JP2004242647A - パン類の製造法 - Google Patents

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Toshihiro Noguchi
智弘 野口
Katsumi Takano
克己 高野
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Abstract

【課題】準強力粉や中力粉を使用しても食感、食味の優れた高品質のパン類を製造し得る方法を提供する。
【解決手段】パンの製造において、小麦粉、酵母及び水を含むパン生地に、さらに、小麦粉1kg当りトランスグルタミナーゼを0.5〜100単位、グリアジンを1〜200gの割合で添加混合する。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高品質のパン類を製造する方法に関する。さらに詳細には、パン生地に特定の酵素及びタンパク質を添加混合して、食感及び食味の向上した高品質のパン類を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
パン類は、古くからの歴史をもつ食品であり、今や日本においても主食又はそれに準ずるものとして重要な地位を占めている。かかるパン類は、基本的には、小麦粉と水を主な原料として、酵母(イースト)及び塩、バター、砂糖等の調味料を適宜加えてパン生地を作り、これを発酵させた後、焼成する方法で製造される。
【0004】
近年では、大規模生産、消費者の嗜好の多様化、冷凍生地の必要性等に対応する目的で、パン類の製造時においても種々の添加物が使用されている。例えば、パン生地の安定化、冷凍耐性付与等の目的で、臭素酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、乳化剤等の添加物が使用されている。
【0005】
しかし、これらの添加物の中でも合成化学物質は人体への健康上悪影響が懸念されることから、使用が敬遠されがちである。例えば、生地を安定化させるために従来使用されていた臭素酸カリウムは、発ガン性が懸念されることから、最近では使用を控える製造者が多い。
【0006】
ところで、近年、パン類の品質を改良するため、プロテアーゼやアミラーゼ、ヘミセルラーゼ等の酵素類が利用されつつある。これらの酵素類は、合成化学物質でなく発酵によって生産される天然素材であること、また、最後に焼成工程を有するパン類の製造において酵素類が焼成時に失活し、その生理作用を失うことから、健康上の問題がない添加物として評価されている。
【0007】
しかし、従来、パン類の製造に使用されている酵素類は、プロテアーゼやアミラーゼのように、基質が低分子化される機能をもつ酵素が主である。それゆえ、臭素酸カリウムやアスコルビン酸のように生地の架橋構造を強化し、生地を安定化するような機能をもつパン用の酵素は、トランスグルタミナーゼ以外には知られていない。
【0008】
トランスグルタミナーゼがタンパク質を架橋高分子化する機能をもつ酵素であることはよく知られている。これは、小麦タンパク質にも作用するため、パン類の製造に際し、トランスグルタミナーゼを添加して品質が優れたパン類を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、パン類は、その製造条件によっては、トランスグルタミナーゼが反応しすぎて生地が硬くなりすぎ、最終的に硬くて粗い組織のパンになってしまう傾向がある。すなわち、トランスグルタミナーゼの過大な反応によって、発酵工程において生地はうまく膨張することができず、出来上がりの製品の外観や食感等の品質を損ねることがある。
【0010】
また、従来の製造法では、良質のパン類を得るには、材料となる小麦粉としては、強力粉を使用する必要があり、他の小麦粉では良質のパンは製造できなかった。しかし、強力粉はもっぱら輸入に頼っており、国産の小麦から製造される準強力粉や中力粉からも良質のパン類を製造できる方法の出現が待望されていた。
【0011】
【特許文献1】
特開平11−243843号公報
【特許文献2】
特開平11−276056号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の一つの目的は、パン類の製造において、タンパク質を架橋させるトランスグルタミナーゼの機能を巧みに利用しつつ、パン類の生地の安定化を行い、しかも過剰な酵素の作用によって生地を硬くしすぎず、最終的にきめの細かい品質の優れた食感・食味のパン類を製造する方法を提供することにある。本発明の他の目的は、準強力粉や中力粉を使用しても良好な品質のパン類を製造することができる方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前項の課題を解決すべく鋭意研究の結果、上記のトランスグルタミナーゼとグリアジンとを併用することにより、生地を硬くしすぎることがなく、品質の良好なパン類を製造できること、そして、従来パン類の製造には適さないとされた準強力粉や中力粉を使用して良好な品質のパン類を製造できることを新たに見い出し、かかる知見に基づいてさらに研究を重ねて本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有するパン類の製造方法に係るものである。
(1)パン類の製造において、小麦粉、酵母及び水を含むパン生地に、さらにトランスグルタミナーゼ及びグリアジンを配合することを特徴とするパン類の製造法。
(2)小麦粉1kg当り、トランスグルタミナーゼを0.5〜100単位(好ましくは2〜50単位)、グリアジンを1〜200g(好ましくは5〜100g)の割合で添加混合することを特徴とする上記(1)のパン類の製造法。
(3)小麦粉として、準強力粉及び/又は中力粉を使用することを特徴とする上記(1)〜上記(2)のパン類の製造法。
(4)小麦粉として、準強力粉のSemi Herd(以下、SHと略称することがある)又は中力粉のAustralian Standard Wight(以下、ASWと略称することがある)を使用することを特徴とする上記(3)のパン類の製造法。
(5)小麦粉1kgに対し、水0.4〜0.8リットル(好ましくは0.5〜0.7リットル)を加えることを特徴とする上記(1)〜上記(4)のパン類の製造法。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の方法は、主原料である小麦粉、水及び他の副原料等とともに、トランスグルタミナーゼ(以下、「TGase」と略称することがある)及びグリアジンを添加混合したパン生地を使用することを最大の特徴とするが、以下に、各原料について詳細に説明し、さらにこれらを用いたパン類の製造方法を詳細に説明する。
【0016】
なお、本発明でいう「パン類」とは、小麦粉を主原料として、これに水(場合によっては牛乳)及びパン酵母(イースト)、さらに必要に応じて、調味料、油脂類、卵、脱脂粉乳、澱粉類等、各種の添加剤を適宜加え、混捏して生地を生成し、発酵させた後に、焼成して製造されるものを総称する。
【0017】
主原料となる小麦粉としては、強力粉、準強力粉、中力粉等が用いられる。所望により、小麦粉に大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、米粉、大豆粉等を配合して使用してもよい。本発明方法では、驚くべきことに、従来パン類の製造には適さないとされていた準強力粉、中力粉の使用も可能であり、むしろ、これらの準強力粉、中力粉を使用したほうが、より良好な品質のパン類が製造できる。したがって、本発明方法では、準強力粉のSH又は中力粉のASWを使用することが推奨される。これらの小麦粉の製粉程度は60%が好ましい。
【0018】
その他の副原料として使用するパン酵母、すなわちイーストは、通常のものが使用できる。
場合によっては、このほかに、ベーキングパウダー、塩、植物性及び動物性の油脂類、ショートニング等の加工油脂、牛乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、カゼイン、チーズ、バター等の乳成分、液卵や粉末卵を等の卵類、砂糖、果糖、ブドウ糖や糖アルコール等の糖類、天然由来の多糖類、デキストリン類、各種澱粉類、ゼラチン、大豆たん白、小麦たん白、グルテン、各種香料や、スパイス、甘味料、調味料、ココアやチョコレート等を適宜使用してもよい。
【0019】
本発明方法で必須の成分として使用するTGaseは、タンパク質又はペプチド鎖内のグルタミン残基のγ−カルボキシアミド基と一級アミンとのアシル転移反応を触媒し、一級アミンがタンパク質のリジン残基である場合は、ε−(γ−Glu)−Lys架橋結合を形成させる作用を有する酵素である。
かかるTGaseとしては、例えば、ストレプトベルチシリウム属(Streptoverticillium属)等に属する微生物由来のもの(略称:BTGase。特開昭64−27471号公報参照)、モルモット等の哺乳動物由来のもの(略称:GTGase。特開昭58−14964号公報参照)、タラ等の魚類由来のもの(関信夫ら、「日本水産学会誌」56巻1号125頁(1990)参照)、血液中に存在するもの(Factor XIIIとも称される)、その他遺伝子組換え法で生産されるもの(例えば、特開平1−300889号公報、特開平5−199883号公報、特開平6−225775号公報、WO93/15234号明細書等参照)を用いることができる。
本発明方法で使用するTGaseとしては、上記のいずれのTGaseも用いることができるが、実用的な食品の利用の見地からは大量生産が可能で、安価に入手しやすい微生物由来のものを使用することが好ましい。市販の酵素剤としては、例えば、味の素株式会社製の「アクティバ」が挙げられる。
【0020】
本発明方法における、TGaseの使用量は、主原料の小麦粉1kg当り、TGaseを0.5〜100単位(好ましくは2〜50単位)とするのが適当である、換言すれば主原料の小麦粉に含まれるタンパク質1g当たり0.005〜1.0単位、好ましくは0.02〜5単位の範囲で用いるのが好ましい。上記の範囲より低い濃度では期待されるTGase使用の効果が得られず、逆に上記の範囲を超える高濃度ではパン生地が硬くしまりすぎ、発酵工程において十分に伸び又は膨張することができずに、出来上りの外観や食感等品質が劣った製品となるおそれがある。
なお、ここでいうTGaseの活性単位は、次のようなヒドロキサメート法で測定される。すなわち、温度37℃、pH6.0のトリス緩衝液中、ベンジルオキシカルボニル−L−グルタミルグリシン及びヒドロキシルアミンを基質とする反応系で、TGaseを作用させ、生成したヒドロキサム酸をトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体にし、次いで、525nmにおける吸光度を測定して、ヒドロキサム酸量を検量線により求め、1分間に1μモルのヒドロキサム酸を生成せしめた酵素量をTGaseの活性単位、すなわち1単位(Unit)と定義する。
【0021】
本発明方法における他の必須成分であるグリアジンは、小麦タンパク質の一種であり、例えば、アサマ化成株式会社から「アサマグリアA」、「アサマグリアAG」、「アサマグリアAF」等の商品名で市販されている。これらの市販品は、通常、グリアジン以外の成分も含むため、実際に使用する場合は、その中に含まれるグリアジンの純度(含有率)を勘案して、実際のグリアジン添加量が上記範囲になるように調整する必要がある。
【0022】
本発明におけるパン類の製造方法自体は、特に制限はなく、従来法と同様に、まず、上述の主副原料に水を混ぜて混捏してパン生地を作成し、これを発酵させる。その方法としては、いわゆる中種法及び直捏法(ストレート法)のいずれを用いることもできる。また、生地の混捏、発酵の条件についても特に限定されない。次いで、発酵後のパン生地をオーブン等で焼成して得られるが、焼成以外の加熱が用いられる場合もある。
【0023】
本発明の方法によりパン類を製造するに当たっては、上述した小麦粉、酵母(イースト)並びにTGase及びグリアジン、さらには他の副材料の1種又はそれ以上を、それぞれ、適当な量を計量し、それらを混合し、水を加えて混捏して、通常のパン類の製造方法と同様にパン生地とする。水は小麦粉1Kg当たり0.4〜0.8リットル(好ましくは0.5〜0.7リットル)の量で加えるのが適当である。
なお、パン生地製造の際のTGase及びグリアジンの添加混合の具体的方法としては、
1)TGase及びグリアジンを主たる原材料である小麦粉とあらかじめ混合しておく、
2)TGase及びグリアジンを使用する水にあらかじめ溶解しておき、パン生地製造時にこの水を使用する、
3)各材料の混合時にTGase及びグリアジンを添加する、
4)TGase及びグリアジン含む酵素剤を作成し、これを小麦粉に配合するか、又は各成分の混合時に添加する、
等の方法を採用することができる。
【0024】
本発明方法においてTGase及びグリアジンを併用する効果は、TGaseの酵素反応が生地混捏中及び発酵中に進行することで発揮される。酵素作用の発現には、一般に、酵素と基質の混合物を酵素作用の発現に適する温度、時間等の条件下に保持する必要がある。パン類は、製品の種類によって、様々な混捏条件、発酵条件をとるが、通常採用されている製造条件であれば、TGaseの酵素作用の発現する温度条件、反応時間等が、自然に満たされるので、あらゆるパン類に本発明方法は容易に適用可能である。
【0025】
【実施例】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳しく説明する。
もちろん、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1、比較例1〜2
小麦粉として強力粉(DNS)、準強力粉(SH)及び中力粉(AWS)の3種を用意し、それぞれを、テストミルにて製粉歩留60%に製粉したものを用いた。トランスグルタミナーゼ(TGase)として味の素(株)製の「アクティバ・コシキープ」より分離精製した酵素を準備した。また、グリアジンとしては、東京化成工業社製「グリアジン」(試薬レベル)を準備した。
小麦粉の種類〔強力粉(DNS)、準強力粉(SH)、中力粉(AWS)〕別に、それぞれ、小麦粉1,000g、ショートニング50g、砂糖50g、脱脂粉乳20g、食塩20g、イースト20g、そして、SH及びAWSにはそれぞれトランスグルタミナーゼ(TGase)10単位とグリアジン18g(対SH)、27g(対ASW)とを添加した。そして、これらを水680gと混合してパン生地を調製した。
次いで、これを27℃で一次発酵を行い、その後分割して一定重量ずつ丸めた後、ベンチタイムを15分とり、プルマン型(角食パン型)に入れてホイロ発酵を38℃で行った。
発酵後、これをオーブンに入れて、210℃で25分間焼成してパンを製造した。
【0027】
なお、DNS(強力粉)は、トランスグルタミナーゼ、グリアジンのいずれも添加せず、他の条件は同様にしてパンを製造し、これを標準とした。
また、比較のため、トランスグルタミナーゼ(TGase)10単位のみを添加し、グリアジンは添加しない生地を用いた場合(比較例1)及びトランスグルタミナーゼもグリアジンも添加しなかった生地を用いた場合(比較例2)についても、同様に発酵、焼成を行い、パンを製造した。
これらの結果を次の表1及び図1〜図5に示す。
【0028】
なお、パンの品質に関する測定又は評価方法は次のとおりである。パンの焼成体積は、焼成後のパンを菜種置換法にて測定し、内相の硬さは、パンを一定の大きさ(縦25mm×横25mm×高さ30mm)にカットし、物性測定装置を用い圧縮試験にて測定した。また、内相のキメの大きさは、パン断面の画像を画像解析装置にて解析し、気泡数(個)及び気泡面積(気泡部の総面積:mm)から平均気泡面積(mm/個)を測定して検討した。これらの測定結果は、標準となるDNS製のパンを100とする相対値で示した。一方、食感の評価は、SH製のパンについては男女計15名、ASW製のパンについては男女計24名(AWS)の官能試験により、強力粉(DNS)から調製したパンを基準の5点として、これに対する優劣を判定し、10点評価法にて食感を評価し、平均点で示した。
【0029】
【表1】
Figure 2004242647
【0030】
表1及び各図から明らかなように、本発明方法による実施例1のパンは、TGase及びグリアジンともに無添加である比較例2に比べて、焼成体積が大きく増大し、基準であるDNSパンに近いか又はそれ以上の体積を有することができる。また、TGaseのみの添加(比較例1)では、体積増加が小さく、パンの硬さのみが増加し、硬く歯ごたえが重いパンとなるが、実施例1のパンでは、適度に柔らかいソフトなパンが製造できる。さらに、内相のキメの大きさは、比較例1では大きく増加し硬くなるが、実施例1では、グリアジンを併用することによりキメが粗くなるのを防止している。食感についても、実施例1では、適度の弾力を有し、基準であるDNSを上回る評価のパンを製造できる。
【0031】
【発明の効果】
本発明方法によれば、パン類の製造におけるTGaseとグリアジンとを併用したことにより、従来のパン類より優れた品質の良好なパン類を容易に製造することができる。また、従来パン類の原料としては不適当とされていた準強力粉や中力粉を用いて高品質のパン類を製造することができるので、国産の小麦粉をパン類の原料として使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1、比較例1及び比較例2のパンの焼成体積(%)を示す棒グラフ
【図2】実施例1、比較例1及び比較例2のパンの硬さ(%)を示す棒グラフ
【図3】実施例1、比較例1及び比較例2のパンの食感を示す棒グラフ
【図4】実施例1、比較例1及び比較例2のパン(SH製)の内相(気泡数、気泡面積、平均気泡面積)を示す棒グラフ
【図5】実施例1、比較例1及び比較例2のパン(ASW製)の内相(気泡数、気泡面積、平均気泡面積)を示す棒グラフ

Claims (5)

  1. パン類の製造において、小麦粉、酵母及び水を含むパン生地に、さらにトランスグルタミナーゼ及びグリアジンを配合することを特徴とするパン類の製造法。
  2. 小麦粉1kg当り、トランスグルタミナーゼを0.5〜100単位、グリアジンを1〜200gの割合で添加混合することを特徴とする請求項1記載のパン類の製造法。
  3. 小麦粉として、準強力粉及び/又は中力粉を使用することを特徴とする請求項1〜請求項2のいずれか1項に記載のパン類の製造法。
  4. 小麦粉として、準強力粉のSemi Herd又は中力粉のAustralian Standard Wightを使用することを特徴とする請求項3に記載のパン類の製造法。
  5. 小麦粉1kgに対し、水0.4〜0.8リットルを使用することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のパン類の製造法。
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