。その場合、前述したステップS800で肯定的に判断されるので、ロックアップクラッチ11の係合圧のスイープアップが継続される。
【0117】
ロックアップクラッチ11の係合圧を徐々に増大させた結果、ロックアップクラッチ11が係合すると、ステップS830で肯定的に判断される。その場合、フラグF4が“OFF”とされ(ステップS850)、その後、ステップS860に進む。なお、「phase 」が“7”に設定されていないことによりステップS790で否定的に判断された場合には、直ちにステップS860に進む。
【0118】
図13に示すステップS860からステップS900は、図2を参照して説明したステップS1204で「phase 」が“8”に設定されることにより実行される制御の例である。すなわち、入力トルクが学習の禁止されている低トルク域を外れるように増大した場合に図2のステップS1203で肯定的に判断され、「phase 」が“8”に設定される。その場合、図13のステップS860で肯定的に判断される。そして、その時点の入力トルクが、クラッチ油圧についての学習値が既に得られている領域に属しているか否かが判断される(ステップS870)。
【0119】
その時点の入力トルクに対応する学習値が未だ得られていない場合、すなわちステップS870で否定的に判断された場合には、既に得られている他の入力トルク領域での学習値を参考にして指示油圧Pcga が求められる(ステップS880)。その一例を説明すると、その時点の入力トルクが属するトルク領域(i)を挟んだ上下両側のトルク領域(i−1),(i+1)で学習値DPLU1(i−1),DPLU1(i+1)が既に得られていれば、その平均値を学習値に替えて採用し、その仮に採用した油圧による設定圧(PLUTT+(DPLU1(i−1)+DPLU1(i+1))/2)に、滑りの発生に対する所定の余裕を持たせるための所定圧(DPLUA)を加算して指示油圧Pcga が求められる。
【0120】
これに対して学習値が既に得られていることによりステップS870で肯定的に判断されれば、その学習値による設定圧(PLUTT+DPLU1(i))に、滑りの発生に対する所定の余裕を持たせるための所定圧(DPLUA)を加算して指示油圧Pcgaが求められる(ステップS890)。そして、クラッチ油圧がこれらステップS880もしくはステップS890で算出された指示油圧Pcga に設定される(ステップS900)。その後、図14に記載してあるステップS910に進む。なお、「phase 」が“8”に設定されていないことによりステップS860で否定的に判断された場合は、直ちにステップS910に進む。
【0121】
このステップS910では、「phase 」が“6”に設定されているか否かが判断される。このステップS910で肯定的に判断された場合には、前述した仮学習値DPLU1 を無段変速機構1の挟圧力に反映させるべきか否かが判断される(ステップS920)。具体的には、前述したフラグF3が“OFF”か否かが判断される。学習値DPLU1 が所定の範囲に入っていなくても、その平均値の絶対値が所定値以内であったり、あるいは絶対値が所定値を超える個数が少ないなどのいわゆる異常の判定が成立しない場合には、フラグF3が“OFF”にセットされている(ステップS700)。したがってステップS920で肯定的に判断された場合には、無段変速機構1のベルト挟圧力が、伝達トルクに所定の余裕を与える圧力に低下させられる(ステップS930)。なお、こうして設定される無段変速機構1での伝達トルクの余裕は、ロックアップクラッチ11における伝達トルクの余裕より大きく、したがって駆動トルクや負トルクなどが変化した場合には、ロックアップクラッチ11が無段変速機構1に先行して滑りを生じる。
【0122】
一方、フラグF3が“ON”に設定されていてステップS920で否定的に判断された場合には、図10に記載してあるステップS660で記憶された仮学習値により無段変速機構1のベルト挟圧力が補正される(ステップS940)。
【0123】
上記のステップS930もしくはステップ804の制御を実行した後、あるいはステップS910で否定的に判断された場合には、図15に記載してあるステップS950に進む。すなわちロックアップクラッチ11の通常の制御においてその係合制御に異常があったか否かが判断される。また、ロックアップクラッチ11の通常の制御においてその解放制御に異常があったか否かが判断される(ステップS960)。このステップS950で否定的に判断された場合、およびステップS960で否定的に判断された場合、すなわち通常のクラッチ制御で係合制御が異常無しと判断された場合、および通常のクラッチ制御で解放制御が異常無しと判断された場合には、フラグF5が“OFF”に設定される(ステップS970)。それに対して、ステップS950もしくはステップS960で、肯定的に判断された場合には、フラグF5が“ON”に設定される(ステップS980)。その後、このルーチンを終了する。その場合、ロックアップクラッチ11の係合圧を低下させ、また無段変速機構1の挟圧力を低下させるいわゆるトルクヒューズ制御が終了もしくは禁止される。したがって例えば、その係合圧や挟圧力が通常時の制御に基づく圧力に増大させられる。
【0124】
したがって、上述した具体例では、入力トルクが、既に学習値の得られているトルク領域に入っている場合、図6に記載してあるステップS330や図8に記載してあるステップS390で肯定的に判断され、クラッチ油圧が学習値による設定圧に制御されるが、その制御の仕方が、学習値による設定圧に到達している場合と、到達していない場合とで異なっている。ここで、「到達」とは、油圧が低下してその設定値以下となっていることである。
【0125】
したがって、クラッチ油圧が学習値による設定圧に到達している(その設定圧以下となっている)場合に、「phase6」の制御を実行することになるので、図11のステップS740として記載してあるように、学習値による設定圧に直ちに昇圧することになる。これに対してクラッチ油圧が学習値による設定圧に到達していない(その設定圧より高い)場合には、「phase6」に進まずに、「phase2」もしくは「phase3」での制御が継続され、クラッチ油圧が上述した第1もしくは第2のスイープ勾配で低下させられる。この制御は、入力トルクが学習値の得られていないトルクになった場合、学習の禁止されている低トルク領域から変化した場合、および既学習領域から変化した場合のいずれであっても同様である。
【0126】
その結果、設定するべきクラッチ油圧がその時点の油圧より高いに場合には、直ちに昇圧されるので、制御の応答性が良好になる。また反対に、クラッチ油圧を低下させるべき状態では、昇圧の場合に比較してゆっくりと、すなわち所定のスイープ勾配でクラッチ油圧が低下させられる。その低下勾配は、上記の具体例では、クラッチ油圧を滑りの生じない最低圧力である滑り限界圧に設定するべく、ロックアップクラッチ11に微少滑りを生じさせる際の勾配と同様である。したがって油圧のオーバーシュートやそれに起因するロックアップクラッチ11の過剰な滑りもしくは解放を未然に防止することができる。したがってステップS335やステップS395で否定的に判断されて第1もしくは第2のスイープ勾配でクラッチ油圧を低下させるステップS300やステップS380の機能的手段、およびステップS335やステップS395で肯定的に判断されてクラッチ油圧を昇圧するステップS740の機能的手段が、この発明の係合圧制御手段に相当している。
【0127】
このような係合圧の制御は、入力トルクが前記学習の禁止されている領域から学習の許可されている領域に増大することに伴って、クラッチ油圧を前記所定値Pc0から変化させる場合にも同様に実施される。すなわち図4の(A)に太線で示すように、入力トルクが大きく増大することに伴うクラッチ油圧を前記所定値Pc0から増大させる場合には、入力トルクに応じた圧力(学習値による設定圧を含む)に直ちに増大させられる。これに対して図4の(A)に細線で示すように、入力トルクの増大幅が小さく、その入力トルクに応じて設定すべきクラッチ油圧が上記の所定値Pc0より低い場合には、所定の勾配をもって徐々にクラッチ油圧が低下させられる。したがってこの場合も、油圧のオーバーシュートやそれに伴うロックアップクラッチ11の解放もしくは過剰な滑りが回避される。
【0128】
また、図13を参照して説明したように、この発明に係る上記の具体例では、入力トルクが、学習の禁止されているトルク領域から学習値の得られていないトルク領域に変化した場合、ステップS880に示すように、他のトルクに対して得られている学習値に基づいてクラッチ油圧の補正油圧が設定される。この補正油圧は、図2および図13から知られるように、制御の開始条件として設定されるから、他の制御開始条件が成立するまで維持される。そして、制御開始条件が成立して学習を伴う上記の一連の制御が開始されると、クラッチ油圧がその補正油圧から変化させられて学習がおこなわれ、また学習値による設定圧が達成される。その場合、予備的に付加してある所定圧DPLUAだけ油圧を低下させることになるが、上記の具体例では、例えば図4の(B)に太線で示すように、学習値による設定圧に低下させる場合に所定のスイープ勾配で低下させることになる。その結果、この場合であっても油圧のオーバーシュートやそれに起因するロックアップクラッチ11の解放もしくは過剰な滑りが回避される。したがってこのステップS880の機能的手段が、この発明の補正油圧設定手段に相当する。
【0129】
なお、上記のステップS880に示す例は、学習が許可されているトルク領域のうちで低トルク側から2番目のトルク領域(すなわちi=2)が未学習領域であって、その高トルク側および低トルク側の両方のトルク領域で学習値が得られている場合の例であるが、隣接するトルク領域が未学習領域の場合には、最も近い既学習領域の学習値に基づいて仮学習値を推定することとしてもよい。例えば低トルク側から2番目のトルク領域の仮学習値を求める場合、第3番目のトルク領域も未学習領域であれば、第1番目と第4番目とのトルク領域の学習値を参考にして、
DPLU1(2)=2/3*DPLU1(1)+1/3*DPLU1(4)
として求めることができる。また、低トルク側もしくは高トルク側のいずれか一方でしか学習値が得られていない場合には、その値を仮学習値としてもよい。さらに、学習値の得られているトルク領域がない状態では、仮学習値DPLU1(i)=0とすればよい。したがってこの場合、入力トルクに応じた油圧PLUTTに前述した所定値DPLUAのみを加算してクラッチ油圧Pcga が求められる。
【0130】
ところで、上記の具体例では、入力トルクが、学習の禁止されているいわゆる低トルク領域より大きいトルクなり、かつその状態で定常走行が所定時間継続したことが判定されることを制御開始条件としているが、この発明では、これに替えて、いわゆる低トルク領域で走行している際に定常走行の判定をおこない、その判定の成立している状態で入力トルクが低トルク領域を外れた場合に制御開始条件が成立することとしてもよい。その例を図16に記載してある。
【0131】
この図16に記載されている例は、前述した図2に示す例におけるステップS1205の判断(定常走行判定が所定時間継続しているかの判断)を、ステップS1201の判断(入力トルクが所定値以上かの判断)の前におこなうように構成し、それに伴いステップS1203で否定的に判断された場合、およびステップS1204でフラグF6を“OFF”に設定した後、直ちにステップS1206(ジャダー履歴があるかの判断)に進むように構成し、その他は、図2に示すフローチャート同様に構成したものである。このように構成した場合には、入力トルクが低トルク領域を外れて増大すると、クラッチ油圧が学習値による圧力に直ちに設定されることになる。
【0132】
なお、上記の具体例では、無段変速機構に対して直列に配列されていわゆるトルクヒューズとして機能させることのできるクラッチとして、無段変速機構の入力側に直列に配置されたロックアップクラッチを例に採って説明したが、この発明におけるクラッチは、要は、無段変速機構に対してトルクの伝達方向で直列に配列されたクラッチであればよく、したがって無段変速機構の出力側に配置されたクラッチでもよく、またロックアップクラッチ以外のクラッチであってもよい。また、無段変速機構はベルト式に限らず、トラクション式の無段変速機構であってもよい。さらに、上記の具体例で述べたμ勾配倍率については、図示しないが入出力回転数差が生じている係合判定時の摩擦係数μ1 に対して、入出力回転数差が生じていない完全係合時の摩擦係数μ0 が小さい値を示すことよりこれらの摩擦係数μ1 ,μ0 の比率(μ1 /μ0 )を定義したものである。そして、上記の具体例のトルクヒューズ制御において、ロックアップクラッチ11の係合圧や無段変速機構1の挟圧力を制御するものとして説明したが、これらの係合圧や挟圧力は伝達トルクと等価であり、したがってこの発明では、それぞれの伝達トルクを制御するものとしてもよい。
【0133】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、クラッチに対する入力トルクが所定値以下の場合には、そのクラッチの係合圧についての学習が禁止され、またその係合圧が予め定めた所定の圧力に設定されるので、制御指令値に対する実際の係合圧のばらつきが大きい低トルク域、言い換えれば、制御指令値およびそれに伴う係合圧が小さい状態での係合圧の学習に伴うばらつきの大きい学習値を係合圧として採用することが回避され、クラッチの係合圧を無段変速機構よりも先にクラッチで滑りが生じる圧力に確実に設定することができる。
【0134】
また、請求項2の発明によれば、前記係合圧の学習をおこなうトルクに前記入力トルクが増大し、それに伴って係合圧を変化させる場合、既に得られている学習値による圧力に昇圧するのであれば、直ちに係合圧が増大させられ、これとは反対に学習値に基づく圧力に前記係合圧を低下させるのであれば、昇圧時よりゆっくりとした速度で係合圧が低下させられるから、係合圧が相対的に低い状態が迅速に解消され、また係合圧を低下させる場合にオーバーシュートやそれに起因して過剰に低圧になることが回避される。その結果、クラッチの係合圧の不足を抑制もしくは防止でき、たとえばクラッチのトルク容量が無段変速機構でのトルク容量に対して小さくなる事態を未然に防止することができる。
【0135】
さらに、請求項3の発明によれば、クラッチに対する入力トルクが、学習の禁止されているトルクから学習のおこなわれるトルクに増大したものの、その増大したトルクに対応する前記学習値が得られていない場合、他のトルクについての既学習係合圧に基づいて、増大したトルクに対応する所定油圧を加えた補正油圧が設定され、その状態で係合圧の学習がおこなわれるため、学習値が得られていないトルクに入力トルクが増大しても、既学習係合圧を考慮した圧力に係合圧が昇圧されるので、係合圧の相対的な不足を防止でき、またその後の学習を迅速に実行することができる。
【0136】
そして、請求項4の発明によれば、係合圧の学習値が得られているトルクに前記入力トルクが変化した場合、学習値により設定された油圧に所定油圧を加えた補正油圧が設定され、その状態から学習値により設定された油圧へ移行するため、入力トルクが増大して係合圧が増大する場合に油圧の応答遅れによるクラッチの解放を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートの一部を示す図である。
【図2】その制御条件の成立を判定するためのフローチャートの一例を示す図である。
【図3】クラッチ油圧を制御する機構における指令デューティ比とクラッチ油圧との関係を概念的に示す特性図である。
【図4】いわゆる低トルク領域から入力トルクが増大した場合のクラッチ油圧の変化の例を示す線図である。
【図5】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートの図1に続く部分を示す図である。
【図6】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートの図5に続く部分を示す図である。
【図7】入力トルクについての領域およびそれに対応した油圧の学習値を概念的に示す図表である。
【図8】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートの図6に続く部分を示す図である。
【図9】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートの図8に続く部分を示す図である。
【図10】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートの図9に続く部分を示す図である。
【図11】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートの図10に続く部分を示す図である。
【図12】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートの図11に続く部分を示す図である。
【図13】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートの図12に続く部分を示す図である。
【図14】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートの図13に続く部分を示す図である。
【図15】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートの図14に続く部分を示す図である。
【図16】制御条件の成立を判定するためのフローチャートの他の例を示す図である。
【図17】この発明に係る無段変速機構を含む駆動系統を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1…無段変速機構、 3…トルクコンバータ、 4…エンジン(動力源)、 11…ロックアップクラッチ、 19…駆動プーリー、 20…従動プーリー、23…ベルト、 26…駆動輪、 31…変速機用電子制御装置(CVT−ECU)。
Claims (4)
- 無段変速機構に対して直列に配列されたクラッチの係合圧を、前記無段変速機構よりも先にクラッチに滑りが生じるように制御し、かつそのクラッチの係合圧を学習する学習手段を備えた無段変速機構を含む駆動系統の制御装置であって、
前記クラッチに対する入力トルクが予め定めた所定値以下の場合に前記学習手段による係合圧の学習を禁止する学習制御禁止手段と、
その係合圧の学習が禁止されている場合に前記係合圧を予め定めた所定の圧力に設定する係合圧設定手段と
を備えていることを特徴とする無段変速機構を含む駆動系統の制御装置。 - 前記入力トルクが前記所定値よりも大きいトルクに増大した場合、既に得られている学習値による係合圧が前記係合圧設定手段で設定された係合圧より高ければ、前記クラッチの係合圧をその学習値による係合圧に直ちに増大させ、これとは反対に前記学習値による係合圧が前記係合圧設定手段で設定された係合圧より低ければ、前記クラッチの係合圧をその学習値による係合圧に前記増大させる場合よりも遅い速度で低下させる係合圧制御手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機構を含む駆動系統の制御装置。
- 前記入力トルクが前記所定値よりも大きくかつ前記学習値が得られていないトルクに増大した場合、その増大した入力トルクに対応する係合圧として、既に得られている他の入力トルクに対する学習値に基づいて推定した学習値に所定油圧を加えた補正油圧を設定する補正油圧設定手段を更に備え、
その補正油圧に設定された後に前記学習手段による係合圧の学習をおこなうように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の無段変速機構を含む駆動系統の制御装置。 - 前記入力トルクが前記所定値より大きくかつ前記学習手段による学習値が得られているトルクである場合に、その入力トルクに対応する係合圧として、学習値により設定された油圧に所定油圧を加えた補正油圧を設定する補正油圧設定手段を更に備え、
その補正油圧が設定された後に前記学習手段による係合圧に徐々に移行するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の無段変速機構を含む駆動系統の制御装置。
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