JP2004244702A - 希土類永久磁石の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】R:25〜35wt%(RはYを含む希土類元素の1種又は2種以上)、B:0.5〜4.5wt%、Al及びCuの1種又は2種:0.02〜0.5wt%、M(MはZr、Nb及びHfの1種又は2種以上):0.03〜0.25wt%、Co:4wt%以下(0を含まず)、残部実質的にFeからなる最終組成を有する焼結体からなるR−Fe−B系希土類永久磁石を製造する方法であって、Bを含む低R合金とMを含む高R合金とを出発原料とする。このように、BとMが共存しない原料を用いることにより、微粉砕工程における粉砕機および磁場中成形工程における成形金型の摩耗、損傷を低減することができる。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、R(RはYを含む希土類元素の1種又は2種以上)、T(TはFe又はFe及びCoを主体とする少なくとも1種以上の遷移金属元素)及びB(ホウ素)を主成分とする磁気特性に優れた希土類永久磁石の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
希土類磁石の中でもR−T−B系希土類永久磁石(以下、単に希土類永久磁石)は、磁気特性に優れていること、主成分であるNdが資源的に豊富で比較的安価であることから、需要は年々、増大している。従来、希土類永久磁石の磁気特性を向上させるため、種々の試みがなされている。その中でも磁石合金中の酸素濃度を低下させることは、高性能化のために有効である。しかし、磁石合金中の酸素濃度を低下させると焼結工程において結晶粒の粗大化や、局部的な異常粒成長が起こりやすくなる。このため焼結温度に対する組織変化が著しく、角形性の悪い磁石となりやすい。
そこで磁石合金の焼結工程での粒成長を抑制し、磁気特性と焼結温度幅を改善する方法が提案されている。例えば、特開2002−75717号公報では、Co、Al、Cu、それにZr、Nb又はHfを含有するR−T−B系希土類磁石合金の金属組織中に微細なZrB化合物、NbB化合物又はHfB化合物(以下、M−B化合物ということがある)を均一に分散して析出させることにより、磁石合金の粒成長を抑制し、磁気特性と焼結温度幅を改善する報告がなされている。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−75717号公報(第1頁)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
希土類永久磁石は、周知のように、粉末冶金法により製造される。この製造工程の概略を説明すると、所定組成の合金を得た後にこの合金を粉砕して粉末を作製し、所定の形状に成形した後に焼結するというものである。この製造工程において、粉砕を行う粉砕機、粉砕された粉末を搬送する搬送配管の内壁、あるいは成形体を得るために用いる成形機の金型の摩耗が大きいと、製造設備の寿命が短くなり、生産性を著しく低下させるという問題点を有する。したがって、粉砕機等の摩耗が少ないことが、工業的な生産においては極めて重要であり、特開2002−75717号公報に開示されたM−B化合物を焼結体中に分散させる方法においても、要求される事項である。
【0005】
そこで本発明は、希土類永久磁石を製造する過程において粉砕機等の摩耗が抑制され、生産効率の高い希土類永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる目的のもと、本発明者等は種々の形態を有する原料合金を用いてM−B化合物が焼結体中に分散された希土類永久磁石を製造した。その結果、MとBの両者を含む原料合金を用いて希土類永久磁石を製造した場合に、粉砕機、搬送配管の内壁及び成形機金型の摩耗が著しく大きくなること、さらに、MとBが共存しない原料合金を用いて希土類永久磁石を製造した場合には、粉砕機等の摩耗が著しく低減されることを知見した。
【0007】
本発明は以上の知見に基づくものであり、R:25〜35wt%(RはYを含む希土類元素の1種又は2種以上)、B:0.5〜4.5wt%、Al及びCuの1種又は2種:0.02〜0.5wt%、M(MはZr、Nb及びHfの1種又は2種以上):0.03〜0.25wt%、Co:4wt%以下(0を含まず)、残部実質的にFeからなる最終組成を有する焼結体からなるR−Fe−B系希土類永久磁石を製造する方法であって、この最終組成を構成する複数種の金属粉末からなる混合物を加圧成形して成形体を得る工程と、この成形体を焼結する工程とを備え、BとMは、互いに異なる複数種の金属粉末に含まれることを特徴とする希土類永久磁石の製造方法である。
本発明によれば、MとBが共存する原料合金を用いていないので、焼結工程以前に行われる粉砕工程、成形工程において、Zr、Nb又はHfとBとを化合物の形態として存在させることなく処理できる。したがって、粉砕機及び成形機金型の摩耗が低減される。
なお、本発明において、金属粉末とは、単一種の金属元素(以下、単体金属という)粉末及び合金粉末を包含する概念を有している。したがって、金属粉末とは、合金粉末と合金粉末との組合せ、合金粉末と単体金属粉末との組合せの両者を包含することになる。
【0008】
本発明において、R2Fe14B化合物又はR2(Fe,Co)14B化合物を含む合金粉末(a)と、Mを含む金属粉末(b)を複数種の金属粉末として含むことができる。ここで、合金粉末(a)は、R−Fe−B系希土類永久磁石の主相を構成するR2Fe14B化合物又はR2(Fe,Co)14B化合物を含むが、これには2つの形態がある。1つは合金粉末(a)が専らR2Fe14B化合物又はR2(Fe,Co)14B化合物からなるものであり、他の1つはR2Fe14B化合物又はR2(Fe,Co)14B化合物のみならず所謂粒界相を構成する成分をも含むものである。前者の形態は、さらに、以下の2つの形態を含む。1つは、合金粉末(a)はR2Fe14B化合物又はR2(Fe,Co)14B化合物が主体をなし、金属粉末(b)はR及びFeを含み合金粉末(a)よりもR量が多い合金とする形態である。他の1つは、合金粉末(a)はR2Fe14B化合物又はR2(Fe,Co)14B化合物が主体をなし、金属粉末(b)はMを構成元素とし、さらに、R及びFeを含み合金粉末(a)よりもR量が多い合金粉末(c)が複数種の金属粉末の1つを構成する形態である。また、後者の形態としては、合金粉末(a)は実質的にMを除いた前記最終組成を有し、金属粉末(b)はMを構成元素とするものである。
【0009】
以上の本発明によれば、MとBが共存しない原料を用いているため、焼結体中にM−B化合物が存在するR−T−B系希土類永久磁石を得ようとする場合に、M−B化合物は焼結工程中に生成されることになる。つまり本発明は、R2T14B化合物相(RはYを含む希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCoを主体とする少なくとも1種以上の遷移金属元素)からなる主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなり、ZrとBとを含むZrB化合物、NbとBとを含むNbB化合物及びHfとBとを含むHfB化合物の1種又は2種以上の化合物が分散する希土類永久磁石の製造方法であって、焼結工程中に前記化合物が生成することを特徴とする希土類永久磁石の製造方法を提供する。
【0010】
以上の本発明において、焼結工程に供される成形体は、第1の粉末と第1の粉末とは異なる組成を有する第2の粉末との混合物から構成することができる。そして、この成形体において、Bを第1の粉末に含有させ、Zr、Nb及びHfの1種又は2種以上を第2の粉末に含有させることにより、焼結工程中に上記した化合物を生成させることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による希土類永久磁石の製造方法について詳細に説明する。
<組織>
はじめに本発明によって得られる希土類永久磁石の組織について説明する。
本発明によって得られる希土類永久磁石合金は、よく知られているように、R2T14B化合物相(RはYを含む希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCo)からなる主相と、この主相よりRを多く含む粒界相とを少なくとも含んでいる。主相及び粒界相は、希土類永久磁石として通常含まれる相であるが、本発明では該合金の金属組織中に、ZrとBとを含むZrB化合物、NbとBとを含むNbB化合物、及びHfとBとを含むHfB化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を分散させることができる。
【0012】
<化学組成>
次に、本発明による希土類永久磁石の望ましい化学組成について説明する。ここでいう化学組成は焼結後における最終組成をいう。
【0013】
本発明の希土類永久磁石は、希土類元素(R)を25〜35wt%含有する。
ここで、Rは、Yを含む希土類元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Yb及びLu)の1種又は2種以上である。希土類元素の量が25wt%未満であると、希土類永久磁石の主相となるR2T14B相の生成が十分ではなく軟磁性を持つα−Feなどが析出し、保磁力が著しく低下する。一方、希土類元素が35wt%を超えると主相であるR2T14B相の体積比率が低下し、残留磁束密度が低下する。また希土類元素が酸素と反応し、含有する酸素量が増え、これに伴い主に粒界相を構成する保磁力発生に有効なR−rich相が減少し、保磁力の低下を招く。そこで本発明では希土類元素の量を25〜35wt%とする。望ましい希土類元素の量は28〜33wt%、さらに望ましい希土類元素の量は29〜32wt%である。
Ndは資源的に豊富で比較的安価であることから、希土類元素としての主成分をNdとすることが好ましい。
また、Dyの含有はR2T14B相の異方性磁界を増加させ、保磁力を向上させる上で有効である。よって、希土類元素としてNd及びDyを選択し、Nd及びDyの合計を25〜33wt%とすることが望ましい。そして、この範囲において、Dyの量は0.1〜8wt%が望ましい。Dyは、残留磁束密度及び保磁力のいずれを重視するかによって上記範囲内においてその量を定めることが望ましい。つまり、高い残留磁束密度を得たい場合にはDy量を0.1〜3.5wt%とし、高い保磁力を得たい場合にはDy量を3.5〜8wt%とすることが望ましい。
【0014】
また、本発明の希土類永久磁石は、ホウ素(B)を0.5〜4.5wt%含有する。Bが0.5wt%未満の場合には高い保磁力を得ることができない。ただし、Bが4.5wt%を超えると残留磁束密度が低下する傾向がある。したがって、上限を4.5wt%とする。望ましいBの量は0.5〜1.5wt%、さらに望ましいBの量は0.8〜1.2wt%である。
【0015】
本発明による希土類永久磁石は、Al及びCuの1種又は2種を0.02〜0.5wt%の範囲で含有することができる。この範囲でAl及びCuの1種又は2種を含有させることにより、得られる希土類永久磁石の高保磁力化、高耐食性化、温度特性の改善が可能となる。Alを添加する場合において、望ましいAlの量は0.03〜0.3wt%、さらに望ましいAlの量は0.05〜0.25wt%である。また、Cuを添加する場合において、望ましいCuの量は0.15wt%以下(0を含まず)、さらに望ましいCuの量は0.03〜0.08wt%である。
【0016】
本発明の希土類永久磁石は、M(MはZr、Nb及びHfの1種又は2種以上)を0.03〜0.25wt%含有する。Mは希土類永久磁石の磁気特性向上を図るために酸素含有量を低減する際に、焼結過程での結晶粒の異常成長を抑制する効果を発揮し、焼結体の組織を均一かつ微細にする。したがって、Mは酸素量が低い場合にその効果が顕著になる。Mによる上記効果の発現理由は明らかではないが、本発明者は以下のように推測している。すなわち、焼結時に液相生成によって液相中のBとMが反応又は液相中へMが含有されることによって液相の性質(濡れ等)が変化し、結果として焼結過程での異常粒成長が抑制される。この結果として、焼結後の粒界相(3重点に存在する相)中にMを含む析出物(M−B化合物)が形成されるか、又はMが固溶した粒界相が形成される。
Mの望ましい量は0.05〜0.2wt%、さらに望ましい量は0.1〜0.15wt%である。また、Mのなかでは、Zrを選択することにより最も高い磁気特性を得ることができる。
【0017】
本発明の希土類永久磁石は、その酸素量を2000ppm以下とすることが望ましい。酸素量が多いと非磁性成分である酸化物相が増大して、磁気特性を低下させるからである。そこで本発明では、焼結体中に含まれる酸素量を、2000ppm以下、望ましくは1500ppm以下、さらに望ましくは1000ppm以下とする。ただし、単純に酸素量を低下させたのでは、粒成長抑制効果を有していた酸化物相が減少し、焼結時に十分な密度上昇を得る過程で粒成長が容易に起こる。そこで、本発明ではMを所定量添加する。
【0018】
本発明の希土類永久磁石は、Coを4wt%以下(0を含まず)、望ましくは0.1〜1.0wt%、さらに望ましくは0.3〜0.7wt%含有する。CoはFeと同様の相を形成するが、キュリー温度の向上、粒界相の耐食性向上に効果がある。
【0019】
<製造方法>
次に、本発明による希土類永久磁石の製造方法について説明する。
原料合金中にMとBが共存しているとM−B化合物が形成されるが、本発明ではM−B化合物が存在する原料合金を用いないものとする。M−B化合物は融点が非常に高いため(例えばZrB2の融点は2990℃)、MとBが共存する合金は、溶解・鋳造後の合金中に既にM−B化合物が生成していると考えられる。これらM−B化合物のビッカ−ス硬度は、Zr−B、Nb−B、Hf−B等で2000Hv以上であり、主相を構成するNd2Fe14B化合物のビッカ−ス硬度(600Hv)よりも著しく大きく、非常に硬い物質である。
M−B化合物を含むと著しく硬い当該化合物が粉末表面に露出することとなり、微粉砕装置の金属部材を削る作用が大きくなる、あるいは微粉砕工程後の成形工程での金型表面に与えるダメージが大きくなると解される。
そこで本発明は、原料合金中にMとBを共存させないことで、粉砕機等における摩耗劣化を軽減し、生産性を向上させるのである。
【0020】
希土類永久磁石の製造方法としては、所望する組成と一致する単一の合金を出発原料とする方法(以下、単一法という)と、異なる組成を有する複数の合金を出発原料とする方法(以下、混合法という)の二つが存在する。本発明は、単一法及び混合法のいずれについても適用することができる。ここでは、混合法に本発明を適用する形態について説明する。
混合法は、R2T14B化合物を主体とする合金(以下、低R合金ということがある)と、低R合金よりRを多く含む合金(以下、高R合金ということがある)とを混合する。低R合金は本系磁石の主相を形成するためのものであり、高R合金は粒界相を形成するためのものである。低R合金にCoを含まない場合には低R合金はR2Fe14B化合物を含む。また、低R合金にCoを含む場合にはCoがFeサイトに取り込まれるから、低R合金はR2(Fe,Co)14B化合物を含むことになる。
【0021】
はじめに、原料金属を真空又は不活性ガス、好ましくはAr雰囲気中で溶解し鋳造することにより、低R合金及び高R合金を得る。溶解、鋳造としては、アーク溶解、ストリップキャスト等の種々の手法を採用することができる。ここで、低R合金はBを含むので、低R合金にはMを含有させずに、高R合金にMを含有させる。又は、低R合金及び高R合金のいずれにもMを含有させることなく、低R合金及び高R合金のほかにMを構成元素とする金属を用意する。
以上の金属(合金も含む)を得るための原料としては、希土類金属あるいは希土類合金、純鉄、フェロボロン、さらにはこれらの合金等を使用することができる。得られた鋳塊は、凝固偏析がある場合は必要に応じて溶体化処理を行なう。その条件は真空又はAr雰囲気下、700〜1500℃の領域で1時間以上保持すれば良い。
【0022】
以下では、高R合金にMを含有させる形態について説明する。低R合金及び高R合金が作製された後、これらの各合金は別々に又は一緒に粉砕される。粉砕工程には、粗粉砕工程と微粉砕工程とがある。まず、各合金の鋳塊を、それぞれ粒径数100μm程度になるまで粗粉砕する。粗粉砕は、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中にて行なうことが望ましい。粗粉砕性を向上させるために、水素を吸蔵させた後、粗粉砕を行なうことも効果的である。
粗粉砕工程後、微粉砕工程に移る。微粉砕は、主にジェットミルが用いられ、粒径数100μm程度の粗粉砕粉末が平均粒径3〜5μmになるまで行われる。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(例えば窒素ガス)を狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粗粉砕粉末を加速し、粗粉砕粉末同士の衝突やターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
本発明では、低R合金及び高R合金の各々にMとBが共存しないため、硬いM−B化合物が生成されていない。したがって、以上の粉砕工程、特に微粉砕に用いる粉砕機の磨耗を低減することができる。
【0023】
微粉砕工程において低R合金及び高R合金を別々に粉砕した場合には、微粉砕された低R合金粉末及び高R合金粉末とを不活性ガス雰囲気中で混合する。低R合金粉末及び高R合金粉末の混合比率は、重量比で80:20〜97:3程度とすればよい。低R合金及び高R合金を一緒に粉砕する場合の混合比率も同様である。微粉砕時に、ステアリン酸亜鉛等の添加剤を0.01〜0.3wt%程度添加することにより、成形時に配向性の高い微粉を得ることができる。
【0024】
次いで、低R合金粉末及び高R合金粉末からなる混合粉末を、電磁石に抱かれた金型内に充填し、磁場印加によってその結晶軸を配向させた状態で磁場中成形する。この磁場中成形は、12〜17kOeの磁場中で、0.7〜1.5t/cm2前後の圧力で行なえばよい。
【0025】
磁場中成形後、その成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結する。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、1000〜1100℃で1〜5時間程度保持すればよい。本発明は、この焼結工程においてM−B化合物が生成され、焼結体中に分散される。ただし、Mの全てがBと化合物を形成するわけではなく、Bと化合物を形成しないこともある。
焼結後、得られた焼結体に時効処理を施すことができる。この工程は、保磁力を制御する重要な工程である。時効処理を2段に分けて行なう場合には、800℃近傍、600℃近傍での所定時間の保持が有効である。800℃近傍での熱処理を焼結後に行なうと、保磁力が増大するため、混合法においては特に有効である。また、600℃近傍の熱処理で保磁力が大きく増加するため、時効処理を1段で行なう場合には、600℃近傍の時効処理を施すとよい。
【0026】
以上では混合法に本発明を適用した形態のなかで高R合金にMを含有せしめた例について説明した。この例をフローチャートにして示したのが図1である。図1において、高R合金と低R合金とを混合することにより、希土類永久磁石として所望される最終組成となる。なお、図1は低R合金及び高R合金を各々粗粉砕した後に混合し、しかる後に微粉砕する例を示したものであるが、微粉砕まで別個に行い、しかる後に低R合金と高R合金を混合することもできる。
【0027】
前述したように、本発明は、低R合金及び高R合金のいずれにもMを含有させることなく、かつ低R合金及び高R合金のほかにMを構成元素とする金属を用意することができる。図2は、この形態をフローチャートとして示している。図2において、低R合金及び高R合金のほかにM金属/合金を作製する。ここで、「M金属/合金」とは、Mから選ばれる1種の元素(例えば、Zr)からなる純金属、Mから選ばれる2種以上の元素からなる合金(例えば、Zr−Nb合金、Zr−Hf合金)を含む。さらに、「M金属/合金」とは、Mから選ばれる1種又は2種以上の元素と他の金属元素との合金(例えば、Fe−Zr合金、Co−Zr合金)とすることもできる。なお、混合の時期が粗粉砕後に限定されないことは、図1と同様である。
【0028】
また、本発明が単一法に適用することができることは、前述の通りである。図3は単一法に本発明を適用した例をフローチャートとして示している。図3において、「主組成合金」とは、Mを除いて希土類永久磁石としての最終組成となる組成を有する合金を意味する。この主組成合金は、希土類永久磁石の主相をなすR2T14B相を含み、かつ粒界相をも含んでいる。図3の例では、主組成合金を粗粉砕、微粉砕した後に、M金属/合金粉末を混合している。M金属/合金を粉末の状態として入手し、微粉砕された主組成合金粉末と混合することもできることを意味している。もちろん、主組成合金を粉末の状態で入手し、これまた粉末の状態として入手したM金属/合金と混合できることは言うまでもない。このとき、M金属/合金粉末は、主組成合金粉末よりも平均粒径が小さいことが望ましい。
【0029】
【実施例】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
1)原料合金
ストリップキャスティング法により、表1に示す7種類の合金を作製した。なお、7種類の合金の中で、合金a−3及び合金b−2はMとBが共存している。また、表1において、MはZr、Nb及びHfのいずれかを示している。
【0030】
【表1】
【0031】
2)水素粉砕工程
表1に示す7種類の合金に対して室温にて水素を吸蔵させた後、Ar雰囲気中で600℃×1時間の脱水素を行なう水素粉砕処理を施した。
高磁気特性を得るために、本実験では焼結体酸素量を低く抑えるために、水素粉砕工程(粉砕処理後の回収)から焼結工程(焼結炉に投入する)までの各工程の雰囲気酸素濃度を100ppm未満に抑えてある。
【0032】
3)混合工程
水素粉砕された各合金を表2の「合金組合せ」の欄に示す組合せによって「最終組成」となるように混合した。なお、混合に先立ってステアリン酸亜鉛を0.05wt%添加し、ナウターミキサーで30分間混合した。なお、表2において「M粉」とは、純度99.9%、平均粒径3μmのZr粉末、Nb粉末及びHf粉末のいずれかを示している。
【0033】
【表2】
【0034】
4)粉砕工程
通常、機械的手段による粗粉砕と微粉砕による2段粉砕を行なっているが、粗粉砕工程を100ppm未満の酸素濃度で行なうことができなかったため、本実施例では機械的手段による粗粉砕工程を省いている。
微粉砕はジェットミルを用いて行なった。得られた粉末の平均粒径は4μmである。
【0035】
5)成形工程
得られた微粉末を磁場中にて成形する。具体的には、微粉末を電磁石に抱かれた金型内に充填し、磁場印加によってその結晶軸を配向させた状態で加圧成形する。この磁場中成形は、12〜17kOeの磁場中で、0.7〜1.5t/cm2前後の圧力で行なえばよい。本実験では15kOeの磁場中で1.2t/cm2の圧力で成形を行い、成形体を得た。
【0036】
6)焼結、時効工程
得られた成形体を真空中において1070℃で4時間焼結した後、急冷した。焼結体の酸素濃度は、いずれも600〜900ppmであった。次いで、得られた焼結体に800℃×1時間と550℃×2.5時間(ともにAr雰囲気中)の2段時効処理を施した。
【0037】
以上の粉砕工程に用いたジェットミルの摩耗状態の観察を行った。具体的には、ジェットミルの中でも最も摩耗が生じやすい配管の屈曲部について、以下の基準による観察を行った。結果を表3に示す。
○(粉砕機の摩耗が軽微):500kgの原料を粉砕した際に粉砕機配管内の屈曲部の肉厚の摩耗が3%未満である。
×(粉砕機の摩耗が著しい):500kgの原料を粉砕した際に粉砕機配管内の屈曲部の肉厚が3%以上減少している。
【0038】
また、成形工程における金型の摩耗状態の観察も行った。具体的には、上述した条件(ただし、金型キャビティの寸法は13×22×11mm)で3万ショットの連続成形を行った後に、以下の基準による観察を行った。結果を表3に示す。
○:3万ショット連続成形後、金型に摩耗なし
△:3万ショット連続成形はできたが、金型に摩耗あり
×:金型が欠け、3万ショットの連続成形ができない
【0039】
さらに、時効処理後の永久磁石について、B−Hトレーサを用いて磁気特性を測定した。なお、各試料No.について25個の永久磁石の磁気特性を測定し、その平均値を表3に示した。また、図4には、表2の試料No.1、5及び6による25個の永久磁石の各保磁力(HcJ)をプロットした。なお、本発明による希土類永久磁石のいくつかについて組織を観察したところ、微細なM−B化合物の存在が確認された。
その一例として、試料No.1(本発明A)のEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)による元素マッピングの結果を図5に、試料No.6(比較例B)のEPMAによる元素マッピングの結果を図6示す。なお、図5及び図6において、(a)はB(ホウ素)についてのマッピングを、(b)はZrについてのマッピングを示している。図5及び図6において、丸で囲った領域ではZrとBが同一の箇所に存在し、Zr−B化合物の存在が確認される。加えて、試料No.1では図5中で三角印で示す様に、ZrとBが一致していない領域もあり、Zr−B化合物として存在しないZrに富む領域も確認された。
【0040】
【表3】
【0041】
表3に示すように、本発明A〜Cは粉砕機の摩耗が軽微であったのに対して、比較例A及びBは粉砕機に著しい摩耗が生じた。また、本発明A〜Cでは、成形後の金型を調べたところ、金型損傷や摩耗は見られず、成形体の寸法や外観に問題はなかった。比較例Aでは金型損傷は見られないが、摩耗が多いために2.5万ショットで寸法及び外観の規格を外れる成形体が成形された。比較例Bでは成形体取出時に金型鳴きが発生した。さらに、1.8万ショットで成形体側面に欠けが生じ、2万ショットで金型が欠けたので、連続成形を終了した。また、比較例Cは、単一法でかつMを含まないものであるが、その合金の組織を観察したところ、異常粒成長による粗大化した結晶粒子が多数確認された。その結果として、磁気特性、特に保磁力(HcJ)が劣っている。
【0042】
以上の結果から、BとMとが共存しない原料合金を用いると粉砕機及び金型の摩耗あるいは損傷が軽微であるのに対して、BとMとが共存する合金(表1の合金a−3、合金b−2)を用いると粉砕機及び金型の摩耗あるいは損傷が顕著となる。これは、前述したように、BとMとが共存する合金には硬度の高いM−B化合物が析出しており、このM−B化合物が粉砕機及び金型の摩耗あるいは損傷を顕著にしているものと解される。なお、表3からわかるように、磁気特性の観点から、Mの中ではZrが最も有効である。
【0043】
また、図4に示すように、本発明による希土類永久磁石は保磁力(HcJ)のばらつきが比較例による磁石に比べて小さい。したがって、本発明によれば、磁気特性が安定した永久磁石を得ることができるという効果をも有していることがわかった。その理由は明らかでないが、図5及び図6から考えるに、Zr−B(M−B)化合物として存在しないZrに富む領域の存在が保磁力(HcJ)のばらつき低減の一因であると推定される。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、粉砕機等の摩耗が抑制され、生産効率の高い希土類永久磁石の製造方法が提供される。加えて本発明によれば、磁気特性、特に保磁力(HcJ)の安定した希土類永久磁石を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一形態を示す工程フローである。
【図2】本発明の他の形態を示す工程フローである。
【図3】本発明のさらに他の形態を示す工程フローである。
【図4】表3の試料No.1、5及び6による25個の永久磁石の各保磁力(HcJ)をプロットしたグラフである。
【図5】表3の試料No.1のEPMAによる元素マッピングの結果を示す図である。
【図6】表3の試料No.6のEPMAによる元素マッピングの結果を示す図である。
Claims (7)
- R:25〜35wt%(RはYを含む希土類元素の1種又は2種以上)、B:0.5〜4.5wt%、Al及びCuの1種又は2種:0.02〜0.5wt%、M(MはZr、Nb及びHfの1種又は2種以上):0.03〜0.25wt%、Co:4wt%以下(0を含まず)、残部実質的にFeからなる最終組成を有する焼結体からなるR−Fe−B系希土類永久磁石を製造する方法であって、
前記最終組成を構成する複数種の金属粉末からなる混合物を加圧成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結する工程とを備え、
BとMは、互いに異なる前記複数種の金属粉末に含有されることを特徴とする希土類永久磁石の製造方法。 - R2Fe14B化合物又はR2(Fe,Co)14B化合物を含む合金粉末(a)と、Mを含む金属粉末(b)を前記複数種の金属粉末として含むことを特徴とする請求項1に記載の希土類永久磁石の製造方法。
- 前記合金粉末(a)はR2Fe14B化合物又はR2(Fe,Co)14B化合物が主体をなし、前記金属粉末(b)はR及びFeを含み前記合金粉末(a)よりもR量が多い合金であることを特徴とする請求項2に記載の希土類永久磁石の製造方法。
- 前記合金粉末(a)はR2Fe14B化合物又はR2(Fe,Co)14B化合物が主体をなし、前記金属粉末(b)はMを構成元素とし、さらに、R及びFeを含み前記合金粉末(a)よりもR量が多い合金粉末(c)が前記複数種の金属粉末をなすことを特徴とする請求項2に記載の希土類永久磁石の製造方法。
- 前記合金粉末(a)は実質的にMを除いた前記最終組成を有し、前記金属粉末(b)はMを構成元素とすることを特徴とする請求項2に記載の希土類永久磁石の製造方法。
- R2T14B化合物相(RはYを含む希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCoを主体とする少なくとも1種以上の遷移金属元素)からなる主相と、
前記主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなり、
ZrとBとを含むZrB化合物、NbとBとを含むNbB化合物及びHfとBとを含むHfB化合物の1種又は2種以上の化合物が分散する希土類永久磁石の製造方法であって、
焼結工程中に前記化合物が生成することを特徴とする希土類永久磁石の製造方法。 - 前記焼結工程に供される成形体は、第1の粉末と前記第1の粉末とは異なる組成を有する第2の粉末との混合物から構成され、
Bが前記第1の粉末に含有され、Zr、Nb及びHfの1種又は2種以上が前記第2の粉末に含有されることを特徴とする請求項6に記載の希土類永久磁石の製造方法。
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