JP2004243650A - 熱伝導性シート - Google Patents
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Abstract
【解決手段】シート状黒鉛層10の片面又は両面に、ポリビニルアルコール層11を介して、シリコーンエラストマー層12を設けたことを特徴とする。ポリビニルアルコールの塗布量は、固形分として1.0〜3.0g/m2とすることが好ましい。また、シリコーンエラストマー層12には、熱伝導性のフィラーを適宜配合する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱伝導性シートに関する。特に、各種の電気及び電子機器の発熱性部品から発生する熱を効率よく伝熱ないし放熱するための部材として好適に用いられる熱伝導性シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
各種の電気及び電子機器においては、発熱性部品から発生する熱を効率よく伝熱ないし放熱することが、誤作動を防止したり、製品寿命を延ばしたりする上で重要である。したがって、そのような発熱を伴う電気及び電子機器においては、従来、伝熱ないし放熱のために熱伝導性シートを取り付けることが一般に行われている。
【0003】
上記熱伝導性シートとして、(特許文献1)には、黒鉛シートの少なくとも片面に、シリコーンゴムを塗布した熱伝導性シートが開示されている。かかる熱伝導性シートは、その形状からして取り扱いが容易であり、また黒鉛シートが高い熱伝導性を有するため、電気及び電子機器の伝熱・放熱材として便利なものとされている。
【0004】
しかしながら、上記の熱伝導性シートのように、黒鉛シートに対し、接着を良くするためのプライマーを必要に応じて塗布し、その上にシリコーンゴム(エラストマー)を塗布しただけの構成とした場合には、シリコーンエラストマー中のシリコーンオイルが黒鉛シート中に吸収され易く、その結果、エラストマー層の表面が乾いた状態となり、例えば、抜き加工を行った際に保護フィルムが剥離脱落して製品としての取扱い性が悪くなる問題があった。また、表面の粘着性(タック性)、密着性が失われ易いため、電子機器等に取り付ける際に仮置きし難い等、作業性の問題もあった。
さらに、多少の時間をおいて再使用のため一旦取り付けた熱伝導性シートを取り外す場合があるが、その際に黒鉛シート部分が破れてしまい使用不可能になる(いわゆるリペアー性が悪い)という問題があった。これは黒鉛シート部分がその間にシリコーンオイルを吸収して膨潤し、強度が低下するためと考えられる。
【0005】
【特許文献1】
特公平3−51302号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、上記従来の状況に鑑み、取り扱いが便利で、十分な熱伝導性(低熱抵抗)を有し、かつ取り付け対象部品に対するタック性、密着性が保持され、さらに、リペアー性にも優れる新規な熱伝導性シートを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の熱伝導性シートは、請求項1として、シート状黒鉛層の片面又は両面に、ポリビニルアルコール層を介して、シリコーンエラストマー層を設けたことを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、ポリビニルアルコール層によって、シリコーンオイルのシート状黒鉛層への吸収が阻止され、表面のタック性、密着性が維持される。
【0009】
また、請求項2に係る熱伝導性シートは、シート状黒鉛層の両面に、塗布量が相異なるように形成したポリビニルアルコール層を介して、シリコーンエラストマー層を設けたことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、実際に使用する態様に応じて、ポリビニルアルコールの塗布量が調節され、オイルバリア性の度合いが表と裏で異なる熱伝導性シートが提供される。
【0011】
また、請求項3は、請求項1記載の熱伝導性シートにおいて、ポリビニルアルコールの塗布量が、固形分として1.0〜3.0g/m2であることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、シリコーンオイルのシート状黒鉛への吸収を完全に阻止しつつ、全体としては十分な熱伝導性が得られるように、ポリビニルアルコールの塗布量が最適化される。
【0013】
また、請求項4は、請求項2記載の熱伝導性シートにおいて、ポリビニルアルコールの塗布量が、シート状黒鉛層の一方の面では固形分として1.0〜3.0g/m2であり、前記シート状黒鉛層の他方の面では固形分として0.5〜1.0g/m2であることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、シート状黒鉛層の一方の面ではシリコーンオイルの吸収が阻止されて十分なタック性、密着性が維持され、他方の面では、塗布量を少なくしたため表面のタック性等は若干低下するが、シリコーンオイルがシート状黒鉛の中へ少量吸収され、黒鉛中の空隙に存在する空気と置換されて熱抵抗が低下する。全体としてはタック性、熱伝導性等のバランスが良く、実用性に優れた熱伝導性シートが提供される。
【0015】
また、請求項5は、請求項1〜4のいずれか記載の熱伝導性シートにおいて、ポリビニルアルコールが、ケン化度10〜100モル%、重合度100以上であることを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、ポリビニルアルコール層の機械的強度、及び付着力を高めるため、ポリビニルアルコールの性状が最適化される。
【0017】
また、請求項6は、請求項1〜5のいずれか記載の熱伝導性シートにおいて、シリコーンエラストマー層に、熱伝導性のフィラーを配合したことを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、フィラーの配合によってシリコーンエラストマー層部分の熱抵抗が低下し、全体の熱伝導性がより向上する。
【0019】
さらに、請求項7は、請求項6記載の熱伝導性シートにおいて、熱伝導性のフィラーが、Ni−Zn系軟磁性フェライト、アルミナから選ばれる一以上であることを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、フィラー自体の熱伝導率や、シリコーンエラストマーに対する分散性等を考慮して、フィラーの種類が特定される。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る熱伝導性シートを図1及び図2に示す。図1の熱伝導性シート1は、シート状黒鉛層10の片面に、ポリビニルアルコール層11を介してシリコーンエラストマー層12を設けることにより概略構成されている。一方、図2は、両面タイプの場合であり、すなわち、シート状黒鉛層10の両面に、ポリビニルアルコール層11、11’を介して、シリコーンエラストマー層12、12’をそれぞれ設けた例である。
【0022】
本発明は、ポリビニルアルコール層11を介在させたことを特徴とする。ポリビニルアルコール層11がオイルバリア性を発揮するため、シリコーンエラストマー層12中のシリコーンオイルがシート状黒鉛層10に吸収されるのを阻止することができる。したがって、シリコーンエラストマー層12の表面が乾くことなく、タック性、密着性を良好に維持することができる。また、オイルの吸収によるシート状黒鉛層10の強度低下が起こらないため、一旦取り付けた熱伝導性シートを取り外す際にも破れがなく円滑に行うことができる。
次に、熱伝導性シート1を構成する各要素について詳述する。
【0023】
まず、シート状黒鉛層10としては、従来知られた各種の黒鉛シートを適宜選択して用いることができる。例えば、天然黒鉛から製造したシートや、高分子化合物を黒鉛化してシート状としたもの等が挙げられるが、その製造由来は問わない。また、取り付け対象部品に沿って密着させるため、可撓性を有することが好ましい。
【0024】
シート状黒鉛層10の厚さは、厚過ぎると可撓性が損なわれ、逆に薄いと強度が低下するため、これらのバランスを考慮して適宜設定される。具体的には、0.1〜1.0mm程度とすることが適当である。
【0025】
続いて、ポリビニルアルコール層11について説明する。ポリビニルアルコール(ポバール)としては、ケン化度が98%以上の完全ケン化物、あるいは部分ケン化物(部分ケン化酢酸ビニル樹脂)のいずれも適用可能である。具体的には、ケン化度が10〜100モル%であることが好ましい。また、高速塗工性などが改善されたカルボキシル基変性タイプ、アセトアセチル基変性タイプ等を用いることもできる。さらに重合度は、100以上であることが好ましい。ケン化度及び重合度が上記の範囲で両方ともに高いほど、ポリビニルアルコール層の付着力(接着力)、機械的強度が向上し、熱伝導性シートの一体性が高まる。
【0026】
上記の条件を満たすポリビニルアルコールの具体例としては、日本酢ビ・ポバール(株)製 商品名;JMR150(ケン化度20モル%、重合度1500)、同 商品名;JMR10LL(ケン化度10モル%、重合度100)、日本合成化学工業(株)製 商品名;ゴーセナールT350(ケン化度98モル%以上、重合度2000、カルボキシル基変性タイプ)、同 商品名;GH−17R(ケン化度97モル%以上、重合度2000)、同 商品名;GL−05(ケン化度97モル%以上、重合度500)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
ポリビニルアルコールの塗布量は、少な過ぎるとオイルバリア性が得られず、逆に多過ぎると全体の熱伝導性が阻害されるため、これらのバランスを考慮して適宜調節される。具体的には、完全なオイルバリア性を発揮させ、かつ熱伝導シート全体としての熱抵抗を低い水準に維持するためには、固形分(乾燥重量)にして1〜3g/m2とすることが好ましい。
【0028】
また、図2のように、シート状黒鉛層10の両面に対して、ポリビニルアルコール層11、11’及びシリコーンエラストマー層12、12’を設けたタイプでは、ポリビニルアルコールの塗布量を、両面で同じ量にすることもできるし、あるいは相異なる量にすることもできる。両面で異なる量に設定した場合、それぞれの面でのオイルバリア性の度合いが異なるように調節することができる。例えば、シート状黒鉛層10の一方の面では固形分にして1.0〜3.0g/m2に設定し、他方の面ではより少なく0.5〜1.0g/m2に設定した場合、前者の面では完全なオイルバリア性を付与して十分なタック性、密着性を維持し、後者の面では、シリコーンオイルを少量吸収させることによって、表面はしばしばまだら模様を呈し、若干のタック性、密着性を残しつつ、シリコーンオイルをシート状黒鉛層10中の空隙に存在する空気と置換して熱抵抗を低下させることができる。これにより、全体として性能のバランスに優れた熱伝導性シートを得ることができる。また、塗布量を調節することで、シリコーンオイルの吸収速度を制御することができ、例えば、タック性、密着性が特に要求される製造時や部品への取り付け時において集中的にオイルバリア性が発揮されるように設計することもできる。
【0029】
次に、シリコーンエラストマー層12について説明する。シリコーンエラストマーとしては、加熱硬化型あるいは常温硬化型のもの、硬化機構が縮合型あるいは付加型のものなど、いずれも適用可能である。また、シリコーン中のケイ素原子に結合する基は、特に限定されるものではなく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、その他これらの基の水素原子が部分的に他の原子又は結合基で置換されたもの等を挙げることができる。その中でも、硬化機構が付加型のシリコーンは、硬化に際して副生成物を生成しないため特に好ましく用いられる。
【0030】
また、上記シリコーンエラストマー層12は、ゲル状態でも良く、例えば、硬化した後のJIS K2207−1980(50g荷重)の針入度が5〜200のものは特に好適に用いられる。この程度の柔らかさであると、シリコーンエラストマー層の密着性が高まり、熱伝導性シートの取り付けに際し便利である。
【0031】
シリコーンエラストマー層12の厚さは適宜設定することができるが、取り付け対象部品との密着性を確保するために、硬化後の厚さで、少なくとも15μm以上が好ましく、その中でも18μm〜1mmが特に好ましい。また、熱伝導性シート1の全体の厚さ、すなわちシート状黒鉛層10、ポリビニルアルコール層11、及びシート状エラストマー層12を合計した厚さは、0.15〜1.6mm(片面最小厚さ〜両面最大厚さ)が適当であるが、これに限定されるものではない。
【0032】
さらに、シリコーンエラストマー層12には、必要に応じて、熱伝導性のフィラーを配合することができる。これにより、シリコーンエラストマー層12の熱抵抗を低下させ、熱伝導性シート全体としての放熱性をより高めることができる。熱伝導性のフィラーとしては、シリコーンに対する分散性に優れ、また用途によっては電気絶縁性を有するものが要求される。具体的には、軟磁性又は硬軟磁性フェライト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化ジルコニウム等の窒化物、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の酸化物、純鉄、金属ケイ素、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイル等を挙げることができる。その中でも、Ni−Zn系軟磁性フェライト、及びアルミナは、相応に熱伝導性が高く、シリコーンの硬化阻害を起こし難く、またシリコーンへの分散性にも優れているため特に好ましく用いられる。なお、上記の各種フィラーは複数種を併用しても良い。
【0033】
熱伝導性フィラーの形状は、球状、繊維状、不定形状等の任意の形状が適用可能である。また、その大きさは、シリコーンに対する分散性等の観点から、粒径3〜50μm程度とすることが好ましい。さらに、熱伝導性フィラーの配合量は、シリコーンエラストマー層12の良好な成形性を確保し、かつ十分な熱伝導性を付与するために、シリコーンエラストマー層12の全体に対して20〜80重量%とすることが適当である。
【0034】
また、上記熱伝導性フィラーは、必要に応じて、シリコーンエラストマーとの親和性をより高め、均一な組成物を形成するために、その表面をシランカップリング剤で予め処理することができる。シランカップリング剤の例としては、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラ、ビニルトリメトキシシラン、ビニル・トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−クリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ユレイドプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。シランカップリング剤の使用量は、熱伝導性フィラーの重量に対して約0.2〜10重量%が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0035】
その他、シリコーンエラストマー層12には、本発明の目的を損なわない範囲で、可塑材、着色剤、難燃剤、硬化剤、硬化促進剤等の一般的な添加剤を適宜配合することができる。
【0036】
以上の熱伝導性シート1を作製するに際しては、まず、シート状黒鉛層10の表面に、ポリビニルアルコール液を塗布、乾燥させて層を形成する。塗布方法は、ワイヤーバーコーティング、スプレーコーティング、ローラーコーティング、刷け塗り、ディッピング等の公知の方法により行うことができる。
【0037】
ポリビニルアルコール液の溶媒は、水、アルコール、あるいはその混合液など、特に限定されることなく適用可能であるが、水/イソプロピルアルコール(IPA)の組み合わせが塗工性に優れるため特に好ましく用いられる。この組み合わせに比べると、水単独で用いる場合は、液の粘度が高くなり、塗布量、膜厚を制御し難い傾向がある。また、水/メタノールは、シート状黒鉛層10に吸収され易く、シリコーンエラストマー層12の硬化時にブリスターとして表出することがある。しかしながら、上記の傾向はポリビニルアルコールの重合度その他の条件によって異なるため、これに拘泥することなく場合に応じて適宜設定することができる。
【0038】
続いて、シリコーンエラストマー層12を形成するが、これに先立ち、シリコーンエラストマー層12とポリビニルアルコール層11との接着性をより向上させるために、プライマーを塗布しておくことができる。このプライマーの例としては、信越シリコーン社製のプライマーC、プライマーT、東レ・ダウコーニングシリコーン社製のプライマーA(以上、商品名)等を挙げることができ、また、ポリビニルアルコール層11を急速に溶解しない溶媒で希釈したシランカップリング剤等も適用可能である。この例として、東レ・ダウコーニング社製のSH6040(商品名)をトルエンで1〜25wt%に希釈したもの等が挙げられる。なお、ポリビニルアルコール層11とシリコーンエラストマー層12との接着性は比較的良好であるため、プライマーを必ずしも使用する必要はなく、ポリビニルアルコール層11の上に直接シリコーンエラストマー層12を形成しても良い。
【0039】
シリコーンエラストマー層12に、熱伝導性のフィラーを配合する場合は、予めシリコーンエラストマーに所定のフィラーを加えて混合し、組成物を調製しておく。混合するに際しては、例えばヘンシェルミキサー、バンバリー混合機、三本ロール混練機等の公知の手段を用いて行うことができる。
【0040】
そして、調製した未硬化のシリコーンエラストマー組成物を、ポリビニルアルコール層11ないしプライマー層の上に塗布し、熱硬化させることにより目的の熱伝導性シート1を作製することができる。塗布する手段は、スクリーン印刷、ワイヤーバーコーティング、スプレーコーティング、ローラーコーティング、刷け塗り、ディッピング等の手段を適宜採用することができる。
【0041】
塗布したシリコーンエラストマーを熱硬化させる際には、必要に応じて加圧しながら行うことができる。加圧により、シリコーンエラストマーがポリビニルアルコール層11ないしプライマー層に強く密着されたまま硬化が進むので、層間の欠陥が除かれ、高い熱伝導性を得ることができる。加圧の方法は、ロールや平板プレス等の各種プレス機により適宜行うことができ、その際の圧力は、高過ぎると熱伝導性フィラーの偏在を起こして好ましくないので、10〜200kPa程度が適当である。
【0042】
また、上述のように未硬化のシリコーンエラストマー組成物をポリビニルアルコール層11等に塗布・熱硬化させるのではなく、別の簡易的な方法として、予め調製し熱硬化させたシリコーンエラストマーシートを別途に用意しておき、シート状黒鉛層10上のポリビニルアルコール層11に、そのシリコーンエラストマーシートを表面のタック性を利用して貼り合わせるようにしても良い。
【0043】
【実施例】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
(実施例1)
まず、JIS K2207−1980(50g荷重)の針入度が、硬化した状態で100であるシリコーンゲル組成物25重量部に対し、電気絶縁性を有する熱伝導性フィラーとして、平均粒径16μmの球状のNi−Zn系軟磁性フェライト粉末(パウダーテック社製)25重量部、及び平均粒径18μmの丸味状アルミナ(昭和電工社製 AS−30(商品名))50重量部を加えることにより、シリコーンエラストマー層を形成するための組成物(以下、組成物Aという)を調製した。
続いて、厚さ0.12mmの黒鉛シート(鈴木総業社製 スーパーλGS 0.15t(商品名))の片面に、ポリビニルアルコール(日本合成化学工業製 ゴーセナールT350(商品名))の4wt%の水・IPA混合溶液をスポンジロールにて塗布、乾燥させた(塗布量は、固形分(乾燥重量)にして1.0〜1.7g/m2)。さらに、プライマー(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製SH6040(商品名)、5wt%トルエン溶液)を塗布した上で、上記組成物Aをスクリーン印刷にて80μmの厚さに塗布・熱硬化させ、表面に保護フィルムを付けて目的の熱伝導シートを作製した。
作製した熱伝導性シートは、20日間放置した後も、シリコーンオイルの黒鉛シートへの浸み込みがなく(オイルバリア性)、タック性、密着性に優れていた。また、この熱伝導性シートを、トランジスタ(日立製作所社製 2SD674(商品名))とアルミ製ヒートシンクとの間に挟み、トルクドライバーにより30CN・mにて固定し、直流15V、1Aの電力を印加したときの約25分後の温度平衡時点での熱抵抗を測定した(以下、この測定方法をトランジスタ法と呼ぶ)。その結果、0.11℃/Wと十分な値を示した。さらに、上記測定後に、固定した熱伝導性シートを取り外したところ、黒鉛シート部分に破れはなく、全体に型崩れも起こさずリペアー性も良好であった。
なお、熱抵抗値は、次式により算出した。以下の各実施例、比較例においても同様である。
熱抵抗(℃/W)=(トランジスタ温度−ヒートシンク温度*)/印加電力*) 測定試料直下のヒートシンク温度
【0044】
(実施例2)
厚さ0.12mmの黒鉛シートの片面に、ポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製 ゴーセナールGH−17R(商品名))の10wt%水溶液をスポンジロールにて塗布(固形分にして1.5〜2.0g/m2)、乾燥させた。その上に、プライマー(SH6040、5wt%トルエン溶液)を塗布し、組成物Aをスクリーン印刷にて80μmの厚さに塗布・熱硬化させて、熱伝導シートを作製した。
得られた熱伝導性シートは、20日間放置後において、片面は完全なオイルバリア性を発揮し、タック性、密着性に優れていた。また、トランジスタ法により熱抵抗を測定したところ、0.12℃/Wであった。さらに、取り外し時における黒鉛シートの破れ、型崩れはなくリペアー性も良好であった。
【0045】
(実施例3)
厚さ0.12mmの黒鉛シートの一方の面に、ポリビニルアルコール(ゴーセナールT350)の4wt%の水・IPA混合溶液をスポンジロールにて塗布(固形分にして1.0〜1.7g/m2)、乾燥させた。その上に、プライマー(SH6040、5wt%トルエン溶液)を塗布し、組成物Aをスクリーン印刷にて80μmの厚さに塗布・熱硬化させた後、保護フィルムを付けた。また、黒鉛シートの他方の面には、ポリビニルアルコール(ゴーセナールT350)の3wt%の水・IPA混合溶液をスポンジロールにて塗布(固形分にして0.6〜1.0g/m2)、乾燥させ、上記と同様のプライマーを塗布後、組成物Aをスクリーン印刷にて80μmの厚さに塗布・熱硬化させ、保護フィルムを付けた。これにより目的の熱伝導シートを作製した。
作製した熱伝導性シートは、20日間放置後、片面は完全なオイルバリア性を発揮し、タック性、密着性に優れていた。他方の面はまだら状のオイルバリア性を示した。また、トランジスタ法による熱抵抗は0.33℃/Wであった。さらに、取り外し時に黒鉛シートの破れや型崩れはなく、リペアー性も良好であった。
【0046】
(実施例4)
厚さ0.12mmの黒鉛シートの一方の面に、ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製 JMR150(商品名))の7wt%の水・IPA混合溶液をスポンジロールにて塗布(固形分にして1.3〜2.0g/m2)、乾燥させた。その上に、プライマー(SH6040、5wt%トルエン溶液)を塗布し、組成物Aをスクリーン印刷にて80μmの厚さに塗布・熱硬化させた後、保護フィルムを付けた。また、黒鉛シートの他方の面には、ポリビニルアルコール(JMR150)の5wt%の水・IPA混合溶液をスポンジロールにて塗布(固形分にして0.6〜1.0g/m2)、乾燥させ、上記と同様のプライマーを塗布後、スクリーン印刷にて組成物Aを80μmの厚さに塗布・熱硬化させ、保護フィルムを付けた。これにより目的の熱伝導シートを作製した。
作製した熱伝導性シートは、20日間放置後、片面は完全なオイルバリア性を発揮し、タック性、密着性に優れていた。他方の面はまだら状のオイルバリア性を示した。また、トランジスタ法による熱抵抗は0.35℃/Wであった。さらに、取り外し時に黒鉛シートの破れや型崩れはなく、リペアー性も良好であった。
【0047】
(実施例5)
厚さ0.12mmの黒鉛シートの一方の面に、ポリビニルアルコール(ゴーセナールT350)の4wt%の水・IPA混合溶液をスポンジロールにて塗布(固形分にして1.0〜1.7g/m2)、乾燥させた。その上に、プライマー(SH6040、5wt%トルエン溶液)を塗布し、スクリーン印刷にて組成物Aを80μmの厚さに塗布・熱硬化させ、保護フィルムを付けた。また、黒鉛シートの他方の面には、上記と同様のポリビニルアルコール(ゴーセナールT350)の4wt%の水・IPA混合溶液をスポンジロールにて塗布(固形分にして1.0〜1.7g/m2)、乾燥させ、その上にプライマーを塗布し、スクリーン印刷にて組成物Aを80μmの厚さに塗布・熱硬化させ、保護フィルムを付けた。これにより目的の熱伝導シートを作製した。
得られた熱伝導性シートは、20日間放置後、両面とも完全なオイルバリア性を発揮し、タック性、密着性に優れていた。トランジスタ法による熱抵抗は0.45℃/Wであり十分な値が得られたが、上記実施例3、4に比較して性能は若干低下した。
【0048】
(実施例6)
厚さ0.12mmの黒鉛シートの片面に、ポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製 ゴーセナールGL−05(商品名))の水溶液をスポンジロールにて塗布(固形分にして2.2〜3.0g/m2)、乾燥させた。その上に、プライマー(SH6040、5wt%トルエン溶液)を塗布し、組成物Aをスクリーン印刷にて80μmの厚さに塗布・熱硬化させて、熱伝導シートを作製した。
得られた熱伝導性シートは、20日間放置後において、片面は完全なオイルバリア性を発揮し、タック性、密着性に優れていた。また、トランジスタ法による熱抵抗値は0.14℃/Wであった。さらに、リペアー性も良好であった。
【0049】
(実施例7)
厚さ0.12mmの黒鉛シートの片面に、ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製 JMR10LL(商品名))の水・メタノール混合溶液をスポンジロールにて塗布(固形分にして2.0〜3.0g/m2)、乾燥させた。その上に、プライマー(SH6040、5wt%トルエン溶液)を塗布し、組成物Aをスクリーン印刷にて80μmの厚さに塗布・熱硬化させて、熱伝導シートを作製した。
得られた熱伝導性シートは、20日間放置後において、片面は完全なオイルバリア性を発揮し、タック性、密着性に優れていた。また、トランジスタ法による熱抵抗値は0.13℃/Wであった。さらに、リペアー性も良好であった。
【0050】
(実施例8)
厚さ0.12mmの黒鉛シートの片面に、ポリビニルアルコール(JMR150)の7wt%の水・IPA混合溶液をスポンジロールにて塗布(固形分にして1.0〜1.7g/m2)、乾燥させた。その上に、プライマー(SH6040、5wt%トルエン溶液)を塗布し、組成物Aをスクリーン印刷にて80μmの厚さに塗布・熱硬化させて、熱伝導シートを作製した。
得られた熱伝導性シートは、20日間放置後において、片面は完全なオイルバリア性を発揮し、タック性、密着性に優れていた。また、トランジスタ法による熱抵抗値は0.12℃/Wであった。さらに、リペアー性も良好であった。
【0051】
(比較例1)
まず、上記実施例で用いたシリコーンゲル組成物55重量部に対し、熱伝導性フィラーであるNi−Zn系軟磁性フェライト粉末15重量部、及びアルミナ30重量部を加えることにより、シリコーンエラストマー層を形成するための組成物(以下、組成物Bという)を調製した。
続いて、厚さ0.12mmの黒鉛シートの両面に、上記各実施例のようなポリビニルアルコール層を介さず、直接にプライマー(SH6040、5wt%トルエン溶液)を塗布し、その上に組成物Bをスクリーン印刷にて80μmの厚さに塗布・熱硬化させて、熱伝導シートを作製した。
得られた熱伝導性シートは、48時間経過後に、シリコーンオイルが黒鉛シートに浸み込み、表面のタック性、密着性が失われた。また、トランジスタ上に固定した熱伝導性シートを取り外す際、黒鉛シートの一部が破れてしまい、再使用ができなくなった。
【0052】
(比較例2)
上記比較例1において、組成物Bの配合比を、シリコーンゲル組成物45重量部、Ni−Zn系軟磁性フェライト粉末18.3重量部、及びアルミナ36.7重量部とした以外は、同様にして熱伝導性シートを作製した。
得られた熱伝導性シートは、48時間経過後に、表面が乾き、タック性、密着性が失われた。また、リペアー性も悪かった。
【0053】
(比較例3)
上記比較例1において、組成物Bの配合比を、シリコーンゲル組成物35重量部、Ni−Zn系軟磁性フェライト粉末23.3重量部、及びアルミナ46.7重量部とした以外は、同様にして熱伝導性シートを作製した。
得られた熱伝導性シートは、48時間経過後に、表面が乾き、タック性、密着性が失われた。また、リペアー性も悪かった。
【0054】
以上の各実施例、比較例に係る熱伝導性シートの構成、及び性能を、まとめて表1に示す。なお、表1において、「表面」「裏面」とは、ポリビニルアルコール層ないしシリコーンエラストマー層を、シート状黒鉛層の両面に設ける場合のそれぞれの面を意味している。また、タック性の評価について、○はオイルバリア性を十分に有して表面のタック性が優れている場合、△はシリコーンオイルの一部がまだら状に浸み込んでいるがタック性が若干残っている場合、×はシリコーンオイルが浸み込んで表面が乾きタック性が失われている場合をそれぞれ指している。
表1の結果によれば、ポリビニルアルコール層を介在させることにより、全体として十分な熱伝導性を維持しつつ、優れたタック性、密着性を得ることができる。一方の比較例では、熱伝導性フィラーの添加量を実施例1〜8に比べて少なく(すなわち、タック性に寄与するシリコーン成分を多く)したにも関わらず、いずれも表面が乾いた状態となり不適であった。
また、実施例3及び5の比較から、裏面におけるポリビニルアルコールの塗布量を少なくした場合には、タック性は若干低下するが、全体の熱伝導性は逆に向上させ得ることが示された。
【0055】
【表1】
【0056】
【発明の効果】
以上、本発明の熱伝導性シートは、ポリビニルアルコール層を介在させたため、シート状黒鉛層に対するシリコーンオイルの浸み込みが阻止され、表面のタック性、密着性を維持することができる。したがって、取り扱い性、作業性に優れた高品質な熱伝導性シートを得ることができる。また、再使用する際のリペアー性にも優れている。
本発明の熱伝導性シートは、上記の効果に加えて、十分な熱伝導性(低熱抵抗)を有するので、種々の分野に利用することができ、特に、発熱を伴う電気及び電子機器の伝熱・放熱材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の熱伝導性シートの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の熱伝導性シートの一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
1 熱伝導性シート
10 シート状黒鉛層
11、11’ ポリビニルアルコール層
12、12’ シリコーンエラストマー層
Claims (7)
- シート状黒鉛層の片面又は両面に、ポリビニルアルコール層を介して、シリコーンエラストマー層を設けてなる熱伝導性シート。
- シート状黒鉛層の両面に、塗布量が相異なるように形成したポリビニルアルコール層を介して、シリコーンエラストマー層を設けてなる熱伝導性シート。
- 請求項1記載の熱伝導性シートにおいて、ポリビニルアルコールの塗布量が、固形分として1.0〜3.0g/m2であることを特徴とする熱伝導性シート。
- 請求項2記載の熱伝導性シートにおいて、ポリビニルアルコールの塗布量が、シート状黒鉛層の一方の面では固形分として1.0〜3.0g/m2であり、前記シート状黒鉛層の他方の面では固形分として0.5〜1.0g/m2であることを特徴とする熱伝導性シート。
- 請求項1〜4のいずれか記載の熱伝導性シートにおいて、ポリビニルアルコールが、ケン化度10〜100モル%、重合度100以上であることを特徴とする熱伝導性シート。
- 請求項1〜5のいずれか記載の熱伝導性シートにおいて、シリコーンエラストマー層に、熱伝導性のフィラーを配合したことを特徴とする熱伝導性シート。
- 請求項6記載の熱伝導性シートにおいて、熱伝導性のフィラーが、Ni−Zn系軟磁性フェライト、アルミナから選ばれる一以上であることを特徴とする熱伝導性シート。
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